説明

カード用コネクタ

【課題】ハウジングにカードを挿入するための挿入力を低減し、かつ、ハウジングへカードを確実にロックすることができ、さらに、カード排出時のカードの飛び出しを防止することができるカード用コネクタを提供する。
【解決手段】カードが挿抜されるハウジングと、ハウジングにカードを挿着したときに、カードの接点と接触するコネクタ端子と、カードの挿入、排出に伴って、カードの挿抜方向に移動するスライダと、スライダをカードの挿入方向へ付勢する第1コイルばねと、スライダをカードの排出方向へ付勢する第2コイルばねと、を備え、第1コイルばね及び第2コイルばねは、スライダ及びハウジングに、それぞれ常に接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話、PCその他の各種携帯情報端末、デジタルカメラ、デジタルAV機器などのメモリ対応機器、及び家庭用ゲーム機器に用いられるメモリーカード、ICカード並びにカード型カートリッジに使用される、カード用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、PCその他の各種携帯情報端末、デジタルカメラ、デジタルAV機器などのメモリ対応機器、家庭用ゲーム機器その他の機器では、ICやメモリを組み込んだメモリーカード、ICカード、又は、カード型カートリッジが広く使用されている。これらのメモリーカード、ICカード、及びカード型カートリッジを機器側の回路基板に電気的に接続するためにカード用コネクタが用いられている。
【0003】
従来のカード用コネクタとしては、例えば、図10、図11に示すものがある(特許文献1)。このカード用コネクタには、カード121が挿脱可能なハウジング122が設けられ、このハウジング122は、ハウジング本体123とこの上方を覆うハウジングカバー124とで構成されている。ハウジング本体123は、薄板状の底板125と、前端部に形成された前壁126と、側部に形成された側壁127とを備え、底板125の前端側には10本の端子128が並列に配列されている。
【0004】
前壁126内側にはアーム受け溝134が形成され、さらに、該アーム受け溝134内には小径の丸溝135(図11参照)が形成されている。この丸溝135にはアーム136の前端部137が枢支されている。また、前壁126には、ばね受け凹部139が形成されている。さらに、底板125の後方には、コーナ壁140が形成され、該コーナ壁140にはばね収容溝141が形成されている。
【0005】
ハウジングカバー124は両側が下方に折曲し、ハウジング本体123に被嵌されるようになっている。また、ハウジングカバー124の縁部には、アーム押え143が折曲形成され、アーム押え143はアーム136を下方に押え付けている。
【0006】
底板125の端部129にはスライダ144が設けられ、スライダ144は、角棒状のガイド部145と、ガイド部145の前端部から内側に突設されカード121の前端が当接可能な当接部146とを備えている。また、ガイド部145の上面側には、係合凹部148を有するハートカム147が形成され、アーム136の後端部138がハートカム147に沿って揺動可能となっている。
【0007】
また、ガイド部145の後端部には、ばね収容溝149が形成されている。そして、引張コイルばね151は、その前端部、後端部がそれぞれ、各ばね収容溝149,141内に収容支持されるようになっている。また、当接部146には切欠部156が形成され、切欠部156に圧縮コイルばね158の後端部が係合している。
【0008】
カード121の挿入時には、カード121の挿入に伴ってスライダ144が引張りコイルばね151の弾性力に抗して前進し、さらに圧縮コイルばね158がばね受け凹部139に当接して圧縮される。そして、アーム136の後端部138がハートカム147の係合凹部148に係合してスライダ144とカード121が挿着位置にロックされてカード121と端子128とが接触する。
【0009】
この状態から、カード121を排出させるには、挿着位置でカード121をさらに押し込むことによりアーム136の後端部138が係合凹部148から外れて圧縮コイルばね158の弾性力によりスライダ144とカード121が後退してカード121と端子128とが離間した後、引張りコイルばね151の弾性力によりスライダ144とカード121が排出位置まで後退するものとなる。
【特許文献1】特開2002−367720号公報
【特許文献2】特開2005−203231号公報
【特許文献3】特開2005−134978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述のカード用コネクタにおいては、引張コイルばね151及び圧縮コイルばね158の二つのコイルばねにより、スライダ144とカード121をカードの排出方向へ付勢しており、カード121の排出時に、カード121が勢いのあまり、排出位置を超えて落下してしまうという問題があった。また、コネクタ装置に衝撃が加わった場合にロックが外れてカードが飛び出す虞があった。
【0011】
これに対して、カード排出時のカード飛び出しを防止すべく、引張コイルばね151に代えて、スライダの後端部とハウジング後端部との間にカード排出方向に沿って、板ばねを配置したコネクタ装置が提案されている(特許文献2)。この文献には、カード排出時にスライダが移動することによる衝撃が、板ばねの有する弾発力で緩和されるため、カード排出時にカードに伝わる衝撃を抑えることができ、これにより、カードの飛び出しを防止することができることが開示されている。
【0012】
しかし、カード排出時の緩衝部材として板ばねを配置したこのコネクタ装置では、カード飛び出し防止の効果はあるものの、スライダが停止する際に、スライダと板ばねとが離間している状態から衝突するために衝撃が生じるという問題、さらには、昨今の軽薄短小化されたコネクタでは板ばねの大きさを小さくする必要があり、スライダが停止する際に生じる衝撃を吸収するのに必要なばねのストロークや荷重を十分に得ることができないという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のカード用コネクタにおいては、カードが挿抜されるハウジングと、ハウジングにカードを挿着したときに、カードの接点と接触するコネクタ端子と、カードの挿入、排出に伴って、カードの挿抜方向に移動するスライダと、スライダをカードの挿入方向へ付勢する第1コイルばねと、スライダをカードの排出方向へ付勢する第2コイルばねと、を備え、第1コイルばね及び第2コイルばねは、スライダ及びハウジングに、それぞれ常に接触していることを特徴としている。
【0014】
前記第1コイルばねと前記第2コイルばねは、前記カードの挿抜方向に沿って同軸上に配置されていることが好ましい
【0015】
上記カード用コネクタでは、第2コイルばねの弾性による付勢力は、第1コイルばねの弾性による付勢力よりも大きいことが好ましい。
【0016】
上記カードがハウジングに挿入されていない状態においては、スライダは、ハウジングに設けた位置決め部と前記第2コイルばねにより挟持されているとよい。
【0017】
上記第1コイルばねの弾性による付勢力は、ハウジング内でカードを最も前方へ挿入したときにゼロとなるとよい。
【0018】
上記第1コイルばね及び第2コイルばねは圧縮コイルばねで構成することができる。
【0019】
上記カードはマイクロサイズドSDメモリーカードとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、カードの挿抜方向に沿って、スライダとハウジングに常に接触するように、2つのコイルばねを同軸上に配置してあるため、カード挿入時は、第1コイルばねの作用により挿入力を低減でき、カード排出時は、第1コイルばねが、排出動作直後からスライダのブレーキとして作用するため、排出動作完了時には十分にスライダの加速度を減衰させることができる。さらに、排出動作中に、ばねとスライダとが衝突する構造ではないため衝撃を生じることがなく、これによりカードの飛び出しを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明にかかる実施形態を図面を参照しつつ詳しく説明する。
本実施形態に係るカード用コネクタは、図1に示すように、カード70が挿抜可能なハウジング20、アーム60、スライダ50、第1コイルばね80、第2コイルばね82、及びロック金具90を備える。
【0022】
ハウジング20は、合成樹脂製で上方及び後端側が開放されたハウジング本体21と、ハウジング本体21の上方を閉塞可能な金属製のハウジングカバー41と、で構成されている。
【0023】
ハウジング本体21は、板状の底板25と、底板25の前端部に形成された前壁26と、底板25の一方の側部に形成された側壁27とを備え、底板25の略中央に設けた凹部25aには、所要数(図1では8本)の端子(コネクタ端子)28が並列に配列されている。これらの各端子28は、凹部25aの略中央で幅方向に延びる中央壁部25bに圧入又は一体成形されている。底板25の他方の側壁29側には、前後方向に細長矩形状のガイド孔30が、形成されている。
【0024】
ガイド孔30前方の前壁26内側にはアーム受け凹部34が形成され、このアーム受け凹部34内には小径の丸溝35が形成されている。この丸溝35にはアーム60の前端部62が枢支される。アーム60は、前端部62及び後端部64がそれぞれ下方に折り曲げられたピン状を成している。
【0025】
アーム受け凹部34より側壁29側の前壁26には、側壁29と略平行に延びる第2ばね受け柱部36が形成されている。第2ばね受け柱部36の後方には、コーナ壁37が形成され、このコーナ壁37には、第2ばね受け柱部36と同軸上に、第2ばね受け柱部36に向かって延びる第1ばね受け柱部38が形成されている。また、側壁29の37寄りには、内側へ突出する位置決め部29aが設けられている。
【0026】
ハウジングカバー41は、下方に折り曲げられた左右の壁部42、43を側壁27、29にそれぞれ係合して、ハウジング本体21に被嵌されるようになっている。このハウジングカバー41においては、ハウジング本体21のガイド孔30の前端側に対向する位置、後方斜め下方に片持ち梁状に延びるアーム押え45が折曲形成されている。ハウジングカバー41がハウジング本体21に被嵌されたとき、アーム押え45はアーム60を下方に押えつける。このハウジングカバー41もハウジング本体21とともに、基板に実装される。
【0027】
スライダ(イジェクトバー)50は、略角棒状のガイド部51と、ガイド部51の後端部から外側に向かう傾斜側面53a及びこれに続いて前後方向に延びる側面53bが形成された当接部53と、ガイド部51の後端部から外側へ延びるばね支持部58と、を備える。このスライダ50は、ばね支持部58が側壁29側に向くように、底板25の側壁29側に配置される。ハウジング20内にカード70が挿入されると、当接部53には、カード70の前端が当接する。
【0028】
ガイド部51の上面からは、ハートカム55が凹設され、このハートカム55の後端には係合凹部56が形成されている。ばね支持部58には、第1ばね受け柱部38及び第2ばね受け柱部36と同軸上に延びるように、第2ばね受け柱部36側へ向かう第2柱部58aと、第1ばね受け柱部38側へ延びる第1柱部58bと、が設けられている。アーム60は、前端部62が丸溝35に枢支された状態で、後端部64がハートカム55に沿って揺動可能となる。ガイド部51の下面には、スライダ50を底板25に配置したときにガイド孔30内に係合され、スライダ50が前後方向に移動するように案内するガイド用突起52が凸設されている。なお、スライダ50の位置決めは、ガイド用突起52及びガイド孔30のほか、スライダ50及びハウジング本体21の別の部位を用いて行うこともできる。
【0029】
ガイド部51の後端側において、当接部53とばね支持部との間には、略U字形状の溝部59が形成されている。この溝部59には、鉤状に曲成されたロック金具90の前端部92が遊嵌される。ロック金具90の後端部94は、いったん内側へ向かった後に外側へ折り返すように曲成されており、この折り返し部分94aは、側面53bの後端側に形成された切り欠き部53cから、内側へ延出する。この後端部94は左右方向に弾性変形可能である。なお、ロック金具90は、同程度の弾性を備えていれば、樹脂成形により形成してもよい。または、スライダ50の一部に一体に形成してもよい。
【0030】
第1コイルばね80は、その前端部及び後端部が、第1柱部58b及び第1ばね受け柱部38にそれぞれ支持される圧縮コイルばねである。また、第2コイルばね82は、その前端部及び後端部が、第2ばね受け柱部36及び第2柱部58aにそれぞれ支持される圧縮コイルばねである。第1コイルばね80及び第2コイルばね82は、前後方向に沿って互いに同軸上に配置され、これによりスライダ50は前後方向にそってハウジング本体21に対して力学的に安定し、相対移動可能となる。
【0031】
カード70は、例えばマイクロサイズドSDメモリーカード(Micro−Sized SD Memory Card)であって、その下面側の前端部に、端子28に対応した数の周知の接点取付溝(不図示)が形成され、この接点取付溝内に接点(不図示)が取付けられている。また、カード70の前端角部には、側面形状がスライダ50の傾斜側面53aに対応した当接斜面77が形成され、ハウジング本体21にカード70を挿入していくと、傾斜側面53aに当接斜面77が当接する。さらに、当接斜面77側の側部にはロック溝78が凹設され、このロック溝78にロック金具90の後端部94が係合可能となっている。
【0032】
以下、図2〜図5を参照しつつ、カード70の挿抜時のカード用コネクタの作用を説明する。
(1)カード未挿入状態(初期状態)
ハウジング20にカード70が挿入されていない状態、又は、カード70をハウジング20の後端側から挿入し、カード70の当接斜面77が、スライダ50の傾斜側面53a及びロック金具90の折り返し部分94aに当接していない状態(図2)においては、スライダ50には、第2コイルばね82の弾性による後方への押圧力(付勢力)(F1)と、第1コイルばね80の弾性による前方への押圧力(付勢力)(F2)と、が働いている。これらの押圧力は、第2コイルばね82による押圧力の方が大きく設定されており、さらに、スライダ50のばね支持部の後端面が位置決め部29aに当接することにより、スライダ50の前端面50aの初期位置P1を決めることができる。なお、第1コイルばね80及び第2コイルばね82は、スライダ50を前後方向に動かしても、第1コイルばね80についてはコーナ壁37とばね支持部58に、第2コイルばね82については前壁26とばね支持部58に、常に接触するような弾性力を備えている。また、スライダ50には第1コイルばね80、第2コイルばね82の押圧力の差(以下初動力)Fs(=F1−F2)が絶えず負荷されているので、カード70が未挿入の状態で振動や衝撃が加わったとしても、スライダ50が動いたり異音を発生したりすることがない。
【0033】
(2)カード仮保持状態
図2に示す状態から、カード70をさらにハウジング20内へ挿入していくと、ロック金具90は折り返し部分94aがカード70の側面72に当接して外側に(第1コイルばね80に近づくように)弾性変形する。その後、さらにカード70を挿入すると、図3に示すように、カード70の当接斜面77が傾斜側面53aに当接するとともに、後端部94(折り返し部分94a)がロック溝78内に係合して、カード70はハウジング本体21に仮保持された状態となる。初期状態から仮保持状態に至るまでの間は、スライダ50は初動力Fsにより前端面50aが初期位置P1で静止しており、アーム60の後端部64はハートカム55の前端側に位置している。ここで、当接斜面77は、前方へ向かうにつれて徐々に内側へ向かうような傾斜面とされ、かつ、ロック金具90の後端部94の折り返し部分94aから後端部までの形状も当接斜面77に対応するように傾斜しているため、後端部94(折り返し部分94a)をロック溝78内に係合させるために必要な力(Tin)は、初期状態のスライダ50を動かすための初動力Fs(=F1−F2)より小さくすることができる。
【0034】
(3)オーバーストローク状態
カード70をハウジング20内にさらに挿入すると、スライダ50は第2コイルばね82の弾性力に抗しつつカード70と共に前進を始める。カード70をさらに前進させると、第1コイルばね80はその弾性によりその前端部をばね支持部に後端部を37に当接させた状態を維持しつつ、第2コイルばね82はさらに圧縮され、図4に示すように、カード70の前端部は前壁26に当接し、スライダ50の前端面50aはオーバーストローク位置P2に至る(オーバーストローク状態)。このオーバーストローク状態に至るまでの間、スライダ50には第1コイルばね80の弾性による押圧力が働き続けているため、この分だけカード70をハウジング20内に挿入させるための力を低減することができる。さらに、第1コイルばね80と第2コイルばね82が同軸上に配置されているため、第1コイルばね80及び第2コイルばね82の姿勢及び挙動が安定し、これにより、カード70を正しい方向、位置へ挿入していくことができる。オーバーストローク状態では、第1コイルばね80の弾性による押圧力がゼロとなるように設定してもよい。また、この間、アーム60は丸溝35を支点にハートカム55に沿って揺動し、アーム60の後端部64はハートカム55の後端部内側に位置する。なお、第1コイルばね80の弾性による押圧力は、ゼロとならないようにしてもよいし、スライダ50の前端面50aが後述のロック位置P3に来たときにゼロとなるようにしてもよい。
【0035】
(4)カードロック状態(カード挿着状態)
オーバーストローク状態に至ったところで、カード70の挿入動作を止めると、第2コイルばね82と第1コイルばね80の弾性力のバランスに対応して、スライダ50はカード70と共に後退し、図5に示すように、アーム60の後端部64がハートカム55の係合凹部56に係合する。この結果、カード70は所定の挿着位置に保持され、スライダ50の前端面50aはロック位置P3に至る。このとき、カード70側の各接点(不図示)はそれぞれ、所定の各端子28と接触し、カード70は回路基板の所定回路(不図示)と電気的に接続された状態となる。この状態では、スライダ50は、第2コイルばね82から後方へ向かう押圧力を、第1コイルばね80から前方へ向かう押圧力を、それぞれ受けており、かつ、第1コイルばね80の押圧力より第2コイルばね82の押圧力の方が大きいため、係合凹部56へ後端部64が確実に係合している。このため、カード70に衝撃が加えられたとしても、カード70がハウジング20から脱落することがない。
【0036】
(5)カードの抜脱
カード70の抜脱は、カード70を挿着位置よりさらに前方に押込んで、第2コイルばね82、第1コイルばね80の弾性を利用してカード70をハウジング20から排出させることによって行う。すなわち、カード70を挿着位置より前方に押し込むと、傾斜側面53aが当接斜面77と当接しているスライダ50も前方に進んで、前端面50aはロック位置P3からオーバーストローク位置P2へ向かう。これにより、アーム60の後端部64と係合凹部56との係合状態は解かれ、後端部64はハートカム55の後端部外側に位置する。この状態で、カード70の押込み動作を止めると、第2コイルばね82の弾性力により、スライダ50の前端面50aが仮保持位置P1に至るまで、カード70及びスライダ50は後退する(図3)。この状態で、カード70の後端部を後方に引張ると、ロック金具(ロック部材)90の後端部94は外側に弾性変形し、ロック金具90とロック溝78との係合状態が解除され、カード70をハウジング20から抜脱することができる。
【0037】
カード70の抜脱過程においては、後端部64と係合凹部56との係合状態が解かれ、カード70の押し込み動作をやめた後に、スライダ50には、第2コイルばね82の弾性による後方への押圧力のほかに、第1コイルばね80の弾性による前方への押圧力が働き続けている。すなわち、この間、第2コイルばね82ではその前端部が前壁26に後端部がばね支持部に、第1コイルばね80では前端部がばね支持部に後端部が37に、それぞれ当接した状態が維持される。したがって、スライダ50にかかる力は、図6(a)に示すように、カード70の挿着工程の各状態と、カード70の抜脱工程でこれらに対応する各状態と、で同じとなる。さらに、カード70にはロック金具90の後端部94の弾性による内側への押圧力が働き続けている。この押圧力(保持力)(Tout)は、初期状態のスライダ50を動かすための初動力Fs(=F1−F2)より大きい。このため、カード70が第2コイルばね82から受ける押圧力によってカード70がハウジング20から飛び出してしまうことがなく、加速度を徐々に減衰させつつカード70が後方へ移動して、ロック溝78へのロック金具90の後端部94の係合が確保され、カード70は確実に仮保持位置に保持される。
【0038】
これに対して、従来のカード用コネクタでは、図6(b)に示すように、抜脱工程においてスライダが位置P2から位置P1に移るまでの間でかかる力が当初一定値のままである。これは、加速度が減衰せずにスライダがこの間で空走していることを示しており、この挙動により、仮保持位置でスライダの急激な加速度の減衰が発生し、これによりカードに大きな慣性力が生じて、カードは仮保持位置にとどまることなくハウジングから飛び出してしまうこととなる。
【0039】
また、本実施形態では、第1コイルばね80と第2コイルばね82が同軸上に配置されているため、これらの弾性による押圧力が同一直線上で働き、これにより、カード70の抜脱動作中のスライダ50及びカード70の姿勢及び挙動を安定させることができる。
【0040】
つづいて、本発明の変形例について説明する。
図7〜図9に示すように、第1スイッチ端子100と第2スイッチ端子110を設け、カード70が挿着されることによりこれらが導通する構成とすると、カードの挿着を電気的に検知することができるため好ましい。
【0041】
第1スイッチ端子100は板ばねであって、前端部102が折り曲げて前壁26に設けた係合溝26a内に係合され、後端部103がハウジング本体21内において前壁26の前方に配置されており実装基板に接続される。
【0042】
第2スイッチ端子110はコイルスプリングであって、底板25から上方に突出するように設けた支柱25cに支持されたコイル部111から延出した前端部112は、前壁26に対して、例えば一体成形により、固定されているとともに、実装基板と接続している金属からなる接続片114に当接(図8参照)し、後端部113は、前後方向において第1スイッチ端子100の後端部103と対向するように、前壁26の後方に配置されている。
【0043】
図7に示すように、カード70が仮保持状態では、第1スイッチ端子100と第2スイッチ端子110は接触しておらず、カード70のハウジング20への挿着は検知されない。これに対して、図9に示すように、カード70がハウジング20に挿着された状態では、カード70の前端面79に当接した第1スイッチ端子100の後端部103が、その弾性により前方に付勢されつつ、第2スイッチ端子110の後端部113に接触している。これにより第1スイッチ端子100と第2スイッチ端子110が電気的に導通し、第1スイッチ端子100又はコイル部111に接続されたカード検知回路(不図示)が、ハウジング20内にカード70が挿着されたことを検知する。
【0044】
上述のように、第1スイッチ端子100と第2スイッチ端子110は、第1コイルばね80、第2コイルばね82その他のカード70の挿抜に関わる構成とは独立して設けられているので、コネクタが軽薄短小化されたとしても安定したカードの挿抜機構を得ることができる。
【0045】
さらに、(1)挿着されたカード70を、正しく手順を経ずに、無理に排出させた場合、(2)落下衝撃等でカード70が排出されてしまった場合、(3)カード70を挿抜するための構成(機構)が外力等の要因により破壊された場合、その他の誤作動が起きたとしても、正常に機能する。
【0046】
また、第1スイッチ端子100は、その後端部103がカード70の前端面79により押圧されることにより、後端部113と接触する構成となっている。このため、スライダ50がロック位置P3にあるのにカード70が排出されるような誤作動があったとしても、カード未挿着状態を確実に検知することができる。つまり、カード検知は正常に機能してセット等に電気的な損傷を与えることがない。
【0047】
さらに、第2スイッチ端子110としてコイルスプリングを用いている。カード及びカード用コネクタの小型化に伴い、カード挿着操作のストローク(前後方向のストローク)を維持しつつ、カード及びコネクタの幅寸法(前後方向と垂直な方向)が小さくなくってきている近年の状況からすると、板ばねを用いた場合は、前後方向のストローク(変位量)小さくせずに、幅寸法の制限からバネ長が短くなるため、設計が困難となる。これに対して、コイルスプリングを用いると、幅寸法を小さくできるとともにストロークを維持できる。
【0048】
なお、カード70の挿着位置で、スライダ50の動きを拘束又は解放するロック機構は、前述したアーム60とハートカム55の組合せに限定されるものではない。
【0049】
上述の説明では、第1コイルばね80及び第2コイルばね82をともに圧縮コイルばねとしたが、これらをともに引張コイルばねとすることもできる。この場合、第1コイルばね80の引張力を第2コイルばね82より大きくする設定とすると、上述の実施形態と同様の作用、効果を得ることができる。
【0050】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係るカード用コネクタの構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係るカード用コネクタへのカードの挿入を開始した状態を示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るカード用コネクタにカードが仮保持された状態を示す平面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るカード用コネクタにおいてカードがオーバーストローク位置まで挿入された状態を示す平面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るカード用コネクタへカードが挿着された状態を示す平面図である。
【図6】カード用コネクタへのカードの挿抜過程においてスライダにかかる力を縦軸に、スライダの前後方向位置を横軸に示した図であり、(a)は本発明の実施形態に係るカード用コネクタの場合を、(b)は従来のカード用コネクタ場合を示す。
【図7】本発明の変形例に係るカード用コネクタにカードが仮保持された状態を示す平面図である。
【図8】図7における第2スイッチ端子及びその周辺の構成を拡大して示す上下方向直交断面図である。
【図9】本発明の変形例に係るカード用コネクタへカードが挿着された状態を示す平面図である。
【図10】従来のカード用コネクタの構成を示す分解斜視図である。
【図11】従来のカード用コネクタの構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0052】
20 ハウジング
21 ハウジング本体
28 端子(コネクタ端子)
29a 位置決め部
41 ハウジングカバー
50 スライダ
60 アーム
70 カード
80 第1コイルばね
82 第2コイルばね
90 ロック金具(ロック部材)
P1 初期位置
P2 オーバーストローク位置
P3 ロック位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードを基板に電気的に接続するためのカード用コネクタであって、
前記カードが挿抜されるハウジングと、
前記ハウジングに前記カードを挿着したときに、前記カードの接点と接触するコネクタ端子と、
前記カードの挿入、排出に伴って、前記カードの挿抜方向に移動するスライダと、
前記スライダを前記カードの挿入方向へ付勢する第1コイルばねと、
前記スライダを前記カードの排出方向へ付勢する第2コイルばねと、を備え、
前記第1コイルばね及び前記第2コイルばねは、前記スライダ及び前記ハウジングに、それぞれ常に接触していることを特徴とするカード用コネクタ。
【請求項2】
前記第1コイルばねと前記第2コイルばねは、前記カードの挿抜方向に沿って同軸上に配置されている請求項1記載のカード用コネクタ。
【請求項3】
第2コイルばねの弾性による付勢力は、第1コイルばねの弾性による付勢力よりも大きい請求項1又は請求項2記載のカード用コネクタ。
【請求項4】
前記カードが前記ハウジングに挿入されていない状態においては、前記スライダは、前記ハウジングに設けた位置決め部と前記第2コイルばねにより挟持されている請求項1〜3のいずれか1項記載のカード用コネクタ。
【請求項5】
前記第1コイルばね及び前記第2コイルばねは圧縮コイルばねである請求項1〜4のいずれか1項記載のカード用コネクタ。
【請求項6】
前記カードはマイクロサイズドSDメモリーカードである請求項1〜5のいずれか1項記載のカード用コネクタ。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−200815(P2007−200815A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−20766(P2006−20766)
【出願日】平成18年1月30日(2006.1.30)
【出願人】(000128407)京セラエルコ株式会社 (77)
【Fターム(参考)】