説明

エレクトロスプレーデポジション装置

【課題】大型、大面積の基板に効率的に有機半導体材料薄膜を形成できるエレクトロスプレーデポジション装置を提供する。
【解決手段】エレクトロスプレーデポジション装置において、噴霧部10と、基板搭載部20と、基板印加電圧電源32およびノズル印加電圧電源33と、基板印加電圧電源32およびノズル印加電圧電源33を制御し、噴霧部10と成膜対象基板21との間に電界を印加させて、成膜対象基板21に静電噴霧により溶液材料の膜を形成する制御部30とを備え、基板搭載部20は、噴霧部10に対して鉛直上方向に設置され、成膜対象基板21の成膜面を下面として固定し、噴霧部10は、噴霧を行う先端部にスリット状開口12を有する導電体ノズル11を備え、制御部30は、基板印加電圧電源32およびノズル印加電圧電源33を制御して、溶液材料を帯電させ、噴霧部10から成膜対象基板21に対して下部より静電噴霧を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料を用いる有機電子デバイス製造のために、デバイス基板上に有機半導体材料薄膜を成膜するエレクトロスプレーデポジション装置に関し、特に、大型、大面積の基盤への対応に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機エレクトロルミネッセンス発光素子からなる表示装置や照明装置、また有機薄膜太陽電池など、光電変換の機能材料として有機半導体材料を用いる有機電子デバイスの開発、実用化が進められている。
【0003】
現在、有機半導体薄膜の製造において、低分子系の材料を真空中で蒸着して機能毎の材料膜を積層する成膜方法が一般的に用いてられている。今後、大型、大面積の表示装置や照明装置、太陽電池に対して、製造コストを低減する上で、常温、非真空下で基板上に膜形成を実現する有機半導体材料と成膜方法が期待されている。
【0004】
このような常温、非真空下での成膜を実現する有機半導体材料として、高分子の材料を溶媒に溶かした液体材料が注目されており、その基本となる高分子の半導体材料開発が進められている。
【0005】
液体材料を非真空下で成膜する方法として、スピンコータ、スリットコータ、あるいはインクジェット、オフセット、スクリーンなどの塗布、印刷法が知られている。これらの方法では、基板上に液体状態の膜が形成されるために、積層膜を形成する場合に、上層材料の溶媒が下地材料層を溶かして上下層で材料が混じり合い、積層膜としての機能を発現しない問題がある。このため、一層毎に加熱して溶媒乾燥する処理が必要となる。
【0006】
そこで、直接乾燥膜を形成できる成膜方法が期待されており、その方法として、エレクトロスプレーデポジション法が注目されている。本成膜方法は、古くから知られている高圧電界中で液体材料を帯電させて微小液滴状態で噴霧するエレクトロスプレー現象を原理としており、近年、産業分野への応用が研究されている。
【0007】
本成膜方法をナノファイバ製造に応用した背景技術として、例えば、特開2007−175576号公報(特許文献1)がある。この特許文献1には、複数の隣接するノズル同士の電荷干渉や反発を緩和し、正常な噴霧が行える噴霧材料の溶液を静電帯電させて対象物の基板表面に付着させる静電噴霧装置において、基板と所定の距離をおいて配置される内部に電極線を有する複数のノズルと、電極線に所定の高電圧を印加して噴霧材料の溶液を静電噴霧するための高圧電源とを備え、複数ノズルの基板との距離を、隣接するノズル同士異なる位置に配置することが記載されている。
【0008】
また、本成膜方法を有機エレクトロルミネッセンス素子製造に応用した背景技術として、例えば、特開2007−305507号公報(特許文献2)がある。この特許文献2には、エレクトロスプレーデポジション法により、導電性パターン上に所望の機能を有するパターンを優れた精度、均一性および効率性でもって形成する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において、スプレーキャピラリーと導電性基板と、スプレーキャピラリーと導電性基板との間に電圧を印加する高圧電源部とを用いたエレクトロスプレーデポジション法により、導電性基板上の導電性パターン上に塗液を付着させ、導電性パターン上に所望の機能を有するパターンを形成し、塗液が室温での蒸気圧500Pa以下の溶媒を少なくとも含有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−175576号公報
【特許文献2】特開2007−305507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1、2では、材料噴霧のためのノズルはガラス管やステンレス管などのキャピラリー(細管)を用いる噴霧が記載されており、特許文献1、2は共に、エレクトロスプレー現象の原理となる細管を用い噴霧方法をそのまま反映した技術といえる。
【0011】
このような細管を用いるエレクトロスプレー法では、1つの細管に1つのエレクトロスプレー現象しか発現できず、細管先端を頂点として円錐放射状に材料の噴霧が広がって基板面に膜が形成されることになる。このため、大型、大面積の基板に対する有機半導体薄膜の製造に対して、細管を組み合わせた構成のエレクトロスプレーデポジション装置では、材料薄膜の効率的な成膜について課題がある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、大型、大面積の基板に効率的に有機半導体材料薄膜を形成できるエレクトロスプレーデポジション装置を提供することにある。
【0013】
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0015】
すなわち、代表的なものの概要は、溶液材料に電圧を印加させることで生じる電荷を有する噴霧液を成膜対象基板に向けて静電噴霧する噴霧部と、成膜対象基板を搭載する搭載部と、噴霧部および成膜対象基板に対して、独立に電圧を印加する電圧印加制御手段と、電圧印加制御手段を制御し、噴霧部と成膜対象基板との間に電界を印加させて、成膜対象基板に静電噴霧により溶液材料の膜を形成する制御部とを備え、搭載部は、噴霧部に対して鉛直上方向に設置され、成膜対象基板の成膜面を下面として固定し、噴霧部は、噴霧を行う先端部にスリット状開口を有する導電体ノズルを備え、制御部は、電圧印加制御手段を制御して、溶液材料を帯電させ、噴霧部から成膜対象基板に対して下部より静電噴霧を行うものである。
【発明の効果】
【0016】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば以下の通りである。
【0017】
すなわち、代表的なものによって得られる効果は、静電噴霧する噴霧部のノズルがスリット状の開口を有しており、供給された溶液材料を帯電させた際に、1つのスリット状の開口に対して複数のエレクトロスプレー現象を発現させることができる。このため、ノズルに対して絶縁物で隔壁した複数個のスリット状開口を備えることで、1つのノズルから多数のエレクトロスプレーを発生させることができる。
【0018】
さらに、基板に対して下部より噴霧部から静電噴霧を行い、対向する対象基板の成膜面に材料膜を形成することで、噴霧開始直前と噴霧停止直後に静電噴霧しない液滴が基板方向に吐出することを防止する。これらを実現することで、効率高く有機半導体材料薄膜を形成できるエレクトロスプレーデポジション装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルのスリット状開口上面を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルの長尺方向断面を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルの横断面を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の電圧の印加を説明するための説明図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルのスリット状開口上面を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態2に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルの横断面を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態3に係るエレクトロスプレーデポジション装置の電圧の印加を説明するための説明図である。
【図9】本発明の実施の形態4に係るエレクトロスプレーデポジション装置の電圧の印加を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0021】
(実施の形態1)
図1により、本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の構成について説明する。図1は本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の構成を示す構成図である。
【0022】
図1において、エレクトロスプレーデポジション装置は、基本的構成として、溶液材料に電圧を印加させることで生じる電荷を有する噴霧液を成膜の対象基板に向けて静電噴霧する噴霧部10、成膜対象基板21を搭載する基板搭載部20、噴霧部10と成膜対象基板21とに電圧を印加するための電源や溶液材料を噴霧部10に供給するための供給装置などの制御部30から構成されている。
【0023】
また、成膜対象基板21は、隣接する他の処理装置(図示せず)により成膜面が下面となるように搬送されて、基板保持機構部22に固定される。この成膜対象基板21に対して、噴霧部10は鉛直下方に位置し、先端部にスリット状開口12を有する導電体ノズル11を備え、導電体ノズル11に外面に電圧を印加するための電圧印加制御手段であるノズル印加電圧電源33を用いて、溶液材料を帯電させ、成膜対象基板21に対して下部より静電噴霧を行い、所望の成膜面に材料膜を形成する。
【0024】
また、本実施の形態では、成膜対象基板21に対しても独立な電圧印加制御手段である基板印加電圧電源32を用いて、導電体ノズル11とは極性が異なる電圧を印加させて、成膜対象基板21と導電体ノズル11との間の電界を制御することができるようになっている。
【0025】
導電体ノズル11と成膜対象基板21との間に電界を印加するが、導電体ノズル11と成膜対象基板21との間の距離は50mmから250mm範囲が好ましく、これに対し、電界強度が100kV/mから300kV/mの条件範囲であることが望ましい。これらの範囲を逸脱すると、後述する導電体ノズル11のスリット状開口12からの静電噴霧が良好に生成できなくなる。
【0026】
制御部30は、基板保持機構部22を制御する基板保持機構制御部31、成膜対象基板21に電圧を印加する基板印加電圧電源32、導電体ノズル11に電圧を印加するノズル印加電圧電源33、導電体ノズル11に溶液材料を供給する溶液材料供給装置34から構成されている。
【0027】
図1に示す構成においては、溶液材料供給装置34から導電体ノズル11に材料が供給されると、スリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料が充填され、スリット状開口12から液体が出ることになる。導電体ノズル11に電圧が印加されていると、溶液材料が同一電荷に帯電することで電荷同士の反発が生じる。
【0028】
溶液材料の液体の表面張力に対してこの電荷反発力が勝ると、溶液材料は静電噴霧する。成膜対象基板21には、導電体ノズル11と極性の異なる電圧を印加することにより、導電体ノズル11と成膜対象基板21の間の電界による静電引力によって、静電噴霧した材料は成膜対象基板21側に飛翔するが、この間に引き続いて、電荷の静電反発によって噴霧は微小な液滴粒子状態へと分裂を続けることになる。この微小粒子への分裂、飛翔過程で液滴溶媒は揮発乾燥して、残りの溶質材料の帯電粒子が基板へと付着し、溶媒の乾燥した材料膜の形成に至ることになる。
【0029】
スリット状開口12に対して溶液材料を供給し続けている状態では、電圧印加前と印加停止後には静電噴霧は発生しないため、溶液材料はスリット状開口12の上部に滞留することになる。導電体ノズルが重力方向に開口していると、この滞留した液滴が自重により導電体ノズル11から滴下するが、本実施の形態では、噴霧部10のスリット状開口12は鉛直上方に開口して、成膜対象基板21に対して下部より静電噴霧を行い、所望の成膜面に材料膜を形成することにより、スリット状開口12の上部に滞留するだけで、溶液材料が導電体ノズル11から滴下することがない。
【0030】
次に、図2〜図5により、本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルの構造および電圧の印加について説明する。図2〜図4は本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルの構造を説明するための説明図であり、図2は導電体ノズルのスリット状開口上面を示す図、図3は導電体ノズルの長尺方向断面を示す図、図4は導電体ノズルの横断面を示す図である。図5は本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の電圧の印加を説明するための説明図であり、直流電圧を印加する例を示している。
【0031】
図2および図3に示すように、導電体ノズル11は、成膜対象基板21の一辺に相当する長尺幅Lを有し、長尺幅に対して絶縁物壁13で複数に分割したスリット状開口12を備えている。分割されたスリット状開口12では、スリット幅Swが0.2mm以上1.5mm以下の範囲であり、開口長尺幅SLがスリット幅に対して25倍以上50倍以下の範囲となっている。
【0032】
また、図4に示すように、導電体ノズル11は導電体ノズル上部平滑面14の中央部にスリット状開口を備えており、さらに、導電体ノズルの平滑面14は、スリット状開口のスリット幅Swに対して6倍以上30倍以下としている。
【0033】
このような導電体ノズル11を用いることで、スリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料が充填、供給し続けている状態で、導電体ノズル11に電圧を印加すると、1つのスリット状開口に対して複数の静電噴霧現象を発現させることができる。
【0034】
これにより、導電体ノズル11に対して絶縁物で隔壁した複数個のスリット状開口12を備えることで、1つの導電体ノズル11から多数の静電噴霧を発生させることができる。
【0035】
ここで、導電体ノズル11のスリット状開口12のスリット幅が0.2mm未満の場合は、スリット状開口12に充填される溶液材料量に対して帯電量が多く、静電噴霧した際の液滴間の電荷反発力や、成膜対象基板21に付着直後の帯電粒子材料とその後に飛翔して来る帯電粒子材料との電荷反発力が大きくなる。
【0036】
このため、導電体ノズル11と成膜対象基板21とを静止した状態においても、静電噴霧中に成膜対象基板21への付着領域が常に移動して不安定となり、制御できない状態となる。また、スリット幅が1.5mm超では、スリット状開口12に充填される溶液材料量に対して帯電量が小さく、静電噴霧が安定しない。
【0037】
また、スリット状開口12の開口長尺幅がスリット幅に対して25倍未満である場合は、1つのスリット状開口12に充填される溶液材料量が不十分で複数の静電噴霧を発現できない。また、開口長尺幅がスリット幅に対して50倍超では、スリット状開口12に充填される溶液材料量が多く、相対的に帯電量が小さくなって静電噴霧が安定しない。
【0038】
また、導電体ノズル11は、上面が平滑面であり、中央部にスリット状開口12を備えており、平滑面は、スリット状開口12のスリット幅Swに対して6倍以上30倍以下である。
【0039】
本実施の形態では、例えば、図5に示すように、導電体ノズル11と成膜対象基板21に直流電圧を印加して、電界を印加することにより、導電体ノズル11のスリット状開口12に充填された溶液材料を帯電してスリット状開口12より静電噴霧現象を発現させる。
【0040】
図5に示す電圧印加状態で、噴霧部10の導電体ノズル11と成膜対象基板21との距離120mmに対して電界強度120kV/mとなるように、直流正極電圧を導電体ノズル11に、直流負極電圧を成膜対象基板21側に印加している。この電圧の印加のために、ノズル印加電圧電源33と基板印加電圧電源32の独立な電圧印加制御手段を備えている。
【0041】
この導電体ノズル11に、スリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料が充填、0.08mL/min量を供給し続けている状態で、導電体ノズル11に電圧を印加すると、1つのスリット状開口に対して、例えば2個の静電噴霧現象が発現し、1つの導電体ノズル11から多数の静電噴霧を発生させることができる。
【0042】
このとき、帯電した溶液材料がスリット状開口12から外に流れ出た場合でも、導電体ノズル11の上面を平滑面とすることで、その平滑面に流れ出た溶液材料を材料液体の表面張力により一定量を一定時間保持できる。このときに平滑面に保持された溶液材料は帯電状態にあり、導電体ノズル11の上面と成膜対象基板21との間で形成される電気力線の電界により、この平滑面からでも静電噴霧することができる。
【0043】
導電体ノズル11の上面と成膜対象基板21との間で形成される電気力線は、平滑面の中央部にスリット状開口12を備えることで、スリット状開口12の中心から導電体ノズル11の上面の両端に対して中心対称の等価な電界を形成できる。
【0044】
ここで、平滑面がスリット状開口12のスリット幅Swに対して6倍未満であると、導電体ノズル11の上面両端部におけるエッジ電界強度が強く、導電体ノズル11の上面でスリット状開口12から外に流れ出た溶液材料が静電噴霧した際に、成膜対象基板21への付着領域が常に移動して不安定となり、制御できない状態となる。また、平滑面がスリット状開口12のスリット幅Swに対して30倍超であると、導電体ノズル11の上面と成膜対象基板21との間で形成される電界が平面状態の電極間の電界となって、静電噴霧を発現できる電界強度に満たない状態となる。
【0045】
本実施の形態では、上述した導電体ノズル11を用いることで、スリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料が充填、供給し続けている状態で、導電体ノズル11に電圧を印加すると、1つのスリット状開口12に対して複数の静電噴霧現象を発現させることができる。これにより、導電体ノズル11に対して絶縁物で隔壁した複数個のスリット状開口12を備えることで、1つの導電体ノズル11から多数の静電噴霧を発生させることができる。
【0046】
このように、本実施の形態では、効率高く有機半導体材料薄膜を形成できるエレクトロスプレーデポジション装置を提供することができる。
【0047】
次に、本発明の実施の形態1に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルの寸法の範囲内での具体例について説明する。
【0048】
まず、導電体ノズル11として、成膜対象基板21となる370mm×470mm面の1辺に相当する370mm幅を有し、導電体ノズル11の上面の平滑面は6mm幅、スリット状開口のスリット幅Sw0.2mm、開口長尺幅SL5mm、スリット状開口12を分割する絶縁物の長尺幅10mm、スリット状開口12を22個備えたものを用意し、この導電体ノズル11と成膜対象基板21との距離120mmに対して、電界強度120kV/mとなる直流正極電圧を導電体ノズル11に、直流負極電圧を成膜対象基板21側に印加する。
【0049】
この導電体ノズル11にスリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料を充填し、0.04mL/min量を供給し続けている状態で、導電体ノズル11に電圧を印加すると、1つのスリット状開口に対して2個の静電噴霧現象が発現し、1つの導電体ノズル11から多数の静電噴霧を発生させることができた。
【0050】
また、他の導電体ノズル11として、成膜対象基板21となる370mm×470mm面の1辺に相当する370mm幅を有し、導電体ノズル11の上面の平滑面は6mm幅、スリット状開口12のスリット幅Sw0.6mm、開口長尺幅SL6mm、スリット状開口12を分割する絶縁物の長尺幅12mm、スリット状開口を18個備えたものを用意し、導電体ノズル11と成膜対象基板21との距離100mmに対して、電界強度120kV/mとなる直流正極電圧を導電体ノズル11に、直流負極電圧を成膜対象基板21側に印加する。
【0051】
この導電体ノズル11にスリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料を充填し、0.08mL/min量を供給し続けている状態で、導電体ノズル11に電圧を印加すると、1つのスリット状開口12に対して、スリット状開口12の両端に2個の静電噴霧現象が発現し、1つの導電体ノズル11から多数の静電噴霧を発生させることができた。
【0052】
なお、ここでは、1つのスリット状開口12に対して静電噴霧現象の発現は2個の例で説明しているが、条件によっては、スリット状開口12の中心部にも静電噴霧現象が発現し、3個の静電噴霧現象を発現させることもできる。
【0053】
このように、導電体ノズル11の寸法の範囲を最適な範囲内とすることにより、効率高く有機半導体材料薄膜を形成できるエレクトロスプレーデポジション装置を提供することができる。
【0054】
(実施の形態2)
実施の形態2は実施の形態1において、導電体ノズル11のスリット状開口12を中心とする両側に乾燥窒素気流を噴出するための別のスリット状開口流路である窒素噴出ノズル開口を有する乾燥窒素噴出ノズルを備えたものであり、その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0055】
図6および図7により、本発明の実施の形態2に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルの構造について説明する。図6および図7は本発明の実施の形態2に係るエレクトロスプレーデポジション装置の導電体ノズルの構造を説明するための説明図であり、図6は導電体ノズルのスリット状開口上面を示す図、図7は導電体ノズルの横断面を示す図である。
【0056】
図6および図7において、導電体ノズル11のスリット状開口12を中心とする両側に乾燥窒素気流を噴出するための別のスリット状開口流路である窒素噴出ノズル開口16を有する乾燥窒素噴出ノズル15が備えられており、乾燥窒素噴出ノズル15は導電体ノズル11とは絶縁物を隔壁として絶縁されている。
【0057】
乾燥窒素噴出ノズル15に対しては、乾燥窒素を供給するための供給装置から配管されて乾燥窒素気流を噴出する。ここでの乾燥窒素気流は、含有する水分量が露点温度として−77℃以下となる低水分量の窒素ガスを用いている。
【0058】
窒素噴出ノズル開口16のスリット幅と乾燥窒素気流の流速は、スリット幅5mmから10mm範囲内で、例えばスリット幅10mmとした場合に流速を0.1から1m/s範囲内に、スリット幅5mmとした場合に流速を0.1から2m/s範囲内と、スリット幅と流速上限により乾燥窒素気流が層流となる範囲内でスリット幅と流速上限を規定する。
【0059】
導電体ノズル11と成膜対象基板21と距離100mmに対して、電界強度120kV/mとなる直流正極電圧を導電体ノズル11に、直流負極電圧を成膜対象基板21側に印加する。
【0060】
この導電体ノズル11にスリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料を充填し、0.08mL/min量を供給し続けている状態で、導電体ノズル11に電圧を印加すると、1つのスリット状開口12に対して2個の静電噴霧現象が発現し、1つの導電体ノズル11から多数の静電噴霧を発生させることができる。
【0061】
このとき、静電噴霧した材料を電界による電荷引力だけでなく、乾燥窒素噴出ノズル15による乾燥窒素気流により成膜対象基板21方向に飛翔させて、使用材料を効率よく成膜することができる。
【0062】
(実施の形態3)
実施の形態3は、実施の形態1において、導電体ノズル11と成膜対象基板21への電圧の印加を交流としたものであり、その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0063】
図8により、本発明の実施の形態3に係るエレクトロスプレーデポジション装置の電圧の印加について説明する。図8は本発明の実施の形態3に係るエレクトロスプレーデポジション装置の電圧の印加を説明するための説明図であり、交流電圧を印加する例を示している。
【0064】
本実施の形態では、図1に示すエレクトロスプレーデポジション装置構成において、図8に示す電圧印加状態で、噴霧部10の導電体ノズル11と成膜対象基板21と距離100mmに対して極大の電界強度200kV/mとなるように、噴霧部10の導電体ノズル11と成膜対象基板21とに対して極性が反転する交流電圧を印加している。
【0065】
この導電体ノズル11に、スリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料を充填し、0.08mL/min量を供給し続けている状態で、導電体ノズル11に電圧を印加すると、1つのスリット状開口12に対して2個の静電噴霧現象を発現し、1つの導電体ノズル11から多数の静電噴霧を発生させることができた。
【0066】
また、印加する電圧を交流とすることにより、より安定した静電噴霧を行うことができ、効率高く有機半導体材料薄膜を形成できるエレクトロスプレーデポジション装置を提供することができる。
【0067】
(実施の形態4)
実施の形態4は、実施の形態1において、導電体ノズル11と成膜対象基板21への電圧の印加を矩形の交流としたものであり、その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0068】
図9により、本発明の実施の形態4に係るエレクトロスプレーデポジション装置の電圧の印加について説明する。図9は本発明の実施の形態4に係るエレクトロスプレーデポジション装置の電圧の印加を説明するための説明図であり、矩形の交流電圧を印加する例を示している。
【0069】
本実施の形態では、図1に示すエレクトロスプレーデポジション装置構成において、図9に示す電圧印加状態で、噴霧部10の導電体ノズル11と成膜対象基板21と距離100mmに対して極大の電界強度200kV/mとなるように、噴霧部10の導電体ノズル11と成膜対象基板21とに対して極性が反転する矩形の交流電圧を印加している。
【0070】
この導電体ノズル11に、スリット状開口12に対して下から開口先端まで溶液材料を充填し、0.08mL/min量を供給し続けている状態で、導電体ノズル11に電圧を印加すると、1つのスリット状開口12に対して2個の静電噴霧現象を発現し、1つの導電体ノズル11から多数の静電噴霧を発生させることができた。
【0071】
また、印加する電圧を矩形の交流とすることにより、実施の形態3の交流よりもエネルギーが大きくなり、より安定した静電噴霧を行うことができ、効率高く有機半導体材料薄膜を形成できるエレクトロスプレーデポジション装置を提供することができる。
【0072】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、有機半導体材料薄膜を形成するエレクトロスプレーデポジション装置に関し、有機エレクトロルミネッセンス発光素子からなる表示装置や照明装置、また有機薄膜太陽電池など、光電変換の機能材料として有機半導体材料を用いる有機電子デバイスの製造装置などに広く適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10…噴霧部、11…導電体ノズル、12…スリット状開口、13…縁物隔壁、14…導電体ノズル上部平滑面、15…乾燥窒素噴出ノズル、16…窒素噴出ノズル開口、20…基板搭載部、21…成膜対象基板、22…基板保持機構部、30…制御部、31…基板保持機構制御部、32…基板印加電圧電源、33…ノズル印加電圧電源、34…溶液材料供給装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液材料に電圧を印加させることで生じる電荷を有する噴霧液を成膜対象基板に向けて静電噴霧する噴霧部と、
前記成膜対象基板を搭載する搭載部と、
前記噴霧部および前記成膜対象基板に対して、独立に電圧を印加する電圧印加制御手段と、
前記電圧印加制御手段を制御し、前記噴霧部と前記成膜対象基板との間に電界を印加させて、前記成膜対象基板に静電噴霧により前記溶液材料の膜を形成する制御部とを備え、
前記搭載部は、前記噴霧部に対して上方向に設置され、前記成膜対象基板の成膜面を下面として固定し、
前記噴霧部は、噴霧を行う先端部にスリット状開口を有する導電体ノズルを備え、
前記制御部は、前記電圧印加制御手段を制御して、前記溶液材料を帯電させ、前記噴霧部から前記成膜対象基板に対して下方より静電噴霧を行うことを特徴とするエレクトロスプレーデポジション装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレクトロスプレーデポジション装置において、
前記導電体ノズルは前記成膜対象基板の一辺に相当する長尺幅を有し、
前記導電体ノズルは前記長尺幅に対して絶縁物で複数に分割された前記スリット状開口を有し、
前記複数に分割されたスリット状開口は、スリット幅が0.2mm以上、かつ1.5mm以下の範囲であり、前記スリット状開口の開口長尺幅が前記スリット幅に対して25倍以上、かつ50倍以下の範囲となることを特徴とするエレクトロスプレーデポジション装置。
【請求項3】
請求項1に記載のエレクトロスプレーデポジション装置において、
前記導電体ノズルは平滑面を有し、その平滑面の中央部に前記スリット状開口を有することを特徴とするエレクトロスプレーデポジション装置。
【請求項4】
請求項3に記載のエレクトロスプレーデポジション装置において、
前記導電体ノズルの前記平滑面は、前記スリット状開口のスリット幅の寸法に対して6倍以上、かつ30倍以下であることを特徴とするエレクトロスプレーデポジション装置。
【請求項5】
請求項1に記載のエレクトロスプレーデポジション装置において、
前記噴霧部は、前記導電体ノズルの前記スリット状開口を中心とする両側に乾燥窒素気流を噴出するための別のスリット状開口流路を備え、
前記乾燥窒素気流を噴出するためのスリット状開口流路は、前記導電体ノズルとは絶縁物を隔壁として絶縁されていることを特徴とするエレクトロスプレーデポジション装置。
【請求項6】
請求項1に記載のエレクトロスプレーデポジション装置において、
前記制御部は、前記電圧印加制御手段を制御し、前記噴霧部の前記導電体ノズルと前記成膜対象基板とに対して極性が反転した直流電圧を印加することを特徴とするエレクトロスプレーデポジション装置。
【請求項7】
請求項1に記載のエレクトロスプレーデポジション装置において、
前記制御部は、前記電圧印加制御手段を制御し、前記噴霧部の前記導電体ノズルと前記成膜対象基板とに対して周期的に極性が反転する交流電圧を印加することを特徴とするエレクトロスプレーデポジション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−135704(P2012−135704A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287996(P2010−287996)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】