説明

カーボンナノファイバ及び/またはカーボンナノチューブの製造方法

本発明は、カーボンナノファイバ及び/またはカーボンナノチューブを製造するための方法であって、実質的に酸素がなく、揮発性シリコン化合物含有の雰囲気において、そして、任意的に炭素化合物の存在下で炭化物を形成することのできる元素か、金属または合金のそれぞれの化合物で含浸されている、微粒子セルロースの、及び/または炭水化物の基材を熱分解する段階を備えている方法を対象にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
カーボンナノファイバ(CNF)、カーボンナノチューブ(CNT)、及びそれらを含む複合物(以降、連帯してCNFと参照する)は、それらの高い強度、化学的純度、及び化学的不活性に起因して、ここ数年は注目の増大を獲得しており、これらの特徴は触媒担体としての利用に理想的に適合している。
【背景技術】
【0002】
CNF材料の関連性は、フィッシャー・トロプシュ法及び選択的水素付加のような様々な触媒工程において担体としての適用により明確に想定されてきた。炭素(グラファイト、活性炭)担体触媒の触媒性能は、酸素含有表面基の量、前記担体の可触性、及び炭素秩序化の度合い、のような前記担体の特性の変化により変えられることができる。前記担体の類似の影響は、金属/CNF触媒の性能にある。
【0003】
多くの重要な事前の必要条件は、高バルク密度、高強度、及び高孔率のような良好な触媒担体材料に対して満たされる必要がある。高い担体密度は、反応炉容積のより効果的な利用をもたらし、及びそれ故、低い担体密度より上で経済的に有利である。一方、孔率、すなわち、可触性は、質量移動の制限を避けるために重要である。
【0004】
CNFの性能は、a.o.、シリカ、及びアルミナのような、従来の酸化物担体の性能を上回る。カーボンナノファイバは、化学的に不活性であり、純粋であり、及び機械的に強いので触媒担体材料として適している。前記CNF本体は、ニッケル、コバルト、鉄、ルテニウム、それらの組み合わせ、及び/またはそれらの合金、および同類のものによる金属に基づいた成長触媒にわたって、CO/H、CH、Cのようなガス、またはトルエンおよび同類のもののような他の揮発性化合物を含有する炭素の分解を経て、触媒成長の間に形成される、もつれた個々のカーボンナノファイバからなる。適切な担体は、シリカ、アルミナ、マグネシア、炭素、カーボンファイバ、及び同類のものである。
【0005】
CNFの二つの最も対峙する形態は、フィッシュボーンタイプとパラレルタイプ(いわゆる多層カーボンナノチューブ)である。前記フィッシュボーンタイプのファイバにおいて、炭素平面は中心軸に対してある角度をなして配向されており、そのようにして、炭素のエッジ部分を曝している。パラレルタイプのCNFのように、前記炭素の平面が前記中心軸に対して平行に配向されている場合、黒鉛の基底面だけが曝される。
【0006】
カーボンナノファイバまたはナノチューブからのそのような触媒キャリアを製造することが提案されてきた。特許文献1において、黒鉛層が基本的にフィラメントの軸に平行に配向されている触媒キャリアとして、カーボンナノファイバまたはナノチューブを用いることが提案されている。制御可能な寸法を有する本体として、そのように相対的に長く真っ直ぐな炭素フィラメントの利用は難しい。実際、触媒に対して寸法や孔率は非常に重要である。固定された触媒床において、キャリア本体の寸法は、圧力低下及び前記触媒本体を通した反応物と反応生成物の移送を決定する。液体浮遊触媒の場合、前記反応物及び反応性生物の移送は非常に重要である。前記触媒本体の寸法は、上で述べられたように、本体の移送及び分離、例えば遠心分離のろ過に対して非常に重要である。
【0007】
別の欠点は、カーボンナノファイバまたはナノチューブが、二酸化シリコンまたは酸化アルミニウムのような触媒上に塗布された金属粒子から成長されなければならないことである。これらのキャリアは、液体相反応において得られた炭素キャリアの適用を妨げる。アルカリまたは酸との処理によるシリカまたはアルミナの除去は比較的困難である。
【0008】
特許文献2において、非常に高い密度のCNF材料を製造することが提案されており、かさ密度は少なくとも800kg/mである。これは、ニッケル、コバルト、鉄、及びルテニウム触媒のような金属触媒を生産する担持されたカーボンファイバの表面上にカーボンナノファイバを成長させ、所望のかさ密度が生産できるほどの十分な時間で炭化水素を分解し、そしてその後で任意的に成長結晶の除去により達成される。
【0009】
主として、触媒キャリア材料または触媒としての適用のために十分な長さの成形された本体を生産することが非常に困難であったので、これらのCNF材料は今まで非常に成功的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第93/24214号
【特許文献2】国際公開第2005/103348号
【0011】
【非特許文献1】Bo Hu, Shu-Hong Yu, Kan Wang, Lei Liu and Xue-Wei Xu Dalton Trans. 2008, 5414-5423
【非特許文献2】Bitter, J.H., M.K. van der Lee, A.G.T. Slotboom, A.J. van Dillen and K.P. de Jong, Cat. Lett. 89 (2003) 139-142
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の第一の目的は、触媒の適用に役立つ形態で適切に処理されることのできるCNF/CNT材料を提供することである。さらなる目的は、炭素化合物の外部供給の必要がないいくつかの環境において、相対的に豊富に発生する天然材料から(しばしば非再生可能な供給源から)これらの材料を生産することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明はそれ故、カーボンナノファイバ及び/またはカーボンナノチューブの製造方法であって、実質的に酸素のない揮発性シリコン化合物雰囲気において、そして任意的に炭素化合物の存在で、炭化物を形成することのできる元素、金属または合金のそれぞれの化合物で含浸された微粒子セルロースの、及び/または炭水化物の基材を熱分解させる段階を備えている。
【0014】
実施例において言及されたEM写真において見られるように、驚くべきことに、この工程と共に、非常に関心があり及び適切な形態のCNF材料が得られることがわかった。
【0015】
前記工程は、金属化合物または金属化合物の組み合わせに前記基材を含浸させる段階と、その後に前記含浸された基材を熱分解させる段階と、を備えている。前記金属化合物は、好ましくはこれらの金属化合物の塩、及びより具体的には水溶液の形態にある。前記元素(金属)は炭化物を形成することのできる性質を有している。適切な元素は、ニッケル、コバルト、鉄、及びモリブデンである。好ましくは鉄及びニッケルである。
【0016】
驚くべきことに、大豆ミール、砂糖、ヒドロキシルエチルセルロース、セルロースと誘導体、及び同類のもののような材料を含む、代替としてのセルロース及び/または炭水化物から、球体が生産されることができ、及び同様に熱分解で機械的に強い炭素球を生産することがさらにわかった。大豆ミールは、非常に純な微結晶セルロースと比べてとても安いという事実を考慮すると、これは非常に有利的である。これらの炭素球は、前記球の表面の処理の間に成長するCNF材料の核を形成している。
【0017】
炭素球の生産のための別の適切な開始材料は、砂糖、または砂糖の混合物、及び微結晶セルロースまたは大豆ミールである。好ましい手順によると、例えばフルフラール及び2−ヒドロキシルフルフラールのような砂糖、でんぷん、大豆ミール、(ヘミ)セルロース、及び、上記化合物の無水生成物、のような農業で生産された材料の熱水処理により生産された炭素体から始める。上記化合物の脱水は、好ましくは、参照によりここで述べられている非特許文献1で説明されるように実施される。熱水処理された本体の含浸の後で、本願発明の製造による熱処理が実行される。あるいは、金属化合物の溶液は、熱水処理において採用される水内に混合されることができる。大部分が、あるいは全てが砂糖を備えている球の熱分解の間、砂糖が解ける温度は加熱の間に非常に素早く過ぎ去るので、前記砂糖は溶解工程の進行より前に前記砂糖が分解することに注意を要する。温度が分解温度まで上がる前の前記砂糖の脱水は、同様に効果的であることがわかった。砂糖及び材料を含む他のセルロースの低価格を考慮すると、本願発明は機械的に強い炭素粒子の技術的応用のために非常に重要となる。
【0018】
一般的に、前記セルロースの、または炭水化物の開始材料は、不活性条件の下で熱分解する特性を有し、一般に再利用可能な供給源である有機材料を備え、還元特性を有するガスが得られる。
【0019】
驚くべきことに、このように、カーボンナノファイバ及び/またはナノチューブは、化合物を含む揮発性シリコンの存在で、好ましくは不活性な定常雰囲気の下で外部炭素原子を供給するガスがなくても、セルロース及び/または炭水化物含有の球に含浸された鉄及び/またはニッケルを加熱することにより成長されることができる。前記セルロースの熱分解に関連するガスは、前記カーボンナノチューブの成長のための炭素供給を作り出すことができる。
【0020】
CNFは炭素を含んでいるので、炭素含有ガスはこれらの材料の合成のために必要である。好ましい実施形態において、このガスは、炭素球の熱分解により生み出されるが、代わりの実施形態において、追加のガスが外部供給源から供給されてもよい。
【0021】
CNFの生産において追加の炭素含有ガスは、従来技術で用いられてきたような任意の適切な炭素含有ガスであり得る。CO、CO/H混合物、CH、C、例えば低級アルカン、アルコール、アルキレン、及びアルキンのような他のガス、ベンゼンとトルエンのような芳香族化合物、及び同類のものである。好ましくはメタン、トルエン、またはCO/Hの利用である。高く有害なCOの代わりに、メタノールが採用されることができる。任意的に、前記ガスは、窒素のような不活性ガスで希釈されてもよい。
【0022】
流動床反応器、固定床反応器、ライザー反応器のようなCNFを製造するための適切な反応器で熱分解が起こる。前記反応器内の温度は、前記ファイバの熱分解と製造に適したレベルで保たれる。前記温度は、触媒の性質と、炭素含有ガスの性質に依存している。前記温度の一般的な下限は400℃である。メタン及びCO/Hのようなガスに対して、前記温度は一般的に400℃と925℃の間である。前記温度の一般的な上限は1250℃である。
【0023】
CNF複合材料が製造された後で、それらは、ポリマー添加物、水素貯蔵、マイクロエレクトロニクス、均質な触媒または酵素の固着、より詳細には触媒担体のような様々な応用のために利用されてもよい。セパレート担体触媒が利用されていないので、従来工程に対して、前記(一般的に酸化物)担体を除去する必要がない。本願発明によると、鉄またはニッケルの担体材料は同様に熱分解され、及び炭素に転換される。
【0024】
CNFの製造の後で、酸化されたCNFを生産するために、例えば金属を除去し、及び/またはさらに前記CNFの表面上に酸素含有基を導入することによりそれらを修飾することが可能である。これらの処理は、最新技術に従って、HCL及び/または(変化する割合での)HSO/HNOの利用、またはガス状の酸化種での酸化を含んでいる。
【0025】
本発明は同様に、触媒または触媒担体としてCNF材料の利用に向けられる。前記混合物は、任意的に酸化により表面修飾を受けた炭素によって触媒作用される反応として利用される。しかしながら、それは前記CNFの表面上に適切な触媒活性材料を適用することが好ましい。適切な触媒活性材料は、ニッケル、銅、タングステン、鉄、マンガン、亜鉛、バナジウム、クロム、モリブデン、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、及びそれらと同類のもの、及びそれらの組み合わせのような金属または酸化物ベースの金属でありうる。白金、パラジウム、金、または銀、及びそれらの組み合わせに基づくような貴金属触媒のための担体としてCNFを用いることも可能である。前記CNFの表面上に有機金属または金属ホスフィン触媒を固着することも同様に可能である。
【0026】
前記担体としてのCNFを有する触媒を準備するとき、酸化CNFを用いることが好ましく、これは前記CNFにわたった活性前駆体の分散を改善し、及びそのようにして最終触媒、より具体的にはニッケル触媒の焼結に対する安定性を引上げる。
【0027】
前記触媒材料は、含浸または一様沈着沈殿のような従来の方法でCNF担体に適用されることができる。金属に対して、非特許文献2の『一様沈着沈殿によるカーボンナノファイバ上での高濃度高分散ニッケルの合成』において述べられたような一様沈着沈殿を用いることが好ましい。
【0028】
CNF担体触媒が利用されうる液体及び気相の両方における適切な反応は、フィッシャー・トロプシュ法、水素化反応、脱水素化反応、水素−脱硫化のような水素処理、メタン生成反応、低温酸化反応、及びそれらと同類のものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、実施例1における最終材料のEM写真を示している。
【図2】図2は、図1の拡大図である
【図3】図3は、実施例2における最終材料のEM写真を示している。
【図4】図2は、図3の拡大図である
【発明を実施するための形態】
【0030】
実施例1
MCC球が、水中のクエン酸アンモニウム鉄の溶液で含浸されてぬらされた。次に、前記MCC球は真空下で乾燥された。前記含浸されたMCC球は、シリコーン・ゴム接着層を用いて鉄メッシュに塗布された。前記鉄メッシュはそれ故、希釈されたシリコーン・ゴム溶液で被覆された。前記シリコーン・ゴムが凝固される前に、前記含浸されたMCC球は、前記シリコーン・ゴム接着層に接着した。次に、前記含浸された球を有する前記メッシュは、不活性な定常窒素雰囲気に運ばれ、最大800℃まで加熱された。これは前記炭素球の表面上に短く真っ直ぐなカーボンナノチューブの高密度層の成長をもたらす。図1において、最終材料のEM写真が示されている。図2は図1の拡大図である。
【0031】
実施例2
MCC球が、水中の硝酸ニッケルの溶液で含浸されてぬらされた。次に、前記MCC球は真空下で乾燥された。前記ニッケル含浸球は流動床において不活性窒素雰囲気(流)内で最大800℃まで加熱された。小さな基本ニッケル粒子を有する熱分解された炭素球が500℃まで下がって冷却された。次に、前記ガス組成物は、90体積%のN及び10体積%のHに変えられた。飽和器を用いてトルエンが2時間計量して供給された。これは、前記炭素球の表面上にフィッシュボーン構造のカーボンナノファイバの成長をもたらした。図3において、最終材料のEM写真が示されている。図4は図3の拡大図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバ及び/またはカーボンナノチューブを製造するための方法であって、実質的に酸素がなく、揮発性シリコン化合物含有の雰囲気において、そして、任意的に炭素化合物の存在下で炭化物を形成することのできる元素、金属または合金のそれぞれの化合物で含浸された、微粒子セルロースの、及び/または炭水化物の基材を熱分解する段階を備えている方法。
【請求項2】
前記基材は、微結晶セルロース、砂糖、または砂糖及び微結晶セルロースまたは大豆ミールの混合物、から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材は、フルフラール及び2‐ヒドロキシフルフラールのような、砂糖、でんぷん、大豆ミール、(ヘミ)セルロース、及び上記化合物の乾燥製品、のような農業製品の熱水処理により生産されている請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材は、ニッケル、コバルト、鉄及び/またはモリブデン、好ましくは水溶性ニッケル及び/または鉄塩の化合物で含浸され、その後に乾燥及び/または熱分解が続く請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記基材は、シリコン・ゴム化合物の存在下で熱分解される請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記シリコン化合物はアルキルシロキサン、好ましくはガス状のシロキサンの三量体である請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記シロキサン化合物は、ジメチルシロキサンの三量体である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記熱分解は、500℃と1000℃の間の温度で、好ましくは5分と5時間の間の時間である請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記空気は、実質的に炭素化合物が無い請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記空気はさらに、トルエン、CO、CO/H混合物、CH、C、及び低級アルカン、アルキレン、アルコール、アルキン、ベンゼンとトルエンのような芳香族化合物のような他の気体、及び同類のものから選択された少なくとも一つの炭素化合物をさらに含んでいる請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法により得られることのできるカーボンナノチューブ及び/またはナノファイバが提供される炭素粒子。
【請求項12】
担体材料及び少なくとも一つ触媒活性材料または前駆体を備えており、それ故、前記担体材料は、請求項11に記載のカーボンナノチューブ及び/またはナノファイバが提供される炭素粒子である触媒または触媒前駆体。
【請求項13】
前記触媒活性材料は、貴金属、ロジウム、ニッケル、鉄、銅、またはそれらの組み合わせの群から選択された請求項12に記載の触媒。
【請求項14】
担体触媒の存在下で少なくとも一つの化学反応を実行するための方法であって、前記担体触媒は請求項12または13に記載の触媒を備えている方法。
【請求項15】
前記化学反応は、フィッシャー・トロプシュ反応、水素化反応、脱水素化反応、メタン化反応、低温酸化反応の群から選択される請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−519241(P2012−519241A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551998(P2011−551998)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【国際出願番号】PCT/NL2010/050100
【国際公開番号】WO2010/098669
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(500586141)ビーエーエスエフ コーポレーション (12)
【Fターム(参考)】