説明

カット刃、電子部品の製造方法、及び電子部品の製造装置

【課題】セラミックブロックを切断する際の切断方向を容易に制御することができるようにする。
【解決手段】カット刃1は、一方の刃部2aの表面粗さが他方の刃部2bの表面粗さよりも細かくなるように形成されており、一方の刃部2aの表面粗さは、他方の刃部2bの表面粗さの1.5倍以上が好ましい。また刃部2a、2bの表面粗さは、算術平均粗さに換算し0.2μm以下であるのが好ましい。前記切断されたときに、表面粗さの細かい方の刃部2aが、分割された一方のセラミックブロック3aに引っ張られるように、カット刃1を切断位置に配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカット刃、電子部品の製造方法、及び電子部品の製造装置に関し、より詳しくは、セラミックブロックを切断する際に使用するカット刃、該カット刃を使用して積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品を製造する電子部品の製造方法、及び電子部品の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサ等の積層型セラミック電子部品は、内部電極となるべき導電パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層し、得られたチップ成形品を焼成処理し、これにより内部電極が埋設されたセラミック素体を形成し、該セラミック素体の両端部に外部電極が形成されている。
【0003】
この種の積層型セラミック電子部品では、良好な生産性を確保する観点から、いわゆる多数個取り方式により量産している。すなわち、成形加工された長尺状のセラミックグリーンシートの表面に導電性ペーストを塗付して所定パターンの導電層を形成し、該導電層の形成されたセラミックグリーンシートを複数毎積層し、圧着してセラミックブロックを形成し、該セラミックブロックをカット刃で所定寸法に切断してチップ成形品を得ている。
【0004】
そして、電子部品用のセラミックブロックの切断に関しては、従来より、様々な手法が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、セラミック積層ブロックを載置するためのテーブルと、前記テーブルの上方に配置されたカット手段と、前記カット手段を上下運動させるカット駆動部と、前記カット手段の位置を検出するカット手段位置検出部と、セラミック積層ブロックのカット予定位置を検出するカット予定位置検出部と、テーブルと前記カット手段を相対的に平行移動させる平行駆動部と、前記カット手段位置検出部により検出する上昇中の前記カット手段の位置が、前記カット手段の上下運動の最上点と最下点の間の所定の位置に達すると、少なくとも前記カット予定位置検出部の検出動作および前記平行駆動部の平行移動動作のいずれか一方の動作を開始させる制御部とを備えたカット装置が提案されている。
【0006】
すなわち、この種のセラミックブロックの切断処理は、特許文献1に記載されているように、図10に示すような方法で行うことができる。
【0007】
電子部品用のセラミックブロック101は、例えば、内部電極となるべき導電層102が形成されたセラミックグリーンシートが多数積層されてなり、導電層102がセラミックブロック101中に埋設された形態となっている。
【0008】
そして、特許文献1のように吸着シートや粘着シートが敷設されたテーブルにセラミックブロックを載置し、或いは、この図12のように、セラミックブロック101をテーブル103に載置し、セラミックブロック101の一方の端部をガイド部材104に押し付けて該セラミックブロック101を固定する。次いで、セラミックブロック101の両側面をそれぞれCCDカメラで撮像して切断位置を検出し、その後カット刃105を上方から垂直方向に降下させてセラミックブロック101を切断し、これにより所定寸法のチップ成形品を得ることが可能となる。
【0009】
また、特許文献2には、カット刃の傾きの方向および度合いを画像処理によって認識し、当該画像処理データに基づいて、前記カット刃の傾きを修正すべく前記傾きの方向および度合いにそれぞれ応じた方向および距離をもって移動テーブルを調整移動させるセラミックグリーンブロックのカット方法が提案されている。
【0010】
この特許文献2では、カット刃の傾きを画像処理によって認識し、斜めカットを補正する方向に移動テーブルを移動させ、斜めカットを修正している。
【0011】
さらに、特許文献3には、 薄板状のワークを切断する平刃状のカット刃であって、先端からシャンク部に向かって形成された切断機能部の刃渡り方向の両端部が平面視Vの字形状を呈する切断刃が提案されている。
【0012】
この特許文献3では、カット刃の刃先形状を凹状の湾曲面とすることによって、ワークへの進入体積を減らし、カット時の接触面積を減少させ、これによりカット刃が座屈変形するのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−088161号公報
【特許文献2】特開2000−141347号公報
【特許文献3】特開2001−058316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
近年、積層セラミックコンデンサでは、小型大容量化の進展に伴って、内部電極の有効面積を増加させると共に、内部電極と切断後の部品素体との間隔を狭くすることが求められてきており、このため切断精度の高精度化が要求されている。
【0015】
しかしながら、上記特許文献1では、カット刃105を上方から垂直方向に押し切り、これによりセラミックブロック101を切断し、ているため、斜め方向に切断されるおそれがあり、このため信頼性が良好で高品質の積層型セラミック電子部品を得ることができないという問題があった。
【0016】
すなわち、特許文献1のような方法でセラミックブロック101を切断した場合、図11に示すように、カット刃105で切断されてチップ成形品107が得られるが、セラミックブロック101の体積が大きい場合は、矢印a方向からの反力が、切断されてチップ成形品107となった矢印b方向からの反力に比べて大きくなる。このためカット刃1の刃先が、カット刃105の受ける反力が小さいチップ成形品107側に傾いてしまい、その結果、セラミックブロック101を所望の垂直方向に切断することができず、斜め方向に切断されてしまうという問題があった。
【0017】
この場合、刃先の傾き易い方向と反対方向にカット刃を一定角度(例えば、0.2〜5°程度)傾けて切断することも考えられるが、カット刃を一定角度傾けても、切断処理中に反力の小さい方向に傾いてしまい、いわゆる斜めカットされるのを防止するのは困難である。
【0018】
また、特許文献2は、カット中に移動テーブルを移動させているが、このような方法では、制御方法が煩雑になり、カット時にカット刃やセラミックブロックの挙動が安定せず、斜めカットを十分に抑制するのは困難である。
【0019】
さらに、特許文献3に開示されたような刃先形状を凹湾曲面にしただけでは、切断面の反力の相違に起因した斜めカットを制御するのは困難である。
【0020】
このように特許文献1〜3では、いずれもセラミックブロックをチップ寸法に切断する際に刃先の挙動に起因して斜め方向に切断されるおそれがある。このため導電層がチップ成形品の側面に露出し、品質不良が生じやすい。
【0021】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、セラミックブロックを切断する際の切断方向を容易に制御することができるカット刃、このカット刃を使用した高品質で信頼性の良好な積層セラミック電子部品等の電子部品を製造することができる電子部品の製造方法、及び電子部品の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために本発明に係るカット刃は、両面に刃部を有し、セラミックブロックを前記刃部で切断するカット刃であって、表面粗さが、一方の刃部と他方の刃部とで異なることを特徴としている。
【0023】
また、本発明のカット刃は、前記一方の刃部の表面粗さは、前記他方の刃部の表面粗さの1.5倍以上であることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明のカット刃は、前記刃部の表面粗さは、算術平均粗さに換算し0.2μm以下であることが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る電子部品の製造方法は、所定の導電パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層して平板状のセラミックブロックを形成するセラミックブロック形成工程と、両面に刃部を有するカット刃を使用して前記セラミックブロックを所定寸法に切断しチップ体を得る切断工程とを含む電子部品の製造方法であって、前記カット刃を、一方の刃部と他方の刃部とで表面粗さが異なるように形成すると共に、前記切断工程は、前記セラミックブロックをテーブル上に固定し、前記テーブルを移動させて前記セラミックブロックの切断位置を決定し、該切断位置で前記カット刃の前記刃部を上方から下方に押し切り、前記セラミックブロックを所定寸法に切断し、前記チップ体を得ることを特徴としている。
【0026】
また、本発明の電子部品の製造方法は、前記切断されたときに表面粗さの細かい方の刃部が、分割された一方のセラミックブロックに引っ張られるように、前記カット刃を前記切断位置に配するのが好ましい。
【0027】
さらに、本発明の電子部品の製造方法は、前記カット刃を垂直方向から微小角度傾斜させて前記セラミックブロックを切断するのが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る電子部品の製造装置は、平板状のセラミックブロックが載置されると共に所定方向に移動可能なテーブルと、前記セラミックブロックを前記テーブルに固定する固定手段と、前記テーブルの移動状態を検知する検知部と、両面に刃部を有し前記テーブルの上方に配されて上下方向に往復運動するカット刃とを備えた電子部品の製造装置において、前記カット刃は、長刃状に形成されると共に、表面粗さが一方の刃部と他方の刃部とで異なることを特徴としている。
【0029】
また、本発明の電子部品の製造装置は、前記カット刃は、前記一方の刃部の表面粗さが、前記他方の刃部の表面粗さの1.5倍以上であるのが好ましい。
【0030】
さらに、本発明の電子部品の製造装置は、前記カット刃は、前記刃部の表面粗さが、算術平均粗さに換算し0.2μm以下であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明のカット刃によれば、両面に刃部を有し、セラミックブロックを前記刃部で切断するカット刃であって、表面粗さが、一方の刃部と他方の刃部とで異なるので、表面粗さが細かい刃部は表面粗さの粗い刃部に比べ、セラミックブロックの切断面との接触面積が大きくなり、摩擦抵抗も大きくなる。したがって、カット刃は、表面粗さの細かい刃部がセラミックブロックに引っ張られることとなり、セラミックブロックを切断した際に刃先の挙動が不安定となるのを抑制でき、これによりカット刃の切断方向を制御することが可能となる。すなわち、カット刃でセラミックブロックを切断する際に、カット刃が受ける反力との関係から、刃先の傾斜し易い方向とは反対方向の面に表面粗さの細かい刃部を配することにより、カット刃の切断方向を制御することができる。
【0032】
また、前記一方の刃部の表面粗さを、前記他方の刃部の表面粗さの1.5倍以上とすることにより、表面粗さの細かい方の刃部は表面粗さの粗い方の刃部に比べて相対的に引っ張られ、これによりカット時に刃先が反力の影響を受けて傾斜するのを抑制することができ、カット刃の切断方向を効果的に制御することができる。
【0033】
さらに、前記刃部の表面粗さを、算術平均粗さに換算し0.2μm以下とすることにより、刃部の表面粗さが切断面に転写されるのを防止することができ、品質不良が生じるのを回避することができる。
【0034】
本発明の電子部品の製造方法によれば、所定の導電パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層して平板状のセラミックブロックを形成するセラミックブロック形成工程と、両面に刃部を有するカット刃を使用して前記セラミックブロックを所定寸法に切断しチップ体を得る切断工程とを含む電子部品の製造方法であって、前記カット刃を、一方の刃部と他方の刃部とで表面粗さが異なるように形成すると共に、前記切断工程は、前記セラミックブロックをテーブル上に固定し、前記テーブルを移動させて前記セラミックブロックの切断位置を決定し、該切断位置で前記カット刃の前記刃部を上方から下方に押し切り、前記セラミックブロックを所定寸法に切断し、前記チップ体を得るので、表面粗さの細かい方の刃部は表面粗さの粗い方の刃部に比べ、セラミックブロックの切断面との接触面積が大きくなり、摩擦抵抗が大きくなり、カット刃は表面粗さの細かい刃部に密着しているセラミックブロック側に引っ張られる。したがって、セラミックブロックを上方から垂直方向に切断する場合は、刃先が傾斜し易い方向とは反対方向の面に表面粗さの細かい方の刃部を配して切断処理を行うことにより、セラミックブロックは斜め方向に切断されずに垂直方向に切断することが可能となる。
【0035】
すなわち、前記切断されたときに表面粗さの細かい方の刃部が、分割された一方のセラミックブロックに引っ張られるように、前記カット刃を前記切断位置に配することにより、切断時のカット刃の挙動、特に刃先の挙動が安定し、セラミックブロックの切断状態を制御することが可能となる。
【0036】
また、前記カット刃を垂直方向から微小角度傾斜させて前記セラミックブロックを切断することによって、表面粗さの細かい刃部側の面が引っ張られることから、当初の微小角度の傾斜が相殺されて、斜め方向に切断されず、垂直方向に切断することが可能となる。
【0037】
このように本発明の電子部品の製造方法によれば、切断方向を制御することができることから、所望の切断処理を行うことができ、切断時に導電層がチップ体の側面に表面露出するのを回避することができる。
【0038】
本発明の電子部品の製造装置によれば、平板状のセラミックブロックが載置されると共に所定方向に移動可能なテーブルと、前記セラミックブロックを前記テーブルに固定する固定手段と、前記テーブルの移動状態を検知する検知部と、両面に刃部を有し前記テーブルの上方に配されて上下方向に往復運動するカット刃とを備えた電子部品の製造装置において、前記カット刃は、長刃状に形成されると共に、表面粗さが一方の刃部と他方の刃部とで異なるので、カット刃がセラミックブロックを切断する場合に、表面粗さが細かい方の刃部は、表面粗さが粗い方の刃部に比べてセラミックブロックの切断面との接触面積が大きくなり、摩擦抵抗も大きくなる。そして摩擦抵抗の大きい面側のカット刃はセラミックブロックに引っ張られ、切断方向を制御することができる製造装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るカット刃の一実施の形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係るカット刃の一実施の形態を示す断面図である。
【図3】本発明のカット刃を使用してセラミックブロックを上方から垂直に降下させた場合の切断状態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る電子部品の製造方法で製造される積層セラミックコンデンサの一実施の形態を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に使用される電子部品の製造装置の一実施の形態を示す斜視図である。
【図6】セラミックブロックの要部拡大断面図である。
【図7】セラミックブロックの切断状態を示す断面図である。
【図8】移動テーブルを移動させて更にセラミックブロックを切断した状態を示す断面図である。
【図9】本発明に係る電子部品の製造方法の他の実施の形態を示す断面図である。
【図10】従来の切断方法の一例を示す断面図である。
【図11】従来技術の課題を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき詳説する。
【0041】
図1は本発明に係るカット刃の一実施の形態を示す斜視図であり、図2はその断面図である。
【0042】
該カット刃1は、超硬質材からなると共に、先端が尖鋭状に形成され、被切断物である平板状のセラミックブロックを縦方向及び横方向に切断可能となるように長刃状に形成されている。
【0043】
そして、このカット刃1は、両面に刃部2a、2bを有し、一方の刃部2aと他方の刃部2bとは表面粗さが異なるように形成されている。本実施の形態では一方の刃部2aが他方の刃部2bに比べて表面粗さが細かくなるように形成されている。
【0044】
このように形成されたカット刃1では、表面粗さの細かい刃部2aは表面粗さの粗い刃部2bに比べてセラミックブロックとの接触面積が大きくなり、このため摩擦抵抗も大きくなり、これによりセラミックブロックの切断方向を制御することが可能となる。
【0045】
図3は、上記カット刃1を使用してセラミックブロック3を上方から垂直に降下させた場合の切断状態を示す断面図である。
【0046】
すなわち、例えば、カット刃1でセラミックブロック3を垂直方向に切断する場合、カット刃1に対し、第1のセラミック体3aから受ける反力が第2のセラミック3bから受ける反力に比べて大きいと、刃部の表面粗さが同等であれば、刃先が、図中、左方向に傾きやすく、このため左方向に傾斜状に切断される。
【0047】
しかるに、刃部2aと刃部2bとの表面粗さを異ならせ、刃部2aの表面粗さを刃部2bの表面粗さよりも細かくすると、刃部2aは刃部2bに接触する第2のセラミック体3b側に比べて第1のセラミック体3a側との接触面積が大きくなり、このため摩擦抵抗も大きくなる。したがって、刃部2aは第1のセラミック体3a側に引っ張られることとなり、刃先の挙動が安定し、左方向に傾斜して切断されることなく、垂直方向に切断することができ、いわゆる斜めカットを抑制することができる。
【0048】
また、図3では、カット刃1に対し、第1のセラミック体3a側から受ける反力が第2のセラミック体3b側から受ける反力に比べて大きい場合について説明したが、第2のセラミック体3b側から受ける反力が第1のセラミック体3a側から受ける反力に比べて大きい場合は、刃部2bの表面粗さを刃部2aの表面粗さよりも細かくすることにより、同様に垂直方向に切断することができ、いわゆる斜めカットを抑制することができる。
【0049】
このようにカット刃1でセラミックブロック3を垂直方向に切断する場合、カット刃1が受ける反力との関係から、刃先の傾斜し易い方向とは反対方向の刃部2aの表面粗さを他方の刃部2bの表面粗さを細かくすることにより、カット刃1の切断方向を制御することができる。
【0050】
刃部2aと刃部2bは、両者の表面粗さが異なるのであれば、その比率は特に限定されるものではないが、所望のカット方向の制御を行う観点からは両者の比率は1.5倍以上が好ましい。
【0051】
また、表面粗さの具体的な数値も特に限定されるものではないが、切断面にカット刃の刃形が転写されるのを回避する観点からは、算術平均の表面粗さRaが0.2μm以下が好ましい。
【0052】
尚、切断時の切削抵抗を低減させるためには、刃部2a、2bの研磨方向は、カット刃1を押し切る切断方向と一致するように縦目の研磨目を形成するのが好ましい。
【0053】
次に、本発明の電子部品の製造方法について説明する。
【0054】
図4は、本製造方法を使用して製造される電子部品としての積層セラミックコンデンサの一実施の形態を示す断面図である。
【0055】
該積層セラミックコンデンサは、内部電極4a〜4fがセラミック素体5に埋設されると共に、該セラミック素体5の両端部には外部電極6a、6bが形成され、さらに該外部電極6a、6bの表面には第1のめっき皮膜7a、7b及び第2のめっき皮膜8a、8bが形成されている。
【0056】
セラミック素体5は、誘電体セラミック層9a〜9gと内部電極層4a〜4fとが交互に積層されて焼成されてなり、内部電極層4a、4c、4eは外部電極6aと電気的に接続され、内部電極層4b、4d、4fは外部電極6bと電気的に接続されている。そして、内部電極層4a、4c、4eと内部電極層4b、4d、4fとの対向面間で静電容量を形成している。
【0057】
そして、上記積層セラミックコンデンサは、上記カット刃1を使用して以下のように製造される。
【0058】
まず、BaCO、TiO等のセラミック素原料を所定量秤量し、湿式で十分に混合粉砕し、仮焼し、得られた仮焼粉に有機バインダや分散剤等各種添加物を添加して、再び湿式で十分に混合粉砕し、セラミックスラリーを作製し、ドクターブレード法等の成型加工法を使用して長尺のセラミックグリーンシートを作製する。次いで、内部電極用導電性ペーストをセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷し、該セラミックグリーンシートの表面に導電層を形成する。そして、導電層の形成されたセラミックグリーンシートを複数枚積層した後、導電層の形成されていないセラミックグリーンシートで挟持し、圧着して平板状のセラミックブロックを作製する。
【0059】
そしてその後、本発明のカット刃1を使用してセラミックブロックを切断する。
【0060】
図5は、本発明に使用される電子部品の製造装置の一実施の形態を示す斜視図である。
【0061】
該製造装置は、セラミックブロック11が載置されるテーブル12と、セラミックブロック11の一側面に当接されて前記セラミックブロックを位置決めし、固定するガイド部材(固定手段)13と、前記テーブル12を矢印A方向に往復運動させる駆動モータ14と、上述した本発明のカット刃1が装着されるクランプ部15と、該クランプ部15を矢印B方向に昇降運動させる駆動装置(図示せず)と、テーブル12の移動状態を検知する一対のCCDカメラ16a、16bとを備えている。また、カット刃1は、セラミックブロック11を縦方向及び横方向に切断して所定サイズのチップ成形品が得られるように長刃状に形成されている。
【0062】
図6は、セラミックブロック11の要部拡大断面図である。
【0063】
セラミックブロック11は、内部電極4となるべき導電層17を形成したセラミックグリーンシートが積層され、該導電層17がセラミックブロック11に埋設された形態を有している。そして、切断位置Cでカット刃1を押し切ってセラミックブロック11をチップ寸法に切断し、これによりセラミック素体となるチップ成形品(チップ体)19が得られる。
【0064】
具体的には、上記図5において、まず、セラミックブロック11をガイド部材13に当接させて該セラミックブロック11を位置決めしテーブル12に載置して固定する。
【0065】
一方、カット刃1を、表面粗さの細かい刃部2aがガイド部材13側となるようにクランプ部15に装着する。
【0066】
次いで、駆動モータ14を駆動させてテーブル12を移動させ、CCDカメラ16a、16bが切断位置Cを検知する。そして、クランプ部15を下降させ、カット刃1でセラミックブロック11を切断する。
【0067】
図7はセラミックブロックを切断する様子を示す断面図である。
【0068】
すなわち、図7(a)に示すように、カット刃1は上方から下降し、刃先がCCDセンサ16a、16bで検知された切断箇所に当接し、図7(b)に示すように、カット刃1はセラミックブロック11を押し切り、これによりチップ成形品19が得られる。
【0069】
そして、刃部2aは刃部2bに比べて表面粗さが細かいので、刃部2bに比べて切断面との接触面積が大きく、これにより摩擦抵抗も大きくなる。このため、ガイド部材13側のセラミックブロック11が刃部2aに引っ張られ、その結果刃先の挙動が安定し、セラミックブロック11が斜めカットされることなく切断される。
【0070】
次いで、図8に示すようにチップ寸法分だけテーブル12を移動させ、CCDセンサ16a、16bで切断位置を検知し、カット刃1でセラミックブロック11を切断する。
【0071】
以下同様にしてチップ寸法分だけテーブル12を移動させ、カット刃1でセラミックブロック11を切断する。次いで、テーブル12を不図示の駆動装置を使用して90°回転させ、その後、テーブル12を再びチップ寸法分だけ逐次移動させて切断処理を行い、これにより所定寸法に切断された多数のチップ成形品19が得られる。
【0072】
そしてその後は、このチップ成形品19を匣(さや)に入れ、焼成処理を施して内部電極が埋設された部品素体を作製し、該部品素体の両端部に外部電極を形成し、さらに外部電極にめっき処理を施し、これにより積層セラミックコンデンサが作製される。
【0073】
このように本実施の形態では、表面粗さの異なる刃部2a、2bを有するカット刃1で導電層17が埋設されたセラミックブロック11を切断しているので、刃部2bに比べて表面粗さの細かい刃部2aと切断面の接触面積が大きくなって摩擦抵抗も大きくなり、これにより刃部2aはガイド部材13に固定されたセラミックブロック側に引っ張られる。したがって、刃先の挙動が安定化し、斜め方向に振られることもなく、垂直方向に切断することが可能となる。
【0074】
すなわち、セラミックブロック11を高精度に切断することができ、チップ成形品19の側面から導電層17が露出することもなく、チップ形状に起因する実装不良が生じることもなく、高品質で信頼性の良好な積層型セラミック電子部品を得ることが可能となる。
【0075】
図9は、本発明の他の実施の形態を示す要部断面図である。
【0076】
すなわち、この実施の形態では、切断したときに、ガイド部材13に固定されている側のセラミックブロック11の対面に刃部2bよりも表面粗さの細かい刃部2aを配し、セラミックブロック11の垂直方向に対し微小角度θだけ傾斜させて切断させている。
【0077】
このように微小角度θだけ傾斜させて切断しても、刃部2aがガイド部材13に固定されている反力の大きなセラミックブロック11に引っ張られるので、刃先の挙動が安定し、セラミックブロック11が斜めカットされることもなく、切断することができる。
【0078】
このように傾斜させて切断する場合、微小角度θは5゜以下が好ましい。これは5°以上に傾斜させると、過度に傾斜して切断されるため導電層17がチップ成形品の側面から表面露出するおそれがあるからである。
【0079】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で変形可能なのはいうまでもない。例えば、上記実施の形態では、セラミックブロック11の一側面をガイド部材13で固定しているが、セラミックブロック11をテーブル12で固定できる手段であれば特に限定されるものではなく、吸着シートや粘着シート等でセラミックブロック11をテーブル12に固定してもよい。
【0080】
また、上記実施の形態では、電子部品として積層型セラミックコンデンサを例に説明したが、他の電子部品にも適用でき、特に、内部電極が埋設された各種電子部品、例えばコイル部品やLC複合部品等に適用できるのはいうまでもない。
【実施例】
【0081】
一方の刃部の表面粗さRaと他方の刃部の表面粗さRaとが異なる5種類のカット刃を作製した。
【0082】
表1は、カット刃の表面粗さと組み合わせを示している。
【0083】
【表1】

【0084】
表1中、◇印同士、◆印同士、◎印同士、●印同士、及び○印同士で一方の刃部と他方の刃部とが組み合わされている。
【0085】
そして、所定寸法のセラミックブロックに対してカット刃を使用し、斜めカット発生率を求めた。
【0086】
表2は各カット刃の表面粗さRaの比と、斜めカット発生率を示している。尚、斜めカットされているか否かは切断面を目視で判断した。
【0087】
【表2】

【0088】
この表2から明らかなように、表面粗さRaが1.5に近くなるほど、斜めカット発生率が低下することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のカット刃は、電子部品用セラミックブロックを切断する際に、刃先の挙動が不安定になることもなく、切断方向を制御することができる。そして、このカット刃を使用してセラミックブロックを切断することにより、高品質で信頼性の良好な積層セラミックコンデンサ等の各種電子部品を得ることができる。
【符号の説明】
【0090】
1 カット刃
2a、2b 刃部
3 セラミックブロック
11 セラミックブロック
12 移動テーブル
13 ガイド部材(固定手段)
16a、16b CCDカメラ(検知部)
19 チップ成形品(チップ体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面に刃部を有し、セラミックブロックを前記刃部で切断するカット刃であって、
表面粗さが、一方の刃部と他方の刃部とで異なることを特徴とするカット刃。
【請求項2】
前記一方の刃部の表面粗さは、前記他方の刃部の表面粗さの1.5倍以上であることを特徴とする請求項1記載のカット刃。
【請求項3】
前記刃部の表面粗さは、算術平均粗さに換算し0.2μm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のカット刃。
【請求項4】
所定の導電パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層して平板状のセラミックブロックを形成するセラミックブロック形成工程と、両面に刃部を有するカット刃を使用して前記セラミックブロックを所定寸法に切断しチップ体を得る切断工程とを含む電子部品の製造方法であって、
前記カット刃を、一方の刃部と他方の刃部とで表面粗さが異なるように形成すると共に、
前記切断工程は、前記セラミックブロックをテーブル上に固定し、前記テーブルを移動させて前記セラミックブロックの切断位置を決定し、該切断位置で前記カット刃の前記刃部を上方から下方に押し切り、前記セラミックブロックを所定寸法に切断し、前記チップ体を得ることを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記切断されたときに表面粗さの細かい方の刃部が、分割された一方のセラミックブロックに引っ張られるように、前記カット刃を前記切断位置に配することを特徴とする請求項4記載の電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記カット刃を垂直方向から微小角度傾斜させて前記セラミックブロックを切断することを特徴とする請求項4又は請求項5記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
平板状のセラミックブロックが載置されると共に所定方向に移動可能なテーブルと、前記セラミックブロックを前記テーブルに固定する固定手段と、前記テーブルの移動状態を検知する検知部と、両面に刃部を有し前記テーブルの上方に配されて上下方向に往復運動するカット刃とを備えた電子部品の製造装置において、
前記カット刃は、長刃状に形成されると共に、表面粗さが一方の刃部と他方の刃部とで異なることを特徴とする電子部品の製造装置。
【請求項8】
前記カット刃は、前記一方の刃部の表面粗さが、前記他方の刃部の表面粗さの1.5倍以上であることを特徴とする請求項7記載の電子部品の製造装置。
【請求項9】
前記カット刃は、前記一方の刃部の表面粗さが、算術平均粗さに換算し0.2μm以下であることを特徴とする請求項7又は請求項8記載の電子部品の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−826(P2013−826A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133092(P2011−133092)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】