説明

カーボンクロス調の意匠を有する積層シート、および該積層シートを被覆した金属板

【課題】立体的で精密なカーボンクロス調のエンボス凹凸意匠を内部に備え、また、実物のカーボンクロスに特有の黒光りする光輝感をリアルに再現可能で自動車内装用途等に好適に用いた意匠性積層シートを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂シート層(A層)、接着剤層(B層)、光輝性粒子を含有する熱可塑性樹脂層(C層)、着色された熱可塑性樹脂層(D層)の4層を備える積層シート。C層:実質的に透明な熱可塑性樹脂中に、所望の鱗片状ガラスの表面を添加した層であり、C層の厚みをTc(μm)、C層の樹脂成分全体を100質量部として光輝性粒子の添加量をWc(質量部)とした時、所望の式(1)、式(2)が成立し、かつ前記C層の接着剤層(B層)が付与される側の表面にカーボンクロスを模したエンボス版の転写による凹凸意匠が付与されており、前記B層が所望厚みを有し、硬化させた層である積層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車内装用途等に用いられる意匠性積層シート、およびこの意匠性積層シートで被覆した意匠性積層シート被覆金属板に関する。さらに詳しくは、加工性と本物のカーボンクロス強化樹脂材料に極めて近い意匠感を有する意匠性積層シート、およびこの意匠性積層シートで被覆した意匠性積層シート被覆金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンクロスは、PAN系炭素繊維を紡糸した糸を編み込んで織布としたものであり、エポキシ系樹脂やポリイミド樹脂などの硬化型樹脂を含浸し繊維強化樹脂として用いる事で非常に高強度でかつ軽量な材料とする事が出来る点から、今日の物流を支える航空機の部材として広く用いられるようになっており、安全性と燃費の向上等に寄与している。一方、競技用の自動車、二輪車等にも同様な理由により採用されている事から、カーボンクロスの意匠は、これら競技用車両から受ける印象と重なり、特別な高級感、高性能のイメージ、機能美を見る者に与える。
【0003】
そこで、通常の市販車両の内装材や雑貨類、オーディオ等家電製品の筐体などの、本来のカーボンクロスを用いた繊維強化樹脂材料の強度や軽量性などの高性能までは必要とされない用途に関しても、カーボンクロス強化樹脂を用いて意匠感を高めたものも現れているが、カーボンクロスは非常に高価なものであり、また、成形も容易ではなくコストが掛かる事から、上記高級感や機能美の外観意匠を得る為だけに実物のカーボンクロスを使用するのは、一部のユーザーに限定される事となっている。
更に、近年大型航空機にカーボンクロス強化樹脂が本格的に採用され始めた事から、価格の問題に加えて供給の問題が発生し、上記のような趣味的用途への使用はますます制約を受けるようになってきた。
【0004】
上記のような問題点があり、また、これら用途では、元来、意匠感さえ同等のものが得られれば良い場合が殆どである為、フェイク材料が開発されて来ており、最も簡単なものとしては、カーボンクロスの柄模様を印刷により再現した熱可塑性樹脂シートなどがある。
これは、木目印刷を施した建材用シートなどと同じように、軟質塩化ビニル系樹脂シートやポリオレフィン系樹脂シートなどの熱可塑性樹脂シートにカーボンクロス調の柄印刷を施したものであり、価格的に非常に安価であり、加工や施工も容易なものであるが、印刷法では実物のカーボンクロスの独特の光輝感や織り目の立体感を表現する事が難かしく、やはり実物との意匠感の違いは歴然たるものがあった。
【0005】
これを改善するために、特許文献1に於いては、透明な基体シートの表面にカーボンクロスの柄模様を印刷した印刷層を設け、裏面側に金属薄膜層、或いは、光輝性顔料層を付与した構成が提案されており、該金属光沢層で反射した光線がカーボンクロス柄印刷の隙間を通して見えることで、より立体的な意匠感を得る事ができるとしている。
また、特許文献2では、熱可塑性樹脂から成る黒色の下地層の表面に、カーボンクロスの凹凸模様を模したエンボスによる凹凸意匠を付与し、該凹凸意匠の凹部又は凸部にのみ高輝度層を形成し、更にその上に、表層となる透明な熱可塑性樹脂層を熱融着積層や押し出しラミネート法により積層する方法が提案されており、また、特許文献3には、特許文献2の部分的に付与される光輝度層に替えて、下地層に0.1〜10質量%のパール顔料や金属粉を錬り込む事が提案されている。これらに於いては単なる印刷意匠と異なり、樹脂層の内部に実際のカーボンクロスの如き凹凸を有した構成となる事から、極めて良好な意匠感が得られるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−44186号公報
【特許文献2】特開平11−277683号公報
【特許文献3】特開2007−30515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、単なる印刷品に比べると高い意匠感は得られるものの、カーボンクロスの柄模様自体は印刷により再現したものには変わりなく、立体感の再現には限度があるものと思われる。また、特許文献2、および特許文献3では、着色された下地層として、軟質塩化ビニル系樹脂などの熱可塑性樹脂シートを用い、該表面にカーボンクロス調の意匠を有するエンボス版による凹凸模様を付与した後、その上に透明な軟質塩化ビニル系樹脂などの熱軟化温度等の物性が下層の樹脂組成と大きくは違わない熱可塑性樹脂シートを熱融着により積層する事を製法上の特徴とする事から、加熱・圧着により上層と下層を積層する際に下地表面に付与したエンボス模様が潰れてしまい、折角付与したエンボスによる凹凸意匠が、積層一体化の後には消失したり、消失しないまでも浅い転写となってしまう恐れがある。
また、特許文献3では、下地である黒色顔料を添加された樹脂層中に、パール顔料、および/または金属粉を添加する事を特徴としているが、金属粉は、その名の通り金属調の反射特性を有する事から、炭素繊維特有の金属反射とは異なる反射光沢感を得ることが難かしい。同様に、パール顔料は、反射強度が低い事から、隠ぺい力の強い黒色顔料を添加するのと同じ層にパール顔料を添加しても充分な反射効果を得る事が難かしく、やはり炭素繊維特有の反射光沢感を得る事が難かしい。そこで、パール顔料の添加量を増す事も考えられるが、その場合は下地層の白色度が向上してしまい、炭素繊維の色味を再現する事が出来なくなる。
【0008】
そこで、本発明に於いては、上記の問題点を解決できる、積層工程でのエンボスの潰れを発生せず、従って、立体的で精密なカーボンクロス調のエンボス凹凸意匠を内部に備え、また、実物のカーボンクロスに特有の黒光りする光輝感をリアルに再現可能で自動車内装用途等に好適に用いる事の出来る意匠性積層シートを提供する事、および、該積層シートをラミネートした、折り曲げ加工等の加工性に優れ、やはり自動車内装用途等に好適な意匠性樹脂被覆金属板を提供する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明について説明する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0010】
第一の本発明は、表層として、実質的に透明な熱可塑性樹脂シートより成る層(A層)、中間層として実質的に透明な接着剤層(B層)
基材層として、表層側から順に、光輝性粒子を含有する熱可塑性樹脂層(C層)、濃色系の色に着色された熱可塑性樹脂層(D層)の少なくとも4層を備える積層シートであって、
前記C層が実質的に透明な熱可塑性樹脂中で構成され、平均粒径が80μm以下であり平均厚みが1μm以上、10μm以下である鱗片状の光輝性粒子を含み
前記光輝粒子は、表面に二酸化チタンの薄膜をコーティングされたものであり、
以下の式(1)および式(2)が成立する事を特徴とするカーボンクロス調意匠を有する積層シートである。
式(1)50≦(Tc×Wc)≦350
式(2)10≦ Tc ≦100
Tc(μm)はC層の厚みである。
Wc(質量部)は、C層の樹脂成分全体を100質量部とした場合の光輝性粒子の添加量である。
【0011】
この積層シートに於いては、エンボスを付与したC層の表面に、透明な表層シートであるA層を積層一体化する際に、無溶剤の紫外線硬化型接着剤を用いる事により、両層を熱融着積層で一体化する場合の様に、加熱によりエンボスが潰れたり消失したりする恐れがなく、積層シートの内部に良好なカーボンクロス調の凹凸意匠を有する積層シートを得る事が出来る。
【0012】
また、濃色系の色に着色されたD層の上に、上記粒径と厚みの範囲を有する鱗片状ガラスの表面に二酸化チタンの薄膜をコーティングした平板状の光輝性粒子を上記範囲の量添加したC層を付与し、該C層の表面にカーボン織布のテクスチャーを模したエンボスによる凹凸意匠を付与する事により、アルミ粒子や、金属薄膜をコーティングした平板状光輝性粒子を添加した場合のような金属的な反射とも、パールマイカ粒子を添加した場合のような真珠光沢とも異なる実物のカーボンクロスに特有の黒光りする意匠感をリアルに再現する事が出来るものである。
【0013】
第一の本発明に於いて、前記C層のB層が付与される側の表面にカーボンクロスを模したエンボス版の転写による凹凸意匠が付与されており、
前記B層が、前記C層のエンボス凹凸の凸部が完全に埋まる厚み以上の厚みを有し、
前記B層が、無溶剤の紫外線硬化型接着剤を硬化させた層である事が好ましい。
【0014】
この積層シートに於いては、無溶剤の紫外線硬化型接着剤を用いる事により、溶剤型の接着剤のような塗工後の乾燥工程を省略可能で、溶剤成分の揮散により接着剤層が肉痩せし、乾燥膜厚が薄くなる事からエンボスによる凹凸を充分に埋める事が困難である等の問題を生じない。さらに、紫外線照射によって充分な初期硬化が得られるため、シアネート硬化型接着剤を用いた場合のように養生に特別な工夫をする必要がなく、生産性に優れている。
【0015】
第一の本発明に於いて、前記C層および前記D層の少なくとも1層が架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂、またはABS系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートである事が好ましい。
C層およびD層の樹脂組成として、このようなアクリル系樹脂を用いる事により、柔軟性に優れた積層シート、および積層シート被覆金属板を得ることが出来る。
【0016】
或いは、前記C層が芳香族ポリカーボネート系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートであり、前記D層が架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートの構成としても良い。
このような構成とする事により、架橋弾性体成分を比較的多く含むアクリル系樹脂層にエンボスを付与した場合は、そのゴム弾性故にエンボス戻りを生じ易く、あまり精細なエンボス版を再現性良く転写できない虞があるのに対し、エンボスが転写される層であるC層の樹脂組成として、芳香族ポリカーボネート系樹脂を主体とする樹脂組成物を用いる事により、カーボンクロス調の精細なエンボスを再現性良く転写する事が出来る。
【0017】
上記の架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートは、カレンダー製膜法により製膜されたものである事が好ましい。
カレンダー製膜法は、押出製膜法に比べて、多品種の小ロット生産への対応に優れており、該製法を用いる事で、小ロットでの生産性を良好にする事ができる。
【0018】
或いは、前記C層、および前記D層を芳香族ポリエステル系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートとしても良い。
この場合は、芳香族ポリエステル系樹脂を主体とするシートが既に各種化粧シートの用途に用いられている事から、特別な配慮を要さずに容易にシート状物を得る事が出来る。
このように、C層、およびD層として、芳香族ポリエステル系樹脂を主体とする樹脂組成物を用いる場合は、共押出製膜法を用いて、C層とD層を一体化した状態で得る事が好ましい。これによって、二層を別々に製膜し、後工程で積層させるよりも生産効率を向上させることが出来る。
【0019】
第一の本発明に於いて、表層であるA層の透明な熱可塑性樹脂シートとしては、非晶性芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とする無配向のシート、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主成分とする無配向のシート、芳香族ポリカ−ボネート系樹脂を主成分とする無配向のシート、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする二軸延伸シートのいずれかである事が好ましい。
【0020】
非晶性である芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とする無配向のシートをA層として用いた場合は、該樹脂組成から成るシートがカレンダー製膜法で、容易に得る事が出来る点で好ましく、また、非晶性でありながらガラス転移温度が100℃を超えるような芳香族ポリエステル系樹脂組成物等も開発されて来ており、このようなポリエステル系樹脂を主成分として用いた場合は、A層の表面に梨地などのエンボス意匠を更に付与した場合に、そのエンボス耐熱性を良好なものとする事も出来る。架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主成分とする無配向のシートは、紫外線吸収剤が配合され、A層自体の耐候性が良好であるばかりでなく、下層への紫外線の透過を効果的に抑止できるものが各種市販されており、容易に入手可能である事から、本発明の積層シート、および、積層シート被覆金属板に良好な耐候性を容易に付与する事が出来る。また、A層の表面に梨地などのエンボス意匠を更に付与する事も出来る。
芳香族ポリカ−ボネート系樹脂を主成分とする無配向のシートをA層として用いた場合も、芳香族ポリカーボネート系樹脂との相容性に優れる紫外線吸収剤が開発されている事から、本発明の積層シート、および、積層シート被覆金属板に良好な耐候性を付与する事が出来る。更に、A層表面に梨地などのエンボス意匠を更に付与した場合に、樹脂組成物のガラス転移温度が高い事から、そのエンボス耐熱性を良好なものとする事が出来る。
【0021】
A層として、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする二軸延伸シートを用いた場合は、鏡面外観などと言われるような良好な表面平滑性を容易に得る事が出来る。また、世界的に広く使用されている材料であることから、供給の安定性やコストのメリットも得ることができる。
【0022】
前記A層の非晶性である芳香族ポリエステル系樹脂は、テレフタル酸、またはテレフタル酸ジメチルをジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の20モル%以上、50モル%以下のスピログリコールと、80モル%以下、50モル%以上のエチレングリコールを主体とするその他のジオール成分より成る共重合ポリエステルを用いても良い。
【0023】
このような樹脂組成範囲にある芳香族ポリエステル系樹脂は、実質的に非晶性である為、使用中の高温・高湿度環境下などで結晶化により白濁を生じて意匠性を損なう虞がない。また、ガラス転移温度が通常の非晶性ポリエステルに比較して高いものである(最も汎用的な非晶性芳香族ポリエステルであるPETG樹脂でガラス転移温度は約78℃に対し、上記組成範囲のスピログリコール共重合PETでは、98℃〜113℃のガラス転移温度を得る事ができる為、表面層であるA層の耐熱性を良好なものにすることができる。
【0024】
本発明の第二の発明は、上記の積層シートおよび金属板を有し、前記積層シートのD層側の表面が金属板に積層されている、カーボンクロス調意匠を有する積層シート被覆金属板である。
【0025】
本発明の意匠性積層シート被覆金属板は、カーボンクロスの立体感をエンボスによる凹凸で再現した事により、深み感および立体感を有する、いわゆる内部エンボス構造を有するものである。また、本発明の意匠性積層シート被覆金属板は、濃色系の色に着色された熱可塑性樹脂層の上に、特定の粒径範囲と添加量で鱗片状ガラスの表面に二酸化チタンの薄膜をコーティングした平板状の光輝性粒子を含む層を有する構成とした事により、金属粉や金属薄膜をコーティングした平板状の光輝性粒子を添加した場合では得られなかった、カーボンクロスに独特の黒光りする光沢感を再現したものであり、自動車内装用途等に好適に用いる事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体化した実施の形態を説明する。
図1は、本発明の意匠性積層シート100および意匠性積層シート被覆金属板200の層構成を示した模式図である。
【0027】
なお、本発明の意匠性積層シート100の各層として用いる樹脂「シート」は、その厚み範囲からすると「フィルムおよびシート」と記すのがより正しいが、ここでは一般的には「フィルム」と呼称する範囲に関しても便宜上「シート」という単一呼称を用いた。
【0028】
また、無配向という表現は、シートに何らかの性能を付与するために意図して延伸操作等の配向処理を行ったものではないことであり、押出し製膜時にキャスティングロールによる引き取り(ドロー)で発生するような配向等まで存在していないという意味ではない。
また、「実質的に透明である」という表現は、A層、およびB層に関しては、該実質的に透明である樹脂層を通して、その下側に付与されたエンボスによる凹凸意匠の視認が可能であり、更に、基材シートであるC層、およびD層によって演出されるカーボンクロス調の色味と光沢感を損ねない層であるという意味であり、A層およびB層が積層された状態で、JIS K 7105に準拠して測定した全光線透過率が50%以上、好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である。かつ、ヘイズが40%以下、好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下のことである。
C層に用いる熱可塑性樹脂原料に関しては、全光線透過率が80%以上、好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上である。また、ヘイズに関しては、熱可塑性樹脂原料単体で厚み1mmのシートとした際で5%以下、好ましくは3%以下であり、更に好ましくは2%以下である。
【0029】
<A層10>
表層のひとつの層として、A層が付与される目的は、実質的に透明なA層とB層を通してC層の表面に付与されたカーボンクロス柄のエンボス意匠が視認され、かつC層とD層により演出されるカーボンクロス調の光沢感と色味の意匠が視認されることにより、カーボンクロス強化樹脂の意匠感を得るためであり、また、接着剤層であるB層が最表面層である場合は、表面の傷入り性や耐汚染性に問題が出る虞がある事から、それを回避する為である。A層としては、軟質PVC系樹脂被覆金属板に用いられて来た透明二軸延伸ポリエステル系樹脂シート、すなわち軟質PVCの表面に付与された印刷層の保護、樹脂被覆金属板表面の各種物性の改良等の目的で用いられてきた透明二軸延伸ポリエステル系樹脂シートと同じものを用いても良いが、非晶性芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とする無配向のシート、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主成分とする無配向のシート、芳香族ポリカ−ボネート系樹脂を主成分とする無配向のシートを用いても良い。これら無配向のシートをA層として用いた場合は、A層表面にも梨地等のエンボスによる凹凸意匠を付与する事が可能となり、表面平滑仕上げのカーボンクロス強化樹脂の意匠感だけでなく、表面光沢を落とした意匠感等も付与する事が出来る。
【0030】
これらの中でも、積層シート、或いは積層シート被覆金属板を自動車内装の中でも比較的使用中の温度が高温となり易く、また、ガラス越しではあるが太陽光が当たる部分であるダッシュボードやサイドコンソールパネル等に使用する場合は、紫外線吸収剤が添加された架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主成分とする無配向のシートや、紫外線吸収剤が添加された芳香族ポリカーボネート系樹脂とする事が耐熱性や耐光性などの耐久性の点から好ましい。
紫外線吸収剤が添加された架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂としては、C層やD層に用いる事が出来るアクリル系樹脂よりも架橋弾性体成分の添加量が少ない、従って比較的硬質のアクリルシートを用いる事が表面の耐傷入り性の点から好ましく、三菱レイヨン社製の「アクリプレン・HBS−007」、カネカ社製の「サンデュレン・SD−014」などのシートとして購入することが出来る。或いは、これら引張破断伸びが50〜150%程度となる組成のアクリル樹脂原料を購入し、紫外線吸収剤を添加して押出し製膜により無延伸のシートを作成しても良い。この際、添加する紫外線吸収剤としては、あまり長波長側の紫外線まで吸収してしまうものだと、B層の紫外線照射による硬化が困難となる為、トリアジン系などの地上到達紫外線の短波長側に特に大きな吸収のある紫外線吸収剤を用いる事が好ましい。トリアジン系の紫外線吸収剤としては、チバ・ジャパン社製の「チヌビン1577」や、サイテック社製の「サイアソーブ1164」などが市販されており、アクリル系樹脂との相容性に優れ、好ましく用いる事が出来る。
【0031】
A層の樹脂組成物として、芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いた場合も紫外線吸収剤を添加する事により良好な耐光性を付与することが可能であり、またガラス転移温度が約150℃と高い事から、良好な耐熱性を確保することができる。
芳香族ポリカーボネート系樹脂に添加する紫外線吸収剤としても、トリアジン系のものが相容性に優れ、好ましく用いる事が出来る。
また、A層の樹脂組成物の主体としては、実質的に非晶性である芳香族ポリエステル系樹脂も透明性の良好なシートを得られる点から好ましく用いる事が出来るが、該非晶性ポリエステルとして最も汎用的なPETG(イーストマンケミカル社製の「イースター・6763」など)では、ガラス転移温度が78℃程度と、自動車内装用途に用いるにはやや耐熱性が不足する虞がある。その場合は、スピログリコール共重合の非晶性PET樹脂(三菱瓦斯化学社製の「アルテスター45」:ガラス転移温度113℃、など)や、ジオール成分として、1,4−シクロヘキサンジメタノールとテトラメチルシクロブタンジオールを用いた非晶性ポリエステル樹脂であるイーストマンケミカル社製の「トライタン・FX−200」(ガラス転移温度116℃)などの非晶性ポリエステルを好ましく用いる事が出来る。紫外線吸収剤を添加する場合は、やはりトリアジン系のものを好ましく用いる事ができる。
【0032】
A層の厚みは、30〜125μmであることが好ましく、50μm〜100μmであることがさらに好ましい。A層の厚みが薄過ぎると、B層の硬化収縮に起因する表面平滑性の低下を抑えるのが難しく、A層の厚みが厚すぎると、積層シート被覆金属板としての充分な加工性を得ることが難かしくなる。
【0033】
<B層20>
中間層として、B層は、無溶剤の紫外線硬化型接着剤を主成分とする層である。表面にエンボスによる凹凸意匠を付与した熱可塑性樹脂からからなるC層の上に、熱可塑性樹脂から成るA層を熱融着積層しようとした場合、加熱・加圧によりC層表面に付与したエンボスが浅くなり、消失する虞を回避する為に、本発明に於いては、A層とC層との積層一体化に際して無溶剤型の紫外線硬化型接着剤を使用する。
【0034】
B層は、アクリレート樹脂を主体とする樹脂を主体とする実質的に透明な接着剤層であることが好ましい。
本発明におけるアクリレート樹脂は、アクリレート系オリゴマーおよび又はアクリレート系オリゴマーとアクリレート系モノマーの混合組成物であり、アクリレート系オリゴマーとは、アクリロイル基(CH=CHCO−)あるいはメタクリロイル基(CH=CCHCO−)を分子内に1〜数個有する分子量が数百から千数百の化合物であり、代表的にはエポキシ、エポキシ化油、ウレタン、ポリエステル、ポリエーテル等のモノ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリレート、トリ(メタ)アクリレートおよびさらに多官能の(メタ)アクリレートが挙げられる。このようなアクリレート系オリゴマーとしては、アロニックス(東亞合成社製)、アートレジン(根上工業社製)、NKオリゴ(新中村化学社製)、ニューフロンティア(第一工業製薬社製)などが市販されている。
【0035】
また、アクリレート系モノマーは、単官能、2官能以上の多官能モノマーがあげられる。単官能性(メタ)アクリレート系モノマーとしては、アクリロイルモルフォリン、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジイソプロピルアクリルアミド、イソボニルアクリレート、2−ヒドロキシ(メタ)アクリレート、2−ヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。又、2官能(メタ)アクリレート系モノマーとしてはエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等が、また3官能以上の(メタ)アクリレート系モノマーとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(テトラ)(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらの中で特に、アクリロイルモルフォリン、アクリルアミド誘導体からなるモノマーが、A層並びにB層に対する密着性の点から好ましい。アクリロイルモルフォリンの市販品としてはACMO、ジメチルアクリルアミドの市販品としてはDMAA(両者共興人(株)製)が挙げられる。
ただし、これらに限定されるものではなく、アクリレート系モノマーの選定にさいしては、接着剤層(B層)に可撓性が要求される場合は塗工適性上支障のない範囲でモノマーの量を少なめにしたり、1官能または2官能(メタ)アクリレートモノマーを用い、比較的高平均架橋間分子量の構造とする。また、接着剤層の耐熱性、耐水性等が要求される場合には、塗工適性上支障のない範囲でモノマーの量を多めにしたり、3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーを用いることで低架橋間平均分子量の構造とすることができる。尚、1、2官能モノマーと3官能以上のモノマーを混合し塗工適性と硬化物の物性とを調整することもできる。
【0036】
上記接着剤層は、アクリレート系オリゴマー、または、アクリレート系オリゴマーとアクリレート系モノマーの混合組成物を主体とするものであって、ここで言う主体とは、B層を形成する組成物全体の質量を基準(100質量%)として、50質量%以上100%以下の範囲で配合される。
50%より少ないと、紫外線などの活性エネルギー線を照射した時点での初期硬化性が十分に出ないために、端面からの接着剤層のはみ出し現象や、表層シート(A層)の剥離などが発生する虞があり、或いは裁断などの2次加工ができなくなるなどの問題が出る。
なお、アクリレート系オリゴマーとアクリレート系モノマーの配合比率は、特に限定されるものではないが、組成物の接着特性、作業性の問題から、アクリレート系オリゴマー30〜70質量%に対して、アクリレート系モノマーが70〜30質量%の範囲が好ましい。
【0037】
上記接着剤組成物を主体として成るB層は、可視光線、紫外線、電子線、X線等活性エネルギー線の照射により硬化させることができるが、生産性や設備費用等を考慮した場合、紫外線ランプにより硬化させるのが最も好ましい。
紫外線で硬化させる場合には、紫外線感応型光重合開始剤を用いることが好ましい。紫外線感応型光重合開始剤としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4′−ジメトキシベンゾフェノン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。また、市販品としてはIRUGACURE184、651、500、907、CG1369、CG24−61(以上、チバガイギー社製)、LucirineLR8728(BASF社製)、Darocure1116、1173(以上、メルク社製)、ユベクリルP36(UCB社製)等を挙げることができる。
【0038】
その他増感作用を有する添加剤を加えて光重合の感度を向上することもできる。その光増感剤としては、トリエチルアミン、ジエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、エタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等があり、市販品としてはユベクリルP102、103、104、105(以上、UCB社製)等が挙げられる。
これらの光重合開始剤は、C層を形成する組成物全体の質量を基準(100質量%)として、0.1質量%以上10質量%以下配合することが好ましい。
なお、接着剤層には、アクリレート樹脂以外に、接着剤層の耐久性を調製するための光非硬化性樹脂を添加することができる。尚、該光非硬化性樹脂としてはウレタン系、ポリエステル系、アクリル系、ブチラール系、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等の熱可塑性樹脂が用いられ、特に、ウレタン系プレポリマーなどが耐湿熱性から好ましい。
【0039】
本発明においては、B層の接着剤硬化物は引張強度が20〜50Mpa破断伸びが200〜600%の範囲であることが好ましい。本発明の積層シートを樹脂被覆金属板の態様で使用する場合は、せん断、折り曲げなどの二次加工が施されるのが一般的であるが、中でも曲げ加工に関しては極率半径0.5mm以下と極めて小さい曲げ半径で加工されることが多く、特に厚みが厚くなると最表面での伸びは大きくなるために加工性が落ち、シートの割れや剥離などが発生しやすくなる傾向がある。後述するA層として二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂シートを用いた場合、その引張り破断伸びが200%程度以下であっても接着剤層(B層)の引張強度、伸びが上記範囲にあると曲げ加工時に、接着剤層でのずり変形が発生して、各シート層の割れ、剥がれが起こり難くなる。
破断伸びが、これよりも大きい場合は、接着剤層(B層)の表面側に、更にA層を積層する構成とは言え、積層シート、或いは積層シート被覆金属板の表面硬度が不足し易くなる。
【0040】
紫外線硬化型接着剤のガラス転移温度は、−50℃〜100℃の範囲であることが好ましい。ガラス転移温度が高過ぎると、A層やC層との密着性が劣ったり、エンボス意匠性樹脂被覆金属板100とした場合の加工性が劣ったりする傾向があり、また、ガラス転移温度が低すぎると、常温での柔軟性が過剰となり、凝集剥離を生ずる恐れがある。
【0041】
なお、B層には、必要に応じて、前述の実質的に透明である事を維持できる範囲内で、無機充填剤、可塑剤、揺変剤、顔料、染料、耐侯性の維持向上のための紫外線吸収剤、安定剤等各種添加剤、触媒などを含んでいてもよい。
【0042】
B層は、C層の表面に付与されたカーボンクロス柄のエンボス凸部が完全に埋まる厚み以上の厚みを有するものである。これは、B層の紫外線照射による硬化時に、B層の厚み方向の硬化収縮が多少発生した場合も、C層のエンボス凸部に相当する部分が盛り上がり状にA層の表面に反映されることを防止するためである。
【0043】
B層の塗布厚みがC層のエンボス凸部の高さより低い場合は、A層の表面にエンボスの凹凸が反映される事になり、また気泡入り等の問題が発生する。B層の塗布厚みがC層のエンボス凸部の高さとほぼ同等な場合も、B層の硬化時において厚み方向のわずかな体積収縮が起こった場合に、A層の表面にエンボスの凹凸が反映される虞がある。
【0044】
<C層30>
基材層のひとつとしてのC層は、B層と積層される側の表面にカーボンクロス柄を模したエンボスによる凹凸意匠を有し、光輝性粒子が添加された、実質的に透明な熱可塑性樹脂より成る層である。
【0045】
C層は、実質的に透明な熱可塑性樹脂の中に、光輝性粒子として、C層の樹脂成分の全量を100質量部として、平均粒径が80μm以下であり、平均厚みが1μm以上、10μm以下であるガ鱗片状ガラスの表面に二酸化チタンの薄膜をコーティングした平板状の粒子を、C層の厚みをTc(μm)、C層の樹脂成分全体を100質量部として光輝性粒子の添加量をWc(質量部)とした時、以下の式(1)が成立するように添加されている。
50≦(Tc×Wc)≦350 ・・・式(1)
上記光輝性粒子の添加量と厚みを有するC層が、濃色系に着色されたD層と積層される事により、カーボンクロスに特有の黒光りする光沢感を得る事が出来る。
【0046】
一般的に、所謂、光輝性顔料、あるいは光輝性粒子として、熱可塑性樹脂中に添加して用いられるものとしては、鱗片状ガラスの表面に銀やニッケルなどの金属の薄膜をコーティングしたものや、天然、又は人工マイカ(雲母)の表面に二酸化チタンの薄膜をコーティングしたもの(パールマイカ顔料)、アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末などがある。
しかし、鱗片状ガラスの表面に金属薄膜をコーティングしたものは、金属的な反射が強く、また隠蔽力が強い事から、一例として、銀の薄膜をコーティングしたものをC層の透明な熱可塑性樹脂に添加した場合では、その粒子径が大きい場合は、下地の色を反映しつつ強烈な金色の輝点が分散された状態として認識される事となり、その粒子径が小さい場合は、下地の色を隠蔽してしまい、ベタな金色着色として認識され、いずれの場合もカーボンクロスの光沢感と色味を再現する事が出来ない。
パールマイカ顔料をC層の透明な熱可塑性樹脂に練り込んだ場合は、二酸化チタンがコーティングされる基材である雲母粒子が、鱗片状ガラスに比べて平滑性に劣る為、粒子表面で可視光線の散乱反射を生じ白色度が上昇してしまい、下地であるD層に濃色系の着色シートを用いた場合もカーボンクロスの色味を再現する事が出来ない。また、パールマイカ顔料は、熱可塑性樹脂の溶融混練押出機などで剪断を受けた場合などに破砕を受け易く、その場合には破砕された粒子がC層の透明性を低下させる事となり、その点からも下地の色味を生かし難い。また、破砕の影響を少なくする為に添加量を減らした場合は、積層シートの構成で、C層表面に付与したカーボンクロス調のエンボス意匠の視認性が著しく低下してしまう。
【0047】
アルミニウム粉末は、光輝性顔料用途として特に平板状の粒子としたものが市販されているが、金属そのものである為、金属的反射が強く、また隠蔽力が金属コーティングした鱗片状ガラスよりも更に強い事から、その粒子径が大きい場合には下地の色を反映しつつ強烈なアルミ色の反射輝度を示す光る点が分散された状態として認識される事となり、その粒子径が小さい場合は、下地の色を隠蔽してしまい、ベタなアルミ色の着色として認識されてしまう。このように、表面に二酸化チタンをコーティングした鱗片状ガラス以外の光輝性粒子を用いても、いずれの場合もカーボンクロスの光沢感を再現する事が出来ない。
【0048】
これに対し、表面に二酸化チタンをコーティングした鱗片状ガラスをC層の透明な熱可塑性樹脂に添加した場合は、その反射輝度自体はパールマイカと同程度で強くは無いが、それによって金属的な反射を示す事がない。また、鱗片状ガラスはパールマイカの基材である雲母に比べて平滑性が高いため、粒子表面での正反射の比率が高く、散乱反射を生ずることによる白濁が極めて少ない。また、押出製膜などのシート製膜の際にパールマイカに比べて、破砕の影響が少なく、また破砕を受けた場合も、パールマイカでは基材である雲母が脆い事により光輝感を消失し易いのに対し、比較的光輝感を維持出来る等の特徴を有している。これによって濃色系の下地であるD層と積層する事により、カーボンクロスに独特の光線反射や色味を良好に再現する事が出来る。
【0049】
該、二酸化チタンコートの鱗片状ガラスとしては、無電解メッキ法など各種の方法で表面コーティングしたものを用いる事が出来るが、日本板硝子社製の「メタシャインRS」などを好ましく用いる事が出来る。
本発明のC層に添加する二酸化チタンをコーティングした鱗片状ガラスの平均粒径は、80μm以下である事が好ましく、20μm以上、50μm以下である事が更に好ましい。粒径がこれより小さい場合は、粒径と厚みの比が小さくなることに起因して、樹脂中に添加した場合の輝度感が低下する為好ましくない。逆に、平均粒径がこれより大きい場合は、下地の色を背景として、粒子が輝度感を有する点として認識される意匠となり、カーボンクロスの意匠を再現する為には好ましくない。尚、ここで言う平均粒径は、コールターカウンター法などの計数法で測定した粒度分布から求めた、体積平均粒径を指すものである。
また、平均厚みは、1μm以上、好ましくは2μm以上、10μm以下、好ましくは6μm以下である事が好ましい。平均厚みがこれより薄いと、押出し製膜やカレンダー製膜などの剪断が加えられるプロセスにおいて、光輝性粒子の破砕が顕著に発生する恐れがある。また、光輝性粒子の平均厚みが、これより厚いとC層を押出し製膜で作成する際に、C層の樹脂組成物の流動性不良を生起し、スジ入りや穴開き等の不良を生じたり、製膜自体が困難となる恐れがある。
C層に添加する鱗片状ガラスを基材とする光輝性粒子は、粒径に関しては、平均粒径を中心にある程度の幅の分布を有しているが、厚みに関しては、容易に取り扱いが可能なサイズの平板状超薄膜ガラスの上に二酸化チタンのコーティングを施した後に破砕してフレークを得るという製法上の特長から極めて良好な均一性を有しており、平均厚みに対し極端に厚みのある粒子が混在することに起因する押出製膜時の不良が発生しにくい特徴を有している。従って、
平均厚みに関しては、少数の抽出サンプルの算術平均で求める事が可能であり、一例としては、鱗片状ガラスを溶剤系の透明塗料中に分散し、延伸PETフィルムの上等に流延して乾燥させ、乾燥塗膜の断面を光学顕微鏡、また走査電子顕微鏡で観察し、任意の鱗片状ガラス粒子の厚みを20点程度測定し、算術平均する事により求める事ができる。あるいは、押出し製膜によりシートに練り込んだ後も厚みの変化は殆ど無いと考える事から、鱗片状ガラスを練り込んだシートを押出製膜により作成し、その断面を顕微鏡により観察し、同様に平均厚みを測定しても良い。
【0050】
C層への光輝性粒子の好ましい添加量はC層の厚みに依存する事は前述の通りで、これより添加量が少ないと、C層表面に付与したカーボンクロス柄の視認性が低下し、良好な意匠感が得られない。これは、C層表面に付与されたカーボンクロス柄のエンボスによる凹凸意匠が、紫外線硬化型接着剤の硬化物層であるB層で埋められた際、C層に光輝性粒子が添加されていない場合には、B層とC層の樹脂組成物自体の屈折率に大きな差が無い事に起因して、C層とB層との界面に存在する凹凸が全く視認できなくなることに起因する。
従って、本発明に於いては、C層に添加される光輝性粒子は、カーボンクロスに特有の光沢感を現出するだけでなく、B層の接着剤組成物との屈折率差、および、正反射特性により内部エンボスの視認性を確保する機能も有している。
光輝性粒子の添加料が上記範囲より多い場合は、いかに該光輝性粒子の隠蔽性が低いとは言え、下地の濃色系の色味を反映し難くなり、また、いかに反射輝度が低いとは言え、金属的な反射を示すようになる為好ましくない。また、該光輝性粒子は、比較的高価なものである為、その点からも必要充分な添加量とする事が好ましい。
二酸化チタンをコーティングした鱗片状ガラスの添加量(C層の樹脂成分の全量を100とした質量部)と、C層の厚み(μm)を掛け算した値としては、100〜300となる事が更に好ましく、150〜250である事が特に好ましい。
【0051】
C層に用いる事が出来る実質的に透明な熱可塑性樹脂としては、前述した透明性を備えると同時に、光輝性粒子の分散が容易で、シート製膜が容易であり、前述の接着剤層(B層)との密着性が良いものであればよく、また、精細なエンボス柄による凹凸意匠の付与が容易であり、かつ、本発明の積層シートを樹脂被覆金属板の態様で使用した場合の折り曲げ加工性などの二次加工性が確保されるものであれば制限なく使用することができる。また、後述するD層との熱融着により積層一体化出来るもの、或いは、D層との共押し出し製膜法による積層一体化された状態での製膜が容易である事が好ましい。
このような樹脂の中でも、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂等を主体とした樹脂組成物を好ましく用いる事ができる。主体とするとは少なくともC層の樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、55質量%以上、好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上含まれることを言う。
【0052】
架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体とする樹脂組成物は、カレンダー製膜が容易であり生産性に優れる利点を有し、芳香族ポリカーボネート系樹脂を主体とする樹脂組成物は、アクリル系樹脂のようにゴム成分を添加しなくても良好な加工性を得る事が出来る点に加えて、ゴム成分を含まない事は、加熱してエンボス版による押圧でエンボスを転写した際、ゴム弾性によるエンボス戻りを起こす事がなく、従って精細なエンボス意匠を良好に転写することができる。芳香族ポリエステル系樹脂を主体とする樹脂組成物は、化粧シート、或いは樹脂シート被覆金属板の用途に於いて実績のある材料であり、各種積層シートが樹脂被覆金属板用などとして提案されており、C層とD層とを共押出し法で積層一体化した状態で得る事が容易である利点を有する。また、エンボスの転写の方法に関しても、各種エンボス付与法に適した積層シートが提案されている。
【0053】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエチレンテレフタレート・エチレンイソフタレート共重合体(PETI)、ポリブチレンテレフタレートイソフタレート共重合体(PBTI)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート(PETG)、ネオペンチルグリコール共重合ポリエチレンテレフタレート、スピログリコール共重合ポリエチレンテレフタレート、フルオレン共重合ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート(PBN)およびこれらの樹脂を2種以上混合したブレンド樹脂などが挙げられる。
【0054】
なお、C層にもD層と同様にその性質を損なわない範囲に於いて、各種添加剤を適宜添加しても良い。
【0055】
C層の好ましい厚みは、10μm以上100μm以下の範囲である。C層を単層で製膜する場合は、50μm以上の厚みがあることが好ましく、これより厚みが薄いと単層のシートとしての取り扱い性が悪化する。また、C層とD層とを共押出し製膜法で一体化された状態で製膜する場合もC層の厚みとしては、30μm以上であることが好ましく、これより薄いと、共押出し法に於いてもシート幅方向のC層厚みが不均一となり易く、また、薄い層に高濃度で光輝性粒子を添加する必要が生じる事から、製膜上のトラブルを生じ易い。
【0056】
厚みが100μmを超える場合は、前述の二酸化チタンをコーティングした鱗片状ガラスの添加量(C層の樹脂成分の全量を100とした質量部)と、C層の厚み(μm)を掛け算した値を、50〜350の範囲とする場合、光輝性粒子の配置がC層のシートの厚み方向に対してまばらなものとなってしまい、結果としてB層とC層の積層界面が不明確となり、該界面に存在するエンボス意匠の視認性が低下する虞がある。また、単純にコストの点からも好ましくない。
【0057】
< D層40>
基材層としてのD層は、特定の光輝性粒子を添加したC層の下側に配置される事により、C層と併せてカーボンクロスに特有の色味を得る為の層である。同時に積層シートに視覚的隠蔽性を確保する層であり、また、積層シートを樹脂被覆金属板にラミネートした構成とする際は、接着剤を介して金属板と積層される側の表面を形成する層でもある。
【0058】
D層40は、濃色系の色に着色されている必要があるが、濃色系の色としては、JISZ 8729(2004)「色の表示方法・L表色系」に準拠して測定した明度指数L値が40以下のものを用いる事が出来、L値が36以下であるものが更に好ましい。C層に添加する光輝性粒子として、隠蔽性が比較的高くないものを用いるのが本発明の特徴であるが、それでも該C層をD層に被覆した場合、明度指数は上昇してしまうものであるため、D層自体の色味における明度指数がこれより高い場合は、積層シートにおける色味が、カーボンクロスに比べて明るいものになり色味に関するリアルさを損ねることになる。また、上記表色系に於いて、知覚色度指数であるa値、およびb値は、それぞれゼロ、従って有彩色を伴わない濃灰色〜黒色でも構わないが、a値が1.0〜3.0程度、従ってやや赤味のある色調とすると、より色味に於いてリアルなものとする事ができる。また、b値に関しても、0.5〜3.0程度、従ってやや黄色味のある色調とする事が好ましい。ただし、実物のカーボンクロス強化樹脂に於いても、マトリクス樹脂の種類や厚み、添加剤成分等により色味は異なるものであり、また知覚色度指数については好みで設定しても良い範囲のものでもある。
【0059】
D層に用いる事が出来る熱可塑性樹脂としては、濃色系の着色が容易で、シート製膜が容易であり、また、樹脂シートを金属板に被覆する際に従来的なラミネート法により、金属板との充分な密着力が得られ、かつ樹脂被覆金属板としての折り曲げ加工性などの二次加工性が確保されるものであれば制限なく使用することができる。また、後述するC層との熱融着により積層一体化出来るもの、或いは、C層との共押し出し製膜法による積層一体化された状態での製膜が容易である事が好ましい。
このような樹脂の中でも、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体とする樹脂組成物、または、芳香族ポリエステル系樹脂を主体とする樹脂組成物をD層の樹脂成分として好ましく用いる事ができる。主体とするとは少なくともD層の樹脂成分全体の質量を基準(100質量%)として、55質量%以上、好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上含まれることを言う。
【0060】
架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂としては、特開2006−224650号公報に記載の着色樹脂層と同様のものを用いる事が出来、「ソフトアクリル」、「軟質アクリル」、「柔軟性アクリル」等の呼称で各種グレードのものが市販されている原料の中から、樹脂被覆金属板としての2次加工性、その他の必要性能を満たすよう適宜ブレンドする等して物性を調整したものを用いる事が出来る。該アクリル系樹脂は、カレンダー製膜が容易である事から、特に顔料を添加して濃色系の色に着色して用いるD層の樹脂組成物として用いる事により、小ロット生産性の利点を得る事ができる。また、C層の熱可塑性樹脂成分として、同様のアクリル系樹脂を用いた場合は無論、芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いた場合も熱融着積層により、良好な密着力を得る事が出来る。
D層として、芳香族ポリエステル系樹脂を主体とする樹脂組成物を用いた場合は、C層にも芳香族ポリエステル系樹脂を主体とする樹脂組成物を用いる事で、C層とD層とを共押出し法で積層一体化した状態で得る事が容易である利点を有する。
【0061】
D層には、上記濃色系の色味の付与、および、被覆される金属板などの視覚的隠蔽効果の付与の目的で顔料が添加される。使用される顔料種は上記目的のために一般的に用いられているもので良く、これらの添加量に関しても、上記目的に一般的に添加される量で良く、例えば顔料の添加量は、D層の樹脂成分の量を100質量部として、0.2〜60質量部程度である。顔料の一例としては、隠蔽効果が高く、かつ粒径が微細であることから樹脂被覆金属板の加工性に与える影響の少ないカーボンブラック顔料を用い、色味の調整のため有彩色の有機、無機の顔料を少量添加したものを用いることができる。
該顔料を添加する方法も公知の方法による事が出来るが、PETG樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂、架橋弾性体を含む柔軟性アクリル系樹脂に対しては、分散性を改良する為の分散媒を添加した顔料、少量の樹脂中に顔料を予備分散させた粉末顔料、樹脂中に顔料を練りこんだカラーマスターバッチなどが豊富に市販されており、この点も前述の樹脂種を用いる事が好ましい理由となっている。
【0062】
着色顔料を添加する目的としては、色味の意匠を付与することの他に、下地の視覚的隠蔽効果を付与することがある。視覚的隠蔽効果は、用途によって重要度が異なってくるが、内装建材用途のエンボス意匠シート被覆金属板等においては、JIS K5600 4−1「塗料一般試験方法・隠蔽率」に準拠して測定した隠蔽率が積層シートの構成で0.95以上であることが好ましい。
【0063】
隠蔽率がこれより低いと金属板等、下地となる基材の色味が、積層シートの色味に反映されて、金属板表面の処理の違い等により下地の色味が変化した際、積層シートの表面から観察される樹脂シート被覆金属板の色味も変化して見える恐れがある。
【0064】
また、D層には、その性質を損なわない範囲において、各種添加剤を適宜な量添加しても良い。
【0065】
一般的な添加剤としては、燐系、フェノール系他の各種酸化防止剤、フェノールアクリレート系他のプロセス安定剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系ラジカル捕捉剤、各種加工助剤、金属不活化剤、滑剤、抗菌・防かび剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料分散性改良剤、充填・増量剤等を挙げることができる。さらに、D層として芳香族ポリエステル系樹脂を用いる場合は、カルボジイミド系、エポキシ系、オキサゾリン系等の末端カルボン酸封止剤、鎖延長剤、あるいは加水分解防止剤等と呼ばれるものを添加するなど、D層として用いる樹脂の固有種に対して効果を有する添加剤類を添加しても良い。
【0066】
D層をカレンダー製膜法で得る場合は、カレンダー製膜性を良好なものとする目的で、各種滑剤を添加しても良い。添加する滑剤としては、従来用いられているもので良く、ステアリン酸、モンダン酸等の脂肪酸系滑剤、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸系滑剤、脂肪酸エステル系滑剤、ポリオレフィン系ワックス・酸変性ポリオレフィン系ワックス・パラフィンワックス等の炭化水素系滑剤、アクリル系滑剤等各種のものを挙げることができる。滑剤の添加量は、D層を形成する全樹脂成分を基準(100質量部)として、0.2〜3質量部程度の一般的な量でよい。また、従来から行われているように、カレンダー装置での製膜時の樹脂温度や、D層の設定厚み等により適宜添加量を調整することができる。
【0067】
さらに、D層には、カレンダー製膜時の熔融張力を向上させるための線状超高分子量アクリル系樹脂(一例として、三菱レイヨン社製の「メタブレンP−531」等がある。)や、フィブリル状に展開する易分散処理を施したポリテトラフルオロエチレン等の加工助剤(一例として、三菱レイヨン社製の「メタブレンA−3000」等がある。)、ゲル化促進剤、バンク形状改善、フローマーク改善の目的で添加される添加剤等を添加しても良い。
【0068】
D層の厚みの、下限は、好ましくは45μm以上、より好ましくは55μm以上、更に好ましくは65μm以上であり、上限は、好ましくは285μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは125μm以下である。D層の厚みが薄すぎると、D層に必要な視覚的隠蔽性を付与する事が困難となる。またシートにピンホールなどの欠陥が発生する虞も多くなる為好ましくない。D層をカレンダー製膜法で作成する場合は、製膜安定性の観点から75μm以上である事が好ましい。逆に厚みが300μmを越えると、これより厚くしても下地となる金属板の保護効果、視覚的隠蔽効果も飽和し、また折り曲げ加工等の2次加工に関しても加工性が低下し、更には従来の軟質PVCシート被覆金属板の折り曲げ加工に用いて来た成形型を使用出来なくなる恐れが有り好ましくない。また原料コストの面からも好ましくない。
【0069】
<意匠性積層シート100および意匠性積層シート被覆金属板200の製造方法>
次に、本発明のカーボンクロス調意匠の積層シート100および該意匠性積層シートを被覆した金属板200の製造方法について説明する。C層、および、D層の製膜方法としては公知の各種方法、例えばTダイを用いる押出キャスト法やインフレーション法などを採用することができ、また、C層、およびD層として架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を用いる場合は、カレンダー法によって製膜する事ができる。C層に芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いる場合は、D層として架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を用いる事により、C層とD層との熱融着積層が容易となる。或いは、C層、D層ともに芳香族ポリエステル樹脂を主体とする層として、単層Tダイとフィードブロックを用いた共押し出し製膜法や、マルチマニフォールドTダイを用いた共押出し製膜法により、積層一体化した状態のシートとしても良い。
【0070】
C層表面へのカーボンクロス柄のエンボス意匠の付与方法としては、前記C層とD層が芳香族ポリエステル系樹脂より成る場合は、押出し製膜時のキャスティングロールとして通常の鏡面ロールに替えて、カーボンクロス調のエンボス柄が凹凸彫刻されたエンボスロールを用い、Tダイから熔融状態で流れ出た樹脂に直接エンボス柄を付与する方法、C層とD層からなる積層シートとして、国際公開WO2003/045690号パンフレットに記載された構成のものを用いる事などにより、エンボス加工装置への適性を持たせ、製膜したシートをオフラインで再加熱してエンボス柄を付与する方法、エンボス柄の転写無しで製膜したC層とD層の積層シートを金属板にラミネートする際の加熱でC層を再熔融させてエンボスロールで柄を転写し、その後にB層、およびA層を積層する方法、その他、熱可塑性樹脂シートにエンボスを付与する方法であれば、特に制限なく用いることができる。C層として芳香族ポリカーボネート系樹脂を用い、D層として架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を用いた場合は、その組み合わせ自体がオフラインでのエンボス加工装置によるエンボス付与適性を有しており、また、この時の加熱により両層を熱融着により積層一体化する事が出来る。
【0071】
上記のC層とD層が一体化された積層シートの、C層のエンボスが付与された側の表面に、B層を付与する方法としては、特に限定されるものではなく、粘度に応じて公知の方法に従い行うことができる。例えば、温度調節可能な二液供給装置、ミキサー、ダイコーターやスクイズ方式のコーター等を使用することにより、A層のシートの積層する側の表面に塗布によりB層を形成し、これをC層に貼り合わせる方法、あるいは一対のラミネートロールを用いA層とC層との間にB層の接着剤組成物を供給してバンクを形成し、接着剤の粘度やラインの速度、ラミネートロールのニップ圧、あるいは一対のロール間の間隙(ロールギャップ)を適宜調整する事で、C層表面に付与されたエンボスの凸部と、A層の積層される側の表面が直接接触する事がない厚みになるように連続的に接着剤組成物の層(B層)をA層とC層との間に付与する方法等を挙げる事が出来る。
しかる後に紫外線照射ランプをA層側表面より照射し、B層の硬化を行うものである。
【0072】
上記のようにして得られた意匠性積層シート100を金属板にラミネートする方法は特に制限されないが、熱硬化型接着剤によるラミネートが一般的である。接着剤としては、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤、ポリエステル系接着剤等の従来より軟質PVCのシートを金属板にラミネートする目的で用いられて来た熱硬化型接着剤を挙げることができる。具体的なラミネート方法の例としては、金属板にリバースコーター、キスコーター等の一般的に使用されるコーティング設備を使用して、意匠性積層シートを貼り合わせる金属面に、乾燥後の接着剤膜厚が2〜10μm程度になるように、上記の熱硬化型接着剤を塗布する。
【0073】
次いで、赤外線ヒーターおよび/または熱風加熱炉により塗布面の乾燥および加熱を行い、金属板の表面温度を、210℃〜250℃程度の温度に保持しつつ、直ちにロールラミネータを用いて意匠性積層シ−トのD層側が接着面となるように被覆、冷却することにより意匠性積層シート被覆金属板を得ることができる。
【0074】
本発明の対象になる金属板としては、従来より樹脂被覆金属板用として用いられて来たものを特に制限なく使用することができ、例えば、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、熔融亜鉛・アルミニウム合金メッキ鋼板、熔融亜鉛・アルミニウム・マグネシウム合金メッキ鋼板、スズメッキ鋼板、ティンフリースチール、ステンレス鋼板等の各種鋼板やアルミニウム系合金板、ニッケル系合金板、チタン系合金板等が使用できる。
【0075】
金属板の厚さは、意匠性積層シート被覆金属板の用途等により異なるが、0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、5mm以下、好ましくは2mm以下である。
【0076】
本発明のカーボンクロス調積層シート、およびカーボンクロス調積層シート被覆金属板は、積層工程でのエンボスの潰れを発生せず、従って、立体的で精密なカーボンクロス調のエンボス凹凸意匠を内部に備え、また、実物のカーボンクロスに特有の黒光りする光輝感をリアルに再現可能できるものであり、加工性や耐候性も得られるものであり、自動車内装用途等に好適に用いる事が出来るものである。
【実施例】
【0077】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために、次に実施例を示すが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、実施例および比較例に示した意匠性積層シート被覆金属板の物性の測定規格、試験法は以下の通りである。
【0078】
(TcおよびWcの測定)
C層の厚みTcに関しては、C層を単層で製膜する場合については、製膜時に通常の厚み調整を実施しておけば良く、単層の押出し製膜法による実施例1〜8、比較例1〜9、及び、カレンダー製膜法による実施例9については、上記のように厚み調整して得られた製膜後のシートの幅方向に関し1cm間隔で厚みを測定し、その算術平均値をTc(μm)とした。また、C層とD層を共押出し製膜法などにより一体化した状態で製膜する場合には、C層、D層の各押出機のスクリュー回転数と各層樹脂組成物の吐出量の関係が既知である場合は、希望するC層厚みが得られる吐出量比で共押出し製膜を実施すれば良く、実施例10〜13では、上記のように厚み比と総厚みを設定して得られたC層とD層から成る積層シートの断面をシートの幅方向に関し1cm間隔で光学顕微鏡により観察し、C層の厚みを読み取り、その算術平均値をTc(μm)としている。或いは、所謂、押出しキャストエンボス法などで、シートの製膜と同時にシート表面にカーボンクロス調のエンボス凹凸が付与される場合に関しても、押出機のスクリュー回転数と吐出量の関係から概略の厚みを調整しておき、製膜後のエンボスが付与されたシートについて、光学顕微鏡により断面観察を実施し、C層のエンボスの凸部、凹部それぞれに関し、各代表サンプル10〜20点の厚みを測定し、その算術平均値からTc(μm)を求めても良い。
C層に添加される鱗片状の光輝性粒子の添加量Wc(質量部)に関しては、本発明の実施例、及び、比較例に関しては、製膜用樹脂原料に所要の配合量の光輝性粒子を添加する事により得ているが、単層で製膜した後のC層中に於ける光輝性粒子の添加量を求める場合は、TGA装置等を用い加熱残灰分量を測定する事や、C層の樹脂組成物が溶解する溶媒により樹脂成分を溶解した後に、不溶分を遠心分離して秤量する事によりWcを求める事も出来る。
C層とD層が一体化された積層シートに於いては、ミクロトーム等の精密切削具によりC層の樹脂成分のみを削り出し、C層の組成物に関し上記単層の場合と同様の方法によりWcを求める事が出来る。A層、B層、C層、D層が積層一体化された後のシートに関しても、精密切削と溶剤分離、或いは加熱残灰分の秤量等の通常の分析手法を組み合わせる事により、C層の光輝性粒子の添加量Wc(質量部)を定める事が出来る。
【0079】
(意匠性外観評価)
積層シート被覆金属板の樹脂層を平板の状態で目視により観察した。内部に付与されたカーボンクロス調エンボスの視認性が良好であり、かつカーボンクロス強化樹脂に特有の反射光沢感や色味の類似性に関し特に良好に見えるものを「◎」とし、次いで良好なものを「○」、エンボスの視認性がやや低い、あるいは、反射光沢感がカーボンクロス強化樹脂のものと多少異なって感じられる場合、色味の内、明るさに多少の違和感が感じられるものを「△」、エンボスの視認性が低い、あるいは、反射光沢感、色味がカーボンクロス強化樹脂とは著しく異なるものである場合を「×」として評価した。比較材としては、東レ社製のPAN系炭素繊維を平織りした「トレカ・T300−3K−PW」をエポキシ樹脂に含浸して作成した厚み2mmのカーボンクロス強化エポキシ樹脂板を使用した。
【0080】
(色味の測定)
ミノルタ社製の「色彩色差計CR−200」を用い、JISZ 8729(2004)「色の表示方法・L表色系」に準拠してL 値、a 値、b値のそれぞれを測定した。また、外観評価に用いた比較材に関しても色味の測定を実施した。
【0081】
(折り曲げ加工性:180度曲げ(2T曲げ))
まず、積層シート被覆金属板200の長さ方向および幅方向からそれぞれ50mm×150mmの試料を切り出し、手動による折り曲げ機を用いて、図3(d)に示すように直径4mmの丸棒490を挟んで積層シート被覆面が外側になるように内半径2mmで180度に折り返した予備曲げ試験片450を作製した。この予備曲げ試験片450に、図3(a)に示すスクリュー曲げ試験装置400を用いて、180度曲げ(2T曲げ)を実施した。スクリュー曲げ試験装置400(図3(a))は、上型昇降用ハンドル410、上型昇降スクリュー420、上型設置部分430および下型設置部分440を備えている。上型昇降スクリュー420上部に設けられた上型昇降用ハンドル410を手動で回すことによって、上型昇降スクリュー420が上下方向に移動し、それに伴って、上型昇降スクリュー420の下端に設けられた上型設置部分430が上下方向に移動する。
また、図3(e)に180度曲げ部分の拡大図を示したように、上型設置部分430には、180度曲げ用上型460が設けられ、下型設置部分440には、180度曲げ用下型470が設けられている。そして、上型昇降用ハンドル410を操作することによって、上型設置部分430に設けた180度曲げ用上型460を下方向に移動し、試験片450を180度曲げ用下型470との間で挟み込むことによって、試験片450に折り曲げを施す。
試験片は樹脂被覆面が折り曲げ後に外表面となるように設置され、該試験装置400は23℃に保たれた恒温室内に置かれており、測定試験片も23℃で1時間以上保った後に試験に供される。また、2T曲げとは、折り曲げの内直径が金属板200の厚みの2倍である曲げ試験である。2T曲げを実施するために、上記で作成した予備曲げ試験片450に、厚み0.45mmの金属板より切り出した保持板480を2枚を重ねて、予備曲げ試験片450の内側に挟み込んだ状態で上型460を降下させ、所要の曲げを施した。
曲げ加工部の積層シートの面状態を目視で判定し、樹脂層に割れが発生し実用的な加工性を有しないと判断されたもの、および割れは発生しなかったが、著しい白化を生じたものを「×」、極く微細なクラックが発生したもの、わずかな白化を生じたものを「△」、これらの異常が認められないものを「○」として評価した。
【0082】
(折り曲げ加工性:V曲げ)
40mm×60mmの樹脂被覆金属板に「JIS Z−2248」で規定されるV曲げ法の評価を行った。試験装置400は180℃曲げに用いるものと同一で、V曲げ法では図3(b)に示すように、角度90度のV型溝が形成された金属製の下型490の上に平板状の試験片を樹脂被覆側が下型と当接する状態で載置し、先端が下型のV溝に対応して90度のV型突起状に形成された金属製の上型510を手回しスクリューで降下させて試験片500をV溝に押し込む事で90度の折り曲げ加工を行うものである。該加工性評価は雰囲気温度23℃で実施した。
該加工後の曲げ加工部の化粧シートの面状態を目視で判定し、ほとんど変化がないものを(○)、表層に若干クラックが発生したもの、および若干の曲げ白化を生じたものを(△)、表層に割れが発生したものや著しい折り曲げ白化を生じたものを(×)として表示した。
【0083】
(耐侯性促進試験)
60mm×50mmに切り出した積層シート被覆金属板に、サンシャインウェザーメーター耐侯性促進試験機((株)スガ試験機製)を用いて耐侯性促進試験を実施した。条件はブラックパネル温度63℃で、照射102分、スプレー18分の120分サイクルである。
曝露500時間後の試料と曝露前の試料との色差を色差計で測定し、色差が2以下のものを「○」、2を超えるが4以下であるものを「△」、4を超えるものを「×」とした。色差の測定はミノルタ社製の「色彩色差計CR−200」を用いて行った。
【0084】
[実施例1〜8、および、比較例1〜9]
(積層シートの作成)
D層のシートは、架橋弾性体成分を含有するアクリル系樹脂として、三菱レイヨン社製「メタブレン・W−377」を樹脂成分の全体を基準(100質量%)として、55質量%、同じくクラレ社製の「パラペットSA−FW」を35質量%、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂である「メタブレン・H−660」を10質量%に、カーボンブラック顔料と、有機系茶色顔料を計4.5質量部(樹脂成分の全量を100質量部として)添加し、前工程に予備混練ロールを有する、金属ロール4 本からなるカレンダー製膜装置を用いて、ロール温度170℃〜185℃の条件下でシート圧延を行い、厚み100μm、幅120 0mmの濃茶色(L色座標でL値=35、a値=1.8、b値=1.9)のシートを製膜した。
C層としては、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート系樹脂である三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「ノバレックス7025A」を用い、これに表1に記載した各種光輝性粒子を、やはり表1に記載した添加量で添加し、口径65mmのベント付き単軸押出機にTダイを接続し、キャスティングロールによる引き取りで、厚み50μmの幅1100mmの光輝性粒子添加シートを得た。押出し機のシリンダー設定温度は、フィード側220℃、口金側270℃で、Tダイの設定温度も270℃を基準とした。実施例1〜8、および、比較例1〜7に関しては、光輝性粒子の添加により押出し製膜上に特に問題は発生せず、シートにもピンホールやスジ引き等の外観不良は見られなかったが、比較例8のパールマイカ顔料を添加したものに関しては、PC樹脂の熱劣化に起因すると思われるシートの黄変、および、流れ方向へのスジ引き状の外観不良が認められた。
尚、表1中の「メタシャイン」(登録商標)は、日本板硝子社製のガラスフレーク(登録商標)の表面に金属、又は金属酸化物薄膜をコーティングした光輝性粒子の商標であり、その平均粒径、平均厚み、コーティングの種類については、表1中に記載した。同じく、表1中の顔料用アルミ粉は、東洋アルミニウム社製のメタリック塗装用の鱗片状アルミニウム粒子であり、パールマイカ顔料は、ダイヤ工業社製の「DM−635」を使用している。
【0085】
これら2層のシートを図2に示す軟質塩化ビニル系シートへのエンボス付与に一般的に使用されている連続法によるエンボス加工装置にてC層とD層の熱融着積層一体化、および、カーボンクロス柄のエンボスによる凹凸意匠の付与を行った。加熱ドラムは140℃に設定し、
C層、およびD層のシートを図2に示すように2本の巻きだし軸から供給し、加熱ドラムへの接触部分で熱融着積層により一体化している。引き続き積層一体化されたシートを非接触式のヒ
ーターで、シート表面温度が180℃になる迄加熱し、C層側の表面にエンボスロールによりカーボンクロス調のエンボス意匠を付与している。エンボス版ロールは最大高さRy=75μmの繊維束の幅1.5mmの平織りのカーボンクロスを模した凹凸彫刻を施したものであり、直径200mm、エンボス付与時には温水循環機により100℃に保持した。
【0086】
A層の透明熱可塑性樹脂としては、紫外線吸収剤が添加されており、PVCなどのシートへ耐候性付与の目的でオーバーレィする目的で市販されている、架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂シートである三菱レイヨン社製の「アクリプレン・HBS−007」の厚み40μmのシートを用いた。また、B層の無溶剤型紫外線硬化型接着剤としては、ニューフロンティアR1213(第一工業製薬社製)を使用した。これは、無黄変タイプであり、ウレタンアクリレート組成物約50質量%およびアクリロイルモルフォリン約50質量%からなる。
【0087】
上記で一体化したC層とD層とを、B層の接着剤組成物を用いてA層と積層し、本発明の積層シートを得る為に、エンボス意匠が付与されたC層表面に対し、ダイコーターを用いて連続的にB層の接着剤組成物を塗布すると同時に、A層のアクリル系樹脂シートを連続的に供給し、ロールギャップを適宜調整可能な一対のシリコーンゴムロールの間を通すことで、C層表面のエンボス凸部がA層に直接接触することのない厚みのB層を介在させた状態でA層を積層一体化し、その直後に配置された紫外線照射装置によりB層の硬化処理を施して意匠性積層シートを作製した。なお、紫外線照射装置は光源として高圧水銀灯(積算照射量=340mJ/cm)を用いており、照射強度やライン速度は全ての実施例および比較例において同一である。
【0088】
(意匠性積層シート被覆金属板の作製)
ポリ塩化ビニル被覆金属板用として一般的に用いられている熱硬化型アクリル系接着剤を、アルミニウム合金板(厚み:0.45mm)の表面に乾燥後の接着剤膜厚が2〜4μm程度になるように塗布し、次いで熱風加熱炉および赤外線ヒーターにより塗布面の乾燥および加熱を行い、鋼板の表面温度を220℃に設定し、直ちにロールラミネーターを用いて、上記で作製した意匠性積層シートを被覆、空冷冷却することにより意匠性積層シート被覆金属板を作製した。鋼板とのラミネートに用いた接着剤の種類、塗布条件は全ての実施例および比較例において同一である。得られた金属板に対して、上記した各項目について評価した。評価結果を表2に示した。
【0089】
(表1)

【0090】
(表2)

【0091】
[実施例9]
D層のシートとしては実施例1〜8と同一のものを用い、C層のシートにもカレンダー製膜した架橋弾性体成分を含有するアクリル系樹脂を用いた。C層の樹脂組成は実施例1〜8のD層の樹脂組成と同一のものを用い、光輝性粒子としては、メタシャイン1040RSを3.0質量部添加している。カレンダーによる製膜条件等は、実施例1〜8と同一であり、光輝性粒子の添加によりカレンダー製膜上に特に問題は発生せず、シートにもピンホールやスジ引き等の外観不良は見られず、厚み80μmの幅1100mmの光輝性粒子添加シートを得た。
これら2層のシートの熱融着積層とカーボンクロス柄のエンボス意匠付与、無溶剤型の紫外線接着剤の塗工と硬化に関しても、実施例1〜8と同様に実施した。A層のシートとしては、三菱レイヨン社製の「アクリプレン・HBS−007」の厚み40μmのシートを用いており、これも実施例1〜8と同様である。また、金属板へのラミネートの方法、および条件についても、実施例1〜8と同様である。各層の構成について表3に、評価結果を表4に示した。
【0092】
[実施例10〜13]
D層の樹脂組成物の全量を基準(100質量%)として、ホモポリブチレンテレフタレート(PBT:三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバデュラン・5020H」25質量%と、1,4−シクロヘキサンジメタノール約30モル%を共重合した非晶性ポリエチレンテレフタレート系樹脂(PETG:イーストマンケミカル社性「イースター・6763」を75質量%の各原料ペレットの混合物に、カーボンブラック顔料と、有機系青色顔料を計4.0質量部(D層の樹脂成分の全量を100質量部として)添加したものをD層の樹脂組成物用の原料とし、C層の樹脂組成物の全量を基準(100質量%)として、PBT樹脂「ノバデュラン・5020H」85質量%と、PETG樹脂「イースター・6763」15質量%の各原料ペレットの混合物に、メタシャイン1040RSを5.0質量部(C層の樹脂成分の全量を100質量部として)添加したものをC層の樹脂組成物用の原料とした。
シリンダー直径φ65mmの2箇所にベント装置を有する2台の同方向二軸混練押出機(JSW社製の「TEX−65」)に夫々の原料を供給し、フィードブロック方式の共押出法によって、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロール(引き取りロール)で引き取る一般的方法によりC層とD層の積層シートを得た。押出し機のシリンダー設定温度は、フィード側200℃、口金側250℃で、各押出し機について同様である。Tダイの設定温度も250℃を基準とした。
なお、キャスティングロールとして、20℃の水の循環で温度調整されており、表面に最大高さRy=75μmの繊維束の幅1.5mmの平織りのカーボンクロスを模した凹凸彫刻が施された直径400mmの表面メッキ処理された金属ロールを用いる事で、C層側表面にカーボンクロス柄のエンボスによる凹凸意匠を付与した。
C層とD層の積層シートの厚みは120μm、内C層が40μm、D層が80μmで、幅1200mmの濃紺色(L色座標でL値=36、a値=1.4、b値=−4.2)のシートを得た。
【0093】
該C層とD層より成る一体シートにB層の接着剤組成物を用いて、A層の透明シートを被覆する方法、および条件、得られ積層シートを金属板にラミネートする方法、および条件に関しては、実施例1〜8と同様であり、A層としては表3に記載のものを使用した。各層の構成について表3に、評価結果を表4に示した。
【0094】
尚、表4中のA層の樹脂組成について、実施例11のポリエステルは、三菱瓦斯化学社製の「アルテスター45」(ポリエチレンテレフタレート系樹脂のジオール成分であるエチレングリコールの約45モル%をスピログリコールで置換した構造を有する非晶性の芳香族ポリエステル系樹脂、ガラス転移温度は約113℃)を用いており、該「アルテスター45」
を樹脂成分の全量とし、これに3.5質量部(樹脂成分の全量を100質量部として)のトリアジン系紫外線吸収剤であるチバ・ジャパン社製の「チヌビン1577」を添加し、シリンダー直径φ65mmの2箇所にベント装置を有する同方向二軸混練押出機(JSW社製の「TEX−65」)に原料を供給し、Tダイより流出した樹脂をキャスティングロール(引き取りロール)で引き取る一般的方法によりA層のシートを得ている。押出し機のシリンダー設定温度は、フィード側220℃、口金側270℃で、各押出し機について同様である。Tダイの設定温度も270℃を基準とした。
【0095】
また、表3中のA層の樹脂組成について、実施例12のPCは、実施例1〜8のC層の樹脂成分として用いたのと同じ、ビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート系樹脂である三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「ノバレックス7025A」を用い、これに3.5質量部(樹脂成分の全量を100質量部として)のトリアジン系紫外線吸収剤であるチバ・ジャパン社製の「チヌビン1577」を添加し、実施例1〜8のD層と同様に口径65mmのベント付き単軸押出機にTダイを接続し、キャスティングロールによる引き取りで、厚み50μmのA層のシートを得ている。押出し条件に関しては、実施例11と同様であった。
【0096】
表3中のA層の樹脂組成で、実施例13の二軸延伸PETは、帝人社製の二軸延伸ポリエチレンテレフタレートシート「テトロンSG−P2」の厚み50μmのものを用いている。
また、実施例9、および実施例10のA層のアクリルは、実施例1〜8のA層として用いた
「アクリプレン・HBS−007」の厚み40μmのシートである。
【0097】
(表3)

【0098】
(表4)

【0099】
(評価結果)
比較例1、および2は、二酸化チタンをコーティングしたガラスフレークをC層に添加したものであるが、その添加量が少な過ぎる事から、カーボンクロス特有の反射輝度感を演出する以前に、内部エンボスの視認が困難であった。
比較例3は、比較例1、同2と同種の光輝性粒子を用いているが、添加量が過剰な場合であり、内部エンボスの視認性は良好ながら、色味がやや明る過ぎるため、カーボンクロスの反射輝度感や色味とは異なった印象を受ける結果となった。また、二酸化チタンコーティングしたガラスフレークを過剰量添加した場合、干渉色による虹色発色が現出するようであり、それも違和感に繋がる結果となっている。
【0100】
表2、および表4より以下の評価結果が得られた。
比較例5はガラスフレークの表面に光輝性コーティングを施した平板状粒子であるが、銀がコーティングされたものであり、その粒径が比較的小さい場合事により、ベタな金色着色となってしまい、明度指数が著しく上昇している。カーボンクロスを模した内部エンボスの視認性自体は良好であるが、この色味により、とてもカーボンクロスには見えない結果となっている。比較例6は、やはり銀のコーティングを施したガラスフレークの場合であり、粒径が大きい事から、C層中に於ける粒子の存在密度が疎らであり、金色に光る点が分散された意匠感となっている。それと同時に内部エンボスの視認性は低く、内部エンボスを視認させるには、ある程度高密度で小径の粒子が存在している必要があることが判る。
比較例7は、メタリック塗装用の平板状アルミ粒子で比較的粒径が小さいものを用いた場合であり、やはりベタなアルミ色着色となり、比較例5程ではないが明度指数が著しく上昇、カーボンクロスの色味には見えない。内部エンボスの視認性自体は良好である。
アルミ粒子で粒径が比較的大きなものを用いた比較例8は、やはり比較例6と同様の傾向を示しており、内部エンボスがよく見えない。
比較例9は、ガラスフレークではなく、マイカ(雲母)の表面に二酸化チタンのコーティングを施したパールマイカ顔料を添加したものであるが、内部エンボスの視認性は良好ながら、色味の点でカーボンクロスには見えない。また、ポリカーボネート系樹脂にパールマイカを添加した場合、樹脂劣化触媒の作用を呈するものか、得られたC層のシートは黄変が強く、また流れ方向にスジ引きが見られた。
このように、銀コートのガラスフレーク、平板状アルミ粒子、パールマイカ顔料の添加では、いずれも良好な内部エンボスの視認性とカーボンクロスの反射輝度感、色味を再現する事が出来ていない。
【0101】
これらに対し、本発明の実施例1〜8は、カーボンクロスに独特の黒光りする光輝感や色味が良好に再現されており、樹脂被覆金属板としての加工性や耐候性評価の結果も良好なものが得られている。
「意匠性外観評価」の項目で「△」判定となったものは、内部エンボスの視認性がやや低いものであり、明度指数については、実物のカーボンクロス強化エポキシ樹脂の測定値から明るいほう(Lの数値が大きくなるほう)に5強程度、暗いほうに7弱程度ズレても、カーボンクロスの意匠感として違和感がない事が判明した。ただ、実物と並べての比較で、最も実物に近いと認識されたものは実施例4と実施例5であり、これらは、C層への光輝性粒子の添加量×C層の厚みの値が150、および250のものであった。
また、知覚色度指数であるa値、およびb値は、添加する粒子の量や粒径により変化しているが、これらもカーボンクロスの意匠感として違和感を与えるものではなかった。
ただし、粒径が比較的大きい粒子を用いた場合も干渉色による虹色発色が多少観察される結果となった。
【0102】
実施例9は、C層の樹脂組成にもカレンダーアクリルを用いた場合であるが、C層表面にエンボス加工装置により転写したカーボンクロス柄のエンボスが、C層に芳香族ポリカーボネート樹脂を用いた場合よりやや浅いものとなり、積層シートとしてA層表面から内部エンボスを観察した場合、その視認性は良好なものの、もとからエンボスが浅い事に起因して、やや意匠感が劣る結果となった。
比較例10〜13は、C層とD層を芳香族ポリエステル系樹脂から成る組成とし、共押出し製膜法で一体製膜したものである。これらではD層は茶系の着色ではなく、知覚色度指数の内のb値がマイナス側に大きく振れている、従って青味のある着色を施している。 これに起因して、本発明の積層シート被覆金属板の構成としてからの色味測定でもb値について、実物のカーボンクロス強化樹脂よりもマイナスの数値となっているが、この場合もカーボンクロスの意匠感として、違和感は無いものであった。
実施例10は、A層として実施例1〜9と同一のアクリルシートを用いているが、加工性がやや劣る結果となっている。「アクリプレン・HBS−007」は、実施例1〜9のC層として用いたカレンダー製膜法によるアクリルシートに比べると、相当硬質のシートであり、実施例1〜9では下層が柔軟性に富む事で、積層構成での加工性に問題が出なかったものが、実施例10では、下層が比較的硬質のポリエステル系樹脂となった事により、加工性の低下を来たしたものと考えられる。
実施例11のガラス転移温度の高い非晶性芳香族ポリエステル樹脂をA層として用いたもの、および、実施例12の芳香族ポリカーボネート系樹脂をA層として用いたものに関しては、加工性に関する問題は生じていない。基本的に脆性材料であるアクリル樹脂にゴム添加によりシートとしての取り扱い性を確保したアクリル系樹脂シートに対する、延性材料である芳香族ポリエステル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂の物性上の長所と考える事が出来る。また、紫外線吸収剤を添加する事により、耐候性にも問題を生じる事はなかった。
実施例13は、市販の二軸延伸ポリエステルシートをA層として用いたものであるが、加工性がやや悪い結果となり、耐候性も多少悪い結果となった。
【0103】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う意匠性積層シート、および意匠性シート被覆金属板もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本発明のカーボンクロス調積層シートの一実施形態における層構成を示す模式図である。
【0105】
【図2】実施例1〜9、および比較例1〜9のC層とD層の熱融着による一体化と、カーボンクロス柄のエンボスを付与するのに用いたエンボス加工装置を示す図である。
【図3】折り曲げ加工性を評価の概要を示した図である。
【符号の説明】
【0106】
10:A層 20:B層
30:C層 40:D層
50:熱硬化型接着剤層 60:金属板
300 エンボス加工装置 310 加熱ロール
320 テイクオフロール 330 赤外ヒーター
340 エンボスロール 350 ニップロール
360 冷却ロール
400 手動折り曲げ試験機 410 上型昇降用ハンドル
420 上型昇降スクリュー 430 上型設置部分
440 下型設置部分 450 予備曲げを施した試験片
460 180度曲げ用上型 470 180度曲げ用下型
480 保持材 490 直径4mmの丸棒
500 V曲げ用下型 510 V曲げ用上型
520 試験片


【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層として、実質的に透明な熱可塑性樹脂シートより成る層(A層)、中間層として実質的に透明な接着剤層(B層)
基材層として、表層側から順に、光輝性粒子を含有する熱可塑性樹脂層(C層)、濃色系の色に着色された熱可塑性樹脂層(D層)の少なくとも4層を備える積層シートであって、
前記C層が実質的に透明な熱可塑性樹脂中で構成され、平均粒径が80μm以下であり平均厚みが1μm以上、10μm以下である鱗片状の光輝性粒子を含み
前記光輝粒子は、表面に二酸化チタンの薄膜をコーティングされたものであり、
以下の式(1)および式(2)が成立する事を特徴とするカーボンクロス調意匠を有する積層シート。

式(1)50≦(Tc×Wc)≦350
式(2)10≦ Tc ≦100

Tc(μm)はC層の厚みである。
Wc(質量部)は、C層の樹脂成分全体を100質量部とした場合の光輝性粒子の添加量である。
【請求項2】
前記C層のB層が付与される側の表面にカーボンクロスを模したエンボス版の転写による凹凸意匠が付与されており、
前記B層が、前記C層のエンボス凹凸の凸部が完全に埋まる厚み以上の厚みを有し、
前記B層が、無溶剤の紫外線硬化型接着剤を硬化させた層である事を特徴とする請求項1記載のカーボンクロス調意匠を有する積層シート。
【請求項3】
前記C層および前記D層の少なくとも1層が架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂、またはABS系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートである事を特徴とする請求項1または2に記載のカーボンクロス調意匠を有する積層シート。
【請求項4】
前記C層が芳香族ポリカーボネート系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートであり、前記D層が架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートである事を特徴とする請求項1または2に記載のカーボンクロス調意匠を有する積層シート。
【請求項5】
前記架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートが、カレンダー製膜法により製膜されたものであることを特徴とする請求項3または4に記載のカーボンクロス調意匠を有する積層シート。
【請求項6】
前記C層および前記D層が芳香族ポリエステル系樹脂を主体とする樹脂組成物から成るシートである事を特徴とする請求項1に記載のカーボンクロス調意匠を有する積層シート。
【請求項7】
ポリエステル系樹脂を主成分とするC層とD層が、共押出し製膜法により積層されたものであることを特徴とする請求項6記載のカーボンクロス調意匠を有する積層シート。
【請求項8】
前記A層が、無延伸の非晶性ポリエステル系樹脂、無延伸の架橋弾性体成分を含むアクリル系樹脂、無延伸の芳香族ポリカーボネート系樹脂、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂のいずれから成る、請求項1〜7いずれか1項に記載のカーボンクロス調意匠を有する積層シート。
【請求項9】
前記A層が、テレフタル酸、またはテレフタル酸ジメチルをジカルボン酸成分の主体とし、ジオール成分の20モル%以上、50モル%以下のスピログリコールと、80モル%以下、50モル%以上のエチレングリコールを主体とするその他のジオール成分より成る共重合ポリエステルであることを特徴とする請求項8に記載のカーボンクロス調意匠を有する積層シート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のカーボンクロス調の意匠を有する積層シート、および金属板を有し、前記積層シートのD層側表面が金属板に積層されている、カーボンクロス調の意匠を有する積層シート被覆金属板。
【請求項11】
請求項1〜9に記載のカーボンクロス調の意匠を有する積層シートを用いた自動車内装部材。
【請求項12】
請求項10に記載のカーボンクロス調の意匠を有する積層シート被覆金属板を用いた自動車内装部材。
【請求項13】
請求項10に記載のカーボンクロス調の意匠を有する積層シート被覆金属板を用いたドア材、ユニットバス壁材、ユニットバス天井材、パーティション材、および一般壁材からなる群より選ばれる建築内装材。
【請求項14】
請求項10に記載のカーボンクロス調の意匠を有する積層シート被覆金属板を用いたエレベーター部材。
【請求項15】
請求項10に記載のカーボンクロス調の意匠を有する積層シート被覆金属板を用いた鋼製家具部材。
【請求項16】
請求項10に記載のカーボンクロス調の意匠を有する積層シート被覆金属板を用いた家電製品部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−264665(P2010−264665A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118108(P2009−118108)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】