説明

エマルジョン組成物及び多孔質皮膜

【課題】 水を弾く様な高い撥水性を持ちながら、水蒸気を透過させる相反する皮膜を形成することができるエマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 アクリル系樹脂エマルジョン(A)、軟化点が100〜150℃で、かつガードナー着色度が5以下である、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂(B)、融点が50℃〜100℃であるワックス(C)及びシリカ(D)を含有してなることを特徴とするエマルジョン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性及び透湿性に優れた多孔質皮膜を形成するコーティング剤を得るためのエマルジョン組成物、及び、かかるエマルジョン組成物よりなる多孔質皮膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水性エマルジョン組成物よりなるコーティング剤は、昨今のVOC規制による溶剤排出規制や、環境への負荷が少ないことから、塗料分野、紙加工分野、繊維処理分野などの広範な用途において使用されている。
【0003】
ところで、水性エマルジョンは基材に塗布し乾燥すると均一な連続した皮膜を形成することができ、得られた皮膜は、気密性の高いものであった。
しかし、近年、様々な分野において、気密性の高い皮膜だけでは種々問題も生じてきており、気密性だけでなく、逆に、透湿性や吸放湿性の高い皮膜も求められるようになってきた。
【0004】
例えば、近年、住宅などの建築物は、高気密化が進んだことから、壁、窓または収納内などに結露を生じさせることとなり、問題となっている。更に、結露によるカビなどの発生は、美観を損ね、さらには居住者のアレルギー症状を引き起こす一因となっており、深刻な問題となっている。
【0005】
これらを防止する方法として、調湿性や吸放湿性などの機能を有する材料であるロックウールボードや調湿ボード、木材などを建築物や家具の基材として使用したり、しっくいなどを基材に塗布する方法が有効である。しかし、これらの調湿性や吸放湿性などの機能を有する材料の表面を汚れやキズから守るため、クリアコーティング剤が施される場合もあり、この場合には、気密性の高い皮膜では水蒸気を透過せず、ロックウールボードや調湿ボード、しっくいの吸放湿性を阻害してしまうこととなる。
【0006】
上記問題を解決する方法として、例えば、特許文献1では、皮膜の透湿性を改善することを目的に、α,β−エチレン性不飽和単量体とアクリルシラン又はビニルシランとを乳化重合して得たエマルジョン粒子にコロイダルシリカを被覆した多孔質皮膜が提案されている。
【0007】
一方、クリアコーティング剤が施される別の目的として、基材の防湿性や撥水性を向上させることがあり、かかる対策として、例えば、特許文献2では、エチレン、塩化ビニル、酢酸ビニルからなるエチレン−塩化ビニル系共重合体、ロジンエステルのエマルジョン、ワックスのエマルジョンを含有する水性エマルションが提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−106948号公報
【特許文献2】特開平5−295200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の開示技術では、多孔質皮膜が形成されているため透湿性には優れるものの、水滴が玉の様になる撥水性は持っておらず、水性の汚れが付着した場合、ふき取っても十分な防汚性を得ることはできなかった。
また、上記特許文献2の開示技術では、特許文献1とは逆に、防湿性、撥水性には良好であるが、透湿性については劣るものであり、これまで透湿性と防湿性・撥水性の両方を満足する皮膜を形成するエマルジョン組成物は得られていなかった。
【0010】
そこで、本発明は、このような背景下において、高い撥水性を持ちながら、透湿性を有する多孔質の皮膜を形成することができるコーティング剤に適したエマルジョン組成物、及びそれを用いてなる多孔質皮膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、アクリル系エマルジョン及びシリカに加え、特定のロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂とワックスを配合することにより、高い撥水性を持ちながら、透湿性をも有する多孔質の皮膜を形成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明の要旨は、アクリル系樹脂エマルジョン(A)、軟化点が100〜150℃で、かつガードナー着色度が5以下であるロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂(B)、融点が50℃〜100℃であるワックス(C)及びシリカ(D)を含有してなることを特徴とするエマルジョン組成物に関するものである。
更に本発明では、前記エマルジョン組成物を用いてなる多孔質皮膜をも提供するものである。
【0013】
なお、本発明においては、撥水性と透湿性を併せ持つ多孔質皮膜を形成することを目的とするものであるのに対して、上記の特許文献1では透湿性を改善するためにコロイダルシリカを配合することが記載され、一方、特許文献2ではロジンエステルのエマルジョンやワックスのエマルジョンを配合することが記載されており、両文献を組み合わせることで本発明を想到し得ると思われるかもしれないが、そもそも、特許文献2の開示技術に特許文献1に開示のコロイダルシリカを配合することなどは、シリカ粒子が表層に現れ、ワックス成分の表層での撥水効果を阻害するため、特許文献2の目的である防湿性や撥水性を低下させることになり、さらに、無機物であり、親水性の高いコロイダルシリカが含有されると、むしろ撥水効果は低下する等の問題点が発生すると考えられ、その結果として、撥水性と透湿性の両立を達成することなどできないと考えられていたことから、通常は特許文献1の技術と特許文献2の技術とを組み合わせようとはしないものであった。ところが、本発明において、上記と通り、(A)〜(D)を用いることにより、驚くべきことに撥水性と透湿性を併せ持つ多孔質皮膜を形成することができるエマルジョン組成物を得ることができることを見出すことができたのである。
【0014】
このような本発明の目的が達成される理由は定かではないが、シリカがアクリル樹脂粒子同士の融着を部分的に阻害し、シリカで包囲された細孔を形成すると共に、塗膜内部では、乾燥による水の対流によりワックス樹脂が表層に移動していくのではないかと考えているものであり、とくに、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂を併用することでこの効果を飛躍的に高めることができるのであると考えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0016】
本発明で用いられるアクリル系樹脂エマルジョン(A)は、通常アクリル系樹脂(X)が分散安定化されたものであり、アクリル系樹脂(X)は、例えば、エチレン性不飽和単量体(M)の単独重合体もしくは共重合体であることが好ましく、更にはエチレン性不飽和単量体(M)の中でも特に(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とし、シリル基含有不飽和単量体(a1)と共重合した(メタ)アクリル系樹脂(X)を含有するアクリル系樹脂エマルジョン(A)であることがシリカとシリル基による−Si−O−Si−結合により、強靭でシリカの脱落が無い皮膜を得ることができるという点で好ましい。
【0017】
なお、本発明において、(メタ)アクリルとはアクリルあるいはメタクリルを、(メタ)アクリロイルとはアクリロイルあるいはメタクリロイルを、(メタ)アクリレートとはアクリレートあるいはメタクリレートを、(メタ)アクリロキシとはアクリロキシまたはメタクリロキシを、(メタ)アクリル酸とはアクリル酸またはメタクリル酸を意味する。それぞれ意味するものであり、更に「(メタ)」は省略することもある。)
【0018】
以下、アクリル系樹脂(X)を形成する重合成分のエチレン性不飽和単量体(M)について詳述する。
【0019】
〈アクリル系樹脂(X)の重合成分〉
上記アクリル系樹脂(X)を形成するエチレン性不飽和単量体(M)としては、例えば、
(ア)(メタ)アクリル酸アルキルエステル、
(イ)シリル基含有エチレン性不飽和単量体、
(ウ)芳香族エチレン性不飽和単量体、
(エ)ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体、
(オ)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、
(カ)エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体、
(キ)メチロール基含有エチレン性不飽和単量体、
(ク)アルコキシアルキル基含有エチレン性不飽和単量体、
(ケ)シアノ基含有エチレン性不飽和単量体、
(コ)ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているエチレン性不飽和単量体、
(サ)アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体、
(シ)スルホン酸基を有するエチレン性不飽和単量体、
(ス)リン酸基を有するエチレン性不飽和単量体、
(セ)アミド基を有するエチレン性不飽和単量体、
等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0020】
中でも、エチレン性不飽和単量体(M)として、
(ア)(メタ)アクリル酸アルキルエステル、
(イ)シリル基含有エチレン性不飽和単量体、
(ウ)芳香族エチレン性不飽和単量体、
(オ)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、
(セ)アミド基を有するエチレン性不飽和単量体
から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられ、特には、(イ)シリル基含有エチレン性不飽和単量体を共重合成分として少なくとも1種含有することがシリカとシリル基による−Si−O−Si−結合により、強靭でシリカの脱落が無い皮膜を得ることができるという点で好ましく、また、(オ)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を共重合成分として少なくとも1種含有することがエマルジョンの機械安定性や長期保存安定性を向上させる点で好ましい。また、共重合成分として、(ア)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分として用いることがガラス転移温度(Tg)を容易に変える事が出来るため、軟らかい基材にも、硬い基材にも適合する皮膜が得られる点で好ましい。
【0021】
本発明において主成分とは、全体〔ここでは、エチレン性不飽和単量体(M)全体〕の50重量%を超える量を含有することを意味し、好ましくは、全体の60重量%以上を含有することをいう。
【0022】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(ア)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の脂肪族(メタ)アクリレート、好ましくはアルキル基の炭素数が1〜20の脂肪族(メタ)アクリレートや、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも好ましくは、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル基の炭素数が1〜10、特には1〜6の脂肪族(メタ)アクリレートである。
【0023】
上記シリル基含有エチレン性不飽和単量体(イ)としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシリル基を有する不飽和単量体、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のジアルコキシシリル基を有する不飽和単量体等が挙げられる。なかでも、架橋の効率とシリカとシリル基による−Si−O−Si−結合のし易さの点から、トリアルコキシシリル基を有する不飽和単量体が好ましく、中でもγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のトリメトキシシリル基を有する不飽和単量体が特に好ましい。
【0024】
上記芳香族エチレン性不飽和単量体(ウ)としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも、好ましくはスチレンである。
【0025】
上記ヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(エ)としては、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも好ましくは、炭素数2〜4のヒドロキシアルキル基を有するヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、炭素数2〜4のアルキレン基を有するポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであり、特に好ましくはヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである。
【0026】
上記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(オ)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を用いることができ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも、(メタ)アクリル酸、イタコン酸がより好ましい。なお、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸のようなジカルボン酸の場合には、これらのモノエステルやモノアマイドを用いてもよい。
【0027】
上記エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体(カ)としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、メチルグリシジル(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。中でも好ましくはグリシジル(メタ)アクリレートである。
【0028】
上記メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(キ)としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチロール(メタ)アクリルアミド等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0029】
上記アルコキシアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(ク)としては、例えば、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメトキシ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノアルコキシ(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0030】
上記シアノ基含有エチレン性不飽和単量体(ケ)としては、例えば、(メタ)アクリロニトリル等があげられる。
【0031】
上記ラジカル重合性の二重結合を2個以上有しているエチレン性不飽和単量体(コ)としては、例えば、ジビニルベンゼン、ポリオキシエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート等があげられ、これ
らは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0032】
上記アミノ基を有するエチレン性不飽和単量体(サ)としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0033】
上記スルホン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(シ)としては、例えば、ビニルスルホン酸、ビニルスチレンスルホン酸(塩)等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0034】
上記リン酸基を有するエチレン性不飽和単量体(ス)としては、例えば、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、ビス〔(メタ)アクリロイロキシエチル〕ホスフェート、ジフェニル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル−2−(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル−2(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0035】
上記アミド基を有するエチレン性不飽和単量体(セ)としては、例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド、マレイミド、(メタ)アクリルアミドメタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドエタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドメチルエタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドブタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドジメチルエタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドペンタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドメチルブタンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドジメチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドエチルプロパンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミドエチルメチルエタンスルホン酸(塩)および(メタ)アクリルアミドプロピルエタンスルホン酸(塩)等の炭素数1〜5の分岐または直鎖のアルキレン基を有する化合物等をあげることができる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらの中でも、好ましくは(メタ)アクリルアミドや、(メタ)アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(塩)等の分岐のアルキレン基を有する(メタ)アクリルアミドアルキレンスルホン酸(塩)である。なお、上記スルホン酸(塩)とは、スルホン酸あるいはその塩を意味する。
【0036】
上記の単量体は、単独でもしくは2種以上併せて用いられる。さらには、上記(ア)〜(セ)以外に、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ビニルピロリドン、メチルビニルケトン、ブタジエン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等も、所望に応じて適宜使用することができる。
【0037】
本発明において、アクリル系樹脂(X)の共重合成分として、シリル基含有エチレン性不飽和単量体(イ)を含有する場合には、かかるシリル基含有エチレン性不飽和単量体(イ)は共重合成分全体に対して0.5〜10重量%であることが好ましく、特には1〜5重量%、更には1〜3重量%であることが好ましい。シリル基含有エチレン性不飽和単量体(イ)が少なすぎるとコロイダルシリカとの−Si−O−Si−結合が不十分でコロイダルシリカ粒子が脱落し易くなる傾向があり、多すぎると架橋が進みすぎて、乳化重合反応が難しく、凝集物が発生したり、粘度が著しく上がる傾向がある。
【0038】
また、アクリル系樹脂(X)の共重合成分として、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(オ)を含有する場合には、かかるカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(オ)は共重合成分全体に対して0.1〜10重量%であることが好ましく、特には0.5〜5重量%、更には1〜3重量%であることが好ましい。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(オ)が少なすぎると機械安定性や重合安定性が悪くなる傾向があり、多すぎると添加物によっては凝集物が発生したり、粘度が著しく上がる傾向がある。
【0039】
本発明に係るアクリル系樹脂(X)は、前記単量体の単独重合体もしくは共重合体であるが、この重合の際に、前記単量体以外に、必要に応じて、重合開始剤、重合調整剤、界面活性剤、可塑剤、造膜助剤等の他の成分を適宜用いることができる。
【0040】
〈重合開始剤〉
上記重合開始剤としては、水溶性、油溶性のいずれのものも用いることが可能である。例えば、アルキルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−メタンヒドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、ジ−イソブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッドのアンモニウム(アミン)塩、2,2’−アゾビス(2−メチルアミドオキシム)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジヒドロクロライドテトラヒドレート、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕−プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕、各種レドックス系触媒(この場合酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、p−メタンハイドロパーオキサイド等が、還元剤としては亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が用いられる。)等があげられる。
【0041】
これらの重合開始剤は単独であるいは2種以上併せて用いられる。これらの中でも重合安定性に優れる点で、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、レドックス系触媒(酸化剤:過硫酸カリウム,過硫酸アンモニウム,過硫酸ナトリウム、還元剤:亜硫酸ナトリウム,酸性亜硫酸ナトリウム,ロンガリット,アスコルビン酸)等が好適である。
【0042】
上記重合開始剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(M)全体100重量部に対して、0.01〜5重量部の範囲であることが好ましく、さらには0.03〜3重量部であることがより好ましい。すなわち、重合開始剤の使用量が少なすぎると、重合速度が遅くなる傾向がみられ、逆に、多すぎると、得られる重合体の分子量が低下し耐水性の面において好ましくない傾向がみられるからである。
【0043】
なお、上記重合開始剤は、重合缶内に予め加えておいてもよいし、重合開始直前に加えてもよいし、必要に応じて重合途中に追加添加してもよい。あるいは、単量体混合物に予め添加したり、上記単量体混合物からなる乳化液に添加したりしてもよい。また、重合開始剤の添加に際しては、重合開始剤を別途溶媒や上記単量体に溶解して添加したり、溶解した重合開始剤をさらに乳化状にして添加したりしてもよい。
【0044】
〈重合調整剤〉
また、重合に際して、重合調整剤を配合することができる。前記重合調整剤としては、例えば、連鎖移動剤、pH緩衝剤等があげられる。
【0045】
上記連鎖移動剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;n−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸、チオグリコール酸オクチル、チオグリセロール等のメルカプタン類等があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0046】
この連鎖移動剤の使用は、重合を安定に行わせるという点では有効であるが、アクリル系樹脂(X)の重合度を低下させ、得られる塗膜の弾性率を低下させる可能性がある。そのため、具体的には、連鎖移動剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(M)全体100重量部に対して、0.01〜1重量部であることが好ましく、さらに0.01〜0.5重量部であることが好ましい。連鎖移動剤の使用量が少なすぎると、連鎖移動剤としての効果が不足する傾向がみられ、逆に、多すぎると、塗膜の弾性率が低下する傾向がみられるからである。
【0047】
また、上記pH緩衝剤としては、例えば、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、蟻酸ナトリウム、蟻酸アンモニウム等があげられる。これらは単独であるいは2種以上併せて用いられる。
【0048】
上記pH緩衝剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(M)全体100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましく、さらに0.1〜5重量部であることが好ましい。pH緩衝剤の使用量が少なすぎると、重合調整剤としての効果が不足する傾向がみられ、逆に、多すぎると、反応を阻害する傾向がみられるからである。
【0049】
〈界面活性剤〉
さらに、前記界面活性剤としては、例えば、アルキルもしくはアルキルアリル硫酸塩、アルキルもしくはアルキルアリルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ソーダ等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンカルボン酸エステル、ポリオキシエチレングリコール型、ポリオキシエチレンプロピレングリコール型等のノニオン性界面活性剤;およびアンモニウム=α−スルホナト−ω−1−(アリルオキシメチル)アルキルオキシポリオキシエチレン、α−スルホ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)のアンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル等があげられ、これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。
【0050】
上記界面活性剤の使用量は、通常、エチレン性不飽和単量体(M)全体100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、さらには0.5〜10重量部、特には0.5〜5重量部の範囲であることが好ましい。すなわち、界面活性剤の使用量が少なすぎると、重合安定性の面において、不安定になる傾向がみられ、逆に、多すぎると、得られる重合体の平均粒子径が小さくなりすぎる傾向がみられ、結果、エマルジョン組成物の粘度が高くなりすぎて作業性が低下する等の問題が生じる傾向がみられるからである。
また、本発明においては、上記界面活性剤の代わりに、または界面活性剤に加えてポリビニルアルコールやセルロース等の保護コロイドを用いてもよい。
【0051】
〈可塑剤および造膜助剤〉
また、上記可塑剤としては、例えば、アジペート系可塑剤、フタル酸系可塑剤、燐酸系可塑剤等が使用できる。また、沸点が260℃以上の造膜助剤等も使用できる。
【0052】
これら可塑剤や、造膜助剤等の他の成分の使用量は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
《アクリル系樹脂エマルジョン(A)の製造》
上記で例示される重合成分から形成されるアクリル系樹脂(X)を分散質として、本発明で用いられるアクリル系樹脂エマルジョン(A)が得られるようになる。そこで、かかるアクリル系樹脂エマルジョン(A)の製造について説明する。
【0054】
本発明に係るアクリル系樹脂(X)は、例えば、上記エチレン性不飽和単量体(M)を界面活性剤及び/又は保護コロイドの存在下にて、上記重合開始剤を用いて乳化重合を行い、単独重合体または共重合体を作製することにより製造される。この重合過程において、アクリル系樹脂(X)を分散質とするアクリル系樹脂エマルジョン(A)が製造されるのが一般である。
【0055】
上記重合方法としては、[1]エチレン性不飽和単量体(M)、界面活性剤、水等の全量を仕込み、昇温し重合する方法、[2]反応缶に水、界面活性剤、エチレン性不飽和単量体(M)の一部を仕込み、昇温し重合した後、残りのエチレン性不飽和単量体(M)を滴下または分割添加して重合を継続する方法、[3]反応缶に水、界面活性剤等を仕込んでおき昇温した後、エチレン性不飽和単量体(M)を全量滴下または分割添加して重合する方法等があげられる。中でも、重合温度の制御が容易である点で、上記[2]、[3]の方法が好ましい。
【0056】
上記[1]〜[3]に示す重合方法における重合条件としては、例えば、上記[1]の重合方法における重合条件として、通常、40〜100℃程度の温度範囲が適当であり、昇温開始後1〜8時間程度反応を行うこと等があげられる。
【0057】
また、上記[2]の重合方法における重合条件としては、エチレン性不飽和単量体(M)の1〜50重量%を通常40〜90℃で0.1〜4時間重合した後、残りのエチレン性不飽和単量体(M)を1〜7時間程度かけて滴下または分割添加して、その後、上記温度で1〜3時間程度熟成すること等があげられる。
【0058】
そして、上記[3]の重合方法における重合条件としては、重合缶に水を仕込み、40〜90℃に昇温し、単量体混合物を2〜7時間程度かけて滴下または分割添加し、その後、上記温度で1〜3時間程度熟成すること等があげられる。
【0059】
上記重合方法において、エチレン性不飽和単量体(M)は、界面活性剤(または界面活性剤の一部)をエチレン性不飽和単量体(M)に溶解しておくか、または、予めO/W型の乳化液の状態とすることが重合安定性の点から好ましい。
【0060】
上記予めO/W型の乳化液とする調製方法としては、例えば、水に界面活性剤を溶解した後、上記単量体を仕込み、この混合液を撹拌乳化する方法、あるいは水に界面活性剤を溶解した後撹拌しながら上記単量体を仕込む方法等があげられる。
【0061】
上記乳化液の乳化の際の撹拌は、各成分を混合し、ホモディスパー、パドル翼等の撹拌翼を取り付けた撹拌装置を用いて行うことができる。乳化時の温度は、乳化中に混合物が反応しない程度の温度であれば問題なく、通常5〜60℃程度が適当である。
【0062】
《アクリル系樹脂エマルジョン(A)》
このようにしてアクリル系樹脂エマルジョン(A)が得られ、これに伴い、アクリル系エマルジョン(A)の分散質としてアクリル系樹脂(X)が得られる。
【0063】
本発明に係るアクリル系エ樹脂マルジョン(A)は、分散質が上記アクリル系樹脂(X)であり、また、分散媒が、上記アクリル系樹脂(X)が分散質となるような分散媒であればよいが、好ましくは水系媒体からなるものである。ここで水系媒体とは、水、または水を主体とするアルコール性溶媒をいい、好ましくは水をいう。
【0064】
また、本発明に係るアクリル系樹脂エマルジョン(A)には、必要に応じて、例えば、有機顔料、無機顔料、水溶性添加剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、酸化防止剤等の各種の添加剤を含有していてもよい。
【0065】
〈平均粒子径〉
本発明に係るアクリル系樹脂エマルジョン(A)は、その平均粒子径が10〜1000nmであることが好ましく、特には50〜500nm、更には80nm〜300nmであることが好ましい。かかる平均粒子径が小さすぎると濃度を上げた場合、粘度が著しく上がり、取り扱いが悪くなる傾向があり、大きすぎると長期保存した場合、粒子が沈降し易くなる傾向がある。
なお、平均粒子径は、例えば光子相関法により測定される。
【0066】
〈ガラス転移温度(Tg)〉
さらに、上記アクリル系樹脂エマルジョン(A)を構成するアクリル系樹脂(X)のガラス転移温度 (Tg) は−50〜80℃であることが好ましく、さらには−30〜50℃、特には−20〜20℃であることが好ましい。ガラス転移温度が高すぎると、造膜性が著しく低下し、所望の撥水性が得難くなる傾向があり、低すぎると塗膜が粘着性を持ちブロッキングが起こり易くなる傾向がある。
【0067】
なお、本発明におけるアクリル系樹脂(X)のガラス転移温度(Tg)は、下記の式に示すFoxの式で算出した値を用いた。
【0068】
〔数2〕
1/Tg=W1/Tg1 +W2/Tg2 + ・・・ + Wn/Tgn
【0069】
上記式において、W1からWnは、使用している各単量体の重量分率を示し、Tg1からTgnは、各単量体の単独重合体のガラス転移温度(単位は絶対温度「K」)を示す。また絶対温度は、絶対温度「K」=セルシウス温度「℃」+273.15として計算する。
【0070】
〈不揮発分濃度〉
また、アクリル系樹脂エマルジョン(A)の不揮発分濃度(固形分濃度)については、実際に塗布し、乾燥する際に、短時間で効率良く乾燥する事が好ましいという の点で20重量%以上であることが好ましく、さらには20〜70重量%、特には30〜60重量%であることが好ましい。なお、本発明に係る揮発分濃度とは、105℃で1時間乾燥した後の不揮発分濃度(固形分濃度)をいう。
【0071】
〈粘度〉
さらに、アクリル系樹脂エマルジョン(A)の粘度としては、ハンドリングの点で、通常10〜100000mPa・sであることが好ましく、さらには10〜50000mPa・s、特には10〜10000mPa・sであることが好ましい。
【0072】
このようにして得られるアクリル系樹脂エマルジョン(A)は、後述の各成分(B)〜(D)と配合され、撥水性及び透湿性を併せ持つ多孔質皮膜を形成するのに有効なエマルジョン組成物となるのである。
【0073】
本発明で用いられる樹脂(B)は、軟化点が100〜150℃、好ましくは100〜130℃、特に好ましくは110〜120℃で、かつガードナー着色度が5以下、好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂である。かかる軟化点が上記範囲未満では充分な透明性が得られずブロッキングも起こり易くなり、上記範囲を超えると充分な撥水性が得られなくなる。また、ガードナー着色度が上記範囲を超えると塗膜が着色し、塗膜の外観が損なわれる。なお、ガードナー着色度の下限値としては通常0.5である。
【0074】
上記ロジン系樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジン、水添ロジンエステル、重合ロジン、重合ロジンエステル、変性ロジン等が使用できる。また、テルペン系樹脂としては、例えば、テルペン、ポリテルペン、テルペンフェノール等が使用できる。更に、石油系樹脂としては、例えば、脂肪族または芳香族石油樹脂、水添石油樹脂、変性石油樹脂、脂環族石油樹脂、クマロン・インデン石油樹脂等が使用できる。
【0075】
上記の樹脂(B)は、常法によって適当な乳化剤を使用して水に乳化分散させた水性分散体として用いることが混和性の点で好ましい。かかる水性分散体の固形分濃度としては通常、20〜70重量%、特には30〜60重量%であることが好ましい。
【0076】
本発明において、樹脂(B)の含有量は、アクリル系樹脂エマルジョン(A)の固形分100重量部に対して10〜100重量部であることが好ましく、特には30〜100重量部、更には50〜80重量部であることが好ましい。かかる含有量が少なすぎると後述のワックス(C)の表層への移行を十分に促進できない傾向があり、多すぎると後述のワックス(C)の移行はできるが、塗膜が着色する傾向があり、また、紙などに塗布して折り曲げた際に、ヒビ割れが生じやすくなる傾向がある。
【0077】
本発明で用いられるワックス(C)は、融点が50℃〜100℃、好ましくは55〜80℃のワックスであり、特には常法によって水に乳化分散した水分散体であることが好ましい。かかる融点が上記範囲未満ではブロッキングが起こりやすくなり、上記範囲を超えると撥水性が不十分となる。
【0078】
かかるワックス(C)としては、例えば、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、脂肪酸ワックス、石油樹脂ワックス、特殊エステル系合成樹脂ワックス等が使用できる。
【0079】
本発明において、ワックス(C)の含有量は、アクリル系樹脂エマルジョン(A)の固形分100重量部に対して5〜50重量部であることが好ましく、特には10〜40重量部、更には15〜35重量部であることが好ましい。かかる含有量が少なすぎると充分な撥水効果が得られがたい傾向があり、多すぎるとワックスが表面に移行しすぎて多孔質皮膜の細孔を塞ぎ透湿性を低下させてしまう傾向がある。
【0080】
本発明で用いられるシリカ(D)としては、コロイド状に水に分散させた超微粒子シリカゾル、又は超微粒子粉末シリカであるコロイダルシリカなどが挙げられ、その一次粒子の粒子径としては5〜100nmであることが好ましく、更には10〜60nm、特には15〜40nmであることが好ましい。かかる粒子径が小さすぎると所望の効果を発揮するのに必要なシリカの量が多くなる傾向があり、大きすぎると皮膜の透明性が損なわれヘイズや白化が見られる傾向がある。また、かかるシリカ(D)の平均粒子径としては5〜100nmであることが好ましく、更には10〜60nm、特には15〜40nmであることが好ましい。かかる平均粒子径が小さすぎると所望の効果を発揮するのに必要なシリカの量が多くなる傾向があり、大きすぎると皮膜の透明性が損なわれヘイズや白化が見られる傾向がある。
【0081】
本発明において、前記シリカ、好ましくはコロイダルシリカとしては、メタアルミン酸イオンなどの金属イオンにより表面処理されていてもよく、また、単分散のものであってもよいし、粒子が特殊処理により数珠状に連なったり分岐して繋がったものであってもよいが、これらの中でも、メタアルミン酸イオンなどの金属イオンにより表面処理されているものが、ポットライフや、各種添加剤との混和に優れる点で好ましい。
【0082】
本発明において、シリカ(D)の含有量は、アクリル系樹脂エマルジョン(A)の固形分100重量部に対して10〜250重量部であることが好ましく、特には50〜200重量部、更には50〜100重量部であることが好ましい。かかる含有量が少なすぎると十分な多孔質皮膜が形成できず、透湿性が低下する傾向があり、多すぎると造膜性が著しく低下して、撥水性が低下してしまう傾向がある。
【0083】
本発明では、上記(A)〜(D)成分を用いてエマルジョン組成物を得るわけであるが、かかる(A)〜(D)を混合するに際しては、特に限定は無く、通常の攪拌翼で攪拌しながら(A)〜(D)を任意の順で順次添加して十分に混和したりする方法などが挙げられる。
【0084】
更に、本発明のエマルジョン組成物には、該組成物によって形成される皮膜が多孔質皮膜となり、撥水性と透湿性を阻害しない範囲において、着色剤、増粘剤、透湿性付与剤、防腐剤、防触剤、蛍光剤、芳香剤、消臭剤、抗菌剤などの添加剤を適宜配合することができる。これらの添加剤は、多孔質形成皮膜物が使用される用途及び目的に応じて、適宜に選択することができる。例えば、その用途が、調湿・吸放湿性基材のクリヤー層であるか、紙基材のクリヤー層であるか、繊維加工の表面改質層であるかによって、その種類及び添加量などを適宜に調整すればよい。
【0085】
本発明による撥水性と透湿性を備えた多孔質形成皮膜を提供するエマルジョン組成物は、各種基材のクリヤー層として形成される。その塗工方法は、特に制限はなく、従来公知の方法を使用でき、例えば、塗料の様に、ハケやスプレーによる塗布、カアーテンフローコーター、グラビアコート、ロールコート、スプレーコートなどによるラインコーティング塗布、繊維などではディッピングのような含浸加工なども用いることができる。
【0086】
本発明のエマルジョン組成物の濃度としては、固形分換算で10〜70重量%であることが好ましく、特には20〜60重量%、更には30〜50重量%であることが好ましい。
【0087】
上記エマルジョン組成物を塗布した後の乾燥は、自然乾燥でも、人工的に加熱乾燥してもよいが、ワックスの表面への移行が十分となるようにワックスの融点温度以上で、かつ、アクリル系樹脂エマルジョン(A)の最低造膜温度以上で乾燥することが好ましい。又、上記クリヤー層の平均膜厚は、通常2〜40μm、好ましくは5〜20μmであることが好ましい。上記平均膜厚が薄すぎると透湿性は高くなるものの、クリヤー塗膜として、十分な表面保護機能が得られない傾向があり、厚すぎると撥水性と表面保護機能は期待出来るものの、透湿性が、期待されるレベルと比べて劣り、又、経済性に劣るものになる傾向がある。
【0088】
また、本発明においては、エマルジョン組成物の乾燥皮膜における水接触角が90度以上であることが水性の汚れが付着しても容易に拭き取れる点で好ましく、特には100度以上、更には110度以上であることが好ましい。なお、水接触角の上限値としては通常179度である。
【0089】
ここで、上記水接触角とは、本発明で得られたエマルジョン組成物の皮膜に脱イオン水を1滴落とし、水滴片端を基準とする接線の角度を接触角計で測定した際の値である。
【0090】
かくして本発明のエマルジョン組成物が得られ、かかるエマルジョン組成物は、調湿性或いは吸放湿性を持つ基材に塗布、乾燥されて皮膜化され多孔質皮膜となり、特に、撥水性及び透湿性を併せ持つ多孔質皮膜を形成することができる。
【0091】
このような多孔質皮膜は、調湿性或いは吸放湿性を持つロックウールボードなどが使用される住宅などの内装仕上げ材(天井、壁材、収納壁材)用の化粧シート、防カビ効果を持たせるべく調湿性或いは吸放湿性を持つ木材・家具材などの表面保護皮膜、衣類の発汗調節が可能な繊維加工剤等の用途に有用で、例えば、住宅などの内装仕上げ材(天井、壁材、収納壁材)、家具材などの表面に貼られる、通気性を持つ化粧シートを基材とし、その上に塗布し、皮膜を形成させたり、調湿性或いは吸放湿性を持つ木材・家具材などに塗布し、皮膜を形成させたり、繊維に塗布したり、或いは含浸させて乾燥させる等の層構成を形成して用いられる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0093】
実施例1
〔アクリル系樹脂エマルジョン(A)の製造〕
アクリル酸ブチル 64部、メタクリル酸メチル 25部、メタクリル酸 10部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン 0.5部、ビニルトリエトキシシラン 0.5部からなる混合単量体を、水 57部にアルキルエーテルスルホン酸ナトリウム(非重合性乳化剤)1部を溶解した水溶液中に添加し、ホモミキサーにて攪拌し、乳化モノマー組成物を作成した。
続いて、温度計、攪拌機、還流冷却管、窒素導入管及び滴下ロートを備えたガラス製反応容器に、水 50部、アルキルエーテルスルホン酸ナトリウム(非重合性乳化剤)1部を仕込み、攪拌して溶解させ、75℃まで昇温し、これに4%過硫酸カリウム8部と上記乳化モノマー組成物を3時間にかけて滴下しながら重合反応を進行させ、滴下後1時間反応を熟成して、乳白色のアクリル系樹脂エマルジョン(A−1)(固形分濃度47%)を得た。
【0094】
〔エマルジョン組成物の製造〕
次に、上記で得られたアクリル系樹脂エマルジョン(A)の固形分100部に、テルペンフェノール系タッキファイヤー(B)(軟化点:150℃)(「タマノルE100」(荒川化学工業(株)社製)10部、ポリエチレンパラフィンワックス(C)(融点:79℃)(「ノプコマルMS−40」、サンノプコ(株)社製)50部を添加し、十分均一に攪拌した。引き続き、コロイダルシリカ(D)(平均粒子径:15nm、一次粒子径:15nm)(「スノーテックス40」、日産化学工業(株)社製)を添加して、十分均一に攪拌し、多孔質皮膜形成用エマルジョン組成物(固形分43重量%)を得た。
【0095】
得られたエマルジョン組成物について、以下の通り評価を行った。
[撥水性評価]
(水接触角の測定)
上記で得られたエマルジョン組成物を基紙(坪量50g/m2)に、バーコーターにて8g/m2(固形分)となるように塗布し、引き続き、100℃のオーブンで3分間乾燥して、多孔質皮膜を基紙上に形成せしめた。
これらの基紙に形成された皮膜について、協和界面科学(株)コンタクトアングルメーター:CA−A型を用いて、水の接触角を測定した。水は脱イオン水を用い、23℃雰囲気下にて測定した。接触角として、90度以上であれば、撥水性を持っていると判断した。
【0096】
[透湿性評価]
(吸湿量の測定)
撥水性評価と同様に、基紙として坪量が50g/m2の紙を用い、これに上記で得られたエマルジョン組成物を、バーコーターにて8g/m2(固形分)となるように塗布し、引き続き、100℃のオーブンで3分間乾燥して、多孔質皮膜を基紙上に形成せしめた。
これらの多孔質皮膜が形成された基紙を、6mm厚の調湿性ロックウールボード(大建工業(株))の片側表面上に、市販の壁紙接着剤を用いて貼付けし、1日養生したものを10cm×10cmに切り出し、貼付け面以外の側面及び裏面をパラフィンにてシーリングしたものを試験片とした。
【0097】
これらの試験片について、JIS A 1470−1の「調湿建材の吸放湿試験法」に準拠した吸湿量を測定した。
湿度変化の条件は下記の通りである。
温度:23℃、湿度50%で24時間放置された試験片の重量・・・(α)
温度:23℃、湿度70%で24時間放置された試験片の重量・・・(β)
吸湿量(g/m2)=(β−α)/(0.1×0.1)
【0098】
基紙に形成された多孔質皮膜が透湿性を持っていれば、調湿性ロックウールボードの吸湿を妨げず、上記の試験片の吸湿量と、何も塗布していない試験片の吸湿量に著しい差は無いと考えられる。ここでは、なにも塗布していない試験片の吸湿量の50%以上であれば、多孔質皮膜は透湿性を有していると判断した。
【0099】
実施例2〜5、比較例1〜3
アクリル系樹脂エマルジョン(A)の製造、及び、エマルジョン組成物の製造については、下記の表1及び2に示す通りの配合組成以外は実施例1と同様にして製造した。
得られたエマルジョン組成物については、実施例1と同様の評価を行った。
実施例及び比較例の評価結果を表3に示す。

【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
表3の評価結果により、比較例のエマルジョン組成物を用いて形成した皮膜では、(A)〜(D)を満足しないものであるため、撥水性と透湿性の両立を満たしたものは得られなかったのに対して、実施例のエマルジョン組成物を用いて形成した多孔質皮膜は、高い接触角を持ちながら、湿気を透過させる透湿性を有することができ、非常に有用であることが確認された。
【0104】
上記処方実施例では、基紙に本発明品を塗布することにより、本発明により得られる多孔質形成皮膜の撥水性と透湿性を説明したが、エマルジョン組成物を塗布できる基材であれば同様の効果が得られることは当然であり、その他のものとして、木質基材又は無機基材などを基材として本発明に使用できることは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明において、多孔質を形成するエマルジョン組成物が、建築内装や家具などの表面保護層として十分な撥水性を持つ為、水性の汚れが付着しても容易に拭き取ることができる。さらに、基材が吸湿性を持つものの表面に塗布しても、本発明の多孔質形成皮膜による透湿性のおかげで、調湿基材が有する調湿性やガス吸着性などの機能が損なわれることなく、これらの機能が有効に発揮されることが期待できる。従って、本発明の多孔質皮膜形成に適したエマルジョン組成物は、住宅などの内装仕上げ材(天井、壁材、収納壁材)、家具材などの表面保護皮膜、衣類の発汗調節が可能な繊維加工剤としての用途に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系樹脂エマルジョン(A)、軟化点が100〜150℃で、かつガードナー着色度が5以下である、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油系樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂(B)、融点が50℃〜100℃であるワックス(C)及びシリカ(D)を含有してなることを特徴とするエマルジョン組成物。
【請求項2】
アクリル系樹脂エマルジョン(A)が、シリル基含有不飽和単量体(a1)を含む共重合成分を乳化重合してなるものであることを特徴とする請求項1記載のエマルジョン組成物。
【請求項3】
アクリル系樹脂エマルジョン(A)中の固形分100重量部に対して、樹脂(B)を10〜100重量部(固形分換算)、ワックス(C)を5〜50重量部(固形分換算)、シリカ(D)を10〜250重量部(固形分換算)含有してなることを特徴とする請求項1または2記載のエマルジョン組成物。
【請求項4】
エマルジョン組成物の乾燥皮膜における水接触角が90度以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載のエマルジョン組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のエマルジョン組成物を、調湿性或いは吸放湿性を持つ基材に塗布し乾燥して皮膜化したことを特徴とする多孔質皮膜。
【請求項6】
撥水性及び透湿性を併せ持つことを特徴とする請求項5記載の多孔質皮膜。

【公開番号】特開2010−168442(P2010−168442A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11103(P2009−11103)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】