説明

カチオン重合性樹脂組成物、及びその硬化物

【課題】光を照射することにより速やかに硬化し、耐熱性、柔軟性、透明性及び寸法安定性に優れる硬化物を形成するカチオン重合性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明のカチオン重合性樹脂組成物は、下記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂と無機フィラーを含有する。式(1)中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子又はアルキル基を示し、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波路(光導波路、光・電気混載基板など)、光ファイバー、応力緩和型接着剤、封止剤、アンダーフィル、インクジェット用インク、カラーフィルター、ナノインプリント、フレキシブル基板などの分野、特にフレキシブル光導波路、光・電気混載基板、光ファイバーなどの光学機器分野で有用なカチオン重合性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイパネルや半導体デバイスといった電子機器向けのデバイスやモジュールの製造に用いられる電子材料には、素子や基盤との結合が容易であり、レイアウトの自由度が大きく、応力緩和性に優れ、取り扱いやすく、インクジェット法等の印刷法により回路基盤を容易に製造することができる点から柔軟性を備えた材料が求められている。また、導波路の要求特性の1つとして、ハンダリフロー工程における高温処理により光損失の増加やクラックなどの熱劣化が発生することを防止するハンダリフロー耐熱性が挙げられる。そして、近年、溶解に約260℃の高温加熱を要する鉛フリーハンダの使用に対応するため、リフロー温度がより高くなっていることから、より高い耐熱性を備えた材料が求められている。
【0003】
さらに、従来の電子材料は線膨張係数が大きく、高温環境下において位置ズレを起こし易いことが問題であった。そのため、線膨張係数が小さく、寸法安定性に優れた電子材料が求められている。さらにまた、電子材料のなかでも、特に光導波路、光・電気混載基板、光ファイバー等の光学機器材料には、高い透明性を備えた材料が求められている。
【0004】
特許文献1、2には1分子内にオキセタン環と(メタ)アクリロイル基を有する3−エチル−3−(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン等が開示されている。しかしながら、これらの化合物の硬化物は耐熱性、透明性の点では優れているが、寸法安定性及び柔軟性が乏しい点が問題であった。
【0005】
特許文献3には、フマル酸ジエステル樹脂に無機フィラーを配合することにより、線膨張係数が小さく、透明性及び耐熱性に優れたフィルムを得ることができると記載されているが、柔軟性が乏しい点が問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−315181号公報
【特許文献2】特開2001−40205号公報
【特許文献3】特開2009−46594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、光を照射することにより速やかに硬化し、耐熱性、柔軟性、透明性及び寸法安定性に優れる硬化物を形成することができるカチオン重合性樹脂組成物、及びその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、1分子内にラジカル重合性を有する(メタ)アクリロイル基と、カチオン重合性を有し、且つ、硬化物に柔軟性を付与するオキセタン環を有し、これら2つの官能基を特定の構造を有するアルキレン基で連結して得られるモノマーを単独で、又は(メタ)アクリロイル基と反応し得る官能基を有する他のモノマーと共に、ラジカル重合して得られる樹脂及び無機フィラーを含有するカチオン重合性樹脂組成物は、カチオン重合することによって耐熱性、柔軟性、透明性及び寸法安定性に優れた硬化物を形成することができることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子又はアルキル基を示し、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す)
で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂と無機フィラーを含有するカチオン重合性樹脂組成物を提供する。
【0010】
本発明のカチオン重合性樹脂組成物には、さらに、式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂以外に、他のカチオン重合性を有する化合物を含むことが好ましい。
【0011】
前記他のカチオン重合性を有する化合物としては、1分子内にオキセタン環、エポキシ環、ビニルエーテル基、ビニルアリール基から選ばれる官能基を1個以上有する化合物が好ましい。
【0012】
無機フィラーとしては、平均粒子径が50nm以下であることが好ましい。
【0013】
無機フィラーの含有量としては、カチオン重合性樹脂組成物全量の1〜70重量%であることが好ましい。
【0014】
ラジカル重合性を有する他の化合物としては、1分子内に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルアリール基、ビニルエーテル基、ビニルオキシカルボニル基から選ばれる官能基を1個有する化合物が好ましい。
【0015】
本発明のカチオン重合性樹脂組成物には、さらにまた、カチオン重合開始剤を含有することが好ましい。
【0016】
本発明は、さらに、前記カチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物を提供する。
【0017】
前記硬化物は、フィルム状又はファイバー状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、特定の構造を有するオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られる樹脂を含有するため、光を照射してカチオン重合することにより速やかに硬化物を形成することができる。そのようにして得られた硬化物は透明性に優れる。また、優れた柔軟性を有するため、自由に曲げて使用することができ、応力緩和作用を発揮することができる。その上、ハンダリフロー実装(特に、鉛フリーハンダ実装)に対応する耐熱性を有し、ハンダリフローによる熱劣化を防止することができる。さらに、無機フィラーを含有するため線膨張係数が小さく、寸法安定性に優れる。従って、本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、導波路(光導波路、光・電気混載基板など)、光ファイバー、応力緩和型接着剤、封止剤、アンダーフィル、インクジェット用インク、カラーフィルター、ナノインプリント、フレキシブル基板などの分野、特にフレキシブル光導波路、光・電気混載基板、光ファイバーなどの光学機器分野において好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】硬化物の耐熱性の評価方法を示す説明図(熱重量分析結果の模式図)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のカチオン重合性樹脂組成物は、少なくとも、上記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂と無機フィラーを含有する。
【0021】
[オキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物]
本発明のオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物は、上記式(1)で表わされる。式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子又はアルキル基を示し、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す。
【0022】
式(1)中、R2におけるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル基などの直鎖状アルキル基;イソプロピル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソペンチル、s−ペンチル、t−ペンチル、イソヘキシル、s−ヘキシル、t−ヘキシル基などの分岐鎖状アルキル基などが挙げられる。本発明におけるR2としては、なかでも、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、特にメチル基又はエチル基が好ましい。
【0023】
式(1)中、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す。本発明においては、なかでも、優れた耐熱性と柔軟性とを兼ね備えた硬化物を形成することができる点で、下記式(a1)で表される直鎖状アルキレン基、又は下記式(a2)で表される分岐鎖状アルキレン基が好ましい。尚、式(a2)の右端はエステル結合を構成する酸素原子と結合する。
【0024】
【化2】

[式(a1)中、n1は2以上の整数を示す。式(a2)中、R3、R4、R7、R8は同一又は異なって水素原子又はアルキル基を示し、R5、R6は同一又は異なってアルキル基を示す。n2は0以上の整数を示し、n2が2以上の整数の場合、2個以上のR7、R8はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい]
【0025】
式(a1)中のn1は2以上の整数を示し、好ましくは2〜20の整数であり、特に好ましくは2〜10の整数である。n1が2未満の整数である場合、重合して得られる硬化物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0026】
式(a2)中のR3、R4、R5、R6、R7、R8におけるアルキル基としては、炭素数1〜4(なかでも、炭素数1〜3)のアルキル基が好ましく、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル基などの直鎖状アルキル基;イソプロピル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル基などの分岐鎖状アルキル基などが挙げられる。本発明におけるR3、R4としては水素原子が好ましく、R5、R6としてはそれぞれメチル基又はエチル基が好ましい。
【0027】
式(a2)中のn2は0以上の整数を示し、好ましくは1〜20の整数であり、特に好ましくは1〜10の整数である。
【0028】
式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物の代表的な例としては、以下の化合物を挙げることができる。
【化3】

【0029】
式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物は、例えば、下記式(2)
【化4】

(式中、R2は前記に同じ。Xは脱離性基を示す)
で表される化合物と、下記式(3)
HO−A−OH (3)
(式中、Aは前記に同じ)
で表される化合物を、塩基性物質存在下、液相一相系で反応させて下記式(4)
【化5】

(式中、R2、Aは前記に同じ)
で表されるオキセタン環含有アルコールを得、得られたオキセタン環含有アルコールを(メタ)アクリル化することにより合成することができる。
【0030】
式(2)中、Xは脱離性基を示し、例えば、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子(なかでも、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい);p−トルエンスルホニルオキシ基、メタンスルホニルオキシ基、トリフルオロメタンスルホニルオキシ基等のスルホニルオキシ基;アセチルオキシ基等のカルボニルオキシ基などの脱離性の高い基を挙げることができる。
【0031】
前記塩基性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;水素化ナトリウム、水素化マグネシウム、水素化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物;炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩;有機リチウム試薬(例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、ter−ブチルリチウム等)、有機マグネシウム試薬(グリニャール試薬:例えば、CH3MgBr、C25MgBr等)等の有機金属化合物等を挙げることができる。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
前記「液相一相系」とは、液相が1相のみであること(すなわち、液相が2相以上の場合を除くこと)を意味し、液相が1相であれば固体を含んでいてもよい。液相を形成する溶媒としては、式(2)で表される化合物と、式(3)で表される化合物の両方を溶解することができればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;THF(テトラヒドロフラン)、IPE(イソプロピルエーテル)などのエーテル;DMSO(ジメチルスルホキシド)等の含硫黄系溶媒;DMF(ジメチルホルムアミド)等の含窒素系溶媒等を挙げることができる。
【0033】
[カチオン重合性樹脂]
本発明のカチオン重合性樹脂は、上記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物[ラジカル重合性を有し、上記式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物とは異なる化合物である。以後、「他のラジカル重合性化合物」と称する場合がある]と共にラジカル重合して得られる。
【0034】
上記式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物は、1分子内にカチオン重合部位であるオキセタン環と、ラジカル重合部位である(メタ)アクリロイル基を有するため、単独でラジカル重合、又は他のラジカル重合性化合物と共にラジカル共重合することにより、下記式で表されるカチオン重合性樹脂を合成することができる。尚、ラジカル共重合には、ブロック共重合、ランダム共重合等が含まれる。
【化6】

(式中、R1、R2、Aは上記に同じ)
【0035】
本発明のカチオン重合性樹脂としては、なかでも、より柔軟性に優れた硬化物を形成することができる点で、上記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物と他のラジカル重合性化合物をラジカル共重合することにより得られる樹脂が好ましく、カチオン重合性樹脂を構成する全モノマーのうち、前記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物由来のモノマーの占める割合が0.1重量%以上100重量%未満(好ましくは1〜99重量%、特に好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは10〜50重量%)となる割合で、ラジカル共重合して得られる樹脂が好ましい。
【0036】
他のラジカル重合性化合物としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルエーテル基、ビニルアリール基、ビニルオキシカルボニル基等のラジカル重合性基を1分子内に1つ以上有する化合物等を挙げることができる。
【0037】
(メタ)アクリロイル基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、1−ブテン−3−オン、1−ペンテン−3−オン、1−ヘキセン−3−オン、4−フェニル−1−ブテン−3−オン、5−フェニル−1−ペンテン−3−オン等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0038】
(メタ)アクリロイルオキシ基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、n−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2―ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メタクリル酸、2−メタクリロイロキシエチルコハク酸、2−メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−メタクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、パーフロロオクチルエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1−ビス(アクリロイルオキシ)エチルイソシアネート、2−(2−メタクリロイルオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0039】
(メタ)アクリロイルアミノ基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、アクリル酸モルホリン−4−イル、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、N−n−ブトキシメチルアクリルアミド、N−ヘキシルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0040】
ビニルエーテル基を1分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシイソブチルビニルエーテル、1−メチル−3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−メチル−2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、1−ヒドロキシメチルプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールモノビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,3−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、1,2−シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、p−キシレングリコールモノビニルエーテル、m−キシレングリコールモノビニルエーテル、o−キシレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラエチレングリコールモノビニルエーテル、ペンタエチレングリコールモノビニルエーテル、オリゴエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、ジプロピレングリコールモノビニルエーテル、トリプロピレングリコールモノビニルエーテル、テトラプロピレングリコールモノビニルエーテル、ペンタプロピレングリコールモノビニルエーテル、オリゴプロピレングリコールモノビニルエーテル、ポリプロピレングリコールモノビニルエーテル等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0041】
ビニルアリール基を1分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、メトキシスチレン、エトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、酢酸4−ビニルフェニル、(4−ビニルフェニル)ジヒドロキシボラン、(4−ビニルフェニル)ボラン酸、(4−ビニルフェニル)ボロン酸、4−エテニルフェニルボロン酸、4−ビニルフェニルボラン酸、4−ビニルフェニルボロン酸、p−ビニルフェニルホウ酸、p−ビニルフェニルボロン酸、N−(4−ビニルフェニル)マレインイミド、N−(p−ビニルフェニル)マレイミド、N−(p−ビニルフェニル)マレインイミド等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0042】
ビニルオキシカルボニル基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、例えば、ギ酸イソプロペニル、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル、酪酸イソプロペニル、イソ酪酸イソプロペニル、カプロン酸イソプロペニル、吉草酸イソプロペニル、イソ吉草酸イソプロペニル、乳酸イソプロペニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、モノクロロ酢酸ビニル、アジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等、及びこれらの誘導体等を挙げることができる。
【0043】
本発明における他のラジカル重合性化合物としては、なかでも、透明性、柔軟性及び耐熱性に優れた硬化物を形成することができる点で、1分子内に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルアリール基、ビニルエーテル基、ビニルオキシカルボニル基から選ばれる官能基を1個有する化合物が好ましく、特に、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリロイルオキシ基を1分子内に1個有する化合物が好ましい。これらは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0044】
ラジカル重合反応は、加熱処理及び/又は光照射を行うことにより促進することができる。加熱処理を行う場合、その温度は反応に供する成分や触媒の種類などに応じて適宜調整することができ、例えば20〜200℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは70〜120℃程度である。光照射を行う場合、その光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線、レーザー光等を使用することができる。また、光照射後、例えば50〜180℃程度の温度で加熱処理を施してラジカル重合反応を進行させてもよい。
【0045】
ラジカル重合反応は溶媒の存在下で行われる。溶媒としては、例えば、1−メトキシ−2−アセトキシプロパン(PGMEA)、ベンゼン、トルエン等を挙げることができる。
【0046】
また、ラジカル重合反応には重合開始剤を使用してもよい。重合開始剤としては、公知慣用の熱重合開始剤、光ラジカル重合開始剤などのラジカル重合を起こし得るものを特に限定されることなく使用することができ、例えば、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2'−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等を挙げることができる。
【0047】
ラジカル重合反応における重合開始剤の使用量としては、例えば、ラジカル重合性化合物[式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリル酸エステル化合物と他のラジカル重合性化合物の総重量]に対して、例えば0.01〜50重量%程度、好ましくは0.1〜20重量%程度である。
【0048】
カチオン重合性樹脂の重量平均分子量(ポリスチレン換算)としては、例えば500以上程度(例えば500〜100万程度、好ましくは3000〜50万程度、特に好ましくは1万〜30万程度)である。カチオン重合性樹脂の重量平均分子量が上記範囲を外れると、カチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の柔軟性が得られにくくなる傾向がある。
【0049】
カチオン重合性樹脂の数平均分子量は、例えば100以上(例えば、100〜50万程度、好ましくは300〜25万程度、特に好ましくは1000〜5万程度)である。カチオン重合性樹脂の数平均分子量が上記範囲を外れると、カチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の柔軟性が得られにくくなる傾向がある。
【0050】
[無機フィラー]
本発明の無機フィラーとしては、例えば、シリカ系粒子、チタニア系粒子、アルミナ系粒子、ジルコニア系粒子等を挙げることができる。本発明の無機フィラーとしては、なかでも、表面修飾が容易な点、及び入手が容易な点でシリカ系粒子が好ましい。
【0051】
シリカ系粒子としては、例えば、熱分解法(シラン類を酸素・水素炎中で燃焼する方法)により得られるヒュームドシリカやゾル−ゲル法等により得られるコロイダルシリカ等を使用することができる。本発明においては、特に、前記シリカ系粒子表面に例えば、フェニル基やエポキシ基などの官能基を導入して得られる表面修飾されたシリカ系粒子を使用することが、カチオン重合性樹脂との相溶性に優れる点で好ましい。
【0052】
シリカ系粒子は、有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン等)に分散させた状態(すなわち、シリカオルガノゾルの状態)で添加することが、カチオン重合性樹脂組成物中での分散性に優れる点で好ましい。
【0053】
無機フィラーの平均粒子径は、小さいほどカチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の透明性を高く維持することができる点で好ましく、例えば、50nm以下が好ましく、なかでも30nm以下が好ましく、特に、1〜30nm程度が硬化物の透明性を高く維持することができ、且つ入手が容易である点で好ましい。尚、本明細書において、「平均粒子径」は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(商品名「LA−750」、HORIBA製)を使用してレーザー回折散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0054】
本発明においては、例えば、「YA010C−MDC」((株)アドマテックス製)などを使用してもよい。
【0055】
[カチオン重合性樹脂組成物]
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、上記式(1)で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂と無機フィラーを含有することを特徴とする。
【0056】
カチオン重合性樹脂組成物中に占める上記カチオン重合性樹脂の割合としては、例えば、5重量%以上、好ましくは30重量%以上であり、実質的にカチオン重合性樹脂組成物が上記カチオン重合性樹脂のみで構成されていてもよい。カチオン重合性樹脂組成物中に占める上記カチオン重合性樹脂の割合が5重量%を下回ると、カチオン重合して得られる硬化物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0057】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物には、さらに、上記式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂以外に、他のカチオン重合性を有する化合物(以後、「他のカチオン重合性化合物」と称する場合がある)を含有していてもよい。
【0058】
他のカチオン重合性化合物としては、例えば、オキセタン環、エポキシ環、ビニルエーテル基、ビニルアリール基等のカチオン重合性基を1分子内に1個以上有する化合物等を挙げることができる。
【0059】
オキセタン環を1分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、ビス([1−エチル(3−オキセタニル)]メチル)エーテル、3−エチル−3−([(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(ヒドロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−[(フェノキシ)メチル]オキセタン、3−エチル−3−(ヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(クロロメチル)オキセタン、3,3‐ビス(クロルメチル)オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビシクロヘキシル、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0060】
エポキシ環を1分子内に1個以上有する化合物としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシルレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシルレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシルレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル類;脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類;フェノール、クレゾール、ブチルフェノールまたはこれらにアルキレンオキサイドを付加して得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル類;高級脂肪酸のグリシジルエステル類等を挙げることができる。
【0061】
ビニルエーテル基を1分子内に1つ以上有する化合物、ビニルアリール基を1分子内に1つ以上有する化合物としては、上記他のラジカル重合性化合物において挙げられた例と同様の例を挙げることができる。
【0062】
本発明における他のカチオン重合性化合物としては、なかでも、光を照射することにより速やかに硬化する点で、ビス([1−エチル(3−オキセタニル)]メチル)エーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタン、3,3−ビス(ビニルオキシメチル)オキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3([(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル)オキセタン等のオキセタン環を1分子内に1つ以上有する化合物(単独で又は2種以上を混合して使用することができる)を少なくとも含有することが好ましく、特に、前記オキセタン環を1分子内に1つ以上有する化合物と、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート等のエポキシ環を1分子内に1個以上有する化合物とを、例えば、前者:後者(重量比)が5:1〜50:1となる範囲内で併用することが好ましい。
【0063】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物としては、より柔軟性に優れる硬化物を形成することができる点で、カチオン重合性樹脂と共に他のカチオン重合性化合物を含むことが好ましい。カチオン重合性樹脂と他のカチオン重合性化合物(2種以上を含有する場合は総量)の配合比(前者/後者:重量比)としては、例えば80/20〜10/90、好ましくは70/30〜20/80、特に好ましくは45/55〜30/70である。カチオン重合性樹脂の配合割合が上記範囲を下回ると、得られる硬化物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0064】
カチオン重合性樹脂組成物における無機フィラーの含有量としては、例えば、カチオン重合性樹脂組成物全量(100重量%)の1〜70重量%程度、好ましくは10〜60重量%程度、特に好ましくは15〜55重量%程度、最も好ましくは45〜55重量%程度である。無機フィラーを上記範囲内で含有することにより、カチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物が優れた柔軟性と寸法安定性とを併せて具備することができる。無機フィラーの含有量が上記範囲を下回ると、カチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の線膨張係数が大きくなり寸法安定性が低下する傾向があり、一方、無機フィラーの含有量が上記範囲を上回ると、カチオン重合性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の柔軟性が低下する傾向がある。
【0065】
また、カチオン重合性樹脂組成物は、必要に応じてカチオン重合開始剤を含有していてもよい。カチオン重合開始剤としては、公知慣用の光カチオン重合開始剤(光酸発生剤)を使用することができる。光カチオン重合開始剤としては、例えば、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等のトリアリルスルホニウム塩;ジアリールヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス(ドデシルフェニル)ヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、ヨードニウム[4−(4−メチルフェニル−2−メチルプロピル)フェニル]ヘキサフルオロホスフェート等のヨードニウム塩;テトラフルオロホスホニウムヘキサフルオロホスフェート等のホスホニウム塩;ピリジウム塩等を挙げることができる。本発明においては、商品名「CPI−100P」(トリアリールスルホニウム塩のプロピレンカーボネート溶液、サンアプロ(株)製)などの市販品を使用してもよい。
【0066】
カチオン重合開始剤の使用量としては、カチオン重合性化合物(カチオン重合性樹脂と他のカチオン重合性化合物の総重量)に対して0.01〜50重量%程度、好ましくは0.1〜20重量%程度である。
【0067】
さらに、本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて他の添加物を添加してもよい。他の添加物としては、例えば、硬化膨張性モノマー、光増感剤(アントラセン系増感剤等)、樹脂、密着性向上剤、補強剤、軟化剤、可塑剤、粘度調整剤、溶剤、上記以外の無機又は有機粒子(ナノスケール粒子等)、撥水剤(フルオロシラン等)の公知慣用の各種添加剤を挙げることができる。
【0068】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、光を照射することによりカチオン重合反応を促進し、硬化物を形成することができる。光源としては、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、カーボンアークランプ、メタルハライドランプ、太陽光、電子線、レーザー光等を使用することができる。照射エネルギーとしては、例えば、1〜2J程度である。また、光照射後、例えば50〜180℃程度の温度で熱処理を施して硬化を進行させてもよい。
【0069】
カチオン重合反応は常圧下で行ってもよく、減圧下又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。
【0070】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物の形状としては特に制限されることがなく、例えばフィルム状、ファイバー状等を挙げることができる。フィルム状硬化物は、例えば、アプリケーター等を使用して上記カチオン重合性樹脂組成物を均一の厚みとなるように基材等の上に塗布し、光照射を行うことによりカチオン重合反応を促進して製造することができる。ファイバー状硬化物は、例えば、シリンジ等を使用して上記カチオン重合性樹脂組成物を定量的に押出し、押出されたカチオン重合性樹脂組成物に光照射を行うことによりカチオン重合反応を促進して製造することができる。
【0071】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物の耐熱性は、例えば熱分解温度T(℃)を測定することにより評価することができ、例えば、260℃以上、好ましくは270℃以上である。熱分解温度T(℃)が260℃を下回ると、溶解に約260℃の高温加熱を要する鉛フリーハンダを使用したハンダリフロー工程において、高温処理による光損失の増加やクラックなどの熱劣化の発生を防止することが困難となる傾向がある。
【0072】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物の柔軟性は、例えばフィルム状硬化物を棒に巻きつけた際の、クラック(ひび割れ)発生の有無により評価することができ、例えば、厚さ約100μmのフィルム状硬化物を半径2mmの棒に巻きつけてクラック(ひび割れ)が生じない程度が好ましく、特に、厚さ約100μmのフィルム状硬化物を半径1mmの棒に巻きつけてクラック(ひび割れ)が生じない程度が好ましい。柔軟性が不十分である場合は、フレキシブル光導波路等に使用することが困難となる傾向がある。
【0073】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物の透明性は、全光線透過率及びヘイズ(曇り度)により評価することができ、例えば、厚さ約100μmのフィルム状硬化物の全光線透過率が90%以上であることが好ましい。また、ヘイズ(曇り度)は10%以下であることが好ましい。全光線透過率が上記範囲を下回ると、及び/又はヘイズ(曇り度)が上記範囲を上回ると、透明性が低下して光損失が大きくなり、光導波路等に使用することが困難となる傾向がある。
【0074】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物の寸法安定性は、例えば線膨張係数[測定間距離10mmにて、昇温速度5℃/分で200から230℃まで昇温した際の線膨張係数(ppm/℃)]により評価することができ、例えば、190以下、好ましくは150以下、特に好ましくは110以下である。線膨張係数が上記範囲を上回ると、寸法安定性が低下して、高温環境下において位置ズレを引き起こす原因となる場合がある。尚、ppm/℃はμm/℃/mと同義である。
【0075】
本発明に係るカチオン重合性樹脂組成物は、カチオン重合することにより、耐熱性、柔軟性、透明性及び寸法安定性に優れた硬化物を形成することができる。そのため、導波路(光導波路、混載基板など)、光ファイバー、応力緩和型接着剤、封止剤、アンダーフィル、インクジェット用インク、カラーフィルター、ナノインプリント、フレキシブル基板などの分野、特にフレキシブル光導波路、光・電気混載基板、光ファイバーなどの光学機器分野で有用である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0077】
調製例1(カチオン重合性樹脂の製造)
シュレンク管に1−メトキシ−2−アセトキシプロパン(PGMEA)12.05g、下記式で表される3−エチル−3−(2−アクリロイルオキシエチルオキシメチル)オキセタン(EOXTM−EAL)2.24g(9.25mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.14gの混合液を仕込み、撹拌均一化した後、75±1℃で5時間加熱撹拌した。これを冷却した後、5倍量のヘプタンで再沈精製を行い、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で15時間保持することにより、室温(25℃)で無色透明の液状樹脂(1)を得た。
該液状樹脂(1)のポリスチレン換算重量平均分子量は18000、数平均分子量は6000であった。
【化7】

【0078】
調製例2(カチオン重合性樹脂の製造)
シュレンク管にPGMEA 11.63g、下記式で表される3−エチル−3−(4−アクリロイルオキシブチルオキシメチル)オキセタン(EOXTM−BAL)2.26g(8.25mmol)、AIBN 0.14gの混合液を仕込み、撹拌均一化した後、75±1℃で5時間加熱撹拌した。これを冷却した後、5倍量のヘプタンで再沈精製を行い、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で15時間保持することにより、室温(25℃)で無色透明の液状樹脂(2)を得た。
該液状樹脂(2)のポリスチレン換算重量平均分子量は21500、数平均分子量は8300であった。
【化8】

【0079】
調製例3(カチオン重合性樹脂の製造)
シュレンク管にPGMEA 4.80g、下記式で表される3−エチル−3−(3−アクリロイルオキシ−2,2−ジメチルプロピルオキシメチル)オキセタン(EOXTM−NPAL)2.07g(7.80mmol)、AIBN 0.0605gの混合液を仕込み、撹拌均一化した後、75±1℃で5時間加熱撹拌した。これを40℃以下に冷却した後、5倍量のヘプタンで再沈精製を行い、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で15時間保持することにより、室温(25℃)で無色透明の液状樹脂(3)を得た。
該液状樹脂(3)のポリスチレン換算重量平均分子量は37600、数平均分子量は14200であった。
【化9】

【0080】
調製例4(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 42.68g、EOXTM−EAL 6.07g(0.028mol)とn−ブチルアクリレート(BA)17.91g(0.139mol)の混合液(モノマー混合液)のうち25%を仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、t−ブチルパーオキシピバレート(商品名「パーブチルPV」、日本油脂(株)製)0.05gとPGMEA 0.77gの混合液を投入し、撹拌均一化した後、撹拌しながら、モノマー混合液の残り75%、AIBN 0.43g、PGMEA 4.47gの混合液を送液ポンプで3時間かけて滴下した。滴下終了後、ただちにAIBN 0.15gとPGMEA 1.69gの混合液を投入し、1時間後、AIBN 0.13gとPGMEA 1.75gの混合液を投入した。さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(4)を得た。
該液状樹脂(4)のポリスチレン換算重量平均分子量は67700、数平均分子量は12400であった。
【0081】
調製例5(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 44.91g、EOXTM−BAL 7.01g(0.029mol)とBA 18.62g(0.144mol)の混合液(モノマー混合液)のうち25%を仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、パーブチルPV 0.05gとPGMEA 0.60gの混合液を投入し、撹拌均一化した後、撹拌しながら、モノマー混合液の残り75%、AIBN 0.46g、PGMEA 5.25gの混合液を送液ポンプで3時間かけて滴下した。滴下終了後、ただちにAIBN 0.15gとPGMEA 1.63gの混合液を投入し、1時間後、AIBN 0.15gとPGMEA 1.68gの混合液を投入した。さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(5)を得た。
該液状樹脂(5)のポリスチレン換算重量平均分子量は78100、数平均分子量は12100であった。
【0082】
調製例6(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 62.07g、EOXTM−NPAL 10.13g(0.039mol)とBA 27.06g(0.195mol)の混合液(モノマー混合液)のうち25%を仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、パーブチルPV 0.07gとPGMEA 1.08gの混合液を投入し、撹拌均一化した後、撹拌しながら、モノマー混合液の残り75%、AIBN 0.63g、PGMEA 6.47gの混合液を送液ポンプで3時間かけて滴下した。滴下終了後、ただちにAIBN 0.21gとPGMEA 2.16gの混合液を投入し、1時間後、AIBN 0.21gとPGMEA 2.21gの混合液を投入した。さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(6)を得た。
該液状樹脂(6)のポリスチレン換算重量平均分子量は67600、数平均分子量は11800であった。
【0083】
調製例7(カチオン重合性樹脂の製造)
モノマー滴下ライン、開始剤滴下ライン、温度計、還流管、撹拌翼を装着した5口フラスコに、PGMEA 210.25gを仕込み、窒素気流下、85±1℃に加熱した。次いで、撹拌しながら、PGMEA 390.13g、EOXTM−NPAL 80.05g(0.312mol)とBA 120.03g(0.936mol)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(商品名「V−601」、和光純薬工業(株)製)0.12gの混合液を送液ポンプで5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに2時間保持した後、40℃以下に冷却することにより、樹脂組成物を得た。これを5倍量の60重量%メタノール水溶液で再沈精製し、真空乾燥機中(40℃、フルバキューム)で60時間保持することにより、無色透明の液状樹脂(7)を得た。
該液状樹脂(7)のポリスチレン換算重量平均分子量は32400、数平均分子量は14100であった。
【0084】
実施例1〜13、比較例1、2
下記表に示す組成及び配合割合に従って配合し、カチオン重合性樹脂組成物を得た。尚、表中、カチオン重合性樹脂(A)、及び他のカチオン重合性化合物(B)の数値は重量部を示す。
【0085】
[フィルム状硬化物の形成]
実施例及び比較例で得られたカチオン重合性樹脂組成物を、PFAペトリ皿に流し込み、常温常圧で乾燥し、さらに80℃で20分間加熱することにより溶媒を除去した。その後、ベルトコンベアー式紫外線照射装置(商品名「UVC−02516S1AA02」、ウシオ電機(株)製)を用いて紫外線(照射エネルギー:約2J、波長:320−390nm)を照射し、その後100℃で1時間熱処理を施すことによりフィルム状硬化物を得た。
【0086】
[耐熱性評価]
実施例及び比較例で得られたカチオン重合性樹脂組成物を上記フィルム状硬化物の形成方法により硬化して得られた、厚さ約100μmのフィルム状硬化物を熱分析装置(商品名「TG−DTA6300」、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を用いて熱重量分析した。図1に示すように、初期の重量減少のない、或いは漸減しているところの接線と、急激に重量減少が起こっているところの変曲点の接線が交叉するところの温度を熱分解温度T(℃)とし、下記基準に従って評価した。
評価基準
熱分解温度T(℃)が260℃以上:○
熱分解温度T(℃)が260℃未満:×
【0087】
[柔軟性評価]
実施例及び比較例で得られたカチオン重合性樹脂組成物を上記フィルム状硬化物の形成方法により硬化して得られた、厚さ約100μmのフィルム状硬化物を棒に巻きつけて、クラック(ひび割れ)発生の有無を目視で観察し、下記基準で評価した。
評価基準
半径1mmの棒に巻きつけてクラック(ひび割れ)が見られなかったとき:◎
半径2mmの棒に巻きつけてクラック(ひび割れ)が見られなかったとき:○
半径2mmの棒に巻きつけてクラック(ひび割れ)が見られたとき:×
【0088】
[透明性評価]
実施例及び比較例で得られたカチオン重合性樹脂組成物を上記フィルム状硬化物の形成方法により硬化して得られた、厚さ約100μmのフィルム状硬化物の全光線透過率及びヘイズ(曇り度)を色度・濁度測定器(商品名「NDH−300A」、日本電色工業(株)製)を使用して測定し、下記基準に従って評価した。
(全光線透過率の評価基準)
全光線透過率が90%以上:○
全光線透過率が90%未満:×
(ヘイズの評価基準)
ヘイズが10%以下:○
ヘイズが10%を超える:×
【0089】
[寸法安定性評価]
実施例及び比較例で得られたカチオン重合性樹脂組成物を上記フィルム状硬化物の形成方法により硬化して得られたフィルム状硬化物(長さ10mm×幅3mm×厚み200μm)について、TMA測定装置(商品名「TMA/SS7100」、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製)を使用して、測定間距離10mmにて、昇温速度5℃/分で200から230℃まで昇温した際の線膨張係数(ppm/℃)を測定した。
【0090】
上記結果を下記表にまとめて示す。
【表1】

【0091】
他のカチオン重合性化合物(B)
B1:ビス([1−エチル(3−オキセタニル)]メチル)エーテル(商品名「OXT−221」、東亞合成(株)製)
B2:下記式で表される3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル−3',4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(商品名「セロキサイド 2021P」、ダイセル化学工業(株)製)
【化10】

無機フィラー(C):表面処理シリカ(「YA010C−MDC」、(株)アドマテックス製)
カチオン重合開始剤(D):ジフェニル[4−(フェニルチオ)フェニル]スルホニウムヘキサフルオロホスファート、チオジ−p−フェニレンビス(ゾフェニルスルホニウム)、ビス(ヘキサフルオロホスファート)、プロピレンカーボネート、ゾフェニルサルファイドの混合物(商品名「CPI−100P」、サンアプロ(株)製)
※比較例2における評価欄の「−」は、フィルム化できなかったため上記評価を行わなかったことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は水素原子又はアルキル基を示し、Aは炭素数2〜20の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基を示す)
で表わされるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂と無機フィラーを含有するカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、式(1)で表されるオキセタン環含有(メタ)アクリロイル化合物を単独で、又はラジカル重合性を有する他の化合物と共にラジカル重合して得られるカチオン重合性樹脂以外に、他のカチオン重合性を有する化合物を含む請求項1に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項3】
他のカチオン重合性を有する化合物が、1分子内にオキセタン環、エポキシ環、ビニルエーテル基、ビニルアリール基から選ばれる官能基を1個以上有する化合物である請求項2に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項4】
無機フィラーの平均粒子径が50nm以下である請求項1〜3の何れかの項に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項5】
無機フィラーの含有量が、カチオン重合性樹脂組成物全量の1〜70重量%である請求項1〜4の何れかの項に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項6】
ラジカル重合性を有する他の化合物が、1分子内に(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニルアリール基、ビニルエーテル基、ビニルオキシカルボニル基から選ばれる官能基を1個有する化合物である請求項1〜5の何れかの項に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項7】
カチオン重合開始剤を含有する請求項1〜6の何れかの項に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかの項に記載のカチオン重合性樹脂組成物をカチオン重合して得られる硬化物。
【請求項9】
フィルム状であることを特徴とする請求項8に記載の硬化物。
【請求項10】
ファイバー状であることを特徴とする請求項8に記載の硬化物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−241036(P2012−241036A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109521(P2011−109521)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】