説明

ガスエンジンの給気装置

【課題】外気と未精製ガスとの混合気を過給機に供給し、該混合気を過給機で過給するガスエンジンの給気装置であって、外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合における始動性の低下を防止することができるとともに、未精製ガスに含まれる不純物を除去し、該不純物がエンジンに流入することを防止すること。
【解決手段】過給機を有するガスエンジンの給気装置において、室外空気と未精製ガスとの混合気を前記過給機に導く第1の吸気通路と、室内空気を前記過給機に導く第2の吸気通路と、を有し、前記第1の吸気通路上に、前記未精製ガス中の固体不純物を除去するフィルタと、該フィルタの下流側に第1の吸気通路を開閉可能な第1のダンパを設け、前記第2の吸気通路上に、前記室内空気を加熱する加熱手段と、該加熱手段の下流側に第2の吸気通路を開閉可能な第2のダンパを設け、前記第1のダンパ及び第2のダンパの開度を制御するダンパ制御装置を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスエンジンに吸入される空気若しくは該空気と未精製ガスとの混合気を過給する過給機を有するガスエンジンの給気装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過給機を介して給気された空気と、燃料ガスとを混合して燃焼室内に供給し、エンジンを着火燃焼させるガスエンジンシステムが広く知られている。
ガスエンジンシステムにおいては、例えば冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合、前記空気として外気を使用すると、ガスエンジン始動時に低温の外気を吸気するため、エンジンの始動性が低下してしまうという問題がある。
【0003】
そこで、冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合における始動性の低下を防止することができる技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された技術は、エンジンに室外の空気(外気)を導く通路とエンジンに室内の空気(内気)を導く通路を有し、エンジンの負荷が所定値未満であるときは内気のみをエンジンに供給するとともに内気を加温し、エンジンの負荷が所定値以上であるときは外気のみをエンジンに供給するガスエンジンシステムに関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−83181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガスエンジンシステムにおいては、過給機に吸気する空気及び燃料として、炭鉱から排出される通気メタンガス(VAM)に代表される精製されていないガス(以下、未精製ガスと称する)を使用することがある。前記未精製ガスは、塵等の固体不純物を含む場合が多く、特に、未精製ガスを空気として使用して外気とともに過給機に供給する際には、装置の磨耗やエンジンの異常燃焼の原因となるため、前記不純物を除去する必要がある。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、前述のように冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合における始動性の低下を抑制は可能であるものの、未精製ガスを外気とともに過給機に供給する場合については考慮されていない。そのため、未精製ガスを外気とともに過給機に供給する場合に特許文献1に開示された技術を適用すると、前記不純物を除去することができず、不純物がエンジンに流入してエンジンが正常に作動しなくなる可能性がある。
【0007】
従って、本発明はかかる従来技術の問題に鑑み、外気と未精製ガスとの混合気を過給機に供給し、該混合気を過給機で過給するガスエンジンの給気装置であって、冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合における始動性の低下を防止することができるとともに、未精製ガスに含まれる不純物を除去し、該不純物がエンジンに流入することを防止することができるガスエンジンの給気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明においては、過給機を有するガスエンジンの給気装置において、室外空気と未精製ガスとの混合気を前記過給機に導く第1の吸気通路と、室内空気を前記過給機に導く第2の吸気通路と、を有し、前記第1の吸気通路上に、前記未精製ガス中の固体不純物を除去するフィルタと、該フィルタの下流側に第1の吸気通路を開閉可能な第1のダンパを設け、前記第2の吸気通路上に、前記室内空気を加熱する加熱手段と、該加熱手段の下流側に第2の吸気通路を開閉可能な第2のダンパを設け、前記第1のダンパ及び第2のダンパの開度を制御するダンパ制御装置を設けたことを特徴とする。
【0009】
これにより、エンジンの始動時には、室外空気温度・室内空気温度のうちエンジンの始動性を低下させない温度範囲である空気または前記混合気を、室外空気温度がエンジンの始動性を低下させる温度範囲である場合には室内空気を過給機に供給するように切り替えることができる。従って、冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合であっても、エンジンの始動性の低下を抑制することが可能である。
【0010】
また、フィルタを設けることで、未精製ガスに含まれる不純物を捕集することができ、未精製ガスに含まれる不純物を除去し、該不純物がエンジンに流入することを防止することができる。
【0011】
また、前記室外空気と未精製ガスとの混合気の温度を検出する室外空気温度計と、
前記室内空気の温度を検出する室内空気温度計とを設け、前記ダンパ制御装置は、室外空気温度が予め定めた所定温度より低温且つ室内空気温度が室外空気温度より高温である第1条件であるか、室外空気温度が予め定めた所定温度より高温又は室外空気温度が室内空気温度より高温である第2条件であるかを判断する温度判断部と、前記温度判断部の判断に基づいて、前記第1条件である場合に前記第1のダンパを閉且つ前記第2のダンパを開とし、前記第2条件である場合に前記第1のダンパを開且つ前記第2のダンパを閉とするダンパ開度制御部とを有するとよい。
さらに、前記温度判断部は、室外空気温度が予め定めた前記所定温度よりも高温且つ該所定温度よりも高温に予め定めた第2の所定温度よりも低温である第3条件であるか、室外空気温度が前記第2の所定温度よりも高温且つ室外空気温度が室内空気温度よりも低温である第4条件であるか、室外空気温度が前記第2の所定温度よりも高温且つ室外空気温度が室内空気温度よりも高温である第5条件であるかを判断するものであって、
前記ダンパ開度制御部は、前記温度判断部の判断に基づいて、前記第3条件又は第4条件である場合に前記第1のダンパを開且つ前記第2のダンパを閉とし、前記第5条件である場合には前記第1のダンパを閉且つ前記第2のダンパを開とするものであるとよい。
【0012】
これにより、エンジンの始動時においては、室外空気温度がエンジンの始動性を低下させない温度範囲である場合には室外空気と未精製ガスの混合気を、室外空気温度がエンジンの始動性を低下させる温度範囲である場合には室外空気と未精製ガスの混合気と室内空気の何れか始動性の低下させる度合いが小さい方を過給機に供給することができる。従って、冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合であっても、エンジンの始動性の低下を抑制することが可能である。
また、始動時にのみ室内空気を取り入れればよいため、室外空気とともに未精製ガスを取り入れる時間を長く確保することができる。
【0013】
また、前記ダンパ開度制御部は、前記第1条件である場合に前記第2のダンパが開となっていることを条件に前記第1のダンパを閉とし、前記第2条件である場合に前記第1のダンパが開となっていることを条件に前記第2のダンパを閉とするダンパ動作遅延手段を有するとよい。
これにより、第1のダンパ及び第2のダンパの開閉の切替の際に、第1のダンパ及び第2のダンパの両方が閉じて過給機に吸気が供給されなくなる状態の発生を防止することができる。従って、過給機への吸気の停止に起因する過給機のサージングの発生を防止することができる。
【0014】
また、前記フィルタの上流と下流との差圧を検出する差圧検出手段と、
前記ダンパ制御装置は、前記差圧が予め定めた所定差圧以上である条件で前記第2のダンパを開とし、前記差圧が予め定めた所定差圧未満である条件で前記第2のダンパを閉とするとよい。
【0015】
これにより、フィルタが不純物の捕集によって経年的に目詰まりを起こし、これによりフィルタの下流側に配置される過給機に対する背圧が上昇し、背圧の上昇によって過給機がサージングを起こすことを防止することができる。
【0016】
また、前記過給機の回転数を検出する回転数計と、前記過給機に供給する吸気量を検出する吸気量計と、前記過給機により過給された空気の圧力(給気圧)を検出する圧力計と、該圧力計の検出値と大気圧に基づいて給気圧と大気圧の比である圧力比を演算する圧力比演算手段とを設け、前記差圧検出手段は、前記フィルタの差圧上昇のない条件で予め作成した前記過給機の回転数と、前記過給機に供給する吸気量と、前記過給機により過給された吸気の圧力(給気圧)と大気圧との比である圧力比との関係を記憶した差圧マップと、前記吸気量計によって検出される吸気量と前記圧力比演算手段によって演算される圧力比条件において前記マップから決定される過給機の回転数よりも、前記回転数計によって検出される過給機の回転数が予め定めた所定量以上大きい場合に前記差圧が予め定めた所定差圧以上であると判断する差圧判断部とを有するとよい。
通常、ガスエンジンの給気系には前記回転数計、空気量計、圧力計が設けられているため、新たな計器を設けることなく発明の実施が可能となる。
【0017】
また、前記ガスエンジンは、炭鉱メタンガスを燃料とするガスエンジンであって、前記未精製ガスは、炭鉱から排出される通気メタンガスであるVAM(Ventilation Air Methane)であるとよい。
これにより、炭鉱メタンガスを燃料とし、未精製ガスとしてVAMを利用するガスエンジンについても、冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合における始動性の低下を防止、及び未精製ガスに含まれる不純物を除去し、該不純物がエンジンに流入することを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、外気と未精製ガスとの混合気を過給機に供給し、該混合気を過給機で過給するガスエンジンの給気装置であって、冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合における始動性の低下を防止することができるとともに、未精製ガスに含まれる不純物を除去し、該不純物がエンジンに流入することを防止することができるガスエンジンの給気装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例に係るガスエンジンの給気装置を含むガスエンジンシステムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】実施例におけるダンパ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】エンジンの始動時から連続運転時にかけての第1のダンパ及び第2のダンパの開閉の制御に係るフローチャートである。
【図4】エンジンの始動時から連続運転時にかけての第1のダンパ及び第2のダンパの開閉の制御に係る別の例のフローチャートである。
【図5】実施例における吸気フィルタの差圧判断に用いるマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りはこの発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例】
【0021】
図1は、実施例に係るガスエンジンの給気装置を含むガスエンジンシステムの全体構成を示すブロック図であり、図2は、実施例におけるダンパ制御装置の構成を示すブロック図である。
まず、図1及び図2を参照して、本実施例に係るガスエンジンシステムの全体構成について説明する。図1において、4はエンジン(ガスエンジン)であって、6はエンジンに直結駆動される発電機、8はフライホイールである。また、また、14は排気タービン14a及びコンプレッサ14bからなる過給機である。
【0022】
10はエンジン4のシリンダヘッドである。
各シリンダヘッド10の給気入口には給気枝管12が接続されている。コンプレッサ14bの給気出口と各給気枝管3とは、給気管16で接続されており、給気管16上には給気管16を流れる給気を冷却する空気冷却器18が設けられている。
【0023】
また、各シリンダヘッド10の排気出口には複数の排気管20が接続され、複数の排気管20は排気集合管22に接続されている。排気集合管22には、排気タービン14aの排気ガス出口からの排気ガスを排出するための排気出口管24が接続されている。排気出口管24には、排気タービン14aをバイパスする排気バイパス路26が設けられている。排気バイパス路26は、排気集合管22の排気タービン14a入口側から分岐されて排気タービン7aをバイパスし、排気タービン7a出口側の排気出口管24に接続されている。排気バイパス路26には、排気バイパス路26を開閉する排気バイパス弁28が設けられている。
【0024】
過給機14のコンプレッサ14bに外部から空気を導入するための第1の吸気通路30と、第2の吸気通路32が設けられている。第1の吸気通路30と第2の吸気通路32は合流して合流通路34となって、過給機14の入口側に接続されている。
【0025】
第1の吸気通路30の入口は、図1に示したように、屋外に設けられており、第1の吸気通路30には室外空気が導入されるとともに、外部より未精製ガスであるVAM(Ventilation Air Methane)を導入可能にVAM導入管36が接続されている。ここでVAMとは、低濃度炭鉱メタンガスの一種であって、炭鉱内の安全確保の為に通気システムにより大気放出されるガスであり、メタン濃度は0.3〜0.7%程度のものである。即ち、第1の吸気通路30は、屋外空気とVAMとの混合気を形成し、該混合気を合流通路34を介して過給機14のコンプレッサ14bに供給するためのものである。
【0026】
第1の吸気通路30には、吸気フィルタ38が設けられており、吸気フィルタ38の下流側には第1の吸気通路30を開閉するためのモータ41によって駆動する第1のダンパ40が設けられている。さらに、吸気フィルタ38の上流と下流との差圧Δpを検出する差圧計42が設けられている。また、前記混合気の温度(以下室外吸気温度と称する)T2を検出する室外空気温度計44が設けられている。また、合流通路34内の温度を検出する合流通路温度計45が設けられている。
【0027】
また、第2の吸気通路32の入口は、図1に示したように、屋内に設けられており、第2の吸気通路32には室内空気が導入される。
第2の吸気通路32には、導入された室内空気を加熱するためのヒータ46が設けられており、ヒータ46の下流側には第2の吸気通路32を開閉するためのモータ49によって駆動する第2のダンパ48が設けられている。
さらに、第2の吸気通路32に導入される室内空気温度T1を検出するための室内空気温度計50が、第2の吸気通路32外であって室内に設けられている。
【0028】
52は、燃料ガスが導入されるガス供給管である。ガス供給管52は途中でシリンダ毎に分岐されガス供給枝管54となって各給気枝管12に接続されている。なお、56は各ガス供給枝管54に設置されて各ガス供給枝管56の通路面積即ち燃料ガス流量を制御する燃料流量制御弁である。燃料ガスとしては、未精製ガスであるCMM(Coal Mine Methane)が使用される。ここでCMMとは、炭鉱掘削中にガス抜きにより回収されるガスであって、メタン濃度は30〜50%程度のものである。
【0029】
さらに、ダンパ41及びダンパ49の開度を制御するためのダンパ制御装置58が設けられている。ダンパ制御装置58は、温度判断部60、ダンパ開度制御部62及び差圧判断部64とを有する。温度判断部60、ダンパ開度制御部62及び差圧判断部64については後述する。
【0030】
以上の構成のガスエンジンの運転時においては、合流通路34からの空気は、コンプレッサ14bに導入される。コンプレッサ14bで高温高圧に加圧された空気は、空気冷却器18で冷却されて降温し、給気管16を通って各シリンダの給気枝管12に流入する。
一方、燃料ガス(CMM)はガス供給管52、各ガス供給枝管54を通り、各給気枝管12に入り、給気枝管12内の前記空気に混入されて各シリンダ内に送り込まれ、エンジン4が駆動し、発電機6が駆動する。
【0031】
そして、エンジン4の各シリンダからの排気ガスは排気管20を通って排気集合管22で合流され、過給機14の排気タービン14aに供給されて排気タービン14aを駆動し、排気出口管24を通って外部に排出される。また、コンプレッサ14bの必要能力に応じて排気バイパス弁28が開かれると、排気集合管22内の排気ガスの一部は排気タービン7aをバイパスして排気出口管24に排出される。
【0032】
次に、ダンパ40及び48の制御、即ち過給機14のコンプレッサ14bへ供給される空気の制御について図3を参照して説明する。
図3は、エンジン4の始動時から連続運転時にかけての第1のダンパ40及び第2のダンパ48の開閉の制御に係るフローチャートであり、ダンパ制御装置58の制御に係るものである。
【0033】
エンジン4の開始指令が出されるとステップS1に進む。
ステップS1では、温度判断部60にて室外吸気温度T2が吸気切替域温度TLよりも高いか否かを判断する。ステップS1でYESと判断されるとステップS2へ、ステップS1でNOと判断されるとステップS3に進む。
ここで、吸気切替域温度TLとは、室外空気温度T2が吸気切替域温度TL以下である場合には、吸気温度が低くエンジンの始動性が低下してしまう温度を表しており、エンジン4の性能によりエンジン毎に個々に決定される温度である。
【0034】
ステップS2では、温度判断部60にて室外吸気温度T2が吸気切替域温度TH未満であるか否かを判断する。ステップS2でYESと判断される、即ち室外吸気温度T2がTL<T2<THの範囲である場合にはステップS5へ進む。ステップS2でNOと判断される、即ち室外給気温度T2がT2>THである場合にはステップS4へ進む。
ここで吸気切替域温度THとは、室外空気温度T2が吸気切替域温度TH以上である場合には、吸気温度が高くエンジンの始動性が低下してしまう温度を表しており、TH>TLであり、エンジン4の性能によりエンジン毎に個々に決定される温度である。
【0035】
ステップS3では、温度判断部60にて室外吸気温度T2が室内吸気温度T1よりも高いか否かを判断する。ステップS3でYESと判断される、即ち室外吸気温度T2がT2<TL且つT2>T1の範囲である場合にはステップS5へ進む。ステップS3でNOと判断される、即ち室外吸気温度T2がT2<TL且つT2<T1である場合にはステップS6へ進む。
【0036】
また、ステップS4では、温度判断部60にて室内吸気温度T1が室外吸気温度T2よりも高いか否かを判断する。ステップS4でYESと判断される、即ち室外吸気温度T2がTH<T2且つT1>T2である場合にはステップS5へ進む。ステップS4でNOと判断される、即ち室外吸気温度T2がTH<T2且つT1<T2である場合にはステップS6へ進む。
【0037】
まとめると、ステップS1〜ステップS4においては、室外吸気温度T2がTL<T2<THの範囲、T2>TH且つT1>T2の範囲、又はT2<TL且つT2>T1の範囲である場合にステップS5に進む。また、室外吸気温度T2がT2<TL且つT2<T1の範囲、又はTH<T2且つT1<T2の範囲である場合にステップS6に進む。
【0038】
ステップS5に進むと、ダンパ開度制御部62は、内部に有するダンパ動作遅延手段63により、ダンパ40が開となっている場合にはモータ49を制御してダンパ48を閉じる。ダンパ40が開となっていない場合には、モータ41を制御してダンパ40を開け、その後、モータ49を制御してダンパ48を閉じる。
これにより、室外空気とVAMの混合気が、フィルタ38及びダンパ40を介し、第1の吸気通路30及び合流通路34を通って、過給機14を構成するコンプレッサ14bに供給される。
また、ダンパ40を開けてからダンパ48を閉じることで、ダンパ40及びダンパ48の両方が閉じて過給機に吸気が供給されなくなる状態の発生を防止することができる。
【0039】
ステップS5で室外空気とVAMの混合気がコンプレッサ14bに供給されると、ステップS7に進む。
ステップS7では、差圧判断部64により、差圧計42の検出値に基づいて、吸気フィルタ38の前後差圧Δpが吸気フィルタ清掃要求差圧ΔpHよりも高いか否か判断する。ここで、吸気フィルタは捕集した不純物の存在により前後差圧が上昇するが、捕集した不純物の堆積量が多くなり吸気フィルタの清掃が必要となるときの下限の吸気フィルタ前後差圧が吸気フィルタ清掃要求差圧ΔpHである。
【0040】
ステップS7でYES、即ち吸気フィルタ38の前後差圧Δpが吸気フィルタ清掃要求差圧ΔpHを越えた場合にはステップS8に進み、越えない場合には越えるまで運転を継続する。
【0041】
ステップS8では、ダンパ開度制御部62はモータ41を制御してダンパ40を閉じる。これにより、室外空気とVAMの混合気のコンプレッサ14bへの供給が停止し、吸気フィルタ38を室外空気とVAMの混合気が流通しなくなり吸気フィルタの清掃が可能となる。
なお、ステップS8において室外空気とVAMの混合気のコンプレッサ14bへの供給を停止した際に、ダンパ48を開けて室内空気をコンプレッサ14bへ供給することもできる。この場合には、エンジン4の運転を停止することなく吸気フィルタ38の清掃が可能となる。
【0042】
一方、ステップS6では、ダンパ開度制御部62は、内部に有するダンパ動作遅延手段63により、ダンパ48が開となっている場合にはモータ41を制御してダンパ40を閉じる。ダンパ48が開となっていない場合には、モータ49を制御してダンパ48を開けた後、モータ41を制御してダンパ40を閉じる。
これにより、室内空気がヒータ46によって温められ、ダンパ48を介し、第2の吸気通路32及び合流通路34を通って、過給機14を構成するコンプレッサ14bに供給される。
ステップS6で室内空気がコンプレッサ14bに供給されると、ステップS1に戻る。
【0043】
以上の構成及び動作によれば、エンジン4の始動時には、室外空気温度T2がエンジン4の始動性を低下させない温度範囲である場合には室外空気とVAMの混合気を、室外空気温度T2がエンジン4の始動性を低下させる温度範囲である場合には室外空気とVAMの混合気と室内空気の何れか始動性の低下させる度合いが小さい方をコンプレッサ14bに供給することができる。
これにより、冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合であっても、エンジンの始動性の低下を抑制することが可能である。
【0044】
また、室外空気温度T2がエンジン4の始動性を低下させない温度範囲である場合には室外空気とVAMの混合気を導入することにより、エンジン4の始動時において室外空気とVAMの混合気の導入時間をエンジン4の始動性を低下させない範囲で長くすることができる。これにより、VAMを可能な限り多く処理することができる。
【0045】
また、吸気フィルタ38を設けることでVAMに含まれる不純物の捕集が可能となり、吸気フィルタ38の差圧上昇によりダンパ40を閉じることで、吸気フィルタ38が不純物の捕集によって経年的に目詰まりを起こし、これにより吸気フィルタ38の下流側に配置される過給機14に対する背圧が上昇し、背圧の上昇によって過給機14がサージングを起こすことを防止することができる。
さらに、吸気フィルタ38の清掃時においても、前述のように、ダンパ48を開けて室内空気をコンプレッサ14bへ供給することで、エンジン4の運転を停止することなく吸気フィルタ38の清掃が可能となる。
また、吸気フィルタ38の清掃時でなくとも、吸気フィルタ38の経年劣化により第1の吸気通路からの空気供給量が減少した場合には、第2のダンパ48を開けることで不足分の吸気を供給することができる。これにより、吸気フィルタの経年劣化に寄らず常に過給機が最適な効率で運転可能となる。
【0046】
さらに、ダンパ制御装置58の制御を図4に示したフローチャートの手順とすることもできる。
図4は、実施例におけるエンジン4の始動時から連続運転時にかけての第1のダンパ40及び第2のダンパ48の開閉の制御に係る別の例のフローチャートである。図4においては、ステップS9を設けた以外は図3と同じであるので、ステップS9に係る部分以外については図示を省略し、その説明も省略する。
【0047】
図4においては、ステップS6で室内吸気が過給機に供給されると、燃料の供給によりエンジン4が始動する。
ステップS9では、別途設ける着火性判断手段により、出力監視、燃焼室圧力、諸温度の監視により十分な着火性が確保されたか否かを判断する。
ステップS9でYES即ち着火性が十分であると判断されると、ダンパ開度制御部62によりダンパ40を開であればダンパ48を閉とし、ダンパ40が閉であればダンパ40を開とした後にダンパ48を閉とする。
ステップS9でNO即ち着火性が十分でないと判断されると、ステップS1に戻る。
着火性が十分か否かを判断するステップS9を設けることにより、室外空気とVAMの混合気を過給機に供給する時間を長く確保することができ、VAMを多く処理することができる。
【0048】
さらに、図1及び図2に示したようにカレンダー機構74を設けることができる。図1及び図2においてはカレンダー機構74をダンパ制御装置58内に設けているが、ダンパ開度制御部62に信号を送ることができれば他の場所に設けられていてもよい。
この場合、カレンダー機構74から現時点の日時が温度判断部に送られる。
そして、図3に示したフローチャートにおいて、ステップS1でNO即ちT2<TLである場合にはステップS3とは別に、現在の日時が特定時であるか否か判断する。そして現在の日時が特定時であればステップS3の結果に関わらずステップS6に進むようにする。ここで、特定時とは予め定めた外気温が低いと予想される日時を意味し、例えば冬場の深夜早朝等が該当する。
カレンダー機構74を設けることで、室内空気を使用する可能性が高い特定時に、ダンパ40及びダンパ48を頻繁に切替ることを防止することができる。
【0049】
さらにまた、本実施例においては、吸気フィルタ38の前後差圧の上昇を差圧計42によって判断したが、差圧計42に替えて又は差圧計42とともにマップ72を用いて吸気フィルタ38の前後差圧の上昇を判断することができる。
【0050】
この場合、過給機14を構成するコンプレッサ14bの回転数を検出する回転数計66と、過給機14に供給する空気量を検出する空気量計68と、過給機14により過給された空気の圧力(給気圧)を検出する圧力計70を設ける。そして、差圧判断部64では、フィルタの差圧上昇のない条件で予め作成した過給機14の回転数と、過給機14に供給する空気量と、過給機14により過給された空気の圧力(給気圧)と大気圧との比である圧力比との関係のマップ72を用いて、前記空気量計によって検出される空気量と前記圧力比演算手段によって演算される圧力比条件においてマップ72から決定される過給機の回転数よりも、前記回転数計によって検出される過給機の回転数が予め定めた所定量以上大きい場合に前記差圧が予め定めた所定差圧以上であると判断する。
【0051】
図5は、実施例における吸気フィルタの差圧判断に用いるマップの一例である。図5において、縦軸は圧力比(給気圧/大気圧)、横軸は過給機に供給する空気量、a〜dは過給機の回転数を表している。図5に示したマップにおいて、例えば、吸気フィルタ38の差圧上昇がない場合の圧力比、空気量、過給機回転数の関係のAで示した線が、吸気フィルタの差圧の上昇によりA’で示す線に移動する。これにより吸気フィルタ38の差圧の上昇を判断することができる。
【0052】
図5に示したようなマップを用いる場合、通常、エンジンの給気系には回転数計66、空気量計68、圧力計70が設けられているため、新たな計器を設けることなく発明の実施が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
外気と未精製ガスとの混合気を過給機に供給し、該混合気を過給機で過給するガスエンジンの給気装置であって、冬場のような外気温が低くガスエンジンが冷えた状態からエンジンを始動させる場合における始動性の低下を防止することができるとともに、未精製ガスに含まれる不純物を除去し、該不純物がエンジンに流入することを防止することができるガスエンジンの給気装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 ガスエンジンシステム
2 給気装置
4 エンジン
14 過給機
14a 排気タービン
14b コンプレッサ
30 第1の吸気通路
32 第2の吸気通路
34 合流通路
36 VAM導入管
38 吸気フィルタ
40 第1のダンパ
42 差圧計
44 室外空気温度計
46 ヒータ
48 第2のダンパ
50 室内空気温度計
58 ダンパ制御装置
60 温度判断部
62 ダンパ開度制御部
64 差圧判断部
66 回転数計
68 空気量計
70 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過給機を有するガスエンジンの給気装置において、
室外空気と未精製ガスとの混合気を前記過給機に導く第1の吸気通路と、
室内空気を前記過給機に導く第2の吸気通路と、を有し、
前記第1の吸気通路上に、前記未精製ガス中の固体不純物を除去するフィルタと、該フィルタの下流側に第1の吸気通路を開閉可能な第1のダンパを設け、
前記第2の吸気通路上に、前記室内空気を加熱する加熱手段と、該加熱手段の下流側に第2の吸気通路を開閉可能な第2のダンパを設け、
前記第1のダンパ及び第2のダンパの開度を制御するダンパ制御装置を設けたことを特徴とするガスエンジンの給気装置。
【請求項2】
前記室外空気と未精製ガスとの混合気の温度を検出する室外空気温度計と、
前記室内空気の温度を検出する室内空気温度計とを設け、
前記ダンパ制御装置は、
室外空気温度が予め定めた所定温度より低温且つ室内空気温度が室外空気温度より高温である第1条件であるか、室外空気温度が予め定めた所定温度より高温又は室外空気温度が室内空気温度より高温である第2条件であるかを判断する温度判断部と、
前記温度判断部の判断に基づいて、前記第1条件である場合に前記第1のダンパを閉且つ前記第2のダンパを開とし、前記第2条件である場合に前記第1のダンパを開且つ前記第2のダンパを閉とするダンパ開度制御部とを有することを特徴とすることを特徴とする請求項1記載のガスエンジンの給気装置。
【請求項3】
前記温度判断部は、室外空気温度が予め定めた前記所定温度よりも高温且つ該所定温度よりも高温に予め定めた第2の所定温度よりも低温である第3条件であるか、室外空気温度が前記第2の所定温度よりも高温且つ室外空気温度が室内空気温度よりも低温である第4条件であるか、室外空気温度が前記第2の所定温度よりも高温且つ室外空気温度が室内空気温度よりも高温である第5条件であるかを判断し、
前記ダンパ開度制御部は、前記温度判断部の判断に基づいて、前記第3条件又は第4条件である場合に前記第1のダンパを開且つ前記第2のダンパを閉とし、前記第5条件である場合には前記第1のダンパを閉且つ前記第2のダンパを開とするものであることを特徴とする請求項2記載のガスエンジンの給気装置。
【請求項4】
前記ダンパ開度制御部は、前記第1条件である場合に前記第2のダンパが開となっていることを条件に前記第1のダンパを閉とし、前記第2条件である場合に前記第1のダンパが開となっていることを条件に前記第2のダンパを閉とするダンパ動作遅延手段を有することを特徴とする請求項2又は3記載のガスエンジンの給気装置。
【請求項5】
前記フィルタの上流と下流との差圧を検出する差圧検出手段と、
前記ダンパ制御装置は、前記差圧が予め定めた所定差圧以上であるとき前記第2のダンパを開とし、前記差圧が予め定めた所定差圧未満であるとき前記第2のダンパを閉とすることを特徴とする請求項1記載のガスエンジンの給気装置。
【請求項6】
前記過給機の回転数を検出する回転数計と、
前記過給機に供給する吸気量を検出する吸気量計と、
前記過給機により過給された空気の圧力(給気圧)を検出する圧力計と、該圧力計の検出値と大気圧に基づいて給気圧と大気圧の比である圧力比を演算する圧力比演算手段とを設け、
前記差圧検出手段は、
前記フィルタの差圧上昇のない条件で予め作成した前記過給機の回転数と、前記過給機に供給する吸気量と、前記過給機により過給された給気の圧力(給気圧)と大気圧との比である圧力比との関係を記憶した差圧マップと、
前記吸気量計によって検出される吸気量と前記圧力比演算手段によって演算される圧力比条件において前記マップから決定される過給機の回転数よりも、前記回転数計によって検出される過給機の回転数が予め定めた所定量以上大きい場合に前記差圧が予め定めた所定差圧以上であると判断する差圧判断部とを有することを特徴とする請求項5記載のガスエンジンの給気装置。
【請求項7】
前記ガスエンジンは、炭鉱メタンガスを燃料とするガスエンジンであって、
前記未精製ガスは、炭鉱から排出される通気メタンガスであるVAM(Ventilation Air Methane)であることを特徴とする請求項1〜6何れかに記載のガスエンジンの給気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−180763(P2012−180763A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43104(P2011−43104)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 国際石炭利用対策事業 クリーン・コール・テクノロジー実証普及事業 中国CMM/VAM有効利用発電システム実証普及事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】