説明

カスタマイズ可能なチップおよびその製造方法

分析項目に応じてカスタマイズ可能な分析チップおよびその製造方法を提供する。チップ(313)において、主流路(221)から分岐し、複数の検出槽(223)のそれぞれに連通する分注流路(222)を設ける。各分注流路(222)に調節部(314)を設け、調節部(314)の開閉を設定する。分析部に設けた調節部を設定することで、多種類の分析ステップを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カスタマイズ可能なチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、試料の前処理・反応・分離・検出などの化学操作をマイクロチップ上で行うマイクロ化学分析(μ−TAS)が急速に発展しつつある。マイクロ化学分析によれば、使用する試料が微量ですみ、環境負荷も小さく高感度な分析が可能となる。このため、チップを用いた分析を臨床検査などに適用することができれば、微量の試料で容易に検査を行うことができる。
【非特許文献1】David、S.Jacobs、Dwight、K.Oxley、and Wayne、R.DeMott Eds.、2001年、Laboratory Test Handbook with Key Word Index、5th edition、Lexi−Comp Inc.、Hudson、OH.、p.77−80
【発明の開示】
【0003】
【0004】
ところが、マイクロ化学分析をたとえば臨床検査などに適用しようとしても、1枚のチップ上での測定可能な項目は、チップの大きさに応じて限定される。これに対し、臨床検査においては、一般に測定項目が多数存在する。たとえば一般生化学測定項目は150項目程度であり(非特許文献1)、腫瘍マーカーやアレルゲン等をこれに加えると、項目数は300程度となってしまう。また、測定項目は、患者個々人に応じて、また個人の病状に応じて変化する。
【0005】
このため、チップを用いて検査を行おうとした場合、検査機関では膨大な項目の組み合わせに対応するチップを準備しておくことが必要なことから、現実にはこの仕組みを導入することはできなかった。また、1枚のチップデザインで複数の検査項目の組み合わせに応えることができなかった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、その目的は、検査項目に応じてカスタマイズ可能な汎用型分析部、分析チップおよびその製造方法を提供することにある。
【0007】
なお、本明細書において、「チップ」とは、導入された試料に対し所定の操作を行う機能が付与された基板のことをいう。本発明におけるチップは、たとえば、基板表面に流路溝が設けられ、この流路溝中に液体試料が流動するように構成することができる。液体試料は、毛細管現象等を利用して流路溝中を移動するようにしてもよいし、電界や圧力などの外力を付与することにより移動するようにしてもよい。液体試料が毛細管現象を利用して流路中を移動可能な構成とすることにより、外力を付与するための外部装置が不要となり、チップ自体の構成により液体試料を下流側に移動させることが可能となる。
【0008】
本発明によれば、基板と、該基板上に設けられた複数の流路と、前記複数の流路に設けられ、閉止可能に構成された調節部と、を有し、前記複数の流路のうち一の流路に設けられた前記調節部を閉止することにより、他の流路に前記試料を導くように構成されたことを特徴とするチップが提供される。
【0009】
本発明において、閉止可能とは、物理的な処理または化学的な処理により、その領域を液体が通過できないようにすることが可能であることをいう。閉止には、完全に液体を堰き止める態様のみならず、液体の一部が下流側に流れる態様も含まれる。なお、液体の通過を完全に堰き止めたい場合には、調節部を完全に閉止する。
【0010】
本発明のチップにおいては、流路に調節部が閉止可能に設けられており、一の流路に設けられた調節部を閉止することにより他の流路に試料を導くことができるように構成されている。このため、チップの使用目的や試料に応じて所望の調節部を閉止し、試料が移動する流路を選択することが可能となる。このため、簡便な構成でチップをカスタマイズすることが可能となる。
【0011】
調節部の開閉を設定してチップをカスタマイズ可能にすることにより、測定項目が異なるタイプのチップを容易に得ることができる。このため、測定対象の個人や測定項目に適したチップを短時間で容易に得ることができる。また、調節部を設けておくことにより、膨大な数の測定項目のそれぞれに対応するチップデザインを用意する必要がなくなる。このため、カスタマイズ可能な汎用チップを低コストで安定的に得ることができる。また、調節部を設けて必要な測定項目のみに試料を供給することができるため、試料を有効活用することができる。このため、微量の試料に対しても必要な項目を確実に分析することができる。また、分析に用いる試薬の量を最小限とすることができる。
【0012】
本発明において、前記調節部は後加工において調節部を閉止させることのできる領域とすることができる。こうすることにより、後加工の段階で分析項目に応じて所望の調節部を選択的に閉止することができる。よって、測定項目に応じてチップを簡便にカスタマイズすることができる。
【0013】
本発明によれば、基板と、該基板上に設けられた試料導入部と、前記試料導入部に導入された試料中の特定の成分を分析する分析部と、前記試料導入部と前記分析部とを接続する複数の流路と、前記流路に設けられ、閉止可能に構成された調節部と、を有し、前記複数の流路のうち一の流路に設けられた前記調節部を閉止することにより、他の流路を経由して前記分析部に前記試料を導くように構成されたことを特徴とするチップが提供される。
【0014】
本発明において、分析部は流路に調節部を介して設けられる。分析部では、試料中の成分の分析が行われる。試料導入部から導入された試料は、流路中を移動し、調節部が開状態である分析部に至るように構成される。なお、チップが後述する前処理部、分離部、または反応部を有する場合にはこれらを順次経由した後、分析部に至るように構成される。
【0015】
本発明に係るチップにおいて、分析部や後述する分離部等は、外力の付与によりその機能を果たす形態とすることもできるが、液体試料の流動にしたがって自動的に所定成分の分離および分離された成分の分析が順次実行されるように構成することが好ましい。こうした構成は、液体試料を移動させる駆動力として毛細管現象、水位差等を利用することにより実現できる。液体試料の移動に毛細管現象を利用することにより、試料導入部に導入された試料に外力を付与することなく流路中を移動させ、分析部における分析に供することができる。
【0016】
本発明のチップは、複数の流路を有し、それぞれの流路上に調節部が設けられている。このため、複数の流路のうち所望の流路のみを選択して開状態とする一方、他の流路上の調節部を閉止することができる。よって、試料導入部に導入された試料を所望の経路で分析部まで移動させることが可能となる。
【0017】
本発明によれば、基板と、該基板上に設けられた試料導入部と、前記試料導入部に導入された試料中の特定の成分を分析する分析部と、前記試料導入部に導入された前記試料を複数の前記分析部に導く分岐した流路と、前記流路に設けられ、閉止可能に構成された調節部と、を有し、一の前記分析部に向かって分岐した前記流路上の前記調節部を閉止することにより、他の前記分析部に前記試料を導くように構成されたことを特徴とするチップが提供される。
【0018】
本発明のチップは、複数の分析部を有し、それぞれの分析部に連通する流路に調節部が設けられている。このため、試料導入部に導入された試料を所望の分析部にのみ選択的に移動させることができる。このため、複数の分析項目に対応する分析部の中から必要な項目に対応する分析部のみに試料を供給可能となる。よって、試料が微量であっても、必要な分析のみを確実に選択して行うことができる。
【0019】
本発明において、前記調節部は、前記流路の一部を埋設することにより閉止することが可能に構成されてもよい。また、本発明のチップにおいて、前記調節部は、前記流路の表面を疎水化することにより閉止することが可能に構成されてもよい。こうすることにより、調節部を確実に閉止することができる。
【0020】
本発明のチップにおいて、前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された前記試料に含まれる成分を分離して前記分析部に導く分離部を有してもよい。こうすることにより、試料中の所定の成分を確実に分離し、選択された所定の分析に供することができる。このため、分析感度を向上させることができる。
【0021】
本発明のチップにおいて、前記分離部の上流に、前記試料導入部に導入された前記試料に所定の前処理を施す前処理部を有する構成としてもよい。こうすることにより、チップ上で試料に前処理を施すことができる。よって、さらに測定に適した状態で試料を分析することができる。また、本発明において、前記前処理部は前記調節部を有してもよい。こうすることにより、複数の前処理に対応する構成を準備しておき、後加工の際に調節部を閉止することにより前処理をカスタマイズすることができる。よって、試料に応じた前処理を選択して実施することが可能となる。
【0022】
本発明のチップにおいて、前記前処理部は、液溜めと、前記液溜めの下流に設けられ、前記前処理部から前記分離部への前記液体試料の供給を制御する液体スイッチ部と、を含み、前記液体スイッチ部は、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有し、前記トリガー流路に前記調節部が設けられてもよい。こうすることにより、試料に対し所望の前処理をより一層安定的に施すことができる。
【0023】
本発明のチップにおいて、前記分離部で分離された成分に所定の反応を生じさせる反応部を有することができる。こうすることにより、より一層測定に適した状態で試料を分析することができる。また、本発明において、前記反応部は前記調節部を有してもよい。こうすることにより、複数の反応に対応する構成を準備しておき、後加工の際に調節部を閉止することにより反応部での反応をカスタマイズすることができる。よって、試料に応じた反応を選択して実施することが可能となる。
【0024】
本発明のチップにおいて、前記反応部は、液溜めと、前記液溜めの下流に設けられた液体スイッチ部と、を含み、前記液体スイッチ部は、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有し、前記トリガー流路に前記調節部が設けられてもよい。こうすることにより、試料に対し所望の反応を逐次的に施すことができる。
【0025】
本発明において、前記調節部が前記流路よりも幅広であって閉止可能に構成されていてもよい。こうすることにより、調節部を選択的に閉止することができる。
【0026】
本発明において、前記調節部はその一部が外部に開放された構成であってもよい。たとえば、本発明のチップにおいて、前記流路の上面を被覆する蓋を有し、前記調節部において前記蓋に開口部が設けられた構成とすることができる。こうすることにより、後処理工程で調節部に対し開放部から閉止処理を確実に施すことができる。
【0027】
本発明によれば、基板と、該基板上に設けられた複数の流路と、を有し、前記複数の流路のうち一部の流路が閉止された構成であることを特徴とするチップが提供される。
【0028】
本発明のチップは、流路の一部が閉止されているため、閉止された領域より下流側への試料の移動を防止することができる。このため、試料を所定の流路中のみで移動させることができる。
【0029】
本発明によれば、複数の流路が形成された基板を準備する工程と、一部の前記流路を閉止する工程と、を含むことを特徴とするチップの製造方法が提供される。
【0030】
本発明のチップの製造方法は流路の一部を閉止する工程を含むため、閉止された領域より下流側に試料が移動しないチップを安定的に製造することができる。よって、基板上に試料に応じた移動経路を安定的に形成することができる。
【0031】
本発明のチップの製造方法において、流路を閉止する前記工程は、前記流路の一部を疎水化する工程を含んでもよい。こうすることにより、流路の一部をさらに確実に閉止することができる。よって、カスタマイズされたチップをさらに安定的に製造することができる。
【0032】
本発明のチップの製造方法において、流路を閉止する前記工程は、前記流路の一部を変形させて堰き止める工程を含んでもよい。こうすることにより、さらに確実に流路を閉止することができる。
【0033】
また、本発明のチップの製造方法において、流路を閉止する前記工程は、前記流路の一部を封止する工程を含んでもよい。流路の一部を封止することにより、封止された領域を液体が移動しないよう確実に流路を遮断することができる。このため、さらに確実に流路の一部を閉止することができる。ここで、流路を封止するとは、流路の断面を封止部材によって塞ぐことをいう。
【0034】
本発明において、堰き止め部の前記近傍が堰き止め部または堰き止め部の下流であってもよい。こうすることにより、液体をより一層確実に堰き止めておくことができる。
【0035】
以上においては、一の流路に設けられた調節部を閉止することにより、他の流路に試料を導く構成としたが、本発明において、流路に開放可能な複数の調節部を設け、そのうち一部の調節部を開放することにより、その流路に試料を導くように構成することもできる。かかる構成によれば、後加工において試料の種類に応じて流路を選択し、選択された流路に試料を導くための調節部のみを開放することができる。このため、試料の種類や分析項目に応じてチップをカスタマイズすることができる。
【0036】
ここで、患者にあった検査をその場で実施するには、大規模な設備が必要である。こうした設備を所有できない比較的小規模の医療施設や検査機関で検査する場合、使用頻度の高い項目やそれらの組み合わせの分析に対応した汎用型のチップをあらかじめ所有しておき、適宜カスタマイズして使用することで、小規模の施設でも、患者にあった検査が可能となる。
【0037】
たとえば、比較的小規模の病院においては、あらかじめ構成が規格化された一種類または多種類の汎用型のチップを有しておけば、チップの製造のために比較的大規模の設備を所有しておくことが困難な場合にも、たとえばチップの調節部の開閉状態を調節したり、必要に応じて所定の試薬をチップに配することにより、患者の病状やその経過に応じてチップをカスタマイズすることができる。従って、その場で簡便で迅速な分析を行うことが可能となる。以下、このような分析部およびチップについて説明する。
【0038】
本発明によれば、主流路と、液溜めと、前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、前記流路に設けられ、前記流路内の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部またはその近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、前記堰き止め部と前記トリガー流路とを含む液体スイッチ部と、前記流路を閉鎖する閉鎖スイッチと、前記トリガー流路または前記流路に設けられた遅延流路と、前記流路または前記トリガー流路の開閉を設定する調節部と、を有することを特徴とする汎用型分析部が提供される。
【0039】
本発明の汎用型分析部において、試料は、主流路から流路を通じて液溜めに至り、所定の分析がなされる。また、本発明の汎用型分析部の構成部材は、想定される分析項目に応じて構成部材を規格化可能であり、汎用型の分析部として好適に利用可能である。また、本発明の汎用型分析部において、調節部は、その流路またはトリガー流路を開通状態もしくは閉止状態に設定する目的で設けられる。調節部の少なくとも一部が開通している場合には液体が調節部を通過可能であるが、調節部が遮断されている場合には、液体が調節部を通過できない。このため、調節部の開閉を設定することにより、液体の移動経路を設定することができる。よって、本発明の汎用型分析部は、調節部の開閉状態を調節することにより、分析対象の試料の種類や反応の種類に応じてカスタマイズ可能な構成となっている。
【0040】
また、液体スイッチ部は、流路における試料やバッファー等の液体の流動を制御するスイッチ構造である。この液体スイッチ部では、流路中を流れてきた液体が堰き止め部で堰き止められる。堰き止め部が液体を吸収し保液する構成であってもよいし、堰き止め部自体は、流れてきた液体に対して疎液性を示し、その上流側端部で液体が堰き止められる構成であってもよい。液体スイッチ部はトリガー流路を含み、堰き止め部で堰き止められた液体は、トリガー流路を流れてきた液体と接触したとき、堰き止め部を超えて下流側に流出する。
【0041】
流路に液体スイッチ部が設けられているため、流路から液溜めへの試料の導入を制御性良く行うことができる。よって、汎用化な分析部では、分析に必要な所定の反応等を所望の条件で安定的に生じさせることができるので、所望の分析結果を得ることができる。また、液体スイッチ部を設けることにより、外部の制御装置の助けなしに、1回の試料注入をきっかけとして、毛細管力により汎用型分析部における複数の工程を適切なタイミングで発動することができる。
【0042】
また、遅延流路は、流路またはトリガー流路の所定の位置に設けられ、液体が一の領域から他の領域に流れてくる時間を遅延させる流路である。遅延流路を設けることにより、分析に必要な所定の反応等の条件をより一層好適に設定することができる。
【0043】
また、閉鎖スイッチは、当該閉鎖スイッチが設けられている流路またはトリガー流路に所定量の液体が導入されると当該流路またはトリガー流路が閉止するように構成された弁構造を有している。この構造により、本発明の汎用型分析部は、流路またはトリガー流路を介して液溜めに所定量の液体のみを導くことができ、さらに液体の逆流を防ぐことができる。
【0044】
本発明の汎用型分析部において、前記液溜めに試薬が保持されていてもよい。こうすれば、汎用型の分析部において試薬を必要とする分析をより一層能率的に行うことができる。
【0045】
本発明の汎用型分析部において、前記液溜めを2個と、前記液体スイッチ部を1個と、前記閉鎖スイッチを1個と、前記遅延流路を1個と、前記調節部を1個または2個と、を有する構成とすることができる。また、本発明の汎用型分析部において、前記液溜めを5個と、前記液体スイッチ部、前記閉鎖スイッチ、前記遅延流路、および前記調節部をそれぞれ2個以上と、を有する構成とすることができる。
【0046】
本発明において、汎用型分析部は様々な態様をとり得るが、たとえば下記(I)に記載する第一の汎用型分析部、または(II)に記載の第二の汎用型分析部、(III)に記載の第三の汎用型分析部を採用することができる。下記(I)〜下記(III)の汎用型分析部は、前記主流路と、前記流路と、を有し、さらに、以下の構成を備える。
【0047】
(I)第一の汎用型分析部
前記液溜めを1個と、前記調節部を1個と、を有する構成。この構成において、さらに前記閉鎖スイッチを1個有する構成としてもよい。
(II)第二の汎用型分析部
前記液溜めを少なくとも2個、前記調節部を少なくとも1個、前記閉鎖スイッチを少なくとも1個有し、前記液体スイッチを少なくとも1個、前記遅延流路を少なくとも1個有する構成。
(III)第三の汎用型分析部
前記液溜めを少なくとも5個と、前記液体スイッチ部、前記遅延流路、および前記調節部をそれぞれ2個以上と、前記閉鎖スイッチを1個以上有する構成。
【0048】
上記(I)(II)、および(III)の構成は、主としてそれぞれ1段階、2段階、および3段階の分析反応による試料中の所定の成分の分析に用いることができる。
【0049】
本発明によれば、基板と、前記基板に設けられた前記汎用型分析部と、を有することを特徴とするチップが提供される。本発明のチップは上述した汎用型の分析部を有するため、想定される分析項目に応じて分析部の構成および数を規格化可能であり、汎用型のチップとして好適に利用可能である。また、本発明のチップにおいては、後工程において、分析項目に応じて汎用型分析部に設けられた調節部の開閉状態を設定し、その項目に適した構成にカスタマイズすることができる。このため、試料中の成分の分析を最小限の試料で簡便かつ確実に行うことができる。
【0050】
また、本発明のチップにおいて、前記汎用型分析部を複数備える構成とすることができる。こうすることにより、チップの構成を複数の分析に利用することができるように規格化しておくことができる。このため、汎用型のチップとしてより一層利便性を向上させることができる。また、後加工において分析目的に応じて調節部の開閉状態を調節することによって、検査者にとって所望の分析が可能なチップ、とすることができる。換言すれば、本発明のチップは個々のユーザーに対してカスタマイズが可能である。
【0051】
本発明のチップは様々な態様をとり得るが、たとえば以下の構成を採用し、疾患別にカスタマイズすることができる。
(i)糖尿病セットを測定するチップ
第三の汎用型分析部を少なくとも1個と、第一または第二の汎用型分析部を少なくとも3個と、を含む分析部を有し、その少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、前記第三の汎用型分析部が前記試薬を有する場合、前記試薬は、抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体の測定に必要な試薬であり、前記第一または第二の汎用型分析部が前記試薬を有する場合、前記試薬は、ヘモグロビンA1c、1、5−アンヒドロ−D−グルシトール、およびグリコアルブミンからなる群から選択される一または二以上の項目測定に必要な試薬を保持する構成。
(ii)肥満セットを測定するチップ
第一あるいは第二の汎用型分析部を少なくとも8個含む分析部を有し、8個の前記第二の汎用型分析部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、前記試薬は、アスパラギン酸アミノ基転移酵素活性、アラニンアミノ基転移酵素活性、γグルタミルトランスペプチダーゼ、総コレステロール、中性脂肪、HDLコレステロール、空腹時血糖(グルコース)、およびヘモグロビンA1cからなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬である構成。
(iii)高脂血症を測定するチップ
第一または第二の汎用型分析部を少なくとも9個含む分析部を有し、9個の前記第一または第二の汎用型分析部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、前記試薬は、レムナントリポタンパク質コレステロール、LDL−コレステロール、リポタンパク質a、アポタンパク質A−I、アポタンパク質A−II、アポタンパク質B、アポタンパク質C−II、アポタンパク質C−III、アポタンパク質E、クレアチンホスホキナーゼ、アスパラギン酸アミノ基転移酵素活性、アラニンアミノ基転移酵素活性、およびγグルタミルトランスペプチダーゼからなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬を保持する構成。
上記(iii)において、9個の前記第二の汎用型分析部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、前記試薬は、レムナントリポタンパク質コレステロール、LDL−コレステロール、リポタンパク質a、アポタンパク質A−I、アポタンパク質A−II、アポタンパク質B、アポタンパク質C−II、アポタンパク質C−III、アポタンパク質Eからなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬を保持する構成とすることができる。また、前記9個の汎用型分析部に加えて、クレアチンホスホキナーゼ、アスパラギン酸アミノ基転移酵素活性、アラニンアミノ基転移酵素活性、およびγグルタミルトランスペプチダーゼを測定するのに必要な試薬を保持する汎用型分析部を有する構成とすることで、治療薬を内服中の場合も含めて高脂血症の診断に必要なデータをさらに正確に得ることができる。また、上記(iii)において、第一または第二の汎用型分析部を少なくとも13個含む分析部とすることもできる。
(iv)肝機能障害を測定するチップ
第三の汎用型分析部を少なくとも2個と、第一または第二の汎用型分析部を少なくとも8個含む分析部を有し、その少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、前記第三の汎用型分析部が前記試薬を有する場合、前記試薬は、HBs抗体およびHCV抗体からなる群から選択される一または二の項目を測定するのに必要な試薬であり、前記第一または第二の汎用型分析部が前記試薬を有する場合、前記試薬は、アルカリフォスファターゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、総タンパク質、アルブミン、硫酸亜鉛混濁試験、チモール混濁試験、コリンエステラーゼ、または総ビリルビンからなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬である構成。
(v)ネフローゼを測定するチップ
第一または第二の汎用型分析部を少なくとも7個含む分析部を有し、前記第一または第二の汎用型分析部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、前記試薬は、総タンパク質、アルブミン、尿素窒素、クレアチニン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびクロールイオンからなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬である構成。
(vi)高血圧を測定するチップ
第三の汎用型分析部を少なくとも2個と、第一または第二の汎用型分析部を少なくとも5個含む分析部を有し、その少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、前記第三の汎用型分析部が前記試薬を有する場合、前記試薬は、レニン活性およびアルドステロンからなる群から選択される一または二の項目を測定するのに必要な試薬であり、前記第一または第二の汎用型分析部が前記試薬を有する場合、前記試薬は、尿素窒素、クレアチニン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびクロールイオンからなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬である構成。
(vii)貧血を測定するチップ
第三の汎用型分析部を少なくとも2個と、第一または第二の汎用型分析部を少なくとも2個と、を含む分析部を有し、その少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、2個の前記第三の汎用型分析部が前記試薬を有する場合、前記試薬は、ビタミンB12および葉酸からなる群から選択される一または二の項目を測定するのに必要な試薬であり、第一または第二の汎用型分析部が前記試薬を有する場合、前記試薬は、からなる群から選択される一または二の項目を測定するのに必要な試薬である構成。
(viii)痛風を測定するチップ
第一または第二の汎用型分析部を少なくとも1個含む分析部を有し、前記第一または第二の汎用型分析部は、尿酸の測定に必要な試薬を保持する構成。
(ix)甲状腺機能障害を測定するチップ
第三の汎用型分析部を少なくとも3個含む分析部を有し、3個の前記第三の汎用型分析部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、前記試薬は、トリヨードサイロニン、チロキシン、および甲状腺刺激ホルモンからなる群から選択される一または二の項目を測定するのに必要な試薬である構成。
(x)副腎を測定するチップ
第三の汎用型分析部を少なくとも1個含む分析部を有し、前記第三の汎用型分析部は、コルチゾールの測定に必要な試薬を保持する構成。
【0052】
本発明のチップにおいて、試料に対する数と同じ数の前記汎用型分析部をさらに有し、前記同じ数の前記汎用型分析部では、標準液を用いて、前記試料と同じ測定が実施される構成とすることができる。こうすることにより、標準液の測定結果を用いて試料の測定結果を較正することができる。よって、チップを用いてさらに正確な測定を行うことができる。
【0053】
本発明によれば、分析項目に応じてカスタマイズ可能な分析チップと汎用型の分析部、およびその製造方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0055】
【図1】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図2】図1の機能を有するチップの構成を示す図である。
【図3】図2のA−A’断面図である。
【図4】図2のB−B’断面図である。
【図5】図2のB−B’断面図である。
【図6】図2のC−C’断面図である。
【図7】実施の形態に係るチップの調節部の閉止方法を説明する図である。
【図8】実施の形態に係るチップの調節部の閉止方法を説明する図である。
【図9】実施の形態に係るチップの調節部の閉止方法を説明する図である。
【図10】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図11】図10の機能を有するチップの構成を示す図である。
【図12】図11のチップの測定部の構成を示す図である。
【図13】図11のチップの測定部の構成を示す図である。
【図14】実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【図15】図14の測定装置にチップを挿入する様子を示す図である。
【図16】実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
【図17】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図18】図17のD−D’断面図である。
【図19】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図20】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図21】実施の形態に係る分離部を有するチップの構成を示す図である。
【図22】図21のチップの分離領域の構成を示す図である。
【図23】図22の分離領域を用いた分離方法を説明する図である。
【図24】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図25】図24のチップの混合部の構成を示す図である。
【図26】図24のチップの混合部の構成を示す図である。
【図27】図26の液体スイッチ部の拡大図である。
【図28】図26の液体スイッチ部の堰き止め部を示す図である。
【図29】実施の形態に係るチップのトリガー流路の構成を示す図である。
【図30】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図31】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図32】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図33】図32のチップの前処理部を示す図である。
【図34】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図35】実施の形態に係るチップの機能ブロックを示す図である。
【図36】実施の形態に係るチップの構成を示す図である。
【図37】図36のチップの反応部の構成を示す図である。
【図38】実施形態に係るチップの検出部の構成を示す図である。
【図39】実施形態に係るチップ製造装置の構成を示す概念図である。
【図40】実施形態に係るチップ製造装置の構成を示す概念図である。
【図41】実施の形態に係るチップの調節部の閉止方法を説明する図である。
【図42】実施の形態に係るチップの調節部の閉止方法を説明する図である。
【図43】実施の形態に係るチップの製造装置の構成を示す図である。
【図44】実施の形態に係るチップの製造手順を示す図である。
【図45】図21のチップの分離領域の構成を示す図である。
【図46】図21のチップの分離領域の構成を示す図である。
【図47】実施の形態に係るチップのトリガー流路の構成を示す平面図である。
【図48】実施の形態に係るチップのトリガー流路の構成を示す平面図である。
【図49】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す平面図である。
【図50】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す平面図である。
【図51】図50の検出部を有するチップの構成を示す断面図である。
【図52】実施の形態に係るチップの検出部の閉鎖スイッチの構成を示す平面図である。
【図53】図50の検出部を有するチップの液体スイッチ部の構造を示す平面図である。
【図54】再診の際に測定される主な検査項目のセットと、測定の方法、およびそれを実現可能な反応部のクラスを示す図である。
【図55】再診の際に測定される主な検査項目のセットと、測定の方法、およびそれを実現可能な反応部のクラスを示す図である。
【図56】再診の際に測定される主な検査項目のセットと、測定の方法、およびそれを実現可能な反応部のクラスを示す図である。
【図57】再診の際に測定される主な検査項目のセットと、測定の方法、およびそれを実現可能な反応部のクラスを示す図である。
【図58】実施の形態に係るチップの検出部の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、共通する構成要素には同じ符号を付し、適宜説明を省略する。
【0057】
はじめに、第一および第二の実施形態において、試料の分析がなされるカスタマイズ可能なチップの基本構成を説明する。チップは、基本構成として試料導入部、調節部、および分析部を含む。分析部においては、分離された試料中の成分の分析が行われる。分析部は、たとえば所定の成分の検出反応が行われる結果、目視にて検出可能となるような検出部とすることができる。また、分析部は、外部装置を用いた測定に供する試料成分が貯留される測定部とすることもできる。第一の実施形態は、分析部が検出部である構成であり、第二の実施形態は分析部が測定部である構成である。調節部の具体的構成については以下の実施形態において後述する。
【0058】
(第一の実施形態)
本実施形態は、複数の検出項目の中から必要な項目を選択して検出することが可能なチップに関する。このチップは、分析部として、各検出項目に対応する複数の検出部を有する。各検出部に連通する分注流路のそれぞれに、分注流路の下流側へ液体を進行させるかどうかを設定するための調節部が設けられている。それぞれの調節部の開閉を設定することにより、必要な項目に対応する検出部にのみ試料が導かれるように構成されている。
【0059】
図1は、本実施形態に係るチップの機能を示す機能ブロック図である。図1のチップは、試料中の成分の分析を行うことができるチップであり、試料導入部212、調節部312、および検出部214を含む。チップ311は、たとえばシリコン、ガラス、石英、各種プラスチック材料、またはゴム等の弾性材料により構成される基板の表面に形成することができる。たとえば、基板の表面に溝部を設け、これを表面部材によって封止し、これらによって囲まれた空間内に図1に示した機能を果たす部材やそれらを連通させる流路を形成することができる。
【0060】
図2は、図1の機能を有するチップ311の構成の一例を示す図である。図2のチップ313においては、基板216上に、導入口217、主流路221、分注流路222、調節部314、検出槽223、液溜め224が設けられている。また、図3は、図2のA−A’断面図である。図3では、主流路221等の構成部材を省略し、基板216、蓋226、およびシール227の積層構造のみを示した。チップ313において、基板216の上部に蓋226が設けられている。蓋226には、液溜め224および各検出槽223に連通する空気孔225が設けられている。また、蓋226の上面は、ゴミの混入を避けるなどの目的でシール227で封止されていても良い。図3はシールがある場合の断面図である。
【0061】
基板216の大きさは、たとえば3〜10cm×2〜7cm程度とすることができる。また、基板216の厚さはたとえば0.5mm〜1cm程度とすることができる。蓋226の材料は、たとえば、基板216に用いられる材料とすることができる。また、基板216の表面および蓋226の底面すなわち基板216と接合される面は、親水性であることが好ましい。親水性の表面とすることにより、毛細管現象を用いて試料をチップ313中に導入し、移動させることができる。こうすれば、ポンプや電極等の外部駆動装置を設けることなく試料の導入または移動が可能となるため、簡便な装置構成とすることができる。
【0062】
主流路221および分注流路222は、たとえば幅100μm程度、深さ20μm程度とすることができる。また、検出槽223は、たとえばφ2mm程度の円筒形や、2mm角程度の直方体の液溜めとすることができる。検出槽223の深さは、分注流路222と同程度とするか、または基板の厚さよりわずかに浅い程度とすることができる。検出槽223においてチップ313の厚さ方向に光を照射し、光学測定を行うことにより試料中の成分の検出を行う場合、検出槽223の深さは、分注流路222と同程度とするか、または基板の厚さよりわずかに浅い程度とすることで光路長を増し、検出感度を向上させることができる。
【0063】
空気孔225は、検出槽223の近傍で検出槽223に連通していれば検出槽223の直上に設けられていなくてもよい。空気孔225はたとえばφ50μm〜1mm程度の大きさとすることができる。こうすることにより、検出槽223に確実に液体を導くことができる。また、空気孔225周辺の表面は疎水化されていることが好ましい。空気孔225の表面を疎水化することにより、検出槽223に分注された液体が空気孔225から漏出しないようにすることができる。このため、検出槽223に一定量の液体を分取することができる。また、試料の損失を防止することができる。
【0064】
シール227は、チップ313を使用する際に剥離可能に形成されていればよい。たとえば各種プラスチック材料の薄膜の表面に酢酸ビニルなどのエマルジョン系粘着剤が塗布された構成とするとすることができる。また、エポキシ系やシリコーン系の接着剤を用いることもできる。
【0065】
試料導入部212に対応する導入口217には、所定の試料が導入される部位であり、チップ313では液溜めの形状となっている。このような導入口217は、φ3mm程度の円筒形の液溜めとし、蓋226にも同サイズの穴を貫通させることによって形成することができる。
【0066】
廃液だめとして使われる液溜め224は、φ5mm程度の円筒形の液溜めとし、蓋226の対応する位置に空気孔225を形成することによって得られる。液溜め224近傍の空気孔225の構成は、検出槽223近傍の空気孔225と同様に、その周辺の表面を疎水性とすることが好ましい。空気孔225は液溜め224の近傍で液溜め224に連通していれば廃液溜め219の直上に設けられていなくてもよい。空気孔225はたとえばφ50μm〜2mm程度の大きさとすることができる。また、検出槽223近傍の空気孔225よりも大きくしてもよい。
【0067】
チップ313を使用する際には、シール227がある場合には、まず、シール227をはがす。シール227をはがすことにより、導入口217および空気孔225が開放され、外気に接触する。次いで、開放された導入口217に試料を導入する。導入された試料は、毛細管現象により主流路221に導かれる。
【0068】
主流路221中の試料成分は、主流路221に連通する分注流路222から、複数の検出槽223に導かれ、分注される。図2において、検出槽223は、図1における検出部214に対応する。分注流路222および検出槽223は基板216上に所定の数だけ設けることができる。
【0069】
図4Aおよび図4Bは、図2のB−B’断面図であり、検出槽223を主たる構成要素とする検出部214の構成例を示す図である。図4Aおよび図4Bにおいて、検出槽223は、底面に検出試薬231を有している。検出試薬231は、試料中に含まれる特定成分と相互作用することによりたとえば発色、発光、変色、脱色または消光する物質ないし試薬とすることができる。分離領域218で分離された試料が検出槽223に達すると、検出試薬231が移動相中に溶解または分散し、検出槽223中で所定の検出反応が行われる。なお、図2のチップ313のように、複数の検出槽223を有する場合、これらのうちの一つの検出槽223には検出試薬231を導入せず、参照用の液溜めとして用いることもできる。
【0070】
図4Aの構成では、検出反応による発色等を、蓋226越しに目視で観察する構成となっている。また、図4Bでは、蓋226にマイクロレンズ228が形成されているため、検出槽223内の様子を拡大して観察できる。したがって、たとえば検出槽223中における発色、発光、変色、脱色または消光などをより詳細に視認することが可能である。さらに、検出槽223が極めて小さい場合でも当該発色、発光、変色、脱色または消光を視認することができる。したがって、分析に供する試料を少量化することができる。
【0071】
また、図5および図6は、検出部214のまた別の構成を示す図である。図5は図2のB−B’断面図であり、図6は図2のC−C’断面図である。図5および図6に示したように、マイクロレンズ228は、複数の検出槽223間にわたって形成してもよい。この場合、マイクロレンズ228はたとえばかまぼこ型とすることができる。こうすれば、蓋226の構成をより簡素化することができる。
【0072】
複数の検出槽223のそれぞれについて、検出試薬231は異ならせることができる。こうすれば、1枚のチップを用いて試料中の複数の成分のそれぞれに対応する検出反応が可能となる。このため、必要最小限の試料を用いて多項目の分析を行うことができる。
【0073】
図2にもどり、チップ313では、主流路221から複数の分注流路222が順次分岐しており、分注流路222は主流路221よりも細い流路であるため、毛細管現象によって上流側の分注流路222に連通する検出槽223から順に試料成分が導入される。
【0074】
ここで、それぞれの分注流路222には、調節部314が設けられている。調節部314は、必要に応じて分注流路222を閉止し、下流側に試料が進行しないように堰き止めることができるよう構成されている。調節部314を開放した分注流路222にのみ試料が導かれ、対応する検出槽223にて所定の検出反応が行われる。また、調節部314を閉止した分注流路222には、試料が導かれないため、対応する検出槽223における検出反応も行われない。
【0075】
また、調節部314が開放した分注流路222に連通するすべての検出槽223に試料成分が導かれた後の不要な試料は、液溜め224に排出される。
【0076】
分注流路222に調節部314を設けることにより、分析項目に応じたチップ313のカスタマイズが可能となる。チップ313には、あらかじめ想定される分析項目に対応する検出槽223を設けておき、試料に応じて必要な検出反応に対応する検出槽223に連通する分注流路222のみ開放すれば、不要な検出槽223には試料が導入されないため、必要最小限の試料を用いて必要十分な検出反応に試料を供することが可能となる。
【0077】
図2および図3のチップ313の作製は、たとえば次のようにして行う。基板216に溝を形成し、主流路221および分注流路222とする。また、主流路221に連通する導入口217、検出槽223、および液溜め224を形成する。これらの形成は、基板216としてプラスチック材料を用いる場合、エッチングやエンボス成形等の金型を用いたプレス成形、射出成形、光硬化による形成等、基板216の材料の種類に適した方法で行うことができる。主流路221の幅は、試料の性状に応じて適宜設定される。たとえば、高分子量成分(DNA、RNA、タンパク質、糖鎖)を含む試料の場合、5μm〜1000μm程度とする。
【0078】
分注流路222上に、調節部314を形成する。調節部314は、分注流路222下流への液体の進行を妨げるように構成されていればよく、たとえば、分注流路222の一部を疎水処理することによって調節部314を形成することができる。図7〜図9は、特定の分注流路222を選択的に疎水化し、閉止する方法を説明する断面図である。
【0079】
図7〜図9において、基板216は、載置台322上に載置されている。基板216上には、調節部314として3つの調節部314a〜調節部314cが例示されている。ここでは、調節部314aを閉止し、調節部314bおよび調節部314cを開放する場合を例に、以下説明する。
【0080】
調節部形成装置317は、基板216の形状に対応する凹部321を有するプレス基板318と、印刷棒319と、PDMS(ポリジメチルシロキサン)スタンプ320とを含む。印刷棒319は、基板216上の調節部314、図7においては調節部314a〜調節部314cのそれぞれの位置に対応して形成されている。また、印刷棒319は先端にPDMSスタンプ320を有し、プレス基板318中に図中上下方向に移動可能に挿入されている。
【0081】
調節部形成装置317を使用する際には、図7に示したように、閉止したい調節部314に対応する印刷棒319を凹部321側に突出させる。ここでは、調節部314aのみを閉止したいので、調節部314aに対応する位置に設けられた印刷棒319のみを凹部321側に突出させる。
【0082】
図8は、凹部321が基板216に嵌合するように調節部形成装置317を載置台322上に押し当てた状態を示す。突出した印刷棒319の先端に設けられたPDMSスタンプ320が変形し、調節部314a中に埋設されている。
【0083】
図9は、調節部形成装置317を載置台322から除去した状態を示す。PDMSスタンプ320を押し当てられた調節部314aは、表面にPDMS層323が形成される。PDMS層323は疎水性であるため、調節部314aを有する分注流路222に導入された試料は調節部314aより下流側に移動することができず、調節部314aにおいて堰き止められる。この場合、疎水性のPDMS層323の幅は100μm〜1000μmとすることができる。
【0084】
この方法によれば、基板216上の調節部314のうち、閉止したい部分にPDMSスタンプ320を接触させることにより、閉止したい調節部314の流路表面を疎水化できるため、閉止したい調節部314を簡便かつ確実に選択的に閉止することが可能となる。なお、印刷棒319の位置の制御は、たとえば手動で行うことができる。また、印刷棒319の位置を制御する制御部を調節部形成装置317に設けることにより、印刷棒319の位置をさらに容易に制御することができる。この場合、印刷棒319の位置移動の駆動力として、たとえばソレノイドコイルと磁石を用いた駆動機構を適用することができる。
【0085】
また、基板216としてプラスチック材料を用いる場合、調節部314は、閉止したい領域周辺に加熱したスタンプを押印して流路を閉止することによっても閉止できる。図41および図42は、加熱により調節部314の閉止方法を説明する図である。
【0086】
図41に示したように、印刷棒319の末端に設けられたスタンプ320aを基板216の構成材料のガラス転移温度以上の温度に加熱し、基板216の上面から調節部314に押接させる。スタンプ320aとして、たとえば端部に向かって突出したくさび状の金属片を用いることができる。また、スタンプ320aの加熱は、たとえば印刷棒319中にヒーターユニットを設けることにより行うことができる。スタンプ320aを押接させることにより、調節部314近傍の基板216が軟化し、スタンプ320aが基板216に進入する際に押しのけられた樹脂が分注流路222上に盛り上がり、変形する。
【0087】
スタンプ320aを基板216上から除去し、基板216を冷却すると、図42に示したように、基板216が再度硬化するため、分注流路222を封止し、遮断する隔壁が形成される。
【0088】
この方法によれば、簡便な装置を用いて確実に分注流路222の一部を封止し、遮断することができる。このため、調節部314の開閉を容易に設定し、チップをカスタマイズすることができる。なお、スタンプ320aとして金属を用いる場合、その表面をテフロン(登録商標)処理してもよい。こうすることにより、スタンプ320aを基板216上に押圧した際の基板216材料の付着を抑制することができる。
【0089】
また、図42では、再硬化した樹脂が基板216の上面以上に突出しているが、この構成は、チップの上部に蓋226を設けない場合に好適に用いられる。また、チップの上面以上に再硬化した樹脂が突出しないようにすれば、蓋226との接合前に、突出部を除去する必要がなく、効率よくチップのカスタマイズが可能となる。
【0090】
本実施形態の方法では、調節部314の開閉を簡単な操作で行うことができるため、チップを短時間で容易にカスタマイズすることができる。
【0091】
図2および図3にもどり、蓋226に、導入口217、および空気孔225を形成する。
【0092】
得られた基板216および蓋226を接合する。さらに、必要に応じて蓋226の上面をシール227で封止する。こうして、チップ313が得られる。ここで、基板216と蓋226の接合には、たとえば基板216を溶解可能な溶媒を少量基板216の表面に塗布した後表面に蓋226を押し当てて接着する方法を用いることができる。また、基板216と蓋226を当接させた状態で超音波を与えて接着する方法や、所定の接着剤を塗布して接着する方法を用いてもよい。また、基板216および蓋226がプラスチック材料である場合、熱融着法を用いてもよい。
【0093】
なお、主流路221または分注流路222の壁面にDNAやタンパク質などの分子が粘着することを防ぐために、流路壁をコーティングすることが好ましい。こうすれば、チップ313が良好な分離能を発揮することができる。コーティング材料としては、たとえば、細胞膜を構成するリン脂質に類似した構造を有する物質等が挙げられる。また、流路壁をフッ素系樹脂などの撥水性樹脂、あるいは牛血清アルブミンなどの親水性物質によりコーティングすることによって、DNAなどの分子が流路壁に粘着することを防止することもできる。また、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマー等の親水性高分子材料や、親水性のシランカップリング剤により基板216の表面をコーティングしてもよい。
【0094】
基板216の表面の親水化をMPCポリマーを用いて行う場合、具体的には、リピジュア(登録商標、日本油脂社製)などを用いることができる。リピジュア(登録商標)を用いる場合、たとえばこれを0.5wt%となるようにTBE(トリスボレイト+EDTA)バッファーなどの緩衝液に溶解させ、この溶液を主流路221または分注流路222内に満たし、数分間放置することによって流路壁をコーティングすることができる。
【0095】
導入口217に導入された試料をより一層確実に流路230に導入する方法として、流路230の表面にシリコン酸化膜等の親水性膜を形成することが有効である。親水性膜の形成により、特に外力を付与しなくとも緩衝液が円滑に導入される。さらに、基板216の少なくとも表面を、PHEMA(ポリヒドロキシエチルメタクリレート)等の親水性高分子材料で構成することにより、基板216表面への試料成分の非特異的な吸着を抑制することができる。このため、試料が微量であっても確実に分取および検出を行うことができる。
【0096】
図1にもどり、以上のように、本実施形態に係るチップ311を用いることにより、試料中の所定の成分の検出を、試料に応じて選択し、一枚のチップ311を用いて行うことができる。このため、必要最小限の試料を用いて必要な項目のみ分析を行うことが可能である。
【0097】
たとえば、図2に示したチップ313の複数の検出槽223において呈色反応が行われる場合、これを比色して試料中の特定の成分の有無を判断したり、濃度を測定したりすることができる。この場合、基板216が透明な材料により形成されていることが好ましい。こうすることにより、より正確な検出を行うことができる。透明な材料として、具体的には、たとえば石英、環状ポリオレフィン、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用いることができる。
【0098】
チップ313を用いた検出は、導入口217から導入された試料を直接用いて検出する場合に好適に用いることができる。検出槽223における一段階の検出反応で検出できることが好ましく、このような検出として、たとえば血漿中の肝酵素の一種、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の検出等が挙げられる。
【0099】
なお、チップ313において、検出に用いない検出槽223、すなわち調節部314が閉鎖された分注流路222に連通する検出槽223については、検出試薬231を有さなくもよい。
【0100】
また、チップ313において、主流路221に連通する液溜めをさらに設け、この液溜めに、試料希釈用バッファーを導入しておくかあるいは所定のタイミングで導入することにより、導入口217に導入された試料を希釈した後、調節部314が開放した分注流路222に連通する検出槽223に導くことができる。こうすれば、検出槽223における検出反応に適した濃度に試料を希釈することが可能となるため、高感度の測定が可能となる。
【0101】
本実施形態のチップは、調節部314の開閉を選択することによりカスタマイズすることがでできるため、たとえば臨床検査等に好適に用いることができる。たとえば病院や検査機関における検査に必要な項目を容易に選択し、必要項目の分析に適したチップを製造することができる。よって、たとえば病院や検査機関から、検査項目の組み合わせをオンラインで受け付けるようにすれば、受け付けた項目をセットしたチップを必要な枚数容易に受注生産することが可能となる。
【0102】
また、病院や検査機関において、検査対象者に必要とされる分析項目が選択されたチップをその場で容易に生産することも可能となる。また、個人が、健康管理のために、チップの製造メーカにオンラインでアクセスし、必要な検査項目を送信することにより、各個人に対応してカスタマイズされたチップを必要な枚数生産し、その個人に送付することもできる。
【0103】
なお、カスタマイズされたチップの製造方法については、第九の実施形態において詳細に説明する。
【0104】
(第二の実施形態)
本実施形態は、複数の測定項目の中から必要な項目を選択して外部装置による測定に供することが可能なチップに関する。このチップは、分析部として、各検出項目に対応する複数の測定部を有する。各測定部に連通する分注流路のそれぞれに、分注流路の下流側への液体の進行を調節する調節部が設けられている。それぞれの調節部の開閉を調節することにより、必要な項目に対応する測定部にのみ試料が導かれるように構成されている。
【0105】
図10は、本実施形態に係るチップの構成の一例を示す機能ブロック図である。チップ315は、第一の実施形態に記載のチップ311において、検出部214に代わり測定部233を有する点が異なる。測定部233は、外部装置を用いた測定に供する試料成分が貯留される領域である。
【0106】
図11は、図10の機能を有するチップ315の構成の一例を示す図である。図11のチップ316の基本構成は第一の実施形態に記載のチップ313(図2)と同様であるが、検出槽223に代わり分取部235を有する点が異なる。分取部235は、導入口217に導入された試料が分取される液溜めである。
【0107】
図12および図13は、分取部235を主たる構成要素とする測定部233の構成を例示する図である。分取部235は、図12に示したように試料を貯留する液溜めのみからなっていてもよい。または、図13に示したように、測定試薬236を有していてもよい。測定試薬として、たとえば、第一の実施形態に記載のチップ313において、検出試薬231として利用可能な物質を用いることができる。測定試薬236を用いることにより、発色反応等を利用して、試料中の特定成分について確実に分析を行うことができる。具体的には、たとえば350〜640nm程度の波長領域における透過光強度を測定することができる。また、図12のように測定試薬を有していない場合でも、試料自体の着色によるバイアスを評価する等必要の有無に応じて調節部314の開閉を設定し、用いる分取部235の個数を選択することができる。
【0108】
図14は、チップ316を挿入して分取部235の試料成分に関する光学測定を行う測定装置237の構成を模式的に示す図である。測定装置237は、チップ316が挿入される挿入部244と、挿入部244に挿入されたチップ316の分取部235に光を照射し、また光学特性を測定する測定ユニット242を有する。測定ユニット242は、光源238、集光部243、および受光部239を含む。なお、図14〜図16においては、説明のために2個の測定ユニット242および分取部235を図示したが、実際にはチップ316上に形成した測定部233の数だけ測定ユニット242を設けることができる。
【0109】
測定ユニット242の大きさは、分取部235の大きさに対応して設計される。たとえば、チップ316において、分取部235の深さを1mm程度とし、分取部235の間隔を1mm程度とすることができ、このとき、光源238、受光部239、および光学フィルタ240の大きさもこれに合わせて設計される。
【0110】
光源238は、たとえばLED、レーザダイオード、半導体レーザ等とすることができる。光源の種類は、測定波長によって異なるため、測定試薬236によって生じる発色等の波長に合わせて適宜選択される。集光部243は、たとえばセルフォックスレンズを所定の形状、大きさに加工して用いることができる。受光部239は、たとえばフォトトランジスタ、光電セル等とすることができる。
【0111】
図15は、図14の測定装置237にチップ316を挿入する様子を示す図である。測定装置237の挿入部244にチップ316を挿入すると、測定ユニット242に対応する位置に分取部235が挿入される。このため、チップ316に形成された分取部235の数だけ測定ユニット242を設けておけば、それぞれの分取部235について、光学測定を一度に行うことができる。よって、短時間での測定が可能となる。また、測定装置237は測定ユニット242を1個有するものとし、チップ316を挿入部244中でスライドさせることにより、複数の分取部235について順次光学測定を行う構成としてもよい。
【0112】
また、図16は、測定装置237の別の構成を示す図である。図16の測定装置237は、図14の装置と基本構成が同様であるが、光源238を1台とし、また光学フィルタ240および遮光板241を有する点が異なる。なお、図16では、集光部243を設けない構成としたが、集光部243を設ける構成とすることもできる。
【0113】
光学フィルタ240を設けることにより、光源238からの出射光のうち、所定の波長範囲にある光のみを分取部235に照射することができる。このため、ランプ光源など、出射光の波長分布がブロードな光源238を用いる際にも、測定波長に対応する光学フィルタ240で分光し、測定するこができる。また、光学フィルタ240は遮光板241に支持されているため、他の測定ユニット242に光源238からの出射光が漏洩するのを防止することができる。
【0114】
光学フィルタ240には、光学フィルタとして既知の材料を所定の大きさに加工して用いることができる。
【0115】
なお、図14または図16に示した測定装置237において、光源238を設けずに、外部の光源からの光を光ファイバ等により導入し、分取部235の挿入される位置に照射する構成としてもよい。また、以上においては分取部235における透過度を測定するとして説明したが、測定ユニット242は、吸光度や散乱度を測定するように構成されていてもよい。
【0116】
図10に示したチップ315に適用可能なチップ316の構成および測定装置237の構成は、上述したものに限られず、種々の構成とすることができる。
分析部として測定部233を有するチップ316において、分取部235に連通する分注流路222に調節部314を設けることにより、分析項目に応じたチップ316のカスタマイズが可能となる。チップ316には、あらかじめ想定される複数の分析項目のそれぞれに対応する測定が可能な分取部235を設けておく。そして、必要な測定に対応する分取部235に連通する分注流路222のみ開放すれば、不要な分取部235には試料が導入されないため、必要最小限の試料を用いて必要十分な測定に試料を供することが可能となる。このため、測定装置237を用いて簡便な手法で確実に試料中の成分に関する分析を行うことができる。
【0117】
また、図10に示したチップ315に適用可能なチップ316の構成および測定装置237の構成は、上述したものに限られず、種々の構成とすることができる。
【0118】
たとえば、図17に示すように、分取部235を分注流路222上に設け、分取部235の下方に光導波路245を形成することもできる。ここで、光導波路245は、たとえば石英系材料または有機系ポリマー材料により形成することができる。光導波路245は、周囲の材料よりも屈折率が高くなるように構成される。この場合、光導波路245にはチップの底面から光が導入され、同様に、チップの底面から光が取り出される。図18は、図17のD−D’断面図である。
【0119】
この場合、たとえば、測定装置237の底面等に、チップの投光用光導波路246へ光を導入する光源および受光用光導波路247からの光を受光するための受光部を設けておくことができる。このような構成にすれば、測定装置237の底面等にチップの投光用光導波路246および受光用光導波路247が露出した面を接触させることにより、分注流路222上の分取部235への光の導入および分取部235からの光の検出を行うことができる。
【0120】
また、図17および図18に示したチップにおいて、光導波路245を設けない構成としてもよい。このとき、投光用光導波路246および受光用光導波路247を設けることにより、光源からの出射光を、投光用光導波路246を介して分取部235に導入し、分取部235からの出射光を、受光用光導波路247を介して受光部にて受光することができる。この構成についても、分取部235に分取された液体中の所定の成分に関する光学測定を行うことができる。また、光導波路245を設けないため、チップの構成を簡素化することができる。
【0121】
なお、以上においては、測定装置237が分取部235の透過光を検出する構成としたが、反射光を検出するように受光部239を構成し、配置してもよい。
【0122】
また、チップ316をそのまま測定装置237に供する構成とせず、チップ316の分取部235に分取された試料を抽出して外部装置の測定に供する態様としてもよい。
【0123】
チップ316の分取部235では、たとえば肝酵素の一種であるALTの検出が可能である。たとえば血漿を試料として導入口217に導入すると、調節部314が開放した分取部235にのみ分取される。調節部314が開放した分取部235中に測定試薬236として、たとえば、L−アラニン、α−ケトグルタル酸、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)、および乳酸脱水素酵素(LDH)を導入しておけば、分取部235における、
NADH → NAD
の反応による発色の程度を測定装置237によって測定することができる。測定装置237で測定される340nmにおける透過率の変化率に基づき、ALT活性が算出される。なお、非特異的な吸収を排除するため、405nmにおける透過率をあわせて測定する2波長計測としてもよい。
【0124】
(第三の実施形態)
第一または第二の実施形態に記載のチップにおいて、試料導入部212と調節部312との間に、分析(検出または測定)に先立ち、試料中の所定の成分を分離する分離部を設けてもよい。図19および図20は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図19に示したチップ324および図20に示したチップ325では、試料導入部212と調節部312との間に分離部213が形成され、分離された試料について選択された分析(検出または測定)を行うことが可能である。以下、分析部として検出部214を有する構成のチップ(図19)を例に説明する。
【0125】
図21は、分離部213を有するチップの構成の一例を示す図である。図21のチップ326の基本構成は図2のチップ313と同様であるが、導入口217と分注流路222との間に、主流路221の一部を含む分離領域218が設けられている点が異なる。また、チップ326は、図2に示したチップに加え、廃液溜め219、バッファー導入口220、および流路230を含む。検出槽223の数は適宜選択できる。
【0126】
分離領域218は、流路230、主流路221およびこれらを連通させる複数の微細流路229を有し、フィルタ状に構成されている。流路230に連通して不要な試料を排出する廃液溜め219が設けられている。また、主流路221に連通して、バッファー導入口220が形成されている。なお、図21のチップ326では、分離領域218がフィルタである場合を例示しているが、分離領域218の構成はこれには限定されず、種々の構成を採用することができる。
【0127】
図22は、分離領域218の構成を説明する図である。図22においては、基板216上に流路溝161aおよび流路溝161b(いずれも幅W、深さD)が形成され、これらの間に隔壁165が介在している。ここで、161aおよび161bのいずれか一方が主流路221となり、他方が流路230となる。隔壁165には、分離流路が規則的に形成されている。ここでいう「分離流路」は、微細流路229に対応する構成である。分離流路は、流路溝161aおよび流路溝161bと直交し、幅d1の分離流路が所定の間隔d2で規則的に形成されている。図中に示された各寸法は、分離する試料等に応じて適宜な値に設定されるが、たとえば以下のような範囲から好適な数値が選択される。
【0128】
W:10μm〜1000μm
L:10μm〜1000μm
D:50nm〜1000μm
d1:10nm〜10μm
d2:10nm〜100μm
このうち、分離流路の長さに相当するLの数値は、分離特性に直接影響するため、分離目的に応じて精密に設計することが重要となる。たとえば高分子の分離においては、分離流路を通過する際に分子のコンフォーメーションが変化し、エンタルピー変化が生じる。したがって、分離流路の長さによって分子の通過に伴うエンタルピー変化の総量が相違することとなり、分離特性が変化するのである。本発明においては、流路を溝により構成しているため、エッチングや成型加工により作製することができ、形状やサイズを精密に制御することができる。この結果、所望の分離特性を有する分離装置を安定的に製造することができる。なお、流路溝161a、流路溝161bおよび分離流路は、様々は方法で形成することができるが、d1やd2の値を100nm以下に設定した場合、微細加工性の点で電子線露光技術を組み合わせたドライエッチングを用いることが望ましい。
【0129】
図22に示した構造の分離領域218を用いた分離方法について図23を参照して説明する。図23は、この分離装置を上から見たときの概略構造を示した模式図である。まず、試料の分離を行う前の準備として、各流路溝にキャリアとなる緩衝液を満たしておく。図23では、流路溝161b中に、図中下向きに混合物150を含む試料原液が流れる。すると、混合物中の小さな分子151が、図の中央に示される隔壁に設けられた分離流路を通過し、隣接する流路溝161aに進入する。流路溝161aには、分離目的成分と化学反応を起こさない溶媒が図中上向きに流れている。したがって、流路溝161aに進入した小さな分子151は、その流れにのって図中上向きの方向に運搬される。一方、流路溝161b中の大きな分子152は、分離流路を通過できないので、流路溝161b中をそのまま流れていき、流路の末端で回収される。以上のようにして、小さな分子151および大きな分子152が分離される。
【0130】
図22では、流路溝161aおよび流路溝161bの流れの方向を逆向きとした。同じ向きとすることもできるが、逆向きにした場合、分離効率が向上する。たとえば流路溝161aの流れの方向を図中下向きとした場合、流れの進行方向に向かうにしたがって小さな分子151の濃度が高くなっていく。したがって、流路溝161aと流路溝161bにおける大きな分子152の濃度差が、流れの進行方向に向かうにしたがって小さくなり、ある地点で等濃度となる。この地点から先の領域では、流路溝161bから流路溝161aへの大きな分子152の移動は起こりにくくなり、分離できなくなる。これに対して本実施形態のように逆向きの方向にした場合は、流路溝161aと流路溝161bにおける大きな分子152の濃度差は担保されるので、分離流路を一定の長さの領域にわたって形成した場合でも、高い分離能力を確保することができる。
【0131】
なお、以上においては、分離流路となる複数の微細流路229が形成された隔壁を有する構成を示したが、分離領域218は、以下に示すように、土手部を有する構成としてもよい。
【0132】
図45は分離領域218の別の構成を示す図であり、分図A、Bはそれぞれ断面図、斜視図である。図45Aに示されるように、基板216には二本の流路溝161a、161bが設けられ、それらを分けるようにして土手部となる隔壁308が設けられている。基板166の上には蓋226が配設される。便宜上、蓋226は図45Bには示していない。
【0133】
図45Aから分かるように、隔壁308と蓋226との間には空間が確保されているため、この空間を介して流路溝161aおよび流路溝161bは互いに連通している。この空間は、上記の分離領域218の隔壁165に設けられた分離流路に相当する。したがって、たとえば流路溝161aに分離対象物質を含む試料を流し、流路溝161bに緩衝液を流すことにより分離操作を実行することができる。
【0134】
なお、この場合、蓋226にはポリジメチルシロキサンやポリカーボネートなどの疎水性材料からなるものを選択することが好ましい。このようにすることにより、各々の流路溝に試料または緩衝液を他の流路溝に浸入させることなく導入することができ、かつ両方の流路溝に試料等が満たされた段階で、上記空間を介して両流路溝内の試料および緩衝液の混和を生じさせることができる。このような効果は、蓋226を取り付けない状態で操作実施することによっても得ることができる。このとき、空気自体が疎水性物質として蓋226と同様に機能しているものと考えられる。
【0135】
また、ポリエチレンテレフタレートなどの親水性材料からなる蓋226を取り付けた状態で、たとえば流路溝161aに試料を流すと、当該試料は他方の流路溝161bへ浸入する。この浸入の際に、蓋226と隔壁308との間に形成された空間よりも小さなサイズの成分のみが濾しとられるため、試料中の成分の分離が実現する。
【0136】
この構成によれば、隔壁308を設けることにより、流路溝161aおよび流路溝161bを、微細流路229を有する隔壁165に比較して広い面積で接続するため、分離効率を向上させることができる。また、細長い物質であっても詰まりにくく、流路間を容易に移動できるため、こうした物質を含む試料の分離に好適に用いることができる。
【0137】
このような流路溝161a、bおよび隔壁308は、たとえば(100)Si基板をウェットエッチング処理することにより得られる。(100)Si基板を用いた場合、(001)方向に直交または平行な方向では、図示されるように台形型にエッチングが進行する。そのため、エッチング時間を調節することにより隔壁308の高さを調節することが可能である。
【0138】
また、図46に示されるように、隔壁308を蓋226上に設けることもできる。このような隔壁308を備えた蓋226は、ポリスチレンなど樹脂を射出成形することにより容易に得ることが可能である。また、基板216には1本の流路をエッチング等により設けるだけでよい。したがって、この分離領域218は上記のような簡便なプロセスにより得られるため、大量生産に適している。
【0139】
以上のように、主流路221の一部を含む分離領域218を設けることにより、たとえば液体試料の毛細管現象による導入と、拡散により試料中の成分を分離することができる。また、分子の浸透圧差を利用して分離することができる。
【0140】
図21にもどり、導入口217に導入された試料は、毛細管現象により流路230に導かれる。試料が流路230を満たしたら、バッファー導入口220に所定のバッファーを導入する。バッファーは、試料中の成分の分離用展開液として用いられる。バッファー導入口220に導入されたバッファーは、毛細管現象により主流路221に導かれ、流路230中の試料の移動方向と逆向きに移動する。
【0141】
ここで、流路230と主流路221とを連通させている微細流路229は、流路230よりも幅または深さが小さいため、流路230中の試料成分のうち、所定の大きさまたは形状を有する成分のみが微細流路229を通過し、主流路221に移動することができる。また、微細流路229中を通過できない成分は、廃液溜め219に排出される。こうして、試料中の成分を、その移動相中での大きさまたは形状に従って分離することができる。なお、微細流路229は、流路230と主流路221とを隔てる隔壁中に小孔が形成された構成とすることができる。
【0142】
このような分離領域218を用いて、たとえば試料の粗分離、精製等を行うことができる。粗分離の場合として、試料中の固形成分や細胞等を分離除去することができる。また、液体試料の場合、たとえば低分子量成分と高分子量成分との分離等が可能である。
【0143】
主流路221中の試料成分は、主流路221に連通する分注流路222から、検出槽223に導かれ、分注される。チップ326においても、図2のチップ313と同様に、調節部314が開放された分注流路222に連通する検出槽223にのみ分離された試料が分注される。
【0144】
本実施形態においては、分離領域218の下流に設けられた検出槽223に連通する分注流路222に調節部314を設けることにより、導入口217に導入された試料に所定の分離操作を施した後、分離された成分について分析項目に応じた検出または測定を行うことが可能となる。複数の分注流路222のそれぞれに設けられた調節部314の開閉を調節することにより、チップ326のカスタマイズが可能となる。試料中の成分をあらかじめ分離することができるため、検出槽223においてさらに高感度の検出を行うことができる。
【0145】
チップ326の検出槽223では、たとえば血糖値の測定が可能である。この場合、血液を試料として導入口217に導入すると、分離領域218にて血球が分離される。検出槽223には、バッファー導入口220に導入されたバッファーによって希釈された血漿成分が分注される。検出試薬231として、NAD(β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型)、ATP(アデノシン3リン酸ナトリウム)、ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、および酢酸マグネシウムを導入しておけば、検出槽223における発色の程度によって、血糖値を容易に測定することができる。
【0146】
なお、本実施形態において、分離部213と分析部(検出部214または測定部233)との間に、検出または測定に先立ち、試料濃度を均質化するための混合部を設けてもよい。以下、検出部214を有する構成の場合を例に説明する。図24は、混合部248を有するチップの構成の一例を示す図である。図24のチップ327の基本構成は図21のチップ326と同様であるが、分離領域218と分注流路222との間の主流路221に混合部248が設けられている点が異なる。
【0147】
チップ327において、混合部248は、主流路221中を流れる液体中の試料成分濃度を均質化することができるように構成されていれば、特に制限はないが、たとえば以下のように構成することができる。
【0148】
図25は、混合部248の構成の一例を示す図である。図25の混合部248は、対向流による均質化効果を利用した助走流路である。この流路は、主流路221の往路252と復路253とを混合用微細流路254により連通させた構成となっている。混合用微細流路254は、たとえば往路252と復路253とを隔てる隔壁に設けられた小孔とすることができる。
【0149】
混合用微細流路254の表面は往路252に比べて疎水性とする。こうすることにより、分離領域218を通過した液体が往路252を満たすまで、混合用微細流路254から復路253に流入しない構成とすることができる。往路252が液体で満たされ、復路253に至ると、混合用微細流路254中に往路252側と復路253側から液体が侵入することにより、往路252と復路253とが混合用微細流路254によって連通する。そして、往路252内の液体と復路253内の液体との間で相互拡散が起こり、液体の濃度を均質化することができる。均質化された液体は、主流路221から分注流路222を通って検出槽223に導かれる。
【0150】
このような構成とすれば、復路253を通過して分注流路222に流入する液体の濃度を均質化することができる。したがって、分離領域218を通過した液体中の試料成分濃度にむらがある場合にも、選択された検出槽223に供給される液体中の試料成分濃度を一定とすることができる。よって、検出反応の精度を向上させることができる。
【0151】
たとえば、試料成分濃度が高い領域が、主流路221中を流れる液体の先端領域にある場合、往路252を進むほど、既に希釈化された低濃度の復路253中の液体と交換されて、平均的濃度に均質化される。逆に、高濃度領域が主流路221中を流れる液体の先端から遠く、復路253に液体が侵入した後も往路252に存在する場合、復路253を進行する低濃度の液体は、復路253内の高濃度の液体と混合されて平均的な濃度に均質化される。なお、図25では、主流路221を一直線の形状としたが、ジグザグ形状やらせん状としてもよい。こうすることにより、混合部248をコンパクトな形状とすることができる。よって、チップ全体を小型化することができる。
【0152】
また、図26は、混合部248の別の構成を示す図である。図26の混合部248においては、主流路221中に液溜め255が設けられ、液溜め255の下流において主流路221の2箇所を連通させるトリガー流路256が設けられている。トリガー流路256は液溜め255の下流の二カ所を接続する流路である。トリガー流路256は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。トリガー流路256と主流路221との2箇所の交差点のうち、下流側すなわち分注流路222側の交差点に、液体スイッチ部257を有する。
【0153】
このような混合部248では、当初は液体スイッチ部257が閉じており、分離領域218を通過した液体は、液溜め255に貯留され、濃度が均質化される。液溜め255が液体で満たされると、その一部がトリガー流路256へと流入する。そして、トリガー流路256中に液体が満たされ、液体スイッチ部257の形成領域に達すると、液体スイッチ部257が開くため、液溜め255中で均質化された液体が分注流路222へと流入する。
【0154】
図27A〜図27Cは、図26の液体スイッチ部257部分を拡大した上面図である。液体スイッチ部257は、液体の流動を制御するスイッチであり、液体がスイッチ開閉のトリガーとなる。図27Aはスイッチ閉状態、図27Bおよび図27Cはスイッチ開状態を示す。図中、主流路221の側面にトリガー流路256が接続している。トリガー流路256は、流路内の親水性の程度や流路径等を適宜に調整することによって、流路内の液体の進行速度を調整することができる。これにより、スイッチ動作の速度を調整できる。主流路221とトリガー流路256の交差する領域の上流側(図中上側)に堰き止め部258が設けられている。堰き止め部258は、流路の他の部分よりも強い毛細管力を有する部分となっている。堰き止め部258の具体的構成としては、以下のものが例示される。
【0155】
(i)複数の柱状体が配設された構成
この構成では、堰き止め部258における流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きくなっている。すなわち、主流路221に液体が満たされたとき、堰き止め部258においては、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0156】
(ii)多孔質体やビーズが複数充填された構成
この構成では、堰き止め部258において、流路の他の部分よりも固液界面が大きくなるように構成されている。
【0157】
(iii)疎液性の表面が設けられた構成
この構成では、堰き止め部258が疎液性の表面を持つため、液体がはじかれ、通過できないように構成されている。
【0158】
上記(i)の構成とする場合、柱状体は、基板の種類に応じて適宜な方法で形成することができる。ガラス基板や石英基板を用いる場合、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用して形成することができる。プラスチック基板を用いる場合、形成しようとする柱状体のパターンの反転パターンを有する金型を作製し、この金型を用いて成形を行い所望の柱状体パターン面を得ることができる。なお、このような金型は、フォトリソグラフィー技術およびドライエッチング技術を利用することにより形成することができる。
【0159】
上記(ii)の構成とする場合、多孔質体やビーズは、これらを流路の所定箇所に直接充填、接着することにより形成することができる。
【0160】
本実施形態では、上記(i)の構成を採用する。
図28は、堰き止め部258の上面図である。複数の柱状体260が、略等間隔で規則的に配置されている。柱状体260以外の領域は微細流路261となっている。堰き止め部258では、流路単位体積あたりの流路表面積が、流路の他の部分のそれよりも大きい。このため、堰き止め部258に浸入した液体は、毛細管力により、微細流路261に保持される。
【0161】
図27Aはスタンバイ状態にある液体スイッチ部257を示している。主流路221に導入された液体試料259が堰き止め部258で保持されている。この状態から所望のタイミングでトリガー流路256を迂回してきたトリガー液262が導入されると、図27Bのようにトリガー液262の液面の先端部分が前進し、堰き止め部258と接触することとなる。図27Aの状態では、液体試料259は毛細管力により堰き止め部258に保持されているが、液体試料259がトリガー液262と接触した図27Bの状態になると、液体試料259が図中下方向(下流側)に移動し、図27Cの主流路221下流側に液体試料259が流出する。すなわち、トリガー液262が呼び水としての役割を果たし、液体試料259を下流側に引き出す液体スイッチ部としての動作が発現する。
【0162】
以上において、液体試料259およびトリガー液262は、液溜め255を通過した液体である。したがって、この構成によれば、分離領域218を通過した液体が液溜め255を満たし、さらにトリガー流路256の先端すなわち主流路221の下流側の交差点に達するまでの間、液体が分注流路222側に流入しないようにすることができる。その間に液溜め255において拡散等により濃度が均質化されるため、確実に試料成分濃度の均質化を図ることができる。
【0163】
また、トリガー流路256の長さや形状等の設計に応じて、液体が分注流路222へと流入するタイミングを好適に調節することができる。たとえば、液体が分注流路222へと流入するタイミングを遅延させる遅延流路の機能をトリガー流路256に付与することができる。
【0164】
図29A〜図29Cは、トリガー流路256の構成を例示する図である。図29Aでは、トリガー流路256の一部に流路拡張領域263が形成されている。流路拡張領域263は、トリガー流路256中で時間遅れ槽として機能し、遅延流路として用いることができる。こうすることにより、液体スイッチ部257を開くタイミングを遅延させることができる。
【0165】
図29Bは、図29Aの構成のトリガー流路256において、流路拡張領域263に疎水性領域264が形成されている。疎水性領域264は、トリガー流路256中の液体の進行方向に垂直な方向に流路拡張領域263を横切るように形成されている。このような疎水性領域264を設けることにより、流路拡張領域263において、液体が壁面のみをつたって他端に到達するのを抑制することができる。
【0166】
図29Cは、じぐざぐ形状のトリガー流路256の例を示している。このようにトリガー流路256の形状、長さを最適化することにより、遅延時間を調節し、所望のタイミングで液体スイッチ部257を開放することが可能な遅延流路となる。トリガー流路256の形状は、占有面積が小さいような形状であれば図29Cの形状に限られず、たとえばらせん形とすることもできる。
【0167】
以上の構成とすることにより、分離領域218で分離された成分の濃度を混合部248で均質化した後、分注流路222に導くことができる。このため、分離部213を通過した液体の濃度を均質化した後、検出部214に導くことができる。よって、調節部314の開閉により選択される各検出項目について、さらに精度、確度の高い検出反応を行うことができる。
【0168】
また、トリガー流路256が遅延流路を有する構成において、遅延流路における遅延時間をカスタマイズ可能な構成とすることもできる。検出に必要な反応が充分進むには一定時間を要し、試料と試薬の混和にも一定時間を要する。遅延流路は、そのための待ち時間を確保するために設けられる流路である。待ち時間は、反応の種類ごとまたは操作の種類ごとに異なる。このため、同一の基本構成を有するチップにおいて、複数の分析部(検出部214または測定部233)において、それぞれ異なる複数の分析処理を実現するには、遅延流路の待ち時間もまた使用前にカスタマイズできることが好ましい。本実施形態および本明細書における他の実施形態において、以下の構成とすることにより、遅延流路の待ち時間のカスタマイズが可能となる。
【0169】
図47A、図47B、図48Aおよび図48Bは、遅延時間のカスタマイズが可能な遅延流路の構成を示す平面図である。図47Aおよび図47Bに示す遅延流路は、図29Aおよび図29Bに示したトリガー流路256の一部をなす流路拡張領域263をカスタマイズ可能な遅延流路とした構成に対応する。
【0170】
図47Aおよび図47Bに示した遅延流路は、流入路800と、流出路801と、流路拡張領域802とを基本構成として有する。図47Aおよび図47Bに示した遅延流路をカスタマイズする際には、カスタム障害物803を設ける位置を適切な位置に調節する。カスタム障害物803は、たとえば図41に示したヒーターユニットを押し当てることにより、熱可塑性の基板材料を加熱して変形させて、流れを遮る障害物を形成することで実現できる。ヒーターユニットを押し当てる位置を制御して、このカスタム障害物803の形成位置を変えることで、遅延時間の長短がカスタマイズできる。
【0171】
カスタム障害物803は、また、疎水性であるPDMSゴムなどを押しつけること、または疎水性インクによる印刷処理などによってできる疎水性の表面としても形成することができる。
【0172】
図47Aでは、カスタム障害物803が流路拡張領域802内に突出している領域の長さが短いため、流路中の液体は流入路800と流出路801を短い距離でつなぐことができ、結果的に流路拡張領域802を比較的短い時間で通過できる。一方、図47Bでは、カスタム障害物803は流路拡張領域802の側に大きく突出している。そのため流路拡張領域802内を流れる液体は遠回りする必要があるため、結果的に液体は比較的長い時間かけて通過することになる。従って、それぞれの分析処理に必要な遅延時間に併せてあらかじめカスタム障害物803の位置を調節しておくことにより、遅延時間をカスタマイズできる。なお、カスタム障害物803は一つとは限らず、流路拡張領域802内に並列して複数設けることで、より長い遅延時間を設定することができる。
【0173】
また、図48Aおよび図48Bは、流路の長さを変えて待ち時間をカスタマイズするタイプの遅延流路を示している。図48Aおよび図48Bに示した遅延流路は、流入路810、流出路811、およびこれらのそれぞれに接続する2本の延長路812を基本構成として有する。カスタマイズの際には、2本の延長路812を接続するカスタム流路813を所定の位置に形成し、その形成位置をあらかじめ調節する。カスタム流路813は、たとえば、ダイシングに利用される極薄刃のマイクロ切断砥石などを用いて、2本の延長路812をまたぐように基板の表面を切削することで設けることができる。マイクロ切断砥石による断面は鋭利なため、延長路812の断面とカスタム流路813とが連通する。
【0174】
カスタム流路813は、また、2本の延長路812をまたぐように、高親水性物質、たとえばカルボキシメチルセルロースゲル、アガロースゲルなどのバンドを形成することによっても実現できる。水溶液は高親水性のバンド部分を濡らしながら進行するため、2本の延長路が連通する。高親水性のバンドは、それらの物質のゲルをスタンプすること、またはゾル状態で印刷して乾かすことことなどにより形成できる。
【0175】
図48Aにおいてカスタム流路813は、延長路812を長く残した位置に形成されている。この場合、流路中の液体は点線矢印で示す長い距離を流れる必要があるため、遅延時間が長くなる。これに対して図48Bでは、カスタム流路813は延長路812が短くなる位置に形成されているため、液体が流入路810と流出路811を接続する距離が短くなり遅延時間も短くなる。従って、切断砥石の切削位置を制御してカスタム流路813の形成位置を変えることで遅延時間がカスタマイズできる。なお図48Aおよび図48Bに示した基本構成においては、2本の延長路812が連通していないが、これらが先端で連通してもよく、カスタム流路813の形成を妨げない範囲で任意の形状をとることができる。
【0176】
なお、以上においては、トリガー流路256が図47A、図47B、図48Aまたは図48Bに示した遅延流路を有する場合について説明したが、これらの図に示した構成は、本実施形態および本明細書中の他の実施形態に係るチップにおいて、所定の流路またはトリガー流路に設けることが可能であり、遅延時間を設定し、カスタマイズすることができる。
【0177】
また、本実施形態のチップに設けられる液体スイッチ部の基本構成は、以下の実施形態に係るチップにも適用可能である。
【0178】
(第四の実施形態)
第一から第三の実施形態のいずれかに記載のチップにおいて、試料導入部212と分離部213との間に、分離に先立ち、試料に所定の前処理を施す前処理部を設け、調節部314をさらに前処理部に設けることもできる。図30および図31は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図30および図31には、分析部としてそれぞれ検出部214および測定部233が設けられている。図30のチップ329、図31のチップ330のいずれにおいても、試料導入部212と分離部213との間に前処理部266が形成されている。以下、図30に示した検出部214を有する構成の場合を例に説明する。
【0179】
図32は、チップ329として利用可能なチップの構成の一例を示す図である。図32のチップ331では、導入口217と分離領域218との間に、調節部を有する前処理部266が形成されている。前処理部266では、たとえば、細胞外の成分(たとえばコラーゲンなど)を可溶化する処理や、試料の流れを円滑にするために粘稠な生体試料(たとえば、唾液や鼻汁など)の粘稠性を低下させる処理が行われる。
【0180】
図33は、図32の前処理部266を拡大した図である。前処理部266は、主流路221に連通する流路300、流路300中に設けられた前処理槽269、前処理槽269に連通する流路332および流路333、流路332および流路333にそれぞれ連通する試薬槽301および試薬槽302、流路300の下流側で主流路221から分岐し、流路332に連通するトリガー流路334、トリガー流路334上の分岐部336でトリガー流路334から分岐し、時間遅れ槽としての流路拡張領域263を有し、流路333に連通するトリガー流路335、ならびに流路300が分岐する分岐点よりも上流で主流路221から分岐し、トリガー流路334より下流側で液体スイッチ部257を介して主流路221に合流し、流路拡張領域263を有するトリガー流路256を有する。
【0181】
前処理部266は、さらに、流路300上、分岐部336より上流のトリガー流路334上、分岐部336より下流のトリガー流路334上、およびトリガー流路335上に、調節部314p、314q、314r、314sを有する。なお、前処理槽269、試薬槽301、試薬槽302、トリガー流路256、トリガー流路334、およびトリガー流路335は空気孔225を有する。
【0182】
前処理部266には調節部314p、314qが設けられているため、前処理槽269における前処理を一段階処理とすることもできるし、二段階の処理とすることもできる。また、前処理が不要の場合は前処理を実施しないようにすることもできる。
【0183】
(a)前処理槽269において前処理を行わない場合
前処理部266中の調節部314p、314qを閉止しておく。ここで、調節部314p、314qの構成は、たとえば第一の実施形態で説明した構成とすることができる。調節部314p、314qを閉止することにより、主流路221中の試料は前処理槽269または流路332中に進むことができない。このため、試料は前処理部266をそのまま通過する。
【0184】
試料は、主流路221上の液体スイッチ部257で停止する。また、試料の一部は主流路221からトリガー流路256へと移動し、液体スイッチ部257に至る。トリガー流路256中の試料が液体スイッチ部257に至ると、第三の実施形態で説明したように液体スイッチ部257が開くため、主流路221中の試料は分離領域218に向かって移動する。この場合、流路拡張領域263による時間遅れ最小にするように設定するか、または主流路221、トリガー流路256、液体スイッチ部257と流路拡張領域263と液体スイッチ部257を予め省いておくこともできる。
【0185】
(b)前処理槽269において一段階の前処理を行う場合
この場合、流路300上の調節部314p、314q、314rを開放し、調節部314sを閉止する。
【0186】
流路300上の調節部314pが開放されているため、導入口217に導入された試料は、主流路221から流路300を経由して前処理槽269に流入する。前処理槽269には、導入口217に導入された試料に対し、所定の前処理を行うための液溜めである。図示していないが、前処理槽269には前処理に用いる酵素等の前処理試薬、たとえば、コラゲナーゼや塩化リゾチームなどがあらかじめ導入されていてもよい。また前処理として単にインキュベーション等の操作を行う場合には、前処理試薬が導入されていなくてもよい。
【0187】
試薬槽301には、前処理槽269の体積とほぼ同じ量のバッファーをセットする。試薬槽301の水位は、前処理槽269で処理された試料を主流路方向へ逆流させるために、主流路221の上端の高さ以上とする。
【0188】
前処理槽269と試薬槽301を結ぶ流路に設けられた液体スイッチ部257は、たとえば後述する図53に示す構成とすることで、試薬槽301内のバッファーを保持することができる。
【0189】
前処理槽269に前処理試薬が導入されると、セットされていた試薬と混和し所定の前処理反応が起こる。なお、前処理槽269中の試料の一部は、前処理槽269から流路332および流路333中に移動するが、流路332および流路333上にそれぞれ設けられた液体スイッチ部257によって堰き止められる。
【0190】
また、試料の一部は流路300の下流側で主流路221から分岐するトリガー流路334中に移動し、前処理槽269と試薬槽301を結ぶ流路に設けられた液体スイッチ部257を開通させる。すると試薬槽301内のバッファーが、前処理槽269方向へと逆流し、前処理槽269の内容を主流路221へと供給する。トリガー流路334が液体スイッチ部257を開通させるまでの遅延時間は、前処理に必要な反応時間以上とする。そのためトリガー流路334上に流路拡張領域を追加しても良い。
【0191】
一方、試料の一部は主流路221からトリガー流路256へと移動し、液体スイッチ部257に至る。トリガー流路256中の試料が液体スイッチ部257に至ると液体スイッチ部257が開き、主流路221中の試料は分離領域218に向かって移動する。トリガー流路256、流路拡張領域263、液体スイッチ部257は、試料が前処理槽269で十分処理されるまで主流路221を閉鎖しておくために設けらるものであり、従って流路拡張領域263における遅延時間は、前処理槽269が満たされるのに充分な時間に設定する。
【0192】
(c)前処理槽269において二段階の前処理を行う場合
二段階の処理は、たとえば、まず第一段階として細胞外のコラーゲン等を分解して試料(たとえば、膵臓のランゲルハンス氏島などの組織)に含まれる細胞(たとえば、インシュリン細胞、グルカゴン細胞)を反応槽内に沈殿させ、第二段階として、沈殿した細胞に薬液(たとえば、グルコース)を作用させて、細胞が反応して放出する成分(たとえば、インシュリン)を主流路へと回収するような場合に用いる。
【0193】
この場合、流路300上の調節部314p、調節部314q、調節部314r、および調節部314sを開放する。前処理槽269中には必要に応じて前処理試薬(たとえば、凍結乾燥したコラゲナーゼ)を導入しておく。また、試薬槽301には第二段階に必要な所定の試薬やバッファー等(たとえば、グルコース液)をセットし、試薬槽302には、前処理後の試料を主流路へと押し流すためのバッファーをセットしておく。試薬槽301および試薬槽302の水位は、主流路221の上端の高さよりも高くし、その体積は前処理槽269の体積とほぼ同じかそれ以上とする。
【0194】
導入口217に導入された試料は、前処理槽269を満たし、第一段階の反応(たとえばコラーゲンの溶解による細胞の露出と、細胞の沈殿)が起こる。試料は、その後も主流路221中を進み、一部がトリガー流路334に迂回する。トリガー流路334中を流れる試料が第一段階の反応に十分な遅延時間の後に前処理槽269と試薬槽301との間の液体スイッチ部257を開通させる。すると、試薬槽301中に保持されていた第二段階の反応に必要な試薬(たとえば、グルコース液)が前処理槽269へと移動し、前処理槽269内部の液体を主流路へと押し流し、前処理槽269内の液を置換する。主流路へ押し流された液体は、主流路の下流に設けられた液体スイッチ部257が未開通のため、主流路を逆流する。
【0195】
さらにトリガー流路335を進行する試料が、第二段階の反応(たとえば、インシュリン細胞がグルコース液に反応してインシュリンを分泌する反応)に十分な遅延時間の後に、前処理槽269と試薬槽302を結ぶ流路に設けられた液体スイッチ部257を開通させると、試薬槽302中のバッファーが前処理槽269の内容(たとえば、分泌されたインシュリンを含むグルコース液)を、新たな試料として主流路221へと供給する。
【0196】
一方、試料の一部は主流路221からトリガー流路256へと移動し、液体スイッチ部257に至る。トリガー流路256中の試料が液体スイッチ部257に至ると液体スイッチ部257が開き、前処理後の試料は、分離領域218へと移動する。
【0197】
このように、本発明のチップでは、外部の制御装置等を用いることなくチップ自体の構成によって所定のタイミングで一段階反応、二段階反応を実施することが可能となる。
【0198】
(第五の実施形態)
以上の実施形態に記載のチップにおいて、分離部213と調節部312との間に反応部275を有し、反応部にさらに調節部314が設けられていてもよい。図34および図35は、本実施形態に係るチップの構成を示す機能ブロック図である。図34および図35には、分析部としてそれぞれ検出部214および測定部233が設けられている。図34のチップ337および図35のチップ338では、いずれも分離部213と調節部312との間に反応部275が設けられている。
【0199】
ここでは、図34のチップ337に対応する構成を例に説明する。図36は、チップ337に対応するチップの構成の一例を示す図である。図36のチップ339は、主流路221の分離領域218と分注流路222との間に反応部275が形成されている。また、図37は、図36の反応部275の構成を説明するための図である。図37に示した反応部275は、図33に示した前処理部266と基本構成は同様である。前処理槽269に代えて反応槽340を有する点が異なるのみである。
【0200】
図37において、反応槽340は、分離領域218で分離された試料に対して、所定の反応を行うための液溜めである。反応部275においても、第四の実施形態で説明した前処理部266と同様に、調節部314p、314q、314r、314sを有するため、これらの開閉を設定することにより、前処理部と全く同様に反応部275における反応を行わないようにすることもできるし、反応部275において一段階から二段階の反応を行うこともできる。一段階の反応としては、たとえば、細胞の可溶化、試薬との混合を挙げることができ、二段階の反応としては、第四の実施の形態で述べたインシュリンなど細胞分泌物の回収などを挙げることができる。その処理ステップも、前処理部266と同様である。
【0201】
たとえば、一段階の反応を実現する場合、反応部275上の調節部314p、調節部314q、および調節部314rを開放し、調節部314sを閉止しておく。そして、反応槽340には、脂質膜である細胞膜を可溶化する界面活性剤と、その脂質を分解する凍結乾燥したリパーゼをセットし、試薬槽301には、バッファーをセットしておけば良い。
【0202】
また、反応部275の下流側に、さらに分離領域218を設けてもよい。こうすることにより、反応後の試料は、反応槽340の下流に形成された分離領域218においてさらに分離される。よって、たとえば上述した可溶化反応後の試料の場合、以上の一連の反応によっても可溶化されなかった不溶成分を、反応槽340の下流に設けられた分離領域218において除去することができる。
【0203】
また、以上においては反応部275に試薬槽301と試薬槽302の2つの試薬槽が連通する構成としたが、反応部275は3つ以上の試薬槽を有していてもよい。また、ここでは反応部275を1つ有するチップを例示したが、チップ上に反応部275を複数設けることもできる。
【0204】
(第六の実施形態)
以上の実施形態に記載のチップにおいて、分析部(検出部214または測定部233)は液溜めと連通し、これらの経路上に調節部312が設けられていてもよい。このチップでは、一段階〜多段階の検出反応または測定のための反応を選択して実施可能な構成となる。分析部の構成は、第八の実施形態においても説明するように、典型的な反応に汎用化した構成とすることができる。また、汎用化した分析部を基板上に所定の数設けることにより、汎用型のチップとして好適に用いることができる。
【0205】
以下、検出部214にて所定の段階数の検出反応がなされる場合を例に説明する。また、以下においては、検出部214に設けられる一つの検出槽223について図面を参照して説明するが、図38を参照して後述するように、検出部214として複数の検出槽223および周辺部材をチップに形成しておくことができる。
【0206】
図49は、検出部214の構成を説明する図である。図49に示した検出部214は、図33に示した前処理部266と基本構成は同様である。前処理槽269に代えて検出槽223を有する点が異なる。
【0207】
図49において、検出槽223は、導入口217に導入された試料に対し、所定の検出反応を行うための液溜めである。検出部214においても、第四の実施形態で説明した前処理部266と同様に、調節部314を有するため、これらの調節部314の開閉を調節することにより、検出部214における反応を行わないようにすることもできるし、検出部214において一段階〜二段階の反応を行うこともできる。
【0208】
分離領域218で分離された試料は、必要に応じて検出槽223に流入し、所定の反応に供される。検出槽223の下流には液体スイッチ部257が設けられているため、当初は検出槽223を通過した液体が液体スイッチ部257よりも下流側に流入することはない。トリガー流路256は、検出槽223における検出反応に要する時間に合わせてその構成を設計することができる。たとえば、検出反応に要する時間が長時間であれば、流路拡張領域263を大きくすることができる。また、トリガー流路256が前述した遅延流路を有し、遅延流路の遅延時間をカスタマイズ可能な構成とすることもできる。
【0209】
なお、図49においては、一つの検出槽223に対して試薬槽301と試薬槽302の2つの試薬槽が設けられた構成としたが、一つの検出槽223に対して一つの試薬槽301を有する構成とすることもできる。また、一つの検出槽223に対して3つ以上の試薬槽を有していてもよい。
【0210】
図58は、図49において、試薬槽301を一つとした場合の構成を示す図である。図58において、検出槽223において検出反応が行われる際には調節部314p、314qを開通させ、検出槽223を検出反応に使用しない場合には調節部314p、314qを閉止する。
【0211】
また、図58においては、流路300の調節部314pと検出槽223との間に閉鎖スイッチ640が設けられている。図52は、検出部に設けられる閉鎖スイッチ640の構成を示す平面図である。閉鎖スイッチ640は、反応している液体を、液溜め群から主流路221側へと逆流させないために設ける。閉鎖スイッチ640は、流路中に設けられた拡張部641と、その中に配設された膨張体642とからなる。流路607および拡張部641内を液体が通過すると、流路中の液体と作用して膨張体642が徐々に膨張し、最終的には拡張部641を完全に塞ぐことにより、時間差をもって流路607を閉鎖することができる。
【0212】
膨張体642は、たとえば、乾燥して収縮した状態にあるポリアクリルアミド、吸水性ポリマー等から成るビーズとすることができる。膨張体642は、その直径を流路607の幅よりも大きくする方法、または拡張部641の一部に接着する方法等により拡張部641内に固定される。
【0213】
図58に戻り、一つの検出槽223に対して一つの試薬槽301を設ける構成とすることにより、装置構成を簡素化することができる。この構成は、たとえば一段階の検出反応用のチップに適用することができる。なお、図58においては、流路300とトリガー流路334に一つずつ計二つの調節部314p、314qが設けられた構成を示したが、調節部は、最低限、調節部314pが設けられていればよい。トリガー流路334にも調節部314qを設けることにより、液体試料の浪費をより一層確実に抑制することができる。
【0214】
また、たとえば、検出部214に液溜めが5つある構成とすることもできる。これらの液溜めは、検出反応の種類に応じて、検出槽、廃液溜め、試薬槽、バッファー槽等として用いられる。図50は、検出部214の別の構成例である検出部635を示す平面図である。図50において、検出部635は、5つの液溜め630、液溜め631、液溜め632、液溜め633、および液溜め634からなる液溜め群、液溜め群と主流路221を結ぶ流路607、流路607上に設けられた液体スイッチ部623、液体スイッチ部624、液体スイッチ部625、および液体スイッチ部626からなる液体スイッチ部群、液体スイッチ部と主流路221を結ぶトリガー流路620、トリガー流路621、およびトリガー流路622からなるトリガー流路群、これらのトリガー流路上に設けられた遅延流路610、遅延流路611、ならびに流路607およびトリガー流路の開閉をカスタマイズするための調節部600、調節部601、および調節部602とを備える。
【0215】
また、不可欠ではないが、試料が液溜め630を充分満たすまで主流路221を閉鎖する目的で、トリガー流路256、流路拡張領域263、液体スイッチ部257を設けてもよい。
【0216】
5つの液溜め630、液溜め631、液溜め632、液溜め633、および液溜め634、液溜め635には、それぞれ空気孔225が設けられている。また、これらの液溜めのうち、液溜め630は主に検出槽として用いられる。液溜め631および液溜め632は主として廃液溜めの役割を担う。また、液溜め633および液溜め634は、主として試薬液を液溜め630へ供給するために用いられる。
【0217】
主流路221には、上流側から順に、トリガー流路256の分岐部、流路607の分岐部、トリガー流路620の分岐部、およびトリガー流路256の合流部(すなわち、液体スイッチ部257)がこの順に設けられている。
【0218】
主流路221から分岐した流路607には、調節部600、閉鎖スイッチ640、流路607の第一の分岐部、液溜め630、液体スイッチ部623、液溜め631、液体スイッチ部624、および液溜め632が上流から下流に向かってこの順に接続されている。また流路607の第一の分岐部の下流には、流路607の第二の分岐部が設けられ、第二の分岐部で分岐した流路607の一方に、液体スイッチ部625および液溜め633がこの順に接続されている。また、第二の分岐部で分岐した流路607の他方には、液体スイッチ部626および液溜め634がこの順に接続されている。
【0219】
トリガー流路620には、上流側から順に、調節部601、遅延流路610が設けられ、遅延流路610の下流でトリガー流路621とトリガー流路622とに分岐している。トリガー流路621には、上流側から順に、液体スイッチ部623、および液体スイッチ部625が接続されており、先端が空気孔225に連通している。また、トリガー流路622には、上流側から順に、調節部602、遅延流路611、液体スイッチ部624、および液体スイッチ部626が接続されており、先端が空気孔225に連通している。
【0220】
図51A〜図51Cは、図50に記載の検出部635を有するチップの構成を示す断面図である。図51A〜図51Cは、図50のX−X’断面を示す。図51A〜図51Cに示したチップは、基板701とフタ700とからなり、基板701には空気孔225を除くすべての流路系が主流路221とほぼ同じ深さに形成されている。フタ700には各反応槽に連通する空気孔225が開けられている。フタ700は、基板701上の液溜め630〜液溜め634に検出反応に必要な試薬類を配置し、調節部600、調節部601、調節部602、遅延流路610、遅延流路611、および遅延流路612等をカスタマイズした後に、基板701に接合される。
【0221】
図51Aでは、主流路221と液溜め630〜液溜め634は、ほぼ同じ深さに加工されている。液体は流路の親水性に基づく毛細管効果により駆動されるため、ほぼ同じ深さでも駆動力を得ることができる。
【0222】
また、毛細管効果だけでなく水位差も利用して液体をより迅速に駆動することもできる。図51Bは、水位差も利用するチップの断面図である。基板701上の流路系は、水位差を利用するために、4種類の深さ、最も浅いレベル0から最も深いレベル3までに形成されている。主流路221とトリガー流路群、遅延流路群はレベル0に、液溜め630はレベル1に、そして主として廃液溜めの役割を担う液溜め631および液溜め632はそれぞれレベル2およびレベル3に形成されている。この深さの違いにより、毛細管効果で連通した液溜め間に水位差を生じ、主流路221から液溜め632の方向へと駆動力を生じる。また図示されていないが、主として試薬液を液溜め630へ供給するために用いる液溜め633および液溜め634は、レベル0に形成される。
【0223】
図51Bでは、深さに応じて液だめの体積が異なっている。この体積を一定として測定に必要な試薬や試料の量を減らすこともできる。図51Cは、図51Bにおいて、液溜め630、液溜め631、液溜め632の体積を一定にしたチップの構成を示す断面図である。図51Cに示したチップの基板は、4枚の積層用基板702と基板701とを張り合わせてつくられており、それぞれの積層用基板702を貫通する貫通孔が積層されることで、液溜め群、流路607、トリガー流路群、および空気孔225の一部が形成される。なお、図51Cには示していないが、トリガー流路群は、空気孔225と同様に、レベル0で液体スイッチ部を形成した後、垂直に降りて液溜めと連通している。チップの上端には図51Bと同様に空気孔225の開いたフタ700が接合される。
【0224】
これらのチップの材料は、先述したとおり透明度の高い材料、たとえばPET、PMMAなどの樹脂、あるいはガラス、石英などとすることができる。毛細管効果による輸送を利用するために、送液流路系の内部は親水性であることが望ましい。PMMAのように疎水性が高い材料の場合、流路系の内面をMPCやアクリルアミドゲルなどの表面処理剤を用いてコーティングすることにより親水化し、高親水性にすることができる。また、液体スイッチ部など疎水性の表面を有する部材は、すでに親水性とした流路表面の一部を疎水性処理することにより形成しても良い。
【0225】
また、図53は、図50に示した検出部635の液体スイッチ部623〜液体スイッチ部626の基本構造を示す平面図である。図53に示したように、液体スイッチ部623〜液体スイッチ部626は、流路607と、トリガー流路651と、堰き止め部650と、トリガー流路651の先端に設けられた空気孔652からなる。空気孔652は、図50における空気孔225に対応する。トリガー流路651は、トリガー流路621またはトリガー流路622に対応する。
【0226】
図53に示した液体スイッチ部と以上の実施形態において前述した液体スイッチ部との相違点は、堰き止め部650がトリガー流路651の両側に設けられている点である。堰き止め部650がトリガー流路651を挟んで2カ所設けられているため、流路607内に液体が存在しない場合でも、トリガー流路651内の液体が流路607へと流入しないという効果が得られる。流路607のいずれかの側に液体が存在した状態で、反対側から液体が進行してきても、堰き止め部650が設けられているため両液体が連通することはないが、トリガー流路651が満たされると連通することは、前述した液体スイッチ部の場合と同様である。
【0227】
図50〜図53で説明したチップを用いることにより、検出部214における一段階または多段階の検出反応を選択して行うことができる。検出部214に代えて測定部233が設けられたチップにおいても、検出槽223に代わり分取部235に以上の構成を適用することにより、測定に先立ち分取した試料について一段階または多段階の反応を選択して行うことができる。図50〜図53に示したチップを用いた臨床生化学検査については、第八の実施形態にて後述する。
【0228】
以上においては、検出部214の構成を説明するため、一つの検出槽223における検出反応について説明した。次に、検出部214に複数の検出槽223を設ける方法について説明する。ここでは、検出部214を有するチップが3つの検出槽223を含む場合を例に説明する。なお、検出槽223の数は、2または4以上とすることもできる。
【0229】
図38は、本実施形態に係る検出部214の構成を示す図である。この検出部214は、主流路221の下流側から順に連通する分注流路222a、分注流路222b、および分注流路222cの3つの分注流路を有し、これらの分注流路にはそれぞれ検出槽223として検出槽223a、検出槽223b、および検出槽223cが連通している。分注流路222a〜分注流路222cにはそれぞれ調節部314a〜調節部314cが設けられている。
【0230】
検出槽223aには、流路332aを介して試薬槽301aが、また流路333aを介して試薬槽302aがそれぞれ連通している。同様に、検出槽223bには、流路332bを介して試薬槽301bが、また流路333bを介して試薬槽302bがそれぞれ連通している。さらに、検出槽223cには、流路332cを介して試薬槽301cが、また流路333cを介して試薬槽302cがそれぞれ連通している。
【0231】
主流路221からは、分注流路222aよりも下流側でトリガー流路334が分岐する。トリガー流路334には調節部314dが設けられ、調節部314の下流において、液体スイッチ部257を介して流路332aと接続するトリガー流路334a、他の液体スイッチ部257を介して流路333aと接続するトリガー流路335aがそれぞれ分岐する。また、トリガー流路334はその下流において、液体スイッチ部257を介して流路332cと接続する。トリガー流路334aからは、トリガー流路335aが分岐する。トリガー流路334aには、トリガー流路335aとの分岐点よりも下流側に調節部314eが設けられている。また、トリガー流路335aには、流路拡張領域263および調節部314fが設けられている。
【0232】
トリガー流路334からは、トリガー流路334aとの分岐点よりも下流側でトリガー流路334bが分岐している。トリガー流路334bからは、さらにトリガー流路335bが分岐している。トリガー流路334bには、トリガー流路335bとの分岐点よりも上流側に調節部314gが、当該分岐点よりも下流側に調節部314hがそれぞれ設けられている。また、トリガー流路335bには、流路拡張領域263および調節部314iが設けられている。トリガー流路334bは液体スイッチ部257を介して流路332bと接続し、トリガー流路335bは他の液体スイッチ部257を介して流路333bと接続する。
【0233】
トリガー流路334からは、トリガー流路334bの分岐点よりもさらに下流側でトリガー流路335cが分岐する。トリガー流路334には、トリガー流路334bとの分岐点よりも下流側かつトリガー流路335cとの分岐点よりも上流側に調節部314jが設けられ、トリガー流路335cとの分岐点よりも下流側に調節部314kが設けられている。トリガー流路335cには、流路拡張領域263および調節部314lが設けられている。トリガー流路334は液体スイッチ部257を介して流路332cと接続し、トリガー流路335cは他の液体スイッチ部257を介して流路333cと接続する。
【0234】
検出部214の構成を図38に示した構成とすると、調節部314a〜調節部314lの開閉を設定することにより、用いる検出槽の数を適宜選択することができる。また、各検出槽で行われる検出反応を、一段階反応〜二段階反応まで適宜選択することができる。
【0235】
表1は、検出槽223a〜検出槽223cのそれぞれを使用する場合に開放または閉止する調節部を示した表である。検出槽223a〜検出槽223cのそれぞれについて、連通する試薬槽301a〜試薬槽301cおよび試薬槽302a〜試薬槽302cの使用状況に応じて、調節部314a〜調節部314lの開閉状況を示している。表1において、検出槽223a〜検出槽223c、試薬槽301a〜試薬槽301c、および試薬槽302a〜試薬槽302cについては、表中「○」は使用する場合を示し、「×」は使用しない場合を示す。また、調節部314a〜調節部314lについては、表中「○」は開放する必要がある場合を示し、「×」は閉止する必要がある場合を示す。表中で空欄となっている調節部の開閉状況は、他の検出槽および液溜めの使用状況に応じて変動する。
【0236】
【表1】

【0237】
検出部214における多段階反応として、たとえば血漿中のインシュリンの検出が可能である。ここでは、検出槽223aのみを使用する場合を例に説明する。検出槽223aのみを使用する場合には、調節部314a、調節部314d、調節部314e、および調節部314fを開放する。また、調節部314b、調節部314c、調節部314g〜調節部314lを閉止する。
【0238】
検出槽223aの表面には、あらかじめ一次抗体として抗インシュリン抗体を固定化しておく。試薬槽301aには、二次抗体として、発色反応用の酵素を固定化した抗インシュリン抗体(以下「酵素結合抗体」と呼ぶ。)を含む液体を導入しておく。試薬槽302aには、発色反応用酵素の作用により発色する発色試薬を含む液体を導入しておく。
【0239】
この状態で主流路221を試料が流れると、試料は検出槽223aに導かれる。また試料の一部は検出槽223aの下流側でトリガー流路334へと移動する。トリガー流路334に侵入した試料がトリガー流路334a上の液体スイッチ部257を開放するまでの時間に、試料中のインシュリンは検出槽223aの表面に固定化された抗インシュリン抗体と特異的に相互作用する。
【0240】
トリガー流路334中の試料の一部はトリガー流路334aに侵入し、所定のタイミングでトリガー流路334a上の液体スイッチ部257に試料が達すると、この液体スイッチ部257が開放し、試薬槽301中の酵素結合抗体が検出槽223a中に移動する。ここで、試薬槽301の液面は、検出槽223aの液面よりも高くしておくことが好ましい。こうすれば、トリガー流路334a上の液体スイッチ部257が開いた際に、試薬槽301中の試薬が好適に検出槽223a側に押し出される。
【0241】
トリガー流路334中を移動する試料の一部は、トリガー流路334aからさらにトリガー流路335aに侵入し、流路拡張領域263によって時間遅れを経た後、トリガー流路335a上の液体スイッチ部257に到達する。すると、この液体スイッチ部257が開放され、試薬槽302a中の発色試薬が流路333aを経由して検出槽223aに導入される。なお、試薬槽302aの液面も、検出槽223aの液面よりも高くしておくことが好ましい。
【0242】
検出槽223a中の酵素結合抗体のうち、一次抗体に結合しなかった余剰のものは、検出槽223aに導入された発色試薬により分注流路222側に押し出される。一方、検出槽223aにおける発色反応が生じるまでにはこの押し出しよりも長時間を要する。このため、二次抗体導入後に洗浄用バッファーを流すことなく発色試薬を用いて洗浄を行うことができる。よって、検出槽223aに連通する試薬槽の個数を減少させることができる。
【0243】
なお、本実施形態においても、検出槽223a〜検出槽223c、試薬槽301a〜試薬槽301c、および試薬槽302a〜試薬槽302cの各水位を第四の実施形態における前処理部266の場合と同様に設定することにより、検出部214における液体の移動に毛細管現象を好適に利用することができる。このため、検出部214において液体を移動させるための外部の駆動装置を設ける必要がなく、簡素な構成とすることができる。
【0244】
この構成によれば、検出部214に複数の液溜めが連通し、それぞれの連通流路上に調節部314を設けてその開閉を調節することにより、検出部214における以上の一連の操作によって、試料中のインシュリンを発色反応により検出することができる。
【0245】
(第七の実施形態)
以上の実施形態に記載のチップは、生化学的検査に適用することができる。以下、血液を試料として肝機能について調べる生化学検査用チップの場合を例に説明する。
【0246】
この場合、チップの基本構成はたとえば第三の実施形態に記載のチップとすることができる。そして、検出部214として、たとえば表2の検査項目に対応する検出槽223を形成しておくことができる。表2中の項目は、各検出槽223にあらかじめ検出試薬を導入しておくことにより、いずれも一段階反応による測定が可能である。検出槽223が試薬槽に連通する場合、あらかじめこれらを接続する流路上に設けられた調節部314を閉止しておく。
【0247】
チップを使用する際には、表2に示した項目の中から必要に応じて検査項目を選択する。たとえば、肝機能について検査する場合、表中の「肝機能セット」の欄に「○」が付された項目を選択し、腎機能について検査する場合、表中の「腎機能セット」の欄に「○」が付された項目を選択する。また、必要に応じて適宜他の項目も選択することができる。測定する項目の検出槽223に連通する分注流路222上の調節部314は開放し、測定が不要の項目の検出槽223に連通する分注流路222上の調節部314は閉止すれば、検査項目に応じてチップを容易にカスタマイズすることができる。
【0248】
【表2】

【0249】
(第八の実施形態)
本実施形態では、第六の実施形態に記載の分析部(図50〜図53)を用いて臨床生化学検査を実現するステップを説明する。なお、図50〜図53に示したチップは、分析部として検出部635を有する構成であるが、分析部を測定部233としたチップについても以下の構成を適用できる。
【0250】
図50〜図53に示す分析部は、調節部を有しており、それらの調節部を設定することで、多種の検出反応に対応できる汎用型の分析部である。
【0251】
臨床生化学検査は、反応のステップ数に応じて1段階反応、2段階反応、3段階反応と区別することができる。臨床生化学検査で多用される典型的な検査方法のうち、比色法、酵素法、UV法、ラテックス凝集法(LA法)、ラテックス凝集免疫比濁法(LATIA法)、免疫比濁法(TIA法)、および選択阻害法は、基本的には1段階反応であり、前処理を含めても2段階反応で実現できる。放射線免疫測定法(RIA法)、化学発光免疫測定法(CLIA法)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、酵素抗体法(ELISA法)は基本的には3段階の反応で実現できる。
【0252】
以下では図50〜図53の分析部を用いて1段階反応から3段階反応までを実現するステップを説明するが、より多段階の反応についても、検出部635に設ける液溜めの数と液体スイッチ部の数を増すことにより、1〜3段階の反応と同様に実現できる。
【0253】
まず1段階反応を実現する方法について説明する。1段階反応は、試薬と試料を直接混合することで検出・測定が可能になる反応である。1段階反応は、図50において調節部601を閉鎖した検出部635で実現できる(このタイプの検出部をクラス1の検出部と呼ぶ)。1段階反応においては、液溜め630を検出槽として用いる。液溜630には、被検出物質の種類と測定方法に応じて必要な試薬を予めセットしておく。それらの試薬を使用直前にセットした後、フタ700を接合してもよい。
【0254】
試薬は、たとえば比色法の場合、被検出物質と反応して呈色する呈色試薬やアルブミンの定量に使われる色素等であり、酵素法の場合、被検出物質を消費して色素を生じる酵素等であり、UV法の場合、被検物質である酵素が消費する基質および補酵素(NAD/NADHもしくはNADP/NADPH)等であり、ラテックス凝集法、ラテックス凝集免疫比濁法の場合、その表面に被検物質に対する抗体を結合したラテックスビーズの懸濁液であり、免疫比濁法の場合、被検物質に対する抗体溶液である。それらの試薬は、試料と適切な容積比になるようにセットされる。それらの試薬は、成書(たとえば、「臨床検査法提要」改訂第31版、金井泉著、金井正光編、金原出版株式会社など)に従い適宜選択する。
【0255】
主流路221を試料が進行して液溜め630への分岐部である流路607の分岐部に達すると、開放状態にある調節部600を通過して液溜め630を満たすが、液溜め630と液溜め631を接続する流路607は、液体スイッチ部623により閉鎖されているため、試料は630を満たした段階で停止する。閉鎖スイッチ640中の膨張体642は、その膨張速度が液溜め630が充分満たされた後に流路を閉鎖する程度であるような材料とすることにより、反応中の液体が主流路221へと逆流することを防止する。液溜め630にセットされていた試薬と試料が混ざると検出反応が進む。液溜め630のサイズが小さい程、拡散現象が相対的に促進されるため比較的早期に混ざる。一方、試料は主流路221中をさらに進むが調節部601が閉鎖されているため、トリガー流路620に流入できず液体スイッチ部623は閉鎖されたまま保たれる。
【0256】
比色法および酵素法による測定の場合、試料と検出試薬の混和物を一定時間反応させ、その後、液溜め630を光学セルとして用いて吸光度を測定する。たとえばフタ700方向から光を照射し、基板701の側に受光装置を置いて吸光度を測定する。UV法においても、紫外線(UV)を吸収する補酵素(NAD/NADHもしくはNADP/NADPH)の消費状態を一定の時間間隔で測定し、その消費速度をもとに被検物質である酵素の活性を測定する。UV法の場合、基板701とフタ700の材料にはUVをよく透過する石英ガラスを選ぶのがよい。
【0257】
ラテックス凝集法(LA)の場合、試料と混和されたラテックスビーズが反応槽の底に沈殿するまで待った後、液溜め630の吸光度を計測する。ラテックス凝集法の場合、液溜め630の底面は円錐状、または椀状に成形するとよい。試料中に被検物質が存在しないとビーズは底面に吸着せず沈殿する結果、円錐状または椀状の底面の頂点部分に集中して沈殿するため光の透過度が高くなる。試料中に被検物質が存在するとビーズが大きな凝集体を形成して底面に吸着するためビーズが底面いっぱいに広がった状態となって光の透過度が低下する。そのため液溜め630の透過度を測定することで被検物質の有無を判定できる。
【0258】
ラテックス凝集免疫比濁法(LATIA法)では、沈殿を待たず、一定時間間隔で濁度を測定し、凝集体ができて濁度が低下してゆく速度を測定することにより被検物質を定量する。免疫比濁法(TIA法)では、逆に試料中の被検物質と抗体でできる抗原抗体凝集物による濁度の変化を測定する。
【0259】
次に2段階反応を実現するステップについて説明する。2段階反応は、主として1段階反応で用いる試料の前処理工程に利用する。2段階反応の場合、図50において調節部600および調節部601を開放し、調節部602を閉鎖したタイプの検出部635を用いる(以後、このタイプの検出部をクラス2の検出部と呼ぶ)。クラス2の検出部635では、液溜め630の代わりに液溜め631を測定用として用いる。液溜め631には、1段階反応で用いた試薬をセットしておき、液溜め630には試料の前処理に必要な試薬、たとえば、再凝固を阻害する前処理の場合、ヘパリン、EDTA、またはクエン酸の少なくとも一つを乾燥した状態でセットしておく。液溜め633には、何も入れないでおく。
【0260】
試料が調節部600を介して液溜め630を満たすまでの手順は、クラス1の反応部と同様とすることができる。クラス2の検出部の場合、調節部601が開放されているため、試料は遅延流路610を通ってトリガー流路620、621を進行し、液体スイッチ部623を開通させる。ここで遅延流路610の遅延時間は、液溜め630において試料と試薬とがよく混和するのに充分な時間とする。液体スイッチ部623が開通して液溜め630と液溜め631が連通すると、液溜め630内の前処理の終わった試料は、毛細管効果により、または水位差の助けを借りて、液溜め631へと流入し、そこにセットされていた試薬と混ざる。調節部602が閉鎖されているため液体スイッチ部624が開通することはなく、液溜め631を満たした液体はそこに留まる。反応結果は、液溜め631を用いて計測される。
【0261】
次に3段階反応を実現するステップについて説明する。3段階反応の場合、図50において調節部600、調節部601、調節部602をすべて開放したタイプの検出部635を用いる(以後、このタイプの検出部635をクラス3の検出部と呼ぶ)。
【0262】
クラス3の反応部を用いて放射免疫測定法(RIA法)を実現する場合、液溜め630の内面には予め被検物質に対する抗体を結合させておき、液溜め633には、放射性同位体でマークされた放射性標準試料液を、そして液溜め634には、放射能を発光に変換する乳化液体シンチレータ液をセットしておく。液溜め630の表面への抗体の結合方法は、清浄な材料表面に自然吸着する物理現象を利用しても良いし、アミノ基やカルボキシル基を有するカップリング剤を利用して化学的に結合しても良い。
【0263】
試料が主流路221から分岐して液溜め630を満たすまでは、1段階反応の場合と同様の手順とすることができる。試料に含まれる被検物質は、液溜め630の内面の抗体と結合する。ただしクラス1の反応部と異なり調節部601および調節部602が開放されているため、試料は遅延流路610を通過してトリガー流路620、621を進行し、液体スイッチ部623、625を順次開通させる。これによって液溜め630と液溜め631とが連通し、試料の一部は廃液溜めとして使われる液溜め631へと流出する。遅延流路610の遅延時間は、試料と抗体との結合に充分な時間とする。液体スイッチ部625が開通すると液溜め633にセットされていた放射性標準試料液が流路607を介して液溜め630に向かって流れだし、液溜め630内部に残っていた試料を液溜め631方向に洗い流した後、液溜め630を満たす。この一連の流れは、液溜め631が満たされた段階で停止する。この段階における液溜め630の内部では、放射性標準試料液と、抗体に結合した被検物質の間で抗体への結合をめぐって競合反応が起こっている。試料中に被検物質が多い程、抗体に結合する放射性標準試料の量が少なくなる。
【0264】
試料が遅延流路612を通過して、さらに液体スイッチ部624、626を順次開通させると、液溜め631内の液体は、液溜め632へと流れ出し、ついで液溜め634にセットされていた乳化液体シンチレータ液が、流路607を介して流れ、液溜め630の内容を液溜め631、632方向へと洗い流す。遅延流路611の遅延時間は、放射性標準試料と試料中の被検物質と抗体との結合反応が平衡に達するのに充分な時間とする。
【0265】
一連の流れは液溜め632が満たされた段階で停止し、この段階で液溜め630は、乳化液体シンチレータ液で満たされている。液溜め630には、試料中の被検物質が少ない程、多くの放射性標準試料が抗体を介して結合している。液溜め630を満たした乳化液体シンチレータ液は、放射性標準試料からでる放射線暗で発光するので、この発光を室条件下、フォトンカウンターで計数すると、試料に含まれていた被検物質の量がわかる。
【0266】
化学発光免疫測定法(CLIA法)をクラス3の検出部635を用いて実現する場合も、液溜め630の内面に、被検物質に対する抗体を結合させておく。液溜め633には、被検出物質に対する抗体に化学発光物質(アクリジニウムエステル等)を結合した発光抗体の溶液がセットされ、液溜め634には洗浄用のバッファーがセットされる。
【0267】
試料は、1段階反応と同様のステップで液溜め630を満たし、液体スイッチ部623および液体スイッチ部625が順次開通するまで、液溜め630内の抗体と反応する。遅延流路610の遅延時間は、試料中の被検物質が抗体に結合するのに充分な時間とする。液溜め633にセットされていた発光抗体液は、液体スイッチ部625が開通すると流路607を介して液溜め630を液溜め631方向へと洗い流し、液溜め631が満たされる段階で、液溜め630を満たして停止する。
【0268】
試料が遅延流路612を通過して、さらに液体スイッチ部624、液体スイッチ部626を順次開通させると、液溜め631内の液体は、液溜め632へと流れ出し、ついで液溜め634にセットされていた洗浄用バッファーが、流路607を介して流れ、液溜め630の内容を液溜め631、液溜め632方向へと洗い流す。遅延流路611の遅延時間は、液溜め630の内面に結合した被検物質と発光抗体が結合するのに十分な時間とする。一連の流れは液溜め632が満たされた段階で停止し、この段階で液溜め630は、洗浄用バッファーで満たされている。液溜め630には、試料中の被検物質が多いほど、多くの発光抗体が結合しているので、この発光強度を測定することにより試料に含まれていた被検物質の量がわかる。
【0269】
化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)もクラス3の検出部635を用いて、化学発光免疫測定法(CLIA法)と同様のステップで実現できる。クラス3の反応部において、化学発光物質を結合した被検物質に対する抗体に代えて、発光基質と反応して発光を生じさせる酵素を結合した被検物質に対する抗体を液溜め633にセットしておき、さらに液溜め634に洗浄用バッファーに代えて発光基質溶液をセットすることで、CLIA法の場合と全く同様のステップで測定可能である。
【0270】
酵素抗体法(EIA法)をクラス3の検出部635を用いて実現するには、前述したの化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)の実現ステップにおいて、発光基質と反応して発光を生じさせる酵素を結合した被検物質に対する抗体に代えて、呈色試薬と反応して呈色させるペルオキシダーゼなどの酵素を結合させた被検物質に対する抗体の溶液をセットし、さらに発光基質溶液に代えて呈色試薬溶液を液溜め634にセットすることで、CLEIA法と全く同様のステップで実現できる。
【0271】
以上の3段階反応の例では、洗浄ステップが1回の場合を示した。この洗浄が完全であるほど測定精度が向上するため、さらに多くの液溜め、遅延流路、トリガー流路、液体スイッチ部の組を設けて、多段階の洗浄ステップを実現することも可能である。
【0272】
図54〜図57は、再診の際に測定される主な検査項目のセットと、測定の方法、それを実現可能な反応部のクラスをまとめて示す図である。図54〜図57より、通常用いられるほとんどの再診検査項目が、クラス1またはクラス3の反応部を有するチップで測定可能であることがわかる。また、図54〜図57に示した各再診疾患群についてあらかじめ規格化された汎用型分析チップを作製することができる。
【0273】
たとえば、図54より、糖尿用病の汎用型チップとして、クラス1の反応部を1個以上設け、クラス3の反応部を1つ以上設けたチップを作製することができる。このチップを用いれば、糖尿病に検査をその場で簡便かつ確実に行うことができる。このとき、反応部の少なくとも一つに、糖尿病用の検査試薬を保持させる。クラス1の反応部に試薬を保持させるときの試薬は、たとえばヘモグロビンA1c、1、5−アンヒドロ−D−グルシトール、またはグリコアルブミンの測定に必要な試薬とする。また、クラス3の反応部に保持させるときの試薬は、たとえば抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体の測定に必要な試薬とする。チップに試薬が保持されていない反応部があってもよい。
【0274】
また、この汎用型チップを用いて糖尿病の検査を行う際に、患者個人の病状や経緯に応じて、上記項目の中なら必要な項目のみを選択して分析を行うこともできる。このため、本実施形態の方法によれば、汎用化された反応部をチップを用いて、後工程により各個人用にカスタマイズすることができる。
【0275】
また、図54〜図57に示したように、たとえば肥満、高脂血症、肝機能障害、ネフローゼ、高血圧、副腎、痛風、甲状腺機能障害、貧血(小球性、大球性)等の測定に適した汎用型チップを得ることができる。これらの場合についても、糖尿病の場合について前述した手法を用いて、図54〜図57に記載の測定項目に必要な試薬をその項目に対応するクラスの反応部に設けることができる。
【0276】
また、こうした汎用型チップは、試料に対する測定に用いられる分析部と同じ数の分析部の組み合わせを有し、標準液を用いて、試料と同じ測定が実施できるように構成されていてもよい。こうすれば、汎用型チップを用いてさらに正確な測定を行うことができる。
【0277】
(第九の実施形態)
以上の実施形態に係るチップは、以下の製造装置を用いて製造することができる。図39は、本実施形態のチップ製造装置の一例を示す概念図である。図39のチップ製造装置342は、検査機関の要請に応じてカスタマイズされたチップを製造することができる装置である。以下、分析部として検出部214を有するチップを製造する場合を例に説明するが、本実施形態に係る製造装置は、分析部として測定部233を有するチップの製造にも適用することもできる。
【0278】
チップ製造装置342は、受付部343、選択部346、基板搬入部349、基板貯蔵部350、基板保持部351、配置前処理部352、試薬搬入部353、試薬貯蔵部354、試薬配置部355、配置後処理部356、およびチップ搬出部359を含む。
【0279】
基板貯蔵部350には、基板搬入部349から基板216が搬入され、貯蔵される。また、試薬貯蔵部354には、試薬搬入部353から、検出槽223における検出反応または測定部233における測定に係る反応に必要な試薬やバッファー等が搬入され、貯蔵される。試薬は、担体となるビーズに担持されて試薬ビーズの形態で貯蔵されてもよい。
【0280】
受付部343は、チップを使用する検査機関等からの入力を受け付ける。受付部343は、測定項目受付部344および機関ID受付部345を有する。測定項目受付部344は、チップを用いて測定する測定項目に関する情報の入力を受け付ける。機関ID受付部345は、チップの製造の依頼元である検査機関や医師のIDを受け付ける。
【0281】
選択部346は、受付部343に入力された情報に基づき、基板216および検出試薬を選択する。基板選択部347は、チップの製造に用いる基板216を選択し、選択した基板216を基板貯蔵部350から基板保持部351にロードする。また、試薬選択部348は、検出槽223、試薬槽301、試薬槽302、またはその他の液溜めに充填する検出試薬やバッファー等の試薬を選択し、選択した試薬を試薬貯蔵部354から試薬配置部355にロードする。
【0282】
配置前処理部352は、受付部343に入力された情報に基づいて選択部346で選択された基板216の表面に、選択された検出試薬が効率よく吸着するように、基板216の表面を活性化する。また、試薬を充填する領域以外の領域に試薬が飛散しないように、これらの周囲にカバーを設ける処理を行ってもよい。
【0283】
試薬配置部355は、基板保持部351に保持された基板216の検出槽223、試薬槽301、試薬槽302、またはその他の液溜めに、測定項目に応じた検出試薬やバッファー等の試薬を配置する。たとえば液体の試薬を配置する場合には、一定量の試薬液をシリンダーに吸入しておき、その一部または全部を所定の領域に注入してもよい。その後、乾燥空気または窒素ガス中等に注入された試薬液を曝し、液体成分を蒸発させて乾燥固化させることもできる。また、試薬ビーズを充填する場合には、一粒で一つの検出槽223における検出反応に充分な量の試薬を含むようなビーズを準備しておき、これを検出槽223に配置してもよい。
【0284】
配置後処理部356は、チップ上の調節部314を、測定項目受付部344に入力された検査項目に応じて閉止および開放する。また、配置後処理部356は、封入部357および機関ID記録部358を有する。封入部357は、シール227を基板216の表面に接着し、基板216の上面を封止する。また、封入部357は、基板216上の流路や検出槽223、分取部235その他の液溜め部分を選択して封止してもよい。機関ID記録部358は、機関ID受付部345に入力されたIDを書き込む。このIDは、基板216上に書き込むこともできるし、基板216の外装体に書き込んでもよい。
【0285】
基板保持部351は、以上の工程により得られたチップをチップ搬出部359に送り出す。必要に応じて、袋状の気密性包装材中にチップをおさめ、窒素ガス等の不活性ガスを充填した後、包装材を密閉してもよい。
【0286】
図44は、図39のチップ製造装置を用いたチップの製造手順を示す図である。図44において、まず、受付部345においてIDや測定項目の入力を受け付ける(S101)。そして、入力された情報に基づき、基板選択部347は基板を選択し(S102)、さらに基板上の流路を選択する(S103)。また、試薬選択部348は測定項目に応じて用いる試薬を選択する(S104)。そして、選択された基板を搬入し(S105)、配置前処理部352は選択された流路中を試料が移動するように所定の調節部を閉止する(S106)。また、試薬配置部355は基板の所定の位置に所定の試薬を導入する(S107)。その後、配置後処理部356における後処理工程を経て(S108)、得られたチップを搬出する(S109)。
【0287】
なお、以上の手順において、ステップ102の基板の選択とステップ104の試薬の選択は前後してもよい。また、ステップ102で基板を選択し、さらに基板を搬入した後ステップ104の試薬の選択を行ってもよい。
【0288】
チップ製造装置342を用いることにより、受付部343に入力された測定項目に応じてカスタマイズされたチップを容易に製造することが可能となる。このため、チップを使用する多数のクライアントのニーズに応じてチップの構成を容易に最適化することができる。
【0289】
また、図40は、検査機関の検査室等で検査を受ける者の健康状態に応じたカスタマイズが可能なチップ製造装置の一例を示す概念図である。図40のチップ製造装置364は、図39のチップ製造装置342と概略構成は同様であるが、機関ID受付部345に代えてカルテID受付部360を有し、機関ID記録部358に代えてカルテID記録部361を有する点ならびに数値化部362および出力部363をさらに有する点が異なる。
【0290】
カルテID受付部360では、病院の患者等、検査を受ける者のIDに関する情報の入力を受け付ける。また、カルテID記録部361は、検査を受ける者のIDがチップまたは外装体を記録する。
【0291】
また、数値化部362は、チップを用いた検査結果を数値化し、出力部363に送出する。出力部363は、検査結果を画面等に表示する。
【0292】
チップ製造装置364では、患者ごとのIDが確実に記録されるため、検査を行う医師等は、どの患者のチップであるかを確実に把握することができる。また、数値化部362において検査結果を数値化することにより、電子化されたカルテデータに検査結果を追加することも容易に可能となる。なお、数値化部362の構成は、たとえば第二の実施形態で前述した測定装置237と同様の構成とすることができる。
【0293】
図39および図40のチップ製造装置は、具体的には制御部を介してハードウエアの制御が行われる。図43は、このようなチップ製造装置の構成例を示す図である。
【0294】
図43において、入力部は、図39または図40の装置の受付部に対応し、測定項目入力部とID入力部を含む。制御部は、基板制御部、試薬制御部、および測定部制御部を含む。
【0295】
基板制御部は、入力部に入力された情報に基づき、基板および流路の選択および選択された基板の搬入から搬出までの動作などを制御する。また、試薬制御部は、入力部に入力された情報に基づき、試薬の選択および選択された試薬の所定の位置への充填などの動作を制御する。また、測定部制御部は、装置自体に測定部が設けられている場合に、測定部、測定結果の処理を行う演算部、測定結果を表示する表示部を制御する。
【0296】
以上においてはチップの製造工場等で受注生産を行う場合を例に説明したが、チップは検査機関においてもカスタマイズできる。また、調節部314の開閉は、検査機関において検査段階で手動調節することによっても、カスタマイズできる。
【0297】
以上、本発明を実施形態に基づき説明した。これらの実施形態は例示であり様々な変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0298】
たとえば、以上の実施形態においては、一部の流路に設けられた調節部を閉止することにより、その他の流路に試料を導く構成としたが、流路に開放可能な調節部を設けてもよい。この場合、当初はすべての調節部を閉止しておき、試料や処理の種類に応じて使用する流路を決定した後、その流路の試料を導くための調節部のみを選択して開放することにより、選択された流路に試料を導くことができる。このような構成によっても、試料の種類や分析項目に応じたチップのカスタマイズが可能である。
【0299】
調節部314を閉止しておき、適宜選択して開放する方法として、たとえば、疎水性表面処理による閉止および紫外光照射による開放が挙げられる。調節部314における流路表面の疎水性疎水性処理は、シランカップリング剤、シリコーンオイル、PDMS薄膜の形成などによって行うことができる。これらの有機薄膜材料は、紫外光照射によって酸化分解し、親水性の化合物となる。そこで、まず、調節部314における流路表面をこれらの材料によって疎水化または撥水化する表面処理をしておく。そしてその後、たとえばレンズ系で絞り込んだ紫外光を開放したい調節部314に照射すると、光照射された調節部314を開放することができる。
【0300】
また、別の方法として、沸点の低い有機物による閉止および赤外レーザ照射による開放が挙げられる。低沸点の有機物として、たとえばパラフィンを用いることができる。パラフィンを用いる場合、基板216をパラフィンの融点近傍の温度に加熱しておき、細い棒状のパラフィンを調節部314に短時間接触させることにより、軟化融解したパラフィンを流路表面に付着させて、調節部314を閉止することができる。また、パラフィンは、赤外線を吸収するため、調節部314に赤外レーザを照射してパラフィンの沸点以上に加熱することにより、パラフィンを蒸散させることができる。パラフィンが存在している領域よりも広めに赤外光を照射することにより、パラフィンを完全に蒸散させ、調節部314を開放することができる。
【0301】
また、以上の実施形態においては、試料導入部212として導入口217を1つ有する構成としたが、複数の導入口217を有する構成としてもよい。導入口217を複数とすることにより、個人から複数の試料、たとえば血液、唾液、尿、鼻汁等のうちの複数について1枚のチップ上で処理することができる。また、複数の人の試料、たとえば複数の患者の血液等を1枚のチップ上で並列に処理することも可能となる。導入口217を複数とする構成においては、調節部314を試料導入部212と分離部213との間に設けることもできる。こうすれば、分離部213の必要の有無によって試料の移動経路を選択することが可能となる。
【0302】
また、以上の実施形態においては、分注流路222のすべてに調節部314を設ける構成を例示したが、一部の分注流路222が調節部314を設ける構成としてもよい。たとえば、検出槽223を有するチップにおいて、常に実施する検査項目に対応する検出槽については調節部314を設けない構成とすることもできる。
【0303】
また、以上の実施形態においては、チップに設けられている検出槽や分取部の形状が主として円柱形である場合を例示したが、これらは内容物の分析(検出または測定)を行うような形状であればよく、円柱形に限られず適宜選択することができる。たとえば、検出槽や分取部の形状を、四角柱等の角柱とすることができる。また、検出槽や分取部は憩室状でなくてもよく、たとえば図9を参照して前述したように、分取部を流路状としてもよい。
【0304】
また、以上においては、検出槽や分取部以外のチップに設けられている他の液溜めについても、それぞれの液溜めに導入または回収される液体を保持するのに充分な体積が確保されていればよく、円柱以外の形状とすることができる。チップに設ける液溜めの形状は、たとえば、四角柱等の角柱や、所定の平面形状の流路状とすることができる。また、廃液溜めとして機能する液溜めの形状をたとえば平面視においてジグザグ型の流路状としたり、内面に凹凸が形成された柱状とすることもできる。こうすれば、廃液溜めの表面積を増加させることができるので、毛細管効果をさらに向上させ、廃液をさらに確実に回収可能な構成とすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板上に設けられた複数の流路と、
前記複数の流路に設けられ、閉止可能に構成された調節部と、
を有し、
前記複数の流路のうち一の流路に設けられた前記調節部を閉止することにより、他の流路に前記試料を導くように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項2】
基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に導入された試料中の特定の成分を分析する分析部と、
前記試料導入部と前記分析部とを接続する複数の流路と、
前記流路に設けられ、閉止可能に構成された調節部と、
を有し、
前記複数の流路のうち一の流路に設けられた前記調節部を閉止することにより、他の流路を経由して前記分析部に前記試料を導くように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項3】
基板と、
該基板上に設けられた試料導入部と、
前記試料導入部に導入された試料中の特定の成分を分析する分析部と、
前記試料導入部に導入された前記試料を複数の前記分析部に導く分岐した流路と、
前記流路に設けられ、閉止可能に構成された調節部と、
を有し、
一の前記分析部に向かって分岐した前記流路上に設けられた前記調節部を閉止することにより、他の前記分析部に前記試料を導くように構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項4】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載のチップにおいて、前記調節部は、前記流路の一部を埋設することにより閉止することが可能に構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項5】
請求の範囲第1項乃至第3項いずれかに記載のチップにおいて、前記調節部は、前記流路の表面を疎水化することにより閉止することが可能に構成されたことを特徴とするチップ。
【請求項6】
請求の範囲第1項乃至第5項いずれかに記載のチップにおいて、前記流路の一部を含み、前記試料導入部に導入された前記試料に含まれる成分を分離して前記分析部に導く分離部を有することを特徴とするチップ。
【請求項7】
請求の範囲第6項に記載のチップにおいて、前記分離部の上流に、前記試料導入部に導入された前記試料に所定の前処理を施す前処理部を有することを特徴とするチップ。
【請求項8】
請求の範囲第7項に記載のチップにおいて、前記前処理部は、液溜めと、前記液溜めの下流に設けられ、前記前処理部から前記分離部への前記液体試料の供給を制御する液体スイッチ部と、を含み、
前記液体スイッチ部は、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有し、前記トリガー流路に前記調節部が設けられたことを特徴とするチップ。
【請求項9】
請求の範囲第1項乃至第8項いずれかに記載のチップにおいて、前記分離部で分離された成分に所定の反応を生じさせる反応部を有することを特徴とするチップ。
【請求項10】
請求の範囲第9項に記載のチップにおいて、
前記反応部は、液溜めと、前記液溜めの下流に設けられた液体スイッチ部と、を含み、
前記液体スイッチ部は、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、を有し、前記トリガー流路に前記調節部が設けられたことを特徴とするチップ。
【請求項11】
基板と、
該基板上に設けられた複数の流路と、
を有し、
前記複数の流路のうち一部の流路が閉止された構成であることを特徴とするチップ。
【請求項12】
複数の流路が形成された基板を準備する工程と、
一部の前記流路を閉止する工程と、
を含むことを特徴とするチップの製造方法。
【請求項13】
請求の範囲第12項に記載のチップの製造方法において、
流路を閉止する前記工程は、
前記流路の一部を疎水化する工程を含むことを特徴とするチップの製造方法。
【請求項14】
請求の範囲第12項に記載のチップの製造方法において、
流路を閉止する前記工程は、
前記流路の一部を変形させて堰き止める工程を含むことを特徴とするチップの製造方法。
【請求項15】
主流路と、
液溜めと、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路に設けられ、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、
前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、
前記堰き止め部と前記トリガー流路とを含む液体スイッチ部と、
前記トリガー流路または前記流路に設けられた遅延流路と、
前記流路または前記トリガー流路の開閉を設定する調節部と、
を有することを特徴とする分析部。
【請求項16】
請求項15に記載の分析部において、前記流路を閉止する閉鎖スイッチをさらに有することを特徴とする分析部。
【請求項17】
請求の範囲第15項または第16項に記載の分析部において、前記液溜めに試薬が保持されていることを特徴とする分析部。
【請求項18】
請求の範囲第15項乃至第17項いずれかに記載の分析部において、
前記液溜めを2個と、
前記液体スイッチ部を1個と、
前記閉鎖スイッチを1個と、
前記遅延流路を1個と、
前記調節部を1個または2個と、
を有することを特徴とする分析部。
【請求項19】
請求の範囲第15項乃至第17項いずれかに記載の分析部において、
前記液溜めを5個と、
前記液体スイッチ部、前記閉鎖スイッチ、前記遅延流路、および前記調節部をそれぞれ2個以上と、
を有することを特徴とする分析部。
【請求項20】
基板と、前記基板に設けられた請求の範囲第15項乃至第19項いずれかに記載の分析部と、を有することを特徴とするチップ。
【請求項21】
主流路と、
液溜めを少なくとも1個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路の開閉を設定する調節部を少なくとも1個と、
を有する第一の処理部と、
主流路と、
液溜めを少なくとも5個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路に設けられ、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、
前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、
前記堰き止め部と前記トリガー流路とを含む液体スイッチ部を少なくとも4個と、
前記流路を閉鎖する閉鎖スイッチを少なくとも1個と、
前記トリガー流路または前記流路に設けられた遅延流路を少なくとも2個と、
前記流路または前記トリガー流路の開閉を設定する調節部を少なくとも2個と、
を有する第二の処理部と、
からなる分析部を有するチップであって、
前記分析部は、
前記第一の処理部を少なくとも3個と、
前記第二の処理部を少なくとも1個と、
を有し、その少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、
前記第一の処理部が前記試薬を有する場合、
前記試薬は、
ヘモグロビンA1c、
1、5−アンヒドロ−D−グルシトール、および
グリコアルブミン
からなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬であり、
前記第二の処理部が前記試薬を有する場合、
前記試薬は、
抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ抗体の測定に必要な試薬であることを特徴とするチップ。
【請求項22】
主流路と、
液溜めを少なくとも1個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路の開閉を設定する調節部を少なくとも1個と、
を有する第一の処理部からなる分析部を少なくとも8個有し、
8個の前記第一の処理部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、
前記試薬は、
アスパラギン酸アミノ基転移酵素活性、
アラニンアミノ基転移酵素活性、
γグルタミルトランスペプチダーゼ、
総コレステロール、
中性脂肪、
HDLコレステロール、
空腹時血糖、および
ヘモグロビンA1c
からなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬であることを特徴とするチップ。
【請求項23】
主流路と、
液溜めを少なくとも1個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路の開閉を設定する調節部を少なくとも1個と、
を有する第一の処理部からなる分析部を少なくとも9個含む分析部を有し、
9個の前記第一の処理部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、
前記試薬は、
レムナントリポタンパク質コレステロール、
LDL−コレステロール、
リポタンパク質a、
アポタンパク質A−I、
アポタンパク質A−II、
アポタンパク質B、
アポタンパク質C−II、
アポタンパク質C−III、
アポタンパク質E、
クレアチンホスホキナーゼ、
アスパラギン酸アミノ基転移酵素活性、
アラニンアミノ基転移酵素活性、および
γグルタミルトランスペプチダーゼ
からなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬であることを特徴とするチップ。
【請求項24】
主流路と、
液溜めを少なくとも1個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路の開閉を設定する調節部を少なくとも1個と、
を有する第一の処理部と、
主流路と、
液溜めを少なくとも5個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路に設けられ、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、
前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、
前記堰き止め部と前記トリガー流路とを含む液体スイッチ部を少なくとも4個と、
前記流路を閉鎖する閉鎖スイッチを少なくとも1個と、
前記トリガー流路または前記流路に設けられた遅延流路を少なくとも2個と、
前記流路または前記トリガー流路の開閉を設定する調節部を少なくとも2個と、
を有する第二の処理部と、
からなる分析部を有するチップであって、
前記分析部は、
前記第一の処理部を少なくとも8個と、
前記第二の処理部を少なくとも2個と、
を有し、その少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、
前記第一の処理部が前記試薬を有する場合、
前記試薬は、
アルカリフォスファターゼ、
ラクテートデヒドロゲナーゼ、
総タンパク質、
アルブミン、
硫酸亜鉛混濁試験、
チモール混濁試験、
コリンエステラーゼ、および
総ビリルビン
からなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬であり、
前記第二の処理部が前記試薬を有する場合、
前記試薬は、
HBs抗体、および
HCV抗体
からなる群から選択される一または二の項目を測定するのに必要な試薬であることを特徴とするチップ。
【請求項25】
主流路と、
液溜めを少なくとも1個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路の開閉を設定する調節部を少なくとも1個と、
を有する第一の処理部を少なくとも7個含む分析部を有し、
7個の前記第一の処理部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、
前記試薬は、
総タンパク質、
アルブミン、
尿素窒素、
クレアチニン、
ナトリウムイオン、
カリウムイオン、および
クロールイオン
からなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬であることを特徴とするチップ。
【請求項26】
主流路と、
液溜めを少なくとも1個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路の開閉を設定する調節部を少なくとも1個と、
を有する第一の処理部と、
主流路と、
液溜めを少なくとも5個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路に設けられ、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、
前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、
前記堰き止め部と前記トリガー流路とを含む液体スイッチ部を少なくとも4個と、
前記流路を閉鎖する閉鎖スイッチを少なくとも1個と、
前記トリガー流路または前記流路に設けられた遅延流路を少なくとも2個と、
前記流路または前記トリガー流路の開閉を設定する調節部を少なくとも2個と、
を有する第二の処理部と、
からなる分析部を有するチップであって、
前記分析部は、
前記第一の処理部を少なくとも5個と、
前記第二の処理部を少なくとも2個と、
を有し、その少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、
前記第一の処理部が前記試薬を有する場合、
前記試薬は、
尿素窒素、
クレアチニン、
ナトリウムイオン、
カリウムイオン、
クロールイオン
からなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬であり、
前記第二の処理部が前記試薬を有する場合、
前記試薬は、
レニン活性、および
アルドステロン
からなる群から選択される一または二の項目を測定するのに必要な試薬であることを特徴とするチップ。
【請求項27】
主流路と、
液溜めを少なくとも1個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路の開閉を設定する調節部を少なくとも1個と、
を有する第一の処理部と、
主流路と、
液溜めを少なくとも5個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路に設けられ、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、
前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、
前記堰き止め部と前記トリガー流路とを含む液体スイッチ部を少なくとも4個と、
前記流路を閉鎖する閉鎖スイッチを少なくとも1個と、
前記トリガー流路または前記流路に設けられた遅延流路を少なくとも2個と、
前記流路または前記トリガー流路の開閉を設定する調節部を少なくとも2個と、
有する第二の処理部と、
からなる分析部を有するチップであって、
前記分析部は、
前記第一の処理部を少なくとも2個と、
前記第二の処理部を少なくとも2個と、
を有し、その少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、
前記第一の処理部が前記薬を有する場合、
前記試薬は、
血清鉄、および
フェリチン
からなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬であり、
2個の前記第二の処理部が前記試薬を有する場合、
前記試薬は、
ビタミンB12、および
葉酸
からなる群から選択される一または二以上の項目を測定するのに必要な試薬であることを特徴とするチップ。
【請求項28】
主流路と、
液溜めを少なくとも1個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路の開閉を設定する調節部を少なくとも1個と、
を有する第一の処理部からなる分析部を有し、
前記第一の処理部は、尿酸の測定に必要な試薬を保持することを特徴とするチップ。
【請求項29】
主流路と、
液溜めを少なくとも5個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路に設けられ、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、
前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、
前記堰き止め部と前記トリガー流路とを含む液体スイッチ部を少なくとも4個と、
前記流路を閉鎖する閉鎖スイッチを少なくとも1個と、
前記トリガー流路または前記流路に設けられた遅延流路を少なくとも2個と、
前記流路または前記トリガー流路の開閉を設定する調節部を少なくとも2個と、
を有する第二の処理部を少なくとも3個含む分析部を有し、
3個の前記第二の処理部の少なくとも1個は試薬が保持された前記液溜めを有し、
前記試薬は、
トリヨードサイロニン、
チロキシン、および
甲状腺刺激ホルモン
からなる群から選択される一または二の項目を測定するのに必要な試薬である特徴とするチップ。
【請求項30】
主流路と、
液溜めを少なくとも5個と、
前記主流路および前記液溜めを結ぶ流路と、
前記流路に設けられ、前記液溜め中の液体を堰き止める堰き止め部と、
前記堰き止め部の近傍で前記流路に連通し、前記堰き止め部へ前記液体を導くトリガー流路と、
前記堰き止め部と前記トリガー流路とを含む液体スイッチ部を少なくとも4個と、
前記流路を閉鎖する閉鎖スイッチを少なくとも1個と、
前記トリガー流路または前記流路に設けられた遅延流路を少なくとも2個と、
前記流路または前記トリガー流路の開閉を設定する調節部を少なくとも2個と、
を有する第二の処理部からなる分析部を有し、
前記第二の処理部は、コルチゾールの測定に必要な試薬を保持することを特徴とするチップ。
【請求項31】
請求の範囲第21項乃至第30項いずれかに記載のチップにおいて、
試料を分析するための前記分析部と同じ構成を有し、標準液を分析するための対照分析部をさらに備えることを特徴とするチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【国際公開番号】WO2005/024436
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513670(P2005−513670)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012753
【国際出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】