説明

エレベータのシーブの磨耗診断装置

【課題】シーブのガイド溝の磨耗の診断の精度を向上させることができるエレベータのシーブの磨耗診断装置を提供すること。
【解決手段】シーブのガイド溝内の主ロープに対しガイド溝の底部側から接して位置し、主ロープから受ける圧力を検出する感圧センサ11と、この感圧センサ11の出力に基づきシーブ5の磨耗を診断する診断手段20を備え、この診断手段20は、感圧センサ11により検出された圧力に基づき、シーブの回転中に感圧センサ11によって基準圧力以上の圧力が検出された回数を計数する検出回数演算手段26と、計数された検出回数がシーブのガイド溝の磨耗量が正常範囲である場合の検出回数の上限を超えることを、ガイド溝に異常な磨耗が生じていることと判定する磨耗判定手段27とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主ロープが巻き掛けられるシーブのガイド溝の磨耗を診断するエレベータのシーブの磨耗診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータにおいては、周知のように、電動モータにより駆動されるシーブに主ロープが巻き掛けられている。シーブの外周面にはガイド溝がその外周面の全周に亘って設けられている。主ロープは、そのガイド溝に嵌め込まれてシーブに巻き掛けられている。この主ロープの一端には乗りかごが結合されており、同他端には釣合おもりが結合されている。シーブが電動モータにより駆動されると、シーブのガイド溝と主ロープとの間に生じる摩擦によって主ロープが移動し、これによって乗りかごは昇降する。
【0003】
シーブのガイド溝は主ロープと摩擦することによって磨耗する。この磨耗によりシーブのガイド溝と主ロープとの間に生じる摩擦力が小さくなると、シーブのガイド溝と主ロープとの間に滑りが生じる。この滑りは、乗りかごの昇降速度の制御、乗りかごの停止時の位置決めの際に支障を招く。そこで、従来、シーブのガイド溝の磨耗の定期的な診断が行われている。
【0004】
その診断を行うため、エレベータ制御装置には、所定距離を走行させる間に電動モータの制御に用いられた実際のパルス数が、予め設定されたパルス数の基準値を超えた場合に、シーブのガイド溝の磨耗量が正常範囲を超えた異常であると診断するものがある(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−2211284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シーブのガイド溝と主ロープとの間に生じる滑りの原因は、シーブのガイド溝の磨耗のみではない。このため、前述のエレベータ制御装置のように、電動モータの制御に用いられたパルス数のみに基づいたシーブのガイド溝の磨耗の診断には、誤りが生じることが懸念される。
【0007】
本発明は前述の事情を考慮してなされたものであり、その目的は、シーブの磨耗診断の精度を向上させることができるエレベータのシーブの磨耗診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために本発明に係るエレベータのシーブの磨耗診断装置は次のように構成されている。
【0009】
〔1〕 本発明に係るエレベータのシーブの磨耗診断装置は、乗りかごと釣合おもりを吊り下げる主ロープが巻き掛けられるシーブのガイド溝の磨耗を診断するエレベータのシーブの磨耗診断装置において、前記ガイド溝内の前記主ロープに対し前記ガイド溝の底部側から接して位置し、前記主ロープから受ける圧力を検出する接触圧検出手段と、前記シーブの回転中に前記接触圧検出手段によって所定値以上の圧力が検出される時間間隔が、前記ガイド溝の磨耗量が正常範囲内である場合の時間間隔よりも短いことを、前記ガイド溝に異常な磨耗が生じていることと診断する診断手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
シーブのガイド溝が主ロープとの摩擦で磨耗すると、主ロープはガイド溝に対し、磨耗前よりも深い位置まで嵌まり込むことになる。これに伴い、「〔1〕」に記載のエレベータのシーブの磨耗診断装置においては、接触圧検出手段に対する主ロープの接触面積が大きくなり、この結果、シーブの回転中に接触検知手段により所定値以上の圧力が検出される時間間隔は、磨耗後の方が磨耗前よりも短くなる。そして、診断手段は、その時間間隔が正常範囲内の値よりも短い場合、シーブのガイド溝に異常な磨耗が生じていると診断する。また、接触圧検出手段により検出される圧力の方向はシーブの径方向であるのに対し、シーブに対する主ロープの滑りの方向はシーブの周方向であるので、シーブの回転中に接触圧検出手段により所定値以上の圧力が検出される時間間隔は、シーブに対する主ロープの滑りの影響が小さい。これにより、シーブの磨耗診断の精度を向上させることができる。
【0011】
〔2〕 本発明に係るエレベータのシーブの磨耗診断装置は、「〔1〕」に記載のエレベータのシーブの磨耗診断装置において、前記診断手段は、前記接触圧検出手段により検出された圧力に基づき、前記シーブの回転中に前記接触圧検出手段により前記所定値以上の圧力が検出された回数を計数する検出回数演算手段と、この検出回数演算手段により計数された検出回数が、前記シーブの前記ガイド溝の磨耗量が正常範囲である場合の検出回数の上限を超えたことを、ガイド溝に異常な磨耗が生じていると判定する磨耗判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
シーブの回転中に接触圧検出手段により所定値以上の圧力が検出される時間間隔は、シーブのガイド溝の磨耗後の方が、磨耗前よりも短くなる。その時間間隔が短いほど、接触圧検出手段により所定値以上の圧力が検出される回数は多くなる。つまり、「〔2〕」に記載の磨耗診断装置において、検出回数演算手段と磨耗判定手段は、シーブのガイド溝の磨耗量が正常範囲である場合に所定値以上の圧力が断続する時間間隔が、上限回数が得られるときの時間間隔よりも短いことを、ガイド溝に異常な磨耗が生じていることと判定する手段を構成している。
【0013】
〔3〕 本発明に係るエレベータのシーブの磨耗診断装置は、「〔1〕」または「〔2〕」に記載のエレベータのシーブの磨耗診断装置において、前記診断手段は、前記乗りかごが無負荷状態であり、かつ、前記乗りかごが前記釣合おもりと釣合う診断開始位置に停止していることを診断の開始条件とし、この診断の開始条件が満たされている場合に、前記シーブと前記主ロープとの間に滑りが生じない回転速度として予め設定された低回転速度に前記電動モータを制御する診断運転手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
この「〔3〕」に記載のエレベータのシーブの磨耗診断装置において、診断手段は、乗りかごが無負荷状態であり、かつ、乗りかごが釣合おもりと釣合う診断開始位置に停止している場合に、診断運転手段により電動モータを制御して乗りかごを低速で走行させ、この状態で診断を開始する。つまり、診断の際、主ロープに対するシーブのトラクションコントロールを行う。これによって、シーブに対する主ロープの滑りがシーブの磨耗診断に与える影響をさらに小さくすることができ、したがってシーブの磨耗診断の精度をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るエレベータのシーブの磨耗診断装置によれば、前述のように、シーブの磨耗診断の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るエレベータの構成の概略図である。
【図2】本実施形態に係る磨耗診断装置に備えられた感圧センサが、シーブのガイド溝に設けられた状態の断面図である。
【図3】感圧センサの出力特性を示す図である。
【図4】主ロープが接触したときの感圧センサの出力値を示す図である。
【図5】シーブの回転中に得られる感圧センサの出力値の一例を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る磨耗診断装置のブロック線図である。
【図7】図6に示した磨耗診断装置が磨耗診断を行う際の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態に係るエレベータのシーブの磨耗診断装置について図1〜図7を用いて説明する。
【0018】
図1に示すエレベータは機械室レスエレベータであり、昇降路1内に、乗りかご2、釣合おもり3を備えている。これら乗りかご2と釣合おもり3は、主ロープ4により連結されている。主ロープ4はシーブ5に巻き掛けられている。このシーブ5は電動モータ6により駆動されるようになっている。シーブ5が電動モータ6により駆動されると、シーブ5のガイド溝5aと主ロープ4との間に生じる摩擦によって主ロープ4が移動し、これによって乗りかご2は昇降する。電動モータ6は、エレベータ制御盤7からのパルス信号によって回転速度、回転方向を制御されるようになっている。そのエレベータ制御盤7は、図示しないが、乗りかご2および昇降路1に設けられた各種センサの出力信号に基づき、乗りかご2内の荷や人の重量を検出するよう設定されており、また、建物の各階床に対して予め設定された着床レベル、すなわち乗りかご2のドアの開閉を許可する高さ位置で乗りかご2が停止するよう電動モータ6を制御するよう設定されている。
【0019】
図2に示すように、シーブ5の外周面にはガイド溝5aがその外周面の全周に亘って設けられている。主ロープ4は、そのガイド溝5aに嵌め込まれてシーブ5に巻き掛けられている。シーブ5のガイド溝5aが主ロープ4との摩擦で磨耗すると、図2に2点差線で示すように、主ロープ4はガイド溝5aに対し、磨耗前(実線で示す)よりも深い位置まで嵌まり込むことになる。
【0020】
本実施形態に係る磨耗診断装置10は、シーブ5のガイド溝5a内に設けられた感圧センサ11を備えている。この感圧センサ11は、ガイド溝5a内の主ロープ4に対しガイド溝5aの底部側から接して位置し、主ロープ4から受ける圧力を検出する接触圧検出手段である。感圧センサ11は検出した圧力に相応する電気信号を出力するものであり、その電気信号の出力値は、図3に示すように主ロープ4との接触面積に比例するようになっている。つまり、図2に示したようにシーブ5のガイド溝5aの磨耗によって主ロープ4のガイド溝5aに嵌まり込む位置が深くなるほど、感圧センサ11に対する主ロープ4の接触面積が大きくなり、これに伴って感圧センサ11の出力値が大きくなる。
【0021】
また、シーブ5の回転中に主ロープ4が感圧センサ11に接触した場合、感圧センサ11の出力値には、磨耗前と磨耗後とで差が生じる。例えば図4に示すように、シーブ5の回転速度が磨耗前も磨耗後も同じである場合、磨耗前においては線Aで示すように接触時点から時間T1で最大出力値P1maxに達するのに対し、磨耗後においては線Bで示すように接触時点から時間T2(>T1)で最大出力値P2max(>P1max)に達するようになる。
【0022】
さらに、シーブ5の回転中に出力値がP1max以上となる圧力が感圧センサ11によって検出される時間間隔は、シーブ5のガイド溝5aの磨耗後の方が磨耗前よりも短くなる。例えば図6に示すように、シーブ5の回転速度が磨耗前も磨耗後も同じである場合、磨耗前においては線Aで示すように最大出力値P1maxが検出される時間間隔はΔT1となるのに対し、磨耗後においては線Bで示すように最大出力値P2max(>P1max)が検出される時間間隔はΔT2(<ΔT1)となる。磨耗後の時間間隔ΔT2が磨耗前の時間間隔ΔT1よりも短い理由は、シーブ5のガイド溝5aの磨耗によって、主ロープ4のガイド溝5aに嵌まり込む位置が深くなるほど、ガイド溝5aに嵌まり込んで位置する主ロープ4の部分の長さ寸法が短くなるからである。
【0023】
磨耗診断装置10はさらに、エレベータ制御盤7に設けられた診断手段20を備えている。この診断手段20は、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムおよびデータを記憶したROM(Read Only Memory)、CPUの作業領域として利用されるRAM(Random Access Memory)、補助記憶装置等を備えており、ROMまたは補助記憶装置に記憶された制御プログラムおよびデータを読み出して、シーブ5のガイド溝5aの診断に係る情報処理を行うものである。
【0024】
図6に示すように、診断手段20は、制御プログラムにより設定された手段として、無負荷判定手段21、着床レベル判定手段22、ドア状態判定手段23、準備運転手段24を備えている。
【0025】
無負荷判定手段21は、エレベータ制御盤7から取得した乗りかご2内の負荷の検出値に基づき、乗りかご2内が無負荷かどうかを判定するものである。着床レベル判定手段22は、乗りかご2の停止している位置の情報をエレベータ制御盤7から取得し、乗りかご2の停止している位置がドアの開閉を許可する位置として予め設定された着床レベルかどうかを判定するものである。ドア状態判定手段23は、エレベータ制御盤7から取得した乗りかご2のドアの状態の情報に基づき、乗りかご2のドアが閉じているかどうかを判定するものである。
【0026】
準備運転手段24は、シーブ5のガイド溝5aの磨耗の診断を開始する位置として予め設定された診断開始位置まで乗りかご2を走行させる準備運転をエレベータ制御盤7に指令するものである。診断開始位置は、乗りかご2が釣合おもり3と釣合う位置に設定されており、補助記憶装置を利用して設けられた記憶手段28に予め記憶されている。準備運転時の電動モータ6の回転速度は、乗客を載せた乗りかご2を運転するときの通常の回転速度より遅く、シーブ5と主ロープ4との間に滑りが生じない回転速度として設定された低回転速度であり、記憶手段28に予め記憶されている。
【0027】
なお、乗りかご2が無負荷状態であり、かつ、乗りかご2が釣合おもり3と釣合う診断開始位置に停止していることは、診断の開始条件である。
【0028】
診断手段20は、制御プログラムにより設定された手段としてさらに、診断運転手段25、検出回数演算手段26、磨耗判定手段27を備えている。
【0029】
診断運転手段25は、前出の診断開始位置から、予め設定された停止位置まで所定速度で乗りかご2を走行させる診断運転をエレベータ制御盤7に指令するものである。停止位置は、診断に必要な回数以上の複数回シーブ5を回転させるための位置である。診断運転時の所定速度に対応する電動モータ6の回転速度は、乗客を載せた乗りかご2を運転するときの通常の回転速度より遅く、シーブ5と主ロープ4との間に滑りが生じない回転速度として設定された低回転速度であり、記憶手段28に予め記憶されている。つまり、診断運転手段25は、前出の診断の開始条件が満たされている場合に、シーブ5と主ロープ4との間に滑りが生じない回転速度として予め設定された低回転速度に電動モータ6を制御するものである。
【0030】
検出回数演算手段26は、診断運転中に感圧センサ11の出力値に基づき、シーブ5の回転中に感圧センサ11によって所定値以上の圧力が検出された回数を計数するものである。その所定値は磨耗前の状態での出力値、すなわちP1maxである。この出力値P1maxは基準圧力値として前出の記憶手段28に予め記憶されている。磨耗判定手段27は、検出回数演算手段26により計数された検出回数が、シーブ5のガイド溝5aの磨耗量が正常範囲である場合の検出回数の上限として予め設定された上限回数を超えることを、ガイド溝5aに異常な磨耗が生じていることと判定するものである。上限回数は、シーブ5の磨耗前において診断運転により得られる出力値P1maxの検出回数の90%に設定されている。
【0031】
シーブ5の回転中に出力値がP1max以上となる圧力が感圧センサ11により検出される時間間隔は、シーブ5のガイド溝5aの磨耗後の方が磨耗前よりも短くなる、ということは既に述べた。その時間間隔が短いほど、診断運転中において出力値P1maxとなる圧力の検出回数は多くなる。つまり、検出回数演算手段26と磨耗判定手段27は、シーブ5のガイド溝5aの磨耗量が正常範囲である場合にP1max以上の出力値が検出される時間間隔が、上限回数が得られるときの時間間隔よりも短いことを、ガイド溝5aに異常な磨耗が生じていることと判定する手段を構成している。
【0032】
磨耗診断装置10はさらに、診断結果保存手段12、警報出力手段13を備えている。診断結果保存手段12は、検出回数演算手段26により計数された検出回数と、磨耗判定手段27による判定の結果とを対応付けて時系列に保存する、すなわち、シーブ5の診断履歴を保存するものである。警報出力手段13は通信回線(電話回線、インターネット回線)を用いて外部と通信可能な通信装置を備えたものであり、磨耗判定手段27によってシーブ5のガイド溝5aに異常な磨耗が生じていると判定された場合に、その判定結果としての警報と、その判定を導出した検出回数の計数結果とを管制センタ30に送信するものである。
【0033】
このように構成された本実施形態に係る磨耗診断装置10の動作を、図7を用いて次に説明する。
【0034】
図7に示すように、診断手段20において無負荷判定手段21、着床レベル判定手段22、ドア状態判定手段23はそれぞれ、エレベータ制御盤7からの取得した情報に基づき、乗りかご2内は無負荷かどうかの判定、乗りかご2の位置が着床レベルかどうかの判定、乗りかご2のドアは閉じているかの判定のそれぞれを行う(ステップS1)。
【0035】
それら3つの判定がすべて真である場合(ステップS1でYES)、診断手段20において準備運転手段24は、乗りかご2を診断開始位置に向かって走行させるようエレベータ制御盤7に指令を与え(ステップS2)、その後、エレベータ制御盤7から取得した乗りかご2の位置の情報に基づき、乗りかご2が診断開始位置に到着したかどうかの判定を繰り返し行う(ステップS3)。そして、準備運転手段24は、乗りかご2が診断開始位置に到着したと判定すると(ステップS3でYES)、乗りかご2を停止させる(ステップS4)。これで、シーブ5の磨耗診断の準備が完了する。
【0036】
次に、診断手段20において診断運転手段25は、乗りかご2を診断開始位置から停止位置に向かって走行させるようエレベータ制御盤7に指令を与え、これと並行して、検出回数演算手段26は、出力値がP1max以上となる感圧センサ11の圧力の検出回数の計数を開始する。その後、診断運転手段25は、エレベータ制御盤7から取得した乗りかご2の位置の情報に基づき、乗りかご2が停止位置に到着したかどうかの判定を繰り返し行う(ステップS6)。そして、診断運転手段25は、乗りかご2が停止位置に到着したと判定すると(ステップS6でYES)、乗りかご2を停止させ、これと並行して検出回数演算手段26は計数を終了する(ステップS7)。
【0037】
次に、診断手段20において磨耗判定手段27は、検出回数演算手段26により計数された検出回数が上限回数を超えたかどうかの判定を行う(ステップS8)。その判定の結果が真である場合、すなわち、シーブ5のガイド溝5aに異常な磨耗が生じているとの結果である場合(ステップS8でYES)、警報出力手段13はその判定結果としての警報と、その判定結果を導出した検出回数の計数結果とを管制センタ30に送信する(ステップS9)。次に、診断結果保存手段12は、その判定結果と、診断運転中の検出回数とを対応付けて保存する(ステップS10)。これで、シーブ5のガイド溝5aを診断する際の磨耗診断装置10の動作は終了である。
【0038】
なお、ステップS8において磨耗判定手段27による判定の結果が、検出回数演算手段26により計数された検出回数が上限回数以下であるという結果である場合、すなわち、シーブ5のガイド溝5aの磨耗が正常範囲内であるとの結果である場合(ステップS8でNO)、警報出力手段13による管制センタ30への警報の送信は行われずに、診断結果保存手段12が、その判定結果と、診断運転中の検出回数とを対応付けて保存すし(ステップS10)、磨耗診断装置10の動作は終了する。
【0039】
本実施形態に係る磨耗診断装置10によれば次の効果を得られる。
【0040】
本実施形態に係る磨耗診断装置10において、感圧センサ11により検出される圧力の方向はシーブ5の径方向であるのに対し、シーブ5に対する主ロープ4の滑りの方向はシーブ5の周方向であるので、シーブ5の回転中に出力値がP1max以上となる圧力が感圧センサ11により検出される回数は、シーブ5に対する主ロープ4の滑りの影響が小さい。これにより、シーブ5の磨耗診断の精度を向上させることができる。
【0041】
本実施形態に係る磨耗診断装置10において、診断手段20は、乗りかご2が無負荷状態であり、かつ、乗りかご2が釣合おもりと釣合う診断開始位置に停止している場合に、診断運転手段25により電動モータ6を低回転速度に制御して乗りかご2を低速度で走行させ、この状態で診断を開始する。つまり、診断の際、主ロープ4に対するシーブ5のトラクションコントロールを行う。これによって、シーブ5に対する主ロープ4の滑りがシーブ5の磨耗診断に与える影響(ノイズ)をさらに小さくすることができ、したがってシーブ5の磨耗診断の精度をさらに向上させることができる。
【0042】
本実施形態に係る磨耗診断装置10において、検出回数演算手段26は感圧センサ11の出力値がP1maxになる回数を計数する。その回数を用いれば出力値P1max以上の時間間隔を算出でき、この時間間隔と電動モータ6の回転数とから、ガイド溝5a内で主ロープ4が接触する部分の円周寸法を算出することができる。これにより、シーブ5のガイド溝5aの磨耗量を寸法の形で把握することができる。
【0043】
なお、前述の実施形態の診断手段20は、検出回数演算手段26と磨耗判定手段27によって、感圧センサ11の出力値がP1max以上となった検出回数が、シーブ5のガイド溝5aの磨耗量が正常範囲である場合の検出回数の上限を超えたことを、ガイド溝5aに異常な磨耗が生じていることと判定するものであるが、本発明の診断手段はそれに限定されるものではない。診断手段は、検出回数演算手段26の替わりに、感圧センサ11の出力値に基づき、P1max以上の出力値が検出される時間間隔を演算する手段を備え、かつ、磨耗判定手段27の替わりに、上限回数が得られるときの時間間隔よりも短いことを、ガイド溝5aに異常な磨耗が生じていることと判定する手段を備えたものであってもよい。
【0044】
前述の実施形態において、検出回数演算手段26はエレベータ制御盤7に設けられていたが、本発明はこれに限定されるものではない。電動モータ6の制御では電動モータ6の回転速度を把握する必要があり、その回転速度を把握するために、電動モータ6の出力軸に設けられたロータリエンコーダ等のセンサからの出力を計数することが行われる。その計数のための装置はエレベータ制御盤7とは離れて電動モータ6付近に設けられるものである。その装置に検出回数演算手段26が設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 昇降路
2 乗りかご
3 釣合おもり
4 主ロープ
5 シーブ
5a ガイド溝
6 電動モータ
7 エレベータ制御盤
10 磨耗診断装置
11 感圧センサ(接触圧検出手段)
12 診断結果保存手段
13 警報出力手段
20 診断手段
21 無負荷判定手段
22 着床レベル判定手段
23 ドア状態判定手段
24 準備運転手段
25 診断運転手段
26 検出回数演算手段
27 磨耗判定手段
28 記憶手段
30 管制センタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごと釣合おもりを吊り下げる主ロープが巻き掛けられるシーブのガイド溝の磨耗を診断するエレベータのシーブの磨耗診断装置において、
前記ガイド溝内の前記主ロープに対し前記ガイド溝の底部側から接して位置し、前記主ロープから受ける圧力を検出する接触圧検出手段と、前記シーブの回転中に前記接触圧検出手段によって所定値以上の圧力が検出される時間間隔が、前記ガイド溝の磨耗量が正常範囲内である場合の時間間隔よりも短いことを、前記ガイド溝に異常な磨耗が生じていることと診断する診断手段と、を備えたことを特徴とするエレベータのシーブの磨耗診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータのシーブの磨耗診断装置において、
前記診断手段は、
前記接触圧検出手段により検出された圧力に基づき、前記シーブの回転中に前記接触圧検出手段により前記所定値以上の圧力が検出された回数を計数する検出回数演算手段と、
この検出回数演算手段により計数された検出回数が、前記シーブの前記ガイド溝の磨耗量が正常範囲である場合の検出回数の上限を超えたことを、ガイド溝に異常な磨耗が生じていると判定する磨耗判定手段と
を備えたことを特徴とするエレベータのシーブの磨耗診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエレベータのシーブの磨耗診断装置において、
前記診断手段は、
前記乗りかごが無負荷状態であり、かつ、前記乗りかごが前記釣合おもりと釣合う診断開始位置に停止していることを診断の開始条件とし、この診断の開始条件が満たされている場合に、前記シーブと前記主ロープとの間に滑りが生じない回転速度として予め設定された低回転速度に前記電動モータを制御する診断運転手段
を備えたことを特徴とするエレベータのシーブの磨耗診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−213479(P2011−213479A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86079(P2010−86079)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】