説明

カメラ用羽根駆動装置

【課題】シャッタ装置を、絞り装置とフィルタ装置の少なくとも一方とユニット化するに際し、地板とカバー板との間隔を、従来より狭くできるようにしたカメラ用羽根駆動装置を提供すること。
【解決手段】シャッタ羽根12は、地板1と中間板2の間の羽根室に配置され、絞り羽根13は、中間板2とカバー板3の間の羽根室内に配置されているが、中間板2は、地板1の中間板取付軸1n,1pに対し、それらの軸方向へ移動可能に取り付けられている。中間板取付軸1n,1pには、地板1と中間板2の間に形状記憶合金製のコイルばね14,15が嵌装され、中間板2とカバー板3の間には、通常のコイルばね16,17が嵌装されていて、中間板2は、コイルばね14,15に電圧を印加しているか否かによって、地板1側か、カバー板3側へ移動されているようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地板とカバー板との間を中間板で仕切って二つの羽根室を構成し、一方の羽根室にシャッタ羽根を配置し、他方の羽根室に絞り羽根とフィルタ羽根の少なくとも一方を配置するようにしたカメラ用羽根駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ用の羽根駆動装置としては、レンズシャッタ装置,フォーカルプレンシャッタ装置,絞り装置,フィルタ装置,レンズバリア装置が知られているが、それらのうち、レンズシャッタ装置(以下、単に、シャッタ装置という),絞り装置,フィルタ装置の場合には、単独でユニット化されることもあるが、シャッタ装置を、絞り装置とフィルタ装置の少なくとも一方と、一つのユニットとして構成することがある。そして、最近のそれらの各装置においては、少なくとも1枚の羽根を、電磁アクチュエータで往復作動させるのが一般的になっている。
【0003】
また、少なくとも二つの装置を一つのユニットとして構成する場合は、下記の特許文献1に記載されているように、各装置用の羽根を、同じ一つの羽根室内に配置することが知られている。しかしながら、通常は、下記の特許文献2にも記載されているように、地板とカバー板との間を中間板で仕切って二つの羽根室を構成し、一方の羽根室にはシャッタ羽根を配置し、他方の羽根室には他の装置の羽根を配置するのが普通である。本発明は、そのように、二つの羽根室を構成したカメラ用羽根駆動装置に関するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−241725号公報
【特許文献2】特開2001−117135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近のカメラは、例えば携帯電話のような携帯用情報機器端末にも内蔵されるようになってきた。そのため、カメラ用羽根駆動装置には、その平面形状の小型化はもちろんとして、光軸と平行な方向の寸法を小さくすること(以下、薄型化という)も要求されている。そして、そのように薄型化を図るためには、電磁アクチュエータ自体の構成や、地板への電磁アクチュエータの取付け構成を工夫することによって、電磁アクチュエータの取付け領域の薄型化を図る方法と、羽根室を構成している領域の薄型化を図る方法とがあるが、前者については、これまでにも、かなりの努力が払われ、十分とはいえないまでも、それなりの成果が得られるようになってきた。
【0006】
ところが、後者については、これというようような目新しい解決策が見当たらない。羽根室内で羽根を安定して作動させるためには、周知のように、羽根の厚さ寸法よりも大きな所定の空間が必要であるため、その空間を、これまで以上に狭くすることはできない。そのため、考えられることといえば、せいぜい、羽根の厚さを可能な範囲で薄くするとか、上記のカバー板や中間板も可能な範囲で薄くするというくらいのことである。しかし、そのようなことは従来からも行なわれてきているので、現在では、もはや限界状態にあるといっても過言ではない。
【0007】
そこで、シャッタ装置と他の装置とを一つのユニットとして構成したカメラ用羽根駆動装置においては、上記の特許文献1に記載されているように、中間板をなくしてしまい、シャッタ羽根とその他の羽根とを一つの羽根室に配置してしまうことが提案されている。この方法によれば、確かに薄型化が可能である。しかしながら、そのように構成するためには、シャッタ羽根と他の羽根(絞り羽根又はフィルタ羽根)とが作動中に衝突しないようにするために、シャッタ羽根と他の羽根とが、いかなる作動状態においてもそれらの一部が必ず重なり合っているように構成しなければならないという制約がある。そのため、装置の設計の自由度が損なわれてしまうという問題点がある。
【0008】
また、シャッタ装置と他の装置とをユニット化したカメラ用羽根駆動装置においては、撮影に際して、先ず、他の羽根を作動させておいてからシャッタ羽根を作動させる場合と、最初からシャッタ羽根だけを作動させる場合とがあるから、中間板がない場合には、そのような作動形態の違いによって、シャッタ羽根の作動開始直前や作動中における他の羽根との重なり条件が変ってしまうことになる。そのため、シャッタ羽根の安定した作動が得られるようにするためには、シャッタ羽根を駆動する電磁アクチュエータの駆動力を大きくしなければならないなどの問題点がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、地板とカバー板との間を中間板で仕切って二つの羽根室を構成し、一方の羽根室にはシャッタ羽根を配置し、他方の羽根室には絞り羽根とフィルタ羽根の少なくとも一方を配置するようにしても、地板とカバー板との間を従来よりも薄型化することの可能なカメラ用羽根駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明のカメラ用羽根駆動装置は、撮影光路用の開口部を有している地板と、撮影光路用の開口部を有していて所定の間隔を空けて前記地板に固定されているカバー板と、前記二つの開口部との三者のうちの少なくとも一つによって光軸を中心にした露光開口を規制する撮影光路用の開口部を有しており前記地板と前記カバー板との間で前記地板に立設されている複数の中間板取付軸に対し光軸に沿う方向へ移動可能に取り付けられていて前記地板との間に第1羽根室を構成し前記カバー板との間に第2羽根室を構成している中間板と、前記第1羽根室に配置されていて第1駆動手段によって前記露光開口に進退させられる少なくとも1枚の第1羽根と、前記第2羽根室に配置されていて第2駆動手段によって前記露光開口に進退させられる少なくとも1枚の第2羽根と、前記地板と前記中間板との間に配置されていて前記中間板を前記カバー板側に押圧する複数の第1押圧部材と、前記中間板と前記カバー板との間に配置されていて前記中間板を前記地板側に押圧する複数の第2押圧部材と、を備えていて、前記二つの押圧部材の一方は、電圧を印加すると変形し、電圧の印加を停止すると原形に復する形状可変素子からなっており、前記中間板は、該一方の押圧部材に電圧が印加されているときは、前記地板と前記カバー板のいずれか一方側へ移動させられた状態になっていて、該一方の押圧部材に電圧が印加されていないときは、他方側へ移動させられた状態になっているようにする。
【0011】
その場合、前記第1羽根と前記第2羽根のうち、前記形状可変素子からなる押圧部材に電圧を印加しているとき広くなっている方の羽根室に配置されている羽根が、シャッタ羽根であり、狭くなっている方の羽根室に配置されている羽根が、絞り羽根とフィルタ羽根の少なくとも一方であるようにしたり、前記第1押圧部材が、前記形状可変素子からなる押圧部材であるようにしたりすると、より実用的な構成になる。また、前記第1羽根が、シャッタ羽根であり、前記第2羽根が、絞り羽根とフィルタ羽根の少なくとも一方であるようにすることが、より好ましい。
【0012】
また、前記形状可変素子からなる押圧部材は、形状記憶合金で製作されたコイルばねであって、該コイルばねは、前記中間板取付軸の周面に緩く嵌装されているようにすることが好ましいが、前記形状可変素子からなる押圧部材は、電歪素子で製作されていて一端を固定端とし他端を自由端とした板部材であるようにしてもよい。
【0013】
更に、それらのカメラ用羽根駆動装置においては、前記形状可変素子からなる押圧部材ではない方の押圧部材が、通常の金属製のコイルばねであって、該コイルばねは、前記中間板取付軸の周面に緩く嵌装されているようにすることが好ましい。また、本発明のカメラ用羽根駆動装置は、前記露光開口を規制する口径規制板が、前記地板に密接して備えられていて、前記第1羽根室が、該口径規制板と前記中間板との間に構成されているようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のカメラ用羽根駆動装置は、地板とカバー板との間を仕切って二つの羽根室を構成している中間板が、地板に立設されている中間板取付軸に対して、光軸に沿った方向へ移動可能に取り付けられていて、地板とカバー板のいずれか一方との間に配置されている形状可変素子からなる押圧部材に対し、電圧を印加していないときは一方へ移動させられていて、印加しているときは他方へ移動させられているようにしたので、各羽根室に配置されている羽根を順に作動させることが可能であるにもかかわらず、従来よりも地板とカバー板との間隔を小さくすることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施の形態を、図示した実施例によって説明する。本発明のカメラ用羽根駆動装置は、上記したように、シャッタ装置を、絞り装置とフィルタ装置の少なくとも一方とユニット化したカメラ用羽根駆動装置であるが、実施例は、1枚のシャッタ羽根を備えたシャッタ装置と、1枚の絞り羽根を備えた絞り装置とを一つのユニットとして構成したものである。そのため、その他の態様については、実施例の説明中で適宜説明することにする。尚、図面は、いずれも実施例を説明するためのものであって、図1は、撮影待機状態を示した正面図であり、図2は、図1を下方から見て二つの羽根室の状態を分かり易く示した底面図である。また、図3は、撮影終了直後の状態を示した正面図であり、図4は、図3を下方から見て二つの羽根室の状態を分かり易く示した底面図である。
【実施例】
【0016】
先ず、本実施例の構成を、主に図1及び図2を用いて説明する。地板1は、合成樹脂製であり、図1において、その略中央部には、直径の大きな凹部1aが形成されており、その凹部1aの底面には光軸を中心にして撮影光路用の開口部1bが形成されている。図1の背面側には、地板1よりも薄く且つ平面外形形状の略同じな中間板2が配置されていて、地板1との間に後述する1枚のシャッタ羽根12の羽根室を構成している。そして、この中間板2にも、光軸を中心にして、上記の開口部1bよりも直径の大きな撮影光路用の開口部2aが形成されている。
【0017】
また、図1において、中間板2の背面側には、中間板2よりも厚く且つ平面外形形状の略同じなカバー板3が配置されていて、後述する手段によって、地板1に取り付けられ、中間板2との間に、後述する1枚の絞り羽根13の羽根室を構成している。そして、このカバー板3にも、光軸を中心にした撮影光路用の開口部3aが形成されているが、その直径は、中間板2の開口部2aと略同じである。そのため、本実施例の場合には、地板1の開口部1bが露光開口を規制するようになっている。しかしながら、周知のように、中間板2の開口部2aやカバー板3の開口部3aの直径を一番小さくして、露光開口を規制するようにしても差し支えない。
【0018】
地板1の、羽根室とは反対側になる面に、同じ構成をした二つの電磁アクチュエータが取り付けられているが、それらの構成と地板への取付け構成は周知であるため、簡単に説明することにする。先ず、図1の上方に配置されている電磁アクチュエータの関連構成を説明する。地板1には、二つの固定子取付軸1c,1dが立設されている。また、明示していないが、地板1には、上記の凹部1aのようにしてL字形の凹部が形成されており、その底面には、回転子取付軸1eが立設され、且つ円弧状をした逃げ孔1fが羽根室側への貫通孔として形成されている。
【0019】
その回転子取付軸1eには、永久磁石製の回転子4が回転可能に取り付けられている。この回転子4は、径方向に2極に着磁された本体部4aと、その本体部4aから径方向へ張り出して形成されている腕部4bと、その腕部4bの先端に形成された出力ピン4cとで構成されており、その出力ピン4cを、円弧状をした上記の逃げ孔1fから羽根室内に挿入している。
【0020】
固定子枠5は、合成樹脂製であって、二つの板状部5a,5bと、それらの間に形成された中空のボビン部5cとからなっている。そして、ボビン部5cには、全体形状が筒状になるようにしてコイル6が巻回されている。また、略U字形をしているヨーク7は、二つの脚部7a,7bを有していて、一方の脚部7aを、ボビン部5cに挿入しており、二つの脚部7a,7bの先端を磁極部として、回転子4の本体部4aの円周面に対向させている。
【0021】
この固定子枠5は、ボビン部5cにコイル6を巻回し且つヨーク7を取り付けた状態にしておいて、熱カシメによって地板1の固定子取付軸1c,1dに取り付けられている。即ち、固定子取付軸1c,1dは、地板1の製作時には円柱形をしているので、固定子枠5の板状部5a,5bに形成されている孔5d,5eをそれらに嵌合させた後、孔5d,5eから突き出ている先端を熱溶解させ、フランジ状に変形させることによって、地板1に固定されている。
【0022】
次に、図1の下方に配置されている電磁アクチュエータの関連構成を説明する。地板1には、二つの固定子取付軸1g,1hが立設されている。また、地板1には、明示されていないL字形の凹部が形成されており、その底面には、回転子取付軸1iが立設され、且つ円弧状をした逃げ孔1jが羽根室側への貫通孔として形成されている。
【0023】
回転子取付軸1iには、永久磁石製の回転子8が回転可能に取り付けられている。この回転子8は、径方向に2極に着磁された本体部8aと、腕部8bと、出力ピン8cとで構成されており、その出力ピン8cを、円弧状をした上記の逃げ孔1jから羽根室内に挿入している。
【0024】
固定子枠9は、合成樹脂製であって、二つの板状部9a,9bと、それらの間に形成された中空のボビン部9cとからなっていて、ボビン部9cにはコイル10が巻回されている。また、ヨーク11は、二つの脚部11a,11bを有していて、脚部11aをボビン部9cに挿入しており、脚部11a,11bの先端を磁極部として、回転子8の本体部8aの円周面に対向させている。そして、この固定子枠9は、コイル10を巻回し且つヨーク11を取り付けた状態にしておいて、板状部9a,9bに形成された孔9d,9eを固定子取付軸1g,1hに嵌合させ、熱カシメによって地板1に固定されている。
【0025】
地板1の羽根室側の面には、二つの羽根取付軸1k,1mと、二つの中間板取付軸1n,1pと、四つのストッパ1q,1r,1s,1tとが立設されている。また、地板1の四隅には、台部1uが設けられているが、図1においては図示を省略され、図2においては、その一つだけが示されている。そして、それらの台部1uには、カバー板取付軸1v,1w,1x,1yが立設されている。そのため、中間板2の外形形状は、地板1の外周部に形成されている四つの台部1uと、二つのストッパ1q,1rとを逃げるように形成されており、カバー板3の外形形状は、二つのストッパ1q,1rを逃げるように形成されている。
【0026】
中間板2は、二つの孔2b,2cを上記の中間板取付軸1p,1nに嵌合させ、それらをガイドとして光軸に沿った方向へ移動可能に取り付けられている。また、カバー板3は、四隅に形成された孔3b,3c,3d,3eを上記のカバー板取付軸1v,1w,1x,1yに嵌合させ、熱カシメによって地板1に固定されている。そして、上記の中間板取付軸1p,1nは、それらの先端を、カバー板3に形成された孔3f,3gに緩く挿入している。また、上記の羽根取付軸1k,1mと、ストッパ1s,1tは、中間板2とカバー板3に形成された図示していない夫々の孔に緩く挿入されている。
【0027】
地板1と中間板2の間に、1枚のシャッタ羽根12が配置されている。このシャッタ羽根12は、長孔12aを有していて、上記の羽根取付軸1kに回転可能に取り付けられている。そして、上記の回転子4の出力ピン4cは、シャッタ羽根12の長孔12aに嵌合し、その先端を、上記の逃げ孔1fと同じ形状に形成されている中間板2とカバー板3の逃げ孔2d,3hに挿入している。
【0028】
中間板2とカバー板3の間に、1枚の絞り羽根13が配置されている。この絞り羽根13は、長孔13aと、上記の開口部1bよりも直径の小さな開口部(絞り開口)13bとを有していて、上記の羽根取付軸1mに回転可能に取り付けられている。そして、上記の回転子8の出力ピン8cは、上記の逃げ孔1jと同じ形状に形成された中間板2の逃げ孔2eに挿入した後、絞り羽根13の長孔13aに嵌合し、その先端を、逃げ孔2eと同じ形状に形成されたカバー板3の逃げ孔3iに挿入している。
【0029】
地板1の中間板取付軸1n,1pには、中間板2をカバー板3側へ移動させる押圧部材として、コイルばね14,15が緩く嵌装され、また、中間板2を地板1側へ移動させる押圧部材として、コイルばね16,17が緩く嵌装されている。それらのうち、コイルばね16,17は、通常の金属製のコイルばねである。しかし、コイルばね14,15の方は、形状可変素子である形状記憶合金で製作されており、電圧を印加していないときには収縮形状を維持し、電圧を印加しているときは伸長状態にさせられるようになっている。そのため、本実施例においては、コイルばね14,15は、一端を地板1に固定し、他方を中間板2に固定していて、図示していない制御回路により電圧を印加し得るようにしてある。
【0030】
次に、本実施例の作動を説明する。図1及び図2は、撮影待機状態を示したものである。この状態では、カメラの電源スイッチはオンになっているが、形状記憶合金製のコイルばね14,15には通電されていない。そのため、図2に示されているように、それらのコイルばね14,15は収縮状態を維持しているので、中間板2は、コイルばね16,17の付勢力によって地板1側へ移動させられていて、シャッタ羽根12を地板1に押し付けることによって、その作動を拘束している。そのため、シャッタ羽根12と回転子4は、衝撃や振動を受けても回転させられてしまうことがない。
【0031】
また、この状態では、二つの電磁アクチュエータのコイル6,10にも通電されていない。しかし、周知のように、このときには、回転子4,8の本体部4a,8aと、ヨーク7,11の磁極部との間に、回転子4,8の磁力が働いていて、回転子4,8は、反時計方向へ回転するように付勢されている。そのため、絞り羽根13は、反時計方向へ回転するように付勢され、ストッパ1rによってその回転を阻止されている状態にさせられているので、中間板2とカバー板3との間で拘束されていなくても、衝撃や振動に対してこの状態を維持できるようになっている。そして、この図1及び図2に示された状態では、図示していない固体撮像素子に被写体光が当たっており、撮影者は、モニターによって被写体像を観察することが可能になっている。
【0032】
撮影に際してレリーズボタンが押されると、その初期段階において、先ず、測光回路によって被写体光を測定し、その結果により、被写体光を減光しないで撮影すると判断された場合には、シャッタ羽根12だけを作動させるが、被写体光を減光して撮影すると判断された場合には、最初に、絞り羽根13を作動させておいてから、シャッタ羽根12を作動させることになる。
【0033】
そこで先ず、測光回路の測定結果によって、被写体光を減光して撮影すると判断された場合の作動を説明する。このときには、最初に、コイル10に対して順方向の電流が供給される。それにより、回転子8は時計方向へ回転させられ、出力ピン8cによって絞り羽根13を時計方向へ回転させる。そのため、絞り羽根13は、その開口部13bの中心が開口部1bの中心位置までくると、ストッパ1tに当接して停止させられる。
【0034】
この状態になると、形状記憶合金製のコイルばね14,15に電圧が印加されて、コイルばね14,15が伸長し、コイルばね16,17の付勢力に抗して、中間板2をカバー板3側へ移動させる。そのため、中間板2とカバー板3によって構成されている羽根室が狭くなって、絞り羽根13は、カバー板3に押し付けられ、拘束状態になる。他方、地板1と中間板2の間に構成されている羽根室は広くなるので、シャッタ羽根12は拘束を解かれ、作動可能状態になる。図4は、その状態を示したものである。
【0035】
その後、固体撮像素子に蓄積されていた電荷が放出されて、撮影が開始され、新たな電荷が固体撮像素子に蓄積されていく。そして、所定の時間が経過すると、露光時間制御回路からの信号によって、コイル6に順方向の電流が供給されるので、回転子4が時計方向へ回転させられ、その出力ピン4cによって、シャッタ羽根12を時計方向へ回転させ、開口部1bの閉じ作動を行なわせる。その後、開口部1bを完全に閉鎖すると、シャッタ羽根12は、その直後に、ストッパ1sに当接して停止する。図3は、そのときの状態を示したものであり、この状態で、固体撮像素子に蓄積された電荷が、撮像情報として記憶装置に転送される。
【0036】
このようにして、撮影が終了すると、今度はコイル6に対して逆方向の電流が供給されるので、回転子4は図3の状態から反時計方向へ回転させられ、出力ピン4cによってシャッタ羽根12を反時計方向へ回転させ、開口部1bの開き作動を行なわせる。そして、シャッタ羽根12は、開口部1bから完全に退くと、その直後にストッパ1qに当接して停止する。
【0037】
このようにして、シャッタ羽根12の開き作動が停止すると、形状記憶合金製のコイルばね14,15に対する電圧の印加が停止させられる。そのため、コイルばね14,15は原形の収縮状態に復帰するので、中間板2は、コイルばね16,17の付勢力によって、地板1側へ移動させられる。そのため、地板1と中間板2の間に構成されている羽根室が狭くなって、シャッタ羽根12は地板1に押し付けられ、拘束状態にさせられる。他方、中間板2とカバー板3の間に構成されている羽根室は広くなるので、絞り羽根13は拘束を解かれ、作動可能状態になる。
【0038】
その後、コイル10に対しても逆方向の電流が供給される。そのため、回転子8は反時計方向へ回転させられ、その出力ピン8cによって、絞り羽根13を反時計方向へ回転させ、開口部1bから退かせていく。そして、開口部1bから完全に退くと、絞り羽根13は、その直後に、ストッパ1rに当接して停止する。その後、コイル6,10への通電を断つと、図1及び図2に示された撮影待機状態に復帰したことになる。
【0039】
このように、本実施例の中間板2は、絞り羽根13を作動させるときには、地板1側に寄せられ、シャッタ羽根12を作動させるときには、カバー板3側に寄せられるため、従来のように、中間板2が固定されている場合に比べて、地板1とカバー板3の間の、光軸に沿った方向の寸法を小さくすることができるという特徴がある。
【0040】
次に、撮影に際してレリーズボタンを押したとき、測光回路の測定結果によって、被写体光を減光しないで撮影すると判断された場合の作動を簡単に説明する。この場合には、絞り羽根13は作動させられることがないため、直ちに、形状記憶合金製のコイルばね14,15に電圧が印加される。そのため、コイルばね14,15が伸長し、コイルばね16,17の付勢力に抗して、中間板2をカバー板3側へ移動させるので、図4に示されているように、絞り羽根13は拘束状態になり、シャッタ羽根12は拘束を解かれ、作動可能状態になる。
【0041】
その後、固体撮像素子に蓄積されていた電荷が放出されて、撮影が開始され、新たな電荷が固体撮像素子に蓄積されていく。そして、所定の時間が経過すると、露光時間制御回路からの信号によって、コイル6に順方向の電流が供給されるので、回転子4が時計方向へ回転させられ、シャッタ羽根12に閉じ作動を行なわせる。開口部1bが完全に閉鎖すると、シャッタ羽根12は、ストッパ1sに当接して停止する。そして、その状態で、固体撮像素子に蓄積された電荷が、撮像情報として記憶装置に転送される。
【0042】
このようにして撮影が終了すると、コイル6に対して逆方向の電流が供給されるので、回転子4は反時計方向へ回転させられ、シャッタ羽根12に開き作動を行なわせる。そして、シャッタ羽根12は、開口部1bから完全に退くと、ストッパ1qに当接して停止する。そこで、形状記憶合金製のコイルばね14,15に対する電圧の印加が停止させられる。そのため、コイルばね14,15は原形の収縮状態に復帰するので、中間板2は、コイルばね16,17の付勢力によって、地板1側へ移動させられる。その後、コイル6への通電を断つと、図1及び図2に示された撮影待機状態に復帰したことになる。
【0043】
尚、本実施例においては、コイルばね14,15を形状記憶合金製とし、コイルばね16,17を通常の金属製としているが、コイルばね14,15を通常の金属製とし、コイルばね16,17を形状記憶合金製としても差し支えない。しかしながら、制御回路に接続されるプリント配線板は、通常、羽根室とは反対側で地板1に一体化されることが多いので、そのようにしている場合には、本実施例のようにすることが好ましい。また、本実施例では、コイルばね14,15とコイルばね16,17とを、いずれも中間板取付軸1n,1pに嵌装させているが、中間板取付軸1n,1pとは別の複数の軸を立設し、それらに嵌装させているようにしてもよい。
【0044】
また、本実施例では、シャッタ羽根12を、地板1と中間板2の間に構成されている羽根室に配置し、絞り羽根13を、中間板2とカバー板3の間に構成されている羽根室に配置しているが、絞り羽根13を、地板1と中間板2の間に構成されている羽根室に配置し、シャッタ羽根12を、中間板2とカバー板3の間に構成されている羽根室に配置するようにしても構わない。そして、そのようにする場合には、上記の作動説明からも分かるように、コイルばね14,15の方を通常の金属製にし、コイルばね16,17の方を形状記憶合金製にするのが好ましい。但し、本実施例の形状記憶合金製のコイルばね14,15は、電圧を印加していないときは収縮状態になっていて、電圧を印加すると伸長状態になる押圧部材であるが、電圧を印加していないときは伸長状態になっていて、電圧を印加すると収縮状態になる押圧部材とした場合は、配置位置を変えない方がよい。
【0045】
また、本実施例では、本発明における、形状可変素子からなる押圧部材を、形状記憶合金製のコイルばね14,15としているが、それらに代えて、特開平2−184830号公報などで周知のように、一端を固定端とし他端を自由端とした板状の電歪素子からなる押圧部材にしても構わない。そして、そのような押圧部材を、本実施例のように、地板1と中間板2の間に配置した場合には、中間板2は、それらの押圧部材に電圧を印加しているときは、コイルばね16,17の付勢力に抗して、カバー板3側へ移動させられ、電圧の印加が停止しているときは、コイルばね16,17の付勢力によって、地板1側に移動させられているようにすることも可能であるし、それらの押圧部材に電圧を印加しているときは、コイルばね16,17の付勢力によって、地板1側に移動させられているようにし、電圧の印加が停止しているときは、コイルばね16,17の付勢力に抗して、カバー板3側へ移動させられているようにすることも可能である。
【0046】
また、本実施例では、1枚のシャッタ羽根12を備えているが、本発明は、周知のような、同時に相反する方向へ回転させられるようにした2枚のシャッタ羽根を備えるようにしても構わない。また、本実施例のカメラ用羽根駆動装置は、シャッタ装置と絞り装置とをユニット化したものであるが、本実施例の絞り羽根13を周知のフィルタ羽根に代えれば、シャッタ羽根とフィルタ装置とをユニット化したカメラ用羽根駆動装置になる。また、絞り羽根とフィルタ羽根は、シャッタ羽根ほど安定した作動を要求されないので、同じ羽根室に、直径の異なる絞り開口を有する複数枚の絞り羽根を配置したり、濃度の異なるフィルタを有する複数枚のフィルタ羽根を配置するようにしてもよいし、例えば、絞り羽根とフィルタ羽根とを1枚ずつ配置するようにしても構わない。
【0047】
更に、本実施例においては、地板1の開口部1bが露光開口を規制するようにしているが、例えば、特開2007−272022号公報などで周知のように、地板の開口部を大きくし、地板の羽根室側の面に密着して配置された薄い口径規制板(又は口径板)の開口部で、露光開口を規制するようにしたカメラ用羽根駆動装置が知られている。本発明は、そのような構成のカメラ用羽根駆動装置にも適用することが可能であるが、その場合には、一方の羽根室は、口径規制板と中間板の間に構成され、他方の羽根室は、本実施例のように、中間板とカバー板との間に構成されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】撮影待機状態を示した正面図である。
【図2】図1を下方から見て二つの羽根室の状態を分かり易く示した底面図である。
【図3】撮影終了直後の状態を示した正面図である。
【図4】図3を下方から見て二つの羽根室の状態を分かり易く示した底面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 地板
1a 凹部
1b,2a,3a,13b 開口部
1c,1d,1g,1h 固定子取付軸
1e,1i 回転子取付軸
1f,1j,2d,2e,3h,3i 逃げ孔
1k,1m 羽根取付軸
1n,1p 中間板取付軸
1q〜1t ストッパ
1u 台部
1v,1w,1x,1y カバー板取付軸
2 中間板
2b,2c,3b〜3g,5d,5e,9d,9e 孔
3 カバー板
4,8 回転子
4a,8a 本体部
4b,8b 腕部
4c,8c 出力ピン
5,9 固定子枠
5a、5b、9a、9b 板状部
5c,9c ボビン部
6,10 コイル
7,11 ヨーク
7a,7b,11a,11b 脚部
12 シャッタ羽根
12a,13a 長孔
13 絞り羽根
14,15,16,17 コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光路用の開口部を有している地板と、撮影光路用の開口部を有していて所定の間隔を空けて前記地板に固定されているカバー板と、前記二つの開口部との三者のうちの少なくとも一つによって光軸を中心にした露光開口を規制する撮影光路用の開口部を有しており前記地板と前記カバー板との間で前記地板に立設されている複数の中間板取付軸に対し光軸に沿う方向へ移動可能に取り付けられていて前記地板との間に第1羽根室を構成し前記カバー板との間に第2羽根室を構成している中間板と、前記第1羽根室に配置されていて第1駆動手段によって前記露光開口に進退させられる少なくとも1枚の第1羽根と、前記第2羽根室に配置されていて第2駆動手段によって前記露光開口に進退させられる少なくとも1枚の第2羽根と、前記地板と前記中間板との間に配置されていて前記中間板を前記カバー板側に押圧する複数の第1押圧部材と、前記中間板と前記カバー板との間に配置されていて前記中間板を前記地板側に押圧する複数の第2押圧部材と、を備えていて、前記二つの押圧部材の一方は、電圧を印加すると変形し、電圧の印加を停止すると原形に復する形状可変素子からなっており、前記中間板は、該一方の押圧部材に電圧が印加されているときは、前記地板と前記カバー板のいずれか一方側へ移動させられた状態になっていて、該一方の押圧部材に電圧が印加されていないときは、他方側へ移動させられた状態になっているようにしたことを特徴とするカメラ用羽根駆動装置。
【請求項2】
前記第1羽根と前記第2羽根のうち、前記形状可変素子からなる押圧部材に電圧を印加しているとき広くなっている方の羽根室に配置されている羽根が、シャッタ羽根であり、狭くなっている方の羽根室に配置されている羽根が、絞り羽根とフィルタ羽根の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1に記載のカメラ用羽根駆動装置。
【請求項3】
前記第1押圧部材が、前記形状可変素子からなる押圧部材であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカメラ用羽根駆動装置。
【請求項4】
前記第1羽根が、シャッタ羽根であり、前記第2羽根が、絞り羽根とフィルタ羽根の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のカメラ用羽根駆動装置。
【請求項5】
前記形状可変素子からなる押圧部材が、形状記憶合金で製作されたコイルばねであって、該コイルばねは、前記中間板取付軸の周面に緩く嵌装されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のカメラ用羽根駆動装置。
【請求項6】
前記形状可変素子からなる押圧部材が、電歪素子で製作されていて一端を固定端とし他端を自由端とした板部材であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のカメラ用羽根駆動装置。
【請求項7】
前記形状可変素子からなる押圧部材ではない方の押圧部材が、通常の金属製のコイルばねであって、該コイルばねは、前記中間板取付軸の周面に緩く嵌装されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のカメラ用羽根駆動装置。
【請求項8】
前記露光開口を規制する口径規制板が、前記地板に密接して備えられていて、前記第1羽根室が、該口径規制板と前記中間板との間に構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のカメラ用羽根駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−85437(P2010−85437A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251190(P2008−251190)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】