ガス検出用素子及び当該ガス検出用素子を備えたガス検出用センサ
【課題】例えば、50〜80℃といった低温での動作が良好であり、高感度で応答速度が速く、センサの構造も平易なガス検出用素子及び当該ガス検出用素子を備えたガス検出用センサを提供すること。
【解決手段】本発明のガス検出用素子1は、基板2に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜3を形成し、当該多孔質薄膜3がパラジウム及び白金4を担持しており、多孔質薄膜2を構成する導体等の粒子の粒子総面積が大きくなるため、可燃性ガスを検出するためのパラジウム及び白金4の反応性を向上させることができる。従って、低温域においても、可燃性ガスの接触触媒燃焼による素子1近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することが可能な、応答速度が速く高感度なガス検出用素子、及び当該ガス検出用素子を備えた平易な構造のガス検出用センサを提供することができる。
【解決手段】本発明のガス検出用素子1は、基板2に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜3を形成し、当該多孔質薄膜3がパラジウム及び白金4を担持しており、多孔質薄膜2を構成する導体等の粒子の粒子総面積が大きくなるため、可燃性ガスを検出するためのパラジウム及び白金4の反応性を向上させることができる。従って、低温域においても、可燃性ガスの接触触媒燃焼による素子1近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することが可能な、応答速度が速く高感度なガス検出用素子、及び当該ガス検出用素子を備えた平易な構造のガス検出用センサを提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出用素子及び当該ガス検出用素子を備えたガス検出用センサに関する。更に詳しくは、水素やエタノールガス等の可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部近傍の温度変化を測定することができ、センサの低温動作化及び構造の平易化を実施可能なガス検出用素子及び当該ガス検出用素子を備えたガス検出用センサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球環境の破壊が大きな社会的問題となっており、化石燃料に代わる新規のエネルギーシステムの開発が活発に行われている。その中で、燃料電池に用いられる水素やバイオエタノールは再生可能な自然エネルギーであり、次世代のエネルギー源として注目を集めているが、その一方、水素やエタノール等のガスは可燃性であるため、爆発または引火しやすいといった問題がある。そのため、新規のエネルギーシステムにはこれらのガスを検知・検出するためのセンサ(可燃性ガス検出用センサ)の開発が必要となる。従来、可燃性ガス検出用センサの検出部には、高純度白金のコイル上に、アルミナ粒子にパラジウムや白金を担持した酸化触媒を被覆したものを検出素子とした接触燃焼式ガス検出用センサが利用されていたが、高純度白金のコイルは貴金属使用量が多く、コスト高になってしまうという問題があった。
【0003】
そこで、近年、白金上での水素の酸化・燃焼熱と熱電変換素子との組み合わせ、タングステン酸塩の酸化・還元によるエレクトロクロミズムや、金属パラジウム薄膜・パラジウムナノ粒子などのパラジウムの水素吸蔵に伴う体積膨張を利用して電気伝導度の変化から水素濃度を検出する材料等、様々な新規ガス検出用センサが報告されている(例えば、特許文献1または特許文献2を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−3153号公報
【特許文献2】特開2007−240462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した特許文献1に開示されたガス検出用センサは、常温での応答速度や感度が低く、常温での使用においてこれら応答速度等を向上させるには100℃以上の高温で紫外線を照射する必要があるため、実用可能なセンサにするためには複雑な構造になってしまうという問題があった。同様に、特許文献2に開示されたガス検出用センサも、ガス検出用素子に設けられた電極間の電気抵抗値の変化でセンシングを行っているため、例えば150℃以上といった高温でしか動作しないという問題があり、改善が求められていた。
【0006】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、水素ガスやエタノールガス等の可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部近傍の温度変化を測定することでセンシングを行うことができるため、例えば、50〜80℃といった低温での動作が良好であり、高感度で応答速度が速く、センサの構造も平易なガス検出用素子及び当該ガス検出用素子を備えたガス検出用センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係るガス検出用素子は、基板の表面に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜が形成され、当該多孔質薄膜が、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を担持していることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に係るガス検出用素子は、前記した請求項1において、前記多孔質薄膜が酸化チタン(TiO2)からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に係るガス検出用素子は、前記した請求項1または請求項2において、前記粒子の平均粒径が20〜50nmであることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に係るガス検出用センサは、前記した請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガス検出用素子と、当該ガス検出用素子近傍の温度を測定可能な温度測定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5に係るガス検出用センサは、前記した請求項4において、前記温度測定手段が熱電対であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係るガス検出用素子は、基板の表面に平均粒径が特定範囲の粒子から構成される多孔質構造の多孔質薄膜を形成し、かかる薄膜にパラジウム−白金担持層を設けているため、多孔質薄膜を構成する粒子の粒子総面積(多孔質薄膜の表面積)が大きくなり、多孔質薄膜に担持される、可燃性ガスを検出するためのパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金の反応性を向上させることができる。従って、例えば、50〜80℃といった低温域においても、可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部(ガス検出用素子)近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することができる、応答速度が速く、高感度なガス検出用素子を提供することができる。
【0013】
本発明の請求項2に係るガス検出用素子は、当該素子を構成する多孔質薄膜が酸化チタン(TiO2)からなるので、化学的にも物理的にも安定であり、光触媒反応による還元作用が高いので、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を効率よく容易に担持することができる。
【0014】
本発明の請求項3に係るガス検出用素子は、多孔質薄膜を構成する粒子の平均粒径が特定の範囲内であるので、多孔質薄膜を構成する導体等の粒子の粒子総面積がバランスよく大きくなり、水素ガス、エタノールガス等の可燃性ガスとの触媒燃焼反応が短時間でより一層効率よく進行することになる。
【0015】
本発明の請求項4に係るガス検出用センサは、本発明のガス検出用素子と、当該ガス検出用素子近傍の温度を測定可能な温度測定手段を備え、構成は平易なものとなり、前記したガス検出用素子の奏する効果を享受し、大気中等の様々な環境における可燃性ガス等を検出可能なセンサとなる。
【0016】
本発明の請求項5に係るガス検出用センサは、当該センサを構成する温度測定手段が熱電対であるので、センサの構造がより一層平易となり、また、コスト的にも優れるガス検出用センサとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一態様を説明する。図1に示すように、本発明のガス検出用素子は、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜が形成され、かかる多孔質薄膜が、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を担持していることを基本構成とする。
【0018】
(1)ガス検出用素子:
図1は、本発明のガス検出用素子の一態様を示した断面図である。図1に示すように、本発明のガス検出用素子1は、基板2の表面に、導体または半導体からなる多孔質薄膜3が形成され、かかる多孔質薄膜3は、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を担持する。
【0019】
本発明のガス検出用素子を構成する基板2は、絶縁性を有する平板であれば特に制限はないが、例えば、SiO2等のガラス基板や石英基板、Al2O3等のセラミックス基板、イオンをドープしていない絶縁基板としてのSi基板(シリコン基板)等の絶縁材料を構成材料として用いることができる。また、基板2の熱容量は、定圧比熱容量で0.4J・K−1・g−1〜1.8J・K−1・g−1であることが好ましく、定圧比熱容量で0.5J・K−1・g−1〜1.0J・K−1・g−1であることがより好ましい。
【0020】
基板2のサイズは、特に制限はなく、本発明のガス検出用素子1が適用されるガス検出用センサ等のサイズ等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、幅方向を1mm〜15mm、長さ方向を1mm〜15mm、高さ(厚さ)方向を0.1μm〜5.0μmとすることができる。
【0021】
本発明のガス検出用素子1を構成し、基板2の表面に形成される多孔質薄膜3(以下、単に「薄膜3」とする場合もある。)を構成する材料としては、導体または半導体であれば特に制限はないが、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を薄膜3に容易かつ強固に担持させるために、光触媒作用(光の吸収によって触媒反応を生じさせる作用のこと。以下同じ。)を有する酸化物半導体であることが好ましい。酸化物半導体としては、例えば、TiO2、ZnO、SnO、SnO2、Fe2O3、Fe3O4、CeO、Ce2O3、ZrO2、CdS、SiC、希土類ドープアルカリ土類チタン酸塩(例えばLaドープBaTiO3)等が挙げられ、これらの中でも、化学的にも物理的にも安定であり、光触媒反応による還元作用が高いという点で、酸化チタン(TiO2)(チタニアとも呼ばれる。)を用いることが好ましい。
【0022】
多孔質薄膜3は、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる。かかる多孔質構造では、多孔質薄膜3を構成する導体等の粒子の粒子総面積(薄膜3の表面積)が大きくなるため、多孔質薄膜3に担持される微粒子状のパラジウムまたはその合金及び白金またはその合金4(以下、単に「パラジウム及び白金4」とする場合がある。)の担持量が多くなる。加えて、多孔質薄膜3を構成する導体等の粒子総面積が大きくなると、光触媒反応等により析出されるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4の微粒子の粒径も小さくなることになる。
【0023】
多孔質薄膜3に担持されるパラジウム及び白金4の担持量が多く、かつ、粒径が小さくなると、パラジウム及び白金4の触媒としての反応面積が大きくなるため、水素ガス、エタノールガス等の可燃性ガスとの触媒燃焼反応が短時間で効率的に進行することになる。このように、多孔質薄膜3の粒子総面積が大きいことにより、被検対象となる可燃性ガスを検出するためのパラジウム及び白金4の反応性を向上させることができるため、例えば、50〜80℃といった低温域においても、可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部(ガス検出用素子1)近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することができる。
【0024】
一方、特開2007−240462号公報に開示される、基板の表面にディップコート等で形成されたチタニア半導体層等の薄膜は、数nmの1次粒子が凝集して構成される緻密な膜であると考えられるが、かかる薄膜は、膜が緻密過ぎるため、パラジウム及び白金の触媒としての反応面積を本発明のガス検出用素子ほどは大きくすることができない。よって、50〜80℃といった低温域における、可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することは極めて困難であるとともに、300℃程度の高温域においても、本発明のガス検出用素子1ないしは当該素子を備えたガス検出用センサと比較して、得られる温度変化幅は小さく、ガス検出用センサ等としての性能は劣るため、ガス検出用素子に設けられた電極間の電気抵抗値の変化でセンシングを行うタイプのガス検出用センサとしての適用に限られることになる。
【0025】
ここで、多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径が10nmより小さいと、膜構造が緻密になり触媒担持量の減少や検出ガスの内部への拡散の低下が起こりセンサ能が低下する。また、多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径が100nmを超えると、膜の表面積が小さくなるために、触媒担持量の減少が起こりセンサ能が低下する。多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径は、20〜70nmであることが好ましく、20〜50nmであることが特に好ましい。多孔質薄膜3を構成する粒子の粒径がかかる範囲であれば、多孔質薄膜3を構成する導体等の粒子の粒子総面積がバランスよく大きくなり、水素ガス、エタノールガス等の可燃性ガスとの触媒燃焼反応が短時間でより一層効率よく進行する。
【0026】
また、多孔質薄膜3は、構成する粒子(多孔質薄膜3がチタニア(TiO2)であればチタニア粒子)同士の間隙、あるいは構成する粒子自体が有する空隙により多孔質構造を備え、かかる多孔質構造により、多孔質薄膜の表面積を大きなものとし、前記した効果を好適に奏することになる。粒子同士の間隙は、例えば5〜100nmであり、粒子自体が有する空隙は、例えば、3〜10nmとなる。
【0027】
なお、多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)等により観察され、確認できた粒子8〜20個の平均値を算出して、平均粒径とすることができる。
【0028】
多孔質薄膜3の厚さは、特に制限はないが、例えば、500〜5000nmであることが好ましく、700〜1500nmであることが特に好ましい。また、かかる薄膜3の厚さは、基板2の厚さより薄いことが好ましい。
【0029】
本発明のガス検出用素子1において、多孔質薄膜3には、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4(パラジウム及び白金4)が共担持される。
【0030】
パラジウム及び白金4は、水素吸蔵速度の高い金属であるパラジウムまたはその合金と、水素放出速度の高い金属である白金またはその合金、を含むが、水素吸蔵速度の高い金属であるパラジウムまたはその合金を含有させたことによって、検出するガス中の水素等を短時間に吸着・吸蔵できるため、多孔質薄膜3の表面において雰囲気中の酸素との燃焼を容易にすることにより、かかる多孔質薄膜3の温度を容易に上昇させることが可能となる。これによって、従来の作動原理よりも高い感度で作動させることが可能となり、また、水素放出速度の高い金属である白金またはその合金を含有させたことによって、水素濃度が低くなった場合に、水素を比較的早い段階で放出することが可能となる。これによって応答速度を速く、また水素濃度変化による定量的な抵抗変化を発現することが可能となる。このように、かかるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を組み合わせて共担持させることにより、多孔質薄膜3の温度変化を容易に引き起こすことが可能となり、高い感度で作動させること、応答速度をより速くすること、被検対象となるガスの濃度依存性のある多孔質薄膜3の温度変化を発現させることが可能となる。担持されるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4は、一般に、平均粒径が数nm〜100nm程度の粒子状であり、数nm〜10nm程度であれば、触媒能も高く好ましい。
【0031】
なお、本発明における「水素吸蔵速度の高い金属」及び「水素放出速度の高い金属」とは、金属中への水素の固溶に対する溶解熱・溶解のエントロピーの差(ΔS)に基づく。例えば、パラジウムと白金の溶解熱・溶解のエントロピーは以下の通りであり(ΔHはエンタルピーの差であり、上記値は水素原子1モルあたりの値である。)、水素化(水素の固溶)は白金よりパラジウムの方がはるかに起こりやすいことになる。
【0032】
パラジウム(Pd):ΔH0=−10kJ/molH、ΔS0/R=−7molH
白金(Pt):ΔH0=+46kJ/molH、ΔS0/R=−7molH
【0033】
本発明のガス検出用素子1を構成するパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4は、両者を複合体として混在した状態で多孔質薄膜3に担持させてもよいが、白金またはその合金を、主としてパラジウムまたはその合金上に担持させることが好ましい。白金またはその合金をパラジウムまたはその合金上に担持させることにより、水素吸蔵速度の高い金属であるパラジウムを還元活性点とすることが可能となるので、パラジウムの上に、白金またはその合金を容易に担持させることが可能となる。このような順番で金属を担持させることにより、応答速度や感度がより高いガス検出用素子1を製造することが可能となる。なお、「主として」とは、白金またはその合金の総添加量の5割以上が、パラジウムまたはその合金上に担持されていることをいう。パラジウムと白金の担持率は、質量比でパラジウム/白金=10/1〜1/5であることが好ましく、5/1〜1/1であることが特に好ましい。
【0034】
パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を構成する、パラジウムの合金としては、例えば、パラジウムと、Ru、Rh、Au、La、Ti、Zr、Mg、希土類金属、Ca、V等の金属との共担持体が挙げられる。中でも水素吸蔵速度が高くかつ水素吸蔵量が多いという点で、パラジウム単体を使用することが好ましい。
【0035】
また、白金の合金としては、パラジウムの合金と同様に、例えば、白金と、Ru、Rh、Au、La、Ti、Zr、Mg、希土類金属、Ca、V等の金属との共担持体が挙げられる。中でも水素放出速度が高くかつ触媒燃焼作用が高いという点で、白金単体を使用することが好ましい。
【0036】
なお、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4には、必須成分であるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金に加えて、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、金、クロム、コバルト、鉄、ニオブ、ニッケル、マンガン等を添加することができる。
【0037】
(2)ガス検出用素子1の製造方法:
本発明のガス検出用素子1を得るには、基板2の表面に、導体または半導体からなる多孔質薄膜3を、電気泳動法を用いた電気泳動堆積により形成させ、かかる多孔質薄膜3に、白金またはその合金、及びパラジウムまたはその合金4を担持させるようにすればよい。
【0038】
基板2は、前記したように、絶縁性を有する平板であれば特に制限はなく、例えば、SiO2等のガラス基板や石英基板、Al2O3等のセラミックス基板、イオンをドープしていない絶縁基板としてのSi基板等の絶縁材料を構成材料として用いればよい。
【0039】
かかる構成材料の基板2の表面に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜3(以下、「所定の多孔質薄膜3」とする場合もある。)を形成するには、前記したように、電気泳動法を用いて、電気泳動堆積により多孔質薄膜3とすることが好ましい。電気泳動堆積(電気泳動電着ともよばれる。)とは、粉末及び粉末状の粒子を積層薄膜化する方法の1つであり、スラリー中に2枚の電極を平行に設置して浸漬させ、電極間に電場をかけることによって、電極表面にナノオーダーの層を堆積させて、多孔質の薄膜を形成する技術である。
【0040】
図2は、電気泳動堆積の概要を示した概略図であるが、本発明のガス検出用素子1において基板2の表面に多孔質薄膜3を形成する場合にあっては、泳動溶液6(スラリー)の中に、作用極7(陰極)として基板2、対極8(陽極)として白金、金、炭素等からなる2枚の電極7,8を配設し(図2中、tは電極間距離)、かかる作用極7と対極8との間に定電圧源9等により電圧を印加することにより、作用極7となる基板2の表面に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜3を効率よく簡便に形成することができる。
【0041】
使用される泳動溶液6としては、例えば、製膜対象となる導体または半導体、あるいは絶縁体からなる微粒子分散スラリー(例えば、酸化チタン(チタニア)を使用する場合には、チタニア微粒子分散スラリー)を使用することができる。泳動溶液6は、かかる微粒子分散スラリーを、例えば、水、アセトン等の混合溶液からなる溶媒中に投入し、撹拌して分散処理を施した後、超音波ホモジナイザー等によりホモジナイズ処理(均一化処理)等を施すことにより簡便に得ることができる。
【0042】
使用される微粒子分散スラリーは、例えば、対象となる導体または半導体の微粒子として、平均粒径が5〜30nmのものが、水、アセトン、エタノール、イソプロパノール等の溶媒に分散されたものを使用することができる。
【0043】
泳動溶液6における微粒子分散スラリーの濃度は、体積比として、分散溶媒に対して微粒子分散スラリーが0.1〜3.0容量%であることが好ましい。微粒子分散スラリーの含有量がかかる範囲であれば、電気泳動堆積により基板2の表面に、表面積の大きい所定の多孔質薄膜3が効率よく形成されることになる。
【0044】
電気泳動堆積を実施するに際して、基板2は、エタノール、アセトン等の溶剤で表面を洗浄することが好ましい。また、基板2を泳動溶液6に浸漬するにあたり、基板2をクリップ(図示しない)等で挟む場合には、クリップと基板2との間にはInGa合金、アルミニウムの箔、金の蒸着膜等を塗布するようにすれば、基板2に与える電界に斑(むら)が生じることを防止することができる。
【0045】
電気泳動堆積の条件として、作用極7と対極8との間に印加する電圧としては、定電圧源9、ポテンショスタットを用いることができる。また、定電圧源9等から印加される印加電圧は、1〜150Vとすることが好ましい。電圧が1Vより低いと、形成される多孔質薄膜3が不均質(むら)になる場合がある。一方、電圧が150Vより高いと、付着力が弱くなり、スラリーからの引き上げ時に剥離したり、乾燥時にクラックが生じたりする場合がある。印加される印加電圧は、40〜120Vとすることが好ましい。
【0046】
また、電気泳動を実施する時間(電気泳動時間)としては、5〜600秒とすることが好ましい。電気泳動時間が5秒より短いと、多孔質薄膜3が不均質(むら)になる場合がある。一方、電気泳動時間が600秒より長いと、付着力が弱くなり、スラリーからの引き上げ時に剥離したり、乾燥時にクラックが生じたりする場合がある、電気泳動時間は、5〜60秒とすることが更に好ましく、5〜30秒とすることが特に好ましい。
【0047】
基板2の表面に多孔質薄膜3を形成したら、室温で乾燥させ、例えば、300〜700℃で1〜5時間熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、多孔質薄膜3が安定し、基板2と強固に密着することになる。
【0048】
基板2の表面に所定の多孔質薄膜3を形成した後、かかる多孔質薄膜3に、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を担持させるようにする。かかるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4の担持方法としては、パラジウム(またはその合金)、及び白金(またはその合金)の金属塩または有機金属化合物を有機溶剤に溶解させた電着溶液に、多孔質薄膜3を形成した基板2を浸漬させ紫外光を照射して薄膜3にパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を担持させる方法や、スパッタ法により電着溶液を多孔質薄膜3に塗布して紫外光を照射して、多孔質薄膜3にパラジウムまたはその合金等を担持させる方法等が挙げられる。なお、紫外光の光源としては、発光ダイオード、レーザー、キセノンランプ、水銀ランプ、ブラックライト等公知の光源を用いることができる。なお、紫外光の照射時間は、基板2等のサイズや、必要とされるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4の担持量等により適宜決定すればよいが、例えば、5〜30分とすることが好ましい。
【0049】
多孔質薄膜3にパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を担持させる方法としては、(i)まず水素吸蔵速度の高いパラジウムまたはその合金を担持させ、続いて白金またはその合金を担持させる方法、(ii)まず白金またはその合金を担持させ、続いてパラジウムまたはその合金の高い金属を担持させる方法、(iii)パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を同時に担持させる方法が挙げられる。
【0050】
この中で、応答速度や感度をより向上させるという観点から、(i)の方法とすることが好ましい。なお、(i)や(ii)の方法を実施する場合には、電着溶液としては、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を含有する電着溶液をそれぞれ用意して、担持させる順に所望の電着溶液を使用するようにすればよい。一方、(iii)の方法を実施する場合には、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を混合した電着溶液を用意して、かかる電着溶液を使用するようにすればよい。
【0051】
使用される電着溶液は、パラジウムまたはその合金、白金またはその合金4の金属塩または有機金属化合物を有機溶剤に溶解させて得ることができるが、電着溶液には、酸化犠牲剤として、エタノール、メタノールなどを添加することにより、パラジウムまたはその合金等の担持がスムースに行われることになる。酸化犠牲剤は、電着溶液に対して体積比で1〜10%添加することが好ましい。
【0052】
電着溶液におけるパラジウムまたはその合金、あるいは白金またはその合金の濃度は、10〜50ppmであることが好ましい。パラジウムまたはその合金等の濃度がかかる範囲内であれば、多孔質薄膜3が形成された基板2にパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4が確実に担持されることになる。一方、これらの濃度が低いと、担持量が少なく発熱量が小さくなる場合があり、濃度が高いと担持されるパラジウムや白金等の粒径が大きくなり、表面積が小さくなる場合がある。
【0053】
なお、このような電着溶液を用いた方法のほか、前記したパラジウム(またはその合金)、及び白金(またはその合金)の金属塩または有機金属化合物を含む溶液に、多孔質薄膜3が形成された基板2を含浸させ、大気中や還元雰囲気下で焼成することによっても、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を多孔質薄膜3に担持させることができる。焼成温度は、概ね300〜500℃程度とすることが好ましい。
【0054】
(3)ガス検出用センサ:
本発明のガス検出用センサは、本発明のガス検出用素子1と、かかるガス検出用素子1近傍の温度を測定可能な温度測定手段と、を備える。ガス検出用センサを構成する温度測定手段は、ガス検出用素子1の近傍の温度を測定できればよく、ガス検出用素子1に接触した状態で設けられていてもよく、また、素子1と離れた状態で設けられていてもよい。かかる温度測定手段としては、熱電対、サーミスタ、放射温度計等を使用することができ、構造が平易であり、また、低コストでもあるため、熱電対を使用することが好ましい。
【0055】
本発明のガス検出用センサは、例えば、水素ガス、エタノールガス、イソプロパノールガス、1−ブタノールガス、アセトンガス、酢酸エチルガス、酢酸ブチルガス、トルエンガス、キシレンガス、エチレングリコールガス等の可燃性ガス等、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4と接触触媒反応を起こすガスの検出に用いることができる。本発明のガス検出用センサは、適用される雰囲気中に検出対象となるガスが存在すると、かかるガスを担持されたパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4が吸着、吸蔵して、多孔質薄膜3の表面で雰囲気中の酸素と燃焼して多孔質薄膜3の温度を上昇させることになり、かかる温度の上昇により、ガスを検出することができる。また、雰囲気中における検出対象のガスの濃度が高いほど、多孔質薄膜3の温度上昇は高いため、温度上昇の程度によって、かかるガスの濃度を定量的に決定することができる。
【0056】
以上説明したように、本発明のガス検出用素子1によれば、基板2の表面に形成された多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径が10〜100nmであるため、粒子の粒子総面積が大きくなり、当該多孔質薄膜に担持される、可燃性ガスを検出するためのパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4の反応性を向上させることができ、例えば、50〜80℃といった低温域においても、可燃性ガスの接触触媒燃焼による素子1の近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することができる、応答速度が速く、高感度なガス検出用素子1を提供することができる。
【0057】
そして、かかるガス検出用素子1と、当該ガス検出用素子1の近傍の温度を測定可能な温度測定手段を備えた本発明のガス検出用センサは、構造は平易なものとなり、前記したガス検出用素子1の奏する効果を享受し、大気中等の様々な環境における可燃性ガスを検出可能なセンサを提供する。本発明のガス検出用素子1やガス検出用センサは、例えば、水素を直接エネルギー源として利用する燃料電池システム等の設備において、設備からのガス漏れを瞬時に検知・検出してガス爆発等の事故を防止するための水素ガス漏れ検出装置等に適用することができる。
【0058】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。
【0059】
例えば、本発明のガス検出用素子1は、可燃性ガスの接触触媒燃焼による素子1近傍の温度変化を測定することでセンシングを行うものであるが、例えば、特開2007−240462号公報に開示されるような、ガス検出用素子に設けられた電極間の電気抵抗値の変化でセンシングを行うタイプのガス検出用センサとして用いるようにしても問題はない。従って、本発明のガス検出用素子1は、当該素子1に一対の電極を設ける一方、従来公知の抵抗測定手段を配設して、かかる電極間の抵抗値の変化を抵抗測定手段により測定する構成のガス検出用センサとして使用するようにしてもよい。
また、図1に示す本発明のガス検出用素子1は、基板2の表面のうち片面に多孔質薄膜3を形成し、当該薄膜にパラジウム又はその合金、及び白金又はその合金4を担持している態様であるが、本発明にあっては、基板2の表面の少なくとも片面に多孔質薄膜3を形成等されていればよく、基板2の両面に多孔質薄膜3を形成し、当該薄膜3にパラジウム又はその合金、及び白金又はその合金4を担持するようにしてもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例等に何ら限定されるものではない。
【0061】
まず、実施例で出発原料として使用した3種類のチタニア(酸化チタン)微粒子分散スラリーの仕様を表1に示した。
【0062】
(チタニア微粒子分散スラリーの仕様)
【表1】
【0063】
[実施例1]
ガス検出用素子の製造(1):
下記(1)〜(4)に従い、本発明のガス検出用素子を製造した。
【0064】
(1)泳動溶液の調製:
出発原料として、表1に仕様を示すチタニア微粒子分散スラリー1(STS−21)を用いた。このチタニア微粒子分散スラリーを、水とアセトンが水/アセトン=3/7(体積比)となるように調整した溶液中に、チタニア微粒子分散スラリーの添加量が、体積比で0.3容量%となるように添加した。そして、チタニア微粒子分散スラリーを添加した混合溶液を15分間撹拌して分散処理を行い、その後、超音波ホモジナイザー処理を3分間行って泳動溶液とした。
【0065】
(2)多孔質チタニア薄膜の形成:
シリコン基板にはp型シリコンウェハ(CZ−p型)を用い、ダイヤモンドカッターにより、約30mm×約15mmとなるようにカットした。カットした基板をエタノールで10分間、アセトンで10分間超音波洗浄を行い、表面を洗浄した。表面を洗浄した基板を、図2に従い、作用極としてシリコン基板、対極として白金(Pt)箔を用いて泳動溶液に浸漬させた。電極間距離tは2.5cmで一定として、電極間に与える電圧には定電圧源(PMC160−0.4A 菊水電子工業(株)製)を用いて、印加電圧を80Vとして電圧を印加して、泳動時間を15秒として電気泳動堆積を行った。なお、表面を洗浄した基板を挟むクリップと基板との間にはInGa合金を塗布し、基板に与える電界に斑がないようにした。電気泳動堆積が終わったら、作製した多孔質チタニア薄膜を室温で乾燥させ、500℃で4時間熱処理を行い、多孔質チタニア薄膜が形成された基板を得た。
【0066】
(3)パラジウム(Pd)単担持:
塩化パラジウム(PdCl2)水溶液(Pdとして1.7μmol含有)0.18mLを水8mLで希釈することにより20ppmの溶液を調整し、さらに酸化犠牲剤としてエタノールを水に対して体積比で10%添加して電着溶液とした。かかる電着溶液に(2)で得られた基板を浸漬させ、紫外光源にはブラックライト(ピーク波長 360nm付近)を用い、高さを調整して紫外光強度を3.0W/m2として5分間照射を行うことにより、多孔質チタニア薄膜にパラジウムを担持した。
【0067】
(4)白金(Pt)単担持:
塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液(Ptとして0.9μmol含有したもの、またはPtとして1.7μmol含有したもの)0.33mLを水8mLで希釈することにより順に20ppm、37ppmの溶液を調整し、さらに酸化犠牲剤としてとしてエタノールを水に対して体積比で10%添加して電着溶液とした。かかる電着溶液に(2)で得られた多孔質チタニア薄膜が形成された基板を浸漬させ、かかる電着溶液に(3)で得られた基板を浸漬させ、紫外光源にはブラックライト(ピーク波長 360nm付近)を用い、高さを調整して紫外光強度を3.0W/m2として30分間照射を行うことにより、多孔質チタニア薄膜にパラジウムを担持し、(3)のパラジウムの担持と併せて、多孔質チタニア薄膜にパラジウム及び白金を共担時して、本発明のガス検出用素子を得た。
【0068】
なお、実施例1にあっては、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を2種類としたが、Ptとして0.9μmol含有したものを実施例1−1a、Ptとして1.7μmol含有したものを実施例1−1bとした。
【0069】
図3は、実施例1−1a及び実施例1−1bで得られたガス検出用素子を構成する多孔質チタニア薄膜(パラジウム、白金は未担持の多孔質チタニア薄膜であり、実施例1−1a及び実施例1−1bに共通。)の表面観察結果及び断面観察結果である。図3に示すように、表面観察結果より、チタニアは均一に堆積され、多孔質チタニア薄膜が良好に形成されており、チタニア粒子の平均粒径は、約51.3nmであった。また、断面観察結果により、厚さが約1100nmの多孔質チタニア薄膜が形成されていることが確認できた。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、出発原料として、表1に仕様を示すチタニア微粒子分散スラリー2(HPW−18NR)を用い、印加電圧を80Vと固定する一方、泳動時間を5秒、15秒、30秒として、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を、Ptとして1.7μmol含有したものを使用し、それ以外の方法を実施例1と同様にして(泳動時間以外は実施例1−1bと同じ条件となる。)、本発明のガス検出用素子を得た(順に、実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3とする。)。得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜(パラジウム、白金は未担持の多孔質チタニア薄膜)の表面観察結果及び断面観察結果を図4に示す。
【0071】
図4に示すように、表面観察結果より、どの条件もチタニアは均一に堆積され、多孔質チタニア薄膜が良好に形成されていた。また、断面観察結果により、泳動時間を長くすることにより膜厚を厚くできることが確認できた。チタニア粒子の平均粒径は、順に、約43.8nm(実施例2−1)、約41.9nm(実施例2−2)、約32.1nm(実施例2−3)、厚さは、順に、約500nm(実施例2−1)、約900nm(実施例2−2)、約1900nm(実施例2−3)であった。
【0072】
次に、「(2)多孔質チタニア薄膜の形成:」の電気泳動堆積における泳動溶液の濃度を0.3%、泳動時間を15秒と固定した条件(実施例2−2に対応する条件)について、印加電圧を80Vのほか120V(実施例2−2A)及び140V(実施例2−2B)として、それ以外の方法を実施例2と同様にして、本発明のガス検出用素子を得た。得られたガス検出用素子を構成する多孔質チタニア薄膜(パラジウム、白金は未担持の多孔質チタニア薄膜)の表面観察結果及び断面観察結果を図5に示す。
【0073】
図5に示すように、表面観察結果より、どの条件もチタニアは均一に堆積され、多孔質チタニア薄膜が良好に形成されていた。また、断面観察結果により、電圧を高くすることより膜厚を厚くできることが確認できた。(厚さは、順に、約900nm(実施例2−2)、約1100nm(実施例2−2A)、約1500nm(実施例2−2B)であった。)。
【0074】
[実施例3]
実施例1において、出発原料として、表1に仕様を示すチタニア微粒子分散スラリー3(HPW−25NR)を用い、「(2)多孔質チタニア薄膜の形成:」の印加電圧を80V、120Vとして、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を、Ptとして1.7μmol含有したものを使用し、それ以外の方法を実施例1と同様にして(実施例1−1bと同じ条件となる。)、本発明のガス検出用素子を得た(順に、実施例3−1、実施例3−2とする。)。得られたガス検出用素子を構成する多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果(パラジウム、白金は未担持の多孔質チタニア薄膜)を図6に示す。
【0075】
図6に示すように、表面観察結果より、どの条件もチタニアは均一に堆積され、多孔質チタニア薄膜が良好に形成されていた。また、断面観察結果により、電圧を高くすることより膜厚を厚くできることが確認できた。チタニア粒子の平均粒径は、順に、約27.2nm(実施例3−1)、約36.1nm(実施例3−2)、厚さは、順に、約700nm(実施例3−1)、約1400nm(実施例3−2)であった。
【0076】
以下、実施例1−1、実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3、実施例3−1、及び実施例3−2で得られた本発明のガス検出用素子を形成する多孔質薄膜を構成するチタニア粒子の平均粒径を表2に示す。なお、本実施例における平均粒径は、原子間力顕微鏡(装置名:SIIナノテクノロジーSPA−300)により観察され、確認できた粒子8〜15個の平均値を算出したものである。また、本実施例で得られたガス検出用素子における多孔質薄膜を構成するチタニア粒子同士には、5〜100nmの間隙が、また、チタニア粒子自体は、3〜10nmの空隙を有するものであった。
【0077】
(チタニア粒子の平均粒径)
【表2】
【0078】
[試験例1]
水素ガス応答性の評価(1)(低温域での応答性の確認):
実施例1−1aで得られたガス検出用素子について、測定炉内の温度を50℃、80℃及び150℃として、以下に示した評価方法を用いて、水素ガス応答性を評価した。結果を図7(50℃)、図8(80℃)及び図9(150℃)に示す。
【0079】
(評価方法)
水素ガス応答性の評価は、本発明のガス検出用素子を1.5cm×1.5cmにカットして測定試料とした。この測定試料を、炉内温度を50℃、80℃、150℃に設定した電気炉内に設置し、空気と窒素希釈10%水素ボンベからのガスを、マスフローコントローラーを用いて濃度を0.5%、1.0%、3.0%、5.0%に調整し、得られた空気希釈水素を総流量100mL/分となるように交互に5分間ずつ流通させた。この時、測定試料に接触配設したK熱電対で多孔質薄膜(ガス検出用素子)近傍の温度変化を測定することにより、水素ガス応答性を評価した。
【0080】
図7、図8及び図9に示すように、これまで測定が不可能と考えられていた50℃も含めいずれの炉内温度においても水素流通時に温度が上昇し、その後の空気流通時に初期温度に戻ることや、どの炉内温度においても、水素濃度に依存して温度変化が増大することが確認できた。以上より、本発明のガス検出用素子が水素ガス応答性を有することが確認できた。
【0081】
また、図7、図8及び図9の結果から求めた、水素ガス濃度と温度変化幅との関係を図10に示す。なお。温度変化幅とは、「水素(希釈)ガス流通時の最高温度」−「当該実験開始時の空気流通時の安定温度」を示す。本発明のガス検出用素子は、炉内温度が50℃でも大きな温度変化幅が得られ、センシング動作の低温化が可能であることが確認できた。
【0082】
[試験例2]
水素ガス応答性の評価(2)(多孔質薄膜の影響の確認):
仕様の異なる3種類のチタニア微粒子分散スラリーを用いた場合の水素ガス応答性の相違を確認するために、実施例1−1b、実施例2−2、実施例3−1で得られたガス検出用素子について、測定炉内の温度を80℃として、(1)と同様な方法を用いて水素ガス応答性を評価した。結果を図11(実施例1−1b)、図12(実施例2−2)及び図13(実施例3−1)に示す。
【0083】
図11〜図13に示すように、実施例1−1b、実施例2−2、実施例3−1のいずれにおいても水素流通時に温度が上昇し、その後の空気流通時に初期温度に戻ることが確認できた。また、併せて、どの炉内温度においても、水素ガス濃度に依存して温度変化が増大することが確認できた。以上より、本発明のガス検出用素子が水素ガス応答性を有することが確認できた。
【0084】
また、図11〜図13の結果から求めた、水素ガス濃度と温度変化幅との関係を図14に示した。図14に示すように、本発明のガス検出用素子は、どの実施例についても大きな温度変化幅が得られ、中でも、実施例3−1のガス検出用素子は、どの水素ガス濃度においても最も大きな温度変化幅を有し、かつ、水素ガス濃度に対する変化の直線性が最も良いことが確認できた。
【0085】
ここで、粒径と温度変化幅の関係を確認するため、前記した実施例1−1b、実施例2−2、実施例3−1のガス検出用素子に加えて、実施例2−1、実施例2−3、及び実施例3−2のガス検出用素子についても、同様にして水素ガス応答性を評価した。そして、ガス検出用素子を構成する多孔質薄膜の平均粒径と、得られた温度変化幅との関係を確認した。結果を図15に示す。
【0086】
図15は、平均粒径と温度変化幅との関係を示した図である。図15に示すように、概ね平均粒径が小さいほど、大きな温度変化幅が得られ、多孔質チタニア薄膜層に担持されたパラジウム及び白金の触媒としての反応性が高くなっていることが確認できた。
【0087】
[試験例3]
エタノールガス応答性の評価:
実施例2−2及び実施例3−1で得られたガス検出用素子について、測定炉内の温度を300℃として、以下に示した評価方法を用いて、エタノールガス応答性を評価した。結果を図16(実施例2−2)及び図17(実施例3−1)に示す。
【0088】
(評価方法)
試験例1と同様、本発明のガス検出用素子を1.5cm×1.5cmにカットして測定試料とした。この測定試料を300℃に設定した電気炉内に設置し、空気とパーミエーター(微量濃度の標準ガスを連続的に発生する標準ガス発生装置)からのエタノールガスを始めに空気のみ流通5分間、その後エタノールガスを10分間、その後再び空気のみ5分間流通させた。この時、測定試料に接触させたK熱電対で多孔質薄膜(ガス検出用素子)近傍の温度変化を測定することによりエタノールガス応答性を評価した。
【0089】
図16及び図17に示すように、実施例2−2及び実施例3−1のガス検出用素子でもエタノール流通時に温度が上昇し、その後の空気の流通により初期濃度に戻ることが確認できた。以上より、本発明のガス検出用素子がエタノールガス応答性を有することが確認できた。
【0090】
[試験例4]
ディップコートで得られたガス検出用素子との比較:
下記実施例2−1bで得られた本発明のガス検出用素子と、下記の方法で得られた比較例1のガス検出用素子について、水素ガス応答性を比較した。
【0091】
[実施例2−1a]
実施例2−1において、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を、Ptとして1.7μmol含有したものを使用した以外は、実施例2−1と同様な方法を用いて、本発明のガス検出用素子を得た。なお、実施例2−1aのガス検出用素子を構成する多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果は、図4に示す実施例2−1の結果と共通である。
【0092】
[比較例1]
特開2007−240462公報の[実施例1]([0046])に開示される方法を用いて、ディップコートにより基板の表面にチタニア半導体層を形成した。具体的には、実施例1で使用したものと同仕様の基板に、半導体層形成用組成物としてチタンイソプロポキシルアセチルアセトナート{[CH3COCH=C(O−)CH3]2Ti[OCH(CH3)2]−2プロパノール溶液(TIPAA)}を用いた。かかるチタンイソプロポキシルアセチルアセトナートを2−イソプロパノールで希釈して、Tiの濃度が1.0質量%となるように調製した。
【0093】
基板を中性洗剤で洗浄後、蒸留水ですすぎ、アセトンで10分間超音波洗浄を行い、表面を清浄化した。その後、常温乾燥でアセトンを十分に揮発させ取り除いた。次いで、この基板を半導体層形成用組成物に浸漬させ(ディップコート)、5mm/秒で引き上げ、3分間常温乾燥させた後に400℃で10分間仮焼させた。これを5回繰り返した。さらにその後500℃で8時間本焼を行い、チタニア半導体層(本発明に係るガス検出用素子における多孔質薄膜に相当する。)を形成させた。なお、ディップコート時に基板の両面に膜が作製されるが、片面はエタノールでふき取り、片面だけに半導体層を作製した。得られた基板に、実施例1(3)(4)(ただし、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を、Ptとして1.7μmol含有したものを使用)と同様な方法を用いて、比較例1のガス検出用素子を得た。
【0094】
図18は、比較例1のガス検出用素子を構成するチタニア半導体層(パラジウム、白金は未担持のチタニア半導体層)の表面観察結果及び断面観察結果に示す。図18に示すように、基板の表面には厚さが約500nmの(多孔質)チタニア薄膜が形成されていた。
【0095】
また、チタニア半導体膜の表面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、かかるチタニア半導体膜は、表面層には平均粒径が10nm以下の粒子から構成された50〜150nmの凹凸が認められるものの、断面からは平均粒径が10nm以下の粒子が凝集して構成される緻密な膜であることが確認できた。
【0096】
次に、実施例2−1a及び比較例1のガス検出用素子について、試験例1と同様な方法を用いて、炉内温度を80℃(実施例2−1aのみ)及び300℃とした場合の水素ガス応答性を比較・評価した。結果を図19(実施例2−1a/炉内温度:80℃)、図20(実施例2−1a/炉内温度:300℃)及び図21(比較例1/炉内温度:300℃)に示す。また、図19、図20及び図21の結果から求めた、水素ガス濃度と温度変化幅との関係を図22に示す。
【0097】
図19及び図20に示すように、実施例2−1aのガス検出用素子は、炉内温度が80℃、300℃のいずれの温度であっても、水素流通時に温度が上昇し、その後の空気流通時に初期温度に戻ることが確認できた。併せて、どの炉内温度においても、水素ガス濃度に依存して温度変化が増大することが確認でき、温度変化幅は炉内温度が80℃で測定した結果の方が大きかった。
【0098】
一方、図21に示すように、比較例1のガス検出用素子は、水素ガスに対する応答性が悪く、濃度が0.5%といった低濃度域ではほとんど反応しなかった。図22に示すように、実施例2−1aの本発明のガス検出用素子の方が、大きな温度幅が得られ、80℃という低温域も含め、可燃性ガスの接触触媒燃焼による素子近傍の温度変化を測定することでセンシングを行うタイプのガス検出用センサに適することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、水素ガス、エタノールガス等の可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部近傍の温度変化を測定することができるので、大気中等の様々な環境における可燃性ガスを検出可能なセンサを提供する技術として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明のガス検出用素子の一態様を示した断面図である。
【図2】電気泳動堆積の概要を示した概略図である。
【図3】実施例1で得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果を示した図である。
【図4】実施例2で得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果を示した図である。
【図5】実施例2で得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果を示した図である。
【図6】実施例3で得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果を示した図である。
【図7】試験例1における水素ガス応答性の評価結果(炉内温度:50℃)を示した図である。
【図8】試験例1における水素ガス応答性の評価結果(炉内温度:80℃)を示した図である。
【図9】試験例1における水素ガス応答性の評価結果(炉内温度:150℃)を示した図である。
【図10】試験例1における水素ガス濃度と温度変化幅との関係を示した図である。
【図11】試験例2における水素ガス応答性の評価結果(実施例1−1b)を示した図である。
【図12】試験例2における水素ガス応答性の評価結果(実施例2−2)を示した図である。
【図13】試験例2における水素ガス応答性の評価結果(実施例3−1)を示した図である。
【図14】試験例2における水素ガス濃度と温度変化幅との関係を示した図である。
【図15】試験例2における平均粒径と温度変化幅との関係を示した図である。
【図16】試験例3におけるエタノールガス応答性の評価結果(実施例2−2)を示した図である。
【図17】試験例3におけるエタノールガス応答性の評価結果(実施例3−1)を示した図である。
【図18】比較例1で得られたガス検出用素子におけるチタニア半導体層の表面観察結果及び断面観察結果に示した図である。
【図19】試験例4における水素ガス応答性の評価結果(実施例2−1a/炉内温度:80℃)を示した図である。
【図20】試験例4における水素ガス応答性の評価結果(実施例2−1a/炉内温度:300℃)を示した図である。
【図21】試験例4における水素ガス応答性の評価結果(比較例1/炉内温度:300℃)を示した図である。
【図22】試験例4における水素ガス濃度と温度変化幅との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0101】
1 … ガス検出用素子
2 … 基板
3 … 薄膜
4 … パラジウム及び白金(パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金)
6 … 泳動溶液
7 … 作用極(基板)
8 … 対極
9 … 定電圧源
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出用素子及び当該ガス検出用素子を備えたガス検出用センサに関する。更に詳しくは、水素やエタノールガス等の可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部近傍の温度変化を測定することができ、センサの低温動作化及び構造の平易化を実施可能なガス検出用素子及び当該ガス検出用素子を備えたガス検出用センサに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球環境の破壊が大きな社会的問題となっており、化石燃料に代わる新規のエネルギーシステムの開発が活発に行われている。その中で、燃料電池に用いられる水素やバイオエタノールは再生可能な自然エネルギーであり、次世代のエネルギー源として注目を集めているが、その一方、水素やエタノール等のガスは可燃性であるため、爆発または引火しやすいといった問題がある。そのため、新規のエネルギーシステムにはこれらのガスを検知・検出するためのセンサ(可燃性ガス検出用センサ)の開発が必要となる。従来、可燃性ガス検出用センサの検出部には、高純度白金のコイル上に、アルミナ粒子にパラジウムや白金を担持した酸化触媒を被覆したものを検出素子とした接触燃焼式ガス検出用センサが利用されていたが、高純度白金のコイルは貴金属使用量が多く、コスト高になってしまうという問題があった。
【0003】
そこで、近年、白金上での水素の酸化・燃焼熱と熱電変換素子との組み合わせ、タングステン酸塩の酸化・還元によるエレクトロクロミズムや、金属パラジウム薄膜・パラジウムナノ粒子などのパラジウムの水素吸蔵に伴う体積膨張を利用して電気伝導度の変化から水素濃度を検出する材料等、様々な新規ガス検出用センサが報告されている(例えば、特許文献1または特許文献2を参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開2006−3153号公報
【特許文献2】特開2007−240462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記した特許文献1に開示されたガス検出用センサは、常温での応答速度や感度が低く、常温での使用においてこれら応答速度等を向上させるには100℃以上の高温で紫外線を照射する必要があるため、実用可能なセンサにするためには複雑な構造になってしまうという問題があった。同様に、特許文献2に開示されたガス検出用センサも、ガス検出用素子に設けられた電極間の電気抵抗値の変化でセンシングを行っているため、例えば150℃以上といった高温でしか動作しないという問題があり、改善が求められていた。
【0006】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、水素ガスやエタノールガス等の可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部近傍の温度変化を測定することでセンシングを行うことができるため、例えば、50〜80℃といった低温での動作が良好であり、高感度で応答速度が速く、センサの構造も平易なガス検出用素子及び当該ガス検出用素子を備えたガス検出用センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の請求項1に係るガス検出用素子は、基板の表面に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜が形成され、当該多孔質薄膜が、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を担持していることを特徴とする。
【0008】
本発明の請求項2に係るガス検出用素子は、前記した請求項1において、前記多孔質薄膜が酸化チタン(TiO2)からなることを特徴とする。
【0009】
本発明の請求項3に係るガス検出用素子は、前記した請求項1または請求項2において、前記粒子の平均粒径が20〜50nmであることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項4に係るガス検出用センサは、前記した請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガス検出用素子と、当該ガス検出用素子近傍の温度を測定可能な温度測定手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5に係るガス検出用センサは、前記した請求項4において、前記温度測定手段が熱電対であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1に係るガス検出用素子は、基板の表面に平均粒径が特定範囲の粒子から構成される多孔質構造の多孔質薄膜を形成し、かかる薄膜にパラジウム−白金担持層を設けているため、多孔質薄膜を構成する粒子の粒子総面積(多孔質薄膜の表面積)が大きくなり、多孔質薄膜に担持される、可燃性ガスを検出するためのパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金の反応性を向上させることができる。従って、例えば、50〜80℃といった低温域においても、可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部(ガス検出用素子)近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することができる、応答速度が速く、高感度なガス検出用素子を提供することができる。
【0013】
本発明の請求項2に係るガス検出用素子は、当該素子を構成する多孔質薄膜が酸化チタン(TiO2)からなるので、化学的にも物理的にも安定であり、光触媒反応による還元作用が高いので、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を効率よく容易に担持することができる。
【0014】
本発明の請求項3に係るガス検出用素子は、多孔質薄膜を構成する粒子の平均粒径が特定の範囲内であるので、多孔質薄膜を構成する導体等の粒子の粒子総面積がバランスよく大きくなり、水素ガス、エタノールガス等の可燃性ガスとの触媒燃焼反応が短時間でより一層効率よく進行することになる。
【0015】
本発明の請求項4に係るガス検出用センサは、本発明のガス検出用素子と、当該ガス検出用素子近傍の温度を測定可能な温度測定手段を備え、構成は平易なものとなり、前記したガス検出用素子の奏する効果を享受し、大気中等の様々な環境における可燃性ガス等を検出可能なセンサとなる。
【0016】
本発明の請求項5に係るガス検出用センサは、当該センサを構成する温度測定手段が熱電対であるので、センサの構造がより一層平易となり、また、コスト的にも優れるガス検出用センサとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一態様を説明する。図1に示すように、本発明のガス検出用素子は、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜が形成され、かかる多孔質薄膜が、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を担持していることを基本構成とする。
【0018】
(1)ガス検出用素子:
図1は、本発明のガス検出用素子の一態様を示した断面図である。図1に示すように、本発明のガス検出用素子1は、基板2の表面に、導体または半導体からなる多孔質薄膜3が形成され、かかる多孔質薄膜3は、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を担持する。
【0019】
本発明のガス検出用素子を構成する基板2は、絶縁性を有する平板であれば特に制限はないが、例えば、SiO2等のガラス基板や石英基板、Al2O3等のセラミックス基板、イオンをドープしていない絶縁基板としてのSi基板(シリコン基板)等の絶縁材料を構成材料として用いることができる。また、基板2の熱容量は、定圧比熱容量で0.4J・K−1・g−1〜1.8J・K−1・g−1であることが好ましく、定圧比熱容量で0.5J・K−1・g−1〜1.0J・K−1・g−1であることがより好ましい。
【0020】
基板2のサイズは、特に制限はなく、本発明のガス検出用素子1が適用されるガス検出用センサ等のサイズ等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、幅方向を1mm〜15mm、長さ方向を1mm〜15mm、高さ(厚さ)方向を0.1μm〜5.0μmとすることができる。
【0021】
本発明のガス検出用素子1を構成し、基板2の表面に形成される多孔質薄膜3(以下、単に「薄膜3」とする場合もある。)を構成する材料としては、導体または半導体であれば特に制限はないが、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を薄膜3に容易かつ強固に担持させるために、光触媒作用(光の吸収によって触媒反応を生じさせる作用のこと。以下同じ。)を有する酸化物半導体であることが好ましい。酸化物半導体としては、例えば、TiO2、ZnO、SnO、SnO2、Fe2O3、Fe3O4、CeO、Ce2O3、ZrO2、CdS、SiC、希土類ドープアルカリ土類チタン酸塩(例えばLaドープBaTiO3)等が挙げられ、これらの中でも、化学的にも物理的にも安定であり、光触媒反応による還元作用が高いという点で、酸化チタン(TiO2)(チタニアとも呼ばれる。)を用いることが好ましい。
【0022】
多孔質薄膜3は、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる。かかる多孔質構造では、多孔質薄膜3を構成する導体等の粒子の粒子総面積(薄膜3の表面積)が大きくなるため、多孔質薄膜3に担持される微粒子状のパラジウムまたはその合金及び白金またはその合金4(以下、単に「パラジウム及び白金4」とする場合がある。)の担持量が多くなる。加えて、多孔質薄膜3を構成する導体等の粒子総面積が大きくなると、光触媒反応等により析出されるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4の微粒子の粒径も小さくなることになる。
【0023】
多孔質薄膜3に担持されるパラジウム及び白金4の担持量が多く、かつ、粒径が小さくなると、パラジウム及び白金4の触媒としての反応面積が大きくなるため、水素ガス、エタノールガス等の可燃性ガスとの触媒燃焼反応が短時間で効率的に進行することになる。このように、多孔質薄膜3の粒子総面積が大きいことにより、被検対象となる可燃性ガスを検出するためのパラジウム及び白金4の反応性を向上させることができるため、例えば、50〜80℃といった低温域においても、可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部(ガス検出用素子1)近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することができる。
【0024】
一方、特開2007−240462号公報に開示される、基板の表面にディップコート等で形成されたチタニア半導体層等の薄膜は、数nmの1次粒子が凝集して構成される緻密な膜であると考えられるが、かかる薄膜は、膜が緻密過ぎるため、パラジウム及び白金の触媒としての反応面積を本発明のガス検出用素子ほどは大きくすることができない。よって、50〜80℃といった低温域における、可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することは極めて困難であるとともに、300℃程度の高温域においても、本発明のガス検出用素子1ないしは当該素子を備えたガス検出用センサと比較して、得られる温度変化幅は小さく、ガス検出用センサ等としての性能は劣るため、ガス検出用素子に設けられた電極間の電気抵抗値の変化でセンシングを行うタイプのガス検出用センサとしての適用に限られることになる。
【0025】
ここで、多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径が10nmより小さいと、膜構造が緻密になり触媒担持量の減少や検出ガスの内部への拡散の低下が起こりセンサ能が低下する。また、多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径が100nmを超えると、膜の表面積が小さくなるために、触媒担持量の減少が起こりセンサ能が低下する。多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径は、20〜70nmであることが好ましく、20〜50nmであることが特に好ましい。多孔質薄膜3を構成する粒子の粒径がかかる範囲であれば、多孔質薄膜3を構成する導体等の粒子の粒子総面積がバランスよく大きくなり、水素ガス、エタノールガス等の可燃性ガスとの触媒燃焼反応が短時間でより一層効率よく進行する。
【0026】
また、多孔質薄膜3は、構成する粒子(多孔質薄膜3がチタニア(TiO2)であればチタニア粒子)同士の間隙、あるいは構成する粒子自体が有する空隙により多孔質構造を備え、かかる多孔質構造により、多孔質薄膜の表面積を大きなものとし、前記した効果を好適に奏することになる。粒子同士の間隙は、例えば5〜100nmであり、粒子自体が有する空隙は、例えば、3〜10nmとなる。
【0027】
なお、多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)や原子間力顕微鏡(AFM)等により観察され、確認できた粒子8〜20個の平均値を算出して、平均粒径とすることができる。
【0028】
多孔質薄膜3の厚さは、特に制限はないが、例えば、500〜5000nmであることが好ましく、700〜1500nmであることが特に好ましい。また、かかる薄膜3の厚さは、基板2の厚さより薄いことが好ましい。
【0029】
本発明のガス検出用素子1において、多孔質薄膜3には、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4(パラジウム及び白金4)が共担持される。
【0030】
パラジウム及び白金4は、水素吸蔵速度の高い金属であるパラジウムまたはその合金と、水素放出速度の高い金属である白金またはその合金、を含むが、水素吸蔵速度の高い金属であるパラジウムまたはその合金を含有させたことによって、検出するガス中の水素等を短時間に吸着・吸蔵できるため、多孔質薄膜3の表面において雰囲気中の酸素との燃焼を容易にすることにより、かかる多孔質薄膜3の温度を容易に上昇させることが可能となる。これによって、従来の作動原理よりも高い感度で作動させることが可能となり、また、水素放出速度の高い金属である白金またはその合金を含有させたことによって、水素濃度が低くなった場合に、水素を比較的早い段階で放出することが可能となる。これによって応答速度を速く、また水素濃度変化による定量的な抵抗変化を発現することが可能となる。このように、かかるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を組み合わせて共担持させることにより、多孔質薄膜3の温度変化を容易に引き起こすことが可能となり、高い感度で作動させること、応答速度をより速くすること、被検対象となるガスの濃度依存性のある多孔質薄膜3の温度変化を発現させることが可能となる。担持されるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4は、一般に、平均粒径が数nm〜100nm程度の粒子状であり、数nm〜10nm程度であれば、触媒能も高く好ましい。
【0031】
なお、本発明における「水素吸蔵速度の高い金属」及び「水素放出速度の高い金属」とは、金属中への水素の固溶に対する溶解熱・溶解のエントロピーの差(ΔS)に基づく。例えば、パラジウムと白金の溶解熱・溶解のエントロピーは以下の通りであり(ΔHはエンタルピーの差であり、上記値は水素原子1モルあたりの値である。)、水素化(水素の固溶)は白金よりパラジウムの方がはるかに起こりやすいことになる。
【0032】
パラジウム(Pd):ΔH0=−10kJ/molH、ΔS0/R=−7molH
白金(Pt):ΔH0=+46kJ/molH、ΔS0/R=−7molH
【0033】
本発明のガス検出用素子1を構成するパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4は、両者を複合体として混在した状態で多孔質薄膜3に担持させてもよいが、白金またはその合金を、主としてパラジウムまたはその合金上に担持させることが好ましい。白金またはその合金をパラジウムまたはその合金上に担持させることにより、水素吸蔵速度の高い金属であるパラジウムを還元活性点とすることが可能となるので、パラジウムの上に、白金またはその合金を容易に担持させることが可能となる。このような順番で金属を担持させることにより、応答速度や感度がより高いガス検出用素子1を製造することが可能となる。なお、「主として」とは、白金またはその合金の総添加量の5割以上が、パラジウムまたはその合金上に担持されていることをいう。パラジウムと白金の担持率は、質量比でパラジウム/白金=10/1〜1/5であることが好ましく、5/1〜1/1であることが特に好ましい。
【0034】
パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を構成する、パラジウムの合金としては、例えば、パラジウムと、Ru、Rh、Au、La、Ti、Zr、Mg、希土類金属、Ca、V等の金属との共担持体が挙げられる。中でも水素吸蔵速度が高くかつ水素吸蔵量が多いという点で、パラジウム単体を使用することが好ましい。
【0035】
また、白金の合金としては、パラジウムの合金と同様に、例えば、白金と、Ru、Rh、Au、La、Ti、Zr、Mg、希土類金属、Ca、V等の金属との共担持体が挙げられる。中でも水素放出速度が高くかつ触媒燃焼作用が高いという点で、白金単体を使用することが好ましい。
【0036】
なお、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4には、必須成分であるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金に加えて、本発明の目的及び効果を妨げない範囲において、金、クロム、コバルト、鉄、ニオブ、ニッケル、マンガン等を添加することができる。
【0037】
(2)ガス検出用素子1の製造方法:
本発明のガス検出用素子1を得るには、基板2の表面に、導体または半導体からなる多孔質薄膜3を、電気泳動法を用いた電気泳動堆積により形成させ、かかる多孔質薄膜3に、白金またはその合金、及びパラジウムまたはその合金4を担持させるようにすればよい。
【0038】
基板2は、前記したように、絶縁性を有する平板であれば特に制限はなく、例えば、SiO2等のガラス基板や石英基板、Al2O3等のセラミックス基板、イオンをドープしていない絶縁基板としてのSi基板等の絶縁材料を構成材料として用いればよい。
【0039】
かかる構成材料の基板2の表面に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜3(以下、「所定の多孔質薄膜3」とする場合もある。)を形成するには、前記したように、電気泳動法を用いて、電気泳動堆積により多孔質薄膜3とすることが好ましい。電気泳動堆積(電気泳動電着ともよばれる。)とは、粉末及び粉末状の粒子を積層薄膜化する方法の1つであり、スラリー中に2枚の電極を平行に設置して浸漬させ、電極間に電場をかけることによって、電極表面にナノオーダーの層を堆積させて、多孔質の薄膜を形成する技術である。
【0040】
図2は、電気泳動堆積の概要を示した概略図であるが、本発明のガス検出用素子1において基板2の表面に多孔質薄膜3を形成する場合にあっては、泳動溶液6(スラリー)の中に、作用極7(陰極)として基板2、対極8(陽極)として白金、金、炭素等からなる2枚の電極7,8を配設し(図2中、tは電極間距離)、かかる作用極7と対極8との間に定電圧源9等により電圧を印加することにより、作用極7となる基板2の表面に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜3を効率よく簡便に形成することができる。
【0041】
使用される泳動溶液6としては、例えば、製膜対象となる導体または半導体、あるいは絶縁体からなる微粒子分散スラリー(例えば、酸化チタン(チタニア)を使用する場合には、チタニア微粒子分散スラリー)を使用することができる。泳動溶液6は、かかる微粒子分散スラリーを、例えば、水、アセトン等の混合溶液からなる溶媒中に投入し、撹拌して分散処理を施した後、超音波ホモジナイザー等によりホモジナイズ処理(均一化処理)等を施すことにより簡便に得ることができる。
【0042】
使用される微粒子分散スラリーは、例えば、対象となる導体または半導体の微粒子として、平均粒径が5〜30nmのものが、水、アセトン、エタノール、イソプロパノール等の溶媒に分散されたものを使用することができる。
【0043】
泳動溶液6における微粒子分散スラリーの濃度は、体積比として、分散溶媒に対して微粒子分散スラリーが0.1〜3.0容量%であることが好ましい。微粒子分散スラリーの含有量がかかる範囲であれば、電気泳動堆積により基板2の表面に、表面積の大きい所定の多孔質薄膜3が効率よく形成されることになる。
【0044】
電気泳動堆積を実施するに際して、基板2は、エタノール、アセトン等の溶剤で表面を洗浄することが好ましい。また、基板2を泳動溶液6に浸漬するにあたり、基板2をクリップ(図示しない)等で挟む場合には、クリップと基板2との間にはInGa合金、アルミニウムの箔、金の蒸着膜等を塗布するようにすれば、基板2に与える電界に斑(むら)が生じることを防止することができる。
【0045】
電気泳動堆積の条件として、作用極7と対極8との間に印加する電圧としては、定電圧源9、ポテンショスタットを用いることができる。また、定電圧源9等から印加される印加電圧は、1〜150Vとすることが好ましい。電圧が1Vより低いと、形成される多孔質薄膜3が不均質(むら)になる場合がある。一方、電圧が150Vより高いと、付着力が弱くなり、スラリーからの引き上げ時に剥離したり、乾燥時にクラックが生じたりする場合がある。印加される印加電圧は、40〜120Vとすることが好ましい。
【0046】
また、電気泳動を実施する時間(電気泳動時間)としては、5〜600秒とすることが好ましい。電気泳動時間が5秒より短いと、多孔質薄膜3が不均質(むら)になる場合がある。一方、電気泳動時間が600秒より長いと、付着力が弱くなり、スラリーからの引き上げ時に剥離したり、乾燥時にクラックが生じたりする場合がある、電気泳動時間は、5〜60秒とすることが更に好ましく、5〜30秒とすることが特に好ましい。
【0047】
基板2の表面に多孔質薄膜3を形成したら、室温で乾燥させ、例えば、300〜700℃で1〜5時間熱処理を施すことが好ましい。熱処理を施すことにより、多孔質薄膜3が安定し、基板2と強固に密着することになる。
【0048】
基板2の表面に所定の多孔質薄膜3を形成した後、かかる多孔質薄膜3に、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を担持させるようにする。かかるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4の担持方法としては、パラジウム(またはその合金)、及び白金(またはその合金)の金属塩または有機金属化合物を有機溶剤に溶解させた電着溶液に、多孔質薄膜3を形成した基板2を浸漬させ紫外光を照射して薄膜3にパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を担持させる方法や、スパッタ法により電着溶液を多孔質薄膜3に塗布して紫外光を照射して、多孔質薄膜3にパラジウムまたはその合金等を担持させる方法等が挙げられる。なお、紫外光の光源としては、発光ダイオード、レーザー、キセノンランプ、水銀ランプ、ブラックライト等公知の光源を用いることができる。なお、紫外光の照射時間は、基板2等のサイズや、必要とされるパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4の担持量等により適宜決定すればよいが、例えば、5〜30分とすることが好ましい。
【0049】
多孔質薄膜3にパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を担持させる方法としては、(i)まず水素吸蔵速度の高いパラジウムまたはその合金を担持させ、続いて白金またはその合金を担持させる方法、(ii)まず白金またはその合金を担持させ、続いてパラジウムまたはその合金の高い金属を担持させる方法、(iii)パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を同時に担持させる方法が挙げられる。
【0050】
この中で、応答速度や感度をより向上させるという観点から、(i)の方法とすることが好ましい。なお、(i)や(ii)の方法を実施する場合には、電着溶液としては、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を含有する電着溶液をそれぞれ用意して、担持させる順に所望の電着溶液を使用するようにすればよい。一方、(iii)の方法を実施する場合には、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を混合した電着溶液を用意して、かかる電着溶液を使用するようにすればよい。
【0051】
使用される電着溶液は、パラジウムまたはその合金、白金またはその合金4の金属塩または有機金属化合物を有機溶剤に溶解させて得ることができるが、電着溶液には、酸化犠牲剤として、エタノール、メタノールなどを添加することにより、パラジウムまたはその合金等の担持がスムースに行われることになる。酸化犠牲剤は、電着溶液に対して体積比で1〜10%添加することが好ましい。
【0052】
電着溶液におけるパラジウムまたはその合金、あるいは白金またはその合金の濃度は、10〜50ppmであることが好ましい。パラジウムまたはその合金等の濃度がかかる範囲内であれば、多孔質薄膜3が形成された基板2にパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4が確実に担持されることになる。一方、これらの濃度が低いと、担持量が少なく発熱量が小さくなる場合があり、濃度が高いと担持されるパラジウムや白金等の粒径が大きくなり、表面積が小さくなる場合がある。
【0053】
なお、このような電着溶液を用いた方法のほか、前記したパラジウム(またはその合金)、及び白金(またはその合金)の金属塩または有機金属化合物を含む溶液に、多孔質薄膜3が形成された基板2を含浸させ、大気中や還元雰囲気下で焼成することによっても、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4を多孔質薄膜3に担持させることができる。焼成温度は、概ね300〜500℃程度とすることが好ましい。
【0054】
(3)ガス検出用センサ:
本発明のガス検出用センサは、本発明のガス検出用素子1と、かかるガス検出用素子1近傍の温度を測定可能な温度測定手段と、を備える。ガス検出用センサを構成する温度測定手段は、ガス検出用素子1の近傍の温度を測定できればよく、ガス検出用素子1に接触した状態で設けられていてもよく、また、素子1と離れた状態で設けられていてもよい。かかる温度測定手段としては、熱電対、サーミスタ、放射温度計等を使用することができ、構造が平易であり、また、低コストでもあるため、熱電対を使用することが好ましい。
【0055】
本発明のガス検出用センサは、例えば、水素ガス、エタノールガス、イソプロパノールガス、1−ブタノールガス、アセトンガス、酢酸エチルガス、酢酸ブチルガス、トルエンガス、キシレンガス、エチレングリコールガス等の可燃性ガス等、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4と接触触媒反応を起こすガスの検出に用いることができる。本発明のガス検出用センサは、適用される雰囲気中に検出対象となるガスが存在すると、かかるガスを担持されたパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4が吸着、吸蔵して、多孔質薄膜3の表面で雰囲気中の酸素と燃焼して多孔質薄膜3の温度を上昇させることになり、かかる温度の上昇により、ガスを検出することができる。また、雰囲気中における検出対象のガスの濃度が高いほど、多孔質薄膜3の温度上昇は高いため、温度上昇の程度によって、かかるガスの濃度を定量的に決定することができる。
【0056】
以上説明したように、本発明のガス検出用素子1によれば、基板2の表面に形成された多孔質薄膜3を構成する粒子の平均粒径が10〜100nmであるため、粒子の粒子総面積が大きくなり、当該多孔質薄膜に担持される、可燃性ガスを検出するためのパラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金4の反応性を向上させることができ、例えば、50〜80℃といった低温域においても、可燃性ガスの接触触媒燃焼による素子1の近傍の温度変化を測定することでセンシングを実施することができる、応答速度が速く、高感度なガス検出用素子1を提供することができる。
【0057】
そして、かかるガス検出用素子1と、当該ガス検出用素子1の近傍の温度を測定可能な温度測定手段を備えた本発明のガス検出用センサは、構造は平易なものとなり、前記したガス検出用素子1の奏する効果を享受し、大気中等の様々な環境における可燃性ガスを検出可能なセンサを提供する。本発明のガス検出用素子1やガス検出用センサは、例えば、水素を直接エネルギー源として利用する燃料電池システム等の設備において、設備からのガス漏れを瞬時に検知・検出してガス爆発等の事故を防止するための水素ガス漏れ検出装置等に適用することができる。
【0058】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本発明に含まれるものである。
【0059】
例えば、本発明のガス検出用素子1は、可燃性ガスの接触触媒燃焼による素子1近傍の温度変化を測定することでセンシングを行うものであるが、例えば、特開2007−240462号公報に開示されるような、ガス検出用素子に設けられた電極間の電気抵抗値の変化でセンシングを行うタイプのガス検出用センサとして用いるようにしても問題はない。従って、本発明のガス検出用素子1は、当該素子1に一対の電極を設ける一方、従来公知の抵抗測定手段を配設して、かかる電極間の抵抗値の変化を抵抗測定手段により測定する構成のガス検出用センサとして使用するようにしてもよい。
また、図1に示す本発明のガス検出用素子1は、基板2の表面のうち片面に多孔質薄膜3を形成し、当該薄膜にパラジウム又はその合金、及び白金又はその合金4を担持している態様であるが、本発明にあっては、基板2の表面の少なくとも片面に多孔質薄膜3を形成等されていればよく、基板2の両面に多孔質薄膜3を形成し、当該薄膜3にパラジウム又はその合金、及び白金又はその合金4を担持するようにしてもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例等に何ら限定されるものではない。
【0061】
まず、実施例で出発原料として使用した3種類のチタニア(酸化チタン)微粒子分散スラリーの仕様を表1に示した。
【0062】
(チタニア微粒子分散スラリーの仕様)
【表1】
【0063】
[実施例1]
ガス検出用素子の製造(1):
下記(1)〜(4)に従い、本発明のガス検出用素子を製造した。
【0064】
(1)泳動溶液の調製:
出発原料として、表1に仕様を示すチタニア微粒子分散スラリー1(STS−21)を用いた。このチタニア微粒子分散スラリーを、水とアセトンが水/アセトン=3/7(体積比)となるように調整した溶液中に、チタニア微粒子分散スラリーの添加量が、体積比で0.3容量%となるように添加した。そして、チタニア微粒子分散スラリーを添加した混合溶液を15分間撹拌して分散処理を行い、その後、超音波ホモジナイザー処理を3分間行って泳動溶液とした。
【0065】
(2)多孔質チタニア薄膜の形成:
シリコン基板にはp型シリコンウェハ(CZ−p型)を用い、ダイヤモンドカッターにより、約30mm×約15mmとなるようにカットした。カットした基板をエタノールで10分間、アセトンで10分間超音波洗浄を行い、表面を洗浄した。表面を洗浄した基板を、図2に従い、作用極としてシリコン基板、対極として白金(Pt)箔を用いて泳動溶液に浸漬させた。電極間距離tは2.5cmで一定として、電極間に与える電圧には定電圧源(PMC160−0.4A 菊水電子工業(株)製)を用いて、印加電圧を80Vとして電圧を印加して、泳動時間を15秒として電気泳動堆積を行った。なお、表面を洗浄した基板を挟むクリップと基板との間にはInGa合金を塗布し、基板に与える電界に斑がないようにした。電気泳動堆積が終わったら、作製した多孔質チタニア薄膜を室温で乾燥させ、500℃で4時間熱処理を行い、多孔質チタニア薄膜が形成された基板を得た。
【0066】
(3)パラジウム(Pd)単担持:
塩化パラジウム(PdCl2)水溶液(Pdとして1.7μmol含有)0.18mLを水8mLで希釈することにより20ppmの溶液を調整し、さらに酸化犠牲剤としてエタノールを水に対して体積比で10%添加して電着溶液とした。かかる電着溶液に(2)で得られた基板を浸漬させ、紫外光源にはブラックライト(ピーク波長 360nm付近)を用い、高さを調整して紫外光強度を3.0W/m2として5分間照射を行うことにより、多孔質チタニア薄膜にパラジウムを担持した。
【0067】
(4)白金(Pt)単担持:
塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液(Ptとして0.9μmol含有したもの、またはPtとして1.7μmol含有したもの)0.33mLを水8mLで希釈することにより順に20ppm、37ppmの溶液を調整し、さらに酸化犠牲剤としてとしてエタノールを水に対して体積比で10%添加して電着溶液とした。かかる電着溶液に(2)で得られた多孔質チタニア薄膜が形成された基板を浸漬させ、かかる電着溶液に(3)で得られた基板を浸漬させ、紫外光源にはブラックライト(ピーク波長 360nm付近)を用い、高さを調整して紫外光強度を3.0W/m2として30分間照射を行うことにより、多孔質チタニア薄膜にパラジウムを担持し、(3)のパラジウムの担持と併せて、多孔質チタニア薄膜にパラジウム及び白金を共担時して、本発明のガス検出用素子を得た。
【0068】
なお、実施例1にあっては、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を2種類としたが、Ptとして0.9μmol含有したものを実施例1−1a、Ptとして1.7μmol含有したものを実施例1−1bとした。
【0069】
図3は、実施例1−1a及び実施例1−1bで得られたガス検出用素子を構成する多孔質チタニア薄膜(パラジウム、白金は未担持の多孔質チタニア薄膜であり、実施例1−1a及び実施例1−1bに共通。)の表面観察結果及び断面観察結果である。図3に示すように、表面観察結果より、チタニアは均一に堆積され、多孔質チタニア薄膜が良好に形成されており、チタニア粒子の平均粒径は、約51.3nmであった。また、断面観察結果により、厚さが約1100nmの多孔質チタニア薄膜が形成されていることが確認できた。
【0070】
[実施例2]
実施例1において、出発原料として、表1に仕様を示すチタニア微粒子分散スラリー2(HPW−18NR)を用い、印加電圧を80Vと固定する一方、泳動時間を5秒、15秒、30秒として、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を、Ptとして1.7μmol含有したものを使用し、それ以外の方法を実施例1と同様にして(泳動時間以外は実施例1−1bと同じ条件となる。)、本発明のガス検出用素子を得た(順に、実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3とする。)。得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜(パラジウム、白金は未担持の多孔質チタニア薄膜)の表面観察結果及び断面観察結果を図4に示す。
【0071】
図4に示すように、表面観察結果より、どの条件もチタニアは均一に堆積され、多孔質チタニア薄膜が良好に形成されていた。また、断面観察結果により、泳動時間を長くすることにより膜厚を厚くできることが確認できた。チタニア粒子の平均粒径は、順に、約43.8nm(実施例2−1)、約41.9nm(実施例2−2)、約32.1nm(実施例2−3)、厚さは、順に、約500nm(実施例2−1)、約900nm(実施例2−2)、約1900nm(実施例2−3)であった。
【0072】
次に、「(2)多孔質チタニア薄膜の形成:」の電気泳動堆積における泳動溶液の濃度を0.3%、泳動時間を15秒と固定した条件(実施例2−2に対応する条件)について、印加電圧を80Vのほか120V(実施例2−2A)及び140V(実施例2−2B)として、それ以外の方法を実施例2と同様にして、本発明のガス検出用素子を得た。得られたガス検出用素子を構成する多孔質チタニア薄膜(パラジウム、白金は未担持の多孔質チタニア薄膜)の表面観察結果及び断面観察結果を図5に示す。
【0073】
図5に示すように、表面観察結果より、どの条件もチタニアは均一に堆積され、多孔質チタニア薄膜が良好に形成されていた。また、断面観察結果により、電圧を高くすることより膜厚を厚くできることが確認できた。(厚さは、順に、約900nm(実施例2−2)、約1100nm(実施例2−2A)、約1500nm(実施例2−2B)であった。)。
【0074】
[実施例3]
実施例1において、出発原料として、表1に仕様を示すチタニア微粒子分散スラリー3(HPW−25NR)を用い、「(2)多孔質チタニア薄膜の形成:」の印加電圧を80V、120Vとして、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を、Ptとして1.7μmol含有したものを使用し、それ以外の方法を実施例1と同様にして(実施例1−1bと同じ条件となる。)、本発明のガス検出用素子を得た(順に、実施例3−1、実施例3−2とする。)。得られたガス検出用素子を構成する多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果(パラジウム、白金は未担持の多孔質チタニア薄膜)を図6に示す。
【0075】
図6に示すように、表面観察結果より、どの条件もチタニアは均一に堆積され、多孔質チタニア薄膜が良好に形成されていた。また、断面観察結果により、電圧を高くすることより膜厚を厚くできることが確認できた。チタニア粒子の平均粒径は、順に、約27.2nm(実施例3−1)、約36.1nm(実施例3−2)、厚さは、順に、約700nm(実施例3−1)、約1400nm(実施例3−2)であった。
【0076】
以下、実施例1−1、実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3、実施例3−1、及び実施例3−2で得られた本発明のガス検出用素子を形成する多孔質薄膜を構成するチタニア粒子の平均粒径を表2に示す。なお、本実施例における平均粒径は、原子間力顕微鏡(装置名:SIIナノテクノロジーSPA−300)により観察され、確認できた粒子8〜15個の平均値を算出したものである。また、本実施例で得られたガス検出用素子における多孔質薄膜を構成するチタニア粒子同士には、5〜100nmの間隙が、また、チタニア粒子自体は、3〜10nmの空隙を有するものであった。
【0077】
(チタニア粒子の平均粒径)
【表2】
【0078】
[試験例1]
水素ガス応答性の評価(1)(低温域での応答性の確認):
実施例1−1aで得られたガス検出用素子について、測定炉内の温度を50℃、80℃及び150℃として、以下に示した評価方法を用いて、水素ガス応答性を評価した。結果を図7(50℃)、図8(80℃)及び図9(150℃)に示す。
【0079】
(評価方法)
水素ガス応答性の評価は、本発明のガス検出用素子を1.5cm×1.5cmにカットして測定試料とした。この測定試料を、炉内温度を50℃、80℃、150℃に設定した電気炉内に設置し、空気と窒素希釈10%水素ボンベからのガスを、マスフローコントローラーを用いて濃度を0.5%、1.0%、3.0%、5.0%に調整し、得られた空気希釈水素を総流量100mL/分となるように交互に5分間ずつ流通させた。この時、測定試料に接触配設したK熱電対で多孔質薄膜(ガス検出用素子)近傍の温度変化を測定することにより、水素ガス応答性を評価した。
【0080】
図7、図8及び図9に示すように、これまで測定が不可能と考えられていた50℃も含めいずれの炉内温度においても水素流通時に温度が上昇し、その後の空気流通時に初期温度に戻ることや、どの炉内温度においても、水素濃度に依存して温度変化が増大することが確認できた。以上より、本発明のガス検出用素子が水素ガス応答性を有することが確認できた。
【0081】
また、図7、図8及び図9の結果から求めた、水素ガス濃度と温度変化幅との関係を図10に示す。なお。温度変化幅とは、「水素(希釈)ガス流通時の最高温度」−「当該実験開始時の空気流通時の安定温度」を示す。本発明のガス検出用素子は、炉内温度が50℃でも大きな温度変化幅が得られ、センシング動作の低温化が可能であることが確認できた。
【0082】
[試験例2]
水素ガス応答性の評価(2)(多孔質薄膜の影響の確認):
仕様の異なる3種類のチタニア微粒子分散スラリーを用いた場合の水素ガス応答性の相違を確認するために、実施例1−1b、実施例2−2、実施例3−1で得られたガス検出用素子について、測定炉内の温度を80℃として、(1)と同様な方法を用いて水素ガス応答性を評価した。結果を図11(実施例1−1b)、図12(実施例2−2)及び図13(実施例3−1)に示す。
【0083】
図11〜図13に示すように、実施例1−1b、実施例2−2、実施例3−1のいずれにおいても水素流通時に温度が上昇し、その後の空気流通時に初期温度に戻ることが確認できた。また、併せて、どの炉内温度においても、水素ガス濃度に依存して温度変化が増大することが確認できた。以上より、本発明のガス検出用素子が水素ガス応答性を有することが確認できた。
【0084】
また、図11〜図13の結果から求めた、水素ガス濃度と温度変化幅との関係を図14に示した。図14に示すように、本発明のガス検出用素子は、どの実施例についても大きな温度変化幅が得られ、中でも、実施例3−1のガス検出用素子は、どの水素ガス濃度においても最も大きな温度変化幅を有し、かつ、水素ガス濃度に対する変化の直線性が最も良いことが確認できた。
【0085】
ここで、粒径と温度変化幅の関係を確認するため、前記した実施例1−1b、実施例2−2、実施例3−1のガス検出用素子に加えて、実施例2−1、実施例2−3、及び実施例3−2のガス検出用素子についても、同様にして水素ガス応答性を評価した。そして、ガス検出用素子を構成する多孔質薄膜の平均粒径と、得られた温度変化幅との関係を確認した。結果を図15に示す。
【0086】
図15は、平均粒径と温度変化幅との関係を示した図である。図15に示すように、概ね平均粒径が小さいほど、大きな温度変化幅が得られ、多孔質チタニア薄膜層に担持されたパラジウム及び白金の触媒としての反応性が高くなっていることが確認できた。
【0087】
[試験例3]
エタノールガス応答性の評価:
実施例2−2及び実施例3−1で得られたガス検出用素子について、測定炉内の温度を300℃として、以下に示した評価方法を用いて、エタノールガス応答性を評価した。結果を図16(実施例2−2)及び図17(実施例3−1)に示す。
【0088】
(評価方法)
試験例1と同様、本発明のガス検出用素子を1.5cm×1.5cmにカットして測定試料とした。この測定試料を300℃に設定した電気炉内に設置し、空気とパーミエーター(微量濃度の標準ガスを連続的に発生する標準ガス発生装置)からのエタノールガスを始めに空気のみ流通5分間、その後エタノールガスを10分間、その後再び空気のみ5分間流通させた。この時、測定試料に接触させたK熱電対で多孔質薄膜(ガス検出用素子)近傍の温度変化を測定することによりエタノールガス応答性を評価した。
【0089】
図16及び図17に示すように、実施例2−2及び実施例3−1のガス検出用素子でもエタノール流通時に温度が上昇し、その後の空気の流通により初期濃度に戻ることが確認できた。以上より、本発明のガス検出用素子がエタノールガス応答性を有することが確認できた。
【0090】
[試験例4]
ディップコートで得られたガス検出用素子との比較:
下記実施例2−1bで得られた本発明のガス検出用素子と、下記の方法で得られた比較例1のガス検出用素子について、水素ガス応答性を比較した。
【0091】
[実施例2−1a]
実施例2−1において、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を、Ptとして1.7μmol含有したものを使用した以外は、実施例2−1と同様な方法を用いて、本発明のガス検出用素子を得た。なお、実施例2−1aのガス検出用素子を構成する多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果は、図4に示す実施例2−1の結果と共通である。
【0092】
[比較例1]
特開2007−240462公報の[実施例1]([0046])に開示される方法を用いて、ディップコートにより基板の表面にチタニア半導体層を形成した。具体的には、実施例1で使用したものと同仕様の基板に、半導体層形成用組成物としてチタンイソプロポキシルアセチルアセトナート{[CH3COCH=C(O−)CH3]2Ti[OCH(CH3)2]−2プロパノール溶液(TIPAA)}を用いた。かかるチタンイソプロポキシルアセチルアセトナートを2−イソプロパノールで希釈して、Tiの濃度が1.0質量%となるように調製した。
【0093】
基板を中性洗剤で洗浄後、蒸留水ですすぎ、アセトンで10分間超音波洗浄を行い、表面を清浄化した。その後、常温乾燥でアセトンを十分に揮発させ取り除いた。次いで、この基板を半導体層形成用組成物に浸漬させ(ディップコート)、5mm/秒で引き上げ、3分間常温乾燥させた後に400℃で10分間仮焼させた。これを5回繰り返した。さらにその後500℃で8時間本焼を行い、チタニア半導体層(本発明に係るガス検出用素子における多孔質薄膜に相当する。)を形成させた。なお、ディップコート時に基板の両面に膜が作製されるが、片面はエタノールでふき取り、片面だけに半導体層を作製した。得られた基板に、実施例1(3)(4)(ただし、「(4)白金(Pt)単担持:」における塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液を、Ptとして1.7μmol含有したものを使用)と同様な方法を用いて、比較例1のガス検出用素子を得た。
【0094】
図18は、比較例1のガス検出用素子を構成するチタニア半導体層(パラジウム、白金は未担持のチタニア半導体層)の表面観察結果及び断面観察結果に示す。図18に示すように、基板の表面には厚さが約500nmの(多孔質)チタニア薄膜が形成されていた。
【0095】
また、チタニア半導体膜の表面および断面を走査型電子顕微鏡で観察した結果、かかるチタニア半導体膜は、表面層には平均粒径が10nm以下の粒子から構成された50〜150nmの凹凸が認められるものの、断面からは平均粒径が10nm以下の粒子が凝集して構成される緻密な膜であることが確認できた。
【0096】
次に、実施例2−1a及び比較例1のガス検出用素子について、試験例1と同様な方法を用いて、炉内温度を80℃(実施例2−1aのみ)及び300℃とした場合の水素ガス応答性を比較・評価した。結果を図19(実施例2−1a/炉内温度:80℃)、図20(実施例2−1a/炉内温度:300℃)及び図21(比較例1/炉内温度:300℃)に示す。また、図19、図20及び図21の結果から求めた、水素ガス濃度と温度変化幅との関係を図22に示す。
【0097】
図19及び図20に示すように、実施例2−1aのガス検出用素子は、炉内温度が80℃、300℃のいずれの温度であっても、水素流通時に温度が上昇し、その後の空気流通時に初期温度に戻ることが確認できた。併せて、どの炉内温度においても、水素ガス濃度に依存して温度変化が増大することが確認でき、温度変化幅は炉内温度が80℃で測定した結果の方が大きかった。
【0098】
一方、図21に示すように、比較例1のガス検出用素子は、水素ガスに対する応答性が悪く、濃度が0.5%といった低濃度域ではほとんど反応しなかった。図22に示すように、実施例2−1aの本発明のガス検出用素子の方が、大きな温度幅が得られ、80℃という低温域も含め、可燃性ガスの接触触媒燃焼による素子近傍の温度変化を測定することでセンシングを行うタイプのガス検出用センサに適することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、水素ガス、エタノールガス等の可燃性ガスの接触触媒燃焼による検出部近傍の温度変化を測定することができるので、大気中等の様々な環境における可燃性ガスを検出可能なセンサを提供する技術として有利に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明のガス検出用素子の一態様を示した断面図である。
【図2】電気泳動堆積の概要を示した概略図である。
【図3】実施例1で得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果を示した図である。
【図4】実施例2で得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果を示した図である。
【図5】実施例2で得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果を示した図である。
【図6】実施例3で得られたガス検出用素子における多孔質チタニア薄膜の表面観察結果及び断面観察結果を示した図である。
【図7】試験例1における水素ガス応答性の評価結果(炉内温度:50℃)を示した図である。
【図8】試験例1における水素ガス応答性の評価結果(炉内温度:80℃)を示した図である。
【図9】試験例1における水素ガス応答性の評価結果(炉内温度:150℃)を示した図である。
【図10】試験例1における水素ガス濃度と温度変化幅との関係を示した図である。
【図11】試験例2における水素ガス応答性の評価結果(実施例1−1b)を示した図である。
【図12】試験例2における水素ガス応答性の評価結果(実施例2−2)を示した図である。
【図13】試験例2における水素ガス応答性の評価結果(実施例3−1)を示した図である。
【図14】試験例2における水素ガス濃度と温度変化幅との関係を示した図である。
【図15】試験例2における平均粒径と温度変化幅との関係を示した図である。
【図16】試験例3におけるエタノールガス応答性の評価結果(実施例2−2)を示した図である。
【図17】試験例3におけるエタノールガス応答性の評価結果(実施例3−1)を示した図である。
【図18】比較例1で得られたガス検出用素子におけるチタニア半導体層の表面観察結果及び断面観察結果に示した図である。
【図19】試験例4における水素ガス応答性の評価結果(実施例2−1a/炉内温度:80℃)を示した図である。
【図20】試験例4における水素ガス応答性の評価結果(実施例2−1a/炉内温度:300℃)を示した図である。
【図21】試験例4における水素ガス応答性の評価結果(比較例1/炉内温度:300℃)を示した図である。
【図22】試験例4における水素ガス濃度と温度変化幅との関係を示した図である。
【符号の説明】
【0101】
1 … ガス検出用素子
2 … 基板
3 … 薄膜
4 … パラジウム及び白金(パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金)
6 … 泳動溶液
7 … 作用極(基板)
8 … 対極
9 … 定電圧源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜が形成され、
当該多孔質薄膜が、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を担持していることを特徴とするガス検出用素子。
【請求項2】
前記多孔質薄膜が酸化チタン(TiO2)からなることを特徴とする請求項1に記載のガス検出用素子。
【請求項3】
前記粒子の平均粒径が20〜50nmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス検出用素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガス検出用素子と、
当該ガス検出用素子近傍の温度を測定可能な温度測定手段と、
を備えることを特徴とするガス検出用センサ。
【請求項5】
前記温度測定手段が熱電対であることを特徴とする請求項4に記載のガス検出用センサ。
【請求項1】
基板の表面に、平均粒径が10〜100nmの粒子から構成される多孔質構造からなる多孔質薄膜が形成され、
当該多孔質薄膜が、パラジウムまたはその合金、及び白金またはその合金を担持していることを特徴とするガス検出用素子。
【請求項2】
前記多孔質薄膜が酸化チタン(TiO2)からなることを特徴とする請求項1に記載のガス検出用素子。
【請求項3】
前記粒子の平均粒径が20〜50nmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のガス検出用素子。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガス検出用素子と、
当該ガス検出用素子近傍の温度を測定可能な温度測定手段と、
を備えることを特徴とするガス検出用センサ。
【請求項5】
前記温度測定手段が熱電対であることを特徴とする請求項4に記載のガス検出用センサ。
【図1】
【図2】
【図10】
【図14】
【図15】
【図22】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図10】
【図14】
【図15】
【図22】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2010−71700(P2010−71700A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237225(P2008−237225)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]