説明

エレベータの救出運転システムおよび地震管制運転システム

【課題】地震時管制運転では、顧客によっては、地震が発生して非常停止したとき、通常の非サービス階への救出運転をさせない設定を要求される場合がある。このような場合にも、長時間をかけることなく、かご内の乗客を救出する。
【解決手段】エレベータが非常停止し、安全回路16から安全回路信号17が出力され、高ガル不検出信号15が出力され急行ゾーンに不停止階がある場合には、スピーカ20によって、「かご内のカードリーダ18に対して、ICカード認証を行うこと」によって、本来、非サービス階であっても最寄り階にかごを着床させ、乗客を救出することをアナウンスする。
このアナウンスに応じた乗客のICカード操作により、所定時間以内に、かご内にあるカードリーダ18にてICカードの情報が検出されると、非常停止したかご位置から近い階床である非サービス階にかごを走行させ、着床後戸開し、かご内の乗客を救出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータの停電時、故障時の非常停止、あるいは地震時等を広く含むエレベータの救出運転システムまたは地震管制運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータにおいては、停電時、故障時、あるいは地震時等において、階間に非常停止させたかごを、最寄階まで低速運転して着床させ、ドアを開く救出運転が必須である。本発明は、これらのうちのいずれの救出運転にも適用可能であるが、以下、地震管制運転を例に採って説明する。
【0003】
地震感知器は、一般にビルの最上階にあるエレベータ機械室及び最下階のエレベータ昇降路のピット内に設置されており、その地震感知器の設置された床の加速度が地震感知器の設定値を越えた場合、それに応じて各管制運転動作を行っている。
【0004】
地震発生により、特低ガルと低ガル信号を検出し、かごが走行中であり、かごが10秒以内に停止できる階床が急行階(かごが着床できるサービス階がなく、非サービス階である不停止階のみ)のためサービス階に着床できない場合、非常停止をし、安全回路が正常または復帰しており高ガル信号を検出していないのであれば、設定した所定時間後に自動的に低速度でかごを走行させ、サービス階または非サービス階の最寄階に着床させ、戸開を行いかご内の乗客救出を行う地震管制運転が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−359405号公報
【特許文献2】特開2000−335844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、非サービス階床区間を走行中に地震感知器が動作した場合、管理人が不在でも、管制センタからかご内乗客に操作を教えて、手動にて最寄階に停止させて乗客を救出することが開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、高ガル地震計が動作していなければ、1分後、重り(CW)とかごが離れる方向の最寄階まで自動的に低速運転し、着床させ、ドアを開いて乗客を救出することが開示されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1,2ともに、通常の非サービス階にも、救出運転時のかごを着床させることが可能なように設定されたケースについて述べたものであるが、顧客によっては、マンションのエレベータの場合など、個人認証媒体を持った利用者のみに、特定の階床のみに下車が可能とするなど、部外者の侵入を極端に嫌う設定を要求されることがある。すなわち、急行ゾーンで非常停止したかごは、低速運転でサービス階のみに止まる運転とし、非サービス階には止まらないように設定されることがある。
【0009】
このようなケースでは、地震が発生した時、高ガル信号を検出していないことを判定し、サービス階である最寄階に低速運転するが、サービス階である最寄階が遠い場合、かご内乗客の閉じ込め時間が長いという問題があった。このことは、停電時や何らかの異常時の非常停止においても、同様に、救出に時間がかかる欠点がある。
【0010】
本発明の目的は、かご内乗客の閉じ込め時間が短くて済むエレベータの救出運転システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の望ましい実施態様においては、複数の階床がそれぞれサービス階床および非サービス階床として設定され、非常停止したエレベータが低速救出運転される場合に、前記サービス階床のうちで最も近い最寄階に向かって低速運転し、当該最寄階に着床してドアを開くように設定されたエレベータの救出運転システムにおいて、かご内に配置された個人認証装置と、前記非常停止したエレベータかご内の前記個人認証装置に対して、当該エレベータを利用するために配布された個人認証用の記録媒体で個人認証操作がなされて、前記非常停止したエレベータが低速救出運転される場合に、前記非サービス階床を含む多階床のうち、最も近い最寄階に向かって低速運転し、当該最寄階に着床してドアを開くようにしたことを特徴とする。
【0012】
本発明の望ましい他の実施態様においては、複数の階床がそれぞれサービス階床および非サービス階床として設定され、地震発生により、非常停止したエレベータが地震時管制運転される場合に、前記サービス階床のうちで、かごが非常停止をした位置から最も近い最寄階に向かって低速運転し、当該最寄階に着床してドアを開くように設定されたエレベータの地震管制運転システムにおいて、かご内に配置された個人認証装置と、前記非常停止したエレベータかご内の前記個人認証装置に対して、当該エレベータを利用するために配布された個人認証用の記録媒体で個人認証操作がなされて、前記非常停止したエレベータが地震管制運転される場合に、前記非サービス階床を含む多階床のうち、かごが非常停止をした位置から最も近い最寄階に向かって低速運転し、当該最寄階に着床してドアを開くようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の望ましい実施態様によれば、停電、地震あるいは何らかの異常により、急行ゾーンでエレベータが非常停止した場合、かご内乗客は、かご内の個人認証装置に対して、当該エレベータ利用のために配布された個人認証媒体を用いて個人認証操作をすることで、非サービス階を含めた多階床の中の最寄階に低速運転し、着床してドアを開き、かご内乗客を短時間内に開放することができる。
【0014】
本発明のその他の目的と特徴は、以下に述べる実施例の中で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例によるエレベータ救出運転装置の制御装置の概要を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施例によるエレベータ救出運転装置の処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施例を図に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施例によるエレベータ救出運転装置の制御装置の概要を示すブロック図である。本発明は、停電時、地震時、あるいは何らかの故障時に限らず、エレベータが非常停止した後のエレベータの救出運転に適用可能であるが、以下、地震時を例に採って説明する。
【0018】
地震により発生する加速度を特低ガル、低ガル、高ガルという地震の強さにより検出する各地震感知器1,2,3は、機械室または昇降路のピット内に設置されている。地震発生時、特低ガル検出器1と低ガル検出器2は、検出した信号を地震信号検出装置4に出力する。特低ガルと低ガル信号の両方が検出されている場合、制御回路5には、低ガル検出信号6を出力する。ここで、かご走行運転判定装置7によって、かごが走行中であると判定したとき、かご走行中信号8を制御回路5に出力する。また、情報DB9のサービス階床情報エリア10からサービス階床の情報を、不停止(非サービス)階床情報エリア11から不停止階の情報を、急行ゾーン内不停止階判定装置12に出力する。
【0019】
このとき、かご走行運転判定装置7でかごが走行中であると判定され、急行ゾーン内不停止階判定装置12によって、かごの位置は10秒程度の走行ではサービス可能階に着床できないと判定された場合、制御回路5によってかごを非常停止させる。
【0020】
その後、制御回路5から、非常停止信号13をカードリーダ検出救出運転装置14に出力し、安全回路16が正常または復帰しているならば安全回路信号17をカードリーダ検出救出運転装置14に出力し、高ガル検出器3に高ガル信号が検出されていない場合は、カードリーダ検出救出運転装置14に高ガル不検出信号15を出力する。
【0021】
カードリーダ検出救出運転装置14は、次の条件を満たすとき、非常停止したかご位置から近い階床である不停止階にかごを走行させ、着床後戸開をし、かご内の乗客を救出する。すなわち、非常停止信号13が出力され、安全回路16から安全回路信号17が出力され、高ガル不検出信号15が出力されている場合には、スピーカ20によって、「かご内のカードリーダ18に、正規の利用者が、そのICカード認証を行うこと」によって、本来、非サービス階であっても最寄り階にかごを着床させ、乗客を救出することをアナウンスする。
【0022】
このアナウンスに応じた乗客のICカード操作により、所定時間以内に、かご内にあるカードリーダ18にてICカードの情報が検出されると、ICカード信号19をカードリーダ検出救出運転装置14に出力し、カードリーダ検出救出運転装置14は、不停止階走行指令信号21を不停止階走行指令装置22に出力し、非常停止したかご位置から近い階床である非サービス階にかごを走行させ、着床後戸開し、かご内の乗客を救出する。
【0023】
図2は、本発明の一実施例によるエレベータ救出運転装置の処理フロー図である。
【0024】
以上の地震時の動作を、図2の処理フローを参照して説明する。
【0025】
地震発生時(S1)において、特低ガル感知器1が動作したかどうか判断し(S2)、特低ガル感知器1が動作していない場合は、平常運転(S16)を継続する。
【0026】
特低ガル感知器1が動作している場合は、低ガル感知器2が動作したか判断し(S3)、低ガル感知器2が動作していない場合は、特低ガル検出地震管制運転(S17)となる。
【0027】
低ガル感知器2が動作している場合は、エレベータは走行中か判断し(S4)、かごが走行中でない場合は、低ガル検出地震管制運転となる(S18)。かごが走行中である場合は、急行ゾーンはあるか判断し(S5)、急行ゾーンがない場合は、やはり、低ガル検出地震管制運転となる(S18)。
【0028】
さて、急行ゾーンがある場合は、かごの位置は所定の短時間の走行によりサービス可能階に着床できるゾーンにあるかどうか判断し(S6)、かごの位置が所定の短時間の走行によりサービス可能階に着床できるゾーンにある場合は、低ガル検出地震管制運転となる(S18)。
【0029】
次に、かごの位置が、所定の短時間の走行では、サービス可能階に着床できないゾーンにある場合には、エレベータを非常停止させ(S7)、安全回路16は正常かまたは復帰したかどうか判断し(S8)、安全回路16が正常または復帰していない場合は、停止状態で運転休止となる(S19)。
【0030】
安全回路16が正常または復帰している場合には、高ガル感知器3が動作したか判断し(S9)、高ガル感知器3が動作した場合は高ガル検出地震管制運転となる(S20)。
【0031】
高ガル感知器3が動作していない場合は、急行ゾーンに不停止階はあるかどうか判断し(S10)、急行ゾーンに不停止階がない場合は、所定時間後に自動的に低速運転し(S21)、サービス階である最寄階に停止する(S22)。最寄階着床後、戸開をする(S15)。
【0032】
一方、急行ゾーンに不停止階がある場合は、かご内に設置されているスピーカ20を使い次のようなアナウンスを行う。「カードリーダにICカードを入力されれば、不停止階であったとしても、最も近い階に低速運転し、ドアを開きます」(S11)。アナウンス終了後、所定時間内にカードリーダ認証情報が入力されたかどうか判断し(S12)、所定時間内にカードリーダ認証情報が入力されていない場合、所定時間後に自動的に低速運転し(S21)、サービス可能である最寄階に停止し(S22)、着床後、戸開する(S15)。
【0033】
所定時間内にカードリーダ認証情報が入力された場合には、所定時間後、不停止階を含めた中の、最も近い階へかごを低速運転させ(S13)、着床後(S14)、戸開させる(S15)。
【符号の説明】
【0034】
1…特低ガル検出器、2…低ガル検出器、3…高ガル検出器、4…地震信号検出装置、5…制御回路、6…低ガル検出信号、7…かご走行運転判定装置、8…かご走行中信号、9…情報DB、10…サービス階床情報エリア、11…不停止階床情報エリア、12…急行ゾーン内不停止階判定装置、13…非常停止信号、14…カードリーダ検出救出運転装置、15…高ガル不検出信号、16…安全回路、17…安全回路信号、18…カードリーダ、19…ICカード信号、20…スピーカ、21…不停止階走行指令信号、22…不停止階走行指令装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階床がそれぞれサービス階床および非サービス階床として設定され、非常停止したエレベータが低速救出運転される場合に、前記サービス階床のうちで最も近い最寄階に向かって低速運転し、当該最寄階に着床してドアを開くように設定されたエレベータの救出運転システムにおいて、
かご内に配置された個人認証装置と、前記非常停止したエレベータかご内の前記個人認証装置に対して、当該エレベータを利用するために配布された個人認証用の記録媒体で個人認証操作がなされて、前記非常停止したエレベータが低速救出運転される場合に、前記非サービス階床を含む多階床のうち、最も近い最寄階に向かって低速運転し、当該最寄階に着床してドアを開くようにしたことを特徴とするエレベータの救出運転システム。
【請求項2】
請求項1において、前記非常停止したエレベータかご内に、個人認証操作を行えば非サービス階も含めた最寄階に着床してドアを開くことをアナウンスするようにしたことを特徴とするエレベータの救出運転システム。
【請求項3】
複数の階床がそれぞれサービス階床および非サービス階床として設定され、地震発生により、非常停止したエレベータが地震時管制運転される場合に、前記サービス階床のうちで、かごが非常停止をした位置から最も近い最寄階に向かって低速運転し、当該最寄階に着床してドアを開くように設定されたエレベータの地震管制運転システムにおいて、
かご内に配置された個人認証装置と、前記非常停止したエレベータかご内の前記個人認証装置に対して、当該エレベータを利用するために配布された個人認証用の記録媒体で個人認証操作がなされて、前記非常停止したエレベータが地震管制運転される場合に、前記非サービス階床を含む多階床のうち、かごが非常停止をした位置から最も近い最寄階に向かって低速運転し、当該最寄階に着床してドアを開くようにしたことを特徴とするエレベータの地震管制運転システム。
【請求項4】
請求項3において、前記非常停止したエレベータかご内に、個人認証操作を行えば非サービス階も含めた最寄階に着床してドアを開くことをアナウンスするようにしたことを特徴とするエレベータの地震管制運転システム。
【請求項5】
請求項4において、地震感知器の高ガル感知器が動作しておらず、エレベータの安全回路が正常であるとき、前記アナウンスするようにしたことを特徴とするエレベータの地震管制運転システム。ことを特徴とするエレベータの地震管制運転システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−32199(P2013−32199A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168889(P2011−168889)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】