説明

カンチレバー型機器用完全デジタル式コントローラ

原子間力顕微鏡、分子力プローブ機器、高分解能プロファイルメータ、および化学的または生物学的検出プローブを含むカンチレバー型機器用のコントローラ。本コントローラは、これら機器におけるカンチレバーの撓みを検出するために広く用いられる光検出器の出力を、高速アナログ/デジタル変換器(ADC)により収集する。次いで、得られた出力信号のデジタル表現を、フィールドプログラマブルゲートアレイおよびデジタル信号プロセッサにより、アナログ電子回路を用いずに処理する。アナログ信号処理は本質的にノイズが多いが、デジタル計算は、計測信号にいかなるランダムノイズも加えることがないという点で、本質的に「完全」である。フィールドプログラマブルゲートアレイおよびデジタル信号処理による処理は、コントローラのハードウエアを修正しなくてもプログラム手段により変更できるので、コントローラのフレキシビリティが最大化される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景および概要
本発明は、原理的に不可能な部分は別として、デジタル電子回路を用いて、カンチレバー型機器の動作を制御するための装置、および本装置を用いるための一般的な方法に関する。
【0002】
カンチレバー型機器には、原子間力顕微鏡、分子力プローブ機器、高分解能プロファイルメータ、および化学的または生物学的検出プローブ等の機器が含まれる。原子間力顕微鏡(AFM)は、カンチレバー端部の鋭いプローブで試料表面上を走査して得られる情報に基づいて表面トポグラフィ(および他の試料特性)の画像を生成するために用いる装置である。走査中に検出されるカンチレバーの撓みまたは振動変化が試料のトポグラフィ(または他の)特徴に対応する。撓みまたは振動変化は、光学式レバーの編成により検出するのが普通である。トンネル効果検出法、干渉分光法、圧電素子(ストレインゲージ)応答法、および静電容量法を含む他の検出手段を用いることもある。光学式レバーの編成による場合、光学式レバーと同じ基準座標系にあるカンチレバーに光ビームを導く。そして、カンチレバーからの反射ビームを位置検出器(PSD)に照射する。カンチレバーの撓みまたは振動が変化すると、PSD上の反射スポットの位置が変化し、PSD出力に変化が起きる。カンチレバーの撓みまたは振動の変化は、カンチレバー基部の垂直方向位置を試料に対して変化させ、撓みまたは振動を一定の所定値に保つ。AFM画像を生成するのはこのフィードバックである。AFMは、幾つかの異なる画像化モードで操作でき、カンチレバー先端部が試料表面と常に接触している接触モード、および先端部が表面と接触しないか、または間欠的にしか接触しない振動モードが含まれる。振動の位相または周波数、または同相および直交位相に対する応答を含む、カンチレバーに関する他の情報が光学式レバー編成により収集でき、この情報を用いて試料画像を形成する。これらの画像は、試料の弾性、損失、および接着特性を含む様々な解釈を有することになる。このように、様々なトポグラフィ特徴を、他の機械的、化学的、電気的特性と関係付けることができる。
【0003】
典型的な従来技術の光学式レバーシステムを図1に示す。このシステムでは、十分な光強度があり、かつポインティングまたは他のノイズがない光源1(スーパールミネッセントダイオードまたはレーザ)で形成するのが好ましい光ビーム2を、コリメーターレンズすなわちレンズアセンブリ3、および集束レンズすなわちレンズアセンブリ5を通してミラー6に導き、このミラーは、集束した光ビーム7を光学式レバーシステムと同じ基準座標系内にあるカンチレバー8上の特定スポットに導く。次いで、調整可能ミラー13、およびビーム位置オフセット用の平行移動台(不図示)を伴うことが多い検出光学系に反射ビーム9を集め、位置検出器10(PSD)を照射する。
【0004】
様々なAFMが、カンチレバーの撓みまたは振動を検出し、カンチレバー基部の垂直方向位置を修正しつつ、試料上で先端部を走査するための様々な仕組みを提示している。米国特許第Re34,489号の「光学的に置換可能な流体セルを有する原子間力顕微鏡」は、固定カンチレバー下の圧電素子チューブスキャナの編成上に試料が搭載されるAFMを記載している。圧電素子は、3次元の全方向で試料を位置決めする。別のAFMが、米国特許第5,025,658号の「小型原子間力顕微鏡」に記載されている。このAFMは、カンチレバーを搬送する圧電素子チューブスキャナの編成の下方に試料を固定して配置する。圧電素子は、3次元の全方向で試料を位置決めする。第3のAFMは、本発明者らの同時係属出願第10/016,475号の「高精度位置計測用改良型リニア可変差動トランス」に記載されている。このAFMでは、圧電素子スタックを用いて試料をxおよびy方向に位置決めする精密テーブルに試料を搭載し、一方、カンチレバーは、試料上方でそのz方向の位置決めを行う第3の圧電素子スタック上に搭載される。従って、x−y位置はz位置から切り離されている。リニア可変差動トランスが3次元の全位置を検出して正確な位置情報を提供する。これら3方式のAFMのより詳細な説明は、参照特許および出願に記載されている。
【0005】
従来、PSD出力の解釈、カンチレバーの撓みまたは振動(誤差信号)を一定の所定値に保つのに必要な、試料に対するカンチレバー基部の垂直位置変化の計算、ならびにこの変化を達成するのに必要な信号、および試料画像を形成するのに必要な信号の伝送に利用される電子回路は、アナログ式回路、または、比較的最近の場合は、アナログ式とデジタル式の混成回路であった。アナログ式、およびアナログ/デジタル式混成回路は、カンチレバー振動の位相または周波数、または同相および直交位相に対する応答を、これらの特徴が利用可能な場合、検出するためにも用いられる。この回路を実装する各装置を収容するものはコントローラと呼ぶのが普通であるが、ユーザとコントローラとの間のインターフェース役をするコンピュータ内にそれらの装置の幾つかが配置されることもある。
【0006】
本発明者らは、コントローラ内のアナログ式電子回路が、AFM、および他のカンチレバー型機器の動作におけるノイズおよび他の問題の一因となることが多い、という状況から脱した。つまり、本明細書に開示する本発明は、コントローラの主要部に配置し、性能およびフレキシビリティの改良を担うデジタル式電子回路を利用する。本発明者らは、機器のフレキシビリティを著しく改良する混成アナログ/デジタル装置により、信号ルーティング能力も改良した。この新アーキテクチャは、過去のAFMコントローラの機能全てを踏襲できるだけでなく、アナログ式電子回路では従来達成不可能であった多くの新機能を可能にする。
【0007】
アナログ回路は、単一チャンネルロックイン増幅器を用いて、カンチレバーと駆動信号との間の位相推移を計測している。図2はこのような増幅器の典型例を示す。このAFMは振動モードで動作していて、発振器20がカンチレバーの振動を生成するとともに、発振器の信号は位相シフタ21を通ってルーティングされる。位相シフタ21からの基準信号と、PSD(不図示)からの自動ゲイン制御22された信号23との単純なアナログ乗算から位相に依存する信号が得られ、その出力は低域通過フィルタ25処理される。乗算は、アナログ式の混合器すなわち乗算器24により実行される。この形式の回路の出力はカンチレバーの位相に依存する。一次近似では、計測値は位相角のコサインに比例する。この手法は実装が非常に簡単であるが、非線形性と、自動ゲイン制御回路がもつ本質的な限界とにより、位相角が大きくなると著しく不正確になる。
【0008】
図3は、従来技術の別のアナログ式信号処理回路である2相ロックイン増幅器を示す。この従来技術では、PSD(不図示)からの(自動ゲイン制御されない)信号26は、0°の基準(「同相」成分、すなわち「I」)、および90°の基準(「直交位相」成分、すなわち「Q」)の両方とアナログ乗算され、それぞれの出力は低域フィルタ25処理される。それぞれの乗算はアナログ式混合器(すなわち乗算器)24により実行される。この回路は、カンチレバー振動(振動は不図示の圧電素子により物理的に得られる)を制御する信号、およびその信号の直交位相信号を、デジタル式装置、つまり直接デジタルシンセサイザ27に依存している。しかし、両信号はデジタル/アナログ変換器28を通ってルーティングされてから、アナログ乗算に至る。同様に、アナログ乗算器24の出力は、別のデジタル装置、すなわち、同相および直交位相信号により振幅および位相を計算するデジタル信号プロセッサ29(DSP)を通ってルーティングされる。ここでもまた変換器、この場合はアナログ/デジタル変換器30が必要である。場合によって、このDSPは、物理的にみてコントローラの一部ではなく、代わりに、コンピュータマザーボード上のプラグインカードに配置されることもある。この方法によれば、単一チャンネルロックイン増幅器の場合よりも満足できる位相結果が生成される。なぜなら、自動ゲイン制御による制限の影響を受けないため、この場合の位相は数学的にみて正しいからである。とはいえ、アナログ式電子回路は、ノイズおよび非線形性の点から相変わらず高くつく。この方法の主な欠点は、依然としてアナログ乗算器に依存しているということである。これらの装置は、本質的にノイズが多く、非線形で、周波数および温度に依存する誤差、および出力信号への混合器基準信号のブリードスルーの影響を受ける。
【0009】
既に説明した欠点および短所に加えて、従来技術のコントローラは、アップグレードについても厳しい限界がある。典型例としては、機能を変更し、または新特徴を追加するために、新しいハードウエア筐体、カード、モジュール、または幾つかの他のアドオンを購入しなければならない。最悪の場合、コントローラ全体を工場に返送して、ハードウエアのバグフィックスのような取るに足らないことを行う必要があるかもしれない。
【0010】
好適な実施の形態の説明
上記のように、本明細書で開示する本発明は、AFM、および他のカンチレバー型機器用のコントローラであり、コントローラ内の主要部に配置され、性能およびフレキシビリティの改良を担うデジタル電子回路を用いる。本発明者らは、機器のフレキシビリティを大きく改良する混成アナログ/デジタル装置により、信号ルーティング能力も改良した。この新アーキテクチャは、過去のAFMコントローラの機能全てを踏襲できるだけでなく、アナログ式電子回路では従来達成不可能であった多くの新機能を可能にする。
【0011】
開示するコントローラは、変更しなければ、カンチレバーの撓みまたは振動を検出しつつ試料上で先端部を走査し、カンチレバー基部の垂直方向位置を修正するための圧電素子チューブスキャナを利用するAFMと関連させて用いることはできない。これは、上記の米国特許第Re34,489号、および米国特許第5,025,658号に開示されているAFMを含む。開示するコントローラは、本発明者らの同時係属出願第10/016,475号に開示されるAFM、および類似の構造のAFMとの関連で用いることができる。また、開示するコントローラにより、その出願で開示されている形式のLVDTからのフィードバックを用いてAFMの動作をより正確に制御することが容易になる。
【0012】
新コントローラの基本的な回路図を図4に示す。開示するコントローラの3つの主要要素が、強化した機能を創出するデジタルソリューションを提供する際に特に重要である。これらは、フィールドプログラマブルゲートアレイ31(FPGA)、デジタル信号プロセッサ32(DSP)、およびクロスポイントスイッチ33である。これらの要素のそれぞれについて、以下で別々に説明する。
【0013】
図4の残りの部分には、AFMへの接続(「顕微鏡へのケーブル」)、コンピュータインターフェースへの接続(「PCへのUSB」)、様々なコントローラ機能へのユーザ入力を可能にする各種のBNC、およびx−yスキャナとカンチレバーのz位置を制御する圧電素子とにアナログ駆動信号を配信するために用いる3台の高電圧増幅器(「HVアンプ」)が含まれる。図では、振動モードでの画像化用にプログラムされた開示コントローラのダイヤグラムを示す。これは説明用の構成を意図したものであり、他の多くの構成が容易にプログラム可能である。この実施例では、PSD(不図示)からのアナログのカンチレバー撓み信号(図4の左上隅の「カンチレバー撓みから」)を高域通過フィルタ処理して直流信号を除去し、クロスポイントスイッチ33の左側の入力4に送る(「ACDefl」)。このスイッチ入力からスイッチ右側の出力2(「InFast」)にスイッチし、そこからアナログアンチエイリアスフィルタ34を経由して、高速(16ビット、5MHz)アナログ/デジタル変換器35へ送る。ADC変換後は、信号チェーンは全て純デジタル演算するので、信号振幅および位相量は基本的に完全なものになる。このように、デジタル計算処理に無価値の信号部分を除去するフィルタ処理は別として、撓み信号は検出後直接デジタル化され、FPGA31に送られ、そこでアナログ式2相ロックイン増幅器(図3)と類似の方法でデジタル的に混合または乗算される。混合した後、得られた2つのデジタル信号はデジタル低域通過フィルタ処理され、DSPに送られ、そこで同相および直交位相成分が振幅および位相に変換される。その振幅を用いてデジタルフィードバック計算を行う。その計算結果をデジタル/アナログ変換器に送り、増幅後にそのアナログ信号によってカンチレバーz位置制御用の圧電素子を適切な方向に移動させる。2相ロックイン増幅器の説明と併せて既に説明したものと等価な、デジタル化した撓み信号の混合に関連する機能に加えて、FPGA31の一部を形成する直接デジタルシンセサイザを用いて、カンチレバーの振動を制御する信号を発生する。その信号をデジタル/アナログ変換器に送り、低域通過フィルタ処理して、クロスポイントスイッチ33の左側の入力15(「DDS」)に送る。この入力から右側の出力15(「Shake」)にスイッチされる。そこから、「震動」圧電素子38に出力を送り、振動を物理的に得る。
【0014】
図4には示していないが、開示するコントローラは、当該技術に精通する者には周知の技術により、マルチドロップバスを用いる自動構成を実装する。マルチドロップバスは、シリアル番号、装置パラメータ、およびハードウエア装置の特徴を恒久的に記録できる。相互接続基板またはコントローラに装置をプラグインするかプラグを外した時、本バスはこれらの装置を自動検出し、適切なパラメータをソフトウエア内で更新できる。マルチドロップバスはまた、装置内の集積型センサをサポートする。これにより装置パラメータの温度定格を下げることが可能となる。温度センサは故障の検出にも利用できる。
【0015】
フィールドプログラマブルゲートアレイ
FPGAはロジックブロックアレイ、およびブロック間の相互接続からなるプログラム可能なハードウエアである。ロジックブロックおよび相互接続は、ともに動的に構成および再構成して、極めて多数の低レベルおよび高レベルのハードウエア機能を実行できる。更に、動的に構成および再構成して、多くのタスクを一斉に(並列に)実行できる。この本質的な並列性により、FPGAは典型的なマイクロプロセッサまたはDSPよりも数百倍または数千倍高速な演算を実行できる。
【0016】
FPGAの速度および能力を把握するには、FPGAをDSPと比較することが有用である。DSPの性能がどれ位良いかのベンチマーク試験の1つは、1秒間で実行できる乗算回数である。現在のDSPは、100MHzオーダーのクロック周波数を有する。1クロックサイクルで1計算を実行する場合、そのDSPは、最良で毎秒およそ1億回の計算を実行できることを意味する。乗算はFPGAにとっては簡単なタスクなので、典型的なFPGAは、同一クロックサイクルの間に、例えば100回の乗算を実行するように構成できる。従って、典型的なFPGAは、典型的なDSPよりも少なくとも100倍高速である。FPGAは毎秒100億回の乗算を実行でき、一方、典型的なDSPは僅か1億回しか実行できない。多くのことを一斉に実行するFPGAの能力により、FPGAは、AFMコントローラの信号処理チェーンが有するべき強力で代替のないツールとなる。DSPだけを用いて(更に言えば、DSPが多数の場合でも)デジタル式2相ロックイン、DDS、幾つかのフィルタチェーン、およびデジタル式AFMコントローラに必要な他の全てを実装するのは著しく困難であろうが、その一方で、本明細書で説明したFPGAを含むコントローラはそれを実現した。
【0017】
図5は、開示するコントローラの一部を形成するFPGA31に実装される機能を示す。これらは、デジタル式2相ロックイン、ユーザが選択可能な周波数の正弦波を発生する直接デジタルシンセサイザ27(DDS)、および各種のデジタルフィルタ41を含む。これらの各機能は必要に応じて動的に再構成できる。
【0018】
図5に示すように、かつ上記のように、FPGAは完全デジタル式ロックインを実装する。このロックインは、アナログ式2相ロックイン増幅器(図3)の説明と併せて上記で説明したものと類似している。しかし、ここでは図3の信頼性に乏しいアナログ乗算器24がデジタル混合器すなわち乗算器40により置き換えられており、デジタル混合器すなわち乗算器は、温度、周波数、およびアナログ乗算器に現れるブリードスルーの影響を受けることなく、これらを誤差源として除去し、高忠実度の出力信号を提供する。同様に、注目すべきは、上記のように、ロックイン全体がデジタル式でソフトウエアにより記述されるので、その如何なる側面も、FPGAを再プログラムするだけでアップグレードまたは変更できる。これは検出の仕組み全体を変更することを含む。例えば、(高速ACまたは間欠接触モード等の)カンチレバー振幅を各サイクルベースで計算することが必要な実験では、FPGAにプログラムしたロックインをピーク検出器プログラムで置き換えることができ、コントローラハードウエアに修正を加えたり、または追加したりする必要がない。
【0019】
開示するコントローラの全ての信号チェーンの全ての側面がFPGAに関わる。従って、通常のコントローラ寿命中に、いずれかの信号処理ハードウエアに加える必要があるかもしれない修正、バグフィックス、新特徴等も、簡単なプログラム変更で済む。
【0020】
デジタル信号プロセッサ
開示するコントローラの一部を形成するDSP32は、他の走査型プローブ顕微鏡の場合のように、インターフェースコンピュータ内部ではなくコントローラ自体の内部に配置される。この設計によりDSPと、FPGA、ADC、DAC、およびクロスポイントスイッチ等の補助装置との間のデータ転送が簡単になる。DSPがコントローラ内にあるので、コントローラとコンピュータとの間で標準的なインターフェースを用いることが可能になる。好適な実施の形態ではUSBインターフェースを利用した。この編成はまた、FPGAとDSPとの間でのタスクのやり取りが便利になる。一般に、DSPはFPGAよりもプログラミングが簡単であり、一方、FPGAはDSPよりもずっと高速である。
【0021】
DSP32の機能を図6に示す。
【0022】
クロスポイントスイッチ
DSPと同様に開示するコントローラの一部を形成するクロスポイントスイッチ33は、他の走査型プローブ顕微鏡の場合と同様に、インターフェースコンピュータまたは他の物理的に分離した容器の内部ではなく、コントローラ自体の内部に配置される。DSPの場合と同様に、この設計によりクロスポイントスイッチと、FPGA、ADC、DAC、およびDSP等の補助装置との間のデータ転送が簡単になる。
【0023】
クロスポイントスイッチ33の機能を図7に示す。クロスポイントスイッチ33は、開示するコントローラ内部の入出力信号の大部分に対して電話交換機のように動作する。ソフトウエアコマンドを用いて、クロスポイントスイッチにより、ユーザがハードウエアの適切な部分に信号をルーティングできる。この強力な信号ルーティングフレキシビリティのおかげで、物理的な配線を追加せずに、事実上無限のコントローラトポロジ構成を定義できる。更に、上記したように、全信号がフロントパネルのBNCコネクタにより直ちに利用可能で、使い易い。
【0024】
好適な実施の形態では、クロスポイントスイッチは、16個の入力および16個の出力を含む。クロスポイントスイッチの左側の入力は、ユーザ専用(6In0、7In1、および8In2)、または、現在用いられず将来利用可能なもの(11PogoIn0、12PogoIn1、13NotUsed1、および14NotUsed2)を含む。クロスポイントスイッチの右側の出力(10Out0、11Out1、12Out2、13PogoOut、および14Chip)についても同様である。
【0025】
開示するコントローラにより、Igor Pro、MATLAB、LabView、およびVisual
Basicを含む高レベルソフトウエア制御言語にコントローラをリンクする本発明者らが開発した低レベルコマンドを用いて、AFMまたは他のカンチレバー型機器を操作することが可能となる。これにより、機器が多数の既存ルーチンおよび制御を活用でき、ひいては、試料のナノリソグラフィおよびナノ操作、自動ばね校正、およびコンピュータのメモリのみに制限される画像(例えば、4096×4096ピクセル)の生成等の新ルーチンの開発およびプロトタイプ化が可能となる。更に、高レベルソフトウエア制御言語は、ユーザの計測、データ解析、および出版品質の図形の創生を容易にする。これは、制作者がAFMソフトウエアのこれら特徴全てを踏襲するように強いられるか、またはユーザが自らの要件全てを達成するために2つ以上のソフトウエアパッケージの実行を強いられるかのいずれかである、有標AFMソフトウエアを越える著しい利点である。
【0026】
マウス駆動のナノリソグラフィおよび操作
以下は、MFP−3Dを用いて行った操作およびリソグラフィ実験を幾つか収集したものである。この収集は、全てMicroAngelo(登録商標)インターフェースを用いて行った。大部分の操作シーケンスは初期基準画像で開始する。続いて、この画像に一連の曲線が描き込まれる。これらは、リソグラフィ/操作段階中のカンチレバー先端部のプログラムされた移動を表す。すると、リソグラフィ効果を示す「応答」画像が現れる。このプロセスは、場合によっては何回も、繰り返すことができる。単純な手書き曲線および直線に加えて、MicroAngelo(登録商標)は、数学的に定義された曲線およびアレイを創成できる。幾つかのこのサンプルを最後に含める。カンチレバー先端部を周囲に移動させるのに加えて、MicroAngeloは、リソグラフ/操作プロセス中に計測もできる。実施例は、カンチレバーの高さ、振幅、撓み、位相、電流、または外部信号を含む他のデータチャンネルの監視も含む。
【0027】
操作の実演を図8Aおよび図8Bに示す。カーボンナノチューブの両画像は、およそ100nmの振幅をもつAC/反発モードで作成した。両方の画像で原子ステップを見ることができる。グレースケールは15nm、走査サイズは1.45μmであった。図8Aは、MicroAngelo(登録商標)インターフェースを用いてスケッチした明るい線のトレースを伴う初期画像を示す。画像が出来上がってから、図8Aの明るいトレースに沿ってカンチレバーの先端部を移動した。カンチレバーが明るいパスをトレースする際、通常の負荷の力は90nNに設定した。カンチレバー先端部の公称速度は1μm/秒であった。図8Bは、得られたカーボンナノチューブの動きを示す。画像の左下のチューブ断面は、画像の右上部分のチューブ断面から分離している。
【0028】
図9Aは外部のソフトウエアで生成した画像を示す。MicroAngeloインターフェースにより、カンチレバーは、このパターンの境界をトレースできる。次いで、Olympus
AC240カンチレバー、および約200nNの負荷ポイントを用いて、Lexanポリカーボネートの表面上に境界線をトレースした。リソグラフィ処理の後、100nmの振幅で、AC/反発モードで画像化を実行した。得られた画像を図9Bに示す。明らかに、AFM先端部は表面を修正し、元画像図の9Aの境界を再生している。
【0029】
本コントローラは、内蔵型の回転式エンコーダおよびプログラマブルプッシュボタンスイッチを有する。これにより制御パラメータを標準的なコンピュータのキーボードまたはマウス入力ではなく、「ノブ」を用いて操作できる。
【0030】
説明した本発明の実施の形態は、好適で、かつ発明概念を説明し易いよう考慮したものに過ぎない。本発明の範囲は、このような実施の形態に制限されるものではない。当該技術に精通する者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な多数の他の編成を考案できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】検出器の基準座標系内に配置したカンチレバーをもつ原子間力顕微鏡用の光学的検出器を示す従来技術。
【図2】原子間力顕微鏡用コントローラにおける振動モード用の従来技術の単一チャンネルロックイン増幅器を示すブロック図。
【図3】原子間力顕微鏡用コントローラにおける振動モード用の従来技術の2チャンネルロックイン増幅器を示すブロック図。
【図4】本明細書で開示するコントローラのブロック図。
【図5】図4に示すフィールドプログラマブルゲートアレイの詳細ブロック図。
【図6】図4に示すデジタル信号プロセッサの詳細ブロック図。
【図7】図4に示すクロスポイントスイッチの詳細ブロック図。
【図8A】ナノリソグラフィの実施例。
【図8B】ナノリソグラフィの実施例。
【図9A】ナノ操作の実施例。
【図9B】ナノ操作の実施例。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンチレバーの撓みを検出するための位置検出器、および前記カンチレバーの基部の垂直方向位置を修正するための手段を有する原子間力顕微鏡用のコントローラであって:
前記原子間力顕微鏡の前記位置検出器の出力と、前記カンチレバー基部の垂直方向位置を修正するための前記手段との間に接続されるフィードバック回路と;
デジタル信号プロセッサから受信した信号を含む、前記原子間力顕微鏡の前記位置検出器、および/または他の構成体からのデータを処理するようにプログラムされるフィールドプログラマブルゲートアレイと;
前記フィールドプログラマブルゲートアレイから受信した信号を含む、前記原子間力顕微鏡の前記位置検出器、および/または他の構成体からのデータを処理するようにプログラムされるデジタル信号プロセッサと;
を備えるコントローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【公表番号】特表2006−510891(P2006−510891A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−561466(P2004−561466)
【出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2003/041806
【国際公開番号】WO2004/057303
【国際公開日】平成16年7月8日(2004.7.8)
【出願人】(503191069)アサイラム リサーチ コーポレーション (5)
【Fターム(参考)】