説明

オペレータ室の防振装置

【課題】レール継ぎ目での衝撃、ホイールの転動音、吊荷の反力等による振動にてオペレータ室が振動するのを簡単な構成で効果的に低減或いは抑制するようにしたオペレータ室の防振装置を提供すること。
【解決手段】天井走行クレーンにおけるオペレータ室Rの床板12を、特性の異なる防振部材を組み合わせて成る複合防振体Bを介してオペレータ室Rのケージ底板11に柔構造的に取り付けて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オペレータ室の防振装置に関し、特に、天井走行クレーンにおいてレール継ぎ目での衝撃、ホイールの転動音、吊荷の反力等による振動がオペレータ室の床板に伝わるのを低減或いは抑制するようにしたオペレータ室の防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、大型の天井走行クレーンはクレーンガーダに取り付けたオペレータ室にオペレータが搭乗してクレーンの操作を行っている。しかし、天井走行クレーンは天井或いは壁体に取り付けた走行用のレールに沿ってクレーンガーダ(台車)に取り付けたホイール(車輪)が転動して走行する。この場合、走行用のレールは定尺のものを継ぎ合わせるようにして敷設しているので、このレールの継ぎ目位置において据付誤差その他により段差や隙間が生じていると、該レール継ぎ目位置をホイールが通過する際、衝撃が発生する。また、レールに沿ってホイールが転動する際の転動音が発生したり、さらには吊荷の反力により振動が発生し、これらの衝撃や振動が直接オペレータ室に伝わるようになる。
従来の天井走行クレーンにて発生した振動は直接オペレータ室に伝わり、その振動は、図7に示す振動波形のように大きなものとなっている。
【0003】
天井走行クレーンの走行時や吊り荷作業時に発生するこれらの衝撃、転動音、反力はクレーンガーダを経て、或いは直接オペレータ室に伝わるようになるため、これがオペレータにも伝わり、作業環境を悪化させ、オペレータに必要以上の疲労をもたらすという問題があった。
【0004】
これに対処するため、例えば、特許文献1には、建設機械の運転室支持装置が開示され、これには運転室とフレームとの間に緩衝装置を配設して建設機械にて発生する振動を該緩衝装置にて緩衝し運転室に伝わらないようにしている。
天井走行クレーンにおいても衝撃、転動音、振動等をオペレータ室を伝わらないように、特許文献1に示される建設機械の運転室支持装置のように、オペレータ室全体をクレーンガーダに対して柔構造として防振的に取り付けることも考えられるが、この場合はオペレータ室が他と干渉して危険であり、また、クレーンの起動停止が頻繁な場合、振動によりクレーン操作が安定して行い難いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−335270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、天井走行クレーンにおけるオペレータ室の有する問題点に鑑み、レール継ぎ目での衝撃、ホイールの転動音、吊荷の反力等による振動にてオペレータ室が振動するのを簡単な構成で効果的に低減或いは抑制するようにしたオペレータ室の防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のオペレータ室の防振装置は、天井走行クレーンにおけるオペレータ室の床板を、特性の異なる防振部材を組み合わせてなる複合防振体を介してオペレータ室のケージ底板に柔構造的に取り付けて構成したことを特徴とする。
【0008】
この場合において、オペレータ室の床板を、該床板周囲とオペレータ室のケージとの間に隙間を有するように配設して構成することができる。
【0009】
また、複合防振体を、オペレータ室のケージ底板側に取り付けるようにしたコイルスプリングを主体とした防振部材と、床板側に取り付けるようにした高減衰パッシブマウント部材とを中間板を介して一体にして構成することができる。
【0010】
また、オペレータ用椅子を、防振ゴムを備えた防振具を介してオペレータ室の床板上に設置するように構成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のオペレータ室の防振装置によれば、天井走行クレーンにおけるオペレータ室の床板を、特性の異なる防振部材を組み合わせてなる複合防振体を介してオペレータ室のケージ底板に柔構造的に取り付けるように構成することにより、天井走行クレーンの走行時や吊り荷作業時に発生する衝撃、転動音、振動を複合防振体にて低周波振動から高周波振動まで減衰或いは抑制することができるので、オペレータ室内での作業環境が改善される。
【0012】
また、オペレータ室の床板を、該床板周囲とオペレータ室のケージとの間に隙間を有するように配設して構成することにより、天井走行クレーンの走行時や吊り荷作業時に発生する振動等にてクレーンガーダと共にオペレータ室のケージが揺れても、床板の周囲に存在する隙間にてその揺れを吸収して床板側に振動が伝わらないのでオペレータは安全に、正確にクレーン操作を行うことができる。
【0013】
また、複合防振体を、オペレータ室のケージ底板側に取り付けるようにしたコイルスプリングを主体とした防振部材と、床板側に取り付けるようにした高減衰パッシブマウント部材とを中間板を介して一体にして構成することにより、オペレータ室のケージ側に伝わる大きな振動は、まずコイルスプリングを主体とした防振部材にて吸収されて減衰し、次に高減衰パッシブマウント部材にて中、小の振動が吸収されて減衰するので、1つの複合防振体にて高周波振動から低周波振動まで幅広く振動を確実に防ぐことができる。
【0014】
また、オペレータ用椅子を、防振ゴムを備えた防振具を介してオペレータ室の床板上に設置するように構成することにより、複合防振体にて吸収除去できなかった床板に伝わる微少な振動でも防振具にて確実に吸収減衰できるので、振動によるオペレータの疲れを少なくして長時間に亘る操作を安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のオペレータ室の防振装置の一実施例を示す正面縦断面図である。
【図2】同平面図である。
【図3】複合防振体の取付説明図である。
【図4】床板下部に配設された複合防振体の拡大断面図である。
【図5】防振具の断面図である。
【図6】本発明のオペレータ室の防振装置による振動波形図である。
【図7】従来のオペレータ室の振動波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のオペレータ室の防振装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1〜図6に、本発明のオペレータ室の防振装置の一実施例を示す。
【0018】
このオペレータ室Rの防振装置Aは、図1〜図2に示すように、天井走行クレーンのクレーンガーダ(図示省略)に取り付けたオペレータ室Rを、オペレータ室Rのケージ1、より詳しくはケージ底板11とオペレータ室Rの床板12との間に隙間C、特に限定されるものではないが、例えば、10mm程度を有するように配設するとともに、該ケージ底板11とオペレータ室Rの床板12間に特性の異なる防振部材を組み合わせてなる複合防振体Bを介して取り付けるようにして構成する。
なお、このケージ底板11とオペレータ室Rの床板12との間に隙間Cは、オペレータ室Rのケージ1が振動する場合でもオペレータ室Rの床板12と接触しないようにして定めるものである。
【0019】
この複合防振体Bは、図3に示すように、オペレータ室Rのケージ底板11側に取り付けるようにしたコイルスプリングを主体とした防振部材2と、床板側に取り付けるようにした高減衰パッシブマウント部材3とを中間板4を介して一体にして構成するが、この防振部材2と中間板4間及び中間板4と高減衰パッシブマウント部材3間は特に限定されるものではないが、例えば、ビス止めして一体とする。
このコイルスプリングを主体とした防振部材2は、特に限定されるものではないが、例えば、図4に示すように、複数のコイルスプリング2sの外周部を耐候性のゴムによって被覆するとともに、各コイルスプリング間を被覆ゴム2gにて連結するようにして一体に構成する。
これにより、コイルスプリング2sの軸心方向に対する荷重、即ち床板に掛かるオペレータの重量等を支持するとともに、コイルスプリング2sの横方向の振動を該コイルスプリング2sと被覆ゴム2gとにより低減或いは抑制するようにする。
【0020】
また、このように構成する防振部材2は、図4に示すように、オペレータ室Rのケージ底板部に植設するピン5を介して取り付ける。この場合、防振部材2において被覆ゴム2gのコイルスプリング2sを有しない位置にピン挿通孔2hを、その内径をピン径よりも若干大となるように形成し、該ピン挿通孔内にケージ底板部に挿通固定したピン5を円滑に挿通できるようにし、必要に応じて該防振部材2のピン挿通孔2h内面とピン5間の隙間に接着剤を塗布或いは充填し、これにより防振部材2をX軸方向とY軸方向を固定するようにして取り付ける。
なお、減衰すべき振動の大きさにより、防振部材2内に配設するコイルスプリング2sの弾性及びその数を予め設定しておくものとする。
【0021】
高減衰パッシブマウント部材3は、特に限定されるものではないが、例えば、密閉された可撓性のケーシング内をオリフィスを備えた仕切板にて2室に仕切り、該ケーシング内に高粘性樹脂を充填して構成し、高減衰パッシブマウント部材3に受ける振動にて可撓性ケーシングが変形するとき、1室側からオリフィスを経て他室側へ移動する際に振動を減衰できるようにする。
なお、この高減衰パッシブマウント部材3の可撓性ケーシングには取付フランジを取り付け、これにより床板側と防振部材側に取り付けられるようにする。
【0022】
また、高減衰パッシブマウント部材3と防振部材2とは、直接取り付けることも可能であるが、図示のように高減衰パッシブマウント部材3、防振部材2間に中間板4を介在させることができる。この場合は、高減衰パッシブマウント部材3と防振部材2とを該中間板にビス止め等にて固定するようにする。
このように、特性の異なる防振部材を組み合わせて複合防振体Bを形成することにより、低周波から高周波までの振動を効率的に低減或いは抑制することができる。
【0023】
また、オペレータが着座する椅子6は、オペレータ室Rの床板12上に配設するが、この椅子6の脚下端部に防振ゴムを備えた防振具7を介在するようにする。この防振具7は、特に限定されるものではないが、例えば、図5に示すように、防振具本体71と、この防振具本体上部に配設する筒形をした防振ゴム72と、防振具本体下部に配設するゴム足73とより構成する。
この防振具本体71は、上部に防振ゴムを挿入する挿入孔71hを形成し、この防振ゴム挿入孔内に筒形をした防振ゴム72を挿入し、該筒形の防振ゴム72の孔内にキャスターの車輪を取り外したキャスターピン74を挿通できるようにするとともに、防振具本体下部には防振用のゴム足73をビス止め等にて固定するようにする。
これにより、床板12からの振動はまずゴム足73にて減衰され、さらに防振具本体内に挿通した筒形の防振ゴム72にて減衰されることにより、オペレータ室Rの床板上に設置する椅子6にはほとんど振動が伝わらないようにすることができる。
【0024】
次に、このオペレータ室Rの防振装置Aの作用について説明する。
天井走行クレーンが走行する際、レールの継ぎ目位置における段差や隙間にて発生する衝撃やレールに沿って転動するホイールの転動音、さらには吊荷の反力等により発生する振動はクレーンガーダよりオペレータ室Rに伝達される。
【0025】
しかしこの場合、オペレータ室Rのケージ1にはオペレータ室Rのケージ底板11と床板12との間に複合防振体Bが配設されているため、クレーンガーダよりオペレータ室に伝わる衝撃や振動は、まず複合防振体Bの防振部材2にて低周波振動は減衰され、さらに高減衰パッシブマウント部材3にて高周波振動が減衰されて床板に伝達される。この床位置上には防振具7を介して椅子6が配設されているので、前記の複合防振体Bにて除去できなかった微振動も防振具7にてさらに減衰されるようになる。
【0026】
このように、特性の異なる複数の防振部材を組み合わせて使用することにより、衝撃、転動音、吊荷反力等による低周波振動から高周波振動までのあらゆる振動を減衰或いは抑制することができるので、オペレータ室内での作業環境が改善され、働くオペレータに必要以上の疲労を与えることを防ぐことができる。
【0027】
次に、このオペレータ室の防振装置の実験結果を示す。
走行レールの継ぎ目位置における隙間を1mm、天井走行クレーンの走行速度0.6〜0.7m/sとし、天井走行クレーンの走行速度が定速のとき1Gの振動加速度が発生する設定にして実験した。
測定結果は、クレーンガーダのホイール上部の振動加速度1.0G(固定)とき、防振装置上部の振動加速度0.05G、椅子部の振動加速度0.05Gであった。このことから、防振装置の効果はクレーンガーダのホイール上部の振動加速度1.0Gより防振装置上部の振動加速度0.05Gを差し引いたもの0.95Gとなり、その防振効果は約1/20となった。
この実験によるオペレータ室の振動波形を図6に示す。
【0028】
以上、本発明のオペレータ室の防振装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のオペレータ室の防振装置は、オペレータ室の床板を、特性の異なる防振部材を組み合わせてなる複合防振体を介して取り付けて低周波から高周波までの振動を減衰或いは抑制するという特性を有していることから、天井走行クレーンのオペレータ室の用途に好適に用いることができるほか、例えば、建設機械の運転室の用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0030】
A オペレータ室の防振装置
B 複合防振体
C 隙間
R オペレータ室
1 オペレータ室のケージ
11 オペレータ室のケージ底板
12 オペレータ室の床板
2 防振部材
3 高減衰パッシブマウント部材
4 中間板
5 ピン
6 椅子
7 防振具
71 防振具本体
72 防振ゴム
73 ゴム足

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井走行クレーンにおけるオペレータ室の床板を、特性の異なる防振部材を組み合わせて成る複合防振体を介してオペレータ室のケージ底板に柔構造的に取り付けて構成したことを特徴とするオペレータ室の防振装置。
【請求項2】
オペレータ室の床板を、該床板周囲とオペレータ室のケージとの間に隙間を有するように配設して構成したことを特徴とする請求項1記載のオペレータ室の防振装置。
【請求項3】
複合防振体を、オペレータ室のケージ底板側に取り付けるようにしたコイルスプリングを主体とした防振部材と、床板側に取り付けるようにした高減衰パッシブマウント部材とを中間板を介して一体にして構成したことを特徴とする請求項1又は2記載のオペレータ室の防振装置。
【請求項4】
オペレータ用椅子を、防振ゴムを備えた防振具を介してオペレータ室の床板上に設置するように構成したことを特徴とする請求項1、2又は3記載のオペレータ室の防振装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−1188(P2011−1188A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147773(P2009−147773)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】