説明

エレベータシステム

【課題】 関係法令で義務づけられている点検スペースを確保しつつ機械室全体の面積を小さくし、建物内スペースの有効活用の推進を図ること。
【解決手段】 絶縁トランス3が収納されているトランス箱15は、取付板23及びボルト部材24によりその上端部がフレーム部材19aに取り付けられ、上端部より下側の中間部及び下端部が空きスペース19dにおいて吊り下げられた状態となっている。これにより、所定の点検スペースを確保するための寸法を必要最小寸法とすることができ、機械室の面積を従来よりも小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ機械室を備えたエレベータシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エレベータシステムは、以前は殆ど全てのものが機械室を備えていたが、最近では建物内スペースの有効活用の観点から、低速度で小容量のエレベータについては機械室の不要なマシンルームレスタイプのものが主流になっている。一方、高速度で大容量のエレベータについては、依然として機械室を備えた機械室設置タイプのものが使用されている。この機械室は、エレベータ機材の専用設置スペースとして建物の最上階に設けられたものであり、内部に巻上機や制御盤等が設置されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図8は、従来の機械室設置タイプのエレベータシステムの構成図である。主電源1からの交流電力は受電ブレーカ2を介して絶縁トランス3の1次側に入力され、絶縁トランス3の2次側から出力される交流電力は高調波抑制フィルタ4を介してコンバータ5に入力されるようになっている。この交流電力はコンバータ5で直流に変換されると共に、コンデンサ6で平滑化された後、インバータ7で再度交流に変換されて巻上機9に出力されるようになっている。これらコンバータ5及びインバータ7はコントローラ8により制御されるものである。
【0004】
巻上機9にはメインロープ10が巻回されており、このメインロープ10の一端側及び他端側にはそれぞれかご11及びカウンタウエイト12が取り付けられている。また、かご11底部及びカウンタウエイト12底部間にはコンペンシーブ13を介してコンペンロープ14が接続されている。
【0005】
上記の巻上機9はエレベータ機械室に設置されるものである。そして、絶縁トランス3及び高調波抑制フィルタ4は、制御盤16と共にエレベータ機械室に設置されているトランス箱15内に収納されている。また、コンバータ5、コンデンサ6、及びインバータ7で構成される電力変換装置29もコントローラ8と共に、エレベータ機械室に設置されている制御盤16内に収納されている。
【0006】
図9は、図8のエレベータシステムに係る機械室内部の機器配置構成を示した平面図である。この図に示すように、壁17により機械室18が形成されており、室内の略中央部に基台19に取り付けられた巻上機9が設置されている。この巻上機9は、モータ9aと、メインロープ10が巻回されたメインシーブ9b及びセカンダリシーブ9cとにより構成されている。
【0007】
また、壁17の一部には扉20が設けられており、この扉20の近くに、受電箱21、制御盤16、オプション盤22、及びトランス箱15が設置されている。受電箱21には受電ブレーカ2が収納され、制御盤16にはコンバータ5、コンデンサ6、インバータ7、及びコントローラ8が収納され、オプション盤22には各種機能(例えば、停電時着床機能、群管理機能等)を実現するためのオプション機器が収納され、トランス箱15には絶縁トランス3及び高調波抑制フィルタ4が収納されている。
【0008】
そして、基台19の周囲には寸法L1,L2,L3を所定値(例えば、500mm)以上にすることにより、機械室18内で点検作業を行う作業員のための点検スペースの確保が関係法令で義務づけられている。
【特許文献1】特開2001−58778号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、図9に示した機械室18内の機器配置構成では、制御盤16とは別個にトランス箱15が設置され、このトランス箱15内に絶縁トランス3が収納されるようになっているが、これは次の理由によるものである。
【0010】
すなわち、第一に、絶縁トランス3の重量及び大きさはかなり大きなものであり(例えば、300kg程度)、これを制御盤16内に収納しようとすると制御盤16を構成する部材についてもかなりの強度及び大きさが要求され、全体としてかなり大型化されてしまうことになる。
【0011】
第二に、絶縁トランス3は主回路の電源として機能するものであり、容量及びサイズが大きいばかりでなく、接続ケーブルも径の大きなものとなるため、絶縁トランス3を制御盤16内に収納すると盤全体の3分の1以上のスペースが絶縁トランス3及びその配線材に占有されることになる。したがって、オプション機能が多種多様なオーダー型エレベータシステムの場合には、制御盤16内に追加しなければならない回路及びオプション機器も多くなるが、絶縁トランス3のために有効スペースが削減されてしまうことになる。
【0012】
第三に、絶縁トランス3を制御盤16内に配設しようとする場合、その配設位置は強度上及び耐震上の観点から制御盤下部となるので、接続ケーブルの引き出し位置も制御盤下部となる。しかし、制御盤下部からは、同時に、エレベータかごや乗場ホールとの間で接続される各種制御信号線も引き出されるが、この制御信号線を流れる信号が接続ケーブルの影響を受けて誤動作を引き起こす虞がある。
【0013】
以上の理由により、絶縁トランス3は制御盤16とは別個に設けられたトランス箱15内に収納される構成となっているが、そのため寸法L1,L2,L3のうちのいずれかの寸法(図9に示した例ではL2)を必要以上に大きくせざるを得ず、機械室全体の面積を小さくすることが困難であった。
【0014】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、関係法令で義務づけられている点検スペースを確保しつつ機械室全体の面積を小さくすることができ、建物内スペースの有効活用の推進という近時の要求に応えることが可能な、機械室設置タイプのエレベータシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するための手段として、請求項1記載の発明は、基台に取り付けられエレベータかごの昇降駆動を行う巻上機と、前記巻上機を制御する電力変換装置が収納された制御盤と、前記電力変換装置に対して主電源からの電源供給を行う絶縁トランスとが設置されているエレベータ機械室を備えたエレベータシステムにおいて、前記巻上機が取り付けられた基台の空きスペースに前記絶縁トランスを取り付けた、ことを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記絶縁トランスの1次側と前記主電源側とを結ぶ第1のケーブル部材、及び前記絶縁トランスの2次側と前記電力変換器側とを結ぶ第2のケーブル部材にシールド部材を施し、前記電力変換器からのノイズの影響が第2のケーブル部材及び第1のケーブル部材を介して主電源側に及ぶのを防止した、ことを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記主電源と前記絶縁トランスとの間に介在する受電ブレーカを前記基台に取り付けた、ことを特徴とする。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記絶縁トランスの1次側への通電状態を表示する通電表示灯を、前記基台に取り付けた、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、巻上機が取り付けられた基台の空きスペースに絶縁トランスを取り付けた構成としたので、従来必要としていた、絶縁トランスのみに適用される機械室内の平面的スペースを削減することが可能となり、関係法令で義務づけられている点検スペースを確保しつつ機械室全体の面積を小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態の要部である、基台19に対するトランス箱15の取付構造を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図である。基台19は、上側フレーム部材19a、下側フレーム部材19b、及び支持柱19cにより構成され、フレーム部材19aと下側フレーム部材19bとの間に空きスペース19dが形成されている。絶縁トランス3が収納されているトランス箱15は、取付板23及びボルト部材24によりその上端部がフレーム部材19aに取り付けられ、上端部より下側の中間部及び下端部が空きスペース19dにおいて吊り下げられた状態となっている。
【0021】
図2は、図1に示したトランス箱15の取付構造を採用した本実施形態のエレベータシステムの構成図である。図2が図8と異なる点は、高調波抑制フィルタ4をトランス箱15ではなく、制御盤16内に配設した点である。このように、高調波抑制フィルタ4を制御盤16内に配設することにより、トランス箱15を基台19の空きスペース19dに容易に取り付け可能な程度に小型化することができる。
【0022】
図3は、本実施形態のエレベータシステムに係る機械室内部の機器配置構成を示した平面図である。図3が図9と異なる点は、絶縁トランス3を収納したトランス箱15がオプション盤22の隣ではなく、基台19に取り付けられている点であり、また、このことにより寸法L2が小さくなっている点である。このように、基台19が有する空きスペース19dに絶縁トランス3を収納したトランス箱15を配置した構成とすることにより、所定の点検スペースを確保するための寸法L1,L2,L3のいずれについても必要最小寸法とすることができ、機械室18の面積を従来よりも小さくすることができる。
【0023】
なお、上記実施形態では、図1(b)に示されているように、トランス箱15が上側フレーム部材19aに取り付けられている例を示したが、図1(a)に示した状態の基台19の投影面積分のスペースから突出しない限りにおいて、トランス箱15を基台19のいずれの位置にも取り付けることができる。例えば、図1(b)において、トランス箱15の底面部を上側フレーム部材19aの上面に載置した状態でこれに固定してもよく、あるいはトランス箱15の底面部を下側フレーム部材19bの上面に載置した状態でこれに固定してもよい。
【0024】
図4は、本発明の第2の実施形態のエレベータシステムに係る機械室内部の機器配置構成を示した平面図である。図4が図3と異なる点は、絶縁トランス3の1次側と受電箱21内の受電ブレーカ2(主電源側)とが第1のケーブル部材25により接続されると共に、絶縁トランス3の2次側と制御盤16内の高調波抑制フィルタ4(電力変換装置側)とが第2のケーブル部材26により接続されており(但し、これらのケーブル部材25,26は図3においては図示が省略されていただけであり、実際には勿論用いられていたものである。)、更にこれらのケーブル部材25,26にシールド部材27が施されている点である。
【0025】
制御盤16内に収納されている電力変換装置29は高周波発生機器であり、高調波等に起因するノイズの影響を周囲に及ぼすことがある。一方、絶縁トランス3を収納したトランス箱15の配置個所が基台19になったことにより、ケーブル部材25,26が並行して敷設され、あるいは一緒に束線される構成となっている。したがって、電力変換装置29側で発生したノイズが第2のケーブル部材26側から第1のケーブル部材25側へ誘導されて主電源1に伝播され、更に主電源1からビル内の他の機器に悪影響を及ぼす虞がある。
【0026】
しかし、本実施形態によれば、シールド部材27により第2のケーブル部材26から第1のケーブル部材25へのノイズの誘導が遮断されるので、電力変換装置29からのノイズが主電源1を通って他の機器に悪影響を及ぼすのを防止することができる。なお、本実施形態ではシールド部材27が金属ダクトで形成される構成を想定しているが、ケーブル部材25,26自体にシールド線を使用する構成を採用してもよい。
【0027】
図5は、本発明の第3の実施形態の要部である、基台19に対するトランス箱15の取付構造を示す正面図である。図5が図1(b)と異なる点は、基台19を構成する上側フレーム部材19aの上面に、受電ブレーカ2を収納した受電箱21が取り付けられている点である。
【0028】
第1及び第2の実施形態では、図3及び図4に示されているように、受電箱21は制御盤16に隣接した位置に配設されている。しかし、この位置は巻上機9から離れているため、作業員が巻上機9の点検作業中に異常が発生し直ちに電源を切る必要が生じた場合に、その分だけ電源を切る時間が余分にかかってしまうことになる。そこで、この第3の実施形態では、上記のように、受電箱21を基台19側に取り付けて、点検作業中の作業員が迅速に電源遮断を行うことができるようにして作業上の安全性を向上させている。
【0029】
また、図3及び図4の構成では、制御盤16の隣接位置に受電箱21が配設されている分だけ、狭い機械室を更に狭くしている。特に、複数台のエレベータかごを運転するエレベータシステムでは、受電箱21の数も運転台数分だけ必要となるため、受電箱21が占めるスペースも決して無視し得ないものとなる。しかし、図5の構成では、受電箱21が上側フレーム部材19aの上面に取り付けられているので、平面的なスペースについては受電箱21が取り付けられていない場合と同じになり、平面的スペースをより広げることが可能になっている。
【0030】
図6は、第4の実施形態に係るエレベータシステムの構成図であり、図7は、この実施形態の基台19に対するトランス箱15の取付構造を示す正面図である。図6及び図7が図2及び図5とそれぞれ異なる点は、通電表示灯28が付加されている点だけである。
【0031】
図6の構成図から明らかなように、受電ブレーカ2がオフとなっていない限り、主電源1からの電圧は絶縁トランス3の1次側に印加されている。したがって、作業員が点検作業中に、受電ブレーカ2がオンとなっている状態をオフ状態と勘違いした場合には、絶縁トランス3の端子に素手で触れてしまい感電事故が発生する虞がある。しかし、本実施形態では、作業員が通電表示灯28により受電ブレーカ2のオンオフ状態を一目で確認できるので、感電事故の発生を未然に防止することができ、安全性の向上を図ることができる。そして、この通電表示灯28は、図7に示したように、受電箱21と同様に、上側フレーム部材19aの上面に取り付けられているので、通電表示灯28を追加することによって平面的スペースが拡大することはない。
【0032】
ところで、既述した各実施形態では、トランス箱15や受電箱21が基台19に取り付けられた構成となっているので、現場での搬入作業や組立作業を容易に行うことができるというメリットを得ることができる。すなわち、従来は、図9に示したように、トランス箱15及び受電箱21は基台19と離れた位置に配設される構成となっていたので、これらは基台19、巻上機9と同様にクレーンにより個別に機械室に揚重され、個別に据付作業が行われていた。そのため、クレーンでの揚重回数が多くなり、据付作業に要する労力も大きなものとなっていた。
【0033】
しかし、上記実施形態では、エレベータメーカの工場出荷時にトランス箱15及び受電箱21を巻上機9と共に基台19に一体に取り付けた構成とすることができるので、クレーンで一括して機械室に揚重・搬送することができる。したがって、上記実施形態の構成によれば、関係法令で義務づけられている点検スペースを確保しつつ機械室全体の面積を小さくすることができるという効果の他に、工場から現場までの搬送作業、現場での据付・組立作業に費やす労力を軽減することができるという効果を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態の要部である、基台19に対するトランス箱15の取付構造を示す説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図。
【図2】図1に示したトランス箱15の取付構造を採用した本実施形態のエレベータシステムの構成図。
【図3】上記第1の実施形態のエレベータシステムに係る機械室内部の機器配置構成を示した平面図。
【図4】本発明の第2の実施形態のエレベータシステムに係る機械室内部の機器配置構成を示した平面図。
【図5】本発明の第3の実施形態の要部である、基台19に対するトランス箱15の取付構造を示す正面図。
【図6】本発明の第4の実施形態に係るエレベータシステムの構成図。
【図7】上記第4の実施形態の基台19に対するトランス箱15の取付構造を示す正面図。
【図8】従来の機械室設置タイプのエレベータシステムの構成図。
【図9】図8のエレベータシステムに係る機械室内部の機器配置構成を示した平面図。
【符号の説明】
【0035】
1 主電源
2 受電ブレーカ
3 絶縁トランス
4 高調波抑制フィルタ
5 コンバータ
6 コンデンサ
7 インバータ
8 コントローラ
9 巻上機
9a モータ
9b メインシーブ
9c セカンダリシーブ
10 メインロープ
11 かご
12 カウンタウエイト
13 コンペンシーブ
14 コンペンロープ
15 トランス箱
16 制御盤
17 壁
18 機械室
19 基台
19a フレーム部材
19b フレーム部材
19c 支持柱
19d 空きスペース
20 扉
21 受電箱
22 オプション盤
23 取付板
24 ボルト部材
25 第1のケーブル部材
26 第2のケーブル部材
27 シールド部材
28 通電表示灯
29 電力変換装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台に取り付けられエレベータかごの昇降駆動を行う巻上機と、前記巻上機を制御する電力変換装置が収納された制御盤と、前記電力変換装置に対して主電源からの電源供給を行う絶縁トランスとが設置されているエレベータ機械室を備えたエレベータシステムにおいて、
前記巻上機が取り付けられた基台の空きスペースに前記絶縁トランスを取り付けた、
ことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
前記絶縁トランスの1次側と前記主電源側とを結ぶ第1のケーブル部材、及び前記絶縁トランスの2次側と前記電力変換装置側とを結ぶ第2のケーブル部材にシールド部材を施し、前記電力変換装置からのノイズの影響が第2のケーブル部材及び第1のケーブル部材を介して主電源側に及ぶのを防止した、
ことを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項3】
前記主電源と前記絶縁トランスとの間に介在する受電ブレーカを前記基台に取り付けた、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のエレベータシステム。
【請求項4】
前記絶縁トランスの1次側への通電状態を表示する通電表示灯を、前記基台に取り付けた、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のエレベータシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−96439(P2006−96439A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281501(P2004−281501)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】