ガス充填方法、ガス充填システム、ガスステーション及び移動体
【課題】タンクのライナへの負荷を低減することができるガス充填方法、ガス充填システム、ガスステーション及び移動体を提供することを課題とする。
【解決手段】タンク30内の圧力及び温度に基づいて、充填開始前におけるライナ53と補強層55との間の隙間量62を算出し、算出した隙間量62に基づいて、充填によりライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かを予測し、許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限する。
【解決手段】タンク30内の圧力及び温度に基づいて、充填開始前におけるライナ53と補強層55との間の隙間量62を算出し、算出した隙間量62に基づいて、充填によりライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かを予測し、許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車載のタンクにガスステーションからガスを充填するガス充填方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンクに水素ガスを充填すると、タンク内の温度が上昇することが知られている。この点に関し、例えば特許文献1では、温度管理を行いながら充填速度を決めなければならないという従来の課題を指摘した上で、タンクの上流側にある弁及び充填配管の温度上昇を抑制する構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−89793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のタンクの構造は、ガス不透過性のライナの外周面を、耐圧性を確保する補強層で覆ったものである。例えば、フィラメントワインディング法などにより形成されたCFRPが、ライナの外周面に巻き付けられてなる補強層を構成する。
しかし、特に樹脂ライナ製のタンクを製造した場合、ライナとCFRPとの弾性率や線膨張係数の違いにより、ライナが収縮し、ライナとCFRPとの間に隙間が発生する。また、仮に製造段階で隙間が発生しなくても、低圧又は低温の条件になると、上記の弾性率等の違いによりライナが収縮し、隙間が発生し得る。そして、より低圧又はより低温の条件になるほど、隙間の大きさが大きくなる傾向にある。
【0005】
このような隙間がある状態で水素ガスを充填すると、充填した水素ガスによって、収縮していたライナが隙間を埋めるように膨張する。しかし、この膨張に伴うライナの変形量や変形スピードが大きいと、ライナに大きな負荷がかかるおそれがある。
【0006】
本発明は、タンクのライナへの負荷を低減することができるガス充填方法、ガス充填システム、ガスステーション及び移動体を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のガス充填方法は、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクにガスを充填するものにおいて、タンク内の圧力及び温度に基づいて、充填開始前におけるライナと補強層との間の隙間量を算出する算出ステップと、算出した隙間量に基づいて、充填によりライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測ステップと、許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限する流量制限ステップと、を備えたものである。
【0008】
本発明によれば、隙間量に関わらず一律の充填流量とするのではなく、充填においてライナに許容以上の負荷がかかることが隙間量から予測される場合に、充填流量を制限する。よって、その制限した充填流量で充填した際には、隙間を埋めるように変形するライナの変形速度を抑えることができる。これにより、ライナへの負荷を低減することができる。
【0009】
好ましくは、流量制限ステップは、充填により前記ライナが変形して隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中、ガスの充填流量を制限して充填を行うとよい。
こうすることで、隙間を埋めるまでの少なくとも一部の期間では、制限した充填流量のもとでライナが変形するので、ライナへの負荷を低減することができる。
【0010】
より好ましくは、本発明のガス充填方法は、少なくとも第1の期間の経過後に、充填流量の制限を解除して充填を行うとよい。
これにより、少なくとも隙間が埋まった後では、それまでの充填流量よりも大きな充填流量にて充填を行うことができるので、充填時間の短縮化を図ることができる。
【0011】
好ましくは、予測ステップは、算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを算出し、その算出したライナの伸びが所定の閾値を越える場合には、許容以上の負荷がかかる旨を予測するとよい。
これにより、ライナの変形と関係するライナの伸び(ひずみ)を基準に予測するので、その予測の確度が高まる。
【0012】
より好ましくは、上記の所定の閾値は、ライナの破断伸びであり、タンク内の温度に応じて異なるとよい。
この構成によれば、破断伸びが温度に依存することが予測の際に考慮されるので、その予測の確度がより高まる。
【0013】
好ましくは、流量制限ステップは、算出した必要なライナの伸びに応じて、充填流量の制限量を異ならせるとよい。
これにより、ライナへの負荷の低減と充填時間の短縮とを両立し得る。例えば、算出した必要な伸びが小さい場合には、それが大きい場合よりも充填流量を大きくし得るので、ライナへの負荷の低減を図りながら、充填時間を短縮することができる。
【0014】
より好ましくは、流量制限ステップは、算出した必要な伸びを、ライナと補強層との間の隙間を埋める際のライナ変形速度とライナの破断伸びとの関係を規定するマップに参照することで、当該ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さいライナ変形速度となるように、充填流量を制限するとよい。
このようなマップを活用することで、許容以上の負荷がかからないライナ変形速度にて充填流量を制限することができる。
【0015】
より好ましくは、マップは、タンク内の温度に応じたものが複数あり、流量制限ステップは、複数のマップのうち、算出ステップで用いたタンク内の温度に対応するものを参照することで、タンク内の温度に応じて充填流量の制限量を異ならせるとよい。
これにより、破断伸びが温度に依存することが充填流量の決定の際にも考慮されるので、ライナへの負荷を低減しながら充填時間の短縮を図ることができる。例えば、タンク内の温度が高い場合には、それが低い場合よりもライナ変形速度(充填流量)を大きくし得る。
【0016】
好ましくは、タンクは、移動体に搭載されていると共に、移動体の外部に設置されているガスステーションからガスを充填可能に構成されているとよい。また、移動体は、流量制限ステップにおける充填流量の制限を決定して、その決定した充填流量に関する情報をガスステーションに送信し、ガスステーションは、移動体から受信した充填流量に関する情報に基づいて充填を行うとよい。
この構成によれば、移動体側から充填流量を制限するように制御することができる。
【0017】
あるいは、別の好ましい一態様によれば、算出ステップ、予測ステップ及び流量制限ステップは、ガスステーションによって実行されてもよい。
この構成によれば、ガスステーション側にて充填流量を制限するように制御することができる。
【0018】
この場合、ガスステーションは、算出ステップにおいて、タンク内の圧力及び温度に関する情報を移動体から通信により受信することが好ましい。
こうすることで、ガスステーションの外部にあるタンク内の情報について、ガスステーションが簡単に把握することができる。
【0019】
本発明の他の好ましい一態様によれば、ガス充填方法は、流量制限ステップが充填流量をゼロに制限した場合に充填を禁止するとよい。なお、充填を禁止した旨を報知するようにしてもよい。
【0020】
本発明を別の観点で捉えると、以下の態様であってもよい。
【0021】
すなわち、流量制限ステップは、ライナと補強層との間の隙間を埋める際のライナ変形速度が、ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さくなるように、充填流量を制限するとよい。この場合、流量制限ステップは、算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを、ライナ変形速度とライナの破断伸びとの関係を規定するマップに参照することで、ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さいライナ変形速度となるように、充填流量を制限するとよい。
【0022】
また、流量制限ステップは、算出した隙間量、その隙間量をゼロとするために必要なライナの伸び及びタンク内の温度の少なくとも一つに応じて、充填流量の制限量を異ならせるとよい。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明のガス充填システムは、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体と、移動体の外部に設置され、タンクにガスを充填するガスステーションと、を備える。そして、移動体又はガスステーションは、タンク内の圧力及び温度に関する情報を取得する情報取得部と、情報取得部が取得した情報に基づいて、充填開始前におけるライナと補強層との間の隙間量を算出する算出部と、算出した隙間量に基づいて、充填によりライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測部と、許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限することに決定する流量決定部と、を有する。
【0024】
また、上記目的を達成するため、本発明のガスステーションは、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体の外部に設置され、タンクにガスを充填するものにおいて、上記の情報取得部、算出部、予測部及び流量決定部を有するものである。
【0025】
さらに、上記目的を達成するため、本発明の移動体は、外部にあるガスステーションからガスを充填されるタンクとして、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載したものにおいて、上記の情報取得部、算出部、予測部及び流量決定部と、流量決定部が決定した充填流量に関する情報をガスステーションに送信する送信機と、を備えるものである。
【0026】
この場合、好ましくは、ガスステーションは、タンクへの充填を制御する運転制御部を有し、運転制御部は、許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、充填によりライナが変形して隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中は、流量決定部が決定した充填流量にて充填を行うとよい。より好ましくは、運転制御部は、少なくとも第1の期間の経過後に、充填流量の制限を解除して充填を行うとよい。
【0027】
また、ガスステーションが上記の情報取得部を有する場合には、好ましくは、情報取得部は、移動体側にある温度センサ及び圧力センサの検出結果を、通信によりタンク内の圧力及び温度に関する情報として取得するものであるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態に係るガス充填システムの概略図である。
【図2】実施形態に係るガス充填システムの構成図である。
【図3】実施形態に係るタンクの断面図である。
【図4】外気温が20℃であるときのタンク圧力及びタンク温度の時間変化を示す図であり、(a)はタンクからの水素ガス放出速度が遅い場合に関するものであり、(b)は、タンクからの水素ガス放出速度が速い場合に関するものである。
【図5】図3のタンクにおいて、ライナと補強層との間に隙間がある状態を示す断面図である。
【図6】複数のタンク温度について、隙間の大きさとタンク圧力との関係を模式的に示す図である。
【図7】実施形態に係るタンクの隙間量に関するマップの一例を示す図である。
【図8】タンク温度とライナの破断伸びとの関係を示す図である。
【図9】隙間を埋めるのに必要なライナの伸びを算出する方法を示す図であり、(a)は隙間がある状態を示し、(b)は隙間がなくなった状態を示す。
【図10】実施形態に係るガス充填方法において、車両側から充填流量を制限する制御を実現するための機能ブロック図である。
【図11】図10の制御の一例を示すフローチャートである。
【図12】実施形態に係るガス充填方法において、ガスステーション側から充填流量を制限する制御を実現するための機能ブロック図である。
【図13】図12の制御の一例を示すフローチャートである。
【図14】ライナ変形速度を求めるモデルを示す図である。
【図15】ライナ変形速度と破断伸びとの関係を規定するマップを示す図であり、(a)は一つのタンク温度におけるものを示し、(b)は互いに異なる二つのタンク温度におけるものを示す。
【図16】実施形態に係るガス充填方法において、車両側から充填流量をゼロに制限する制御の一例を示すフローチャートである。
【図17】実施形態に係るガス充填方法において、ガスステーション側から充填流量をゼロに制限する制御の一例を示すフローチャートである。
【図18】実施形態に係るガス充填方法において、車両側から充填を禁止するよう警告を出す制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0030】
1.ガス充填システムの概要
【0031】
ここでは、ガス充填システムとして、燃料電池システムを搭載した燃料電池車両のタンクに対して、水素ステーションから水素ガスを充填する例を説明する。燃料電池システムは、公知のとおり、燃料ガス(例えば水素ガス)と酸化ガス(例えば空気)の電気化学反応によって発電する燃料電池などを備える。また、水素ガスの充填とは、水素ガスを水素ステーションからタンクに供給する態様の一つである。
【0032】
図1に示すように、ガス充填システム1は、例えばガスステーションとしての水素ステーション2と、水素ステーション2から水素ガスを供給される車両3と、を備える。
【0033】
1−1.車両の概要
図2に示すように、車両3は、タンク30、レセプタクル32、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42、通信機44及び制御装置46を備える。
タンク30は、燃料電池への燃料ガス供給源であり、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能な高圧タンクである。タンク30を複数搭載する場合には、タンク30は燃料電池50に対して並列に接続される。タンク30内の水素ガスは、図示省略した供給管路を介して燃料電池に供給される。一方、タンク30への水素ガスの供給は、水素ガスが水素ステーション2からレセプタクル32を介して充填流路34に放出されることで行われる。充填流路34は、タンク30外にあるガス配管と、タンク30の口部に取り付けられた図示省略のバルブアッセンブリ内にある流路部分と、からなる。また、充填流路34には、水素ガスの逆流を防止するための逆止弁35が設けられる。
【0034】
圧力センサ36は、水素ステーション2から放出された水素ガスの圧力を検出するものであり、充填流路34に設けられる。例えば、圧力センサ36は、逆止弁35よりも下流側であって且つタンク30の直前にある上記のガス配管に設けられ、実質的にタンク30内の水素ガスの圧力(以下、「タンク圧力」という。)を反映する圧力を検出する。
温度センサ38は、上記バルブアッセンブリ内の流路部分に設けられ、タンク30内に配置される。温度センサ38は、タンク30内の温度(以下、「タンク温度」という。)を反映する温度を検出する。なお、他の実施態様では、圧力センサ36をタンク30内に配置してもよい。また、タンク30内における温度センサ38の配置位置は、タンク温度を実質的に検出できる位置であれば特に限定されるものではない。
【0035】
表示装置42は、例えばカーナビゲーションシステムの一部としても用いることが可能なものであり、各種情報を画面に表示する。通信機44は、車両3が水素ステーション2との間で通信するためのものであり、各種情報を含む信号を受信及び送信する受信機及び送信機として機能する。通信機44は、例えば、赤外線通信等の無線通信を行う通信インターフェースを有する。通信器44は、水素ステーション2の充填ノズル12をレセプタクル32に接続した状態で通信可能となるように、レセプタクル32に組み込まれるか、あるいは車両3のリッドボックス内に固定される。
【0036】
制御装置46は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成され、車両3を制御する。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行するものであり、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置46は、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42及び通信機44などと接続されており、車両3にて把握可能な情報、例えば圧力センサ36及び温度センサ38の検出情報を、通信機44を用いて水素ステーション2に送信する。
【0037】
なお、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42及び通信機44などの低圧補機は、図示省略した低圧バッテリから電力が供給される。このため、燃料電池が発電していない車両3のイグニッションオフの状態では、低圧補機や制御装置46に対しては低圧バッテリから電力が供給されることになる。
【0038】
1−2.ガスステーションの概要
図2に示すように、水素ステーション2は、水素ステーション2にある各機器を制御する制御装置5と、車両3との間で通信するための通信機6と、各種情報を画面に表示する表示装置7と、水素ステーション2の設置場所の外気温を検出する外気温センサ8と、を備える。通信機6は、車両3の通信機44に対応した形式のものであり、通信機44との間で各種情報を送受信する。通信機6は、例えば充填ノズル12に設けられる。表示装置7は、充填中における充填流量(充填速度)及び充填量などの情報を表示する。また、表示装置7は、作業者又は利用者(以下、「ユーザー」という。)が所望の充填条件を入力することが可能な操作パネルを表示画面に具備するものであってもよい。
【0039】
また、水素ステーション2は、水素ガスを貯蔵するカードル(ガス供給源)11と、水素ガスを車載のタンク30に向けて放出する充填ノズル12と、これらを結ぶガス流路13と、を有する。充填ノズル12は、水素ガスの充填に際して、車両3のレセプタクル32に接続される。また、充填ノズル12には、水素ステーション2がタンク30に供給する水素ガスの圧力及び温度を検出する圧力センサ9及び温度センサ10が設けられる。
【0040】
ガス流路13には、圧縮機14、蓄圧器15、プレクーラ16、流量制御弁17、流量計18及びディスペンサ19が設けられる。圧縮機14は、カードル11からの水素ガスを圧縮して吐出する。蓄圧器15は、圧縮機14によって所定圧力まで昇圧された水素ガスを蓄える。プレクーラ16は、蓄圧器15からの室温程度の水素ガスを所定の低温(例えば−20℃又は−40℃)に冷却する。流量制御弁17は、電気的に駆動される弁であり、制御装置5からの指令に従って、蓄圧器15からの水素ガスの流量を調整する。これにより、タンク30への水素ガスの充填流量が制御される。この制御された充填流量が流量計18によって計測され、その計測結果を受けて所望の充填流量となるように、制御装置5が流量制御弁17をフィードバック制御する。なお、流量制御弁17以外の流量制御装置を用いることも可能である。ディスペンサ19は、水素ガスを充填ノズル12へと送り出すものである。例えば、充填ノズル12のトリガーレバーを引くとディスペンサ19が作動し、充填ノズル12からタンク30に向けて水素ガスの放出が可能となる。なお、図示省略したが、蓄圧器14又はその下流側には、充填時にガス流路13を開く遮断弁が設けられる。
【0041】
制御装置5は、制御装置46と同様に、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行して、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置5は、図2において一点鎖線で示した制御線にて接続されている通信機6、表示装置7、外気温センサ8、圧力センサ9、温度センサ10、流量制御弁17及び流量計18のほか、蓄圧器15等とも電気的に接続される。例えば、制御装置5は、圧力センサ36及び温度センサ38が検出した圧力及び温度を、タンク30内の圧力及び温度(すなわち、タンク圧力及びタンク温度)として認識して、水素ガスの充填を制御する。詳細には、制御装置5は、通信機6から受け取った車両3側のタンク圧力及びタンク温度の情報をもとに流量制御弁17の開度を制御する。また、制御装置5は、水素ステーション2にて把握可能な情報を、通信機6を用いて車両3の通信機44に送信する。
【0042】
以上のガス充填システム1において、車両3に水素ガスを充填する場合、先ず、充填ノズル12をレセプタクル32に接続し、この状態にて、ディスペンサ19を作動させる。すると、充填ノズル12から放出された水素ガスが、タンク30に充填される。
本実施形態のガス充填システム1では、充填開始前にタンク30内の隙間量を把握し、タンク30のライナへの負荷を低減するようにしている。
【0043】
2.タンクの構造
図3に示すように、タンク30は、内部に貯留空間51が画成されるように中空状に形成されたライナ53と、ライナ53の外周面を覆う補強層55と、を有する。ライナ53及び補強層55の軸方向の少なくとも一端部には、バルブアッセンブリを接続するための口金57が設けられる。
【0044】
ライナ53は、ガスバリア性を有し、水素ガスの外部への透過を抑制する。ライナ53の材質は、特に制限されるものではなく、例えば、金属のほか、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂その他の硬質樹脂を挙げることができる。
【0045】
補強層55は、貯留する水素ガスの圧力に耐える役割を果たすものであり、マトリックス樹脂を含浸した繊維をライナ53の外表面に巻き付けた後で、そのマトリックス樹脂を加熱硬化してなるものである。マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂等が用いられ、繊維としては、カーボン繊維やアラミド繊維が用いられる。また、巻き付け方法としては、フィラメントワインディング法(FW法)やテープワインディング法等が挙げられ、その際の巻き付け方としては、公知のフープ巻き及びヘリカル巻きが挙げられる。
【0046】
本実施形態では、樹脂製のライナ53に対しFW法を用いて、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)の補強層55を構成している。このCFRPは、マトリックス樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用い、繊維として炭素繊維を用いている。なお、補強層55は、ライナ53の外周面に積層されたCFRP層以外の層、例えば、CFRP層の外周面に積層されたGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)層を具備するものであってもよい。
【0047】
3.水素放出速度とタンク圧力及びタンク温度との関係
図4(a)及び(b)は、外気温が20℃であるときのタンク圧力及びタンク温度の時間変化を示す図であり、図4(a)は水素ガス放出速度が遅い場合に関するものであり、図4(b)は、水素ガス放出速度が速い場合に関するものである。図4(a)及び(b)から分かるとおり、タンク30からの水素ガスの放出速度(燃料電池への供給速度)が速いほど、タンク圧力の低下率は大きく、タンク温度はより低下する。水素ガス放出終了後(時間t0)、タンク温度は、外気によって上昇し、外気温(20℃)に近づいていく。その際、タンク圧力も僅かに上昇する。なお、一般的に、外気温が低いと、タンク温度はさらに低下する。
【0048】
車両3に搭載されるタンク30の場合、水素ガス放出直後に水素ステーション2で充填され得る。したがって、水素ガスが充填されるときは、タンク温度及びタンク圧力が低下した状態であることが多いと考えられる。このとき、水素ガス放出速度の速い走行(例えば加速走行)をしていた直後の充填の場合には、タンク温度及びタンク圧力がより低下した状態となっている。
【0049】
なお、タンク30に関して、水素ガスの搭載量(タンク容積)を減らした仕様の場合には、その減らす前の仕様の場合と同量の水素ガスを消費するとなると、タンク圧力の低下速度が上がる。したがって、搭載量(タンク容積)を減らした仕様の場合は、タンク温度がより低下し易い。
【0050】
4.隙間の発生について
図5は、タンク30において、ライナ53と補強層55との間に隙間60がある状態を示す断面図である。この隙間60が発生する理由を説明する。
【0051】
第1に、タンク30の次のような製造工程では、隙間60が発生する。具体的には、補強層55の形成にあたっては、先ず、FW法の張力では変形しない程度に内圧を保持した常温のライナ53に対して、エポキシ樹脂を含浸した炭素繊維をFW法により巻き付ける。この巻き付けが終わった段階では、隙間60は発生しない。次の段階として、内圧を保持したまま加熱し、CFRPのエポキシ樹脂を熱硬化処理により固める。この段階でも、隙間60は発生しない。しかし、熱硬化処理後、内圧が抜かれて常温に戻ると、ライナ53が収縮する。その結果、図5に示すような隙間60が発生する。これは、ライナ53と補強層55との弾性率や線膨張係数の差に起因して、ライナ53の方が補強層55に比べて収縮・膨張の変形がし易いために起きる。
【0052】
第2に、上記の製造段階において隙間60が発生しなくとも、低圧又は低温の条件になると、隙間60が発生し得る。例えば、図3に示すような隙間がゼロの状態からタンク圧力が下がると、図5に示すような隙間60が発生する。これは、上記の弾性率等の差に起因して、ライナ53は収縮するのに対し、補強層55はほとんど変形しないからである。同様に、図3に示すような隙間がゼロの状態からタンク温度が下がると、図5に示すような隙間60が発生する。そして、この隙間60の大きさは、タンク圧力又はタンク温度がより小さくなるほど大きくなる。つまり、水素ガス放出速度が速かったときほど(参照:図4)、隙間60の大きさは大きくなる傾向になる。
【0053】
図6は、複数のタンク温度T1〜T4(T1<T2<T3<T4)について、隙間60の大きさとタンク圧力との関係を模式的に示す図である。
図6に示すように、タンク温度が同じ条件であれば、タンク圧力が大きくなると、隙間60の大きさは小さくなる。同様に、タンク圧力が同じ条件であれば、タンク温度が大きくなると、隙間60の大きさは小さくなる。それゆえ、水素ガスがタンク30に充填されなくとも、外気温によってタンク温度が上がれば、隙間60が小さくなるということが言える。また、隙間60の大きさが同じ条件では、タンク温度が低温であるほど、隙間60を埋めるためには、高いタンク圧力が必要であることがわかる。
【0054】
5.隙間量の測定及び記憶について
隙間60の大きさは、タンク圧力及びタンク温度にのみ依存するのではなく、タンク30の仕様によっても異なる。例えば、タンク30を構成する材料(ライナ53及び補強層55の材質)や、タンク30の体格(長さ、径、容量など)によって、隙間60の大きさは異なる。
【0055】
隙間60の大きさを示す指標としては、ここでは、図5に示すように、ライナ53と補強層55との間の距離に相当する隙間量62を用いることにする。なお、この隙間量62は、ライナ53及び補強層55の全領域で一律である場合にはその両者間の距離に相当し、一律ではない場合にはその両者間の距離のうち最も大きい距離に相当するものとする。
【0056】
隙間量62は、様々な方法により測定することができる。例えば、タンク30をX線撮影し、タンク30の内部を可視化することで、ライナ53と補強層55との間の隙間量62を測定することができる。また別の方法として、タンク30の補強層55に穴をあけ、その穴から変位計の測定プローブを挿入することで、隙間量62を機械的に測定することもできる。このような隙間量62の測定は、タンク30の開発段階でなされており、充填時に隙間量62が上記のような方法で測定されるわけではない。したがって、ガス充填システム1においては、充填対象のタンク30の隙間量62が既に把握されており、例えばマップとして予め用意される。
【0057】
図7は、隙間量62に関するマップMの一例を示す図である。
上述のとおり、隙間量62はタンク30の仕様によって異なるので、その仕様毎(タンク301、タンク302、タンク303)のマップM1〜M3が用意される。例えば、マップM1とマップM2とは、ライナ53の材質について異なる。また、上述したように、隙間量62はタンク圧力及びタンク温度によって異なるので、隙間量62に関するマップMは、縦軸をタンク圧力とし、横軸をタンク温度として、それぞれの条件に対応する隙間量を規定する。例えば、タンク温度T1のもとでは、図7にB1〜E1としてそれぞれ示す隙間量62は、タンク圧力が大きくなるほど小さくなる。また、タンク圧力0MPaのもとでは、図7にA2〜A5として示すそれぞれ隙間量62は、タンク温度が大きくなるほど小さくなる。
【0058】
ここで、マップMは、車両3の制御装置46及び水素ステーション2の制御装置5の少なくとも一方の記憶部(ROMなど)に記憶される。詳細は後述するが、水素ガスの充填開始前に、充填対象のタンク30に対応する一つのマップMが記憶部から読み出され、この読み出したマップMに充填開始前のタンク圧力及びタンク温度が参照される。これにより、充填開始前の隙間量62が算出される。そして、この算出した隙間量62をもとに、その後の充填においてライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かが予測される。
【0059】
6.スキマ規定値について
スキマ規定値とは、後記「7.」の隙間量を考慮した充填制御において用いる指標の一つであり(参照:図11のステップS5、S18など)、ライナ53の破断伸びδ又はこれに安全率を乗じた値を意味する。破断伸びδは、ライナ53の材料物性により規定され、タンク温度に応じて異なる。具体的には、図8に示すように、タンク温度が大きくなるほど、破断伸びδは大きくなる。車両3に搭載されるタンク30に関するスキマ規定値は、マップMと同様に、車両3の制御装置46及び水素ステーション2の制御装置5の少なくとも一方の記憶部に予め記憶される。
【0060】
なお、破断伸びδは、引張試験の結果から得ることができるものであり、以下の式(1)で表されることは言うまでもない。
δ=100×(lf−l0)/l0 ・・・(1)
ここで、各パラメータの意味は以下のとおりである。
l0:ライナ53の初期の長さ
lf:破断後のライナ53の永久伸び
【0061】
6−1.スキマ規定値と比較する対象
後記「7.」の充填制御において、スキマ規定値と比較する対象は、隙間60を埋めるのに必要なライナ53の伸びεである。
【0062】
図9(a)に示すように、ライナ53と補強層55との間に隙間60がある状態で水素ガスの充填を行うと、図9(b)に示すように、ライナ53が隙間60を埋めるまで膨張変形する。これは、充填によりタンク圧力及びタンク温度が上昇し、これにより、収縮していたライナ53が補強層55と接触するまで膨張するからである。この隙間60に対するライナ53の伸び、すなわち隙間60を埋めるのに必要なライナ53の伸びεは、例えば以下の式(2)を用いて算出される。
【0063】
ε=100×(rf−r0)/r0 ・・・(2)
ここで、各パラメータの意味は以下のとおりである。
r0:ライナ53の初期の外径
rf:隙間60を埋めたときのライナ53の外径
一例を挙げると、r0=50mm、隙間量=5mmの場合、rf=55となるので、必要なライナ53の伸びεは、10%となる。
【0064】
充填制御に際しては、隙間量62の算出値及びライナ53の外径rfがわかっているので、上記の式(2)より、隙間60を埋めるのに必要な伸びεを算出することができる。そして、この算出した必要な伸びεをスキマ規定値と比較し、必要な伸びεがスキマ規定値を超える場合には、ライナ53に許容以上の負荷がかかると予測する。
【0065】
ここで、算出した必要な伸びεと比較するスキマ規定値(所定の閾値)は、その比較時のタンク温度に応じたものが用いられる。上述したように、破断伸びδがタンク温度に依存するからである(参照:図8)。したがって、タンク温度が高くなると、設定されるスキマ規定値も大きくなる。
【0066】
7.隙間量を考慮した充填制御
次に、ガス充填システム1で実行される水素ガス充填について、隙間量62を考慮した複数の制御例を説明する。
【0067】
7−1.車両側から充填流量を制限する制御
図10は、本制御を実現するために、制御装置5,46が有する機能ブロックを示すブロック図である。
車両3の制御装置46は、記憶部70、隙間量算出部71、予測部72及び流量決定部73を有する。また、水素ステーション2の制御装置5は、タンク30への充填を制御する運転制御部75を有する。
【0068】
記憶部70は、車両3に搭載されたタンク30に対応する上記のマップMを一つ記憶するほか、タンク30に対応する上記のスキマ規定値などを記憶する。隙間量算出部71は、検出されたタンク圧力及びタンク温度を記憶部70のマップMに参照することで、隙間量62を算出する。予測部72は、算出された隙間量62に基づいて、水素ガス充填によりライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かを予測する。流量決定部73は、タンク30への水素ガスの充填流量を決定する。特に、予測部72の予測結果が許容以上の負荷がかかるものであった場合、流量決定部73は、充填流量を制限することに決定する。流量決定部73によって決定された充填流量に関する情報は、通信機44−通信機6の通信により、水素ステーション2に伝えられる。運転制御部75は、車両3から受信した充填流量となるように、水素ステーション2の各種機器(流量制御弁17など)を制御する。
【0069】
図11は、本制御の一例を示すフローチャートである。
先ず、車両3のリッドボックスのフューエルカバーが開けられると(ステップS1)、そのことがセンサ(図示省略)により検知され、車両3の制御装置46が起動する(ステップS2)。その後、圧力センサ36、温度センサ38及び通信機44が起動する(ステップS3)。これらの起動に際しては、低圧バッテリから電力が供給される。なお、制御装置46等を起動するトリガーとして、充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされたことをセンサで検知することを用いてもよい。
【0070】
次いで、圧力センサ36及び温度センサ38によって読み込まれた充填開始前のタンク圧力及びタンク温度(以下、それぞれ「タンク初期圧力」及び「タンク初期温度」という場合がある。)から、充填開始前の隙間量62を算出する(ステップS4)。詳細には、タンク初期圧力及びタンク初期温度の各情報が制御装置46の例えばRAMに一時的に記憶されるので、隙間量算出部71が、その一時的に記憶された情報を記憶部70のマップMに参照することで隙間量62を算出する。
【0071】
次のステップS5では、算出した隙間量62に基づいて、隙間60を埋めるのに必要なライナ53の伸びεを算出し、算出した必要な伸びεがスキマ規定値内であるか否かを判断する。この判断により、その後の水素ガス充填によって、ライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かを予測する。これは予測部72によってなされるが、算出した必要な伸びεと比較するスキマ規定値としては、タンク初期温度に対応するものが用いられる。
【0072】
その結果、スキマ規定値内である場合には(ステップS5;Yes)、水素ガス充填をしてもライナ53に許容以上の負荷がかからないとして、通常の水素ガス充填のフローへと進む(ステップS6〜S13)。一方、スキマ規定値内でない場合には(ステップS5;No)、通常の水素ガス充填をすると、ライナ53に許容以上の負荷がかかるとして、充填流量を制限するフローへと進む(ステップS14〜20)。
【0073】
通常の水素ガス充填のフローでは、先ず、ユーザーによって充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされるが(ステップS6)、これが既になされている場合には、ステップS6は省略される。次いで、タンク初期圧力及びタンク初期温度の情報が、通信により水素ステーション2の制御装置5に伝えられる(ステップS7)。制御装置5の運転制御部75は、受信したタンク初期圧力及びタンク初期温度を充填流量マップに参照することで、充填流量を決定し、充填を開始する(ステップS8)。なお、充填流量マップは、少なくともタンク圧力及びタンク温度と充填流量との関係を規定するものであり、制御装置5の記憶部に記憶されている。充填中は、随時、タンク圧力及びタンク温度が読み込まれて送信され、充填流量マップに参照されることで充填流量が変更される。
【0074】
充填の結果、満タンまで充填又はユーザーが指定した所望の充填条件を満たす充填がされると、充填が終了する(ステップS9)。その後は、ユーザーによって充填ノズル12がレセプタクル32から取り外されると共に(ステップS10)、フューエルカバーが閉じられる(ステップS11)。すると、圧力センサ36、温度センサ38及び通信機44の電源がOFFとなり(ステップS12)、制御装置46の電源がOFFとなる(ステップS13)。これにより、通常の水素ガス充填の一連のフローが終了する。
【0075】
一方、充填流量を制限するフローでは、先ず、ユーザーによって充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされていなければ、これがなされる(ステップS14)。次いで、タンク初期圧力及びタンク初期温度に関する情報とともに、流量決定部73が制限することに決定した充填流量に関する情報が、通信により水素ステーション2の制御装置5に伝えられる(ステップS15)。これを受けて、制御装置5の運転制御部75は、流量決定部73が決定した充填流量にて充填を開始する(ステップS16)。なお、流量決定部73が制限することに決定した充填流量は、通常の水素ガス充填において充填開始の際に用いる充填流量よりも小さい。
【0076】
充填流量を制限した充填中は、随時、タンク圧力及びタンク温度が読み込まれ、そのときの隙間量62が算出されると共に(ステップS17)、算出された隙間量62に基づいて必要なライナ53の伸びεが改めて算出され、スキマ規定値と比較される(ステップS18)。その結果、スキマ規定値内でない場合には(ステップS18;No)、充填流量を制限した充填が継続される(ステップS19)。一方、充填によってスキマ規定値内になった場合には(ステップS18;Yes)、充填流量の制限を解除して、充填が行われる(ステップS20)。
【0077】
すなわち、充填流量を制限した充填中では、隙間量算出部71が、充填中のタンク圧力及びタンク温度をマップMに随時参照することで隙間量62を算出する。また、その随時算出する隙間量62に基づいて、予測部72が、充填流量の制限を解除することが可能であるか否かを判断する。その結果、充填流量の制限解除が可能であると判断した場合、充填流量の制限を解除する旨の信号が通信により水素ステーション2に伝えられ、運転制御部75が、充填流量マップを参照した通常の水素ガス充填を行うように切り替える。
【0078】
このようなステップS16〜S20の一例を挙げると、充填開始からライナ53が膨張変形して隙間量62がゼロとなるまでの期間中は、充填流量を制限して充填する。そして、その充填により隙間量62がゼロとなった後は、充填流量の制限を解除して充填する。隙間量62がゼロとなっていれば、ライナ53の膨張変形は起こらず、ライナ53に許容以上の負荷がかからないからである。なお、別の例では、上記期間の途中で、許容以上の負荷がかからないと予測される場合には、充填流量の制限を解除してもよい。なおまた、充填流量の制限についてのより具体的な制御例については後記「7−3」で述べる。
【0079】
以上説明した本制御によれば、充填開始前にタンク30内の隙間量62を算出し、充填によってライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かを予測し、そのような負荷がかかると予測される場合に充填流量を制限して充填している。これにより、充填時のライナ53の変形速度(膨張速度)を抑えることができるので、ライナ53に与える負荷を低減することができる。また、充填を禁止してタンク温度が外気温により上昇するのを待つ場合に比べて、隙間60を短時間で埋めることができる。
【0080】
さらに、充填流量の制限をした場合にも、隙間60が埋まった後では充填流量の制限を解除して充填するので、全体として充填時間を短縮することができる。一方で、ライナ53に許容以上の負荷がかかることが予測されない場合には、充填流量を制限しないため、迅速な充填が可能となる。すなわち、本制御によれば、スキマ規定値外であるときのみ、充填流量を制限することになるので、ライナ53の負荷低減及び充填時間の短縮を両立することができる。
【0081】
加えて、車両3側にて、充填流量の制限を決定し、その情報が水素ステーション2側に指示されているので、車両3側にて、充填流量を制限するように制御することができる。これにより、予め記憶させておく上記のマップM及びスキマ規定値については、車両3に搭載されるタンク30に対応するものだけで済む。換言すると、水素ステーション2においては、あらゆる車両のタンクに対応するマップM及びスキマ規定値を記憶したり、そのソフトウェアを更新したりする必要がなくなる。
【0082】
7−2.ガスステーション側から充填流量を制限する制御
次に、図12及び図13を参照して、上記「7−1」における制御の主体を水素ステーション2とした例について説明する。なお、上記「7−1」と同様の内容については、適宜、説明を省略する。
【0083】
図12は、本制御を実現するために、水素ステーション2の制御装置5が有する機能ブロックを示すブロック図である。制御装置5は、運転制御部75のほか、図10において車両3側の機能ブロックとして示していた、記憶部70、隙間量算出部71、予測部72及び流量決定部73を有する。この場合、記憶部70は、水素ステーション2にて充填される可能性があるタンク30について、マップM及びスキマ規定値を記憶する。
【0084】
図13は、水素ステーション2にて行われる制御の一例を示すフローチャートである。
先ず、ユーザーによって充填ノズル12がレセプタクル32に接続される(ステップS31)。すると、車両3側では、圧力センサ36、温度センサ38、通信機44及び制御装置46が起動し(参照:図11のステップS2,S3)、圧力センサ36及び温度センサ38によって、タンク初期圧力及びタンク初期温度が検出される。この検出されたタンク初期圧力及びタンク初期温度の各情報は、制御装置46の例えばRAMに一時的に記憶される。
【0085】
次いで、充填ノズル12側にある通信機6にて、車両3側の通信機44からタンク初期圧力及びタンク初期温度の各情報を受信する(ステップS32)。すなわち、水素ステーション2の通信機6は、車両3側にある圧力センサ36及び温度センサ38の検出結果を、通信によりタンク温度及びタンク圧力に関する情報として取得する情報取得部として機能する。この受信の際、通信機6は、タンク30の容積など、タンク30の仕様に関する情報も受信する。
【0086】
次に、水素ステーション2では、隙間量算出部71が、受信したタンク初期圧力及びタンク初期温度の各情報を、記憶部70に記憶されているタンク30に対応する一つのマップMに参照することで、隙間量62を算出する(ステップS33)。そして、上記の場合と同様に、算出した隙間量62に基づいて、予測部72が、隙間60を埋めるのに必要なライナ53の伸びεを算出し、算出した必要な伸びεをスキマ規定値と比較する(ステップS34)。
【0087】
スキマ規定値内である場合には(ステップS34;Yes)、上記同様に、通常の水素ガス充填のフローへと進む(ステップS35、S36)。このフローは、最終的に、ユーザーによって充填ノズル12がレセプタクル32から取り外されることで終了する(ステップS37)。
【0088】
一方、スキマ規定値内でない場合には(ステップS34;No)、上記同様に、充填流量を制限するフローへと進む(ステップS38〜40)。この際、運転制御部75によって、流量決定部73が制限することに決定した充填流量にて充填が開始される(ステップS38)。そして、充填中においても上記同様に、随時算出される必要な伸びεがスキマ規定値と比較される(ステップS39)。スキマ規定値内になった場合は(ステップS39;Yes)、充填流量の制限を解除して(ステップS41)、通常の充填を行う一方、そうでない場合には(ステップS39;No)、充填流量を制限しながら充填を継続する(ステップS40)。
【0089】
なお、図13では省略したが、ステップS39を行う前提として、充填中は、随時、タンク圧力及びタンク温度の検出結果が通信により水素ステーション2に伝えられており、水素ステーション2では、リアルタイムの隙間量62が算出され(図11のステップ17と同様)、その算出結果からリアルタイムの必要な伸びεが算出されている。
【0090】
以上説明した本制御によっても、上記の「7−1.」の制御と同様に、充填時のライナ53の負荷の低減と充填時間の短縮とを両立することができる。特に、本制御によれば水素ステーション2側の主導にて、充填流量を制限するように制御することができ、車両3側に判断する機能を持たせなくて済む。
【0091】
7−3.充填流量の制限に関する具体的な制御例
次に、図14及び図15を参照して、充填流量の制限に関する具体的な制御例を説明する。本制御例は、スキマ規定値外であるときに実行される(例えば図11のステップS14〜20、図13のステップS38〜41)。本制御例においては、スキマ規定値と比較する必要な伸びεを、図15に示すようなライナ変形速度と破断伸びとの関係を規定するマップに参照し、それにより、ライナ53に許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さいライナ変形速度となるように充填流量を制限する。なお、ライナ変形速度とは、隙間60を埋める際のライナ53の膨張変形の速度を意味する。また、破断伸びとは、ライナ53の破断伸びδであり、上述したように、スキマ規定値の基準となる値である。
【0092】
先ず、ライナ変形速度の求め方について、図14に示すモデルを参照して説明する。このモデルでは、ライナ53が薄肉円筒形圧力容器であると仮定し、円周方向のライナ変形速度l´(単位時間当たりの円周方向ライナ変形量)を求める。このモデルでは、ひずみの定義から次の式(3)及び(4)が成立する。また、半径方向の力のつりあいから次の式(5)が、さらに、気体の状態方程式から次の式(6)が成立する
l´=ε´Di ・・・(3)
ε´=σθ´/E ・・・(4)
σθ´=p´Di/2t ・・・(5)
p´=n´RT/V ・・・(6)
【0093】
上記のパラメータの意味は以下のとおりである。
l´:単位時間当たりの円周方向ライナ変形量[m/min]
ε´:単位時間当たりの円周方向ライナひずみ増加量[1/min]
σθ´:単位時間当たりの円周方向応力増加量[Pa/min]
Di:ライナ内径[m]
t:ライナ肉厚[m]
E:ライナの弾性率[Pa]
p´:ライナ内圧増加量[Pa/min]
n´:単位時間当たりの充填量[mol/min]
R:水素ガスの気体定数[J/(mol・K)]
T:タンク温度[K]
V:タンク体積(ライナ体積)[m3]
【0094】
上記の式(3)〜(6)から、ライナ変形速度l´は次のとおり表すことができる。
l´=Di2n´RT/2EtV ・・・(7)
この式(7)に示すように、ライナ変形速度l´は、単位時間当たりの充填量n´、すなわち充填流量から算出できることがわかる。本実施形態のタンク30に関して、このようにして算出したライナ変形速度l´と破断伸びδとの関係を示した一例が図15である。
【0095】
図15(a)は、ある一つのタンク温度におけるライナ変形速度l´と破断伸びδとの関係を規定するマップを示しており、曲線Saを境界にライナ53の破断の有無が異なる。すなわち、曲線Saよりも上側の領域におけるライナ変形速度l´で膨張すると、ライナ53は破断する一方、曲線Saよりも下側の領域におけるライナ変形速度l´で膨張したとしても、ライナ53の破断は生じない。
【0096】
充填流量を制限する際の一例を挙げる。先ず、充填開始前に算出したライナ53の必要な伸びεがε1である場合に、通常の水素ガス充填(充填流量の制限なし)を行ったとすると(参照:図11のステップS8、図13のステップS35)、ライナ変形速度l2´となり、ライナ53に許容以上の負荷がかかる。これに対し、ライナ53に許容以上の負荷がかからないように充填流量を制限するには、ライナ変形速度l1´よりも小さいライナ変形速度となるようにする。この制限したときの充填流量の最大値(nmax´)は、上記式(7)を変換すると、以下のように表すことができ、これを越えないように充填を行うことになる。
nmax´=2EtV・l1´/Di2RT
【0097】
ここで、図15(a)から理解されるように、充填開始前に算出した必要な伸びεの大きさに応じて、充填時に使用できるライナ変形速度l´の最大値が異なる。このことは、充填開始前に算出した必要な伸びε又は隙間量62の大きさに応じて、充填流量の制限量又は最大値が異なることを意味する。一例を挙げると、充填開始前の必要な伸びεがε2である場合、それがε1(>ε2)である場合に比べて、大きなライナ変形速度(最大でl2´)を用いてもライナ53に許容以上の負荷がかからないので、充填流量を大きく(その制限量は小さく)することができる。
【0098】
図15(b)は、ライナ変形速度l´と破断伸びδとの関係を規定するマップとして、タンク温度Taに関する曲線Saと、タンク温度Tbに関する曲線Sbとを示している(ただし、Ta<Tb)。充填開始前に算出した必要な伸びεを参照する際、タンク温度Taであれば曲線Saが用いられ、タンク温度Tbであれば曲線Sbが用いられる。つまり、タンク温度が高い場合には、充填時に使用できるライナ変形速度l´の最大値が大きくなるので、充填流量を大きく(その制限量は小さく)することができる。
【0099】
充填流量を制限する際、その制限している途中で充填流量を増大させることもできる。これは、充填開始によりタンク温度が上昇する結果、充填時に使用できるライナ変形速度l´の最大値が大きくなるからである。図15(b)を参考に一例を示すと、充填開始時の状況(必要な伸びε=ε1、タンク温度Ta)においてライナ変形速度l1´で充填した結果、次の状況(必要な伸びε=ε2、タンク温度Tb)になった場合においては、ライナ変形速度l1´よりも大きいライナ変形速度l2´で充填を行うことができる。したがって、充填流量を制限した充填中においては、その制限の解除(参照:図11のステップS20、図13のステップS41)の前に、ライナ変形速度を上げるように充填流量を増大させて、充填を継続することもできる。
【0100】
以上説明したように、ライナ変形速度に着目した充填流量の制限をすることにより、ライナ53に許容以上の負荷がかからないライナ変形速度で、できるだけ迅速な充填をすることができる。なお、本制御例の充填流量の制限を実行するにあたり、算出した必要な伸びε、算出した隙間量62及びタンク温度に応じて、充填流量の制限量をどの程度にするかは、流量決定部73によって決定され、充填時に運転制御部75によって実行される。
【0101】
7−4.充填流量を0に制限する場合
次に、水素ガス充填の際に隙間量62を考慮した結果、充填流量をゼロに制限する場合の制御例について説明する。
【0102】
(1)車両側から制御
図16は、車両3側から充填を禁止するように制御する一例を示すフローチャートである。上記「7−1」で説明した図11との相違点は、図11のステップS14〜S20に代えて、ステップS51〜S53を採用した点である。なお、本制御を実現するための機能ブロックは、図10に示すものと同様である。
【0103】
図16に示すように、スキマ規定値内でない場合には(ステップS5;No)、車両3側の流量決定部73が充填流量をゼロに制限することに決定し、その後の充填禁止フロー(ステップS51〜S53)へと進む。充填禁止フローでは、先ず、ユーザーによって充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされていなければ、これがなされる(ステップS51)。
【0104】
次いで、通信によって、タンク初期圧力及びタンク初期温度に関する情報が車両3側から水素ステーション2側に伝えられると共に、流量決定部73が制限することに決定した充填流量に関する情報、すなわち充填禁止の旨が水素ステーション2側に伝えられる(ステップS52)。これを受けて、水素ステーション2側の運転制御部75は、充填を開始しないことになる。ここで、充填禁止の旨を示す信号は、充填不可である旨を示す信号又は充填一時停止(充填開始待ち)である旨を示す信号である。
【0105】
その後、ユーザーによって充填ノズル12がレセプタクル32から取り外されたことが図外のセンサによって確認されると(ステップS53;Yes)、最終的に制御装置46等の電源がOFFとなり、水素ガスの充填がされることなく終了する(ステップS11〜13)。一方、充填ノズル12の取り外しが確認されるまでは(ステップS53;No)、隙間量62を随時算出して必要な伸びεを求め、それがスキマ規定値と比較される(ステップS4,S5)。時間経過により、タンク温度等が上昇して、スキマ規定値内に収まる場合もあるので、充填ノズル12の取り外しまでは充填可否判断をリトライするようにしたものである。
【0106】
以上説明した本制御によれば、充填によってライナ53に許容以上の負荷がかかることが予測される場合に、充填を禁止するので、ライナ53への負荷を抑制することができる。
【0107】
なお、充填を禁止した場合には、その旨をユーザーに報知することが好ましい。報知するタイミングとしては、スキマ規定値外であると判断されたとき(ステップS5;No)、充填ノズル12の取付け作業が完了したとき(ステップS51)、通信により充填禁止の旨を送信したとき(ステップS52)、又は、その送信の直後ではなく所定の時間(例えば30秒)が経過したときとすればよい。また、報知する場合には、車両3の表示装置42又は水素ステーション2の表示装置7に充填禁止の旨を表示する方法のほか、その旨の警告音を鳴らす方法をとることができる。なお、水素ステーション2にて報知を行う場合には、ステップS52の送信の際に、充填禁止を行うべき旨の信号を送信信号に含めてもよい。
【0108】
(2)ガスステーション側から制御
図17は、水素ステーション2側から充填を禁止するように制御する一例を示すフローチャートである。上記「7−2」で説明した図13との相違点は、図13のステップS38〜S41に代えて、ステップS61〜S62を採用した点である。なお、本制御を実現するための機能ブロックは、図12に示すものと同様である。
【0109】
図17に示すように、スキマ規定値内でない場合には(ステップS34;No)、水素ステーション2側の流量決定部73が充填流量をゼロに制限することに決定し、その後の充填禁止フロー(ステップS61〜S62)へと進む。充填禁止フローでは、規定時間の経過が過ぎたら(ステップS61;Yes)、水素ガスの充填をすることなく終了する(ステップS36、S37)。一方、規定時間が経過するまでは(ステップS61;No)、制御上は充填開始待ちとして処理する(ステップS62)。そして、再度、隙間量62の算出から必要な伸びεを求め、それがスキマ規定値内になったかどうかを判断する(ステップS32,S33)。上記したように、時間経過により、タンク温度等が上昇して、スキマ規定値内に収まる場合もあるからである。
【0110】
ここで、ステップS61における規定時間は、任意の値(例えば30秒や1分)を設定することができ、固定値としてもよいし、外気温によって可変してもよい。また、この規定時間の始期は、レセプタクル32への充填ノズル12の取付け完了時(ステップS31の終了時)としてもよいし、通信によるタンク初期温度及びタンク初期圧力等の情報の受信時(ステップs32の終了時)としてもよく、適宜設定することができる。
【0111】
以上説明した本制御によっても、充填によってライナ53に許容以上の負荷がかかることが予測される場合に、充填を禁止するので、ライナ53への負荷を抑制することができる。
【0112】
なお、充填を禁止した場合、上記(1)と同様に、その旨を表示装置7,42による表示や警告音を行うことで、ユーザーに報知することが好ましい。この場合、規定時間の経過時(ステップS61;Yes)に報知すればよい。また、車両3側で報知する場合には、充填が禁止された旨の信号を、水素ステーション2から車両3に送信すればよい。
【0113】
(3)その他:充填禁止を報知する例
図18は、車両3側から充填を禁止するよう警告を出す制御の一例を示すフローチャートである。図16との主な相違点は、図16のステップS51〜S53に代えて、ステップS71〜S73を採用した点である。
【0114】
図18に示すように、スキマ規定値外のために(ステップS5;No)、充填禁止フロー(ステップS71〜S73)へと進んだ場合、車両3の表示装置42は、充填禁止の旨の警告を表示する(ステップS71)。その警告表示の例は、「タンク温度が○○℃以上で充填を行ってください。」などである。なお、警告表示に代えて、車両3の図示省略した警告装置から警告音を鳴らしてもよい。
【0115】
その後、ユーザーによってフューエルカバーが閉じられると(ステップS72;Yes)、警告を停止する(ステップS73)。最終的に制御装置46等の電源がOFFとなると、水素ガスの充填がされることなく終了する(ステップS11〜13)。一方、フューエルカバーが閉じられるまでは(ステップS72;No)、再度、隙間量62を算出して必要な伸びεを求め、スキマ規定値と比較する(ステップS4,S5)。時間経過により、タンク温度等が上昇して、スキマ規定値内に収まる場合もあるからである。
【0116】
このように、本制御例によれば、充填によってライナ53に許容以上の負荷がかかることが予測される場合に、車両3側から充填を禁止するようユーザーに促すことができ、ライナ53への負荷を抑制することができる。このような充填禁止の方法は、水素ステーション2と車両3との間で通信を確立できない場合に特に有用となる。なお、警告を停止するトリガーをフューエルカバーの閉じる動作としたが、もちろんこれに限るものではない。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のガス充填方法、ガス充填システム、ガスステーション及び車両は、水素ガスのみならず、天然ガスなど他の燃料ガスにも適用することができる。また、車両に限らず、航空機、船舶、ロボットなど、外部からのガスの充填先としてタンクを搭載した移動体に適用することができる。
【0118】
上記した実施形態においては、充填開始の際に隙間量62をマップMとして読んで制御を行うこととしたが、タンク圧力及びタンク温度に関する情報を取得するだけで上記の制御を行うように設計することも可能である。
【符号の説明】
【0119】
1:ガス充填システム、2:ガスステーション、3:車両、5:制御装置、6:通信機(受信機)、30:タンク、36:圧力センサ、38:温度センサ、44:通信機(送信機)、53:ライナ、55:補強層、70:記憶部、71:算出部、72:予測部、73:流量決定部、75:運転制御部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車載のタンクにガスステーションからガスを充填するガス充填方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンクに水素ガスを充填すると、タンク内の温度が上昇することが知られている。この点に関し、例えば特許文献1では、温度管理を行いながら充填速度を決めなければならないという従来の課題を指摘した上で、タンクの上流側にある弁及び充填配管の温度上昇を抑制する構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−89793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のタンクの構造は、ガス不透過性のライナの外周面を、耐圧性を確保する補強層で覆ったものである。例えば、フィラメントワインディング法などにより形成されたCFRPが、ライナの外周面に巻き付けられてなる補強層を構成する。
しかし、特に樹脂ライナ製のタンクを製造した場合、ライナとCFRPとの弾性率や線膨張係数の違いにより、ライナが収縮し、ライナとCFRPとの間に隙間が発生する。また、仮に製造段階で隙間が発生しなくても、低圧又は低温の条件になると、上記の弾性率等の違いによりライナが収縮し、隙間が発生し得る。そして、より低圧又はより低温の条件になるほど、隙間の大きさが大きくなる傾向にある。
【0005】
このような隙間がある状態で水素ガスを充填すると、充填した水素ガスによって、収縮していたライナが隙間を埋めるように膨張する。しかし、この膨張に伴うライナの変形量や変形スピードが大きいと、ライナに大きな負荷がかかるおそれがある。
【0006】
本発明は、タンクのライナへの負荷を低減することができるガス充填方法、ガス充填システム、ガスステーション及び移動体を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のガス充填方法は、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクにガスを充填するものにおいて、タンク内の圧力及び温度に基づいて、充填開始前におけるライナと補強層との間の隙間量を算出する算出ステップと、算出した隙間量に基づいて、充填によりライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測ステップと、許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限する流量制限ステップと、を備えたものである。
【0008】
本発明によれば、隙間量に関わらず一律の充填流量とするのではなく、充填においてライナに許容以上の負荷がかかることが隙間量から予測される場合に、充填流量を制限する。よって、その制限した充填流量で充填した際には、隙間を埋めるように変形するライナの変形速度を抑えることができる。これにより、ライナへの負荷を低減することができる。
【0009】
好ましくは、流量制限ステップは、充填により前記ライナが変形して隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中、ガスの充填流量を制限して充填を行うとよい。
こうすることで、隙間を埋めるまでの少なくとも一部の期間では、制限した充填流量のもとでライナが変形するので、ライナへの負荷を低減することができる。
【0010】
より好ましくは、本発明のガス充填方法は、少なくとも第1の期間の経過後に、充填流量の制限を解除して充填を行うとよい。
これにより、少なくとも隙間が埋まった後では、それまでの充填流量よりも大きな充填流量にて充填を行うことができるので、充填時間の短縮化を図ることができる。
【0011】
好ましくは、予測ステップは、算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを算出し、その算出したライナの伸びが所定の閾値を越える場合には、許容以上の負荷がかかる旨を予測するとよい。
これにより、ライナの変形と関係するライナの伸び(ひずみ)を基準に予測するので、その予測の確度が高まる。
【0012】
より好ましくは、上記の所定の閾値は、ライナの破断伸びであり、タンク内の温度に応じて異なるとよい。
この構成によれば、破断伸びが温度に依存することが予測の際に考慮されるので、その予測の確度がより高まる。
【0013】
好ましくは、流量制限ステップは、算出した必要なライナの伸びに応じて、充填流量の制限量を異ならせるとよい。
これにより、ライナへの負荷の低減と充填時間の短縮とを両立し得る。例えば、算出した必要な伸びが小さい場合には、それが大きい場合よりも充填流量を大きくし得るので、ライナへの負荷の低減を図りながら、充填時間を短縮することができる。
【0014】
より好ましくは、流量制限ステップは、算出した必要な伸びを、ライナと補強層との間の隙間を埋める際のライナ変形速度とライナの破断伸びとの関係を規定するマップに参照することで、当該ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さいライナ変形速度となるように、充填流量を制限するとよい。
このようなマップを活用することで、許容以上の負荷がかからないライナ変形速度にて充填流量を制限することができる。
【0015】
より好ましくは、マップは、タンク内の温度に応じたものが複数あり、流量制限ステップは、複数のマップのうち、算出ステップで用いたタンク内の温度に対応するものを参照することで、タンク内の温度に応じて充填流量の制限量を異ならせるとよい。
これにより、破断伸びが温度に依存することが充填流量の決定の際にも考慮されるので、ライナへの負荷を低減しながら充填時間の短縮を図ることができる。例えば、タンク内の温度が高い場合には、それが低い場合よりもライナ変形速度(充填流量)を大きくし得る。
【0016】
好ましくは、タンクは、移動体に搭載されていると共に、移動体の外部に設置されているガスステーションからガスを充填可能に構成されているとよい。また、移動体は、流量制限ステップにおける充填流量の制限を決定して、その決定した充填流量に関する情報をガスステーションに送信し、ガスステーションは、移動体から受信した充填流量に関する情報に基づいて充填を行うとよい。
この構成によれば、移動体側から充填流量を制限するように制御することができる。
【0017】
あるいは、別の好ましい一態様によれば、算出ステップ、予測ステップ及び流量制限ステップは、ガスステーションによって実行されてもよい。
この構成によれば、ガスステーション側にて充填流量を制限するように制御することができる。
【0018】
この場合、ガスステーションは、算出ステップにおいて、タンク内の圧力及び温度に関する情報を移動体から通信により受信することが好ましい。
こうすることで、ガスステーションの外部にあるタンク内の情報について、ガスステーションが簡単に把握することができる。
【0019】
本発明の他の好ましい一態様によれば、ガス充填方法は、流量制限ステップが充填流量をゼロに制限した場合に充填を禁止するとよい。なお、充填を禁止した旨を報知するようにしてもよい。
【0020】
本発明を別の観点で捉えると、以下の態様であってもよい。
【0021】
すなわち、流量制限ステップは、ライナと補強層との間の隙間を埋める際のライナ変形速度が、ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さくなるように、充填流量を制限するとよい。この場合、流量制限ステップは、算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを、ライナ変形速度とライナの破断伸びとの関係を規定するマップに参照することで、ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さいライナ変形速度となるように、充填流量を制限するとよい。
【0022】
また、流量制限ステップは、算出した隙間量、その隙間量をゼロとするために必要なライナの伸び及びタンク内の温度の少なくとも一つに応じて、充填流量の制限量を異ならせるとよい。
【0023】
上記目的を達成するため、本発明のガス充填システムは、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体と、移動体の外部に設置され、タンクにガスを充填するガスステーションと、を備える。そして、移動体又はガスステーションは、タンク内の圧力及び温度に関する情報を取得する情報取得部と、情報取得部が取得した情報に基づいて、充填開始前におけるライナと補強層との間の隙間量を算出する算出部と、算出した隙間量に基づいて、充填によりライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測部と、許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限することに決定する流量決定部と、を有する。
【0024】
また、上記目的を達成するため、本発明のガスステーションは、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体の外部に設置され、タンクにガスを充填するものにおいて、上記の情報取得部、算出部、予測部及び流量決定部を有するものである。
【0025】
さらに、上記目的を達成するため、本発明の移動体は、外部にあるガスステーションからガスを充填されるタンクとして、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載したものにおいて、上記の情報取得部、算出部、予測部及び流量決定部と、流量決定部が決定した充填流量に関する情報をガスステーションに送信する送信機と、を備えるものである。
【0026】
この場合、好ましくは、ガスステーションは、タンクへの充填を制御する運転制御部を有し、運転制御部は、許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、充填によりライナが変形して隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中は、流量決定部が決定した充填流量にて充填を行うとよい。より好ましくは、運転制御部は、少なくとも第1の期間の経過後に、充填流量の制限を解除して充填を行うとよい。
【0027】
また、ガスステーションが上記の情報取得部を有する場合には、好ましくは、情報取得部は、移動体側にある温度センサ及び圧力センサの検出結果を、通信によりタンク内の圧力及び温度に関する情報として取得するものであるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態に係るガス充填システムの概略図である。
【図2】実施形態に係るガス充填システムの構成図である。
【図3】実施形態に係るタンクの断面図である。
【図4】外気温が20℃であるときのタンク圧力及びタンク温度の時間変化を示す図であり、(a)はタンクからの水素ガス放出速度が遅い場合に関するものであり、(b)は、タンクからの水素ガス放出速度が速い場合に関するものである。
【図5】図3のタンクにおいて、ライナと補強層との間に隙間がある状態を示す断面図である。
【図6】複数のタンク温度について、隙間の大きさとタンク圧力との関係を模式的に示す図である。
【図7】実施形態に係るタンクの隙間量に関するマップの一例を示す図である。
【図8】タンク温度とライナの破断伸びとの関係を示す図である。
【図9】隙間を埋めるのに必要なライナの伸びを算出する方法を示す図であり、(a)は隙間がある状態を示し、(b)は隙間がなくなった状態を示す。
【図10】実施形態に係るガス充填方法において、車両側から充填流量を制限する制御を実現するための機能ブロック図である。
【図11】図10の制御の一例を示すフローチャートである。
【図12】実施形態に係るガス充填方法において、ガスステーション側から充填流量を制限する制御を実現するための機能ブロック図である。
【図13】図12の制御の一例を示すフローチャートである。
【図14】ライナ変形速度を求めるモデルを示す図である。
【図15】ライナ変形速度と破断伸びとの関係を規定するマップを示す図であり、(a)は一つのタンク温度におけるものを示し、(b)は互いに異なる二つのタンク温度におけるものを示す。
【図16】実施形態に係るガス充填方法において、車両側から充填流量をゼロに制限する制御の一例を示すフローチャートである。
【図17】実施形態に係るガス充填方法において、ガスステーション側から充填流量をゼロに制限する制御の一例を示すフローチャートである。
【図18】実施形態に係るガス充填方法において、車両側から充填を禁止するよう警告を出す制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0030】
1.ガス充填システムの概要
【0031】
ここでは、ガス充填システムとして、燃料電池システムを搭載した燃料電池車両のタンクに対して、水素ステーションから水素ガスを充填する例を説明する。燃料電池システムは、公知のとおり、燃料ガス(例えば水素ガス)と酸化ガス(例えば空気)の電気化学反応によって発電する燃料電池などを備える。また、水素ガスの充填とは、水素ガスを水素ステーションからタンクに供給する態様の一つである。
【0032】
図1に示すように、ガス充填システム1は、例えばガスステーションとしての水素ステーション2と、水素ステーション2から水素ガスを供給される車両3と、を備える。
【0033】
1−1.車両の概要
図2に示すように、車両3は、タンク30、レセプタクル32、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42、通信機44及び制御装置46を備える。
タンク30は、燃料電池への燃料ガス供給源であり、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能な高圧タンクである。タンク30を複数搭載する場合には、タンク30は燃料電池50に対して並列に接続される。タンク30内の水素ガスは、図示省略した供給管路を介して燃料電池に供給される。一方、タンク30への水素ガスの供給は、水素ガスが水素ステーション2からレセプタクル32を介して充填流路34に放出されることで行われる。充填流路34は、タンク30外にあるガス配管と、タンク30の口部に取り付けられた図示省略のバルブアッセンブリ内にある流路部分と、からなる。また、充填流路34には、水素ガスの逆流を防止するための逆止弁35が設けられる。
【0034】
圧力センサ36は、水素ステーション2から放出された水素ガスの圧力を検出するものであり、充填流路34に設けられる。例えば、圧力センサ36は、逆止弁35よりも下流側であって且つタンク30の直前にある上記のガス配管に設けられ、実質的にタンク30内の水素ガスの圧力(以下、「タンク圧力」という。)を反映する圧力を検出する。
温度センサ38は、上記バルブアッセンブリ内の流路部分に設けられ、タンク30内に配置される。温度センサ38は、タンク30内の温度(以下、「タンク温度」という。)を反映する温度を検出する。なお、他の実施態様では、圧力センサ36をタンク30内に配置してもよい。また、タンク30内における温度センサ38の配置位置は、タンク温度を実質的に検出できる位置であれば特に限定されるものではない。
【0035】
表示装置42は、例えばカーナビゲーションシステムの一部としても用いることが可能なものであり、各種情報を画面に表示する。通信機44は、車両3が水素ステーション2との間で通信するためのものであり、各種情報を含む信号を受信及び送信する受信機及び送信機として機能する。通信機44は、例えば、赤外線通信等の無線通信を行う通信インターフェースを有する。通信器44は、水素ステーション2の充填ノズル12をレセプタクル32に接続した状態で通信可能となるように、レセプタクル32に組み込まれるか、あるいは車両3のリッドボックス内に固定される。
【0036】
制御装置46は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成され、車両3を制御する。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行するものであり、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置46は、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42及び通信機44などと接続されており、車両3にて把握可能な情報、例えば圧力センサ36及び温度センサ38の検出情報を、通信機44を用いて水素ステーション2に送信する。
【0037】
なお、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42及び通信機44などの低圧補機は、図示省略した低圧バッテリから電力が供給される。このため、燃料電池が発電していない車両3のイグニッションオフの状態では、低圧補機や制御装置46に対しては低圧バッテリから電力が供給されることになる。
【0038】
1−2.ガスステーションの概要
図2に示すように、水素ステーション2は、水素ステーション2にある各機器を制御する制御装置5と、車両3との間で通信するための通信機6と、各種情報を画面に表示する表示装置7と、水素ステーション2の設置場所の外気温を検出する外気温センサ8と、を備える。通信機6は、車両3の通信機44に対応した形式のものであり、通信機44との間で各種情報を送受信する。通信機6は、例えば充填ノズル12に設けられる。表示装置7は、充填中における充填流量(充填速度)及び充填量などの情報を表示する。また、表示装置7は、作業者又は利用者(以下、「ユーザー」という。)が所望の充填条件を入力することが可能な操作パネルを表示画面に具備するものであってもよい。
【0039】
また、水素ステーション2は、水素ガスを貯蔵するカードル(ガス供給源)11と、水素ガスを車載のタンク30に向けて放出する充填ノズル12と、これらを結ぶガス流路13と、を有する。充填ノズル12は、水素ガスの充填に際して、車両3のレセプタクル32に接続される。また、充填ノズル12には、水素ステーション2がタンク30に供給する水素ガスの圧力及び温度を検出する圧力センサ9及び温度センサ10が設けられる。
【0040】
ガス流路13には、圧縮機14、蓄圧器15、プレクーラ16、流量制御弁17、流量計18及びディスペンサ19が設けられる。圧縮機14は、カードル11からの水素ガスを圧縮して吐出する。蓄圧器15は、圧縮機14によって所定圧力まで昇圧された水素ガスを蓄える。プレクーラ16は、蓄圧器15からの室温程度の水素ガスを所定の低温(例えば−20℃又は−40℃)に冷却する。流量制御弁17は、電気的に駆動される弁であり、制御装置5からの指令に従って、蓄圧器15からの水素ガスの流量を調整する。これにより、タンク30への水素ガスの充填流量が制御される。この制御された充填流量が流量計18によって計測され、その計測結果を受けて所望の充填流量となるように、制御装置5が流量制御弁17をフィードバック制御する。なお、流量制御弁17以外の流量制御装置を用いることも可能である。ディスペンサ19は、水素ガスを充填ノズル12へと送り出すものである。例えば、充填ノズル12のトリガーレバーを引くとディスペンサ19が作動し、充填ノズル12からタンク30に向けて水素ガスの放出が可能となる。なお、図示省略したが、蓄圧器14又はその下流側には、充填時にガス流路13を開く遮断弁が設けられる。
【0041】
制御装置5は、制御装置46と同様に、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行して、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置5は、図2において一点鎖線で示した制御線にて接続されている通信機6、表示装置7、外気温センサ8、圧力センサ9、温度センサ10、流量制御弁17及び流量計18のほか、蓄圧器15等とも電気的に接続される。例えば、制御装置5は、圧力センサ36及び温度センサ38が検出した圧力及び温度を、タンク30内の圧力及び温度(すなわち、タンク圧力及びタンク温度)として認識して、水素ガスの充填を制御する。詳細には、制御装置5は、通信機6から受け取った車両3側のタンク圧力及びタンク温度の情報をもとに流量制御弁17の開度を制御する。また、制御装置5は、水素ステーション2にて把握可能な情報を、通信機6を用いて車両3の通信機44に送信する。
【0042】
以上のガス充填システム1において、車両3に水素ガスを充填する場合、先ず、充填ノズル12をレセプタクル32に接続し、この状態にて、ディスペンサ19を作動させる。すると、充填ノズル12から放出された水素ガスが、タンク30に充填される。
本実施形態のガス充填システム1では、充填開始前にタンク30内の隙間量を把握し、タンク30のライナへの負荷を低減するようにしている。
【0043】
2.タンクの構造
図3に示すように、タンク30は、内部に貯留空間51が画成されるように中空状に形成されたライナ53と、ライナ53の外周面を覆う補強層55と、を有する。ライナ53及び補強層55の軸方向の少なくとも一端部には、バルブアッセンブリを接続するための口金57が設けられる。
【0044】
ライナ53は、ガスバリア性を有し、水素ガスの外部への透過を抑制する。ライナ53の材質は、特に制限されるものではなく、例えば、金属のほか、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂その他の硬質樹脂を挙げることができる。
【0045】
補強層55は、貯留する水素ガスの圧力に耐える役割を果たすものであり、マトリックス樹脂を含浸した繊維をライナ53の外表面に巻き付けた後で、そのマトリックス樹脂を加熱硬化してなるものである。マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂等が用いられ、繊維としては、カーボン繊維やアラミド繊維が用いられる。また、巻き付け方法としては、フィラメントワインディング法(FW法)やテープワインディング法等が挙げられ、その際の巻き付け方としては、公知のフープ巻き及びヘリカル巻きが挙げられる。
【0046】
本実施形態では、樹脂製のライナ53に対しFW法を用いて、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)の補強層55を構成している。このCFRPは、マトリックス樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用い、繊維として炭素繊維を用いている。なお、補強層55は、ライナ53の外周面に積層されたCFRP層以外の層、例えば、CFRP層の外周面に積層されたGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)層を具備するものであってもよい。
【0047】
3.水素放出速度とタンク圧力及びタンク温度との関係
図4(a)及び(b)は、外気温が20℃であるときのタンク圧力及びタンク温度の時間変化を示す図であり、図4(a)は水素ガス放出速度が遅い場合に関するものであり、図4(b)は、水素ガス放出速度が速い場合に関するものである。図4(a)及び(b)から分かるとおり、タンク30からの水素ガスの放出速度(燃料電池への供給速度)が速いほど、タンク圧力の低下率は大きく、タンク温度はより低下する。水素ガス放出終了後(時間t0)、タンク温度は、外気によって上昇し、外気温(20℃)に近づいていく。その際、タンク圧力も僅かに上昇する。なお、一般的に、外気温が低いと、タンク温度はさらに低下する。
【0048】
車両3に搭載されるタンク30の場合、水素ガス放出直後に水素ステーション2で充填され得る。したがって、水素ガスが充填されるときは、タンク温度及びタンク圧力が低下した状態であることが多いと考えられる。このとき、水素ガス放出速度の速い走行(例えば加速走行)をしていた直後の充填の場合には、タンク温度及びタンク圧力がより低下した状態となっている。
【0049】
なお、タンク30に関して、水素ガスの搭載量(タンク容積)を減らした仕様の場合には、その減らす前の仕様の場合と同量の水素ガスを消費するとなると、タンク圧力の低下速度が上がる。したがって、搭載量(タンク容積)を減らした仕様の場合は、タンク温度がより低下し易い。
【0050】
4.隙間の発生について
図5は、タンク30において、ライナ53と補強層55との間に隙間60がある状態を示す断面図である。この隙間60が発生する理由を説明する。
【0051】
第1に、タンク30の次のような製造工程では、隙間60が発生する。具体的には、補強層55の形成にあたっては、先ず、FW法の張力では変形しない程度に内圧を保持した常温のライナ53に対して、エポキシ樹脂を含浸した炭素繊維をFW法により巻き付ける。この巻き付けが終わった段階では、隙間60は発生しない。次の段階として、内圧を保持したまま加熱し、CFRPのエポキシ樹脂を熱硬化処理により固める。この段階でも、隙間60は発生しない。しかし、熱硬化処理後、内圧が抜かれて常温に戻ると、ライナ53が収縮する。その結果、図5に示すような隙間60が発生する。これは、ライナ53と補強層55との弾性率や線膨張係数の差に起因して、ライナ53の方が補強層55に比べて収縮・膨張の変形がし易いために起きる。
【0052】
第2に、上記の製造段階において隙間60が発生しなくとも、低圧又は低温の条件になると、隙間60が発生し得る。例えば、図3に示すような隙間がゼロの状態からタンク圧力が下がると、図5に示すような隙間60が発生する。これは、上記の弾性率等の差に起因して、ライナ53は収縮するのに対し、補強層55はほとんど変形しないからである。同様に、図3に示すような隙間がゼロの状態からタンク温度が下がると、図5に示すような隙間60が発生する。そして、この隙間60の大きさは、タンク圧力又はタンク温度がより小さくなるほど大きくなる。つまり、水素ガス放出速度が速かったときほど(参照:図4)、隙間60の大きさは大きくなる傾向になる。
【0053】
図6は、複数のタンク温度T1〜T4(T1<T2<T3<T4)について、隙間60の大きさとタンク圧力との関係を模式的に示す図である。
図6に示すように、タンク温度が同じ条件であれば、タンク圧力が大きくなると、隙間60の大きさは小さくなる。同様に、タンク圧力が同じ条件であれば、タンク温度が大きくなると、隙間60の大きさは小さくなる。それゆえ、水素ガスがタンク30に充填されなくとも、外気温によってタンク温度が上がれば、隙間60が小さくなるということが言える。また、隙間60の大きさが同じ条件では、タンク温度が低温であるほど、隙間60を埋めるためには、高いタンク圧力が必要であることがわかる。
【0054】
5.隙間量の測定及び記憶について
隙間60の大きさは、タンク圧力及びタンク温度にのみ依存するのではなく、タンク30の仕様によっても異なる。例えば、タンク30を構成する材料(ライナ53及び補強層55の材質)や、タンク30の体格(長さ、径、容量など)によって、隙間60の大きさは異なる。
【0055】
隙間60の大きさを示す指標としては、ここでは、図5に示すように、ライナ53と補強層55との間の距離に相当する隙間量62を用いることにする。なお、この隙間量62は、ライナ53及び補強層55の全領域で一律である場合にはその両者間の距離に相当し、一律ではない場合にはその両者間の距離のうち最も大きい距離に相当するものとする。
【0056】
隙間量62は、様々な方法により測定することができる。例えば、タンク30をX線撮影し、タンク30の内部を可視化することで、ライナ53と補強層55との間の隙間量62を測定することができる。また別の方法として、タンク30の補強層55に穴をあけ、その穴から変位計の測定プローブを挿入することで、隙間量62を機械的に測定することもできる。このような隙間量62の測定は、タンク30の開発段階でなされており、充填時に隙間量62が上記のような方法で測定されるわけではない。したがって、ガス充填システム1においては、充填対象のタンク30の隙間量62が既に把握されており、例えばマップとして予め用意される。
【0057】
図7は、隙間量62に関するマップMの一例を示す図である。
上述のとおり、隙間量62はタンク30の仕様によって異なるので、その仕様毎(タンク301、タンク302、タンク303)のマップM1〜M3が用意される。例えば、マップM1とマップM2とは、ライナ53の材質について異なる。また、上述したように、隙間量62はタンク圧力及びタンク温度によって異なるので、隙間量62に関するマップMは、縦軸をタンク圧力とし、横軸をタンク温度として、それぞれの条件に対応する隙間量を規定する。例えば、タンク温度T1のもとでは、図7にB1〜E1としてそれぞれ示す隙間量62は、タンク圧力が大きくなるほど小さくなる。また、タンク圧力0MPaのもとでは、図7にA2〜A5として示すそれぞれ隙間量62は、タンク温度が大きくなるほど小さくなる。
【0058】
ここで、マップMは、車両3の制御装置46及び水素ステーション2の制御装置5の少なくとも一方の記憶部(ROMなど)に記憶される。詳細は後述するが、水素ガスの充填開始前に、充填対象のタンク30に対応する一つのマップMが記憶部から読み出され、この読み出したマップMに充填開始前のタンク圧力及びタンク温度が参照される。これにより、充填開始前の隙間量62が算出される。そして、この算出した隙間量62をもとに、その後の充填においてライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かが予測される。
【0059】
6.スキマ規定値について
スキマ規定値とは、後記「7.」の隙間量を考慮した充填制御において用いる指標の一つであり(参照:図11のステップS5、S18など)、ライナ53の破断伸びδ又はこれに安全率を乗じた値を意味する。破断伸びδは、ライナ53の材料物性により規定され、タンク温度に応じて異なる。具体的には、図8に示すように、タンク温度が大きくなるほど、破断伸びδは大きくなる。車両3に搭載されるタンク30に関するスキマ規定値は、マップMと同様に、車両3の制御装置46及び水素ステーション2の制御装置5の少なくとも一方の記憶部に予め記憶される。
【0060】
なお、破断伸びδは、引張試験の結果から得ることができるものであり、以下の式(1)で表されることは言うまでもない。
δ=100×(lf−l0)/l0 ・・・(1)
ここで、各パラメータの意味は以下のとおりである。
l0:ライナ53の初期の長さ
lf:破断後のライナ53の永久伸び
【0061】
6−1.スキマ規定値と比較する対象
後記「7.」の充填制御において、スキマ規定値と比較する対象は、隙間60を埋めるのに必要なライナ53の伸びεである。
【0062】
図9(a)に示すように、ライナ53と補強層55との間に隙間60がある状態で水素ガスの充填を行うと、図9(b)に示すように、ライナ53が隙間60を埋めるまで膨張変形する。これは、充填によりタンク圧力及びタンク温度が上昇し、これにより、収縮していたライナ53が補強層55と接触するまで膨張するからである。この隙間60に対するライナ53の伸び、すなわち隙間60を埋めるのに必要なライナ53の伸びεは、例えば以下の式(2)を用いて算出される。
【0063】
ε=100×(rf−r0)/r0 ・・・(2)
ここで、各パラメータの意味は以下のとおりである。
r0:ライナ53の初期の外径
rf:隙間60を埋めたときのライナ53の外径
一例を挙げると、r0=50mm、隙間量=5mmの場合、rf=55となるので、必要なライナ53の伸びεは、10%となる。
【0064】
充填制御に際しては、隙間量62の算出値及びライナ53の外径rfがわかっているので、上記の式(2)より、隙間60を埋めるのに必要な伸びεを算出することができる。そして、この算出した必要な伸びεをスキマ規定値と比較し、必要な伸びεがスキマ規定値を超える場合には、ライナ53に許容以上の負荷がかかると予測する。
【0065】
ここで、算出した必要な伸びεと比較するスキマ規定値(所定の閾値)は、その比較時のタンク温度に応じたものが用いられる。上述したように、破断伸びδがタンク温度に依存するからである(参照:図8)。したがって、タンク温度が高くなると、設定されるスキマ規定値も大きくなる。
【0066】
7.隙間量を考慮した充填制御
次に、ガス充填システム1で実行される水素ガス充填について、隙間量62を考慮した複数の制御例を説明する。
【0067】
7−1.車両側から充填流量を制限する制御
図10は、本制御を実現するために、制御装置5,46が有する機能ブロックを示すブロック図である。
車両3の制御装置46は、記憶部70、隙間量算出部71、予測部72及び流量決定部73を有する。また、水素ステーション2の制御装置5は、タンク30への充填を制御する運転制御部75を有する。
【0068】
記憶部70は、車両3に搭載されたタンク30に対応する上記のマップMを一つ記憶するほか、タンク30に対応する上記のスキマ規定値などを記憶する。隙間量算出部71は、検出されたタンク圧力及びタンク温度を記憶部70のマップMに参照することで、隙間量62を算出する。予測部72は、算出された隙間量62に基づいて、水素ガス充填によりライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かを予測する。流量決定部73は、タンク30への水素ガスの充填流量を決定する。特に、予測部72の予測結果が許容以上の負荷がかかるものであった場合、流量決定部73は、充填流量を制限することに決定する。流量決定部73によって決定された充填流量に関する情報は、通信機44−通信機6の通信により、水素ステーション2に伝えられる。運転制御部75は、車両3から受信した充填流量となるように、水素ステーション2の各種機器(流量制御弁17など)を制御する。
【0069】
図11は、本制御の一例を示すフローチャートである。
先ず、車両3のリッドボックスのフューエルカバーが開けられると(ステップS1)、そのことがセンサ(図示省略)により検知され、車両3の制御装置46が起動する(ステップS2)。その後、圧力センサ36、温度センサ38及び通信機44が起動する(ステップS3)。これらの起動に際しては、低圧バッテリから電力が供給される。なお、制御装置46等を起動するトリガーとして、充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされたことをセンサで検知することを用いてもよい。
【0070】
次いで、圧力センサ36及び温度センサ38によって読み込まれた充填開始前のタンク圧力及びタンク温度(以下、それぞれ「タンク初期圧力」及び「タンク初期温度」という場合がある。)から、充填開始前の隙間量62を算出する(ステップS4)。詳細には、タンク初期圧力及びタンク初期温度の各情報が制御装置46の例えばRAMに一時的に記憶されるので、隙間量算出部71が、その一時的に記憶された情報を記憶部70のマップMに参照することで隙間量62を算出する。
【0071】
次のステップS5では、算出した隙間量62に基づいて、隙間60を埋めるのに必要なライナ53の伸びεを算出し、算出した必要な伸びεがスキマ規定値内であるか否かを判断する。この判断により、その後の水素ガス充填によって、ライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かを予測する。これは予測部72によってなされるが、算出した必要な伸びεと比較するスキマ規定値としては、タンク初期温度に対応するものが用いられる。
【0072】
その結果、スキマ規定値内である場合には(ステップS5;Yes)、水素ガス充填をしてもライナ53に許容以上の負荷がかからないとして、通常の水素ガス充填のフローへと進む(ステップS6〜S13)。一方、スキマ規定値内でない場合には(ステップS5;No)、通常の水素ガス充填をすると、ライナ53に許容以上の負荷がかかるとして、充填流量を制限するフローへと進む(ステップS14〜20)。
【0073】
通常の水素ガス充填のフローでは、先ず、ユーザーによって充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされるが(ステップS6)、これが既になされている場合には、ステップS6は省略される。次いで、タンク初期圧力及びタンク初期温度の情報が、通信により水素ステーション2の制御装置5に伝えられる(ステップS7)。制御装置5の運転制御部75は、受信したタンク初期圧力及びタンク初期温度を充填流量マップに参照することで、充填流量を決定し、充填を開始する(ステップS8)。なお、充填流量マップは、少なくともタンク圧力及びタンク温度と充填流量との関係を規定するものであり、制御装置5の記憶部に記憶されている。充填中は、随時、タンク圧力及びタンク温度が読み込まれて送信され、充填流量マップに参照されることで充填流量が変更される。
【0074】
充填の結果、満タンまで充填又はユーザーが指定した所望の充填条件を満たす充填がされると、充填が終了する(ステップS9)。その後は、ユーザーによって充填ノズル12がレセプタクル32から取り外されると共に(ステップS10)、フューエルカバーが閉じられる(ステップS11)。すると、圧力センサ36、温度センサ38及び通信機44の電源がOFFとなり(ステップS12)、制御装置46の電源がOFFとなる(ステップS13)。これにより、通常の水素ガス充填の一連のフローが終了する。
【0075】
一方、充填流量を制限するフローでは、先ず、ユーザーによって充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされていなければ、これがなされる(ステップS14)。次いで、タンク初期圧力及びタンク初期温度に関する情報とともに、流量決定部73が制限することに決定した充填流量に関する情報が、通信により水素ステーション2の制御装置5に伝えられる(ステップS15)。これを受けて、制御装置5の運転制御部75は、流量決定部73が決定した充填流量にて充填を開始する(ステップS16)。なお、流量決定部73が制限することに決定した充填流量は、通常の水素ガス充填において充填開始の際に用いる充填流量よりも小さい。
【0076】
充填流量を制限した充填中は、随時、タンク圧力及びタンク温度が読み込まれ、そのときの隙間量62が算出されると共に(ステップS17)、算出された隙間量62に基づいて必要なライナ53の伸びεが改めて算出され、スキマ規定値と比較される(ステップS18)。その結果、スキマ規定値内でない場合には(ステップS18;No)、充填流量を制限した充填が継続される(ステップS19)。一方、充填によってスキマ規定値内になった場合には(ステップS18;Yes)、充填流量の制限を解除して、充填が行われる(ステップS20)。
【0077】
すなわち、充填流量を制限した充填中では、隙間量算出部71が、充填中のタンク圧力及びタンク温度をマップMに随時参照することで隙間量62を算出する。また、その随時算出する隙間量62に基づいて、予測部72が、充填流量の制限を解除することが可能であるか否かを判断する。その結果、充填流量の制限解除が可能であると判断した場合、充填流量の制限を解除する旨の信号が通信により水素ステーション2に伝えられ、運転制御部75が、充填流量マップを参照した通常の水素ガス充填を行うように切り替える。
【0078】
このようなステップS16〜S20の一例を挙げると、充填開始からライナ53が膨張変形して隙間量62がゼロとなるまでの期間中は、充填流量を制限して充填する。そして、その充填により隙間量62がゼロとなった後は、充填流量の制限を解除して充填する。隙間量62がゼロとなっていれば、ライナ53の膨張変形は起こらず、ライナ53に許容以上の負荷がかからないからである。なお、別の例では、上記期間の途中で、許容以上の負荷がかからないと予測される場合には、充填流量の制限を解除してもよい。なおまた、充填流量の制限についてのより具体的な制御例については後記「7−3」で述べる。
【0079】
以上説明した本制御によれば、充填開始前にタンク30内の隙間量62を算出し、充填によってライナ53に許容以上の負荷がかかるか否かを予測し、そのような負荷がかかると予測される場合に充填流量を制限して充填している。これにより、充填時のライナ53の変形速度(膨張速度)を抑えることができるので、ライナ53に与える負荷を低減することができる。また、充填を禁止してタンク温度が外気温により上昇するのを待つ場合に比べて、隙間60を短時間で埋めることができる。
【0080】
さらに、充填流量の制限をした場合にも、隙間60が埋まった後では充填流量の制限を解除して充填するので、全体として充填時間を短縮することができる。一方で、ライナ53に許容以上の負荷がかかることが予測されない場合には、充填流量を制限しないため、迅速な充填が可能となる。すなわち、本制御によれば、スキマ規定値外であるときのみ、充填流量を制限することになるので、ライナ53の負荷低減及び充填時間の短縮を両立することができる。
【0081】
加えて、車両3側にて、充填流量の制限を決定し、その情報が水素ステーション2側に指示されているので、車両3側にて、充填流量を制限するように制御することができる。これにより、予め記憶させておく上記のマップM及びスキマ規定値については、車両3に搭載されるタンク30に対応するものだけで済む。換言すると、水素ステーション2においては、あらゆる車両のタンクに対応するマップM及びスキマ規定値を記憶したり、そのソフトウェアを更新したりする必要がなくなる。
【0082】
7−2.ガスステーション側から充填流量を制限する制御
次に、図12及び図13を参照して、上記「7−1」における制御の主体を水素ステーション2とした例について説明する。なお、上記「7−1」と同様の内容については、適宜、説明を省略する。
【0083】
図12は、本制御を実現するために、水素ステーション2の制御装置5が有する機能ブロックを示すブロック図である。制御装置5は、運転制御部75のほか、図10において車両3側の機能ブロックとして示していた、記憶部70、隙間量算出部71、予測部72及び流量決定部73を有する。この場合、記憶部70は、水素ステーション2にて充填される可能性があるタンク30について、マップM及びスキマ規定値を記憶する。
【0084】
図13は、水素ステーション2にて行われる制御の一例を示すフローチャートである。
先ず、ユーザーによって充填ノズル12がレセプタクル32に接続される(ステップS31)。すると、車両3側では、圧力センサ36、温度センサ38、通信機44及び制御装置46が起動し(参照:図11のステップS2,S3)、圧力センサ36及び温度センサ38によって、タンク初期圧力及びタンク初期温度が検出される。この検出されたタンク初期圧力及びタンク初期温度の各情報は、制御装置46の例えばRAMに一時的に記憶される。
【0085】
次いで、充填ノズル12側にある通信機6にて、車両3側の通信機44からタンク初期圧力及びタンク初期温度の各情報を受信する(ステップS32)。すなわち、水素ステーション2の通信機6は、車両3側にある圧力センサ36及び温度センサ38の検出結果を、通信によりタンク温度及びタンク圧力に関する情報として取得する情報取得部として機能する。この受信の際、通信機6は、タンク30の容積など、タンク30の仕様に関する情報も受信する。
【0086】
次に、水素ステーション2では、隙間量算出部71が、受信したタンク初期圧力及びタンク初期温度の各情報を、記憶部70に記憶されているタンク30に対応する一つのマップMに参照することで、隙間量62を算出する(ステップS33)。そして、上記の場合と同様に、算出した隙間量62に基づいて、予測部72が、隙間60を埋めるのに必要なライナ53の伸びεを算出し、算出した必要な伸びεをスキマ規定値と比較する(ステップS34)。
【0087】
スキマ規定値内である場合には(ステップS34;Yes)、上記同様に、通常の水素ガス充填のフローへと進む(ステップS35、S36)。このフローは、最終的に、ユーザーによって充填ノズル12がレセプタクル32から取り外されることで終了する(ステップS37)。
【0088】
一方、スキマ規定値内でない場合には(ステップS34;No)、上記同様に、充填流量を制限するフローへと進む(ステップS38〜40)。この際、運転制御部75によって、流量決定部73が制限することに決定した充填流量にて充填が開始される(ステップS38)。そして、充填中においても上記同様に、随時算出される必要な伸びεがスキマ規定値と比較される(ステップS39)。スキマ規定値内になった場合は(ステップS39;Yes)、充填流量の制限を解除して(ステップS41)、通常の充填を行う一方、そうでない場合には(ステップS39;No)、充填流量を制限しながら充填を継続する(ステップS40)。
【0089】
なお、図13では省略したが、ステップS39を行う前提として、充填中は、随時、タンク圧力及びタンク温度の検出結果が通信により水素ステーション2に伝えられており、水素ステーション2では、リアルタイムの隙間量62が算出され(図11のステップ17と同様)、その算出結果からリアルタイムの必要な伸びεが算出されている。
【0090】
以上説明した本制御によっても、上記の「7−1.」の制御と同様に、充填時のライナ53の負荷の低減と充填時間の短縮とを両立することができる。特に、本制御によれば水素ステーション2側の主導にて、充填流量を制限するように制御することができ、車両3側に判断する機能を持たせなくて済む。
【0091】
7−3.充填流量の制限に関する具体的な制御例
次に、図14及び図15を参照して、充填流量の制限に関する具体的な制御例を説明する。本制御例は、スキマ規定値外であるときに実行される(例えば図11のステップS14〜20、図13のステップS38〜41)。本制御例においては、スキマ規定値と比較する必要な伸びεを、図15に示すようなライナ変形速度と破断伸びとの関係を規定するマップに参照し、それにより、ライナ53に許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さいライナ変形速度となるように充填流量を制限する。なお、ライナ変形速度とは、隙間60を埋める際のライナ53の膨張変形の速度を意味する。また、破断伸びとは、ライナ53の破断伸びδであり、上述したように、スキマ規定値の基準となる値である。
【0092】
先ず、ライナ変形速度の求め方について、図14に示すモデルを参照して説明する。このモデルでは、ライナ53が薄肉円筒形圧力容器であると仮定し、円周方向のライナ変形速度l´(単位時間当たりの円周方向ライナ変形量)を求める。このモデルでは、ひずみの定義から次の式(3)及び(4)が成立する。また、半径方向の力のつりあいから次の式(5)が、さらに、気体の状態方程式から次の式(6)が成立する
l´=ε´Di ・・・(3)
ε´=σθ´/E ・・・(4)
σθ´=p´Di/2t ・・・(5)
p´=n´RT/V ・・・(6)
【0093】
上記のパラメータの意味は以下のとおりである。
l´:単位時間当たりの円周方向ライナ変形量[m/min]
ε´:単位時間当たりの円周方向ライナひずみ増加量[1/min]
σθ´:単位時間当たりの円周方向応力増加量[Pa/min]
Di:ライナ内径[m]
t:ライナ肉厚[m]
E:ライナの弾性率[Pa]
p´:ライナ内圧増加量[Pa/min]
n´:単位時間当たりの充填量[mol/min]
R:水素ガスの気体定数[J/(mol・K)]
T:タンク温度[K]
V:タンク体積(ライナ体積)[m3]
【0094】
上記の式(3)〜(6)から、ライナ変形速度l´は次のとおり表すことができる。
l´=Di2n´RT/2EtV ・・・(7)
この式(7)に示すように、ライナ変形速度l´は、単位時間当たりの充填量n´、すなわち充填流量から算出できることがわかる。本実施形態のタンク30に関して、このようにして算出したライナ変形速度l´と破断伸びδとの関係を示した一例が図15である。
【0095】
図15(a)は、ある一つのタンク温度におけるライナ変形速度l´と破断伸びδとの関係を規定するマップを示しており、曲線Saを境界にライナ53の破断の有無が異なる。すなわち、曲線Saよりも上側の領域におけるライナ変形速度l´で膨張すると、ライナ53は破断する一方、曲線Saよりも下側の領域におけるライナ変形速度l´で膨張したとしても、ライナ53の破断は生じない。
【0096】
充填流量を制限する際の一例を挙げる。先ず、充填開始前に算出したライナ53の必要な伸びεがε1である場合に、通常の水素ガス充填(充填流量の制限なし)を行ったとすると(参照:図11のステップS8、図13のステップS35)、ライナ変形速度l2´となり、ライナ53に許容以上の負荷がかかる。これに対し、ライナ53に許容以上の負荷がかからないように充填流量を制限するには、ライナ変形速度l1´よりも小さいライナ変形速度となるようにする。この制限したときの充填流量の最大値(nmax´)は、上記式(7)を変換すると、以下のように表すことができ、これを越えないように充填を行うことになる。
nmax´=2EtV・l1´/Di2RT
【0097】
ここで、図15(a)から理解されるように、充填開始前に算出した必要な伸びεの大きさに応じて、充填時に使用できるライナ変形速度l´の最大値が異なる。このことは、充填開始前に算出した必要な伸びε又は隙間量62の大きさに応じて、充填流量の制限量又は最大値が異なることを意味する。一例を挙げると、充填開始前の必要な伸びεがε2である場合、それがε1(>ε2)である場合に比べて、大きなライナ変形速度(最大でl2´)を用いてもライナ53に許容以上の負荷がかからないので、充填流量を大きく(その制限量は小さく)することができる。
【0098】
図15(b)は、ライナ変形速度l´と破断伸びδとの関係を規定するマップとして、タンク温度Taに関する曲線Saと、タンク温度Tbに関する曲線Sbとを示している(ただし、Ta<Tb)。充填開始前に算出した必要な伸びεを参照する際、タンク温度Taであれば曲線Saが用いられ、タンク温度Tbであれば曲線Sbが用いられる。つまり、タンク温度が高い場合には、充填時に使用できるライナ変形速度l´の最大値が大きくなるので、充填流量を大きく(その制限量は小さく)することができる。
【0099】
充填流量を制限する際、その制限している途中で充填流量を増大させることもできる。これは、充填開始によりタンク温度が上昇する結果、充填時に使用できるライナ変形速度l´の最大値が大きくなるからである。図15(b)を参考に一例を示すと、充填開始時の状況(必要な伸びε=ε1、タンク温度Ta)においてライナ変形速度l1´で充填した結果、次の状況(必要な伸びε=ε2、タンク温度Tb)になった場合においては、ライナ変形速度l1´よりも大きいライナ変形速度l2´で充填を行うことができる。したがって、充填流量を制限した充填中においては、その制限の解除(参照:図11のステップS20、図13のステップS41)の前に、ライナ変形速度を上げるように充填流量を増大させて、充填を継続することもできる。
【0100】
以上説明したように、ライナ変形速度に着目した充填流量の制限をすることにより、ライナ53に許容以上の負荷がかからないライナ変形速度で、できるだけ迅速な充填をすることができる。なお、本制御例の充填流量の制限を実行するにあたり、算出した必要な伸びε、算出した隙間量62及びタンク温度に応じて、充填流量の制限量をどの程度にするかは、流量決定部73によって決定され、充填時に運転制御部75によって実行される。
【0101】
7−4.充填流量を0に制限する場合
次に、水素ガス充填の際に隙間量62を考慮した結果、充填流量をゼロに制限する場合の制御例について説明する。
【0102】
(1)車両側から制御
図16は、車両3側から充填を禁止するように制御する一例を示すフローチャートである。上記「7−1」で説明した図11との相違点は、図11のステップS14〜S20に代えて、ステップS51〜S53を採用した点である。なお、本制御を実現するための機能ブロックは、図10に示すものと同様である。
【0103】
図16に示すように、スキマ規定値内でない場合には(ステップS5;No)、車両3側の流量決定部73が充填流量をゼロに制限することに決定し、その後の充填禁止フロー(ステップS51〜S53)へと進む。充填禁止フローでは、先ず、ユーザーによって充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされていなければ、これがなされる(ステップS51)。
【0104】
次いで、通信によって、タンク初期圧力及びタンク初期温度に関する情報が車両3側から水素ステーション2側に伝えられると共に、流量決定部73が制限することに決定した充填流量に関する情報、すなわち充填禁止の旨が水素ステーション2側に伝えられる(ステップS52)。これを受けて、水素ステーション2側の運転制御部75は、充填を開始しないことになる。ここで、充填禁止の旨を示す信号は、充填不可である旨を示す信号又は充填一時停止(充填開始待ち)である旨を示す信号である。
【0105】
その後、ユーザーによって充填ノズル12がレセプタクル32から取り外されたことが図外のセンサによって確認されると(ステップS53;Yes)、最終的に制御装置46等の電源がOFFとなり、水素ガスの充填がされることなく終了する(ステップS11〜13)。一方、充填ノズル12の取り外しが確認されるまでは(ステップS53;No)、隙間量62を随時算出して必要な伸びεを求め、それがスキマ規定値と比較される(ステップS4,S5)。時間経過により、タンク温度等が上昇して、スキマ規定値内に収まる場合もあるので、充填ノズル12の取り外しまでは充填可否判断をリトライするようにしたものである。
【0106】
以上説明した本制御によれば、充填によってライナ53に許容以上の負荷がかかることが予測される場合に、充填を禁止するので、ライナ53への負荷を抑制することができる。
【0107】
なお、充填を禁止した場合には、その旨をユーザーに報知することが好ましい。報知するタイミングとしては、スキマ規定値外であると判断されたとき(ステップS5;No)、充填ノズル12の取付け作業が完了したとき(ステップS51)、通信により充填禁止の旨を送信したとき(ステップS52)、又は、その送信の直後ではなく所定の時間(例えば30秒)が経過したときとすればよい。また、報知する場合には、車両3の表示装置42又は水素ステーション2の表示装置7に充填禁止の旨を表示する方法のほか、その旨の警告音を鳴らす方法をとることができる。なお、水素ステーション2にて報知を行う場合には、ステップS52の送信の際に、充填禁止を行うべき旨の信号を送信信号に含めてもよい。
【0108】
(2)ガスステーション側から制御
図17は、水素ステーション2側から充填を禁止するように制御する一例を示すフローチャートである。上記「7−2」で説明した図13との相違点は、図13のステップS38〜S41に代えて、ステップS61〜S62を採用した点である。なお、本制御を実現するための機能ブロックは、図12に示すものと同様である。
【0109】
図17に示すように、スキマ規定値内でない場合には(ステップS34;No)、水素ステーション2側の流量決定部73が充填流量をゼロに制限することに決定し、その後の充填禁止フロー(ステップS61〜S62)へと進む。充填禁止フローでは、規定時間の経過が過ぎたら(ステップS61;Yes)、水素ガスの充填をすることなく終了する(ステップS36、S37)。一方、規定時間が経過するまでは(ステップS61;No)、制御上は充填開始待ちとして処理する(ステップS62)。そして、再度、隙間量62の算出から必要な伸びεを求め、それがスキマ規定値内になったかどうかを判断する(ステップS32,S33)。上記したように、時間経過により、タンク温度等が上昇して、スキマ規定値内に収まる場合もあるからである。
【0110】
ここで、ステップS61における規定時間は、任意の値(例えば30秒や1分)を設定することができ、固定値としてもよいし、外気温によって可変してもよい。また、この規定時間の始期は、レセプタクル32への充填ノズル12の取付け完了時(ステップS31の終了時)としてもよいし、通信によるタンク初期温度及びタンク初期圧力等の情報の受信時(ステップs32の終了時)としてもよく、適宜設定することができる。
【0111】
以上説明した本制御によっても、充填によってライナ53に許容以上の負荷がかかることが予測される場合に、充填を禁止するので、ライナ53への負荷を抑制することができる。
【0112】
なお、充填を禁止した場合、上記(1)と同様に、その旨を表示装置7,42による表示や警告音を行うことで、ユーザーに報知することが好ましい。この場合、規定時間の経過時(ステップS61;Yes)に報知すればよい。また、車両3側で報知する場合には、充填が禁止された旨の信号を、水素ステーション2から車両3に送信すればよい。
【0113】
(3)その他:充填禁止を報知する例
図18は、車両3側から充填を禁止するよう警告を出す制御の一例を示すフローチャートである。図16との主な相違点は、図16のステップS51〜S53に代えて、ステップS71〜S73を採用した点である。
【0114】
図18に示すように、スキマ規定値外のために(ステップS5;No)、充填禁止フロー(ステップS71〜S73)へと進んだ場合、車両3の表示装置42は、充填禁止の旨の警告を表示する(ステップS71)。その警告表示の例は、「タンク温度が○○℃以上で充填を行ってください。」などである。なお、警告表示に代えて、車両3の図示省略した警告装置から警告音を鳴らしてもよい。
【0115】
その後、ユーザーによってフューエルカバーが閉じられると(ステップS72;Yes)、警告を停止する(ステップS73)。最終的に制御装置46等の電源がOFFとなると、水素ガスの充填がされることなく終了する(ステップS11〜13)。一方、フューエルカバーが閉じられるまでは(ステップS72;No)、再度、隙間量62を算出して必要な伸びεを求め、スキマ規定値と比較する(ステップS4,S5)。時間経過により、タンク温度等が上昇して、スキマ規定値内に収まる場合もあるからである。
【0116】
このように、本制御例によれば、充填によってライナ53に許容以上の負荷がかかることが予測される場合に、車両3側から充填を禁止するようユーザーに促すことができ、ライナ53への負荷を抑制することができる。このような充填禁止の方法は、水素ステーション2と車両3との間で通信を確立できない場合に特に有用となる。なお、警告を停止するトリガーをフューエルカバーの閉じる動作としたが、もちろんこれに限るものではない。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明のガス充填方法、ガス充填システム、ガスステーション及び車両は、水素ガスのみならず、天然ガスなど他の燃料ガスにも適用することができる。また、車両に限らず、航空機、船舶、ロボットなど、外部からのガスの充填先としてタンクを搭載した移動体に適用することができる。
【0118】
上記した実施形態においては、充填開始の際に隙間量62をマップMとして読んで制御を行うこととしたが、タンク圧力及びタンク温度に関する情報を取得するだけで上記の制御を行うように設計することも可能である。
【符号の説明】
【0119】
1:ガス充填システム、2:ガスステーション、3:車両、5:制御装置、6:通信機(受信機)、30:タンク、36:圧力センサ、38:温度センサ、44:通信機(送信機)、53:ライナ、55:補強層、70:記憶部、71:算出部、72:予測部、73:流量決定部、75:運転制御部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクにガスを充填するガス充填方法において、
前記タンク内の圧力及び温度に基づいて、充填開始前における前記ライナと前記補強層との間の隙間量を算出する算出ステップと、
算出した隙間量に基づいて、充填により前記ライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測ステップと、
前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限する流量制限ステップと、を備えた、ガス充填方法。
【請求項2】
前記流量制限ステップは、充填により前記ライナが変形して前記隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中、ガスの充填流量を制限して充填を行う、請求項1に記載のガス充填方法。
【請求項3】
少なくとも前記第1の期間の経過後に、前記充填流量の制限を解除して充填を行うステップを、更に備える、請求項2に記載のガス充填方法。
【請求項4】
前記予測ステップは、前記算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを算出し、その算出したライナの伸びが所定の閾値を越える場合には、前記許容以上の負荷がかかると予測する、請求項2又は3に記載のガス充填方法。
【請求項5】
前記所定の閾値は、前記ライナの破断伸びであり、前記タンク内の温度に応じて異なる、請求項4に記載のガス充填方法。
【請求項6】
前記流量制限ステップは、前記算出した必要なライナの伸びに応じて、前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項4又は5に記載のガス充填方法。
【請求項7】
前記流量制限ステップは、前記算出した必要なライナの伸びを、前記ライナと前記補強層との間の隙間を埋める際のライナ変形速度と当該ライナの破断伸びとの関係を規定するマップに参照することで、当該ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さいライナ変形速度となるように、前記充填流量を制限する、請求項6に記載のガス充填方法。
【請求項8】
前記マップは、前記タンク内の温度に応じたものが複数あり、
前記流量制限ステップは、前記複数のマップのうち、前記算出ステップで用いた前記タンク内の温度に対応するものを参照することで、前記タンク内の温度に応じて前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項7に記載のガス充填方法。
【請求項9】
前記流量制限ステップは、前記ライナと前記補強層との間の隙間を埋める際のライナ変形速度が、当該ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さくなるように、前記充填流量を制限する、請求項2に記載のガス充填方法。
【請求項10】
前記流量制限ステップは、前記算出した隙間量、その隙間量をゼロとするために必要なライナの伸び及び前記タンク内の温度の少なくとも一つに応じて、前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項2に記載のガス充填方法。
【請求項11】
前記タンクは、移動体に搭載されていると共に、当該移動体の外部に設置されているガスステーションからガスを充填可能に構成されているものであり、
前記移動体は、前記流量制限ステップにおける充填流量の制限を決定して、その決定した充填流量に関する情報を前記ガスステーションに送信し、
前記ガスステーションは、前記移動体から受信した充填流量に関する情報に基づいて充填を行う、請求項2ないし10のいずれか一項に記載のガス充填方法。
【請求項12】
前記タンクは、移動体に搭載されていると共に、当該移動体の外部に設置されているガスステーションからガスを充填可能に構成されているものであり、
前記算出ステップ、前記予測ステップ及び前記流量制限ステップは、前記ガスステーションによって実行される、請求項2ないし10のいずれか一項に記載のガス充填方法。
【請求項13】
前記ガスステーションは、前記算出ステップにおいて、前記タンク内の圧力及び温度に関する情報を前記移動体から通信により受信する、請求項12に記載のガス充填方法。
【請求項14】
前記流量制限ステップが前記充填流量をゼロに制限した場合に充填を禁止するステップを、更に備える、請求項1に記載のガス充填方法。
【請求項15】
ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体と、
前記移動体の外部に設置され、前記タンクにガスを充填するガスステーションと、
を備えたガス充填システムにおいて、
前記移動体又は前記ガスステーションは、
前記タンク内の圧力及び温度に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報に基づいて、充填開始前における前記ライナと前記補強層との間の隙間量を算出する算出部と、
前記算出した隙間量に基づいて、充填により前記ライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測部と、
前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限することに決定する流量決定部と、を有する、ガス充填システム。
【請求項16】
前記ガスステーションは、前記タンクへの充填を制御する運転制御部を有し、
前記運転制御部は、前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、充填により前記ライナが変形して前記隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中は、前記流量決定部が決定した充填流量にて充填を行う、請求項15に記載のガス充填システム。
【請求項17】
ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体の外部に設置され、前記タンクにガスを充填するガスステーションにおいて、
前記タンク内の圧力及び温度に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報に基づいて、充填開始前における前記ライナと前記補強層との間の隙間量を算出する算出部と、
前記算出した隙間量に基づいて、充填により前記ライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測部と、
前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限することに決定する流量決定部と、を有する、ガスステーション。
【請求項18】
前記タンクへの充填を制御する運転制御部を更に有し、
前記運転制御部は、前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、充填により前記ライナが変形して前記隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中は、前記流量決定部が決定した充填流量にて充填を行う、請求項17に記載のガスステーション。
【請求項19】
前記運転制御部は、少なくとも前記第1の期間の経過後に、前記充填流量の制限を解除して充填を行う、請求項18に記載のガスステーション。
【請求項20】
前記情報取得部は、前記移動体側にある温度センサ及び圧力センサの検出結果を、通信により前記タンク内の圧力及び温度に関する情報として取得するものである、請求項17ないし19のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項21】
前記予測部は、前記算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを算出し、その算出した伸びが所定の閾値を越える場合には、前記許容以上の負荷がかかると予測する、請求項18ないし20のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項22】
前記流量決定部は、前記算出した隙間量、その隙間量をゼロとするために必要なライナの伸び及び前記タンク内の温度の少なくとも一つに応じて、前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項18ないし21のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項23】
外部にあるガスステーションからガスを充填されるタンクとして、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体において、
前記タンク内の圧力及び温度に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報に基づいて、充填開始前における前記ライナと前記補強層との間の隙間量を算出する算出部と、
前記算出した隙間量に基づいて、充填により前記ライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測部と、
前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限することに決定する流量決定部と、
前記流量決定部が決定した充填流量に関する情報を前記ガスステーションに送信する送信機と、を備えた、移動体。
【請求項24】
前記予測部は、前記算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを算出し、その算出した伸びが所定の閾値を越える場合には、前記許容以上の負荷がかかると予測する、請求項23に記載の移動体。
【請求項25】
前記流量決定部は、前記算出した隙間量、その隙間量をゼロとするために必要なライナの伸び及び前記タンク内の温度の少なくとも一つに応じて、前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項23又は24に記載の移動体。
【請求項1】
ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクにガスを充填するガス充填方法において、
前記タンク内の圧力及び温度に基づいて、充填開始前における前記ライナと前記補強層との間の隙間量を算出する算出ステップと、
算出した隙間量に基づいて、充填により前記ライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測ステップと、
前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限する流量制限ステップと、を備えた、ガス充填方法。
【請求項2】
前記流量制限ステップは、充填により前記ライナが変形して前記隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中、ガスの充填流量を制限して充填を行う、請求項1に記載のガス充填方法。
【請求項3】
少なくとも前記第1の期間の経過後に、前記充填流量の制限を解除して充填を行うステップを、更に備える、請求項2に記載のガス充填方法。
【請求項4】
前記予測ステップは、前記算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを算出し、その算出したライナの伸びが所定の閾値を越える場合には、前記許容以上の負荷がかかると予測する、請求項2又は3に記載のガス充填方法。
【請求項5】
前記所定の閾値は、前記ライナの破断伸びであり、前記タンク内の温度に応じて異なる、請求項4に記載のガス充填方法。
【請求項6】
前記流量制限ステップは、前記算出した必要なライナの伸びに応じて、前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項4又は5に記載のガス充填方法。
【請求項7】
前記流量制限ステップは、前記算出した必要なライナの伸びを、前記ライナと前記補強層との間の隙間を埋める際のライナ変形速度と当該ライナの破断伸びとの関係を規定するマップに参照することで、当該ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さいライナ変形速度となるように、前記充填流量を制限する、請求項6に記載のガス充填方法。
【請求項8】
前記マップは、前記タンク内の温度に応じたものが複数あり、
前記流量制限ステップは、前記複数のマップのうち、前記算出ステップで用いた前記タンク内の温度に対応するものを参照することで、前記タンク内の温度に応じて前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項7に記載のガス充填方法。
【請求項9】
前記流量制限ステップは、前記ライナと前記補強層との間の隙間を埋める際のライナ変形速度が、当該ライナに許容以上の負荷がかかるライナ変形速度よりも小さくなるように、前記充填流量を制限する、請求項2に記載のガス充填方法。
【請求項10】
前記流量制限ステップは、前記算出した隙間量、その隙間量をゼロとするために必要なライナの伸び及び前記タンク内の温度の少なくとも一つに応じて、前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項2に記載のガス充填方法。
【請求項11】
前記タンクは、移動体に搭載されていると共に、当該移動体の外部に設置されているガスステーションからガスを充填可能に構成されているものであり、
前記移動体は、前記流量制限ステップにおける充填流量の制限を決定して、その決定した充填流量に関する情報を前記ガスステーションに送信し、
前記ガスステーションは、前記移動体から受信した充填流量に関する情報に基づいて充填を行う、請求項2ないし10のいずれか一項に記載のガス充填方法。
【請求項12】
前記タンクは、移動体に搭載されていると共に、当該移動体の外部に設置されているガスステーションからガスを充填可能に構成されているものであり、
前記算出ステップ、前記予測ステップ及び前記流量制限ステップは、前記ガスステーションによって実行される、請求項2ないし10のいずれか一項に記載のガス充填方法。
【請求項13】
前記ガスステーションは、前記算出ステップにおいて、前記タンク内の圧力及び温度に関する情報を前記移動体から通信により受信する、請求項12に記載のガス充填方法。
【請求項14】
前記流量制限ステップが前記充填流量をゼロに制限した場合に充填を禁止するステップを、更に備える、請求項1に記載のガス充填方法。
【請求項15】
ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体と、
前記移動体の外部に設置され、前記タンクにガスを充填するガスステーションと、
を備えたガス充填システムにおいて、
前記移動体又は前記ガスステーションは、
前記タンク内の圧力及び温度に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報に基づいて、充填開始前における前記ライナと前記補強層との間の隙間量を算出する算出部と、
前記算出した隙間量に基づいて、充填により前記ライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測部と、
前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限することに決定する流量決定部と、を有する、ガス充填システム。
【請求項16】
前記ガスステーションは、前記タンクへの充填を制御する運転制御部を有し、
前記運転制御部は、前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、充填により前記ライナが変形して前記隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中は、前記流量決定部が決定した充填流量にて充填を行う、請求項15に記載のガス充填システム。
【請求項17】
ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体の外部に設置され、前記タンクにガスを充填するガスステーションにおいて、
前記タンク内の圧力及び温度に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報に基づいて、充填開始前における前記ライナと前記補強層との間の隙間量を算出する算出部と、
前記算出した隙間量に基づいて、充填により前記ライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測部と、
前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限することに決定する流量決定部と、を有する、ガスステーション。
【請求項18】
前記タンクへの充填を制御する運転制御部を更に有し、
前記運転制御部は、前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、充填により前記ライナが変形して前記隙間量をゼロとするまでの第1の期間の少なくとも一部の期間中は、前記流量決定部が決定した充填流量にて充填を行う、請求項17に記載のガスステーション。
【請求項19】
前記運転制御部は、少なくとも前記第1の期間の経過後に、前記充填流量の制限を解除して充填を行う、請求項18に記載のガスステーション。
【請求項20】
前記情報取得部は、前記移動体側にある温度センサ及び圧力センサの検出結果を、通信により前記タンク内の圧力及び温度に関する情報として取得するものである、請求項17ないし19のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項21】
前記予測部は、前記算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを算出し、その算出した伸びが所定の閾値を越える場合には、前記許容以上の負荷がかかると予測する、請求項18ないし20のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項22】
前記流量決定部は、前記算出した隙間量、その隙間量をゼロとするために必要なライナの伸び及び前記タンク内の温度の少なくとも一つに応じて、前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項18ないし21のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項23】
外部にあるガスステーションからガスを充填されるタンクとして、ライナ及びその外周面に形成された補強層を備えるタンクを搭載した移動体において、
前記タンク内の圧力及び温度に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した情報に基づいて、充填開始前における前記ライナと前記補強層との間の隙間量を算出する算出部と、
前記算出した隙間量に基づいて、充填により前記ライナに許容以上の負荷がかかるか否かを予測する予測部と、
前記許容以上の負荷がかかる旨が予測された場合、そうではない場合よりも、充填に際してガスの充填流量を制限することに決定する流量決定部と、
前記流量決定部が決定した充填流量に関する情報を前記ガスステーションに送信する送信機と、を備えた、移動体。
【請求項24】
前記予測部は、前記算出した隙間量をゼロとするために必要なライナの伸びを算出し、その算出した伸びが所定の閾値を越える場合には、前記許容以上の負荷がかかると予測する、請求項23に記載の移動体。
【請求項25】
前記流量決定部は、前記算出した隙間量、その隙間量をゼロとするために必要なライナの伸び及び前記タンク内の温度の少なくとも一つに応じて、前記充填流量の制限量を異ならせる、請求項23又は24に記載の移動体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−231799(P2011−231799A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100076(P2010−100076)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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