説明

エレベータの押し釦予防保全装置

【課題】押し釦毎に寿命時期を予測して、維持管理費の経費節減を図る。
【解決手段】各呼び登録装置8,9に設けられた各押し釦28,21毎に呼び登録操作の稼働開始からの呼び登録回数を計数していく呼び登録回数カウンタ36と、この呼び登録回数カウンタで計数されていく呼び登録回数における一定時間Δt経過する毎に対応する時刻における呼び登録回数を順次記憶していく呼び登録回数テーブル35と、このテーブルに記憶された各呼び登録回数Yを用いて将来の指定時刻t=pの呼び登録回数Ypを予測する呼び登録回数予測部38と、この予測された呼び登録回数に基づいて当該押し釦の寿命到来時刻tcを予測する寿命時期算出部45を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル等の建屋に設置されたエレベータに係わり、特に各階の乗場やかご内に取り付けられ、利用者が操作する押し釦の寿命予測と故障検出とを行うエレベータの押し釦予防保全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ビル等の建屋に設置されたエレベータにおいては、建屋の地下階から最上階まで上下に貫通する昇降路内にかごが収納されており、このかごはエレベータ制御装置によって上下方向に移動制御される。各階のエレベータホールの壁には、乗場呼び登録装置が設けられている。この各階の乗場呼び登録装置には、利用客がこの階へエレベータのかごを呼ぶための上方向の押し釦と下方向の押し釦との二つの押し釦が取付られている。また、前記かご内には、かご呼び登録装置がドア近傍の壁に固定されている。このかご呼び登録装置には、このかごに乗込んだ利用客が行き先階を指定する回数分の押し釦が取付られている。
【0003】
そして、エレベータの主制御部は、各階の乗場呼び登録装置における押し釦操作による呼びや、かご内のかご呼び登録装置における押し釦操作による呼びが入力すると、かごをこの呼び登録が指定する階へ移動制御させる。
【0004】
各階の乗場呼び登録装置、及びかご呼び登録装置に取付けられた押し釦内には、機械的接点が組込まれているので、長期間に亘って使用すると、接点摩耗、機械的部材の劣化等により正常に動作しなくなり、この押し釦の寿命が尽きることになる。
【特許文献1】特開2006―312501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この寿命が尽きる操作回数は、押し釦に使用されている材料の材質、仕様等によって変化するが、押し釦の製造メーカが実感的に定めた定格寿命回数は、100万回から1000万回程度である。その定格寿命回数に至る以前に、接点の荒れによる電気的寿命や摩耗による機械的寿命に至ることがある。また、使用条件によってはごみや汚れによるせりが生じる故障や、いたずらにより、押し釦を操作することができないという故障もある。
【0006】
さらに、建屋の出入りに通じる例えば1階の乗場呼び登録装置に取付けられ上向きの押し釦の操作頻度は高いので、他の階の乗場呼び登録装置に取付けられた押し釦に比較して、操作回数が多いので、定格寿命回数に至る時期が短くなる。
【0007】
この呼び登録装置に組込まれた各押し釦はそれぞれ定格寿命回数に至る時期が異なるので、一度に全部の押し釦を交換することは、最短の定格寿命回数に至る時期に交換することになり、まだ定格寿命回数に至っていない押し釦も交換することになり、エレベータ全体の維持管理費が上昇する懸念がある。
【0008】
そのため、エレベータの定期検査での押し釦の動作状態や、利用者からの情報を基に、寿命・故障発生を推測して押し釦を交換していた。しかし、寿命・故障は突発的であるために、利用者に対するサービスが低下する問題がある。また、部品交換や部品手配が事前に準備できず、復旧作業に時間を要する問題がある。
【0009】
なお、特許文献1には、各呼び登録装置で発生した各呼び登録をいかに効率的に各かごに割付けるかを、現在時点で発生している実呼び評価指数ΦR(k)、と将来発生すると予測される将来呼び評価指数ΦR(k)を直交座標に表示することにより、最適な割当を視覚的に得る技術が開示されている。
【0010】
しかし、この特許文献1においては、各エレベータ(かご)の移動履歴が現在序点から将来に亘って均一になるよう制御できるが、各押釦の操作回数の均一化を図るものではない。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、各呼び登録装置に取付けられている複数の押し釦の操作回数をそれぞれ個別に計数でき、各押し釦毎に寿命時刻(時期)を把握でき、かつ寿命に至るまでに発生する故障をも検出でき、エレベータ全体の維持管理費を低減できるとともに、利用客に対するサービスを向上できるエレベータの押し釦予防保全装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、建屋の各階の乗場に設けられた乗場呼び登録装置の押し釦を用いた呼び登録操作に応じてかごを当該階へ移動させるとともに、かご内に設けられたかご呼び登録装置の行き先階を指定する押し釦を用いた呼び登録操作に応じて当該かごを指定された階へ移動させるエレベータに適用される。
【0013】
そして、本発明のエレベータの押し釦予防保全装置は、各呼び登録装置に設けられた各押し釦毎に呼び登録操作の稼働開始からの呼び登録回数を計数していく呼び登録回数計数手段と、この呼び登録計数手段で計数されていく呼び登録回数における一定時間経過する毎に対応する時刻における呼び登録回数を順次記憶していく呼び登録回数記憶手段と、この呼び登録回数記憶手段に記憶された各呼び登録回数を用いて将来の指定時刻の呼び登録回数を予測する呼び登録回数予測手段と、この呼び登録回数予測手段にて予測された呼び登録回数に基づいて当該押し釦の寿命到来時刻を予測する寿命予測手段とを備えている。
【0014】
また、他の発明においては、上記発明における呼び登録回数予測手段は、呼び登録回数記憶手段に記憶された複数の登録回数のうちの基準時刻と指定された時刻の呼び登録回数の単位時間当りの増加量を算出し、基準時刻から将来の指定時刻までの時間に単位時間当りの増加量を乗算してこの乗算値に基準時刻の呼び登録回数を加算している。
【0015】
このように構成されたエレベータの押し釦予防保全装置においては、各押し釦の操作回数である呼び登録回数が計数されていき、一定時間経過する毎に対応する時刻における呼び登録回数が記憶されていく。そして、一定時間おきの登録回数から登録回数の単位時間当たりの登録回数の増加量が定まるので、将来の指定時刻の呼び登録回数を予測することが可能となる。将来の呼び登録回数が予測できれば、当該押し釦の呼び登録回数が例えば押し釦のメーカが予め定めた定格寿命回数に達する時期が算出可能となる。
【0016】
また、別の発明は、上記発明のエレベータの押し釦予防保全装置において、基準時刻を操作指示にて変更可能にしている。この基準時刻における呼び登録回数を用いて、将来の指定時刻における呼び登録回数を予測しているので、何らかの要因にて、基準時刻における呼び登録回数が異常値を示す場合は、基準時刻をたとえば、他の呼び登録回数の時刻に変更することによって、将来の指定時刻における呼び登録回数の精度を維持できる。
【0017】
また、別の発明は、上記発明のエレベータの押し釦予防保全装置において、登録回数記憶手段にて、一定時間経過しても呼び登録回数が増加しない場合は、当該押し釦に対する異常発生を警告出力する異常判定手段を備えている。この一定時間経過しても呼び登録回数が増加しない場合は、当該押し釦が故障していると見なせる。
【0018】
また、別の発明は、上記発明のエレベータの押し釦予防保全装置において、異常判定手段にて異常発生が警告出力された後に、操作指示に基づいて前記異常発生の警告出力を解除する異常警告解除手段を備えている。一定時間経過しても呼び登録回数が増加しない場合は、この呼び登録の指定階をかごが停止しない階であることもある。この場合は、故障でないので、例えば保守員の操作で上記異常警告を解除可能としている。
【0019】
また、別の発明は、上記発明のエレベータの押し釦予防保全装置において、登録回数記憶手段に記憶された各押し釦毎の、現在時点における呼び登録回数、未来の指定された時刻の予測登録回数と、算出された寿命到来時刻を表示器の表示画面にグラフィック表示する表示出力手段を有している。
【0020】
このような構成においては、エレベータの保守員は、表示器の表示画面にグラフィック表示された、各押し釦毎のデータを一瞥するのみで、各押し釦の寿命到来時刻を把握できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、各呼び登録装置に取付けられている複数の押し釦の操作回数をそれぞれ個別に計数でき、各押し釦毎に寿命到来時刻を把握でき、かつ寿命に至るまでに発生する故障をも検出でき、エレベータ全体の維持管理費を低減できるとともに、利用客に対するサービスを向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明のエレベータの押し釦予防保全装置の一実施形態を図面を用いて説明する。図1は押し釦予防保全装置が組込まれたエレベータを示す模式図である。
【0023】
ビル等の建屋に設置されたエレベータにおいては、建屋の地下階から最上階まで上下に貫通する昇降路1の上側の機械室内に巻上機2が配設され、この巻上機2に主ロープ3が掛けられ、この主ロープ3の一端にかご4が吊り下げられ、他端に釣合錘5が吊り下げられている。巻上機2は、制御盤6内に収納されている駆動部7で回転することによりかご4が昇降路1内を上下移動される。
【0024】
建屋の各階のエレベータホールの壁には乗場呼び登録装置8が設けられている。各乗場呼び登録装置8で登録された呼びは、信号線10を介して、制御盤6内に収納されている主制御部11へ入力される。かご4内には、かご呼び登録装置9がドア近傍の壁に固定されている。このかご呼び登録装置9で登録された呼びは、テールコード12を介して、制御盤6内に収納されている主制御部11へ入力される。
【0025】
制御盤6内には、このビルの管理室14内に設置された監視装置15に通信回線16を介して接続された通信部13が設けられている。さらに、制御盤6内には、管理室14内に設置された「エレベータの押し釦予防保全装置」としての予防保全装置17へ各呼び登録を信号線18を介して送信する呼び送信部19が設けられている。さらに、管理室14内には、監視結果や予防保全結果を表示する表示器20が設けられている。
【0026】
図2(a)にかご4内に設けられたかご呼び登録装置9の操作部を示し、図3にかご呼び登録装置9の概略構成を示す。図2(a)において、操作部には、このかご4の行き先階を指定する複数の行き先階の押し釦21が組込固定されている。また、ドア開閉操作を行う開閉釦22が有り、上部にはかご4の運転方向を示す方向表示器23、及びかご4の現在位置を表示するかご位置表示器24が取付けられている。さらに、このかご呼び登録装置9には、異常警告を解除する解除スイッチ25が設けられている。
【0027】
図3のかご呼び登録装置9において、CPU26に対して、接点21aとLED21bとからなる1F〜6Fの各行き先階の押し釦21、開閉釦22、方向表示器23、かご位置表示器24、解除スイッチ25が接続されている。さらに、このCPU26にテールコード12を介して制御盤6の主制御部11との間で各種情報交換を実施するための通信部27が接続されている。
【0028】
このような構成のかご呼び登録装置9において、各行き先階の押し釦21が押されると、接点21aが閉じ、LED21bが点灯し、通信部27からテールコード12を介して制御盤6の主制御部11へ行き先階を指定した「かご呼び」が送出される。
【0029】
図2(b)に各階に設けられた乗場呼び登録装置8の操作部を示し、図4に乗場呼び登録装置8の概略構成を示す。図2(b)において、操作部には、上方向の押し釦28と下方向の押し釦28と、かご位置表示器29が取付られている。
【0030】
図4の乗場呼び登録装置8おいて、CPU30に対して、接点28aとLED28bとからなる上方向の押し釦28と下方向の押し釦28と、かご位置表示器29と、信号線10を介して制御盤6の主制御部11との間で各種情報交換を実施するための通信部31が接続されている。
【0031】
このような構成の乗場呼び登録装置8において、各方向押し釦28が押されると、接点28aが閉じ、LED28bが点灯し、通信部31から信号線10を介して制御盤6の主制御部11へ自己の階を指定した「乗場呼び」が送出される。
【0032】
制御盤6の主制御部11は、各階の乗場呼び登録装置8、かご呼び登録装置9から行先階を指定した呼びが入力すると、鼓動部7へこの呼びが指定する階へかご4の移動指令を送出する。その結果、巻上機2が回転してかご4が指定された階へ移動する。主制御部11は、同時に、各階の乗場呼び登録装置8、かご呼び登録装置9から入力された階を指定した乗場呼び及びかご呼びを、呼び送信部19を介して管理室14内に設けられた予防保全装置17へ送出する。
【0033】
図5は、例えばコンピュータ等の情報処理装置で構成された予防保全装置17の概略構成を示す模式図である。この予防保全装置17内には、主制御部11から階を指定した「乗場呼び(呼び登録)」、「かご呼び(呼び登録)」が入力される呼び入力部32、各階の乗場呼び登録装置8及びかご呼び登録装置9に取付けられた各押し釦28、21毎に設けられた複数の釦寿命解析部33、各呼び釦21、28の稼働開始からの経過時間tを計時する複数の経過時間タイマ34、呼び登録回数テーブル35、操作部46等が設けられている。
【0034】
この実施形態のエレベータは、6階建の建屋に組込まれているので、かご呼び登録装置9には、階で特定される合計6個の押し釦21が解析対象に指定されている。また、1階の乗場呼び登録装置8には上向き押し釦28のみが設けられ、6階の乗場呼び登録装置8には下向き押し釦28のみが設けられている。したがって、6台の乗場呼び登録装置8で、方向及び階を指定した合計10個の押し釦28が解析対象に指定されている。その結果、16個の釦寿命解析部33が設けられている。
【0035】
呼び入力部32は、入力された[階」、又は「方向と階」を指定した呼び(呼び登録)の操作元の一つの押し釦21、28を判定して、当該押し釦21、28の釦寿命解析部33へ今回入力した呼び(呼び登録)を送出する。
【0036】
各釦寿命解析部33には、この釦寿命解析部33が解析対象とする一つの押し釦の稼働開始からの経過時間(時刻)tを計時するとともに、稼働開始から一定時間Δt経過する毎に、対応する釦寿命解析部33へ時間割込指令を送出する経過時間タイマ34が接続されている。したがって、押し釦を新規の押し釦に取り替えると、経過時間tはt=0に初期化される。当然、新規にエレベータを構築した場合は、全ての経過時間タイマ34は同一経過時間(時刻)tを計時する。
【0037】
呼び登録回数テーブル35内には、図6に示すように、解析対象の16個の各押し釦21、28に対する稼働開始時点からの操作回数を示す呼び登録回数Yの一定時間Δt経過した各時点(時刻)t=1、2、…、(m−2)、(m−1)、m、…における途中の登録回数Y1、Y2、…、Ym-2、Ym-1、Ym、…を順番に書き込む複数の領域35aが形成されている。さらに、この呼び登録回数テーブル35には、将来の指定時刻t=p、t=rにおける各予測呼び登録回数Yp、Yrを書込む領域35aも形成されている。
【0038】
図7は、各釦寿命解析部33の詳細構成図である。呼び登録回数カウンタ36は、自己の釦寿命解析部33が解析対象の押し釦21、28の稼働開始時点から呼び入力部32から入力された呼び登録の回数Yを計数している。呼び登録回数書込部37は、経過時間タイマ34から一定時間Δt経過する毎の時間割込指令が入力すると、呼び登録回数カウンタ36の呼び登録回数Ymを読み取って、呼び登録回数テーブル35の自己の押し釦における対応する経過時間t=mの領域35aに書込む。
【0039】
呼び登録回数予測部38は、例えば操作部46から将来の時刻tを措定した予測実行指令が入力すると、呼び登録回数テーブル35の自己の押し釦における各領域35aに記憶されている各呼び登録回数Yを用いて、指定された将来の指定時刻t=pの呼び登録回数Ypを予測する。この予測方法を図8を用いて説明する。
【0040】
例えば現在時刻における最新の領域35aの時刻(基準時刻)t=mの呼び登録回数Ymから、一つ前の時刻t=m―1の呼び登録回数Ym-1を減算した値(Ym―Ym-1)が、一定時間Δt当りの呼び登録回数の増加量(Ym―Ym-1)となる。呼び登録回数Yが経過時間に比例して増加すると仮定すると、将来の指定時刻t=pの呼び登録回数Ypは下式で求まる。
【0041】
Yp=Ym+(Ym―Ym-1)×(p―m)
そして、算出した将来の指定時刻t=pの予測呼び登録回数Ypを呼び登録回数テーブル3の時刻t=pの領域35aに書込む。
【0042】
さらに、必要に応じてこの指定時刻t=pより先の指定時刻t=rにおける予測呼び登録回数Yrを算出して、呼び登録回数テーブル3の時刻t=rの領域35aに書込む。
【0043】
定格寿命回数メモリ39には、この押し釦21、28の製造メーカが安全性を考慮して設定した定格寿命回数Ycが記憶されている。寿命時期算出部40は、呼び登録回数テーブル35の各領域35aに記憶されている各呼び登録回数Yを用いて、呼び登録回数Yが定格寿命回数Ycに達する寿命時刻(時期)tcを算出する。図8に示すように、呼び登録回数Yは経過時間tの関数として、下式で示される。
【0044】
Y=[(Ym―Ym-1)/Δt]・t
この式に定格寿命回数Ycを代入することにより(Y=Yc)、寿命時刻(時期)tcは下式で求まる。
【0045】
tc=(Yc×Δt)/(Ym―Ym-1
表示出力部41は、自己の監視対象の押し釦21、28の呼び登録回数テーブル35の現在時刻に最も近い領域35aの時刻である基準時刻t=mにおける呼び登録回数Ym、将来の指定時刻t=pの予測呼び登録回数Yp、定格寿命回数Yc、寿命時刻(時期)tcを外部の表示器20に、図10に示すように、他の各押し釦21、28の釦寿命解析部33の解析結果と共に一つの表示画面にまとめてグラフィック表示する。
【0046】
この図10に示す、各押し釦21、28の寿命解析結果によると、各階に設けられた乗場呼び登録装置8に取付られた上向押し釦28、下向押し釦28、かご4内に設けられたかご呼び登録装置9に取付けられた行き先階を指定する各押し釦21の稼働開始(t=0)からの一定時間Δt経過する時点における呼び登録回数Yは、押し釦21、28間で大きく変動するので、将来の指定時刻t=p、t=rにおける予測呼び登録回数Yp、Yが大きく変動し、さらに、寿命時刻(時期)tcも大きく異なる。
【0047】
例えば、建屋の出入りに通じる1階の乗場呼び登録装置8に取付けられ上向きの押し釦28の操作頻度は高いので、他の階の乗場呼び登録装置8に取付けられた押し釦28に比較して、操作回数が多いので、寿命時刻(時期)tcは、例えばかご呼び登録装置9の6階を指定する押し釦21の寿命時期(時刻)tcの半分程度である。
【0048】
したがって、エレベータの保守員は、定期点検時に管理室14内に設けられた予防保全装置17を操作して表示器20の表示画面に図10に示す各押し釦21、28の呼び登録回数解析結果を表示させることによって、各押し釦21、28の寿命時刻(時期)tcを把握できる。さらに、将来の指定時刻t=p、t=rにおける予測呼び登録回数Yp、Yを把握できるので、次回の点検時期を的確に設定できると共に、寿命時刻(時期)tcが近づいた、押し釦21、28の交換準備をすることができる。当然、寿命時期(時刻)tcが近づいた、押し釦21、28のみを交換すればよいので、エレベータ全体の保守管理費を節減できる。さらに、一部の押し釦21、28が突然故障する可能性が低下するので、利用客に対するサービスを向上できる。
【0049】
押し釦21、28を交換した場合は、対応する釦寿命解析部33の経過時間タイマ34の時刻(時間)tをt=0に初期設定する。
【0050】
図11は、表示器20に表示する現在時刻である基準時刻t=mにおける呼び登録回数Ym、将来の指定時刻t=(m+10年);10年後、t=(m+20年);20年後、t=(m+30年);30年後における各予測呼び登録回数Yp10、Yp20、Yp30、及び定格寿命回数Ycを表示器20に示した図である。この図11の表示を「表示モード10年」とする。
【0051】
また、図12は、表示器20に表示する現在時刻である基準時刻t=mにおける呼び登録回数Ym、将来の指定時刻t=(m+1年);1年後、t=(m+2年);2年後、t=(m+3年);3年後における各予測呼び登録回数Yp1、Yp2、Yp3を表示器20に示した図である。この図12の表示を「表示モード1年」とする。
【0052】
そして、「表示モード10年」と「表示モード1年」との相異点は、経過時間タイマ34における稼働開始から釦寿命解析部33へ時間割込指令を送出する時間間隔(一定時間Δt)であり、この時間間隔(一定時間Δt)を10:1に計算し直している。
【0053】
なお、図11、12においては、かご4のかご呼び登録装置9の1Fから6Fの各呼び釦21に対する解析結果を表示した。表示画面上で「表示モード」を選択可能である。
【0054】
次に、図7の釦寿命解析部33の異常検出部42、警報出力部43、警報解除部44、及び採用基準変更部46の動作を図9を用いて説明する。
【0055】
異常検出部42は、呼び登録回数テーブル35の各呼び登録回数Yを監視して、図9に示すように、一定時間Δt経過しても呼び登録回数カウンタ39の呼び登録回数Yが増加しない場合、例えば、t=m−1の領域35aの呼び登録回数Ym-1が、t=mの領域35aの呼び登録回数Ymに等しい(Ym=Ym-1)場合は、当該押し釦21、28は故障等の異常が発生したと判定する。警報出力部43は、異常検出部42で判定された当該押し釦21,28の異常発生の警告を表示器20に表示出力する。
【0056】
エレベータの保守員は、表示器20で当該押し釦21、28の異常発生の警告を確認すると、エレベータの実際の当該押し釦21、28の呼び登録が出力されない原因を調べて、原因が当該押し釦21、28の指定する階が当該階に入居していたテナントが引っ越して、当該階に行く利用者が居なくなったことに起因すると判断する。この場合は、図2(a)の解除スイッチ25を押すと、図7の警報解除部44が動作して、異常検出部42の異常検出状態を解除すると共に、警報出力部43の表示器20に対する警報出力状態を解除する。
【0057】
すなわち、ある一定期間Δtの押し釦21、28の操作回数がゼロである場合に異常を知らせることにより、押し釦21、28の汚れやいたずれにより、押し釦21、28が動作不良となり操作されていないという故障部位の特定ができる。
【0058】
次に採用基準変更部45の動作を図9を用いて説明する。図示するように、前述した故障以外の原因で、基準時刻である時刻t=mの領域35aの呼び登録回数Ymが一つ前の時刻t=m−1の領域35aの呼び登録回数Ym-1に等しい場合は、時刻t=m以降は正常に動作するとみなして、将来の指定時刻tpの予測呼び登録回数Ypを算出する場合には、例えば、原理的には、基準時刻をt=mからt=m−1に変更して、この変更後のt=m−1の領域35aの呼び登録回数Ym-1と一つ前のt=m−2の領域35aの呼び登録回数Ym-2時とを用いて、一定時間Δt当たりの増加量(Ym-1―Ym-2)を算出する。
【0059】
そして、増加量(Ym-1―Ym-2)を用いて、下式で将来の指定時刻tpの予測呼び登録回数Ypを算出する。
【0060】
Yp=Ym+(Ym-1―Ym-2)×(p―m)
この場合、呼び登録回数Ymは一つ前の呼び登録回数Ym-1に等しいので、予測呼び登録回数Ypは一つの増加量(Ym-1―Ym-2)だけ少ない。
【0061】
このように、たとえ一定時間Δt呼び登録回数Yが入力されなかったとしても、ほぼ正しい予測呼び登録回数Ypが得られる。
【0062】
また、エレベータの故障対策として、各押し釦21、22毎に、呼び登録回数を計数しているので、各押し釦21、22毎に寿命時刻(時期)tcを算出しているので、各押し釦21、22を最適時期で部品交換を実施することができる。
【0063】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。現在時刻tが寿命時刻(時期)tcに接近すると、表示器20に、寿命時刻(時期)tcが接近していることを警告表示することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係わるエレベータの押し釦予防保全装置が組込まれたエレベータの概略構成を示す模式図
【図2】同エレベータに組込まれたかご呼び登録装置及び乗場呼び登録装置の押し釦の配置図
【図3】同かご呼び登録装置の概略構成図
【図4】同乗場呼び登録装置の概略構成図
【図5】同実施形態の予防保全装置の概略構成を示す模式図
【図6】同予防保全装置内に設けられた呼び登録回数テーブルの記憶内容を示す図
【図7】同予防保全装置内に設けられた釦寿命解析部の詳細構成図
【図8】同予防保全装置における呼び登録回数の予測手順を説明するための図
【図9】同予防保全装置におけるデータ欠損を補う方法を説明するための図
【図10】同予防保全装置の釦寿命解析部の解析結果を示す図
【図11】同予防保全装置の釦寿命解析部の解析結果を10年表示モードで表示する図
【図12】同予防保全装置の釦寿命解析部の解析結果を10年表示モードで表示する図
【符号の説明】
【0065】
1…昇降路、2…巻上機、4…かご、6…制御盤、8…乗場呼び登録装置、9…かご呼び登録装置、14…管理室、15…監視装置、17…予防保全装置、20…表示器、21,28…押し釦、25…解除スイッチ、26,30…CPU、32…呼び入力部、33…釦寿命解析部、34…経過時間タイマ、35…呼び登録回数テーブル、35a…領域、36…呼び登録回数カウンタ、37…呼び登録回数書込部、38…呼び登録回数予測部、39…定格寿命回数メモリ、40…寿命時期算出部、41…表示出力部、42…異常検出部、43…警報出力部、44…警報解除部、45…採用基準変更部、46…操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋の各階の乗場に設けられた乗場呼び登録装置の押し釦を用いた呼び登録操作に応じてかごを当該階へ移動させるとともに、かご内に設けられたかご呼び登録装置の行き先階を指定する押し釦を用いた呼び登録操作に応じて当該かごを指定された階へ移動させるエレベータにおいて、
前記各呼び登録装置に設けられた各押し釦毎に呼び登録操作の稼働開始からの呼び登録回数を計数していく呼び登録回数計数手段と、
この呼び登録計数手段で計数されていく呼び登録回数における一定時間経過する毎に対応する時刻における呼び登録回数を順次記憶していく呼び登録回数記憶手段と、
この呼び登録回数記憶手段に記憶された各呼び登録回数を用いて将来の指定時刻の呼び登録回数を予測する呼び登録回数予測手段と、
この呼び登録回数予測手段にて予測された呼び登録回数に基づいて当該押し釦の寿命到来時刻を予測する寿命予測手段と
を備えたことを特徴とするエレベータの押し釦予防保全装置。
【請求項2】
前記呼び登録回数予測手段は、前記呼び登録回数記憶手段に記憶された複数の登録回数のうちの基準時刻と指定された時刻の呼び登録回数の単位時間当りの増加量を算出し、前記基準時刻から前記将来の指定時刻までの時間に前記単位時間当りの増加量を乗算してこの乗算値に前記基準時刻の呼び登録回数を加算することを特徴とする請求項1記載のエレベータの押し釦予防保全装置。
【請求項3】
前記基準時刻を操作指示にて変更可能にしたことを特徴とする請求項2記載のエレベータの押し釦予防保全装置。
【請求項4】
前記登録回数記憶手段にて、一定時間経過しても呼び登録回数が増加しない場合は、当該押し釦に対する異常発生を警告出力する異常判定手段を備えたことを特徴とする請求項1記載のエレベータの押し釦予防保全装置。
【請求項5】
前記異常判定手段にて異常発生が警告出力された後に、操作指示に基づいて前記異常発生の警告出力を解除する異常警告解除手段を備えたことを特徴とする請求項4記載のエレベータの押し釦予防保全装置。
【請求項6】
前記登録回数記憶手段に記憶された各押し釦毎の、現在時点における呼び登録回数、未来の指定された時刻の予測登録回数と、算出された寿命到来時刻を表示器の表示画面にグラフィック表示する表示出力手段を有したことを特徴とする請求項4記載のエレベータの押し釦予防保全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−202992(P2009−202992A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46143(P2008−46143)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】