カーボンナノ複合金属材料の製造方法
【課題】カーボンナノ材料を、良好に溶融Alに添加することができる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】カーボンナノ材料13をSi37で囲い、このSi37をMg材料38で囲い、このMg材料38をAl材料42で囲う。カーボンナノ材料とSiは相性がよく、SiとMgとは相性がよい。そして、MgとAlとは相性がよい。カーボンナノ材料13を母材であるAl材料42に強く結合させることができる。
【効果】Al材料とは濡れ性が良くないカーボンナノ材料を、Si、Mgを仲介させることで、Al材料に強く結合させることができる。
【解決手段】カーボンナノ材料13をSi37で囲い、このSi37をMg材料38で囲い、このMg材料38をAl材料42で囲う。カーボンナノ材料とSiは相性がよく、SiとMgとは相性がよい。そして、MgとAlとは相性がよい。カーボンナノ材料13を母材であるAl材料42に強く結合させることができる。
【効果】Al材料とは濡れ性が良くないカーボンナノ材料を、Si、Mgを仲介させることで、Al材料に強く結合させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ材料を強化材料とし、Alを母材とした複合金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズのカーボン材料である、カーボンナノ材料は、有望な強化材料であり、MgやAlに添加することで、カーボンナノ複合金属材料を製造することができる。ただし、カーボンナノ材料は、ナノサイズであるため、凝集しやすい。そこで、Mgなどの母材金属に均等に分散させる製造方法が各種提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−44970公報(請求項1、図4、図5)
【0003】
特許文献1は、カーボンナノ材料を直接溶融Mgに添加する製造方法とは異なる。すなわち、カーボンナノ材料の表面に真空蒸着法でSi微粒子を蒸着させる。Si付着カーボンナノ材料を溶融Mgに添加する。Siがアンカー作用を発揮してカーボンナノ材料とMgとの結合を促す。Si付着カーボンナノ材料が、カーボンナノ材料より優れていることは、濡れ性の大小で評価することができる。濡れ性が大きいほど材料同士が密着し、結合性が高まるからである。
【0004】
図11はカーボンナノ複合金属材料の濡れ性評価の原理図である。
濡れ角は、角度θ1又はθ2が、小さいときには(a)のように測定し、大きいときには(b)のように測定する。
(a)では鋼(例えばSKD61)製の基材101にSi付着カーボンナノ材料102を放電プラズマ焼結法により密着接合し、基材101の中心に小孔を開け、表面を研磨した。そして、真空チャンバー103内を真空ポンプ104で真空引きし、次に、アルゴンガス供給管105からアルゴンガスを供給して、真空チャンバー103内を非酸化性雰囲気にする。また、真空チャンバー103内を溶融Mg(700℃)と同じ温度にする。次に、シリンダ106を用いて溶融Mg107を押し上げる。溶融Mg107はSi付着カーボンナノ材料102上で拡がり、ドーム状になった。このときの濡れ角をθ1とする。
【0005】
(b)では、基材101に、普通のカーボンナノ材料108を載せた。その他は、(a)と同様であり、溶融Mg107はほぼ球になった。このときの濡れ角をθ2とする。
【0006】
図12は濡れ性を比較したグラフであり、Si付着カーボンナノ材料(対)溶融Mgでは、濡れ角θ1が42°と濡れ性が良好であった。普通のカーボンナノ材料(対)溶融Mgでは、濡れ角θ2が157°と濡れ性が悪かった。したがって、カーボンナノ材料に予めSi微粒子を真空蒸着させることは、有効である。
【0007】
ところで、本発明者らは、溶融Mgを溶融Alに代えて、Si付着カーボンナノ材料(対)溶融Alで実験を試みた。すると、図の右端に示すように、揺れ角が154°であった。これでは、カーボンナノ材料に予めSi微粒子を真空蒸着させることに格別の意味はない。すなわち、Si付着カーボンナノ材料を、単に溶融Alに添加することはできないことが判明し、その対策が必要となった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カーボンナノ材料を、良好に溶融Alに添加することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料に、粉末状Mg材料又は液状Mg材料を混合し、粉末状Mg材料の場合はMg材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間保持した後に冷却してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料をAl溶湯に投入し、混合し、一定時間後に冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法である。
【0010】
請求項2に係る発明は、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料を、Mg材料の溶湯に投入し、混合してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料に、固体Al材料を混合し、Al材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間後に冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法である。
【0011】
請求項3に係る発明は、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料を、液状Mg材料に混合し、一定時間保持した後に冷却してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料を破砕して粉末にする工程と、
得られた粉末状Mg−カーボンナノ材料に、母材としての粉末状Al材料を混合する工程と、
得られた混合物を押し固めることで予備成形する工程と、
得られた予備成形体を、真空、不活性ガス若しくは非酸化性ガス雰囲気中で、前記Al材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間保持する加熱工程と、
予備成形体を、冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る冷却工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法である。
【0012】
請求項4に係る発明は、加熱工程と冷却工程との間に、Al材料の熱間加工が可能な温度まで冷却し、この温度で所定時間加圧して圧密化を図る圧密化工程を、介在させることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、冷却工程で、圧密体を加圧しながら冷却することを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明では、準備するSi付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料とSi微粒子とを混合して混合体を得る混合体形成工程と、得られた混合体を真空炉に入れ、高温真空下でSi微粒子を蒸発させ、カーボンナノ材料の表面に付着させることで得る真空蒸着工程と、から製造することを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明は、混合体形成工程では、混合用容器に、有機溶媒とSi微粒子とカーボンナノ材料とを入れて撹拌し、乾燥させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、カーボンナノ材料をSi微粒子で被覆し、このSi微粒子をMg材料で囲い、このMg材料をAlで囲うようにした。カーボンナノ材料とSiは相性がよく、SiとMgとは相性がよい。そして、MgとAlとは相性がよい。しがたって、カーボンナノ材料を母材であるAlに強く結合させることができる。
【0017】
請求項2に係る発明でも、カーボンナノ材料をSi微粒子で被覆し、このSi微粒子をMg材料で囲い、このMg材料をAlで囲うようにし、カーボンナノ材料を母材であるAlに強く結合させることができる。
Mg−カーボンナノ材料を得る工程では、冷却させない。そのため、熱エネルギーの損失を押さえることができる。
【0018】
請求項3に係る発明でも、カーボンナノ材料をSi微粒子で被覆し、このSi微粒子をMg材料で囲い、このMg材料をAlで囲うようにし、カーボンナノ材料を母材であるAlに強く結合させることができる。
この発明では、粉末冶金の手法が用いられる。粉末冶金であるから、予備成形体は製品形状に倣った形状にすることができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、加熱工程と冷却工程との間に、Al材料の熱間加工が可能な温度まで冷却し、この温度で所定時間加圧して圧密化を図る圧密化工程を、介在させる。
熱間加工が可能な温度まで下げて圧密化処理を実施すると、カーボンナノ材料とAl材料とがSi微粒子を介して密に結合するため、複合金属材料の強度を大いに高めることができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、冷却工程で、圧密体を加圧しながら冷却する。冷却時に冷却速度の差異によりカーボンナノ複合金属材料に歪みが発生する。本発明では加圧することで、歪みの発生を抑えるようにした。この結果、形状の良好なカーボンナノ複合金属材料を得ることができる。
【0021】
請求項6に係る発明では、準備するSi付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料とSi微粒子とを混合して混合体を得る混合体形成工程と、得られた混合体を真空炉に入れ、高温真空下でSi微粒子を蒸発させ、カーボンナノ材料の表面に付着させることで得る真空蒸着工程と、から製造する。
真空蒸着工程でSi微粒子を蒸発させ、この蒸発に伴う撹拌作用で混合体を撹拌する。撹拌によりカーボンナノ材料とSi蒸気との接触を促す。したがって、Si微粒子をカーボンナノ材料の表面に均等に分散させることができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、混合体形成工程で、混合用容器に、有機溶媒とSi微粒子とカーボンナノ材料とを入れて撹拌し、乾燥させる。有機溶媒でカーボンナノ材料の凝集を阻止することができる。分散状態のカーボンナノ材料にSi微粒子を被せることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る混合体形成工程と真空蒸着工程を説明する図である。
(a):混合用容器10に、有機溶媒(例えば1リットルのエタノール)11を入れる。この有機溶媒11へ、Si微粒子(例えば10g)12とカーボンナノ材料(例えば10g)13とを入れる。そして、攪拌機14にて、十分に撹拌する(例えば、毎分750回転で2時間)。撹拌が終了したら、吸引濾過し、高温(例えば100℃)の空気中で十分に乾燥させる(例えば3時間)ことで、(b)に示される混合体15を得る。(a)〜(b)が混合体形成工程である。
【0024】
(c):得られた混合体15を、ジルコニウム製容器16に入れ、ジルコニウム製蓋17を被せる。この蓋17は非密閉蓋を採用することで、容器16の内部と外部との通気を可能にする。
【0025】
(d):密閉炉体21と、炉体21内部を加熱する加熱手段22と、容器16を載せる台23、23と、炉体21内部を真空にする真空ポンプ24とを備える真空炉20を準備し、この真空炉20に容器16を入れる。
【0026】
真空炉20では、真空中で例えば1200℃で20時間の加熱を実施する。真空下で加熱することで、混合体15中のSi粉末が蒸発する。蒸発したSiがカーボンナノ材料の表面に接触し、化合物を形成し、Siの微粒子となって付着する。(c)〜(d)が真空蒸着工程である。
得られたSi付着カーボンナノ材料の構造は次図で説明する。
【0027】
図2はSi付着カーボンナノ材料の模式図、図3は図2の3−3線断面図であり、Si付着カーボンナノ材料30は、カーボンナノ材料13の表面全体が、Si微粒子の層31で被覆されている。
【0028】
カーボンナノ材料13表面にSi微粒子を付着させると、界面に例えばSiCの反応層が形成し、カーボンナノ材料13にSi微粒子の層31を強固に付着させることができる。したがって、Si微粒子の層31がカーボンナノ材料13から脱落する心配はない。さらには、Si微粒子の層31は、カーボンナノ材料13に比較してマトリックス金属との濡れ性が格段に良い。
【0029】
図3で示したSi付着カーボンナノ材料30を、出発材料として実施するカーボンナノ複合金属材料の製造方法を以下に説明する。
図4は本発明に係るカーボンナノ複合金属材料の第1の製造方法を説明する図である。
(a)に示すように、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料30を準備する(図3)。そして、混合用容器32にSi付着カーボンナノ材料30と粉末状Mg材料33とを入れて十分に混合する。そして、HP(ホットプレス)やHIPを用いて、混合物を溶融温度(約650℃)以上に一定時間保持した後に冷却して、(b)に示すMg−カーボンナノ材料のインゴット34を得る。
【0030】
又は、(c)に示すように、高温容器35にMg材料の溶湯36を満たし、この溶湯36にSi付着カーボンナノ材料30を入れて十分に混合する。そして、一定時間保持した後に冷却して、(b)に示すMg−カーボンナノ材料のインゴット34を得る。
【0031】
図5は図4(b)の5部拡大図であり、インゴット34は、カーボンナノ材料13をSi37で囲い、このSi34をMg材料38が囲ったような組織となる。
【0032】
図4に戻って、(d)に示すように、高温容器39に、Al材料の溶湯40を満たし、この溶湯40にインゴット34を直接又は破砕して、投入する。そして、混合し、一定時間後に冷却して、(e)に示す、Alを母材としたカーボンナノ複合金属材料41を得る。
【0033】
図6は図4(e)の6部拡大図であり、カーボンナノ複合金属材料41は、カーボンナノ材料13をSi37で囲い、このSi37をMg材料38で囲い、このMg材料38をAl材料42が囲ったような組織となる。
カーボンナノ材料とSiは相性がよく、SiとMgとは相性がよい。そして、MgとAlとは相性がよい。しがたって、カーボンナノ材料13を母材であるAl材料42に強く結合させることができる。
【0034】
図7は本発明に係るカーボンナノ複合金属材料の第2の製造方法を説明する図である。
(a)に示すように、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料30を準備する。そして、(b)に示すように、高温容器35にMg材料の溶湯36を満たし、この溶湯36にSi付着カーボンナノ材料30を入れて十分に混合する。これで、Mg−カーボンナノ材料の溶湯を得ることができる。
【0035】
(c)に示すように、Mg−カーボンナノ材料の溶湯43に、固体Al材料44(粉末又は塊)を投入する。そして、(d)に示すように、高温容器35をAl材料の溶融温度(約660℃)以上に上げ、撹拌する。次に、一定時間後に冷却して、(e)に示す、Alを母材としたカーボンナノ複合金属材料41を得る。このカーボンナノ複合金属材料41の組成は、図6に示したとおりである。
【0036】
図7の製造方法は、(b)に示すMg−カーボンナノ材料を得る工程で、Mg−カーボンナノ材料43を冷却させる必要がない。そのため、熱エネルギーの損失を押さえることができる。
【0037】
図8は本発明の第3の製造方法における準備工程〜予備成形工程を説明する図である。
(a)に示すように、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料30を準備する(図3)。そして、混合用容器22にSi付着カーボンナノ材料30と粉末状Mg材料33とを入れて十分に混合する。そして、HP(ホットプレス)やHIPを用いて、混合物を溶融温度以上に一定時間保持した後に冷却して、(b)に示すMg−カーボンナノ材料のインゴット34を得る。
【0038】
(c)において、インゴット34を粉砕して、Mg−カーボンナノ材料の粉末45を得る。
(d)に示すように、混合用容器46にMg−カーボンナノ材料の粉末45と、粉末状の固体Al材料44とを入れて十分に混合する。
(e)において、ベース47にダイ48載せる。このダイ48に、(d)で得た混合物49を詰める。次に、パンチ51を進入させて、混合物35を押し固める。押し固めたものは予備成形体52になる。
【0039】
そして、本発明の加熱工程、圧密化工程及び冷却工程を実施するために、次図に示すような処理装置60を準備する。
【0040】
図9は本発明の第3の製造方法における加熱工程〜冷却工程を説明する図である。
処理装置60は、予備成形体52を支える下パンチ61と、この下パンチ61に対向して配置され予備成形体52を抑える又は加圧力P1で圧縮(加圧)することができる上パンチ62と、予備成形体52を囲うヒータ63と、このヒータ63や予備成形体52などを一括して囲うチャンバー64と、このチャンバー64に接続されチャンバー64内部を真空状態にする真空排気装置65及びチャンバー64内部へ不活性ガスとしてのアルゴンを吹込む不活性ガス吹込み装置66とで構成される。この処理装置60は次図の制御曲線により制御される。
【0041】
図10は本発明に係る加熱工程、圧密化工程及び冷却工程を説明するグラフであり、横軸が時間で、左縦軸が温度で、右縦軸が加圧力P1であるグラフに、温度曲線と加圧力曲線が示され、上部に、加熱工程、圧密化工程及び冷却工程が示されている。
【0042】
加熱工程では、チャンバー内を真空状態にし、真空のまま又は次にアルゴンなどの不活性ガス若しくは窒素などの非酸化性ガスを封入する。次に、所定の加熱(昇温)速度で予備成形体を、700℃まで加熱し、700℃に達したときから10分間保持することで加熱処理体67(図9)を得る。
【0043】
Mgの融点が650℃であるため、700℃まで加熱するとマトリックス金属素材が溶けて微粒子付着カーボン材料に浸透する。10分間保持することで十分に浸透させることができる。
【0044】
図9のヒータ63の設定温度を下げることで、加熱処理体67を、マトリックス金属素材の熱間加工が可能な温度まで冷却する。Mgの融点が650℃であるため、70℃程度低い580℃まで下げれば、表層が十分に凝固し、圧縮しても液相が漏れる心配はなくなる。
【0045】
580℃に達したら、上パンチ62を下げて加熱処理体67に40MPaの加圧を付与する。加圧しながら580℃で10分間保持する。この保持中において、上パンチ62は僅かずつ下がる。この下降は5〜7分間続き、その後は下降しない。上パンチ62が下降している間は組織内に僅かな隙間が存在し、この隙間が圧密化されていることを意味する。上パンチ62の下降動作が止まったら、十分に緻密になったと判断することができる。得られた圧密体68は十分に圧密化されたことになる。
【0046】
この圧密化は、マトリックス金属素材の熱間加工可能な温度であれば実施できるが、圧密化に必要な加圧力は温度に依存し、温度が高いほど小さな加圧力で圧密化を行うことができ、あまり強度の高くないカーボン型などでも圧密化を容易に行うことができるため、できる限り高い温度領域で実施することが好ましい。
また、熱間加工可能な温度未満の低温度では、加工性が悪くなり、特にマトリックス金属素材MgやMg合金では、割れやひび等が発生し易いため、圧密化が困難になる。
また、熱間加工可能な温度を超えた高温度では、液相状態になり、加圧により液相の漏れが発生して、加圧力が上手く作用しなくなり、圧密化が困難になる。
【0047】
得られた圧密体68は、上パンチ62で抑えたままで常温まで冷却することで、カーボンナノ複合金属材料69を得ることができる。圧密体68は表面の温度が先に下がり、中心部の温度が遅れて下がるため、温度差により冷却歪みと称する歪みが発生することがある。上パンチ62で抑え続けることで冷却歪みの発生を抑えることができる。しかし、冷却歪みが心配ないときには、加圧力なしで(圧密体68を上パンチ62で抑えないで)冷却することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、カーボンナノ材料を強化材料とし、Alを母材とした複合金属材料の製造方法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る混合体形成工程と真空蒸着工程を説明する図である。
【図2】Si付着カーボンナノ材料の模式図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】本発明に係るカーボンナノ複合金属材料の第1の製造方法を説明する図である。
【図5】図4(b)の5部拡大図である。
【図6】図4(e)の6部拡大図である。
【図7】本発明に係るカーボンナノ複合金属材料の第2の製造方法を説明する図である。
【図8】本発明の第3の製造方法における準備工程〜予備成形工程を説明する図である。
【図9】本発明の第3の製造方法における加熱工程〜冷却工程を説明する図である。
【図10】本発明に係る加熱工程、圧密化工程及び冷却工程を説明するグラフである。
【図11】カーボンナノ複合金属材料の濡れ性評価の原理図である。
【図12】濡れ性を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10…混合用容器、11…有機溶媒、12…Si微粒子、13…カーボンナノ材料、20…真空炉、30…Si付着カーボンナノ材料、33…粉末状Mg材料、34…Mg−カーボンナノ材料(インゴット)、36…Mg−カーボンナノ材料の溶湯、40…Al材料の溶湯、41、69…カーボンナノ複合金属材、43…Mg−カーボンナノ材料の溶湯、44…固体Al材料、45…Mg−カーボンナノ材料の粉末、52…予備成形体、68…圧密体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノ材料を強化材料とし、Alを母材とした複合金属材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズのカーボン材料である、カーボンナノ材料は、有望な強化材料であり、MgやAlに添加することで、カーボンナノ複合金属材料を製造することができる。ただし、カーボンナノ材料は、ナノサイズであるため、凝集しやすい。そこで、Mgなどの母材金属に均等に分散させる製造方法が各種提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−44970公報(請求項1、図4、図5)
【0003】
特許文献1は、カーボンナノ材料を直接溶融Mgに添加する製造方法とは異なる。すなわち、カーボンナノ材料の表面に真空蒸着法でSi微粒子を蒸着させる。Si付着カーボンナノ材料を溶融Mgに添加する。Siがアンカー作用を発揮してカーボンナノ材料とMgとの結合を促す。Si付着カーボンナノ材料が、カーボンナノ材料より優れていることは、濡れ性の大小で評価することができる。濡れ性が大きいほど材料同士が密着し、結合性が高まるからである。
【0004】
図11はカーボンナノ複合金属材料の濡れ性評価の原理図である。
濡れ角は、角度θ1又はθ2が、小さいときには(a)のように測定し、大きいときには(b)のように測定する。
(a)では鋼(例えばSKD61)製の基材101にSi付着カーボンナノ材料102を放電プラズマ焼結法により密着接合し、基材101の中心に小孔を開け、表面を研磨した。そして、真空チャンバー103内を真空ポンプ104で真空引きし、次に、アルゴンガス供給管105からアルゴンガスを供給して、真空チャンバー103内を非酸化性雰囲気にする。また、真空チャンバー103内を溶融Mg(700℃)と同じ温度にする。次に、シリンダ106を用いて溶融Mg107を押し上げる。溶融Mg107はSi付着カーボンナノ材料102上で拡がり、ドーム状になった。このときの濡れ角をθ1とする。
【0005】
(b)では、基材101に、普通のカーボンナノ材料108を載せた。その他は、(a)と同様であり、溶融Mg107はほぼ球になった。このときの濡れ角をθ2とする。
【0006】
図12は濡れ性を比較したグラフであり、Si付着カーボンナノ材料(対)溶融Mgでは、濡れ角θ1が42°と濡れ性が良好であった。普通のカーボンナノ材料(対)溶融Mgでは、濡れ角θ2が157°と濡れ性が悪かった。したがって、カーボンナノ材料に予めSi微粒子を真空蒸着させることは、有効である。
【0007】
ところで、本発明者らは、溶融Mgを溶融Alに代えて、Si付着カーボンナノ材料(対)溶融Alで実験を試みた。すると、図の右端に示すように、揺れ角が154°であった。これでは、カーボンナノ材料に予めSi微粒子を真空蒸着させることに格別の意味はない。すなわち、Si付着カーボンナノ材料を、単に溶融Alに添加することはできないことが判明し、その対策が必要となった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カーボンナノ材料を、良好に溶融Alに添加することができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料に、粉末状Mg材料又は液状Mg材料を混合し、粉末状Mg材料の場合はMg材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間保持した後に冷却してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料をAl溶湯に投入し、混合し、一定時間後に冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法である。
【0010】
請求項2に係る発明は、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料を、Mg材料の溶湯に投入し、混合してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料に、固体Al材料を混合し、Al材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間後に冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法である。
【0011】
請求項3に係る発明は、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料を、液状Mg材料に混合し、一定時間保持した後に冷却してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料を破砕して粉末にする工程と、
得られた粉末状Mg−カーボンナノ材料に、母材としての粉末状Al材料を混合する工程と、
得られた混合物を押し固めることで予備成形する工程と、
得られた予備成形体を、真空、不活性ガス若しくは非酸化性ガス雰囲気中で、前記Al材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間保持する加熱工程と、
予備成形体を、冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る冷却工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法である。
【0012】
請求項4に係る発明は、加熱工程と冷却工程との間に、Al材料の熱間加工が可能な温度まで冷却し、この温度で所定時間加圧して圧密化を図る圧密化工程を、介在させることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、冷却工程で、圧密体を加圧しながら冷却することを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明では、準備するSi付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料とSi微粒子とを混合して混合体を得る混合体形成工程と、得られた混合体を真空炉に入れ、高温真空下でSi微粒子を蒸発させ、カーボンナノ材料の表面に付着させることで得る真空蒸着工程と、から製造することを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明は、混合体形成工程では、混合用容器に、有機溶媒とSi微粒子とカーボンナノ材料とを入れて撹拌し、乾燥させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、カーボンナノ材料をSi微粒子で被覆し、このSi微粒子をMg材料で囲い、このMg材料をAlで囲うようにした。カーボンナノ材料とSiは相性がよく、SiとMgとは相性がよい。そして、MgとAlとは相性がよい。しがたって、カーボンナノ材料を母材であるAlに強く結合させることができる。
【0017】
請求項2に係る発明でも、カーボンナノ材料をSi微粒子で被覆し、このSi微粒子をMg材料で囲い、このMg材料をAlで囲うようにし、カーボンナノ材料を母材であるAlに強く結合させることができる。
Mg−カーボンナノ材料を得る工程では、冷却させない。そのため、熱エネルギーの損失を押さえることができる。
【0018】
請求項3に係る発明でも、カーボンナノ材料をSi微粒子で被覆し、このSi微粒子をMg材料で囲い、このMg材料をAlで囲うようにし、カーボンナノ材料を母材であるAlに強く結合させることができる。
この発明では、粉末冶金の手法が用いられる。粉末冶金であるから、予備成形体は製品形状に倣った形状にすることができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、加熱工程と冷却工程との間に、Al材料の熱間加工が可能な温度まで冷却し、この温度で所定時間加圧して圧密化を図る圧密化工程を、介在させる。
熱間加工が可能な温度まで下げて圧密化処理を実施すると、カーボンナノ材料とAl材料とがSi微粒子を介して密に結合するため、複合金属材料の強度を大いに高めることができる。
【0020】
請求項5に係る発明は、冷却工程で、圧密体を加圧しながら冷却する。冷却時に冷却速度の差異によりカーボンナノ複合金属材料に歪みが発生する。本発明では加圧することで、歪みの発生を抑えるようにした。この結果、形状の良好なカーボンナノ複合金属材料を得ることができる。
【0021】
請求項6に係る発明では、準備するSi付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料とSi微粒子とを混合して混合体を得る混合体形成工程と、得られた混合体を真空炉に入れ、高温真空下でSi微粒子を蒸発させ、カーボンナノ材料の表面に付着させることで得る真空蒸着工程と、から製造する。
真空蒸着工程でSi微粒子を蒸発させ、この蒸発に伴う撹拌作用で混合体を撹拌する。撹拌によりカーボンナノ材料とSi蒸気との接触を促す。したがって、Si微粒子をカーボンナノ材料の表面に均等に分散させることができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、混合体形成工程で、混合用容器に、有機溶媒とSi微粒子とカーボンナノ材料とを入れて撹拌し、乾燥させる。有機溶媒でカーボンナノ材料の凝集を阻止することができる。分散状態のカーボンナノ材料にSi微粒子を被せることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係る混合体形成工程と真空蒸着工程を説明する図である。
(a):混合用容器10に、有機溶媒(例えば1リットルのエタノール)11を入れる。この有機溶媒11へ、Si微粒子(例えば10g)12とカーボンナノ材料(例えば10g)13とを入れる。そして、攪拌機14にて、十分に撹拌する(例えば、毎分750回転で2時間)。撹拌が終了したら、吸引濾過し、高温(例えば100℃)の空気中で十分に乾燥させる(例えば3時間)ことで、(b)に示される混合体15を得る。(a)〜(b)が混合体形成工程である。
【0024】
(c):得られた混合体15を、ジルコニウム製容器16に入れ、ジルコニウム製蓋17を被せる。この蓋17は非密閉蓋を採用することで、容器16の内部と外部との通気を可能にする。
【0025】
(d):密閉炉体21と、炉体21内部を加熱する加熱手段22と、容器16を載せる台23、23と、炉体21内部を真空にする真空ポンプ24とを備える真空炉20を準備し、この真空炉20に容器16を入れる。
【0026】
真空炉20では、真空中で例えば1200℃で20時間の加熱を実施する。真空下で加熱することで、混合体15中のSi粉末が蒸発する。蒸発したSiがカーボンナノ材料の表面に接触し、化合物を形成し、Siの微粒子となって付着する。(c)〜(d)が真空蒸着工程である。
得られたSi付着カーボンナノ材料の構造は次図で説明する。
【0027】
図2はSi付着カーボンナノ材料の模式図、図3は図2の3−3線断面図であり、Si付着カーボンナノ材料30は、カーボンナノ材料13の表面全体が、Si微粒子の層31で被覆されている。
【0028】
カーボンナノ材料13表面にSi微粒子を付着させると、界面に例えばSiCの反応層が形成し、カーボンナノ材料13にSi微粒子の層31を強固に付着させることができる。したがって、Si微粒子の層31がカーボンナノ材料13から脱落する心配はない。さらには、Si微粒子の層31は、カーボンナノ材料13に比較してマトリックス金属との濡れ性が格段に良い。
【0029】
図3で示したSi付着カーボンナノ材料30を、出発材料として実施するカーボンナノ複合金属材料の製造方法を以下に説明する。
図4は本発明に係るカーボンナノ複合金属材料の第1の製造方法を説明する図である。
(a)に示すように、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料30を準備する(図3)。そして、混合用容器32にSi付着カーボンナノ材料30と粉末状Mg材料33とを入れて十分に混合する。そして、HP(ホットプレス)やHIPを用いて、混合物を溶融温度(約650℃)以上に一定時間保持した後に冷却して、(b)に示すMg−カーボンナノ材料のインゴット34を得る。
【0030】
又は、(c)に示すように、高温容器35にMg材料の溶湯36を満たし、この溶湯36にSi付着カーボンナノ材料30を入れて十分に混合する。そして、一定時間保持した後に冷却して、(b)に示すMg−カーボンナノ材料のインゴット34を得る。
【0031】
図5は図4(b)の5部拡大図であり、インゴット34は、カーボンナノ材料13をSi37で囲い、このSi34をMg材料38が囲ったような組織となる。
【0032】
図4に戻って、(d)に示すように、高温容器39に、Al材料の溶湯40を満たし、この溶湯40にインゴット34を直接又は破砕して、投入する。そして、混合し、一定時間後に冷却して、(e)に示す、Alを母材としたカーボンナノ複合金属材料41を得る。
【0033】
図6は図4(e)の6部拡大図であり、カーボンナノ複合金属材料41は、カーボンナノ材料13をSi37で囲い、このSi37をMg材料38で囲い、このMg材料38をAl材料42が囲ったような組織となる。
カーボンナノ材料とSiは相性がよく、SiとMgとは相性がよい。そして、MgとAlとは相性がよい。しがたって、カーボンナノ材料13を母材であるAl材料42に強く結合させることができる。
【0034】
図7は本発明に係るカーボンナノ複合金属材料の第2の製造方法を説明する図である。
(a)に示すように、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料30を準備する。そして、(b)に示すように、高温容器35にMg材料の溶湯36を満たし、この溶湯36にSi付着カーボンナノ材料30を入れて十分に混合する。これで、Mg−カーボンナノ材料の溶湯を得ることができる。
【0035】
(c)に示すように、Mg−カーボンナノ材料の溶湯43に、固体Al材料44(粉末又は塊)を投入する。そして、(d)に示すように、高温容器35をAl材料の溶融温度(約660℃)以上に上げ、撹拌する。次に、一定時間後に冷却して、(e)に示す、Alを母材としたカーボンナノ複合金属材料41を得る。このカーボンナノ複合金属材料41の組成は、図6に示したとおりである。
【0036】
図7の製造方法は、(b)に示すMg−カーボンナノ材料を得る工程で、Mg−カーボンナノ材料43を冷却させる必要がない。そのため、熱エネルギーの損失を押さえることができる。
【0037】
図8は本発明の第3の製造方法における準備工程〜予備成形工程を説明する図である。
(a)に示すように、Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料30を準備する(図3)。そして、混合用容器22にSi付着カーボンナノ材料30と粉末状Mg材料33とを入れて十分に混合する。そして、HP(ホットプレス)やHIPを用いて、混合物を溶融温度以上に一定時間保持した後に冷却して、(b)に示すMg−カーボンナノ材料のインゴット34を得る。
【0038】
(c)において、インゴット34を粉砕して、Mg−カーボンナノ材料の粉末45を得る。
(d)に示すように、混合用容器46にMg−カーボンナノ材料の粉末45と、粉末状の固体Al材料44とを入れて十分に混合する。
(e)において、ベース47にダイ48載せる。このダイ48に、(d)で得た混合物49を詰める。次に、パンチ51を進入させて、混合物35を押し固める。押し固めたものは予備成形体52になる。
【0039】
そして、本発明の加熱工程、圧密化工程及び冷却工程を実施するために、次図に示すような処理装置60を準備する。
【0040】
図9は本発明の第3の製造方法における加熱工程〜冷却工程を説明する図である。
処理装置60は、予備成形体52を支える下パンチ61と、この下パンチ61に対向して配置され予備成形体52を抑える又は加圧力P1で圧縮(加圧)することができる上パンチ62と、予備成形体52を囲うヒータ63と、このヒータ63や予備成形体52などを一括して囲うチャンバー64と、このチャンバー64に接続されチャンバー64内部を真空状態にする真空排気装置65及びチャンバー64内部へ不活性ガスとしてのアルゴンを吹込む不活性ガス吹込み装置66とで構成される。この処理装置60は次図の制御曲線により制御される。
【0041】
図10は本発明に係る加熱工程、圧密化工程及び冷却工程を説明するグラフであり、横軸が時間で、左縦軸が温度で、右縦軸が加圧力P1であるグラフに、温度曲線と加圧力曲線が示され、上部に、加熱工程、圧密化工程及び冷却工程が示されている。
【0042】
加熱工程では、チャンバー内を真空状態にし、真空のまま又は次にアルゴンなどの不活性ガス若しくは窒素などの非酸化性ガスを封入する。次に、所定の加熱(昇温)速度で予備成形体を、700℃まで加熱し、700℃に達したときから10分間保持することで加熱処理体67(図9)を得る。
【0043】
Mgの融点が650℃であるため、700℃まで加熱するとマトリックス金属素材が溶けて微粒子付着カーボン材料に浸透する。10分間保持することで十分に浸透させることができる。
【0044】
図9のヒータ63の設定温度を下げることで、加熱処理体67を、マトリックス金属素材の熱間加工が可能な温度まで冷却する。Mgの融点が650℃であるため、70℃程度低い580℃まで下げれば、表層が十分に凝固し、圧縮しても液相が漏れる心配はなくなる。
【0045】
580℃に達したら、上パンチ62を下げて加熱処理体67に40MPaの加圧を付与する。加圧しながら580℃で10分間保持する。この保持中において、上パンチ62は僅かずつ下がる。この下降は5〜7分間続き、その後は下降しない。上パンチ62が下降している間は組織内に僅かな隙間が存在し、この隙間が圧密化されていることを意味する。上パンチ62の下降動作が止まったら、十分に緻密になったと判断することができる。得られた圧密体68は十分に圧密化されたことになる。
【0046】
この圧密化は、マトリックス金属素材の熱間加工可能な温度であれば実施できるが、圧密化に必要な加圧力は温度に依存し、温度が高いほど小さな加圧力で圧密化を行うことができ、あまり強度の高くないカーボン型などでも圧密化を容易に行うことができるため、できる限り高い温度領域で実施することが好ましい。
また、熱間加工可能な温度未満の低温度では、加工性が悪くなり、特にマトリックス金属素材MgやMg合金では、割れやひび等が発生し易いため、圧密化が困難になる。
また、熱間加工可能な温度を超えた高温度では、液相状態になり、加圧により液相の漏れが発生して、加圧力が上手く作用しなくなり、圧密化が困難になる。
【0047】
得られた圧密体68は、上パンチ62で抑えたままで常温まで冷却することで、カーボンナノ複合金属材料69を得ることができる。圧密体68は表面の温度が先に下がり、中心部の温度が遅れて下がるため、温度差により冷却歪みと称する歪みが発生することがある。上パンチ62で抑え続けることで冷却歪みの発生を抑えることができる。しかし、冷却歪みが心配ないときには、加圧力なしで(圧密体68を上パンチ62で抑えないで)冷却することは可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、カーボンナノ材料を強化材料とし、Alを母材とした複合金属材料の製造方法に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係る混合体形成工程と真空蒸着工程を説明する図である。
【図2】Si付着カーボンナノ材料の模式図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】本発明に係るカーボンナノ複合金属材料の第1の製造方法を説明する図である。
【図5】図4(b)の5部拡大図である。
【図6】図4(e)の6部拡大図である。
【図7】本発明に係るカーボンナノ複合金属材料の第2の製造方法を説明する図である。
【図8】本発明の第3の製造方法における準備工程〜予備成形工程を説明する図である。
【図9】本発明の第3の製造方法における加熱工程〜冷却工程を説明する図である。
【図10】本発明に係る加熱工程、圧密化工程及び冷却工程を説明するグラフである。
【図11】カーボンナノ複合金属材料の濡れ性評価の原理図である。
【図12】濡れ性を比較したグラフである。
【符号の説明】
【0050】
10…混合用容器、11…有機溶媒、12…Si微粒子、13…カーボンナノ材料、20…真空炉、30…Si付着カーボンナノ材料、33…粉末状Mg材料、34…Mg−カーボンナノ材料(インゴット)、36…Mg−カーボンナノ材料の溶湯、40…Al材料の溶湯、41、69…カーボンナノ複合金属材、43…Mg−カーボンナノ材料の溶湯、44…固体Al材料、45…Mg−カーボンナノ材料の粉末、52…予備成形体、68…圧密体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料に、粉末状Mg材料又は液状Mg材料を混合し、粉末状Mg材料の場合はMg材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間保持した後に冷却してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料をAl溶湯に投入し、混合し、一定時間後に冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項2】
Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料を、Mg材料の溶湯に投入し、混合してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料に、固体Al材料を混合し、Al材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間後に冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項3】
Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料を、液状Mg材料に混合し、一定時間保持した後に冷却してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料を破砕して粉末にする工程と、
得られた粉末状Mg−カーボンナノ材料に、母材としての粉末状Al材料を混合する工程と、
得られた混合物を押し固めることで予備成形する工程と、
得られた予備成形体を、真空、不活性ガス若しくは非酸化性ガス雰囲気中で、前記Al材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間保持する加熱工程と、
予備成形体を、冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る冷却工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程と前記冷却工程との間に、前記Al材料の熱間加工が可能な温度まで冷却し、この温度で所定時間加圧して圧密化を図る圧密化工程を、介在させることを特徴とする請求項3記載のカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程では、前記圧密体を加圧しながら冷却することを特徴とする請求項3記載又は請求項4記載のカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項6】
準備するSi付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料とSi微粒子とを混合して混合体を得る混合体形成工程と、得られた混合体を真空炉に入れ、高温真空下で前記Si微粒子を蒸発させ、前記カーボンナノ材料の表面に付着させることで得る真空蒸着工程と、から製造することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項7】
前記混合体形成工程では、混合用容器に、有機溶媒とSi微粒子と前記カーボンナノ材料とを入れて撹拌し、乾燥させることを特徴とする請求項6記載のカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項1】
Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料に、粉末状Mg材料又は液状Mg材料を混合し、粉末状Mg材料の場合はMg材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間保持した後に冷却してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料をAl溶湯に投入し、混合し、一定時間後に冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項2】
Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料を、Mg材料の溶湯に投入し、混合してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料に、固体Al材料を混合し、Al材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間後に冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項3】
Si微粒子がカーボンナノ材料の表面に付着されているSi付着カーボンナノ材料を準備する準備工程と、
このSi付着カーボンナノ材料を、液状Mg材料に混合し、一定時間保持した後に冷却してMg−カーボンナノ材料を得る工程と、
このMg−カーボンナノ材料を破砕して粉末にする工程と、
得られた粉末状Mg−カーボンナノ材料に、母材としての粉末状Al材料を混合する工程と、
得られた混合物を押し固めることで予備成形する工程と、
得られた予備成形体を、真空、不活性ガス若しくは非酸化性ガス雰囲気中で、前記Al材料の溶融温度以上に加熱し、一定時間保持する加熱工程と、
予備成形体を、冷却してAlを母材としたカーボンナノ複合金属材料を得る冷却工程と、
からなるカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程と前記冷却工程との間に、前記Al材料の熱間加工が可能な温度まで冷却し、この温度で所定時間加圧して圧密化を図る圧密化工程を、介在させることを特徴とする請求項3記載のカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程では、前記圧密体を加圧しながら冷却することを特徴とする請求項3記載又は請求項4記載のカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項6】
準備するSi付着カーボンナノ材料は、カーボンナノ材料とSi微粒子とを混合して混合体を得る混合体形成工程と、得られた混合体を真空炉に入れ、高温真空下で前記Si微粒子を蒸発させ、前記カーボンナノ材料の表面に付着させることで得る真空蒸着工程と、から製造することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【請求項7】
前記混合体形成工程では、混合用容器に、有機溶媒とSi微粒子と前記カーボンナノ材料とを入れて撹拌し、乾燥させることを特徴とする請求項6記載のカーボンナノ複合金属材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−274351(P2008−274351A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119436(P2007−119436)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000227054)日精樹脂工業株式会社 (293)
【Fターム(参考)】
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