説明

エレベーターシステム及びエレベーターシステムの制御方法

【課題】かご位置を把握できなくなった場合における復帰動作に要する期間が短縮されたエレベーターシステムを提供する。
【解決手段】各階床に停止するかご1と、かご1を駆動する電動機3と、かご1の駆動に応じてパルスを生成するロータリーエンコーダ9と、電動機3を制御する制御装置8と、各階床に設けられたRFID7と、かご1が各階床に近接した際にRFID7と通信可能なように設けられたRFID通信部とを含み、制御装置8は、かご1が各階床に停止した際のかご1の位置を示す情報とRFID7のIDとが関連付けられたかご位置判断情報を記憶しており、RFID7から読み出されたIDに基づいてかご位置判断情報を参照することにより、かご1の位置を認識可能であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターシステム及びエレベーターシステムの制御方法に関し、特に、各階に設置した遮蔽板にRFID(Radio Frequency IDentification)を組み込み、遮蔽板通過時のRFID情報を読み取ることで、かご位置補正を行なう方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エレベーターの駆動装置の軸に、かごが一定距離移動する毎にパルスを発生するパルス発生装置(ロータリーエンコーダ等)を取付け、そのパルス発生装置のパルス数をカウントする事で、かご位置を把握する方法がとられている。このようなパルス発生装置から発生するパルスを基にエレベーターのかご位置を演算する装置では、走行中に停電が発生すると、パルス数をカウントできず実位置を見失ってしまう場合がある。この問題を解決する為、停電直後の速度・方向・位置をバッテリーバックアップRAM領域に一旦記憶し、復電時にその情報を読み出し、それをもとに推定制動距離を求めて、かご位置を補正する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、停電中にもパルスカウント記録を継続可能なアブソリュートエンコーダを用い、復電後に同パルスを読み出し、かご位置を補正する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
その他、エンコーダを用いないかご位置検出方法として、遮蔽板の形状を各階個別に設定し、その違いを遮蔽板読み取り側に設置した光電装置の遮光状況によって個別判定し、遮蔽板通過時のかご位置を検出する方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
同じく、エンコーダを用いないかご位置検出方法として、塔内の上端および下端に設置した位置検知センサにより、それぞれセンサ検知対象である、かごの上面及び下面までの距離を検知し、双方の位置検出センサ検知距離の差異から、かご位置検出する方法がある。(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭56−75367公報
【特許文献2】特開平4−323180公報
【特許文献3】特開2006−188319公報
【特許文献4】特開2007−119102公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した特許文献1では、かご内乗客の乗降状態による重量増減やブレーキ性能によって制動移動距離のバラツキが生じ、正確なかご位置補正に至らない場合がある。また、停電が頻発した場合、正確な補正ができず、結果、実位置を把握する為に、端階まで運転する必要がある。
【0008】
また、特許文献2では、アブソリュートエンコーダの設置及び制御するプリント基板を設ける必要があり、設置コスト増になる。
【0009】
一方、特許文献3では、階別に遮蔽板を製造するためのコスト増、遮蔽板設置時に生じる設置間違いが考えられる。
【0010】
また、特許文献4では、位置検出センサの検出距離によって、例えば長行程エレベーター等で、かごを検知できない事が考えられる。また、塔内状況(埃等)により誤検知する懸念がある。
【0011】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、かご位置を把握できなくなった場合における復帰動作に要する期間が短縮されたエレベーターシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明の一態様は、建造物における複数の階床に停止するかごと、ロープを介して前記かごを駆動する電動機と、前記電動機による前記かごの駆動に応じてパルスを生成するロータリーエンコーダと、前記電動機を制御する制御装置と、前記複数の階床夫々に設けられた無線通信可能な記憶媒体と、前記かごが前記複数の階床夫々に近接した際に前記記憶媒体と通信可能なように前記かごに設けられた無線通信機とを含み、前記制御装置は、前記かごが前記複数の階床夫々に停止した際の前記かごの位置を示す情報であって前記ロータリーエンコータによって生成されるパルスに対応した情報と前記記憶媒体に記憶された情報であって前記複数の階夫々に設けられた記憶媒体毎に異なる情報とが関連付けられたかご位置判断情報を記憶しており、前記無線通信機によって前記記憶媒体から読み出された情報に基づいて前記かご位置判断情報を参照することにより、前記かごの位置を認識可能であることを特徴とする。
【0013】
ここで、前記制御装置は、前記ロータリーエンコータが生成したパルス数の蓄積に基づいて前記かごの位置を認識し、前記パルス数の蓄積と前記かごの位置との対応関係に差が生じた場合、前記電動機を制御して前記かごを前記複数の階床のいずれかに停止するように駆動し、停止した階床に設けられた記憶媒体から読み出された情報及び前記かご位置判断情報に基づいて前記かごの位置を認識して前記パルス数の蓄積を補正することが好ましい。
【0014】
また、前記かごが前記複数の階床の端階に接近していることを検知する端階接近センサを更に含み、前記制御装置は、前記パルス数の蓄積と前記かごの位置との対応関係に差が生じた場合、前記かごが下降するように前記電動機を制御し、前記端階接近センサによって前記かごが検知されている場合は、前記かごが接近している端階から離れる方向に移動するように前記電動機を制御することが好ましい。
【0015】
また、前記記憶媒体毎に異なる情報は前記記憶媒体を識別する識別情報であり、
前記かご位置判断情報は、前記かごの位置を示す情報と前記識別情報とが関連付けられた情報であることが好ましい。
【0016】
また、前記かご位置判断情報は、前記かごの位置を示す情報と前記識別情報と前記識別情報によって識別される記憶媒体が設けられた階床を示す情報とが関連付けられた情報であることが好ましい。
【0017】
また、前記制御装置は、前記複数の階床の端階から前記かごを駆動し、前記かごが前記複数の階床の夫々に到達したタイミングにおける前記パルス数に対応した前記かごの位置を示す情報、前記到達した階床に設けられた記憶媒体の識別情報を関連付けて記憶することにより前記かご位置判断情報を生成することが好ましい。
【0018】
また、前記記憶媒体毎に異なる情報は前記記憶媒体が設けられた階床を示す情報であることが好ましい。
【0019】
また、前記制御装置は、前記複数の階床の端階から前記かごを駆動し、前記かごが前記複数の階床の夫々に到達する毎に前記到達した階床に設けられた記憶媒体に前記到達した階床を示す情報を記憶させると共に、前記かごが前記複数の階床の夫々に到達したタイミングにおける前記パルス数に対応した前記かごの位置を示す情報と前記階床を示す情報とを関連付けて記憶することにより前記かご位置判断情報を生成することが好ましい。
【0020】
また、前記記憶媒体は、前記複数の階床のうち停止することが禁止された階床を示す情報を更に記憶していることが好ましい。
【0021】
また、前記かごに設けられ、発光部と受光部とが対向配置されたセンサと、前記複数の階床夫々に設けられ、前記かごが前記複数の階床夫々に停止した際に前記発光部と受光部との間を遮蔽する遮蔽板とを更に含み、前記無線通信機は前記センサの近傍に配置され、前記記憶媒体は前記遮蔽板の近傍に配置されていることが好ましい。
【0022】
また、本発明の他の態様は、建造物における複数の階床に停止するかごの駆動に応じて生成されるパルス数の蓄積に基づいて前記かごの位置を認識し、前記パルス数の蓄積と前記かごの位置との対応関係に差が生じた場合、前記かごを前記複数の階床のいずれかに停止するように駆動し、前記かごが前記いずれかの階床に停止した状態において、前記複数の階床夫々に設けられた無線通信可能な記憶媒体から記憶媒体毎に異なる情報を読み出し、前記読み出した情報に基づき、前記かごが前記複数の階床夫々に停止した際の前記かごの位置を示す情報であって前記パルス数に対応した情報と前記記憶媒体毎に異なる情報とが関連付けられたかご位置判断情報を参照して前記パルス数の蓄積と前記かごの位置の対応関係を補正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、かご位置を把握できなくなった場合における復帰動作に要する期間が短縮されたエレベーターシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係るエレベーターシステムの全体構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施例に係る端階接近センサの配置構成を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係るエレベーターシステムの制御構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例に係るエレベーターシステムの制御を実現するハードウェア構成を示す図である。
【図5】本発明の実施例に係る情報記憶手段に格納されているかご位置判断情報の例を示す図である。
【図6】本発明の実施例に係るかご位置判断情報の生成動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施例に係るかご位置補正動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係るRFID(Radio Frequency IDentification)を用いたかご位置補正方法の実施例を図に基づき説明する。
【0026】
本実施例におけるエレベーターシステムは、図1に示すように、昇降路を昇降するかご1、ロープを駆動してかご1を昇降させる電動機3、電動機3の駆動に連動してパルスを発生させるロータリーエンコーダ9及びこれらを総合的に制御する制御装置8を有する。かご1には、かご側を制御するかご側制御装置2が設けられている。このかご側制御装置2と制御装置8との間は、テールコード4によって接続されており、かご制御装置2と制御装置8とは、テールコード4を介して信号のやり取りを行なう。制御装置8内には、各機器との信号入出力処理および通信処理機能を有する図示しないマイコン基盤が搭載されており、このマイコン基板が、かご側制御装置2や、図示しない乗り場制御装置等の周辺機器を制御する。
【0027】
塔内には、各階毎に遮蔽板6が設置され、遮蔽板6には、RFID7が組み込まれている。RFID7は、無線通信が可能な記憶媒体であり、例えばミューチップ(登録商標)を用いることができる。RFID7は、各階毎に異なる情報を記憶しており、本実施例においては、RFID7の固体を識別する識別情報としてのIDを記憶している。この遮蔽板6の検知と、RFID7情報の読み取りは、かご上に設置したかご位置検出装置5により行なわれ、その信号および情報は、かご上制御装置2を介して、制御装置8内のマイコンに伝達される。
【0028】
図2(a)、(b)は、本実施例に係るエレベーターシステムにおける最上階及び最下階付近の構成を模式的に示す図である。図2(a)、(b)に示すように、本実施例に係るエレベーターシステムにおける最上階及び最下階付近には、ファイナルリミットスイッチ100a、リミットスイッチ100b及びスローダウンスイッチ100c(以降、総じて端階接近センサ100とする)が設けられている。
【0029】
端階接近センサ100は、かご1が最上階若しくは最下階いずれかの端階方向へ移動している場合に、かご1が端階に接近していることを検知し、減速制御を行ってかご1の移動範囲端部への衝突を防ぐためのセンサである。端階接近センサ100夫々の検知信号は、制御装置8に入力されるようになっており、制御装置8は、上記検知信号に基づいて各部の制御を行う。
【0030】
スローダウンスイッチ100cは、かご1が端階に接近した場合に、最初にかご1を検知する。制御装置8は、スローダウンスイッチ100cによる検知信号を取得すると、電動機3を制御してかご1の速度を減速させる。リミットスイッチ100bは、スローダウンスイッチ100cの次に、かご1を検知する。制御装置8はリミットスイッチ100bによる検知信号を取得すると、図示しない制動機構を制御し、かご1に非常制動、即ちブレーキをかける。
【0031】
ファイナルリミットスイッチ100aは、最後にかご1を検知する。制御装置8は、ファイナルリミットスイッチ100aによる検知信号を取得すると、電動機3の電源を遮断し、強制的にかご1を停止させる。このように、本実施例に係るエレベーターシステムにおいては、かご1が端階に接近した場合の制御として、複数段に渡って検知機構を設けることにより、安全性を高めている。また、端階接近センサによる検知信号は、本実施例に係るエレベーターシステムが非常停止した際の復帰動作において、かご1を移動させる方向を決定する際にも用いられる。これについては後述する。
【0032】
次に、本実施例に係るエレベーターシステムの制御構成について、図3を参照して説明する。図3は、本実施例に係るエレベーターシステムの制御構成を示すブロック図である。図3に示すように、制御装置8は、かご位置記憶手段8a、運転制御手段8b、かご位置補正手段8c及び情報記憶手段8dを含む。また、かご側制御装置2は、ドア制御手段2a、入力手段2b及び情報伝達手段2cを含む。また、かご位置検知装置5は、遮蔽板検知部5a及びRFID通信部5bを含む。
【0033】
かご位置記憶手段8aは、本実施例に係るエレベーターシステムを建造物に設置する際の初期設定動作において、各階毎のかご1の位置を記憶する。この初期設定動作及びかご位置記憶手段8aの機能については、後に詳述する。運転制御手段8bは、電動機3及びパルスエンコーダー9を制御することによりかご1を駆動する。尚、運転制御手段8bは、電動機3及びパルスエンコーダー9の他、上述した制動機構等の、かご1の運転に係る部位の制御を行う。
【0034】
運転制御手段8bは、ロータリーエンコーダ9が出力するパルスの蓄積により、かご1の位置、即ち高さを認識する。例えば、かご1が移動可能な範囲の最下部に位置する場合のパルスカウント値を0とする。かご1が上昇する方向に電動機3がロープを駆動すると、運転制御手段8bは、その駆動に応じてロータリーエンコーダが出力したパルスをカウントして加算する。他方、かご1が下降する方向に電動機3がロープを駆動すると、運転制御手段8bは、その駆動に応じてロータリーエンコーダが出力したパルスをカウントして減算する。このようなパルス数のカウント、即ち蓄積により、運転制御手段8bは、かご1の現在位置に応じたパルスカウント値を常に参照することができ、そのパルスカウント値に基づいてかご1の現在位置を認識することができる。
【0035】
かご位置補正手段8cは、本実施例の特徴的な構成の1つであり、本実施例に係るエレベーターシステムが非常停止し、運転制御手段8bによるパルスカウント値と実際のかご1の位置とがずれた場合に、そのずれを補正する。かご位置補正手段8cの機能については後に詳述する。
【0036】
情報記憶手段8dは、主として、RFID7に記憶されている情報と、運転制御手段8bによって制御されるかご1の位置を示す情報との対応関係を示す情報(以降、かご位置判断情報とする)を記憶している記憶媒体である。このかご位置判断情報は、かご位置補正手段8cによるかご1の補正動作において用いられる。これについては後に詳述する。
【0037】
ドア制御手段2aは、運転制御手段8bの戸開閉指令に応じて、各階に設けられたドアを開閉するドアモータを駆動し、ドアの開閉を行う。入力手段2bは、かご1の内部に設けられる行き先釦、開閉釦、照明、信号灯、放送等の入出力を行なうユーザインタフェースである。情報伝達手段2cは、制御装置8とかご位置検知装置5との間で情報のやりとりを行う。
【0038】
遮蔽板検知部5aは、発光部と受光部とが対向配置されたセンサであり、通常は受光部が発光部の照射光を検知している。これに対して、遮蔽板6は、かご1が移動することにより、上記発光部と受光部との間を遮蔽するように設けられている。また、各階に設けられている遮蔽板6は、かご1が各階の停止位置に位置した場合に上記発光部と受光部との間を遮蔽するように設置されている。従って、遮蔽板検知部5aは、かご1が各階の停止位置に到達したことを検知するセンサとして機能する。RFID通信部5bは、RFID7と無線通信を行い、RFID7に記憶されている情報を読み出し、若しくはRFID7に情報を書き込む無線通信機である。
【0039】
図3に示すような夫々の機能ブロックのうち、かご位置記憶手段8a、運転制御手段8b及びかご位置補正手段8cは、主としてソフトウェァにより実現される。図4に、かご位置記憶手段8a、運転制御手段8b及びかご位置補正手段8cを実現するための構成を示す。
【0040】
図4に示すように、本本実施例に係る制御装置8は、一般的なサーバやPC(Personal Computer)等の情報処理端末と同様の構成を有する。即ち、本本実施例に係る制御装置8は、CPU(Central Processing Unit)10、RAM(Random Access Memory)20、ROM(Read Only Memory)30、HDD(Hard Disk Drive)40及びI/F50がバス60を介して接続されている。
【0041】
CPU10は演算手段であり、制御装置8全体の動作を制御する。RAM20は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU10が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM30及びHDD40は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。I/F50は、バス60と各種のハードウェアやネットワーク等を接続し制御する。本本実施例においては、テールコード4を介したかご側制御装置2との通信手段として機能する。
【0042】
このようなハードウェア構成において、ROM30やHDD40等の記録媒体に格納されたプログラムがRAM20に読み出され、CPU10の制御に従って動作することにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、ハードウェアとの組み合わせによって、本実施例に係る制御装置8の機能を実現する図3に示すような機能ブロックが構成される。
【0043】
次に、情報記憶手段8dに記憶されているかご位置判断情報について図5を参照して説明する。図5に示すように、かご位置判断情報においては、RFID7が設けられている“階層”、各階床におけるかご1の停止位置を示す“かご位置”及び各RFID7に記憶されている“ID”が関連付けられている。
【0044】
図5に示す“かご位置”の単位は、ミリメートルである。運転制御手段8bは、上述したパルスカウント値と、かご1の高さを示すミリメートルとを相互に変換する機能を含む。即ち、図5に示す“かご位置”の情報は、ロータリーエンコータ9によって生成されるパルスのカウント値に対応した情報である。尚、かご位置判断情報に含まれる“かご位置”の単位を上述したパルスカウント値等の他の単位にしてもよい。
【0045】
図5に示すかご位置判断情報により、RFID通信部5bがRFID7から読み出したIDに関連付けられている“かご位置”の情報を取得することにより、かご1の現在位置が認識可能となる。この処理が、本実施例に係るかご位置補正手段8cの要旨となる処理である。
【0046】
次に、図5に示すかご位置判断情報を生成するための処理について説明する。この処理は、各階層におけるかご1の位置、即ち図5に示す“かご位置”と、各階層に設けられたRFID7に記憶されているIDとを関連付ける処理であり、本実施例に係るエレベーターシステムを建造物に設置する際の初期設定動作である。図6を参照して、この初期設定動作について説明する。
【0047】
本実施例に係る初期設定動作においては、運転制御手段8bが、端階から反対側の端階へ運転(以降、階高測定運転とする)を行う。このため、運転制御手段8bは、まずかご1を最下階へ移動させる(S601)。かご1が最下階に到着すると、最下階に配置された遮蔽板6がかご位置検出装置5によって検知される。この状態においてRFID通信部5bは、RFID7に記憶されているIDを読み取る。RFID通信部5bによって読み取られたIDは、情報伝達手段2cによって制御装置8に転送される。かご位置記憶手段8aは、情報伝達手段2cによって転送された上記IDと、運転制御手段8bがロータリーエンコーダ9の出力パルスに基づいて認識したかご1の位置とを関連付けて、最下階のかご位置判断情報(図5の例における階層1の行)として情報記憶手段8dに登録する(S602)。
【0048】
最下階のデータが登録されると、運転制御手段8bは、測定運転、即ち、端階である最下階から、他方の端階へ向かってかご1の移動を開始する(S603)。測定運転においては、RFID通信部5bとRFID7との通信の確実性のため、通常の速度よりも低速でかご1を移動させる。測定運転の結果、遮蔽板検知部5aが遮蔽板6を検知すると(S604/YES)、上述した最下階におけるデータ登録と同様に、RFID通信部5bが、RFID7に記憶されているIDを読み取り、かご位置記憶手段8aが、情報伝達手段2cによって転送された上記IDと、運転制御手段8bがロータリーエンコーダ9の出力パルスに基づいて認識したかご1の位置とを関連付けて、既にかご位置判断情報が記憶されている階層よりも1階層上のかご位置判断情報として情報記憶手段8dに登録する(S605)。
【0049】
制御装置8は、S605の処理により最上階のかご位置判断情報が登録されるまで、S603〜S605の処理を繰り返す(S606/NO)。そして、S605の処理により最上階のかご位置判断情報が登録されると(S606/YES)、運転制御手段8bは、階高測定運転を終了する。このような処理により、図5に示すかご位置判断情報が情報記憶手段8dに記憶される。
【0050】
このように、本実施例に係るエレベーターシステムにおいては、かご位置判断情報の生成に際して、先に遮蔽板6を設置し、かご1を実際に運転して遮蔽板検知部5aにより遮蔽板6が検知された際のパルスカウント値に基づいて、図5に示すような情報を生成する。従って、予め位置を決めてかご位置判断情報を生成した後、その位置に合わせるように遮蔽板6を設置する場合とは異なり、遮蔽板6の設置誤差による不具合を回避することが可能となる。
【0051】
尚、図6に示す動作は、エレベーターシステムの設置時の初期動作として実行されることが一般的であるが、エレベーターシステムの保守、点検等において実行されてもよい。また、エレベーターシステムが運用されている状態において、呼びなし状態が所定期間以上経過した際に自動的に実行されるようにしてもよい。いずれの場合においても、同運転は一般乗客が乗降していない状態で実行されることが望ましい。
【0052】
次に、本実施例に係るかご位置補正手段8cによる、かご1の位置ずれ補正動作について説明する。本実施例に係るかご位置補正手段8cは、停電等でエレベーターシステムが非常停止することにより、上述したパルスカウント値と実際のかご1の位置とに差が生じてずれてしまった場合に、パルスカウント値を実際のかご1の位置に応じて補正する。特に、非常停止の際のかご1の制動距離が長く、かご位置検知装置5が遮蔽板6を検知不能な状態において遮蔽板6を複数個通過してしまった場合に効果がある。上述したように、かご1の制動距離が長い場合の例としては、かご1が高速で移動する高層建造物ようの高速エレベーター等が有り得る。
【0053】
図7は、本実施例に係るかご位置補正手段8cによるかご1の位置ずれ補正動作を示すフローチャートである。図7に示すように、エレベーターシステムが非常停止(S701)した後、非常停止要因が解消すると(S702/YES)、かご位置補正手段8cは、運転制御手段8bに低速運転、即ち、低速でのかご1の移動を実行させる(S703)。S703において、運転制御手段8bは、原則としてかご1が下降するように電動機3を制御する。但し、最下階側に設けられている端階接近センサ100が、かご1を検知している場合、運転制御手段8bは、かご1が上昇するように、即ち、かご1が接近している端階から遠ざかる方向に電動機3を制御する。
【0054】
運転制御手段8bは、遮蔽板検知部5aが遮蔽板6を検知するまで、低速運転を続行する(S704/NO)。そして、遮蔽板検知部5aが遮蔽板6を検知すると(S704/YES)、運転制御手段8bは、電動機3を制御し、かご1を停止させる(S705)。そして、RFID通信部5bが、RFID7に記憶されているIDを読み取る(S706)。RFID通信部5bによって読み取られたIDは、情報伝達手段2cによって制御装置8に転送され、かご位置補正手段8cが取得する。
【0055】
かご位置補正手段8cは、RFID7から読み出されたIDを取得すると、情報記憶手段8dに記憶されているかご位置判断情報を参照して、かご位置補正を実行する(S707)。S707において、かご位置補正手段8cは、RFID7から読み出されたIDに基づいてかご位置判断情報を検索し、そのIDに関連付けられている“かご位置”の情報及び“階層”の情報を取得する。そして、かご位置補正手段8cは、上記取得した“かご位置”及び“階層”の情報を運転制御手段8bに入力する。
【0056】
運転制御手段8bは、かご位置補正手段8cから取得した“階層”の情報に基づいてかご1の現在時点での階層を認識すると共に、“かご位置”の情報をパルスカウント値に変換し、上述したパルスカウント値を更新する。これにより、運転制御手段8bが、かご1の現在位置を認識するためのパルスカウント値が、かご1の現在位置に応じた正確な値に補正される。その後、運転制御部8bが、エレベーターシステムを通常運転に復帰させ(S708)処理を終了する。尚、S708においては、非常停止によってかご1内に人が閉じ込められている場合もあり得るため、ドア制御手段2aが、かご1が停止している階層のドアモータを駆動し、ドアを開く。このような処理により、本実施例に係るエレベーターシステムにおけるかご位置の補正動作が完了する。
【0057】
従来であれば、エレベーターシステムが非常停止状態から復帰した後、かご1を一度端階まで移動させ、端階からロータリーエンコータ9が出力するパルス数をカウントし直す必要があったため、システムの復旧に多くの時間を要していた。これに対して、本実施例に係るかご位置の補正動作においては、エレベーターシステムが非常停止状態から復帰した後、かご1の低速運転によって最寄階に移動することにより、かご位置の補正が完了するため、かご位置喪失時の端階補正運転が不要となり、復旧運転時間の大幅な短縮を図ることができる。
【0058】
また、安価なRFIDおよびRFIDのR/W装置を適用する事により、高価なアブソリュートエンコーダの設置や、階別の遮蔽板製造などの対応が不要となり、コストを抑えることができる。以上説明したように、本実施例により、かご位置を把握できなくなった場合における復帰動作に要する期間が短縮されたエレベーターシステムを提供することができる。
【0059】
尚、上記実施形態においては、RFID7にはID情報が記憶されており、図5において説明したように、“階層”の情報と“ID”の情報とが関連付けられたかご位置判断情報に基づいてかご位置の補正を行う場合を例として説明した。しかしながら、夫々の遮蔽板6が設置された階層の情報をRFID7に記憶させても良い。このような場合について、以下に説明する。
【0060】
RFID7に階層の情報を記憶する態様の場合、図5において説明した情報記憶手段8dに記憶されるかご位置判断情報は、“ID”の情報が省略され、“階層”の情報と“かご位置”の情報とが関連付けられた情報となる。そして、図6において説明した初期設定動作において、かご位置記憶手段8aは、情報記憶手段8dに記憶されているかご位置判断情報にデータを登録すると共に、RFID通信部5bを介して、RFID7に情報を書き込む。
【0061】
具体的には、図6に示すS602において、かご位置記憶手段8aは、かご位置判断情報への“階層”及び“かご位置”の情報の登録加えて、RFID通信部5bを介して、最下階に設けられた遮蔽板6のRFID7に最下階を示す情報を書き込む。S602においては、その建造物の最下階が1階であれば、1階を示す情報が書き込まれ、地下1階であれば、地下1階を示す情報が書き込まれる。その後、最上階に到達するまでS604が繰り返される度、1階層ずつカウントアップした階層を示す情報がかご位置判断情報に登録されると共に、RFID7に書き込まれる。
【0062】
そして、この態様におけるかご位置補正動作においては、S706において、RFID7から階層を示す情報が読み出される。そして、S707において、かご位置補正手段8cは、“階層”の情報をキーとしてかご位置判断情報から“かご位置”の情報を取得し、上記と同様に運転制御手段8bにパルスカウント値の補正を実行させる。このような処理により、上記と同様の効果を得ることができる。
【0063】
また、上記実施形態においては、S708において、かご1が停止している階層のドアを開く場合を例として説明した。しかしながら、例えば金庫や、データセンター等、エレベーターシステムが設置されている建造物における各階層の用途によっては、人の侵入を避けるべき場合もあり得る。そのような場合、S707においてかご位置補正が完了した後、そのままドアを開くのではなく、他の階に移動してからドアを開くことが好ましい。
【0064】
このような態様は、図5において説明したかご位置判断情報において、侵入を避けたい階層の情報に関連付けて、侵入回避のフラグ情報を記憶しておくことにより可能である。また、侵入を避けたい階層に設けられた遮蔽板6のRFID7に、上記のフラグ情報を記憶しておくことによっても、実現可能である。
【0065】
また、S707の処理が完了した後、他の階層に移動してからドアを開く場合の他、S706においてデータを読み取った結果、侵入を回避すべき階層であった場合には、他の階層に移動してからS707に進むようにしても良い。
【0066】
また、かご位置記憶手段8aは、図6において説明した動作の他、図5に示すようなかご位置判断情報やRFID7に格納されている情報を書き換える必要がある場合にも動作する。この情報の書換え開始タイミングは、かご内操作釦の暗号や、図示のない保守端末又は電話回線等による遠隔からの指令に応じて実行することができる。
【0067】
また、上記実施形態においては、建造物の階層夫々に遮蔽板6が設けられ、かご1側に遮蔽板検知部5aが設けられ、遮蔽板検知部5aが遮蔽板6を検知することにより、かご1が各階床に到達したことを制御装置8が検知する場合を例として説明した。この他、かご1の各階床への到達を、RFID7によって検知することも可能である。RFID7とRFID通信部5bとの通信は、RFID通信部5bがポーリング信号を発信し、RFID7がそのポーリング信号によって電力を供給されて応答信号を発信することにより成立する。従って、RFID通信部5bが常にポーリング信号を発信し、RFID7からの応答を受信した時点で、かご1が各階床に到達したことを検知するようにしても良い。
【0068】
この場合、遮蔽板6及びかご位置検知装置5が省略されるため、RFID通信部5b及びRFID7は、他の部位に配置される。これは、遮蔽板6及びかご位置検知装置5と同様に、かご1が各階床に到達した際に、可能な限り接近する部位に配置されることが好ましい。例えば、かご1が塔内を上下する際にかご1をガイドするレールにRFID7を配置し、そのレールにガイドされる部位にRFID通信部5bを配置することができる。また、かご1に搭乗する人の安全性確保のため、かご1内の床と各階床におけるかご1への出入り口との間は可能な限り隙間がないように設計されている。従って、かご1と各階床との出入り口部分に、RFID通信部5b及びRFID7を配置しても良い。
【符号の説明】
【0069】
1 かご
2 かご側制御装置
2a ドア制御手段、
2b 入力手段、
2c 情報伝達手段、
3 電動機
4 テールコード
5 かご位置検知装置、
5a 遮蔽板検知部、
5b RFID通信部、
6 遮蔽板
7 RFID
8 制御盤
8a かご位置記憶手段、
8b 運転制御手段、
8c かご位置補正手段、
9 ロータリーエンコーダ
10 CPU、
20 RAM、
30 ROM、
40 HDD、
50 I/F

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物における複数の階床に停止するかごと、
ロープを介して前記かごを駆動する電動機と、
前記電動機による前記かごの駆動に応じてパルスを生成するロータリーエンコーダと、
前記電動機を制御する制御装置と、
前記複数の階床夫々に設けられた無線通信可能な記憶媒体と、
前記かごが前記複数の階床夫々に近接した際に前記記憶媒体と通信可能なように前記かごに設けられた無線通信機とを含み、
前記制御装置は、
前記かごが前記複数の階床夫々に停止した際の前記かごの位置を示す情報であって前記ロータリーエンコータによって生成されるパルスに対応した情報と前記記憶媒体に記憶された情報であって前記複数の階夫々に設けられた記憶媒体毎に異なる情報とが関連付けられたかご位置判断情報を記憶しており、
前記無線通信機によって前記記憶媒体から読み出された情報に基づいて前記かご位置判断情報を参照することにより、前記かごの位置を認識可能であることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記ロータリーエンコータが生成したパルス数の蓄積に基づいて前記かごの位置を認識し、前記パルス数の蓄積と前記かごの位置との対応関係に差が生じた場合、前記電動機を制御して前記かごを前記複数の階床のいずれかに停止するように駆動し、停止した階床に設けられた記憶媒体から読み出された情報及び前記かご位置判断情報に基づいて前記かごの位置を認識して前記パルス数の蓄積を補正することを特徴とする請求項1に記載のエレベーターシステム。
【請求項3】
前記かごが前記複数の階床の端階に接近していることを検知する端階接近センサを更に含み、
前記制御装置は、前記パルス数の蓄積と前記かごの位置との対応関係に差が生じた場合、前記かごが下降するように前記電動機を制御し、前記端階接近センサによって前記かごが検知されている場合は、前記かごが接近している端階から離れる方向に移動するように前記電動機を制御することを特徴とする請求項2に記載のエレベーターシステム。
【請求項4】
前記記憶媒体毎に異なる情報は前記記憶媒体を識別する識別情報であり、
前記かご位置判断情報は、前記かごの位置を示す情報と前記識別情報とが関連付けられた情報であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のエレベーターシステム。
【請求項5】
前記かご位置判断情報は、前記かごの位置を示す情報と前記識別情報と前記識別情報によって識別される記憶媒体が設けられた階床を示す情報とが関連付けられた情報であることを特徴とする請求項4に記載のエレベーターシステム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記複数の階床の端階から前記かごを駆動し、前記かごが前記複数の階床の夫々に到達したタイミングにおける前記パルス数に対応した前記かごの位置を示す情報、前記到達した階床に設けられた記憶媒体の識別情報を関連付けて記憶することにより前記かご位置判断情報を生成することを特徴とする請求項4または5に記載のエレベーターシステム。
【請求項7】
前記記憶媒体毎に異なる情報は前記記憶媒体が設けられた階床を示す情報であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のエレベーターシステム。
【請求項8】
前記制御装置は、前記複数の階床の端階から前記かごを駆動し、前記かごが前記複数の階床の夫々に到達する毎に前記到達した階床に設けられた記憶媒体に前記到達した階床を示す情報を記憶させると共に、前記かごが前記複数の階床の夫々に到達したタイミングにおける前記パルス数に対応した前記かごの位置を示す情報と前記階床を示す情報とを関連付けて記憶することにより前記かご位置判断情報を生成することを特徴とする請求項7に記載のエレベーターシステム。
【請求項9】
前記記憶媒体は、前記複数の階床のうち停止することが禁止された階床を示す情報を更に記憶していることを特徴とする請求項1乃至8いずれかに記載のエレベーターシステム。
【請求項10】
前記かごに設けられ、発光部と受光部とが対向配置されたセンサと、
前記複数の階床夫々に設けられ、前記かごが前記複数の階床夫々に停止した際に前記発光部と受光部との間を遮蔽する遮蔽板とを更に含み、
前記無線通信機は前記センサの近傍に配置され、
前記記憶媒体は前記遮蔽板の近傍に配置されていることを特徴とする請求項1乃至9いずれかに記載のエレベーターシステム。
【請求項11】
建造物における複数の階床に停止するかごの駆動に応じて生成されるパルス数の蓄積に基づいて前記かごの位置を認識し、
前記パルス数の蓄積と前記かごの位置との対応関係に差が生じた場合、前記かごを前記複数の階床のいずれかに停止するように駆動し、
前記かごが前記いずれかの階床に停止した状態において、前記複数の階床夫々に設けられた無線通信可能な記憶媒体から記憶媒体毎に異なる情報を読み出し、
前記読み出した情報に基づき、前記かごが前記複数の階床夫々に停止した際の前記かごの位置を示す情報であって前記パルス数に対応した情報と前記記憶媒体毎に異なる情報とが関連付けられたかご位置判断情報を参照して前記パルス数の蓄積と前記かごの位置の対応関係を補正することを特徴とするエレベーターシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−102163(P2011−102163A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257214(P2009−257214)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】