ガス供給装置用流量制御器の校正方法及び流量計測方法
【課題】小型化された校正ユニットにより、より迅速且つ高精度で行える、ビルドアップ(又はROR)法による流量制御器の流量校正方法を提供する。
【解決手段】ガス供給路LにビルドアップタンクBTと開閉弁V1及び開閉弁V2と温度検出器Pd及び圧力検出器Tdとから成る校正ユニット5を分岐状に連結し開閉弁V2を真空排気装置に接続し、先ず各流量制御器の開閉弁Vo1〜Von及びガス使用箇所の開閉弁V0を閉鎖して開閉弁V2及び開閉弁V1を開放、次に被校正流量制御器の開閉弁のみを開放して設定流量のガスを校正ユニット5へ流入させ、時刻t0に於いてタンク内のガス温度及びガス圧力を計測し、その後開閉弁V2を閉鎖してタンクBT内のガスのビルドアップを行い、時刻t1に開閉弁V1を閉鎖し、時刻t2にガス温度及びガス圧力を計測して各計測値からガス流量Qを演算して設定ガス流量と演算ガス流量Qとの対比により流量校正を行う。
【解決手段】ガス供給路LにビルドアップタンクBTと開閉弁V1及び開閉弁V2と温度検出器Pd及び圧力検出器Tdとから成る校正ユニット5を分岐状に連結し開閉弁V2を真空排気装置に接続し、先ず各流量制御器の開閉弁Vo1〜Von及びガス使用箇所の開閉弁V0を閉鎖して開閉弁V2及び開閉弁V1を開放、次に被校正流量制御器の開閉弁のみを開放して設定流量のガスを校正ユニット5へ流入させ、時刻t0に於いてタンク内のガス温度及びガス圧力を計測し、その後開閉弁V2を閉鎖してタンクBT内のガスのビルドアップを行い、時刻t1に開閉弁V1を閉鎖し、時刻t2にガス温度及びガス圧力を計測して各計測値からガス流量Qを演算して設定ガス流量と演算ガス流量Qとの対比により流量校正を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や薬品製造装置等で使用されるガス供給装置の流量制御器の校正方法及び流量計測方法の改良に関するものであり、より高精度な流量校正や流量計測を短時間で迅速に行えるようにしたガス供給装置用流量制御器の校正方法及び流量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置等のガス供給装置は、一般に多種類のガスをプロセスチャンバ等のガス使用対象へ切換へ供給する構成となっており、各供給ガス種毎に設けた流量制御器により流量制御されたガスが、ガス使用対象へ供給されて行く。
また、上記各流量制御器の流量校正やその流量計測は、一般にビルドアップ法(若しくは圧力上昇率(ROR)法)により適宜の時間間隔で行われており、流量制御器の設定流量とビルドアップ法等により計測した現実の制御流量とを対比して流量制御器の流量校正を行ったり、ビルドアップ法等による計測値から流量を求める流量計測が行われている。
【0003】
図12及び図13は従前のガス供給装置用流量制御器の校正方法の例を示すものである。即ち、図12の校正方法に於いては、先ず内容積のビルドアップタンクBTと入口開閉弁V1と出口開閉弁V2と圧力検出器Pd及びガス温度検出器Tdとから成る流量校正ユニットUをガス供給路Lへ分岐状に連結する。次に、例えばガス供給装置GFの流量制御器MFC1を校正する場合には、先ず開閉弁Vo2、Von、Voを閉、開閉弁Vo1、V1及びV2を開にして、タンクBT内へガスを流通させ、開閉弁V1及びV2が開放時又は開閉弁V2を閉鎖後の時刻t1における圧力検出値P1、温度検出値T1を計測する。次に、開閉弁V2を閉にしてそのΔt秒後又は前記時刻t1からΔt秒後の圧力検出値P2、温度検出値T2を計測する。
【0004】
そして、上記各計測値から圧力上昇率ΔP/Δtを求め、流量QをQ=(ΔP/Δt)×(V/RT)として算出すると共に、当該算出値を基準にして流量制御器MFC1の流量制御値の適否を判断する。尚、前記流量計算式は、ガスを理想気体と仮定してタンクBT内へのビルドアップ流量を演算するものであり、VはビルドアップタンクBTの内容積、Rはガス常数、TはタンクBT内のガス温度である。
【0005】
一方、図13の校正方法に於いては、ビルドアップタンクを省略した流量校正ユニットU´をガス供給ラインLへ分岐状に連結する。そして、例えばガス供給装置GFの流量制御器MFC1を校正する場合には、先ず、開閉弁Vo、Vo0、Vo2、Vonを閉、開閉弁Vo1、V1、V2を開にして流量校正ユニットU´へ流量制御器MFC1から設定流量のガスを流し、次に開閉弁V2を閉にする。開閉弁V2の閉鎖後、圧力検出器Pdの圧力検出値がP1になった時に第1計測を行い、圧力P1、温度T1を測定する。その後、圧力検出器Pの圧力検出値がP2になったとき(又は設定時間t秒が経過したとき)に第2計測を行い、圧力P2、温度T2を測定する。
【0006】
また、予め、流量校正ユニットU´の上流側の開閉弁Vo0、開閉弁Vo1、開閉弁o2、開閉弁Vonから開閉弁V1までのガス供給ラインL、Ls部分の管路内容積Veと、流量校正ユニットU´の開閉弁V1と開閉弁V2間の流路内容積Vtとの和Vを、上記図12場合と同一の測定方法により求めた圧力上昇率ΔP/Δtと、その時の流量制御器MFC1の流量値Q及び流量式Q=(ΔP/Δt)×(V/RT)とから演算し、前記管路全内容積Vを求めておく。
【0007】
そして、上記各測定値から、流量制御器MFC1からの温度0℃、1atmに於けるガスの絶対流量Qoを、ガスの流入質量dGと経過(流入)時間dtとの関係で求める。即ち、流入質量dGは、dG=ro・Qo・dt(但し、dtは経過(流入)時間、roは比重量である)で表すことができる。また、第1計測時及び第2計測時の圧力P、温度Tから理想気体についてはPV=nRTの関係が成立するため、モル数nに代えて質量Gを用いれば、PV=GRTの関係が成立する。
【0008】
従って、今、第1計測時に計測したガス圧力P1、ガス温度T1、ガス質量G1と、第2計測時のガス圧力P2、ガス温度T2、ガス質量G2とすれば、質量Gの差分(流入質量dG)はdG=G2−G1=P1/T1・V/R−P2/T2・V/R=(P1/T1−P2/T2)・V/R・・・・(1)式となり、上記dG=ro・Qo・dtの式から、ガスの絶対流量Qoは、Qo=(P1/T1−P2/T2)・V/R・1/roとして算出することができ、当該算出値Qoを基準として流量制御器MFC1の流量制御能の適否を判定する。
【0009】
尚、図13の方法は、(1)ガス種によっては理想気体方程式の適用が困難になるため、圧縮因子なる係数を上記(1)式に持ち込んで算定した基準流量の誤差を少なくすること及び(2)第1計測のあと第2計測を開始するタイミングを、制御流量が1000〜2000SCCMの範囲では圧力上昇値を基準にして決定し、また、制御流量が2〜1000SCCMの範囲では、経過時間を基準にして決定するようにしたことを、発明の主たる内容とするものである。
【0010】
また、図13の方法は流入質量dGから流量Qを求めると云う点では本願発明と共通の技術思想を有するものであるが、図13の方法と本願発明とは、第2計測を開始する時刻(タイミング)の決定要因を異にするものである。即ち、本願発明では、ガスのビルドアップ後にビルドアップタンクBT内のガス温度T2が、ビルドアップ前のガス温度T1近傍の一定値になるのを待って第2計測を行うという点で、図12の方法とは基本的に技術的思想を異にするものである。
【0011】
上記図12に示したビルドアップタンクBTを用いる方法は、温度検出器Tdである熱電対の細線化によりその熱容量を小さくすることにより、従前に比較してタンクBT内のガス温度を精度良く検出できるようになって来ているものの、(1)タンクBT内のガス温度の計測値が、ビルドアップタンクBTへの温度検出器Tdの取付位置によって大きく変動すること、(2)タンク内ガス圧力の上昇中に於けるガス温度Tが現実には大きく変動し、一定温度Tにはならないこと、(3)外気の温度変化が大きい場合には、圧力検出中のガス温度が変化して温度検出値Tの変動が大きくなる点に問題があり、ガス種が理想気体に近いものであっても流量Qの算出値の信頼性が低いと云う問題がある。
【0012】
また、図13の方法にあっては、流量校正ユニットU´に内容積の判明したビルドアップタンクBTを設けることなしに、流量制御器MFC1の出口と流量校正ユニットU´の下流側開閉弁V2との間の配管路内容積Vをビルドアップタンクの内容積に相当するものとして、流量の演算を行うようにしている。そのため、流量校正に際しては、先ず最初に、上記流路内容積Vを算出しなければならず、流量制御器MFCの流量校正に手数が掛かるだけでなく、制御流量の演算値に、温度Tと圧力Pと時間tに係る測定誤差と、流路内容積Vに係る測定誤差とが相乗されることになり、制御流量の演算精度が大幅に低下すると云う問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−337346号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/102319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明は、従前のビルドアップ又はROR法による流量制御器の校正方法や流量計測方法に於ける上述の如き問題、即ち、(1)内容積が予め判明しているビルドアップタンクを用いて、圧力上昇率ΔP/Δt及び時間Δtに基づいて制御流量を校正する方法にあっては、圧力上昇中のガス温度の変動に起因する流量の演算誤差が避けられないこと、また、(2)総内容積がVの流路内へ定常流量のガスを供給し、一定時間間隔Δt間に前記流路V内へ流入したガス質量の差分ΔGを求めて流量Qを演算する方法にあっては、先ず流路内容積Vを何等かの方法により求めておく必要があり、内容積が既知のビルドアップ用タンクBTを用いる場合に比較して、流路内容積Vの算出に手数が掛かり過ぎるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者等は、上記従前のビルドアップ(又はROR)法による流量制御器の流量校正方法から、(1)管路内容積Vの演算に係る手数や内容積Vの演算誤差に基づく流量演算値の誤差を少なくするためには、内容量Vが既知の適宜容量のビルドアップタンクの使用が不可避であること、及び(2)ビルドアップタンクの入口側開閉弁をビルドアップによる圧力上昇後に急閉することにより、タンクBT内のガス温度が急激に室温に近い一定温度に戻ることを知得した。
【0016】
また、本願発明者等は上記知得に基づいて、ビルドアップ前後のガス圧力及びガス温度からビルドアップタンクBTへのガスの流入モル数(流入質量G)を演算すると共に、高速開閉が可能な開閉弁(例えば電磁弁)を用いて、ビルドアップ時間及びビルドアップの完了後にビルドアップタンクBTの入口側開閉弁を閉鎖する時間を正確に制御し、ビルドアップ後のタンク内ガス温度がビルドアップ前のタンク内ガス温度に近づいた時点で第2計測を行うことにより、流量制御器のより高精度な流量校正が可能になることを着想し、当該着想に基づいて数多くの流量校正試験を実施した。
【0017】
本願校正方法の発明は、上記流量校正試験のテスト結果を基にして創案されたものであり、請求項1の発明は、複数種のガスを各流量制御器を通して切換え可能にガス使用箇所へ供給するガス供給装置に於いて、前記ガス供給装置のガス供給路Lに、内容積VのビルドアップタンクBTとタンクBTの入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2とタンクBT内ガスのガス圧力検出器Pd及びガス温度検出器Tdとから成る流量制御器校正ユニット5を分岐状に連結すると共に、当該流量制御器校正ユニット5の出口側開閉弁V2を真空排気装置に接続し、先ず、前記流量制御装置の各流量制御器の出口側開閉弁Vo1〜Von及びガス使用箇所の入口開閉弁V0を閉鎖すると共に前記校正ユニット5の出口側開閉弁V2及び入口側開閉弁V1を開放し、次に、被校正流量制御器の出口側開閉弁のみを開放して設定流量のガスを前記校正ユニット5へ流入させ、前記タンク内のガス圧力及びガス温度が安定した時刻t0に於いて第1回のタンク内のガス温度T0及びガス圧力P0を計測し、その後前記校正ユニット5の入口側開閉弁V1を開放してタンクBT内へのガスのビルドアップを行い、時刻t1に於いて出口側開閉弁V2を閉鎖すると共に、当該入口側開閉弁V1の閉鎖後の時刻t2において第2回のガス温度T2及びガス圧力P2を計測し、前記各計測値からガス流量QをQ=(22.4V/R・Δt)×(P2/T2−P0/T0)(但し、VはタンクBTの内容積、Rはガス定数、Δtはビルドアップ時間t1−t0である)として演算し、前記設定ガス流量と演算ガス流量Qとの対比により流量校正を行うことを発明の基本構成とするものである。
【0018】
本願流量計測方法の発明は、流体供給源から流れる流体を制御する流量制御器の流量を計測する方法において、前記流量制御器の下流にある内容積VのビルドアップタンクBTと、タンクBTの入口側及び出口側に配置される入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁2と、タンクBT内に配置されるガス圧力検出器Pd及び温度検出器Tdとからなり、前記流量制御器から流体を流した状態で入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2を開放してガスをタンクBT内に流入させるステップ、ガス圧力及びガス温度が安定した時のガス圧力P0及びガス温度T0を測定するステップ、時刻t0に於いて出口側開閉弁V2のみを閉鎖してタンクBT内へガスを充填するステップ、時刻t1に入口側開閉弁V1を閉鎖するステップ、その後時刻t2まで前記入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2の閉鎖を保持するステップ、前記入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2の閉鎖中に再びガス温度T2及びガス圧力P2を計測するステップ、各計測結果からガス流量QをQ=(22.4V/R・Δt)×(P2/T2−P0/T0)(但し、VはタンクBTの内容積、Rはガス定数、Δtはビルドアップ時間t1−t0である)として演算するステップ、を備えることを発明の基本構成とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に於いては、流量制御器校正ユニットによる第2回計測を、ビルトアップ完了後(即ち、入口側開閉弁V1の閉鎖点t1)に行わずに、入口側開閉弁V1の閉鎖点t1から一定時間後の時刻t2に於いて行うようにしている。その結果、第2回計測の時刻t2に於いては、ビルドアップタンクBT内のガス温度T2はビルドアップ前のタンク内のガス温度To(即ち、室内温度)に極く近い温度にまで低下しており、第1回計測と第2回計測時のガス温度T0、T2の間に大きな差が無くなり、圧力上昇中の温度Tが一定であると仮定して演算をする従前のビルドアップ法の場合に比較してより、高精度な流量校正を行える。
【0020】
また、本発明では、予め内容積が判明しているビルドアップタンクBTを使用するため、従前の第1回及び第2回測定のデータから演算流量を求める方法の場合のように、ガス供給路の内容積を予め前もって若しくは同時に測定しておく必要がない。その結果、流量校正が極く簡単に行え、しかもガス供給路の内容積がガス供給装置の構成の変更によって変化しても、何等影響を受けることなく迅速に流量制御器の流量校正を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による流量制御器の校正方法の実施の説明図である。
【図2】ビルドアップタンク内のガス温度やガス圧力等の変化状況を示す曲線である。
【図3】図2の結果を模式的に表したものである。
【図4】本発明の内容積1.0996lのビルドアップタンクBTを用いた流量制御器の設定流量と誤差%R.Dとの関係を示す線図であり、本願方法発明による場合と校正済みの標準流量計を使用した場合との設定流量と誤差%R.Dの関係を示す線図である。
【図5】本発明の内容積120.36ccのビルドアップタンクを用いた第2実施形態に於ける流量制御器の設定流量と誤差%R.Dの関係を示す線図である。
【図6】本発明の第2実施形態における設定流量とビルドアップタンク内圧との関係を示す線図である。
【図7】図6のA部の拡大図である。
【図8】本発明の第2実施形態における本発明による場合の流量誤差%R.Dと校正済みの流量制御器を基準流量計とした場合の流量誤差%R.Dとの対比を示す線図である。
【図9】表4における設定流量と、本方法発明による場合と校正済みの流量制御器を基準流量計とした場合の流量測定誤差%R.Dの差との関係を示す線図である。
【図10】本発明の第2実施形態に於ける繰り返し計測試験(5分間隔で30回繰り返し)の結果を示す線図である。
【図11】本発明の第3実施形態の説明図である。
【図12】従前のビルドアップ法による流量校正方法の説明図である。
【図13】従前の他のビルドアップ法による流量校正方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明によるガス供給装置用流量制御器の校正方法の第1実施形態の説明図であり、ガス供給装置GFに設けた流量制御器MFCの流量校正を行う場合を示している。
図1において、GFはガス供給装置、MFC1〜MFCnは流量制御器、Go〜Gnは供給ガス種、L〜Ln、Lsはガス供給路、V00〜V0nは開閉弁、V0は開閉弁、V1及びV2は開閉弁、CHはプロセスチャンバ、VPは真空ポンプ、Tdは温度検出器、Pdは圧力検出器、BTはビルドアップタンク、1は圧力調整器、2は圧力計、3・4は弁、5は流量制御器校正ユニット、CPは演算制御部であり、ガス供給装置GFからガス供給流路L、弁V0を通してプロセスチャンバCHへ所定のガス種が切替え供給されている。
【0023】
流量制御器校正ユニット5は、ビルドアップタンクBTと入口側開閉弁V1、出口側開閉弁V2、タンクBTに設けた圧力検出器Pd及び温度検出器Td等から形成されており、ガス流路Lsを介してガス供給流路Lへ分岐状に接続されている。
また、流量制御器校正ユニット5の圧力検出器Pd及び温度検出器Tdの各検出出力、開閉弁V1及び開閉弁V2の制御信号等は演算制御部CPへ入出力されており、後述するようにガス流量値の演算や流量校正、流量制御精度の演算及び表示等が行われる。
【0024】
先ず、本願発明者は、図1の流量制御器校正ユニット5を用いて、ビルドアップによりガス圧力を上昇せしめたタンクBT内のガス温度が、ビルドアップ後に入口側開閉弁V1を閉めることによりどのように変化するかを調査した。
【0025】
即ち、図1の実施形態に於いて、流量制御器MFC1に代えて標準流量調整器を取り付け、先ず開閉弁V00、V02、V0n、V0を閉に、開閉弁V1、V2を開にして、N2ガスを500sccmの流量で一定時間流通させ、N2ガスの流量、圧力、温度の安定を確認したあと、出口側開閉弁V2を閉にして10秒間のビルドアップを行い、且つその直後に入口側開閉弁V1を閉して、ビルドアップBT内のガス温度の変化状態を観察した。
尚、流量制御器にはフジキン製の容量100sccm及び1SLMのものを使用しており、ビルドアップBTの内容積Vは1.0996L(既知)に設定されている。また、ガス流量(N2)は500sccm、ビルドアップ時間は10secに設定している。更に外気温度(室内温度)は21.7℃であった。
【0026】
図2は、上記ビルドアップテストにおけるビルドアップタンクBT内のガス温度やガス圧力等の変化状態を示すものであり、曲線A1は流量制御器の流量出力、A2はタンクBT内の圧力検出値、A3はタンクBT内のガス温度検出値、A4は外気温度(室内温度)、A5は出口側開閉弁の制御信号、A6は入口側開閉弁の制御信号を示すものである。
尚、圧力検出器PdにはMKS製の(バラトロン)キャパシタンスマノメーターTYPE627D(F.S.1000Torr)を、また温度検出器Tdには2.5mm径K熱電対(素線タイプ)を、測定機器にはキーエンス製のデータロガーNR500を使用している。
【0027】
即ち、図2に於いて、to点に於いて出口側開閉弁V2を閉にしてビルドアップを始めると、t1点に於いてタンク内のガス圧力は30.6Torrから94.1Torrにまで上昇し、且つt1点に於いて入口側開閉弁V1を急閉することにより、タンク内ガス温度は急激に21.9℃(室内温度約22℃)にまで低下することが判る。
【0028】
上記試験結果からも明らかなように、ビルドアップ後に入口側開閉弁V1を急閉することにより、タンク内ガス温度が室温にまで急低下することが確認できたので、タンクBTの出口側開閉弁V2の閉鎖(ビルドアップ開始)時(時刻to・第1回計測)と、ビルドアップ完了(入口側開閉弁V1閉鎖)から一定時間(約1〜300秒、ガス種、タンク容量、ガス流量等によって異なる)経過した後の時刻t2に於いて、第2回計測を行ってガス流入質量を演算することにより、ビルドアップ中のガス温度変化の影響を排除したより正確なガス流量演算が可能になる。何故なら、時刻toと時刻t2におけるタンクBT内のガス温度がほぼ室内温度に近い一定値となり、ビルドアップ前後におけるガス温度変化による演算誤差を生じないからである。
【0029】
図3は前記図2の試験結果を模式的に表したものであり、時間toで出口側開閉弁V2を閉及び第1回検出、時間t1で入口側開閉弁V1を閉、時間t2で第2回検出、時間t3で出口側開閉弁V2を開とする。ビルドアップ中に流入したガスのモル数
【0030】
【数1】
を標準状態(0℃、1atm)におけるガス体積VGに換算すると、
【0031】
【数2】
となり、タンクBT内へのガス流量Qは
【0032】
【数3】
として演算できる。但しΔtはビルドアップ時間であり、Δt=t1−t0である。
【第1実施形態】
【0033】
図1を参照して、ガス供給装置GFの流量制御器の流量校正に際しては、先ず流量制御器校正ユニット5をガス供給路Lへ分岐状に接続する。次に、流量制御器MFC1を校正する場合は、開閉弁V00、V02、V0n、V0を閉鎖し、開閉弁V01、V1、V2を開にして、流量制御器MFC1から設定流量Qsのガス流を校正ユニット5へ供給し、真空ポンプVPにより排気する。
【0034】
次に、校正ユニット5のビルトアップタンクBT内のガス温度To及びガス圧力Poが落ちつくと、時刻toに於いて出口側開閉弁V2を閉鎖してガスのビルドアップを開始すると共に、タンク内のガス温度To及びガス圧力Poを検出し、これを演算制御部CPへ入力する。
タンクBT内へのガスのビルドアップが進行し、ガス圧力が設定値P1(又は設定時間t1)に達すると、入口側開閉弁V1を急閉する。
【0035】
更に、入口側開閉弁V1の急閉(時刻t1)から予め定めた設定時間(約1〜300秒間、ガス種、タンク容量、ガス流量等によって異なる)が経過して時刻t2に到れば、タンクBT内の圧力P2及び温度T2を検出し、その検出値を演算制御部CPへ入力する。
尚、時刻t2における第2回目の圧力及び温度の検出が終れば、これと同時又は時刻t3において出口側開閉弁V2を開放して、タンクBT内のガスを排出する。
【0036】
一方、演算制御部CPでは、前記検出値P0、To、P2、T2及びビルドアップ時間Δt(Δt=t1−t0)を用いて流量Qが演算され、前記流量調整器MFC1の設定流量Qsと演算流量Qとが対比され、所定の基準に基づいて流量調整器MFC1の流量制御能の判定や校正が行われる。
【0037】
上記の如き校正操作を各流量制御器MFC1〜MFCnについて行うことにより、ガス供給装置GFの流量調整器の校正が行われる。
【0038】
表1は、被試験流量制御器を校正済みの流量制御器とした場合の試験結果を示すものであり、ビルトアップ前(第1回計測時・時刻to)、ビルドアップ直後(時刻t1)及び第2回計測時(時刻t2)に於ける温度・圧力の測定値と、Δt時間内のガス流入モル数n・流量Q・流量誤差%R.Dの演算値を示すものである。
【0039】
【表1】
【0040】
図4は、上記表1に示した本発明のビルドアップ法により求めた流量制御器の流量誤差%R.D(●印)と、後述する校正済みの流量制御器等によって調整された被校正流量制御器(以下、T1000流量制御器と呼ぶ)を基準流量計として求めた流量制御器の流量誤差%R.D(■印)とを対比したものであり、被測定流量制御器の設定流量の大小に拘わらず、本発明に係るビルドアップ法による流量校正の方が、T1000流量制御器を基準流量計とした場合よりも流量誤差%R.Dが小さいことが判る。
【0041】
表2は、被測定流量制御器を本発明に係るビルドアップ法により校正した場合の流量誤差%R.Dと、校正済みの流量制御器を基準流量計として校正した場合の流量誤差%R.Dとの差を示すものである。
【0042】
【表2】
【0043】
図5は、上記表2の誤差の差をグラフ化したものであり、本発明の校正方法は、設定流量が100sccm以下の小さい領域に於いても高精度な流量校正の可能なことが判る。
【0044】
表3は、本発明の第2実施形態の試験結果を示すものであり、ビルドアップタンクBTとして内径20mmφのチャンバー(内容積170.36cc)を使用し、且つ温度検出器Tdを0.25μmの熱電対、圧力検出器Pdを100Torrのキャパシタンス、入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2をCv値が0.1の高速開閉弁とした場合の測定及び演算値である。
【0045】
【表3】
【第2実施形態】
【0046】
第2実施形態においては、ビルドアップタンクBTの内容量が120.36ccと小さいため、先ず、供給流量とタンク内圧との関係を調査した。
図6は、その調査結果を示すものであり、また、図7は図6のA部の拡大図である。
図6及び図7からも明らかなように、ビルドアップタンクBTの内容積が120.36cc程度の場合には、ガス供給流量が1.6SLMで内圧が100Torr程度に上昇する(開閉弁V1、V2はCv値0.1の開閉弁)。尚、T1000は前記校正済みの流量制御機器等によって調整された被校正流量制御器である。
【0047】
一方、校正の対象となる流量制御器には熱式流量制御器や圧力式流量制御器があり、且つ圧力式流量制御器の場合には、出力側(2次側)の圧力値は100Torr以下とする必要がある。そのため、ビルドアップタンク容積が100〜150ccの場合には、校正流量は1000sccm以下の流量にする必要があり、これ等のことから前記表3のテストに於いても被測定流量制御器の設定流量を100sccm〜10sccmとしている。
【0048】
図8は、上記表3に示した本発明のビルドアップ法により校正した流量誤差%R.Dと、校正済みの流量制御器を標準流量計として校正した流量誤差%R.Dとを対比したものであり、両者は略同じ流量誤差%R.Dの範囲にあることが判明した。
【0049】
表4は、被校正流量制御器を本発明により校正した場合の流量誤差%R.Dと、校正済みの流量制御器を基準器として測定した流量誤差%R.Dとの差とを示すものである。
【0050】
【表4】
【0051】
また、図9は前記表4に於ける被校正流量制御器の設定流量と両者の流量誤差%R.Dの差との関係を示すものであり、設定流量により流量誤差%R.Dの差が大きく変化することは無いことが判る。
【0052】
表5は、被校正流量制御器の設定流量(10sccm及び100sccm近傍)とビルドアップ時間Δtと演算流量及び流量誤差%R.Dとの関連を示すものであり、ビルドアップ時間Δtが長いほど、誤差%R.Dが小さくなることが判る。
【0053】
【表5】
【0054】
表8は、被校正流量制御器を校正済みの流量制御機器によって調整されたT1000とし、N2ガス100sccmを容積120.36ccのビルドアップタンクへ供給し、ビルドアップ時間Δt=t1−t2を7.5secとして5分間隔で30回繰り返して校正測定を行った場合の結果を示すものである。又、図10は、表8のデータを線図化したものであって、●は流量誤差%R.D、□はタンク内ガス圧力Torr、△はタンク内ガス温度℃と示すものである。
【0055】
【表8】
【0056】
図10からも明らかなように、校正試験での流量誤差%R.Dは略一定値であることが判る。
【0057】
【表6】
【0058】
表6は、ビルドアップタンクBTの容積と、ガスベース圧力Poからタンク内圧100Torrに到達するまでの実時間との関係を実測したものであり、設定流量10〜100sccm及び内容積10〜200cc位の範囲がビルドアップ時間の点から適用可能な範囲であることが判る。
【0059】
同様に、表7は、ビルドアップタンクBTの内容積ccとガスの設定流量とガスのベース圧力Poと、タンクBT内のガス圧力上昇率(Torr/sec)の関係を実測したものであり、一般的な半導体製造装置用のガス供給装置(ガスBOX)に於いては、被校正流量制御器の実設定流量やビルドアップ時間Δt、設定場所等の点からビルドアップタンクBTの内容積は50〜200cc位が最適なことが判明した。
【0060】
【表7】
【第3実施形態】
【0061】
図11は、本発明の第3実施形態で使用する流量制御器校正ユニットの系統図であり、T1000は校正済みの流量制御機器等によって調整された被校正流量制御器、STは捨てチャンバ、V1はビルドアップタンクBTの入口側開閉弁、V1Sは捨てチャンバの入口側開閉弁、V2Sは捨てチャンバの出口側開閉弁である。なお、入口側開閉弁V1及びV1Sを二連三方バルブV3に置き換えて使用しても良いことは勿論である。
【0062】
流量制御器の流量校正や流量計測に際しては、真空状態から流量、圧力、温度が安定するまで一定時間ガスを流し続ける必要があるが、このガスが安定するまでに長時間係る上、ガス流量が多い場合、例えば流量が数LSM〜数十LSMのガスを流すような場合には、ガスの消耗費や排ガスの処理設備等の点で問題が発生する。
そのため、流量制御器校正ユニットを図11のように捨てチャンバSTを備えたユニットとして、下記の如き操作により流量校正や流量計測を行う。
【0063】
先ず、ビルドアップチャンバBTの出口側開閉弁V2及び捨てチャンバSTの出口側開閉弁V2Sを開にして、両チャンバBT,ST内を真空引きする。この際、上流側の入口側開閉弁V1及び入口側開閉弁V1Sは勿論閉鎖する。尚、本実施形態では、ビルドアップチャンバBTの内容量を10Lに、捨てチャンバSTの内容量を80Lに夫々選択している。
【0064】
次に、両出口側開閉弁V2,V2Sを閉にし、ビルドアップチャンバBTの入口側開閉弁V1を閉、捨てチャンバSTの入口側開閉弁V1Sを開にして、流量制御器T1000を通してガスを捨てチャンバST内へ供給する。この流量制御器T1000を通して供給中のガス供給の状態が安定すると、捨てチャンバSTの入口側開閉弁V1Sを閉に、ビルドアップチャンバBTの入口側開閉弁V1を開にして、前記実施形態で記載したような第1回目の測定を開始する。又、必要な第1回目の測定を行っている間に捨てチャンバSTの出口側開閉弁V2Sを開にして、捨てチャンバST内のガスを徐々に排気する。
【0065】
その後、ビルドアップチャンバBTの入口側開閉弁V1を閉にし、温度が安定するように保持したあと前記実施形態で記載したような第2回目の必要な測定を行う。又、その間も捨てチャンバST内のガスを徐々に排気する。
その後、ビルドアップチャンバBTの出口側開閉弁V2を開にして内部のガスを徐々に排気すると共に、捨てチャンバST内のガス圧がある程度にまで下降すれば、その後は一気に排気をして、前記測定前の初期状態に戻る。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、半導体製造装置用のガスボックスのみならず、あらゆるガス供給装置用の流量制御器やガス供給系の流量制御器の校正試験に利用できるものである。
【符号の説明】
【0067】
GF ガス供給装置
MFC1〜MFCn 流量制御器
Go〜Gn 供給ガス種
L,L1〜Ln ガス供給路
Voo〜Von 開閉弁
CH プロセスチャンバ
VP 真空ポンプ
Td 温度検出器
Pd 圧力検出器
BT ビルドアップタンク(ビルドアップチャンバ)
1 圧力調整器
2 圧力計
3,4 開閉弁
5 流量制御器校正ユニット
CP 演算制御部
T1000 校正済みの流量制御機器等によって調整された被校正流量制御器
ST 捨てチャンバ
V3 二連三方バルブ
V1S 捨てチャンバの入口側開閉弁
V2S 捨てチャンバの出口側開閉弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や薬品製造装置等で使用されるガス供給装置の流量制御器の校正方法及び流量計測方法の改良に関するものであり、より高精度な流量校正や流量計測を短時間で迅速に行えるようにしたガス供給装置用流量制御器の校正方法及び流量計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置等のガス供給装置は、一般に多種類のガスをプロセスチャンバ等のガス使用対象へ切換へ供給する構成となっており、各供給ガス種毎に設けた流量制御器により流量制御されたガスが、ガス使用対象へ供給されて行く。
また、上記各流量制御器の流量校正やその流量計測は、一般にビルドアップ法(若しくは圧力上昇率(ROR)法)により適宜の時間間隔で行われており、流量制御器の設定流量とビルドアップ法等により計測した現実の制御流量とを対比して流量制御器の流量校正を行ったり、ビルドアップ法等による計測値から流量を求める流量計測が行われている。
【0003】
図12及び図13は従前のガス供給装置用流量制御器の校正方法の例を示すものである。即ち、図12の校正方法に於いては、先ず内容積のビルドアップタンクBTと入口開閉弁V1と出口開閉弁V2と圧力検出器Pd及びガス温度検出器Tdとから成る流量校正ユニットUをガス供給路Lへ分岐状に連結する。次に、例えばガス供給装置GFの流量制御器MFC1を校正する場合には、先ず開閉弁Vo2、Von、Voを閉、開閉弁Vo1、V1及びV2を開にして、タンクBT内へガスを流通させ、開閉弁V1及びV2が開放時又は開閉弁V2を閉鎖後の時刻t1における圧力検出値P1、温度検出値T1を計測する。次に、開閉弁V2を閉にしてそのΔt秒後又は前記時刻t1からΔt秒後の圧力検出値P2、温度検出値T2を計測する。
【0004】
そして、上記各計測値から圧力上昇率ΔP/Δtを求め、流量QをQ=(ΔP/Δt)×(V/RT)として算出すると共に、当該算出値を基準にして流量制御器MFC1の流量制御値の適否を判断する。尚、前記流量計算式は、ガスを理想気体と仮定してタンクBT内へのビルドアップ流量を演算するものであり、VはビルドアップタンクBTの内容積、Rはガス常数、TはタンクBT内のガス温度である。
【0005】
一方、図13の校正方法に於いては、ビルドアップタンクを省略した流量校正ユニットU´をガス供給ラインLへ分岐状に連結する。そして、例えばガス供給装置GFの流量制御器MFC1を校正する場合には、先ず、開閉弁Vo、Vo0、Vo2、Vonを閉、開閉弁Vo1、V1、V2を開にして流量校正ユニットU´へ流量制御器MFC1から設定流量のガスを流し、次に開閉弁V2を閉にする。開閉弁V2の閉鎖後、圧力検出器Pdの圧力検出値がP1になった時に第1計測を行い、圧力P1、温度T1を測定する。その後、圧力検出器Pの圧力検出値がP2になったとき(又は設定時間t秒が経過したとき)に第2計測を行い、圧力P2、温度T2を測定する。
【0006】
また、予め、流量校正ユニットU´の上流側の開閉弁Vo0、開閉弁Vo1、開閉弁o2、開閉弁Vonから開閉弁V1までのガス供給ラインL、Ls部分の管路内容積Veと、流量校正ユニットU´の開閉弁V1と開閉弁V2間の流路内容積Vtとの和Vを、上記図12場合と同一の測定方法により求めた圧力上昇率ΔP/Δtと、その時の流量制御器MFC1の流量値Q及び流量式Q=(ΔP/Δt)×(V/RT)とから演算し、前記管路全内容積Vを求めておく。
【0007】
そして、上記各測定値から、流量制御器MFC1からの温度0℃、1atmに於けるガスの絶対流量Qoを、ガスの流入質量dGと経過(流入)時間dtとの関係で求める。即ち、流入質量dGは、dG=ro・Qo・dt(但し、dtは経過(流入)時間、roは比重量である)で表すことができる。また、第1計測時及び第2計測時の圧力P、温度Tから理想気体についてはPV=nRTの関係が成立するため、モル数nに代えて質量Gを用いれば、PV=GRTの関係が成立する。
【0008】
従って、今、第1計測時に計測したガス圧力P1、ガス温度T1、ガス質量G1と、第2計測時のガス圧力P2、ガス温度T2、ガス質量G2とすれば、質量Gの差分(流入質量dG)はdG=G2−G1=P1/T1・V/R−P2/T2・V/R=(P1/T1−P2/T2)・V/R・・・・(1)式となり、上記dG=ro・Qo・dtの式から、ガスの絶対流量Qoは、Qo=(P1/T1−P2/T2)・V/R・1/roとして算出することができ、当該算出値Qoを基準として流量制御器MFC1の流量制御能の適否を判定する。
【0009】
尚、図13の方法は、(1)ガス種によっては理想気体方程式の適用が困難になるため、圧縮因子なる係数を上記(1)式に持ち込んで算定した基準流量の誤差を少なくすること及び(2)第1計測のあと第2計測を開始するタイミングを、制御流量が1000〜2000SCCMの範囲では圧力上昇値を基準にして決定し、また、制御流量が2〜1000SCCMの範囲では、経過時間を基準にして決定するようにしたことを、発明の主たる内容とするものである。
【0010】
また、図13の方法は流入質量dGから流量Qを求めると云う点では本願発明と共通の技術思想を有するものであるが、図13の方法と本願発明とは、第2計測を開始する時刻(タイミング)の決定要因を異にするものである。即ち、本願発明では、ガスのビルドアップ後にビルドアップタンクBT内のガス温度T2が、ビルドアップ前のガス温度T1近傍の一定値になるのを待って第2計測を行うという点で、図12の方法とは基本的に技術的思想を異にするものである。
【0011】
上記図12に示したビルドアップタンクBTを用いる方法は、温度検出器Tdである熱電対の細線化によりその熱容量を小さくすることにより、従前に比較してタンクBT内のガス温度を精度良く検出できるようになって来ているものの、(1)タンクBT内のガス温度の計測値が、ビルドアップタンクBTへの温度検出器Tdの取付位置によって大きく変動すること、(2)タンク内ガス圧力の上昇中に於けるガス温度Tが現実には大きく変動し、一定温度Tにはならないこと、(3)外気の温度変化が大きい場合には、圧力検出中のガス温度が変化して温度検出値Tの変動が大きくなる点に問題があり、ガス種が理想気体に近いものであっても流量Qの算出値の信頼性が低いと云う問題がある。
【0012】
また、図13の方法にあっては、流量校正ユニットU´に内容積の判明したビルドアップタンクBTを設けることなしに、流量制御器MFC1の出口と流量校正ユニットU´の下流側開閉弁V2との間の配管路内容積Vをビルドアップタンクの内容積に相当するものとして、流量の演算を行うようにしている。そのため、流量校正に際しては、先ず最初に、上記流路内容積Vを算出しなければならず、流量制御器MFCの流量校正に手数が掛かるだけでなく、制御流量の演算値に、温度Tと圧力Pと時間tに係る測定誤差と、流路内容積Vに係る測定誤差とが相乗されることになり、制御流量の演算精度が大幅に低下すると云う問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−337346号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/102319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願発明は、従前のビルドアップ又はROR法による流量制御器の校正方法や流量計測方法に於ける上述の如き問題、即ち、(1)内容積が予め判明しているビルドアップタンクを用いて、圧力上昇率ΔP/Δt及び時間Δtに基づいて制御流量を校正する方法にあっては、圧力上昇中のガス温度の変動に起因する流量の演算誤差が避けられないこと、また、(2)総内容積がVの流路内へ定常流量のガスを供給し、一定時間間隔Δt間に前記流路V内へ流入したガス質量の差分ΔGを求めて流量Qを演算する方法にあっては、先ず流路内容積Vを何等かの方法により求めておく必要があり、内容積が既知のビルドアップ用タンクBTを用いる場合に比較して、流路内容積Vの算出に手数が掛かり過ぎるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者等は、上記従前のビルドアップ(又はROR)法による流量制御器の流量校正方法から、(1)管路内容積Vの演算に係る手数や内容積Vの演算誤差に基づく流量演算値の誤差を少なくするためには、内容量Vが既知の適宜容量のビルドアップタンクの使用が不可避であること、及び(2)ビルドアップタンクの入口側開閉弁をビルドアップによる圧力上昇後に急閉することにより、タンクBT内のガス温度が急激に室温に近い一定温度に戻ることを知得した。
【0016】
また、本願発明者等は上記知得に基づいて、ビルドアップ前後のガス圧力及びガス温度からビルドアップタンクBTへのガスの流入モル数(流入質量G)を演算すると共に、高速開閉が可能な開閉弁(例えば電磁弁)を用いて、ビルドアップ時間及びビルドアップの完了後にビルドアップタンクBTの入口側開閉弁を閉鎖する時間を正確に制御し、ビルドアップ後のタンク内ガス温度がビルドアップ前のタンク内ガス温度に近づいた時点で第2計測を行うことにより、流量制御器のより高精度な流量校正が可能になることを着想し、当該着想に基づいて数多くの流量校正試験を実施した。
【0017】
本願校正方法の発明は、上記流量校正試験のテスト結果を基にして創案されたものであり、請求項1の発明は、複数種のガスを各流量制御器を通して切換え可能にガス使用箇所へ供給するガス供給装置に於いて、前記ガス供給装置のガス供給路Lに、内容積VのビルドアップタンクBTとタンクBTの入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2とタンクBT内ガスのガス圧力検出器Pd及びガス温度検出器Tdとから成る流量制御器校正ユニット5を分岐状に連結すると共に、当該流量制御器校正ユニット5の出口側開閉弁V2を真空排気装置に接続し、先ず、前記流量制御装置の各流量制御器の出口側開閉弁Vo1〜Von及びガス使用箇所の入口開閉弁V0を閉鎖すると共に前記校正ユニット5の出口側開閉弁V2及び入口側開閉弁V1を開放し、次に、被校正流量制御器の出口側開閉弁のみを開放して設定流量のガスを前記校正ユニット5へ流入させ、前記タンク内のガス圧力及びガス温度が安定した時刻t0に於いて第1回のタンク内のガス温度T0及びガス圧力P0を計測し、その後前記校正ユニット5の入口側開閉弁V1を開放してタンクBT内へのガスのビルドアップを行い、時刻t1に於いて出口側開閉弁V2を閉鎖すると共に、当該入口側開閉弁V1の閉鎖後の時刻t2において第2回のガス温度T2及びガス圧力P2を計測し、前記各計測値からガス流量QをQ=(22.4V/R・Δt)×(P2/T2−P0/T0)(但し、VはタンクBTの内容積、Rはガス定数、Δtはビルドアップ時間t1−t0である)として演算し、前記設定ガス流量と演算ガス流量Qとの対比により流量校正を行うことを発明の基本構成とするものである。
【0018】
本願流量計測方法の発明は、流体供給源から流れる流体を制御する流量制御器の流量を計測する方法において、前記流量制御器の下流にある内容積VのビルドアップタンクBTと、タンクBTの入口側及び出口側に配置される入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁2と、タンクBT内に配置されるガス圧力検出器Pd及び温度検出器Tdとからなり、前記流量制御器から流体を流した状態で入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2を開放してガスをタンクBT内に流入させるステップ、ガス圧力及びガス温度が安定した時のガス圧力P0及びガス温度T0を測定するステップ、時刻t0に於いて出口側開閉弁V2のみを閉鎖してタンクBT内へガスを充填するステップ、時刻t1に入口側開閉弁V1を閉鎖するステップ、その後時刻t2まで前記入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2の閉鎖を保持するステップ、前記入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2の閉鎖中に再びガス温度T2及びガス圧力P2を計測するステップ、各計測結果からガス流量QをQ=(22.4V/R・Δt)×(P2/T2−P0/T0)(但し、VはタンクBTの内容積、Rはガス定数、Δtはビルドアップ時間t1−t0である)として演算するステップ、を備えることを発明の基本構成とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に於いては、流量制御器校正ユニットによる第2回計測を、ビルトアップ完了後(即ち、入口側開閉弁V1の閉鎖点t1)に行わずに、入口側開閉弁V1の閉鎖点t1から一定時間後の時刻t2に於いて行うようにしている。その結果、第2回計測の時刻t2に於いては、ビルドアップタンクBT内のガス温度T2はビルドアップ前のタンク内のガス温度To(即ち、室内温度)に極く近い温度にまで低下しており、第1回計測と第2回計測時のガス温度T0、T2の間に大きな差が無くなり、圧力上昇中の温度Tが一定であると仮定して演算をする従前のビルドアップ法の場合に比較してより、高精度な流量校正を行える。
【0020】
また、本発明では、予め内容積が判明しているビルドアップタンクBTを使用するため、従前の第1回及び第2回測定のデータから演算流量を求める方法の場合のように、ガス供給路の内容積を予め前もって若しくは同時に測定しておく必要がない。その結果、流量校正が極く簡単に行え、しかもガス供給路の内容積がガス供給装置の構成の変更によって変化しても、何等影響を受けることなく迅速に流量制御器の流量校正を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明による流量制御器の校正方法の実施の説明図である。
【図2】ビルドアップタンク内のガス温度やガス圧力等の変化状況を示す曲線である。
【図3】図2の結果を模式的に表したものである。
【図4】本発明の内容積1.0996lのビルドアップタンクBTを用いた流量制御器の設定流量と誤差%R.Dとの関係を示す線図であり、本願方法発明による場合と校正済みの標準流量計を使用した場合との設定流量と誤差%R.Dの関係を示す線図である。
【図5】本発明の内容積120.36ccのビルドアップタンクを用いた第2実施形態に於ける流量制御器の設定流量と誤差%R.Dの関係を示す線図である。
【図6】本発明の第2実施形態における設定流量とビルドアップタンク内圧との関係を示す線図である。
【図7】図6のA部の拡大図である。
【図8】本発明の第2実施形態における本発明による場合の流量誤差%R.Dと校正済みの流量制御器を基準流量計とした場合の流量誤差%R.Dとの対比を示す線図である。
【図9】表4における設定流量と、本方法発明による場合と校正済みの流量制御器を基準流量計とした場合の流量測定誤差%R.Dの差との関係を示す線図である。
【図10】本発明の第2実施形態に於ける繰り返し計測試験(5分間隔で30回繰り返し)の結果を示す線図である。
【図11】本発明の第3実施形態の説明図である。
【図12】従前のビルドアップ法による流量校正方法の説明図である。
【図13】従前の他のビルドアップ法による流量校正方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明によるガス供給装置用流量制御器の校正方法の第1実施形態の説明図であり、ガス供給装置GFに設けた流量制御器MFCの流量校正を行う場合を示している。
図1において、GFはガス供給装置、MFC1〜MFCnは流量制御器、Go〜Gnは供給ガス種、L〜Ln、Lsはガス供給路、V00〜V0nは開閉弁、V0は開閉弁、V1及びV2は開閉弁、CHはプロセスチャンバ、VPは真空ポンプ、Tdは温度検出器、Pdは圧力検出器、BTはビルドアップタンク、1は圧力調整器、2は圧力計、3・4は弁、5は流量制御器校正ユニット、CPは演算制御部であり、ガス供給装置GFからガス供給流路L、弁V0を通してプロセスチャンバCHへ所定のガス種が切替え供給されている。
【0023】
流量制御器校正ユニット5は、ビルドアップタンクBTと入口側開閉弁V1、出口側開閉弁V2、タンクBTに設けた圧力検出器Pd及び温度検出器Td等から形成されており、ガス流路Lsを介してガス供給流路Lへ分岐状に接続されている。
また、流量制御器校正ユニット5の圧力検出器Pd及び温度検出器Tdの各検出出力、開閉弁V1及び開閉弁V2の制御信号等は演算制御部CPへ入出力されており、後述するようにガス流量値の演算や流量校正、流量制御精度の演算及び表示等が行われる。
【0024】
先ず、本願発明者は、図1の流量制御器校正ユニット5を用いて、ビルドアップによりガス圧力を上昇せしめたタンクBT内のガス温度が、ビルドアップ後に入口側開閉弁V1を閉めることによりどのように変化するかを調査した。
【0025】
即ち、図1の実施形態に於いて、流量制御器MFC1に代えて標準流量調整器を取り付け、先ず開閉弁V00、V02、V0n、V0を閉に、開閉弁V1、V2を開にして、N2ガスを500sccmの流量で一定時間流通させ、N2ガスの流量、圧力、温度の安定を確認したあと、出口側開閉弁V2を閉にして10秒間のビルドアップを行い、且つその直後に入口側開閉弁V1を閉して、ビルドアップBT内のガス温度の変化状態を観察した。
尚、流量制御器にはフジキン製の容量100sccm及び1SLMのものを使用しており、ビルドアップBTの内容積Vは1.0996L(既知)に設定されている。また、ガス流量(N2)は500sccm、ビルドアップ時間は10secに設定している。更に外気温度(室内温度)は21.7℃であった。
【0026】
図2は、上記ビルドアップテストにおけるビルドアップタンクBT内のガス温度やガス圧力等の変化状態を示すものであり、曲線A1は流量制御器の流量出力、A2はタンクBT内の圧力検出値、A3はタンクBT内のガス温度検出値、A4は外気温度(室内温度)、A5は出口側開閉弁の制御信号、A6は入口側開閉弁の制御信号を示すものである。
尚、圧力検出器PdにはMKS製の(バラトロン)キャパシタンスマノメーターTYPE627D(F.S.1000Torr)を、また温度検出器Tdには2.5mm径K熱電対(素線タイプ)を、測定機器にはキーエンス製のデータロガーNR500を使用している。
【0027】
即ち、図2に於いて、to点に於いて出口側開閉弁V2を閉にしてビルドアップを始めると、t1点に於いてタンク内のガス圧力は30.6Torrから94.1Torrにまで上昇し、且つt1点に於いて入口側開閉弁V1を急閉することにより、タンク内ガス温度は急激に21.9℃(室内温度約22℃)にまで低下することが判る。
【0028】
上記試験結果からも明らかなように、ビルドアップ後に入口側開閉弁V1を急閉することにより、タンク内ガス温度が室温にまで急低下することが確認できたので、タンクBTの出口側開閉弁V2の閉鎖(ビルドアップ開始)時(時刻to・第1回計測)と、ビルドアップ完了(入口側開閉弁V1閉鎖)から一定時間(約1〜300秒、ガス種、タンク容量、ガス流量等によって異なる)経過した後の時刻t2に於いて、第2回計測を行ってガス流入質量を演算することにより、ビルドアップ中のガス温度変化の影響を排除したより正確なガス流量演算が可能になる。何故なら、時刻toと時刻t2におけるタンクBT内のガス温度がほぼ室内温度に近い一定値となり、ビルドアップ前後におけるガス温度変化による演算誤差を生じないからである。
【0029】
図3は前記図2の試験結果を模式的に表したものであり、時間toで出口側開閉弁V2を閉及び第1回検出、時間t1で入口側開閉弁V1を閉、時間t2で第2回検出、時間t3で出口側開閉弁V2を開とする。ビルドアップ中に流入したガスのモル数
【0030】
【数1】
を標準状態(0℃、1atm)におけるガス体積VGに換算すると、
【0031】
【数2】
となり、タンクBT内へのガス流量Qは
【0032】
【数3】
として演算できる。但しΔtはビルドアップ時間であり、Δt=t1−t0である。
【第1実施形態】
【0033】
図1を参照して、ガス供給装置GFの流量制御器の流量校正に際しては、先ず流量制御器校正ユニット5をガス供給路Lへ分岐状に接続する。次に、流量制御器MFC1を校正する場合は、開閉弁V00、V02、V0n、V0を閉鎖し、開閉弁V01、V1、V2を開にして、流量制御器MFC1から設定流量Qsのガス流を校正ユニット5へ供給し、真空ポンプVPにより排気する。
【0034】
次に、校正ユニット5のビルトアップタンクBT内のガス温度To及びガス圧力Poが落ちつくと、時刻toに於いて出口側開閉弁V2を閉鎖してガスのビルドアップを開始すると共に、タンク内のガス温度To及びガス圧力Poを検出し、これを演算制御部CPへ入力する。
タンクBT内へのガスのビルドアップが進行し、ガス圧力が設定値P1(又は設定時間t1)に達すると、入口側開閉弁V1を急閉する。
【0035】
更に、入口側開閉弁V1の急閉(時刻t1)から予め定めた設定時間(約1〜300秒間、ガス種、タンク容量、ガス流量等によって異なる)が経過して時刻t2に到れば、タンクBT内の圧力P2及び温度T2を検出し、その検出値を演算制御部CPへ入力する。
尚、時刻t2における第2回目の圧力及び温度の検出が終れば、これと同時又は時刻t3において出口側開閉弁V2を開放して、タンクBT内のガスを排出する。
【0036】
一方、演算制御部CPでは、前記検出値P0、To、P2、T2及びビルドアップ時間Δt(Δt=t1−t0)を用いて流量Qが演算され、前記流量調整器MFC1の設定流量Qsと演算流量Qとが対比され、所定の基準に基づいて流量調整器MFC1の流量制御能の判定や校正が行われる。
【0037】
上記の如き校正操作を各流量制御器MFC1〜MFCnについて行うことにより、ガス供給装置GFの流量調整器の校正が行われる。
【0038】
表1は、被試験流量制御器を校正済みの流量制御器とした場合の試験結果を示すものであり、ビルトアップ前(第1回計測時・時刻to)、ビルドアップ直後(時刻t1)及び第2回計測時(時刻t2)に於ける温度・圧力の測定値と、Δt時間内のガス流入モル数n・流量Q・流量誤差%R.Dの演算値を示すものである。
【0039】
【表1】
【0040】
図4は、上記表1に示した本発明のビルドアップ法により求めた流量制御器の流量誤差%R.D(●印)と、後述する校正済みの流量制御器等によって調整された被校正流量制御器(以下、T1000流量制御器と呼ぶ)を基準流量計として求めた流量制御器の流量誤差%R.D(■印)とを対比したものであり、被測定流量制御器の設定流量の大小に拘わらず、本発明に係るビルドアップ法による流量校正の方が、T1000流量制御器を基準流量計とした場合よりも流量誤差%R.Dが小さいことが判る。
【0041】
表2は、被測定流量制御器を本発明に係るビルドアップ法により校正した場合の流量誤差%R.Dと、校正済みの流量制御器を基準流量計として校正した場合の流量誤差%R.Dとの差を示すものである。
【0042】
【表2】
【0043】
図5は、上記表2の誤差の差をグラフ化したものであり、本発明の校正方法は、設定流量が100sccm以下の小さい領域に於いても高精度な流量校正の可能なことが判る。
【0044】
表3は、本発明の第2実施形態の試験結果を示すものであり、ビルドアップタンクBTとして内径20mmφのチャンバー(内容積170.36cc)を使用し、且つ温度検出器Tdを0.25μmの熱電対、圧力検出器Pdを100Torrのキャパシタンス、入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2をCv値が0.1の高速開閉弁とした場合の測定及び演算値である。
【0045】
【表3】
【第2実施形態】
【0046】
第2実施形態においては、ビルドアップタンクBTの内容量が120.36ccと小さいため、先ず、供給流量とタンク内圧との関係を調査した。
図6は、その調査結果を示すものであり、また、図7は図6のA部の拡大図である。
図6及び図7からも明らかなように、ビルドアップタンクBTの内容積が120.36cc程度の場合には、ガス供給流量が1.6SLMで内圧が100Torr程度に上昇する(開閉弁V1、V2はCv値0.1の開閉弁)。尚、T1000は前記校正済みの流量制御機器等によって調整された被校正流量制御器である。
【0047】
一方、校正の対象となる流量制御器には熱式流量制御器や圧力式流量制御器があり、且つ圧力式流量制御器の場合には、出力側(2次側)の圧力値は100Torr以下とする必要がある。そのため、ビルドアップタンク容積が100〜150ccの場合には、校正流量は1000sccm以下の流量にする必要があり、これ等のことから前記表3のテストに於いても被測定流量制御器の設定流量を100sccm〜10sccmとしている。
【0048】
図8は、上記表3に示した本発明のビルドアップ法により校正した流量誤差%R.Dと、校正済みの流量制御器を標準流量計として校正した流量誤差%R.Dとを対比したものであり、両者は略同じ流量誤差%R.Dの範囲にあることが判明した。
【0049】
表4は、被校正流量制御器を本発明により校正した場合の流量誤差%R.Dと、校正済みの流量制御器を基準器として測定した流量誤差%R.Dとの差とを示すものである。
【0050】
【表4】
【0051】
また、図9は前記表4に於ける被校正流量制御器の設定流量と両者の流量誤差%R.Dの差との関係を示すものであり、設定流量により流量誤差%R.Dの差が大きく変化することは無いことが判る。
【0052】
表5は、被校正流量制御器の設定流量(10sccm及び100sccm近傍)とビルドアップ時間Δtと演算流量及び流量誤差%R.Dとの関連を示すものであり、ビルドアップ時間Δtが長いほど、誤差%R.Dが小さくなることが判る。
【0053】
【表5】
【0054】
表8は、被校正流量制御器を校正済みの流量制御機器によって調整されたT1000とし、N2ガス100sccmを容積120.36ccのビルドアップタンクへ供給し、ビルドアップ時間Δt=t1−t2を7.5secとして5分間隔で30回繰り返して校正測定を行った場合の結果を示すものである。又、図10は、表8のデータを線図化したものであって、●は流量誤差%R.D、□はタンク内ガス圧力Torr、△はタンク内ガス温度℃と示すものである。
【0055】
【表8】
【0056】
図10からも明らかなように、校正試験での流量誤差%R.Dは略一定値であることが判る。
【0057】
【表6】
【0058】
表6は、ビルドアップタンクBTの容積と、ガスベース圧力Poからタンク内圧100Torrに到達するまでの実時間との関係を実測したものであり、設定流量10〜100sccm及び内容積10〜200cc位の範囲がビルドアップ時間の点から適用可能な範囲であることが判る。
【0059】
同様に、表7は、ビルドアップタンクBTの内容積ccとガスの設定流量とガスのベース圧力Poと、タンクBT内のガス圧力上昇率(Torr/sec)の関係を実測したものであり、一般的な半導体製造装置用のガス供給装置(ガスBOX)に於いては、被校正流量制御器の実設定流量やビルドアップ時間Δt、設定場所等の点からビルドアップタンクBTの内容積は50〜200cc位が最適なことが判明した。
【0060】
【表7】
【第3実施形態】
【0061】
図11は、本発明の第3実施形態で使用する流量制御器校正ユニットの系統図であり、T1000は校正済みの流量制御機器等によって調整された被校正流量制御器、STは捨てチャンバ、V1はビルドアップタンクBTの入口側開閉弁、V1Sは捨てチャンバの入口側開閉弁、V2Sは捨てチャンバの出口側開閉弁である。なお、入口側開閉弁V1及びV1Sを二連三方バルブV3に置き換えて使用しても良いことは勿論である。
【0062】
流量制御器の流量校正や流量計測に際しては、真空状態から流量、圧力、温度が安定するまで一定時間ガスを流し続ける必要があるが、このガスが安定するまでに長時間係る上、ガス流量が多い場合、例えば流量が数LSM〜数十LSMのガスを流すような場合には、ガスの消耗費や排ガスの処理設備等の点で問題が発生する。
そのため、流量制御器校正ユニットを図11のように捨てチャンバSTを備えたユニットとして、下記の如き操作により流量校正や流量計測を行う。
【0063】
先ず、ビルドアップチャンバBTの出口側開閉弁V2及び捨てチャンバSTの出口側開閉弁V2Sを開にして、両チャンバBT,ST内を真空引きする。この際、上流側の入口側開閉弁V1及び入口側開閉弁V1Sは勿論閉鎖する。尚、本実施形態では、ビルドアップチャンバBTの内容量を10Lに、捨てチャンバSTの内容量を80Lに夫々選択している。
【0064】
次に、両出口側開閉弁V2,V2Sを閉にし、ビルドアップチャンバBTの入口側開閉弁V1を閉、捨てチャンバSTの入口側開閉弁V1Sを開にして、流量制御器T1000を通してガスを捨てチャンバST内へ供給する。この流量制御器T1000を通して供給中のガス供給の状態が安定すると、捨てチャンバSTの入口側開閉弁V1Sを閉に、ビルドアップチャンバBTの入口側開閉弁V1を開にして、前記実施形態で記載したような第1回目の測定を開始する。又、必要な第1回目の測定を行っている間に捨てチャンバSTの出口側開閉弁V2Sを開にして、捨てチャンバST内のガスを徐々に排気する。
【0065】
その後、ビルドアップチャンバBTの入口側開閉弁V1を閉にし、温度が安定するように保持したあと前記実施形態で記載したような第2回目の必要な測定を行う。又、その間も捨てチャンバST内のガスを徐々に排気する。
その後、ビルドアップチャンバBTの出口側開閉弁V2を開にして内部のガスを徐々に排気すると共に、捨てチャンバST内のガス圧がある程度にまで下降すれば、その後は一気に排気をして、前記測定前の初期状態に戻る。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、半導体製造装置用のガスボックスのみならず、あらゆるガス供給装置用の流量制御器やガス供給系の流量制御器の校正試験に利用できるものである。
【符号の説明】
【0067】
GF ガス供給装置
MFC1〜MFCn 流量制御器
Go〜Gn 供給ガス種
L,L1〜Ln ガス供給路
Voo〜Von 開閉弁
CH プロセスチャンバ
VP 真空ポンプ
Td 温度検出器
Pd 圧力検出器
BT ビルドアップタンク(ビルドアップチャンバ)
1 圧力調整器
2 圧力計
3,4 開閉弁
5 流量制御器校正ユニット
CP 演算制御部
T1000 校正済みの流量制御機器等によって調整された被校正流量制御器
ST 捨てチャンバ
V3 二連三方バルブ
V1S 捨てチャンバの入口側開閉弁
V2S 捨てチャンバの出口側開閉弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種のガスを各流量制御器を通して切換え可能にガス使用箇所へ供給するガス供給装置に於いて、前記ガス供給装置のガス供給路Lに、内容積VのビルドアップタンクBTとタンクBTの入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2とタンクBT内ガスのガス圧力検出器Pd及びガス温度検出器Tdとから成る流量制御器校正ユニット5を分岐状に連結すると共に、当該流量制御器校正ユニット5の出口側開閉弁V2を真空排気装置に接続し、先ず、前記流量制御装置の各流量制御器の出口側開閉弁Vo1〜Von及びガス使用箇所の入口開閉弁V0を閉鎖すると共に前記校正ユニット5の出口側開閉弁V2及び入口側開閉弁V1を開放し、次に、被校正流量制御器の出口側開閉弁のみを開放して設定流量のガスを前記校正ユニット5へ流入させ、前記タンク内のガス圧力及びガス温度が安定した時刻t0に於いて第1回のタンク内のガス温度T0及びガス圧力P0を計測し、その後前記校正ユニット5の入口側開閉弁V1を開放してタンクBT内へのガスのビルドアップを行い、時刻t1に於いて出口側開閉弁V2を閉鎖すると共に、前記入口側開閉弁V1の閉鎖後の時刻t2において第2回のガス温度T2及びガス圧力P2を計測し、前記各計測値からガス流量QをQ=(22.4V/R・Δt)×(P2/T2−P0/T0)(但し、VはタンクBTの内容積、Rはガス定数、Δtはビルドアップ時間t1−t0である)として演算し、前記設定ガス流量と演算ガス流量Qとの対比により流量校正を行うことを特徴とするガス供給装置用流量制御器の校正方法。
【請求項2】
ガス供給装置を半導体製造装置用のガスボックスとすると共に、校正ユニット5をガス供給装置のガスボックス内に設けるようにした請求項1に記載のガス供給装置用流量制御器の校正方法。
【請求項3】
流体供給源から流れる流体を制御する流量制御器の流量を計測する方法において、前記流量制御器の下流にある内容積VのビルドアップタンクBTと、タンクBTの入口側及び出口側に配置される入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2と、タンクBT内に配置されるガス圧力検出器Pd及び温度検出器Tdとからなり、前記流量制御器から流体を流した状態で入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2を開放してガスをタンクBT内に流入させるステップ、ガス圧力及びガス温度が安定した時のガス圧力P0及びガス温度T0を測定するステップ、時刻t0に於いて出口側開閉弁V2のみを閉鎖してタンクBT内へガスを充填するステップ、時刻t1に入口側開閉弁V1を閉鎖するステップ、その後時刻t2まで前記入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2の閉鎖を保持するステップ、前記入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2の閉鎖中に再びガス温度T2及びガス圧力P2を計測するステップ、各計測結果からガス流量QをQ=(22.4V/R・Δt)×(P2/T2−P0/T0)(但し、VはタンクBTの内容積、Rはガス定数、Δtはビルドアップ時間t1−t0である)として演算するステップ、とを備える流量計測方法。
【請求項1】
複数種のガスを各流量制御器を通して切換え可能にガス使用箇所へ供給するガス供給装置に於いて、前記ガス供給装置のガス供給路Lに、内容積VのビルドアップタンクBTとタンクBTの入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2とタンクBT内ガスのガス圧力検出器Pd及びガス温度検出器Tdとから成る流量制御器校正ユニット5を分岐状に連結すると共に、当該流量制御器校正ユニット5の出口側開閉弁V2を真空排気装置に接続し、先ず、前記流量制御装置の各流量制御器の出口側開閉弁Vo1〜Von及びガス使用箇所の入口開閉弁V0を閉鎖すると共に前記校正ユニット5の出口側開閉弁V2及び入口側開閉弁V1を開放し、次に、被校正流量制御器の出口側開閉弁のみを開放して設定流量のガスを前記校正ユニット5へ流入させ、前記タンク内のガス圧力及びガス温度が安定した時刻t0に於いて第1回のタンク内のガス温度T0及びガス圧力P0を計測し、その後前記校正ユニット5の入口側開閉弁V1を開放してタンクBT内へのガスのビルドアップを行い、時刻t1に於いて出口側開閉弁V2を閉鎖すると共に、前記入口側開閉弁V1の閉鎖後の時刻t2において第2回のガス温度T2及びガス圧力P2を計測し、前記各計測値からガス流量QをQ=(22.4V/R・Δt)×(P2/T2−P0/T0)(但し、VはタンクBTの内容積、Rはガス定数、Δtはビルドアップ時間t1−t0である)として演算し、前記設定ガス流量と演算ガス流量Qとの対比により流量校正を行うことを特徴とするガス供給装置用流量制御器の校正方法。
【請求項2】
ガス供給装置を半導体製造装置用のガスボックスとすると共に、校正ユニット5をガス供給装置のガスボックス内に設けるようにした請求項1に記載のガス供給装置用流量制御器の校正方法。
【請求項3】
流体供給源から流れる流体を制御する流量制御器の流量を計測する方法において、前記流量制御器の下流にある内容積VのビルドアップタンクBTと、タンクBTの入口側及び出口側に配置される入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2と、タンクBT内に配置されるガス圧力検出器Pd及び温度検出器Tdとからなり、前記流量制御器から流体を流した状態で入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2を開放してガスをタンクBT内に流入させるステップ、ガス圧力及びガス温度が安定した時のガス圧力P0及びガス温度T0を測定するステップ、時刻t0に於いて出口側開閉弁V2のみを閉鎖してタンクBT内へガスを充填するステップ、時刻t1に入口側開閉弁V1を閉鎖するステップ、その後時刻t2まで前記入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2の閉鎖を保持するステップ、前記入口側開閉弁V1及び出口側開閉弁V2の閉鎖中に再びガス温度T2及びガス圧力P2を計測するステップ、各計測結果からガス流量QをQ=(22.4V/R・Δt)×(P2/T2−P0/T0)(但し、VはタンクBTの内容積、Rはガス定数、Δtはビルドアップ時間t1−t0である)として演算するステップ、とを備える流量計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−32983(P2012−32983A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171626(P2010−171626)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]