説明

カバーレイフィルム、その製造方法およびフレキシブルプリント配線板

【課題】電磁波シールド機能を有し、屈曲性に優れ、フレキシブルプリント配線板の薄肉化が可能であり、かつ電磁波ノイズをシールドする層をフレキシブルプリント配線板のグランド回路に接続させる必要がないカバーレイフィルム、その製造方法およびフレキシブルプリント配線板を提供する。
【解決手段】少なくとも一方の表面の一部に形成された粗面化面21(凹凸面)および粗面化面21を除く非粗面化面22(非凹凸面)を有する基材フィルム20と、粗面化面21が形成された側の基材フィルム20の表面に形成された導電性材料からなる蒸着膜27とを有するカバーレイフィルム11を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド機能付きカバーレイフィルム、その製造方法およびこれを備えたフレキシブルプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板、電子部品等から発生する電磁波ノイズは、他の電気回路や電子部品に影響を与え、誤動作等の原因となることがあるため、電磁波ノイズをシールドする必要がある。そのため、電磁波シールド機能をフレキシブルプリント配線板に付与することが行われている。
【0003】
また、フレキシブルプリント配線板を備えた電子機器の小型化、多機能化に伴って、フレキシブルプリント配線板に許容される空間は狭くなってきている。そのため、フレキシブルプリント配線板には、薄肉化および折り曲げ半径の低減が求められており、厳しくなる屈曲条件においても、配線導体が断線することなく機能することが求められている。
【0004】
電磁波シールド機能付きフレキシブルプリント配線板としては、例えば、下記のものが提案されている。
(1)耐熱プラスチックフィルム表面の銅箔配線回路上に、アンダーコート層、金属粉を含む導電ペーストを塗布したシールド層、オーバーコート層を順次設け、銅箔配線回路のグランドパターンとシールド層とが適宜の間隔でアンダーコート層を貫通して電気的に接続しているフレキシブルプリント配線板(特許文献1)。
(2)カバーレイフィルムの片面に金属薄膜層と金属フィラーを含む導電性接着剤層とを順次設けた電磁波シールドフィルムを、プリント回路のうちグランド回路の一部を除いて絶縁する絶縁層が設けられた基体フィルム上に、導電性接着剤層が絶縁層およびグランド回路の一部と接着するように載置したフレキシブルプリント配線板(特許文献2)。
【0005】
しかし、(1)のフレキシブルプリント配線板は、下記の問題点を有する。
(i)金属粉を含むシールド層は、多くの異種材料界面を有しているため脆く、フレキシブル配線板の屈曲繰り返しに対し、十分な強度を有していない。
(ii)グランドパターンの一部を除く銅箔配線回路とシールド層との絶縁を保つためにアンダーコート層が必要であり、フレキシブルプリント配線板が厚くなる。
(iii)グランドパターンの一部とシールド層とを電気的に接続するために、アンダーコート層の一部に透孔を形成する必要があり、透孔の加工に手間がかかる。
【0006】
また、(2)のフレキシブルプリント配線板は、下記の問題点を有する。
(i)金属フィラーを含む導電性接着剤層は、多くの異種材料界面を有しているため脆く、フレキシブル配線板の屈曲繰り返しに対し、十分な強度を有していない。
(ii)グランド回路の一部を除くプリント回路と導電性接着剤層との絶縁を保つために絶縁層が必要であり、フレキシブルプリント配線板が厚くなる。
(iii)グランド回路の一部と導電性接着剤層とを電気的に接続するために、絶縁層の一部に貫通孔を形成する必要があり、貫通孔の加工に手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−33999号公報
【特許文献2】特開2000−269632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、電磁波シールド機能を有し、屈曲性に優れ、フレキシブルプリント配線板の薄肉化が可能であり、かつ電磁波ノイズをシールドする層をフレキシブルプリント配線板のグランド回路に接続させる必要がないカバーレイフィルム、その製造方法およびフレキシブルプリント配線板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のカバーレイフィルムは、少なくとも一方の表面の一部に形成された凹凸面および該凹凸面を除く非凹凸面を有する基材フィルムと、
前記凹凸面が形成された側の前記基材フィルムの表面に形成された導電性材料からなる蒸着膜とを有することを特徴とする。
【0010】
前記非凹凸面に形成された蒸着膜の表面抵抗R1は、0.01〜5Ωであり、前記凹凸面に形成された蒸着膜の表面抵抗R2は、前記表面抵抗R1の2〜100倍であることが好ましい。
前記凹凸面は、間隔を開けて繰り返し形成されていることが好ましい。
【0011】
本発明のカバーレイフィルムは、さらに、前記蒸着膜の表面に設けられた保護層を有することが好ましい。
本発明のカバーレイフィルムは、さらに、最表層に設けられた絶縁性接着剤層を有することが好ましい。
【0012】
本発明のカバーレイフィルムの製造方法は、下記の工程(I)および工程(II)を有することを特徴とする。
(I)基材フィルムの少なくとも一方の表面の一部に凹凸面を形成する工程。
(II)前記凹凸面が形成された側の前記基材フィルムの表面に、金属を物理的に蒸着させて導電性材料からなる蒸着膜を形成する工程。
【0013】
本発明のフレキシブルプリント配線板は、絶縁性フィルム上に配線導体が形成されたフレキシブルプリント配線板本体と、該フレキシブルプリント配線板本体に貼着された本発明のカバーレイフィルムとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカバーレイフィルムは、電磁波シールド機能を有し、屈曲性に優れ、フレキシブルプリント配線板の薄肉化が可能であり、かつ電磁波ノイズをシールドする層をフレキシブルプリント配線板のグランド回路に接続させる必要がない。
本発明のカバーレイフィルムの製造方法によれば、電磁波シールド機能を有し、屈曲性に優れ、フレキシブルプリント配線板の薄肉化が可能であり、かつ電磁波ノイズをシールドする層をフレキシブルプリント配線板のグランド回路に接続させる必要がないカバーレイフィルムを製造できる。
本発明のフレキシブルプリント配線板は、電磁波シールド機能を有し、屈曲性に優れ、薄肉化が可能であり、かつ電磁波ノイズをシールドする層をグランド回路に接続させる必要がない。さらには、配線導体上を絶縁層(電磁波シールド機能のない、通常のカバーレイフィルム等)で絶縁隔置する必要がないため、部材を低減でき、また工程を省力化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のカバーレイフィルムの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のカバーレイフィルムの他の例を示す断面図である。
【図3】本発明のカバーレイフィルムの他の例を示す断面図である。
【図4】本発明のカバーレイフィルムの他の例を示す断面図である。
【図5】本発明のフレキシブルプリント配線板の一例を示す断面図である。
【図6】本発明のフレキシブルプリント配線板の他の例を示す断面図である。
【図7】本発明のフレキシブルプリント配線板の他の例を示す断面図である。
【図8】本発明のフレキシブルプリント配線板の他の例を示す断面図である。
【図9】電磁波シールド機能の評価に用いたシステムを示す構成図である。
【図10】屈曲性の評価方法を説明する図である。
【図11】実施例1において電磁波シールド機能の評価を行った際に測定された受信特性を示すグラフである。
【図12】従来のフレキシブルプリント配線板の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<カバーレイフィルム>
図1は、本発明のカバーレイフィルムの一例を示す断面図である。カバーレイフィルム11は、片面の一部を粗面化して形成された粗面化面21(凹凸面)および該粗面化面21を除く非粗面化面22(非凹凸面)を有する基材フィルム20と、粗面化面21が形成された側の基材フィルム20の表面に形成された導電性材料からなる蒸着膜27と、蒸着膜27の表面に設けられた保護層28と、粗面化面21が形成された側とは反対側の基材フィルム20の表面に設けられた絶縁性接着剤層30とを有する。
【0017】
図2は、本発明のカバーレイフィルムの他の例を示す断面図である。カバーレイフィルム12は、片面の一部に印刷を施して形成された印刷面23(凹凸面)および該印刷面23を除く非印刷面24(非凹凸面)を有する基材フィルム20と、印刷面23が形成された側の基材フィルム20の表面に形成された導電性材料からなる蒸着膜27と、蒸着膜27の表面に設けられた保護層28と、印刷面23が形成された側とは反対側の基材フィルム20の表面に設けられた絶縁性接着剤層30とを有する。
【0018】
図3は、本発明のカバーレイフィルムの他の例を示す断面図である。カバーレイフィルム13は、片面の一部をエッチングして形成されたエッチング面25(凹凸面)および該エッチング面25を除く非エッチング面26(非凹凸面)を有する基材フィルム20と、エッチング面25が形成された側の基材フィルム20の表面に形成された導電性材料からなる蒸着膜27と、蒸着膜27の表面に設けられた保護層28と、エッチング面25が形成された側とは反対側の基材フィルム20の表面に設けられた絶縁性接着剤層30とを有する。
【0019】
図4は、本発明のカバーレイフィルムの他の例を示す断面図である。カバーレイフィルム14は、片面の一部に印刷を施して形成された印刷面23(凹凸面)および該印刷面23を除く非印刷面24(非凹凸面)を有する基材フィルム20と、印刷面23が形成された側の基材フィルム20の表面に形成された導電性材料からなる蒸着膜27と、蒸着膜27の表面に設けられた、絶縁性スペーサ粒子32を含む絶縁性接着剤層30とを有する。
【0020】
(基材フィルム)
基材フィルム20は、蒸着膜27を形成する際の下地となるフィルムである。
基材フィルム20の材料としては、樹脂またはゴム弾性体が挙げられる。
樹脂としては、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
基材フィルム20の表面抵抗は、1×10Ω以上が好ましい。
基材フィルム20の厚さは、可とう性の点から、3〜25μmが好ましい。
【0021】
(凹凸面)
凹凸面は、基材フィルム20の表面を粗面化して形成された粗面化面21、基材フィルム20の表面に印刷を施して形成された印刷面23、基材フィルム20の表面をエッチングして形成されたエッチング面25等である。
【0022】
粗面化処理としては、ブラスト処理等が挙げられる。基材フィルム20の材料がポリイミドの場合は、アルカリ処理によっても粗面化できる。
印刷としては、グラビア印刷、フレキソ印刷等が挙げられる。印刷に用いる印刷インキとしては、印刷面23に凹凸を形成しやすい点から、アンチブロッキング剤(ポリマー粒子等)を含むことが好ましい。
エッチング処理としては、ウエットエッチング、ドライエッチング(レーザエッチング等)等が挙げられる。
【0023】
凹凸面の算術平均粗さRaは、0.3〜3μmが好ましい。凹凸面の算術平均粗さRaが0.3μm以上であれば、凹凸面に形成される蒸着膜27bが十分に薄くなり、該蒸着膜27bの表面抵抗R2が十分に高くなる。凹凸面の算術平均粗さRaが3μm以下であれば、基材フィルム20の強度低下が抑えられる。
算術平均粗さRaは、JIS B0651:1996の規定によるものである。
【0024】
凹凸面が形成された領域の形状としては、棒状、円形状、カギ状、渦巻状等が挙げられる。
凹凸面の1つあたりの最大長は、蒸着膜27がシールドする電磁波ノイズの波長λの1/4以下が好ましい。
凹凸面の1つあたりの面積は、蒸着膜27による電磁波シールド機能の点から、0.1〜40mmが好ましく、0.25〜20mmがより好ましい。
【0025】
凹凸面は、蒸着膜27が電磁波ノイズをムラなくシールドできるように、基材フィルム20の全面にわたって所定のピッチで繰り返し形成されていることが好ましい。
凹凸面の合計面積は、蒸着膜27の面積(100%)のうち、10〜50%が好ましい。凹凸面の合計面積が10%未満では、後述する蒸着膜27bによる蒸着膜27aを流れる高周波電流の十分な損失が図れない。凹凸面の合計面積が50%を超えると、電磁波シールド機能の維持のために、蒸着膜27aを厚くする必要がある。
【0026】
(非凹凸面)
非凹凸面(非粗面化面22、非印刷面24、非エッチング面26)は、積極的に粗面化処理、印刷、エッチング処理等を行っていない面である。算術平均粗さRaが凹凸面よりも十分に小さければ、多少の凹凸を有していてもよい。
非凹凸面の算術平均粗さRaは、0.1μm以下が好ましい。非凹凸面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であれば、非凹凸面に形成される蒸着膜27aが厚くなり、該蒸着膜27aの表面抵抗R1が十分に低くなる。
【0027】
(蒸着膜)
蒸着膜27は、基材フィルム20の表面に、金属を物理的に蒸着させて形成される導電性材料からなる膜である。
導電性材料としては、金属または導電性セラミックスが挙げられる。
金属としては、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。
耐環境特性を向上させる点から、導電性セラミックスは好ましい。導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素とからなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には、窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化タングステン、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ケイ化クロム、ケイ化ジルコニウム等が挙げられる。
物理的蒸着法としては、EB蒸着法、イオンビーム蒸着法、スパッタ法等が挙げられ、セラミック化のためにガス流通下で物理的蒸着を行ってもよい。
【0028】
蒸着膜27の表面抵抗は、基材フィルム20の非凹凸面に形成される蒸着膜27aと、基材フィルム20の凹凸面に形成される蒸着膜27bとで異なる。すなわち、基材フィルム20の凹凸面は、基材フィルム20の表面に直交する方向の上面から見たときの投影面積に比べ、実際の凹凸を加味した面積の方が広いため、同じ蒸着量で金属を物理的に蒸着させた場合、基材フィルム20の凹凸面に形成される蒸着膜27bが、非凹凸面に形成される蒸着膜27aよりも薄くなる。その結果、蒸着膜27bの表面抵抗R2が、蒸着膜27aの表面抵抗R1よりも大きくなる。
【0029】
蒸着膜27aの表面抵抗R1は、電磁波を反射させる電磁波シールド機能の点から、0.01〜5Ωが好ましく、0.01〜1Ωがより好ましい。
蒸着膜27aの厚さは、表面抵抗値、耐屈曲特性の点から、50〜200nmが好ましい。
【0030】
蒸着膜27bの表面抵抗R2は、蒸着膜27aを流れる高周波電流を十分に損失させる点から、蒸着膜27aの表面抵抗R1の2〜100倍が好ましい。
蒸着膜27bの厚さは、表面抵抗値の点から、5〜100nmが好ましく、5〜50nmがより好ましい。
【0031】
蒸着膜27の透過減衰特性は、−10dB以下が好ましく、−20dB以下がより好ましい。透過減衰特性は、例えば、ASTM D4935に準拠した、シールド効果を平面波で測定する同軸管タイプシールド効果測定システム(キーコム社製)を用いて測定することがでる。
【0032】
(保護層)
保護層28は、外部の接触から蒸着膜27を保護する層である。
保護層28は、樹脂またはゴム弾性体からなる層である。保護層28の表面抵抗は、1×10Ω以上が好ましい。
保護層28としては、フィルムからなる層、塗料を塗布して形成された塗膜等が挙げられる。
フィルムの材料としては、基材フィルム20の材料と同様のものが挙げられる。
保護層28の厚さは、可とう性の点から、3〜25μmが好ましい。
【0033】
(カバーレイフィルム本体)
カバーレイフィルム本体の厚さ(カバーレイフィルム11〜14から絶縁性接着剤層30を除いた厚さ)は、屈曲性の点から、3〜50μmが好ましい。カバーレイフィルム本体の厚さが3μm以上であれば、カバーレイフィルム11〜14が十分な強度を有し、絶縁信頼性が高くなる。カバーレイフィルム本体の厚さが50μm以下であれば、フレキシブルプリント配線板の屈曲性が良好となり、繰り返しの折り曲げによっても配線導体にクラックが生じにくく、断線しにくい。
【0034】
(絶縁性接着剤層)
絶縁性接着剤層30は、カバーレイフィルム本体をフレキシブルプリント配線板に貼着させるものである。
絶縁性接着剤としては、エポキシ樹脂に可とう性付与のためのゴム成分(カルボキシル変性ニトリルゴム等)を含有させた半硬化状態のもの、熱可塑性ポリイミド等が好ましい。該絶縁性接着剤は、熱プレス等の加熱により流動状態となり、再活性化することにより接着性を発現する。
絶縁性接着剤中には、絶縁性接着剤が流動して蒸着膜27とフレキシブルプリント配線板の配線導体とが接触することを防ぐために、粒径が1〜10μm程度のスペーサ粒子32(酸化ケイ素、酸化チタン、水酸化マグネシウム等)を含むことも可能であり、該粒子が、流動性調整あるいは難燃性等の別の機能を有していても構わない。
【0035】
絶縁性接着剤層30の厚さは、絶縁性接着剤が流動状態となり、フレキシブルプリント配線板の配線導体間を十分に埋めるため、5〜40μmが好ましく、10〜20μmがより好ましい。
【0036】
以上説明したカバーレイフィルム11〜14にあっては、後述する理由から蒸着膜27をフレキシブルプリント配線板のグランド回路に接続させなくても、電磁波シールド機能を有する。そのため、蒸着膜27をグランド回路に接続させるために接着剤層に導電性を付与する必要がなくなり、屈曲性が向上する。また、接着剤層が導電性を有さないため、接着剤層とフレキシブルプリント配線板の配線導体との間を絶縁するための絶縁層が不要となり、フレキシブルプリント配線板の薄肉化が可能となる。
【0037】
理由:
蒸着膜27をフレキシブルプリント配線板のグランド回路に接続させなくてもよい理由としては、下記のことが考えられる。
非凹凸面に形成された比較的表面抵抗の低い蒸着膜27aは、グランド回路に接続していないことからアンテナとして働き、電磁波ノイズは蒸着膜27a内を高周波電流となって流れ、その縁端部から再度放出される。再放出時には、蒸着膜27aの縁端部に電磁界の変動が生まれ、そのうち磁界変動に伴う渦電流が、凹凸面に形成された比較的表面抵抗の高い蒸着膜27bに流れて、熱損失するため、電磁波ノイズのエネルギーが減衰するものと考えられる。
【0038】
<カバーレイフィルムの製造方法>
本発明のカバーレイフィルムの製造方法は、下記の工程(I)〜工程(IV)を有する方法である。
【0039】
(I)基材フィルムの少なくとも一方の表面の一部に凹凸面を形成する工程。
(II)前記凹凸面が形成された側の前記基材フィルムの表面に、金属を物理的に蒸着させて導電性材料からなる蒸着膜を形成する工程。
(III)必要に応じて、蒸着膜の表面に保護層を設ける工程。
(IV)最表層に絶縁性接着剤層を設ける工程。
【0040】
凹凸面を形成する方法としては、上述の粗面化処理、印刷、エッチング処理等が挙げられる。
蒸着膜を形成する方法としては、上述の物理的蒸着法が挙げられる。
保護層を設ける方法としては、フィルムを貼着する方法、塗料を塗布する方法等が挙げられる。
絶縁性接着剤層を設ける方法としては、シート状の絶縁性接着剤を貼着する方法、液状の絶縁性接着剤を塗布する方法等が挙げられる。
【0041】
<フレキシブルプリント配線板>
図5〜8は、本発明のフレキシブルプリント配線板の各例を示す断面図である。フレキシブルプリント配線板41〜44は、絶縁性フィルム51の一方の表面に高速信号線路52(配線導体)および他の線路53(配線導体)が形成され、他方の表面にグランド層54が形成されたフレキシブルプリント配線板本体50と、フレキシブルプリント配線板本体50の配線導体側の表面に絶縁性接着剤層30によって貼着されたカバーレイフィルム11〜14とを有する。
フレキシブルプリント配線板41〜44の端部は、ハンダ接続、コネクター接続、部品搭載等のため、カバーレイフィルム11〜14に覆われていない。該端部以外は折り曲げられる部位であって、通常、折り曲げ外径1〜3mmで180度ほど折り曲げられる。
【0042】
(フレキシブルプリント配線板本体)
フレキシブルプリント配線板本体50は、絶縁性フィルム51の一方の表面に高速信号線路52を有し、他方の表面にグランド層54を有するマイクロストリップ構造等となっている。
【0043】
フレキシブルプリント配線板本体50は、銅張積層板の銅箔を既存のエッチング手法により所望の形状のパターンに形成したものである。
銅張積層板としては、絶縁性フィルムの少なくとも片面側に銅箔を接着剤で貼り合わせた2〜3層構造の片面または両面基板;銅箔上にフィルムを形成する樹脂溶液等をキャストした2層構造の片面基板等が挙げられる。
銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられ、屈曲性の点から、圧延銅箔が好ましい。銅箔の厚さは、3〜18μmが好ましい。
【0044】
(絶縁性フィルム)
絶縁性フィルム51の表面抵抗は、1×10Ω以上が好ましい。
絶縁性フィルム51は、耐熱性を有するフィルムが好ましく、ポリイミドフィルム、液晶ポリマーフィルム等がより好ましい。
絶縁性フィルム51の厚さは、5〜50μmが好ましく、屈曲性の点から、6〜25μmがより好ましく、10〜25μmが特に好ましい。
【0045】
(高速信号線路)
高速信号線路52は、1GHz以上の高周波信号を伝送する線路である。高周波信号の周波数は、3GHz以上が好ましく、10GHz以上がより好ましく、40GHz以上が特に好ましい。
高速信号線路52は、離間して対向配置されたグランド層54および/またはグランド線路によって、伝送特性のよいマイクロストリップ構造またはコプレーナ構造となる。
【0046】
(他の線路)
他の線路53は、高速信号線路52以外の線路である。他の線路53としては、電源線路、線路形状のグランド線路、高速信号線路52よりも低い周波数の信号を伝送する低速信号線路(バイアス電圧制御用線路、光パワーモニター用制御用線路等。)等が挙げられる。
【0047】
以上説明したフレキシブルプリント配線板41〜44にあっては、上述した理由から、蒸着膜27を配線導体のグランド回路に接続させなくても、電磁波シールド機能を有する。そのため、蒸着膜27をグランド回路に接続させるために接着剤層に導電性を付与する必要がなくなり、屈曲性が向上する。また、接着剤層が導電性を有さないため、接着剤層と配線導体との間を絶縁するための絶縁層が不要となり、フレキシブルプリント配線板41〜44の薄肉化が可能となる。また、従来は必要であった、グランド回路と導電性接着剤層とを電気的に接続するために、絶縁層に貫通孔を形成する手間も不要である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
(各層の厚さ)
透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、H9000NAR)を用いてカバーレイフィルムの断面を観察し、各層の5箇所の厚さを測定し、平均した。
【0050】
(表面抵抗)
石英ガラス上に金を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、該電極上に被測定物を置き、被測定物上から、被測定物の10mm×20mmの領域を50gの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定し、この値を持って表面抵抗とした。
【0051】
(電磁波シールド機能の評価)
カバーレイフィルムの電磁波シールド機能を評価した。図9に示すシステムを用い、スペクトラムアナライザ72を内蔵したトラッキングジェネレータに同軸ケーブルで接続したシールドループアンテナ74(ループ径:8mm、ループ中心からマイクロストリップライン76までの距離:10mm)から発信した電磁波ノイズ(1MHzから2GHz)をライン長55mmのマイクロストリップライン76(Z:50Ω、基板サイズ:50mm×80mm、背面:全面グランド)で受け、カバーレイフィルムでマイクロストリップライン76を覆うか否かの状態で受信特性をスペクトラムアナライザ72で測定した。
【0052】
(屈曲性の評価)
図10に示すように、スライドする2枚の基板82および基板84にフレキシブルプリント配線板40を固定し、端部電極間の抵抗値をモニタリングした。基板82と基板84との間隔Dが折り曲げ外径(=折り曲げ半径×2)となる。スライド条件は、ストローク40mmで、往復回数は60回/分で行い、初期抵抗値が2倍になった回数を破断回数とした。
【0053】
〔実施例1〕
図1に示す構造を有するカバーレイフィルム11を以下のように作製した。
80mm×80mm×厚さ12.5μmのポリイミドフィルム(基材フィルム20、算術平均粗さRa:0.08μm)の片面に、1mm×3mmの孔が5mmのピッチで形成されたマスクを被せ、ブラスト処理を行い、孔に対応した位置に粗面化面21(凹凸面、算術平均粗さRa:1.6μm)を形成した。
粗面化面21が形成された側のポリイミドフィルムの表面に、マグネトロンスパッタ法にてアルミニウムを物理的に蒸着させアルミニウム蒸着膜(蒸着膜27)を形成した。非凹凸面に形成された蒸着膜27aの表面抵抗R1は0.5Ωであり、凹凸面に形成された蒸着膜27bの表面抵抗R2は1.8Ωであった。
アルミニウム蒸着膜の表面に、アクリルウレタン塗料を、塗布し、乾燥させて、80mm×80mm×厚さ3μmの保護層28を形成した。
粗面化面21が形成された側とは反対側のポリイミドフィルの表面に、ニトリルゴム変性エポキシ樹脂からなる絶縁性接着剤を、乾燥膜厚が20μmになるように塗布し、図1に示すカバーレイフィルム11を得た。
【0054】
カバーレイフィルム11から、電磁波シールド機能評価用のマイクロストリップ基板と同じ大きさ(50mm×80mm)のサンプルを切り出した。
図9に示すマイクロストリップ基板に該サンプルの絶縁性接着剤層30側を押し当て、マイクロストリップライン76をカバーレイフィルム11で覆った。シールドループアンテナ74から1MHzから2GHzの掃引された高周波信号を出力し、受信特性を測定した。受信特性を図11に示す。また、マイクロストリップライン76がカバーレイフィルム11で覆われていない状態での受信特性も図11に示す。マイクロストリップライン76がカバーレイフィルム11で覆われていない状態に比べ、マイクロストリップライン76がカバーレイフィルム11で覆われた状態では、受信特性は数dBから最大20dBほど減衰した。
【0055】
ついで、図5に示すように、フレキシブルプリント配線板本体50にカバーレイフィルム11を貼着してフレキシブルプリント配線板41を得た。
フレキシブルプリント配線板41を、図10示す基板82および基板84にハンダ接続し、間隔Dを1mm(折り曲げ半径は0.5mm)とし、ストローク:40mmで基板をスライドさせ、往復回数:60回/分で破断回数を測定した。破断回数は62万回であった。
【0056】
〔比較例1〕
図12に示す構造を有するフレキシブルプリント配線板150を作製した。
まず、厚さ12.5μmのポリイミドフィルム120の表面に、ニトリルゴム変性エポキシ樹脂からなる絶縁性接着剤を、乾燥膜厚が20μmになるように塗布し、絶縁性接着剤層130を形成し、カバーレイフィルム110を得た。カバーレイフィルム110には接地のための透孔112を形成した。
【0057】
ついで、厚さ12μmのポリイミドフィルム162の表面に、グランド線路164、電源線路166および高速信号線路168が形成され、裏面にグランド層169が設けられたフレキシブルプリント配線板本体160を用意した。
フレキシブルプリント配線板本体160に、端部電極を除いてカバーレイフィルム110を熱プレスにより貼着した。
【0058】
厚さ3μmのポリフェニレンサルファイドフィルム172の表面に、イオンビーム蒸着法にてアルミニウムを物理的に蒸着させ、厚さ100nmのアルミニウム蒸着膜174を形成した。
ニトリルゴム変性エポキシ樹脂からなる絶縁性接着剤に、平均粒径が10μmのニッケル粒子を5体積%分散させた導電性接着剤を用意した。
アルミニウム蒸着膜174の表面に、導電性接着剤を、乾燥膜厚が12μmになるように塗布し、導電性接着剤層176を形成し、電磁波シールドフィルム170を得た。
【0059】
電磁波シールドフィルム170のアルミニウム蒸着膜174に、接地されているプローブを接触させて接地した以外は、実施例1と同様にして電磁波シールド機能の評価を行った。電磁波シールド効果は実施例1と同等であった。
【0060】
ついで、カバーレイフィルム110側に、電磁波シールドフィルム170を熱プレスにより貼着し、図12に示すフレキシブルプリント配線板150を得た。カバーレイフィルム110側の電磁波シールドフィルム170のアルミニウム蒸着膜174は、透孔112を通して導電性接着剤層176により配線導体164のグランド回路に接地した。
該フレキシブルプリント配線板の屈曲性を実施例1と同様に評価した。破断回数は30万回であり、実施例1に比べ劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のカバーレイフィルムを備えたフレキシブルプリント配線板は、光トランシーバ、携帯電話、デジタルカメラ、ゲーム機、ノートパソコン等の小型電子機器用のフレキシブルプリント配線板として有用である。
【符号の説明】
【0062】
11 カバーレイフィルム
12 カバーレイフィルム
13 カバーレイフィルム
14 カバーレイフィルム
20 基材フィルム
21 粗面化面(凹凸面)
22 非粗面化面(非凹凸面)
23 印刷面(凹凸面)
24 非印刷面(非凹凸面)
25 エッチング面(凹凸面)
26 非エッチング面(非凹凸面)
27 蒸着膜
27a 蒸着膜
27b 蒸着膜
28 保護層
30 絶縁性接着剤層
40 フレキシブルプリント配線板
41 フレキシブルプリント配線板
42 フレキシブルプリント配線板
43 フレキシブルプリント配線板
44 フレキシブルプリント配線板
50 フレキシブルプリント配線板本体
51 絶縁性フィルム
52 高速信号線路(配線導体)
53 他の線路(配線導体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面の一部に形成された凹凸面および該凹凸面を除く非凹凸面を有する基材フィルムと、
前記凹凸面が形成された側の前記基材フィルムの表面に形成された導電性材料からなる蒸着膜と
を有する、カバーレイフィルム。
【請求項2】
前記非凹凸面に形成された蒸着膜の表面抵抗R1が、0.01〜5Ωであり、
前記凹凸面に形成された蒸着膜の表面抵抗R2が、前記表面抵抗R1の2〜100倍である、請求項1に記載のカバーレイフィルム。
【請求項3】
前記凹凸面が、間隔を開けて繰り返し形成されている、請求項1または2に記載のカバーレイフィルム。
【請求項4】
さらに、前記蒸着膜の表面に設けられた保護層を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のカバーレイフィルム。
【請求項5】
さらに、最表層に設けられた絶縁性接着剤層を有する、請求項1〜4のいずれかに記載のカバーレイフィルム。
【請求項6】
下記の工程(I)および工程(II)を有する、カバーレイフィルムの製造方法。
(I)基材フィルムの少なくとも一方の表面の一部に凹凸面を形成する工程。
(II)前記凹凸面が形成された側の前記基材フィルムの表面に、金属を物理的に蒸着させて導電性材料からなる蒸着膜を形成する工程。
【請求項7】
絶縁性フィルム上に配線導体が形成されたフレキシブルプリント配線板本体と、
該フレキシブルプリント配線板本体に貼着された請求項1〜5のいずれかに記載のカバーレイフィルムと
を有する、フレキシブルプリント配線板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−212300(P2010−212300A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54041(P2009−54041)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】