説明

エレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置

【課題】ガバナ側に別途パルスエンコーダを設ける必要がなく、装置全体の構成に必要な部品点数が少なく構成が簡潔であって安価に得ることができるエレベータのロープ滑り検出装置を得る。
【解決手段】エレベータのロープ滑り検出装置において、エレベータの乗りかごと、乗りかごの昇降を駆動する駆動装置と、駆動装置の回転数を検出するパルスエンコーダと、乗りかごの走行条件を検出する走行条件検出手段と、乗りかごの走行時にパルスエンコーダから出力されるエンコーダパルスデータと走行条件検出手段から出力される走行条件データとを蓄積するデータ蓄積部と、走行条件が同一である前回の走行時におけるエンコーダパルスデータをデータ蓄積部から取得し、今回と前回のエンコーダパルスデータの差が基準値以上となっている場合にはトラクション能力が低下していると判断するデータ演算部と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクション駆動方式のエレベータは、乗りかごと釣合い重りを吊る主ロープが駆動装置の綱車に巻き掛けられて懸架され、乗りかごは綱車とロープとの間のトラクション(摩擦)により駆動されて昇降する構成となっている。
トラクション能力は綱車溝の形状と摩擦係数によって決定されることから、トラクション設計は磨耗による綱車溝の形状及び摩擦係数の経年的な変化も考慮した上でなされる。
しかし、綱車溝が異常磨耗したり、綱車溝や主ロープに油や水が付着したりするなどの意図しない外乱等により、トラクション能力が徐々に低下し、必要とするトラクション能力を確保することができなくなると、乗りかごの走行時、特に加減速時に綱車溝とロープとの間でトラクション滑り(ロープ滑り)が発生して、乗りかごが乗降階床に停止する際の着床位置にズレが生じたり、加減速時に乗りかごが過大に滑ったりする事態が発生する可能性がある。
【0003】
このようなロープ滑りを検出するための従来におけるエレベータのロープ滑り検出装置においては、駆動装置(モータ)又は綱車の回転数に基づいて乗りかごの移動距離を算出するモータ側移動量測定装置(モータ側パルスエンコーダ)と、ガバナプーリの回転数に基づいて乗りかごの移動量を算出するかご側移動量測定装置(かご側パルスエンコーダ)と、乗りかごの走行中に停止指令が出されたとき、停止するまでの移動量をモータ側移動量測定装置及びかご側移動量測定装置で測定し、それらの差や予め設定した判定値との比較からロープ滑り等の異常の予兆をそれぞれ判定する判定装置と、を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−199153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示された従来におけるエレベータのロープ滑り検出装置においては、駆動装置側のみならず、ガバナ側にも別途ガバナプーリの回転数を検出するかご側パルスエンコーダを設けなければならないため、装置全体の構成に必要な部品点数が多くなって、構成が複雑となり、費用もかさんでしまうという課題がある。
また、この従来におけるエレベータのロープ滑り検出装置によりロープ滑りの発生が検出されるのは、制御装置から停止指令が出力された後の制動時のみであって、走行時においてはロープ滑り検出動作を行わない。従って、乗りかご内に乗客を乗せて走行している状態においてロープ滑りが発生しても、停止指令が出力されて制動が開始されるまでは当該ロープ滑り発生を検出することができず、適切な対応をとることができないという課題もある。
さらに、ロープ滑り発生を判定する基準値について、エレベータの正常運転時において作業員等の作業によって乗りかごの制動距離を予め測定して、これが基準値として適切か否かについて判断し装置に記憶させておく必要があり、この測定、判断及び記憶作業につき煩雑な手数が掛かるという課題もある。
【0006】
この発明は、前述のような課題を解決するためになされたもので、第1の目的は、必要なパルスエンコーダは駆動装置側のみであって、ガバナ側に別途ガバナプーリの回転数を検出するかご側パルスエンコーダを設ける必要がなく、装置全体の構成に必要な部品点数が少なく構成が簡潔であって安価に得ることができるエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置を得るものである。
また、第2の目的は、乗りかご内に乗客を乗せて走行している状態において発生したロープ滑りを検出することができ、この検出結果に基づいて特に乗りかご内にいる乗客に対して適切な対応をとることができるエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置を得るものである。
さらに、第3の目的は、ロープ滑り発生を判定する基準値について、エレベータの正常運転時における乗りかごの制動距離を予め測定等する作業員等による作業が不要であるエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係るエレベータのロープ滑り検出装置においては、エレベータの昇降路内に昇降自在に配置された乗りかごと、前記乗りかごの昇降を駆動する駆動装置と、前記駆動装置に設けられ、前記駆動装置の回転数を検出するパルスエンコーダと、前記乗りかごの走行条件を検出する走行条件検出手段と、前記乗りかごの走行時において前記パルスエンコーダから出力されるエンコーダパルスデータと前記走行条件検出手段から出力される走行条件データとを、蓄積するデータ蓄積部と、前記乗りかごの走行時における前記走行条件データに基づいて、前記走行条件が同一である前回の走行時における前記エンコーダパルスデータを前記データ蓄積部に蓄積されているデータから取得し、前記パルスエンコーダから出力される今回の走行時のエンコーダパルスデータと、前記データ蓄積部から取得した同一の走行条件における前回の走行時の前記エンコーダパルスデータとの差が予め定めた所定の基準値以上となっている場合には、トラクション能力が低下していると判断するデータ演算部と、を備えた構成とする。
【0008】
また、この発明に係るエレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置においては、前述のロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置であって、前記データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、前記エレベータの運転を休止させる制御指令部を備えた構成とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明はエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置において、エレベータの昇降路内に昇降自在に配置された乗りかごと、前記乗りかごの昇降を駆動する駆動装置と、前記駆動装置に設けられ、前記駆動装置の回転数を検出するパルスエンコーダと、前記乗りかごの走行条件を検出する走行条件検出手段と、前記乗りかごの走行時において前記パルスエンコーダから出力されるエンコーダパルスデータと前記走行条件検出手段から出力される走行条件データとを、蓄積するデータ蓄積部と、前記乗りかごの走行時における前記走行条件データに基づいて、前記走行条件が同一である前回の走行時における前記エンコーダパルスデータを前記データ蓄積部に蓄積されているデータから取得し、前記パルスエンコーダから出力される今回の走行時のエンコーダパルスデータと、前記データ蓄積部から取得した同一の走行条件における前回の走行時の前記エンコーダパルスデータとの差が予め定めた所定の基準値以上となっている場合には、トラクション能力が低下していると判断するデータ演算部と、を備えた構成としたことで、必要なパルスエンコーダは駆動装置側のみであって、ガバナ側に別途ガバナプーリの回転数を検出するかご側パルスエンコーダを設ける必要がなく、装置全体の構成に必要な部品点数が少なく構成が簡潔であって安価に得ることができるという効果を奏する。
【0010】
また、エレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置において、前述のロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置であって、前記データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、前記エレベータの運転を休止させる制御指令部を備えた構成としたことで、乗りかご内に乗客を乗せて走行している状態において発生したロープ滑りを検出することができ、この検出結果に基づいて特に乗りかご内にいる乗客に対して適切な対応をとることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1及び図2は、この発明の実施の形態1に関するもので、図1はエレベータのロープ滑り検出装置の全体構成を示すブロック図、図2はエレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置の動作を示すフロー図である。
図において1は図示しないエレベータの昇降路の上部に設けられた図示しない機械室内に設置され、当該エレベータを電動駆動する駆動装置であり、この駆動装置1の回転軸に軸着された綱車2には、主ロープ3が巻き掛けられている。
そして、この主ロープ3の一端には前記昇降路内に昇降自在に配置された乗りかご4が連結されており、前記主ロープ3の他端側は、前記主ロープ3の懸垂位置を調節するためのソラセ車5に巻き掛けられた上で、前記主ロープ3の他端に前記乗りかご4の重量を補償する目的で前記昇降路内に昇降自在に配置された釣合い重り6が連結されている。
また、前記駆動装置1には、前記駆動装置1の回転数(すなわち前記ソラセ車5の回転数)に応じたパルスを出力するパルスエンコーダ7が設けられている。
【0012】
8は、当該エレベータの運転全般を制御する制御装置8であり、データ蓄積部9及びデータ演算部10、並びに、制御指令部11を有している。
そして、前記乗りかご4の走行時において前記パルスエンコーダ7から出力されるエンコーダパルスデータ12、前記乗りかご4の床下に設けられ、前記乗りかご4内に搭載された負荷を検出する図示しない秤装置から出力されるかご内負荷データ13、及び、前記乗りかご4に設けられた図示しないかご位置検出手段から出力され、前記乗りかご4の現在位置を示す情報からなるかご位置データ14が、前記データ蓄積部9へと入力され、前記データ蓄積部9は、これらの前記エンコーダパルスデータ12と前記かご内負荷データ13及び前記かご位置データ14とを時系列に沿って関連付けて蓄積する。
なお、前記かご位置データ14を出力する前記かご位置検出手段は、前記パルスエンコーダ7とは別体に設けられており、例えば、前記乗りかご4の階床停止位置を規定する着床プレート等を用いることが考えられる。
【0013】
前記データ演算部10は、前記乗りかご4の走行時における前記かご内負荷データ13及び前記かご位置データ14に基づいて、走行条件、すなわち、前記乗りかご4内に搭載された負荷及び前記乗りかご4の走行距離、が同一である前回の走行時における前記エンコーダパルスデータ12を前記データ蓄積部9に蓄積されているデータから取得する。
そして、前記データ演算部10は、前記パルスエンコーダ7から出力される今回の走行時のエンコーダパルスデータ12と、前記データ蓄積部9から取得した同一の走行条件における前回の走行時の前記エンコーダパルスデータ12との比較演算を行い、これらの差の絶対値が予め定めた所定の基準値以上となっている場合には、当該エレベータの前記綱車2と前記主ロープ3との間のトラクション能力が低下していると判断して、その旨を示す信号を前記制御指令部11へと出力する。
なお、この、前記データ演算部10によるトラクション能力に関する判断は、前記乗りかご4の走行中において随時実行される。また、前記走行条件が同一であると判断される範囲は、完全同一でなくとも良く、例えば、前記かご内負荷データ13の差が所定の範囲内におさまっており同一であるとみなせる場合も当然含まれる。
【0014】
前記データ演算部10からトラクション能力が低下している旨の信号を受けた前記制御指令部11は、前記乗りかご4を、呼び登録がなされている目的階又は前記乗りかご4が停止可能な最寄階へと走行させるように、前記駆動装置1の動作の制御指令を行い、前記目的階又は前記最寄階に前記乗りかご4が到着した後は、当該エレベータの運転を休止させる。
そして、エレベータ休止後、前記制御指令部11は、トラクション能力低下の旨を図示しない保守会社に発報し、保守点検を促す。
【0015】
なお、前記秤装置及び前記かご位置検出手段は、前記走行条件を検出する走行条件検出手段を構成し、これらから出力される前記かご内負荷データ13及び前記かご位置データ14は、走行条件データを構成する。
【0016】
図2のフロー図は、この実施の形態におけるエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置の動作を示すものである。
まず、前記乗りかご4の走行中において(ステップS1)、前記データ蓄積部9は、前記パルスエンコーダ7から出力される前記エンコーダパルスデータ12、前記秤装置から出力される前記かご内負荷データ13、及び、前記かご位置検出手段から出力され前記かご位置データ14の記録・蓄積を行う(ステップS2)。
そして、ステップS3において、前記データ演算部10は、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下か否かについて判断を行う。すなわち、より詳しくは、前記データ演算部10前記かご内負荷データ13及び前記かご位置データ14に基づいて、走行条件が同一である前回の走行時における前記エンコーダパルスデータ12を前記データ蓄積部9に蓄積されているデータから取得し、この前記データ蓄積部9から取得した同一の走行条件における前回の走行時の前記エンコーダパルスデータ12と、前記パルスエンコーダ7から出力される今回の走行時のエンコーダパルスデータ12との比較演算を行って、これらの差が予め定めた所定の基準値以下となっているか否かについて判断を行う。
【0017】
この判断において、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下であると判断された場合は、トラクション能力は低下しておらず正常範囲内であると判断して、ステップS4へと移り通常運転を継続し、ステップS1へと戻る。
一方、ステップS3の判断において、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下でないと判断された場合は、トラクション能力が低下していると判断して、前記データ演算部10は、その旨を示す信号を前記制御指令部11へと出力する。
そして、ステップS5へと進み、前記データ演算部10からトラクション能力が低下している旨の信号を受けた前記制御指令部11は、前記乗りかご4を呼び登録がなされている目的階へと走行させた後、当該エレベータの運転を休止させるように前記駆動装置1に対する制御指令を行う。なお、ここで、前記乗りかご4を目的階へと走行させる代わりに、前記乗りかご4が停止可能な最寄階へと走行させた後、当該エレベータの運転を休止させるようにしてもよい。
また、続くステップS6で、エレベータ休止後、前記制御指令部11は、トラクション能力低下の旨を前記保守会社へと発報し、保守点検を促し、その後ステップS7へと至り一連の動作フローを終了する。
【0018】
以上のように構成されたエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置においては、駆動装置の回転数を検出するパルスエンコーダと、乗りかごの走行条件を検出する走行条件検出手段と、乗りかごの走行時においてパルスエンコーダから出力されるエンコーダパルスデータと走行条件検出手段から出力される走行条件データとを蓄積するデータ蓄積部と、乗りかごの走行時における走行条件データに基づいて、走行条件が同一である前回の走行時におけるエンコーダパルスデータをデータ蓄積部に蓄積されているデータから取得し、パルスエンコーダから出力される今回の走行時のエンコーダパルスデータと、データ蓄積部から取得した同一の走行条件における前回の走行時のエンコーダパルスデータとの差が予め定めた所定の基準値以上となっている場合には、トラクション能力が低下していると判断するデータ演算部と、を備えたことにより、必要なパルスエンコーダは駆動装置側のみであって、ガバナ側に別途ガバナプーリの回転数を検出するかご側パルスエンコーダを設ける必要がなく、装置全体の構成に必要な部品点数が少なく構成が簡潔であって安価に得ることができるとともに、ロープ滑り発生を判定する基準値について、エレベータの正常運転時における乗りかごの制動距離を予め測定等する作業員等による作業が不要である。
【0019】
また、このようなロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置であって、データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、乗りかごを呼び登録がなされている目的階又は乗りかごが停止可能な最寄階へと走行させるように駆動装置の動作の制御指令を行い、目的階又は最寄階に乗りかごが到着した後はエレベータの運転を休止させることにより、乗りかご内に乗客を乗せて走行している状態において発生したロープ滑りを検出して、この検出結果に基づいて特に乗りかご内にいる乗客に対して適切な対応をとることができる。
【0020】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2に関するもので、エレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置の動作を示すフロー図である。
ここで説明する実施の形態2は、前述した実施の形態1の構成・動作において、同一の走行条件下におけるエンコーダパルスデータの変化量が所定の基準値を超えておりトラクション能力が低下しているとデータ演算部により判断された場合に、乗りかごの走行速度を通常時より下げて目的階又は最寄階へと走行させるようにしたものである。
すなわち、前記データ演算部10からトラクション能力が低下している旨の信号を受けた前記制御指令部11は、前記乗りかご4を、呼び登録がなされている目的階又は前記乗りかご4が停止可能な最寄階へと通常時より遅い走行速度にて走行させるように、前記駆動装置1の動作の制御指令を行い、前記目的階又は前記最寄階に前記乗りかご4が到着した後は、当該エレベータの運転を休止させる。
なお、他の構成は実施の形態1と同様である。
【0021】
図3のフロー図は、この実施の形態におけるエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置の動作を示すもので、これから述べるステップS15の動作を除き前述した実施の形態1の動作と同様である。
すなわち、まず、前記乗りかご4の走行中において(ステップS11)、前記データ蓄積部9は、前記パルスエンコーダ7から出力される前記エンコーダパルスデータ12、前記秤装置から出力される前記かご内負荷データ13、及び、前記かご位置検出手段から出力され前記かご位置データ14の記録・蓄積を行う(ステップS12)。
そして、ステップS13において、前記データ演算部10は、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下か否かについて判断を行う。
【0022】
この判断において、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下であると判断された場合は、トラクション能力は低下しておらず正常範囲内であると判断して、ステップS14へと移り通常運転を継続し、ステップS11へと戻る。
一方、ステップS13の判断において、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下でないと判断された場合は、トラクション能力が低下していると判断して、前記データ演算部10は、その旨を示す信号を前記制御指令部11へと出力する。
そして、ステップS15へと進み、前記データ演算部10からトラクション能力が低下している旨の信号を受けた前記制御指令部11は、前記乗りかご4の走行速度を通常時と比べて遅くするように前記駆動装置1に対する制御指令を行った上で、続くステップS16において、前記乗りかご4を目的階又は最寄階へと走行させた後、当該エレベータの運転を休止させるように前記駆動装置1に対する制御指令を行う。
また、ステップS16におけるエレベータ休止後、ステップS17に移行して、前記制御指令部11は、トラクション能力低下の旨を前記保守会社へと発報し、保守点検を促し、その後ステップS18へと至り一連の動作フローを終了する。
【0023】
以上のように構成されたエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置においては、実施の形態1と同様の効果を奏することができるのに加えて、制御指令部は、データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、乗りかごを目的階又は最寄階へと通常時より遅い走行速度で走行させるように駆動装置の動作の制御指令を行うことにより、乗りかご内に乗客を乗せて走行している状態において発生したロープ滑りを検出した場合に、より乗客の安全を考慮した対応をとることができる。
【0024】
実施の形態3.
図4は、この発明の実施の形態3に関するもので、エレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置の動作を示すフロー図である。
ここで説明する実施の形態3は、前述した実施の形態1又は実施の形態2の構成・動作において、同一の走行条件下におけるエンコーダパルスデータの変化量が所定の基準値を超えておりトラクション能力が低下しているとデータ演算部により判断された場合に、乗りかごの加速時の加速度及び減速時の減速度のいずれか一方又は両方を通常時より下げて目的階又は最寄階へと走行させるようにしたものである。
すなわち、前記データ演算部10からトラクション能力が低下している旨の信号を受けた前記制御指令部11は、前記乗りかご4を、呼び登録がなされている目的階又は前記乗りかご4が停止可能な最寄階へと、加速時の加速度及び減速時の減速度のいずれか一方又は両方を通常時より下げて走行させるように、前記駆動装置1の動作の制御指令を行い、前記目的階又は前記最寄階に前記乗りかご4が到着した後は、当該エレベータの運転を休止させる。
なお、他の構成は実施の形態1又は実施の形態2と同様である。
【0025】
図4のフロー図は、この実施の形態におけるエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置の動作を示すものである。
ここでは、前述の実施の形態1において、トラクション能力が低下しているとデータ演算部により判断されたときに、乗りかごの加速時の加速度及び減速時の減速度のいずれか一方又は両方を通常時より下げて目的階又は最寄階へと走行させるようにした場合について説明することにし、これから述べるステップS25の動作を除き前述した実施の形態1の動作と同様である。
すなわち、まず、前記乗りかご4の走行中において(ステップS21)、前記データ蓄積部9は、前記パルスエンコーダ7から出力される前記エンコーダパルスデータ12、前記秤装置から出力される前記かご内負荷データ13、及び、前記かご位置検出手段から出力され前記かご位置データ14の記録・蓄積を行う(ステップS22)。
そして、ステップS23において、前記データ演算部10は、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下か否かについて判断を行う。
【0026】
この判断において、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下であると判断された場合は、トラクション能力は低下しておらず正常範囲内であると判断して、ステップS24へと移り通常運転を継続し、ステップS21へと戻る。
一方、ステップS23の判断において、同一の走行条件下における前記エンコーダパルスデータ12の変化量が所定の基準値以下でないと判断された場合は、トラクション能力が低下していると判断して、前記データ演算部10は、その旨を示す信号を前記制御指令部11へと出力する。
そして、ステップS25へと進み、前記データ演算部10からトラクション能力が低下している旨の信号を受けた前記制御指令部11は、前記乗りかご4の加速時の加速度及び減速時の減速度のいずれか一方又は両方を通常時より下げて走行させるように前記駆動装置1に対する制御指令を行った上で、続くステップS26において、前記乗りかご4を目的階又は最寄階へと走行させた後、当該エレベータの運転を休止させるように前記駆動装置1に対する制御指令を行う。
また、ステップS26におけるエレベータ休止後、ステップS27に移行して、前記制御指令部11は、トラクション能力低下の旨を前記保守会社へと発報し、保守点検を促し、その後ステップS28へと至り一連の動作フローを終了する。
【0027】
なお、前述の実施の形態2の構成・動作において、トラクション能力が低下しているとデータ演算部により判断されたときに、乗りかごの加速時の加速度及び減速時の減速度のいずれか一方又は両方を通常時より下げて目的階又は最寄階へと走行させるようにすることも、もちろん可能である。
この場合は、前記ステップS25において、前記乗りかご4の走行速度を通常時と比べて遅くし、かつ、前記乗りかご4の加速時の加速度及び減速時の減速度のいずれか一方又は両方を通常時より下げて走行させるように前記駆動装置1に対する制御指令を行うことになる。
【0028】
以上のように構成されたエレベータのロープ滑り検出装置及びそれを用いたエレベータ装置においては、実施の形態1又は実施の形態2と同様の効果を奏することができるのに加えて、制御指令部は、データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、乗りかごを目的階又は最寄階へと乗りかごの加速度及び減速度のいずれか一方又は両方を通常時より下げて走行させるように駆動装置の動作の制御指令を行うことにより、乗りかご内に乗客を乗せて走行している状態において発生したロープ滑りを検出した場合に、さらに乗客の安全を考慮した対応をとることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】この発明の実施の形態1におけるエレベータのロープ滑り検出装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるエレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置の動作を示すフロー図である。
【図3】この発明の実施の形態2におけるエレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置の動作を示すフロー図である。
【図4】この発明の実施の形態3におけるエレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置の動作を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0030】
1 駆動装置
2 綱車
3 主ロープ
4 乗りかご
5 ソラセ車
6 釣合い重り
7 パルスエンコーダ
8 制御装置
9 データ蓄積部
10 データ演算部
11 制御指令部
12 エンコーダパルスデータ
13 かご内負荷データ
14 かご位置データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータの昇降路内に昇降自在に配置された乗りかごと、
前記乗りかごの昇降を駆動する駆動装置と、
前記駆動装置に設けられ、前記駆動装置の回転数を検出するパルスエンコーダと、
前記乗りかごの走行条件を検出する走行条件検出手段と、
前記乗りかごの走行時において前記パルスエンコーダから出力されるエンコーダパルスデータと前記走行条件検出手段から出力される走行条件データとを、蓄積するデータ蓄積部と、
前記乗りかごの走行時における前記走行条件データに基づいて、前記走行条件が同一である前回の走行時における前記エンコーダパルスデータを前記データ蓄積部に蓄積されているデータから取得し、前記パルスエンコーダから出力される今回の走行時のエンコーダパルスデータと、前記データ蓄積部から取得した同一の走行条件における前回の走行時の前記エンコーダパルスデータとの差が予め定めた所定の基準値以上となっている場合には、トラクション能力が低下していると判断するデータ演算部と、を備えたことを特徴とするエレベータのロープ滑り検出装置。
【請求項2】
前記走行条件検出手段は、
前記乗りかごの床下に設けられ、前記乗りかご内に搭載された負荷を検出し、かご内負荷データを出力する秤装置と、
前記乗りかごの現在位置を示す情報からなるかご位置データを出力するかご位置検出手段と、を備え、
前記走行条件データは、前記かご内負荷データと前記かご位置データとを備えたことを特徴とする請求項1に記載のエレベータのロープ滑り検出装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載のエレベータのロープ滑り検出装置を用いたエレベータ装置であって、
前記データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、前記エレベータの運転を休止させる制御指令部を備えたことを特徴とするエレベータ装置。
【請求項4】
前記制御指令部は、前記データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、前記乗りかごを呼び登録がなされている目的階又は前記乗りかごが停止可能な最寄階へと走行させるように前記駆動装置の動作の制御指令を行い、前記目的階又は前記最寄階に前記乗りかごが到着した後は前記エレベータの運転を休止させることを特徴とする請求項3に記載のエレベータ装置。
【請求項5】
前記制御指令部は、前記データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、前記乗りかごを前記目的階又は前記最寄階へと通常時より遅い走行速度で走行させるように前記駆動装置の動作の制御指令を行うことを特徴とする請求項4に記載のエレベータ装置。
【請求項6】
前記制御指令部は、前記データ演算部が、トラクション能力が低下していると判断した場合に、前記乗りかごを前記目的階又は前記最寄階へと乗りかごの加速度及び減速度のいずれか一方又は両方を通常時より下げて走行させるように前記駆動装置の動作の制御指令を行うことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のエレベータ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−89869(P2010−89869A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259662(P2008−259662)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】