説明

エレベータ駆動装置の診断装置

【課題】シーブ溝の偏摩耗位置においてシーブと大きな負荷で接触することにより生じる主ロープの損傷の部位を容易に特定することができる。
【解決手段】本発明は、ロータリエンコーダ14から出力される信号に基づいて、主ロープ6a等のそれぞれのシーブ溝26a等に巻回されている曲げ部位のうちの大きな負荷が加えられる部位を特定する主ロープ負荷位置特定手段38と、レーザ変位センサ19等から出力される信号に基づいて、シーブ3のシーブ溝26a等の摩耗量の大きい偏摩耗位置、及びこの偏摩耗位置においてシーブ溝26a等に接触する主ロープ6a等の部位を特定する偏摩耗位置特定手段29と、主ロープ負荷位置特定手段38で特定された主ロープ6a等の部位と、偏摩耗位置特定手段29で特定された主ロープ6a等の部位に基づいて、主ロープ6a等の損傷位置を特定するロープ損傷位置特定手段43とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータに備えられ、シーブ及びこのシーブに巻回される主ロープを含む乗かごの駆動装置を診断するエレベータ駆動装置の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は本発明が対象としている駆動装置が備えられる一般的なロープ式エレベータの構成を示す図である。
【0003】
この図5に示すように、ロープ式エレベータは、昇降路13の上部に配置される機械室12に設けられるトラクションマシン1を備えている。このトラクションマシン1は、モータと減速機から成る駆動機構2を含んでいる。一端が乗かご7に接続され、他端がつり合い錘11に接続される主ロープ6は、シーブ3及びそらせ車4に巻回されている。前述した駆動機構2、シーブ3、及びそらせ車4は、機械室12内に設置されるマシンビーム5に保持されている。
【0004】
主ロープ6は、複数本のロープから成り、シーブ3には、これらの主ロープ6のそれぞれが巻回される複数のシーブ溝が設けられている。
【0005】
主ロープ6のそれぞれと乗かご7とは、ロープソケット8a、シンブルロッド9a、及びこのシンブルロッド9aに係着させたばね10aによって接続されている。主ロープ6のそれぞれとつり合い錘11も同様に、ロープソケット8b、シンブルロッド9b、及びこのシンブルロッド9bに係着させたばね10bによって接続されている。
【0006】
駆動機構2によって、シーブ3を介して主ロープ6のそれぞれを巻き上げ下げすることにより、乗かご7を昇降路13内において昇降させることができる。
【0007】
ところで、前述したシーブ3のシーブ溝のそれぞれは、主ロープ6のそれぞれとの摩擦により経年的に摩耗する。この摩耗の度合いがシーブ溝の全周面において均等でない偏摩耗状態になると、乗かご7の運転時に複数本の主ロープ6の送り量にばらつきが発生してしまう。また、複数本の主ロープ6の張力にもばらつきが発生する。これらの複数本の主ロープの張力のばらつきを放置しておくと、シーブ3のシーブ溝の偏摩耗を促進させたり、複数本の主ロープ6の寿命低下を招いたり、ストランド切れを引き起こすことがある。このため、シーブ3のシーブ溝の偏摩耗状態を適正に診断し、管理することが必要になる。
【0008】
図6は従来のエレベータ駆動装置の診断装置を示す図である。この図6は、特許文献1に開示されているもので、偏摩耗状態を管理しようとするものである。この従来技術は、シーブ3を回転させて、シーブ3のシーブ溝26a〜26dの特定部位の位置を計測する位置センサ30の位置データと、位置センサ30をシーブ3の中心軸方向に沿って移動させる軸方向移動手段31の駆動データと、シーブ3の回転角度を検出する回転角度検出手段32の回転角度データとを同時に計測・保存するようにしてある。計測・保存動作は、シーブ3を一回転以上回転させることを繰り返し行う。その後、保存した位置データと駆動データと回転角度データとから、シーブ3のシーブ溝26a〜26dの断面形状が算出される。すなわち、シーブ3のシーブ溝26a〜26dの摩耗量が算出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−198198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した従来技術は、シーブ3のシーブ溝26a〜26dの形状、すなわち摩耗量を計測することはできるが、複数本の主ロープの寿命低下やストランド切れなどの重大事故を引き起こす虞がある複数本の主ロープ6に最も負荷が加えられる部位の特定、すなわち、シーブ溝26a〜26dの偏摩耗位置においてシーブ3と大きな負荷で接触することにより生じる主ロープ6の損傷の部位の特定は困難であった。
【0011】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、シーブ溝の偏摩耗位置においてシーブと大きな負荷で接触することにより生じる主ロープの損傷の部位を容易に特定することができるエレベータ駆動装置の診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明に係るエレベータ駆動装置の診断装置は、エレベータに備えられ、乗かごを走行させる複数本の主ロープと、これらの主ロープが巻回される複数のシーブ溝を有するシーブとを含む駆動装置を診断するエレベータ駆動装置の診断装置において、前記シーブと同期して回転するロータリエンコーダと、このロータリエンコーダから出力される信号に基づいて前記乗かごの位置を演算する位置演算部と、前記ロータリエンコーダから出力される信号に基づいて前記乗かごの速度を演算する速度演算部と、前記位置演算部から出力される位置情報と前記速度演算部から出力される速度情報に基づいて、前記主ロープのそれぞれの前記シーブ溝に巻回されている曲げ部位のうちの大きな負荷が加えられる部位を特定する主ロープ負荷位置特定手段と、前記シーブの前記複数のシーブ溝のそれぞれの摩耗量を計測するレーザ変位センサと、このレーザ変位センサを前記シーブの軸方向に移動させる電動スライダと、この電動スライダを制御する電動スライダ制御手段と、前記ロータリエンコーダから出力される信号と、前記レーザ変位センサから出力される信号と、前記電動スライダ制御手段から出力される信号に基づいて、前記シーブの前記複数のシーブ溝それぞれの摩耗量の大きい偏摩耗位置、及びこの偏摩耗位置において前記シーブ溝に接触する前記主ロープの部位を特定する偏摩耗位置特定手段と、前記主ロープ負荷位置特定手段で特定された主ロープそれぞれの曲げ部位のうちの大きな負荷が加えられる部位と、前記偏摩耗位置特定手段で特定されたシーブ溝それぞれの摩耗量の大きい偏摩耗位置において前記シーブ溝に接触する前記主ロープの部位とに基づいて、前記主ロープそれぞれの損傷位置を特定するロープ損傷位置特定手段とを備えたことを特徴としている。
【0013】
本発明が対象としているロープ式エレベータにあっては、乗りかごを走行させた際に、シーブのシーブ溝に巻回されている主ロープの曲げ部位に対して、乗かごが加速度状態から定常走行に移る速度変局点、及び定常走行から減速状態に移る速度変局点において、大きな負荷がかかる。このことから、本発明は、位置演算部から出力される乗かごの位置情報と、速度演算部から出力される乗かごの速度情報とに基づいて、主ロープ負荷位置特定手段は、乗かごに接続されシーブのシーブ溝に巻回されて曲げられる主ロープの部位のうちの、負荷が大きくなる主ロープの部位を特定することができる。
【0014】
また本発明は、ロータリエンコーダと、レーザ変位センサと、電動スライダを駆動させることにより、シーブ溝のそれぞれの摩耗量を計測でき、その摩耗を生じているシーブ溝及び該当するシーブ溝の摩耗を生じている位置を特定することができる。また、シーブ溝の摩耗している部分と接触する主ロープの部位を特定することができる。すなわち、偏摩耗位置特定手段で、シーブ溝それぞれの摩耗量の大きい偏摩耗位置と、偏摩耗を生じているシーブ溝の部位に接触している主ロープの部位を特定することができる。
【0015】
そして本発明は、主ロープ損傷位置特定手段で、主ロープ負荷位置特定手段で特定された大きな負荷が加えられている主ロープの部位と、偏摩耗位置特定手段で特定された偏摩耗を生じているシーブ溝の部位に接触している主ロープの部位とを照合し、一致した主ロープの部位を主ロープの損傷位置と特定することができる。すなわち、本発明は、主ロープ負荷位置特定手段と偏摩耗位置特定手段と主ロープ損傷位置特定手段とを備えたことにより、シーブ溝の偏摩耗位置においてシーブ溝と大きな負荷で接触することにより生じる主ロープの損傷の部位を容易に特定することができる。
【0016】
また本発明は、前記発明において、前記偏摩耗位置特定手段は、前記ロータリエンコーダから出力される信号と、前記レーザ変位センサから出力される信号と、前記電動スライダ制御手段から出力される信号とを合成する信号合成手段と、この信号合成手段で合成された信号に基づいて、前記シーブの前記複数のシーブ溝のそれぞれの摩耗に伴う形状計測データ、及び摩耗している前記シーブ溝の部分と接触する主ロープの部位を記録するデータ記録手段と、このデータ記録手段で記録された前記シーブの前記複数のシーブ溝のそれぞれの摩耗に伴う形状計測データと、初期シーブ溝形状データとを比較し、前記シーブの前記複数のシーブ溝それぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置を特定するとともに、前記データ記録手段で記録されている主ロープの部位のうちの、それぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置において前記シーブ溝と接触する主ロープの部位を特定する比較手段とを含むことを特徴としている。
【0017】
また本発明は、前記発明において、前記偏摩耗位置特定手段は、前記比較手段で特定された前記シーブの前記複数のシーブ溝それぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置における摩耗量が、予め設定されるシーブ溝の修削が必要とされる基準摩耗量以上であるかどうかを判定する判定手段を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、主ロープ損傷位置特定手段により、主ロープ負荷位置特定手段で特定された主ロープの部位と、偏摩耗位置特定手段で特定された主ロープの部位とが照合され、一致した主ロープの部位を、シーブ溝の偏摩耗位置においてシーブと大きな負荷で接触することにより生じる主ロープの損傷の部位と容易に特定することができる。これにより、従来では困難であった主ロープの寿命低下やストランド切れの診断を容易に行うことができ、主ロープの摩耗状態に応じた早期の対応が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るエレベータ駆動装置の診断装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】本発明が診断対象としている駆動装置に含まれるシーブを示す正面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】本発明が診断対象としている駆動装置が備えられるエレベータの乗かごの速度特性を示す図である。
【図5】本発明が対象としている駆動装置が備えられる一般的なロープ式エレベータの構成を示す図である。
【図6】従来のエレベータ駆動装置の診断装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るエレベータ駆動装置の診断装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0021】
図1は本発明に係るエレベータ駆動装置の診断装置の一実施形態を示すブロック図、図2は本発明が診断対象としている駆動装置に含まれるシーブを示す正面図、図3は図2のA−A断面図、図4は本発明が診断対象としている駆動装置が備えられるエレベータの乗かごの速度特性を示す図である。
【0022】
本実施形態に係るエレベータは、ロープ式エレベータであり、このロープ式エレベータは、図1に示すように、マシンビーム5上に複数のシーブ溝を有するシーブ3が固定され、これらのシーブ溝のそれぞれに複数本の主ロープ6が巻回されている。また、主ロープ6を外側に向かって広げるように位置させるそらせ車4も備えられている。主ロープ6のそれぞれの一端は、乗かご7に接続され、他端はつり合い錘6に接続されている。前述したシーブ3及び主ロープ6は、乗かご7の駆動装置に含まれるものである。
【0023】
図2に示すように、マシンビーム5には、複数本の主ロープ6との接触を防止するためのロープカバー15が主ロープ6のそれぞれを覆うように設置されている。ロープカバー15には、対向する一対のマグネットベース16が磁力で取り付けられている。シーブ3は、前述のように複数のシーブ溝26a〜26hを有している。これらのシーブ溝26a〜26hのそれぞれに、主ロープ6a〜6hが巻回されている。
【0024】
本実施形態に係るエレベータ駆動装置の診断装置は、図1に示すように、シーブ3と同期して回転し、回転角度を検出するロータリエンコーダ14と、このロータリエンコーダ14から出力される信号に基づいて昇降路内における乗かご7の位置を演算する位置演算部34と、ロータリエンコーダ14から出力される信号に基づいて乗かご7の速度を演算する速度演算部36とを備えている。
【0025】
また、位置演算部34から出力される位置情報35と、速度演算部36から出力される速度情報37に基づいて、主ロープ6a〜6hそれぞれのシーブ溝6a〜6hに巻回されている部位のうちの大きな負荷が加えられる部位を特定する主ロープ負荷位置特定手段38を備えている。
【0026】
図4は乗かご7の速度特性を示しており、この図4において横軸は時間t、縦軸は速度vを示している。乗かご7を走行させる際に、シーブ3のシーブ溝26a〜26hに巻回されているそれぞれの主ロープ6a〜6hの曲げ部位は、乗かご7が加速状態39から定常走行41に移る速度変局点40a、及び定常走行41から減速状態42に移る速度変局点40bにおいて、大きな負荷がかかる。このことから、前述した主ロープ負荷位置特定手段30は、位置演算部34から出力される乗かご7の位置情報と、速度演算部36から出力される速度情報とに基づいて、乗かご7に接続されシーブ3のシーブ溝26a〜26hに巻回されて曲げられる主ロープ6a〜6hの部位のうちの、負荷が大きくなる主ロープ6a〜6hの部位を特定することができる。
【0027】
また本実施形態は、図1に示すように、シーブ3の複数のシーブ溝26a〜26hのそれぞれの摩耗量を計測するレーザ変位センサ19と、このレーザ変位センサ19をシーブ3の軸方向に移動させる電動スライダ18と、この電動スライダ18の駆動を制御する電動スライダ制御手段22とを備えている。前述したマグネットベース16には、シーブ3方向に向かってレーザ変位センサ19の位置を決める一対のブラケット17が対向して取り付けられている。このブラケット17には、電動スライダ18が固定され、電動スライダ18のシーブ3側にはレーザ変位センサ19が移動可能に保持されている。
【0028】
また本実施形態は、図1に示すように、ロータリエンコーダ14から出力される信号と、レーザ変位センサ19から出力される信号と、電動スライダ制御手段22から出力される信号に基づいて、シーブ3のシーブ溝26a〜26hそれぞれの摩耗量の大きい偏摩耗位置、及びこの偏摩耗位置においてシーブ溝26a〜26hに接触する主ロープ6a〜6hのそれぞれの部位を特定する偏摩耗位置特定手段29を備えている。
【0029】
この偏摩耗位置特定手段29は、ロータリエンコーダ14から出力される信号と、レーザ変位センサ19から出力される信号と、電動スライダ制御手段22から出力される信号とを合成する信号合成手段21を含んでいる。また、この偏摩耗位置特定手段29は、信号合成手段21で合成された信号に基づいて、シーブ3のシーブ溝26a〜26hそれぞれの摩耗に伴う形状計測データ、及び摩耗しているシーブ溝26a〜26hの部位と接触する主ロープ6a〜6hの部位を記録するデータ記録手段23を含んでいる。また、この偏摩耗位置特定手段29は、データ記録手段23で記録されたシーブ3のシーブ溝26a〜26hのそれぞれの摩耗に伴う形状計測データと、初期シーブ溝形状データとを比較し、シーブ3のシーブ溝26a〜26hそれぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置を特定するとともに、データ記録手段23で記録されている主ロープ6a〜6hの部位のうちの、それぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置においてシーブ溝26a〜26hと接触する主ロープ6a〜6hの部位を特定する比較手段24を含んでいる。
【0030】
図3はシーブ3のシーブ溝26aの摩耗状態を示している。この図3に示すように、例えばシーブ3のシーブ溝26aは、摩耗を生じていない初期シーブ溝形状部26と、摩耗を生じている摩耗シーブ溝形状部27と、最大摩耗シーブ溝形状部28とを有している。シーブ3の1番シーブ溝26aに関しては、例えば、前述した偏摩耗位置特定手段29の比較手段24において、最大摩耗シーブ溝形状部28の位置である偏摩耗位置と、この偏摩耗位置においてシーブ溝26aと接触する主ロープ6aの部位とが特定される。
【0031】
さらに、偏摩耗位置特定手段29は、比較手段24で特定されたシーブ3のシーブ溝26a〜26hそれぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置における摩耗量が、予め設定されるシーブ溝の修削が必要とされる基準摩耗量以上であるかどうかを判定する判定手段25を含んでいる。
【0032】
また本実施形態は、図1に示すように、主ロープ負荷位置特定手段38で特定された主ロープ6a〜6hそれぞれの曲げ部位のうちの大きな負荷が加えられる部位と、偏摩耗位置特定手段29で特定されたシーブ溝26a〜26hそれぞれの摩耗量の大きい偏摩耗位置において、シーブ溝26a〜26hに接触する主ロープ6a〜6hの部位とに基づいて、主ロープ6a〜6hそれぞれの損傷位置を特定するロープ損傷位置特定手段43を備えている。
【0033】
このように構成した本実施形態において、主ロープ6a〜6hの損傷位置は、以下のようにして把握される。
【0034】
例えば、1番シーブ溝26aに巻回される主ロープ6aの損傷位置を特定する場合、電動スライダ制御手段22により電動スライダ18を制御して、レーザ変位センサ19を1番シーブ溝26aを計測可能な位置に移動させる。このとき、レーザ変位センサ19の移動距離の信号が電動スライダ制御手段22から、信号合成手段21に出力される。
【0035】
この状態でシーブ3を回転させて乗かご7を低速運転し、レーザ変位センサ19からレーザ光20を照射させて、シーブ3を1回転以上回転させ1番シーブ溝26aの溝形状(摩耗量)を、この1番シーブ溝26aの全周にわたり計測する。このとき、シーブ3の回転に伴って回転するロータリエンコーダ14からの回転角度の信号が信号合成手段21に出力される。
【0036】
またこのとき、シーブ3の回転移動距離がロータリエンコーダ19によって検出されるので、レーザ変位センサ19からのレーザ光20の照射信号によって、1番シーブ溝26aの円周方向における計測開始時点と計測終了時点とが検出される。
【0037】
このような計測により、1番シーブ溝26aに関しては、図3に示す摩耗シーブ溝形状部27が検出され、また、ロータリエンコーダ19からの信号に基づいて摩耗シーブ溝形状部27に接触している主ロープ6aの部位が検出される。また、最大摩耗シーブ溝形状部28が検出され、また、ロータリエンコーダ19からの信号に基づいて最大摩耗シーブ溝形状部28に接触している主ロープ6aの部位も検出される。これらの検出データは、信号合成手段21からデータ記録手段23に送信され、このデータ記録手段23において記録される。
【0038】
その後、レーザ変位センサ19の位置を移動させて、2番シーブ溝26bから8番シーブ溝26hまでの計測が同様にして実施され、得られたデータがデータ記録手段23において記録される。
【0039】
次に、比較手段24において、データ記録手段23で記録されたシーブ3のシーブ溝26a〜26hのそれぞれの摩耗に伴う形状計測データと、初期シーブ溝形状データとが比較され、シーブ溝26a〜26hそれぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置を特定するとともに、データ記録手段23で記録されている主ロープ6a〜6hの部位のうちの、それぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置においてシーブ溝6a〜6hと接触する主ロープ6a〜6hの部位が特定される。例えば、1番シーブ溝26aにあっては、図3に示す最大摩耗シーブ溝形状部28の位置である偏摩耗位置が特定され、この偏摩耗位置においてシーブ溝6aと接触する主ロープ6aの部位が特定される。
【0040】
次に、判定手段25において、比較手段24で特定されたシーブ3のシーブ溝26a〜26hそれぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置における摩耗量が、予め設定されるシーブ溝の修削が必要とされる基準摩耗量以上であるかどうかが判定される。1番シーブ溝26aに関しては、最大摩耗シーブ溝形状部28における摩耗量が基準摩耗量以上であるかどうか判定される。
【0041】
そして最後に、ロープ損傷位置特定手段43において、主ロープ負荷位置特定手段38で特定された大きな負荷が加えられている主ロープ6a〜6hのそれぞれの部位と、偏摩耗位置特定手段29で特定された最大摩耗量を生じているシーブ溝26a〜26hの部位に接触している主ロープ6a〜6hの部位とが照合され、一致した主ロープ6a〜6hの部位が、主ロープ6a〜6hの損傷位置と特定される。
【0042】
このように構成した本実施形態によれば、偏摩耗位置特定手段29の比較手段24において、シーブ3のシーブ溝26a〜26hのそれぞれに生じている摩耗量と、その摩耗量が生じているシーブ溝26a〜26h上の位置を容易に把握することができ、シーブ3の摩耗進行状況を確実に管理することができる。
【0043】
また、偏摩耗位置特定手段29の判定手段25において、シーブ溝26a〜26hのそれぞれが、修削が必要な状態に至っているかどうか容易に診断することができる。
【0044】
また特に、ロープ損傷位置特定手段43において、シーブ3のシーブ溝26a〜26hのそれぞれの最大摩耗量に相応する偏摩耗位置において、これらのシーブ溝26a〜26hのそれぞれと大きな負荷で接触することにより生じる主ロープ6a〜6hの損傷の部位を容易に特定することができる。これにより、主ロープ6a〜6hの寿命低下やストランド切れの診断を容易に行うことができ、主ロープ6a〜6hの摩耗状態に応じた早期の対応が可能となる。
【符号の説明】
【0045】
3 シーブ
6 主ロープ
6a 1番主ロープ
6b 2番主ロープ
6c 3番主ロープ
6d 4番主ロープ
6e 5番主ロープ
6f 6番主ロープ
6g 7番主ロープ
6h 8番主ロープ
7 乗かご
14 ロータリエンコーダ
18 電動スライダ
19 レーザ変位センサ
21 信号合成手段
22 電動スライダ制御手段
23 データ記録手段
24 比較手段
25 判定手段
26 初期シーブ溝形状部
26a 1番シーブ溝
26b 2番シーブ溝
26c 3番シーブ溝
26d 4番シーブ溝
26e 5番シーブ溝
26f 6番シーブ溝
26g 7番シーブ溝
26h 8番シーブ溝
27 摩耗シーブ溝形状部
28 最大摩耗シーブ溝形状部
29 偏摩耗位置特定手段
34 位置演算部
35 位置情報
36 速度演算部
37 速度情報
38 主ロープ負荷位置特定手段
40a 速度変局点
40b 速度変局点
43 ロープ損傷位置特定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータに備えられ、乗かごを走行させる複数本の主ロープと、これらの主ロープが巻回される複数のシーブ溝を有するシーブとを含む駆動装置を診断するエレベータ駆動装置の診断装置において、
前記シーブと同期して回転するロータリエンコーダと、このロータリエンコーダから出力される信号に基づいて前記乗かごの位置を演算する位置演算部と、前記ロータリエンコーダから出力される信号に基づいて前記乗かごの速度を演算する速度演算部と、
前記位置演算部から出力される位置情報と前記速度演算部から出力される速度情報に基づいて、前記主ロープのそれぞれの前記シーブ溝に巻回されている曲げ部位のうちの大きな負荷が加えられる部位を特定する主ロープ負荷位置特定手段と、
前記シーブの前記複数のシーブ溝のそれぞれの摩耗量を計測するレーザ変位センサと、このレーザ変位センサを前記シーブの軸方向に移動させる電動スライダと、この電動スライダを制御する電動スライダ制御手段と、
前記ロータリエンコーダから出力される信号と、前記レーザ変位センサから出力される信号と、前記電動スライダ制御手段から出力される信号に基づいて、前記シーブの前記複数のシーブ溝それぞれの摩耗量の大きい偏摩耗位置、及びこの偏摩耗位置において前記シーブ溝に接触する前記主ロープの部位を特定する偏摩耗位置特定手段と、
前記主ロープ負荷位置特定手段で特定された主ロープそれぞれの曲げ部位のうちの大きな負荷が加えられる部位と、前記偏摩耗位置特定手段で特定されたシーブ溝それぞれの摩耗量の大きい偏摩耗位置において前記シーブ溝に接触する前記主ロープの部位とに基づいて、前記主ロープそれぞれの損傷位置を特定するロープ損傷位置特定手段とを備えたことを特徴とするエレベータ駆動装置の診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベータ駆動装置の診断装置において、
前記偏摩耗位置特定手段は、
前記ロータリエンコーダから出力される信号と、前記レーザ変位センサから出力される信号と、前記電動スライダ制御手段から出力される信号とを合成する信号合成手段と、
この信号合成手段で合成された信号に基づいて、前記シーブの前記複数のシーブ溝のそれぞれの摩耗に伴う形状計測データ、及び摩耗している前記シーブ溝の部分と接触する主ロープの部位を記録するデータ記録手段と、
このデータ記録手段で記録された前記シーブの前記複数のシーブ溝のそれぞれの摩耗に伴う形状計測データと、初期シーブ溝形状データとを比較し、前記シーブの前記複数のシーブ溝それぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置を特定するとともに、前記データ記録手段で記録されている主ロープの部位のうちの、それぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置において前記シーブ溝と接触する主ロープの部位を特定する比較手段とを含むことを特徴とするエレベータ駆動装置の診断装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエレベータ駆動装置の診断装置において、
前記偏摩耗位置特定手段は、
前記比較手段で特定された前記シーブの前記複数のシーブ溝それぞれの最大摩耗量を生じている偏摩耗位置における摩耗量が、予め設定されるシーブ溝の修削が必要とされる基準摩耗量以上であるかどうかを判定する判定手段を含むことを特徴とするエレベータ駆動装置の診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−62166(P2012−62166A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208022(P2010−208022)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】