説明

エレベータのドア制御装置

【課題】速度指令値に対する実速度の追従性が良好であり、低速で戸開する時間を短縮することが可能であって、戸開時間を短縮することができるエレベータのドア制御装置を提供する。
【解決手段】エレベータのドア制御装置において、かご出入口を開閉するドアパネルと、ドアパネルを開閉駆動するモータと、モータの回転を検出する手段と、モータの回転検出結果に基づいてモータを制御する制御手段と、速度指令値を生成する手段と、速度指令値と実速度との偏差に基づいて第1のトルク指令値を出力する手段と、ドア位置に基づいてドアパネルに作用する既知外力を補償する第2のトルク指令値を出力する手段と、実速度に基づいてドアパネルに作用する既知外力を除いた外乱を推定し第3のトルク指令値として出力する手段と、を備え、第1、第2及び第3のトルク指令値の総和を、モータへのトルク指令値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータのドア制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エレベータのドア装置は、かご側にドアを開閉駆動するためのドアモータが取り付けられることが多い。このような従来のエレベータのドア装置においては、エレベータが着床し、ドアが全閉状態から戸開する際には、まず、ドアモータが取り付けられたかご側のドアから戸開し始める。そして、かご側ドアと乗場側ドアとが機械的に係合することにより、かご側ドアと乗場側ドアとが一体となって戸開する。
【0003】
この際、かご側ドアと乗場側ドアとが係合する時の衝撃を低減するため、戸開開始時から一定距離だけドアが移動するまでの間は、ドアが低速で戸開するように制御される。そして、戸開を開始してからドアが一定距離移動した後に、戸開速度が最高速度にまで滑らかに加速される。ここで、かご側ドアと乗場側ドアとが係合する位置は、階床毎に異なることが一般的である。そこで、低速で戸開させる一定距離(係合低速区間という)は全ての階床において確実にかご側ドアと乗場側ドアとの係合が完了するような距離に調整される。
【0004】
このような従来のドア装置には、ドアモータによる戸開閉の駆動力が作用していない状態において、自動的に戸閉するように重力や弾性力等を利用した機械的な戸閉力が作用している。この機械的な戸閉力の影響を受けて、ドア制御装置からドアモータへと出力されるドアの戸開速度の指令値(速度指令値)に対する、実際のドアの戸開速度(実速度)の追従性が悪くなってしまう。そして、このため、速度指令値に対して実速度が下回ってしまう状態が長引いてしまうことで、低速で戸開する時間が長くなってしまい、戸開にかかる時間が長くなってしまうという問題があった(図7)。
【0005】
従来におけるエレベータのドア制御装置においては、戸開閉中のドアの位置に応じて定まる機械的な戸閉力について予め求めてこの機械的な戸閉力等に基づいて算出した戸開閉に必要なトルクパターンを予め記憶しておき、制御装置から出力されるトルク指令値がこのトルクパターンを上回った場合に戸開閉動作の異常(外乱)を検出するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ドア質量同定用の開閉パターンでドアを開閉させた際の加速度に基づいて各階床のドアの総質量(かご側ドアの質量と乗場側ドアの質量の和)を算出して、この算出されたドアの総質量を各階床毎に予め記憶しておき、この記憶した各階床のドアの総質量に基づいて戸開閉に係る制御変数を調整して戸開閉制御するように構成されたものも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−212963号公報
【特許文献2】特開2009−220997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示された従来におけるエレベータのドア制御装置においては、速度(又はトルク)指令値に対する実際の速度(又はトルク)の追従性が十分に良好であることを前提にしている。つまり、このドア制御装置は、トルク指令値とトルクパターンとの差から外乱を推定するものであるが、この外乱の推定において大きな影響がない程度にトルク指令値と実際のトルク値との差異が小さい(追従性が高い)ことを前提にするものである。すなわち、この特許文献1に記載されたドア制御装置においては、他の一般的なドア制御装置と指令値に対する実際の値の追従性能に差異はない。従って、機械的な戸閉力の影響による指令値に対する実際の値の追従性能悪化に起因して、戸開開始時に低速で戸開する時間が長くなってしまい戸開にかかる時間が長くなってしまうという課題がある。
【0009】
また、特許文献2に示された従来におけるエレベータのドア制御装置は、かご側ドアと乗場側ドアの総質量に基づいて戸開閉速度の制御に用いる制御変数を設定し戸開閉を制御するものである。このため、各階床毎のドア質量の差による外乱に起因する指令値に対する追従性能を向上させることができる。しかしながら、例えばドア質量が小さい場合等、機械的な戸閉力の影響が相対的に大きい場合においては、この機械的戸閉力の影響により、指令値に対する追従性が悪化してしまうという課題がある。また、ドアが全閉した状態から戸開を開始した直後においては、まだかご側ドアと乗場側ドアとは係合しておらず、駆動されるドア(かご側ドア)の質量はドアの総質量とは異なるものとなる。従って、ドアの総質量(かご側ドア及び乗場側ドアの質量の和)に基づいた制御では、指令値に対する高追従性を必ずしも維持することができないという課題がある。そして、これらの追従性能悪化に起因して、戸開開始時に低速で戸開する時間が長くなってしまい戸開にかかる時間が長くなってしまうという課題がある。
【0010】
この発明は、このような課題を解決するためになされたもので、各階床毎において速度指令値に対する実速度の追従性が良好であり、全閉からの戸開時に低速で戸開する時間を短縮することが可能であって、戸開にかかる時間を短縮することができるエレベータのドア制御装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るエレベータのドア制御装置においては、エレベータのかごの出入口を開閉するドアパネルと、前記ドアパネルの開閉動作を駆動するモータと、前記モータの回転を検出する回転検出手段と、前記回転検出手段の検出結果に基づいて前記モータの回転駆動を制御する制御手段と、前記制御手段に設けられ、前記ドアパネルの開閉動作の目標となる速度指令値を生成する速度指令値生成手段と、前記制御手段に設けられ、前記速度指令値生成手段が生成した前記速度指令値と前記回転検出手段の検出結果から算出される前記ドアパネルの実速度との偏差に基づいて前記モータに対する第1のトルク指令値を出力する速度制御手段と、前記制御手段に設けられ、前記回転検出手段の検出結果から算出される前記ドアパネルの位置に基づいて、前記ドアパネルに作用する既知の外力を補償する第2のトルク指令値を出力するトルク補償手段と、前記制御手段に設けられ、前記回転検出手段の検出結果から算出される前記ドアパネルの実速度に基づいて、前記ドアパネルに作用する前記既知の外力を除いた外乱を推定し第3のトルク指令値として出力する外乱推定手段と、を備え、前記制御手段は、前記第1のトルク指令値、前記第2のトルク指令値及び前記第3のトルク指令値の総和を、前記モータへのトルク指令値とする構成とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係るエレベータのドア制御装置においては、各階床毎において速度指令値に対する実速度の追従性が良好であり、全閉からの戸開時に低速で戸開する時間を短縮することが可能であって、戸開にかかる時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係るエレベータのかご側ドアの駆動部の構成を示す正面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るエレベータのドア制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施の形態1及び実施の形態2に係るエレベータのドア制御装置の判定部における閾値を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るエレベータのドア制御装置の戸開時における速度指令値及び実速度の時間変化を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態2に係るエレベータのドア制御装置の全体構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係るエレベータのドア制御装置の戸開時における速度指令値及び実速度の時間変化を示す図である。
【図7】従来のエレベータのドア制御装置の戸開時における速度指令値及び実速度の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明を添付の図面に従い説明する。各図を通じて同符号は同一部分又は相当部分を示しており、その重複説明は適宜に簡略化又は省略する。
【0015】
実施の形態1.
図1から図4は、この発明の実施の形態1に係るものである。図1はエレベータのかご側ドアの駆動部の構成を示す。この図1において、1は、エレベータのかごの正面に設けられた開口部であるかご出入口(図示せず)を開閉する一対のドアパネルである。これらのドアパネル1は左右一対のかご側ドアを構成しており、かご出入口に略水平方向開閉自在に設けられている。そして、これらのドアパネル1の上端部には吊り手2がそれぞれ取り付けられている。また、これらの吊り手2の上部にはドアローラ3がそれぞれ回転可能に取り付けられている。
【0016】
かご出入口の上方には桁4が略水平に設置されている。この桁4には、ドアパネル1の開閉方向に沿ってすなわち略水平にドアレール5が取り付けられている。そして、このドアレール5上には一対のドアパネル1の吊り手2に取り付けられたドアローラ3がそれぞれ転動可能に係合している。こうして左右一対のかご側ドアであるドアパネル1は、吊り手2及びドアローラ3を介してドアレール5により開閉自在に吊持されている。そして、ドアローラ3がドアレール5上を案内されて転動することにより、ドアパネル1がかご出入口を開閉する。
【0017】
桁4には、かご側ドアであるドアパネル1の開閉動作を駆動するモータ6が設けられている。このモータ6の回転駆動は、桁4の左右方向における一側に回動自在に設けられた駆動車7aへと伝達される。また、桁4の左右方向における他側には巻掛車7bが回動自在に取り付けられている。そして、これら駆動車7a及び巻掛車7bには無端状の伝動条体8が巻き掛けられている。このようにして、モータ6の回転駆動が伝動条体8の循環移動へと変換・伝達される巻掛伝動機構が構成されている。
【0018】
一対のドアパネル1の吊り手2の各々の上端には、連結具9がそれぞれ取り付けられている。これらの連結具9のうち、一方の連結具9が伝動条体8の上下の一側に、他方の連結具9が伝動条体8の上下の他側に、それぞれ係止されている。そして、モータ6の正逆両方向の回転駆動が、伝動条体8の両方向への循環移動へと変換され、一対のドアパネル1のそれぞれが互いに反対方向に移動してかご出入口が開閉される。ドア制御装置本体10は、このモータ6の正逆両方向の回転駆動を制御することにより、ドアパネル1の開閉動作を制御している。
【0019】
図示は省略しているが、エレベータが停止する各階床の乗場に設けられた乗場出入口には、かご側ドアと同じく左右両開きの乗場側ドアがそれぞれ設けられている。
かご側ドアのドアパネル1の少なくとも一方には、図示しないかご側係合手段が取り付けられている。また、かごが階床に停止した際に、このかご側係合手段が設けられたドアパネル1と対向する乗場側ドアのパネルには、乗場側係合手段が取り付けられている。かご側のドアパネル1がモータ6により駆動されて戸開を開始すると、これらのかご側係合手段及び乗場側係合手段が機械的に係合する。そして、これらの係合手段が係合した後は、かご側ドアと乗場側ドアとがこれらの係合手段を介して機械的に係合され、かご側ドア及び乗場側ドアは一体となって開閉動作する。
【0020】
なお、かご側ドアには、例えば、リンク、バネや磁石等を利用した機構により、機械的な戸閉力が作用するようになっている。この機械的戸閉力は、主に、ドアパネル1にモータ6による駆動力が作用していない状態(例えば、停電等の通常とは異なる状態)において、例えばかご内の幼児等の人がかご内部からドアパネル1を不用意にこじ開けてしまうことを防止するこじ開け防止力としてかご側ドアに作用する。ここで、この機械的戸閉力を発生させる機構は、保守の際にドアパネル1の全閉状態を維持することを目的として機械的な戸閉力を発生させる機構を兼ねるようにしてもよい。
【0021】
また、各階床の乗場側ドアにも機械的な戸閉力を発生させるクローザ機構が設けられている(例えば、米国法規ASME−A17/12.11.3.1には自動的に乗場側ドアを閉じるクローザに関する記述がある)。このクローザ機構の具体的な構成としては、例えば、重りによる重力を利用して一定の戸閉力を発生するものや、バネの弾性力を利用して乗場ドアパネルの位置に応じた戸閉力を発生するもの等が挙げられる。
【0022】
図2は、エレベータのドアの開閉動作を制御するドア制御装置本体10の構成を示すものである。
モータ6には、このモータ6の回転位置θを検出する回転センサ11が取り付けられている。この回転センサ11により検出されたモータ6の回転位置θは、ドア制御装置本体10が備える速度演算部12へと出力される。この速度演算部12は、回転センサ11から出力されたモータ6の回転位置θ(の時間変化)に基づいて、ドアパネル1の開閉動作の実速度Vを演算する。この実速度Vは、駆動車7a(巻掛車7b)の巻掛径をパラメータとして演算することが可能である。なお、この実速度Vの演算は、後述する電流検出器17により検出したモータ6へと供給される電流値iqから推定したモータ6の回転速度に基づいて行うようにすることもできる。
【0023】
ドア制御装置本体10が備えるドア速度指令値生成部13は、戸開閉の駆動時間(開始してからの経過時間)又は回転センサ11により検出されるモータ6の回転位置θに基づいてドアパネル1の開閉動作の目標となる速度指令値V*を生成するものである。なお、モータ6の回転位置θは、駆動車7a(巻掛車7b)の巻掛径をパラメータとしてドアパネル1の位置に変換できるため、ドアパネル1の位置と同義に扱うことができる。そして、この速度指令値V*は、ドア制御装置本体10が備える速度制御部15へと出力される。
【0024】
ドアの開閉動作の効率を向上させるためには、戸開閉を開始してから終了するまでの戸開閉時間が重要である。そこで、ドア速度指令値生成部13は、この戸開閉時間が所定の時間以下となるように、戸開閉動作の経過時間等に応じて速度指令値V*を設計する。また、一方で、ドアパネル1等に設けられた図示しない障害物検知用センサや後述する判定部21から出力される障害物検知信号に基づいて、ドアへの挟まれや引き込まれを防止するため、戸閉反転又は戸開反転動作を行わせる反転速度指令値も生成・出力する。あるいは、障害物検知信号に基づいて、戸開閉動作を急停止させる速度指令値を生成・出力する。
【0025】
ドア制御装置本体10が備える階床データ記憶部14は、エレベータが停止する各階床毎に、モータ6の負荷に影響を及ぼす要素を、階床データとして予め記憶するものである。モータ6の負荷に影響を及ぼす要素の具体的なものとしては、ドアパネル1を含むかご側ドアの質量、乗場側ドアの質量、ドアパネル1に取り付けられる各種センサの質量、さらに減速機や駆動車7a及び巻掛車7b等の回転系を含めたドア機器の総質量が挙げられる。そして、これらの要素をモータ6のモータ軸換算の慣性モーメントに変換したイナーシャJを各階床毎の階床データとして記憶する。
【0026】
また、この階床データ記憶部14は、後述する外乱推定部20から出力される外乱の推定値についても、各階床毎に記憶する。後述するように、外乱推定部20から出力される外乱の推定値には、ドアパネル1の走行抵抗ロスも含まれる。そこで、外乱推定部20による外乱の推定値に基づいて走行抵抗ロスを計測することができる。そして、予め設定された許容値以上のロスを検出した回数をカウントし、この回数が規定回数以上となった場合には、異常の前触れとしてロスの異常検知信号を保守センター等に通知する。こうして、ドア装置の故障を未然に防止することができる。
【0027】
速度制御部15は、実速度Vと速度指令値V*との誤差を補正するものである。すなわち、一定の時間間隔Tで、速度演算部12から出力されたドアパネル1の実速度Vが、目標値であるドア速度指令値生成部13から出力された速度指令値V*に追従するように、第1のトルク指令値であるモータ電流指令値iq0*を出力する。この速度制御部15は、一般的には伝達関数Cb(s)=Ksp+Ksi/sで表わされるフィードバック制御器で構成される。
【0028】
ここで、Kspは、このフィードバック制御器の比例ゲイン、Ksiは積分ゲインである。この比例ゲインKspは、階床データ記憶部14に記憶された階床データに基づいた当該階床のドア総質量のモータ軸換算イナーシャJ、モータ6のトルク特性KT、及び、目標値に対する出力の誤差補正性能を指定する制御交差周波数ωcの各パラメータを用いて、Ksp=J×ωc/KTにより設計される。積分ゲインKsiは、Ksi=Ksp×ωc/5を満たすようにして設計される。
【0029】
この速度制御部15においては、ドア総質量のモータ軸換算イナーシャJが階床データ記憶部14からの出力として正確に速度制御部15に入力されることにより、適切な制御交差周波数ωcを選択することで、ドアパネル1の振動を抑制するように回転誤差の補正性能を決定することができる。さらに、速度制御部15を、フィードフォワード制御器を含むように構成することで、速度指令値V*に対する実速度Vの追従性と回転誤差補正性能を独立に設定するようにしてもよい。
【0030】
前述のように、ドア速度指令値生成部13は、戸開閉動作の目標となる速度指令値V*を生成して出力する。しかし、実際のドア装置には、ゴミ詰まり等の走行抵抗、ドアパネル変形等による摩擦ロス、前述したこじ開け防止やクローザ機能のための機械的戸開閉力、及び、戸開閉駆動中における物体との接触等といった外乱要因が存在する。そして、これらの外乱要因により、実速度Vは速度指令値V*に対して完全には追従しない。従って、実速度Vの速度指令値V*に対する偏差を補正する必要があり、前述したように、この速度制御部15は実速度Vが速度指令値V*に追従するようにモータ電流指令値iq0*を出力するものである。
【0031】
速度制御部15から出力されたモータ電流指令値iq0*は、後述する外乱推定部20からの出力iq1*との総和がとられて、モータ電流指令値iqa*となる。そして、このモータ電流指令値iqa*は、後述するトルク補償部19からの出力iq2*との総和がとられて、モータ電流指令値iqb*となる。このモータ電流指令値iqb*が、ドア制御装置本体10が備える電流制御部16へと入力される指令値の基準となる。
【0032】
この電流制御部16は、モータ電流指令値iqb*に従って、モータ6へと供給する電流を制御するものである。このため、電流検出器17により検出された後述するPWMインバータ18からモータ6へと供給される電流値を帰還して、この帰還電流値とモータ電流指令値iqb*との偏差に基づいて、モータ6へと供給する電流を出力する。
この電流制御部16からの出力電流は、PWMインバータ18(PWM:Pulse Width Modulation(パルス幅変調))を介してモータ6へと供給され、モータ6が回転駆動される。
【0033】
トルク補償部19は、ドアパネル1に機械的に作用する既知の(予め定まった)戸開閉力に相当するモータ電流指令値iq2*(第2のトルク指令値)を抗力として出力するものである。この既知の戸開閉力(既知外力)は、前述したこじ開け防止やクローザ機能のための機械的戸開閉力である。従って、この既知外力は、ドアパネル1のサイズや質量、用いられるバネの弾性定数等のパラメータから、ドアパネル1の位置に応じた力として予め算出される。そして、ドアパネル1の位置に関する関数又はテーブルデータとして、トルク補償部19に予め記憶されている。
【0034】
トルク補償部19は、速度演算部12から出力されたドアパネル1の実速度Vを積分(積算)して得られるドアパネル1の位置を入力とする。そして、まず、この入力されたドアパネル1の位置における既知外力である機械的戸開閉力を予め記憶したデータを参照して求める。次に、モータ6のトルク特性KTからモータ6がこの既知外力に抗するために発生すべきトルクに対応するモータ電流指令値iq2*を算出してこれを出力する。
【0035】
外乱推定部20は、ドアパネル1に作用する既知外力以外の外乱を推定するものである。この外乱推定部20は、まず、速度演算部12から出力される実速度Vの疑似微分又は時間差分をとることにより、ドアパネル1の加速度aを算出する。次に、この算出した加速度aとドア総質量のモータ軸換算イナーシャJとから、ドアパネル1に対して発生しているトルクを見積もる。そして、この見積もったトルクに相当する電流値と、入力されたモータ電流指令値iqa*との差分を求め、これを外乱(に相当する電流)の推定値とする。
【0036】
このようにして求められた外乱の推定値の信号は、ローパスフィルタを通されて高周波数帯域の情報がカットされた上で、外乱推定値に基づく電流指令値iq1*(第3のトルク指令値)として外乱推定部20から出力される。なお、ここで、外乱推定部20に入力されるモータ電流指令値iqa*は、前述のように、速度制御部15から出力されたモータ電流指令値iq0*と、この外乱推定部20自身からの出力iq1*との総和である。
【0037】
この外乱推定部20において推定された外乱は、前述のようにトルク補償部19において補償される機械的に作用する既知の戸開閉力以外の外力の総和である。すなわち、具体的には、速度制御部15で用いられたドア総質量のモータ軸換算イナーシャJの真値に対する誤差、走行抵抗ロス、トルク補償部19における既知外力の誤差、及び、かご側ドアと乗場側ドアが係合する際に生じる衝突の力の総和である。
【0038】
ここで、一般的には、速度制御部15における速度制御ゲインKsp、Ksiは、ドア総質量のモータ軸換算イナーシャJがある値であると想定して所望の追従性・振動抑制性能を満たすように設定される。このため、ドア総質量の真値に対して想定したドア総質量に誤差が生じると、その誤差は外乱として推定・算出されることになる。この外乱推定部20は、モータ電流指令値iqa*を入力とすることで、機械的な戸開閉力を除外した外乱、つまり、できるだけ既知の外乱情報を除外した残りの外乱を推定し補償する特徴をもつものである。
【0039】
なお、速度制御部15、トルク補償部19や外乱推定部20には、その出力値の大きさを調整する調整部をさらに備えるようにしてもよい。そして、全閉状態や全開状態からのドアパネル1の移動距離、モータ6の回転位置、又は、ドアパネル1が移動を開始してからの経過時間に応じて、この調整部のゲインを変更させるようにしてもよい。
【0040】
判定部21は、外乱推定部20から出力された外乱の推定値iq1*に基づいて、ドアパネル1の人体を含む障害物との衝突、すなわち、挟まれや引き込まれを判定するものである。この判定部21は、挟まれや引き込まれを判定した場合には、ドア速度指令値生成部13に対して反転指令を出力する。具体的には、判定部21は、外乱推定部20からの出力iq1*が所定の閾値A以上となった場合にドアパネル1が障害物と衝突したと判定する(図3)。
【0041】
この閾値Aは、外乱推定部20により推定される外乱が、走行抵抗ロスやトルク補償部19における機械的戸開閉力の誤差として許容される範囲として設定される。換言すれば、外乱推定部20により推定される外乱が、走行抵抗ロスやトルク補償部19における機械的戸開閉力の誤差として許容される範囲を逸脱して大きくなった場合に、戸開閉における異常が発生したと判断されるように、閾値Aを設定する。
なお、この際、モータ6の発生トルクが障害物に与える力が過剰にならないように、モータ6の回転位置に応じて、モータ電流指令値iqb*を制限することが好ましい。
【0042】
このように構成されたエレベータのドア制御装置の、全閉状態からの戸開動作の特徴について、機械的戸開閉力(既知外力)及びかご側ドアと乗場側ドアとの係合時の衝撃の影響に着目して説明する。
【0043】
まず、戸開動作開始直後におけるドアパネル1の駆動に必要な力についてみてみると、全閉状態を保持するためにドアパネル1に作用している機械的戸閉力が、ドアパネル1を駆動するために必要な力の主要な要素となる。すなわち、まず、一般に、ドアパネル1を移動させるために必要な駆動力Fは、駆動力F=ドアパネル質量M×加速度a+外乱fで求めることができる。このうち初項は、ドアパネル質量Mが軽いほど、外乱fと比べて相対的に小さくなる。従って、戸開開始直後はかご側ドアと乗場側ドアとの係合前であってドアパネル質量がかご側の質量のみで軽いため、要する駆動力Fにおいては、外乱f、特に機械的戸閉力の占める割合が高くなる。駆動力Fのうち、半分以上が機械的戸閉力に抗する力となることもある。
【0044】
また、ドアパネル1と伝動条体8とを剛に接合する連結具9の代わりに、かご側と乗場側が係合する前は接合せずに係合後は剛に接合する調整機構を用いてもよい。このとき、戸開開始直後はモータ6のみが回転し、かご側と乗場側を係合した状態から同時に戸開することになる。このような構造では、機械的戸閉力は係合後の駆動力のみに影響を及ぼすが、駆動力の算出は前述と同様にして行うことができる。そこで、係合前にはかご側ドアのみが駆動する図1の機構を想定して駆動時に生じる状況を説明する。
【0045】
このような状況下において、仮にトルク補償部19からの既知外力に対する補償出力iq2*が無い場合を考えてみる。この場合には、外乱推定部20において既知外力である機械的戸閉力を含めた外力を推定することになる。従って、トルク補償部19からの出力iq2*が有る場合と比較して、外乱の推定値が収束するまでの時間が長くなってしまう。また、仮に、トルク補償部19からの出力iq2*と外乱推定部20からの出力iq1*の両方が無い場合には、速度制御部15においてのみ外乱に対する補償が行われるため、さらに実速度Vが指令値V*に追従する時間が長くなってしまうことが考えられる。
【0046】
つまり、これは、基本的に機械的戸閉力が大きいほどモータ6の発生トルクが機械的戸閉力を上回るまでの時間が長くなるからである。なお、全閉状態においてドアパネル1に作用している一定の機械的戸閉力への抗力をモータ6のトルクが補うまでの収束時間は、速度制御部15における制御ゲインに依存する。そこで、トルク補償部19において、モータ6の回転位置に応じて機械的戸閉力を予め補償することにより、駆動直後のモータ6の回転速度の指令値に対する立ち上がりを迅速にすることが可能となる。従って、速度指令値V*に対する実速度Vの追従性能を改善することができる。
【0047】
ただし、迅速な立ち上がりの実現を目的として過大なトルク補償を行った場合、速度指令値に対してモータの回転速度が追従せずにオーバーすることがある。そして、この場合でも係合低速区間が終了するまでの時間を短縮することは可能ではある。しかし、この場合においては、時間の短縮という効果は一応得られるものの、かご側ドアと乗場側ドアとの係合時の衝撃が増大するとともに、急激な動作によりドアパネル1の振動が生じてしまうという、大きな弊害がある。従って、あくまで設計した速度指令値に追従することを前提として、開閉時間が短縮されることが望ましいことは言うまでもない。
【0048】
また、一般的にかご側ドアに駆動源となるドアモータ6が備え付けられているエレベータのドアは、着床後の戸開動作において、かご側ドアが戸開し始めて低速で移動した後、乗場側ドアと係合して一体となり係合完了したと判断した段階で、戸開最高速へと再加速して戸開動作が行われる。この際の係合完了の判断は、主にモータ6の回転位置や戸開開始からの経過時間に基づいている。
【0049】
この際、係合時の衝撃音を低減するためにかご側ドアを低速で動作するようにしているため、速度指令値V*に対する実速度Vの追従遅れが生じると、戸開時間が長くなる悪影響が生じてしまう。例えば、階床毎にかご側ドアと乗場側ドアの係合位置は、一般に異なることから、モータ6の回転位置が一定の距離に到達するまでを係合低速区間とすると、速度指令値V*に対する実速度Vの追従遅れにより係合低速区間の終了位置に到達する時間は長引くことになる。
【0050】
そこで、外乱推定部20において機械的戸開閉力以外の外乱を推定し、速度制御部15の出力に対して推定した外乱を補償することで、速度指令値V*に対する追従性能を向上することができる。そして、その結果、設計した速度指令値V*に対するモータ6の回転実速度の高追従性能を維持し、開閉時間の短縮が可能となる。
【0051】
実施の形態2.
図3、図5及び図6は、この発明の実施の形態2に係るものである。
ここで説明する実施の形態2は、前述した実施の形態1の構成において、判定部は、外乱推定部が推定した外乱に基づいてかご側ドアと乗場側ドアとの係合完了を判断し、これらのドアの係合が完了したと判断された場合には、直ちに係合低速区間を終了してドアパネルの戸開速度を最高速度へと加速するようにしたものである。
【0052】
図5は、この実施の形態2に係るエレベータのドア制御装置の全体構成を示すものである。
外乱推定部20から出力される外乱推定値は、まず、実施の形態1と同様に判定部21に入力される。この外乱推定値は、ドアパネル1に作用する外力から既知の機械的戸開閉力を省いたものである。すなわち、この外乱推定値には、走行抵抗ロス、ドア総質量の誤差、既知の機械的戸開閉力の誤差に加えて、かご側ドアと乗場側ドアとの係合時における衝突に起因する衝撃力が含まれている。
【0053】
そこで、外乱推定部20による外乱推定値が、係合完了検知用の所定の閾値B以上となったか否かによって、かご側ドアと乗場側ドアとの係合が完了したか否かを判断することができる。ここでは、図3に示すように、この係合完了検知用の閾値Bは、先の実施の形態1における障害物検知用の閾値Aよりも、小さい値に設定している。
なお、この閾値Bとして、外乱推定値の時間変化率に関して、急峻な数値が得られたときに係合が完了したと判断するようにしてもよい。すなわち、この場合、判定部21は、外乱推定値の時間変化率が所定の閾値B以上となったときに、かご側ドアと乗場側ドアとの係合が完了したと判断する。
【0054】
ただし、外乱推定値の時間変化率で係合検知を行う場合、かご側ドアと乗場側ドアとが係合していなくとも、例えば、ドアパネル1が障害物を引き込んだりした場合にも、外乱推定値の時間変化率が大きくなり、所定の閾値B以上となってしまうことが起こりえる。従って、外乱推定値の急峻な時間変化が得られた時点において、ドアパネル1の障害物との衝突又は乗場側ドアとの係合が生じたことは判別できるが、外乱推定値の時間変化率のみからでは、その両者の区別をつけることができない。
【0055】
そこで、外乱推定値の時間変化率を用いて係合検知を行う場合には、外乱推定値の時間変化率に加えて、その後のドアパネル1の実速度V又は加速度を用いることで、障害物検知及び係合検知の両者を区別する。すなわち、障害物を検知する場合と係合を検知する場合とでは、係合検知では外乱推定値の時間変化率が所定の閾値B以上となった後も、ドアパネル1は移動を継続する一方、障害物検知ではドアパネル1が静止する(V≒0となる)点において異なる。
【0056】
つまり、ドアパネル1の速度や加速度が衝突直後に0へと収束すれば、外乱推定値は増大して閾値A以上となり、障害物検知と判定されてドアパネル1は反転制御される。一方、ドアパネル1の加速度が衝突直後とは逆符号に増大すれば、係合して開動作を継続している状態であり、このとき、外乱推定値は障害物へ衝突した場合に比べると小さくなる。
よって、外乱推定値の急峻な時間変化を一定の閾値Bにおいて判定し、以降のドアパネル1の実速度V又は実速度Vから算出した加速度を監視することで、障害物検知であるか係合検知であるのかを区別することができる。
【0057】
判定部21は、かご側ドアと乗場側ドアの係合完了を検知すると、係合区間終了信号を出力する。ドア速度指令値生成部13は、この判定部21から出力された係合区間終了信号を受信すると、係合区間の低速な速度指令値の出力を終了する。そして、速やかに再加速を行うように速度指令値を出力することで、係合低速区間を短縮して戸開時間を短縮することが可能である(図6)。
【0058】
また、係合完了位置は各階床毎に異なる可能性がある。そこで、まず、判定部21から出力される係合区間終了信号を階床データ記憶部14へと入力する。次に、階床データ記憶部14において、この係合区間終了信号とモータ6の回転位置(ドアパネル1の位置)とから、各階床毎に係合完了位置を求めて、これを記憶させておく。そして、ドア速度指令値生成部13は、この階床データ記憶部14に記憶された各階床毎の係合完了位置に基づいて、係合区間の低速な速度指令値の出力を終了して最高速に再加速を行うように速度指令値を出力するようにしてもよい。
なお、他の構成については実施の形態1と同様であって、その詳細説明は省略する。
【0059】
以上のように構成されたエレベータのドア制御装置においては、実施の形態1と同様の効果を奏することができるのに加えて、さらに、全閉からの戸開時に低速で戸開する時間を短縮することが可能であって、戸開にかかる時間を短縮することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ドアパネル
2 吊り手
3 ドアローラ
4 桁
5 ドアレール
6 モータ
7a 駆動車
7b 巻掛車
8 伝動条体
9 連結具
10 ドア制御装置本体
11 回転センサ
12 速度演算部
13 ドア速度指令値生成部
14 階床データ記憶部
15 速度制御部
16 電流制御部
17 電流検出器
18 PWMインバータ
19 トルク補償部
20 外乱推定部
21 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのかごの出入口を開閉するドアパネルと、
前記ドアパネルの開閉動作を駆動するモータと、
前記モータの回転を検出する回転検出手段と、
前記回転検出手段の検出結果に基づいて前記モータの回転駆動を制御する制御手段と、
前記制御手段に設けられ、前記ドアパネルの開閉動作の目標となる速度指令値を生成する速度指令値生成手段と、
前記制御手段に設けられ、前記速度指令値生成手段が生成した前記速度指令値と前記回転検出手段の検出結果から算出される前記ドアパネルの実速度との偏差に基づいて前記モータに対する第1のトルク指令値を出力する速度制御手段と、
前記制御手段に設けられ、前記回転検出手段の検出結果から算出される前記ドアパネルの位置に基づいて、前記ドアパネルに作用する既知の外力を補償する第2のトルク指令値を出力するトルク補償手段と、
前記制御手段に設けられ、前記回転検出手段の検出結果から算出される前記ドアパネルの実速度に基づいて、前記ドアパネルに作用する前記既知の外力を除いた外乱を推定し第3のトルク指令値として出力する外乱推定手段と、を備え、
前記制御手段は、前記第1のトルク指令値、前記第2のトルク指令値及び前記第3のトルク指令値の総和を、前記モータへのトルク指令値とすることを特徴とするエレベータのドア制御装置。
【請求項2】
前記外乱推定手段は、前記回転検出手段の検出結果から算出される前記ドアパネルの実速度に基づいて求めた前記ドアパネルに作用しているトルクと、前記第1のトルク指令値及び前記第3のトルク指令値の総和と、の差分から前記外乱を推定し前記第3のトルク指令値として出力することを特徴とする請求項1に記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項3】
前記外乱推定手段から出力される前記第3のトルク指令値に基づいて、前記ドアパネルが障害物と衝突したことを判定する判定手段を備えたことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項4】
前記速度指令値生成手段は、前記判定手段により前記ドアパネルが前記障害物と衝突したと判定された場合に、前記ドアパネルの開閉動作を反転又は急停止させる前記速度指令値を生成することを特徴とする請求項3に記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項5】
前記ドアパネルは前記かご側に設けられ、戸開を開始した前記かご側の前記ドアパネルが乗場側ドアと係合して以後一体となって戸開閉するエレベータにおいて、
前記外乱推定手段から出力される前記第3のトルク指令値に基づいて、前記ドアパネルが前記乗場側ドアと係合したことを判定する判定手段を備え、
前記速度指令値生成手段は、前記判定手段により前記ドアパネルと前記乗場側ドアとが係合したと判定された場合に、前記ドアパネルの速度を低速から再加速させる前記速度指令値を生成することを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記第3のトルク指令値の時間変化率と、前記回転検出手段の検出結果から算出される前記ドアパネルの実速度及び前記ドアパネルの加速度の少なくともいずれか一方と、に基づいて、前記ドアパネルが前記乗場側ドアと係合したことを判定することを特徴とする請求項5に記載のエレベータのドア制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記外乱推定手段から出力される前記第3のトルク指令値に基づいて、各階床毎の前記ドアパネルの走行抵抗ロスを計測し、所定の許容値以上の前記走行抵抗ロスが計測された回数が所定の規定回数以上になった場合に、前記走行抵抗ロスの異常検知信号を出力することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のエレベータのドア制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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