説明

ガス濃度制御槽

【課題】 赤外線式のガス濃度検知器を用いてガス濃度の制御を行うものであり、ガス濃度検知器を取り外すことなく、高温にすることが可能な培養装置を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明の培養装置1は、環境制御室10の壁部22に設けられた貫通孔22aにガス濃度検知器12が挿入されて取り付けられている。ガス濃度検知器12には、光源30と検出部31が設けられ、槽内ガス通過穴27に流入した環境制御室10内のガスが交差部35に流れ、光源から発光され交差部を通過した赤外線の強度を検出部によって測定し、ガス濃度を検知することができる。そして、検出部31は、壁部22よりも外側に突出した外側突出部41に配置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の培養などに用いられる培養装置や環境試験器など、槽内の所定のガス例えばCO2(二酸化炭素)などの濃度を制御できるガス濃度制御槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細胞などを培養する場合、環境条件(温度条件、湿度条件、雰囲気ガス条件等)が所定の範囲内となるようにして行われている。そして、このような培養は、環境条件を制御できる槽を用いて槽内で行われている。
このような槽における雰囲気ガス条件の制御は、雰囲気ガス濃度を検出し、その結果を基にガスを供給するなどして行われている。
【0003】
例えば、細胞などを培養する場合に用いられるCO2インキュベーターやマルチガスインキュベータでは、CO2ガスなどのガス濃度が管理される。そして、このCO2ガスなどの濃度の検出に用いられる方法として、赤外線を用いたガス濃度検知器である赤外線式ガスセンサーがある。
赤外線式ガスセンサーには、赤外線を発する光源と、サファイヤガラスなどで形成されるガス通過部(セル)と、赤外線の強度を検出できる検出部とを有している。
【0004】
赤外線式ガスセンサーを用いてCO2ガス濃度を検出する場合には、ガス通過部に槽内のガスを通過させ、光源から発光させガス通過部を通過させた赤外線の強度を、検出部にて検出する。槽内ガスのCO2濃度が高いと、ガス通過部で多くの赤外線を吸収し、検出部で検出される赤外線の強度が小さくなる。
【0005】
そして、赤外線式ガスセンサーは、ガス通過部に槽内のガスを通過させなければならない。そのため、赤外線式ガスセンサーを槽内に配置するか、或いは、特許文献1に示される培養装置のように、槽内のガスが通過するガス流路を槽とは別に設け、ガス流路を通過するガスの濃度を測定している。なお、特許文献1の培養装置では、ガス流路を槽よりも高温に維持し、ガス流路での結露などを防いでいる。
【特許文献1】特公平7−8228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
培養などに用いられる槽に雑菌などが付着していると、目的の細胞の培養を阻害するので、槽内の滅菌が行われることがある。この滅菌の方法として、槽内を高温(例えば135℃以上)に加熱し、乾熱滅菌する方法がある。このような乾熱滅菌では、槽内をアルコールなどによって消毒する方法等と比べて、もれがなく、作業性に優れるものである。
【0007】
しかしながら、赤外線式ガスセンサーの検出部は耐熱性が低いので、赤外線式ガスセンサーを槽内に配置した装置の場合、そのままの状態で槽内の温度を高温とすることができない。そのため、槽内を高温にする場合には赤外線式ガスセンサーを取り外す必要があった。
特に、CO2ガス用の高精度センサーについては、長時間高温で使用できる赤外線式のものがなく、高精度でCO2を制御する装置の場合には、高温運転する場合には赤外線式ガスセンサーを取り外していた。
【0008】
また、特許文献1の培養装置のように、ガス濃度を検知するためのガス流路を槽とは別に設け、ポンプによって槽からガスをガス流路に導入するものの場合には、このガス流路を高温にすることは難しく、ガス流路の滅菌が難しかった。
【0009】
そこで、本発明は赤外線式ガスセンサーを用いてガス濃度を検知できるものであって、赤外線式ガスセンサーを取り外すことなく、槽内を高温にすることができるガス濃度検知器付きガス濃度制御槽を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そして、上記した目的を達成するための請求項1に記載の発明は、環境制御室、ガス濃度検知器及び制御部が設けられ、前記ガス濃度検知器によって環境制御室内の所定の種類のガス濃度を検知することができ、制御部は検知されたガス濃度の結果に基づいて、環境制御室内のガス濃度が所定の範囲となるように制御を行うことができるガス濃度制御槽であって、ガス濃度検知器には、赤外線を発光する光源と、赤外線の強度を検知可能な検出部と、ガスの透過を阻止しつつ赤外線を透過させることができる赤外線透過部材が設けられ、前記光源は環境制御室内に配置され、前記検出部は環境制御室外に配置され、赤外線透過部材は光源と検出部との間に環境制御室の内外を仕切るように配置されており、光源と赤外線透過部材との間には環境制御室に通じる隙間が設けられ、光源から発光され前記隙間を通過した赤外線の強度を検出部によって測定することが可能であって、赤外線の強度を測定することにより環境制御室内の所定のガスの濃度を検知するものであることを特徴とするガス濃度制御槽である。
【0011】
請求項1に記載のガス濃度制御槽によれば、ガス濃度検知器によって環境制御室内の所定の種類のガス濃度を検知し、制御部は検知されたガス濃度の結果に基づいて、環境制御室内のガス濃度が所定の範囲となるように制御を行うものであり、所定のガスの濃度を所定の範囲に制御することができる。
また、このガス濃度制御槽のガス濃度検知器には、赤外線を発光する光源と、赤外線の強度を検知可能な検出部とが設けられて、光源から発光され環境制御室に通じる隙間を通過した赤外線の強度を検出部によって測定することにより、環境制御室内の所定のガスの濃度を検知するものであり、光源は環境制御室内に配置され、検出部は環境制御室外に配置され、赤外線透過部材は光源と検出部との間に環境制御室の内外を仕切るように配置されているので、環境制御室が高温となるように運転された場合にも、検出部の温度上昇を防ぐことができ、ガス検知器を取り外す必要がない。
【0012】
請求項2に記載の発明は、環境制御室、ガス濃度検知器及び制御部が設けられ、前記ガス濃度検知器によって環境制御室内の所定の種類のガス濃度を検知することができ、制御部が検知されたガス濃度の結果に基づいて、環境制御室内のガス濃度が所定の範囲となるように制御を行うことができるガス濃度制御槽であって、ガス濃度検知器には、内部空間を有する本体部材と、赤外線を発光する光源と、赤外線の強度を検知可能な検出部とが設けられ、前記内部空間は赤外線通過穴及び槽内ガス通過穴を有し、赤外線通過穴と槽内ガス通過穴とは交差部で交差するものであり、前記光源及び検出部は赤外線通過穴内に配置されて、前記交差部は光源と検出部との間に位置し、光源から発光され交差部を通過した赤外線の強度を検出部によって測定することが可能であって、槽内ガス通過穴に設けられた開口から交差部に環境制御室内のガスを流入させて赤外線の強度を測定することにより環境制御室内の所定のガスの濃度を検知するものであり、前記環境制御室を形成する壁部には内外を貫通する貫通孔が設けられ、ガス濃度検知器は一部が壁部よりも外側に突出するように貫通孔内に挿入され、壁部よりも外側に突出した外側突出部に検出部が配置されていることを特徴とするガス濃度制御槽である。
【0013】
請求項2に記載のガス濃度制御槽によれば、ガス濃度検知器によって環境制御室内の所定の種類のガス濃度を検知し、制御部は検知されたガス濃度の結果に基づいて、環境制御室内のガス濃度が所定の範囲となるように制御を行うものであり、環境制御室内の所定のガスの濃度を所定の範囲に制御することができる。
また、このガス濃度制御槽のガス濃度検知器には、赤外線を発光する光源と、赤外線の強度を検知可能な検出部とが設けられて、光源から発光され交差部を通過した赤外線の強度を検出部によって測定することが可能であって、槽内ガス通過穴に設けられた開口から交差部に環境制御室内のガスを流入させて赤外線の強度を測定することにより環境制御室内の所定のガスの濃度を検知するものであり、前記環境制御室を形成する壁部には内外を貫通する貫通孔が設けられ、ガス濃度検知器は一部が壁部よりも外側に突出するように貫通孔内に挿入され、壁部よりも外側に突出した外側突出部に検出部が配置されているので、環境制御室が高温となるように運転された場合にも、検出部の温度上昇を防ぐことができ、ガス検知器を取り外す必要がない。
【0014】
請求項3に記載の発明は、ガス濃度検知器は一部が壁部よりも内側に突出するように貫通孔内に挿入され、壁部よりも内側に突出した内側突出部に槽内ガス通過穴の開口が位置していることを特徴とする請求項2に記載のガス濃度制御槽である。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、ガス濃度検知器は一部が壁部よりも内側に突出するように貫通孔内に挿入され、壁部よりも内側に突出した内側突出部に槽内ガス通過穴の開口が位置しているので、環境制御室内のガスを取り込みやすく、また、高温運転の際に槽内ガス通過穴が高温となり滅菌することができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、槽内ガス通過穴は直線状に貫通した貫通孔であり、ガス濃度検知器が壁部に取り付けられた状態では、槽内ガス通過穴の方向が壁部の面に沿う方向となっていることを特徴とする請求項3に記載のガス濃度制御槽である。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、槽内ガス通過穴は直線状に貫通した貫通孔であり、槽内ガス通過穴の方向が壁部の面に沿う方向となっているので、壁部を沿って流れる環境制御室内のガスを槽内ガス通過穴へ流入させやすい。
【0018】
請求項5に記載の発明は、ガス濃度検知器の本体部材の外形は、フランジ部を有する円柱状であり、赤外線通過穴は、本体部材の円柱の軸心付近に設けられていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のガス濃度制御槽である。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、ガス濃度検知器の本体部材の外形は、フランジ部を有する円柱状であり、赤外線通過穴は、本体部材の円柱の軸心付近に設けられているので、ガス濃度検知器の本体部材の製作が容易であり、また壁部への固定もしやすい。
【0020】
請求項6に記載の発明は、ガス濃度検知器の本体部材には交差部とつながる基準ガス穴が設けられ、基準ガスを基準ガス穴から交差部へ導入することができることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のガス濃度制御槽である。
【0021】
請求項6に記載の発明によれば、ガス濃度検知器の本体部材には交差部とつながる基準ガス穴が設けられ、基準ガスを基準ガス穴から交差部へ導入することができるので、環境制御室内のガスが流入したときの赤外線の強度と、基準ガスを交差部に導入した時の赤外線の強度とを比較して、ガス濃度を検知することができる。
【0022】
請求項7に記載の発明は、赤外線を透過することが可能なセル部材が設けられ、前記セル部材は光源と交差部との間、及び、検出部と交差部との間の2ヵ所に配置されていることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のガス濃度制御槽である。
【0023】
請求項7に記載の発明によれば、光源と交差部との間、及び、検出部と交差部との間の2ヵ所にセル部材が配置されているので、槽内ガス通過穴からのガスが、光源側や検出部側に流れにくくすることができる。
【0024】
請求項8に記載の発明は、光源は発熱するものであり、光源の発熱によってセル部材を加熱することができることを特徴とする請求項7に記載のガス濃度制御槽である。
【0025】
請求項8に記載の発明によれば、光源の発熱によってセル部材を加熱することができるので、セル部材の結露を防ぐことができる。
【0026】
環境制御室の温度を135℃以上に加熱することを可能にしてもよい(請求項9)。
また、環境制御室内で細胞の培養ができるようにすることもできる(請求項10)。
【発明の効果】
【0027】
本発明のガス濃度制御槽では、ガス濃度検知器を用いてガス濃度を検知して、この結果に基づいてガス濃度を制御することができ、またこのガス濃度検知器を取り外すことなく槽内を高温にすることができ、乾熱滅菌などをすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下さらに本発明の具体的実施例について説明する。図1は、本発明の第1の実施形態における培養装置を示す斜視図である。図2は、ガス濃度検知器と壁部を示した分解斜視図である。図3は、ガス濃度検知器の断面斜視図である。図4は、ガス濃度検知器と壁部を示した断面図である。図5は、培養装置のガスの流れを示した模式図である。図6は、ガス濃度検知器の変形例を示した斜視図である。
【0029】
本発明の第1の実施形態の培養装置(ガス濃度制御槽)1は、図1に示されており、環境制御室10、制御部11及びガス濃度検知器12が設けられている。
環境制御室10には本体部20と扉部21が設けられており、扉部21を閉めて環境制御室10内をほぼ密閉状態とすることができる。そして、後述するように、環境制御室10は制御部11によって入力された環境条件となるように制御されており、培養装置1を使用する際には、環境制御室10内の環境を所定の条件に保つことができる。
【0030】
制御部11は、環境制御室10内の環境の制御を行うものである。そして、制御部11に設けられた操作部23を用いて入力することによりこの環境条件を設定したり、変更したりすることができる。本実施形態の培養装置1では、温度、湿度、CO2ガス濃度を制御することができ、環境制御室10内で細胞などの培養が可能である。
【0031】
そして、培養装置1には図示しない温度センサ、湿度センサ、ヒータ、加湿器などが設けられており、温度センサ、湿度センサで環境制御室10内の温度、湿度を検知しながら、ヒータ、加湿器などを作動させ、環境制御室10内を操作部23で設定した温度、湿度に保つことができる。
また、ガス濃度検知器12によってCO2ガス濃度を検知して、必要に応じて培養装置1に接続されているガスボンベ25からCO2ガスを導入して、環境制御室10内を操作部23で設定したCO2ガス濃度に保つことができる。
【0032】
ガス濃度検知器12は具体的には赤外線式ガスセンサーである。そして、ガス濃度検知器12は、非分散型赤外線吸収法(ND−IR)と呼ばれる方式のものが用いられており、CO2ガスによって吸収される赤外線の強度を計測することによりCO2ガス濃度を測定するものである。
【0033】
ガス濃度検知器12は、図1、図4に示されるように、環境制御室10の壁部22に設けられている。また、図2に示すように、壁部22には貫通孔22aが設けられおり、ガス濃度検知器12は貫通孔22a内に挿入されて固定される。また、ガス濃度検知器12が挿入されると、その一部が壁部22よりも外側及び内側に突出し、そして、壁部22より外側に突出した外側突出部41と、壁部22より内側に突出した内側突出部42が形成される。
なお、壁部22には、ガス濃度検知器12が挿入される貫通孔22a以外に、外気導入管36が挿入される貫通孔22bが設けられている。
【0034】
ガス濃度検知器12には本体部材29、光源30、検出部31及び2枚のセル部材32、33が設けられており、本体部材29の内部に設けられた内部空間12bに光源30、検出部31及び2枚のセル部材32、33が配置されている。
そして、セル部材32は光源30と交差部35との間に配置され、セル部材33は検出部31と交差部35との間に配置されている。このため、槽内ガス通過穴27からのガスが、光源30側や検出部31側に流れにくくすることができる。また、セル部材33は、光源30と検出部31との間であって環境制御室10の内外を仕切るように配置されている。
【0035】
そして、光源30と検出部31との間にガスを通じ、光源30から発する赤外線がこのガスにより吸収される程度を確認することにより、ガス内のCO2ガス濃度を検知することができる。
【0036】
本体部材29の外形はフランジ部12aを有する円柱状である。そして、ガス濃度検知器12の本体部材29の内部の構造は、図3、4に示されており、本体部材29の内部空間12bには、直線状に延びる3つの穴が設けられ、具体的には、赤外線通過穴26、槽内ガス通過穴27、基準ガス穴28が設けられている。
なお、図3はガス濃度検知器12の断面斜視図であるが、断面部分のハッチングは省略している。
【0037】
赤外線通過穴26は、本体部材29の外形の円柱の軸心付近に位置している円形の穴である。後述するように、ガス濃度検知器12を壁部22の貫通孔22aに挿入すると、赤外線通過穴26の向きは、壁部22の貫通孔22aの向きとほぼ同じ方向に向く。そして、赤外線通過穴26の一方の端部26a側に光源30が配置され、他方の端部26b側付近に検出部31が配置されている。さらに、光源30と検出部31との間に、セル部材32、33が配置されている。
したがって、光源30は環境制御室10内に配置され、検出部31は環境制御室10外に配置されている。
【0038】
また、槽内ガス通過穴27は赤外線通過穴26にほぼ直交するように形成され、槽内ガス通過穴27と赤外線通過穴26とは交差部35で交わっている。槽内ガス通過穴27は貫通孔であり、槽内ガス通過穴27の両端部分に開口27a、27bが形成される。そして、ガス濃度検知器12を環境制御室10に取り付けた状態では、開口27a、27bは内側突出部42に位置し、環境制御室10内と槽内ガス通過穴27が通じている。そのため、環境制御室10内のガスは、いずれかの開口27a、27bから槽内ガス通過穴27に入り、他方の開口27b、27aから排出されるように流れることが可能である。
そして、交差部35の位置は、赤外線通過穴26に配置された2枚のセル部材32、33の間であり、上記した環境制御室10内のガスは2枚のセル部材32、33の間を通過することとなる。
したがって、2枚のセル部材32、33の間に位置する交差部35は、光源30とセル部材33との間に設けられ、環境制御室10に通じる隙間である。
【0039】
基準ガス穴28は、交差部35と外部をつなぐ穴であり、開口28aを有している。開口28aは外気導入管36と接続しており、必要に応じて外気を導入することができる。この外気は、基準ガスとして用いられるものであり、本実施形態ではこの外気はCO2濃度0%ガスの基準ガスとして使用される。そして、開口28aから導入された外気は交差部35に流れる。
基準ガス穴28と赤外線通過穴26とは、ほぼ直交しており、基準ガス穴28と槽内ガス通過穴27とは約45°の角度で交わっている。
【0040】
本体部材29は蓋部29aを有し、蓋部29aはボルト29bによって着脱可能に固定されている。そして、赤外線通過穴26内に設けられる検出部31などを交換する場合には、蓋部29aを取り外して行うことができる。
【0041】
光源30は、検出の対象となるCO2ガスにより吸収される波長域を含む赤外線を発光することができる。本実施形態の光源30は、使用時には約900℃付近まで加熱される。そのため、光源30の発熱によってセル部材32、33を50℃程度に加熱することができ、後述するように、高湿度となる培養条件の運転の際に、セル部材32、33の結露を防止することができる。なお、ガス濃度検知器12内に配置される電気ケーブルが設けられており、この電気ケーブルが光源30に接続され、赤外線を発光させるためのエネルギーを供給することができる。
【0042】
そして、図4に示されるように、光源30から発光した赤外線は、2枚のセル部材32、33を通過して検出部31に至る。検出部31は、赤外線の強度を測定することができるものである。検出部31による赤外線の強度の測定は、赤外線のエネルギー量などを用いて行われる。
また、検出部31にはセンサー部31aと基板部31bが設けられ、センサー部31aが受ける赤外線の量に応じて発する信号を基板部31bで増幅して出力される。そして、この出力は、電線31cを通じて制御部11へ伝達される。
【0043】
セル部材32、33は、サファイアガラスなどが用いられている。そして、セル部材32、33は、ガスの透過を阻止しつつ赤外線を透過させることができるものであり、赤外線透過部材として機能する。そして、光源30や検出部31側に、環境制御室10内のガスや基準ガスなどのガスが流れないようにすることができる。
【0044】
なお、セル部材32、33や検出部31など、赤外線が通過する光路上に光学フィルターを設け、必要な波長の赤外線を通過させながら、通過させたくない波長の赤外線、例えば、水蒸気により吸収される波長域の赤外線を遮断することができる。そして、このような光学フィルターを用いることにより、CO2ガスの濃度をより正確に測定することができる。本実施形態のガス濃度検知器12では、後述する高温運転の際に、セル部材32、33が高温となりやすく、セル部材32、33上に光学フィルター層を設けると光学フィルター層が剥離しやすい。従って光学フィルター層は、検出部31の入光部などに設けるのが望ましい。
【0045】
ガス濃度検知器12は、図4に示されるように、環境制御室10の壁部22に固定される。この固定は、本体部材29の周壁に設けられたフランジ部12aが壁部22に当たるまで、ガス濃度検知器12を壁部22の貫通孔22aに挿入して行われる。そして、ガス濃度検知器12を挿入すると、ガス濃度検知器12の一部が外側及び内側に壁部22よりも突出して、壁部22より外側に突出した外側突出部41と、壁部22より内側に突出した内側突出部42を形成する。
【0046】
そして、ガス濃度検知器12の光源30が内側突出部42に配置され、検出部31が外側突出部41に配置されている。したがって、環境制御室10を使用する場合、内側突出部42に配置される光源30側の温度は、環境制御室10内の温度に近くなるが、外側突出部41に配置される検出部31の温度は、環境制御室10内の温度の影響を受けにくい。
【0047】
そして、ガス濃度検知器12では、槽内ガス通過穴27の開口27a、27bから入った環境制御室10内のガス、又は、基準ガス穴28の開口28aから入った外気が、交差部35に流れる。また、光源30から発した赤外線は、交差部35を通過して検出部31に至るが、交差部35でCO2ガスの濃度に応じて赤外線が吸収され、CO2ガス濃度が高いほど検出部31での赤外線の検出量が小さくなる。
【0048】
この検出部31で検出された赤外線の強度により、CO2ガス濃度を検知することができる。具体的には、環境制御室10内のガスを入れたときの赤外線の強度を測定し、基準ガス穴28の開口28aから外気を導入したときの赤外線の強度と比較することにより求められる。具体的には、外気導入時のCO2ガス濃度を0%として、赤外線の強度比較により赤外線の吸収量を導出して、CO2ガス濃度が求められる。なお、基準ガス穴28の開口28aからの外気導入は一定周期で行われる。
【0049】
なお、上記方法では、セル部材32、33の間に形成されるセルは単一で、光源も単一であり、セル内のガスを入れ換えるいわゆる単光源単一セル方式である。しかし、これに限定されるものでなく、検出部31を外側突出部41に配置することにより、高温使用時の温度上昇を防いた形で検知部31などを使用することができれば、他の方式、例えば、複数の光源やセルを使用する方式も用いることができる。
【0050】
そして、本実施形態の培養装置1は、培養運転及び高温運転の条件で運転することができる。培養運転の例としては、温度が30〜40℃、湿度が95%以上、CO2ガス濃度が5%である。また、高温運転の例としては温度が135℃である。なお、この条件以外の条件でも運転することができる。
【0051】
培養装置1を用いて細胞などを培養する場合には、培地をセットしたシャーレに培養する細胞を入れ、そのシャーレを環境制御室10内に配置し、培養を行う環境条件を操作部23を用いて入力し、培養運転を行う。そうすると、環境制御室10内は入力された環境条件(温度条件、湿度条件、雰囲気ガス条件)で制御され、細胞の培養をすることができる。
【0052】
本実施形態の培養装置1では、CO2ガス濃度を検知できるガス濃度検知器12が設けられて、CO2ガス濃度を所定の範囲に維持するように制御することができ、かかる環境で細胞の培養を行うことができる。
【0053】
このとき図5に示されるように、環境制御室10内のガスが、ガス濃度検知器12の槽内ガス通過穴27に入って交差部35に至る。そして、交差部35で環境制御室10内のガスによって赤外線が吸収され、検出部31で赤外線強度を検出することにより、環境制御室10内のCO2ガス濃度を検知することができる。なお、外気導入管36から基準ガス穴28を通じて一定周期で外気を導入して、検出部31で赤外線を検出することにより、かかる際の赤外線の検出量をCO2ガス0%という基準として用いている。
【0054】
また、槽内ガス通過穴27は直線状に貫通した貫通孔であるので、図5に示されるように、培養装置1を使用する際の、環境制御室10内のガスの流れに槽内ガス通過穴27の方向を合わせるように配置することで、槽内ガス通過穴27へ環境制御室10内のガスを流入させることができる。
本実施形態のガス濃度検知器12の槽内ガス通過穴27は、ガス濃度検知器12の外形の円柱の軸心に対して垂直な方向に貫通した貫通孔であるので、ガス濃度検知器12が取り付けられると、壁部22の面に沿う方向となり、槽内ガス通過穴27へ環境制御室10内のガスが流入しやすい。
【0055】
細胞の培養が一旦終わり、次の細胞の培養を行う前に、環境制御室10内の滅菌が行われる。この滅菌は、環境制御室10内を高温にする高温運転により行われる。そして、環境制御室10内の温度は所定の時間135℃程度の高温にされる。
そうすると、環境制御室10内や、ガス濃度検知器12の槽内ガス通過穴27内がかかる温度になり、扉部21の開閉の際などに進入した雑菌などを死滅させることができる。
【0056】
また、高温運転を行った場合でも、検知部31は環境制御室10の外側に位置しており、検知部31が加熱されにくいので、ガス濃度検知器12を取り付けた状態で高温運転を行うことができる。
【0057】
上記したガス濃度検知器12では、内部空間12bが設けられた本体部材29を有し、内部空間12bに光源30及び検出部31が配置された構造であったが、図6に示すような構造を有するガス濃度検知器60を用いることもできる。
【0058】
図6に示されるように、ガス濃度検知器60には、光源30、検出部31、固定部材61及び赤外線透過部材62が設けられている。そして、ガス濃度検知器60を有する培養装置2の壁部22には貫通孔22aが設けられ、貫通孔22aを塞ぐように赤外線透過部材62が配置されている。
また、壁部22の環境制御室10側には固定部材61が固定されており、固定部材61に光源30が固定されている。また、光源30は貫通孔22aの位置に合わせて配置されており、固定部材61の光源30が固定される部分は壁部22や赤外線透過部材62から離れている。そのため、光源30と赤外線透過部材62との間には環境制御室10内に通じる隙間63が形成される。
【0059】
検出部31は壁部22の外側に設けられており、貫通孔22aの位置に合わせて配置されている。また、赤外線透過部材62はガスの透過を阻止しつつ赤外線を透過させることができる材質であり、上記したセル部材32、33と同じ材質ものが用いられている。
そのため、光源30から発光された赤外線は、隙間63、赤外線透過部材62及び貫通孔22aを通過して検出部31に至る。そして、検出部31で赤外線の強度を測定し、この強度によって、環境制御室10内のCO2ガス濃度を検知することができる。
【0060】
さらに、ガス濃度検知器12の環境制御室10よりも外側部分を冷却する冷却手段を設けてもよく、かかる場合には、高温運転の際の検知部31の温度上昇をより小さくすることができる。
また、環境制御室10で制御されるガスは、CO2ガス以外であってもよい。そして、ガス濃度検知器12、60を有する培養装置1、2を細胞の培養以外の用途に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施形態における培養装置を示す斜視図である。
【図2】ガス濃度検知器と壁部を示した分解斜視図である。
【図3】ガス濃度検知器の断面斜視図である。
【図4】ガス濃度検知器と壁部を示した断面図である。
【図5】培養装置のガスの流れを示した模式図である。
【図6】ガス濃度検知器の変形例を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
1、2 培養装置(ガス濃度制御槽)
10 環境制御室
11 制御部
12、60 ガス濃度検知器
12a フランジ部
12b 内部空間
22 壁部
22a 貫通孔
26 赤外線通過穴
27 槽内ガス通過穴
27a、27b 開口
28 基準ガス穴
29 本体部材
30 光源
31 検出部
32、33 セル部材
35 交差部
62 赤外線透過部材
63 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境制御室、ガス濃度検知器及び制御部が設けられ、前記ガス濃度検知器によって環境制御室内の所定の種類のガス濃度を検知することができ、制御部は検知されたガス濃度の結果に基づいて、環境制御室内のガス濃度が所定の範囲となるように制御を行うことができるガス濃度制御槽であって、
ガス濃度検知器には、赤外線を発光する光源と、赤外線の強度を検知可能な検出部と、ガスの透過を阻止しつつ赤外線を透過させることができる赤外線透過部材が設けられ、前記光源は環境制御室内に配置され、前記検出部は環境制御室外に配置され、赤外線透過部材は光源と検出部との間に環境制御室の内外を仕切るように配置されており、光源と赤外線透過部材との間には環境制御室に通じる隙間が設けられ、
光源から発光され前記隙間を通過した赤外線の強度を検出部によって測定することが可能であって、赤外線の強度を測定することにより環境制御室内の所定のガスの濃度を検知するものであることを特徴とするガス濃度制御槽。
【請求項2】
環境制御室、ガス濃度検知器及び制御部が設けられ、前記ガス濃度検知器によって環境制御室内の所定の種類のガス濃度を検知することができ、制御部は検知されたガス濃度の結果に基づいて、環境制御室内のガス濃度が所定の範囲となるように制御を行うことができるガス濃度制御槽であって、
ガス濃度検知器には、内部空間を有する本体部材と、赤外線を発光する光源と、赤外線の強度を検知可能な検出部とが設けられ、前記内部空間は赤外線通過穴及び槽内ガス通過穴を有し、赤外線通過穴と槽内ガス通過穴とは交差部で交差するものであり、前記光源及び検出部は赤外線通過穴内に配置されて、前記交差部は光源と検出部との間に位置し、光源から発光され交差部を通過した赤外線の強度を検出部によって測定することが可能であって、槽内ガス通過穴に設けられた開口から交差部に環境制御室内のガスを流入させて赤外線の強度を測定することにより環境制御室内の所定のガスの濃度を検知するものであり、
前記環境制御室を形成する壁部には内外を貫通する貫通孔が設けられ、ガス濃度検知器は一部が壁部よりも外側に突出するように貫通孔内に挿入され、壁部よりも外側に突出した外側突出部に検出部が配置されていることを特徴とするガス濃度制御槽。
【請求項3】
ガス濃度検知器は一部が壁部よりも内側に突出するように貫通孔内に挿入され、壁部よりも内側に突出した内側突出部に槽内ガス通過穴の開口が位置していることを特徴とする請求項2に記載のガス濃度制御槽。
【請求項4】
槽内ガス通過穴は直線状に貫通した貫通孔であり、ガス濃度検知器が壁部に取り付けられた状態では、槽内ガス通過穴の方向が壁部の面に沿う方向となっていることを特徴とする請求項3に記載のガス濃度制御槽。
【請求項5】
ガス濃度検知器の本体部材の外形は、フランジ部を有する円柱状であり、赤外線通過穴は、本体部材の円柱の軸心付近に設けられていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のガス濃度制御槽。
【請求項6】
ガス濃度検知器の本体部材には交差部とつながる基準ガス穴が設けられ、基準ガスを基準ガス穴から交差部へ導入することができることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載のガス濃度制御槽。
【請求項7】
赤外線を透過することが可能なセル部材が設けられ、前記セル部材は光源と交差部との間、及び、検出部と交差部との間の2ヵ所に配置されていることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のガス濃度制御槽。
【請求項8】
光源は発熱するものであり、光源の発熱によってセル部材を加熱することができることを特徴とする請求項7に記載のガス濃度制御槽。
【請求項9】
環境制御室の温度を135℃以上に加熱することが可能であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のガス濃度制御槽。
【請求項10】
環境制御室内で細胞の培養が可能であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のガス濃度制御槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−201101(P2006−201101A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15102(P2005−15102)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】