説明

ガス拡散電極用材料及びその製造方法

【課題】発電特性及び耐久性に優れたガス拡散電極用材料、その製造方法及びガス拡散電極を提供すること。
【解決手段】連続及び不連続のPTFE微細繊維で形成された三次元連続微細孔を有する多孔質体に、導電性材料を保持させたガス拡散電極用材料である。多孔質体断面の表面領域から裏面領域にかけて、PTFE微細繊維は、密集度合いが低い部位と高い部位を有する。PTFE製薄膜を延伸して多孔質体とし、三次元連続微細孔に導電性材料を含有させ、(PTFE):(Conductor)=20〜60:80〜40で表される式を満足させたガス拡散電極用材料である。ガス拡散電極用材料の製造方法では、(1)連続及び不連続なPTFE微細繊維で形成され三次元連続微細孔を有する多孔質体を親水化し、(2)親水化した多孔質体に、導電性材料を含有するスラリーを浸透、付着させ、(3)導電性材料を付着させた多孔質体を熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス拡散電極用材料及びその製造方法に係り、更に詳細には、発電特性及び耐久性に優れたガス拡散電極用材料、その製造方法及びガス拡散電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、固体高分子型燃料電池のMEA(Membrane Electrode Assembly:膜電極接合体)では、白金をカーボン粒子に担持した触媒とアイオノマーとで形成した電極構造(三相構造)を、電解質膜の両側に接合し、さらに、ガス拡散層(GDL:Gas Diffusion Layer)を配置した多層構造体が知られている。
この三相構造の電極触媒層については、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの撥水材を電極触媒層に添加したり、疎水性の高いカーボンブラックや疎水化処理したカーボンブラックを使用したりして、排水性を向上することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭59−43889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、かかる従来の三相構造の電極触媒層にあっては、運転の繰り返しにより、カーボン腐食やアイオノマーの分解劣化を生じ、電極触媒層構造が変形・劣化し易い。このように変形・劣化した電極触媒層では、ガスの拡散性及び生成水の排出性が低下し、濃度過電圧が増大するという問題があった。
【0004】
一方、電気自動車などでは、起動−停止の繰り返しによる負荷変動に伴う劣化が他の用途よりも激しく、特許文献1に記載の電極においても、未だ十分とは言えない。
【0005】
他方、固体高分子型燃料電池において、従来ガス拡散層として、支持体にカーボンペーパーやカーボンクロスを用い、その上に炭素粒子などの導電性物質とPTFEなどの撥水性物質を含むスラリーを塗布して多孔質層(ミル層)を作製したものが広く用いられている。
【0006】
しかし、前記のようなガス拡散層の多孔質層(ミル層)は、空孔形状/空孔率が、構成要素の炭素粒子種とPTFE量によってほぼ一意に決まり、排水性を向上させようとPTFE量を増加させると空孔率が減少しガスの拡散性が阻害されることがあった。また、ガスの拡散性を向上させようとPTFE量を減少させると排水性が悪化してしまうことがあった。
このため、炭素材料として粒子径の異なる2種類を用いることによって、ガス拡散層の多孔質層(ミル層)の空孔径を制御し、排水性を向上させるガス拡散電極用材料が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献2】特開2001−57215号公報
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載のガス拡散電極用材料は、制御可能な空孔径及び空孔率の範囲が狭いため、十分な排水性を得られないことがあった。また、電極基材へ炭素粒子を含んだスラリーを塗布してガス拡散電極を作製するため、基材の空孔内に炭素粒子が付着し、基材の空孔が埋まることによって、ガスの透過性が著しく低下することがあった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発電特性及び耐久性に優れたガス拡散電極用材料、その製造方法及びガス拡散電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、所定の三次元構造を有するポリテトラフルオロエチレンを用いることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明のガス拡散電極用材料は、連続及び不連続のポリテトラフルオロエチレン微細繊維で形成された三次元連続微細孔を有する多孔質体と、この多孔質体に保持された導電性材料を有するガス拡散電極用材料であって、
上記多孔質体断面の表面領域から裏面領域にかけて、上記ポリテトラフルオロエチレン微細繊維は、密集度合いが低い部位と高い部位を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明のガス拡散電極用材料の好適形態は、上記ポリテトラフルオロエチレン微細繊維の密集度合いが低い部位では、上記導電性材料の保持度合いが高く、上記ポリテトラフルオロエチレン微細繊維の密集度合いが高い部位では、上記導電性材料の保持度合いが低いことを特徴とする。
【0012】
更に、本発明の他のガス拡散電極用材料は、ポリテトラフルオロエチレン製の薄膜を、一軸延伸又は二軸延伸して、連続及び/又は不連続な微細繊維で形成された多孔質体とし、
該多孔質体に形成されたスリット状の三次元連続微細孔に、少なくとも導電性材料を含有させ、
上記ポリテトラフルオロエチレンと上記導電性材料との重量比が、次式(2)
(PTFE):(Conductor)=20〜60:80〜40 …(2)
(式中のPTFEはポリテトラフルオロエチレン、Conductorは導電性材料を示す。)で表されることを特徴とする。
【0013】
一方、本発明のガス拡散電極の製造方法は、上述の如きガス拡散電極用材料を製造するに当たり、
(1)連続及び不連続なポリテトラフルオロエチレン微細繊維で形成され三次元連続微細孔を有する多孔質体を親水化し、
(2)親水化した多孔質体に、導電性材料を含有するスラリーを浸透、付着させ、
(3)導電性材料を付着させた多孔質体を熱処理する、
ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のガス拡散電極は、上述の如きガス拡散電極用材料又は電極触媒層を、ガス透過性の導電性支持材で支持して成ることを特徴とする。
更に、本発明の他のガス拡散電極は、上述の如きガス拡散電極用材料を、電解質膜に支持した電極触媒層上に支持して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、所定の三次元構造を有するポリテトラフルオロエチレンを用いることなどとしたため、発電特性及び耐久性に優れたガス拡散電極用材料、その製造方法及びガス拡散電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のガス拡散電極用材料につき詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
上述の如く、本発明のガス拡散電極用材料は、連続及び不連続のポリテトラフルオロエチレン微細繊維で形成された多孔質体と、この多孔質体に保持された導電性材料を有する。
この多孔質体は、上記ポリテトラフルオロエチレン微細繊維で形成された三次元連続微細孔を有し、上記導電性材料は主としてこの三次元連続微細孔に含有される。
【0017】
ここで、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)繊維は電気絶縁性であるが、上述のように、PTFE微細繊維製の多孔質体に導電性材料を含有させることにより、この多孔質体に導電経路を形成できるので、当該多孔質体がガス拡散電極用材料として使用可能なものとなり、代表的には、ガス拡散電極の多孔質層(ミル層)として機能する。
【0018】
また、本発明のガス拡散電極用材料では、上記多孔質体の断面を観察すると、表面領域から裏面領域にかけて、連続及び不連続のPTFE微細繊維は、密集度合いが低い部位と高い部位を有する。
代表的な密集度合いの分布(傾斜)としては、例えば、PTFE微細繊維の密集度合いを、表面領域から裏面領域にかけて高→低としたり、表面領域、中間領域及び裏面領域にかけて、それぞれ低→高→低としたり、高→低→高とすることができる。
【0019】
図1は、本発明のガス拡散電極用材料の一例における上記多孔質体の電子顕微鏡写真であり、図1(A)は多孔質体断面の表面領域の一部、図1(B)は中間領域の一部を示している。
図1(A)及び(B)から明らかなように、多孔質体の中間領域ではPTFE微細繊維が表面領域よりも密集している。なお、図1では多孔質体の裏面領域断面を示していないが、裏面領域断面の状態は表面領域断面の状態とほぼ同じである。
【0020】
また、本発明のガス拡散電極用材料では、その断面を観察すると、PTFE微細繊維の密集度合いが低い部位では、上記導電性材料の保持度合いが高くなるようにし、PTFE微細繊維の密集度合いが高い部位では、上記導電性材料の保持度合いが低くなるようにすることができる。
代表的な保持度合いの分布(傾斜)としては、例えば、PTFE微細繊維の密集度合いが表面領域から裏面領域にかけて高→低であるときに、低→高(片面だけに導電性材料を保持)とすることができる。また、PTFE微細繊維の密集度合いが表面領域、中間領域及び裏面領域においてそれぞれ低→高→低あるときに、高→低→高(両面に導電性材料を保持)とすることができる。
図2は、本発明のガス拡散電極用材料の一例の電子顕微鏡写真であり、シート状をなすガス拡散電極用材料の断面を観察したものである。
【0021】
図2に示したように、導電性材料の粒子は、上述の多孔質体におけるPTFE微細繊維の密集度合いに起因して、中間領域(図2(B)参照。)よりも表面領域(図2(A)参照。)に多く保持されている。
【0022】
このような導電性材料の分布により、本発明のガス拡散電極用材料は、電極触媒層とガス拡散電極用材料との界面、及びガス拡散電極とカーボンペーパーなどの支持材との界面との密着性が良好となる。このため、電解質膜上の電極触媒層からカーボンペーパーなどの支持材までの間において、気体及び液体成分の拡散性や移動が適切なものとなる。
これにより、高加湿条件下でのフラッディングが抑制される。また、電極触媒層内の排水性を促進するため、起動停止(Start−Stop)、耐久性やOCV(Open Circuit Voltage)耐久性も向上する。また、低加湿条件下での電解質膜保持水の移動も容易になり高い発電性能が得られる。
【0023】
更に、このような導電性材料の分布により、本発明のガス拡散電極用材料は、カーボンペーパーなどの支持材を用いた際には、支持材との密着性が良好であり、外力に対して耐久性に優れたものとなるので、エンジン始動時や走行時などに繰り返し長時間の振動を被る自動車に搭載するのに特に適切なものである。
【0024】
なお、本発明のガス拡散電極用材料に用いるPTFE微細繊維製の多孔質体は、図1に示したように、典型的には、スリット状の3次元(3D)連続微細孔を有する。
この3D連続微細孔は、後述するように多孔質体の製造工程に起因するものであるが、かかる微細孔を有することにより、本発明のガス拡散電極用材料は、空隙率が高い拡散電極構造を実現し、高加湿条件下におけるフラッディングを抑制する。また、電極触媒層内の排水を促進するため、起動停止、耐久性やOCV耐久性も向上する。更に、低加湿条件下での電解質膜保持水の移動も容易になり高い発電性能が得られるという機能を発揮し得る。
また、PTFE微細繊維の繊維径は、特に限定されるものではないが、代表的には0.1〜5μm程度である。
【0025】
更に、本発明のガス拡散電極用材料は、ポリテトラフルオロエチレンと導電性材料との重量比が、次式(1)
(PTFE):(Conductor)=20〜80:80〜20…(1)
(式中のPTFEはポリテトラフルオロエチレン、Conductorは導電性材料を示す。)で表される関係を満足することが好ましい。
【0026】
上述のように、PTFE微細繊維製の多孔質体に導電性材料、例えばカーボン粒子を保持させることにより、この多孔質体に導電経路が形成され、ガス拡散電極用のミル層として機能し得るようになるが、この一方で、多孔質体の細孔内に導電性材料が過大に充填されてしまうと、ガス経路が狭くなってガス透過性が低下することがある。
この点を勘案すると、ガス拡散電極用材料としては、上記(1)式の関係を満足することが好ましい。
【0027】
上記の(1)式において、導電性材料の含有量が20%未満では、導電性を十分に確保できないことがあり、80%を超えると、ガス透過性(拡散性)や撥水性が不十分になることがある。
【0028】
なお、本発明のガス拡散電極用材料では、多孔質体自体が高い撥水性を有するPTFE繊維で形成されているので、内部に水が浸入しにくく、浸入しても排水され易い。よって、このガス拡散電極用材料(ミル層)が接することになる電極触媒層の水分除去にも寄与し得る。
また、かかる多孔質体が3D連続微細孔を有するため、本発明のガス拡散電極用材料は、圧縮強度、耐熱性及び耐久性などの物理特性にも優れる。
【0029】
ここで、一般的には、ガス拡散電極では、支持材としてのカーボンペーパーやカーボンクロスの表面にカーボンブラックとPTFEを含むスラリーを塗布して焼成し、ミル層を形成する。この際、スラリー中のカーボン凝集体は数100nm〜1μmの大きさを有するので、カーボンブラックを含有させた後にミル層に形成される細孔の大きさは、その殆どが数100nm〜1μmで、ミル層内の空隙率も20〜50%程度となる。
従って、本発明のガス拡散電極用材料とは異なり、通常のガス拡散電極のミル層は、カーボンペーパーなどの支持材に比し、ガス透過性(拡散性)が不十分であり、更には、ミル層と接触している電極触媒層中の水分除去も不十分になり易い。
【0030】
なお、多孔質体、代表的には多孔質膜としては種々の形式のものがあるが、ガス拡散電極用材料の基材として使用するには、ガス拡散性と撥水性に優れるものが好適である。
また、このような多孔質膜のガス拡散性は、膜厚と空隙率と細孔径とに影響を受ける。
本発明においては、上記多孔質体は、厚みが5〜50μm、空隙率が70%以上、細孔径が0.5〜45μmであることが好ましく、これにより、適切なガス拡散性を確保できる。
【0031】
更に、上記多孔質体に導電性材料を保持させて成る本発明のガス拡散電極用材料としては、空隙率が50〜85%、細孔径が1〜30μmであることが好ましい。
導電性材料の保持後において、ガス拡散電極用材料として十分なガス拡散性を確保するには、上記の特性を有することが望ましい。
【0032】
なお、本発明において、上述の導電性材料としては、電気伝導性を有する粒子であれば十分であるが、代表的には、粒径0.5〜2μm、好ましくは0.5〜1.5μm、更に好ましくは0.9〜1.0μmのカーボンブラックを用いることが望ましい。
粒径が0.5μm未満では、上記多孔質体の3D連続微細孔に進入できても通過してしまうことがあり、2μmを超えると、3D連続細孔に進入できないことがあり、多孔質体に導電経路を形成できないことがある。
【0033】
また、カーボンブラックとしては、使用対象であるガス拡散電極の撥水性を確保すべく、比表面積30〜2000m/gのものが好ましく、特に、比表面積が30〜900m/gで、X線回折の(002)面における平均格子面間隔d002が0.343〜0.362nmのアセチレンブラック又は黒鉛化したカーボンブラックが好適である。
【0034】
なお、本発明のガス拡散電極用材料においては、導電性材料以外にも、使用対象であるガス拡散電極の撥水性を確保すべく、撥水材であるPTFE分散液などの成分を添加することができる。
また、導電性材料とこれらの添加成分も含めた固形分量としては、PTFE製の上記多孔質体の単位面積当たり、0.5〜3.0mg/cmとすることが好ましい。
固形分量が0.5mg/cm未満では、導電経路の形成が不十分になることがあり、3.0mg/cmを超えると、ガス拡散性が低下することがある。
【0035】
次に、本発明の他のガス拡散電極用材料について説明する。
本発明の他のガス拡散電極用材料は、上述したガス拡散電極用材料とほぼ同様の構成を有するが、特に以下の点が異なる。
即ち、多孔質体に形成されたスリット状の三次元連続微細孔に、少なくとも導電性材料を含有させて成る。この多孔質体は、ポリテトラフルオロエチレン製の薄膜を一軸延伸又は二軸延伸して得られる、連続な微細繊維、不連続な微細繊維のいずれか一方又は双方で形成される。
【0036】
また、このガス拡散電極用材料は、上記ポリテトラフルオロエチレンと上記導電性材料との重量比が、次式(2)
(PTFE):(Conductor)=20〜60:80〜40 …(2)
(式中のPTFEはポリテトラフルオロエチレン、Conductorは導電性材料を示す。)で表される関係を満足する。
【0037】
ここで、ポリテトラフルオロエチレン製の多孔質基材は、絶縁性であり且つ連続する微細孔を有する基材である。この多孔質体をガス拡散電極用材料(GDLの多孔質層(ミル層))として用いるには、該多孔質体に導電性材料を含有させ導電経路を形成する必要がある。一方で、多孔質体の空隙(細孔)内に導電性材料を含有させると、基材の空隙が埋まったり、空隙経路が狭まったりして、ガスの透過性が著しく低下することがある。
【0038】
このため、本発明では、ガス拡散電極用材料を上記組成式(2)を満たすようにすることで、導電性材料が備える導電性と、多孔質体が備えるガス透過性や撥水性とを両立させるようにした。
なお、導電性材料の含有量が0.4(40%)未満であると導電性を十分に確保することができない。一方、導電性材料の含有量が0.8(80%)を超えると 空隙経路が狭まったりして、ガスの透過性が著しく低下し易い。
【0039】
また、上記多孔質体をガス拡散電極用材料(GDLの多孔質層(ミル層))の基材として使用するには、ガス拡散性(透気度)に優れ・撥水性が高いものが良い。このガス拡散性は、膜厚みと空隙率と孔径とを調整することで確保できる。
例えば、多孔質体の厚みが5〜50μm、空隙率が80%以上、孔径が0.5〜45μm 、透気度が1〜30L/min・cmである多孔質体を使用することが好ましい。例えば、ポアフロンメンブレン(商品名:住友電工ファインポリマー社製)のような多孔質膜などの中で、この物性値に相当するものが好適に使用できる。
【0040】
このときは、導電性材料として0.1μm〜10μm以下の大きさのカーボン粒子(1次粒子の凝集体の粒径が10μm以下)を含有させた後も、良好なガス拡散性を確保することができる。なお、該多孔質体は、ポリテトラフルオロエチレン製であるため、撥水性が高いことは言うまでもない。
【0041】
更に、上記多孔質体の細孔内に含有させ導電性経路を形成させる導電性材料としては、例えば、粒径0.01〜2μm、比表面積30〜2000のカーボンブラック(凝集体含む)を使用できる。例えば、AB−6(アセチレンブラック、比表面積40m/g:電気化学工業(デンカ)社製)などが好適に使用できる。
【0042】
このような導電性材料であれば、細孔内に均一に且つ高分散させることができるので有効である。
なお、導電性材料の粒径が2μm超だと多孔質膜の細孔に引っ掛かって導電性経路が上手く形成されないことがある。なお、ここで言う細孔とは、丸い空孔が開いている形状ではなく、PTFE膜の一部が引き裂かれて形成されたスリット状の亀裂を示す。
【0043】
かかるガス拡散電極用材料は、ガス拡散性を確保する観点からは、導電性材料を含有させた後は、空隙率が40〜80%、孔径が1〜30μm 、透気度が1〜20L/min・cmであることが好適である。
このときの導電性材料の付着量(固形分量)としては、基材ポリテトラフルオロエチレンの単位面積当たり、0.3〜3.0mg/cmの範囲であることが望ましい。0.3mg/cm未満では、導電性経路の形成が不十分となり易い。3.0mg/cm超では、ガス拡散性が低下することがある。
【0044】
次に、本発明のガス拡散電極用材料の製造方法について説明する。
上述の如く、この製造方法は、上述の本発明のガス拡散電極用材料を製造する方法であって、下記の(1)〜(4)工程を含むものである。
(1)連続及び不連続なポリテトラフルオロエチレン微細繊維で形成され三次元連続微細孔を有する多孔質体を親水化する工程
(2)親水化した多孔質体に、導電性材料を含有するスラリーを浸透、付着させる工程
(3)導電性材料を付着させた多孔質体を熱処理する工程
【0045】
(1)工程において、ポリテトラフルオロエチレン膜は、一軸延伸又は二軸延伸を行うことが好ましく、このようなPTFEの延伸処理により、スリット状の3D連続微細孔が形成される。
また、(1)工程は、PTFEの高い撥水性を勘案して、後のスラリー(インク状の水系スラリー)の浸透、付着((2)工程)を容易にするために行う。
【0046】
かかる(1)工程は、具体的には、上記多孔質体の三次元連続微細細孔内に、界面活性剤を含有し親水基を持つ有機溶媒を充填することができる。
この場合、有機溶媒としては、親水基(典型的には水酸基)と親油基を有するもの、例えば沸点が50〜150℃のアルコールが好ましく、エタノール(沸点78.5℃)、プロパノール(沸点97℃)、ブタノール(沸点108.1℃)及びヘキサノール(沸点136℃)を挙げることができる。
また、使用する界面活性剤としては、トライトンX−100(商品名)、ナロアクティーHN−100及び非イオン界面活性剤(エーテル型)などを挙げることができる。
【0047】
次に、(2)工程は、導電性材料含有スラリー中の導電性粒子、代表的にはカーボン粒子を上記多孔質体の3D連続微細孔に進入させるために行うものである。
具体的には、上記多孔質体の表面又は裏面のいずれか一方に、上記スラリーを接触させた後、加圧又は減圧してこのスラリーをこの多孔質体内部に浸透させ、次いで、スラリー中の界面活性剤や有機溶媒を常圧で乾燥し、導電性材料を多孔質体に固定することにより行われる。
このように、親水化処理((1)工程)とスラリーの浸透・付着((2)工程)をウェット‐ウェットで行うことで、導電性材料含有スラリーを均一に浸透させることが可能となり、スラリーの付着量を目標量に対してア10%内で制御できる。
【0048】
また、(1)工程で多孔質体の両面を親水化処理し、(2)工程で該多孔質体の両面から導電性材料含有スラリーを多孔質体三次元連続微細細孔内に浸透、付着させることが好ましい。
具体的には、多孔質体の片面を親水化処理し導電性材料含有スラリーを付着させ、もう一方の面にも同様に親水化工程及びスラリー付着工程を行う。
このときは、導電性材料を含む多孔質体の導電性が向上し易く、10mΩ・cm以下とすることができる。なお、片面からのスラリー浸漬のみでは、もう一方の面に多孔質体のポリテトラフルオロエチレン繊維が露出し、これが導電性を低下させることがある。
【0049】
また、(3)工程は、(2)工程で多孔質体に含ませた導電性材料を固定化するために行うものである。
多孔質基材であるPTFEの融点以上の温度に加熱して固定化する。通常、PTFEの融点は約320℃で、多孔質体の融点は350ア50℃程度になる。よって、かかる熱処理は、300〜400℃で行うことが好ましい。
熱処理温度が300℃未満では、多孔質体が融解せず、導電性材料粒子を多孔質体に固定できないことがあり、400℃を超えると、多孔質体の融解が進行し過ぎて、3D連続微細孔に割れなどの変形を生じさせ、ガス拡散性が低下することがある。
【0050】
更に、(3)工程では、導電性材料を付着した多孔質体に対し、その表面に平行な方向に張力をかけた状態で熱処理を行うことが好ましい。
上述のように、PTFE製多孔質体を熱処理すると、PTFEの溶融により多孔質体が体積収縮して3D連続微細孔が狭小化することがあり、この結果、ガス拡散性が低下することがある。
これに対し、面方向に平行な方向、例えば直交する2方向(X−Y方向)に張力をかけた状態で熱処理を行えば、かかる不具合を抑制することができる。
なお、このような張力の付与以外にも、多孔質体を型枠で固定したまま熱処理してもよい。
【0051】
図5に、上述した(1)〜(3)工程により、本発明のガス拡散電極用材料が製造されるまでの工程フローの一例を示す。この工程フローでは、(1)工程と(2)工程を行った後、多孔質PTFEシートを反転し、裏面にも同工程を繰り返し行うことで両面から導電性材料を浸透・付着させて、ガス拡散電極用材料を製造できる。
【0052】
次に、本発明のガス拡散電極の電極触媒層について説明する。
上述の如く、この電極触媒層材料は、上記本発明のガス拡散電極用材料に、電極触媒を担持して成るものである。
かかる電極触媒としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)又はこれらの混合物を含有するPt合金、コバルト、(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)又はこれらの混合物を含有するPt合金などの活性成分を導電性材料(カーボン担体)に担持した触媒を挙げることができる。
【0053】
次に、本発明のガス拡散電極について説明する。
上述の如く、このガス拡散電極は、上記本発明のガス拡散電極用材料又は電極触媒層(材料)を、カーボンペーパーやカーボンクロスなどのガス透過性の導電性支持材で支持して成る。
本発明のガス拡散電極用材料は、そのままでもガス拡散電極として使用することができるが、カーボンペーパーなどで支持すれば、剛性を向上でき、取り扱い性を更に向上できる。
【0054】
かかる導電性支持材としては、厚さが100〜300μmのものが好ましく、厚さが100μm未満では支持材としての強度が不足することがあり、300μmを超えるとガス拡散性を阻害することがある。
また、カーボンペーパーやカーボンクロスとしては導電性を有すれば十分であり、黒鉛化度は低くてもよい。
なお、従来のガス拡散電極においては、カーボンペーパーやカーボンクロスに撥水処理を行うが、本発明ではこのような撥水処理は不要である。撥水処理に用いる撥水剤の経時劣化に伴いカーボンペーパーなども劣化することがあるので、本発明では撥水処理はむしろ行わない方がよい。
【0055】
本発明のガス拡散電極用材料は、カーボンペーパーやカーボンクロスなどの支持体に固定したままでもガス拡散層として使用することができるのは上述の通りであるが、電解質膜上に支持された電極触媒層に支持すれば、電極触媒層と、このガス拡散電極層との密着性が向上でき、接触抵抗を低減して更に発電性能を向上することもできる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
以下に、ガス拡散電極材料およびMEAの作製手順を示す。
[ガス拡散電極の作製]
1.ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の準備
厚み30μm、スリット状の細孔0.5〜45μm(平均細孔径15μm)、空隙率88%のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜シート(図1)から、10cm角の基材を切り出した。
【0058】
2.親水化処理液の準備
界面活性剤(ダウケミカル社製Triotn X−100 )4gと、エタノール200gを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌分散処理を行い、親水化処理液とした。
【0059】
3.塗着用インクスラリーの準備
界面活性剤(ダウケミカル社製Triton X−100)3gと、純水200gを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行った後、上記界面活性剤分散水溶液にデンカ社製アセチレンブラック(AB−6)20gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行った。
上記インクスラリーをジェットミルを用いて粉砕処理を行い、カーボン平均粒径を1μmとした。上記インクスラリーに、ダイキン工業製Polyflon D−1E(固形分64%)3gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行い、塗着用インクスラリーとした。
【0060】
4.親水化処理(1)
10cm角に切り出した基材を、中空部が8cm角のステンレス製治具に固定し、減圧吸引板上に設置した。基材(片面)の全面に親水化処理液25mlを浸漬した後、減圧吸引し、該基材内に親水化処理液を浸透させた。次いで、基材内に親水化処理液が十分に浸透した状態で減圧吸引操作を止め、基材内に親水化処理液が充填された状態とした。
【0061】
5.塗着処理(1)
基材内に親水化処理液が充填された状態で、上記調製した塗着用インクスラリー15mlを浸漬した後、減圧吸引し、該基材内の親水化処理溶液と塗着用インクスラリーとを置換させながら、浸透させた。インクスラリーを十分に浸透させた後、80℃の乾燥炉(空気雰囲気)で15分以上乾燥させた。片面を処理した基材a1を得た。
【0062】
6.親水化処理(2)
次に、この基材a1の未処理面を処理するため、先と同様にして、中空部が8cm角のステンレス製治具に固定し、減圧吸引板上に設置した。基材(もう一方の片面)の全面に親水化処理液25mlを浸漬した後、減圧吸引し、該基材内に親水化処理液を浸透させた。
次いで、基材内に親水化処理液が十分に浸透した状態で減圧吸引操作を止め、基材内に親水化処理液が充填された状態とした。
【0063】
7.塗着処理(2)
上記基材内に親水化処理液が充填された状態で、上記調製した塗着用インクスラリー15mlを浸漬した後、減圧吸引し、該基材内の親水化処理溶液と塗着用インクスラリーとを置換させながら、浸透させた。インクスラリーを十分に浸透させた後、80℃の乾燥炉(空気雰囲気)で15分以上乾燥させた。両面を処理した基材a2を得た。基材a2のインクスラリー固形分の総塗着量は1.0mg/cmであった。
【0064】
8.多孔質膜の焼成
両面にインクスラリーを塗着させた基材a2を、350℃の焼成炉(空気雰囲気)で10分の熱処理を行い、基材a2内に含有されたPTFE分散粒子および骨格のPTFE繊維を溶融させて、基材内に含有されたカーボン粒子上にPTFEを分散させガス拡散電極用材料とした。こうして、(PTFE)0.7(Conductor)0.3、空隙率70%のガス拡散電極用材料A1(図2)を得た。
【0065】
9.カーボンペーパーとの接合
上記のガス拡散電極用材料a2を、10cm角の東レ製TGP−H−060カーボンペーパー上にセットし、ホットプレスにて130℃、2MPa、3分の接合処理を行った。
こうして得られたカーボンペーパーとガス拡散電極用材料a2の接合体を所定のサイズ(6.0cm×5.5cm)に切り出し、ガス拡散電極G1とした。
【0066】
[電解質膜−電極接合体の作製]
1.アノード電極触媒の調製
導電性炭素材料としてカーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックTM EC、BET表面積=800m/g)4.0gを準備し、これにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌した。さらに、還元剤としてメタノール50gを混合し、1時間攪拌した。その後、30分で80℃まで加温し、80℃で6時間撹拌した後、1時間で室温まで降温した。
沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥し、乳鉢で粉砕し、アノード電極触媒(Pt粒子の平均粒径2.6nm、Pt担持濃度50質量%)を得た。
【0067】
2.カソード電極触媒の調製
カーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックTM EC)を、熱処理することにより、黒鉛化処理されたカーボンブラック(黒鉛化処理ケッチェンブラックEC、BET表面積=130m/g)を得た。この黒鉛化処理されたケッチェンブラック4.0gに、ジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌した。さらに、還元剤として蟻酸50gを混合し、1時間攪拌した。その後、30分で40℃まで加温し、40℃で6時間撹拌した。30分で60℃まで加温し、さらに、60℃で6時間撹拌した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥し、乳鉢で粉砕し、カソード電極触媒(Pt粒子の平均粒径4.8nm、Pt担持濃度50質量%)を得た。
【0068】
3.アノード触媒層の作製
アノード電極触媒の質量に対して、5倍量の精製水を加え、減圧脱泡操作を5分間加えた。これに、0.5倍量のn−プロピルアルコールを加え、さらにプロトン伝導性高分子電解質を含む溶液(DuPont社製20%Nafion(登録商標)含有)を加えた。溶液中の高分子電解質の含有量は、アノード電極触媒のカーボン質量に対する固形分質量比が、Carbon/Ionomer=1.0/0.9であるものを用いた。
得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量の触媒スラリーを印刷し、60℃で24時間乾燥させた。形成されるアノード触媒層のサイズは、5cm×5cmとした。また、ポリテトラフルオロエチレンシート上の塗布層は、Pt量が0.2mg/cm(アノード触媒層の平均厚みは6μm)となるように調整した。
【0069】
4.カソード触媒層の作製
カソード電極触媒の質量に対して、5倍量の精製水を加え、減圧脱泡操作を5分間加えた。これに、0.5倍量のn−プロピルアルコールを加え、さらにプロトン伝導性高分子電解質を含む溶液(DuPont社製20%Nafion(登録商標)含有)を加えた。溶液中の高分子電解質の含有量は、カソード電極触媒のカーボン質量に対する固形分質量比が、Carbon/Ionomer=1.0/0.9であるものを用いた。
得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量の触媒スラリーを印刷し、60℃で24時間乾燥させた。形成されるカソード触媒層のサイズは、5cm×5cmとした。また、ポリテトラフルオロエチレンシート上の塗布層は、Pt量が0.4mg/cm(カソード触媒層の平均厚みは12μm)なるように調整した。
【0070】
5.電解質膜電極接合体(MEA)の作製
固体高分子電解質膜としてNafionTM NRE211(旧NE111)(膜厚25μm)と、先に作製したポリテトラフルオロエチレンシート上に形成された電極触媒層とを重ね合わせた。その際には、アノード触媒層、固体高分子電解質膜、カソード触媒層を、この順序で積層させた。その後、130℃、2.0MPaで、10分間ホットプレスし、ポリテトラフルオロエチレンシートのみを剥がしてMEAを得た。
固体高分子電解質膜上に転写されたカソード触媒層は、厚さが約12μm、Pt担持量は見かけの電極面積1cmあたり0.4mg、電極面積は25cmであった。アノード触媒層は、厚さが約6μm、Pt担持量は見かけの電極面積1cmあたり0.2mg、電極面積は25cmであった。
【0071】
[膜電極接合体(MEA)の性能評価]
上記で得たMEAの両面に、上記で得たガス拡散電極G1(大きさ6.0cm×5.5cm、)およびガス流路付きガスセパレータを配置し、さらに金メッキしたステンレス製集電板で挟持して、評価用単セルとした。評価用単セルの、アノード側に燃料として水素を供給し、カソード側には酸化剤として空気を供給した。両ガスとも供給圧力は大気圧とし、水素は58.6℃および相対湿度60%、空気は54.8℃および相対湿度50%、セル温度は70℃に設定した。また、水素利用率は67%、空気利用率は40%とした。この条件下で、電流密度1.0A/cmで発電させた際のセル電圧を初期セル電圧として測定した。
続いて、60秒間発電した後、発電を停止した。停止後、水素及び空気の供給を停止し、空気で単セルを置換し50秒間待機した。その後、10秒間アノード側に水素ガスを上記利用率の1/5で供給した。その後、アノード側に水素ガス、カソード側に空気を上記と同様の条件で供給し、再度、1.0A/cmの電流密度で60秒間発電した。また、この時の負荷電流は30秒間で0A/cmから1A/cmに増大させた。この発電・停止動作を実施し、セル電圧を測定して、発電性能を評価した。1.0A/cmの電流密度でのセル電圧が0.45Vになったときのサイクル数を、耐久性の評価値として用いた。構成および結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2)
実施例1と同様にして、塗着量1.0mg/cm、(PTFE)0.2(Conductor)0.8、空隙率72%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G2を得た。
【0073】
(実施例3)
実施例1と同様にして、塗着量1.0mg/cm、(PTFE)0.4(Conductor)0.6、空隙率70%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G3を得た。
【0074】
(実施例4)
実施例1と同様にして、塗着量1.0mg/cm、(PTFE)0.5(Conductor)0.5、空隙率70%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G4を得た。
【0075】
(実施例5)
実施例1と同様にして、塗着量1.0mg/cm、(PTFE)0.7(Conductor)0.3、空隙率69%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G5を得た。
【0076】
(実施例6)
実施例1と同様にして、塗着量0.5mg/cm、(PTFE)0.3(Conductor)0.7、空隙率80%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G6を得た。
【0077】
(実施例7)
実施例1と同様にして、塗着量0.5mg/cm、(PTFE)0.5(Conductor)0.5、空隙率78%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G7を得た。
【0078】
(実施例8)
実施例1と同様にして、塗着量1.5mg/cm、(PTFE)0.3(Conductor)0.7、空隙率63%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G8を得た。
【0079】
(実施例9)
実施例1と同様にして、塗着量1.5mg/cm、(PTFE)0.5(Conductor)0.5、空隙率62%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G9を得た。
【0080】
(実施例10)
実施例1と同様にして、塗着量2.0mg/cm、(PTFE)0.3(Conductor)0.7、空隙率54%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G10を得た。
【0081】
(実施例11)
1.カソード電極触媒の調製
導電性炭素材料としてカーボンブラック(ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製ケッチェンブラックTM EC、BET表面積=800m/g)4.0gを準備し、これにジニトロジアンミン白金水溶液(Pt濃度1.0%)400gを加えて1時間撹拌した。さらに、還元剤としてメタノール50gを混合し、1時間攪拌した。その後、30分で80℃まで加温し、80℃で6時間撹拌した後、1時間で室温まで降温した。沈殿物を濾過した後、得られた固形物を減圧下85℃において12時間乾燥し、乳鉢で粉砕し、アノード電極触媒(Pt粒子の平均粒径2.6nm、Pt担持濃度50質量%)を得た。
【0082】
2.カソード触媒層の作製
カソード電極触媒の質量に対して、5倍量の精製水を加え、減圧脱泡操作を5分間加えた。これに、0.5倍量のn−プロピルアルコールを加え、さらにプロトン伝導性高分子電解質を含む溶液(DuPont社製20%Nafion(登録商標)含有)を加えた。溶液中の高分子電解質の含有量は、アノード電極触媒のカーボン質量に対する固形分質量比が、Carbon/Ionomer=1.0/0.9であるものを用いた。
得られた混合スラリーを超音波ホモジナイザーでよく分散させ、減圧脱泡操作を加えることによって触媒スラリーを作製した。これをポリテトラフルオロエチレンシートの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量の触媒スラリーを印刷し、60℃で24時間乾燥させた。形成されるアノード触媒層のサイズは、5cm×5cmとした。また、ポリテトラフルオロエチレンシート上の塗布層は、Pt量が0.4mg/cm(アノード触媒層の平均厚みは12μm)となるように調整した。
【0083】
3.電解質膜電極接合体(MEA)の作製
固体高分子電解質膜としてNafionTM NRE211(旧NE111)(膜厚25μm)と、実施例1で作製したアノード電極触媒層と、上記先カソード電極触媒層とを重ね合わせた。その際には、アノード触媒層、固体高分子電解質膜、カソード触媒層を、この順序で積層させた。その後、130℃、2.0MPaで、10分間ホットプレスし、ポリテトラフルオロエチレンシートのみを剥がしてMEAを得た。
固体高分子電解質膜上に転写されたカソード触媒層は、厚さが約12μm、Pt担持量は見かけの電極面積1cmあたり0.4mg、電極面積は25cmであった。アノード触媒層は、厚さが約6μm、Pt担持量は見かけの電極面積1cmあたり0.2mg、電極面積は25cmであった。
このMEAを実施例1で作製した、ガス拡散電極G1と組合せて評価を行った。
【0084】
(実施例12)
実施例1のガス拡散電極材料を作製する際に、デンカ製アセチレンブラック(AB−6)の代わりに、Cabot社製カーボンブラック(VulcanXC−72)を用いた以外は、同様にして評価した。
【0085】
(実施例13)
実施例1のガス拡散電極材料を作製する際に、デンカ製アセチレンブラック(AB−6)の代わりに、ケッチェン・ブラック・インターナショナル社製カーボンブラック(ケッチェンブラックTM EC)を用いた以外は、同様にして評価した。
【0086】
(実施例14)
実施例1のガス拡散電極材料を作製する際に、デンカ製アセチレンブラック(AB−6)の代わりに、黒鉛化処理したケッチェンブラックを用いた以外は、同様にして評価した。
【0087】
(実施例15)
実施例1で作製したMEAの両面に、実施例1で作製したガス拡散電極材料A1を所定のサイズ(6.0cm×5.5cm)に切り出し、先に作製したMEAと重ね合わせた。
その際には、ガス拡散電極材料A1、MEA(アノード触媒層、固体高分子電解質膜、カソード触媒層を、この順序で積層し接合したもの)、ガス拡散電極材料A1を、この順序で積層させた。
その後、ホットプレスにて130℃、2MPa、3分の接合処理を行った。こうして得られた、MEAの両側にガス拡散電極材料を配置したものに、カーボンペーパー(6.0cm×5.5cm)を重ね合わせて評価に用いた。
【0088】
(比較例1)
界面活性剤(ダウケミカル社製 Triton X−100)3gと、純水200gを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行った後、上記界面活性剤分散水溶液にデンカ社製アセチレンブラック(AB−6)20gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行った。
上記スラリーをジェットミルを用いて粉砕処理を行い、カーボン平均粒径が1μmとした。上記インクスラリーに、ダイキン工業製Polyflon D−1E(固形分64%) 15gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行い、さらに、減圧脱泡操作を加え、スラリーを得た。
このスラリーを10cm角の東レ製TGP−H−060カーボンペーパーの片面にスクリーン印刷法によって、所望の厚さに応じた量のスラリーを印刷し、80℃で24時間乾燥させた。その後、350℃の焼成炉(空気雰囲気)で30分の熱処理を行い、スラリー中のPTFE分散粒子を溶融させて、カーボン粒子上に分散させガス拡散電極用材料とした。こうして、塗布量2.0mg/cm、(PTFE)0.3(Conductor)0.7、空隙率40%、のガス拡散層(多孔質層(ミル層))を有すガス拡散電極g1を得た。
こうして得られたガス拡散電極g2の接合体を所定のサイズ(6.0cm×5.5cm)に切り出し、実施例1のMEAに組合せて評価を行った。
【0089】
(比較例2)
厚み50μm、細孔0.5〜45μm(平均細孔径15μm)、空隙率60%のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜シート(図3参照)から、10cm角の基材を切り出した。
実施例1と同様にして、このポリテトラフルオロエチレン多孔質膜シートに、インクスラリーを含有させ、ガス拡散電極用材料を作製した。
これを実施例1と同様にして、塗着量1.0mg/cm、(PTFE)0.3(Conductor)0.7、空隙率40%、のガス拡散電極用材料を支持したガス拡散電極G16とした(図4参照)。
【0090】
(比較例3)
実施例11で作製したMEAに、比較例2のガス拡散電極G16を組合せて評価した。
【0091】
【表1】

【0092】
(実施例16)
[ガス拡散電極の作製]
1.ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜の準備
平均空孔径10μm、厚み50μmのPTFE多孔質薄膜を10cm角に切断した。
【0093】
2.親水化処理液の準備
界面活性剤(ダウケミカル社製:Triotn X−100)5gと、エタノール200gを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌分散処理を行い、親水処理液とした。
【0094】
3.塗着用インクスラリーの準備
界面活性剤(ダウケミカル社製:Triton X−100)3gと、純水200gを混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行った後、上記界面活性剤分散水溶液にカーボンブラック(Cabot社製:Vulcan XC−72R)20gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行った。
上記インクスラリーをジェットミルを用いて粉砕処理を行い、カーボン平均粒径が1μmとなった。上記インクスラリーに、ダイキン工業製Polyflon D−1E 13gを投入混合し、プロペラ攪拌装置にて150rpm、30分の攪拌処理を行い、塗着用インクスラリーとした。
【0095】
4.PTFE多孔質膜の親水処理
工程1で準備したPTFE多孔質膜を中空部が8cm角のステンレス製治具に固定し、工程2で準備した親水処理液に浸漬後、減圧吸引した。
【0096】
5.インクスラリーの塗着
工程4で親水処理化されたPTFE多孔質膜が完全に乾燥する前に、工程3で準備したインクスラリーに浸漬後、減圧吸引し、70〜100℃の乾燥炉で乾燥させた。
【0097】
6.PTFE多孔質膜の焼成
工程5でインクスラリーを塗着させたPTFE多孔質膜を、320℃の焼成炉で20分の焼成処理を行い、ガス拡散電極用材料とした。
なお、得られたガス拡散電極用材料は、次の組成式(PTFE)0.3(Carbon)0.7で示すことができる。
【0098】
7.PTFE多孔質膜の接合
上記のガス拡散電極用材料を、10cm角のカーボンペーパー(東レ製:TGP−H−060)上にセットし、ホットプレスにて熱接合処理を行った。
【0099】
8.ガス拡散電極の切り出し
工程7で得られたカーボンペーパ+ガス拡散電極用材料を所定のサイズに切り出し、ガス拡散電極とした。
【0100】
[ガス拡散電極の評価]
図6に示すように、得られたガス拡散電極7,9を用いた膜電極接合体(MEA)5を、燃料ガス流路12を有するセパレータ10と、冷却水流路13を有するセパレータ11とで挟持し、燃料電池単セル1を組立てた。
大気圧下で、アノード極に水素ガス/カソード極に空気を導入し、セル温度70℃、負荷電流密度1A/cmで3時間エージング処理を行った後、セルの発電性能評価を行った。
【0101】
本発明のガス拡散電極材料をカーボンパーパーに支持したガス拡散層(GDL)を用いたMEAは、カーボンパーパー上に多孔質層(ミル層)を配した、従来のガス拡散層(GDL)を用いたMEAに比べ、性能及び耐久性に優れることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明のガス拡散電極用材料の一例における多孔質体の電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明のガス拡散電極用材料の一例の電子顕微鏡写真である。
【図3】従来のガス拡散電極用材料における多孔質体の電子顕微鏡写真である。
【図4】従来のガス拡散電極材料の電子顕微鏡写真である。
【図5】本発明のガス拡散電極用材料の製造方法の一例を示す工程フロー図である。
【図6】本発明のガス拡散電極用材料を用いた単セルの一例を示す断面外略図である。
【符号の説明】
【0103】
1 単セル
2 固体高分子膜
3 燃料電極
4 酸化剤電極
5 膜電極接合体(MEA)
6 触媒層
7 ガス拡散層
8 触媒層
9 ガス拡散層
10 燃料電極側セパレータ
11 酸化剤電極側セパレータ
12 燃料ガス流路
13 冷却水流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続及び不連続のポリテトラフルオロエチレン微細繊維で形成された三次元連続微細孔を有する多孔質体と、この多孔質体に保持された導電性材料を有するガス拡散電極用材料であって、
上記多孔質体断面の表面領域から裏面領域にかけて、上記ポリテトラフルオロエチレン微細繊維は、密集度合いが低い部位と高い部位を有することを特徴するガス拡散電極用材料。
【請求項2】
上記ポリテトラフルオロエチレン微細繊維の密集度合いが低い部位では、上記導電性材料の保持度合いが高く、上記ポリテトラフルオロエチレン微細繊維の密集度合いが高い部位では、上記導電性材料の保持度合いが低いことを特徴とする請求項1に記載のガス拡散電極用材料。
【請求項3】
上記三次元連続微細孔の形状がスリット状であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガス拡散電極用材料。
【請求項4】
上記ポリテトラフルオロエチレンと上記導電性材料との重量比が、次式(1)
(PTFE):(Conductor)=20〜80:80〜20…(1)
(式中のPTFEはポリテトラフルオロエチレン、Conductorは導電性材料を示す。)で表されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料。
【請求項5】
上記多孔質体は、厚みが5〜50μm、空隙率が70%以上、細孔径が0.5〜45μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料。
【請求項6】
当該ガス拡散電極用材料は、空隙率が40〜85%、細孔径が1〜30μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料。
【請求項7】
上記導電性材料が、粒径0.5〜2μm、比表面積30〜2000のカーボンブラックであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料。
【請求項8】
ポリテトラフルオロエチレン製の薄膜を、一軸延伸又は二軸延伸して、連続及び/又は不連続な微細繊維で形成された多孔質体とし、
該多孔質体に形成されたスリット状の三次元連続微細孔に、少なくとも導電性材料を含有させ、
上記ポリテトラフルオロエチレンと上記導電性材料との重量比が、次式(2)
(PTFE):(Conductor)=20〜60:80〜40 …(2)
(式中のPTFEはポリテトラフルオロエチレン、Conductorは導電性材料を示す。)で表されることを特徴とするガス拡散電極用材料。
【請求項9】
上記導電性材料が、粒径0.01〜2μm、比表面積30〜2000のカーボンブラックであることを特徴とする請求項8に記載のガス拡散電極用材料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料を製造するに当たり、
(1)連続及び不連続なポリテトラフルオロエチレン微細繊維で形成され三次元連続微細孔を有する多孔質体を親水化し、
(2)親水化した多孔質体に、導電性材料を含有するスラリーを浸透、付着させ、
(3)導電性材料を付着させた多孔質体を熱処理する、
ことを特徴とするガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項11】
(1)工程において、ポリテトラフルオロエチレン膜を延伸して、上記多孔質体を作製することを特徴とする請求項10に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項12】
(1)工程において、上記多孔質体の三次元連続微細細孔内に、界面活性剤を含有し親水基を持つ有機溶媒を充填することを特徴とする請求項10又は11に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項13】
(2)工程において、上記多孔質体の表面又は裏面のいずれか一方に、上記スラリーを接触させ、次いで、加圧又は減圧してこのスラリーをこの多孔質体内部に浸透させ、しかる後、常圧で乾燥することを特徴とする請求項10〜12のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項14】
(2)工程において、上記多孔質体の裏面又は表面のいずれか一方に、上記スラリーを接触させ、次いで、加圧又は減圧してこのスラリーをこの多孔質体内部に浸透させ、しかる後、常圧で乾燥することを特徴とする請求項13に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項15】
(3)工程において、300〜400℃で熱処理することを特徴とする請求項10〜14のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料。
【請求項16】
(3)工程において、導電性材料を付着させた多孔質体に対し、その表面に平行な方向に張力をかけた状態で熱処理を行うことを特徴とする請求項10〜15のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料に電極触媒を担持してなることを特徴とするガス拡散電極の電極触媒層。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料又は請求項19に記載の電極触媒層を、ガス透過性の導電性支持材で支持して成ることを特徴とするガス拡散電極。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれか1つの項に記載のガス拡散電極用材料を、電解質膜に支持した電極触媒層上に支持して成ることを特徴とするガス拡散電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−123227(P2007−123227A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46126(P2006−46126)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】