説明

オキソカーボン基を有する高分子及びその用途

【課題】固体高分子型燃料電池のプロトン伝導膜用材料として有用な高分子とその用途を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有することを特徴とする高分子。


(式中、X1、X2はそれぞれ独立に−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−CO−、−C(S)−、−C(NR’)−、置換基を有していても良いアルキレン基又は置換基を有していても良いアリーレン基を表す。(NR、NR’におけるR、R’は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)nは繰り返しの数を表わし、n=0〜10の数を表わす。n個あるZは同じであっても良いし、異なっていても良い。Bは水素原子または1価の金属原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキソカーボン基を有する新規な高分子及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
スクアリン酸(四角酸)に代表されるオキソカーボン類は、オキソカーボン基における水素が解離した状態が共鳴による安定な構造となるため酸性度が高いことが知られている(非特許文献1)(非特許文献2)。
一方、スルホン酸基を有する高分子は、高分子電解質型燃料電池等の高分子電解質として有用であることが知られている。例えばナフィオン(デュポン社の登録商標)をはじめとするフッ素系高分子、ポリエーテルケトン類にスルホン酸基を導入した高分子(特許文献1)、ポリエーテルスルホン類にスルホン酸基を導入した高分子(非特許文献3)、ポリイミド類にスルホン酸基を導入した高分子(特許文献2)、ポリフェニレン類にスルホン酸基を導入した高分子(特許文献3)、ポリホスファゼン類にスルホン酸基を導入した高分子(非特許文献4)等が高分子電解質型燃料電池等の高分子電解質として提案されている。
【0003】
【非特許文献1】Oxocarbons、45頁(Edited by Robert West)、Academic Press(1980),(ISBN:0−12−744580−3)
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society,95,8703(1973)
【非特許文献3】J.Membrane Science,83,211(1993)
【非特許文献4】Chemical Material,3,1120(1991)
【特許文献1】米国特許5438082号(2〜6欄、14〜16欄)
【特許文献2】特開2003−277501号公報(第2〜5頁)
【特許文献3】米国特許5403675号(2〜5欄、15〜16欄)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、オキソカーボン基を有する高分子は知られていない。
本発明者等は、オキソカーボン基を有する高分子を製造し種々検討を重ねた結果、オキソカーボン基を有する高分子は、水素ガスなどの気体燃料やメタノールやジメチルエーテルなどの液体燃料を用いる固体高分子型燃料電池のプロトン伝導膜用材料である高分子電解質として有用であることを見出すとともに、スルホン酸基を有する高分子に匹敵するプロトン伝導性を有し、しかもスルホン酸基を有する高分子に比し、化学的安定性、耐水性にも優れ、長時間に亘り高いプロトン伝導性を維持し得ることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は
[1]下記一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有することを特徴とする高分子を提供するものである。

(式中、X1、X2はそれぞれ独立に−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−CO−、−C(S)−、−C(NR’)−、置換基を有していても良いアルキレン基又は置換基を有していても良いアリーレン基を表す。(NR、NR’におけるR、R’は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)nは繰り返しの数を表わし、n=0〜10の数を表わす。n個あるZは同じであっても良いし、異なっていても良い。Bは水素原子または1価の金属原子を表す。)
【0006】
さらに本発明は
[2] Zが−CO−、−C(S)−、−C(NR)−から選ばれることを特徴とする上記[1]の高分子、
[3] X1、X2が−O−、Zが−CO−、nが0〜2であることを特徴とする上記[1]又は[2]の高分子、
[4] イオン交換容量が、0.5meq/g〜8meq/gであることを特徴とする上記[1]〜[3]いずれかの高分子、
[5] 主鎖中にフェニル−フェニル結合を有することを特徴とする上記[1]〜[4]いずれかに記載の高分子、
[6] 上記[1]〜[5]いずれかの高分子を有効成分とする高分子電解質、
[7] 上記[6]の高分子電解質を有することを特徴とする高分子電解質膜、
[8] 上記[6]の高分子電解質を有することを特徴とする触媒組成物、
[9] 上記[6]の高分子電解質、上記[7]の高分子電解質膜、上記[8]の触媒組成物のいずれかを有することを特徴とする高分子電解質膜−電極接合体、
[10]上記[6]の高分子電解質、上記[7]の高分子電解質膜、上記[8]の触媒組成物、上記[9]の高分子電解質膜−電極接合体のいずれかを有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のオキソカーボン基を有する高分子は、水素ガスなどの気体燃料やメタノールやジメチルエーテルなどの液体燃料を用いる固体高分子型燃料電池のプロトン伝導膜用材料である高分子電解質として有用である。殊にスルホン酸基を有する高分子に匹敵するプロトン伝導性を有するのみならずスルホン酸基を有する高分子に比し、化学的安定性、耐水性等にも優れ、長時間に亘り高いプロトン伝導性を維持し得るので、本発明の高分子は実用面でも有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の高分子は、遊離酸の形が下記一般式(1)

(式中、X1、X2はそれぞれ独立に−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−CO−、−C(S)−、−C(NR)−、置換基を有していても良いアルキレン基又は置換基を有していても良いアリーレン基を表す。(NRにおけるRは,水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)nは繰り返しの数を表わし、n=0〜10の数を表わす。n個あるZは同じであっても良いし、異なっていても良い。Bは水素原子または1価の金属原子を表す。)
で示されるオキソカーボン基を有することを特徴とする。
【0009】
ここで、X1、X2はそれぞれ独立に−O−、−S−又は−NR−を表す。好ましくは−O−、−S−であり、特に好ましくは−O−である。またNRにおけるRは,水素原子,メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等で代表される置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ナフチル基等で代表されるの置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。
またZは−CO−、−C(S)−、−C(NR)−、置換基を有していても良いアルキレン基又は置換基を有していても良いアリーレン基を表す。NRにおけるRは上記と同じ意味を有する。
置換基を有していても良いアルキレン基の代表例としては、例えばメチレン、フルオロメチレン、ジフルオロメチレン、フェニルメチレン、ジフェニルメチレン等が挙げられる。置換基を有していてもよいアリーレン基の代表例としては、例えばフェニレン基、ナフチレン基、テトラフルオロフェニレン基等が挙げられる。
Zは、好ましくは−CO−、−C(S)−、−C(NR)−であり、より好ましくは−CO−、−C(S)−であり、特に好ましくは−CO−である。
nはZの繰り返しの数、0〜10を表わす。n個あるZは同じであっても良いし、異なっていても良い。nは、好ましくは0〜4であり、さらに好ましくは0〜2であり、最も好ましくは1である。
Bは水素原子または1価の金属原子を表す。1価の金属原子としては、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、セシウム原子、銀原子等が挙げられる。Bとして、好ましくは水素原子、リチウム原子、ナトリウム原子であり、さらに好ましくは水素原子、リチウム原子であり、特に好ましくは水素原子である。
【0010】
式(1)で表わされる基においてBが水素原子である場合、すなわち遊離酸の形である場合は、下記式

で表わされる平衡反応をとりうる。この平衡反応の極限構造は下記式


のように表わされ、プロトンが解離した時のカチオンが分子内に広く非局在化するために安定な構造である。そのために式(1)で表される化合物は酸性度が高い基になるものと考えられる。
【0011】
このような好ましいオキソカーボン基の代表例としては、例えば

等が挙げられる。
【0012】
これらの中では、(1a)〜(1d)が好ましい。より好ましくは(1a)〜(1c)であり、より一層好ましくは(1b)〜(1c)であり、最も好ましくは(1b)である。
オキソカーボン基は、Bが水素である遊離酸の形であっても、Bが一価の金属原子である塩の形であっても良い。また、本発明のオキソカーボン基を有する高分子は、その繰り返し単位全てにオキソカーボン基が結合していてもよく、またオキソカーボン基が結合していない繰り返し単位が高分子中にあってもよい。2以上のオキソカーボン基が繰り返し単位に結合していてもよい。これら高分子の繰り返し単位に結合しているオキソカーボン基は互いに同じでも異なっていてもよく、一般式(1)におけるBが水素でも一価の金属であってもよい。固体高分子型燃料電池用の材料として用いる場合は、発電性能の観点から繰り返し単位に結合しているオキソカーボン基は実質的に全てが遊離酸の形であることが好ましい。
一価の金属として好ましくはリチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子であり、さらに好ましくは、リチウム原子、ナトリウム原子であり、特に好ましくはリチウム原子である。
【0013】
本発明の高分子は、前記一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有することを特徴とするものであり、該オキソカーボン基を有する高分子であれば、その母体となる高分子は特に制限はなく、例えばビニル重合体、ポリオキシアルキレン類、ポリシロキサン類、ポリエステル類、ポリイミド類、ポリアミド類、ポリベンズオキサゾール類、ポリベンズイミダゾール類、ポリアリーレンエーテル類、ポリアリーレン類、ポリアリーレンスルフィド類、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン類、ポリホスファゼン類等、およびこれらの共重合体およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0014】
前記一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するビニル重合体としては、例えば下記のもの等が挙げられる。なお、Aは前記一般式(1)を意味し、m、p、qは繰り返しの数を表わし(以下同様)、ここでは、mは通常20以上、pは通常0〜3、qは通常1〜5である。

(式中、R1〜R6は互いに独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基を表す。)
【0015】
また、一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリオキシアルキレン、一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリシロキサンとしては、例えば下記の繰り返し単位を有する高分子が挙げられる。


また、一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリエステルとしては、例えば下記の繰り返し単位にオキソカーボン基が結合した繰り返し単位を有する高分子が挙げられ、オキソカーボン基は下記繰り返し単位の置換可能な水素のいずれかを置換している。オキソカーボン基は芳香環上の水素を置換するのが好ましい。


(式中、R7、R8は互いに独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表す。)
【0016】
一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリイミドとしては、例えば下記の繰り返し単位にオキソカーボン基が結合した繰り返し単位を有する高分子が挙げられ、オキソカーボン基は下記繰り返し単位の置換可能な水素のいずれかを置換している。

【0017】
また一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリアミド、一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリベンズオキサゾール、一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリベンズイミダゾール、一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリアリーレンエーテルとしては、例えば下記の繰り返し単位にオキソカーボン基が結合した繰り返し単位を有する高分子が挙げられ、オキソカーボン基は下記繰り返し単位の置換可能な水素のいずれかを置換している。

【0018】
一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリアリーレンとしては、例えば下記の繰り返し単位にオキソカーボン基が結合した繰り返し単位を有する高分子が挙げられ、オキソカーボン基は下記繰り返し単位の置換可能な水素のいずれかを置換している。

【0019】
また一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリエーテルケトンとしては、例えば下記の繰り返し単位にオキソカーボン基が結合した繰り返し単位を有する高分子が挙げられ、オキソカーボン基は下記繰り返し単位の置換可能な水素のいずれかを置換している。

【0020】
一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリエーテルスルホンとしては、例えば下記の繰り返し単位にオキソカーボン基が結合した繰り返し単位を有する高分子が挙げられ、オキソカーボン基は下記繰り返し単位の置換可能な水素のいずれかを置換している。

【0021】
また一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリアリーレンスルフィド、一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリフタラジノン、一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有するポリホスファゼンとしては、例えば下記の繰り返し単位にオキソカーボン基が結合した繰り返し単位を有する高分子が挙げられ、オキソカーボン基は下記繰り返し単位の置換可能な水素のいずれかを置換している。Aは前記と同じ意味である。


(式中、R9、R10は互いに独立に水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基、トリフルオロメチル基又はフェニル基を表す。)
上記例示繰り返し単位に結合するオキソカーボン基の数は一つでも2以上であってよい。繰り返し単位に結合しているオキソカーボン基は同じでも互いに異なっていてもよい。また高分子中の全ての繰り返し単位にオキソカーボン基が結合していなくてもよい。
【0022】
これらの高分子の中では、ビニル重合体、ポリベンズオキサゾール類、ポリベンズイミダゾール類、ポリアリーレンエーテル類、ポリアリーレン類、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン類、ポリホスファゼン類等、およびこれらの共重合体、これらの混合物等が好ましい。より好ましくはポリイミド類、ポリアリーレン類、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン類、およびこれらの共重合体、混合物等である。
より一層好ましくは、ポリアリーレン類、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルスルホン類、およびこれらの共重合体、混合物等であり、最も好ましくはポリエーテルスルホン類である。
また高分子電解質としての耐水性という観点からは、主鎖中にフェニル−フェニル結合を有する高分子を母体とするものが好ましい。そのようなものとしては、例えばポリアリーレン類、フェニル−フェニル結合を有するポリエーテルスルホン類、フェニル−フェニル結合を有するポリエーテルケトン類、フェニル−フェニル結合を有するポリイミド類等が挙げられ、最も好ましくはポリアリーレン類、フェニル−フェニル結合を有するポリエーテルスルホン類である。
【0023】
本発明の高分子は上記のような構造を有するものであるが、その分子量は、特に制限がないが、5000〜1000000程度が好ましく、10000〜500000程度がさらに好ましく、20000〜300000程度が特に好ましい。5000未満であると膜の形状で使用する場合には膜形状を保つことが難しくなる傾向に有り、また、1000000を超えると膜形状に成型することが難しくなる傾向にある。
また、本発明の高分子のイオン交換容量は0.5meq/g〜8meq/gであることが好ましい。0.5meq/g未満であるとイオン伝導度が低下する傾向にあり発電特性の面で好ましくなく、8meq/gを超えると耐水性の面で好ましくない傾向にある。イオン交換容量は好ましくは0.6〜7meq/gであり、さらに好ましくは0.7〜6meq/gであり、最も好ましくは0.8〜5meq/gである。
【0024】
次に本発明の高分子の製造方法を説明する。
本発明の高分子は
(A)高分子へ一般式(1)のオキソカーボン基を導入する方法、
(B)一般式(1)のオキソカーボン基を含むモノマーを重合して得る方法
などが挙げられる。
【0025】
(A)、(B)何れの方法においても、
(I)リチウム試薬を用いて一般式(1)の基を有する脂肪族化合物または芳香族化合物を合成する方法(Journal of Organic Chemistry,53,2482、2477(1988))、
(II)グリニヤ試薬を用いて一般式(1)の基を有する脂肪族化合物または芳香族化合物を合成する方法(Heterocycles,27(5),1191(1988))、
(III)スズ試薬を用いて一般式(1)の基を有する脂肪族化合物または芳香族化合物を合成する方法(Journal of Organic Chemistry,55,5359(1990)、Tetrahydron Letters,31(30),4293(1990))、
(IV)Friedel Crafts反応を用いて一般式(1)の基を有する芳香族化合物を合成する方法(Synthesis,46頁(1974))
等を用いて製造し得る。例えば、上記方法(I)から(IV)を適用し、上記(A)の方法として、一般式(1)の基を有さない高分子に一般式(1)の基を結合させる方法、(B)の方法として、一般式(1)の基を有する脂肪族化合物または芳香族化合物を合成し、得られた化合物を重合して目的の高分子を得る方法、が挙げられる。
【0026】
例えば、(A)の高分子へ一般式(1)のオキソカーボン基を導入する方法、具体的には繰り返し単位としてジフェニルスルホンを有する高分子に、一般式(1)においてX1=X2=−O−、Z=−CO−、n=1の構造を導入する方法について述べる。
不活性ガス中、繰り返し単位としてジフェニルスルホンを有する高分子を溶液中でアルキルリチウムと反応させてポリマー中にアニオンを発生させて、これに3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを反応させ、さらにこれを酸性条件下で処理する方法が挙げられる。
【0027】
ここで、繰り返し単位としてジフェニルスルホンを有する高分子としては、例えば、


の繰り返し単位を有する高分子を挙げることができる。ただし、m、pは繰り返しの数を表わす。
アルキルリチウムとしてはメチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、フェニルリチウム、などを挙げることができる。
【0028】
反応させる際の溶媒としてはアルキルリチウムと反応せず、高分子を溶解する溶媒であれば制限なく使用できる。このような溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロピラン、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、クラウンエーテル類等のエーテル系溶媒を挙げることができる。好ましくはテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロピラン等の環状エーテルであり、特に好ましくはテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソランであり、最も好ましくはテトラヒドロフランである。また、エーテル系溶媒と脂肪族炭化水素溶媒および/または芳香族炭化水素溶媒も使用することができる。脂肪族溶媒としてはシクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン等、芳香族炭化水素溶媒としてはベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
アルキルリチウムと高分子を反応させる際の温度は、通常、−150℃〜20℃、好ましくは−120℃〜0℃、さらに好ましくは−100℃〜−20℃である。アルキルリチウムと高分子を反応させる際の溶液の濃度は、通常0.01〜50wt%、好ましくは0.02〜30wt%、さらに好ましくは0.1〜20wt%、特に好ましくは0.2〜10wt%、最も好ましくは0.5〜5wt%である。アルキルリチウムと高分子を反応させる際の反応時間は通常1分〜10時間であり、好ましくは2分〜5時間、さらに好ましくは5分〜4時間、特に好ましくは10分〜3時間である。
【0029】
上記のようにポリマーにアニオンを発生させた後、3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを反応させるが、ここで用いる3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンとしては例えば、3,4−ジメトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(n−プロポキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジイソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(n−ブトキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(sec−ブトキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(tert−ブトキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジフェノキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジナフトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン等を挙げることができる。これらのなかでも好ましくは3,4−ジメトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジエトキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジイソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン、3,4−ジ(n−ブトキシ)−3−シクロブテン−1,2−ジオンである。
【0030】
このような3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンを反応させる際の反応温度は、通常、−150℃〜20℃、好ましくは−120℃〜0℃、さらに好ましくは−100℃〜−20℃である。反応温度は通常1分〜10時間であり、好ましくは2分〜5時間、さらに好ましくは5分〜4時間、特に好ましくは10分〜3時間である。反応に用いる3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンの量は使用したアルキルリチウムと等モル以上使用することが好ましい。
【0031】
酸性条件下で処理をする際に用いる試薬としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、シュウ酸、およびこれらの混合物等が挙げられる。処理温度としては通常、−150℃〜200℃であり、好ましくは−100℃〜150℃であり、さらに好ましくは−80℃〜120℃である。処理時間としては通常10分〜20時間であり、好ましくは30分〜15時間であり、特に好ましくは1時間〜10時間である。酸性条件下で処理する際には均一系であっても不均一系であってもよい。処理後のポリマーは不均一系であれば、ろ過することで回収でき、均一系であれば、貧溶媒や非溶媒中に沈殿し、ろ過することで回収することができる。
なお、一般式(1)で示されるオキソカーボン基の導入率は使用するアルキルリチウムの使用量や3,4−ジアルコキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオンの使用量等で容易に制御し得る。
【0032】
次に、本発明の高分子を燃料電池等の電気化学デバイスの隔膜として使用する場合について説明する。
この場合は、本発明の高分子は、通常フィルムの形態で使用されるが、フィルムへ転化する方法に特に制限はなく、例えば溶液状態より製膜する方法(溶液キャスト法)が好ましく使用される。
具体的には、高分子を適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜される。製膜に用いる溶媒は、高分子を溶解可能であり、その後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサン、テトラヒドロピラン、ジブチルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、クラウンエーテル類等のエーテル系溶媒が好適に用いられる。これらは単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。
中でも、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン等が高分子の溶解性が高く好ましい。
【0033】
フィルムの厚みは、特に制限はないが10〜300μmが好ましく、20〜100μmが特に好ましい。10μmより薄いフィルムでは実用的な強度が十分でない場合があり、300μmより厚いフィルムでは膜抵抗が大きくなり電気化学デバイスの特性が低下する傾向にある。膜厚は溶液の濃度および基板上への塗布厚により制御できる。
【0034】
またフィルムの各種物性改良を目的として、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤等を本発明の高分子に添加することができる。また、同一溶剤に混合共キャストするなどの方法により、他のポリマーを本発明の高分子と複合アロイ化することも可能である。
燃料電池用途では水の量を制御するために、無機あるいは有機の微粒子を保水剤として添加する事も知られている。これらの公知の方法はいずれも本発明の目的に反しない限り使用できる。
また、フィルムの機械的強度の向上などを目的として、電子線・放射線などを照射して架橋することもできる。さらには、多孔性のフィルムやシートに含浸複合化したり、ファイバーやパルプを混合してフィルムを補強する方法などが知られており、これらの公知の方法はいずれも本発明の目的に反しない限り使用できる。
【0035】
次に本発明の燃料電池について説明する。
本発明の燃料電池は、高分子フィルムの両面に、触媒および集電体としての導電性物質を接合することにより製造することができる。
該触媒としては、水素または酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができるが、白金の微粒子を用いることが好ましい。白金の微粒子はしばしば活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されて用いられ、好ましく用いられる。
集電体としての導電性物質に関しても公知の材料を用いることができるが、多孔質性のカーボン織布、カーボン不織布またはカーボンペーパーが、原料ガスを触媒へ効率的に輸送するために好ましい。
多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーに白金微粒子または白金微粒子を担持したカーボンを接合させる方法、およびそれを高分子電解質フィルムと接合させる方法については、例えば、J. Electrochem. Soc.: Electrochemical Science and Technology, 1988, 135(9),2209 に記載されている方法等の公知の方法を用いることができる。
また、本発明の高分子は、固体高分子形燃料電池の触媒層を構成する触媒組成物の一成分であるプロトン伝導材料としても使用可能である。
このようにして製造された本発明の燃料電池は、燃料として水素ガス、改質水素ガス、メタノール、ジメチルエーテル等を用いる各種の形式で使用可能である。
上記において、本発明の実施の形態について説明を行なったが、上記に開示された本発明の実施の形態は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの実施の形態に限定されない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものである。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
分子量の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および/または重量平均分子量(Mw)を測定した。
GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
カラム Shodex社製 KD−80Mを2本直列に接続
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMAc(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
プロトン伝導度(σ)は、以下のようにして測定した。
幅1.0cmの短冊状膜試料の表面に白金板(幅:5.0mm)を間隔が1.0cmになるように押しあて、80℃、相対湿度100%の恒温恒湿槽中に試料を保持し、白金板間の106〜10-1Hzにおける交流インピーダンスを測定し、下記式より求めた。
σ(S/cm)=1/(R×d)
(ただし、コール・コールプロット上において、複素インピーダンスの虚数成分が0の時、複素インピーダンスの実数成分をR(Ω)とする。dは膜厚(cm)を表す。)
吸水率の測定は乾燥したフィルムを100℃の脱イオン水に2時間浸漬した後のフィルム重量増加量を乾燥時の重量を基準として求めた。
【0037】
(参考例1)3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオンの製造
アルゴン雰囲気下、フラスコにジイソプロピルスクアリン酸2g(10.1mmol)、脱水THF20mlを入れ均一溶液とした。−78℃に保ったまま、フェニルリチウムのジブチルエーテル溶液(19wt%)4.56ml(10.3mmol)を15分かけて滴下し、そのまま3時間反応させた(TLC分析(シリカゲル);ヘキサン:エーテル=5:5(vol/vol)でRf=0.37)。反応終了後、水10mlで反応を停止し、エーテルを10ml加えた。油層を分け取り、水層をさらに塩化メチレンで2回抽出した。油層をあわせて無水硫酸ナトリウムで脱水後、ろ過、濃縮することにより黄色の固体を得た。この固体をTHF0.2mlに溶解させて均一溶液とした。室温で36wt%塩酸1mlを加えたところ、すぐに黄色の沈殿を生じた。そのまま室温で4時間反応させた後、水を50ml加えた。これを塩化メチレンで3回洗浄し、水を留去し黄色の固体を得た。シリカゲルカラムで精製し(TLC分析(シリカゲル);ヘキサン:エーテル=5:5(vol/vol)でRf=0.00,THFでRf=0.09)目的の3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオンを得た。構造は1H NMR、13C NMRで確認した。
【0038】
(参考例2)3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオンのサイクリックボルタンメトリー測定
参考例1で合成した3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオン83mgを脱イオン水50mlに溶解させて約10mMの水溶液とした。この水溶液を
作用電極:グラッシーカーボン
参照電極:Ag/AgCl/飽和KCl
対極:白金
掃引範囲:−0.128〜1.202V(vs.Ag/AgCl/飽和KCl)
の条件でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。その結果、3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオンは,標準水素電極に換算すると約1.3V(vs.NHE)付近から酸化波が観測された。これは、この化合物が水素やメタノールを燃料とする燃料電池中で安定に存在しうることを意味する。
【0039】
(参考例3)3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオンのフェントン試験による耐ラジカル性評価
FeCl2・4H2O 71.2mgを脱イオン水500mlに溶解させた。この溶液4mlと3wt%の過酸化水素水36mlを混合した(フェントン試薬)。混合後ただちに参考例1で合成した、3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオン10mgを加えて均一溶解し、60℃で2時間攪拌を行った。反応後の試験液に白金を投入して過剰の過酸化水素を除去した。LC分析(水/アセトニトリル)を行ったところ、3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオンはほとんど分解されていなかった。
【0040】
(参考例4)ベンゼンスルホン酸のフェントン試験による耐ラジカル性評価
参考例3において3−フェニル−4−ヒドロキシシクロブテン−1,2−ジオンのかわりにベンゼンスルホン酸を用いた以外は同様に試験を行った。LC分析の結果、ベンゼンスルホン酸はほとんど消失していた。
【0041】
実施例1
不活性ガス置換したフラスコ中に、下記のポリスルホン(アルドリッチ社製)

1.00g(ユニット換算で2.26mmol)と脱水および脱酸素済みのテトラヒドロフラン(以下、THFと略称する)80mlを入れ混合した。この溶液を−78℃に保ち、ここにn−BuLi(1.6MのHexane溶液)3.00ml(4.80mmol)を加え、1時間反応させた(これを溶液Aと略称する)。
別の不活性ガス置換したフラスコに3,4−ジイソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン2.00g(10.1mmol)と脱水および脱酸素済みのTHF20mlを入れて溶液とした。この溶液を−78℃に保った(これを溶液Bと略称する)。
溶液Aと溶液Bを−60℃以下に保ったまま混合し、−78℃で2時間反応させた。反応後、12規定の塩酸1.0mlを加えて反応を停止し、徐々に室温に昇温した後、THFを留去した。デカンテーションで塩酸を除去し、水洗、乾燥して黄色のポリマーを得た。このポリマーをTHF50mlに溶解させ、ジエチルエーテル300mlに注いで析出させることにより精製した。精製したポリマーをフラスコ中で12規定の塩酸50mlに分散させて100℃で5時間反応させた。反応後、ポリマーをろ別、水洗、乾燥することにより目的のポリマー(C)を得た。得られたポリマーの分子量はMn=105000であった。得られたポリマーを用いて、THF溶液からキャスト製膜し、厚さ50μmの強靭な膜(D)を得た。(D)のプロトン伝導度、イオン交換容量、吸水率を表1に示す。
得られたポリマー(C)は1H NMR、13C NMR測定、イオン交換容量測定の結果、以下の構造を有していることが確認された。
【0042】

【0043】
実施例2
不活性ガス置換したフラスコ中に、下記構造式で表されるポリフェニルスルホン(アルドリッチ社製)

3.00g(ユニット換算で7.5mmol)と脱水および脱酸素済みの1,3−ジオキソラン300mlを入れ混合した。この溶液を−78℃に保ち、ここにn−BuLi(1.6Mのヘキサン溶液)11.3ml(18mmol)を加え、2時間反応させた(これを溶液Eと略称する)。
別の不活性ガス置換したフラスコに3,4−ジイソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン2.00g(10.1mmol)と脱水および脱酸素済みの1,3−ジオキソラン100mlを入れて溶液とした。この溶液を−78℃に保った(これを溶液Fと略称する)。
溶液Eと溶液Fを−60℃以下に保ったまま混合し、−78℃で2時間反応させた。反応後、12規定の塩酸5.0mlを加えて反応を停止し、徐々に室温に昇温した後、1,3−ジオキソランおよびヘキサンを留去した。デカンテーションで塩酸を除去し、水洗、乾燥して黄色のポリマーを得た。このポリマーをN,N−ジメチルアセトアミド150mlに溶解させメタノール1000mlに注いで析出させることにより精製した。精製したポリマーをフラスコ中で12規定の塩酸150mlに分散させて100℃で5時間反応させた。反応後、ポリマーをろ別、水洗、乾燥することにより目的のポリマー(G)を得た。このものの分子量はMn=98000であった。得られたポリマーを用いて、DMAc溶液からキャスト製膜し、厚さ23μmの強靭な膜(H)を得た。(H)のプロトン伝導度、イオン交換容量、吸水率を表1に示す。
得られたポリマー(G)は1H NMR、13C NMR測定、イオン交換容量測定の結果、以下の構造を有していることが確認された。
【0044】

【0045】
実施例3
不活性ガス置換したフラスコ中に、ポリ(4−ブロモスチレン)(アルドリッチ社製)0.506g(ユニット換算で2.76mmol)と脱水および脱酸素済みのTHF30mlを入れ混合し、溶液とした。この溶液を−78℃に保ち、ここにnBuLi(1.6Mのヘキサン溶液)5.33ml(8.53mmol)を加え、30分間反応させた(これを溶液Iと略称する)。
別の不活性ガス置換したフラスコに3,4−ジイソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン1.69g(8.53mmol)と脱水および脱酸素済みのTHF20mlを入れて溶液とした。この溶液を−78℃に保った(これを溶液Jと略称する)。
溶液Iと溶液Jを−60℃以下に保ったまま混合し、−78℃で2時間反応させた。反応後、12規定の塩酸5.0mlを加えて反応を停止し、徐々に室温に昇温した後、テトラヒドロフランおよびヘキサンを留去した。デカンテーションで塩酸を除去し、水洗、乾燥して黄色のポリマーを得た。このポリマーをメタノールで充分に洗浄した。洗浄したポリマーをフラスコ中で12規定の塩酸50mlに分散させて100℃で5時間反応させた。反応後、ポリマーをろ別、水洗、乾燥することにより目的のポリマー(K)を得た。このものの分子量はMn=141000であった。得られたポリマーを用いて、DMAc溶液からキャスト製膜し、厚さ23μmの強靭な膜(L)を得た。(L)のプロトン伝導度、イオン交換容量、吸水率を表1に示す。
得られたポリマー(K)はイオン交換容量測定、元素分析の結果、以下の構造を有していることが確認された。

【0046】
実施例4
不活性ガス置換したフラスコに4,4’−ジクロロジフェニルスルホン26.7g(105mmol)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン20.0g(87.7mmol)、炭酸カリウム13.3g(96.4mmol)、N−メチルピロリドン206g、トルエン32gを入れ、徐々に150℃に昇温してトルエンを留去した。トルエン留去後、190℃に昇温して、この温度で6時間反応を行った。その後、反応液をメタノール1000mlに加えて重合体を析出させ、水洗およびメタノール洗浄を十分に行い、乾燥してポリマー(M)を得た。得られたポリマーの分子量はMn=11000、Mw=23000であった。
不活性ガス置換したフラスコに、十分に乾燥した(M)5.00gと脱水および脱酸素済みのTHF100mlを入れて均一溶液とし、−78℃に保ったまま、n−ブチルリチウム(1.6Mのヘキサン溶液)17.0mlを滴下した。滴下後、−78℃で60分反応させた(これを溶液Nと略称する)。
別の不活性ガス置換したフラスコに3,4−ジイソプロポキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン6.89g(34.8mmol)と脱水および脱酸素済みのTHF100mlを入れて均一溶液とした。この溶液を−78℃に保ち、系内のプロトン源を除去することを目的として、フェニルリチウム(2.26Mのジブチルエーテル溶液)を2.5ml(5.65mmol)滴下した。系内は黄橙色を呈した(これを溶液Pと略称する)。
溶液Nと溶液Pを−60℃以下に保ったまま混合し、−78℃で2時間反応させた。反応後、12規定の塩酸5.0mlを加えて反応を停止し、徐々に室温に昇温した後、テトラヒドロフランおよびヘキサンを留去した。デカンテーションで塩酸を除去し、水洗、乾燥して黄色のポリマーを得た。このポリマーをメタノールで充分に洗浄した。洗浄したポリマーをフラスコ中で12規定の塩酸50mlに分散させて100℃で5時間反応させた。反応後、ポリマーをろ別、水洗、乾燥することによりポリマー(Q)を得た。ポリマー(Q)は1H NMR、イオン交換容量測定の結果、以下の構造を有していることが確認された。得られたポリマーの分子量はMn=17500、Mw=40000であった。
【0047】


上記で得られたポリマー(Q)1.50gを2Nの水酸化カリウム水溶液100ml中に12時間分散させ、ろ過後、水洗を十分に行い、乾燥することでポリマー(R)を得た。得られたポリマーの分子量はMn=19000、Mw=40000であった。また、イオン交換容量測定の結果、実質的にすべてのオキソカーボン基がカリウム塩型になっていることが確認された。
不活性ガス置換したフラスコにポリマー(R)0.50g、ポリマー(M)0.50g、ジメチルスルホキシド14ml、トルエン10ml、2,2’−ビピリジル125mg(0.800mmol)を入れて、徐々に150℃に昇温してトルエンを留去した。その後、60℃に温度を下げて、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)0.200g(0.727mmol)を加えて、60℃で6時間反応を行った。反応後、溶液を6規定の塩酸100mlに注いでポリマーを析出させた。このポリマーをTHFに再溶解させて6規定の塩酸に注ぐ、という再沈殿の操作を5回繰り返すことで精製し、乾燥して、実質的にオキソカーボン基を有さないブロックとオキソカーボン基を有するブロックからなるブロック共重合体(S)を得た。このものの分子量はMn=41000、Mw=284000であった。得られたポリマーを用いて、THF溶液からキャスト製膜し、厚さ43μmの強靭な膜(T)を得た。(T)のプロトン伝導度、イオン交換容量、吸水率を表1に示す。得られたブロック共重合体(S)は以下の構造を有していることが確認された。


【0048】
比較例1
フラスコ中に、実施例1で用いたと同じポリスルホン1.00g(ユニット換算で2.26mmol)と濃硫酸(97wt%)10mlを入れて室温で攪拌した。攪拌開始から3時間後に反応マスを大量の氷水に注いでポリマーを析出させた。析出させたポリマーを、洗浄液が中性になるまで水で洗浄、乾燥した。このポリマーをDMAcに溶解させて、キャスト製膜を行った。得られた膜(b)は充分な膜強度を有していなかったためプロトン伝導度は測定できなかった。また、(b)は100℃の水に簡単に溶解してしまった。(b)のイオン交換容量を表1に示す。
得られたポリマーは1H NMR、13C NMR測定、イオン交換容量測定の結果、以下の構造を有していることが確認された。
【0049】

【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のオキソカーボン基を有する高分子は、水素ガスなどの気体燃料やメタノールやジメチルエーテルなどの液体燃料を用いる固体高分子型燃料電池のプロトン伝導膜用材料である高分子電解質として有用である。本発明の高分子はスルホン酸基を有する高分子に匹敵するプロトン伝導性を有するのみならずスルホン酸基を有する高分子に比し、化学的安定性、耐水性等にも優れ、長時間に亘り高いプロトン伝導性を維持し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるオキソカーボン基を有することを特徴とする高分子。

(式中、X1、X2はそれぞれ独立に−O−、−S−又は−NR−を表し、Zは−CO−、−C(S)−、−C(NR’)−、置換基を有していても良いアルキレン基又は置換基を有していても良いアリーレン基を表す。(NR、NR’におけるR、R’は、それぞれ独立に水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基を表す。)nは繰り返しの数を表わし、n=0〜10の数を表わす。n個あるZは同じであっても良いし、異なっていても良い。Bは水素原子または1価の金属原子を表す。)
【請求項2】
Zが−CO−、−C(S)−、−C(NH)−から選ばれることを特徴とする請求項1記載の高分子。
【請求項3】
1、X2が−O−、Zが−CO−、nが0〜2であることを特徴とする請求項1又は2記載の高分子。
【請求項4】
イオン交換容量が、0.5meq/g〜8meq/gであることを特徴とする請求1〜3いずれかに記載の高分子。
【請求項5】
主鎖中にフェニル−フェニル結合を有することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の高分子。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の高分子を有効成分とする高分子電解質。
【請求項7】
請求項6記載の高分子電解質を有することを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項6記載の高分子電解質を有することを特徴とする触媒組成物。
【請求項9】
請求項6記載の高分子電解質、請求項7記載の高分子電解質膜、請求項8記載の触媒組成物のいずれかを有することを特徴とする高分子電解質膜−電極接合体。
【請求項10】
請求項6記載の高分子電解質、請求項7記載の高分子電解質膜、請求項8記載の触媒組成物、請求項9記載の高分子電解質膜−電極接合体のいずれかを有することを特徴とする高分子電解質型燃料電池。

【公開番号】特開2006−225624(P2006−225624A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129108(P2005−129108)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】