説明

カンキツ抽出液及びその製造方法

【課題】 本発明は、ノビレチンを豊富に含有するカンキツ抽出液を提供すること、及び該抽出液を効率的に製造する方法を提供しカンキツの有効利用を図ることを目的とする。
【解決手段】 ノビレチンを1〜100mg/g含有するカンキツ抽出液、カンキツが、シイクワシャー、温州ミカン、オレンジ及びグレープフルーツのいずれかである前記カンキツ抽出液、並びにカンキツを、エタノール濃度30(v/v)%以上のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノールで抽出し、必要に応じ得られた抽出液を濃縮することを特徴とする前記カンキツ抽出液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カンキツ抽出液及びその製造方法に関し、詳しくは、発ガン抑制作用、ガン転移抑制作用、血糖上昇抑制作用等の生理作用を発揮するノビレチンを豊富に含有し、食品、医薬品等としての利用が期待されるカンキツ抽出液、及び、カンキツ搾汁残渣の再利用を促進する上記抽出液の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノビレチンは、ポリメトキシフラボノイドの一種であり、発ガン抑制作用、ガン転移抑制作用が認められ(非特許文献1)、血糖上昇抑制作用を有するとされている。
ノビレチンは、カンキツ、特にシイクワシャー(Citrus depressa HAYATA)に多量に含まれていることが知られている。シイクワシャーは、沖縄在来のカンキツ類として古くから知られており、沖縄本島北部の大宜味村を中心に屋部地区などの地域が主産地となっている。
しかしながら、シイクワシャー等のカンキツからノビレチンを効率良く抽出する方法は、今のところ見出されていなかった。
【0003】
従来、カンキツはジュースやジャムなどの加工用原料として用いられることが多い。そして、シイクワシャーも、刺身に付けるなど食酢的に、またはジュースを得る目的で加工用原料として用いられている。このように、カンキツはほとんどの場合、果肉部の利用に留まり、搾汁後の果肉部や果皮等の部分は、残渣などとして廃棄されていた。
カンキツ搾汁残渣の再利用については、例えば、家畜等の飼料用、土壌改良剤、果皮からの精油の抽出などへの利用が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。しかし、搾汁残渣を利用した食品素材の開発に対する取り組みは、未だ十分とはいえない。また、カンキツの果肉部以外の部分を積極的に利用する方法については、今のところ提案されていなかった。
【0004】
【非特許文献1】Bracke,M.E.(1994),Food Technology,48,104
【非特許文献2】「果汁・果実飲料辞典」、(株)朝倉書店、1978年9月30日発行、p.408−412
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ノビレチンを豊富に含有するカンキツ抽出液を提供すること、及び該抽出液を効率的に製造する方法を提供し、カンキツの有効利用を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討を重ねる過程で、シイクワシャーにノビレチンと共に含まれるポリメトキシフラボノイドであるシネフリンに着目した。シネフリンは、シイクワシャーから水で最も良く抽出され、低濃度のエタノール水溶液、例えば、エタノール濃度30(v/v)%未満のエタノール水溶液でもある程度は抽出される。
本発明者らは、シネフリンが抽出されないような抽出条件、すなわち、エタノール濃度30(v/v)%以上のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノールを用いることによって、シイクワシャーからノビレチンを効率良く抽出できることを見出した。また、この抽出条件は、シイクワシャー以外のカンキツにも適用可能であり、様々なカンキツからノビレチン含有量の高いカンキツ抽出液を効率良く得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、請求項1記載の本発明は、ノビレチンを1〜100mg/g含有するカンキツ抽出液である。
請求項2記載の本発明は、カンキツが、シイクワシャー、温州ミカン、オレンジ及びグレープフルーツのいずれかである請求項1記載のカンキツ抽出液である。
請求項3記載の本発明は、カンキツを、エタノール濃度30(v/v)%以上のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノールで抽出し、必要に応じ得られた抽出液を濃縮することを特徴とするノビレチンを1〜100mg/g含有するカンキツ抽出液の製造方法である。
請求項4記載の本発明は、抽出条件が、アルコール・アセトンの揮発による溶媒の減少を防止するための、密封容器内で攪拌速度10rpm以上で10分間以上撹拌して抽出する請求項3記載の製造方法である。
請求項5記載の本発明は、カンキツが、カンキツ搾汁残渣又は果皮である請求項3又は4記載の製造方法である。
請求項6記載の本発明は、カンキツが、シイクワシャー、温州ミカン、オレンジ及びグレープフルーツのいずれかである請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発ガン抑制作用、ガン転移抑制作用、血糖上昇抑制作用等の生理作用を発揮するノビレチンを豊富に含むカンキツ抽出液と、該抽出液を効率良く製造するための方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のカンキツ抽出液は、ノビレチンを1〜100mg/g含有する。
ここでノビレチンとは、発ガン抑制作用、ガン転移抑制作用、血糖上昇抑制作用等の生理作用を有するポリメトキシフラボノイドである。
カンキツ抽出液とは、カンキツから抽出される抽出液を意味する。ノビレチンを含有するカンキツとは、カンキツ属後生カンキツ亜属のミカン区、トウキンカン区、初生カンキツ亜属のダイダイ区、ライム区等に属するものの果実体を挙げることができる。ミカン区に属するものとしては、シイクワシャー、温州ミカン、杉山ウンシュウ、ヤツシロ、ケラジ、オートー、小葉系ポンカン、オオベニミカン、ジミカン、シカイカン、クレメンティンノーマル、タチバナ、コベニミカン、キシュウミカン、サンキツ、コウジ等を挙げることができる。トウキンカン区のものとしては、カラマンシー、シキキツ等を挙げることができる。ダイダイ区のものとしては、オレンジ、サンポウカン、ヒュウガナツ等を挙げることができる。ザボン区(ブンタン区)のカンキツとしては、グレープフルーツ等を挙げることができる。これらのカンキツのうち、ノビレチンを豊富に含有するものが好ましく、特に、ノビレチンとシネフリンの両方を含有するもの、具体的には、シイクワシャー、温州ミカン、オレンジ及びグレープフルーツが好ましい。
【0010】
また、カンキツとしては、カンキツの果実体、すなわち、果皮、じょうのう膜、果肉部、種子のいずれであっても良いが、後述するように果皮が含まれることが好ましく、特に搾汁残渣の利用が好ましい。
【0011】
本発明のノビレチンを1〜100mg/g含有するカンキツ抽出液は、特に、カンキツから所定のエタノール水溶液で抽出することにより効率良く製造することができる。本発明は、このような製造方法をも提供する。
すなわち、本発明の製造方法は、カンキツ搾汁残渣を、エタノール濃度30(v/v)%以上のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノールで抽出し、必要に応じ得られた抽出液を濃縮することを特徴とする。
【0012】
本発明の製造方法において原料として用いられるカンキツについては、上述した各種のカンキツの果実体を用いることができ、該原料から目的物を抽出するために用いる溶媒としては、エタノール濃度30(v/v)%以上のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノール、好ましくはエタノール濃度50(v/v)%以上100(v/v)%未満のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノールを用いる。
この溶媒を用いることにより、ノビレチンのみを選択的に抽出できる。本発明において原料として用いられるカンキツとしては既に説明した通りであり、具体的にはシイクワシャー、温州ミカン、オレンジ及びグレープフルーツのいずれかであることが好ましく、これらの中ではシイクワシャーが最も好ましい。
【0013】
カンキツの部位についても、果実体の全体であっても良いし、果皮、じょうのう膜、果肉部、種子のいずれかであっても良い。果肉部がジュースやペーストなどの加工品の原料として利用される場合、果肉部以外の部分は、カンキツ搾汁残渣として廃棄されてしまうのが通常であるが、ノビレチンは果肉部以外の部分にも豊富に含まれるので、本発明の製造方法においては、この果肉部以外の部分を好ましく利用することができる。
カンキツ搾汁残渣は、果皮、じょうのう膜、及び種子を含む残渣と、果汁精製時に排出される微細な不溶性固形分(パルプ)からなる。カンキツ搾汁残渣は、このようなカンキツの搾汁後に得られる残渣そのものであっても良いし、該残渣の乾燥処理物であっても良い。乾燥処理は常法により行うことができる。
また、カンキツの各部位のうち、ノビレチンが果皮に豊富に含まれることから、果皮を選択的に用いることもできる。果皮を用いる場合は、適当な大きさにカッターなどで破砕等した後、無処理でそのまま抽出しても良いが、抽出効率を上げるためには、抽出前に乾燥処理を行い、乾燥果皮としてから処理することが好ましい。
【0014】
一方、植物組織崩壊酵素処理により固形部を得て、この固形部について下記の処理を行うことも好ましい。ここで、植物組織崩壊酵素とは、植物組織を分解する酵素を意味し、具体的には、セルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、ぺクチナーゼの微生物(糸状菌)由来の酵素であり、野菜、果物、穀類組織の軟化等や、柑橘果汁・リンゴ果汁の清澄化に用いられている。
植物分解酵素処理の条件は、用いる酵素により適宜設定することができるが、例えば、実施例で用いているセルロイシンHC100の場合には、原料である生果皮に対し酵素0.01〜1.0%を、25〜80℃で2〜15時間とすることができる。酵素処理物は適宜脱水を行い固形部として抽出することができる。
更に、特願2003−411618号明細書に記載の方法で得られるシイクワシャーペーストには、果皮が豊富に含まれることから、これも原料として用いることができる。
【0015】
本発明の製造方法では、上記したカンキツを、エタノール濃度30(v/v)%以上のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノール、好ましくはエタノール濃度50(v/v)%以上100(v/v)%未満のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノールで抽出する。
エタノール濃度が30(v/v)%未満の場合、シネフリンが同時に抽出されてしまい、ノビレチンを効率良く抽出することができない。
【0016】
エタノール水溶液での抽出の際のその他の条件は、カンキツの種類、成分、エタノール濃度などによって適宜定めることができるが、一般的に、エタノール水溶液又はエタノールとカンキツ搾汁残渣の比率は1:2〜1:5とすることができる。
【0017】
エタノール水溶液等による抽出の結果得られる抽出液は、必要に応じて抽出液を濃縮することができる。濃縮することにより、より高濃度のノビレチンを含むカンキツ抽出液を得ることができる。
濃縮は、真空蒸発濃縮などにより行うことができる。すなわち、濃縮は、抽出に用いた有機溶媒や果皮部より出た水分を常圧並び減圧下で蒸発させることによって行うことができ、機器としては大型のエバポレーターや簡易な蒸留装置等を用いる。
濃縮は1回でも良いが、2回以上繰り返すことも可能であり、より高濃度のノビレチンを含有するカンキツ抽出液を得ることができる。
このようにして、本発明の製造方法により得られるノビレチンを1〜100mg/g含有するカンキツ抽出液は、ノビレチンが発ガン抑制作用、ガン転移抑制作用、血糖上昇抑制作用等の生理作用を発揮することから、食品(特に機能性食品)、飼料、医薬品等に添加することにより、ガン、糖尿病、高脂血症などの治療、予防に利用することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
実施例1(生果皮から直接100%エタノールで抽出した場合)
シイクワシャーの生果皮10g(水分量70〜80%)を原料として、適当な大きさにカッターなどで破砕した後、100(v/v)%エタノール20gを用いて室温(25〜30℃)で30分間抽出し、抽出液を得た。この抽出液を300μメッシュでろ過処理して濃縮し、874mgの濃縮物1を得て、さらにエタノールを加え再溶解した上澄み部分を濃縮し、269mgの濃縮物2を得た。
生果皮、抽出液、濃縮物1及び濃縮物2のノビレチン及びシネフリンの含有量を、以下のようにして調べた。
ノビレチンの含量測定は、各試料をエタノールに溶解・攪拌し、0.45μフィルターでろ過した後、高速液体クロマトグラフ装置((株)島津製作所製、商品名:LC-10A)を用いた逆相クロマトグラフィーにより行った。逆相カラムとしてLiChrospher 100:RP-18(メルク社製、粒径5μm、250mm(長さ)×4mm(内径))を使用し、移動相にメタノール:10mMリン酸水溶液(7:3)を用い、カラム温度40℃、注入量5μl、流速0.6ml/min、検出波長340nmの条件で、アイソクラティク方式で溶出し、分析を行った。
また、シネフリンの含量測定は、各試料を純水に溶解して行った。逆相クロマトグラフィーにおいて、移動相として0.02Mクエン酸−0.02Mリン酸水溶液(7:3、pH3.0以下)を用い、流速を1.0ml/min、検出波長を220nmとしたこと以外は、上記のノビレチンの場合と同様にアイソクラティク方式で行った。
得られた含有量の数値を、表1に示した。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から明らかなように、シネフリンの抽出液への移行量が抽出操作や濃縮操作を経るごとに大幅に減少するのと比較すると、ノビレチンの移行量はほとんど減らず良く保持されていた。
このことから、100(v/v)%エタノールにより、生果皮からノビレチンを高濃度に含むカンキツ抽出液を得ることができ、さらに濃縮処理を重ねて行うことにより、ノビレチンをさらに高濃度に含む濃縮物を得られることが明らかとなった。
【0022】
実施例2
シイクワシャーの生果皮10g(水分量70〜80%)を原料として、適当な大きさにカッターなどで破砕した後、常温熱風の条件で乾燥処理を行い、乾燥果皮(水分量10%以下)を得た。この乾燥果皮に対し、100(v/v)%エタノール20gを用いて室温(25℃〜30℃)で30分間の条件で抽出し、抽出液を得た。この抽出液を300μメッシュでろ過処理して濃縮し、246mgの濃縮物を得た。
生果皮、乾燥果皮、抽出液、及び濃縮物のノビレチン及びシネフリンの含有量を、実施例1と同様の方法により調べた。得られた含有量の数値を、表2に示した。
【0023】
【表2】

【0024】
表2から明らかなように、シネフリンの抽出液への移行量が抽出操作や濃縮操作を経るごとに大幅に減少するのと比較すると、ノビレチンの移行量はほとんど減らず、良く保持されていた。
このことから、乾燥果皮を原料とした場合も、生果皮の場合と同様にノビレチンを高濃度に含むカンキツ抽出液を得ることができることが明らかとなった。
【0025】
実施例3
シイクワシャーの生果皮10g(水分量70〜80%)を原料として、適当な大きさにカッターなどで破砕した後、植物組織崩壊酵素であるセルロイシンHC100(商品名、エイチビィアイ株式会社製)を0.05%加え、40℃で15時間反応させた。反応後、脱水処理を行い、固形部(水分量60〜70%)を得た。この固形部について100(v/v)エタノール20gを用いて室温で30分間の条件で抽出し、抽出液を得た。
この抽出液を300μメッシュでろ過処理して濃縮し、271mgの濃縮物1を得た。更に、この濃縮物1をエタノールで再溶解しろ過処理して濃縮し、134mgの濃縮物2を得た。
生果皮、固形部、抽出液、濃縮物1及び濃縮物2のノビレチン及びシネフリンの含有量を、実施例1と同様の方法により調べた。得られた含有量の数値を表3に示した。
【0026】
【表3】

【0027】
表3から明らかなように、シネフリンの抽出液への移行量が抽出操作や濃縮操作を経るごとに大幅に減少するのと比較すると、ノビレチンの移行量はほとんど減らず、良く保持されていた。また、最終的に得られる濃縮物2のノビレチン含有量を、濃縮物の重量に対する濃度(比率)として実施例1や2の最終含有量と比較すると、非常に高濃度であることが分かる。
このことから、植物組織崩壊酵素の固形部を原料とした場合には、生果皮や乾燥果皮の場合よりもノビレチンをより高濃度に含むカンキツ抽出液を得ることができることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、発ガン抑制作用、ガン転移抑制作用、血糖上昇抑制作用等の生理作用を発揮するノビレチンを豊富に含むカンキツ抽出液と、該抽出液を効率良く製造するための方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノビレチンを1〜100mg/g含有するカンキツ抽出液。
【請求項2】
カンキツが、シイクワシャー、温州ミカン、オレンジ及びグレープフルーツのいずれかである請求項1記載のカンキツ抽出液。
【請求項3】
カンキツを、エタノール濃度30(v/v)%以上のエタノール水溶液又は100(v/v)%エタノールで抽出し、必要に応じ得られた抽出液を濃縮することを特徴とするノビレチンを1〜100mg/g含有するカンキツ抽出液の製造方法。
【請求項4】
抽出条件が、アルコール・アセトンの揮発による溶媒の減少を防止するための、密封容器内で攪拌速度10rpm以上で10分以上撹拌して抽出する請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
カンキツが、カンキツ搾汁残渣又は果皮である請求項3又は4記載の製造方法。
【請求項6】
カンキツが、シイクワシャー、温州ミカン、オレンジ及びグレープフルーツのいずれかである請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法。


【公開番号】特開2006−327998(P2006−327998A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154822(P2005−154822)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(300029592)学校法人中村学園 (9)
【出願人】(503282965)沖縄県農業協同組合 (2)
【Fターム(参考)】