説明

エレクトレット振動発電整流装置および振動発電整流装置の製造方法

【課題】整流回路を組み込んだエレクトレット振動発電装置およびその効率の良い製造法を提供する。
【解決手段】エレクトレットを用いた電気機械エネルギー変換素子からの交流電力出力は多くの場合整流回路を用いて直流出力に変換される。エレクトレットからの出力は比較的少量の電荷であるから寄生容量を低減するために本発明では整流回路を電気機械エネルギー変換素子と併せて集積する。集積に当たり、逆バイアスしたpn接合で素子間の電気的分離を図る通常の半導体製造プロセスは複雑であることから、これを大幅に単純化するためにシリコン基板1そのものを削ってそこに絶縁体5を充填することにより、不純物拡散された領域3などから構成されるダイオードを電気的に分離する。この際に、シリコン基板1を削るプロセスは電気機械エネルギー変換素子中の可動要素6を製造するためになされるプロセスであり、全体として製造工程は簡略化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトレットを用いた静電型電気機械エネルギー変換器とその出力電力の直流への効率よい変換装置からなる超小型振動発電装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分散化されたユビキタス情報システムやセンサーネットワークは今後広く使用されると予想されている。その中で使用されるネットワークノードは数が多く、分散しているために、例えば電池交換をすることは現実的でなく、また仮に使い捨てであっても廃棄される電池はその化学組成のために環境への負荷が大きい。このために熱エネルギーや光エネルギーの他、振動エネルギーを利用した自律的なエネルギー調達法が研究されている。本発明はこのうち環境中に存在する機械的振動エネルギーからの発電(例えば、非特許文献1参照)に関する。
【0003】
機械的振動エネルギーからの発電に関しては振動発電型腕時計(例えば、非特許文献2参照)などの技術が周知である。小型振動発電機においては、電気機械エネルギー変換をするために主に3通りの物理機構、すなわち電磁相互作用を用いたもの、ピエゾ材料を用いたもの、またエレクトレットを用いたものが用いられる。エレクトレットは1925年に既に発見されているが(例えば、非特許文献3参照)、本発明に関連するエレクトレットを用いた中型発電機は回転型のものが周知であるほか(例えば、特許文献1参照)、超小型の往復振動型のものが周知である(例えば、特許文献2参照)。しかし、これらの文献には交流である出力電力の直流化については触れられていない。
【0004】
ピエゾ素子を用いた中型以上の振動発電機の場合は、出力の整流について非特許文献4,5に記述がある。しかし、そこで述べられている複雑な制御をするには相応なエネルギーが必要であり小型発電機には不適である。
【0005】
【特許文献1】 特開2005−529574号広報
【特許文献2】 特開2006−180450号広報
【0006】
【非特許文献1】 センサーズ アンド アクチュエーターズ A,vol.52,(1996年),第8〜11頁(Sensors and Actuators A,vol.52,1996,pp.8−11)
【非特許文献2】 日本時計学会誌,No120,1987年の第40〜48ページ
【非特許文献3】 フィロソフィカル マガジン、No49,1925年の第178ページ(Philosophical Magazine, vol.49,1925,pp.178)
【非特許文献4】 IEEEトランザクションズ オン パワーエレクトロニクス、vol.18(2003年)第696−703頁(IEEE Transactions on Power Electronics,vol.18,2003,pp.696−703)
【非特許文献5】 センサーズ アンド アクチュエーターズ A,vol.138,(2007年),第151〜160頁(Sensors and Actuators A,vol.138,2007,pp.151−160)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超小型のエレクトレット機械電気エネルギー変換器に基礎を置いた振動発電機においては、振動により発生する小さな電荷の流れを有効に整流するために整流回路周辺の寄生容量を小さくすることが必要である。この為には整流回路を集積回路化して機械電気エネルギー変換器に作りこむのが有利である。整流回路を集積化するには複数のダイオードを必要な箇所で互いに電気的に分離しながら作ることが必要であるが、通常のバイポーラデバイス作成方法では逆バイアスしたpn接合によって電気的絶縁を図るために、振動発電により逆バイアスに必要な電圧が作り出されるまではゼロエネルギー状態からの立ち上がり動作が不安定になると考えられる。
【0008】
更に、通常の方法で電気的絶縁箇所を含むダイオード回路を作成する半導体プロセスは、多数の高度に制御された不純物拡散プロセス、酸化膜形成プロセス、光露光プロセスを含む。従ってデバイス製造プロセスが複雑かつ高価になる。具体的には、通常ダイオードはnpnトランジスタと同じ工程を経て製造されるが、これは最低限、初期の熱酸化工程、フォトリソグラフィー、埋め込み層の拡散工程、エピタキシャル成長工程、更なる酸化工程、2回目のフォトリソグラフィー、アイソレーション拡散工程、3度目のフォトリソグラフィー、ベース拡散、4度目のフォトリソグラフィー、エミッタ拡散、とそれに続く金属配線の作成(金属膜形成と5回目のフォトリソグラフィー)からなる。以上の記述は極めて単純化されている。
【0009】
従って本発明の目的は、前記諸問題を回避することにある。即ち、ゼロエネルギー状態でもダイオード素子同士が適切に絶縁されるデバイス構造を単純なプロセスにより作成することを目的とする。エレクトレット電気機械エネルギー変換素子に併せて集積することが前提であるから、エレクトレット電気機械エネルギー変換素子の作成過程において避けて通れないプロセスを整流回路の製作プロセスに適切に流用して利益を得ることが本発明の骨子である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本願によって開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記のとおりである。
【0011】
すなわち、本発明のエレクトレット発電整流装置のうち代表的なものは、回路の一部として2個のpn接合型ダイオードを直列に接続した部分回路要素と、これらのpn接合を電気的に分離する絶縁部と、絶縁部と同時に作られる電気機械エネルギー変換のための可動部を含むことを特徴とする。
【0012】
前記部分回路要素は直列に接続した接続点において、1つのダイオードのp型半導体部分がもう一つのダイオードのn型半導体部分に接続され、同種半導体同士が接続されることは無い。2個のダイオードを接続する中間接続金属体は両端でダイオードを構成する半導体にオーミックに接合される。
【0013】
一方で、エレクトレットを用いた電気機械エネルギー変換素子においては、帯電したエレクトレットに対して相対的に運動する金属の動作電極が必ず存在する。動作電極が、例えば正に帯電したエレクトレットに近づいていく場合、正電荷が動作電極より流れ出る。上記の文章で正電荷を負電荷で置き換えても同様である。動作電極は電気的グラウンドに対して小さな容量をもっていなければならない。さもないと動作中に流れ出る電荷が小さな電圧に対応することになり、従って例えばダイオード素子の順方向降下電圧に達しない場合が考えられる。
【0014】
半波整流方式と全波整流方式のいずれの方式を採用するにせよ、前述の部分回路要素がそれぞれ1個あるいは2個使用される。即ち、半波整流方式の場合は前記動作電極が前記部分回路要素のうち前述の中間接続金属体に接続され、部分回路要素の残りの電極は直流出力に使われ、そのうちの一つの電極は電気的グラウンドに接続される。また、全波整流方式の場合は、2つの対になった動作電極が存在し、一つの動作電極から正電荷が流れ出るのと同時にもう一つの動作電極からは負電荷が流れ出るように配置されている。この動作電極対を構成するこれらの動作電極はそれぞれ異なる部分回路要素のそれぞれの中間接続金属体に接続される。2つの前記部分回路要素の残りの電極のうち、p型半導体に接続された2つの電極は互いに接続されて出力電極の一つとなり、またn型半導体に接続された2つの電極は互いに接続されてもう一つの出力電極となる。これら2つの出力電極のうち一つは電気的グラウンドに接続されるのが一般的である。
【0015】
従って半波整流方式と全波整流方式のいずれの場合においても、中間接続金属体は動作電極に接続される。動作電極と電気的グラウンドとの間の寄生容量を小さくするために中間接続金属体および動作電極と中間金属接続体を接続する接続電線の双方を小さく短く構成することが好適である。すなわち、エレクトレット電気機械エネルギー変換装置から送り出される電荷にたいして、これを前記寄生容量と他の避けられない容量の和で割ったものが電気機械エネルギー変換装置の出力電圧となるが、これが整流回路のダイオードの順方向降下電圧を越える度合いによって、整流効率が大きく変わる。近似的には前記出力電圧に対する順方向降下電圧の比が相対的なパワー損失に比例する。前記、他の避けられない容量とはダイオードの接合容量や電気機械エネルギー変換装置の内部で付随する容量である。従って本発明のエレクトレット発電整流装置は前記部分回路要素を動作電極の近傍に集積することを特徴とする。
【0016】
前記部分回路要素を集積回路技術によって製作するときに、前記中間接続金属体でない2つの補助電極を互いに電気的に絶縁することが必要である。一方で、前記エレクトレット機械電気エネルギー変換素子をMEMS技術によって製作する場合にはDeep Reactive Ion Etching(DRIE)等の手法により基板を打ち抜くことにより構造体を形成することが一般的である。そこで本発明のエレクトレット発電整流装置の製造法は、機械電気エネルギー変換素子を形成する際に同時に前記補助電極を互いに絶縁するように基板に切れ込みを形成することを特徴とする。
【0017】
また、請求項2の記載にかかるエレクトレット発電整流装置は、機械的強度を確保するために、前記切れ込みを絶縁体によって埋めることを特徴とする。
【0018】
また、前記切れ込みによって絶縁された部分は電気的グラウンドへの寄生容量を小さくするためになるべく小さくすることが好ましい。
【0019】
また、請求項4の記載にかかるエレクトレット発電整流装置は、整流回路をエレクトレット機械電気エネルギー変換素子の可動部分に集積することにより、前述の寄生容量を極小化することを特徴とする。
【0020】
上記の方法は特許文献3に記載された方法とは異なり、MEMS技術などの手法により可動素子を形成する基板に整流回路を集積し、エレクトレットは別基板に形成する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、従来の逆バイアスされたpn接合による絶縁に比べ、最初の低エネルギー状態から振動発電機が立ち上がる際により信頼性の高い絶縁をもつ整流回路を実現することが出来る。
【0022】
本発明によると、従来法に比べて大幅に少ない工程数でダイオードを用いた整流回路を振動発電機上に集積することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。なお、いわゆる当業者は特許請求の範囲内における本発明を変更・修正をして他の実施形態をなすことは容易であり、これらの変更・修正はこの特許請求の範囲に含まれるものであり、以下の説明はこの発明における最良の形態の例であって、この特許請求の範囲を限定するものではない。
【0024】
本発明の一実施例によると、エレクトレット型小型振動発電機の振動子6がMEMS技術により厚さ400ミクロンのn型シリコン基板1上に形成された。これと同時に半波整流回路が図1に示す形で同一シリコン基板1上に形成された。使用したシリコン基板は<110>面方位であり、5−8Ωcmの抵抗率をもっていた。
【0025】
この基板上に図2に示すようなプロセスを使って前記部分回路要素を形成した。図2(a)に示すようにまずウェット熱酸化プロセスにより1ミクロン程度のSiO膜2を基板両面に形成した。次にフォトリソグラフィーおよびフッ化水素酸処理により、p型シリコンを形成する箇所のSiO膜を除去した。次に1160度の高温中で、固体ボロンソースの近傍に前記SiO膜を除去した側が向くように基板を配置してホウ素不純物原子の熱拡散処理を行うことにより、図2(b)に示すp型領域3を形成した。
【0026】
さらにフォトリソグラフィーおよびフッ化水素酸処理を行うことにより、図2(c)に示すn型シリコンに接続するための窓21を前記SiO膜に形成した。これに5%のシリコンを含むアルミニウムを0.1ミクロンほどスパッタリングにより形成し、さらにフォトリソグラフィーおよびTetra−Methyl Ammonium Hydroxide(TMAH)によるウェットエッチングによりアルミニウム電極4、4aを形成し、375度にてアニーリング処理を行うことにより図2(d)の構造を得た。この状態で2個のpn接合が図中に形成されているが、n型半導体同士が基板として接続されているためにこれらを電気的に分離する必要がある。
【0027】
上記の電気的な分離を実現するために、基板の裏側からフォトリソグラフィーおよびフッ化水素酸処理を行うことにより、シリコンを除去する部分に窓を形成した。さらに、アルミニウム配線のある反対側の基板表面をネガ型フォトレジストOMR83(東京応化工業株式会社)で保護し、この面を更にポジ型フォトレジストOFPR800LB(東京応化工業株式会社)を使って、もう一枚の大型シリコン基板に接触させた状態で固定した。前記大型シリコン基板はエッチングされることを防止するために全面ポジ型フォトレジストOFPR800LB(東京応化)でコートされた。
【0028】
この状態で、SFガスおよびCガスを用いたBOSCHプロセスによるDRIEにより、400ミクロン厚のシリコンを指定された面内箇所において除去した。エッチングはアルミニウム配線のある面のSiO膜面で自動的に停止し、図2(e)に示す溝22を得た。1ミクロン程度の厚みのSiO膜ではダイオードを支える機械強度が不十分であることから、テフロン系の旭硝子株式会社により製造されているCYTOP(登録商標)を引き続くプロセスに適合し、かつ絶縁体である物質としてシリコンを除去した溝22に充填した。充填時には真空に曝すことにより脱泡処理を行い、さらに150度で熱処理を一時間行うことにより硬化させることにより、図1に示されるCYTOP充填領域5を得た。
【0029】
前記大型シリコン基板からDRIE処理およびCYTOP充填を行った基板を機械的ストレスを加えずに分離するために、東京応化工業株式会社製「106」剥離液によりOFPR800LB膜を溶かして両者を分離した。さらに、東京応化工業株式会社製「502A]剥離液を使用して基板両面に残存しているOMR83膜を溶かすことにより除去した。この時に、CYTOPにより補強されていたSiO膜はそのまま残存したが、前記電気機械エネルギー変換素子に掛かる補強されていない部分については、膜厚が1ミクロン程度しかないことから、SiO膜は自然に消失した。以上の工程により図1に示す目的の構造を得た。
【0030】
このように得られた構造は、図3(a)に示す回路中で使われる。即ち、MEMS可動部6およびその上に形成された接地電極301および動作電極302はエレクトレット303に対して相対的に運動する。動作電極302は接続電線304を介して中間金属接続体305に接続される。これら動作電極302、接続電線304、中間金属接続体305から電気的グラウンドへの容量は小さいほど好適であることから、これらを微細加工により集積する。集積されたダイオード306、307を含む部分回路要素308を用いて半波整流を行う。
【0031】
本発明の他の実施例によると、前述の大型シリコン基板への貼り付けおよび分離工程が省略されている。
【0032】
本発明のさらに他の実施例によると、図3(b)に示すように上記部分回路要素を2個同時に作成することにより全波整流回路が形成される。全波整流回路は動作電極309と310、接続電線311と312、中間金属接続体313と314、そして部分回路要素315と316により構成される。
【0033】
本発明のさらに他の実施例によると、整流回路全体が前記電気機械エネルギー変換素子の可動素子部分上に形成され、そのことによって前記寄生容量が極小化される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例の構成図である。
【図2】整流回路の製法を説明する図であり、(a)は酸化膜の形成、(b)はpn接合の形成、(c)はn型シリコンへの窓開け過程、(d)は金属電極の形成、(e)は素子間絶縁過程を示す図である。
【図3】整流回路図であり、(a)は半波整流回路図、また(b)は全波整流回路図である。
【符号の説明】
【0035】
1 n型シリコン基板
2 熱酸化SiO
3 B拡散p型領域
4 アルミニウム−シリコン膜
4a 中間接続金属体
5 CYTOP充填領域
6 MEMS可動素子
21 n型シリコン接続窓
22 DRIEエッチング溝
301 接地可動電極
302 動作電極
303 エレクトレット
304 接続電線
305 中間金属接続体
306 ダイオード
307 ダイオード
308 部分回路要素
309 動作電極
310 動作電極
311 接続電線
312 接続電線
313 中間金属接続体
314 中間金属接続体
315 部分回路要素
316 部分回路要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動機械要素を含むエレクトレット電気機械エネルギー変換装置と、
2つのダイオードと、
これらのダイオードのそれぞれp型およびn型半導体を接続する中間金属接続体と
を具備して成る部分回路要素と、
前記ダイオード間の電気的絶縁を施すための集積回路基板に掘られた絶縁溝と、
回路要素を互いに接続する金属配線と
を具備して成り、
振動エネルギーを電気エネルギーに変換して発電し、出力を直流に整流することを特徴とする振動発電装置。
【請求項2】
前記絶縁溝が絶縁物質により充填されていることを特徴とする請求項1に記載の振動発電装置。
【請求項3】
前記部分回路要素を2個使用することにより全波整流することを特徴とする請求項1または2に記載の振動発電装置。
【請求項4】
前記部分回路要素が前記エレクトレット電気機械エネルギー変換装置のうち前記可動機械要素上に構成されていることを特徴とする請求項1または2または3に記載の振動発電装置。
【請求項5】
前記絶縁溝を掘る工程と、前記可動機械要素を形成する工程が同一であることを特徴とする請求項1または2または3または4に記載の振動発電装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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