説明

エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置

【課題】 EGR弁は1台で済ませる事、およびEGR弁の開弁量の比較的複雑な動きを簡単な機械運動機構で達成する事により、EGR弁の機械式開弁量制御装置の構造を簡素化する。
【解決手段】 機械式開弁量制御手段6は揺動形遠心錘式開弁量制御手段7から成る。揺動形遠心錘式開弁量制御手段7は、揺動形遠心錘8と揺動−直線運動変換機構9と連動手段10とを備える。揺動形遠心錘8は、エンジンの回転軸11に連動する錘枢支回転体12に支点13で遠心方向へ揺動自在に支持されて、釣合いばね14で求心側へ弾圧され、自己の遠心力で遠心側へ揺動する。揺動−直線運動変換機構9は、揺動形遠心錘8の錘腕出力端部8aが支点13よりも遠心側と求心側にまたがる揺動領域θ1での揺動運動に基づき、直線往復運動体15が直線往復運動する。連動手段10は直線往復運動体15の直線往復運動に基づき、EGR弁5を弁開閉方向に作動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[前提構成]
本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置は、例えば図1(本発明)、または図2(従来技術)に示すように、次の前提構成を有するものを対象とする。
図1は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態1を示す、エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の縦断面図を示す。図1(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図1(B)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。 図6は従来技術のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置を示す縦断面図である。
【0003】
エンジンの燃焼室(1)の排気通路(2)をEGR通路(3)を介して吸気通路(4)に連通させる。このEGR通路(3)にEGR弁(5)を介在させる。このEGR弁(5)の開弁量を機械式開弁量制御手段(6)により制御するように構成したものである。
【0004】
[従来の技術]
上記前提構成において、前記機械式開弁量制御手段(6)の具体的な構成として、従来技術では図6・図7に示すものがある。(特開平7−12010号公報)
【0005】
図6・図7は従来技術のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置を示す。 図6はエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の縦断面図である。 図7は図6のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の作用を表す変化特性曲線図である。図7(A)はエンジン負荷−第1EGR弁(81)開弁量の変化特性曲線図、図7(B)はエンジン負荷−第2EGR弁(82)開弁量の変化特性曲線図、図7(C)はエンジン負荷−EGR率の変化特性曲線図である。
【0006】
図6に示すように、前記EGR弁(5)は、EGR通路(3)に直列接続した第1EGR弁(81)と第2EGR弁(82)とから成る。前記機械式開弁量制御手段(6)は、第1EGR弁(81)の開弁量を制御するダイヤフラム形負圧作動器(83)と、第2EGR弁(82)の開弁量を制御するスロットル弁連動カム装置(84)とから成る。
【0007】
前記第1EGR弁(81)の開弁量を制御するダイヤフラム形負圧作動器(83)は、第1EGR弁(81)をダイヤフラム(85)を介して、開弁ばね(86)で開弁側へ弾圧するのに対して、閉弁用負圧作動室(87)に作用する吸気通路(4)の吸気負圧で閉弁側へ引寄せるように構成されている。 前記第2EGR弁(82)の開弁量を制御するスロットル弁連動カム装置(84)は、第2EGR弁(82)を、スロットル弁(88)と連通するスロットル棒(89)に設けたカム(90)で閉弁側へ押圧するのに対し、開弁用ばね(91)で開弁側へ弾圧するように構成されている。
【0008】
図7において、図7(A)に示す第1EGR弁(81)の特性曲線と、図7(B)に示す第2EGR弁(82)の特性曲線との組合せにより、図7(C)に示すエンジン負荷に対するEGR率の変化特性曲線が得られたものである。
【0009】
[従来技術の問題点]
上記従来技術では、次の問題がある。
[ 問題点イ. エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の構成が複雑になり、その製造コストが高くつく。 ]
【0010】
上記図7(C)のエンジン負荷に対するEGR率の変化特性曲線を得るための構成としては、 (A):前記EGR弁(5)は、第1EGR弁(81)と第2EGR弁(82)との、2台のEGR弁が要る事、 (B):前記機械式開弁量制御手段(6)は、第1EGR弁(81)を制御するダイヤフラム形負圧作動器(83)と、第2EGR弁(82)を制御するスロットル弁連動カム装置(84)との、2台の開弁量制御装置が要る事により、 エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の構成が複雑になり、その製造コストが高くつく。
【0011】
【特許文献1】特開平7−12010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、次のようにすることにある。
[イ]. アイドル回転でのエンジン回転速度の安定化、低速回転でのNOxの低減、中速回転でのHCやCOなどの未燃有害成分の低減、および高速回転での未燃有害成分の低減とエンジン出力の向上、という4種類のエンジン性能を同時に高めるための手段としては、 (A):EGR弁は1台で済む事、 および(B):EGR弁の開弁量の、上昇−ピーク−下降を順に辿る山形の比較的複雑な動きを、揺動形遠心錘と揺動−直線運動変換機構との簡単な機械運動機構で達成することにより、 エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の構造を簡素化して、その製造コストを大幅に引き下げる。
【0013】
[ロ]. エンジンの冷機始動時には、感温作動器が錘枢支回転体を錘作用解除位置に退避させる事により、EGR弁を閉弁状態に保持し、吸気通路から燃焼室に供給される空気の酸素含有量が多くなる分だけ、エンジンの冷機始動性能を向上するうえ、冷機始動時の青白煙の発生量を大幅に低減する。
[ハ]. エンジンが冷機始動直後から充分に温まるに至ったときに、このことをエンジン冷却水を介して感温作動器が速やかに感知して、錘枢支回転体を錘作用解除位置から正規錘作用位置に速やかに復帰させることにより、エンジン機体温度の上昇に対して、揺動形遠心錘によるEGR弁の開弁量制御の制御開始時期の遅れを大幅に短縮する。
【0014】
[ニ]. アイドル回転でのエンジン回転速度の安定化、低速回転でのNOxの低減、中速回転でのHCやCOなどの未燃有害成分の低減、および高速回転での未燃有害成分の低減とエンジン出力の向上、という4種類のエンジン性能を同時に高めるための手段としては、 (A):EGR弁は1台で済む事、 および(B):EGR弁の開弁量)の、上昇−ピーク−下降を順に辿る山形の比較的複雑な動きを、 遠心錘と遠心−直線運動変換機構と直線運動カムとの簡単な機械運動機構で達成することにより、 エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の構造を簡素化して、その製造コストを大幅に引き下げる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置は、上記前提構成において、上記課題を解決するために、例えば図1−図5に例示するように、前記機械式開弁量制御手段(6)の具体的な構成として、次の特徴構成を追加したことを特徴とする。
【0016】
図1−図3は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態1を示す。図1はエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の縦断面図を示す。図1(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図1(B)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【0017】
図2は図1の揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)によるEGR弁(5)の開弁量制御作用を表す変化特性曲線図である。図2(A)はエンジン回転速度(N)−遠心錘揺動角度(Θ)の変化特性曲線図、図2(B)はエンジン回転速度(N)−直線往復運動体(15)の直線運動量(%)の変化特性曲線図、図2(C)はエンジン回転速度(N)−EGR弁(5)開弁量(%)の変化特性曲線図である。 図3は水冷縦型多気筒ディーゼルエンジンを示し、図3(A)は平面図、図3(B)は正面図である。
【0018】
図4は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態2を示す縦断面図を示す。図4(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図4(B)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【0019】
図5は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態3を示す縦断面図を示す。図5(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図5(B)は遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【0020】
○ 請求項1の発明. 図1−図3参照.
前記機械式開弁量制御手段(6)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)から成る。 この揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)は、揺動形遠心錘(8)と揺動−直線運動変換機構(9)と連動手段(10)とを備える。
【0021】
前記揺動形遠心錘(8)は、 エンジンの回転軸(11)に連動して回転する錘枢支回転体(12)に支点(13)で遠心方向へ揺動自在に支持されて、 釣合いばね(14)で求心側へ弾圧されるのに対して、自己の遠心力で遠心側へ揺動するように構成する。 前記揺動−直線運動変換機構(9)は、揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が前記支点(13)よりも遠心側位置と求心側位置とにまたがる揺動領域(θ1)での揺動運動に基づき、直線往復運動体(15)が直線往復運動するように構成する。 前記連動手段(10)は前記直線往復運動体(15)の直線往復運動に基づき、前記EGR弁(5)を弁開閉方向に作動させるように構成する。
【0022】
前記錘腕出力端部(8a)が支点(13)と並ぶ中立位置となる低速回転(NL)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の中立位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を最大とし、前記錘腕出力端部(8a)が中立位置よりも遠心側に偏倚するアイドル回転(NI)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、前記EGR弁の(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、前記錘腕出力端部(8a)が中立位置よりも求心側に偏倚する中速回転(NM)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、前記EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、前記錘腕出力端部(8a)が中速回転(NM)の場合よりも求心側に大きく偏倚する高速回転(NH)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を0にして、これを閉弁させるように構成した、ことを特徴とする。
【0023】
○ 請求項2の発明. 図1・2図参照.
この請求項2の発明は、上記請求項1の発明において、次の特徴構成を追加したことを特徴とする。
【0024】
前記錘枢支回転体(12)を前記エンジンの回転軸(11)に対して、摺動許容手段(16)により摺動自在で一体回転可能に接続する。 この錘枢支回転体(12)を感温作動器(17)により正規錘作用位置(18)と錘作用解除位置(19)とに亘って切換え移動可能に構成する。
【0025】
この錘枢支回転体(12)が正規錘作用位置(18)に復帰した正規作用状態では、前記揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)を正規に進退作動させて、EGR弁(5)を正規に開弁量制御作動させる。 これに対して、その錘枢支回転体(12)が錘作用解除位置(19)に退避した作用解除状態では、前記揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)から離れて、EGR弁(5)が閉弁状態に保持されるように構成した、ことを特徴とする。
【0026】
○ 請求項3の発明. 図1・図2参照.
この請求項3の発明は、上記請求項2の発明において、次の特徴構成を追加したことを特徴とする。
【0027】
前記感温作動器(17)は冷却水室(20)内に設ける。この冷却水室(20)には水冷式エンジンのエンジン水冷装置(21)内を循環するエンジン冷却水(22)を通過させることにより、エンジンの機体温度をエンジン水冷装置(21)のエンジン冷却水(22)を介して、前記感温作動器(17)に伝達するように構成した、ことを特徴とする。
【0028】
○ 請求項4の発明. 図5参照.
この請求項4の発明は、前記前提構成において、次の特徴構成を追加したことを特徴とする。
【0029】
前記機械式開弁量制御手段(6)は遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)から成る。 この遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)は、遠心錘(42)・遠心−直線運動変換機構(43)・カム機構(44)・および連動手段(10)を備える。
【0030】
前記遠心錘(42)は、 エンジンの回転軸(11)に連動して回転する錘支持回転体(46)に支持されて、 釣合いばね(47)で求心側へ弾圧されるのに対して、自己の遠心力で遠心側へ推進するように構成する。 前記遠心−直線運動変換機構(43)は、遠心錘(42)の遠心・求心運動に基づき、直線往復運動体(48)が直線往復運動するように構成する。
【0031】
前記カム機構(44)は、前記直線往復運動体(48)の直線往復運動に基づき、カム従動子(50)を山形カム面(49)の高さ方向に直線往復運動させるように構成する。 前記連動手段(10)は、前記カム従動子(50)の直線往復運動に基づき、前記EGR弁(5)を弁開閉方向に作動させるように構成する。
【0032】
前記山形カム面(49)の頂上部分にカム従動子(50)を位置させる低速回転(NL)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を最大にし、前記山形カム面(49)の始端側中腹部分にカム従動子(50)を位置させるアイドル回転(NI)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、前記山形カム面(49)の終端側中腹部分にカム従動子(50)を位置させる中速回転(NM)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、山形カム面(49)の終端側麓部分にカム従動子(50)を位置させる高速回転(NH)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を0にして、これを閉弁させるように構成した、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置は、つぎの効果を奏する。
○ 請求項1の発明. 図1・図2参照.
【0034】
[ 効果イ. アイドル回転(NI)でのエンジン回転速度(N)の安定化、低速回転(NL)でのNOxの低減、中速回転(NM)でのHCやCOなどの未燃有害成分の低減、および高速回転(NH)での未燃有害成分の低減とエンジン出力の向上、という4種類のエンジン性能を同時に高めるための手段としては、 (A):EGR弁(5)は1台で済む事、 および(B):図2(C)に例示するEGR弁(5)の開弁量(%)の、上昇−ピーク−下降を順に辿る山形の比較的複雑な動きを、揺動形遠心錘(8)と揺動−直線運動変換機構(9)との簡単な機械運動機構で達成できたことにより、 エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の構造を簡素化して、その製造コストを大幅に引き下げる。 ]
【0035】
請求項1の発明は、つぎの特徴構成を有する。
前記機械式開弁量制御手段(6)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)から成る。 この揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)は、揺動形遠心錘(8)と揺動−直線運動変換機構(9)と連動手段(10)とを備える。
【0036】
前記揺動形遠心錘(8)は、 エンジンの回転軸(11)に連動して回転する錘枢支回転体(12)に支点(13)で遠心方向へ揺動自在に支持されて、 釣合いばね(14)で求心側へ弾圧されるのに対して、自己の遠心力で遠心側へ揺動するように構成する。 前記揺動−直線運動変換機構(9)は、揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が前記支点(13)よりも遠心側位置と求心側位置とにまたがる揺動領域(θ1)での揺動運動に基づき、直線往復運動体(15)が直線往復運動するように構成する。 前記連動手段(10)は前記直線往復運動体(15)の直線往復運動に基づき、前記EGR弁(5)を弁開閉方向に作動させるように構成する。
【0037】
前記錘腕出力端部(8a)が支点(13)と並ぶ中立位置となる低速回転(NL)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の中立位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を最大とし、前記錘腕出力端部(8a)が中立位置よりも遠心側に偏倚するアイドル回転(NI)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、前記EGR弁の(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくする。
【0038】
前記錘腕出力端部(8a)が中立位置よりも求心側に偏倚する中速回転(NM)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、前記EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、前記錘腕出力端部(8a)が中速回転(NM)の場合よりも求心側に大きく偏倚する高速回転(NH)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を0にして、これを閉弁させるように構成する。
【0039】
この特徴構成から、次のように作用する。
前記揺動形遠心錘(8)は、回転速度(N)の変化に対応する遠心力の変化に基づき、揺動−直線運動変換機構(9)および連動手段(10)を介して、EGR弁(5)の開弁量を次のように制御する。
【0040】
図2(A)に例示するように、エンジン回転速度(N)が上昇するに連れて、揺動形遠心錘(8)の揺動角(Θ)は上昇していく。 すると、図2(B)に例示するように、揺動−直線運動変換機構(9)の直線往復運動体(15)の直線運動量が増加して、ピークに達した後に減少していく。 これに正比例して、図2(C)に例示するように、EGR弁(5)の開弁量が増加して、ピークに達した後に、減少していく。
【0041】
このEGR弁(5)の開弁量は、具体的には回転速度(N)が、アイドル回転(NI)では小さくなり、 低速回転(NL)では大きくなり、 中速回転(NM)では小さくなり、そして高速回転(NH)では0になる。 前記排気通路(2)からEGR通路(3)・EGR弁(5)を通って吸気通路(4)に供給される排気ガスのEGR率 の回転速度(N)に対する変化特性は、図2(C)に例示するように、上記EGR弁(5)の開弁量(%)の変化特性とほぼ正比例する。
【0042】
これにより、アイドル回転(NI)では、EGR率が小さいため、比較的空気リッチで完全燃焼し易くなり、エンジン回転速度(N)が不安定になることを防止する。 低速回転(NL)では、EGR率が大きいため、燃焼温度の異常上昇を抑制して、NOxの発生率を低減する。 中速回転(NM)では、EGR率が小さいため、比較的空気リッチで完全燃焼し易くなり、HCやCOなどの未燃有害成分の発生率を低減する。 そして、高速回転(NH)では、HCやCOなどの未燃有害成分の発生率を低減させながらも、エンジン出力を高める。
【0043】
このように、アイドル回転(NI)でのエンジン回転速度(N)の安定化、低速回転(NL)でのNOxの低減、中速回転(NM)でのHCやCOなどの未燃有害成分の低減、および高速回転(NH)での未燃有害成分の低減とエンジン出力の向上、という4種類のエンジン性能を同時に高めるための手段としては、 (A):EGR弁(5)は1台で済む事、 および(B):図2(C)に例示するEGR弁(5)の開弁量(%)の、上昇−ピーク−下降を順に辿る山形の比較的複雑な動きを、揺動形遠心錘(8)と揺動−直線運動変換機構(9)との簡単な機械運動機構で達成できたことにより、 エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の構造を簡素化して、その製造コストを大幅に引き下げる事ができた。
【0044】
○ 請求項2の発明. 図1・図2参照.
この請求項2の発明は、上記請求項1の発明の[効果イ]に加えて、つぎの効果を奏する。
【0045】
[ 効果ロ. エンジンの冷機始動時には、感温作動器(17)は錘枢支回転体(12)を錘作用解除位置(19)に退避させる事により、EGR弁(5)が閉弁状態に保持され、吸気通路(4)から燃焼室(1)に供給される空気は、排気ガスで希釈されなくなって、酸素含有量が多くなる分だけ、エンジンの冷機始動性能が向上するうえ、冷機始動時の青白煙の発生量を大幅に低減する。 ]
【0046】
請求項2の発明は、つぎの特徴構成を有する。
前記錘枢支回転体(12)を前記エンジンの回転軸(11)に対して、摺動許容手段(16)により摺動自在で一体回転可能に接続する。 この錘枢支回転体(12)を感温作動器(17)により正規錘作用位置(18)と錘作用解除位置(19)とに亘って切換え移動可能に構成する。
【0047】
この錘枢支回転体(12)が正規錘作用位置(18)に復帰した正規作用状態では、前記揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)を正規に進退作動させて、EGR弁(5)を正規に開弁量制御作動させる。 これに対して、その錘枢支回転体(12)が錘作用解除位置(19)に退避した作用解除状態では、前記揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)から離れて、EGR弁(5)が閉弁状態に保持されるように構成した。
【0048】
この特徴構成から、次のように作用する。
エンジンの冷機始動時には、感温作動器(17)は低温検知作動して、錘枢支回転体(12)を錘作用解除位置(19)に退避させる事により、揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)を押し動かさなくなって、図2(C)中の破線図で例示するように、EGR弁(5)が閉弁状態に保持され、排気通路(2)の排気ガスがEGR通路(3)から吸気通路(4)に流れ込まないようにする。
【0049】
これにより、吸気通路(4)から燃焼室(1)に供給される空気は、排気ガスで希釈されなくなって、酸素含有量が多くなる分だけ、エンジンの冷機始動性能が向上するうえ、冷機始動時の青白煙の発生量を大幅に低減することができる。
【0050】
○ 請求項3の発明. 図1・図2参照.
この請求項3の発明は、上記請求項1の発明の[効果イ]、および請求項2の発明の[効果ロ]に加えて、つぎの効果を奏する。
【0051】
[ 効果ハ. エンジンが冷機始動直後から充分に温まるに至ったときに、このことをエンジン冷却水(22)を介して感温作動器(17)が速やかに感知して、錘枢支回転体(12)を錘作用解除位置(19)から正規錘作用位置(18)に速やかに復帰させるので、エンジン機体温度の上昇に対して、揺動形遠心錘(8)によるEGR弁(5)の開弁量制御の制御開始時期の遅れを大幅に短縮する。 ]
【0052】
この請求項3の発明は、つぎの特徴構成を有する。
前記感温作動器(17)は冷却水室(20)内に設ける。この冷却水室(20)には水冷式エンジンのエンジン水冷装置(21)内を循環するエンジン冷却水(22)を通過させることにより、エンジンの機体温度をエンジン水冷装置(21)のエンジン冷却水(22)を介して、前記感温作動器(17)に伝達するように構成した。
【0053】
この特徴構成から、次のように作用する。
エンジンの冷機始動後に、エンジン機体温度が上昇していくと、このエンジン機体温度の上昇をエンジン水冷装置(21)のエンジン冷却水(22)が速やかに検出して、このエンジン冷却水(22)が冷却水室(20)の通過時に感温作動器(17)を速やかに加温していく。
【0054】
これにより、エンジンが冷機始動直後から充分に温まるに至ったときに、このことをエンジン冷却水(22)を介して感温作動器(17)が速やかに感知して、錘枢支回転体(12)を錘作用解除位置(19)から正規錘作用位置(18)に速やかに復帰させるので、エンジン機体温度の上昇に対して、揺動形遠心錘(8)によるEGR弁(5)の開弁量制御の制御開始時期の遅れを大幅に短縮する事ができる。
【0055】
○ 請求項4の発明. 図4・図2参照.
この請求項4の発明は、上記請求項1の発明の[効果イ]の場合と同様に、つぎの効果を奏する。
【0056】
[ 効果ニ. アイドル回転(NI)でのエンジン回転速度(N)の安定化、低速回転(NL)でのNOxの低減、中速回転(NM)でのHCやCOなどの未燃有害成分の低減、および高速回転(NH)での未燃有害成分の低減とエンジン出力の向上、という4種類のエンジン性能を同時に高めるための手段としては、 (A):EGR弁(5)は1台で済む事、 および(B):図2(C)に例示するEGR弁(5)の開弁量(%)の、上昇−ピーク−下降を順に辿る山形の比較的複雑な動きを、 遠心錘(42)と遠心−直線運動変換機構(43)と直線運動カム(44)との簡単な機械運動機構で達成できたことにより、 エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の構造を簡素化して、その製造コストを大幅に引き下げる。 ]
【0057】
請求項4の発明は、つぎの特徴構成を有する。
前記機械式開弁量制御手段(6)は遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)から成る。 この遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)は、遠心錘(42)・遠心−直線運動変換機構(43)・カム機構(44)・および連動手段(10)を備える。
【0058】
前記遠心錘(42)は、 エンジンの回転軸(11)に連動して回転する錘支持回転体(46)に支持されて、 釣合いばね(47)で求心側へ弾圧されるのに対して、自己の遠心力で遠心側へ推進するように構成する。 前記遠心−直線運動変換機構(43)は、遠心錘(42)の遠心・求心運動に基づき、直線往復運動体(48)が直線往復運動するように構成する。
【0059】
前記カム機構(44)は、前記直線往復運動体(48)の直線往復運動に基づき、カム従動子(50)を山形カム面(49)の高さ方向に直線往復運動させるように構成する。 前記連動手段(10)は、前記カム従動子(50)の直線往復運動に基づき、前記EGR弁(5)を弁開閉方向に作動させるように構成する。
【0060】
前記山形カム面(49)の頂上部分にカム従動子(50)を位置させる低速回転(NL)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を最大にし、前記山形カム面(49)の始端側中腹部分にカム従動子(50)を位置させるアイドル回転(NI)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくする。
【0061】
前記山形カム面(49)の終端側中腹部分にカム従動子(50)を位置させる中速回転(NM)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、山形カム面(49)の終端側麓部分にカム従動子(50)を位置させる高速回転(NH)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を0にして、これを閉弁させるように構成する。
【0062】
この特徴構成から、次のように作用する。
この請求項4の発明は、基本的には、上述の請求項1の発明の[効果イ]の場合と、ほぼ同様に作用する。
少し異なる点は、遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)を構成する遠心錘(42)が、遠心−直線運動変換機構(43)を介して、カム機構(44)の山形カム面(49)でカム従動子(50)を直線往復運動させて、連動手段(10)に伝動する点のみである。
【0063】
これにより、上述の請求項1の[効果イ]の場合と同様に、 アイドル回転(NI)でのエンジン回転速度(N)の安定化、低速回転(NL)でのNOxの低減、中速回転(NM)でのHCやCOなどの未燃有害成分の低減、および高速回転(NH)での未燃有害成分の低減とエンジン出力の向上、という4種類のエンジン性能を同時に高めるための手段としては、 (A):EGR弁(5)は1台で済む事、 および(B):図2(C)に例示するEGR弁(5)の開弁量(%)の、上昇−ピーク−下降を順に辿る山形の比較的複雑な動きを、 遠心錘(42)と遠心−直線運動変換機構(43)とカム機構(44)との簡単な機械運動機構で達成できたことにより、 エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の構造を簡素化して、その製造コストを大幅に引き下げる事ができたのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
以下、本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施の形態を、図面に基づき説明する。
【0065】
○ 実施形態1. 請求項1・2・3. 図1−3図参照.
図1−図3は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態1を示す。図1はエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の縦断面図を示す。図1(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図1(B)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【0066】
図2は図1の揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)によるEGR弁(5)の開弁量制御作用を表す変化特性曲線図である。図2(A)はエンジン回転速度(N)−遠心錘揺動角度(Θ)の変化特性曲線図、図2(B)はエンジン回転速度(N)−直線往復運動体(15)の直線運動量(%)の変化特性曲線図、図2(C)はエンジン回転速度(N)−EGR弁(5)開弁量(%)の変化特性曲線図である。 図3は水冷縦型多気筒ディーゼルエンジンを示し、図3(A)は平面図、図3(B)は正面図である。
【0067】
図2・図3において、符号(26)は水冷縦型多気筒ディーゼルエンジンのシリンダブロック、(27)はシリンダヘッド、(28)はギヤケース、(29)はピストン、(30)は動弁カムギヤ、(11)は動弁カム軸である。
【0068】
エンジンの燃焼室(1)の排気通路(2)をEGR通路(3)を介して吸気通路(4)に連通させる。このEGR通路(3)にEGR弁(5)を介在させる。このEGR弁(5)の開弁量を機械式開弁量制御手段(6)により制御するように構成した。 このEGR弁(5)は、弁箱(23)内で弁体(36)が閉弁ばね(37)で閉弁側へ弾圧されるのに対して、連動手段(10)で開弁側へ押し開かれるように構成されている。弁箱(23)にダブルナット(24)がねじ嵌合される。このダブルナット(24)は、弁体(36)に対する連動手段(10)の開弁開始の初期位置を微調整するためのものである。
【0069】
前記機械式開弁量制御手段(6)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)から成る。 この揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)は、揺動形遠心錘(8)と揺動−直線運動変換機構(9)と連動手段(10)とを備える。
【0070】
前記揺動形遠心錘(8)は、 エンジンの回転軸としての動弁カム軸(11)に連動して回転する錘枢支回転体(12)に、支点(13)で遠心方向へ揺動自在に支持されて、 釣合いばね(14)で求心側へ弾圧されるのに対して、自己の遠心力で遠心側へ揺動するように構成する。前記揺動−直線運動変換機構(9)は、揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が前記支点(13)よりも遠心側位置と求心側位置とにまたがる揺動領域(θ1)での揺動運動に基づき、円板製の直線往復運動体(15)が直線往復運動するように構成する。この直線往復運動体(15)のスプライン軸(32)は、ギヤケース(28)のスプライン孔(33)にスプライン嵌合する。
【0071】
前記連動手段(10)は前記直線往復運動体(15)の直線往復運動に基づき、前記EGR弁(5)を弁開閉方向に作動させるように構成する。この連動手段(10)はレリイズワイヤ(25)から成る。このレリイズワイヤ(25)は、アウタチューブ(34)内にインナーワイヤ(35)を摺動自在に貫通させて成る。
【0072】
前記錘腕出力端部(8a)が支点(13)と並ぶ中立位置となる低速回転(NL)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の中立位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を最大とし、前記錘腕出力端部(8a)が中立位置よりも遠心側に偏倚するアイドル回転(NI)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、前記EGR弁の(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくする。
【0073】
前記錘腕出力端部(8a)が中立位置よりも求心側に偏倚する中速回転(NM)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、前記EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、前記錘腕出力端部(8a)が中速回転(NM)の場合よりも求心側に大きく偏倚する高速回転(NH)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を0にして、これを閉弁させるように構成する。
【0074】
前記錘枢支回転体(12)のスプラインボス(39)は前記動弁カム軸(11)に対して、 摺動許容手段としてのスプライン嵌合(16)により摺動自在で一体回転可能に接続する。 この錘枢支回転体(12)をこれに一体形成した円板(40)を介して、ワックスタイプの感温作動器(17)により、正規錘作用位置(18)と錘作用解除位置(19)とに亘って切換え移動可能に構成する。
【0075】
この錘枢支回転体(12)が正規錘作用位置(18)に復帰した正規作用状態では、前記揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)を正規に進退作動させて、EGR弁(5)を正規に開弁量制御作動させる。 これに対して、その錘枢支回転体(12)が錘作用解除位置(19)に退避した作用解除状態では、前記揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)から離れて、EGR弁(5)が閉弁状態に保持されるように構成した。
【0076】
前記感温作動器(17)はこれの支持枠(38)内に形成した冷却水室(20)内に設ける。この支持枠(38)は前記ギヤケース(28)に固定する。この冷却水室(20)には水冷式エンジンのエンジン水冷装置(21)内を循環するエンジン冷却水(22)を通過させることにより、エンジンの機体温度をエンジン水冷装置(21)のエンジン冷却水(22)を介して、前記感温作動器(17)に伝達するように構成したものである。
【0077】
○ 実施形態2. 請求項1. 図4参照.
図4は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態2を示す縦断面図を示す。図4(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図4(B)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【0078】
この実施形態2は、上記実施形態1の構成において、前記感温作動器(17)を省略して、前記錘枢支回転体(12)を前記動弁カム軸(11)に固着したことを特徴とするものである。
【0079】
○ 実施形態3. 請求項4. 図5参照.
図5は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態3を示す縦断面図を示す。図5(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図5(B)は遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【0080】
この図5に示す実施形態3は、上述の図1に示す実施形態1の構成において、前記機械式開弁量制御手段(6)を、図1に示す揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)から、図5に示す遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)に変更したことを特徴とする。
【0081】
前記機械式開弁量制御手段(6)は遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)から成る。 この遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)は、揺動形の遠心錘(42)・遠心−直線運動変換機構(43)・カム機構(44)・および連動手段(10)を備える。
【0082】
前記遠心錘(42)は、エンジンの回転軸(11)に連動して回転する錘支持回転体(46)に支持されて、釣合いばね(47)で求心側へ弾圧されるのに対して、自己の遠心力で遠心側へ推進するように構成する。
【0083】
前記遠心−直線運動変換機構(43)は、遠心錘(42)の遠心・求心運動に基づき、直線往復運動体(48)を介して、直線運動カム(44)を直線往復運動させるように構成するものであり、揺動形の遠心錘(42)のL形錘腕(56)を、リンク(57)・リング(58)およびリング摺動自在溝(58)を介して、直線往復運動体(48)に連動連結して構成したものである。この直線往復運動体(48)のスプライン軸(61)は、前記ギヤケース(28)のスプライン孔(62)に摺動自在にスプライン嵌合する。
【0084】
このギヤケース(28)にカムケース(63)が固定される。このカムケース(63)内に前記カム機構(44)が収容されている。このカム機構(44)は、前記直線往復運動体(48)の直線往復運動に基づき、カム従動子(50)を山形カム面(49)の高さ方向に直線往復運動させるように構成する。 前記連動手段(10)は、前記カム従動子(50)の直線往復運動に基づき、前記EGR弁(5)を弁開閉方向に作動させるように構成する。 詳しくは、次の通りである。直線往復運動体(48)のスプライン軸(61)からロッド(51)を延設し、このロッド(51)の径方向にガイド孔(52)をあけ、このガイド孔(52)にカム従動子(50)を昇降自在に挿通させ、このカム従動子(50)の下端部にピン(53)を取り付け、このピン(53)を山形カム面(49)に載せている。山形カム面(49)はカムケース(63)内に固定したカム板(54)に形成している。ロッド(51)には連動手段(10)であるレリイズワイヤ(25)のアウタチューブ(34)を固定し、カム従動子(50)の上端にインナワイヤ(35)を連結している。
【0085】
図2(C)に示すように、前記山形カム面(49)の頂上部分にカム従動子(50)を位置させる低速回転(NL)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を最大にし、前記山形カム面(49)の始端側中腹部分にカム従動子(50)を位置させるアイドル回転(NI)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくする。
【0086】
前記山形カム面(49)の終端側中腹部分にカム従動子(50)を位置させる中速回転(NM)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、山形カム面(49)の終端側麓部分にカム従動子(50)を位置させる高速回転(NH)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を0にして、これを閉弁させるように構成する。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置は、例えばディーゼルエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1−図3は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態1を示す。図1はエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の縦断面図を示す。図1(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図1(B)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【図2】図2は図1の揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)によるEGR弁(5)の開弁量制御作用を表す変化特性曲線図である。図2(A)はエンジン回転速度(N)−遠心錘揺動角度(Θ)の変化特性曲線図、図2(B)はエンジン回転速度(N)−直線往復運動体(15)の直線運動量(%)の変化特性曲線図、図2(C)はエンジン回転速度(N)−EGR弁(5)開弁量(%)の変化特性曲線図である。
【図3】図3は水冷縦型多気筒ディーゼルエンジンを示し、図3(A)は平面図、図3(B)は正面図である。
【0089】
【図4】図4は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態2を示す縦断面図を示す。図4(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図4(B)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【図5】図5は本発明のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の実施形態3を示す縦断面図を示す。図5(A)はEGR通路(3)部分の縦断面図であって、図3(B)のA−A線断面図。図5(B)は遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)部分の縦断面図であって、図3(B)のB−B線断面図である。
【0090】
【図6】図6・図7は従来技術のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置を示す。 図6はエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の縦断面図である。
【図7】図7は図6のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置の作用を表す変化特性曲線図である。図7(A)はエンジン負荷−第1EGR弁(81)開弁量の変化特性曲線図、図7(B)はエンジン負荷−第2EGR弁(82)開弁量の変化特性曲線図、図7(C)はエンジン負荷−EGR率の変化特性曲線図である。
【符号の説明】
【0091】
1…燃焼室、 2…排気通路、 3…EGR通路、4…吸気通路、 5…EGR弁、 6…機械式開弁量制御手段、 7…揺動形遠心錘式開弁量制御手段、 8…揺動形遠心錘、 8a…錘腕出力端部、 9…揺動−直線運動変換機構、 10…連動手段、11…エンジンの回転軸、 12…錘枢支回転体、 13…支点、 14…釣合いばね、 15…直線往復運動体、 16…摺動許容手段、 17…感温作動器、 18…正規錘作用位置、 19…錘作用解除位置、 20…冷却水室、 21…エンジン水冷装置、 22…エンジン冷却水、 41…遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段、 42…遠心錘、 43…遠心−直線運動変換機構、 44…カム機構、 45…伝動手段、 46…錘支持回転体、 47…釣合いばね、 48…直線往復運動体、 49…山形カム面、 50…カム従動子、 N…回転速度、 NH…高速回転、 NI…アイドル回転、 NL…低速回転、 NM…中速回転。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの燃焼室(1)の排気通路(2)をEGR通路(3)を介して吸気通路(4)に連通させ、このEGR通路(3)にEGR弁(5)を介在させ、このEGR弁(5)の開弁量を機械式開弁量制御手段(6)により制御するように構成した、
エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置において、
前記機械式開弁量制御手段(6)は揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)から成り、 この揺動形遠心錘式開弁量制御手段(7)は、揺動形遠心錘(8)と揺動−直線運動変換機構(9)と連動手段(10)とを備え、
前記揺動形遠心錘(8)は、 エンジンの回転軸(11)に連動して回転する錘枢支回転体(12)に支点(13)で遠心方向へ揺動自在に支持されて、 釣合いばね(14)で求心側へ弾圧されるのに対して、自己の遠心力で遠心側へ揺動するように構成し、
前記揺動−直線運動変換機構(9)は、揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が前記支点(13)よりも遠心側位置と求心側位置とにまたがる揺動領域(θ1)での揺動運動に基づき、直線往復運動体(15)が直線往復運動するように構成し、
前記連動手段(10)は前記直線往復運動体(15)の直線往復運動に基づき、前記EGR弁(5)を弁開閉方向に作動させるように構成し、
前記錘腕出力端部(8a)が支点(13)と並ぶ中立位置となる低速回転(NL)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の中立位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を最大とし、
前記錘腕出力端部(8a)が中立位置よりも遠心側に偏倚するアイドル回転(NI)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、前記EGR弁の(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、
前記錘腕出力端部(8a)が中立位置よりも求心側に偏倚する中速回転(NM)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、前記EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、
前記錘腕出力端部(8a)が中速回転(NM)の場合よりも求心側に大きく偏倚する高速回転(NH)の場合には、この錘腕出力端部(8a)の偏倚位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を0にして、これを閉弁させるように構成した、
ことを特徴とするエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置において、
前記錘枢支回転体(12)を前記エンジンの回転軸(11)に対して、摺動許容手段(16)により摺動自在で一体回転可能に接続し、 この錘枢支回転体(12)を感温作動器(17)により正規錘作用位置(18)と錘作用解除位置(19)とに亘って切換え移動可能に構成し、
この錘枢支回転体(12)が正規錘作用位置(18)に復帰した正規作用状態では、前記揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)を正規に進退作動させて、EGR弁(5)を正規に開弁量制御作動させ、
これに対して、その錘枢支回転体(12)が錘作用解除位置(19)に退避した作用解除状態では、前記揺動形遠心錘(8)の錘腕出力端部(8a)が直線往復運動体(15)から離れて、EGR弁(5)が閉弁状態に保持されるように構成した、
ことを特徴とするエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載のエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置において、
前記感温作動器(17)は冷却水室(20)内に設け、この冷却水室(20)には水冷式エンジンのエンジン水冷装置(21)内を循環するエンジン冷却水(22)を通過させることにより、エンジンの機体温度をエンジン水冷装置(21)のエンジン冷却水(22)を介して、前記感温作動器(17)に伝達するように構成した、
ことを特徴とするエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置。
【請求項4】
エンジンの燃焼室(1)の排気通路(2)をEGR通路(3)を介して吸気通路(4)に連通させ、このEGR通路(3)にEGR弁(5)を介在させ、このEGR弁(5)の開弁量を機械式開弁量制御手段(6)により制御するように構成した、
エンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置において、
前記機械式開弁量制御手段(6)は遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)から成り、 この遠心錘・直線運動カム組合せ式開弁量制御手段(41)は、遠心錘(42)・遠心−直線運動変換機構(43)・直線運動カム(44)・および連動手段(10)を備え、
前記遠心錘(42)は、 エンジンの回転軸(11)に連動して回転する錘支持回転体(46)に支持されて、 釣合いばね(47)で求心側へ弾圧されるのに対して、自己の遠心力で遠心側へ推進するように構成し、
前記遠心−直線運動変換機構(43)は、遠心錘(42)の遠心・求心運動に基づき、直線往復運動体(48)が直線往復運動するように構成し、
前記カム機構(44)は、前記直線往復運動体(48)の直線往復運動に基づき、カム従動子(50)を山形カム面(49)の高さ方向に直線往復運動させるように構成し、
前記連動手段(10)は、前記カム従動子(50)の直線往復運動に基づき、前記EGR弁(5)を弁開閉方向に作動させるように構成し、
前記山形カム面(49)の頂上部分にカム従動子(50)を位置させる低速回転(NL)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を最大にし、
前記山形カム面(49)の始端側中腹部分にカム従動子(50)を位置させるアイドル回転(NI)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、
前記山形カム面(49)の終端側中腹部分にカム従動子(50)を位置させる中速回転(NM)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を低速回転(NL)の場合よりも小さくし、
山形カム面(49)の終端側麓部分にカム従動子(50)を位置させる高速回転(NH)の場合には、そのカム従動子(50)の位置に基づき、EGR弁(5)の開弁量を0にして、これを閉弁させるように構成した、
ことを特徴とするエンジンのEGR弁の機械式開弁量制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−46552(P2007−46552A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232367(P2005−232367)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】