説明

エレベータ

【課題】乗りかごの停止時における減速度を適正な値とし、かつ、短い距離で乗りかごを停止させる。
【解決手段】制動装置制御装置16は、乗りかご6が停止中である場合には、第1制動装置2と第2制動装置3とを釈放状態とし、乗りかご6が走行状態となった場合には第1制動装置2と第2制動装置3とを開放状態とする。乗りかご6の非常停止の必要がある場合には、制動装置制御装置16は、第1制動装置2と第2制動装置3とを釈放状態とする。乗りかご6の減速度が一定値以上の場合、もしくは、ロープスリップが発生した場合には、制動装置制御装置16は、第1制動装置2ないし第2制動装置3のいずれか一方を開放状態とする。乗りかご6の走行速度が一定値以上である場合には、制動装置制御装置16は、前述のように開放状態とした制動装置を再び釈放状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常時の制動制御機能を有するエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されるようなエレベータの制動装置では、乗りかごの停止中における、乗りかごとつり合いおもりとのアンバランスを十分に保持する静的保持力と、巻上機回転中に制御不良に陥った際に停止させる動的な制動力とが求められる。
【0003】
従来の制動装置は電磁コイルとコイルばねで構成されるものが多い。この制動装置は、具体的には、当該制動装置へ通電すると、コイルバネを押し縮めてパット部分を広げて開放する構造をもつ電磁クランパ式の制動装置である。電磁クランパ式の制動装置には、ディスク式やドラム式といった方式が挙げられる。
【0004】
しかし、この電磁クランパ式の制動装置は、乗りかごの停止状態でのかご位置の保持性能は高いが、当該制動装置は一般にはオンオフ制御であるため、特に走行中の乗りかごを非常停止させる際の制動特性についての制御が困難であった。
【0005】
近年、乗りかごの上昇加速保護や非常停止時の平均減速度が規定化もしくは法規化されてきており、制動装置には走行中の乗りかごを適切な制動力で停止させる機能が求められてきている。しかし、乗りかごの停止距離と当該乗りかごの減速度により乗りかご内の乗客に及ぼす衝撃とのトレードオフにより、制動装置の機能の選定可能な範囲が非常に狭くなるという問題が発生している。
【0006】
この問題を解決するために、例えば、制動装置により発生させるトルクを予め調整可能な構造とし、静的な保持トルクと動的な制動トルクないしは制動距離を定期的に測定して、制動装置のシュー材の磨耗や経年変化に対して調整を行なうことで、制動装置が適切な保持トルクや制動トルクを持つように維持管理を行なうことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−242377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、エレベータの制動装置に求められる性能は厳密になってきており、世界各国のエレベータ向けの法規によっても定められている場合もある。例えば、乗りかごの静止状態における静止保持トルクは、乗りかごとつり合いおもりとの間に発生する静的なアンバランストルクに対し、ある一定以上のトルクである必要がある。
また、乗りかごの走行中に何らかの異常が発生して非常制動を掛ける場合においても、乗客の安全を確保するため、制動時の減速度は一定値以内とする必要がある。
【0009】
一方で、昇降路終端階付近においては、乗りかごが十分に減速しきらない状態で終端部に突入することを抑制するために、必要十分な制動距離を確保した上で乗りかごを停止させる必要がある。
これらの条件を同時に満足するためには、制動装置の静的な保持トルク特性と、動的な制動トルク特性とが一定の範囲値内になるように管理する必要がある。
【0010】
ここで、エレベータの中でも一般的なつるべ式エレベータは、乗りかごとつり合いおもりとをメインロープで接続する構成であるが、乗りかご内の積載条件や乗りかごの位置によりアンバランストルクが異なることから、静的な保持トルクや動的な制動トルクが状態により異なる。
【0011】
従って、制動装置によるトルクの管理には、これら条件を考慮し、乗リかごの積載条件や乗りかごの位置によらず一定の静止及び制動性能を要求されることから、管理範囲はより厳密に管理される必要がある。
【0012】
前述した、制動装置のトルクの調整を行なう方法では、エレベータの定期検査の際に静的な保持トルクと動的な制動トルクとを都度確認して調整することは困難を伴う。また、当該調整は、調整員の技量に依存すると言う問題もある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、乗りかごの停止時における減速度を適正な値とし、かつ、短い距離で乗りかごを停止させることが可能になるエレベータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明に係わるエレベータは、シーブに巻き掛けられてロープを介してカウンタウエイトに連結されて吊り下げられる乗りかごと、巻上機を機械的に制動動作する複数の制動装置と、前記乗りかごの静止時は、前記複数の制動装置のいずれも釈放状態とすることで、当該乗りかごと前記カウンタウエイトとのアンバランストルクを保持するための保持トルクを発生させ、前記乗りかごの非常停止制御中で、前記乗りかごの減速度が一定値以上である場合は、前記複数の制動装置の一部を開放状態とすることで前記制動装置による制動力を緩和させ、当該非常停止制御中で、前記乗りかごの走行速度が一定値以上である場合には、前記開放状態とした制動装置を釈放状態とすることで前記制動装置による制動力を増加させる制動装置制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係わるエレベータは、シーブに巻き掛けられてロープを介してカウンタウエイトに連結されて吊り下げられる乗りかごと、巻上機を機械的に制動動作する複数の制動装置とを備え、前記複数の制動装置のいずれかは、前記乗りかごの非常停止時において、ロープスリップの発生を抑制し、前記乗りかごの減速度が一定値未満となり、かつ、前記乗りかごの当該走行速度が一定値未満となるような制動トルクを発生させる過負荷保護装置を介して前記巻上機の駆動軸に取り付けられ、前記乗りかごの静止時は、前記過負荷保護装置による制動トルクの発生を無効とすることで、当該乗りかごとカウンタウエイトのアンバランストルクを保持するための保持トルクを発生させ、前記乗りかごの非常停止制御中は、前記過負荷保護装置による制動トルクの発生を有効とし、かつ、前記複数の制動装置をともに釈放状態とする制動装置制御手段をさらに備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、乗りかごの停止時における減速度を適正な値とし、かつ、短い距離で乗りかごを停止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるエレベータの構成例を示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるエレベータの巻上機の制動装置の構成例を示す図。
【図3】本発明の第1の実施形態におけるエレベータのエレベータ制御装置の構成例を示すブロック図。
【図4】本発明の第1の実施形態におけるエレベータのブレーキ制御の一例を示すフローチャート。
【図5】本発明の第2の実施形態におけるエレベータの巻上機の制動装置の構成例を示す図。
【図6】本発明の第2の実施形態におけるエレベータのブレーキ制御の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、乗りかごとつり合いおもりとをメインロープを介してバランスさせて昇降運転するつるべ式エレベータにおいて、巻上機に対して複数台設置された制動装置を個々に制御して制動トルクを可変制御することで、乗りかごの停止時は乗りかごとつり合いおもりとの間のアンバランスにより発生するアンバランストルクに対し、法規などに要求された必要十分な静的保持力を確保しつつ、乗りかごの非常停止時は複数台の制動装置を個々に制御することにより、乗りかごの減速度を制御しながらロープとシーブの間に発生するすべり、つまりロープスリップを抑制し、かつ乗りかごの停止に要する距離である停止距離を最短とする機能を提供するものである。
【0019】
具体的には、例えば、比較的安価で実績のある電磁クランパを複数台分割して制動装置として巻上機に対して設置した上で、個々の制動装置を独立して制御することで制動トルクを能動的に変化させる機能を有し、かつ走行中に異常が発生して制動装置による非常停止を行なう場合に、乗りかごの走行速度と加減速度と巻上機の回転速度とを監視することで、乗りかごの減速度が乗りかご内の乗客に衝撃が顕著となる減速度となっていないか否か、およびロープスリップの発生有無を監視して制動トルクを可変とすることで必要十分な制動トルクを与え、かつ、乗りかごが停止するまでの走行距離を最短にするアンチロック制動機能を提供するものである。
【0020】
以下図面により本発明の実施形態について説明する。
(第1の実施形態)
次に、本発明の第1の実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態におけるエレベータの構成例を示す図である。
図1に示すように、本発明の第1の実施形態におけるエレベータは、2:1シングルラップによるローピングを用い、乗りかご6は、メインロープ10に巻き掛けられた、かご上シーブ7,7aに吊り下げられる。メインロープ10は、かご上シーブ7,7a、メインシーブ5を介して、つり合いおもりシーブ9に巻き掛けられる。つり合いおもり8はつり合いおもりシーブ9に吊り下げられる。
【0021】
乗りかご6は、巻上機1の駆動軸1aに設けられたメインシーブ5に巻き掛けられたメインロープ10を介してつり合いおもり8と連結される。乗りかご6は巻上機1の駆動によるメインシーブ5の回転に伴い、つり合いおもり8とともに互いに上下反対方向に昇降する。
【0022】
また、巻上機1の駆動軸1aには、乗りかご6の昇降動作の制動のためのディスク4が取り付けられる。このディスク4に対して、当該ディスク4に接触することで乗りかご6の昇降動作の制動を行なうための1台目の制動装置である第1制動装置2、および2台目の制動装置である第2制動装置3が設けられる。
【0023】
巻上機1には、巻上機1の軸回転をもとにした回転角度を検出して、この回転角度に比例した数のパルス信号を発生する巻上機用パルスエンコーダ12が取り付けられる。
また、乗りかご6の床面には、乗りかごの加速度もしくは減速度を検出するための加速度検出装置13が取り付けられる。
【0024】
また、このエレベータには、巻上機1やその他の機器の制御を行なうエレベータ制御装置11、調速器14、制動装置制御装置16が設けられる。調速器14の回転軸には、調速器14の軸回転をもとにした回転角度を検出して、この回転角度に比例した数のパルス信号を発生する調速器用パルスエンコーダ15が取り付けられる。
【0025】
また、調速器14には調速器ロープ21が巻き掛けられる。調速器ロープ21は昇降路下部の調速器テンショナ22に巻き掛けられて乗りかご6に接続される。
制動装置制御装置16は、機械室などに設けられる第1制動装置2および第2制動装置3の動作を制御する。この制御は、エレベータ制御装置11による走行制御とは異なる制御である。
【0026】
前述したように、本実施形態では、巻上機1の制動のために、第1制動装置2と第2制動装置3とでなる2台の制動装置を具備する。この実施形態では、乗りかご6の制動力は、巻上機1に取り付けられた第1制動装置2と第2制動装置3とにより与えられる制動力が、巻上機1の駆動軸1aに取り付けられたディスク4に作用することにより発生する構成となっている。
【0027】
図2は、本発明の第1の実施形態におけるエレベータの巻上機の制動装置の構成例を示す図である。
ここでは、第1制動装置2及び第2制動装置3のうち第1制動装置2の構成について説明するが、第2制動装置3の構成についても同様である。
図2に示すように、第1制動装置2は、電磁式のプランジャーであるアーマチュア2a、電磁コイル2b、パット2c、コイルバネ2dおよび外枠2eを有する。パット2cおよびコイルバネ2dは第1制動装置2について2つずつ設けられる。
【0028】
外枠2eの内側には、アーマチュア2a、電磁コイル2b、コイルバネ2d、パット2cが収納され、さらにディスク4の最外周部を含む外周部分が収納されるようになっている。
外枠2eの内側面には電磁コイル2bが固定される。電磁コイル2bには、2つのコイルバネ2dを介してアーマチュア2aが取り付けられる。電磁コイル2bからみたアーマチュア2aの先端部分の表面には1つ目のパット2cが取り付けられる。また、外枠2eの内側面に取り付けられた2つ目のパット2cは、その取り付け部分の面の反対の面が1つ目のパット2cの先端部分の表面と向かい合うように固定される。
【0029】
エレベータの運転停止時は、前述したアーマチュア2aに取り付けられるパットである1つ目のパット2cと、外枠2eの内側面に取り付けられた2つ目のパット2cとが、2つのコイルバネ2dの反発力によりディスク4の外周部分を挟み込む構成となっている。
【0030】
同様に、第2制動装置3は、アーマチュア3a、電磁コイル3b、パット3c、コイルバネ3d、外枠3eを有する。また、第2制動装置3のアーマチュア3aの先端面に取り付けられるパットである1つ目のパット3cと、外枠3eの内側面に取り付けられた2つ目のパット3cとが、2つのコイルバネ3dの反発力により、ディスク4の外周部分のうち第1制動装置2によって前述のように挟み込む部分と異なる部分を挟み込む構成となっている。
【0031】
このようにディスク4が挟み込まれた状態において、2つのパット2cとディスク4との間に生じる摩擦力が制動力となる。また、ディスク4に作用する摩擦力と当該摩擦力が作用する点までの半径長さとにより、巻上機1の駆動軸1aに作用する制動トルクが求まる。
【0032】
本実施形態では、第1制動装置2の2つのパット2cがディスク4に押し付けられ、巻上機1の駆動軸1aに制動トルクが作用している状態を、第1制動装置2が釈放状態にあると定義する。
【0033】
第1制動装置2の電磁コイル2bに電圧が印加されると、この電磁コイル2bは電磁力を発生し、アーマチュア2aを動作させて、コイルバネ2dを押し縮めて当該コイルバネ2dに取り付けられるパット2cをディスク4から引き離して制動力を開放する。本実施形態では、この状態を第1制動装置2が開放状態にあると定義する。
【0034】
制動装置制御装置16は、前述した第1制動装置2及び第2制動装置3を動作させることにより、巻上機1の駆動軸1aに制動力を作用させて、メインシーブ5を介して、メインロープ10により懸架されている乗りかご6の昇降動作を制動させる。
【0035】
本実施形態では、乗りかご6の静止状態において、乗りかご6とつり合いおもり8との質量差により発生して駆動軸1aに作用するアンバランストルクを解消、つまり保持させておくに必要十分な保持トルクが得られるように、第1制動装置2及び第2制動装置3により発生させるのに必要な保持トルクを選定することになる。
【0036】
ただし、アンバランストルクは乗りかご6内の積載条件や乗りかご6の位置条件により変動するので、この変動する最大のアンバランストルクを保持するに必要十分な保持トルクが得られるように、前述した必要な保持トルクを選定する必要がある。
【0037】
このように保持トルクが必要十分となるように選定する必要がある一方で、乗りかご6の走行状態からの非常停止などを行なう際においては、乗りかご6の減速度により発生するエレベータ全体系の慣性力がメインシーブ5とメインロープ10との間に発生する摩擦力を超過する事による滑り出しを防止し、かつ乗りかご6内の減速度を、乗りかご6内の乗客への衝撃が顕著となる一定値未満に保ちながら最短の距離で当該乗りかご6を停止させる必要がある。
よって、第1制動装置2及び第2制動装置3により発生させる動的な制動トルクは一定範囲内にある必要がある。
【0038】
前述した制動トルクの一定範囲とは、巻上機1の駆動軸1aに発生させる制動力をメインシーブ5とメインロープ10との間に発生する摩擦力よりも小さくすることでメインシーブ5とメインロープ10とが滑り出すのを抑制する範囲であって、なおかつ乗りかご6の減速中に当該乗りかご6の減速度のピーク値ないしは平均値が前述した、乗客への衝撃が顕著となる一定値未満となる範囲とし、第1制動装置2及び第2制動装置3による乗りかご6の制動距離が最短となるために必要十分な動的な制動力を上回る範囲で与えられる。
【0039】
また、前述した静的な保持トルクや、動的な制動トルク、乗りかご6の減速度ないし制動距離は、製品の性能や仕様やエレベータの法規等の要求仕様を満足するものでなければならない。
【0040】
第1制動装置2及び第2制動装置3は、第1制動装置2側のパット2cディスク4との間に発生する摩擦力、および第2制動装置3側のパット3cとディスク4との間に発生する摩擦力により制動力を発生させる構造である。しかし、例えば電磁コイル2b,3bに印加する電圧(電流)を制御して、コイルバネ2d,3dの押し付け力を変化させて、パット2c,3cとディスク4との間の摩擦力をコントロールすることは構造上困難である。
【0041】
また、前述の通り、第1制動装置2及び第2制動装置3は、静的な保持力の特性と、前述のように必要十分な範囲内での作用を要する動的な制動力の特性をともに具備する必要があるので、例えば制動トルクをコイルバネ2d,3dにより予め調整する方法では、繊細な設定と煩雑な調整手順が要求される。
【0042】
このような問題を解消するために、本実施形態では、制動装置制御装置16により、第1制動装置2と第2制動装置3のそれぞれを独立して制御する。乗りかご6の静止状態においては、第1制動装置2と第2制動装置3がディスク4に同時に作用することで必要十分な静的保持力を確保する。
【0043】
図3は、本発明の第1の実施形態におけるエレベータのエレベータ制御装置の構成例を示すブロック図である。
図3に示すように、エレベータ制御装置11は、乗りかご減速度検出部31、乗りかご走行速度検出部32、乗りかご走行距離検出部33、巻上機回転速度検出部34、ロープスリップ判定部35、減速度判定部36、走行速度判定部37を有する。
【0044】
エレベータ制御装置11の乗りかご減速度検出部31は、乗りかご6に設置した加速度検出装置13による検出結果をもとに、非常停止制御中で減速中の乗りかご6の減速度を検出する。
【0045】
エレベータ制御装置11の乗りかご走行速度検出部32は、乗りかご6に設置した加速度検出装置13による検出結果をもとに、非常停止制御中で減速中の乗りかご6の走行速度を検出する。
【0046】
エレベータ制御装置11の乗りかご走行距離検出部33は、調速器14に取り付けた調速器用パルスエンコーダ15による検出結果をもとに、非常停止制御中で減速中の乗りかご6の走行距離を検出する。この走行距離はメインロープ10の送り量に相当する。
【0047】
エレベータ制御装置11の巻上機回転速度検出部34は、巻上機1の駆動軸1aに取り付けた巻上機用パルスエンコーダ12により、巻上機1の回転速度を検出し、この検出値の微分演算を行なう。この微分演算結果は、巻上機1の回転により乗りかご6が走行すべき距離に相当する。
【0048】
エレベータ制御装置11のロープスリップ判定部35は、乗りかご走行距離検出部33により検出した走行距離の検出結果であるメインロープ10の送り量と、巻上機回転速度検出部34による検出結果の微分演算結果とを比較し、これらの差分が一定値以上である場合には、メインシーブ5とメインロープ10との間にすべりが発生していると認識する。
【0049】
次に、図1に示した構成のエレベータのブレーキ制御に関わる動作について説明する。
図4は、本発明の第1の実施形態におけるエレベータのブレーキ制御の一例を示すフローチャートである。
まず、エレベータ制御装置11は、乗りかご6が停止中であるか否かを検出する(ステップS1)。
乗りかご6が停止中である事をエレベータ制御装置11が検出している場合には(ステップS1のYES)、制動装置制御装置16は、この検出にともない、第1制動装置2と第2制動装置3とを同時に釈放状態として保持トルクを発生させる(ステップS2)。
【0050】
また、乗りかご6が停止中でない、つまり走行状態に移行する事をエレベータ制御装置11が検出している場合には(ステップS1のNO)、制動装置制御装置16は、この検出にともない、第1制動装置2と第2制動装置3とを開放状態として保持トルクを解放する(ステップS3)。
【0051】
このように乗りかご6が走行状態となった場合において、異常発生などにより、乗りかご6の非常停止制御を行なう必要がある事をエレベータ制御装置11が検出した場合には(ステップS4のYES)、制動装置制御装置16は、この検出にともない、第1制動装置2と第2制動装置3とを同時に釈放状態として動的な制動力を発生させる(ステップS5)。
【0052】
そして、エレベータ制御装置11の乗りかご減速度検出部31は、加速度検出装置13による検出結果をもとに、減速中の乗りかご6の減速度を検出する(ステップS6)。
エレベータ制御装置11の減速度判定部36は、乗りかご減速度検出部31により検出した減速度が一定値以上であるか否かを判定する(ステップS7)。
この減速度が一定値以上でないと減速度判定部36が判定した場合には(ステップS7のNO)、エレベータ制御装置11の乗りかご走行距離検出部33は、調速器14に取り付けた調速器用パルスエンコーダ15による検出結果をもとに、減速中の乗りかご6の走行距離であるメインロープ10の送り量を検出する(ステップS8)。
【0053】
そして、エレベータ制御装置11の巻上機回転速度検出部34は、巻上機用パルスエンコーダ12により巻上機1の回転速度を検出し、この検出値の微分演算を行なう。そして、エレベータ制御装置11のロープスリップ判定部35は、乗りかご走行距離検出部33により検出した走行距離の検出結果であるメインロープ10の送り量と、巻上機回転速度検出部34による検出結果の微分演算結果とを比較する。
ロープスリップ判定部35は、これらの差分が一定値以上でない場合にはメインシーブ5とメインロープ10との間のすべりが発生していないと判定(ステップS9のNO)、ステップS6の処理に戻る。
【0054】
一方、前述した差分が一定値以上である場合には、ロープスリップ判定部35は、メインシーブ5とメインロープ10との間のすべりが発生していると判定する(ステップS9のYES)。
すると、制動装置制御装置16は、第1制動装置2ないし第2制動装置3のいずれか一方を開放状態として制動トルクを緩和する(ステップS10)。
【0055】
この制動トルクの緩和後、すべりが発生しなくなったとロープスリップ判定部35が判定した場合には(ステップS11のYES)、制動装置制御装置16は、第1制動装置2ないし第2制動装置3のうち、ステップS10の処理で開放状態とした制動装置を再び釈放状態とすることで制動力を増加させる(ステップS12)。
【0056】
また、前述した減速度が一定値以上であると減速度判定部36が判定した場合には(ステップS7のYES)、制動装置制御装置16は、第1制動装置2ないし第2制動装置3のいずれか一方を開放状態として制動トルクを緩和する(ステップS13)。
【0057】
この制動トルクの緩和後、前述した減速度が一定値未満となった事を減速度判定部36が判定した場合には(ステップS14のYES)、制動装置制御装置16は、第1制動装置2ないし第2制動装置3のうち、ステップS13の処理で開放状態とした制動装置を再び釈放状態とすることで制動力を増加させる(ステップS14→S12)。
【0058】
また、ステップS11やステップS14の処理で「NO」と判定された場合、エレベータ制御装置11の乗りかご走行速度検出部32は、加速度検出装置13による検出結果をもとに、減速中の乗りかご6の走行速度を検出する(ステップS15)。
【0059】
この検出した走行速度が一定値以上であると走行速度判定部37が判定した場合には(ステップS16のYES)、制動装置制御装置16は、第1制動装置2ないし第2制動装置3のうち、ステップS10もしくはステップS13の処理で開放状態とした制動装置を再び釈放状態とする(ステップS16→S12)。前述した判定基準となる、走行速度の一定値は、非常停止制御中の乗りかご6の停止距離が乗客へ明らかな危険を及ぼす可能性が生ずる距離である。
【0060】
そして、乗りかご6が停止した事をエレベータ制御装置11が検出した場合には(ステップS17のYES)、処理を終了し、乗りかご6が停止していない事をエレベータ制御装置11が検出した場合には(ステップS17のNO)、ステップS6の処理に戻り、乗りかご6の減速度の検出以降の処理が再度なされる。
【0061】
以上のように、本発明の第1の実施形態におけるエレベータでは、複数の制動装置のいずれかを釈放状態もしくは開放状態とする制御を非常停止制御中の乗りかご6の減速動作中に繰り返し行なうことにより、メインシーブ5とメインロープ10との間のすべりを抑制し、かつ、所定の減速度以下で乗りかご6の走行速度を減速させつつ、乗りかご6を最短距離で停止させることが可能となる。
【0062】
また、乗りかご6の走行中に各種制動装置を用いた非常制動を行なう際は、エレベータ制御装置11に何らかの異常が発生している可能性があるが、本実施形態では、制動装置制御装置16による、制動トルクを制御するための各種制動装置の開放や釈放の制御は、エレベータ制御装置11による制御とは独立してなされる。よって、エレベータ制御装置11に異常が発生していたとしても、各種制動装置の開放や釈放の制御を正常に行なうことができる。
【0063】
また、制動装置制御装置16は電子回路を含む安全装置の要件を満足する制御装置であることが望ましい。また、エレベータの法規等によっては、制動装置には2台以上の独立した装置により構成される要件が存在する場合もあることから、本実施例において第1制動装置2及び第2制動装置3は、2台ないしは複数台を1組とした制動装置の組み合わせで構成されることが望ましい。
【0064】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、本実施形態におけるエレベータの構成は図1に示したものと基本的にほぼ同様であるので、図示および詳細な説明は省略する。
本実施形態では、巻上機1の駆動軸1aに複数枚のディスクを具備し、これらのディスクのそれぞれに、制動装置を1対1で設け、複数台の制動装置により制動力を当該制動装置に対応するディスクに作用する構成を有し、乗りかご6の非常制動時の制動トルクを可変とすることで適切な制動力を作用させることを特徴とする。
【0065】
図5は、本発明の第2の実施形態におけるエレベータの巻上機の制動装置の構成例を示す図である。
図5に示すように、本発明の第2の実施形態におけるエレベータの巻上機1の制動装置は、第1の実施形態と異なり、乗りかご6の昇降動作の制動のためのディスクは、第1制動装置2用のディスク4と、第2制動装置3用のディスク4aとがそれぞれ設けられる。
【0066】
また、巻上機1の駆動軸1aと第2制動装置3用のディスク4aとの接続部には、乗りかご6の非常停止時の制動トルクを抑制するための過負荷保護装置17が取り付けられる。
【0067】
本実施形態において、乗りかご6の制動力は、第1制動装置2とディスク4との間に発生する制動力と、第2制動装置3とディスク4aとの間に発生する制動力とにより、乗りかご6の静止時に必要な保持トルクと乗りかご6の走行時における非常停止を行なう際に必要な制動トルクをともに得ることが出来る。
【0068】
本実施形態では、第1制動装置2が制動力を作用するディスク4は巻上機1の駆動軸1aに固定されており、制動トルクはそのまま駆動軸1aの軸トルクとして作用する。
一方、第2制動装置3が作用するディスク4aは、駆動軸1aとの間に過負荷保護装置17を介して取り付けられる。制動装置制御装置16は、過負荷保護装置17の機能を有効ないし無効な状態に制御する機能を有する。過負荷保護装置17の機能が無効な状態とされた場合には、ディスク4aは駆動軸1aに完全に固定されている状態とみなすことができる。
【0069】
また、過負荷保護装置17の機能が有効な状態とされた場合で、ある一定の制動トルクがディスク4aに加わると、過負荷保護装置17が、当該制動トルクを保持したまま、駆動軸1aがすべりを発生させる機能を具備する。
本実施形態における過負荷保護装置17の機能は、一般に粘性流体を用いたカップリングを利用したトルクリミッタと類似の機能を有するものである。
【0070】
図6は、本発明の第2の実施形態におけるエレベータのブレーキ制御の一例を示すフローチャートである。初期状態では、過負荷保護装置17の機能は有効であるとする。
まず、エレベータ制御装置11は、乗りかご6が停止中であるか否かを検出する(ステップS21)。
乗りかご6が停止中である事をエレベータ制御装置11が検出している場合には(ステップS21のYES)、この検出にともない、エレベータ制御装置11は、過負荷保護装置17の機能を無効とする(ステップS22)。そして、制動装置制御装置16は、第1制動装置2と第2制動装置3とを同時に釈放状態として保持トルクを発生させ(ステップS23)、ステップS21の処理に戻る。
【0071】
また、乗りかご6が停止中でない、つまり走行状態に移行する事をエレベータ制御装置11が検出している場合には(ステップS21のNO)、制動装置制御装置16は、この検出にともない、第1制動装置2と第2制動装置3とを開放状態として保持トルクを解放する(ステップS24)。
【0072】
このように走行状態となった場合において、異常発生などにより、乗りかご6の非常停止制御を行なう必要がある事をエレベータ制御装置11が検出している場合には(ステップS25のYES)、制動装置制御装置16は、この検出にともない、過負荷保護装置17の機能を有効に設定した上で(ステップS26)、第1制動装置2と第2制動装置3とを同時に釈放状態として動的な制動力を発生させる(ステップS27)。
【0073】
メインシーブ5とメインロープ10との間にすべりが発生する際の制動トルクの値、及び乗りかご6の減速度が前述した一定値以上となることにより乗りかご6内への乗客への衝撃が顕著となる際の制動トルクの値は、予め設計もしくは実験などにより求めることが出来る。
【0074】
本実施形態では、過負荷保護装置17の機能が有効に設定されている場合は、メインシーブ5とメインロープ10との間にすべりが発生する際の制動トルク未満となり、かつ乗りかご6の減速度が前述した一定値未満となることにより、制動トルクは、乗りかご6内への乗客への衝撃が顕著となる際の制動トルク未満となる。
【0075】
つまり、本実施形態では、乗りかご6の非常停止時において、制動装置により発生する制動トルクは、メインシーブ5とメインロープ10との間にすべりが発生する際の制動トルク未満、もしくは乗りかご6の減速度が前述した一定値未満となる。
【0076】
この事により、乗りかご6内への乗客への衝撃が顕著となる際の制動トルクに到達する前に過負荷保護装置17を動作させて、乗りかご6の必要十分な制動トルクのみを駆動軸1aに伝達する。これにより、メインシーブ5とメインロープ10との間にすべりを抑制し、かつ一定値未満の減速度で乗りかご6を減速させつつ、最短距離で停止させることができる。
【0077】
そして、乗りかご6が停止した事をエレベータ制御装置11が検出した場合には(ステップS28のYES)、エレベータ制御装置11は、過負荷保護装置17の機能を無効とする(ステップS29)。
【0078】
以上のように、本発明の第2の実施形態におけるエレベータでは、巻上機の駆動軸と複数枚のいずれかのディスクとの接続部に乗りかごの非常停止時の制動トルクを抑制するための過負荷保護装置を設け、乗りかごの非常停止制御時において、過負荷保護装置の機能が有効に設定されている場合は、制動装置により発生する制動トルクは、メインシーブ5とメインロープ10との間にすべりが発生する際の制動トルク未満となり、かつ乗りかご6の減速度が前述した一定値未満となる。これにより、乗りかご6内への乗客への衝撃が顕著となる際の制動トルク未満とすることができる。
【0079】
よって、第1の実施形態で説明したような、制動装置を釈放もしくは開放させる制御を乗りかご6の非常停止のための減速中に繰り返し行なうことなしに、メインシーブ5とメインロープ10との間のすべりを抑制し、かつ、所定の減速度以下で乗りかご6の走行速度を減速させつつ、乗りかご6を最短距離で停止させることが可能となる。
【0080】
なお、この発明は前記実施形態そのままに限定されるものではなく実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、前記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を省略してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…巻上機、1a…巻上機の駆動軸、2…第1制動装置、2a…第1制動装置のアーマチュア、2b…第1制動装置の電磁コイル、2c…第1制動装置のパット、2d…第1制動装置のコイルバネ、2e…第1制動装置の外枠、3…第2制動装置、3a…第2制動装置のアーマチュア、3b…第2制動装置の電磁コイル、3c…第2制動装置のパット、3d…第2制動装置のコイルバネ、3e…第2制動装置の外枠、4,4a…制動装置用のディスク、5…メインシーブ、6…乗りかご、7,7a…かご上シーブ、8…つり合いおもり、9…つり合いおもりシーブ、10…メインロープ、11…エレベータ制御装置、12…巻上機用パルスエンコーダ、13…乗りかごの加速度検出装置、14…調速器、15…調速器用パルスエンコーダ、16…制動装置制御装置、17…過負荷保護装置、21…調速器ロープ、22…調速器テンショナ、31…乗りかご減速度検出部、32…乗りかご走行速度検出部、33…乗りかご走行距離検出部、34…巻上機回転速度検出部、35…ロープスリップ判定部、36…減速度判定部、37…走行速度判定部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シーブに巻き掛けられてロープを介してカウンタウエイトに連結されて吊り下げられる乗りかごと、
巻上機を機械的に制動動作する複数の制動装置と、
前記乗りかごの静止時は、前記複数の制動装置のいずれも釈放状態とすることで、当該乗りかごと前記カウンタウエイトとのアンバランストルクを保持するための保持トルクを発生させ、前記乗りかごの非常停止制御中で、前記乗りかごの減速度が一定値以上である場合は、前記複数の制動装置の一部を開放状態とすることで前記制動装置による制動力を緩和させ、当該非常停止制御中で、前記乗りかごの走行速度が一定値以上である場合には、前記開放状態とした制動装置を釈放状態とすることで前記制動装置による制動力を増加させる制動装置制御手段と
を備えたことを特徴とするエレベータ。
【請求項2】
前記制動装置制御手段は、
前記乗りかごの非常停止制御中においてロープスリップが発生している場合には、前記複数の制動装置のいずれかを開放状態とする
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項3】
前記制動装置制御手段は、
乗りかごの走行を制御する主制御装置による制御と独立して前記複数の制動装置のいずれかを釈放状態もしくは開放状態とする
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータ。
【請求項4】
シーブに巻き掛けられてロープを介してカウンタウエイトに連結されて吊り下げられる乗りかごと、
巻上機を機械的に制動動作する複数の制動装置とを備え、
前記複数の制動装置のいずれかは、
前記乗りかごの非常停止時において、ロープスリップの発生を抑制し、前記乗りかごの減速度が一定値未満となり、かつ、前記乗りかごの当該走行速度が一定値未満となるような制動トルクを発生させる過負荷保護装置を介して前記巻上機の駆動軸に取り付けられ、
前記乗りかごの静止時は、前記過負荷保護装置による制動トルクの発生を無効とすることで、当該乗りかごとカウンタウエイトのアンバランストルクを保持するための保持トルクを発生させ、前記乗りかごの非常停止制御中は、前記過負荷保護装置による制動トルクの発生を有効とし、かつ、前記複数の制動装置をともに釈放状態とする制動装置制御手段をさらに備えた
ことを特徴とするエレベータ。
【請求項5】
前記乗りかごの減速度の一定値は、非常停止制御中の乗りかご内の乗客への衝撃が顕著となる値であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のエレベータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−57316(P2011−57316A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206333(P2009−206333)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】