説明

カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法及びその利用

【課題】新たなCNTの生産用の基材を提供する。
【解決手段】本発明に係るCNT配向集合体生産用基材の製造方法は、クロムの不動態被膜を有する基板を、酸素原子を有するガスを含む雰囲気中で加熱して酸化する酸化工程と、基板上に触媒担持層を形成する触媒担持層形成工程と、触媒担持層上に触媒層を形成する触媒層形成工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Ni20原子%以上を含有するNi基合金よりなる金属基板上にカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)をCVD成長させる方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、2族〜14族から選択される一種以上の元素を含む金属を含む触媒担持基板を用いてCNTを成長させる方法が記載されている。
【0004】
特許文献3には、表面にCr−Fe−O系皮膜を有するFeCr含有合金基板を触媒として用いて、一本ごとが独立した多層のCNTを成長させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−74647号公報
【特許文献2】特開2004−67413号公報
【特許文献3】特開2007−51041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、特許文献1に記載のNi20原子%以上を含有するNi基合金は高コストである。また、特許文献2に記載されるアルミニウムを基板として用いると、耐熱性が不十分であるためCNTを成長させる工程において反応温度を十分に高くすることが困難である。これらの理由から、従来のCNTの生産に用いる基材のみでは産業界の要求を満たすには不十分であり、CNTを生産するための新たな基材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法は、表面に単層カーボンナノチューブ配向集合体を生成させるためのカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法であって、クロムの不動態被膜を有する基板を、酸素原子を有するガスを含む雰囲気中で加熱して酸化する酸化工程と、前記基板上に触媒担持層を形成する触媒担持層形成工程と、前記触媒担持層上に触媒層を形成する触媒層形成工程と、を含むことを特徴としている。
【0008】
本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法では、前記基板が、Fe−Cr合金又はFe−Cr−Ni合金であることがより好ましい。
【0009】
また、本発明に係る単層カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法は、上記の本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法により製造されるカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の周囲環境を原料ガスを含む環境として、前記カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、単層カーボンナノチューブ配向集合体を当該カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材上に成長させる成長工程を含むことを特徴としている。
【0010】
本発明に係る単層カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法では、前記原料ガスを含む環境が触媒賦活物質を含むことがより好ましい。
【0011】
本発明に係る単層カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法では、前記成長工程の前に、前記カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の周囲環境を還元ガスを含む環境として、当該カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材及び還元ガスのうち少なくとも一方を加熱するフォーメーション工程を含むことがより好ましい。
【0012】
また、本発明には、上記の本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法により製造されるカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材も包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、新たなCNTの生産用の基材を提供することができるという効果を奏する。また本発明によれば、高品質の単層カーボンナノチューブ配向集合体を生産性よく工業的有利に製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法>
本発明に係るCNT配向集合体生産用基材の製造方法は、表面に単層CNT配向集合体を生成させるためのCNT配向集合体生産用基材の製造方法であって、クロムの不動態被膜を有する基板を、酸素原子を有するガスを含む雰囲気中で加熱して酸化する酸化工程と、前記基板上に触媒担持層を形成する触媒担持層形成工程と、前記触媒担持層上に触媒層を形成する触媒層形成工程と、を含む。
【0015】
〔基板〕
本発明に係るCNT配向集合体生産用基材の製造方法で用いる基板は、クロムの不動態被膜を有するものであればよい。クロムを含有する合金からなる基板は、通常、その表面に自然酸化により形成されたクロムの不動態皮膜を有している。例えば、Fe−Cr合金又はFe−Cr−Ni合金であって、クロムの不動態被膜を有するものが好ましい。より具体的な例としては、一般的なステンレス鋼が挙げられる。ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS316、SUS430等が挙げられる。
【0016】
〔酸化工程〕
本発明に係るCNT配向集合体生産用基材の製造方法において行なう酸化工程は、クロムの不動態被膜を有する基板を、酸素原子を有するガスを含む雰囲気中で加熱して酸化する工程である。
【0017】
クロムの不動態被膜を有する基板をさらに酸化することによって、生産するCNTに対する単層CNTの割合(選択性)、収率、品質(G/D比)等を向上させることができる。
【0018】
特許文献1では、Ni20原子%未満の基板(SUS304、SUS430等)を用いる場合、Ni20原子%以上の基板を用いる場合に比べて、選択性、収率、品質が劣るとされている。
【0019】
本発明者らはこの理由について次のように推測した。即ち、基板に対して酸化剤として機能する原料ガス(例えばエタノール等)及び触媒賦活物質が、基板と反応することによって消費されて、原料ガス及び触媒賦活物質の濃度が不安定となるためであると推測した。特に触媒賦活物質を用いる場合、その効果を発揮するためには、触媒賦活物質の濃度制御が非常に重要であるが、例えば触媒賦活物質が水蒸気の場合、その添加量は極めて少量であるため、僅かな濃度の変化で触媒賦活物質の効果が得られなくなるおそれがある。
【0020】
そこで、本発明者らは、クロムの不動態被膜を有する基板をさらに酸化することにより、より厚い不動態被膜を形成して、酸化剤として機能する原料ガス及び触媒賦活物質と基材とが反応することを抑制することで、Ni20原子%未満の基板を用いても、良好な選択性、収率、品質を得ることができると推測し、本発明に想到した。
【0021】
よって、本発明によれば特許文献1に記載のNi20原子%以上の基板に比べて低コストであるSUS304、SUS430等の基板を用いても、Ni20原子%以上の基板と同等の選択性、収率、品質を得ることができる。
【0022】
酸化工程で用いる酸素原子を有するガスとしては、酸素、オゾン、水蒸気、酸性ガス、酸化窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素等の低炭素数の含酸素化合物、エタノール、メタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン等のケトン類、アルデヒド類、エステル類、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0023】
酸素原子を有するガスを含む雰囲気中における該ガスの濃度としては、例えば、10ppm以上、250000ppm以下が挙げられ、200ppm以上、210000ppm以下がより好ましい。
【0024】
加熱の温度としては、例えば、300℃以上、1200℃以下の範囲が挙げられ、350℃以上、850℃以下がより好ましい。当該範囲であれば、クロムの不動態被膜を有する基板表面の酸化反応を良好に進行させるとともに、基板の表面の劣化を抑制することができる。
【0025】
加熱する時間としては、例えば、1分以上、60分以下の範囲が挙げられ、5分以上、30分以下がより好ましい。当該範囲であれば、クロムの不動態被膜を有する基板表面の酸化反応を良好に進行させるとともに、基板の表面の劣化を抑制することができる。
【0026】
酸化工程は、後述の浸炭防止層および触媒担持層の形成工程の前後のいずれに行なってもよく、また、触媒層形成工程の前後のいずれに行なってもよい。
【0027】
(浸炭防止層)
基板の表面及び裏面のうち少なくともいずれか一方には、浸炭防止層が形成されていることがより好ましく、表面及び裏面の両面に浸炭防止層が形成されていることがさらに好ましい。この浸炭防止層は、後述する成長工程において、基板が浸炭されて変形するのを防止するための保護層である。
【0028】
浸炭防止層は、金属又はセラミック材料によって構成されることが好ましく、特に浸炭防止効果の高いセラミック材料であることが好ましい。金属としては、銅及びアルミニウム等が挙げられる。セラミック材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、シリカアルミナ、酸化クロム、酸化ホウ素、酸化カルシウム、酸化亜鉛などの酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素などの窒化物が挙げられ、なかでも浸炭防止効果が高いことから、酸化アルミニウム、酸化ケイ素が好ましい。
【0029】
浸炭防止層を形成するためには、例えば、浸炭防止層の材料を基板上にスパッタリングすること等によって製膜すればよい。
【0030】
〔触媒担持層形成工程〕
触媒担持層形成工程では、基板上に触媒担持層を形成する。
【0031】
触媒担持層は、基板の上に形成される、触媒を担持するための層である。触媒担持層は、担持する触媒の粒径をコントロールしやすく、また高密度で触媒微粒子が存在しても高温下でシンタリングを起こりにくくする。また、触媒の活性を向上させる役割がある。触媒担持層は前記の浸炭防止層上に形成されていてもよく、また触媒担持層が浸炭防止層としての機能を兼ね備えていてもよい。
【0032】
触媒担持層の具体的な構成としては、触媒を担持できる構成である限り限定されないが、例えば、板状構造のアルミニウム酸化物が好ましい。また、当該板状構造の表面には孔が空いていることがより好ましい。
【0033】
また、触媒担持層は多孔質であることがより好ましい。触媒担持層が多孔質であることは、走査型電子顕微鏡(SEM)による観測で、触媒担持層の表面に細孔が観測されることで確認できる。触媒担持層が多孔質であることにより、CNTの生産安定性が向上する。メカニズムについては定かではないが、触媒賦活物質が触媒担持層表面に存在する細孔に吸着することで、触媒賦活物質が触媒に供給されやすくなり、触媒が失活しにくくなっていると推測される。
【0034】
触媒担持層の表面に孔を形成する場合、その大きさ及び密度は特に限定されないが、例えば、触媒担持層の細孔直径は、好ましくは1〜50nmの範囲、より好ましくは2〜20nmのメソ孔である。これらの細孔特性は、窒素ガス吸着法により得られたデータをBJHプロットすることで算出できる。細孔の直径を当該範囲とすることで原料ガス及び触媒賦活物質を吸着しやすくなり、CNTの成長を促進できると推測される。触媒担持層表面における孔の面積の割合は、5%以上30%以下であることが好ましい。この範囲であるとCNTの収量を低下させること無く、特にCNTの生産安定性が向上する。孔の面積の割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観測で、円状に黒く見える部分(細孔)の面積が触媒担持層全体の面積に占める割合から求めることができる。
【0035】
触媒担持層は、その表面の比表面積が、窒素吸着によるBET比表面積で、300m/g以上であることが好ましい。BET比表面積が300m/g以上であると、CNTをより高い効率で成長させることができる。触媒担持層表面のBET比表面積は、後述する触媒担持層コーティング剤を塗布して触媒担持層を形成する場合、塗布後の加熱温度及び加熱時間で制御することができる。加熱温度及び加熱時間を後述する範囲とすることで、BET比表面積が300m/g以上の触媒担持層を効率よく得ることができる。また、触媒担持層表面のBET比表面積の上限としては特に限定されないが、800m/g以下であることが好ましい。
【0036】
触媒担持層の表面は、平滑であることが好ましい。触媒担持層の表面が平滑であると、触媒層を形成する際に、触媒の微粒子の粒子サイズが大きくなることを抑制でき、これにより比表面積の大きいCNTを得ることができる。触媒担持層の表面の算術平均粗さRaは、特に限定されないが、より好ましくは0.05μm以下であり、さらに好ましくは0.03μm以下である。
【0037】
触媒担持層の厚さは、10nm以上、100nm以下であることが好ましい。100nm以下の厚さであれば、クラックのない均質な触媒担持層の形成が容易である。10nm以上の厚さであれば、CNTを生成させることが容易となる。
【0038】
触媒担持層は、アルミニウム酸化物からできていることが好ましく、炭素原子を含んでいることがより好ましい。触媒担持層に含まれる炭素原子の態様は、いかなる態様であってもよい。つまり、炭素化合物が触媒担持層に含まれていてもよく、炭素単体が触媒担持層に含まれていてもよい。例えば、アルミニウムを含む有機金属化合物を基板上に塗布して、これを加熱して触媒担持層を形成する際に、炭素成分が残留するようにすることで、触媒担持層に炭素原子が含まれるようにすることができる。
【0039】
触媒担持層中の炭素原子の組成割合は、X線電子分析(ESCA)で測定される元素分析において、8%以上、30%以下の範囲であることが好ましい。炭素原子の組成割合の下限は、より好ましくは10%、さらに好ましくは15%であり、上限は、より好ましくは25%、さらに好ましくは20%である。この範囲であれば、より凝集し難く、分散性に優れたCNT配向集合体を得ることができる。また、炭素原子の組成割合が30%以下の触媒担持層は、例えば、アルミニウムを含む有機金属化合物を炭素原子が残るように加熱することで得られるので、材料の観点、製造の観点から、コストが低いという利点を有する。
【0040】
触媒担持層をアルミニウム酸化物で構成する場合において、当該アルミニウム酸化物中の酸素原子の含有量については、例えば、X線電子分析(ESCA)で測定される元素分析において、酸素原子とアルミニウム原子との組成比(O/Al)が、1.8以上、2.7以下の範囲であることがより好ましい。この範囲であれば、より凝集し難く、分散性に優れたCNT配向集合体を得られる。また、アルミニウムを含む有機金属化合物の加熱条件を調整することによって、この範囲の組成比にすることが容易であるため、製造の観点からも有利である。
【0041】
触媒担持層形成工程では、アルミニウム酸化物等の触媒担持層を構成する材料をスパッタリング等によって基板上に製膜してもよい。スパッタリングには、2極、高周波プラズマ、マグネトロン、イオンビームなど様々な方式のものがあり、何れの方式も使用可能であるが、このうち、プラズマ内に磁界をつくることにより、プラズマ内のイオンを増やしスパッタリングの速度を向上させることが可能なマグネトロンスパッタリングを用いることがより好ましい。
【0042】
マグネトロンスパッタリングでは、例えば以下の方法を用いることができる。マグネトロンスパッタリング装置の成膜室内に基板を格納して5.0×10−4Pa程度の高真空まで排気した後、成膜室にアルゴンガス等の希ガスを導入し、圧力を0.1Paないし3Pa程度に調整し、ターゲットに負の高電圧を印加して行なう。触媒担持層をアルミニウム酸化物で構成する場合、ターゲットには焼結アルミナを用いて、高周波パワーを印加して製膜することができる。
【0043】
また、触媒担持層形成工程では、有機アルミニウム化合物等の触媒担持層の材料を含む触媒担持層コーティング剤を基板上に塗布することで、当該基板上に触媒担持層を設けてもよい。触媒担持層コーティング剤を基板上に塗布すると基板上に触媒担持層が形成される。また、塗布した後、加熱するとよい。
【0044】
(有機アルミニウム化合物)
触媒担持層コーティング剤は、例えば有機アルミニウム化合物等の触媒担持層の材料を含めばよい。有機アルミニウム化合物には炭素原子が予め含まれており、触媒担持層にアルミニウム原子及び炭素原子を含む基材を容易に製造できる。
【0045】
有機アルミニウム化合物を用いる場合には、50℃以上、350℃以下の温度で熱分解することが好ましい。熱分解温度が50℃以上であればコーティング剤としての安定性を維持することができる。熱分解温度が350℃以下であれば、高温を必要としないので、後述する加熱工程において、CNTの成長が最も良好な加熱温度にすることができる。
【0046】
有機アルミニウム化合物としては、アルコキシドが挙げられる。より具体的には、アルミニウムトリメトキシド、アルミニウムトリエトキシド、アルミニウムトリ−n−プロポキシド、アルミニウムトリ−i−プロポキシド、アルミニウムトリ−n−ブトキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、アルミニウムトリ−tert−ブトキシド等が挙げられる。これらは、単独あるいは混合物として用いることができる。有機アルミニウム化合物としては他に、トリス(アセチルアセトナト)アルミニウム(III)などの錯体が挙げられる。これらのなかでも、金属製基板へのぬれ性が良く、カーボンナノチューブの成長が良好であることから、アルミニウムアルコキシドを用いることが好ましい。
【0047】
(有機溶剤)
触媒担持層コーティング剤では、例えば、有機アルミニウム化合物等の触媒担持層の材料を有機溶剤に溶解させればよい。有機溶剤としては、アルコール、グリコール、ケトン、エーテル、エステル類、炭化水素類等種々の有機溶剤が使用できるが、有機アルミニウム化合物の溶解性が良いことから、アルコール又はグリコールを用いることが好ましい。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0048】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、オクタノール、n−プロピルアルコールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどを挙げることができる。前記アルコールの中でも、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが、取り扱い性、保存安定性といった点で好ましい。
【0049】
有機アルミニウム化合物がアルコール又はグリコールに溶解しにくい場合、炭化水素類等他の溶媒を併用することもできる。
【0050】
(安定剤)
触媒担持層コーティング剤として、有機アルミニウム化合物を含む溶液を用いる場合には、有機アルミニウム化合物の縮合重合反応を抑制するための安定剤を含むことがより好ましい。
【0051】
安定剤としては、有機アルミニウム化合物の縮合重合反応を抑制するものであればよいが、β−ジケトン及びアルカノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。このような安定剤を加えることにより、縮合重合反応を起こす活性な反応基が安定剤によってキャッピングされ、縮合重合反応が進行せず、長期間にわたって粘度変化の少ないコーティング剤を得ることができる。また、高分子酸化物の重合度をコントロールすることができるため、高い分子量をもつ粒径の大きい粒子の生成による金属酸化物の沈殿が発生しない、長期間にわたって安定なコーティング剤を得ることができる。長期間にわたって同一の触媒担持層コーティング剤を用いて、安定して同品質のCNTを製造することが可能となる。安定剤を配合しないと、たとえば調製直後の溶液と、1ヶ月間保存後の溶液とで、合成されたCNTの品質が変化してしまう恐れがある。
【0052】
安定剤を用いることで、縮合重合反応が進行せずゾル化が進行を抑制し、又はゾル化の状態を制御できることから、液中に大きい粒子が生成しない。そのため、平坦で均一な触媒担持層を形成することが可能となる。また、触媒の粒子を最適な状態にコントロールすることが可能となる。
【0053】
有機アルミニウム化合物のゾル化が進行すると、触媒担持層の膜厚が不均一となる原因となり、触媒の粒子サイズが大きくなり、その結果多層CNTが生成しやすくなる。多層CNTは比表面積が小さいため、比表面積の大きなCNT配向集合体を得ることができない。
【0054】
また、有機アルミニウム化合物の溶液に安定剤を配合することにより、基板上へ塗布したときに有機アルミニウム化合物同士が凝集することを防止して、均一な膜厚の触媒担持層を形成できることを本発明者らは見出した。同時に、金属基板へのぬれ性を改善する役割があり、はじき等の塗布不良を防止して、均一な膜厚の触媒担持層を形成できることを本発明者らは見出した。
【0055】
安定剤として用いられるβ−ジケトン類としては、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン、ベンゾイルトリフルオルアセトン、フロイルアセトンおよびトリフルオルアセチルアセトンなどが例示されるが、特にアセチルアセトン、アセト酢酸エチルを用いることが好ましい。
【0056】
安定剤として用いられるアルカノールアミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N.N−ジメチルアミノエタノール、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどがある。なかでも、金属基板へのぬれ性が向上して、CNTの成長が向上することから、第2級又は第3級アルカノールアミンであることが好ましい。
【0057】
安定剤は、50℃以上、350℃以下の温度で、熱分解又は揮発するものであることが好ましい。熱分解温度又は沸点が50℃以上であればコーティング剤としての安定性を維持することができる。熱分解温度又は沸点が350℃以下であれば、後述する加熱工程を行なう場合、CNTの成長が最も良好な加熱温度にでき、高温を必要としないため生産性が向上する。後述する加熱工程での温度よりも低い熱分解温度又は沸点を有することで、加熱工程の後の膜中への残存量を減らすことができ、CNTの成長不良を抑制することができる。
【0058】
触媒担持層コーティング剤中に含まれる有機アルミニウム化合物と安定剤との配合モル比は、特に限定されないが、有機アルミニウム化合物のモル数に対して、1:0.01以上3.0以下の範囲で添加した場合により優れた効果が現れ、特に、有機アルミニウム化合物のモル数に対して、1:0.5以上1.5以下の範囲で添加することが好ましい。安定剤の添加量が有機アルミニウム化合物に対して0.01以上であれば安定化の機能が十分に発揮され、3.0以下であれば、皮膜の白化などの悪影響を抑制することができる。有機アルミニウム化合物と安定剤との配合モル比を調整することによって、加熱工程の前に有機アルミニウム化合物の加水分解及び縮合反応が開始することをより確実に防止できると共に、後の加熱工程条件下での加水分解及び縮合反応を調整することが可能になる。
【0059】
触媒担持層コーティング剤中に含まれる有機アルミニウム化合物の量は、塗布したときの膜厚ムラを軽減し、表面の平滑性が優れることから、0.5重量%以上10重量%以下の範囲とすることが好ましく、0.5重量%以上5重量%以下の範囲とすることがより好ましい。
【0060】
なお、触媒担持層コーティング剤において、コーティング剤全量に対する水分含有量は、2.0%以下であることが好ましい。水分含有量が2.0%以下であることにより、コーティング剤中において、有機アルミニウム化合物の凝集及びゾル化の進行を抑制することが可能である。有機アルミニウム化合物の凝集及びゾル化が進行した場合、液中にサイズの大きい微粒子が生成しやすくなるため、CNTの比表面積が低下するおそれがある。また、徐々に縮合反応が進行し、均一なゾル状態を長期間維持することが難しく、安定して同品質のCNTを得ることが難しくなる。
【0061】
(塗布)
触媒担持層コーティング剤を塗布することで、例えば有機アルミニウム化合物を含む皮膜が基板上に形成され、触媒担持層が得られる。
【0062】
なお、有機アルミニウム化合物を用いる場合、大気中に存在している水分によって有機アルミニウム化合物の縮合重合反応が促進される場合がある。そのため、塗布、乾燥中の温度、湿度をコントロールすることが、均一な皮膜を作製するにあたり重要である。塗布、乾燥条件としては、20℃以上、25℃以下、相対湿度60%以下であることがより好ましい。相対湿度が60%以下であれば、有機アルミニウム化合物と大気中の水蒸気との反応を抑制し、塗布された皮膜をより均一にすることができる。
【0063】
基板表面へのコーティング剤の塗布方法としては、スプレー、ハケ塗り等により塗布する方法、スピンコーティング、ディップコーティング等、いずれの方法を用いてもよい。
【0064】
(加熱工程)
本発明に係るCNT配向集合体生産用基材の製造方法において、有機アルミニウム化合物を含む触媒担持層コーティング剤を用いて触媒担持層を形成する場合、触媒担持層形成工程は、触媒担持層コーティング剤を基板上に塗布した後に、基板を加熱する加熱工程を含むことがより好ましい。触媒担持層コーティング剤が塗布された基板を加熱することで、有機アルミニウム化合物の加水分解及び縮重合反応が開始され、有機アルミニウム化合物を含む硬化皮膜が基板表面に形成される。
【0065】
また、加熱によって、アルミニウム酸化物薄膜が形成される。酸化アルミニウム(アルミナ)は、CNTの成長が良好であることから、アモルファスアルミナであることが好ましい。又は、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ、χ−アルミナ、κ−アルミナ、θ−アルミナ、ρ−アルミナ等遷移アルミナが含まれていてもよい。
【0066】
触媒担持層コーティング剤を塗布した後、乾燥させることが好ましく、さらにその後、加熱工程を実施することが好ましい。基板と触媒担持層との密着性が向上して、次の工程で触媒層コーティング剤を塗布する際の塗布の安定性が向上する。
【0067】
触媒担持層の形成のために有機アルミニウム化合物を含む触媒担持層コーティング剤を用いる場合、加熱温度は、200℃以上、400℃以下であることがより好ましく、さらには250℃以上、350℃以下であることが好ましい。通常、有機アルミニウム化合物の焼成には、500℃〜1200℃の高温であることが必要であるが、これより低温で実施することにより生産性が優れる。加熱温度が400℃以下であることにより、アルミニウム酸化物皮膜の結晶性が高くなることを抑制する。また、有機アルミニウム化合物中に含まれる炭素原子を触媒担持層中に残留させることができる。その結果、平均外径が大きく(2nm以上)、かつ外径分布範囲が広い(半値幅1nm以上)CNT配向集合体を製造する際に最適な、触媒を形成することが可能となる。アルミニウム酸化物皮膜の結晶性が高くなると、触媒の微粒子化を最適な状態にすることができず、さらに触媒担持層及び触媒としての活性が小さくなり、CNTの成長が悪化するおそれがある。また、金属製基板を用いた場合、加熱温度が400℃以下であることにより、基板表面の酸化を防止して、CNTの成長の悪化を防ぐことが可能である。
【0068】
加熱時間は、アルミニウム酸化物皮膜の結晶性が高くなることを抑制する観点、有機アルミニウム化合物中に含まれる炭素原子を触媒担持層中に残留させる観点、及び生産効率上の観点から短いほど好ましく、5分以上、3時間以下であることがより好ましい。加熱時間の上限はさらに好ましくは1時間、特に好ましくは30分である。
【0069】
加熱工程後の触媒担持層の膜厚は、10nm以上、100nm以下であることがより好ましい。この膜厚の範囲内において均一でむらのない触媒担持層を形成することが容易である。100nm以下の膜厚において、クラックのない均質な触媒担持層の形成が容易である。10nm以上の膜厚において、CNTを生成させることが容易となる。
【0070】
〔触媒層形成工程〕
触媒層形成工程では、触媒担持層上に触媒層を形成する。
【0071】
触媒層は、CNTの成長を触媒する触媒の粒子の層であり、触媒担持層の上に形成されていればよい。触媒担持層の表面に孔が設けられている場合、孔の少なくとも一部を選択的に露出して設けられていることがより好ましい。換言すれば触媒担持層の表面の上であって、孔の内壁面ではない面の上に触媒の粒子があることがより好ましい。触媒の粒子がこの場所にあることにより、触媒の粒子に原料ガス及び触媒賦活物質が供給されやすくなり、より効率よくCNT配向集合体を製造することができる。
【0072】
触媒としては、CNTの成長を触媒できる物であればよく、例えば、鉄がより好ましい。
【0073】
触媒の粒子径としては、その直径が最大値で30nm以下の範囲であることがより好ましい。また平均直径は、20nm以下であることがより好ましく、15nm以下であることがさらに好ましい。触媒の粒子の平均直径は、SEM像で一つ一つの粒子の直径を測定し、算術平均値をとることで見積もることができる。触媒の粒子径が当該範囲であることにより、多層CNTの生成を抑制し、単層CNTを主生成物とすることが容易となる。
【0074】
触媒層における、触媒の粒子の密度は、例えば、1.0×1011個/cm以上、2.0×1012個/cm以下の範囲であることがより好ましい。この範囲より低いと、得られるCNTの密度が小さくなり、CNTが基板に対して垂直配向しにくくなる場合がある。一方この範囲より高いと、CNTの密度が大きくなり、成長工程において触媒微粒子まで原料ガスや触媒賦活物質が到達しにくくなるため、CNTの成長が抑制される場合がある。
【0075】
触媒層形成工程では、触媒をスパッタリング等によって触媒担持層上に製膜してもよい。スパッタリングの方法としては前記触媒担持層の形成と同様の方法を挙げることができ、マグネトロンスパッタリングが好ましい。マグネトロンスパッタリングの方法は前記と同様であり、例えば触媒層を鉄で構成する場合、ターゲットには鉄を用いて、直流パワーもしくは高周波パワーを印加して製膜することができる。
【0076】
また、触媒層形成工程では、触媒の材料を含む触媒層コーティング剤を触媒担持層上に塗布して、触媒担持層上に触媒層を設けてもよい。触媒の材料としては、例えば、有機金属化合物、金属塩等が挙げられる。
【0077】
触媒層コーティング剤を触媒担持層上に塗布することで、触媒担持層上に触媒層が形成される。塗布した後は、乾燥することがより好ましい。
【0078】
(有機金属化合物、金属塩)
触媒層コーティング剤として、有機金属化合物及び金属塩からなる群から選ばれる少なくとも一つを含むものを用いる場合、これらの化合物を後述する加熱工程に供すると、触媒担持層上で金属水酸化物又は金属酸化物に変化する。有機金属化合物及び金属塩は、50℃以上、350℃以下の温度で熱分解するものであることが好ましい。熱分解温度が50℃以上であればコーティング剤としての安定性を維持することができる。熱分解温度が350℃以下であれば、後述する加熱工程においてCNTの成長に最も適した加熱温度にでき、また高温を必要とせず生産性が向上する。
【0079】
触媒層を形成するための有機金属化合物又は金属塩を構成する金属としては、CNTの成長が著しく向上することから、鉄を含むことが好ましい。
【0080】
鉄を含む有機金属化合物としては、鉄ペンタカルボニル、フェロセン、アセチルアセトン鉄(II)、アセチルアセトン鉄(III)、トリフルオロアセチルアセトン鉄(II)、トリフルオロアセチルアセトン鉄(III)等が挙げられる。
【0081】
鉄を含む金属塩としては、例えば、硫酸鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化鉄、臭化鉄等の無機酸鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄、乳酸鉄等の有機酸鉄等が挙げられる。化合物は1種または2種以上混合してもよい。
【0082】
これらのなかでも、金属製基板へのぬれ性が良く、CNTの成長が良好であることから、有機酸鉄を用いることが好ましい。
【0083】
(有機溶剤)
触媒層コーティング剤では、例えば、有機金属化合物及び金属塩からなる群から選ばれる少なくとも一つを有機溶剤に溶解させればよい。アルコール、グリコール、ケトン、エーテル、エステル類、炭化水素類等種々の有機溶剤が使用できるが、有機金属化合物及び金属塩の溶解性が良いことから、アルコール又はグリコールを用いることが好ましい。これらの有機溶剤は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0084】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、オクタノール、n−プロピルアルコールなどが挙げられる。グリコール類としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−プロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどを挙げることができる。前記アルコールの中でも、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが、取り扱い性、保存安定性といった点で好ましい。
【0085】
(安定剤)
触媒層コーティング剤が有機金属化合物及び金属塩からなる群から選ばれる少なくとも一つを含む場合、当該有機金属化合物及び金属塩の縮合重合反応を抑制するための安定剤を含むことがより好ましい。
【0086】
安定剤としては、有機金属化合物及び金属塩の縮合重合反応を抑制するものであればよいが、β−ジケトン及びアルカノールアミンからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。このような安定剤を加えることにより、縮合重合反応を起こす活性な反応基が安定剤によってキャッピングされ、縮合重合反応が進行せず、長期間にわたって粘度変化の少ないコーティング剤を得ることができる。また、高分子酸化物の重合度をコントロールすることができるため、高い分子量をもつ粒径の大きい粒子の生成による金属酸化物の沈殿が発生しない、長期間にわたって安定なコーティング剤を得ることができる。長期間にわたって同一の触媒層コーティング剤を用いて、安定して同品質のCNTを製造することが可能となる。安定剤を配合しないと、たとえば調製直後の溶液と、1ヶ月間保存後の溶液とで、合成されたCNTの品質が変化してしまう恐れがある。
【0087】
安定剤を用いることで、縮合重合反応が進行せずゾル化が進行を抑制し、又はゾル化の状態を制御できることから、液中に大きい粒子が生成しない。そのため、平坦で均一な触媒層を形成することが可能となる。また、触媒の粒子を最適な状態にコントロールすることが可能となる。
【0088】
有機金属化合物及び金属塩のゾル化が進行すると、触媒の膜厚が不均一となる原因となり、触媒の粒子サイズが大きくなり、その結果多層CNTが生成しやすくなる。多層CNTは比表面積が小さいため、比表面積の大きなCNT配向集合体を得ることができない。
【0089】
また、有機金属化合物及び/又は金属塩の溶液に安定剤を配合することにより、触媒担持層上へ塗布したときに有機金属化合物及び金属塩同士が凝集するのを防止して、均一な膜厚の触媒層を形成することが可能となる。
【0090】
安定剤として用いられるβ−ジケトン類としては、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン、ベンゾイルトリフルオルアセトン、フロイルアセトンおよびトリフルオルアセチルアセトンなどが例示されるが、特にアセチルアセトン、アセト酢酸エチルを用いることが好ましい。
【0091】
安定剤として用いられるアルカノールアミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N.N−ジメチルアミノエタノール、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどがある。なかでも、CNTの成長が向上することから、2級又は3級アミンであることが好ましい。
【0092】
安定剤は、50℃以上、350℃以下の温度で、熱分解又は揮発するものであることが好ましい。熱分解温度又は沸点が50℃以上であればコーティング剤としての安定性を維持することができる。熱分解温度又は沸点が350℃以下であれば、後述する加熱工程を行なう場合、CNTの成長に最も適した加熱温度にでき、高温を必要としないため生産性が向上する。後述する加熱工程での温度よりも低い熱分解温度又は沸点を有することで、加熱工程の後の膜中への残存量を減らすことができ、CNTの成長不良を抑制することができる。
【0093】
触媒層コーティング剤中に含まれる有機金属化合物及び金属塩の総量と安定剤との配合モル比は、特に限定されないが、有機金属化合物及び金属塩のモル数に対して、1:0.01以上3.0以下の範囲で添加した場合により優れた効果が現れ、特に、有機金属化合物及び金属塩のモル数に対して、1:0.5以上1.5以下の範囲で添加することが好ましい。安定剤の添加量が有機金属化合物及び金属塩の総量に対して0.01以上であれば安定化の機能が十分に発揮され、3.0以下であれば、皮膜の白化などの悪影響を抑制することができる。有機金属化合物及び金属塩の総量と安定剤との配合モル比を調整することによって、加熱工程の前に有機金属化合物または金属塩の加水分解及び縮合反応が開始することを確実に防止できると共に、後の加熱工程条件下での加水分解及び縮合反応を調整することが可能になる。
【0094】
触媒層コーティング剤中に含まれる有機金属化合物及び金属塩の総量は、塗布したときの膜厚ムラを軽減し、表面の平滑性が優れることから、0.05重量%以上0.5重量%以下の範囲とすることが好ましく、0.1重量%以上0.5重量%以下の範囲とすることがより好ましい。
【0095】
(塗布)
触媒層コーティング剤を塗布することで、基板上に有機金属化合物及び/又は金属塩と安定剤とを含む皮膜が形成され、触媒層となる。
【0096】
触媒層コーティング剤が有機金属化合物及び金属塩を含む場合、大気中に存在している水分によって有機金属化合物及び金属塩の縮合重合反応が促進される場合がある。そのため、塗布、乾燥中の温度、湿度をコントロールすることが、均一な皮膜を作製するにあたり重要である。塗布、乾燥条件としては、20℃以上、25℃以下、相対湿度60%以下であることが好ましい。相対湿度が60%以下であれば、有機金属化合物及び金属塩と大気中の水蒸気との反応を抑制し、塗布された皮膜をより均一にすることができる。
【0097】
触媒層コーティング剤が有機金属化合物及び金属塩を含む場合、コーティング剤全量に対する水分含有量は、2.0%以下であることが好ましい。水分含有量が2.0%以下であることにより、コーティング剤中において、有機金属化合物もしくは金属塩の凝集やゾル化の進行を抑制することが可能である。有機金属化合物もしくは金属塩の凝集やゾル化が進行した場合、液中にサイズの大きい微粒子が生成しやすくなるため、CNTの比表面積が低下するおそれがある。また、徐々に縮合反応が進行し、均一なゾル状態を長期間維持することが難しく、安定して同品質のCNTを得ることが難しくなる。
【0098】
基板表面へのコーティング剤の塗布方法としては、スプレー、ハケ塗り等により塗布する方法、スピンコーティング、ディップコーティング等、いずれの方法を用いてもよい。
【0099】
塗布法で触媒を基板上に配置する方法はスパッタ装置を用いて金属薄膜を配置する方法に比べ、大面積化が可能でスケーラビリティに優れ、低コスト化を図ることができるCNT配向集合体の提供が可能となる。
【0100】
(加熱工程)
触媒層形成工程では、層中に残存する有機溶剤を取り除くために、加熱工程をおこなうことが好ましい。加熱温度は、50℃以上、200℃以下であることが好ましい。加熱温度は、200℃以下の低温であるため、この時点で触媒層の加水分解および縮重合反応は、進行しなくてもよい。後述するフォーメーション工程前に実施する、触媒層の加熱工程の温度は、200℃以下の低温で実施することができ、生産性に優れる。
【0101】
加熱時間は、金属酸化物皮膜の結晶性が高くなるのを抑制する観点と、生産効率上の観点から短いほど好ましく、5分以上、30分以下であることが好ましい。
【0102】
加熱工程後の触媒の膜厚は、1nm以上、10nm以下であることが好ましく、さらには2nm以上、6nm以下であることが好ましい。2nm以上、6nm以下であることにより、単層CNTの割合(選択性)が向上する。
【0103】
<本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材>
本発明に係るCNT配向集合体生産用基材は、上述の本発明に係るCNT配向集合体生産用基材の製造方法により製造されるものである。
【0104】
本発明に係るCNT配向集合体生産用基材は、上述のように、クロムの不動態被膜を有する基板を、酸素原子を有するガスを含む雰囲気中で加熱して酸化する酸化工程を経て製造される。従って、不動態被膜の厚さが、例えば、一般的なステンレス鋼等に比べて厚くなっていると推測される。本発明に係るCNT配向集合体生産用基材を用いれば、良好な選択性、収率、品質で単層CNT配向集合体を得ることができる。
【0105】
<本発明に係る単層カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法>
本発明に係る単層CNT配向集合体の製造方法は、本発明に係るCNT配向集合体生産用基材の製造方法により製造されるCNT配向集合体生産用基材の周囲環境を原料ガスを含む環境として、当該CNT配向集合体生産用基材及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、単層CNT配向集合体を当該CNT配向集合体生産用基材上に成長させる成長工程を含む。
【0106】
〔単層CNT配向集合体〕
本発明に係る単層CNT配向集合体の製造方法によれば単層CNT配向集合体を好適に製造することができる。成長工程により成長するCNTのうち、単層CNTの割合は50%以上の割合であることが好ましい。50%以上であれば、単層CNTとしての利点を十分に発揮することができる。すなわちCNTのなかでも単層CNTは、電気的特性(極めて高い電流密度)、熱的特性(ダイアモンドに匹敵する熱伝導度)、光学特性(光通信帯波長域での発光)、水素貯蔵能、および金属触媒担持能などの各種特性に優れている上、半導体と金属との両特性を備えているため、電子デバイス、蓄電デバイスの電極、MEMS部材、及び機能性複合材料のフィラーなどの材料として好適に用いることができる。本発明の製造方法によれば、金属不純物が少なく、比表面積が高く、配向性を持つ単層CNT集合体を得ることができる。かかる単層CNT配向集合体は、物質・エネルギー貯蔵材料として、スーパーキャパシターの電極や指向性を持つ伝熱・放熱材料などの様々な用途において、非常に好適である。
【0107】
得られるCNTが単層CNTであるか否かは、以下の方法で確認することができる。
【0108】
(1)ラマン分光測定
ラマン分光測定では、カーボンナノチューブの直径が振動するモードでラジアルブリージングモード(RBM)と呼ばれるスペクトルが観察される。RBMのスペクトルは100−300cm−1の低周波数領域にあらわれる。このスペクトルが観測されれば、試料中に単層ナノチューブが存在しているということができる。RBMの周波数はCNTの直径に反比例(248/dt cm−1、dt nmはナノチューブの直径)するので、RBMの周波数から、観測しているナノチューブの直径を評価できる。
【0109】
(2)比表面積測定
一般に、単層カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブよりも大きい比表面積を持つ。Bin Zhaoらの文献ACS Nano, 3(1),108−114(2009)によれば比表面積は、単層カーボンナノチューブでは1250±50m/g、2層カーボンナノチューブでは750±40m/g、多層カーボンナノチューブでは360±20m/gである。前記の数値を目安として、比表面積が1250m/gに近ければ、単層カーボンナノチューブが主に生成しているということができる。比表面積の測定には、例えば窒素分子の吸着現象を利用したBrunauer,Emmett,Teller(BET)法を用いることができる。
【0110】
なお、特許文献3に記載の方法では、触媒の粒径(サイズ)を制御できないため、多層CNTが生成すると考えられる。本発明では単層CNTを生成できる点で、特許文献3に記載の方法と作用が異なる。
【0111】
〔成長工程〕
成長工程では、CNT配向集合体生産用基材の周囲環境をCNTの原料ガスを含む環境にして、当該CNT配向集合体生産用基材及び当該原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、CVD法によりCNT配向集合体を成長させる。
【0112】
例えば、CNT配向集合体生産用基材をCVD炉に設置して、原料ガスを供給した後に、又はCNTの原料ガスを供給しながら、CVD法によりCNT配向集合体生産用基材上に単層CNT配向集合体を成長させればよい。
【0113】
原料ガスとしては、CNTの原料となる物質であればよく、例えば、成長温度において原料炭素源を有するガスである。なかでもメタン、エタン、エチレン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンプロピレン、及びアセチレン等の炭化水素が好適である。この他にも、メタノール、エタノール等の低級アルコールでもよい。これらの混合物も使用可能である。またこの原料ガスは、不活性ガスで希釈されていてもよい。
【0114】
不活性ガスとしては、CNTが成長する温度で不活性であり、触媒の活性を低下させず、且つ成長するCNTと反応しないガスであればよい。例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素、ネオン、及びクリプトンなど、並びにこれらの混合ガスを例示でき、特に窒素、ヘリウム、アルゴン、及びこれらの混合ガスが好適である。
【0115】
CNT配向集合体生産用基材及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱するにあたって、その両方を加熱することがより好ましい。また、加熱する温度としては、CNTの成長が可能な温度であればよいが、好ましくは400℃以上、1100℃以下である。400℃以上で後述する触媒賦活物質の効果が良好に発現され、1100℃以下では、触媒賦活物質がCNTと反応することを抑制できる。
【0116】
(触媒賦活物質)
CNTの成長工程において、原料ガスを含む環境は、触媒賦活物質をさらに含むことがより好ましい。触媒賦活物質を原料ガスを含む環境に添加することによって、CNTの生産効率や純度をより一層改善することができる。触媒賦活物質としては、例えば酸素を含む物質であり、CNTの成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であることが好ましく、例えば、水、酸素、オゾン、酸性ガス、酸化窒素、一酸化炭素及び二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、エタノール、メタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトン等のケトン類、アルデヒドロ類、エステル類、酸化窒素、硫化水素、並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水、酸素、二酸化炭素、一酸化炭素、エーテル類が好ましく、特に水が好適である。
【0117】
触媒賦活物質の添加量に格別な制限はないが、例えば、微量でよく、水(水蒸気)の場合には、好ましくは10ppm以上10000ppm以下、より好ましくは50ppm以上1000ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上700ppm以下の範囲とするとよい。
【0118】
触媒賦活物質の機能のメカニズムは、現時点では以下のように推測される。CNTの成長過程において、副次的に発生したアモルファスカーボン及びグラファイトなどが触媒に付着すると触媒は失活してしまいCNTの成長が阻害される。しかし、触媒賦活物質が存在すると、アモルファスカーボン及びグラファイトなどを一酸化炭素及び二酸化炭素などに酸化させることでガス化するため、触媒層が清浄化され、触媒の活性を高め且つ活性寿命を延長させる作用(触媒賦活作用)が発現すると考えられている。
【0119】
この触媒賦活物質の添加により、触媒の活性が高められ且つ寿命が延長した結果、従来技術であれば高々2分間程度で終了するCNTの成長が数十分間継続する上、成長速度は、従来技術に比べて100倍以上、さらには1000倍にも増大する。この結果、その高さが著しく増大したCNT配向集合体が得られる。
【0120】
〔フォーメーション工程〕
本発明に係るCNT配向集合体の製造方法では、成長工程の前にフォーメーション工程を行なうことがより好ましい。
【0121】
フォーメーション工程とは、CNT配向集合体生産用基材の周囲環境を還元ガスを含む還元ガスを含む環境にすると共に、CNT配向集合体生産用基材及び還元ガスのうち少なくとも一方を加熱する工程をいう。この工程により、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化の促進、及び触媒の活性向上のうち少なくとも一つの効果が現れる。これにより、触媒がCNT生成用触媒としてより好適に機能する。また、触媒担持層に細孔が形成されている場合、触媒の微粒子化を行なうことで、触媒の粒子で当該細孔が塞がれることを抑制し、細孔周辺に均一に触媒微粒子を形成することができると推測される。このようにして形成される触媒の微粒子は、直径分布が広く、また基板上での微粒子密度に粗密があるため、CNTの外径分布が広く、さらに屈曲点の多いCNTが得られると推測される。その結果、従来のCNTと比較して、CNT同士が強固なバンドルを形成しにくく、分散性に優れたCNTを製造することが可能となる。
【0122】
フォーメーション工程における触媒及び/又は還元ガスの温度は、好ましくは400℃以上、1100℃以下である。また、フォーメーション工程の時間は、3分以上、30分以下の範囲が好ましく、3分以上、8分以下がより好ましい。フォーメーション工程の時間がこの範囲であれば、触媒微粒子の粗大化が防止され、多層カーボンナノチューブの生成を抑制することができる。フォーメーション工程時に、触媒層の加水分解および縮重合反応が開始され、金属水酸化物及び/又は金属酸化物を含む硬化皮膜が基板表面に形成され、同時もしくはその後にフォーメーション工程の主目的である触媒の還元、微粒子化が行われることが好ましい。
【0123】
例えば、触媒が鉄である場合、水酸化鉄薄膜又は酸化鉄薄膜が形成され、同時もしくはその後に還元、微粒子化がおこり、鉄の微粒子が形成される。また、例えば、触媒担持層の金属がアルミナ、触媒金属が鉄である場合、鉄触媒層は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成される。これにより触媒はCNT配向集合体の生産に好適な触媒に調製される。
【0124】
なお、フォーメーション工程は、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法に包含されてもよい。即ち、本発明に係るカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材は、フォーメーション工程を行なった後の物であってもよい。
【0125】
(還元ガス)
還元ガスは、一般的には、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態である微粒子化の促進、及び触媒の活性向上のうち少なくとも一つの効果を持つ、CNTの成長温度において気体状のガスである。CNTの製造が可能なものであれば適宜のものを用いることができるが、典型的には還元性を有したガスであり、例えば水素ガス、アンモニア、水蒸気及びそれらの混合ガスを適用することができる。また、水素ガスをヘリウムガス、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガスと混合した混合ガスでもよい。還元ガスは、一般的には、フォーメーション工程で用いるが、適宜、後述する成長工程に用いてもよい。
【0126】
〔本発明に係る単層カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法を実施する製造装置〕
本発明に係る単層CNT配向集合体の製造方法を実施する製造装置は、上述の成長工程を実施できる装置であればよい。例えば、CNT配向集合体生産用基材を格納するための炉、原料ガスの噴射部、炉を加熱するヒータ等から構成されていればよい。触媒賦活物質を炉内に供給する場合は、触媒賦活物質添加部を設ければよい。
【0127】
また、フォーメーション工程を実施する場合、一つの炉内でフォーメーション工程を行ない、引き続き成長工程を行なうバッチ処理を行なう装置でもよく、フォーメーション工程を行なうためのユニットと成長工程を行なうためのユニットとを別々に設けて、CNT配向集合体生産用基材を連続的に各ユニットに導入して各工程を行なう連続処理の装置としてもよい。
【0128】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0129】
(比表面積測定)
比表面積とは液体窒素の77Kでの吸脱着等温線を測定し、この吸脱着等温曲線からBrunauer,Emmett,Tellerの方法から計測した値のことである。比表面積は、比表面積測定装置(日本ベル社製Bersorp miniII)を用いて測定した。
【0130】
(ラマン分光測定)
G/D比とはCNTの品質の評価に一般的に用いられている指標である。ラマン分光装置によって測定されるCNTのラマンスペクトルには、Gバンド(1600cm−1付近)とDバンド(1350cm−1付近)と呼ばれる振動モードが観測される。GバンドはCNTの円筒面であるグラファイトの六方格子構造由来の振動モードであり、Dバンドは非晶箇所に由来する振動モードである。よって、GバンドとDバンドのピーク強度比(G/D比)が高いものほど、結晶性の高いCNTと評価できる。
【0131】
本実施例においては、顕微レーザラマンシステム(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製Nicolet Almega XR)を用い、基材中心部付近のCNT配向集合体を一部剥離し、CNT配向集合体の基材から剥離された面にレーザを当てて、ラマンスペクトルを測定し、G/D比を求めた。また、RBMの観測により単層CNTの生成有無を確認した。
【0132】
(CNTの平均外径)
CNTを透過型電子顕微鏡で観察して、得られた画像から50本のCNTの外径を測定して、算術平均値を平均外径とした。
【0133】
(炭素純度)
炭素純度は、熱重量分析装置(TG)を用いて、CNTを空気中で800℃まで1℃/分で昇温し、(800℃に到達するまでに燃えて減少した重量/初期重量)×100を炭素純度(%)とした。
【0134】
(算術平均粗さ)
算術平均粗さRaは、レーザ顕微鏡(キーエンス製VK−9700)を用いて、対物倍率50倍で測定した。
【0135】
[実施例1]
基板として、大きさ40mm×40mm、厚さ0.3mmのFe−Ni−Cr合金SUS304(日本冶金工業株式会社製、Ni8%、Cr18%)を使用した。レーザ顕微鏡を用いて表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRa≒0.25μmであった。
【0136】
この基板を、600℃、大気雰囲気のマッフル炉で5分間加熱して、酸化処理を行った。酸化処理前後の重量変化を測定したところ0.2mgの重量増加がみられ、酸化膜生成による黄色のテンパーカラーが基板表面にみられた。
【0137】
この基板の表裏両面にスパッタリング装置を用いて厚さ100nmの二酸化ケイ素膜(浸炭防止層)を製膜した。次いで表面のみにスパッタリング装置を用いて厚さ10nmの酸化アルミニウム膜(触媒担持層)、1.0nmの鉄膜(触媒層)を製膜した。
【0138】
得られたCNT配向集合体生産用基材を、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×10Paに保持されたCVD装置の反応炉内に設置し、この炉内に、He:100sccm及びH:900sccmの混合ガスを6分間導入した。これにより、酸化鉄からなる触媒は還元されて単層CNTの成長に適合した状態の微粒子化が促進され、触媒担持層上にナノメートルサイズの鉄微粒子が多数形成された(フォーメーション工程)。
【0139】
次に、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×10Paに保持された状態の反応炉内に、He:850sccm、C:100sccm及びHO含有He(相対湿度23%):50sccmの混合ガスを5分間供給した。これにより、単層CNTが各鉄触媒微粒子から成長した(成長工程)。
【0140】
成長工程終了後、反応炉内にHe:1000sccmを供給し、残余の原料ガス及び触媒賦活剤を排除した(フラッシュ工程)。これにより、配向した単層CNTの集合体が得られた。
【0141】
得られたCNT配向集合体の特性は、生成量1.5mg/cm、G/D比4.5、密度:0.030g/cm、BET−比表面積:1100m/g、CNT外径:0.8−5.0nm、CNT平均外径2.8nm、炭素純度99.9%であった。
【0142】
ラマン分光測定において単層CNT由来のRBMが観測されたこと及びBET比表面積の値から、単層CNTが主に生成していることが確認できた。
【0143】
[実施例2]
基板として、大きさ40mm×40mm、厚さ0.1mmのFe−Ni−Cr合金SUS316(日本冶金工業株式会社製、Ni12%、Cr17%、Mo2.5%)を使用した。レーザ顕微鏡を用いて表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRa≒0.19μmであった。
【0144】
この基板を、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×10Paに保持されたCVD装置の反応炉内に設置し、この炉内に、He:950sccm及びHO含有He(相対湿度23%):50sccmの混合ガスを5分間供給した(酸化処理)。酸化処理前後の重量変化を測定したところ、0.5mgの重量増加がみられ、酸化膜生成による青色のテンパーカラーが基板表面にみられた。
【0145】
この基板の表裏両面にスパッタリング装置を用いて厚さ100nmの二酸化ケイ素膜(浸炭防止層)を製膜した。次いで表面のみにスパッタリング装置を用いて厚さ10nmの酸化アルミニウム膜(触媒担持層)、1.0nmの鉄膜(触媒層)を製膜した。
【0146】
得られたCNT配向集合体生産用基材をCVD装置の反応炉内に設置して、実施例1と同様の条件でCNTを合成した。
【0147】
得られたCNT配向集合体の特性は、生成量1.4mg/cm、G/D比4.5、密度:0.030g/cm、BET−比表面積:1100m/g、CNT外径:0.8−5.0nm、CNT平均外径2.8nm、炭素純度99.9%であった。
【0148】
ラマン分光測定において単層CNT由来のRBMが観測されたこと及びBET比表面積の値から、単層CNTが主に生成していることが確認できた。
【0149】
[実施例3]
基板として、大きさ40mm×40mm、厚さ0.6mmのFe−Cr合金SUS430(JFEスチール株式会社製、Cr18%)を使用した。レーザ顕微鏡を用いて表面粗さを測定したところ、算術平均粗さRa≒0.080μmであった。
【0150】
この基板の表裏両面にスパッタリング装置を用いて厚さ100nmの二酸化ケイ素膜(浸炭防止層)を製膜した。次いで表面のみにスパッタリング装置を用いて厚さ10nmの酸化アルミニウム膜(触媒担持層)、1.0nmの鉄膜(触媒層)を製膜した。
【0151】
得られたCNT配向集合体生産用基材を、400℃、大気雰囲気のマッフル炉で5分間加熱して、酸化処理を行った。酸化処理前後の重量変化を測定したところ0.1mgの重量増加がみられ、酸化膜生成による黄色のテンパーカラーが基板表面にみられた。
【0152】
次にこのCNT配向集合体生産用基材をCVD装置の反応炉内に設置して、実施例1と同様の条件でCNTを合成した。
【0153】
得られたCNT配向集合体の特性は、生成量1.8mg/cm、G/D比6.0、密度:0.030g/cm、BET−比表面積:1200m/g、CNT外径:0.8−5.0nm、CNT平均外径2.8nm、炭素純度99.9%であった。
【0154】
ラマン分光測定において単層CNT由来のRBMが観測されたこと及びBET比表面積の値から、単層CNTが主に生成していることが確認できた。
【0155】
[比較例1]
基板の酸化処理を行なわなかった他は、実施例1と同様にしてカーボンナノチューブを合成した。得られたCNT配向集合体の特性は、生成量0.8mg/cm、G/D比3.0、BET−比表面積:900m/gであった。
【0156】
[比較例2]
基板の酸化処理を行なわなかった他は、実施例2と同様にしてカーボンナノチューブを合成した。得られたCNT配向集合体の特性は、生成量0.9mg/cm、G/D比2.9、BET−比表面積:900m/gであった。
【0157】
[比較例3]
基板の酸化処理を行なわなかった他は、実施例3と同様にしてカーボンナノチューブの合成を行った。得られたCNT配向集合体の特性は、生成量1.3mg/cm、G/D比4.0、BET−比表面積:1100m/gであった。
【0158】
[比較例4]
基板上に、触媒担持層を形成する工程及び触媒層を形成する工程を行なわなかった他は、実施例3と同様にしてカーボンナノチューブの合成を行った。得られたCNT配向集合体の特性は、生産量1.0mg/cm、G/D比1.2、BET−比表面積:650m/gであった。ラマン分光測定において単層カーボンナノチューブ由来のRBMが観測さなかったこと及びBET比表面積の値から、多層CNTが主に生成していることを確認した。
【0159】
[結果]
以上の実施例及び比較例から得られたCNTの収量等を表1に示す。実施例1から3で得られたCNTは、収量、G/D比、BET比表面積ともに、比較例1から4と比較して大きく、高品質の単層CNTが得られたことが確認できた。
【0160】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明の製造方法により得られる単層CNT配向集合体は、電子デバイス材料、光学素子材料、導電性材料などの分野に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に単層カーボンナノチューブ配向集合体を生成させるためのカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の製造方法であって、
クロムの不動態被膜を有する基板を、酸素原子を有するガスを含む雰囲気中で加熱して酸化する酸化工程と、
前記基板上に触媒担持層を形成する触媒担持層形成工程と、
前記触媒担持層上に触媒層を形成する触媒層形成工程と、を含む、製造方法。
【請求項2】
前記基板が、Fe−Cr合金又はFe−Cr−Ni合金である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造されるカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の周囲環境を原料ガスを含む環境として、前記カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材及び原料ガスのうち少なくとも一方を加熱して、単層カーボンナノチューブ配向集合体を当該カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材上に成長させる成長工程を含む、単層カーボンナノチューブ配向集合体の製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスを含む環境が触媒賦活物質を含む、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記成長工程の前に、前記カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材の周囲環境を還元ガスを含む環境として、前記カーボンナノチューブ配向集合体生産用基材及び還元ガスのうち少なくとも一方を加熱するフォーメーション工程を含む、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の製造方法により製造されるカーボンナノチューブ配向集合体生産用基材。

【公開番号】特開2013−71088(P2013−71088A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213313(P2011−213313)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】