説明

ガイドワイヤ

【課題】
本発明は、安全性が高く、柔軟性と回転追従性が向上したガイドワイヤを提供することを課題とする。
【解決手段】
コアシャフト14の先端側部を包囲する内側コイル50と、内側コイル50とコアシャフト14の先端側部とを包囲する外側コイル60とを有するガイドワイヤ10であり、外側コイル60の先端及び内側コイル50の先端は、コアシャフト14の先端に先端チップ15で接合されている。また、ガイドワイヤ10は、外側コイル60と内側コイル50のみを互いに接合するコイル接合部53を有している。
この構成により、内側コイル50の柔軟性を維持しつつ、ガイドワイヤ10の後端側の回転が、コアシャフト14のみでなく、外側コイル60からも内側コイル50に伝達され、回転追従性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用のガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、治療や検査のために、血管、消化管、尿管等の管状器官や体内組織に挿入して使用されるカテーテル等を案内するために各種の医療用ガイドワイヤが提案されている。ガイドワイヤには、コアシャフトの先端部分に2重コイルを設けた構造を有するものや(例えば、下記特許文献1、2参照)、コイル内に複数の素線からなる撚り線を用いたものがある(例えば、下記特許文献3参照)。
ガイドワイヤは一般的に先端側(遠位側)の柔軟性と、後端側(基端側)で手技者が行う回転操作を先端側に伝える回転追従性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平6−501179号公報
【特許文献2】特表2006−511304号公報
【特許文献3】特開2008−161491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ガイドワイヤの使用範囲はより拡大される傾向にあり、心臓のより抹消側の血管や脳の血管等に用いられるようになっている。このようなことから、より高い安全性が求められると共に、柔軟性と、回転追従性が更に要求されている。
特に脳の血管は、非常に繊細な部分であるために、血管とそれを取り巻く組織の損傷を防止するだけでなく、高い回転追従性が要求される。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、安全性が高く、柔軟性と回転追従性が向上したガイドワイヤを提供することを課題とする。
【0005】
また、脳の血管に用いられるガイドワイヤは、血管内を損傷しないために柔軟性が要求されるだけでなく、マイクロカテーテルを案内するために一定の剛性も必要である。剛性を高めるためには、一般的にコアシャフトの径を太くすれば良いが、柔軟性が失われるばかりでなく、シェイピングした際の形状を維持することや、復元性が劣化する可能性がある。即ち、ガイドワイヤは、使用される際に医師等の手技者が先端部分を折り曲げることにより方向付けを行うシェイピングと呼ばれる作業がしばしば行われるが、コアシャフトの剛性を高めるために直径を太くすると、シェイピングはし易くなるものの、血管内での使用中にシェイピングの角度が変化し、その角度を維持することが困難になる。また、屈曲する血管内でガイドワイヤに作用する負荷により、コアシャフトの先端部分が折れ曲がり、復元することなく残留角度を生じることになる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、マイクロカテーテル等の機器を案内するために十分な剛性を有し、シェイピングした際の形状が保持され、復元性が高いガイドワイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の発明にあっては、上記課題は、以下に列挙される手段により解決がなされる。
【0007】
<1> コアシャフトと、少なくとも1本の素線が巻回されてなり、前記コアシャフトの先端側部を包囲する内側コイルと、少なくとも1本の素線が巻回されてなり、前記内側コイルと前記コアシャフトの前記先端側部とを包囲する外側コイルと、前記外側コイルの先端と前記内側コイルの先端を前記コアシャフトの先端に接合する先端接合部と、
前記外側コイルの後端を前記コアシャフトに接合する外側後端接合部と、前記内側コイルの後端を前記外側後端接合部より先端側で前記コアシャフトに接合する内側後端接合部と、前記先端接合部と前記内側後端接合部との間に位置し、前記外側コイルと前記内側コイルのみを互いに接合するコイル接合部とを備えたことを特徴とするガイドワイヤ。
【0008】
<2> 前記外側コイルは、前記コイル接合部より先端側において、素線が互いに離間する疎巻きの部分を有することを特徴とする上記態様1に記載のガイドワイヤ。
【0009】
<3> 前記外側コイルは、前記コイル接合部より後端側において、素線が互いに接触する密巻きとなっていることを特徴とする上記態様1または2に記載のガイドワイヤ。
【0010】
<4> 前記外側コイルは、先端側に放射線不透過性の材料の素線からなる不透過部と後端側に放射線透過性の材料の素線からなる透過部とを有し、前記不透過部は、先端側に素線が互いに離間する疎巻きに巻回された疎巻き部と、後端側に素線が互いに接触する密巻きに巻回された密巻き部とを有し、前記コイル接合部は、前記不透過部の前記密巻き部で前記外側コイルと前記内側コイルとを接合していることを特徴とする上記態様1に記載のガイドワイヤ。
【0011】
<5> 前記透過部は、素線が互いに接触する密巻きに巻回されていることを特徴とする上記態様4に記載のガイドワイヤ。
【0012】
<6> 前記コアシャフトの先端には、対向する少なくとも2つの平面部を有する平坦部が設けられていることを特徴とする上記態様1から5のいずれか1態様に記載のガイドワイヤ。
【0013】
<7> 前記内側コイルは、複数の素線を撚り合わせた中空の撚り線コイルであることを特徴とする上記態様1から6のいずれか1態様に記載のガイドワイヤ。
【0014】
<8> コアシャフトと、複数の素線が撚り合わされてなり、前記コアシャフトの先端側部を包囲する内側コイルと、少なくとも1本の素線が巻回されてなり、先端側に前記素線が互いに離間するように巻回された疎巻き部と、後端側に前記素線が互いに接触するように巻回された密巻き部とを有し、前記内側コイルと前記コアシャフトの前記先端側部とを包囲する外側コイルと、前記外側コイルの先端と前記内側コイルの先端を前記コアシャフトの先端に接合する先端接合部と、前記外側コイルの後端を前記コアシャフトに接合する外側後端接合部と、前記外側コイルの前記疎巻き部よりも後端側で、且つ、前記外側後端接合部より先端側で、前記内側コイルの後端を前記コアシャフトのみに接合する内側後端接合部とを備えたことを特徴とするガイドワイヤ。
【0015】
<9>前記外側コイルは、先端側に放射線不透過性の材料の素線からなり、少なくとも先端側の一部が前記疎巻き部となっている不透過部と、後端側に放射線透過性の材料の素線からなり、前記密巻き部のみからなる透過部とを有し、前記内側コイルの前記内側後端接合部は、前記不透過部よりも後端側に位置していることを特徴とする請求項8に記載のガイドワイヤ。
【0016】
<10> 前記外側コイルは、前記先端接合部と前記外側後端接合部との間に前記外側コイルを前記コアシャフトに接合する外側中間接合部を有し、前記内側コイルの前記内側後端接合部は、前記外側中間接合部よりも先端側に位置していることを特徴とする上記態様8または9に記載のガイドワイヤ。
【0017】
<11> 前記外側コイルの前記外側中間接合部は、前記コアシャフトが先端側に向かって細くなる中間テーパ部に位置し、前記内側コイルの前記内側後端接合部は、前記中間テーパ部よりも先端側で前記コアシャフトが先端側に向かって細くなる先端側テーパ部に位置し、前記中間テーパ部の傾斜角度は、前記先端側テーパ部の傾斜角度と異なることを特徴とする上記態様10に記載のガイドワイヤ。
【0018】
<12> 前記先端接合部と前記内側コイルの前記内側後端接合部との間には、前記外側コイルと前記内側コイルのみを互いに接合するコイル接合部を備える
ことを特徴とする上記態様8から11のいずれか1態様に記載のガイドワイヤ。
【0019】
<13> 前記外側コイルは、前記コイル接合部より後端側において、素線が互いに接触する密巻きとなっていることを特徴とする上記態様12に記載のガイドワイヤ。
【0020】
<14> 前前記内側コイルに包囲される前記コアシャフトの前記先端側部分は、大径柔軟部と、前記大径柔軟部よりも直径の小さい小径柔軟部の少なくとも2つの直径の異なる円柱状の部分を有することを特徴とする上記態様8から13のいずれか1態様に記載のガイドワイヤ。
【0021】
<15> 前記小径柔軟部は、前記外側コイルの前記疎巻き部に対応する位置に配置されていることを特徴とする態様14に記載のガイドワイヤ。
【0022】
<16> 前記コアシャフトの先端には、対向する少なくとも2つの平面部を有する平坦部が設けられていることを特徴とする上記態様8から15のいずれか1態様に記載のガイドワイヤ。
【発明の効果】
【0023】
<1> 本発明のガイドワイヤは、ガイドワイヤの先端部分が内側コイルと外側コイルからなる二重コイル構造で保護されているため、体内で柔軟なコイル部分で血管壁等と接触するため、血管等の損傷を可及的に防止できる。
また、本発明のガイドワイヤは、内側コイルによって、回転追従性が向上するだけでなく、外側コイルと内側コイルとをコイル接合部によって接合したことにより、コアシャフトの後端側から付与される回転を外側コイルから内側コイルへも伝達できるため、回転追従性が一層向上する。
更に、コイル接合部は、外側コイルと内側コイルを接合するのみで、コアシャフトには接合されていないため、内側コイルと外側コイルの柔軟性が劣化することを可及的に防止でき、安全性を維持できる。
【0024】
<2> 発明の態様2では、外側コイルがコイル接合部より先端側において、素線が互いに離間する疎巻きの部分を有するため、ガイドワイヤの先端部分の柔軟性が一層向上する。このため、体内の血管等の損傷をより防止できる。
【0025】
<3> 発明の態様3では、外側コイルがコイル接合部より後端側において、素線が互いに接触する密巻きとなっているため、コアシャフトの後端側から付与される回転を外側コイルから内側コイルへも伝達する際に、素線間の間隙によって回転の伝達が損なわれることを可及的に防止できるため、回転追従性が一層向上する。
【0026】
<4> 発明の態様4では、放射線不透過性の材料からなる不透過部の疎巻き部、密巻き部、放射線透過性の材料からなる透過部の順で剛性が高くなるため、ガイドワイヤが先端程柔軟な安全性の高い構造となる。
また、中間の剛性である不透過部の密巻き部にコイル接合部が位置するため、ガイドワイヤの剛性が急激に変化することが可及的に防止され、ガイドワイヤの回転追従性や押し込み特性を向上させることができる。
【0027】
<5> 発明の態様5では、コイル接合部より後端側の素線は全て密巻きに巻回されているので、コアシャフトの後端側から付与される回転を外側コイルから内側コイルへも伝達する際に、素線間の間隙によって回転の伝達が損なわれることを可及的に防止できるため、回転追従性が一層向上する。
【0028】
<6> 発明の態様6では、コアシャフトの先端に平坦部を設けたことにより、捻り剛性が高くなるため、ガイドワイヤによって、カテーテルの方向を変化させることが容易となる。また、このような作業を行う際に、平坦部との境界に負荷が作用する可能性があるが、内側コイルを設けることにより、内側コイルによって負荷が分担され、コアシャフトが曲がったり、折れたりすることを可及的に防止できる。
【0029】
<7> 発明の態様7では、内側コイルは、複数の素線を撚り合わせた中空の撚り線コイルであるため、柔軟なだけでなく、回転トルクの伝達性が高い構造となり、回転追従性を一層向上させることができる。
【0030】
<8> 態様8のガイドワイヤは、ガイドワイヤの先端部分が外側コイルと複数の素線を拠り合わせた内側コイルからなる二重コイル構造で保護されている。この二重コイル構造において、外側コイルは、先端側に疎巻き部を有していることにより、ガイドワイヤの先端部分の柔軟性が向上させることができる。このような二重構造に疎巻き部を付加した構成により、ガイドワイヤが体内で柔軟なコイル部分で血管壁等と接触するため、血管等の損傷を可及的に防止できる。
また、態様8のガイドワイヤは、撚り線によって構成された内側コイルによって、回転追従性と押し込み特性を向上させることができるだけでなく、内側コイルの内側後端接合部は、外側コイルとは接合されておらず、コアシャフトのみに接合されていると共に、外側コイルの疎巻き部と密巻き部の境界よりも後端側に偏倚して配置されている。この構造により、内側コイルの内側後端接合部を可及的に小さくして、コアシャフトの剛性の変化を可及的に防止すると共に、外側コイルの疎巻き部と密巻き部の境界に生じる剛性の変化と、内側コイルの内側後端接合部によるコアシャフトの剛性の変化が集中することを防止することができる。従って、ガイドワイヤの先端部分の剛性が急激に変化することを防止し、ガイドワイヤの手元側から与えられるトルクがガイドワイヤの途中で失われることが可及的に防止できるため、ガイドワイヤの回転追従性と押し込み特性を一層向上させることができる。
【0031】
更に、態様8のガイドワイヤは、内側コイルによって、コアシャフトの先端部分の剛性を確保できるため、コアシャフトの先端側部における内側コイルによって包囲された部分を細径化したとしても、カテーテルを案内するのに十分な剛性を備えることができる。なた、内側コイルとコアシャフトの細径化により、ガイドワイヤの先端部分がシェイピングされた状態で、血管等の体内に挿入された場合に、シェイピングの角度が変化しても塑性変形することなく復元し、シェイピングの角度を保持することができる。また、屈曲した血管等によってガイドワイヤの先端側部に外力が作用しても、塑性変形することを可及的に防止でき、復元力を向上させることができる。
また、外側コイルは、先端側に疎巻き部によって、二重コイル構造であっもシェイピングを容易に行うことができる。
【0032】
<9> 発明の態様9では、放射線不透過性の材料からなる不透過部の疎巻き部、密巻き部、放射線透過性の材料からなる密巻き部のみからなる透過部の順で剛性が高くなるため、ガイドワイヤが先端程柔軟な安全性の高い構造となる。
また、内側コイルの内側後端接合部が、疎巻き部と密巻き部の境界だけでなく、不透過部と透過部との境界よりも後端側に偏倚して配置されているため、各境界に生じる剛性の変化と、内側コイルの内側後端接合部によるコアシャフトの剛性の変化が集中することを防止することができる。従って、ガイドワイヤの先端部分の剛性が急激に変化することを防止し、ガイドワイヤの回転追従性と押し込み特性を更に向上させることができる。
【0033】
<10> 発明の態様10では、内側コイルの内側後端接合部が外側中間接合部よりも先端側に位置し、外側中間接合部とは接合されていないことにより、ガイドワイヤの剛性が急激に変化することを可及的に防止できる。このためガイドワイヤの手元側から付与される回転力や押し込み力を効率良く先端側に伝達することができ、トルク伝達性が向上する。
【0034】
<11> 発明の態様11では、前記外側コイルの前記外側中間接合部が位置する中間テーパ部と、前記内側コイルの前記内側後端接合部が位置する先端側テーパ部とで傾斜角度が異なっている。即ち、内側コイルの存在しない中間テーパ部と、内側コイルが存在する先端テーパ部との間で、テーパの傾斜角度は変化している。このような中間テーパ部の傾斜の変化により、内側コイルによる剛性の増加を可及的に相殺しているため、内側コイルがコアシャフトの先端部分に配置されることによるガイドワイヤの剛性の急激な変化を防止することができる。従って、ガイドワイヤの回転追従性と押し込み特性を更に向上させることができる。
【0035】
<12> 発明の態様12では、内側コイルによって、回転追従性が向上するだけでなく、外側コイルと内側コイルとをコイル接合部によって接合したことにより、コアシャフトの後端側から付与される回転を外側コイルから内側コイルへも伝達できるため、回転追従性が一層向上する。
更に、コイル接合部は、外側コイルと内側コイルを接合するのみで、コアシャフトには接合されていないため、内側コイルと外側コイルの柔軟性が劣化することを可及的に防止でき、安全性を維持できる。
【0036】
<13> 発明の態様13では、外側コイルがコイル接合部より後端側において、素線が互いに接触する密巻きとなっているため、コアシャフトの後端側から付与される回転を外側コイルから内側コイルへも伝達する際に、素線間の間隙によって回転の伝達が損なわれることを可及的に防止できるため、回転追従性が一層向上する。
【0037】
<14> 発明の態様14では、内側コイルの内側に位置するコアシャフトの先端部分を小径柔軟部と大径柔軟部との少なくとも2つの剛性の異なる部分に分けて細径化することにより、コアシャフトの剛性変化を緩やかにすることができるだけでなく、シェイピングの形状の保持及び復元性を向上させるための細径化と、マイクロカテーテル等の機器を良好に案内するための剛性の確保の両立が可能となる。
即ち、内側コイルを有することによりコアシャフトの先端部分の細径化が可能となり、これがシェイピングの形状保持や復元性に資することになる。この反面、余りに細径化した範囲を長くしすぎると、マイクロカテーテル等の機器を案内する際の剛性の確保の面では不利となる。よって、内側コイル内においても、剛性変化を段階的とすることにより、これらの特性の両立が可能となる。
【0038】
<15> 発明の態様15では、外側コイルの疎巻き部に対応する位置にコアシャフトの先端部の小径柔軟部が位置することにより、内側コイルがあっても、外側コイルの疎巻き部になっているため、ガイドワイヤの先端部分を折り曲げ易く、手技者がこの細径化された部分でシェイピングすることが容易となる。
【0039】
<16> 発明の態様16では、コアシャフトの先端に平坦部を設けたことにより、捻り剛性が高くなるため、ガイドワイヤによって、カテーテルの方向を変化させることが容易となる。また、このような作業を行う際に、平坦部との境界に負荷が作用する可能性があるが、内側コイルを設けることにより、内側コイルによって負荷が分担され、コアシャフトが曲がったり、折れたりすることを可及的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、本実施の形態のガイドワイヤの全体図である。
【図2】図2は、図1の一部拡大図である。
【図3】図3は、本実施の形態のガイドワイヤの最先端部を示した図である。
【図4】図4は、図3の上面図である。
【図5】図5は、本実施の形態のガイドワイヤの回転追従性を示したグラフである。
【図6】図6は、図5のデータの測定装置を示した図である。
【図7】図7は、本実施の形態のガイドワイヤのシェイピング形状の保持特性を比較したグラフである。
【図8】図8は、本実施の形態のガイドワイヤの復元性を比較したグラフである。
【図9】図9は、本実施の形態のガイドワイヤの作用を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本実施の形態のガイドワイヤを、図1〜図4を参照しつつ説明する。図1〜図4において、図示右側が体内に挿入される先端側(遠位側)、左側が手技者によって操作される後端側(基端側、手元側)である。
ガイドワイヤ10は、脳の血管の治療に用いられるものである。ガイドワイヤ10は、例えば、本実施の形態の場合、約2000mmの長さを有する。
ガイドワイヤ10は、主にコアシャフト14、内側コイル50、外側コイル60からなる。コアシャフト14は、本体部20、先端部30、最先端部40に大別される。ガイドワイヤ10の先端から外側コイル60を経て本体部20の所定の範囲までの外表面には親水性コーティングがなされている。
先端部30と最先端部40は、コアシャフト14が細径化された部分であり、両者の軸方向の長さの合計は、本実施の形態では、約420mmである。本体部20は、直径が一定の円柱状の部分であり、先端部30と最先端部40以外の部分を占めている。本実施の形態では、本体部20の直径は約0.33mmに設定されている。
コアシャフト14の材料は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ステンレス鋼(SUS304)が用いられている。これ以外の材料としてNi−Ti合金のような超弾性合金やピアノ線等が用いられる。
【0042】
先端部30は、本体部20側から最先端部40に向かって順に第1テーパ部31、第1小径部32、第2テーパ部33、第3テーパ部34(中間テーパ部)、第4テーパ部35(先端テーパ部)が設けられている。本実施の形態では、第1テーパ部31と第1小径部32の軸方向の長さは、それぞれ約100mmである。
第1テーパ部31は、断面が円形のテーパ状の部分であり、本実施の形態では、直径が遠位方向に向けて約0.33mmから約0.20mmに減少している。
第1小径部32は、断面が円形で直径が一定の円柱状の部分であり、本実施の形態では、直径は約0.20mmとなっている。
第2テーパ部33、第3テーパ部34、第4テーパ部35は、それぞれ、傾斜角度の異なる、断面が円形のテーパ状の部分である。本実施の形態では、第2テーパ部33、第3テーパ部34、第4テーパ部35の軸方向の長さの合計は、約205mmである。また、第2テーパ部33の基端から第4テーパ部35の遠位端では、直径が約0.20mmから約0.05mmに減少するように設定されている。
各テーパ部33,34,35の間には、必要に応じて直径が一定の円柱部を設けることも可能である。また、テーパ部の数やテーパの角度も、必要に応じて適宜に設定できる。
【0043】
最先端部40は、先端部30側から先端へ順に大径柔軟部41、小径柔軟部42、第1平坦部43、第2平坦部44が設けられている。本実施の形態では、最先端部40の軸方向の長さは、約15mmである。
大径柔軟部41と小径柔軟部42は、断面が円形で直径が一定の円柱状の部分である。小径柔軟部42の直径は、大径柔軟部41の直径よりも小さく設定されており、小径柔軟部42と大径柔軟部41は、両者の間に設けられた微小なテーパ部45によって接続されている。
【0044】
このように内側コイル50の内側に位置する最先端部40を小径柔軟部42と大径柔軟部41とに分けて細径化することにより、コアシャフト14の剛性変化を緩やかにすることができるだけでなく、シェイピングの形状の保持及び復元性を向上させるための細径化と、マイクロカテーテル等の機器を良好に案内するための剛性の確保の両立が可能となる。
即ち、内側コイル50を有することにより最先端部40の細径化が可能となり、これがシェイピングの形状保持や復元性に資することになる。この反面、余りに細径化した範囲を長くしすぎると、マイクロカテーテル等の機器を案内する際の剛性の確保の面では不利となる。よって、内側コイル50内においても、剛性変化を段階的として、これらの特性を両立させるようにしているのである。
【0045】
第1平坦部43と第2平坦部44は、小径柔軟部42から連なった円柱部分をプレス加工して成形した部分である。図3、図4に示す様に、第1平坦部43は、小径柔軟部42から先端側に向けて幅が広がり、且つ、高さ方向が減少する一対の傾斜した平面を有するテーパ状の部分である。この第1平坦部43に断面が略長方形の平坦な部分である第2平坦部44が接続されている
第1平坦部43は、小径柔軟部42と第2平坦部44との間で剛性の変化が大きくなり、応力が集中することを防止するために、剛性の変化を緩やかにするように設けられている。第1平坦部43の軸方向の長さは、本実施の形態の場合、約3.0mmであり、十分に緩やかな剛性変化が得られるようになっている。
【0046】
第2平坦部44は、図3、4に示すように、略長方形の板状の部分であり、コアシャフト14の軸線に略平行な二対の平面を有している。第2平坦部44の軸方向の長さは、第1平坦部43の軸方向の長さと略同じに設定され、本実施の形態の場合、約3.0mmである。偏平状に広げられた第2平坦部44の幅方向の長さは、図4に示すように、第2平坦部44の側面が内側コイル50の内周面との間に所定の間隙が存在するように設定されているが、側面が内側コイル50の内周面と接触しても良い。
尚、第2平坦部44はプレス加工によって成形されるものであるため、第2平坦部44の側面は厳密には平面では無く、円弧状である。従って、第2平坦部44の断面が略長方形とは、このような側面が円弧である形状も含むものである。
【0047】
第1平坦部43と第2平坦部44の軸方向の長さの合計は、約2.0mm〜約10.0mmの範囲に設定することが好ましい。この内、コアシャフト14の最も柔軟な部分を構成する第2平坦部44は、約1.0mm以上を占めることが好ましい。
第1平坦部43と第2平坦部44から構成される偏平状の部分は、ガイドワイヤ10の先端を柔軟とするだけでなく、捻り剛性を高めると共に、シェイピングと呼ばれるガイドワイヤ10の先端部分を折り曲げて方向付けをすることに用いられるが、この偏平状の部分が、約2.0mmより短くなると、シェイピングが困難となる。
また、ガイドワイヤ10が挿入されるマイクロカテーテルは、カテーテルの先端から約8.0mm程度の部分に屈曲を有するものがしばしば用いられるが、第1平坦部43と第2平坦部44の軸方向の長さの合計が約10.0mmより長くなると、このカテーテルの屈曲部を超えて偏平状の部分が存在する可能性があり、このような状態で、ガイドワイヤ10の後端側から回転力が与えられると、マイクロカテーテルの屈曲部より先端でガイドワイヤ10の先端が固定されてしまい、この部分に捻れ応力が作用することになる。そして、更に回転力が付加されて、応力が一定量を超えると、ガイドワイヤ10の先端が突然大きく回転方向に動いて捻れ応力が開放される、所謂、跳ねと呼ばれる現象が発生しやすくなる可能性がある。
【0048】
最先端部40と先端部30の第4テーパ部35の大部分は、内側コイル50内に挿通されている。内側コイル50は、複数の金属製の素線51を芯金上に撚り合わせた後、撚り合わせた際の残留応力を公知の熱処理にて除去し、芯金を抜き取ることによって製造された中空の撚り線コイルである。内側コイル50の外径は、本実施の形態の場合、約0.19mmである。また、内側コイル50の軸方向の長さは、約55.0mmである。
内側コイル50には、6本の素線51が用いられている。素線51の直径は、約0.035mmとなっている。内側コイル50のピッチ(1本の素線が形成する螺旋が一周した際の軸方向の距離)は、約0.25〜約0.29mmの範囲となるように設定されている。素線51の数および直径は、内側コイル50に必要な外径と、剛性を考慮して適宜に決定されるものであり、これらの値に限定されるものでは無い。
素線51の材料は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、ステンレス鋼が用いられている。これ以外の材料として、Ni−Ti合金のような超弾性合金が用いられる。また、異なる材料の素線を組み合わせても良い。
【0049】
内側コイル50の先端は、コアシャフト14の軸線を中心として、コアシャフト14の先端に、外側コイル60の先端と共にロウ付けによって接合されており、このロウ付け部が略半球状の先端チップ15(先端接合部)を形成している。内側コイル50の後端は、先端部30の第4テーパ部35にロウ付けによって接合され、内側後端接合部52を形成している。
内側コイル50は、コアシャフト14の第4テーパ部35の大部分を包囲しており、内側コイル50の存在しない第3テーパ部34(中間テーパ部)と、内側コイル50が存在する第4テーパ部35(先端テーパ部)との間で、テーパの傾斜角度は変化している。これは内側コイル50が配置されることにより、ガイドワイヤ10の剛性が急激に変化することを防止するために、コアシャフト14の第4テーパ部35の傾斜を変化させて、内側コイル50による剛性の増加を可及的に相殺するためである。
【0050】
即ち、第3テーパ部34は、第4テーパ部35よりもコアシャフト14の軸線に対するテーパの角度が大きくすることにより直径の変化率を大きくし、内側コイル50を有しないことによる剛性の変化分を相殺している。
また、内側コイル50の内側後端接合部52は、コアシャフト14にのみ接合に接合され、後述する外側コイル60の外側中間接合部65等とは接合されていないため、ロウ付け部分を可及的に小さくできる。このため、ロウ付けによるコアシャフト14の剛性変化を可及的に減少させることができる。
尚、第3テーパ部34と第4テーパ部35の間に、更に異なるテーパ角度を有する別のテーパ部を介することによって、両者を接続したり、外側コイル60の直径や素線径が変化することによって、外側コイル60の剛性が変化する場合等には、外側中間接合部65を有する第3テーパ部34のテーパの角度を、内側コイル50を有する第4テーパ部35のテーパの角度より小さくすることにより剛性の変化分を調整する場合も有りうる。
【0051】
内側コイル50を含む最先端部40から先端部30の第1小径部32の大部分は、外側コイル60内に挿通されている。外側コイル60は、1本の金属製の素線61を巻回したものである。外側コイル60の外径は、本実施の形態の場合、約0.36mmであり、外側コイル60の軸方向の長さは、約300.0mmである。
外側コイル60の素線61は、プラチナ合金等の放射線不透過性の金属線とステンレス鋼等の放射線透過性の金属線が接合されて1本の素線となったものであり、素線61の直径は、本実施の形態の場合、約0.065mmとなっている。従って、外側コイル60の内周面と内側コイル50の外周面との間には、本実施の形態の場合、半径方向に約0.02mmの間隙を有している。
外側コイル60のピッチは、外側コイル60が1本の素線から形成されるため、略素線径に近似でき、約0.065mmである。一方、上述した様に、内側コイル50のピッチが約0.25〜約0.29mmの範囲となるように設定されていることから、内側コイル50を構成する6本の素線における隣接する素線の平均距離は、約0.042〜約0.048mmの範囲となる。従って、内側コイル50の隣接する素線の平均距離は、外側コイル60の隣接する素線の平均距離よりも小さく設定されている。
このように、内側コイル50と外側コイル60とが間隙を有して互いに独立し、内側コイル50の隣接する素線の平均距離が、外側コイル60の隣接する素線の平均距離よりも小さく設定されていることにより、内側コイル50と外側コイル60の二重コイル構造が屈曲しやすく、柔軟な構造となっている
【0052】
外側コイル60の放射線不透過性の金属線からなる部分は、外側コイル60の先端から約50.0mmの部分であり、マーカとして機能する不透過部62を構成している。不透過部62の内、外側コイル60の遠位端から約30.0mmの部分は、素線61間に間隙が形成されるように疎巻きに巻回された疎巻き部62aであり、これより基端側の部分は、素線61間に間隙が無く、素線61同士が接触するように密巻きに巻回された密巻き部62bである。疎巻き部62aにおける素線61間の隙間は、約0.01〜約0.02mmである。
放射線透過性の金属線からなる部分は、不透過部62より後端側の外側コイル60の部分を占めており、素線61同士が接触するように密巻きに巻回された透過部63となっている。
【0053】
外側コイル60の疎巻き部62aは、ガイドワイヤ10の先端部分のシェイピングをし易くすることにも貢献する。即ち、内側コイル50と外側コイル60の二重コイル構造は、シェイピングを行う際に外側コイルとコアシャフトのみの構成よりも、コイル同士が干渉する等の理由から手技者にシェイピングし難い印象を与える可能性があるが、外側コイル60の素線61に間隙を設けることにより、シェイピングし易い構成とすることができる。
このため、コアシャフト14の最先端部14は疎巻き部62aに位置している。最先端部14の中でもシェイピングが行われる蓋然性の高い小径柔軟部42、第1平坦部43、第2平坦部44は疎巻き部62aに位置することが好ましい。
【0054】
外側コイル60の先端は、先端チップ15にて内側コイル50と同軸状にコアシャフト14の先端にロウ付けによって接合されている。外側コイル60の後端は、先端部30の第1小径部32にロウ付けによって接合され、外側後端接合部64を形成している。
また、外側コイル60は、先端部30の第3テーパ部34にロウ付けによって接合され、外側中間接合部65を形成している。
【0055】
外側コイル60と内側コイル50は、コイル接合部53にてロウ付けによって接合されている。コイル接合部53は、外側コイル60と内側コイル50のみを接合するものであり、ロウ付けのロウは、コアシャフト14には達しておらず、コアシャフト14と接合はされていない。
コイル接合部53は、外側コイル60の不透過部62の素線61が疎巻きに巻回された疎巻き部62aよりも後端側にあり、素線61が密巻きに巻回された密巻き部62bの略中央に配置されている。この理由は、コイル接合部53によって、ガイドワイヤ10の剛性が急激に変化することを可及的に防止するためである。即ち、外側コイル60において、プラチナ合金等の放射線不透過性の金属線で構成された不透過部62の方が、ステンレス鋼等の放射線透過性の金属線で構成された透過部63に比べ、その材質の違いから剛性が低くなっている。また、同じ材質では、素線61間に間隙がある疎巻き部62aの方が、密巻き部62bよりも剛性が低い。このため、疎巻き部62aの剛性が最も低く柔軟であり、次に、密巻き部62bの剛性が低く、放射線透過性の素線61が密巻きに巻回された透過部63が最も高くなる。この剛性変化が発生する部分62a,62b,63の境界とコイル接合部53が重なることは、剛性変化がより強調されることになるため、これを可及的に防止するために上記の配置が採用されている。
同様に、上記した内側コイル50の内側後端接合部52も剛性変化が発生する62a,62b,63の境界と重ならないよう外側コイル60の不透過部62より後端側に偏倚して配置されている。
【0056】
また、コイル接合部53より後端側に位置する、不透過部62の密巻き部62bと透過部63が共に素線61を密巻きとしていることにより、ガイドワイヤ10の基端側の回転トルクをコアワイヤ14からだけでなく、外側コイル60からコイル接合部53を介して内側コイル50に伝達する際に、素線61間の間隙によって、回転トルクの伝達が損なわれることを防止している。
【0057】
また、内側コイル50の内側後端接合部52は、外側コイル60の外側中間接合部65と軸方向に離間して配置されることにより空間67が形成されている。内側コイル50と外側コイル60を同じ位置でコアシャフト14に接合すると、その位置でガイドワイヤ10の剛性が高くなってしまい、ガイドワイヤ10の剛性が急激に変化してしまうため、このような剛性の変化を可及的に防止するためである。内側コイル50の後端と外側コイル60の中間部分を別個に接合することにより、接合に使用されるロウ付けのロウを少なくすることができるため、コアシャフト14の剛性変化に与える影響を最小限に抑えることができる。従って、この構成により、ガイドワイヤ10の手元側から与えられる回転力や押し込み力の伝達を向上させることができる。
【0058】
図5に示すグラフは、図1〜図4に示される上記のガイドワイヤ10と比較用のテスト用ガイドワイヤを作製して、図6に示す測定装置80によりガイドワイヤの回転追従性を測定したものである。即ち、ガイドワイヤの後端側を回転させた場合の先端側の回転角度を測定したものである。
測定装置80は、本実施の形態のガイドワイヤ10と同時に使用されるマイクロカテーテルを想定したものであり、内部にルーメンを有する樹脂製のチューブ81からなる。チューブ81は、後端側に曲率半径60.0mmの第1湾曲部81aと先端側に曲率半径10.0mmの第2湾曲部81bを有する。この構成の測定装置80内部にガイドワイヤ10等の試験用に作製されたガイドワイヤを挿入し、後端側を時計回りに所定の角度[degree]ずつ180度まで回転させた際の先端側の回転角度[degree]を測定するようになっている。
【0059】
図5において、実線で示すグラフL0が、ガイドワイヤの後端側と先端側が1:1で回転する理想線を示している。白の四角形で示すグラフL1が、本実施の形態のガイドワイヤ10のものである。破線で示すグラフL2が、本実施の形態のガイドワイヤ10において、内側コイル50が無い第1の比較用ガイドワイヤのものである。白の丸で示すグラフL3が、本実施の形態のガイドワイヤ10において、外側コイル60と内側コイル50を接合するコイル接合部53のみが無い第2の比較用ガイドワイヤのものである。
【0060】
本実施の形態のガイドワイヤ10は例えば、脳内の血管に使用することを目的としており、本願発明者等の調査の結果、このような目的で使用される場合、ガイドワイヤは、0〜90度近傍の範囲で回転操作されることが多く、この範囲の回転追従性が特に重要となることが判明した。例えば、脳用の場合、目的の動脈瘤内部にガイドワイヤが進入する際には、動脈瘤の入り口にガイドワイヤの先端を方向付けするために0〜90度近傍の範囲で精度の高い回転操作が要求される。
図5において、内側コイル50の無い、第1の比較用ガイドワイヤのグラフL2は、0〜90度近傍の範囲だけでなく、180度までの範囲において理想のグラフL0から大きく外れている。
内側コイル50を有するが、コイル接合部53の無い、第2の比較用ガイドワイヤのグラフL3は、内側コイル50を有するため、第1の比較用ガイドワイヤより回転追従性が向上しているが、0〜90度近傍の範囲で理想のグラフL0から外れている。即ち、手技者がガイドワイヤの後端側を回転させた場合に、内側コイル50により回転の伝達がなされるものの、先端側は直ぐには回転せず、所望の回転量を得るためには、相当量の余分な回転を付与する必要があり、操作性が劣ることを示している。
これに対して本実施の形態のガイドワイヤ10のグラフL1は、約135度以降の範囲では、第2の比較用ガイドワイヤよりやや回転追従性が劣るものの、0〜90度近傍の範囲で理想のグラフL0に近い回転追従性を示すことが判る。即ち、手技者がガイドワイヤの後端側を回転させた場合に、先端側は直ぐに回転し、操作性が良いことを示している。これは、ガイドワイヤ10の後端側の回転が、コアシャフト14のみでなく、外側コイル60からもコイル接合部53を介して内側コイル50に伝達されて、内側コイル50の回転追従性が向上したと考えられる。
【0061】
図7、8に示すグラフは、図1〜図4に示される上記のガイドワイヤ10と上述した図5の実験とは異なる、比較用のガイドワイヤA,Bを作製して、本実施の形態のガイドワイヤ10のシェイピングの形状を維持する特性と、復元性について比較実験を行ったものである。
比較用ガイドワイヤAは、本実施の形態のガイドワイヤ10の構成から単純に内側コイル50を除去した構成のものである。このため比較用ガイドワイヤAは、本実施の形態のガイドワイヤ10より剛性が低くなる。
比較用ガイドワイヤBは、内側コイル50を備えないが、ガイドワイヤがマイクロカテーテル等を案内するために重要なガイドワイヤの先端5〜20mm程度の範囲の剛性をガイドワイヤ10と略同じ値とし、略同じ剛性曲線を有するように作成したものである。このような剛性を実現するために、比較用ガイドワイヤBは、ガイドワイヤ10の大径柔軟部41と小径柔軟部42の直径と比較して、これらに相当する部分の直径がそれぞれ1.2%程度大きく設定されている。
【0062】
図7は、本実施の形態のガイドワイヤ10と比較用のガイドワイヤA,Bを用いてシェイピングの際の形状を維持する特性を比較したものである。シェイピングは、通常、内側コイル50が設けられている第2平坦部44から第4テーパ部35の範囲で行われるが、本実験では、経験的にシェイピングが施される蓋然性の高い部位を想定して、各ガイドワイヤの先端から約8mmの部分(小径柔軟部42に相当)を約70°に折り曲げたものを用いた。そして、これらのガイドワイヤを内径が0.5mmの樹脂チューブ内に挿入し、チューブ内で10回転させた後にチューブから抜き取った際と、更に10回転させて合計20回転させた後にチューブから抜き取った際の、角度の変形率を測定した。そして、このような実験を複数回行って得られた測定値の平均を示したものが図7である。
尚、樹脂チューブの内径は、比較した際の差が明確となるように本実施の形態のガイドワイヤ10が使用される際に想定される血管よりも狭い内径に設定されている。
【0063】
比較用ガイドワイヤAは、内側コイル50を有しないものの本実施の形態のガイドワイヤ10と同じコアシャフト14を用いているため、最先端部40が細径化されている。このため、10回転ではガイドワイヤ10と比べて大きな差は見られない。しかし、20回転の場合では、シェイピングした形状の変形率が大きくなっている。即ち、本実施の形態のガイドワイヤ10よりもシェイピングの角度が樹脂チューブ内で広げられたまま戻らず、形状が変化したことを示す。従って、内側コイル50は、上記した回転追従性を向上させるだけでなく、シェイピングの形状を維持する性能も向上させることが判る。
【0064】
比較用ガイドワイヤBは、内側コイル50を有しないものの本実施の形態のガイドワイヤ10と先端5〜20mm程度の範囲の剛性を略同じ値とし、略同じ剛性曲線を有するように作成したものである。このため、本実施の形態のガイドワイヤ10よりもシャフトが太くなっている。その結果、10回転、20回転の両方の場合で、ガイドワイヤ10と比べてシェイピングした形状の変形率が大きくなっている。即ち、ガイドワイヤ10と剛性変化が略同じ比較用ガイドワイヤBは、マイクロカテーテルを案内する上での剛性は足りるが、血管内で回転力を付加した際には、容易にシェイピングした角度が変化してしまうことが判る。よって、本実施の形態のガイドワイヤ10は、マイクロカテーテルを案内する上での剛性を確保した上で、シェイピングの形状を維持する性能が向上していることが判る。
【0065】
図8は、本実施の形態のガイドワイヤ10と比較用のガイドワイヤA,Bを用いて復元性を比較したものである。本実験では、シェイピングがなされていない各ガイドワイヤを半径5.0mmで180°に湾曲した内径が0.5mmの樹脂チューブ内に挿入した後、引き抜いた際の、先端部分の変形量を測定した。ガイドワイヤを引き抜く際の引張速度は、約600mm/minとした。また、一般的にガイドワイヤの折れ曲がりが生じやすいガイドワイヤの先端から約55mmの範囲、即ち、ガイドワイヤ10において内側コイル50が存在する範囲が、チューブの湾曲部分を完全に通過するように設置した後に、ガイドワイヤを引き抜いて先端部分の変形量の測定を行った。先端部分の変形量は、引き抜いた後のガイドワイヤを自然状態においた際に略真っ直ぐに延びたガイドワイヤのシャフトの軸線から、湾曲したガイドワイヤの最先端までの直線距離を測定したものである。そして、このような実験を複数回行った測定値の平均を示したものが図8である。
【0066】
比較用ガイドワイヤAは、内側コイル50を有しないものの本実施の形態のガイドワイヤ10と同じコアシャフト14を用いているため、ガイドワイヤ10と比較して先端部分の変形量に大きな差は見られなかった。即ち、復元性に大きな差は見られなかった。
一方、比較用ガイドワイヤBは、ガイドワイヤ10と比較して先端部分の変形量が大きく、復元性が悪いことを示している。即ち、ガイドワイヤ10と剛性変化が略同じである比較用ガイドワイヤBは、マイクロカテーテルを案内する上での剛性は足りるが、屈曲する血管内で外力が作用した際には、容易に変形し、復元し難いことが判る。
よって、本実施の形態のガイドワイヤ10は、内側コイル50を設けたことにより、マイクロカテーテルを案内する上での剛性を確保した上で、シェイピングの形状を維持する性能が向上していることが判る。
【0067】
図7、8の実験結果より、本実施の形態のガイドワイヤ10は、内側コイル50により、
コアシャフト14の先端部分を細径化できるため、マイクロカテーテルを案内する上での剛性を維持しつつ、シェイピングした際に形状を維持する性能が向上し、且つ、復元性が向上する。即ち、一旦、シェイピングして意図的に折れ曲げられた部分の角度は維持され、シェイピングされていない部分が手技中の外力によって折れ曲がることが防止できる。
【0068】
以上の構成に基づいて、本実施の形態のガイドワイヤ10を脳の手技に用いた場合の作用を図9に基づいて説明する。
【0069】
ガイドワイヤ10は、大腿部等から動脈に挿入されることによって頸部を通過し、脳内の動脈301にある目的の治療部位である動脈瘤300に至る。この過程において、ガイドワイヤ10は、マイクロカテーテル200と併用される。この際、ガイドワイヤ10の先端をマイクロカテーテル200の先端から僅かに突出させた状態から所定の距離進行させた後、これを追うようにマイクロカテーテル200を進行させ、マイクロカテーテル200の先端がガイドワイヤ10の先端近傍まで達すると、再度、ガイドワイヤ10を所定の距離進行させることを繰り返しながら、両者を目的の位置に接近させることになる。
この際、ガイドワイヤ10の先端側の所定の部分は、血管の壁面に接触することになるが内側コイル50と外側コイル60からなる二重コイル構造であるため、柔軟なコイル部分が血管壁に接触して、血管を損傷することを可及的に防止できる。
【0070】
即ち、外側コイル60と内側コイル50とは、コイル接合部53によって接続されるのみであり、両者の間には間隙が設けられて、独立しているため、各コイル50,60の柔軟性が失われることが無い。
特に内側コイル50は、複数の素線51からなる撚り線コイルであるため、高い回転追従性を実現できるだけでなく、柔軟であるという特徴を有する。ガイドワイヤ10において、内側コイル50は、両端部がコアシャフト14に接合される他は、コイル接合部53によって外側コイル60のみに接合され、内側コイル50の中間部分ではコアシャフト14には接合されていない。このような構造により、内側コイル50の柔軟性が損なわれることが可及的に防止できるため、撚り線コイルの特性である回転追従性を高めながら安全性を維持できる。
【0071】
更に、ガイドワイヤ10は、内側コイル50を設けたことによるコアシャフト14の剛性の変化だけでなく、外側コイル60を構成する材料や密巻きコイルか疎巻きコイルかによって剛性が変化する部分62a,62b,63の境界と、内側コイル50の内側後端接合部52およびコイル接合部53の位置関係を考慮して、剛性が急激に変化することを可及的に防止した構造となっている。このため、高い回転追従性を備えると共に、ガイドワイヤ10を体内へ軸方向に押し込む時の挿入し易さである押し込み特性も向上する。即ち、剛性が急激に変化することが無いために、ガイドワイヤ10が後端側で操作され、トルクが与えられた際に、トルクの伝達が剛性の変化部で停滞し、操作性が悪化することを可及的に防止できる。
【0072】
図9に模式的に示す様に、ガイドワイヤ10の先端が目的部位である脳内の動脈瘤300の近傍に位置すると、マイクロカテーテル200の先端を動脈瘤300の内部に進入させるために、動脈瘤300の内部に向けてガイドワイヤ10の先端を挿入する作業が行われる。通常、ガイドワイヤ10の先端部分の一部が折り曲げられて角度がつけられるシェイピングと呼ばれる作業により、ガイドワイヤ10の先端部分には角度がつけられており、この角度のつけた部分を動脈瘤300の入り口310がある方向に回転させて挿入することになる。このシェイピングは、通常、第1平坦部43と第2平坦部44の平面に直交する方向から力が与えられて折り曲げられて角度が付けられる。折り曲げられる部分は、手技によって異なるが、通常、内側コイル50が設けられている第2平坦部44から第4テーパ部35の範囲である。
【0073】
特に、シェイピングが行われる蓋然性の高い部分である最先端部40は外側コイル60の疎巻き部62aに位置するため、外側コイル60と内側コイル50の二重コイル構造であっても、疎巻き部62aに設けたれた素線61間の間隙により、シェイピングが容易にできる。
【0074】
ガイドワイヤ10が動脈瘤300の近傍に位置するまでの間、ガイドワイヤ10の先端部分の外径は内側コイル50によって剛性が確保できるため、良好にマイクロカテーテル200を案内できる。しかも、ガイドワイヤ10の先端に施されたシェイピングの角度は、図7で示した特性から明らかなように、動脈瘤300に至るまでに狭い血管内を通過しても、その角度が変化することが可及的に防止される。また、図8で示したように復元性が向上されているために、屈曲した狭い血管内を通過しても、ガイドワイヤ10の先端部が折れ曲がることを可及的に防止できる。
【0075】
動脈瘤300の入り口310に向けてガイドワイヤ10の先端の方向付けを行い、ガイドワイヤ10の先端を動脈瘤300内に挿入する作業は、慎重に行われるが、上記した図5に示す特性からも明らかな様に、本実施の形態のガイドワイヤ10は、0〜90度近傍の範囲で高い回転追従性を示すため、この手技によるガイドワイヤ10の後端側の微妙な回転操作が効果的にガイドワイヤ10の先端側に伝達され、手技を容易に実現することができる。これは、外側コイル60と内側コイル50とをコイル接合部53によって接合したことにより外側コイル60からの回転トルクを内側コイル50に効果的に伝達することができるためである。また、この効果は、コイル接合部53より基端側の外側コイル60の素線61を全て密巻きとしていることにより一層高められる。
【0076】
このようにガイドワイヤ10の先端部分を回転させて、所望の方向にガイドワイヤ10の先端を向けた後、マイクロカテーテル200をガイドワイヤ10に沿って押し進めることにより、マイクロカテーテル200の先端部の方向を変化させる。この時、ガイドワイヤ10の最先端部40には、第1平坦部43と第2平坦部44が設けられて、捻り剛性が高められているため、このマイクロカテーテル200の先端部の方向を変化させることを容易に実現できる。また、第2平坦部44の後端側には、剛性の変化を緩やかにするための第1平坦部43が設けられているため、マイクロカテーテル200の方向を変化させるために、ガイドワイヤ10の先端部分に大きな負荷が作用しても、コアシャフト14の最先端部40が曲がったり、折れたりすることを可及的に防止できる。
更に、コアシャフト14の最先端部40は、内側コイル50に包囲されているため、内側コイル50によって、コアシャフト14の最先端部40に作用する負荷を受けることができ、コアシャフト14の最先端部40が曲がったり、折れたりすることをより一層防止することができる。
【0077】
以上の様に、ガイドワイヤ10に沿ってマイクロカテーテル200を目的の部位に到達させる。この後、ガイドワイヤ10は体内から抜去され、マイクロカテーテル200による治療が行われる。
【0078】
以上述べた実施の形態では、内側コイル50が複数の素線51からなる撚り線コイルによって構成されているが、回転追従性は、撚り線コイル程は向上しないものの、1本の素線からなる単線コイルであっても良い。単線コイルの場合でも、隣接する素線が互いに密着する密巻きのコイルの方が回転追従性の観点からは好ましい。
また、本実施の形態では、ガイドワイヤ10を脳に用いた場合について説明したが、脳以外の心臓その他の臓器にも用いることができる。
【0079】
更に、ガイドワイヤ10の先端部30と最先端部40を構成するテーパ部や、外径が一定の円柱部分の数や外径、軸方向の長さ等の寸法は、所望の剛性により適宜変更し得る。
また、最先端部40の形状も、各種の形状を取り得る。例えば、外径が一定の円柱形状の組み合わせや、略長方形の断面形状を有し、先端に向かうにつれて厚みが薄くなる複数の板状の平坦部を有する形状等、各種の形状が取り得る。
【符号の説明】
【0080】
10 ガイドワイヤ
14 コアシャフト
15 先端チップ(先端接合部)
30 先端部
34 第3テーパ部(中間テーパ部)
35 第4テーパ部(先端テーパ部)
40 最先端部
41 大径柔軟部
42 小径柔軟部
43 第1平坦部
44 第2平坦部
50 内側コイル
51 素線
52 内側後端接合部
53 コイル接合部
60 外側コイル
61 素線
62 不透過部
62a 疎巻き部
62b 密巻き部
63 透過部
64 外側後端接合部
65 外側中間接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアシャフトと、
少なくとも1本の素線が巻回されてなり、前記コアシャフトの先端側部を包囲する内側コイルと、
少なくとも1本の素線が巻回されてなり、前記内側コイルと前記コアシャフトの前記先端側部とを包囲する外側コイルと、
前記外側コイルの先端と前記内側コイルの先端を前記コアシャフトの先端に接合する先端接合部と、
前記外側コイルの後端を前記コアシャフトに接合する外側後端接合部と、
前記内側コイルの後端を前記外側後端接合部より先端側で前記コアシャフトに接合する内側後端接合部と、
前記先端接合部と前記内側後端接合部との間に位置し、前記外側コイルと前記内側コイルのみを互いに接合するコイル接合部と
を備えたことを特徴とするガイドワイヤ。
【請求項2】
前記外側コイルは、前記コイル接合部より先端側において、素線が互いに離間する疎巻きの部分を有することを特徴とする請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
前記外側コイルは、前記コイル接合部より後端側において、素線が互いに接触する密巻きとなっていることを特徴とする請求項1または2に記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記外側コイルは、先端側に放射線不透過性の材料の素線からなる不透過部と後端側に放射線透過性の材料の素線からなる透過部とを有し、
前記不透過部は、先端側に素線が互いに離間する疎巻きに巻回された疎巻き部と、
後端側に素線が互いに接触する密巻きに巻回された密巻き部とを有し、
前記コイル接合部は、前記不透過部の前記密巻き部で前記外側コイルと前記内側コイルとを接合していることを特徴とする請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項5】
前記透過部は、素線が互いに接触する密巻きに巻回されていることを特徴とする請求項4に記載のガイドワイヤ。
【請求項6】
前記コアシャフトの先端には、対向する少なくとも2つの平面部を有する平坦部が設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のガイドワイヤ。
【請求項7】
前記内側コイルは、複数の素線を撚り合わせた中空の撚り線コイルであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のガイドワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−147752(P2011−147752A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93858(P2010−93858)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【Fターム(参考)】