説明

ガス充填対象物、ガス供給装置、ガス供給システム、弁の状態の判定方法、および、ガスの供給方法

【課題】本発明は、ガス供給装置とガス充填対象物とを含むガス供給システムにおいて、ガス充填対象物に対するガスの充填効率の向上を図ることを目的とする。
【解決手段】ガス供給装置からガスの供給を受けるガス充填対象物は、レセプタクルと、複数のタンクと、複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、レセプタクルとタンクとの間のガスの流通を調整する流通調整弁と、タンクの内部の温度であるタンク温度をそれぞれ検出する温度センサと、タンクの内部の圧力であるタンク圧力を検出する圧力センサと、ガス充填対象物がガス供給装置からガスの供給を受けているガス供給状態のときに、タンク温度およびタンク圧力から流通調整弁の状態を判定する判定部と、を備え、判定部は、ガス供給状態のときに、タンク温度が上昇しないタンクに設置された流通調整弁は閉塞していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス供給装置からガスの供給を受けるガス充填対象物、ガス充填対象物に対してガスを供給するガス供給装置、ガス供給装置とガス充填対象物とを含んで構成されるガス供給システム、弁の状態を判定するときの判定方法、および、ガス供給部からタンクにガスを供給するときのガスの供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガスステーション等に備えられているガス供給装置から燃料電池自動車等のガス充填対象物にガスを供給する際、ガス充填対象物に備えられているタンクに対して効率的にガスを充填するために、タンクの容量や、タンクの温度、圧力などのタンクに関する情報(以後、「タンク情報」とも呼ぶ)に基づいて充填速度を制御する技術が知られている。
【0003】
タンク情報に基づいて充填をおこなう充填方法には、ガス充填対象物との通信によりガス充填対象物からタンク情報を直接取得して充填をおこなう通信充填方式と、ガス充填対象物に対して所定量のガスを供給する等してタンク情報を推定して充填をおこなう非通信充填方式が知られている。特許文献1には、ガスの圧力や温度から燃料電池に対するガスの供給量を推定する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−273392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ガス供給装置が非通信充填方式により充填をおこなう場合、タンク情報は推定値であるため、情報の正確性が通信充填方式よりも劣る問題があった。一方、通信充填方式により充填をおこなう場合には、例えば、タンクに設置された弁の開け忘れ等により、実際にガスを収容可能なタンクの総容量とタンク情報として設定されているタンク全体の総容量とが異なる状態が発生する虞があった。このように、タンク情報に基づいて充填速度を制御することで、ガス充填対象物に対して効率的にガスを充填する技術については、なお改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、タンク情報に基づいて充填速度を制御してガス充填対象物にガスを充填するときの充填効率の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本願発明は、以下の態様または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
ガス供給装置からガスの供給を受けるガス充填対象物であって、
前記ガス供給装置からガスを受け入れるためのレセプタクルと、
前記レセプタクルを介して前記ガス供給装置から供給されるガスを収容するための複数のタンクと、
前記複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、前記レセプタクルと前記タンクとの間のガスの流通を調整する流通調整弁と、
前記複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、前記タンクの内部の温度であるタンク温度をそれぞれ検出する温度センサと、
前記タンクの内部の圧力であるタンク圧力を検出する圧力センサと、
前記ガス充填対象物が前記ガス供給装置からガスの供給を受けているガス供給状態のときに、前記タンク温度および前記タンク圧力から前記流通調整弁の状態を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記タンク温度が上昇しないタンクに設置された流通調整弁は閉塞していると判定する、ガス充填対象物。
【0009】
この構成によれば、ガス充填対象物は、ガス供給装置からガスの供給を受けているときに、タンク温度が上昇しないタンクに設置された流通調整弁は閉塞していると判定することができるため、ガス充填対象物にガスを充填するときの充填効率の向上を図ることができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1に記載のガス充填対象物はさらに、
前記流通調整弁と前記レセプタクルとの間の流路内部における圧力である流路圧力を検出する流路圧力センサを備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記流路圧力と前記タンク圧力との差圧に対する前記タンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定する、ガス充填対象物。
【0011】
この構成によれば、ガス充填対象物は、ガス供給装置からガスの供給を受けているときに、流路圧力とタンク圧力との差圧に対するタンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定することができるため、ガス充填対象物にガスを充填するときの充填効率の向上を図ることができる。
【0012】
[適用例3]
適用例1または適用例2に記載のガス充填対象物はさらに、
前記タンク温度と、前記タンク圧力と、前記タンクの容積とを含むタンク情報を前記ガス供給装置に送信する通信部を備え、
前記通信部は、前記判定部により前記流通調整弁の状態についての判定がなされると、判定結果に応じた情報を前記ガス供給装置に送信する、ガス充填対象物。
【0013】
この構成によれば、ガス充填対象物は、判定部により流通調整弁の状態について判定をおこなうと、通信部により判定部の判定結果に応じた情報をガス供給装置に送信するため、ガス充填対象物にガスを充填するときの充填効率の向上を図ることができる。
【0014】
[適用例4]
適用例3に記載のガス充填対象物において、
前記通信部は、前記判定部により前記流通調整弁が閉塞しているとの判定がなされると、流通調整弁が閉塞していると判定されたタンク以外のタンクについての前記タンク情報を前記ガス供給装置に送信する、ガス充填対象物。
【0015】
この構成によれば、ガス充填対象物は、判定部により流通調整弁が閉塞しているとの判定をおこなうと、通信部により流通調整弁が閉塞していると判定したタンク以外のタンクについてのタンク情報をガス供給装置に送信するため、ガス充填対象物にガスを充填するときの充填効率の向上を図ることができる。
【0016】
[適用例5]
ガスを収容するための複数のタンクを備えたガス充填対象物に対してガスを供給するガス供給装置であって、
所定の充填速度により前記ガス充填対象物にガスを供給するガス供給部と、
前記ガス充填対象物から前記タンクの内部の温度と、前記タンクの内部の圧力と、前記タンクの容積とを含むタンク情報を取得する通信部と、
前記ガス供給装置が前記ガス充填対象物にガスの供給をしているガス供給状態のときに、前記通信部により取得された前記タンク情報から、前記複数のタンクのそれぞれに設置されている流通調整弁の状態を判定する判定部と、
前記判定部による前記流通調整弁の状態についての判定結果に応じて、前記ガス供給部から供給されるガスの充填速度を制御する制御部と、を備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記タンク温度が上昇しないタンクに設置された流量調整弁は閉塞していると判定する、ガス供給装置。
【0017】
この構成によれば、ガス供給装置は、ガス充填対象物にガスを供給しているときに、判定部によりガス充填対象物の一部のタンクに設置された流通調整弁が閉塞していると判定すると、制御部によりガス充填対象物へのガスの充填速度を判定部の判定結果に応じた速度に制御するため、ガス充填対象物へのガスの充填効率の向上を図ることができる。
【0018】
[適用例6]
適用例5に記載のガス供給装置において、
前記通信部は、前記タンクの内部の温度と、前記タンクの内部の圧力と、前記タンクの容積のほか、前記ガス供給装置と前記流通調整弁との間の流路内部の圧力を含むタンク情報を取得し、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記流路内部の圧力と前記タンクの内部の圧力との差圧に対する前記タンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定する、ガス供給装置。
【0019】
この構成によれば、ガス供給装置は、ガス充填対象物にガスを供給しているときに、判定部によりガス充填対象物のタンクに設置された流通調整弁が半開きか否かを判定することができるため、ガス充填対象物へのガスの充填効率の向上を図ることができる。
【0020】
[適用例7]
適用例5または適用例6に記載のガス供給装置において、
前記制御部は、前記判定部により前記流通調整弁が閉塞しているとの判定がなされると、流通調整弁が閉塞していると判定されたタンク以外のタンクについての前記タンク情報からガスの充填速度を決定する、ガス供給装置。
【0021】
この構成によれば、ガス供給装置は、判定部によりガス充填対象物のタンクの一部のタンクに設置された流通調整弁が閉塞しているとの判定をおこなうと、制御部により流通調整弁が閉塞していると判定したタンク以外のタンクについてのタンク情報からガスの充填速度を決定するため、ガス充填対象物へのガスの充填効率の向上を図ることができる。
【0022】
[適用例8]
ガス供給システムであって、
ガスを収容するための複数のタンクと、
所定の充填速度により前記複数のタンクにガスを供給するガス供給部と、
前記複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、前記ガス供給部と前記タンクとの間のガスの流通を調整する流通調整弁と、
前記複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、前記タンクの内部の温度であるタンク温度をそれぞれ検出する温度センサと、
前記タンクの内部の圧力であるタンク圧力を検出する圧力センサと、
前記ガス供給部から前記タンクにガスが供給されているガス供給状態のときに、前記タンク温度および前記タンク圧力から前記流通調整弁の状態を判定する判定部と、
前記判定部による前記流通調整弁の状態についての判定結果に応じて、前記ガス供給部から供給されるガスの充填速度を制御する制御部と、を備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記タンク温度が上昇しないタンクに設置された流通調整弁は閉塞していると判定する、ガス供給システム。
【0023】
この構成によれば、ガス供給システムは、ガス供給装部からタンクにガスを供給しているときに、判定部により流通調整弁が閉塞していると判定すると、制御部によりタンクへのガスの充填速度を判定部の判定結果に応じた速度に制御するため、タンクへのガスの充填効率の向上を図ることができる。
【0024】
[適用例9]
適用例8に記載のガス供給システムはさらに、
前記ガス供給部と前記流通調整弁との間の流路内部の圧力である流路圧力を検出する流路圧力センサを備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記流路圧力と前記タンク圧力との差圧に対する前記タンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定する、ガス供給システム。
【0025】
この構成によれば、ガス供給システムは、ガス供給装部からタンクにガスを供給しているときに、判定部により流通調整弁が半開きか否かを判定することができるため、タンクへのガスの充填効率の向上を図ることができる。
【0026】
[適用例10]
適用例8または適用例9に記載のガス供給システムにおいて、
前記制御部は、前記判定部により前記流通調整弁が閉塞しているとの判定がなされると、流通調整弁が閉塞していると判定されたタンク以外のタンクについての前記タンク温度と、前記タンク圧力と、前記タンクの容積からガスの充填速度を決定する、ガス供給システム。
【0027】
この構成によれば、ガス供給システムは、判定部により流通調整弁が閉塞しているとの判定をおこなうと、制御部により流通調整弁が閉塞していると判定したタンク以外のタンクについてのタンク情報からガスの充填速度を決定するため、タンクへのガスの充填効率の向上を図ることができる。
【0028】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガス充填対象物としての燃料電池システムや燃料電池車両、ガス供給装置を含むガスステーション等のほか、ガス充填対象物、ガス供給装置、ガス供給システムを制御するための制御装置、弁の状態を判定するときの判定方法、ガスの供給方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1実施例におけるガス供給システムの概略構成を説明するための説明図である。
【図2】ガス供給装置から燃料電池車両に水素ガスを供給する動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図3】ガス供給装置から燃料電池車両に水素ガスを供給する動作の流れを説明するためのフローチャートである。
【図4】第2実施例におけるガス供給システムの概略構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0031】
A.第1実施例:
A−1.ガス供給システムの構成:
図1は、第1実施例におけるガス供給システムの概略構成を説明するための説明図である。ガス供給システム10は、ガスを充填する対象となる物(以後、「ガス充填対象物」とも呼ぶ)に対してガスを供給するガス供給装置100と、ガス充填対象物である燃料電池車両200と、を含んで構成されている。
【0032】
ガス供給装置100は、水素ステーション等に設置され、燃料電池車両200に対して所定の圧力に圧縮した水素ガスを供給する。ガス供給装置100は、水素供給部110と、充填量測定部120と、温度センサ130と、圧力センサ140と、ノズル150と、通信部160と、装置制御部170と、を備えている。
【0033】
水素供給部110は、水素ガスを貯蔵するタンクが複数連結されたガスカードルや、水素ガスを所定の圧力に昇圧する圧縮機や、昇圧された水素を貯める蓄圧器や、燃料電池車両200に供給する水素ガスの充填速度(kg/s)を制御するための圧力調整弁やレギュレータ等により構成され、ガス流路101を介して燃料電池車両200に水素ガスを供給する。充填量測定部120は、ガス流路101上に配置され、水素供給部110から燃料電池車両200に供給される水素ガス(以後、「供給ガス」とも呼ぶ)の充填量Gs(kg)を測定する。また、温度センサ130は、ガス流路101上に配置され、供給ガスの温度Ts(K)を検出する。圧力センサ140は、ガス流路101上に配置され、供給ガスの圧力Ps(Pa)を検出する。ノズル150は、ガス流路101の供給ガス流通方向側の端部に設置され、後述する燃料電池車両200のレセプタクルと係合することにより、ガス流路101と燃料電池車両200の内部のガス流路201とを接続する。
【0034】
通信部160は、赤外線による情報の送受信機能を備え、燃料電池車両200の通信部270と赤外線通信によって情報のやりとりをおこなう。装置制御部170は、CPUやROMやRAM等により構成され、各種の信号の入出力により、ガス供給装置100の動作全体を制御する。例えば、装置制御部170は、通信部160が受信した燃料電池車両200のタンクに関する種々の情報(以後、「タンク情報」とも呼ぶ)に基づいてガスの充填速度Vsを決定し、充填速度Vsにより燃料電池車両200に対してガスの供給をおこなうように水素供給部110を制御する。
【0035】
燃料電池車両200は、図示しない燃料電池や車輪駆動用のモータを備え、供給された水素ガスと空気(酸素)との電気化学反応によって生じた電力によりモータを駆動させて動力を得る。燃料電池車両200は、複数のタンク210a、210bと、レセプタクル220と、開閉弁230a、230bと、温度センサ240a、240bと、第1圧力センサ250と、第2圧力センサ260と、通信部270と、車両制御部280と、を備えている。
【0036】
タンク210a、210bは、圧縮された状態の水素ガスを貯蔵するためのガスボンベであり、略円柱状に形成されたガスを貯蔵するための樹脂容器であるライナ(図示せず)と、ライナの外周面上に形成される炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の補強層(図示せず)と、ライナの両端部に形成された開口部に設置された2つの金属製の口金211a、211b、212a、212bと、をそれぞれ備えている。各タンク210、210bにおいて、一方の口金211a、211bは、端部がレセプタクル220と接続されているガス流路201と接続され、他方の口金212a、212bは、端部が燃料電池に接続されているガス流路202と接続されている。なお、本実施例では、燃料電池車両200は、タンクを2つ備えた構成として説明するが、燃料電池車両200が備えるタンクの数は、複数であればよく、3つ以上であってもよい。
【0037】
開閉弁230a、230bは、ガス流路201において、各タンク210a、210bとレセプタクル220との間にそれぞれ配置されている。開閉弁230aが開弁状態のときに、ガス供給装置100から供給される供給ガスがタンク210aに流入可能な状態となり、開閉弁230bが開弁状態のときに、供給ガスがタンク210aに流入可能な状態となる。なお、開閉弁230a、230bは、タンク210a、210bの口金212a、212bに設置されていてもよい。
【0038】
温度センサ240aは、タンク210aに配置され、タンク210aの内部の温度Ta(K)を検出する。温度センサ240bは、タンク210bに配置され、タンク210bの内部の温度Tb(K)を検出する。第1圧力センサ250は、レセプタクル220と開閉弁230a、230bとの間におけるガス流路201の内部の圧力Pmf(Pa)を検出する。第2圧力センサ260は、ガス流路202に配置され、ガス流路202の内部の圧力Pmr(Pa)を検出する。本実施例では、タンク210a、210bの内部とガス流路202の内部との間には圧力差が存在しないため、ガス流路202の内部圧力Pmrは、タンクの内部圧力Pmrとしても用いられる。
【0039】
通信部270は、ガス供給装置100の通信部160と同様に、赤外線による情報の送受信機能を備え、ガス供給装置100の通信部160と赤外線通信によって情報のやりとりをおこなう。車両制御部280は、CPUやROMやRAM等により構成され、各種の信号の入出力により、燃料電池車両200の動作全体を制御する。本実施例の車両制御部280は、判定部281としての機能を含んでいる。判定部281は、タンク210aの内部温度Ta、タンク210bの内部温度Tb、ガス流路201の内部圧力Pmf、および、ガス流路202の内部圧力Pmrに基づいて、開閉弁230a、230bの開閉状態を判定する。判定部281による開閉弁230a、230bの開閉状態の判定方法については後に詳述する。
【0040】
A−2.充填時の動作:
図2、図3は、ガス供給装置から燃料電池車両に水素ガスを供給する動作の流れを説明するためのフローチャートである。図2、図3では、ガス供給装置100および燃料電池車両200に対する人の動作と、装置制御部170を中心としたガス供給装置100の動作と、車両制御部280を中心とした燃料電池車両200の動作と、を合わせて継時的に示している。
【0041】
ガス供給装置100から燃料電池車両200に水素ガスを供給するために、利用者により、ガス供給装置100のノズル150が燃料電池車両200のレセプタクル220に接続される(ステップS101)。ノズル150とレセプタクル220との接続により、ガス供給装置100のガス流路101と燃料電池車両200のガス流路201とが接続される。また、ガス供給装置100の通信部160と燃料電池車両200の通信部270とが通信可能な状態となる。
【0042】
レセプタクル220にノズル150が接続されると、燃料電池車両200の車両制御部280は、燃料電池車両200の内部の温度センサや圧力センサが正常に機能しているか否かの判定をおこなう(ステップS110)具体的には、車両制御部280は、温度センサ240a、240bと、第1圧力センサ250と、第2圧力センサ260について、断線があるか否かを判定する。車両制御部280は、燃料電池車両200の内部の温度センサや圧力センサに断線があると判定した場合(ステップS110:NO)には、通信部270を介したガス供給装置100との通信をおこなわない。すなわち、車両制御部280は、ガス供給装置100に対して後述するタンク情報の送信をおこなわない。
【0043】
ガス供給装置100の装置制御部170は、所定のタイミングにおいて通信部160を介して燃料電池車両200からタンク情報の入力がない場合には、燃料電池車両200に対して非通信充填方式によるガスの充填をおこなう(ステップS111)。ここでの所定のタイミングとは、任意に設定可能な一定の期間を指し、例えば、装置制御部170がレセプタクル220にノズル150が接続されたことを検出したときから予め設定された期間内であってもよいし、レセプタクル220にノズル150が接続された後、装置制御部170がガス供給装置100に対して予め決められた情報を送信したときから予め設定された期間内であってもよい。
【0044】
装置制御部170が実行する非通信充填方式によるガスの充填方法についても特に限定はなく、装置制御部170は、種々の方法により燃料電池車両200に対してガスの供給をおこなうことができる。例えば、装置制御部170は、充填量測定部120により測定される充填量Gs、圧力センサ140により検出される圧力Ps、温度センサ130により検出される温度Tsと、望ましいガスの充填速度Vs1と、が対応付けられた非通信充填速度マップを図示しないROMに記憶していれば、この非通信充填速度マップを用いて、検出した充填量Gs、圧力Ps、温度Tsから充填速度Vs1を一意に決定(特定)した後に、水素供給部110を制御して充填速度Vs1により燃料電池車両200に対してガスの供給をおこなうことができる。
【0045】
その後、装置制御部170は、充填量Gs、圧力Ps、温度Tsが所定の充填終了条件を満足するまで燃料電池車両200へのガスの供給を継続し(ステップS112:NO)、充填量Gs、圧力Ps、温度Tsが所定の充填終了条件を満足したときにガスの供給を終了する(ステップS112:YES)。これにより、燃料電池車両200への水素ガスの充填が完了する。ここでの所定の充填終了条件とは、例えば、圧力Psが87.5MPaとなった場合や、温度Tsが85℃となった場合等である。充填終了条件は任意に設定することができる。
【0046】
一方、ステップS110において、車両制御部280は、燃料電池車両200の内部の温度センサや圧力センサに断線がないと判定した場合(ステップS110:YES)には、通信部270を介してガス供給装置100にタンク情報Iabを送信する(ステップS121)。具体的には、車両制御部280は、タンク210a、210bの合計のタンク容量Vtabと、タンク210aの内部温度Taと、タンク210bの内部温度Tbと、タンク210a、210bの内部圧力Pmrと、ガス流路201の内部圧力Pmfと、を含むタンク情報Iabをガス供給装置100に送信する。なお、タンク容量Vtabは、図示しないROMに予め記憶されている。
【0047】
装置制御部170は、通信部160を介してガス供給装置100から送信されたタンク情報Iabを取得すると、タンク情報Iabからガスの充填速度Vs2を決定する(ステップS122)。具体的には、装置制御部170は、タンク容量Vtab、タンクの内部温度Ta、Tb、タンクの内部圧力Pmrと、望ましいガスの充填速度Vs2と、が対応付けられた通信充填速度マップを図示しないROMに記憶し、この通信充填速度マップを用いて、取得したタンク情報Iabに含まれる、タンク容量Vtab、タンクの内部温度Ta、Tb、タンクの内部圧力Pmrから、充填速度Vs2を一意に決定(特定)する。充填速度Vs2を決定すると、装置制御部170は、水素供給部110を制御して充填速度Vs2により燃料電池車両200に対してガスの供給を開始する(ステップS123)。
【0048】
ガス供給装置100からのガスの供給が開始されると、車両制御部280の判定部281は、予め設定された所定の期間ごとに内部温度Ta、Tbを取得し、内部温度Ta、Tbの変化から、開閉弁230a、230bが閉弁状態か否かの判定をおこなう(ステップS130)。例えば、燃料電池車両200がガス供給装置100からガスの供給を受けている時に、供給されたガスがタンク210aの内部に流入している場合には、タンク210aの内部温度Taは継続的に上昇する。しかし、開閉弁230aが閉弁状態のときには、供給されたガスがタンク210aの内部には流入しないため、タンク210aの内部温度Taは上昇しない。よって、判定部281は、燃料電池車両200がガス供給装置100からガスの供給を受けているときに、タンク210aの内部温度Taが上昇しない場合には、開閉弁230aが閉弁状態であると判定する。また同様に、判定部281は、タンク210bの内部温度Tbが上昇しない場合には、開閉弁230bが閉弁状態であると判定する。
【0049】
判定部281は、まず、時刻T1の時のタンク210a、210bの内部温度Ta1、Tb1を取得し、その後、時刻T2の時の内部温度Ta2、Tb2を取得する。判定部281は、取得した内部温度Ta2、Tb2と、内部温度Ta1、Tb1との差分値ΔTa(=Ta2−Ta1)、ΔTb(=Tb2−Tb1)を算出する。差分値ΔTa、ΔTbを算出すると、判定部281は、差分値ΔTa、ΔTbが予め設定されている閾値Th(>0)より小さいときに、そのタンクに対応する開閉弁が閉弁状態であると判定する。
【0050】
タンク210a、210bのいずれかにおいて、判定部281により、対応する開閉弁が閉塞状態となっているとの判定がなされると(ステップS130:NO)、車両制御部280は、ガス供給装置100に対してガスの供給を停止させるための供給停止命令を送信する。供給停止命令を受信した装置制御部170は、燃料電池車両200へのガスの供給を停止する(ステップS131)。本実施例では、判定部281により、タンク210aと対応する開閉弁230aが閉塞状態であると判定されたものとして説明する。
【0051】
車両制御部280は、供給停止命令を送信した後、ガス供給装置100からのガスの供給時に内部温度が上昇したタンクのみについてのタンク情報をガス供給装置100に送信する(ステップS132)。具体的には、車両制御部280は、ガス供給装置100からのガスの供給時に、内部温度Taが上昇しないタンク210a以外のタンク、すなわち、タンク210bのタンク容量Vtb、内部温度Tb、内部圧力Pmrを含むタンク情報Ibをガス供給装置100に送信する。言い換えると、車両制御部280は、判定部281により開閉弁230aが閉弁状態であると判定されたタンク210aを備えていないものとしてガス供給装置100に対してタンク情報を送信する。なお、車両制御部280は、タンク情報Ibを供給停止命令と同時に送信してもよい。
【0052】
装置制御部170は、ガス供給装置100から送信されたタンク情報Ibを取得すると、タンク情報Ibからガスの充填速度Vs3を決定する(ステップS133)。具体的には、装置制御部170は、上述した通信充填速度マップを用いて、取得したタンク情報Ibに含まれるタンク210bのタンク容量Vtb、内部温度Tb、内部圧力Pmrから、充填速度Vs3を一意に決定(特定)する。充填速度Vs3を決定すると、装置制御部170は、水素供給部110を制御して充填速度Vs3により燃料電池車両200に対してガスの供給を再開する(ステップS134)。
【0053】
その後、ガス供給装置100と燃料電池車両200との間において、定期的にタンク情報等の情報のやりとりをおこないつつガスの充填をおこなう通信充填が実施される。装置制御部170は、タンク情報に含まれるタンク210bの内部温度Tbや内部圧力Pmrが所定の充填終了条件を満足するまで燃料電池車両200へのガスの供給を継続し(ステップS135:NO)、内部温度Tbや内部圧力Pmrが所定の充填終了条件を満足したときにガスの供給を終了する(ステップS135:YES)。これにより、燃料電池車両200への水素ガスの充填が完了する。このとき、車両制御部280は、開閉弁230aが閉塞状態である旨を図示しない表示部に警告表示してもよい。ここでの所定の充填終了条件とは、例えば、タンク210bの内部圧力Pmrが87.5MPaとなった場合や、内部温度Tbが85℃となった場合等である。
【0054】
一方、ステップS130において、判定部281により、開閉弁が閉塞状態であるとの判定がなされない場合には(ステップS130:YES)、ガス供給装置100と燃料電池車両200との間において、上述したような通信充填を継続して実施する(ステップS141)。
【0055】
車両制御部280の判定部281は、ガス供給装置100と燃料電池車両200との間において通信充填が実施されているときに、開閉弁230a、230bが半開きの状態か否かを判定するために、開閉弁230a、230bの両側の圧力差からオリフィス開口面積Srを算出する(ステップS142)。オリフィス開口面積Srは、充填速度Vs3(kg/s)、ガス流路201の内部圧力Pmf(Pa)、タンクの内部圧力Pmr(Pa)、供給ガスの温度Ts(K)を用いて、以下の式(1)により算出することができる。
【0056】
【数1】

【0057】
式(1)において、kは水素の比熱比であり、Rは水素の気体定数(J/(kg・K))である。ただし、式(1)において、内部圧力PmrがPc(Pa)を水素の臨界圧力以下の場合、すなわち、内部圧力Pmrが下記の式(2)を満たすときには、Pmr=Pcとする。
【0058】
【数2】

【0059】
判定部281は、オリフィス開口面積Sr(以後、「開口面積Sr」とも呼ぶ)を算出すると、算出した開口面積Srが、ガス供給装置100に搭載されているタンクの本数相当か否かの判定をおこなう(ステップS150)。具体的には、判定部281は、算出した開口面積Srが、開閉弁230aと開閉弁230bのいずれも開弁状態の時のオリフィス開口面積So(以後、「開口面積So」とも呼ぶ)と等しい場合には、開口面積Srは、ガス供給装置100に搭載されているタンクの本数相当であると判定する。なお、開口面積Soは、既知の値であり、図示しないROMに予め記憶されている。
【0060】
開口面積Srが、ガス供給装置100に搭載されているタンクの本数相当ではない場合(ステップS150:NO)、すなわち、開口面積Srが開口面積Soより小さい場合には、開閉弁230aと開閉弁230bの少なくとも一方が半開き状態である可能性があるため、判定部281は、タンクの内部温度の上昇速度が遅いタンクの開閉弁が半開きであると判定する(ステップS151)。具体的には、開閉弁230a、230bの両側の圧力差ΔPと、タンクの内部温度の上昇率ΔTとの比率である温圧比RT(=ΔT/ΔP)はタンクごとに一定であり、判定部281は、タンク210aとタンク210bのそれぞれについて、ガスの充填における温圧比RTが示された充填マップを図示しないROMに備えている。
【0061】
判定部281は、時刻T1の時のタンク210a、210bの内部温度Ta1、Tb1と、時刻T2の時の内部温度Ta2、Tb2と、開閉弁230a、230bの両側の圧力、すなわち、ガス流路201の内部圧力Pmfとタンクの内部圧力Pmrを取得し、タンク210aの温度上昇率ΔTa(=Ta2−Ta1)と、タンク210bの温度上昇率ΔTb(=Tb2−Tb1)と、開閉弁230a、230bの両側の圧力差ΔPm(=Pmf−Pmr)を算出する。判定部281は、温度上昇率ΔTaと圧力差ΔPmから、タンク210aについての温圧比RTa(=ΔTa/ΔPm)を算出し、温度上昇率ΔTbと圧力差ΔPmから、タンク210bについての温圧比RTb(=ΔTb/ΔPm)を算出する。
【0062】
判定部281は、算出した温圧比RTa、RTbと充填マップとの比較をおこない、温圧比RTa、RTbが充填マップに示された各タンクの温圧比RTより低いタンクに対応する開閉弁は、半開きであると判定する。本実施例では、温圧比RTaが充填マップに示された温圧比RTより低く、判定部281により、タンク210aと対応する開閉弁230aが本開き状態であると判定されたものとして説明する。
【0063】
車両制御部280は、判定部281により開閉弁230aが半開き状態であると判定されると、算出した開口面積Srと開口面積Soとの比率である開口比R(=Sr/So、0<R<1)を含む開口面積情報をガス供給装置100に送信する。装置制御部170は、ガス供給装置100から開口面積情報を取得すると、現在の充填速度Vs3と開口比Rとの積により充填速度Vs4(=Vs3×R、Vs4<Vs3)を算出する(ステップS152)。装置制御部170は、充填速度Vs4を算出すると、水素供給部110を制御して充填速度Vs4により燃料電池車両200に対してガスの供給を継続する(ステップS153)。
【0064】
その後、装置制御部170は、燃料電池車両200との通信充填を継続して、タンク情報に含まれるタンク210aとタンク210bの内部温度Ta、Tbや、内部圧力Pmrが所定の充填終了条件を満足するまで燃料電池車両200へのガスの供給を継続し(ステップS154:NO)、内部温度Ta、Tbや、内部圧力Pmrが所定の充填終了条件を満足したときにガスの供給を終了する(ステップS154:YES)。これにより、燃料電池車両200への水素ガスの充填が完了する。このとき、車両制御部280は、開閉弁230aが半開き状態である旨を図示しない表示部に警告表示してもよい。所定の充填終了条件とは、例えば、タンク210a、210bの内部圧力Pmrが87.5MPaとなった場合や、内部温度Taもしくは内部温度Tbのいずれか一方が85℃となった場合等である。
【0065】
一方、ステップS150において、開口面積Srが、ガス供給装置100に搭載されているタンクの本数相当である場合(ステップS150:YES)、すなわち、開口面積Srと開口面積Soが等しい場合には、開閉弁230aと開閉弁230bのいずれも開弁状態であるため、車両制御部280は、ガス供給装置100に開口面積情報を送信せず、ガス供給装置100は、充填速度Vs3によるガスの供給を継続する。
【0066】
装置制御部170は、燃料電池車両200との通信充填を継続して、タンク情報に含まれるタンク210bの内部温度Tbや内部圧力Pmrが所定の充填終了条件を満足するまで燃料電池車両200へのガスの供給を継続し(ステップS161:NO)、内部温度Tbや内部圧力Pmrが所定の充填終了条件を満足したときにガスの供給を終了する(ステップS161:YES)。これにより、燃料電池車両200への水素ガスの充填が完了する。所定の充填終了条件とは、例えば、タンク210bの内部圧力Pmrが87.5MPaとなった場合や、内部温度Tbが85℃となった場合等である。以上がガス供給装置から燃料電池車両に水素ガスを供給する動作の流れの説明である。
【0067】
本実施例における燃料電池車両200は、特許請求の範囲における「ガス充填対象物」に該当する。本実施例における開閉弁は、特許請求の範囲における「流通調整弁」に該当する。本実施例における第2圧力センサ260は、特許請求の範囲における「圧力センサ」に該当する。本実施例における第1圧力センサ250は、特許請求の範囲における「流路圧力センサ」に該当する。
【0068】
以上説明した、本実施例の燃料電池車両200によれば、ガス供給装置100からガスの供給を受けているときに、判定部281によって、開閉弁230a、230bが閉塞していると判定すると、通信部270を介して、判定結果に応じた情報をガス供給装置100に送信するため、ガス供給装置100による燃料電池車両200へのガスの充填効率の向上を図ることができる。具体的には、タンク210a、210bのいずれかにおいて、判定部281により、対応する開閉弁が閉塞状態であるとの判定がなされると(ステップS130:NO)、車両制御部280は、通信部270を介して、ガス供給装置100からのガスの供給時に内部温度が上昇したタンクのみに関するタンク情報をガス供給装置100に送信する。これにより、ガス供給装置100は、ガスを充填可能なタンクのみに関するタンク情報からガスの充填速度Vs3を決定することができるため、充填完了までタンクの温度が85℃を超えることなく、短時間に満充填(SOC100%)となる充填を行うことができる。
【0069】
また、タンク210a、210bのいずれかにおいて、判定部281により、対応する開閉弁が閉塞状態であるとの判定がなされると(ステップS130:NO)、車両制御部280は、ガス供給装置100に対してガスの供給を停止させるための供給停止命令を送信する。これにより、タンクが満充填(SOC100%)となる前にタンクの温度が85℃を超える不具合の発生を抑制することができる。
【0070】
本実施例の燃料電池車両200によれば、ガス供給装置100からガスの供給を受けているときに、判定部281によって、開閉弁230a、230bが半開き状態であると判定すると、通信部270を介して、判定結果に応じた情報をガス供給装置100に送信するため、ガス供給装置100による燃料電池車両200へのガスの充填効率の向上を図ることができる。具体的には、タンク210a、210bのいずれかにおいて、判定部281により、対応する開閉弁が半開き状態であるとの判定がなされると(ステップS151)、車両制御部280は、通信部270を介して、開口面積Soと開口面積Srとの比率である開口比Rを含む開口面積情報をガス供給装置100に送信する。これにより、ガス供給装置100は、開口比Rを含む開口面積情報からガスの充填速度Vs4を決定することができるため、充填完了までタンクの温度が85℃を超えることなく、短時間に満充填(SOC100%)となる充填を行うことができる。
【0071】
ガス供給装置100と燃料電池車両200との間で通信充填方式による充填をおこなう場合には、タンクに設置された開閉弁の開け忘れ等により、実際にガスを収容可能なタンクの総容量とタンク情報として設定されているタンク全体の総容量とが異なる状態が発生する問題があった。しかし、本発明によれば、燃料電池車両200は、開閉弁が開弁状態か否かの判定や、半開きか否かの判定をおこなうことができるため、開閉弁の状態に応じてガス供給装置100からの充填速度を変更させるための種々の情報をガス供給装置100に送信することで、ガス供給装置100による燃料電池車両200へのガスの充填効率の向上を図ることができる。
【0072】
B.第2実施例:
B−1.ガス供給システムの構成:
図4は、第2実施例におけるガス供給システムの概略構成を説明するための説明図である。第1実施例では、開閉弁の状態を判定する判定部は、燃料電池車両を制御する車両制御部の機能の一部として構成されていたが、第2実施例では、図4に示すように、判定部171は、ガス供給装置100aを制御する装置制御部170aの機能の一部として構成されている。第2実施例のガス供給システム10aは、判定部がガス供給装置100aに構成されている点以外については第1実施例のガス供給システムの構成と同様であるため、ガス供給システム10aの具体的な説明は省略する。なお、本実施例において、第1の実施例と同一の符号を付した機能部は、第1の実施例で示した機能部と同様の機能や構成を備えている。
【0073】
B−2.充填時の動作:
本実施例のガス供給装置100aから燃料電池車両200aに水素ガスを供給する動作の流れは、第1実施例で図2、3により示したフローチャートと同じである。以下では、図2、図3の各ステップにおいて、第1実施例と異なる部分を中心に説明する。
【0074】
ステップS123において、ガス供給装置100aは、燃料電池車両200aへのガスの供給を開始すると、燃料電池車両200aから所定の期間ごとにタンク情報Iabを取得しつつガスの供給を継続する。その後、ステップS130において、ガス供給装置100aの判定部171は、取得したタンク情報Iabに含まれる内部温度Ta、Tbの変化から、開閉弁230a、開閉弁230bが閉弁状態か否かの判定をおこなう(ステップS130)。
【0075】
ステップS130において、装置制御部170aは、判定部171により、いずれかの開閉弁が閉塞状態となっているとの判定をおこなうと(ステップS130:NO)、燃料電池車両200へのガスの供給を停止する(ステップS131)。本実施例においても、タンク210aと対応する開閉弁230aが閉塞状態であると判定部171により判定されたものとして説明する。装置制御部170aは、判定部171により、タンク210aと対応する開閉弁230aが閉塞状態となっているとの判定をおこなうと、燃料電池車両200aに対して、タンク210bのタンク容量Vtb、内部温度Tb、内部圧力Pmrを含むタンク情報Ibを送信するように要求する。燃料電池車両200aはガス供給装置100aからの要求を受信すると、タンク情報Ibを送信する(ステップS132)。装置制御部170は、ガス供給装置100からタンク情報Ibを取得すると、タンク情報Ibからガスの充填速度Vs3を決定する(ステップS133)。
【0076】
ステップS142において、判定部171は、ガス供給装置100と燃料電池車両200との間において通信充填が実施されているときに、開閉弁230a、230bが半開きの状態か否かを判定するために、開閉弁230a、230bの両側の圧力差から開口面積Srを算出する(ステップS142)。開口面積Srの算出方法は、第1実施例と同様である。開口面積Srが、ガス供給装置100に搭載されているタンクの本数相当ではない場合には(ステップS150:NO)、判定部171は、タンクの内部温度の上昇速度が遅いタンクの開閉弁が半開きであると判定する(ステップS151)。本実施例においても、タンク210aと対応する開閉弁230aが本開き状態であると判定部171により判定されたものとして説明する。
【0077】
装置制御部170aは、判定部171により開閉弁230aが半開き状態であるとの判定をおこなうと、現在の充填速度Vs3と開口比Rとの積により充填速度Vs4(=Vs3×R、Vs4<Vs3)を算出する(ステップS152)。装置制御部170aは、充填速度Vs4を算出すると、水素供給部110を制御して充填速度Vs4により燃料電池車両200aに対してガスの供給をおこなう(ステップS153)。以上が、第2実施例におけるガス供給装置から燃料電池車両への水素ガスの供給動作の流れである。
【0078】
本実施例のガス供給装置100aによれば、開閉弁の状態を判定する判定部は、燃料電池車両を制御する車両制御部の一部として構成されている必要はなく、ガス供給装置100aを制御する装置制御部170aの一部として構成されていてもよい。この場合であっても、ガス供給装置100aによる燃料電池車両200aへのガスの充填効率の向上を図ることができる。すなわち、ガス供給装置100aは、燃料電池車両200aにガスの供給をしているときに、判定部171によって、燃料電池車両200aの開閉弁230a、230bが閉塞しているとの判定をおこなうと、判定結果に応じてガスの充填速度を制御するため、充填完了までタンクの温度が85℃を超えることなく、短時間に満充填(SOC100%)となる充填を行うことができる。
【0079】
本実施例のガス供給装置100aによれば、燃料電池車両200aにガスの供給をしているときに、判定部171によって、開閉弁230a、230bが半開き状態であるとの判定をおこなうと、判定結果に応じてガスの充填速度を制御するため、ガス供給装置100aによる燃料電池車両200aへのガスの充填効率の向上を図ることができる。具体的には、判定部171により開閉弁230aが半開き状態であるとの判定をおこなうと(ステップS151)、装置制御部170aは、現在の充填速度Vs3と開口比Rとの積により充填速度Vs4を算出し(ステップS152)、水素供給部110を制御して充填速度Vs4により燃料電池車両200aに対してガスの供給をおこなうため、充填完了までタンクの温度が85℃を超えることなく、短時間に満充填(SOC100%)となる充填を行うことができる。
【0080】
C.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0081】
C1.変形例1:
本実施例では、ガス供給装置から燃料電池車両に水素ガスを供給する動作の流れにおいて、車両制御部280が、燃料電池車両200の内部の温度センサや圧力センサが正常に機能しているか否かの判定をおこなう構成(ステップS110)を含んでいるが、本発明は、燃料電池車両200の内部の温度センサや圧力センサが正常に機能しているか否かの判定や、正常に機能していないときの動作(ステップS110〜ステップS112)を含まなくても実現することが可能である。この場合であっても、ガス供給装置100aによる燃料電池車両200aへのガスの充填効率の向上を図ることができる。また、ステップS110において、車両制御部280が、燃料電池車両200の内部の温度センサや圧力センサが正常に機能しているか否かの判定に代えて、もしくは、判定とともに、利用者からの入力を受け付けて、通信充填方式か非通信充填方式かを決定する構成としてもよい。
【0082】
C2.変形例2:
本実施例では、タンク情報Iabには、タンク210a、210bの合計のタンク容量Vtabが含まれているものして説明したが、タンク情報Iabには、タンク210aのタンク容量Vtaと、タンク210bのタンク容量Vtbがそれぞれ含まれていてもよい。この場合には、第1実施例において、判定部281により、タンク210aと対応する開閉弁230aが閉塞状態であると判定された場合に、車両制御部280は、タンク210bのタンク容量Vtb、内部温度Tb、内部圧力Pmrを含むタンク情報Ibをガス供給装置100に送信する代わりに、タンク情報Iabと開閉弁が閉塞状態のタンクを示す情報とを送信する構成としてもよい。こうすれば、装置制御部170は、取得したタンク情報Iabから開閉弁が閉塞していないタンク210bについてのタンク情報のみを用いて充填速度Vs3を決定することができる。
【0083】
また、第2実施例において、判定部171により、タンク210aと対応する開閉弁230aが閉塞状態であるとの判定をおこなったときに、装置制御部170aは、タンク210bのタンク容量Vtb、内部温度Tb、内部圧力Pmrを含むタンク情報Ibを送信するように燃料電池車両200aに対して要求しなくても、取得したタンク情報Iabから開閉弁が閉塞していないタンク210bについてのタンク情報のみを用いて充填速度Vs3を決定することができる。
【0084】
C3.変形例3:
本実施例では、判定部は、算出した温圧比RTa、RTbと充填マップとの比較をおこない、温圧比RTa、RTbが充填マップに示された各タンクの温圧比RTより低いタンクに対応する開閉弁は、半開きであるとの判定をおこなうと説明したが、燃料電池車両のタンク容量が全て同じであれば、温圧比RTを算出しなくても、相対的に温度の上昇速度の遅いタンクに対応する開閉弁が半開きであると判定することができる。一方、本実施例の構成であれば、タンク210aとタンク210bの容量は異なっていても開閉弁が半開きか否かを判定することができる。
【0085】
C4.変形例4:
本実施例では、装置制御部170は、判定部281により開閉弁230aが半開き状態であると判定されると、現在の充填速度Vs3と開口比Rとの積により充填速度Vs4を算出し、水素供給部110を制御して充填速度Vs4により燃料電池車両200に対してガスの供給をおこなうと説明したが、判定部281により開閉弁230aが半開き状態であると判定されたときの装置制御部170の動作は、上記に限定されず、任意に設定することができる。例えば、装置制御部170は、判定部281により開閉弁230aが半開き状態であると判定されると、燃料電池車両200へのガスの供給を停止する構成としてもよいし、タンク210bのタンク容量Vtb、内部温度Tb、内部圧力Pmrを含むタンク情報Ibを取得して、タンク情報Ibからガスの充填速度Vs3を算出する構成としてもよい。
【0086】
C5.変形例5:
本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガス充填対象物としての燃料電池システムや燃料電池車両、ガス供給装置を含むガスステーション等のほか、ガス充填対象物、ガス供給装置、ガス供給システムを制御するための制御装置、弁の状態を判定するときの判定方法、ガスの供給方法等の形態で実現することができる。
【符号の説明】
【0087】
10,10a…ガス供給システム
100,100a…ガス供給装置
101…ガス流路
110…水素供給部
120…充填量測定部
130…温度センサ
140…圧力センサ
150…ノズル
160…通信部
170,170a…装置制御部
171…判定部
200,200a…燃料電池車両
201,202…ガス流路
210a,210b…タンク
211a,211b,212a,212b…口金
220…レセプタクル
230a,230b…開閉弁
240a,240b…温度センサ
250…第1圧力センサ
260…第2圧力センサ
270…通信部
280,280a…車両制御部
281…判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス供給装置からガスの供給を受けるガス充填対象物であって、
前記ガス供給装置からガスを受け入れるためのレセプタクルと、
前記レセプタクルを介して前記ガス供給装置から供給されるガスを収容するための複数のタンクと、
前記複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、前記レセプタクルと前記タンクとの間のガスの流通を調整する流通調整弁と、
前記複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、前記タンクの内部の温度であるタンク温度をそれぞれ検出する温度センサと、
前記タンクの内部の圧力であるタンク圧力を検出する圧力センサと、
前記ガス充填対象物が前記ガス供給装置からガスの供給を受けているガス供給状態のときに、前記タンク温度および前記タンク圧力から前記流通調整弁の状態を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記タンク温度が上昇しないタンクに設置された流通調整弁は閉塞していると判定する、ガス充填対象物。
【請求項2】
請求項1に記載のガス充填対象物はさらに、
前記流通調整弁と前記レセプタクルとの間の流路内部における圧力である流路圧力を検出する流路圧力センサを備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記流路圧力と前記タンク圧力との差圧に対する前記タンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定する、ガス充填対象物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガス充填対象物はさらに、
前記タンク温度と、前記タンク圧力と、前記タンクの容積とを含むタンク情報を前記ガス供給装置に送信する通信部を備え、
前記通信部は、前記判定部により前記流通調整弁の状態についての判定がなされると、判定結果に応じた情報を前記ガス供給装置に送信する、ガス充填対象物。
【請求項4】
請求項3に記載のガス充填対象物において、
前記通信部は、前記判定部により前記流通調整弁が閉塞しているとの判定がなされると、流通調整弁が閉塞していると判定されたタンク以外のタンクについての前記タンク情報を前記ガス供給装置に送信する、ガス充填対象物。
【請求項5】
ガスを収容するための複数のタンクを備えたガス充填対象物に対してガスを供給するガス供給装置であって、
所定の充填速度により前記ガス充填対象物にガスを供給するガス供給部と、
前記ガス充填対象物から前記タンクの内部の温度と、前記タンクの内部の圧力と、前記タンクの容積とを含むタンク情報を取得する通信部と、
前記ガス供給装置が前記ガス充填対象物にガスの供給をしているガス供給状態のときに、前記通信部により取得された前記タンク情報から、前記複数のタンクのそれぞれに設置されている流通調整弁の状態を判定する判定部と、
前記判定部による前記流通調整弁の状態についての判定結果に応じて、前記ガス供給部から供給されるガスの充填速度を制御する制御部と、を備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記タンク温度が上昇しないタンクに設置された流量調整弁は閉塞していると判定する、ガス供給装置。
【請求項6】
請求項5に記載のガス供給装置において、
前記通信部は、前記タンクの内部の温度と、前記タンクの内部の圧力と、前記タンクの容積のほか、前記ガス供給装置と前記流通調整弁との間の流路内部の圧力を含むタンク情報を取得し、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記流路内部の圧力と前記タンクの内部の圧力との差圧に対する前記タンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定する、ガス供給装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のガス供給装置において、
前記制御部は、前記判定部により前記流通調整弁が閉塞しているとの判定がなされると、流通調整弁が閉塞していると判定されたタンク以外のタンクについての前記タンク情報からガスの充填速度を決定する、ガス供給装置。
【請求項8】
ガス供給システムであって、
ガスを収容するための複数のタンクと、
所定の充填速度により前記複数のタンクにガスを供給するガス供給部と、
前記複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、前記ガス供給部と前記タンクとの間のガスの流通を調整する流通調整弁と、
前記複数のタンクにそれぞれ対応して設置され、前記タンクの内部の温度であるタンク温度をそれぞれ検出する温度センサと、
前記タンクの内部の圧力であるタンク圧力を検出する圧力センサと、
前記ガス供給部から前記タンクにガスが供給されているガス供給状態のときに、前記タンク温度および前記タンク圧力から前記流通調整弁の状態を判定する判定部と、
前記判定部による前記流通調整弁の状態についての判定結果に応じて、前記ガス供給部から供給されるガスの充填速度を制御する制御部と、を備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記タンク温度が上昇しないタンクに設置された流通調整弁は閉塞していると判定する、ガス供給システム。
【請求項9】
請求項8に記載のガス供給システムはさらに、
前記ガス供給部と前記流通調整弁との間の流路内部の圧力である流路圧力を検出する流路圧力センサを備え、
前記判定部は、前記ガス供給状態のときに、前記流路圧力と前記タンク圧力との差圧に対する前記タンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定する、ガス供給システム。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載のガス供給システムにおいて、
前記制御部は、前記判定部により前記流通調整弁が閉塞しているとの判定がなされると、流通調整弁が閉塞していると判定されたタンク以外のタンクについての前記タンク温度と、前記タンク圧力と、前記タンクの容積からガスの充填速度を決定する、ガス供給システム。
【請求項11】
複数のタンクにそれぞれ対応して設置された流通調整弁の状態を判定するときの判定方法であって、
前記複数のタンクの内部の温度であるタンク温度をそれぞれ検出するタンク温度検出工程と、
前記タンクの内部の圧力であるタンク圧力を検出するタンク圧力検出工程と、
ガス供給部から前記タンクにガスが供給されているガス供給状態のときに、前記タンク温度および前記タンク圧力から前記流通調整弁の状態を判定する判定工程と、を備え、
前記判定工程では、前記ガス供給状態のときに、前記タンク温度が上昇しないタンクに設置された流通調整弁は閉塞していると判定する、判定方法。
【請求項12】
請求項11に記載の判定方法はさらに、
前記ガス供給部と前記流通調整弁との間の流路内部における圧力である流路圧力を検出する流路圧力検出工程を備え、
前記判定工程では、前記ガス供給状態のときに、前記流路圧力と前記タンク圧力との差圧に対する前記タンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定する、判定方法。
【請求項13】
ガス供給部から複数のタンクにそれぞれ対応して設置された流通調整弁を介して前記複数のタンクにガスを供給するときのガスの供給方法であって、
前記複数のタンクの内部の温度であるタンク温度をそれぞれ検出するタンク温度検出工程と、
前記タンクの内部の圧力であるタンク圧力を検出するタンク圧力検出工程と、
前記ガス供給部から前記タンクにガスが供給されているガス供給状態のときに、前記タンク温度および前記タンク圧力から前記流通調整弁の状態を判定する判定工程と、
前記流通調整弁の状態についての判定の結果に応じて、前記ガス供給部から供給されるガスの充填速度を制御する制御工程と、を備え、
前記判定工程では、前記ガス供給状態のときに、前記タンク温度が上昇しないタンクに設置された流通調整弁は閉塞していると判定する、ガスの供給方法。
【請求項14】
請求項13に記載のガスの供給方法はさらに、
前記ガス供給部と前記流通調整弁との間の流路内部における圧力である流路圧力を検出する流路圧力検出工程を備え、
前記判定工程では、前記ガス供給状態のときに、前記流路圧力と前記タンク圧力との差圧に対する前記タンク温度の温度上昇率が所定値以下のタンクに設置された流通調整弁は半開きであると判定する、ガスの供給方法。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載のガスの供給方法において、
前記制御工程では、前記判定工程において前記流通調整弁が閉塞しているとの判定がなされると、流通調整弁が閉塞していると判定されたタンク以外のタンクについての前記タンク温度と、前記タンク圧力と、前記タンクの容積からガスの充填速度を決定する、ガスの供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77789(P2012−77789A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221477(P2010−221477)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】