説明

ガス浄化装置およびガス浄化方法

【課題】排ガス中の炭素を主成分とする微粒子を捕捉し、捕捉した微粒子を酸化または酸化分解により酸素と結合した無害の低分子ガスにして、浄化対象ガスを浄化することができるガス浄化装置およびガス浄化方法を提供する。
【解決手段】ガス浄化装置10は、炭素を主成分とする微粒子である粒子状物質(以下、PMという)含む浄化対象ガスEGが導入されるガス流路20を備えている。このガス流路20には、PMを帯電させるためのプラズマを発生する機構を備えたプラズマ発生部30と、PMを酸化反応させて分解する機構を備えた酸化分解処理部40とを備えている。すなわち、ガス流路20の一部は、プラズマ発生部30および酸化分解処理部40で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中の炭素を主成分とする微粒子等の有害物質を除去して浄化するガス浄化装置およびガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の排ガス発生源から排出された排ガスから粒子状物質(PM;Particulate Matter)等の有害物質を浄化するためのガス浄化装置として、PMを含む排ガスのガス流路にPMフィルタを設け、このPMフィルタによりPMを捕捉する装置が知られている。このガス浄化装置では、PMフィルタに捕捉されたPMに含まれる炭素等の物質が加熱ヒータによって燃焼除去され、PMフィルタの機能が再生される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、放電プラズマ中のイオンの作用で中性の微粒子を帯電させ、帯電された微粒子を電界の作用で捕捉する、いわゆる電気集塵効果を利用した技術は古くから工業的に実用化されている。この電気集塵効果を利用したガス浄化装置として、例えば、コロナ放電により発生した放電プラズマによって荷電されたPMを誘電体や放電電極に捕捉し、加熱せずに除去して、排ガスを浄化する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−062558号公報
【特許文献2】特開2005−320895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、従来のエンジン等の排ガス発生源に対するガス浄化装置においては、PMの捕捉に機械的集塵を用いているために排ガスの圧力損失が高く、エンジン等の排ガス発生源に対する負荷が高くなるという問題がある。また、PMフィルタに捕捉されたPMに含まれる炭素等の物質を酸素との燃焼反応により除去するため、ガスの温度を600℃程度に加熱する必要がある。そのため、外部加熱ヒータや逆洗機構などの追設が必要となる。特に排ガス温度が低温(特に200℃以下)である場合には、PMを効率よく除去することが困難である。
【0006】
また、電気集塵効果を利用した従来のガス浄化装置では、負荷変動の激しい実エンジンからの排ガスを処理する場合、誘電体や放電電極に捕捉されたPMが燃焼しきれずに堆積することがあった。これによって、コロナ放電が不安定となったり、コロナ放電を生じなくなったりすることがあった。さらに、PMが堆積して排ガスが流れる流路断面積が小さくなり、排ガス流路における圧力損失が上昇するなどの問題も生じることがあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、排ガス中の炭素を主成分とする微粒子を捕捉し、捕捉した微粒子を酸化または酸化分解により酸素と結合した無害の低分子ガスにして、浄化対象ガスを浄化することができるガス浄化装置およびガス浄化方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、炭素を主成分とする微粒子を含む浄化対象ガスをガス流路に導入し、前記ガス流路内で前記微粒子を酸化または酸化分解により酸素と結合した無害の低分子ガスにして、浄化対象ガスを浄化するガス浄化装置であって、前記ガス流路に設けられ、前記ガス流路の内壁面となる一方の表面にアノード電極を、前記ガス流路の外壁面となる他方の表面にカソード電極を有する固体電解質体を備える酸化分解処理部と、前記ガス流路に設けられ、放電電極、および前記放電電極と誘電体を介して対向して配置された対向電極を備えるプラズマ発生部とを具備することを特徴とするガス浄化装置が提供される。
【0009】
また、本発明の一態様によれば、炭素を主成分とする微粒子を含む浄化対象ガスが導入されるガス流路に設けられ、前記ガス流路の内壁面となる一方の表面にアノード電極を、前記ガス流路の外壁面となる他方の表面にカソード電極を有する固体電解質体を備える酸化分解処理部と、前記ガス流路に設けられ、放電電極、および前記放電電極と誘電体を介して対向して配置された対向電極を備えるプラズマ発生部とを備えるガス浄化装置におけるガス浄化方法であって、前記微粒子を前記プラズマ発生部において発生した荷電粒子と接触させて帯電させ、前記ガス流路に電界を発生させて帯電した前記微粒子を前記固体電解質体の一方の表面に捕捉し、前記アノード電極と前記カソード電極との間に電圧を印加し、放電させて捕捉した前記微粒子を酸化または酸化分解により酸素と結合した無害の低分子ガスにすることを特徴とするガス浄化方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明のガス浄化装置およびガス浄化方法によれば、排ガス中の炭素を主成分とする微粒子を捕捉し、捕捉した微粒子を酸化または酸化分解により酸素と結合した無害の低分子ガスにして、浄化対象ガスを浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態のガス浄化装置の断面を模式的に示す図である。
【図2】本発明に係る第2の実施の形態のガス浄化装置の断面を模式的に示す図である。
【図3】PMの捕捉率の結果を示す図である。
【図4】各固体電解質材料におけるイオン導電性の温度依存特性を調べた結果を示す図である。
【図5】酸化反応特性を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明に係る第1の実施の形態のガス浄化装置10の断面を模式的に示す図である。
【0014】
ガス浄化装置10は、図1に示すように、炭素を主成分とする微粒子である粒子状物質(以下、PMという)を含む浄化対象ガスEGが導入されるガス流路20を備えている。このガス流路20には、PMを帯電させるためのプラズマを発生する機構を備えたプラズマ発生部30と、PMを酸化反応させて分解する機構を備えた酸化分解処理部40とを備えている。換言すれば、ガス流路20の壁部の一部は、プラズマ発生部30および酸化分解処理部40で構成され、それぞれがガス流路20を介して対向するように配置されている。
【0015】
プラズマ発生部30は、誘電体31と、この誘電体31のガス流路20側の表面に設けられた放電電極32と、この放電電極32に誘電体31を介して対向して設けられた放電用対向電極33とを備える。
【0016】
誘電体31は、誘電材料からなる、例えば平板あるいは筒体である。誘電体31は、公知な固体の誘電材料で構成される。誘電体31を構成する材料として具体的には、電気的絶縁材料である、アルミナやガラスなどの無機絶縁物、ポリイミド、ガラスエポキシ、ゴムなどの有機絶縁物などが挙げられるが、これらに限られるものではなく、使用される環境下に応じて公知の固体の誘電材料から適宜に選択される。
【0017】
放電電極32は、例えば、所定の間隔で複数の薄い板状の電極がほぼ平行に配置され、一端側がそれぞれ電気的に接合された櫛状の形状で構成されている。そして、各板状の電極がガス流路20を流れる浄化対象ガスEGの主流方向に対してほぼ垂直になるように、放電電極32が配置されている。この放電電極32は、浄化対象ガスEGに対して耐腐食性や耐熱性を有する導電材料で構成される。放電電極32を構成する材料として具体的には、例えば、ステンレス鋼やタングステンなどが用いられる。この放電電極32は、例えば、ガス流路20の内壁面となる誘電体31の一方の表面に、直接プリントして形成されてもよい。
【0018】
放電用対向電極33は、誘電体31を介して放電電極32と対向配置される。換言すると、放電用対向電極33は、放電電極32と誘電体31を挟むように対向配置される。放電用対向電極33は、例えば、薄い平板状の導電材料で形成される。放電用対向電極33は、浄化対象ガスEGと接触することがないため、特に材料が限定されることはなく、銅などの公知な導電材料で構成される。また、放電用対向電極33も放電電極32と同様に、例えば、放電電極32と対向する誘電体31の他方の表面に直接プリントされて設けられてもよい。
【0019】
なお、放電電極32および放電用対向電極33の形状は、上記した形状に限られるものではないが、放電電極32の形状は、上記した櫛状以外にも、例えば線状、点状、スリット状あるいは網目状にすることが好ましい。放電電極32の形状をこれらの形状にすることで、放電電極32近傍の電気力線が密になり、放電プラズマが容易に生成できるため効果的である。
【0020】
放電電極32および放電用対向電極33は、それぞれ電気系統51を介して放電用電源50と接続されている。放電用電源50は、例えば一次側と二次側の電源で構成される。一次側の電源としては、AC100Vでφ50Hzまたはφ60Hzの交流電源やDC12VまたはDC24Vの直流電源が使用される。また、二次側の電源の出力電圧は、例えば、パルス状(正極性、負極性、正負の両極性)、交流状(正弦波、断続正弦波)の波形を有する出力電圧とされる。
【0021】
そして、放電用電源50によって、放電電極32と放電用対向電極33との間に、例えば数kVから数十kV程度の電圧を印加することにより、ガス流路20の内部に放電プラズマPが生成される。この際、放電電極32と放電用対向電極33との間には誘電体31が介在し、かつ誘電体31は、放電電極32と接触して設けられるため、ガス流路20における放電は、誘電体31に沿って形成される沿面放電となる。この放電プラズマPの作用により、浄化対象ガスEGに含まれるPMは荷電される。
【0022】
酸化分解処理部40は、固体電解質体41と、この固体電解質体41のガス流路20側の表面に設けられたアノード電極42、このアノード電極42に固体電解質体41を介して対向して設けられたカソード電極43を備える。
【0023】
固体電解質体41は、固体中をイオンが移動する固体電解質材料からなる、例えば平板である。固体電解質体41を構成する材料として、例えば、ZrO系固体電解質、CeO系固体電解質、LaGaO系固体電解質などの酸素イオン伝導性セラミックスなどを使用することができる。
【0024】
ZrO系固体電解質として具体的には、例えば、8YSZ((ZrO0.92(Y0.08)などのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、11ScSZ((ZrO0.89(Sc0.11)などのスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などを使用することができる。CeO系固体電解質として具体的には、例えば、(CeO0.9(Gd0.1などのセリア系電解質(GDC)などを使用することができる。LaGaO系固体電解質として具体的には、例えば、LSGM8282(La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.2)などのランタンガレート(LSGM)などを使用することができる。これらの固体電解質材料の中でも、特に、低い温度においてもイオン導電性に優れるセリア系電解質(GDC)を使用することが好ましい。
【0025】
アノード電極42は、例えば、所定の間隔で複数の薄い板状の電極がほぼ平行に配置され、一端側がそれぞれ電気的に接合された櫛状の形状で構成されている。そして、各板状の電極がガス流路20を流れる浄化対象ガスEGの主流方向に対してほぼ垂直になるように、アノード電極42が配置されている。アノード電極42の形状は、上記した形状に限られるものではないが、多くのPMを効率よく捕捉できる形状が好ましい。アノード電極42の形状は、例えば、上記した櫛状以外にも、スリット状あるいは網目状にすることが好ましい。また、アノード電極42は、ガス流路20を介して放電電極32と対向する位置に設置されている。
【0026】
このアノード電極42は、例えば、白金(Pt)、銀(Ag)などの導電材料で構成される。これらの導電材料の中でも、特にPMの酸化反応を顕著に促進することができるAgを用いることが好ましい。また、Agは、Ptなどに比べて安価であるという長所も有している。
【0027】
カソード電極43は、固体電解質体41を介してアノード電極42と対向配置される。換言すると、カソード電極43は、アノード電極42と固体電解質体41を挟むように対向配置される。カソード電極43を構成する導電材料は、特に限定されるものではなく、カソード電極43は、例えば銅などの公知な導電材料で構成される。また、カソード電極43は、例えば、アノード電極42と同様に、所定の間隔で複数の薄い板状の電極がほぼ平行に配置され、一端側がそれぞれ電気的に接合された櫛状の形状で構成されてもよい。また、カソード電極43は、例えば、薄い平板状の形状で構成されてもよい。カソード電極43は、例えば、アノード電極42が設けられた固体電解質体41の一方の表面と対向する固体電解質体41の他方の表面に直接プリントされて設けられてもよい。
【0028】
アノード電極42およびカソード電極43は、それぞれ電気系統61を介してバイアス電源60と接続されている。バイアス電源60は、アノード電極42とカソード電極43との間に、数V〜数十Vの直流電圧を印加するものである。アノード電極42とカソード電極43との間に所定の直流電圧を印加することで、O2−イオンが固体電解質体41中を移動し、この陰イオンであるO2−イオンが流れ込むアノード電極42側でPMとの酸化反応が生じる。
【0029】
また、アノード電極42および放電電極32は、それぞれ電気系統71を介して直流電源70と接続されている。この直流電源70は、アノード電極42と放電電極32との間に、0.1kV/mm〜1kV/mmの直流電界を印加するものである。アノード電極42と放電電極32との間に所定の直流電圧を印加することで、プラズマ発生部30によって発生したプラズマ中のイオンがガス流路20の内部に大きく引き出される。これによって、PMは、イオンと接触して帯電する。この帯電したPMの一部は、ガス流路20の空間中の電界の作用でアノード電極42の表面に捕捉される。
【0030】
次に、ガス浄化装置10の作用について説明する。
【0031】
まず、放電用電源50から放電電極32と放電用対向電極33との間にパルス状(正極性、負極性、正負の両極性)あるいは交流状(正弦波、断続正弦波)の電圧が印加される。これによって、放電電極32と放電用対向電極33との間、特に放電電極32の近傍には、集中的に電界が形成されて誘電体31に沿う沿面放電が起こり、沿面放電に伴って放電プラズマPが発生する。
【0032】
ここで、放電用電源50の2次側の出力電圧は、パルス状(正極性、負極性、正負の両極性)あるいは交流状(正弦波、断続正弦波)の出力電圧であるため、誘電性の誘電体31を介在させても、誘電体31の表面に表面電荷が蓄積して放電を停止させたり、放電がアーク放電に移行したりすることがないため、一様で安定な放電プラズマPが発生する。
【0033】
一方、直流電源70によって放電電極32とアノード電極42との間に電圧が印加され、放電電極32とアノード電極42との間には一様な電界が形成される。
【0034】
この結果、放電電極32とアノード電極42との間に形成された電界の作用により、放電プラズマPは、放電電極32からガス流路20の内部に大きく引き出される。そして、ガス流路20を流動する浄化対象ガスEGに含まれるPMは、ガス流路20の内部に大きく引き出された放電プラズマPにより生成された電子やイオンとの衝突により荷電される。また、上記したように、放電プラズマPは、放電電極32からガス流路20の内部に大きく引き出されることによって、ガス流路20の断面積に亘って広がる。そのため、ガス流路20を流動する浄化対象ガスEGと接触する確率が高まる。これによって、浄化対象ガスEGに含まれるPMの荷電される割合が高まる。
【0035】
また、上記したように、直流電源70の出力電圧特性により、放電電極32とアノード電極42との間に形成される電界の向きは時間的に変化しないため、ガス流路20の内部に引き出される放電プラズマPは、プラスあるいはマイナスのうち一方の極性を有する放電プラズマPとなる。これによって、PMの大半もプラスあるいはマイナスに荷電される。このため、荷電されたPMは、形成された電界から受けるクーロン力により軌跡が曲げられる。曲げられる方向は、PMの持つ電荷と電界の向きで決まるので、電荷の極性により、放電電極32側に曲げられるPMと、アノード電極42側に曲げられるPMが生じる。
【0036】
これによって、ガス流路20内で荷電された一方のPMは、直流電源70の作用で放電電極32とアノード電極42との間に形成された電界に作用に加え、放電プラズマPの電気的な力により放電電極32側に引き寄せられて、放電電極32の表面や放電電極32近傍の誘電体31の表面に捕捉される。また、一方のPMと荷電された極性の異なる他方のPMは、アノード電極42の表面やアノード電極42近傍の固体電解質体41の表面に捕捉される。すなわち、プラスあるいはマイナスのいずれかに荷電されたPMは、電界および単極性の放電プラズマPの作用により一様な方向に電気的な力を受けて、放電電極32側またはアノード電極42側に捕捉される。
【0037】
上記したように、PMは、放電プラズマPによって荷電され、十分な荷電量を有し、電界および単極性の放電プラズマPの作用により一様な方向に電気的な力を受けて、効率よく放電電極32側またはアノード電極42側に捕捉される。このように、直流電源70の作用により形成された電界は、放電プラズマPの引き出し効果によるガス流路20内におけるPMの荷電効率の向上の他、荷電されたPMに電気的な力を与えて効率的に放電電極32側またはアノード電極42側に捕捉させる役割を有する。
【0038】
酸化分解処理部40では、バイアス電源60によって、アノード電極42とカソード電極43との間に所定の直流電圧を印加することで、O2−イオンが固体電解質体41中を移動し、アノード電極42側に流れ込む。アノード電極42側に捕捉されたPMは、式(1)に示すように、O2−イオンと酸化反応する。すなわち、アノード電極42の表面上において、PMを構成する炭素(C)は、次に示す式(1)の反応により酸化分解され、無害の低分子ガスである二酸化炭素(CO)となる。
C+2O2−→CO+4e …式(1)
【0039】
一方、ガス流路20には、放電プラズマPによって生じた高エネルギー電子が浄化対象ガスEGと衝突することにより、O、OH、O、O2−等の酸化ラジカルやNOなどが生成される。酸化ラジカルは、さらに浄化対象ガスEG中の炭化水素と反応して、別の活性な炭化水素分子を生じさせる。例えば、NOは、PMと燃焼反応を生じ、PMを分解および酸化する。放電電極32側に捕捉されたPMは、上記した酸化ラジカルとの反応場に長時間滞留することになり、加熱などの処理を施すことなく、その間に酸化ラジカルの作用により段階的に分解および酸化などの燃焼反応を生じ、最終的には一酸化炭素や二酸化炭素などになる。このようにして放電電極32側に捕捉されたPMも酸化反応により分解される。
【0040】
このように、ガス流路20内に流入した浄化対象ガスEGに含まれるPMは、酸化または酸化分解により酸素と結合した二酸化炭素(CO)として、PMが除去された浄化対象ガスEGとともに外部に排出される。
【0041】
上記したように、第1の実施の形態のガス浄化装置10によれば、固体電解質体41を有する酸化分解処理部40を備え、酸化分解処理部40に直流電圧を印加することで、O2−イオンを移動させ、酸化分解処理部40の表面に捕捉されたPMを積極的に酸化反応させることができる。
【0042】
また、プラズマ発生部30を備え、放電プラズマPによって浄化対象ガスEGに含まれるPMを荷電し、ガス流路20に電界を発生させることで、PMを放電電極32側またはアノード電極42側に確実に捕捉して分解および酸化することができる。
【0043】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明に係る第2の実施の形態のガス浄化装置11の断面を模式的に示す図である。なお、第1の実施の形態のガス浄化装置10の構成と同一部分には同一の符号を付して重複する説明を省略または簡略する。
【0044】
ガス浄化装置11は、図2に示すように、炭素を主成分とする微粒子である粒子状物質(以下、PMという)含む浄化対象ガスEGが導入されるガス流路20を備えている。また、ガス浄化装置11は、ガス流路20の入口に、PMを帯電させるためのプラズマを発生する機構を有するプラズマ発生部80、およびプラズマ発生部80よりも下流側に、PMを酸化反応させて分解する機構を有する酸化分解処理部40を備えている。また、図2に示すように、2つの酸化分解処理部40を対向するように配置することで、ガス流路20の一部が構成されている。
【0045】
プラズマ発生部80は、放電電極81と、この放電電極81と所定の空隙をあけて配置された放電用対向電極82とを備える。ここで、放電電極81と放電用対向電極82との間は空気層であり、この空気層は誘電体として機能する。
【0046】
放電電極81は、例えば、ステンレス鋼などの浄化対象ガスEGに対して耐腐食性や耐熱性を有する、棒状の導電部材で構成される。一方、放電用対向電極82は、例えば、ステンレス鋼などの浄化対象ガスEGに対して耐腐食性や耐熱性を有する、平板状の導電部材で構成される。そして、2枚の放電用対向電極82の間に、それぞれの放電用対向電極82と所定の空隙をあけて放電電極81が設置される。これらの電極は、図2に示すように、ガス流路20の入口において、流路幅方向に亘って設けられる(図2において紙面に鉛直な方向)。なお、放電電極81および放電用対向電極82は、この配置構成に限られるものではなく、例えば、ガス流路20の入口において、流路高さ方向(図2において上下方向)に亘って設けられてもよい。また、上記した放電電極81と放電用対向電極82との組み合わせで構成される電極構成を、例えば、ガス流路20の入口において、流路幅方向または流路高さ方向に亘って複数設けてもよい。
【0047】
放電電極81および放電用対向電極82は、それぞれ電気系統91を介して放電用電源90と接続されている。ここでは、放電電極81と放電用対向電極82との間でコロナ放電を生じさせ、放電プラズマを発生させるため、放電用電源90は、例えば、パルス電圧または交流電圧を印加する高圧電源で構成される。そして、放電用電源90によって、放電電極81と放電用対向電極82との間に、例えば3kV/mm程度の電界を印加することによりコロナ放電が生じ、プラズマ発生部80、すなわちガス流路20の入口に放電プラズマPが生成される。この放電プラズマPの作用により、浄化対象ガスEGに含まれるPMは荷電される。
【0048】
なお、酸化分解処理部40の構成は、基本的に第1の実施の形態のガス浄化装置10におけるものと同じ構成を有している。ここでは、ガス流路20を介して2つの酸化分解処理部40を対向するように配置し、かつそれぞれの酸化分解処理部40のアノード電極42が対向するように配置されている。また、図2に示すように、それぞれのアノード電極42は、それぞれ電気系統71を介して直流電源70と接続されている。
【0049】
次に、ガス浄化装置11の作用について説明する。
【0050】
まず、放電用電源90から放電電極81と放電用対向電極82との間に高圧電圧が印加される。これによって、放電電極81と放電用対向電極82との間にコロナ放電が生じ、放電プラズマPが発生する。
【0051】
一方、直流電源70によって、対向配置された酸化分解処理部40のアノード電極42間に電圧が印加され、アノード電極42間には一様な電界が形成される。
【0052】
浄化対象ガスEGに含まれるPMは、プラズマ発生部80を通過することで、放電プラズマ中のプラスイオンまたはマイナスイオンとの接触し、プラスあるいはマイナスに荷電される。
【0053】
プラズマ発生部80で荷電されたPMは、直流電源70の作用で対向するアノード電極42との間に形成された電界に作用により、いずれかのアノード電極42の表面やアノード電極42近傍の固体電解質体41の表面に捕捉される。すなわち、プラスあるいはマイナスのいずれかに荷電されたPMは、電界および単極性の放電プラズマPの作用により一様な方向に電気的な力を受けて、いずれかのアノード電極42側に捕捉される。
【0054】
上記したように、PMは、放電プラズマPによって荷電され、十分な荷電量を有し、電界の作用により一様な方向に電気的な力を受けて、いずれかのアノード電極42側に効率よく捕捉される。このように、直流電源70の作用により形成された電界は、荷電されたPMに電気的な力を与えて、いずれかのアノード電極42側に効率的に捕捉させる役割を有する。
【0055】
酸化分解処理部40では、バイアス電源60によって、アノード電極42とカソード電極43との間に所定の直流電圧を印加することで、O2−イオンが固体電解質体41中を移動し、アノード電極42側に流れ込む。アノード電極42側に捕捉されたPMは、前述した式(1)に示すように、O2−イオンと酸化反応する。すなわち、アノード電極42の表面上において、PMを構成する炭素(C)は、式(1)に示す反応により酸化分解され二酸化炭素(CO)となる。
【0056】
このように、ガス流路20内に流入した浄化対象ガスEGに含まれるPMは、酸化または酸化分解により酸素と結合した二酸化炭素(CO)として、PMが除去された浄化対象ガスEGとともに外部に排出される。
【0057】
上記したように、第2の実施の形態のガス浄化装置11によれば、固体電解質体41を有する酸化分解処理部40を備え、酸化分解処理部40に直流電圧を印加することで、O2−イオンを移動させ、酸化分解処理部40の表面に捕捉されたPMを積極的に酸化反応させることができる。
【0058】
また、ガス流路20の入口にプラズマ発生部80を備え、放電プラズマPによって浄化対象ガスEGに含まれるPMを荷電し、ガス流路20に電界を発生させることで、PMを固体電解質体41のアノード電極42側に確実に捕捉して、酸化または酸化分解により酸素と結合した二酸化炭素(CO)にすることができる。
【0059】
次に、本発明に係るガス浄化装置において、優れたPMの捕捉率が得られることを説明する。
【0060】
ここでは、図1に示したガス浄化装置10を用いてPMの捕捉率を調べた。ここでは、固体電解質体41として、GDCを使用し、アノード電極42としてAgを使用した。また、酸化分解処理部40の、アノード電極42とカソード電極43との間に印加する電圧値を調整して、イオン電流(I)を70mAの一定値とした。また、プラズマ発生部30におけるプラズマ電力を2Wh/mとした。
【0061】
図3は、PMの捕捉率の結果を示す図である。ここで、縦軸のPMの捕捉率とは、ガス浄化装置10の入口における浄化対象ガスEGに含まれるPMの濃度(Cin)からガス浄化装置10の出口における浄化対象ガスEGに含まれるPMの濃度(Cout)を減算し(Cin−Cout)、その値をガス浄化装置10の入口における浄化対象ガスEGに含まれるPMの濃度で除して((Cin−Cout)/(Cin))、百分率で示したものである。また、横軸のプラズマ電力とは、プラズマ発生部30において発生した放電プラズマの電力である。なお、放電プラズマの電力は、放電用電源の2次側の出力電圧波形および出力電流波形を測定し、その電圧と電流値を乗じた後、時間積分をして電力を求め、その電力を処理ガス流量(m/h)で除した、単位ガス流量当りのプラズマ電力である。
【0062】
図3に示すように、プラズマ電力を調整することで、90%以上のPMの捕捉率が得られた。また、ここでは示していないが、図3に示すガス浄化装置11を用いて、上記と同様の試験をしたところ同様の結果が得られた。
【0063】
次に、固体電解質材料におけるイオン導電性の温度依存特性を調べた。
【0064】
この温度依存特性は、固体電解質材料の両表面間に、バイアス電圧として18Vの電圧を印加し、固体電解質材料の温度を変化させたときのイオン電流(I)を計測し、その結果に基づいて評価された。イオン電流(I)は、バイアス電源の出力電流値を計測することで測定した。
【0065】
ここでは、固体電解質材料として、GDC((CeO0.9(Gd0.1)、8YSZ((ZrO0.92(Y0.08)、LSGM8282(La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.2)および11ScSZ((ZrO0.89(Sc0.11)を使用した。
【0066】
図4は、各固体電解質材料におけるイオン導電性の温度依存特性を調べた結果を示す図である。なお、横軸は、試験時の浄化対象ガスEGの温度を示している。また、温度は、熱電対を用いて計測した。
【0067】
図4に示すように、いずれの固体電解質材料においてもイオン電流(I)が得られているが、その中でも特に、GDCの場合には、最も低い温度においてイオン導電性の増加、すなわちイオン電流(I)の増加が発現することがわかった。
【0068】
同一の温度で比較した場合、イオン電流(I)が多いほど酸化分解処理部40のアノード電極42の表面に供給されるO2−イオン量が多くなる。これによって、アノード電極42の表面におけるPMの酸化反応を促進することができる。上記した固体電解質材料は、酸化分解処理部40の固体電解質体41として使用することはできるが、その中でもイオン電流(I)が多いGDCを使用することが好ましいことがわかった。
【0069】
次に、酸化分解処理部40のアノード電極42を構成する導電材料における、酸化反応特性を図1に示したガス浄化装置10を用いて調べた。
【0070】
酸化反応特性は、CO発生レートを計測し、その結果に基づいて評価された。CO発生レートとは、単位時間に発生するCOの質量である。CO発生レートは、COガス分析計により計測された。
【0071】
ここでは、酸化分解処理部40の固体電解質体41としてGDC((CeO0.9(Gd0.1)を用いた。アノード電極42を構成する材料として、銀(Ag)、白金(Pt)を用いてそれぞれについて評価を行った。なお、Ptは、固体酸化物型燃料電池機器の酸化物固体電解質の電極材料として汎用されている。また、酸化分解処理部40の、アノード電極42とカソード電極43との間に印加する電圧値を調整して、酸化分解処理部40の温度によらず、イオン電流(I)を70mAの一定値とした。また、プラズマ発生部30におけるプラズマ電力を2Wh/mとした。
【0072】
図5は、酸化反応特性を調べた結果を示す図である。なお、横軸は、試験時の浄化対象ガスEGの温度を示している。また、温度は、熱電対を用いて計測した。
【0073】
図5に示すように、Ptを用いた場合よりも、Agを用いた場合の方がCO発生レートが高く、酸化反応特性に優れていることがわかった。ここで、Agは、Ptよりも安価であるという利点もある。
【0074】
このAgとPtにおける上記結果は、次の理由から生じたものと考えられる。Ptの場合とは異なり、Agの場合には、アノード電極42の表面に移動したO2−イオンが、酸素吸着能に優れるAgのアノード電極42の表面上で一旦活性化されたAgOを生成する。そして、このAgOを介した、アノード電極42の表面上における炭素(C)との反応が促進されたために、上記結果が得られたものと考えられる。また、ここでは示していないが、図3に示すガス浄化装置11を用いて、上記と同様の試験をしたところ同様の結果が得られた。
【0075】
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。また、本発明に係るガス浄化装置およびガス浄化方法は、自動車の排気路に適用する以外にも、PMを含む排気ガスを排出する原動機全般、燃焼機器全般、その他工場設備など、炭素を主成分とする微粒子を含む浄化対象ガスを排出する機器などに適用することができる。
【符号の説明】
【0076】
10,11…ガス浄化装置、20…ガス流路、30,80…プラズマ発生部、31…誘電体、32,81…放電電極、33,82…放電用対向電極、40…酸化分解処理部、41…固体電解質体、42…アノード電極、43…カソード電極、50,90…放電用電源、51,61,71,91…電気系統、60…バイアス電源、70…直流電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を主成分とする微粒子を含む浄化対象ガスをガス流路に導入し、前記ガス流路内で前記微粒子を酸化または酸化分解により酸素と結合した無害の低分子ガスにして、浄化対象ガスを浄化するガス浄化装置であって、
前記ガス流路に設けられ、前記ガス流路の内壁面となる一方の表面にアノード電極を、前記ガス流路の外壁面となる他方の表面にカソード電極を有する固体電解質体を備える酸化分解処理部と、
前記ガス流路に設けられ、放電電極、および前記放電電極と誘電体を介して対向して配置された対向電極を備えるプラズマ発生部と
を具備することを特徴とするガス浄化装置。
【請求項2】
前記酸化分解処理部が、浄化対象ガスの主流方向に亘って、前記ガス流路の側壁の一部を構成し、前記プラズマ発生部が、前記ガス流路を介して前記酸化分解処理部と対向する前記ガス流路の側壁の一部を構成していることを特徴とする請求項1記載のガス浄化装置。
【請求項3】
前記プラズマ発生部が、前記ガス流路の入口に設けられ、2つの前記酸化分解処理部が、前記プラズマ発生部よりも下流側で、かつ浄化対象ガスの主流方向に亘って、前記ガス流路の対向する側壁を構成していることを特徴とする請求項1記載のガス浄化装置。
【請求項4】
前記アノード電極が、銀を主成分をとする部材で構成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のガス浄化装置。
【請求項5】
前記固体電解質体が、CeO系の部材で構成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のガス浄化装置。
【請求項6】
前記プラズマ発生部における放電形態が、沿面放電またはコロナ放電であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載のガス浄化装置。
【請求項7】
炭素を主成分とする微粒子を含む浄化対象ガスが導入されるガス流路に設けられ、前記ガス流路の内壁面となる一方の表面にアノード電極を、前記ガス流路の外壁面となる他方の表面にカソード電極を有する固体電解質体を備える酸化分解処理部と、
前記ガス流路に設けられ、放電電極、および前記放電電極と誘電体を介して対向して配置された対向電極を備えるプラズマ発生部と
を備えるガス浄化装置におけるガス浄化方法であって、
前記微粒子を前記プラズマ発生部において発生した荷電粒子と接触させて帯電させ、前記ガス流路に電界を発生させて帯電した前記微粒子を前記固体電解質体の一方の表面に捕捉し、前記アノード電極と前記カソード電極との間に電圧を印加し放電させて捕捉した前記微粒子を酸化または酸化分解により酸素と結合した無害の低分子ガスにすることを特徴とするガス浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−32872(P2011−32872A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176908(P2009−176908)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】