説明

カーボンナノチューブの合成方法

【課題】炭素源を触媒と接触させてカーボンナノチューブ(CNT)を合成する方法。得られたCNTはポリマー組成物の機械特性および導電性の改良剤として用いることができる。
【解決手段】BET比表面積が50m2/g以上の無機基材上に付着させた多価金属および/または金属酸化物をベースにした触媒と炭素源とを接触させてカーボンナノチューブ(CNT)を合成する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、特定の無機基材に担持された金属触媒の存在下で気相でカーボンナノチューブ(CNT)を合成する方法にある。
【背景技術】
【0002】
現在、カーボンナノチューブはその機械特性、その極めて高い形状因子(長さ/直径比)およびその電気特性によって大きな利点を有する材料と考えられている。カーボンナノチューブは巻かれたグラファイトシートで作られ、その先端はフラーレン類似構造を有する五角形および六角形から成る半球で終わっている。カーボンナノチューブは単一壁ナノチューブ(SWNT)とよばれる単一シートか、多重壁ナノチューブ(MWNT)とよばれる複数の同心シートから成ることは知られている。一般に、SWNTはMWNTより製造が難しい。
【0003】
カーボンナノチューブは種々の方法、例えば放電、レーザーアブレーションまたは化学蒸着法(CVD)で製造できる。これらの技術の中でカーボンナノチューブを大量生産可能な技術はCVDのみであると思える。すなわち、カーボンナノチューブをポリマーや樹脂の用途で多量に用いることができるようにするためには製造コストを下げることが必須条件である。
【0004】
この方法では高温度で炭素源を触媒上に噴射する。触媒は無機固体上に担持された金属で構成でき、金属は鉄、コバルト、ニッケルおよびモリブデンが好ましく、担体はアルミナ、シリカおよびマグネシアであることが多い。考えられる炭素源はメタン、エタン、エチレン、アセチレン、エタノール、メタノール、アセトンまたはCO/H2合成気体(HIPCOプロセス)である。
【0005】
カーボンナノチューブの合成方法を開示する文献の中ではHiperion Catalysis International Inc.の下記特許文献1が挙げられ、この特許は特許文献2に対応する。
【特許文献1】国際特許第WO 86/03455号公報
【特許文献2】欧州特許第EP 225 556 B1号公報
【0006】
この特許はCNT合成に関する基本特許の一つとみなすことができ、ほぼ円筒形で、直径が3.5〜70nmで、形状因子が100以上のカーボンフィブリル(CNTの旧称)とその製造方法を請求している。この合成法では炭素含有気体化合物(好ましくはCOまたは一種または複数の炭化水素)を鉄含有触媒(例えばFe34、炭素担体上のFe、アルミナ担体上のFeまたはカーボンフィブリル担体上のFe)と接触させる。この反応は炭素と反応して気体生成物(例えばCO、H2またはH2O)を製造する化合物の存在下で行なうのが好ましい。この例では、触媒は乾燥含浸、沈殿、湿潤含浸で調製される。
【0007】
本出願人による下記特許文献4に対応する特許文献3では同じ反応物および触媒から直径が3.5〜70nmで、形状因子L/Dが5〜100であるフィブリルを製造する方法が請求されている。
【特許文献3】国際特許第WO 80/07599号公報
【特許文献4】欧州特許第EP 270 666 B1号公報
【0008】
炭素含有気体化合物がベンゼンの場合に800℃以上で運転する必要があることを除いて、生産性(触媒1g当たりおよび単位時間当たりの生成フィブリルの質量で表される)に関する情報は記載がない。
【0009】
その他の文献には触媒および生成カーボン材料の凝集状態を制御することができる連続流動床のようなプロセスの改良方法(例えばTsinghua Universitynの特許文献5)や、触媒の種類および反応条件を変えて各種モルホロジの非整合ナノチューブを製造する方法(例えばTrustees of Bonston Collegeの特許文献6)が記載されている。
【特許文献5】国際特許第WO 02/94713 A1号公報
【特許文献6】国際特許第WO 02/095097 A1号公報
【0010】
Hiperion Catalysis International Inc.の下記文献には、多価遷移金属、好ましくは金属の混合物(例えばFeとMo、Cr、Mnおよび/またはCe)と接触させて炭素源を分解してCNTを調製する改良方法が開示されている。
【特許文献7】米国特許第2001/0036549 A1号明細書
【0011】
この改良方法では3.5〜70nmの寸法の多様な触媒サイトを形成する遷移金属を400μm以下の寸法の無機基材で担持する。実施例の炭素源は水素/エチレン混合物で、各分圧はそれぞれ0.66および0.33である。650℃での反応時間は30分で、触媒は熱分解アルミナ(鉄含有率は記載がないが15%と推定される)をペーストを得るのに十分な量のメタノールの存在下で硝酸鉄に含浸して調製する。生産性は30分で6.9g/gであるが、モリブデン塩を加え、鉄含有率が約9〜10%、モリブデン含有率が1〜2%にしたときには10.9〜11.8g/gになる。共金属がセリウム、クロムまたはマンガンの場合のナノチューブの生産性はそれぞれ8.3、9.7および11である。鉄アセチルアセトネートは硝酸鉄ほど有効ではないこともわかっている。
【0012】
実施例16では、含浸は水相で行われ、硝酸鉄と重炭酸ナトリウム溶液とを同時に添加して約6のpHで沈殿させる。15%鉄含有率の場合、触媒の選択率は10.5になり、反応器に半連続的に導入される。別の実施例では鉄とモリブデンを水相で含浸してメタノールの場合と同程度の良好な結果が得られている。
【0013】
この文献からさらに、鉄の代わりに2.5%以上のMo含有率でモリブデンを用いることは好ましくないことが分かる。すなわち、FeとMoを同じ比率で含む(合計=16.7%)混合物の場合の生産性は30分で8.8g/gに過ぎない。
無孔担体、例えばHyperionが用いたDegussa熱分解アルミナ(比表面積100m2/g)を用いた場合は、気体と接触可能なのは外層だけで、外層より下の層の触媒活性は不十分なため、多量の鉄を含浸させるのは難しい。
さらに、上記担体の粒径が20nm、かさ密度が0.06であるため、上記担体を用いる方法は複雑で、工業的に実施する際の困難性が増す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記欠点のないカーボンナノチューブ(CNT)の合成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の対象は、流動床反応装置中で500〜1,500℃の温度で、炭素源をゼロ酸化状態および/または酸化物の形(正の酸化状態)の一種または複数の多価遷移金属と接触させる、炭素源を分解してカーボンナノチューブ(CNT)を合成した後、回収する方法において、下記の(1)と(2)を特徴とする方法にある:
【0016】
(1)上記の遷移金属および/またはその酸化物がBET比表面積が70〜300m2/gの基材に担持され、この基材は好ましくは無機担体、さらに好ましくはγ型またはθ型アルミナの中から選択され、
(2)上記の遷移金属の量が最終触媒の15〜50重量%を占める。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の好ましい実施例では、担体は最終触媒の50重量%以下(好ましくは最終触媒の重量の15〜50重量%、さらに好ましくは30〜40重量%)の量の一種または複数の遷移金属および/または一種または複数の金属酸化物で含浸できる。
【0018】
担体の粒径はCNT合成反応中に触媒の良好な流動化を可能にするように選択するのが有利である。実際には、許容可能な生産性を確実にするために、担体粒子は直径が約20〜約500μmにするのが好ましい。担体粒子の寸法が上記範囲外であっても本発明から逸脱するものではないことは理解できよう。
【0019】
担体粒子の含浸は乾燥気体流中で行うのが有利である。例えば遷移金属が鉄の時には硝酸鉄水溶液を用い、室温と含浸液の沸点との間の温度で行う。含浸液の量は、常に担体粒子上に表面フィルムを形成するのに十分な量の溶液と担体粒子とが接触するように選択する。
【0020】
「乾燥」操作すなわち常に触媒担体粒子の表面上に液体フィルムを形成するのに必要な量だけの液体しか使用しないということで、乾燥気流中で加熱することで全ての水性排液を無くすことができるという利点がある(例えば、硝酸鉄を含む含浸液の場合には硝酸塩の水性排液を含浸後に不活性ガスまたは非不活性気体中で300℃に加熱して硝酸塩を除去すれば生成物が得られる)。
【0021】
好ましい実施例では、触媒の還元を合成反応装置中(好ましくは流動床反応装置中)で反応系中(in situ)で行ない、触媒を空気と触れさせない。従って、一種または複数の遷移金属、好ましくは鉄は金属の形をしている。
一種または複数の金属酸化物の形、好ましくは酸化鉄の形の触媒を用いてCNTを連続的に合成する場合には、還元段階を介さずに触媒を反応混合物中に直接噴射することができる。この場合には還元反応装置を用意したり、および/または、触媒を還元形にして不活性気体中で貯蔵しなければならない、といった不便を避けることができ、有利である。
【0022】
炭素源は任意の炭素含有材料、例えばメタン、エタン、プロパン、ブタン、高級脂肪族アルカン、ベンゼン、シクロヘキサン、エチレン、プロピレン、ブテン、イソブテン、高級脂肪族アルケン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセン、アセチレン、高級アルキン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、メタノール、エタノール、一酸化炭素などの中から単独でまたは混合物として選択できる。
【0023】
本発明の製造方法に従って得られたCNTの用途は多数の分野に及び、特に、電子工学の分野(温度および構造に応じて伝導体、半導体または絶縁体にできる)、機械の分野、例えば複合材料での補強材(CNTは鋼より100倍強く、重量は1/6)、電気機械分野(チャージ注入で伸縮できる)で利用される。例えば電子部品の包装、燃料ライン、静電防止用被覆、サーミスター、スーパーキャパシター用電極の製造、その他の高分子材料でのCNTの使用を挙げることができる。
【実施例】
【0024】
実施例1
少なくとも5重量%の粒子が100μm以下で、少なくとも2%が500μm以上で、中央粒径が約250μmであるPuralox NWA 155のγ−アルミナから触媒を調製した。表面積および多孔特性を下記に示す:
【表1】

【0025】
300gのアルミナを100℃に加熱した3リットル容のジャケット付き反応器に導入し、空気でパージした。次いで、545g/lの硝酸鉄九水和物を含む鉄溶液700mlをポンプを用いて連続的に導入した。鉄溶液の添加時間は10時間で、この液体の添加速度は水の蒸発速度と同じで、(金属質量/触媒質量)比は15%にした。
次いで、触媒を100℃のオーブン中に16時間放置した。
【0026】
実施例2
中央粒径が約85μmであるPuralox SCCA 5-150のγ−アルミナから触媒を調製した。表面積および多孔特性は下記に示してある:
【表2】

【0027】
触媒の調製および含浸は実施例1と同じ方法で行った。
【0028】
実施例3
実施例2と同じSCCA 5-150のγ−アルミナを用いて実施例2と同様の条件下で含浸によって25%の鉄を含む触媒を調製した。添加時間および溶液の容量は設定した鉄含有率に応じて単純に調節し、16時間であった。
次いで、触媒を100℃のオーブン中に16時間放置した。
【0029】
実施例4
SCCA 5-150アルミナの含浸によって35%の鉄を含む触媒を調製した。添加時間および溶液の容量は設定した鉄含有率に応じて単純に調節し、23時間であった。
次いで、触媒を100℃のオーブン中に16時間放置した。
【0030】
実施例5
SCCA 5-150アルミナの含浸によって50%の鉄を含む触媒を調製した。添加時間および溶液の容量は設定した鉄含有率に応じて単純に調節し、32時間であった。
次いで、触媒を100℃のオーブン中に16時間放置した。
【0031】
実施例6
中央粒径が150μmであるEngelhard C 500-511のγ−アルミナから触媒を調製した。表面積および多孔特性は下記に示してある:
【表3】

【0032】
25%の鉄を含む触媒を実施例3と同じ条件下で含浸して調製した。
【0033】
実施例7
中央粒径が70μmであるEngelhard C 500-512のθ−アルミナから触媒を調製した。
表面積および多孔特性は下記に示してある:
【表4】

【0034】
25%の鉄を含む触媒を実施例3の条件を用いて調製した。触媒を100℃のオーブン中に16時間放置した。
【0035】
実施例8
微粒子の下流への随伴を防ぐための離脱装置を備えた直径が25cm、有効高さが1mの反応器中に、約150gの質量の触媒を層状に入れて、触媒試験を実施した。この固体を窒素中で300℃に加熱して硝酸塩を分解した後、水素/窒素(20%/80% vol./vol.)混合物中で温度を650℃に上げた。この温度で、3000Sl/hのエチレン流と1000 Sl/hの水素流とを導入した。これは0.75のエチレン分圧に対応する。この気体流速は固体が流動化速度をはるかに超え且つフライオフ速度以下に維持されるのに十分な流速であった。
60分後、加熱を止め、得られた生成物の量を評価した。さらに、生成したナノチューブの量を顕微鏡で観察した(生成CNTの型:SWNTか、MWNTか;φ;Cのその他の形態の存非)
結果は下記に示してある:
【0036】
【表5】

【0037】
比較例として特許文献7(米国特許第2001/0036549 A1号明細書)の実施例10を示すと、この場合には水素/エチレン混合物を硝酸鉄に含浸した熱分解アルミナから調製した12%の鉄を含む触媒と接触させてCNTを合成するが、CNTの生産性は30分で5.5/触媒である。
【0038】
実施例9
実施例4と同様に調製した触媒を実施例8の反応器に導入し、300℃に加熱して硝酸塩を分解した後、反応器を冷却し、触媒を空気中で回収した。
還元段階を経ていないため、酸化鉄の形をしたこの触媒を実施例8と同様にエチレン分圧が0.8のエチレン/水素流中で650℃に加熱した反応器に再導入した。反応の60分後、加熱を止め、得られた生成物の量および品質を評価した。得られた生産性は14.6であり、これは還元触媒を用いて得られる結果と同様な結果であった。生成したCNTはMWNT型(φ=10〜30nm)で、他の形の炭素は含まれていなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動床反応装置中で500〜1500℃の温度で、炭素源をゼロ酸化状態および/または酸化物の形(正の酸化状態)の一種または複数の多価遷移金属と接触させる、炭素源を分解してカーボンナノチューブ(CNT)を合成した後、回収する方法において、下記の(1)と(2)を特徴とする方法:
(1)上記の遷移金属および/またはその酸化物がBET比表面積が70〜300m2/gの基材に担持され、この基材は好ましくは無機担体、さらに好ましくはγ型またはθ型アルミナの中から選択され、
(2)上記の遷移金属の量が最終触媒の15〜50重量%を占める。
【請求項2】
上記の遷移金属の量が最終触媒の重量の30〜40重量%を占める請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒粒子の直径が約20〜500μmである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記の遷移金属の少なくとも一種の塩を含む含浸液に、好ましくは乾燥気体流中で、基材を含浸して触媒を調製する請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
硝酸鉄水溶液中に、好ましくは室温と上記含浸液の沸点との間の温度で、基材を含浸して触媒を調製し、基材と接触する液体の量が常に粒子上に表面フィルムを形成するのに十分な量だけである、鉄ベース触媒の請求項4に記載の方法。
【請求項6】
触媒の還元を反応系中(in situ)で行ない、触媒が空気と触れず、好ましくは鉄ベースの触媒である請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
連続方法である請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
触媒が一種または複数の金属酸化物、好ましくは酸化鉄をベースにした触媒である請求項4または5に記載の方法。
【請求項9】
連続方法である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法で得られカーボンナノチューブ(CNT)。
【請求項11】
請求項10に記載のCNTの、特にポリマーベースの組成物の機械特性および/または導電性の改良剤としての使用。
【請求項12】
燃料ライン、静電防止用被覆、サーミスターおよびスーパーキャパシター用電極での請求項11に記載の使用。

【公表番号】特表2008−529941(P2008−529941A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553659(P2007−553659)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【国際出願番号】PCT/FR2006/000250
【国際公開番号】WO2006/082325
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】