説明

オリフィスプレート、インクジェット記録ヘッド、表面処理方法

【課題】 着弾精度、耐久性が良好なインクジェットヘッドを提供する。
【解決手段】 オリフィスプレート表面の撥水膜層をテトラフルオロエチレンとパーフルオロジメチルジオキソールの共重合体樹脂より構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッド、インクジェット記録装置の記録ヘッド用オリフィスプレート及び該オリフィスプレートの表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、記録ヘッドのオリフィス(吐出口)からインクを吐出することにより情報記録を行うインクジェット記録装置が知られている。
【0003】
図1は、インクジェット記録ヘッドの構成を示す斜視図である。
【0004】
この記録ヘッドにおいてはガラスやセラミックス等で形成された基板1の上に、吐出圧発生素子が多数設置されており、吐出圧発生素子に対応するインク流路部、共通液室部、インク注入口を具備した天板2が接着され、さらにオリフィスプレート3が、インク流路部前面に接着されている。さらにオリフィスプレートの多数のインク流路部に対応した多数の吐出口4が具備されており、その周辺部には撥水膜5がコートされている。
【0005】
従来より、特開平6−155748、特開平9−221620、特開平10−53639に記載されている様に、撥水膜材料としてはフッ素含有樹脂、たとえば4フッ化エチレン樹脂又はそのオリゴマー、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体樹脂、4フッ化エチレン−フッ化ビニルエーテル共重合体樹脂、主鎖にヘテロ環構造を含むパーフルオロ樹脂(パーフルオロシクロポリマー)、あるいは反応重合型フッ素樹脂組成物(パーフルオロ基含有エポキシ系樹脂組成物、パーフルオロ基含有ビニル系樹脂組成物など)等により、撥水処理を施していた。
【特許文献1】特開平6−155748号公報
【特許文献2】特開平9−221620号公報
【特許文献3】特開平10−53639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような構成の記録ヘッドにおいて、オリフィス表面の物理的性質、特にインクに対する撥水性が悪いと、オリフィス3からインクを常時安定して吐出させることが出来なかった。
【0007】
即ち、特開平6−155748においては、撥水膜の耐摩耗性を重視する為に、撥水膜中に無機微粒子を添加しており、このため膜の撥水性が犠牲となり、撥水性が低下していた。また特開平9−221620、特開平10−53639においては、撥水膜の基材への接着性を重視する為に、撥水膜中に硬化性のモノマーを添加しており、このため膜の撥水性が犠牲となり、同様に撥水性が低下していた。
【0008】
上記により撥水性の低下が原因となり、吐出口周縁部にインクが回り込んで、その一部にインク溜りが生じると、インク流路部からのインクが吐出口4から吐出される際に、その飛翔方向が正規の所定方向から離脱するようになり、さらには、液溜り状態の不安定さから、吐出されるごとにその飛翔方向が乱れるという不都合が生じ、そのため安定したインク吐出が行えず良好な記録が行えなくなるという問題があった。特にこの傾向は、インク粘度が高くなるほど顕著であった。
【0009】
しかも、この傾向はノズル密度を上げて、高精細な記録を行う場合や、高周波数で駆動する、すなわち高速記録をねらう場合に、非常に顕著に現れるので、撥水膜のわずかな物性の低下が、記録ヘッドの性能上で大きな問題となっていた。
【0010】
また、従来の様な反応性のない撥水剤を施したインクジェット記録ヘッドではオリフィス材料と撥水樹脂との密着性が十分でなく、オリフィス材料の表面をあらかじめ化学改質したり、シランカップリング剤処理層をオリフィス材料、撥水樹脂間に設けなければならなかった。そのため非常に処理が煩雑であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、表面の撥水層がテトラフルオロエチレンとパーフルオロジメチルジオキソールの共重合体樹脂を含む層からなり、被覆方法として、該樹脂溶液をスピンコート法、あるいはディップコート法あるいは転写法によって、表面の少なくとも一部を被覆した後、300−350℃で加熱することにより、耐摩耗性が強い撥水膜をもったオリフィスプレート及びそれを用いたインクジェット記録ヘッドを提供する。
【0012】
さらに上記の樹脂溶液中に、シランカップリング剤を添加し一定時間撹拌放置した後、被覆することにより、簡単な処理方法で接着性が優れたオリフィスプレート及びそれを用いたインクジェット記録ヘッドを提供する。
【0013】
上記の構成・方法により、インクジェットヘッドのオリフィス面に本発明の共重合体樹脂のパーフルオロジメチルジオキソール成分が、オリフィス材料表面に対して、親和性に富む為、特別な下地処理を施さなくとも充分な接着力が得られる。
【0014】
さらに被覆後、本発明の共重合体樹脂のガラス転移点以上の高い温度である300−350℃で加熱することにより、残留溶剤や微小気泡等を完全に取り除くことにより、緻密な皮膜が出来る為、耐摩耗性が強い撥水膜を得ることが可能となる。
【0015】
さらに樹脂溶液中に、シランカップリング剤を添加し一定時間撹拌放置することにより、上記共重合体樹脂の末端基にシランカップリング剤の一部が放置時間中に徐々に反応して行く為、被覆処理後のオリフィス材料表面との結合反応が、シランカップリング剤を介して形成される為、さらに強力な接着力が得られる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、撥水層がテトラフルオロエチレンとパーフルオロジメチルジオキソールの共重合体樹脂を含む層からなることにより、従来に比べて、撥水膜の密着性、接触角、擦り耐久性の性能が格段に向上する為、耐久後でも安定な印字性能を示すと共に、特に高粘度のインクにおいても優れた性能を示すインクジェット記録ヘッドを提供することを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を具体的な実施例を挙げて説明する。
【実施例1】
【0018】
テトラフルオロエチレンとパーフルオロジメチルジオキソールの共重合体樹脂(テフロン(登録商標)AF、デュポン製)2重量部、フッ素系溶剤(FC−75、住友3M製)98重量部を混合溶解し、2重量%の透明な樹脂溶液を作成した。あらかじめ超音波洗浄された50mm×50mm×厚さ50μmのポリイミドフィルム(ユーピレックス(登録商標)S、宇部興産製)の表面に、上記樹脂溶液をスピンコート法により1st・500rpm/5秒、2nd・1500rpm20秒の条件で塗布し、30分自然乾燥後、160℃で15分間加熱し、放置冷却後、本発明のインクジェット記録ヘッド用オリフィスプレートを作成した。
【実施例2】
【0019】
上記のオリフィスプレートの裏面から、KrFエキシマレーザーにより、出口直径φ25μm、ピッチ76μmの吐出オリフィス穴加工を行なった。さらに従来技術に準じて製作された基板1と天板2とからなるインクジェットヘッド本体(キヤノン製、64個ノズル)のインク流路面に、前記穴加工済みフィルムを位置精度良く、接着治具を用いて接着剤により貼り合わせて、本発明のインクジェット記録ヘッドを作成した。
【実施例3】
【0020】
実施例1とまったく同様の樹脂溶液を作成し、同様なフィルムに同様な条件で塗布した。塗布フィルムをオーブン中に入れ、5℃/分の速度で330℃まで昇温し、330℃で15分間加熱し、その後、約8時間かけて徐冷却することにより、本発明のインクジェット記録ヘッド用オリフィスプレートを作成した。
【実施例4】
【0021】
テトラフルオロエチレンとパーフルオロジメチルジオキソールの共重合体樹脂(テフロン(登録商標)AF、デュポン製)2重量部、フッ素系溶剤(FC−75、住友3M製)98重量部を混合溶解し、2重量%の透明な樹脂溶液を作成した。この溶液に、シランカップリング剤としてγ一アミノプロピルトリエトキシシラン(A−110、日本ユニカー製)を1重量部添加し、常温で5時間撹拌を行なった。実施例1と同様なフィルム表面に、上記樹脂溶液を実施例1と同様な条件で塗布し、30分自然乾燥後、160℃で15分間加熱し、放置冷却後、本発明のインクジェット記録ヘッド用オリフィスプレートを作成した。
【0022】
(比較例1)
酸素原子1個からなるパーフルオロシクロ化合物モノマーの重合体として知られている樹脂(5重量%溶液の市販品、CTX805A、旭硝子製)に、さらにフッ素系溶剤(CTソルブ180、旭硝子製)を加えて、2重量%の樹脂溶液を作成した。実施例1と同様のフィルム表面に実施例1と同様の方法で、上記樹脂溶液を塗布後、30分自然乾燥後、160℃で15分間加熱し、放置冷却後、本発明のインクジェット記録ヘッド用オリフィスプレートを作成した。
【0023】
(比較例2)
実施例1と同様のフィルム表面に、あらかじめシランカップリング剤としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(A−1100、日本ユニカー製)を、水/エチルアルコール=1/2の溶媒に1重量%溶解させ、スピンコート法により塗布し、1日乾燥放置させた。次に実施例1と同様の方法で、比較例1の樹脂溶液を塗布後、30分自然乾燥後、160℃で15分間加熱し、放置冷却後、本発明のインクジェット記録ヘッド用オリフィスプレートを作成した。
【0024】
(比較例3)
比較例1のオリフィスプレートの裏面から、KrFエキシマーレーザーにより、出口直径φ25μm、ピッチ76μmの吐出オリフィス穴加工を行なった。さらに従来技術に準じて製作された基板1と天板2とからなるインクジェットヘッド本体(キヤノン製、64個ノズル)のインク流路面に、前記穴加工済みフィルムを接着剤により貼り合わせて、本発明のインクジェット記録ヘッドを作成した。
【0025】
(評価内容)
1)基材との密着性
作成したオリフィスプレートをインクジェット・プリンター用の60℃インク(PH=8)中に浸漬し、表面の変化(溶剤クラック、剥がれ等)を観察する。
【0026】
2)初期接触角
作成したオリフィスプレートの表面の純水に対する接触角を測定する。
【0027】
3)擦り耐久後の接触角
作成したオリフィスプレートの表面をスポンジ(商品名;ルビセルクリーン)片により、5000回、10000回擦った後の、水に対する接触角を測定する。
【0028】
4)作成したインクジェットヘッドにインクジェット用ブルーインク((粘度=2.9cp)を充填し、同インクを評価用光沢紙に印字し、専用の印字精度評価装置により、ヘッドの中央部の20個のノズルについて、各ドットの着弾精度を評価する。
【0029】
上記による評価結果を以下に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1によれば、本発明の方法により作成したオリフィスプレートは良好な密着性を示した。実施例3の様に塗布後、350℃に加熱することにより、あるいは実施例4の様にシランカップリング剤を添加した樹脂溶液を用いることにより、さらに密着性の向上を示した。比較例1の樹脂では密着性が悪く、比較例2の様にあらかじめシランカップリング剤を塗布するという、追加工程を導入することで、かろうじて密着性が保たれた。
【0032】
また本発明のオリフィスプレートの撥水性の指標となる接触角は、比較例と比べて大きく、特に実施例3の様に塗布後、330℃に加熱することにより優れた値を示した。さらに擦り耐久後でも、本実施例のものはいづれも、比較例に比べて優位であった。
【0033】
また図2、図3に示すように、実施例のオリフィスプレートを採用したインクジェットヘッドは、比較例に比べて、撥水性が優れている為、比較的高粘度のインクの吐出性能においても良好な印字精度を示した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】インクジェット記録ヘッドの例を示す模式図
【図2】ノズル列方向の着弾精度を示す図
【図3】ノズル列垂直方向の着弾精度を示す図
【符号の説明】
【0035】
1 基板
2 天板
3 オリフィスプレート
4 吐出口
5 撥水膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の撥水層がテトラフルオロエチレンとパーフルジメチルジオキソールの共重合体樹脂を含む層からなることを特徴とするインクジェット記録ヘッド用オリフィスプレート。
【請求項2】
請求項1記載のオリフィスプレートを有することを特徴とするインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
請求項1記載のオリフィスプレートにおける前記共重合体樹脂の被覆方法として、該樹脂溶液をスピンコート法、あるいはディップコート法あるいは転写法によって、表面の少なくとも一部を被覆した後、300−350℃で加熱することを特徴とするインクジェット記録ヘッド用オリフィスプレートの表面処理方法。
【請求項4】
請求項3記載の該樹脂溶液中に、あらかじめシランカップリング剤を添加し一定時間撹拌放置した後、被覆することを特徴とするインクジェット記録ヘッド用オリフィスプレートの表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−188911(P2008−188911A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26893(P2007−26893)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】