説明

ガスバリア層形成用塗剤、ガスバリア性フィルム及びその製造方法

【課題】
本発明はガスバリア性の優れたガスバリア層を形成することができるガスバリア層形成用塗剤、及び当該ガスバリア層形成用塗剤によってガスバリア層が形成されたガスバリア性フィルム、並びにその製造方法に関する。
【解決手段】
不飽和カルボン酸の多価金属塩及び金属アルコキシド加水分解物から構成された溶液であって、前記不飽和カルボン酸の多価金属塩の固形分と金属アルコキシドを金属酸化物に換算した固形分との重量%の比率が各々1:1〜99:1であることを特徴とするガスバリア層形成用塗剤、基材フィルムに前記塗剤によって設けたガスバリア性フィルム、及び基材フィルムに前記塗剤を塗布した後、電離放射線を照射、乾燥処理して硬化させて得られるガスバリア性フィルムの製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスバリア性の優れたガスバリア層を形成することができるガスバリア層形成用塗剤、及び当該ガスバリア層形成用塗剤によってガスバリア層が形成されたガスバリア性フィルム、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸素あるいは水蒸気等に対するバリア性材料として、フィルム基材に酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機酸化物を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相成長法等で形成してなる透明ガスバリア性フィルムが注目されている。そして、かかる透明ガスバリア性フィルムは、一般には透明性、剛性に優れる二軸延伸ポリエステルフィルムからなる基材面に無機酸化物等を蒸着したフィルムであるので、そのままでは蒸着層が使用時の摩擦等に弱く、包装用フィルムとして使用する場合、後加工の印刷やラミネート時、又は内容物の充填時に、擦れや伸びにより無機酸化物にクラックが入りガスバリア性が低下することがある。
【0003】
一方、ガスバリア性を有するポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合体を二軸延伸フィルム基材に積層する方法(
例えば、特許文献1 ) 、あるいはポリビニルアルコールとポリ( メタ) アクリル酸からなる組成物を二軸延伸フィルム基材に被覆する方法( 例えば、特許文献2 )
が提案されている。
【0004】
しかしながら、ポリビニルアルコールを積層してなるガスバリア性フィルムは、高湿度下での酸素バリア性が低下し、ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との組成物は、エステル化を十分に進行させて、フィルムのガスバリア性を高めるためには高温で長時間の加熱が必要であり生産性に問題があり、加えて高湿度下でのガスバリア性は不十分である。また、高温で長時間反応させることによりフィルムが着色し、外観を損ねるため食品包装用には改善が必要である。
【0005】
他方、ポリビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との組成物はエステル化に高温で長時間の反応が必要なことから、ポリアクリル酸にイソシアネート化合物等の架橋剤成分を添加する方法(例えば、特許文献3)、更には金属イオンと反応させる方法(例えば、特許文献4)等が提案されているが、かかる方法においても、ポリアクリル酸を架橋剤成分で架橋するには、実施例に記載されているように、180〜200℃で5分間と高温での処理を必要とする。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−157830号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特許第3203287号公報(請求項1)
【特許文献3】特開2001−310425号公報(請求項1、実施例1)
【特許文献4】特開2003−171419号公報(請求項1、表1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これら従来のガスバリア性フィルムではガスバリア性が必ずしも十分ではなく
、成形条件の調整が煩雑であり生産性が低い等の問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決したものであり、請求項1に記載の発明は、不飽和カルボン酸の多価金属塩及び金属アルコキシド加水分解物から構成された溶液であって、前記不飽和カルボン酸の多価金属塩の固形分と金属アルコキシドを金属酸化物に換算した固形分との重量%の比率が各々1:1〜99:1であることを特徴とするガスバリア層形成用塗剤を提供するものである。本発明ガスバリア層形成用塗剤を基材に塗布、硬化させることにより、優れたガスバリア層を容易に形成することができる。尚、本明細書において、ガスバリア性とは酸素等の気体、水等の液体、及び水蒸気の透過を遮断する性質をいう。また、多価金属塩とは2価以上の金属が結合した金属塩をいうものとする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1の特徴に加え、不飽和カルボン酸の多価金属塩がモノマー及び/又はオリゴマーであるガスバリア層形成用塗剤を提供するものである。本発明ガスバリア層形成用塗剤はモノマー及び/又はオリゴマーであるため、重合反応、架橋反応によって硬化させることができ、ガスバリア性のより優れたガスバリア層を形成することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の特徴に加え、不飽和カルボン酸の多価金属塩が2価及び/又は3価の(メタ)アクリル酸金属塩であるガスバリア層形成用塗剤を提供するものである。本発明ガスバリア層形成用塗剤は、2価及び/又は3価の(メタ)アクリル酸金属塩であるため、各(メタ)アクリル酸金属塩間、及び金属アルコキシドの重合反応、及び架橋反応が起きやすく、より安定的に優れたガスバリア性能を有するガスバリア性層を形成することができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一の特徴に加え、下記式(1)で示される金属アルコキシドから得られた金属アルコキシド加水分解物であるガスバリア層形成用塗剤を提供するものである。
一般式RM(OR(1)
(式(1)中において、M
はチタン、ジルコニウム、ケイ素、及びアルミニウムからなる群から選択される金属元素である。mはm≧0を満たす整数、nはn≧1を満たす整数、m+nは金属元素Mの原子価と一致するものとする。さらに、R1は水素原子又はアルキル基を表し、R2はアルキル基を表すものとする。)本発明ガスバリア層形成用塗剤は上記式(1)で示されるように金属原子に結合しているアルコキシ基を加水分解することによって縮合重合しやすいヒドロキシル基を生成することができる。また、アルコキシ基を縮合重合させることによって得られ金属アルコキシド加水分解物の重合体は前記不飽和カルボン酸塩の重合物、架橋物とともに構成し、ガスバリア性層に優れたガスバリア性能を付与する。
【0012】
請求項5に記載の発明は、基材フィルムの少なくとも片面に請求項1〜4の何れか一に記載のガスバリア層形成用塗剤を硬化させることにより形成されたガスバリア層を有するガスバリア性フィルムを提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムは本発明請求項1〜4の何れか一に記載のガスバリア層形成用塗剤を硬化させることにより形成されたガスバリア層が設けられているため、透湿度、及び酸素透過度が優れたガスバリア性を有するフィルムが得られる。尚、本明細書において、「ガスバリア層」とは本発明ガスバリア層形成用塗剤から硬化させて形成された層をいうものとする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項5の特徴に加え基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層及び/又はアンダーコート層を介してガスバリア層を設けたガスバリア性フィルムを提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムはガスバリア層と基材フィルム間に無機薄膜層及び/又はアンダーコート層が設けられているため、ガスバリア性をさらに向上させることができる。また、基材フィルムとガスバリア層の間に無機薄膜層とアンダーコート層の双方を設ける場合には、ガスバリア性を飛躍的に向上させることができるだけでなく、アンダーコート層を設けない場合と比較して、無機薄膜層の層間剥離強度の向上等、より安定したバリア性フィルムを得ることができる。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6の特徴に加え、アンダーコート層がエポキシ(メタ)アクリレート系、及び/又はウレタン(メタ)アクリレート系の樹脂からなるガスバリア性フィルムを提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムはアンダーコート層がエポキシ(メタ)アクリレート系、及び/又はウレタン(メタ)アクリレート系の樹脂から構成されているため、ガスバリア性により優れたフィルムを得ることができ、加えて、アンダーコート層とその隣接する層との層間剥離強度の向上等により、層間状態の安定性をさらに向上させることができる。
【0015】
請求項8に記載の発明は、請求項6又は7の特徴に加え、無機薄膜層が金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物から選ばれる少なくとも一種から構成されているガスバリア性フィルムを提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムは、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物から選ばれる少なくとも一種から構成されている無機薄膜層が設けられているため、特にガスバリア性には優れている。
【0016】
請求項9に記載の発明は、請求項6〜8の何れか一の特徴に加え、無機薄膜層を構成する金属が珪素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一種である請求項6〜8の何れか一に記載のガスバリア性フィルムを提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムは無機薄膜層を構成する金属が珪素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一種であることから、前記金属を所望により選択することで、ガスバリア性に加えて、透明性、光触媒性等の種々の機能性を有するガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0017】
請求項10に記載の発明は、
(1)金属アルコキシドを加水分解することにより得られた金属アルコキシド加水分解物を得る工程と
(2)不飽和カルボン酸の多価金属塩と前記金属アルコキシド加水分解物を混合する工程と
(3)基材フィルムの表面に塗布することにより塗工層を形成する工程と
(4)前記塗工層を乾燥させることにより、電離放射線照射前に水分を調整する工程と
(5)電離放射線を照射しつつ、及び/又は照射後に乾燥させることにより前記塗工層を硬化させてガスバリア層を形成する工程
からなることを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法を提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムの製造方法により、簡易な設備でガスバリア性等を有する高性能なフィルムを容易に製造することができる。尚、本発明ガスバリア性フィルムの製造方法において、電離放射線とは、α線、β線、γ線、X線、電子線の他、紫外線、可視光線を含む電磁波、及び粒子線を含むものとする。
【0018】
請求項11に記載の発明は、請求項10の特徴に加え、乾燥処理が60℃〜350℃の雰囲気温度下で30秒〜90分間熱処理するガスバリア性フィルムの製造方法を提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムの製造方法は、前記条件によって熱処理しているため、簡易な方法により、ガスバリア層自体のガスバリア性を向上させることができる。
【0019】
請求項12に記載の発明は、請求項10又は11の特徴に加え、基材フィルムにエポキシ(メタ)アクリレート系、及び/又はウレタン(メタ)アクリレート系の樹脂からなるアンダーコート層、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物から選ばれる少なくとも一種から構成される無機薄膜層を順次設け、前記無機薄膜層の表面にガスバリア層を形成するガスバリア性フィルムの製造方法を提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムの製造方法により、優れたガスバリア性を有する金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物からなる無機薄膜を安定的に設けることができる。
【0020】
請求項13に記載の発明は、請求項12の特徴に加え、無機薄膜層を構成する金属が珪素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一種であるガスバリア性フィルムの製造方法を提供するものである。本発明ガスバリア性フィルムの製造方法により、珪素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムのうち少なくとも一種から構成させていることから、ガスバリア性に加えて、ガスバリア性フィルムに所望に応じた透明性、光触媒機能等を容易に付与することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明ガスバリア層形成用塗剤を塗布、硬化させることにより、優れたガスバリア層を容易に形成することができる。
【0022】
本発明ガスバリア層形成用塗剤はモノマー及び/又はオリゴマーであるため、重合反応、架橋反応によって硬化させることができ、ガスバリア性のより優れたガスバリア層を形成することができる。
【0023】
本発明ガスバリア層形成用塗剤は、2価及び/又は3価の(メタ)アクリル酸金属塩であるため、各(メタ)アクリル酸金属塩間、及び金属アルコキシドの重合反応、及び架橋反応が起きやすく、より安定的に優れたガスバリア性能を有するガスバリア性層を形成することができる。
【0024】
本発明ガスバリア層形成用塗剤は上記式(1)で示されるように金属原子に結合しているアルコキシ基を加水分解することによって縮合重合しやすいヒドロキシル基を生成することができる。また、アルコキシ基を縮合重合させることによって得られ金属アルコキシド加水分解物の重合体は前記不飽和カルボン酸塩の重合物、架橋物とともに構成し、ガスバリア性層に優れたガスバリア性能を付与する。
【0025】
本発明ガスバリア性フィルムは本発明請求項1〜4の何れか一に記載のガスバリア層形成用塗剤を硬化させることにより形成されたガスバリア層が設けられているため、透湿度、及び酸素透過度が優れたガスバリア性を有するフィルムが得られる。
【0026】
本発明ガスバリア性フィルムはガスバリア層と基材フィルム間に無機薄膜層及び/又はアンダーコート層が設けられているため、ガスバリア性をさらに向上させることができる。また、基材フィルムとガスバリア層の間に無機薄膜層とアンダーコート層の双方を設ける場合には、ガスバリア性を飛躍的に向上させることができるだけでなく、アンダーコート層を設けない場合と比較して、無機薄膜層の層間剥離強度の向上等、より安定したバリア性フィルムを得ることができる。
【0027】
本発明ガスバリア性フィルムはアンダーコート層がエポキシ(メタ)アクリレート系、及び/又はウレタン(メタ)アクリレート系の樹脂から構成されているため、ガスバリア性により優れたフィルムを得ることができ、加えて、アンダーコート層とその隣接する層との層間剥離強度の向上等により、層間状態の安定性をさらに向上させることができる。
【0028】
本発明ガスバリア性フィルムは、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物から選ばれる少なくとも一種から構成されている無機薄膜層が設けられているため、特にガスバリア性には優れている。
【0029】
本発明ガスバリア性フィルムは無機薄膜層を構成する金属が珪素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一種であることから、前記金属を所望により選択することで、ガスバリア性に加えて、透明性、光触媒性等の種々の機能性を有するガスバリア性フィルムを得ることができる。
【0030】
本発明ガスバリア性フィルムの製造方法により、簡易な設備でガスバリア性等を有する高性能なフィルムを容易に製造することができる。
【0031】
本発明ガスバリア性フィルムの製造方法により、一定条件の下、熱処理することにより、ガスバリア層自体のガスバリア性を簡易な方法により、向上させることができる。
【0032】
本発明ガスバリア性フィルムの製造方法により、優れたガスバリア性を有する金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物からなる無機薄膜を安定的に設けることができる。
【0033】
本発明ガスバリア性フィルムの製造方法により、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムのうち少なくとも一種から構成させていることから、ガスバリア性に加えて、ガスバリア性フィルムに所望に応じた透明性、光触媒機能等を容易に付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
不飽和カルボン酸多価金属塩
本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する不飽和カルボン酸多価金属塩はモノマーであってもオリゴマーであってもよいが、モノマー及びオリゴマーの混合物であることが好ましい。
【0035】
また、本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する不飽和カルボン酸多価金属塩は以下に示すものが挙げられる。例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等のα 、β−エチレン性不飽和基を有するカルボン酸の多価金属塩であり、重合度が20未満、好ましくは単量体若しくは重合度10以下の重合体であるが、特に(メタ)アクリル酸が好ましい。さらに、本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する不飽和カルボン酸多価金属塩は一種であっても二種以上であってもよい
【0036】
また、本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する不飽和カルボン酸多価金属塩の金属部分は以下に示す金属が挙げられる。例えば、周期表の2A〜7A族、1B〜3B族及び8族に属する金属及び金属化合物であり、具体的には、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)等の二価以上の金属が挙げられるが特に耐熱性及び耐水性が優れているということから亜鉛であることが好ましい。さらに、前記不飽和カルボン酸多価金属塩は、2種以上の異なる種類の二価以上の金属によって形成された金属塩を用いることもできる。
【0037】
本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する不飽和カルボン酸多価金属塩は、予め前記不飽和カルボン酸と前記多価金属からなる化合物(「多価金属化合物」という。)を反応させて得ることができる。多価金属化合物としては、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)等の二価以上の金属、これら金属の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硫酸塩若しくは亜硫酸塩等が挙げられる。これら金属化合物の中でも、二価の金属化合物が好ましく、特に酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛等が好ましい。
【0038】
本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する不飽和カルボン酸多価金属塩は、前記不飽和カルボン酸と多価金属化合物を反応させることによって得ることができる。具体的には、予め前記不飽和カルボン酸と前記多価金属化合物とを反応させて、不飽和カルボン酸化合物の多価金属塩とした後、当該不飽和カルボン酸化合物多価金属塩を水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール若しくはアセトン、メチルエチルケトン等の有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒等の溶媒に溶かして溶液として調整することにより得ることができる。尚、前記不飽和カルボン酸多価金属塩、又は不飽和カルボン酸多価金属塩のカルボン酸金属塩の生成率としては、ガスバリア性を確保するという観点から、カルボキシル基1モルに対して90モル%以上であることが好ましい。
【0039】
金属アルコキシド加水分解物
本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する金属アルコキシド加水分解物とは、一般式RM(ORで表示される金属アルコキシドの加水分解物であって、Mはケイ素、チタン、ジルコニウム及びアルミニウムから選ばれる金属元素であり、Rは、水素原子又は炭素数1ないし4のアルキル基、Rは炭素数1ないし4のアルキル基であるものが好ましい。金属アルコキシドが一般式RM(ORで表示される化合物である場合においては、RとRとは異なっていてもよく、同一でもよい。また、mは0以上、nは1以上の整数で、かつ、m+nは金属元素Mの原子価と同じ値である。
【0040】
金属アルコキシド加水分解物を得る場合において、加水分解する金属アルコキシドは本発明の効果を奏する限りにおいては特に限定されないが、以下の金属アルコキシドが挙げられる。例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン等のアルコキシシラン化合物、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−プロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラ−tert−ブトキシチタン、テトラ−sec−ブトキシチタン等のチタンアルコキシド化合物、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム、テトライソプロポキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−tert−ブトキシジルコニウム、テトラ−sec−ブトキシジルコニウム等のジルコニウムアルコキシド化合物、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリイソプロポキシアルミニウム、トリ−n−プロポキシアルミニウム、トリ−n−ブトキシアルミニウム、トリ−tert−ブトキシアルミニウム、トリ−sec−ブトキシアルミニウム等のアルミニウムアルコキシド化合物等がある。これらの中では、アルコキシシラン化合物が最も好適である。これらは、少なくとも1種が加水分解して使用され、1種のみの加水分解物を使用してもよく、2種以上の加水分解物を併用してもよい。
【0041】
本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する金属アルコキシド加水分解物については、上述したように通常金属アルコキシドを加水分解することによって得ることができる。当該加水分解は、酸性条件下、アルカリ性条件下いずれで行ってもよい。
【0042】
酸性条件下で金属アルコキシドを加水分解する場合、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸の水溶液、又はシュウ酸、酢酸、クエン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸の水溶液を、各々1種、又は2種以上用いることができ、また、無機酸水溶液及び有機酸水溶液を併用することもできる。
【0043】
また、アルカリ性条件下で金属アルコキシドを加水分解する場合、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の無機塩基の水溶液、アンモニア、ピリジン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等の有機塩基の水溶液を、各々1種、又は2種以上用いることができ、また、無機塩基水溶液及び有機塩基水溶液を併用することもできる。
【0044】
本発明ガスバリア層形成用塗剤は、前記不飽和カルボン酸多価金属塩、及び前記金属アルコキシド加水分解物を溶液中に混合したものである。本発明ガスバリア層形成用塗剤を構成する不飽和カルボン酸多価金属塩は溶液となっており、適用される溶媒としては水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール又はアセトン、メチルエチルケトン等の有機溶媒あるいはそれらの混合溶媒が挙げられるが、溶解性の観点から水が好ましい。
【0045】
本発明ガスバリア層形成用塗剤
本発明ガスバリア層形成用塗剤は構成する不飽和カルボン酸多価金属塩と金属アルコキシド加水分解物の金属アルコキシドの金属酸化物から構成された溶液である。本発明ガスバリアガスバリア層形成用塗剤中の前記不飽和カルボン酸多価金属塩の固形分と金属アルコキシドを金属酸化物に換算した固形分との重量%の比率が各々1:1〜99:1であることが水蒸気透過度及びガスバリア性の観点から好ましく、4:1〜99:1がさらに好ましく、9:1〜99:1が最も好ましい。
【0046】
また、前記不飽和カルボン酸多価金属塩及び金属アルコキシド加水分解物の総固形分は特に限定されないが、1〜40重量%であることが保管安定性が良いこと及び均一な塗布が容易である等の観点から好ましく、5〜30重量%であることがさらに好ましく、9〜25重量%であることが最も好ましい。
【0047】
また、本発明ガスバリア層形成用塗剤を紫外線、又は可視光線によって硬化させる場合には、硬化効率性の観点から、光重合開始剤を添加することが好ましい。本発明ガスバリア層形成用塗剤に適用可能な光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、ベンジル類、ベンゾイン類、ベンゾインエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、チオキサントン類、及びこれらの2
種以上の混合物を挙げることができる。
【0048】
さらに、光重合開始剤の好ましい具体例として、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−ヒドロキシーシクロヘキシルーフェニルケトン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、α―ヒドロキシケトン、アシルホスフィンオキサイド、4−メチルベンゾフェノン及び2,4,6−トリメチルベンゾフェノンの混合物、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドを挙げることができる。
【0049】
また、重合度又は重合速度を向上させるため重合促進剤を添加することができ、例えば、N、N-ジメチルアミノ−エチル−(メタ)アクリレート、N−(メタ)アクリロイル−モルフォリン等が挙げられる。
【0050】
また、本発明ガスバリア層形成用塗剤には、本発明の効果を損なわない範囲で、滑剤、スリップ剤、アンチ・ブロッキング剤、帯電防止剤、防曇剤、顔料、染料、無機また有機の充填剤等の各種添加剤を添加してもよいし、基材層との濡れ性を改良するために、各種界面活性剤等を添加してもよい。
【0051】
本発明ガスバリア層形成塗剤を適用可能な基材の素材としては、本発明塗剤を塗布可能な素材であれば特に限定はされないが、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、及び紙を挙げることができる。
【0052】
前記熱可塑性樹脂としては、種々の公知の熱可塑性樹脂、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル・1−ペンテン、ポリブテン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−66、ポリメタキシレンアジパミド等)、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、エチレン・酢酸ビニル共重合体もしくはその鹸化物、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、アイオノマー、あるいはこれらの混合物等を例示することができる。尚、基材がフィルムの場合の素材としては、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等、延伸性、透明性が良好な熱可塑性樹脂が好ましく、とくにポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステルがバリア性、耐熱性等に優れているので好ましい。
【0053】
また、前記熱硬化性樹脂としては、種々の公知の熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、ユリア樹脂、ユリア・ホルムアルデヒド樹脂、ユリア・メラミン樹脂等のアミノ樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド等を例示することができる。
【0054】
さらに、前記ゴムとしては、種々の公知のゴム、例えば、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン等を例示することができる。
【0055】
また、基材の形態は特に限定されず、フィルム、シート等の他、中空体、カップ等の形状を有するものが挙げられる。さらに、フィルムについては、延伸フィルムでも無延伸フィルムでもよい。また、単層フィルムであっても複層フィルムであってもよく、複層フィルムにおいては、同素材からなるフィルム、又は異素材からなるフィルムを複数積層したフィルムでもよいし、延伸フィルムと無延伸フィルムとを積層したフィルムであってもよい。
【0056】
本発明ガスバリア層形成用塗剤を基材フィルムの少なくとも片面、即ち片面又は両面に塗布し、硬化させてガスバリア層を形成することにより、ガスバリア性の優れたフィルムを得ることができる。前記ガスバリア層形成用塗剤の塗工量は、乾燥後で0.01g/m以上であることが好ましく、0.1g/m以上であることが、ガスバリア性の観点から好ましく、生産効率、及び可撓性の確保等の観点から20g/m以下であることがより好ましい。
【0057】
また、基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層及び/又はアンダーコート層を介してガスバリア層を設けるとガスバリア性の観点から好ましい。
【0058】
無機薄膜層
無機薄膜層としては、アルミニウム、亜鉛若しくはシリカ等の無機化合物あるいはその
酸化物、その他の無機薄膜層が用いられ、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、
錫、マグネシウム、インジウムなどの酸化物、窒化物、弗化物、或いは酸窒化物などそれ
らの複合物等が例示されるが、ガスバリア性の観点から、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも一種の金属からなる酸化物、窒化物、弗化物、或いは酸窒化物が好ましく、珪素からなる酸化物、窒化物、弗化物、或いは酸窒化物がより好ましい。
【0059】
本発明の無機薄膜層としては、無機窒化物が好適であり、中でも珪窒化物(SiN等)
、珪酸化窒化物(SiON等)が特に好適である。
【0060】
無機薄膜層の厚さは、通常0.1〜1000nm、中でも1〜500nm程度である。
【0061】
アンダーコート層
基材層の無機薄膜層を積層する面には、上記の表面活性化処理を行い、又は行うことな
く、アンダーコート層が設けられるが、特にエポキシ(メタ)アクリレート系又はウレタン(メタ)アクリレート系のアンダーコート層を設けることが好ましい。
【0062】
本発明ガスバリア性フィルムに用いられるエポキシ(メタ)アクリルレート系の化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラク型エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物等のエポキシ化合物とアクリル酸またはメタクリル酸を反応させて得られる化合物、更にはこれらの化合物をカルボン酸またはその無水物と反応させて得られる酸変性エポキシ(メタ)アクリレートが例示される。
【0063】
また、本発明ガスバリア性フィルムに用いられるウレタン系(メタ)アクリレートは、ポリオール化合物とジイソシアネート化合物からなるオリゴマーをアクリレート化したものから構成される。当該ウレタン系オリゴマーは、ポリイソシアネートとポリオールとの縮合生成物から得ることができる。
【0064】
具体的なポリイソシアネートとしては、メチレン・ビス(p−フェニレンジイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート・ヘキサントリオールの付加体、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンのアダクト体、1,5−ナフチレンジイソシアネート、チオプロピルジイソシアネート、エチルベンゼン−2,4−ジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート二量体、水添キシリレンジイソシアネート、トリス(4−フェニルイソシアネート)チオフォスフェートなどが例示でき、また、具体的なポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレングリコールなどのポリエーテル系ポリオール、ポリアジペートポリオール、ポリカーボネートポリオールなどのポリエステル系ポリオール、アクリル酸エステル類とヒドロキシエチルメタアクリレートとのコポリマーなどがある。
【0065】
アクリレートを構成する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレートなどがある。
【0066】
本発明ガスバリア性フィルムを構成するエポキシ(メタ)アクリレート系の化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系の化合物を紫外線で硬化して使用する場合は、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミフィラベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステルまたはチオキサントン類などを光重合開始剤として、また、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリn−ブチルホスフィンなどを光増感剤として混合して使用するのが好ましい。
【0067】
本発明では、エポキシ(メタ)アクリレート系の化合物とウレタン(メタ)アクリレート系の化合物は、併用することも行われる。また、これらのエポキシ(メタ)アクリレート系の化合物やウレタン(メタ)アクリレート系の化合物は、(メタ)アクリル系モノマーで希釈することが行われる。このような(メタ)アクリル系モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、多官能モノマーとしてトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどが例示される。
【0068】
本発明のガスバリア性フィルムの製造方法としては、前記不飽和カルボン酸の多価金属塩の固形分と金属アルコキシド加水分解物を金属酸化物に換算した固形分との重量%の比率が各々1:1〜99:1、好ましくは4:1〜99:1がさらに好ましく、9:1〜99:1となるように混合することにより、本発明ガスバリア層形成用塗剤を得る。また、光重合開始剤、界面活性剤等必要な添加剤は不飽和カルボン酸多価金属塩と金属アルコキシド加水分解物とを混合する際に添加する。
【0069】
次に基材フィルムに本発明ガスバリア層形成用塗剤を塗布する。塗布方法としては公知の種々の塗布方法を用いることができる。例えば、スリットダイコーター、エアーナイフコーター、ダイレクトグラビアコーター、グラビアオフセット、アークグラビアコーター、グラビアリバースおよびジェットノズル方式等のグラビアコーター、トップフィードリバースコーター、ボトムフィードリバースコーターおよびノズルフィードリバースコーター等のリバースロールコーター、5本ロールコーター、リップコーター、バーコーター、バーリバースコーター等の塗布装置による塗布が挙げられる。
【0070】
また、ガスバリア層形成用塗剤の塗工量としては、乾燥後で0.01g/m以上になるように塗布する。さらに、生産効率等の観点から、0.1g/m以上になるように塗布することが好ましく、20g/m以下になるように塗布することがより好ましい。
【0071】
また、基材層の表面にガスバリア性層との接着性を改良するために、例えば、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、アンダーコート処理、プライマーコート処理、フレーム処理等の表面活性化処理を行っておくことが好ましい。
【0072】
基材層にアンダーコート処理を行う場合には、既述したようにエポキシ(メタ)アクリレート系の樹脂、及び/又はウレタン(メタ)アクリレート系の樹脂であることが好ましい。エポキシ(メタ)アクリレート系の樹脂の硬化前の化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系の硬化前の化合物には光重合開始剤及び必要に応じて他の光重合あるいは熱反応性モノマーからなる希釈剤と共に、基材層の表面に塗布され、その後紫外線等を照射して架橋反応によりアンダーコート層が形成される。
【0073】
また、アンダーコート層を構成する前記エポキシ(メタ)アクリレート系の化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系の化合物は、必要に応じて併用され、紫外線等を照射してアンダーコート層が形成される。
【0074】
さらに、ガスバリア性をより向上させるために金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、から選ばれる一種からなる無機薄膜層であって、好ましくは前記無機薄膜層を構成する金属が珪素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一種からなる無機薄膜層を設ける場合には、無機薄膜層の成膜法は特に限定されず、真空蒸着法、化学気相成長法、物理気相蒸着法、化学気相蒸着法(CVD法)、ゾルゲル法などがある。中でも、スパッタリング法、イオンプレーティング法、化学気相蒸着法(CVD)、物理気相蒸着法(PVD)、プラズマCVD法などの減圧下での製膜が望ましい。これにより、窒化珪素や酸化窒化珪素などの珪素を含有する化学的に活性な分子種が速やかに反応することにより、無機薄膜層の表面の平滑性が改良され、孔を少なくすることができるものと予想される。
【0075】
また、透明な無機薄膜層は、基材のアンダーコート層に接して形成されていること
が好ましい。さらに、無機薄膜層はその表面を予め表面改質処理をしておくことが望まし
い。表面改質処理には、例えばプラズマ処理、コロナ処理等があり、酸素ガス、窒素ガス
、不活性ガス、大気等を用いることにより、表面の濡れ性を向上させることができる。
【0076】
次に前記塗剤を塗布することにより形成された塗工層に対し、前もって乾燥処理することで水分量を調節する。当該処理は後工程の電離放射線の照射、及び乾燥処理することによって前記塗工層を硬化させる際の成膜性、即ち成膜されたガスバリア層のガスバリア性能、生産効率性等を向上させる観点から行われる。従って、後工程で照射する電離放射線の強弱、照射時間又は可能な乾燥処理の程度等によって適宜調整する。
【0077】
さらに、電離放射線の照射、及び乾燥処理によって、前記塗布層を硬化させガスバリア層を形成する。
【0078】
前記塗布層を硬化させてガスバリア層を形成する方法としては、基材層表面に塗布された前記塗剤層を電離性放射線を照射して硬化させた後、加熱等によって乾燥処理して硬化させる方法、又は電離性放射線を照射して硬化させながら、加熱等によって乾燥処理して硬化させる方法を適用することができる。
【0079】
前記乾燥処理については、加熱による乾燥処理(以下、「熱処理」と記す。)、又は減圧による乾燥処理の何れか一方、又は双方を用いることができる。熱処理は設備面で簡素かつ安価であることから、コスト面から好ましく、減圧による乾燥処理は基材層の素材が加熱によって変質等しやすいものであるときに品質の安定性の観点から好ましい。
【0080】
さらに、乾燥処理を電離放射線の照射後に行うことによって、さらにガスバリア性に加え、水分透過度を向上させることができるため好ましい。
【0081】
また、乾燥処理が60℃〜350℃の雰囲気温度下で30秒から90分間の熱処理であってもよい。当該熱処理は通常60〜350℃、好ましくは100〜300、さらに好ましくは150〜250℃の温度範囲で行うことが望ましく、不活性ガス雰囲気下とすることが望ましい。また、圧力は特に限定されず、加圧下、減圧下、常圧下のいずれでもよい。熱処理する時間は、通常30秒から90分程度であり、中でも1分から70分が好適であり、特に5分から60分が好適である。
【0082】
本発明においては、重合された層を引き続き連続的に熱処理してもよく、またフィルムを一旦常温にもどした後に、熱処理に供してもよい。通常は重合により層を形成する工程と熱処理の工程を連続させることが製造効率上望ましい。
【0083】
熱処理に供される層は、重合によりフィルムの構造が確定しているものと推定される。これを更に熱処理することにより、脱水およびフィルムの構造が部分的な再配置によってより安定化された層となり、ガスバリア性がより安定するものと推定される。
【0084】
前記塗布層を硬化させてガスバリア層を形成する方法として、電離性放射線を照射する方法、加熱等により乾燥処理する方法は各々単独で使用することもできるが、双方を併用することが硬化効率等生産性の観点からより好ましい。
【0085】
本発明において電離放射線とは、α線、β線、γ線、X線、電子線の他、紫外線、可視光線を含む電磁波、及び粒子線をいうものをいうが、より具体的には波長領域が0.0001〜800nmの範囲の電磁波、及び粒子線をいう。これらの電離放射線の中でも、波長領域が400〜800nmの範囲の可視光線、50〜400nmの範囲の紫外線および0.01〜0.002nmの範囲の電子線が、取り扱いが容易で、装置も普及しているので好ましい。
【0086】
また、電離放射線を照射して硬化させる方法を使用する際は塗布層に適度な量の水分を保持していることが好ましい。前記塗布層中の水分が少なすぎる場合は、不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の結晶が析出しガスバリア性が損なわれることがあり、一方、前記塗布層中の水分が過剰の場合は、重合した不飽和カルボン酸化合物多価金属塩の膜が白化しバリア性を損なわれることがある。
【実施例】
【0087】
1.水蒸気透過度
(測定方法)
(水蒸気透過度(g/m/d)の測定方法)
厚さ50ミクロン(μm)の線状低密度ポリエチレンフィルム(東セロ社製、商品名:T.U.X.FCS)の片面に、ウレタン系接着剤(ポリウレタン系接着剤(三井武田ケミカル社製、商品名:タケラックA310):12重量部、イソシアネート系硬化剤(三井武田ケミカル社製、商品名:タケネートA3):1重量部及び酢酸エチル(関東化学社製):7重量部を塗布・乾燥後、得られたガスバリア性フィルムのバリアコート面を貼り合わせ(ドライラミネート)、多層フィルムを得た。
その多層フィルムを2枚貼り合わせ、2方をヒートシールして、(線状低密度ポリエチレンフィルム面)を袋状にした後、内容物として塩化カルシウムを入れて、もう2方をヒートシールすることにより、表面積が0.01mになるような袋を作成し、これを温度40℃、湿度90%RHの条件で7日間放置し、その重量差で水蒸気透過度を測定した。
2.成膜性
ガスバリア層の成膜状態を目視にて以下の基準で判定した。
(判定基準)
○:膜剥がれや割れがなく、成膜できている
×:膜剥がれや、割れが発生し、成膜できていない
【0088】
(実施例1)
(コート液の調整)
(1)テトラエトキシシランの加水分解液の調整
テトラエトキシシラン(信越化学工業(株)製、商品名:KBE−04)10グラムに0.1規定の塩酸を0.22グラム加え、精製水を21.89グラム加えて12時間攪拌することにより、SiO2固形分濃度9重量%のテトラエトキシシランの加水分解物を得た。

(2)アクリル酸亜鉛水溶液の調整
アクリル酸亜鉛(アクリル酸のZn塩)水溶液(浅田化学社製、濃度30重量%(アクリル酸成分:20重量%、Zn成分10重量%))20グラムに精製水を44.6グラム加えて濃度9重量%のアクリル酸亜鉛水溶液を得た。

(3)塗剤の調整
上記で得られたテトラエトキシシランの加水分解及びアクリル酸亜鉛水溶液を5:95の割合で混合し、10分攪拌し、20%水溶液の界面活性剤アリキルベンゼンスルホン酸ナトリウム((株)花王製、商品名:ネオペレックスG―15:固形分3%)を0.13グラム、メタノールで25%溶液に調整した光重合開始剤 1―[4−(2―ヒドロキシエトキシ)―フェニル]―2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、商品名:イルガキュアー 2959)を0.64グラム加えてコート液を調整した。

(4)ガスバリア性フィルムの作成
厚さ50ミクロン(μm)の二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名:エンブレットS−50)からなる基材のコロナ処理面にエポキシアクリレート(エポキシアクリレート系UV硬化塗材(日本化工塗料社製、商品名:FA―18)を酢酸エチルで希釈し、メイヤバーを用いて1.2g/m(固形分)になるように塗布し、100℃、15秒間乾燥した。続いて、コート面にUV照射装置(アイグラフィック社製、EYE GRANDAGE 型式ECS 301G1)を用いて、UV強度:250mW/cm、積算光量:117mJ/cmの条件で紫外線を照射してアンダーコート層の重合を行った。次ぎにその上にCAT−CVDにより厚さ80ナノメータ(nm)のSiON膜を形成させた後、SiON面にコロナ処理を行い、ガスバリア性フィルムを得た。

(5)ガスバリア性積層フィルムの作製
上記のガスバリア性フィルムのSiONのコロナ処理面の上に、塗剤をスリットダイコーター(伊藤忠産機(株)製、卓状ダイコーター 卓ダイ−100)で塗布量が1.5g/mになるように塗布し、塗工面を上にしてステンレス板に固定し、紫外線照射装置(アイグラフィック社製、EYE GRANDAGE 型式ECS 301G1)を用いて、UV強度:295mW/cm、積算光量:480mJ/cmの条件で紫外線を照射して重合し、ガスバリア積層フィルムを得た。更に、これをオーブン中で200℃、60分熱処理した。得られたサンプルの外観及び水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0089】
(実施例2)
実施例1において塗剤のテトラエトキシシランの加水分解物及びアクリル酸亜鉛水溶液の割合を20:80にした以外は同様に行った。得られたサンプルの外観及び水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0090】
(比較例1)
実施例1において塗剤のテトラエトキシシランの加水分解物及びアクリル酸亜鉛水溶液の割合を60:40にした以外は同様に行った。コート膜の状態と水蒸気透過度を表1に示す。
【0091】
(表1)

【0092】
実施例1については、塗剤のアクリル酸亜鉛の固形分:テトラエトキシシランの加水分解物が19:1であり、実施例2については、塗剤のアクリル酸亜鉛の固形分:テトラエトキシシランの加水分解物が4:1である。実施例1、2は特に優れた水蒸気透過度が得られた。
【0093】
一方、比較例1については、塗剤のアクリル酸亜鉛の固形分:テトラエトキシシランの加水分解物が1.5:1となっており、成膜が不可能という結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明ガスバリア層形成用塗剤は、ガスバリア性を機能性として要求されるペットボトル、自動車部品、建築材料等多様な用途があり、産業上極めて有用である。
【0095】
また、本発明ガスバリア性フィルムはガスバリア性に優れていることから、レトルト用等をはじめとする包装材の他、有機エレクトロルミネッセンス素子等の産業材用途としても利用可能であり、産業上幅広い用途に利用することができる。
【0096】
さらに、本発明ガスバリア性フィルムの製造方法は特殊な設備を必要とせず、優れたガスバリア性有するフィルムを容易かつ効率的に製造することができるため、産業上有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸の多価金属塩及び金属アルコキシド加水分解物から構成された溶液であって、前記不飽和カルボン酸の多価金属塩の固形分と金属アルコキシドを金属酸化物に換算した固形分との重量%の比率が各々1:1〜99:1であることを特徴とするガスバリア層形成用塗剤。
【請求項2】
不飽和カルボン酸の多価金属塩がモノマー及び/又はオリゴマーであることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア層形成用塗剤。
【請求項3】
不飽和カルボン酸の多価金属塩が2価及び/又は3価の(メタ)アクリル酸金属塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガスバリア層形成用塗剤。
【請求項4】
下記式(1)で示される金属アルコキシドから得られた金属アルコキシド加水分解物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一に記載のガスバリア層形成用塗剤。
一般式RM(OR(1)
(式(1)中において、M
はチタン、ジルコニウム、ケイ素、及びアルミニウムからなる群から選択される金属元素である。mはm≧0を満たす整数、nはn≧1を満たす整数、m+nは金属元素Mの原子価と一致するものとする。さらに、R1は水素原子又はアルキル基を表し、R2はアルキル基を表すものとする。)
【請求項5】
基材フィルムの少なくとも片面に請求項1〜4の何れか一に記載のガスバリア層形成塗剤を硬化させることにより形成されたガスバリア層を有するガスバリア性フィルム。
【請求項6】
基材フィルムの少なくとも片面に無機薄膜層及び/又はアンダーコート層を介してガスバリア層を設けた請求項5に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項7】
アンダーコート層がエポキシ(メタ)アクリレート系、及び/又はウレタン(メタ)アクリレート系の樹脂からなることを特徴とする請求項5又は6に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項8】
無機薄膜層が金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物から選ばれる少なくとも一種から構成されていることを特徴とする請求項6又は7に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項9】
無機薄膜層を構成する金属が珪素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項6〜8の何れか一に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項10】
(1)金属アルコキシドを加水分解することにより得られた金属アルコキシド加水分解物を得る工程と
(2)不飽和カルボン酸の多価金属塩と前記金属アルコキシド加水分解物を混合する工程と
(3)基材フィルムの表面に塗布することにより塗工層を形成する工程と
(4)前記塗工層を乾燥させることにより、電離放射線照射前に水分を調整する工程と
(5)電離放射線を照射しつつ、及び/又は照射後に乾燥処理するにより前記塗工層を硬化させてガスバリア層を形成する工程
からなることを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法
【請求項11】
乾燥処理が60℃〜350℃の雰囲気温度下で30秒〜90分間熱処理することを特徴とする請求項10に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項12】
基材フィルムにエポキシ(メタ)アクリレート系、及び/又はウレタン(メタ)アクリレート系の樹脂からなるアンダーコート層、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物から選ばれる少なくとも一種から構成される無機薄膜層を順次設け、前記無機薄膜層の表面にガスバリア層を形成することを特徴とする請求項10又は11に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【請求項13】
無機薄膜層を構成する金属が珪素、チタン、ジルコニウム、及びアルミニウムから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項12に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。



【公開番号】特開2009−62495(P2009−62495A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−233638(P2007−233638)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000220099)東セロ株式会社 (177)
【Fターム(参考)】