説明

ガス濃度検出装置の異常診断装置

【課題】空燃比検出装置の増幅回路44の異常の有無を適切に診断することのできる空燃比検出装置の異常診断装置を提供する。
【解決手段】燃料カット制御が開始されてから規定時間経過したと判断された場合、異常診断処理を開始する。詳しくは、増幅回路44の増幅率がLowゲインとされる状況下、増幅回路44の出力信号(A/F出力電圧)が閾値電圧を上回ると判断された場合、Lowゲイン側にスイッチ素子50を切り替えることができなくなる異常が生じている旨診断する。また、増幅回路44の増幅率がHighゲインとされる状況下、A/F出力電圧が閾値電圧以下になると判断された場合、Highゲイン側にスイッチ素子50を切り替えることができなくなる異常が生じている旨診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガス中の特定成分の濃度を広域に検出可能であって且つ該特定成分の濃度に応じた信号を出力するガス濃度センサと、スイッチ素子を有して且つ該スイッチ素子の切替によって前記ガス濃度センサの出力信号の増幅率を可変設定可能な増幅回路とを備え、前記増幅回路の出力信号に基づき前記特定成分の濃度を算出するガス濃度検出装置に適用されるガス濃度検出装置の異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に見られるように、センサ素子を有して且つ被検出ガス中の特定成分の濃度を広域に検出可能なガス濃度センサと、センサ素子の電流信号を増幅する増幅回路とを備え、増幅回路から出力される電気信号に基づきガス濃度演算を実施するガス濃度検出装置が知られている。詳しくは、この装置では、増幅回路の備えるスイッチ素子の切替によって増幅回路の増幅率を可変設定可能となっている。この装置によれば、被検出ガス中の特定成分の濃度の検出レンジを調節するとともに、所望とする検出レンジにおける特定成分の濃度の検出精度を向上させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−315943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記装置の備える増幅回路のスイッチ素子の切替を正常に行うことができなくなる異常が生じ得る。この場合、被検出ガス中の特定成分の濃度を適切に検出することができなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ガス濃度検出装置の増幅回路の異常の有無を適切に診断することのできるガス濃度検出装置の異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
請求項1記載の発明は、被検出ガス中の特定成分の濃度を検出可能であって且つ該特定成分の濃度に応じた信号を出力するガス濃度センサと、スイッチ素子を有して且つ該スイッチ素子の切替によって前記ガス濃度センサの出力信号の増幅率を可変設定可能な増幅回路とを備え、前記増幅回路の出力信号に基づき前記特定成分の濃度を算出するガス濃度検出装置に適用され、前記スイッチ素子の切替によってワイドレンジの増幅率又はナローレンジの増幅率が選択可能とされており、前記ナローレンジの増幅率は、前記ワイドレンジの増幅率よりも大きく設定されるとともに、前記被検出ガス中の特定成分の濃度が規定濃度になる状況下において前記増幅回路の出力信号が所定範囲から外れるように設定され、前記ワイドレンジの増幅率は、前記被検出ガス中の特定成分の濃度が前記規定濃度になる状況下において前記増幅回路の出力信号が前記所定範囲に収まるように設定され、前記被検出ガス中の特定成分の濃度が前記規定濃度になると想定されて且つ前記ワイドレンジが選択されている状況下、前記増幅回路の出力信号が前記所定範囲から外れると判断されることに基づき前記増幅回路に異常が生じている旨診断する処理、及び前記被検出ガス中の特定成分の濃度が前記規定濃度になると想定されて且つ前記ナローレンジが選択されている状況下、前記増幅回路の出力信号が前記所定範囲に収まると判断されることに基づき前記増幅回路に異常が生じている旨診断する処理のうち少なくとも1つを行う診断手段を備えることを特徴とする。
【0008】
上記発明では、上記態様にてワイドレンジ及びナローレンジの増幅率が設定されている。このため、被検出ガス中の特定成分の濃度が規定濃度になると想定されて且つワイドレンジが選択されている状況下において、増幅回路の出力信号が所定範囲から外れると判断されることに基づき、スイッチ素子をワイドレンジ側に切り替えることができなくなる異常が生じている旨診断することができる。
【0009】
また、被検出ガス中の特定成分の濃度が規定濃度になると想定されて且つナローレンジが選択されている状況下において、増幅回路の出力信号が所定範囲に収まると判断されることに基づき、スイッチ素子をナローレンジ側に切り替えることができなくなる異常が増幅回路に生じている旨診断することもできる。
【0010】
こうした上記発明によれば、増幅回路の異常の有無を適切に診断することができる。
【0011】
請求項2,3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記診断手段は、前記被検出ガス中の特定成分の濃度が特定の濃度になると想定される状況下、前記スイッチ素子の切替に伴って前記増幅回路の出力信号が変化しないと判断されることに基づき、前記増幅回路に異常が生じている旨診断する処理を行うことを特徴とする。
【0012】
被検出ガス中の特定成分の濃度が特定の濃度になる状況下において、増幅回路のスイッチ素子の切替を正常に行うことができる場合、スイッチ素子の切替に伴って増幅回路の出力信号が変化する。これに対し、スイッチ素子の切替を正常に行うことができない場合には、スイッチ素子の切替に伴って増幅回路の出力信号が変化しない。
【0013】
この点に鑑み、上記発明では、被検出ガス中の特定成分の濃度が特定の濃度になると想定される状況下、スイッチ素子の切替に伴って増幅回路の出力信号が変化しないと判断されることに基づき、増幅回路に異常が生じている旨診断することができる。
【0014】
なお、上記特定の濃度は、例えば、増幅回路の各増幅率のそれぞれに対応する出力信号が同一となる特定成分の濃度以外の濃度として設定すればよい。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記ガス濃度センサは、内燃機関から排気通路へと排出される排気を被検出ガスとして且つ前記排気通路に設けられるセンサであり、前記規定濃度とは、前記排気通路における前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされる状況下における前記被検出ガス中の特定成分の濃度であり、前記診断手段は、前記排気通路における前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされると想定される状況下、前記診断を行うことを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされると想定される状況とは、前記内燃機関の燃料カット制御が実行中であると判断される状況であることを特徴とする。
【0017】
上記発明では、ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされる状況を適切に判断することができる。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項4又は5記載の発明において、前記ガス濃度センサには、通電により該センサを加熱するヒータが設けられ、所定の指令信号を入力として、前記内燃機関の始動前に前記ヒータに通電する処理を行う処理手段を更に備え、前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされると想定される状況とは、前記処理手段によって前記ヒータに通電中であると判断される状況であることを特徴とする。
【0019】
ガス濃度センサは通常、その温度が所定の高温となって活性状態とされることで、排気中の特定成分の濃度を適切に検出することができる。このため、上記発明では、エンジンの始動前に、ヒータの通電操作によってガス濃度センサの温度を上昇させるようにしている。ここで、ヒータは通電操作される状況は、エンジン始動前であるため、排気通路が大気で満たされている蓋然性が高い状況であると考えられる。この点に鑑み、上記発明では、上記態様にてガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされる状況を適切に判断することができる。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記ガス濃度センサは、内燃機関から排気通路へと排出される排気を被検出ガスとして且つ前記排気通路に設けられるセンサであり、前記ガス濃度検出装置は、前記増幅回路の出力信号に基づき空燃比を算出するものであり、ストイキを含むストイキ近傍のナローレンジと、該ナローレンジを含んで且つ該ナローレンジのリッチ側限界よりもリッチ側の領域とリーン側限界よりもリーン側の領域とを含むワイドレンジとが予め規定され、前記スイッチ素子の切替によって前記ワイドレンジの増幅率又は前記ナローレンジの増幅率が選択可能とされており、前記ナローレンジの増幅率は、前記ワイドレンジの増幅率よりも大きく設定されるとともに、前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされる状況下において前記増幅回路の出力信号が所定範囲から外れるように設定され、前記ワイドレンジの増幅率は、前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされる状況下において前記増幅回路の出力信号が前記所定範囲に収まるように設定されていることを特徴とする。
【0021】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記ガス濃度検出装置は、前記ガス濃度センサが有するセンサ素子への電圧印加時に該センサ素子に流れる電流を計測するための電流計測用抵抗、オペアンプ及び前記増幅率を決定するための複数の増幅用抵抗を備えて構成されるものであり、前記増幅回路は、前記オペアンプ及び前記複数の増幅用抵抗を備えるとともに、前記電流計測用抵抗によって計測された電流信号を増幅するものであり、前記複数の増幅用抵抗は、前記増幅回路の入力抵抗及び帰還抵抗のそれぞれに分割されて用いられるものであり、前記スイッチ素子は、前記複数の増幅用抵抗の中から前記入力抵抗及び前記帰還抵抗となるものを選択可能なように設けられることを特徴とする。
【0022】
請求項9記載の発明は、請求項1〜8のいずれか1項に記載の発明において、前記診断手段によって前記増幅回路に異常が生じている旨診断されることに基づき、その旨を外部に報知する報知手段を更に備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかる空燃比検出装置の回路構成を示す図。
【図3】同実施形態にかかる空燃比及びA/F出力電圧の関係を示す図。
【図4】同実施形態にかかる異常診断処理の手順を示すフローチャート。
【図5】同実施形態にかかる異常診断処理の一例を示すタイムチャート。
【図6】同実施形態にかかる異常診断処理の一例を示すタイムチャート。
【図7】第2の実施形態にかかる異常診断処理の手順を示すフローチャート。
【図8】第3の実施形態にかかる異常診断処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる異常診断装置を車載エンジンシステムの空燃比検出装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に、本実施形態にかかるシステム構成を示す。
【0026】
図示されるエンジン10は、火花点火式内燃機関である。エンジン10の吸気通路12には、上流側から順に、吸気量を検出するエアフローメータ14と、吸気通路12を流れる吸気量を調節するスロットルバルブ16とが設けられている。吸気通路12のうちスロットルバルブ16の下流側は、エンジン10の図示しない燃焼室につながっている。
【0027】
エンジン10には、燃焼室に燃料を供給する電子制御式の燃料噴射弁18と、燃焼室に放電火花を発生させる点火プラグ20とが設けられている。燃料噴射弁18によって供給された燃料と吸気との混合気は、点火プラグ20の放電火花によって燃焼室において燃焼に供される。そして、燃焼に供された混合気は、排気として排気通路22に排出される。
【0028】
排気通路22には、排気中の有害成分を浄化する排気浄化用触媒(以下、触媒24)が設けられている。本実施形態では、触媒24として、排気中のNOx、HC及びCOを浄化する三元触媒を想定している。なお、三元触媒は、その温度が所定の活性温度域内となって且つ、混合気の空燃比が理論空燃比(ストイキ)近傍となる状態において排気浄化能力を高く維持可能なものである。
【0029】
排気通路22のうち、触媒24の上流側には、排気中の特定成分(酸素濃度や、CO,HC,H2等の未燃成分)に応じてリニアな電気信号を出力するA/Fセンサ26が設けられている。A/Fセンサ26は、混合気の空燃比を広域に検出可能ないわゆる全領域空燃比センサであり、その温度が所定の高温となって活性状態とされることで、空燃比の検出精度を維持可能なものである。
【0030】
A/Fセンサ26の出力信号は、センサ制御回路28を介して電子制御装置(以下、ECU30)に入力される。以下、本実施形態にかかるA/Fセンサ26及びセンサ制御回路28の構成について詳述する。
【0031】
図2は、本実施形態にかかるA/Fセンサ26及びセンサ制御回路28等を備える空燃比検出装置の回路構成を示す図である。
【0032】
図示されるように、上記A/Fセンサ26は、ヒータ26a及びセンサ素子26b等を備えて構成されている。ヒータ26aは、車載バッテリ32から給電されることにより発熱する線状の発熱体よりなり、その発熱によりセンサ素子26bを加熱する機能を有する。また、センサ素子26bは、固体電解質等からなるものである。なお、本実施形態では、センサ素子26bとして、特開2007−315943号公報の図2に示す構成を採用することとする。
【0033】
上記センサ制御回路28において、センサ素子26bの正極端子(+端子)には、電流検出抵抗34(電流計測用抵抗)を介してオペアンプ36の出力端子が接続されている。オペアンプ36の非反転入力端子には、基準電圧Vfを有する電源38が接続されており、反転入力端子には、センサ素子26bの正極端子と電流検出抵抗34との接続点が接続されている。こうした構成によれば、電流検出抵抗34とセンサ素子26bの正極端子との接続点(A点)の電圧は、基準電圧Vfと同じ電圧に保持される。
【0034】
一方、センサ素子26bの負極端子(−端子)には、オペアンプ40を介して印加電圧制御回路42が接続されている。詳しくは、オペアンプ40の出力端子には、センサ素子26bの負極端子が接続されている。また、オペアンプ40の非反転入力端子には印加電圧制御回路が接続され、反転入力端子には、オペアンプ40の出力端子とセンサ素子26bの負極端子との接続点(D点)が接続されている。こうした構成によれば、D点の電圧は、印加電圧制御回路42の印加電圧と同じ電圧に保持される。
【0035】
上記オペアンプ36の出力端子と電流検出抵抗34との接続点(B点)の電圧は、混合気の空燃比の変化によって変化する。詳しくは、混合気の空燃比がリーンとなる(排気中の酸素濃度が高くなる)場合、センサ素子26bの正極端子から負極端子へと電流が流れる現象が生じるため、B点の電圧が上昇する。一方、空燃比がリッチとなる(排気中の酸素濃度が低くなる)場合、センサ素子26bの負極端子から正極端子へと電流が流れる現象が生じるため、B点の電圧が低下する。
【0036】
上記印加電圧制御回路42では、B点の電圧をモニタするとともにその電圧値に応じてセンサ素子26bに印加すべき電圧を設定し、オペアンプ40を介してD点の電圧を制御する機能を有する。印加電圧制御回路42のこうした機能によれば、電流検出抵抗34を流れる素子電流が混合気の空燃比の増減(リーン・リッチの度合い)に対応するものとなる。詳しくは、空燃比がリーンになるほど素子電流が増大し、空燃比がリッチになるほど素子電流が減少する。
【0037】
電流検出抵抗34の両端であるA点及びB点には、増幅回路44が接続されている。増幅回路44は、オペアンプ46、複数(3つ)の増幅用抵抗48a〜48cの直列接続体及びスイッチ素子50を備えて構成されている。なお、スイッチ素子50としては、例えばMOSトランジスタを採用することができる。また、以降、増幅用抵抗48a〜48cの抵抗値をそれぞれ、Ra,Rb,Rcとする。
【0038】
増幅回路44の構成について詳述すると、オペアンプ46の非反転入力端子には上記B点が接続され、反転入力端子にはスイッチ素子50が接続されている。ここで、スイッチ素子50の切換接点である接点a及び接点bのそれぞれは、増幅用抵抗48bの両端のそれぞれに接続されている。
【0039】
こうした構成において、オペアンプ46の反転入力端子とスイッチ素子50の接点aとが接続される場合(図示の状態)、増幅用抵抗48aが増幅回路44の入力抵抗となり、増幅用抵抗48b,48cが増幅回路44の帰還抵抗となる。このとき、増幅回路44の増幅率GAは、下式(c1)で表される。
GA=(Rb+Rc)/Ra …(c1)
一方、オペアンプ46の反転入力端子とスイッチ素子50の接点bとが接続される場合には、増幅用抵抗48a,48bが増幅回路44の入力抵抗となり、増幅用抵抗48cが増幅回路44の帰還抵抗となる。このとき、増幅回路4の増幅率GBは、下式(c2)で表される。
GB=Rc/(Ra+Rb) …(c2)
上記増幅率GA,GBの大小関係はGA>GBであり、本実施形態では、増幅率GAを「×15」とし、増幅率GBを「×5」とする。なお、以降、増幅率GAをHighゲインと称し、増幅率GBをLowゲインと称すこととする。
【0040】
オペアンプ46の出力端子には、ECU30が接続されている。つまり、オペアンプ46の出力電圧(以下、A/F出力電圧)は、ECU30に入力される。
【0041】
図1の説明に戻り、ECU30は、エンジンシステムの各種アクチュエータを操作対象とし、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されるものである。ECU30には、車両のユーザによって携帯されて且つ車両ドアの施錠・解錠用の信号等を出力する携帯機52や、ユーザのアクセル操作量を検出するアクセルセンサ54、車両の走行速度を検出する車速センサ56、エアフローメータ14等の出力信号、更にはA/F出力電圧が入力される。ECU30は、上記入力に応じて、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、A/Fセンサ26のヒータ26aの通電処理や、空燃比演算処理、空燃比制御処理等を行う。
【0042】
上記ヒータ26aの通電処理は、エンジン10の始動に先立ち、A/Fセンサ26の空燃比の検出精度を速やかに向上させるための処理である。これは、上述したように、センサ素子26bの温度が所定の高温となって活性状態とされることで、A/Fセンサ26の検出精度を維持可能であることに鑑みたものである。ここで、ヒータ26aの通電処理は、携帯機52からECU30へと所定の指令信号が入力されたことをトリガとして、バッテリ32からヒータ26aへと電力を供給する処理となる。本実施形態では、上記所定の指令信号を、ECU30を起動させるための指令信号(いわゆるECUウェークアップ信号)とし、より具体的には、ドア解錠指示信号とする。
【0043】
上記空燃比演算処理は、ECU30の有するマイコンのA/D入力端子に入力されたA/F出力電圧と、Highゲイン,Lowゲインの切替指令とに基づき、混合気の空燃比を算出する処理である。以下、この処理について詳述する。
【0044】
本実施形態では、リッチ領域(例えばA/F=11)から大気状態までの広い範囲の空燃比を検出可能とすべく、空燃比の検出レンジとして、図3に示すように、ストイキを含むストイキ近傍のナローレンジ(A/F=13〜18のレンジ)と、ナローレンジを含んで且つナローレンジのリッチ側限界よりもリッチ側の領域とリーン側限界よりもリーン側の領域とを含むワイドレンジ(A/F=10〜大気)とが予め規定されている。そして、ナローレンジ又はワイドレンジのいずれかを選択して空燃比の検出が可能となっている。詳しくは、ナローレンジが選択される場合、増幅回路44の増幅率をHighゲインGAとすべくスイッチ素子50の切替操作を行う。一方、ワイドレンジが選択される場合、増幅回路44の増幅率をLowゲインGBとすべくスイッチ素子50の切替操作を行う。
【0045】
ちなみに、本実施形態では、HighゲインGAは、大気状態の場合にA/F出力電圧が閾値電圧Vαを上回るように設定されている。また、LowゲインGBは、大気状態の場合にA/F出力電圧が閾値電圧Vα以下に収まるように設定されている。ここで、閾値電圧Vαは、例えば、ECU30のマイコンのA/D入力端子に入力可能な電圧範囲(作動電圧範囲、例えば0〜5V)の上限電圧(5V)よりもやや低い値に設定すればよい。
【0046】
上記空燃比制御処理は、空燃比演算処理によって算出される混合気の空燃比を目標空燃比にフィードバック制御すべく、燃料噴射弁18を通電操作する処理である。本実施形態では、エンジン10の運転状態に応じて、目標空燃比をストイキ近傍に設定するストイキ空燃比制御や、目標空燃比を所定のリーン領域における空燃比に設定するリーン空燃比制御等を適宜行う。
【0047】
ここで、ストイキ空燃比制御では、ストイキを含むストイキ近傍領域で高精度に空燃比を検出する必要があるのに対し、リーン空燃比制御等では、大気状態を含む広域の空燃比を検出する必要がある。そこで、本実施形態では、これら制御に応じて、Highゲイン又はLowゲインのいずれかを選択して空燃比検出レンジを切り替える。
【0048】
ところで、上記増幅回路44のスイッチ素子50を切り替えることができなくなる異常が発生し得る。この要因としては、スイッチ素子50が固着したり、ECU30とスイッチ素子50とを接続する電気経路に異常が生じたりすること等が挙げられる。この場合、実際の空燃比を適切に把握することができなくなることで、空燃比制御を適切に行うことができなくなり、エミッションが増大するおそれがある。
【0049】
こうした問題を解決すべく、本実施形態では、増幅回路44の異常の有無を診断する異常診断処理を行う。詳しくは、排気通路22におけるA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされると想定される状況下、Lowゲイン又はHighゲインの選択に対応するA/F出力電圧となっているか否かに基づき、増幅回路44の異常の有無を診断する。ここで、排気通路22におけるA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされていると想定される状況下において異常診断処理を行うのは、車両が通常使用されると想定される地域において大気中の酸素濃度が略同一であるため、Lowゲイン又はHighゲインに対応するA/F出力電圧の診断基準を適切に設定可能であることに鑑みたものである。以下、図4を用いて、上記異常診断処理について詳述する。
【0050】
図4は、本実施形態にかかる異常診断処理の手順である。この処理は、ECU30によって繰り返し実行される。
【0051】
この一連の処理では、まずステップS10において、燃料噴射弁18からの燃料噴射を停止させる燃料カット制御の実行中であるか否かを判断する。この処理は、排気通路22におけるA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされているか否かを判断するためのものである。ここで、燃料カット制御が実行中であるか否かは、例えばアクセルセンサ54及び車速センサ56の出力値に基づき判断すればよい。ちなみに、本実施形態では、燃料カット制御の開始後、A/F出力電圧が閾値電圧Vα近傍になると判断された場合、Lowゲインへの切替指令がなされることとする。これは、その後、燃焼制御が開始される場合に備えるためのものである。
【0052】
ステップS10において燃料カット制御の実行中であると判断された場合には、ステップS12に進み、燃料カット制御が開始されてからの吸気通路12を流れる吸気量の積算値(積算吸気量ΣGa)が規定量β以上になるか否かを判断する。この処理は、排気通路22におけるA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされているか否かの判断精度を向上させるための処理である。これは、燃料カット制御が開始された後、吸気通路12から燃焼室を介して排気通路22を流れる吸気量の積算値が多くなると、排気通路22を流れる気体の大部分が大気となっている蓋然性が高いと考えられることによるものである。ここで、上記規定量βは、予め実験によって、燃料カット制御が開始されてからの積算吸気量ΣGaと、排気通路22のA/Fセンサ26設置部付近の酸素濃度との測定結果に基づき定められる値である。また、積算吸気量ΣGaは、エアフローメータ14によって検出される吸気量の積算値とすればよい。
【0053】
ステップS12において積算吸気量ΣGaが規定量β以上になると判断された場合には、排気通路22におけるA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされていると判断するとともに、積算吸気量ΣGaをリセットし、ステップS14に進む。なお、ステップS10からステップS12を介してステップS14に移行する間に、A/F出力電圧が閾値電圧Vα付近に到達するため、HighゲインからLowゲインへの切替指令がなされる。
【0054】
ステップS14では、A/F出力電圧が閾値電圧Vα以下となる状態が規定時間T1継続されるか否かを判断する。この処理は、スイッチ素子50をHighゲイン側から切り替えることができなくなる異常が生じているか否かを判断するためのものである。つまり、Lowゲインが選択されて且つ、排気通路22のA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされる状況下においては、A/F出力電圧は閾値電圧Vα以下になる。このため、A/F出力電圧が閾値電圧Vαを上回る場合には、スイッチ素子50をHighゲイン側から切り替えることができなくなる異常が生じている旨判断できる。なお、上記規定時間T1が設定されているのは、例えばA/F出力電圧にノイズ等が混入することに起因して、異常診断精度が低下する事態を回避するためである。
【0055】
ステップS14において肯定判断された場合には、スイッチ素子50をHighゲイン側から切り替えることができなくなる異常が生じていないと判断し、ステップS16に進む。ステップS16では、LowゲインからHighゲインへの切替指令を出力する。
【0056】
続くステップS18では、A/F出力電圧が閾値電圧Vαを上回る状態が上記規定時間T1継続されるか否かを判断する。この処理は、スイッチ素子50をLowゲイン側から切り替えることができなくなる異常が生じているか否かを判断するためのものである。つまり、Highゲインが選択されて且つ、排気通路22のA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされる状況下においては、A/F出力電圧は閾値電圧Vαを上回る。このため、A/F出力電圧が閾値電圧Vα以下となる場合には、スイッチ素子50をLowゲイン側から切り替えることができなくなる異常が生じている旨判断できる。なお、上記規定時間T1が設定されているのは、上記ステップS14の処理と同様の理由によるものである。
【0057】
ステップS18において肯定判断された場合には、ステップS20に進み、増幅回路44に異常が生じていない旨診断する。そして、ステップS22に進み、HighゲインからLowゲインへの切替指令を出力する。これは、その後燃焼制御が開始される場合に備えるための処理である。
【0058】
一方、上記ステップS14やステップS18において否定判断された場合には、ステップS24に進み、増幅回路44に異常が生じている旨診断するとともに、ユーザにその旨を報知する報知処理を行う。ここで、報知処理としては、具体的には例えば、エンジンチェックランプの点灯や音声によって報知する処理を採用すればよい。
【0059】
ちなみに、スイッチ素子50をLowゲイン側(又はHighゲイン側)から切り替えることができなくなる異常が生じていると判断された場合、その後、Lowゲイン(Highゲイン)が選択される場合のA/F出力電圧が入力されると判断して空燃比演算処理を行う。
【0060】
なお、上記ステップS10やステップS12において否定判断された場合や、ステップS22、S24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0061】
図5に、本実施形態にかかる異常診断処理の一例を示す。詳しくは、図5は、増幅回路44が正常時の場合、及びスイッチ素子50がHighゲイン側(増幅回路44の接点a側)に固着する異常が生じた場合における異常診断処理の一例である。なお、図5(a)は、A/F出力電圧の推移を示し、図5(b)は、ゲイン切替指令の推移を示し、図5(c)は、積算吸気量ΣGaの推移を示す。また、図5(d)〜図5(k)は、異常診断処理に用いる各種カウンタ,フラグの推移を示す。
【0062】
まず、増幅回路44が正常な場合について説明する。
【0063】
図中破線にて示すように、時刻t1において燃料カット制御が開始されて排気中の酸素濃度が上昇するため、A/F出力電圧が漸増を開始する。また、燃料カット制御の開始判断とともに積算吸気量ΣGaのカウントが開始される。
【0064】
その後、時刻t2において、A/F出力電圧が閾値電圧Vα近傍になると判断されることで、HighゲインからLowゲインへの切替指令がなされる。そしてその後、積算吸気量ΣGaが規定量β以上になると判断される時刻t3において、異常診断処理が開始される。
【0065】
詳しくは、Lowゲインが選択されている状況下、A/F出力電圧が閾値電圧Vα以下であると判断されることで、Low正常カウンタがカウントアップされる。そして、Low正常カウンタが所定の閾値CNLOKに到達すると判断される時刻t4において、Low正常フラグが「H」とされる。すなわち、Lowゲインが選択されている状況下、A/F出力電圧が閾値電圧Vα以下になる状態が規定時間T1継続されると判断されることで、スイッチ素子50をHighゲイン側に切り替えることができなくなる異常が生じていない旨診断される。
【0066】
時刻t4において、LowゲインからHighゲインへの切替指令がなされた後、A/F出力電圧が閾値電圧Vαを上回ると判断されることで、High正常カウンタがカウントアップされる。そして、High正常カウンタが閾値CNHOKに到達すると判断される時刻t5において、High正常フラグが「H」とされる。すなわち、Highゲインが選択されている状況下、A/F出力電圧が閾値電圧Vαを上回る状態が規定時間T1継続されると判断されることで、スイッチ素子50をLowゲイン側に切り替えることができなくなる異常が生じていない旨診断される。
【0067】
そしてその後、時刻t5において、燃焼制御の開始に備えてHighゲインからLowゲインへの切替指令がなされる。
【0068】
次に、スイッチ素子50がHighゲイン側に固着する異常が生じている場合について説明する。
【0069】
図中実線にて示すように、時刻t3からLowゲインが選択されているにもかかわらず、A/F出力電圧が閾値電圧Vαを上回って上限電圧に飽和しているため、High異常カウンタがカウントアップされる。そして、High異常カウンタが閾値CNHNGに到達すると判断される時刻t4において、High異常フラグが「H」とされる。すなわち、Lowゲインが選択されている状況下、A/F出力電圧が閾値電圧Vαを上回る状態が規定時間T1継続されると判断されることで、スイッチ素子50をLowゲイン側に切り替えることができなくなる異常が生じている旨診断される。
【0070】
次に、図6を用いて、スイッチ素子50がLowゲイン側(増幅回路44の接点b側)に固着する異常が生じている場合における異常診断処理について説明する。詳しくは、図6(a)〜図6(k)は、先の図5(a)〜図5(k)に対応している。なお、図中、破線にて示す正常時の波形は、先の図5に示した正常時の波形と同一である。
【0071】
図中実線にて示すように、時刻t3からLowゲインが選択されている状況下、A/F出力電圧が閾値電圧Vα以下になると判断されることで、Low正常カウンタがカウントアップされる。そして、Low正常カウンタが閾値CNLOKに到達すると判断される時刻t4において、Low正常フラグが「H」とされる。
【0072】
時刻t4において、LowゲインからHighゲインへの切替指令がなされた後、A/F出力電圧が閾値電圧Vα以下になると判断されることで、Low異常カウンタがカウントアップされる。そして、Low異常カウンタが閾値CNLNGに到達すると判断される時刻t5において、Low異常フラグが「H」とされる。すなわち、Highゲインが選択されている状況下、A/F出力電圧が閾値電圧Vα以下になる状態が規定時間T1継続されると判断されることで、スイッチ素子50をHighゲイン側に切り替えることができなくなる異常が生じている旨診断される。
【0073】
このように、本実施形態では、上記態様の異常診断処理を行うことで、増幅回路44の異常の有無を適切に診断することができる。
【0074】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0075】
(1)排気通路22におけるA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされていると想定される状況下において、Lowゲインが選択されて且つ規定時間T1継続してA/F出力電圧が閾値電圧Vαを上回ると判断された場合、スイッチ素子50をLowゲイン側に切り替えることができなくなる異常が生じている旨診断した。また、Highゲインが選択されて且つ規定時間T1継続してA/F出力電圧が閾値電圧Vα以下になると判断された場合、スイッチ素子50をHighゲイン側に切り替えることができなくなる異常が生じている旨診断した。こうした診断手法によれば、増幅回路44の異常の有無を適切に診断することができる。
【0076】
(2)燃料カット制御が開始されてから規定時間T1経過したと判断された場合、異常診断処理を行った。これにより、A/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされている状況下において異常診断処理を行うことができ、ひいては異常診断精度を向上させることができる。
【0077】
(3)増幅回路44に異常が生じている旨診断された場合、その旨をユーザに報知する報知処理を行った。これにより、ユーザにその後の対応を適切に取らせることなどができる。
【0078】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0079】
本実施形態では、エンジン10の始動前であって且つ排気通路22上のA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされていると判断される状況下において異常診断処理を行う。具体的には、A/Fセンサ26の備えるヒータ26aの通電処理の実行中に異常診断処理を行う。これは、このような状況においては、エンジン10始動前であるため、排気通路22が大気で満たされている蓋然性が高いと考えられることによるものである。
【0080】
図7に、本実施形態にかかる異常診断処理の手順を示す。この処理は、ECU30によって繰り返し実行される。なお、図7において、先の図4に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0081】
この一連の処理では、まずステップS26において、エンジン10の停止中にドア解錠指令がなされたとの条件、及びエンジン10が前回停止されてから規定時間T2経過したとの条件の論理積が真であるとの条件が成立しているか否かを判断する。ここで、エンジン10が前回停止されてから規定時間T2経過したとの条件は、排気通路22におけるA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされている旨の判断精度を向上させるための条件である。
【0082】
ステップS26において肯定判断された場合には、ステップS28に進み、ヒータ26aの通電処理を行う。
【0083】
続くステップS30では、A/Fセンサ26が活性状態になったか否かを判断する。そして、ステップS30において肯定判断された場合には、ステップS14に進む。
【0084】
なお、上記ステップS26やステップS30において否定判断された場合や、ステップS22、S24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0085】
このように、本実施形態では、ヒータ26aの通電処理の実行中に異常診断処理を行うことができる。
【0086】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0087】
本実施形態では、エンジン10の運転中(燃焼制御中)に、混合気の空燃比が特定の空燃比とされる状況下において、Lowゲイン及びHighゲインのうちいずれか一方から他方への切替に伴ってA/F出力電圧が変化しないと判断された場合、増幅回路44に異常が生じている旨診断する。これは、排気中の酸素濃度が特定の濃度になる状況下において、スイッチ素子50の切替を正常に行うことができる場合、スイッチ素子50の切替に伴ってA/F出力電圧が変化するのに対し、スイッチ素子50の切替を正常に行うことができない場合には、スイッチ素子50の切替指令に伴ってA/F出力電圧が変化しないことに基づくものである。
【0088】
図8に、本実施形態にかかる異常診断処理の手順を示す。この処理は、ECU30によって繰り返し実行される。なお、図8において、先の図4に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
【0089】
この一連の処理では、まずステップS32において、混合気の空燃比が安定しているか否かを判断する。詳しくは、A/F出力電圧が特定の空燃比に対応するA/F出力電圧近傍となるか否かを判断し、より具体的には、A/F出力電圧と、上記特定の空燃比に対応するA/F出力電圧との差の絶対値が所定以下であるか否かを判断する。ここで、上記特定の空燃比は、HighゲインGA及びLowゲインGBのそれぞれに対応するA/F出力電圧が同一となる空燃比(ストイキ)以外の空燃比として設定される。
【0090】
ステップS32において肯定判断された場合には、ステップS34に進み、Lowゲイン及びHighゲインのうちいずれか一方から他方への切替指令によってA/F出力電圧が変化するか否かを判断する。
【0091】
ステップS34において肯定判断された場合には、ステップS20に進む。一方、上記ステップS34において否定判断された場合には、ステップS24に進む。
【0092】
なお、上記ステップS32において否定判断された場合や、ステップS22、S24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0093】
このように、本実施形態では、エンジン10の運転中に異常診断処理を行うことができる。
【0094】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0095】
・上記第1の実施形態において、燃料カット制御が開始されてからの積算吸気量ΣGaが規定量β以上になるとの条件に代えて、燃料カット制御が開始されたと判断されてからの経過時間が規定時間Tg以上になるとの条件を用いてもよい(先の図4のステップS12参照)。これは、燃料カット制御が開始されてからある程度時間が経過すると、吸気通路12から燃焼室を介して排気通路22を流れる吸気によって、排気通路22を流れる気体の大部分が大気となる蓋然性が高いと考えられることによるものである。
【0096】
・上記第3の実施形態では、混合気の空燃比が安定していると判断された場合に異常診断処理を行ったがこれに限らない。例えば、空燃比が安定しない状況下において異常診断処理を行ってもよい。これは、空燃比が安定しない状況下であっても、微視的なタイムスケールにおけるゲイン切替に伴うA/F出力電圧の変化の有無によれば、増幅回路44の異常の有無を診断できると考えられることによるものである。
【0097】
・増幅回路44の構成としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、特開2007−315943号公報の図6〜図7に示す構成を採用してもよい。また、例えば、センサ素子26bとして、例えば上記公報の図8(a)に示す構成を採用する場合、増幅回路44の構成として、上記公報の図9,図10に示す構成を採用してもよい。
【0098】
・エンジン10始動前に異常診断を開始するための所定の指令信号(ECUウェークアップ信号)としては、上記第2の実施形態に例示したものに限らない。例えば、ECUウェークアップ信号を、エンジン10の停止中において、車両のドアの開操作がなされた旨の信号や、ユーザの運転席への着座がなされた旨の信号、ブレーキペダルの踏み込みがなされた旨の信号としてもよい。
【0099】
・上記各実施形態では、空燃比が大きくなるほど、A/F出力電圧が高くなるような空燃比検出装置を採用したがこれに限らない。例えば、空燃比が大きくなるほど、A/F出力電圧が低くなるような空燃比検出装置があるならば、これを採用してもよい。この場合、大気状態において、LowゲインGBを、A/F出力電圧が作動電圧範囲の下限電圧よりもやや高い値以上に収まるように設定して且つ、HighゲインGAを、A/F出力電圧が上記やや高い値を下回るように設定すればよい。
【0100】
・増幅回路44の異常診断手法としては、上記各実施形態に例示したものに限らない。例えば、上記第1の実施形態の異常診断処理を基本としつつ、排気通路22におけるA/Fセンサ26の設置部付近が大気で満たされる状況の実現頻度が低いと判断された場合には、上記第3の実施形態の異常診断処理を行う手法を採用してもよい。
【0101】
・内燃機関としては、火花点火式内燃機関に限らず、例えばディーゼルエンジン等の圧縮着火式内燃機関であってもよい。
【0102】
・本願発明が適用されるガス濃度検出装置としては、車両に搭載されるものに限らない。この場合、被検出ガスとしては、排気に限らず他のガスとしてもよい。
【0103】
・排気中の特定成分の濃度を検出可能なセンサとしては、A/Fセンサに限らない。例えば、排気中のNOx濃度を検出可能なNOxセンサや、排気中のHC濃度を検出可能なHCセンサであってもよい。
【符号の説明】
【0104】
10…エンジン、18…燃料噴射弁、22…排気通路、26…A/Fセンサ、30…ECU(ガス濃度検出装置の異常診断装置の一実施形態)、44…増幅回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出ガス中の特定成分の濃度を検出可能であって且つ該特定成分の濃度に応じた信号を出力するガス濃度センサと、スイッチ素子を有して且つ該スイッチ素子の切替によって前記ガス濃度センサの出力信号の増幅率を可変設定可能な増幅回路とを備え、前記増幅回路の出力信号に基づき前記特定成分の濃度を算出するガス濃度検出装置に適用され、
前記スイッチ素子の切替によってワイドレンジの増幅率又はナローレンジの増幅率が選択可能とされており、
前記ナローレンジの増幅率は、前記ワイドレンジの増幅率よりも大きく設定されるとともに、前記被検出ガス中の特定成分の濃度が規定濃度になる状況下において前記増幅回路の出力信号が所定範囲から外れるように設定され、
前記ワイドレンジの増幅率は、前記被検出ガス中の特定成分の濃度が前記規定濃度になる状況下において前記増幅回路の出力信号が前記所定範囲に収まるように設定され、
前記被検出ガス中の特定成分の濃度が前記規定濃度になると想定されて且つ前記ワイドレンジが選択されている状況下、前記増幅回路の出力信号が前記所定範囲から外れると判断されることに基づき前記増幅回路に異常が生じている旨診断する処理、及び前記被検出ガス中の特定成分の濃度が前記規定濃度になると想定されて且つ前記ナローレンジが選択されている状況下、前記増幅回路の出力信号が前記所定範囲に収まると判断されることに基づき前記増幅回路に異常が生じている旨診断する処理のうち少なくとも1つを行う診断手段を備えることを特徴とするガス濃度検出装置の異常診断装置。
【請求項2】
前記診断手段は、前記被検出ガス中の特定成分の濃度が特定の濃度になると想定される状況下、前記スイッチ素子の切替に伴って前記増幅回路の出力信号が変化しないと判断されることに基づき、前記増幅回路に異常が生じている旨診断する処理を行うことを特徴とする請求項1記載のガス濃度検出装置の異常診断装置。
【請求項3】
被検出ガス中の特定成分の濃度を検出可能であって且つ該特定成分の濃度に応じた信号を出力するガス濃度センサと、スイッチ素子を有して且つ該スイッチ素子の切替によって前記ガス濃度センサの出力信号の増幅率を可変設定可能な増幅回路とを備え、前記増幅回路の出力信号に基づき前記特定成分の濃度を算出するガス濃度検出装置に適用され、
前記被検出ガス中の特定成分の濃度が特定の濃度になると想定される状況下、前記スイッチ素子の切替に伴って前記増幅回路の出力信号が変化しないと判断されることに基づき、前記増幅回路に異常が生じている旨診断する処理を行う診断手段を備えることを特徴とするガス濃度検出装置の異常診断装置。
【請求項4】
前記ガス濃度センサは、内燃機関から排気通路へと排出される排気を被検出ガスとして且つ前記排気通路に設けられるセンサであり、
前記規定濃度とは、前記排気通路における前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされる状況下における前記被検出ガス中の特定成分の濃度であり、
前記診断手段は、前記排気通路における前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされると想定される状況下、前記診断を行うことを特徴とする請求項1又は2記載のガス濃度検出装置の異常診断装置。
【請求項5】
前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされると想定される状況とは、前記内燃機関の燃料カット制御が実行中であると判断される状況であることを特徴とする請求項4記載のガス濃度検出装置の異常診断装置。
【請求項6】
前記ガス濃度センサには、通電により該センサを加熱するヒータが設けられ、
所定の指令信号を入力として、前記内燃機関の始動前に前記ヒータに通電する処理を行う処理手段を更に備え、
前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされると想定される状況とは、前記処理手段によって前記ヒータに通電中であると判断される状況であることを特徴とする請求項4又は5記載のガス濃度検出装置の異常診断装置。
【請求項7】
前記ガス濃度センサは、内燃機関から排気通路へと排出される排気を被検出ガスとして且つ前記排気通路に設けられるセンサであり、
前記ガス濃度検出装置は、前記増幅回路の出力信号に基づき空燃比を算出するものであり、
ストイキを含むストイキ近傍のナローレンジと、該ナローレンジを含んで且つ該ナローレンジのリッチ側限界よりもリッチ側の領域とリーン側限界よりもリーン側の領域とを含むワイドレンジとが予め規定され、
前記スイッチ素子の切替によって前記ワイドレンジの増幅率又は前記ナローレンジの増幅率が選択可能とされており、
前記ナローレンジの増幅率は、前記ワイドレンジの増幅率よりも大きく設定されるとともに、前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされる状況下において前記増幅回路の出力信号が所定範囲から外れるように設定され、
前記ワイドレンジの増幅率は、前記ガス濃度センサの設置部付近が大気で満たされる状況下において前記増幅回路の出力信号が前記所定範囲に収まるように設定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のガス濃度検出装置の異常診断装置。
【請求項8】
前記ガス濃度検出装置は、前記ガス濃度センサが有するセンサ素子への電圧印加時に該センサ素子に流れる電流を計測するための電流計測用抵抗、オペアンプ及び前記増幅率を決定するための複数の増幅用抵抗を備えて構成されるものであり、
前記増幅回路は、前記オペアンプ及び前記複数の増幅用抵抗を備えるとともに、前記電流計測用抵抗によって計測された電流信号を増幅するものであり、
前記複数の増幅用抵抗は、前記増幅回路の入力抵抗及び帰還抵抗のそれぞれに分割されて用いられるものであり、
前記スイッチ素子は、前記複数の増幅用抵抗の中から前記入力抵抗及び前記帰還抵抗となるものを選択可能なように設けられることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス濃度検出装置の異常診断装置。
【請求項9】
前記診断手段によって前記増幅回路に異常が生じている旨診断されることに基づき、その旨を外部に報知する報知手段を更に備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のガス濃度検出装置の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−230046(P2012−230046A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99377(P2011−99377)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】