説明

オゾン暴露評価システム

【課題】個人が容易に携帯可能で簡便にオゾン測定できる手段を用い、オゾンの分布が容易に把握できるなどオゾンに対する暴露状態が容易に評価できるようにする。
【解決手段】情報処理部104では、オゾン分布算出部142が、濃度情報記憶部143に記憶された作業者毎のオゾン濃度の情報と、GPS情報取得装置102から入力した作業者毎の位置情報と、区画情報記憶部144に記憶されている作業領域を区画した区画情報とをもとに、区画情報記憶部144に記憶されている領域におけるオゾン濃度の分布を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
大気などの気体中に存在するオゾンを退色反応により検出するオゾン検知素子 を用いたオゾン暴露評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、光化学オキシダントなどによる大気汚染が生じ、環境に対する影響が問題とされている。光化学オキシダントは、9割がオゾンで占められており、工場や事業所や自動車から排出されるNOxや炭化水素などの汚染物質が太陽光線の照射を受けて光化学反応により生成している。従って、光化学オキシダントの発生状態や濃度分布の解明が重要となっている。このためには、大気中におけるオゾンの分布を測定することになる。
【0003】
例えば、各地の一般大気環境観測局では、自動測定法によりオゾンガスの濃度測定が行われている。この自動測定法によるオゾンガス濃度測定では、大気中に存在するオゾンの測定として、中性ヨウ化カリウム溶液に被測定ガスをバブリングさせ、生じるヨウ素の呈色反応を利用して検出する方法や、オゾンの紫外領域での吸収を利用して検出する方法が用いられている。
【0004】
しかしながら、このような測定環境では、都道府県レベルの広域のオゾン分布の状態を把握することが可能であるが、より狭い範囲におけるオゾンの分布の測定は不可能である。上述した測定方法(装置)は、数ppbの微量なガスの測定が可能であるが、装置が大型化し、また複雑な構成となり、より多くの測定点に測定装置を設けることは、現実的ではない。
【0005】
また、より簡便なオゾン測定の技術として、半導体ガスセンサー、固体電解質ガスセンサー、電気化学式ガスセンサー、水晶発振式ガスセンサーなど、幅広くオゾンガス測定技術の開発が進んでいる。しかし、これらは、短時間での応答を評価するために開発されたものであり、測定データの蓄積が必要な監視用に開発されたものは少ない。従って、測定データの蓄積が必要な場合には、常時稼働させておく必要がある。また、例えば半導体センサーの場合、検出部を数100℃に保つ必要があり、常時稼働させるためには多くの電力が常に必要とされる。
【0006】
また、上述したセンサーは、検出感度がサブppm程度であるために、例えば10ppbのオゾンの測定など、実環境の濃度には対処できない。半導体センサーの中には、10ppbのオゾンに反応するものもあるが、検出出力は濃度に対して非線形であり、さらに、センサー個体毎に出力値が大きく異なり、異なるセンサーを用いた場合の比較が容易ではない。また、多くの場合、他ガスによる影響が無視できない。
【0007】
他の簡便なオゾンの分析技術として、デンプン及びヨウ化カリウムが担持されたオゾン検知紙が提案されている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1による技術では、生成したヨウ素が徐々に蒸発するために精度や再現性に問題があり、また、特殊なシート状の担体が必要となり、1回の測定毎にシートを更新する必要があり、蓄積的な測定が容易ではない。
【0008】
また、簡便なオゾンガスの分析方法として、インジゴカルミンを担持したオゾン検知紙による技術が提案されている(非特許文献1参照)。また、青色のインジゴ色素を担持したオゾン検知シートの表面にメンブレンフィルタを設置し、メンブレンフィルタの厚さを調節することで感度を調節する技術も提案されている(非特許文献2参照)。しかしながら、これらのオゾン検知紙の場合、感度が十分ではなく、労働環境基準である100ppb×8時間の蓄積量を十分に測定することができない。
【0009】
【特許文献1】特許第3257622号公報
【非特許文献1】Anna C. Franklin, et al. ,"Ozone Measurement in South Carolina Using Passive Sampler", Journal of the Air & Waste Measurement Association, Vol.54, pp.1312-1320, 2004.
【非特許文献2】"Operating Instructions for Ozone Monitor", Part#380010-10,http://www.kandmenvironmental.com/PDFs/ozone.pdf
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上に説明したように、従来では、環境基準に応じてppbオーダーで精度よくオゾンガスを検出しようとすると、効果で大がかりな装置構成が必要となり、手間がかかって容易にオゾンガスが検出できない。オゾンの分布をより高い精度で把握するためには、より多くの測定点においてオゾン濃度の測定を行う必要があるが、前述したような大がかりな測定装置では、対応することが非常に困難である。一方、上述した従来の簡便なオゾンガスの分析方法では、前述したように検出精度が高くなく、また、蓄積的な測定が容易ではない。このため、従来よりある比較的簡便なオゾンガスの分析技術を用いても、高い精度でオゾン濃度が測定できず、やはりオゾンの分布を高い精度で把握することができない。
【0011】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、個人が容易に携帯可能で簡便にオゾン測定できる手段を用い、オゾンの分布が容易に把握できるなどオゾンに対する暴露状態が容易に評価できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るオゾン暴露評価システムは、繊維より構成された担体及びこの担体に担持されてオゾンガスと反応して色が変化する色素を含んだ検知成分とから少なくとも構成されて携帯可能とされたオゾン検知素子と、このオゾン検知素子の色の変化を検出する測定手段と、この測定手段に測定されたオゾン検知素子の色の変化より、オゾン検知素子が暴露したオゾンの総量を求めるオゾン量算出手段と、オゾン量算出手段が算出したオゾンの総量及びオゾン検知素子が配置されていた位置情報によりオゾン検知素子が配置されていた領域のオゾン分布を求めるオゾン分布算出部とを備えるようにしたものである。
【0013】
上記オゾン暴露評価システムにおいて、オゾン検知素子とともに携帯されて、自身の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得手段を備え、オゾン分布算出部は、位置情報取得手段が取得した位置情報をもとにオゾン検知素子が配置されていた領域のオゾン分布を求めるようにすればよい。この場合、位置情報取得手段は、GPS衛星からGPS信号を受信することで位置情報を取得するものであればよい。
【0014】
上記オゾン暴露評価システムにおいて、測定手段に測定された複数のオゾン検知素子の色の変化より、オゾン量算出手段が、オゾン検知素子が暴露したオゾンの総量を各々のオゾン検知素子毎に求め、オゾン分布算出部が、位置情報をもとにオゾン検知素子が配置されていた領域のオゾン濃度をオゾン検知素子毎に求め、オゾン検知素子毎に求めた各領域毎のオゾン濃度を合計することで、領域のオゾン分布を求めるようにする。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、携帯可能なオゾン検知素子を用い、オゾン量算出手段が算出したオゾンの総量及びオゾン検知素子が配置されていた位置情報によりオゾン検知素子が配置されていた領域のオゾン分布を求めるようにしたので、オゾンの分布が容易に把握できるなどオゾンに対する暴露状態が容易に評価できるようになるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態におけるオゾン暴露評価システムの構成例を示す構成図である。このオゾン暴露評価システムは、まず、オゾンガスの存在により色が変化するオゾン検知素子101と、GPS情報取得装置102とを備える。オゾン検知素子101及びGPS情報取得装置102は、使用者(作業者)により携帯されて用いられる。また、本実施の形態におけるオゾン暴露評価システムは、オゾン検知素子101の色の状態を測定する測定部103と、測定された色の状態とGPS情報取得装置102より得られる位置情報とからオゾン濃度の分布を算出する情報処理部104とを備える。
【0017】
また、GPS情報取得装置102は、GPS情報取得部121と、GPS情報記憶部122とを備える。測定部103は、光源131と、検出器132と、測定処理制御部133とを備える。情報処理部104は、個人平均オゾン量算出部141と、オゾン分布算出部142と、濃度情報記憶部143と、区画情報記憶部144と、入力部145と、表示部146とを備える。
【0018】
オゾン検知素子101は、ろ紙などの繊維より構成された担体と、この担体に担持されてオゾンガスと反応して色が変化する色素を含んだ検知成分とから少なくとも構成されている。オゾン検知素子101の色素は、オゾンとの反応量に対応して色が変化し、反応量が多いほど色の変化が大きいものとなる。従って、色の変化の状態により、オゾン検知素子101が暴露したオゾンの濃度の蓄積的な測定が可能となる。例えば、オゾン検知素子101は、図2の斜視図に示すように、平面形状が60mm×100mm程度のカード201に固定されて用いられる。カード201には、これを携帯する作業者を識別するためのバーコードなどの識別情報202が記載されている。また、カード201は、ひも203などにより、作業者に携帯可能とされている。なお、オゾン検知素子101の詳細については、以降に説明する。
【0019】
GPS情報取得装置102について説明すると、GPS情報取得部121は、地球の上空を周回する複数のGPS衛星からGPS信号を受信し、受信したGPS信号の受信までの時間と、受信したGPS信号に含まれている時刻情報及び航法メッセージとから、GPS情報取得装置102の位置情報を生成する。GPS情報取得部121は、例えば30分毎など、所定の時間毎にGPS信号を受信して位置情報を生成する。このようにしてGPS情報取得部121により生成された位置情報は、GPS情報記憶部122に記憶される。
【0020】
測定部103は、例えば、いわゆる分光測色計であり、例えば、株式会社カラーテクノシステム製の「CA22」である。光源131からの所定の波長の光をオゾン検知素子101に照射し、照射してオゾン検知素子101より反射した反射光を検出器132で検出することで、オゾン検知素子101における反射率を測定する。検出器132では、検出した反射光を光電変換して電気信号とし、この電気信号が測定処理制御部133により反射率を示す情報に処理され、この反射率が測定部103より出力される。なお、測定部103は、所定の発光波長のLED(例えばROHM製,SLI−580UT)よりなる光源131と、所定の光検出器(例えば浜松フォトニクス社製S1227−1010BR)よりなる検出器132と、検出器132より出力される信号をA/D変換するA/D変換器を含む測定処理制御部133とから構成しても良い。
【0021】
情報処理部104では、まず、個人平均オゾン量算出部141が、測定部103より出力された反射率を入力し、この反射率の変化により、オゾン検知素子101及びGPS情報取得装置102を携帯していた作業者が、所定時間の間に曝されたオゾンの総量を算出する。このようにして算出されたオゾン量は、対応する作業者を識別する個人識別情報とともに、濃度情報記憶部143に記憶される。
【0022】
また、個人識別情報は、カード201に記載されている識別情報202を、入力部145より入力する。例えば、入力部145は、いわゆるバーコードリーダであり、バーコードである識別情報202を読み取ることで、個人識別情報が入力される。また、入力部145は、キーボードであってもよく、カード201に記載されている識別情報202を、作業者の操作により入力部145から入力しても良い。
【0023】
例えば、作業者が、作業開始時点で、オゾン検知素子101の反射率を測定部103に測定させることで、作業開始時点のオゾン検知素子101の反射率(初期反射率)が個人平均オゾン量算出部141に入力され、入力された初期反射率が、個人識別情報とともに濃度情報記憶部143に一時記憶される。この後、作業終了時点で、オゾン検知素子101の反射率を測定部103に測定させることで、作業終了時点のオゾン検知素子101の反射率(作業後反射率)が個人平均オゾン量算出部141に入力され、入力された作業後反射率が、個人識別情報とともに濃度情報記憶部143に記憶される。
【0024】
このように、作業後反射率が入力されると、個人平均オゾン量算出部141は、一時記憶されている初期反射率と作業後反射率との差により、作業者毎に携帯していたオゾン検知素子101が暴露した(オゾン検知素子101と反応した)オゾン濃度(オゾン総量)を算出する。加えて、算出した作業者毎のオゾン総量を、対応する作業者を識別する個人識別情報とともに、濃度情報記憶部143に記憶する。また、個人平均オゾン量算出部141は、算出した作業者毎のオゾン総量より、予め設定されている単位時間毎の単位オゾン量を算出する。例えば、作業時間が7時間であり、予め設定されている単位時間が1時間である場合、オゾン総量を7で除することで、単位オゾン量を算出する。
【0025】
また、情報処理部104では、区画情報記憶部144が、例えば、図3の説明図に示すように、ある地域(作業地域)を、南北に1,2,3,4,5,6と6分割し、東西にA,B,C,D,E,F,G,Hと8分割し、48の区画に分けた状態を示す区画情報を記憶している。区画情報で示される作業地域は、作業者が様々な作業を行う地域であり、また、1つの区画は、一辺が100〜500mの矩形の領域である。例えば、作業地域は、作業者によりゴミの収集が行われる市街地である。
【0026】
また、情報処理部104では、オゾン分布算出部142が、濃度情報記憶部143に記憶された作業者毎のオゾン濃度の情報と、GPS情報取得装置102から入力した作業者毎の位置情報と、区画情報記憶部144に記憶されている区画情報とをもとに、区画情報記憶部144に記憶されている領域におけるオゾン濃度の分布を算出する。
【0027】
例えば、図4のフローチャートに示すように、オゾン分布算出部142は、まず、GPS情報取得装置102から入力した作業者毎の位置情報より、該当する作業者の作業地域内における移動の軌跡を求め、また、求めた軌跡と区画情報記憶部144に記憶されている区画情報とにより、上述した単位時間が設定される時刻帯における当該作業者が存在していた区画を求める(ステップS401)。
【0028】
これらのことにより、例えば、以下の表1に示すように、作業者1〜作業者10毎に、オゾン総量及び単位時間当たりの単位オゾン量が、個人平均オゾン量算出部141により求められ、設定される時間帯に存在していた区画の情報が、オゾン分布算出部142により求められる。
【0029】
なお、表1において、項目「総量」は、オゾン総量を示し、項目「単位量」は、単位オゾン量を示し、オゾンの量(濃度)の単位はppbである。また、表1において、例えば「作業者1」の行をみると、9:00〜10:00の時間帯は、図3における列Aと行2とが交差する区画「A−2」で作業が行われたことを示している。また、「作業者1」が携帯していたオゾン検知素子101の初期反射率と作業後反射率とのデータより、「作業者1」は、全作業時間において、総量としてオゾン濃度140ppbの空気に曝された(暴露した)ことを示している。
【0030】
【表1】

【0031】
次に、ステップS402で、オゾン分布算出部142は、各区画に割り当てられた単位オゾン量を各区画毎に合計し、全作業時間における各区画毎のオゾンガス暴露量を各作業者毎に算出する。例えば、オゾン分布算出部142は、「作業者1」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量20ppbと、「作業者1」の経路情報とにより、3時間存在した区画「A−2」では20×3=60ppbのオゾンガスが検出され、4時間存在した区画「A−4」では20×4=80ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者1」に関しては、以下の表2に示すように、全作業時間において、区画「A−2」では60ppbのオゾンガスに暴露し、区画「A−4」では、80ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0032】
【表2】

【0033】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者2」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量100ppbと、「作業者2」の経路情報とにより、3時間存在した区画「A−2」では100×3=300ppbのオゾンガスが検出され、4時間存在した区画「E−5」では100×4=400ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者2」に関しては、以下の表3に示すように、全作業時間において、区画「A−2」では300ppbのオゾンガスに暴露し、区画「A−4」では、400ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0034】
【表3】

【0035】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者3」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報からの単位時間の単位オゾン量70ppbと、「作業者3」の経路情報とにより、3時間存在した区画「D−5」では70×3=210ppbのオゾンガスが検出され、4時間存在した区画「G−2」では70×4=280ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者3」に関しては、以下の表4に示すように、全作業時間において、区画「D−5」では210ppbのオゾンガスに暴露し、区画「G−2」では、280ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0036】
【表4】

【0037】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者4」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量110ppbと、「作業者4」の経路情報とにより、3時間存在した区画「D−5」では110×3=330ppbのオゾンガスが検出され、4時間存在した区画「E−5」では110×4=440ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者4」に関しては、以下の表5に示すように、全作業時間において、区画「D−5」では330ppbのオゾンガスに暴露し、区画「E−5」では、440ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0038】
【表5】

【0039】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者5」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量10ppbと、「作業者5」の経路情報とにより、7時間存在した区画「H−1」で10×7=70ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者5」に関しては、以下の表6に示すように、全作業時間において、区画「H−1」で70ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0040】
【表6】

【0041】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者6」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量20ppbと、「作業者6」の経路情報とにより、3時間存在した区画「H−1」では20×3=60ppbのオゾンガスが検出され,4時間存在した区画「H−3」では20×4=80ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者6」に関しては、以下の表7に示すように、全作業時間において、区画「H−1」では60ppbのオゾンガスに暴露し、区画「H−3」では80ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0042】
【表7】

【0043】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者7」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量90ppbと、「作業者7」の経路情報とにより、3時間存在した区画「B−5」では90×3=270ppbのオゾンガスが検出され,4時間存在した区画「G−5」では90×4=360ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者7」に関しては、以下の表8に示すように、全作業時間において、区画「B−5」では270ppbのオゾンガスに暴露し、区画「G−5」では360ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0044】
【表8】

【0045】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者8」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量20ppbと、「作業者8」の経路情報とにより、7時間存在した区画「B−5」で20×7=140ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者8」に関しては、以下の表9に示すように、全作業時間において、区画「B−5」で140ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0046】
【表9】

【0047】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者9」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量30ppbと、「作業者9」の経路情報とにより、3時間存在した区画「D−3」では30×3=90ppbのオゾンガスが検出され,4時間存在した区画「F−3」では30×4=120ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者9」に関しては、以下の表10に示すように、全作業時間において、区画「D−3」では90ppbのオゾンガスに暴露し、区画「F−3」では120ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0048】
【表10】

【0049】
また、オゾン分布算出部142は、「作業者10」が携帯していたオゾン検知素子101からのオゾン濃度情報から算出された単位時間の単位オゾン量20ppbと、「作業者10」の経路情報とにより、7時間存在した区画「H−2」で20×7=210ppbのオゾンガスが検出されたものとする。このことにより、オゾン分布算出部142は、「作業者10」に関しては、以下の表11に示すように、全作業時間において、区画「H−2」で210ppbのオゾンガスに暴露したものとする。
【0050】
【表11】

【0051】
以上のようにして各作業者から得られた情報をもとに、各作業者毎に、各区画におけるオゾンガス暴露量を求めると(ステップS403)、オゾン分布算出部142は、これらを各区画毎に総計し、以下の表12に示すように、全作業時間における、各区画におけるオゾンガス量とする(ステップS404)。
【0052】
【表12】

【0053】
このようにして、オゾン分布算出部142が全作業時間における、各区画におけるオゾンガス量を求めると、求めた結果を表示部146に表示する(ステップS405)。例えば、表12に示す結果を、3次元グラフの形態で表示する。この表示された結果を確認することで、作業地域におけるオゾンの分布が予測可能となり、この作業地域におけるオゾン暴露の状態が容易に評価できるようになる。
【0054】
次に、オゾン検知素子101について、より詳細に説明する。例えば、まず、色素としてインジゴカルミン(C1682Na282)0.06gと、酸性物質として酢酸3.0g、保湿剤としてグリセリン(C383)15gを水に溶解して全量を50gとした検知溶液を作製する。次に、例えば、アドバンテック(東洋濾紙株式会社)製のセルロース濾紙(No.51B)からなるシート状担体を用意し、これを上記検知溶液に30秒間浸漬し、シート状担体に検知溶液を含浸させる。この後、検知溶液より取り出したシート状担体を風乾させて溶媒を揮発させることで、検知成分が担持されたオゾン検知素子101が作製できる。この場合、オゾン検知素子101は、インジゴカルミンの色に染色され、青色を呈した状態となり、この色は目視により確認可能である。
【0055】
このように作製されたオゾン検知素子101の波長620nmにおける反射率を、分光測色計(カラーテクノシステム製CA22)を用いて測定すれば、この測定結果が、前述した初期反射率となる。また、作業者が携帯することで環境に存在するオゾンに暴露(約8時間)した後、再度、オゾン検知素子101の波長620nmにおける反射率を分光測色計を用いて測定すれば、これが、前述した作業後反射率となる。
【0056】
上述したインジゴカルミンは、インジゴ環を備えた色素でありこの色素の場合は、酢酸やクエン酸などの酸性物質により酸性状態として用いる。従って、色素としてインジゴカルミンなどを用いる場合、色素と酸性物質とで検知成分が構成されることになる。インジゴ環を有する色素は、オゾンと反応することで、この分子骨格に含まれるC=C結合が分解され、色素分子の構造と電子状態が変化することなどにより、可視領域の光吸収が変化して色(色相)が変化(退色)する。インジゴ環を備えた色素としては、他にインジゴが適用可能である。
【0057】
また、カルコン(HOC106N:NC105(OH)SO3Na),アシッドアリザリンバイオレットN(別名アシッドクロームバイオレットK:C16112NaO5S),オレンジI(C16112NaO4S),及びメチルオレンジ(C14143NaO3S)などのアゾ色素が適用可能である。アゾ色素は、オゾンと反応することで、この分子骨格に含まれるアゾ基(N=N2重結合)が分解(酸化)され、色素分子の構造と電子状態が変化することなどにより、可視領域の光吸収が変化して色が変化する。例えば、カルコン0.06gをエタノール20mlに溶解し、これにグリセリン15gと水を加えて全量を50gとした検知溶液を作製し、前述同様にすることで、オゾン検知素子101が作製できる。
【0058】
また、アリザリン(C14102(OH)2)及びアリザリンレッドS(9,10-Dihydro-3,4-dihydroxy-9,10-dioxo-2-anthracenesulfonic acid, sodium salt:C14102(OH)2SO3Na)などのヒドロキシ基を備えるアントラキノン系の色素も適用可能である。この色素の場合は、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性物質によるアルカリ性として用いる。従って、色素としてアリザリンなどを用いる場合、色素とアルカリ性物質とで検知成分が構成されることになる。ヒドロキシ基(−OH)を備えるアントラキノン系の色素は、オゾンと反応することで、この分子骨格に含まれるC=Oの2重結合が分解され、色素分子の構造と電子状態が変化して可視領域の光吸収が変化して色が変化するものと考えられる。
【0059】
また、アナトー色素などのビキシン及びノルビキシンなどのポリエン構造を備える色素も適用可能である。ポリエン構造を備える色素は、オゾンと反応することで、この分子骨格に含まれるC=C結合が分解され、色素分子の構造と電子状態が変化することなどにより、可視領域の光吸収が変化して色が変化する。
【0060】
例えば、以下の表13に示す色素,溶媒,及び保湿剤(グリセリン)の組み合わせにより検知溶液を作製し、この検知溶液を用いて前述同様にすることで、オゾン検知素子101が作製できる。
【0061】
【表13】

【0062】
また、オゾン検知素子101は、グリセリン(C383)などの保湿剤を担体に担持させて用いるようにすると良い。保湿剤を用いることで、上述したオゾンと色素との反応が促進されるようになる。保湿剤としては、グリセリンに限らず、エチレングリコール(C262),及びプロピレングリコール(C382)などが適用可能である。
【0063】
なお、上述では、屋外におけるオゾン暴露の状態を評価する場合について説明したが、これに限るものではない。オゾン検知素子101と測定部103とを用いて測定したオゾンの測定結果をもとにし、この測定結果を記憶してデータベースとすることで、屋内におけるオゾン暴露の状態を評価することも可能である。例えば、オゾンが用いられている環境で作業者の作業が行われている施設などにおいて、データベースに記憶されているデータをもとに、施設の各領域(部屋)毎のオゾン濃度をマッピングすることで、施設内のオゾン暴露の状態が評価可能である。このように施設内のオゾン暴露状態が把握できれば、この結果をもとに、各領域毎における換気などの空調制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態におけるオゾン暴露評価システムの構成例を示す構成図である。
【図2】携帯可能としたオゾン検知素子101の構成例を示す斜視図である。
【図3】区画情報記憶部144に記憶されている作業地域の区分状態を示す説明図である。
【図4】オゾン分布算出部142の動作例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0065】
101…オゾン検知素子、102…GPS情報取得装置、103…測定部、104…情報処理部、121…GPS情報取得部、122…GPS情報記憶部、131…光源、132…検出器、133…測定処理制御部、141…個人平均オゾン量算出部、142…オゾン分布算出部、143…濃度情報記憶部、144…区画情報記憶部、145…入力部、146…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維より構成された担体及びこの担体に担持されてオゾンガスと反応して色が変化する色素を含んだ検知成分とから少なくとも構成されて携帯可能とされたオゾン検知素子と、
このオゾン検知素子の色の変化を検出する測定手段と、
この測定手段に測定された前記オゾン検知素子の色の変化より、前記オゾン検知素子が暴露したオゾンの総量を求めるオゾン量算出手段と、
前記オゾン量算出手段が算出したオゾンの総量及び前記オゾン検知素子が配置されていた位置情報により前記オゾン検知素子が配置されていた領域のオゾン分布を求めるオゾン分布算出部と
を備えることを特徴とするオゾン暴露評価システム。
【請求項2】
請求項1記載のオゾン暴露評価システムにおいて、
前記オゾン検知素子とともに携帯されて、自身の位置を示す位置情報を取得する位置情報取得手段を備え、
前記オゾン分布算出部は、前記位置情報取得手段が取得した位置情報をもとに前記オゾン検知素子が配置されていた領域のオゾン分布を求める
ことを特徴とするオゾン暴露評価システム。
【請求項3】
請求項2記載のオゾン暴露評価システムにおいて、
前記位置情報取得手段は、GPS衛星からGPS信号を受信することで前記位置情報を取得する
ことを特徴とするオゾン暴露評価システム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のオゾン暴露評価システムにおいて、
前記測定手段に測定された複数の前記オゾン検知素子の色の変化より、前記オゾン量算出手段が、前記オゾン検知素子が暴露したオゾンの総量を各々の前記オゾン検知素子毎に求め、
前記オゾン分布算出部が、
前記位置情報をもとに前記オゾン検知素子が配置されていた領域のオゾン濃度を前記オゾン検知素子毎に求め、前記オゾン検知素子毎に求めた各領域毎の前記オゾン濃度を合計することで、前記領域のオゾン分布を求める
ことを特徴とするオゾン暴露評価システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−107138(P2008−107138A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288567(P2006−288567)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】