説明

カルバマート誘導体の製造方法、並びに、ヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法

【課題】経済性、操作性、および廃液の処理性に優れるとともに、生産物を高純度で得ることができるヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法等を提供する。
【解決手段】アミノフェノール誘導体とクロロ炭酸クロロアルキルとをアルコール性のヒドロキシ基を有する溶媒中で反応させて対応するカルバマート誘導体を製造した後、該カルバマート誘導体を水酸化アルカリで処理することによる、下式で表されるヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法。


(式中、R1は水素原子、C1−C4のアルキル基等を表し、R2は水素原子、C1−C4のアルキル基等を表し、R3は水素原子、又はC1−C2のアルキル基を表し、R5はC2−C6のヒドロキシアルキル基を表す。ここで、R1、R2、及びアミノ基は、互いに重複することなくヒドロキシ基に対してオルト、メタ、又はパラの位置にある。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルバマート誘導体の製造方法、並びに、ヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法に関する。本発明は、染毛剤の製造に有用なものである。
【背景技術】
【0002】
毛髪に染色において酸化染料がよく使用されている。酸化染料で染色された毛髪は耐光性と耐摩擦性に優れ、堅牢である。また酸化染料は被覆性にも優れているため、いったんケラチンに染着してからは空気中の酸素によって更なる酸化が徐々に進み、濃色化される傾向が強い。通常の染料が時間の経過とともに退色化し、洗髪のたびに流れのとは対照的な挙動をとっている。このようなケラチン等を染色するための染料、及びp−フェニレンジアミン等の染料前駆体アミンと結合して発色に必要な調色剤、すなわちカップラーとして、レゾルシン及びヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体がよく使用されている。
【0003】
ヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の代表的な製法は、2つの工程からなる(特許文献1〜3)。すなわち、第一工程では、アミノフェノール誘導体とクロロアルキルクロロホルマートとを非プロトン性溶媒中で反応させて、カルバマート誘導体とする。第二工程では、第一工程で得られたカルバマート誘導体を、プロトン性溶媒添加の水溶媒中、強アルカリで処理して転位反応(脱炭酸)を起こさせ、ヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体とする。第一工程で用いる非プロトン性溶媒としては、ジオキサン、トリオール、クロルベンゾール、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、モノエチレングリコールジメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等が例示されている(特許文献1〜3)。
【0004】
前述のとおり、従来技術では第一工程を非プロトン性溶媒中で行っている。ここでプロトン性溶媒とはプロトン供与性を有する溶媒であり、アルコール、カルボン酸、フェノール等が例示される。プロトン性溶媒はプロトンを受容できる性質(ルイス塩基性)をも有する。プロトン性溶媒は酸素あるいは窒素原子に結合した比較的酸性度の高い水素を持つが、同時に酸素あるいは窒素が非共有電子対をも持つことから、プロトン性溶媒とは溶媒分子間で水素結合を形成している溶媒ともいえる。したがって、第一工程では、反応の妨害になりうるプロトン性溶媒を反応系からできるだけ排除して副生成物の生成を抑えることが、生産物の純度を上げる上での技術常識となっている。従来技術において第一工程を非プロトン性溶媒中で行っている理由は、この技術常識に基づいたものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−33801号公報
【特許文献2】特公平3−80182号公報
【特許文献3】特開平7−149696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非プロトン性溶媒は高価なものが多く、経済性の面で不利である。第二工程で溶媒を安価なものに変える等の工夫をすることもできるが、操作が煩雑となってしまう。さらに、非プロトン性溶媒を用いると廃液処理に手間がかかるという問題もある。
【0007】
本発明の目的は、経済性、操作性、および廃液の処理性に優れるとともに、生産物を高純度で得ることができるヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、一般式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子、C1−C4のアルキル基、又はハロゲン原子を表し、R2は水素原子、C1−C4のアルキル基、C1−C4のアルキルアミノ基、ニトロ基、又はハロゲン原子を表し、R3は水素原子、又はC1−C2のアルキル基を表す。ここで、R1、R2、及びアミノ基は、互いに重複することなくヒドロキシ基に対してオルト、メタ、又はパラの位置にある。)
で表される化合物と、
一般式(2)
【化2】

(式中、R4はC2−C6のクロロアルキル基を表す)
で表される化合物とをアルコール性のヒドロキシ基を有する溶媒中で反応させる工程を包含する、
一般式(3)
【化3】

(式中、R1,R2,R3は一般式(1)と同様の意味を有し、R4は一般式(2)と同様の意味を有する。)
で表されるカルバマート誘導体の製造方法である。
【0009】
本発明は上記一般式(3)で表されるカルバマート誘導体の製造方法に係るものであり、上記一般式(1)で表される化合物と上記一般式(2)で表される化合物とをアルコール性のヒドロキシ基を有する溶媒中で反応させる工程を包含する。上記一般式(3)で表されるカルバマート誘導体は、染毛剤として有用なヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体を製造する際の第一工程で生成する中間体である。本発明によれば、当該第一工程を、非プロトン性溶媒を用いることなく行うことができる。そのため、経済性、操作性、および廃液の処理性に優れたヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法を提供することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記溶媒が第一級アルコール又は第二級アルコールであることを特徴とする請求項1に記載のカルバマート誘導体の製造方法である。
【0011】
かかる構成により、経済性、操作性、および廃液の処理性により優れたヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法を提供することができる。
【0012】
R4が一般式(4)

−(CH2n−Cl (4)

(式中、nは2〜6の整数を表す)
又は一般式(5)
【化4】

(式中、mは0〜2の整数を表す)
で表されるクロロアルキル基である構成が好ましい(請求項3)。
【0013】
同様の課題を解決するための請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載のカルバマート誘導体の製造方法によって一般式(3)
【化5】

(式中、R1,R2,R3は一般式(1)と同様の意味を有し、R4は一般式(2)と同様の意味を有する。)
で表されるカルバマート誘導体を得る第一工程と、第一工程で得られたカルバマート誘導体を水酸化アルカリで処理する第二工程とを包含する、
一般式(6)
【化6】

(式中、R1,R2,R3は一般式(1)と同様の意味を有し、R5はC2−C6のヒドロキシアルキル基を表す。)
で表されるヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法である。
【0014】
本発明は、上記一般式(6)で表されるヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法に係るものであり、本発明のカルバマート誘導体の製造方法によって上記一般式(3)で表されるカルバマート誘導体を得る第一工程と、第一工程で得られたカルバマート誘導体を水酸化アルカリで処理する第二工程とを包含する。本発明によれば、非プロトン性溶媒を用いることなく第一工程を行うことができる。そのため、本発明のヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法は、経済性、操作性、および廃液の処理性に優れている。
【0015】
R5が一般式(7)

−(CH2n−OH (7)

(式中、nは一般式(4)と同様の意味を有する。)
又は一般式(8)
【化7】

(式中、mは一般式(5)と同様の意味を有する。)
で表されるヒドロキシアルキル基である構成が好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、染毛剤として有用なヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体を、高い経済性、操作性、および廃液の処理性をもって製造することができ、かつ高純度で生産物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のカルバマート誘導体の製造方法は、上記一般式(3)で表されるカルバマート誘導体の製造方法に係るものであり、上記一般式(1)で表されるアミノフェノール誘導体と、上記一般式(2)で表されるクロロアルキルクロロホルマートとを、「アルコール性のヒドロキシ基を有する溶媒」中で反応させることを特徴とするものである。「アルコール性のヒドロキシ基を有する溶媒」の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール等の脂肪族アルコール;シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のセロソルブ類、などが挙げられる。アルコールに関しては、エタノール、n−プロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等の第一級アルコール;イソプロパノール、sec−ブタノール等の第二級アルコール;tert−ブタノール等の第三級アルコール、のいずれもが使用可能であるが、第一級アルコールと第二級アルコールが特に好ましい。また、一価アルコール、二価以上の多価アルコール(グリセリン等)のいずれもが使用可能である。さらに、低級アルコール、高級アルコールのいずれもが使用可能である。これらの溶媒については、1種のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記アミノフェノール誘導体とクロロアルキルクロロホルマートとを反応させる際のモル比としては特に限定はないが、例えば、アミノフェノール誘導体1モルに対してクロロアルキルクロロホルマートを0.5モル〜1.5モルとすることができる。また、上記アミノフェノール誘導体とクロロアルキルクロロホルマートとの反応は、弱アルカリ性塩基雰囲気で行うことが好ましい。当該塩基としては、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の酸化物、などが挙げられる。これらの塩基については、1種のみを用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。またこれらの塩基の使用量は、例えば、一般式(1)のアミノフェノール誘導体1モルに対して0.2〜2.5モル、好ましくは0.4〜1.5モルである。
【0019】
上記アミノフェノール誘導体とクロロアルキルクロロホルマートとを反応させる際の温度としては、例えば、0℃〜100℃の範囲を採用することができ、好ましくは10℃〜90℃の範囲である。また同様にpH値については3.0〜10.0、好ましくは6.0〜8.0の範囲を採用することができる。同様に反応時間としては、例えば、5分〜6時間の範囲を採用することができる。
【0020】
本発明のヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法は、上記一般式(6)で表されるヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法に係るものであり、上記した本発明のカルバマート誘導体の製造方法によって一般式(3)で表されるカルバマート誘導体を得る第一工程と、第一工程で得られたカルバマート誘導体を水酸化アルカリで処理する第二工程とを包含する。第二工程で採用する水酸化アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。これらの水酸化アルカリの使用量としては、例えば、カルバマート誘導体1モルに対して1モル〜8モル、好ましくは1.5モル〜5モルとすることができる。反応温度としては、例えば0℃〜110℃、反応時間としては、例えば10分〜5時間の条件を採用することができる。
【0021】
第一工程から第二工程に移行する際に、第一工程で得られたカルバマート誘導体を濾過等によっていったん単離してから第二工程に供してもよいが、単離せずにそのまま第二工程に移行することもできる。
【0022】
以下に、本発明によって製造可能なヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の例と、上記一般式におけるR1〜R5の種類、並びに、R1、R2、及びアミノ基の位置(−OR3の位置を1位とする)を示す。
【0023】
5−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノール
・アミノ基:5−アミノ
・R1,R2:水素原子,2-メチル
・R3:水素原子
・R4:β−クロロエチル
・R5:β−ヒドロキシエチル
【0024】
5−(γ−ヒドロキシプロピル)アミノ−2−メチルフェノール
・アミノ基:5−アミノ
・R1,R2:水素原子,2-メチル
・R3:水素原子
・R4:γ−クロロプロピル
・R5:γ−ヒドロキシプロピル
【0025】
4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:水素原子
・R2:3−ニトロ
・R3:水素原子
・R4:β−クロロエチル
・R5:β−ヒドロキシエチル
【0026】
4−(γ−ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:水素原子
・R2:3−ニトロ
・R3:水素原子
・R4:γ−クロロプロピル
・R5:γ−ヒドロキシプロピル
【0027】
4−(β−ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:水素原子
・R2:3−ニトロ
・R3:水素原子
・R4:β−クロロプロピル
・R5:β−ヒドロキシプロピル
【0028】
4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−6−メチル−3−ニトロフェノール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:6−メチル
・R2:3−ニトロ
・R3:水素原子
・R4:β−クロロエチル
・R5:β−ヒドロキシエチル
【0029】
4−(γ−ヒドロキシプロピル)アミノ−6−メチル−3−ニトロフェノール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:6−メチル
・R2:3−ニトロ
・R3:水素原子
・R4:γ−クロロエプロピル
・R5:γ−ヒドロキシプロピル
【0030】
3−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−2,6−ジメチルフェノール
・アミノ基:3−アミノ
・R1,R2:2−メチル,6−メチル
・R3:水素原子
・R4:β−クロロエチル
・R5:β−ヒドロキシエチル
【0031】
6−クロロ−4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:6−クロロ
・R2:3−ニトロ
・R3:水素原子
・R4:β−クロロエチル
・R5:β−ヒドロキシエチル
【0032】
6−クロロ−4−(β−ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:6−クロロ
・R2:3−ニトロ
・R3:水素原子
・R4:β−クロロプロピル
・R5:β−ヒドロキシプロピル
【0033】
6−ブロモ−4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:6−ブロモ
・R2:3−ニトロ
・R3:水素原子
・R4:β−クロロエチル
・R5:β−ヒドロキシエチル
【0034】
4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−2−ニトロアニソール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:水素原子
・R2:2−ニトロ
・R3:メチル
・R4:β−クロロエチル
・R5:β−ヒドロキシエチル
【0035】
4−(β−ヒドロキシプロピル)アミノ−2−ニトロアニソール
・アミノ基:4−アミノ
・R1:水素原子
・R2:2−ニトロ
・R3:メチル
・R4:β−クロロプロピル
・R5:β−ヒドロキシプロピル
【0036】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールの製造〔1〕
【0038】
(1)第一工程
5−アミノ−2−メチルフェノール0.5モル(61.5g)とエタノール200mLを混合し、5℃に冷却した。これに炭酸水素ナトリウム0.51モル(42.8g)を添加し、撹拌しつつクロロエチルクロロホルマート0.5モル(71.5g)を1時間かけて滴下した。添加終了後も撹拌を続け、しばらくしてから冷却水を添加すると、固化して白色スラリーとなった。これを低温で濾過し、β−クロロエチル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートを含む白色結晶を得た。
【0039】
(2)第二工程
得られた白色結晶を乾燥せずにウェットケーキのままエタノール中に添加した。空気を遮断した状態で23.5%水酸化ナトリウム水溶液465mLを室温で滴下した。次いで、50℃に昇温し5時間反応後、熱濾過し、不溶解分等を除去した。濾液に濃塩酸を滴下して中和した後、冷却し、結晶を析出させた。一度濾過した後、イオン交換水から再結晶を行い、5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールの結晶を得た。得られた結晶を低温減圧又は送風乾燥した。液体クロマトグラフィー純度99%以上、融点90〜92℃の結晶が収率90%で得られた。結晶の分析結果を以下に示す。
・組成分析(C91312として)
計算値:C64.65,H7.84,N8.38
分析値:C64.51,H7.63,N8.39
・紫外可視分光光度計(λmax):295nm,244nm,206nm
【0040】
以上より、5−アミノ−2−メチルフェノールとクロロエチルクロロホルマートをエタノール中で反応させることにより、β−クロロエチル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートが得られること、並びに、得られたβ−クロロエチル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートを水酸化アルカリで処理することにより、5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールが得られることが示された。
【実施例2】
【0041】
5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールの製造〔2〕
【0042】
(1)第一工程
実施例1と同様にして、5−アミノ−2−メチルフェノールとクロロエチルクロロホルマートをエタノール中で反応させて、β−クロロエチル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートを含む白色スラリーを得た。
【0043】
(2)第二工程
得られた白色スラリーを濾過することなく、そのままエタノールと23.5%水酸化ナトリウム水溶液465mLを滴下した。その後、実施例1と同様の操作を行い、5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールの結晶を得た。得られた結晶を低温減圧又は送風乾燥した。液体クロマトグラフィー純度99%以上、融点90〜92℃の結晶が収率91%で得られた。結晶の分析結果を以下に示す。
・紫外可視分光光度計(λmax):295nm,245nm,206nm
【0044】
以上より、第一工程から第二工程に移行する際にβ−クロロエチル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートを分離することなく、5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールを得ることができた。
【実施例3】
【0045】
5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールの製造〔3〕
【0046】
第一工程においてエタノールに代えてメタノールを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールの結晶を得た。
【0047】
以上より、5−アミノ−2−メチルフェノールとクロロエチルクロロホルマートをメタノール中で反応させることにより、β−クロロエチル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートが得られること、並びに、得られたβ−クロロエチル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートを水酸化アルカリで処理することにより、5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールが得られることが示された。
【実施例4】
【0048】
4−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノールの製造
【0049】
(1)第一工程
4−アミノ−3−ニトロフェノール0.5モル(77.0g)と炭酸水素ナトリウム0.53モル(44.5g)をイソプロパノール100gに添加し、70℃に加温した。撹拌しつつ、クロロエチルクロロホルマート0.52モル(74.4g)をゆっくりと滴下すると、固化してスラリーとなった。その後氷冷し、50℃近辺で水を注入し析出した結晶を室温で濾過し、結晶を水でよく洗浄した。その結果、融点137〜138℃のβ−クロロエチル−N−(4−ヒドロキシ−2−ニトロフェニル)カルバマートの黄色結晶が収率96%で得られた。
【0050】
(2)第二工程
第一工程で得られた結晶を乾燥せずにそのままウェットケーキの状態でメタノール中に添加し、空気を遮断した状態で47%水酸化ナトリウム水溶液213mLを添加し、60℃で数時間反応させた。反応終了後、塩酸でpHを8.0に調整した。15℃に冷却してから吸引濾過し、水洗後、乾燥した。その結果、液体クロマトグラフィー純度98%以上、融点142〜143℃の4−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノールの暗赤色結晶が収率90%で得られた。結晶の分析結果を以下に示す。
・組成分析(C81024として)
計算値:C48.44,H5.05,N14.13
分析値:C48.30,H5.06,N13.98
【0051】
以上より、4−アミノ−3−ニトロフェノールとクロロエチルクロロホルマートをイソプロパノール中で反応させることにより、β−クロロエチル−N−(4−ヒドロキシ−2−ニトロフェニル)カルバマートが得られること、並びに、得られたβ−クロロエチル−N−(4−ヒドロキシ−2−ニトロフェニル)カルバマートを水酸化アルカリで処理することにより、4−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノールが得られることが示された。
【実施例5】
【0052】
4−(γ-ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノールの製造
【0053】
(1)第一工程
クロロエチルクロロホルマートに代えてクロロプロピルクロロホルマートを用いる以外は実施例1の第一工程と同様の操作を行った。γ−クロロプロピル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートの黄色結晶が収率93%で得られた。
【0054】
(2)第二工程
第一工程で得られた黄色結晶に対して、実施例1の第二工程と同様の操作を行った。その結果、液体クロマトグラフィー純度98%以上、融点110〜112℃の4−(γ-ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノールの暗赤色結晶が収率90%で得られた。結晶の分析結果を以下に示す。
・組成分析(C91224として)
計算値:C50.94,H5.70,N13.20
分析値:C50.90,H5.51,N13.21
【0055】
以上より、4−アミノ−3−ニトロフェノールとクロロプロピルクロロホルマートをイソプロパノール中で反応させることにより、γ−クロロプロピル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートが得られること、並びに、得られたγ−クロロプロピル−N−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)カルバマートを水酸化アルカリで処理することにより、4−(γ-ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノールが得られることが示された。
【実施例6】
【0056】
4−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−6−メチル−3−ニトロフェノールの製造
【0057】
(1)第一工程
4−アミノ−3−ニトロフェノールに代えて4−アミノ−6−メチル−3−ニトロフェノールを用いる以外は実施例4の第一工程と同様の操作を行い、β−クロロエチル−N−(4−ヒドロキシ−5−メチル−2−ニトロフェニル)カルバマートの結晶を得た。
【0058】
(2)第二工程
第一工程で得られた結晶に対して実施例4の第二工程と同様の処理を行い、融点172℃〜174℃の4−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−6−メチル−3−ニトロフェノールの結晶を得た。得られた結晶の分析結果を以下に示す。
・組成分析(C91224として)
計算値:C50.94,H5.70,N13.20
分析値:C51.01,H5.61,N13.20
【0059】
以上より、4−アミノ−6−メチル−3−ニトロフェノールとクロロエチルクロロホルマートをイソプロパノール中で反応させることにより、β−クロロエチル−N−(4−ヒドロキシ−5−メチル−2−ニトロフェニル)カルバマートが得られること、並びに、得られたβ−クロロエチル−N−(4−ヒドロキシ−5−メチル−2−ニトロフェニル)カルバマートを水酸化アルカリで処理することにより、4−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−6−メチル−3−ニトロフェノールが得られることが示された。
【実施例7】
【0060】
4−(β-ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノールの製造
【0061】
(1)第一工程
クロロエチルクロロホルマートに代えてクロロギ酸−β−クロロプロピルを用いる以外は実施例4の第一工程と同様の操作を行い、β−クロロプロピル−N−(2−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)カルバマートの結晶を得た。
【0062】
(2)第二工程
第一工程で得られた結晶に対して実施例4の第二工程と同様の処理を行い、融点146℃〜148℃の4−(β-ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノールの結晶を得た。結晶の分析結果を以下に示す。
・組成分析(C91224として)
計算値:C50.94,H5.70,N13.20
分析値:C50.89,H5.61,N13.22
【0063】
以上より、4−アミノ−3−ニトロフェノールとクロロギ酸−β−クロロプロピルをイソプロパノール中で反応させることにより、β−クロロプロピル−N−(2−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)カルバマートが得られること、並びに、得られたβ−クロロプロピル−N−(2−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)カルバマートを水酸化アルカリで処理することにより、4−(β-ヒドロキシプロピル)アミノ−3−ニトロフェノールが得られることが示された。
【実施例8】
【0064】
4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−2−ニトロアニソールの製造
【0065】
(1)第一工程
4−アミノ−2−ニトロアニソール0.5モル(77.0g)と炭酸水素ナトリウム0.53モル(44.5g)をイソプロパノール100gに添加し、77℃以上に加温した。撹拌しつつ、クロロエチルクロロホルマート0.52モル(74.4g)をゆっくりと滴下すると、固化してスラリーとなった。その後氷冷し、50℃近辺で水を注入し析出した結晶を室温で濾過した。結晶を水でよく洗浄した。その結果、融点83〜84℃のβ−クロロエチル−N−(3−ニトロ−4−メトキシフェニル)カルバマートの黄色結晶が収率95%で得られた。
【0066】
(2)第二工程
得られた黄色結晶に対して実施例4の第二工程と同様の操作を行った。その結果、液体クロマトグラフィー純度98%以上、融点81〜83℃の4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−2−ニトロアニソールの橙色結晶が収率85%で得られた。結晶の分析結果を以下に示す。
・組成分析(C91224として)
計算値:C50.94,H5.70,N13.20
分析値:C51.00,H5.70,N13.15
【0067】
以上より、4−アミノ−2−ニトロアニソールとクロロエチルクロロホルマートをイソプロパノール中で反応させることにより、β−クロロエチル−N−(3−ニトロ−4−メトキシフェニル)カルバマートが得られること、並びに、得られたβ−クロロエチル−N−(3−ニトロ−4−メトキシフェニル)カルバマートを水酸化アルカリで処理することにより、4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−2−ニトロアニソールが得られることが示された。
【実施例9】
【0068】
6−クロロ−4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノールの製造
【0069】
(1)第一工程
4−アミノ−3−ニトロフェノールに代えて4−アミノ−6−クロロ−3−ニトロフェノールを用いる以外は実施例4の第一工程と同様の操作を行い、β−クロロエチル−N−(5−クロロ−4−ヒドロキシ−2−ニトロフェニル)カルバマートの赤色物を得た。
【0070】
(2)第二工程
第一工程で得られた結晶に対して実施例4の第二工程と同様の処理を行い、融点171℃〜173℃(エタノール再結晶融点)の6−クロロ−4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノールの結晶を得た。得られた結晶の分析結果を以下に示す。
・組成分析(C8924Clとして)
計算値:C41.31,H3.90,N12.04,Cl 115.24
分析値:C41.38,H3.81,N12.09,Cl 115.10
【0071】
以上より、4−アミノ−6−クロロ−3−ニトロフェノールとクロロエチルクロロホルマートをイソプロパノール中で反応させることにより、β−クロロエチル−N−(5−クロロ−4−ヒドロキシ−2−ニトロフェニル)カルバマートが得られること、並びに、得られたβ−クロロエチル−N−(5−クロロ−4−ヒドロキシ−2−ニトロフェニル)カルバマートを水酸化アルカリで処理することにより、6−クロロ−4−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−3−ニトロフェノールが得られることが示された。
【実施例10】
【0072】
実施例1で製造した5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノールを用いて、以下の手順で染毛剤を調製した。
5−(β-ヒドロキシエチル)アミノ−2−メチルフェノール 0.7部
4−N−(β−ヒドロキシエチル)アミノ−アニリン硫酸塩 0.2部
エタノール 30部
界面活性剤 3部
水 55部+α
を混合し、さらにトリエタノールアミンを加えて100部とし、pH7.0〜7.5の染毛剤を調製した。この染毛剤に3%過酸化水素を加えて混合し、半白の白髪に塗布した。20分経過後に髪を水洗し、さらにシャンプーで洗髪してから乾燥した。その結果、白髪が濃い暗赤紫色に着色した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R1は水素原子、C1−C4のアルキル基、又はハロゲン原子を表し、R2は水素原子、C1−C4のアルキル基、C1−C4のアルキルアミノ基、ニトロ基、又はハロゲン原子を表し、R3は水素原子、又はC1−C2のアルキル基を表す。ここで、R1、R2、及びアミノ基は、互いに重複することなくヒドロキシ基に対してオルト、メタ、又はパラの位置にある。)
で表される化合物と、
一般式(2)
【化2】

(式中、R4はC2−C6のクロロアルキル基を表す。)
で表される化合物とをアルコール性のヒドロキシ基を有する溶媒中で反応させる工程を包含する、
一般式(3)
【化3】

(式中、R1,R2,R3は一般式(1)と同様の意味を有し、R4は一般式(2)と同様の意味を有する。)
で表されるカルバマート誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が第一級アルコール又は第二級アルコールであることを特徴とする請求項1に記載のカルバマート誘導体の製造方法。
【請求項3】
R4が一般式(4)

−(CH2n−Cl (4)

(式中、nは2〜6の整数を表す。)
又は一般式(5)
【化4】

(式中、mは0〜2の整数を表す。)
で表されるクロロアルキル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のカルバマート誘導体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のカルバマート誘導体の製造方法によって一般式(3)
【化5】

(式中、R1,R2,R3は一般式(1)と同様の意味を有し、R4は一般式(2)と同様の意味を有する。)
で表されるカルバマート誘導体を得る第一工程と、第一工程で得られたカルバマート誘導体を水酸化アルカリで処理する第二工程とを包含する、
一般式(6)
【化6】

(式中、R1,R2,R3は一般式(1)と同様の意味を有し、R5はC2−C6のヒドロキシアルキル基を表す。)
で表されるヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法。
【請求項5】
R5が一般式(7)

−(CH2n−OH (7)

(式中、nは一般式(4)と同様の意味を有する。)
又は一般式(8)
【化7】

(式中、mは一般式(5)と同様の意味を有する。)
で表されるヒドロキシアルキル基であることを特徴とする請求項4に記載のヒドロキシアルキルアミノフェノール誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2010−248122(P2010−248122A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99142(P2009−99142)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(300012572)昭和化学工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】