説明

ガスエンジンのための点火システム、当該点火システムを備えるガスエンジンおよび当該ガスエンジンを駆動する方法

【課題】本発明は、ガスエンジンの動作信頼性又は故障に対する安全性を実現可能とする、ガスエンジンのための点火システムを提供する。本発明は、点火システムを備えるガスエンジン及びガスエンジンを駆動する方法も提供する。
【解決手段】ガスエンジンのための点火システムと、点火システムを備えるガスエンジンと、ガスエンジンを駆動する方法とにおいて、点火システムは、燃料ガス混合気をベースとする点火ガス流をガスエンジンのシリンダの予燃焼室内に噴射するための噴射装置と、熱に基づく点火装置を有して成る点火トリガー装置とを有し、熱に基づく点火装置が予燃焼室内に設けられ、それにより熱によって火炎を形成しながら点火ガス流に点火する。本発明は、点火トリガー装置がさらに点火火花発生装置を有することを特徴とし、点火火花発生装置は予燃焼室内に設けられ、それにより点火火花を介して火炎を形成しながら点火ガス流に点火する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンのための点火システムと、このような点火システムを備えるガスエンジンと、このようなガスエンジンを駆動する方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジンは燃料として液体燃料の代わりに、天然ガス、液化ガス、木ガス、バイオガス、埋め立てガス、炭鉱ガス、あるいは水素などが使用され得る内燃機関である。ガスエンジンは例えば定置式に運転される熱電併給用施設において、あるいは船舶用駆動装置として用いられる。
【0003】
近年ガスエンジンのために、当該ガスエンジンを高い効率と高出力で、かつ少ない排ガスで運転できる点火方法が使用できるようになった。このような点火方法はPGI(性能ガス噴射)としても知られており、以下の点を基本とする。すなわち燃料ガス混合気もしくは点火ガスが高圧下でガスエンジンのシリンダの予燃焼室内に噴射され、当該点火ガスはグロープラグなどの熱い表面に接して予燃焼室内で火炎を形成しながら発火するというものである。点火ガスが燃焼するとき、当該点火ガスは膨張し、シリンダの主燃焼室に至る接続開口部を介して当該主燃焼室内にもたらされた燃料ガス混合気に点火を行う。
【0004】
特許文献1からガスエンジンのためのこのような点火システムが知られている。当該文献において点火システムは熱に基づく点火装置を有して成る点火トリガー装置を備えている。当該熱に基づく点火装置はガスエンジンの予燃焼室内に設けられており、予燃焼室内に噴射される点火ガス流に、熱によって火炎を形成しながら点火を行う。
【0005】
同種のさらなる点火装置は例えば特許文献2に記載されている。
【0006】
PGI式ガスエンジンは従来技術によれば、ペンシル型グロープラグなどの熱い表面に接して点火することのみに基づくものである。このときペンシル型グロープラグは低負荷領域において積極的に加熱され、点火に必要な温度に到達する。比較的高いエンジン負荷領域に達して初めて積極的な加熱は停止されるが、それは当該負荷領域に達したときに燃焼を介したエネルギーの取り込みが点火のために必要とされる温度水準を保つために十分となるからである。
【0007】
しかしながらペンシル型グロープラグの制御は非常に困難であることが判明している。ペンシル型グロープラグの過熱は避けなければならない(ペンシル型グロープラグの負荷時の安定性もしくは寿命をあまり大きく損なわないようにするためである)一方で、常に一定の最低温度を(点火の安定性を保つために)保持しなければならないからである。特に部分負荷動作において調整が難しく、ペンシル型グロープラグ(ホットスポット)に接して保護手段を設ける必要があるために調整はさらに困難になる。ホットスポットにおいてはごく小さな製造許容誤差であっても、ペンシル型グロープラグの加熱挙動を変化させかねず、それによって標準的な温度制御が正しく機能しなくなる恐れがある。
【0008】
さらにペンシル型グロープラグの故障は、ガスエンジン全体の故障につながる。ペンシル型グロープラグを積極的に加熱することのさらなる不利点は特にガスエンジンを始動させるために極めて高い温度が必要とされることであり、当該高い温度はペンシル型グロープラグの安定性を著しく損なう。点火に必要な温度水準はガスエンジンの給気圧が増大するにつれて低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】独国特許出願公開第10217996号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102007019882号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題はガスエンジンのための点火システムを提供し、当該点火システムによってガスエンジンの動作信頼性もしくは故障に対する安全性を実現可能とすることである。本発明はまた、このような点火システムを備えるガスエンジンおよび当該ガスエンジンを駆動する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は請求項1に記載の点火システムと、請求項9に記載のガスエンジンと、請求項10に記載の方法とによって解決される。本発明のさらなる形成はそれぞれの従属請求項に記載されている。
【0012】
本発明の第一の態様によればガスエンジン、特にPGI式ガスエンジンのための点火システムは、燃料ガス混合気をベースとする点火ガス流を当該ガスエンジンのシリンダの予燃焼室内に噴射するための噴射装置と、熱に基づく点火装置を有して成る点火トリガー装置とを有しており、当該熱に基づく点火装置は予燃焼室内に設けられるものであり、それにより熱によって火炎を形成しながら点火ガス流に点火を行う。本発明に係る点火システムは、前記点火トリガー装置がさらに点火火花発生装置を有することを特徴とし、当該点火火花発生装置は予燃焼室内に設けられるものであり、それにより点火火花を介して火炎を形成しながら点火ガス流に点火を行う。
【0013】
本発明により、熱に基づく点火装置と点火火花発生装置とが組み合わされる。これにより特に以下のような有利点が得られる。すなわち熱に基づいて点火ガス流の点火を行うための燃焼熱がわずかしかないガスエンジンの始動時および低負荷領域において、点火火花発生装置によって点火ガス流の安定した点火を保証することができる。これによって簡単かつ確実な方法で、特に始動時およびエンジンの低負荷領域から通常の負荷領域におけるガスエンジンの動作信頼性もしくは故障に対する安全性が向上する。
【0014】
点火火花発生装置を用いて支援することにより、従来技術において熱に基づく点火装置のために必要とされた高い加熱温度なしに済ますことが可能であり、それによって熱に基づく点火装置の負荷時の安定性もしくは寿命が向上し、それとともにガスエンジンの動作信頼性もしくは故障に対する安全性も向上する。
【0015】
本発明に係る解決によって、従来技術において見られる、熱に基づく点火装置の過熱を避けることと、当該熱に基づく点火装置の最低温度を保つこととの葛藤も解決される。それによって点火システムの制御、特にフィードバック制御が容易になる。さらに当該システムは製造許容誤差の点でもそれほど容易に故障しなくなるので、それによってコストを節約することができる。
【0016】
さらに点火火花発生装置は当該点火火花発生装置の冗長的な作用のために、熱に基づく点火装置が機能不全などによって作動できない時には、バックアップ点火システムもしくは予備点火システムとして用いることができる。この点もまたガスエンジンの故障に対する安全性を高める。
【0017】
本発明に係る点火システムの実施の形態によれば、熱に基づく点火装置は白熱体を有している。
【0018】
白熱体を用いて、すなわち別個の要素として実現することによって、熱に基づく点火装置を、当該熱に基づく点火装置の寿命が経過した後もしくは故障時に簡単かつ廉価な方法で交換することができる。これによって保守整備コストが低下する一方、ガスエンジンの動作信頼性もしくは故障に対する安全性はさらに向上する。本発明の実施の形態によれば、点火システムは予燃焼室とともに、ガスエンジンのシリンダヘッド内に取り付け可能な挿入部、例えばネジ留め可能な挿入部内に実装されていてよい。
【0019】
本発明に係る点火システムのさらなる実施の形態によれば、白熱体は当該白熱体を燃料ガス混合気の燃焼によってのみ加熱するように構成されている。
【0020】
本発明の前記の形態によれば、熱に基づく点火装置を受動的に(予燃焼室における燃焼によってのみ)加熱することと、点火火花発生装置とが組み合わされている。この場合の有利点は、熱に基づく点火装置を受動的にのみ加熱すると、エンジンの高負荷領域に対して極めて確実に、廉価に、簡単かつ安定性を有して構成できることである。エンジンの通常の負荷領域までの始動には点火火花発生装置が使用され得る。
【0021】
しかしながら白熱体は能動的な加熱と組み合わせられていてもよい。それによって温度を能動的に制御することができ、それによってグロー噴射の調整を向上させることができる。
【0022】
本発明の有利な実施の形態によれば、熱に基づく点火装置は炎トラップ(フレーム・トラップ)と組み合わせられていてよい。当該炎トラップは少なくとも一つの開口部を有する燃焼室を提供し、このとき空気/ガス/排ガスから成る混合気の希薄伸張限界(リーン・ストレッチ・リミット)と化学的ラジカル形成の強い温度依存性(発火に必要である)とが十分に利用され、それによって極めて正確な点火が実現される。
【0023】
このとき前記少なくとも一つの開口部を介して燃焼室の内部空間において、圧縮工程の間に(予燃焼室において)好適な流れの動きによって、先行する燃焼工程から得られる熱い排ガスの多くの部分が集められる。これによって圧縮工程全体の間、燃焼室の内部空間において高い温度が実現される。熱い排ガスの成分によって圧縮工程全体の間に、本来の燃焼がなくても燃焼室の内部空間において、高い濃度の化学的ラジカルが形成され得る。このように前記少なくとも一つの開口部を介して燃焼室に流入するガス成分は本来の火炎面がなくても酸化され得る。これによって内部空間内の温度とラジカル濃度はさらに高められる。
【0024】
燃焼室の内部空間に流入する混合気が点火ガス流によって好適な点火窓にもたらされるとき、火炎面は燃焼室から流出し得る。このとき炎トラップの決定的なパラメータは内部のガス温度(少なくともおよそ1150K)と、少なくとも一つの開口部の容積および幾何学的形状である。
【0025】
本発明に係る点火システムのさらなる実施の形態によれば、点火火花発生装置が取り付けられており、それによって電気エネルギーを基にした点火火花を発生させる。
【0026】
本発明のこのような実施の形態によって、点火火花発生装置を廉価であるとともに極めて良好に制御可能、特にフィードバック制御可能に実現することができる。本発明の当該形態は電気エネルギーによって磨耗の少ない点火火花の発生を行うために、寿命を向上させ、かつ、主にスパーク電極二つのみしか必要としない解決によって保全性を高める。
【0027】
本発明に係る点火システムのさらなる実施の形態によれば、当該点火システムはまた、点火火花発生装置と電気的に接続されている点火電圧制御装置を有している。点火火花を発生させるための点火火花発生装置に電気的な点火電圧を印加するためであるが、当該点火電圧制御装置は、ガスエンジンのエンジン負荷領域に応じて点火電圧の量を制御するように構成されている。
【0028】
点火電圧の量もしくは高さを制御、特にフィードバック制御することによって、点火火花発生装置はガスエンジンの運転状態に応じて当該運転状態に必要な点火電圧で作動され得るため、スパーク電極の磨耗は低減し、それによって寿命が増大するとともに、点火挙動を最適化することによって動作信頼性が向上する。
【0029】
本発明に係る点火システムの実施の形態によれば、点火電圧制御装置は以下のように構成されている。すなわち、点火火花発生装置に対して、ガスエンジンを始動させるため、および熱に基づく点火装置が燃料ガス混合気の燃焼を介して、噴射装置によって噴射される点火ガス流に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱された状態になる時点まで、点火火花を介して点火ガス流に火炎を形成しながら点火を行うために、点火電圧を供給し、熱に基づく点火装置が燃料ガス混合気の燃焼を介して、噴射装置によって噴射される点火ガス流に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱されたときおよび加熱されている限り、ガスエンジンの通常運転において点火火花発生装置に対して点火電圧を供給することを停止するのである。
【0030】
本発明の前記の実施の形態によれば点火火花発生装置は、点火ガス流に対して熱に基づく点火を行うために十分な燃焼熱がないときにのみ用いられる。これにより点火火花発生装置は磨耗が少ないように、もしくは傷めないように作動され、それによって当該点火火花発生装置の寿命およびそれとともに動作信頼性もしくは故障に対する安全性が向上し、保守整備コストが軽減される。
【0031】
熱に基づく点火装置の温度、特に白熱体の温度を決定するために、当該熱に基づく点火装置は温度センサを備えていてよい。
【0032】
本発明に係る点火システムの実施の形態によれば、点火電圧制御装置は以下のように構成されている。すなわち、点火火花発生装置に対して、エンジンの低負荷領域においてエンジンの通常負荷領域における場合よりも少ない量の電気的な点火エネルギーを提供する。
【0033】
本発明により、エンジンの低負荷領域では点火火花発生装置を少ない出力で作動させても、十分に安定的な点火を保証できることが認識された。点火火花発生装置をエンジンの低負荷領域において特に磨耗の少ないように作動させることによって、点火火花発生装置の寿命は著しく向上する。
【0034】
本発明に係る点火システムのさらなる実施の形態によれば、点火火花発生装置は電気的な点火プラグによって形成されている。
【0035】
これによって特に以下のような有利点が得られる。すなわち、点火プラグは大量生産品として廉価かつ即時に調達できるとともに、容易に交換可能である。
【0036】
本発明の第二の態様によればガスエンジンは、本発明に係る前記の一つまたは全ての実施の形態による点火システムを有して実施されている。
【0037】
本発明に係るガスエンジンは、当該ガスエンジンが本発明に係る前記の一つまたは全ての実施の形態による点火システムを有して実施されているために、前記のそれぞれの有利点をも有している。
【0038】
本発明の第三の態様によれば、本発明に係る前記の一つまたは全ての実施の形態による点火システムが実装されているガスエンジンを駆動するための方法が提供される。当該方法において噴射装置はガスエンジンのシリンダの所定の点火時点に対応しながら、シリンダの予燃焼室内に点火ガス流を噴射し、ガスエンジンを始動させるため、および熱に基づく点火装置が予燃焼室における燃料ガス混合気の燃焼を介して、噴射装置によって噴射される点火ガス流に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱された状態になる時点まで、点火火花発生装置が用いられ、それによって点火火花を介して点火ガス流に火炎を形成しながら点火が行われ、熱に基づく点火装置が予燃焼室における燃料ガス混合気の燃焼を介して、噴射装置によって噴射される点火ガス流に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱されたときおよび加熱されている限り、ガスエンジンの通常運転(すなわち運転上の故障のない駆動)において熱に基づく点火装置のみが用いられ、それによって熱を介して点火ガス流に火炎を形成しながら点火が行なわれる。
【0039】
本発明に係る方法によれば、熱に基づく点火装置と点火火花発生装置とが組み合わされる。これにより特に以下のような有利点が得られる。すなわち熱に基づいて点火ガス流の点火を行うための燃焼熱が十分にない場合でも、点火火花発生装置によって点火ガス流の安定した点火を保証することができる。これによって簡単かつ確実な方法で、ガスエンジンの動作信頼性もしくは故障に対する安全性が向上する。
【0040】
点火火花発生装置によって支援することにより、従来技術において熱に基づく点火装置のために必要とされた(能動的な加熱による)高い加熱温度を放棄することが可能となり、それによって熱に基づく点火装置の負荷時の安定性もしくは寿命が増大するとともに、ガスエンジンの動作信頼性もしくは故障に対する安全性がさらに向上する。
【0041】
本発明に係る方法によって従来技術において見られる、熱に基づく点火装置の過熱を避けることと、当該熱に基づく点火装置の最低温度を保つこととの葛藤も解決される。それによって点火システムの制御、特にフィードバック制御が容易になる。
【0042】
さらに点火火花発生装置は当該点火火花発生装置の冗長的な作用のために、熱に基づく点火装置が機能不全などによって故障し、ガスエンジンの通常運転ができない時には、バックアップ点火システムもしくは予備点火システムとして用いることができる。この点もまたガスエンジンの故障に対する安全性を高める。
【0043】
本発明に係る方法の実施の形態によれば、点火火花発生装置はガスエンジンの始動時およびエンジンの低負荷領域から、通常の負荷領域を含んで当該通常の負荷領域まで、点火火花を介して点火ガス流に火炎を形成しながら点火を行うために用いられる。
【0044】
このような方法により、ガスエンジンの始動時およびガスエンジンの低負荷領域から通常の負荷領域までという、点火ガス流に対して熱に基づく点火を行うための燃焼熱がわずかしかないこれらのときにこそ、点火火花発生装置によって点火ガス流に対して安定的な点火を保証することができる。
【0045】
本発明に係る方法のさらなる実施の形態によれば、ガスエンジンの高負荷領域においては熱に基づく点火装置のみが用いられ、熱によって火炎を形成しながら点火ガス流に点火を行う。すなわち点火ガス流に対して熱に基づく点火を行うための燃焼熱が十分にある、エンジンの負荷が比較的高い領域において点火火花発生装置を停止することができ、熱に基づく点火装置のみを用いて磨耗が少なく、かつ廉価な(電気を節約する)運転を行うことができる。
【0046】
本発明に係る方法のさらなる実施の形態によれば、点火火花発生装置に対して、点火火花を発生させるために電気的な点火電圧が印加され、電気的な点火エネルギーの量はガスエンジンの負荷領域に応じて制御される。
【0047】
点火電圧の量もしくは高さを制御、特にフィードバック制御することによって、点火火花発生装置はガスエンジンの運転状態に応じて当該運転状態に必要な点火電圧、すなわち電気的な点火エネルギーで作動され得るため、点火電極の磨耗は低減し、それによって寿命が増大するとともに、点火挙動を最適化することによって動作信頼性が向上する。
【0048】
本発明に係る方法のさらなる実施の形態によれば、点火火花発生装置に対して、エンジンの低負荷領域においてエンジンの通常負荷領域における場合よりも少ない量の点火電圧もしくは電気的な点火エネルギーが印加される。
【0049】
前記のようにエンジンの低負荷領域では点火火花発生装置に供給する点火電圧もしくは電気的な点火エネルギーが少なくても、安定的な点火を保証できることが認識された。点火火花発生装置をエンジンの低負荷領域において特に磨耗の少ないように作動させることによって、点火火花発生装置の寿命は著しく向上する。
【0050】
以下に本発明を好適な実施の形態に基づいて添付の図を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例によるガスエンジンの概略的な部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1は、PGI方式で作動するガスエンジン1の概略的な部分図である。ガスエンジン1は複数の燃焼シリンダ10を有しており、図1には複数の燃焼シリンダのうちの一つの燃焼シリンダのみが示されている。
【0053】
各燃焼シリンダ10(以下において単にシリンダと記載する)は、シリンダ10の主燃焼室11に至るオーバーフロー開口部21,22を備える予燃焼室20を有している。
【0054】
各シリンダ10の予燃焼室20には点火システム30が備えられ、当該点火システムは、シリンダ10のピストン(図示せず)の作用工程、すなわち膨張行程を開始するために、シリンダ10の主燃焼室11に噴射される燃料ガス混合気に点火することができるようになっている。
【0055】
点火システム30はそれぞれ、高圧下で燃料ガス混合気をベースとする点火ガス流41をシリンダ10の予燃焼室20内に噴射するための噴射装置40と、点火トリガー装置50とを有している。点火トリガー装置50は、熱に基づく点火装置60を有している。当該熱に基づく点火装置は、熱によって火炎を形成しながら点火ガス流41に点火を行うために、予燃焼室20内に設けられている。点火トリガー装置は、点火火花を介して火炎を形成しながら点火ガス流41に点火を行うために、点火火花発生装置70をさらに有している。
【0056】
熱に基づく点火装置60は、上記のような中空体として形成された炎トラップ(フレーム・トラップ)もしくは燃焼室61と、ペンシル型グロープラグとして形成された白熱体62とを有している。
【0057】
炎トラップ61は、鋼またはセラミックなどの耐熱性材料から製造されており、一定の大きさ(特に一定の直径)を有して構成されている少なくとも一つの開口部61bを介して到達可能な内部空間61aを有している。
【0058】
白熱体62は、予燃焼室20もしくは炎トラップ61の内部空間61aにおいて、燃料ガス混合気の燃焼を介して当該白熱体が受動的もしくは局所的に加熱されるように構成されている。本発明の別の実施形態によれば、白熱体62は、能動的に加熱可能な素子として(すなわち独自の加熱部を具備して)形成されている場合がある。
【0059】
点火火花発生装置70は、電気的エネルギーに基づいて点火火花を発生させるように構成されている。このような点火花火の発生を実現するために、点火電圧制御装置80が設けられており、当該点火電圧制御装置は電線81を介して点火火花発生装置70と電気的に接続されており、点火火花を発生させるために点火火花発生装置70に電気的な点火電圧を印加する。
【0060】
点火電圧制御装置80は、ガスエンジン1のエンジン負荷領域に応じて点火電圧もしくは電気的な点火エネルギーの大きさを制御、特にフィードバック制御するように構成されている。それによってエンジンの低負荷領域では、点火火花発生装置70に対して、エンジンの通常負荷領域における場合よりも少ない量の点火電圧が印加される。
【0061】
本実施の形態によれば、エンジンの低負荷領域はエンジンの有効出力の約1%から約40%と定義され、エンジンの通常負荷領域はエンジンの有効出力の約41%から約70%と定義され、エンジンの高負荷領域はエンジンの有効出力の約71%から約100%と定義されている。エンジンの負荷に関する別の領域区分も本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0062】
本実施の形態によれば、点火火花発生装置70は電気的な点火プラグによって形成されており、当該点火プラグは予燃焼室20内にネジ留めされており、それによって点火プラグの二つの火花電極71,72が予燃焼室20内に突出している。
【0063】
点火システム30を備えるガスエンジン1を駆動するための本発明に係る方法の実施の形態を以下に説明する。
【0064】
いずれの場合も、ガスエンジン1のシリンダ10のピストンの作用工程、すなわち膨張行程を開始するために、噴射装置40は、シリンダ10の所定の点火タイミングに対応して、点火ガス流41をシリンダ10の予燃焼室20内に噴射する。
【0065】
ガスエンジン1を始動させるとき、および予燃焼室20もしくは炎トラップ61の内部空間61aにおける燃料ガス混合気の燃焼を介して、熱に基づく点火装置60の白熱体62が噴射装置40によって噴射される点火ガス流41に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱された状態になる時点まで、点火火花を介して点火ガス流41に火炎を形成しながら点火を行うために、点火火花発生装置70が用いられる。
【0066】
つまり、点火電圧制御装置80は以下のように構成されている。すなわち、点火電圧制御装置80は、点火火花発生装置70に対して、ガスエンジン1を始動させるとき、および燃料ガス混合気の燃焼を介して、熱に基づく点火装置60(もしくは当該点火装置の白熱体62)が噴射装置40によって噴射される点火ガス流41に安定的に点火を行うのに適した最小温度である約1150Kすなわち877℃に加熱された状態になる時点まで、点火火花を介して点火ガス流(41)に火炎を形成しながら点火を行うために点火電圧を供給し、熱に基づく点火装置60が燃料ガス混合気の燃焼を介して、噴射装置40によって噴射される点火ガス流41に安定的に点火を行うのに適した最小温度に加熱されときおよび加熱されている限り、ガスエンジン1の通常運転における点火火花発生装置70に対する点火電圧の供給が調整されるか、もしくは点火火花発生装置70の運転が停止される。
【0067】
熱に基づく点火装置60の温度、特に白熱体62の温度を決定するために、当該熱に基づく点火装置60は図に示されない温度センサを備えており、当該温度センサは点火電圧制御装置80と電気的に接続されている。
【0068】
本発明の当該実施形態によれば、点火火花発生装置70は、ガスエンジン1の始動時およびガスエンジン1の低負荷領域から通常の負荷領域に至るまで、点火火花を介して点火ガス流41に火炎を形成しながら点火を行うために用いられる。
【0069】
点火電圧制御装置80によって点火火花発生装置70に対して点火火花を発生させるために、電気的な点火電圧が印加され、点火電圧もしくは電気的な点火エネルギーの量もしくは大きさはガスエンジン1の個々のエンジン負荷領域に応じて制御され、それによって点火火花発生装置70は、エンジンの低負荷領域においてエンジンの通常負荷領域における点火電圧よりも低い点火電圧で作動される。
【0070】
点火火花発生装置70によってガスエンジン1を駆動する際、噴射装置40によって予燃焼室20内に噴射される点火ガス流41は、スパーク電極71,72において電気的な点火火花によって火炎を形成しながら点火される。予燃焼室20内のガス状混合物は、オーバーフロー開口部21,22を介して予燃焼室20から、予燃焼室20と連通されている主燃焼室11内に搬送され、それによって空気・燃料混合気(空気・燃料ガス混合物)が点火される。当該空気・燃料混合気はシリンダ10の主燃焼室11内にあり、当該空気・燃料混合気が燃焼する際にシリンダ10内に設けられたピストンの膨張行程もしくは作用工程を開始させる。
【0071】
さらに点火火花発生装置70によってガスエンジン1を駆動する際、熱に基づく点火装置60の白熱体62は、所定の最低温度である約1150Kもしくは877℃にゆっくりと加熱される。
【0072】
さらにガスエンジン1の圧縮工程の間に、先行する個々の燃焼行程から生じる、完全燃焼できない高温なガス状混合物が、シリンダ10の予燃焼室20内に導かれ、炎トラップ61の開口部61bを介して当該炎トラップの内部空間61aに集められる。
【0073】
排ガスによって形成される熱いガス状混合物によって、炎トラップ61の内部空間61aにおいては本来の燃焼がなくても高い濃度の化学的ラジカル(および二酸化炭素)が形成され得る。このように炎トラップ61の内部空間61a内に流入するガス成分は本来の火炎面がなくても酸化され得る。これによって内部空間61a内の温度とラジカル濃度はさらに高められる。
【0074】
熱に基づく点火装置60の白熱体62が予燃焼室20もしくは炎トラップ61の内部空間61aにおける燃料ガス混合気の燃焼を介して、噴射装置40によって噴射される点火ガス流41に安定的に点火を行うのに適した最小温度に加熱された状態であるとき、ガスエンジン1の通常運転において点火火花発生装置70は停止され、その後熱に基づく点火装置60のみが用いられ、熱によって火炎を形成しながら点火ガス流41に点火を行う。
【0075】
すなわち、本発明の当該実施形態によれば、ガスエンジン1の高負荷領域では熱に基づく点火装置60のみが用いられ、熱によって火炎を形成しながら点火ガス流41に点火を行う。
【0076】
熱に基づく点火装置60のみによってガスエンジン1を駆動するとき、ガスエンジン1の圧縮工程の間に、先行する当該ガスエンジンの燃焼行程から生じる、熱く、かつ完全燃焼できないガス状混合物はシリンダ10の予燃焼室20内に導かれ、炎トラップ61の開口部61bを介して当該炎トラップの内部空間61aに集められる。
【0077】
その後、内部空間61aに集められた完全燃焼できないガス状混合物は、白熱体62を用いて最小温度である1150Kすなわち877℃に保たれる。
【0078】
排ガスによって形成される熱いガス状混合物によって、圧縮工程全体を通じて炎トラップ61の内部空間61aにおいては本来の燃焼がなくても高い濃度の化学的ラジカル(および二酸化炭素)が形成される。これによって、炎トラップ61の内部空間61a内に流入するガス成分は本来の火炎面がなくても酸化される。これによって、内部空間61a内の温度とラジカル濃度とはさらに高められる。
【0079】
完全燃焼できないガス状混合物は、排ガス濃度(二酸化炭素)、混合比(Lambda)、乱流および流入速度に関して、内部空間61aの外もしくは開口部61b内で希薄混合気の火炎伸張の限界(リーン・ストレッチ・リミット)による消炎が生じ、それによって炎トラップ61の内部空間61aから化学反応が火炎面の形で流出しないような値を有している。そのために反応(「火炎」)は当面、炎トラップ61の内部空間61aにとどめられ、これによって炎トラップ61の内部空間61aには外見上、「固定的な火炎面」が形成されている。
【0080】
ガスエンジン1のシリンダ10の所定の点火時点に対応する時点において、噴射装置40は高圧下で点火ガス流41を予燃焼室20内に噴射し、それによって炎トラップ61の開口部61bを介して流入する点火ガス流41の燃料ガス混合気は、炎トラップ61の内部空間61aにある当該時点まで完全燃焼できないガス状混合物を増大させ、もしくは当該完全燃焼できないガス状混合物の燃料成分を増大させ、それによって成立したガス状混合物は十分に熱くなった白熱体62に接して発火し、火炎を形成しながら燃焼する。
【0081】
ガス状混合物がこのように火炎を形成しながら燃焼するとき、炎トラップ61の開口部61bを介して炎トラップ61の内部空間61aから火炎面が流出する。炎トラップ61の内部空間61aから流出する当該火炎面は、予燃焼室20内のガス状混合物に火炎を形成しながら点火を行う。予燃焼室20内のガス状混合物の燃焼は膨張によって、オーバーフロー開口部21,22を介して予燃焼室20から、当該予燃焼室20と連通されているガスエンジン1のシリンダ10の主燃焼室11内に搬送され、それによってシリンダ10の主燃焼室11において空気・燃料混合気に点火が行われる。当該空気・燃料混合気は当該空気・燃料混合気が燃焼する際にシリンダ10内に設けられたピストンの膨張行程もしくは作用工程を開始させる。
【0082】
最後に本発明に係るPGI方式によるガスエンジン1において、予燃焼室20内に噴射される点火ガス流41と、シリンダ10の主燃焼室11内に噴射される空気・燃料混合気(空気・燃料ガス混合物)とは、同一のガス状燃料もしくは燃焼ガスをベースとしている点を述べておく。
【符号の説明】
【0083】
1 ガスエンジン
10(燃焼)シリンダ
11 主燃焼室
20 予燃焼室
21 オーバーフロー開口部
22 オーバーフロー開口部
30 点火システム
40 噴射装置
41 点火ガス流
50 点火トリガー装置
60 熱に基づく点火装置
61 炎トラップ
61a 内部空間
61b 開口部
62 白熱体
70 点火火花発生装置
71 スパーク電極
72 スパーク電極
80 点火電圧制御装置
81 電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスエンジン(1)のための点火システム(30)であって、燃料ガス混合気をベースとする点火ガス流(41)を当該ガスエンジン(1)のシリンダ(10)の予燃焼室(20)内に噴射するための噴射装置(40)と、熱に基づく点火装置(60)を有して成る点火トリガー装置(50)とを有しており、当該熱に基づく点火装置は前記予燃焼室(20)内に設けられるものであり、それにより熱によって火炎を形成しながら前記点火ガス流(41)に点火を行う、点火システムにおいて、
前記点火トリガー装置(50)はさらに点火火花発生装置(70)を有し、当該点火火花発生装置は前記予燃焼室(20)内に設けられるものであり、それにより点火火花を介して火炎を形成しながら前記点火ガス流(41)に点火を行うことを特徴とする点火システム(30)。
【請求項2】
前記熱に基づく点火装置(60)は白熱体(62)を有していることを特徴とする請求項1に記載の点火システム(30)。
【請求項3】
前記白熱体(62)は燃料ガス混合気の燃焼を介してのみ当該白熱体を加熱するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の点火システム(30)。
【請求項4】
前記白熱体(62)は能動的な加熱と組み合わせ可能であり、それによって温度を能動的に制御できることを特徴とする請求項2に記載の点火システム(30)。
【請求項5】
前記点火火花発生装置(70)は電気エネルギーに基づく点火火花を発生させるように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の点火システム(30)。
【請求項6】
点火火花を発生させるための前記点火火花発生装置(70)に電気的な点火電圧を印加するために、前記点火火花発生装置(70)と電気的に接続されている点火電圧制御装置(80)とを有して成るとともに、前記点火電圧制御装置(80)は、前記ガスエンジン(1)のエンジン負荷領域に応じて点火電圧もしくは電気的な点火エネルギーの量を制御するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の点火システム(30)。
【請求項7】
前記点火電圧制御装置(80)は、前記点火火花発生装置(70)に対して、前記ガスエンジン(1)を始動させるとき、および前記熱に基づく点火装置(60)が燃料ガス混合気の燃焼を介して、前記噴射装置(40)によって噴射される点火ガス流(41)に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱された状態になる時点まで、点火火花を介して前記点火ガス流(41)に火炎を形成しながら点火を行うために、点火電圧を供給し、前記熱に基づく点火装置(60)が燃料ガス混合気の燃焼を介して、前記噴射装置(40)によって噴射される点火ガス流(41)に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱されたときおよび加熱されている限り、前記ガスエンジン(1)の通常運転において前記点火火花発生装置(70)に対して点火電圧を供給することを停止するように構成されていることを特徴とする請求項6に記載の点火システム(30)。
【請求項8】
前記点火電圧制御装置(80)は、前記点火火花発生装置(70)に対して、エンジンの低負荷領域では、エンジンの通常負荷領域における場合よりも低い点火電圧もしくは電気的なエネルギーを印加するように構成されていることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の点火システム(30)。
【請求項9】
前記点火火花発生装置(70)は電気的な点火プラグによって形成されていることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の点火システム(30)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の点火システム(30)を備えることを特徴とするガスエンジン(1)。
【請求項11】
請求項1から7のいずれか一項に記載の点火システム(30)を備えるガスエンジン(1)を駆動する方法であって、
前記噴射装置(40)は前記ガスエンジン(1)の前記シリンダ(10)の所定の点火時点に対応しながら、前記シリンダ(10)の前記予燃焼室(20)内に点火ガス流(41)を噴射し、
前記ガスエンジン(1)を始動させるとき、および前記熱に基づく点火装置(60)が燃料ガス混合気の燃焼を介して、前記噴射装置(40)によって噴射される点火ガス流(41)に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱された状態になる時点まで、前記点火火花発生装置(70)が用いられ、それによって点火火花を介して前記点火ガス流(41)に火炎を形成しながら点火が行われ、
前記熱に基づく点火装置(60)が燃料ガス混合気の燃焼を介して、前記噴射装置(40)によって噴射される点火ガス流(41)に安定的に点火を行うのに適した温度に加熱されたときおよび加熱されている限り、前記ガスエンジンの通常運転において前記熱に基づく点火装置(60)のみが用いられ、それによって熱を介して前記点火ガス流(41)に火炎を形成しながら点火が行われることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記点火火花発生装置(70)は前記ガスエンジン(1)の始動時および前記ガスエンジン(1)の低負荷領域から、通常の負荷領域を含む当該通常の負荷領域まで、点火火花を介して前記点火ガス流(41)に火炎を形成しながら点火を行うために用いられることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ガスエンジン(1)の高負荷領域においては前記熱に基づく点火装置(60)のみが用いられ、それにより、熱によって火炎を形成しながら前記点火ガス流(41)に点火を行うことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記点火火花発生装置(70)に対して、点火火花を発生させるために電気的な点火電圧もしくは点火エネルギーが印加され、当該点火電圧の量は前記ガスエンジン(1)の負荷領域に応じて制御されることを特徴とする請求項11から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記点火火花発生装置(70)に対して、エンジンの低負荷領域においてエンジンの通常負荷領域における場合よりも低い点火電圧もしくは点火エネルギーが印加されることを特徴とする請求項14に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−242739(P2010−242739A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256160(P2009−256160)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(500334036)エムアーエヌ・ディーゼル・エスエー (78)
【Fターム(参考)】