説明

ガタ・すべりを有する把持機構をもった複数ロボットによる協調搬送システム及び方法

【課題】リーダと搬送物、搬送物とフォロワの接続部である、リーダ及びフォロワの把持部にガタ・すべりが存在しても、協調搬送という目的を達成できるようにする。
【解決手段】フォロワ20は、把持部(フック14)に滑り、ガタがない場合には、フォロワ推定誤差から、リーダ10の軌道を推定して出力し、滑り・ガタがある場合にはリーダ10が停止するような軌道を出力するといった動作を行う。ミクロ的にはリーダ10の動きに追従して進行する軌道と停止する軌道を繰り返すことになるが、マクロ的にはリーダ10に追従するような軌道が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一の固い(伸びたり縮んだりしない)搬送物を複数台のロボット(例えば無人搬送車,ロボットアーム,ロボットアームつき移動台車など)により協調して搬送する、複数ロボットによる協調搬送システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数台のロボット・移動体で単一の搬送物を搬送する研究・開発は行われてきた。例えば、下記非特許文献1などである。
【0003】
協調搬送の方法は多種多様であるが、下記非特許文献1に記載の協調搬送方法によると、(1) ロボット間で通信が不要であり、(2)1台のロボット(以下リーダと呼ぶ)のみが搬送物・搬送経路についての事前情報を知っていれば、残りの1台以上のロボット(以下フォロワと呼ぶ)は事前情報なしでリーダに従って動作というような特徴を有している。この特徴により、インテリジェンスを持つのは1台のロボットのみであり、他のロボットはこれに協調して追従する動作さえできればよいのでシステム全体の構成が簡単になる。このため、他の協調搬送手法と比べ実際の製品へと適用しやすい。
【0004】
下記非特許文献1の方法について図7及び図8を参照して詳細に説明する。
【0005】
図7は従来技術の位置誤差と軌道の関係を示す図である。搬送物55を進行方向Rに搬送するとき、リーダ51の動作が搬送物55を通してフォロワ52に伝わり、フォロワ52はこの動きからリーダ51の動作(目標軌道x)を推定し、推定目標軌道xを得る。具体的には、リーダ51及びフォロワ52ともに同じ強さのバネ・ダンパ53及び54で搬送物55を“滑ることなく”把持している状況を考える。同じ強さのバネ・ダンパ53及び54は、同じ値のコンプライアンス係数Kを有している。リーダ51が動作するとバネ・ダンパ53が伸びるが、フォロワ52も同じ強さのバネ・ダンパ54を有しているため、リーダ側のバネ・ダンパ53の伸び量(位置誤差Δxl)とフォロワ側のバネ・ダンパ54の伸び量(位置誤差Δxf)は等しい。よって、フォロワ52は自身のバネ・ダンパ54の伸び量(位置誤差Δxf)がわかれば、これを2倍した値2Δxfがリーダ51の目標軌道(リーダ目標軌道xd)とフォロワ52の目標軌道(フォロワ目標軌道xe)の差(推定誤差)ということがわかる。これをあるフィルタに通して、フォロワ52は自身が追従すべきリーダ51の目標軌道を推定することができる。これに追従するようにフォロワ52が動作すればフォロワ52はリーダ51に追従して動作する。
【0006】
図8(a)は上記推定のためのフィルタ60を示す図である。Gをフィルタ60の伝達関数とすると、この伝達関数Gは上記位置誤差Δxfを2倍した値2Δxfが入力されると、フォロワ目標軌道xを推定する。つまり、図8(a)のフィルタ60を等価変換した図8(b)に示すように、推定目標軌道xとリーダ目標軌道xとの差(x−x)と、推定誤差2Δxfとが等しくなるように、推定目標軌道xとを推定する。このように閉ループ系が安定ならば推定誤差から目標軌道を推定できるので、例えば伝達関数G(s)=(as+b)/sなどと選べる。なお、実際には把持部にバネ・ダンパを用いる必要はなく、インピーダンス制御などの力制御手法により仮想的にバネ・ダンパ特性を持たせて把持させてもよい。
【非特許文献1】平田・小菅・他による“ロボット間の幾何学的関係を必要とせず物体の搬送を実現する複数移動ロボットの分散協調制御”、日本機械学会論文集(C編)、第69巻、677号、pp.204-211、2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図7に示した協調搬送システムでは、リーダ51の運動が搬送物55を通してフォロワ52に伝わるためには、力が正確にかつただちに伝わる必要がある。そのためには把持部に滑りがあるのは望ましくない。滑りがあると滑っている間は押し引きによる力が伝わらない。ロボットが搬送物55を持って固定する方法として、(1)マニピュレータのフックで搬送物のアイボルトを吊り上げる方法がある。また、(2)ロボットのステージ、荷台と搬送物に穴を開け、ピンを通して留める方法がある。この場合、挿入をしやすくするためにピン太さに比べ穴を大きくしてある。さらに、(3)防振ゴムや防振ダンパを介してロボットに取り付けられたステージ・荷台に搬送物を載せる方法などがある。これらの固定方法は、いずれもガタ・すべりが存在する。これらガタ・すべりが存在する方法を取った場合、滑りや把持部の弾性のため力が正確に伝わらないときがあり、その結果、フォロワはリーダの動きを正確に推定できないので、リーダに追従しない、あるいはぶつかることで協調搬送という目的を達成できない虞がある。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、リーダと搬送物、搬送物とフォロワの接続部である、リーダ及びフォロワの把持部にガタ・すべりが存在しても、協調搬送という目的を達成できる複数ロボットによる協調搬送システム、複数ロボットによる協調搬送方法、及びフォロワ型ロボットの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る複数ロボットによる協調搬送システムは、上記課題を解決するために、搬送物を把持するリーダと、同じく搬送物を把持し、かつリーダの目標軌道と自身の目標軌道の差に基づいて目標軌道を推定するフォロワとが協調しながら搬送物を搬送する複数ロボットによる協調搬送システムにおいて、上記フォロワの上記搬送物に対する把持部にガタ・すべりが有るか否かを判断するガタ・すべり判断部と、上記ガタ・すべり判断部にて上記フォロワの把持部にガタ・すべりがあると判断したときと、ガタ・すべりがないと判断したときとで、フォロワの目標軌道の推定を異ならせる軌道推定部とを備える。
【0010】
この複数ロボットによる協調搬送システムにあって、上記ガタ・すべり判断部は、上記把持部の運動方向と位置偏差の方向に基づいて上記把持部にガタ・すべりが有るか否かを判断することが好ましい。
【0011】
また、上記ガタ・すべり判断部は、上記把持部の運動方向と位置偏差の方向が同じであるときは上記把持部にガタ・すべりが無いと判断し、上記把持部の運動方向と位置偏差の方向が異なるときは上記把持部にガタ・すべりが存在する可能性が有ると判断することが好ましい。
【0012】
また、上記軌道推定部は、上記ガタ・すべり判断部が上記フォロワの把持部にガタ・すべりが無いと判断したときには、リーダの目標軌道と自身の目標軌道の差を推定誤差とし、この推定誤差を所定のフィルタに通して目標軌道を推定することが好ましい。
【0013】
また、上記軌道推定部は、上記ガタ・すべり判断部が上記フォロワの把持部にガタ・すべりが存在する可能性が有ると判断したときには、上記リーダが減速し、停止するような軌道を出力することが好ましい。
【0014】
本発明に係るフォロワ型ロボットは、上記課題を解決するために、同一の搬送物を協調しながら搬送する協調搬送システムにあって、搬送物を把持するリーダに対して、同じく上記搬送物を把持し、かつリーダの目標軌道と自身の目標軌道の差に基づいて目標軌道を推定するフォロワ側ロボットであって、上記フォロワの上記搬送物に対する把持部にガタ・すべりが有るか否かを判断するガタ・すべり判断部と、上記ガタ・すべり判断部にて上記フォロワの把持部にガタ・すべりが存在する可能性が有ると判断したときと、ガタ・すべりがないと判断したときとで、フォロワの目標軌道の推定を異ならせる軌道推定部とを備える。
【0015】
また、本発明に係る複数ロボットによる協調搬送方法は、上記課題を解決するために、搬送物を把持するリーダと、同じく搬送物を把持し、かつ自身の目標軌道と実軌道の差に基づいて目標軌道を推定するフォロワとが協調しながら搬送物を搬送する複数ロボットによる協調搬送方法において、上記フォロワの上記搬送物に対する把持部にガタ・すべりが有るか否かを判断するガタ・すべり判断工程と、上記ガタ・すべり判断工程にて上記フォロワの把持部にガタ・すべりが存在する可能性が有ると判断したときと、ガタ・すべりがないと判断したときとで、フォロワの目標軌道の推定を異ならせる軌道推定工程とを備える。
【0016】
ロボットの把持部においては滑りがある・ガタの中にある状況とそうでない状況がある。
【0017】
後者の場合は滑ることなくしっかりと力が伝わるので従来から用いられてきた推定のためのフィルタ60の適用条件を満たすため、これを用いて推定できる。
【0018】
逆に前者の場合は力・運動が正確に伝わらないのでフィルタAをそのまま適用できない。なぜならば、フォロワが取得した自己の位置誤差(Δxf)はリーダの正確な運動を表さないのでこの値をフィルタに通しても正確な値が推定できないためである。よって、この場合は推定結果が安全側、つまりしばらくの時間の後に緩やかに停止するような軌道が推定器から出力されるようにする。これによって、推定器は、ガタ・すべりがない場合には、従来方法によりフォロワはリーダの軌道を推定し出力する、また、ガタ・すべりが存在する可能性が有る場合には減速・停止するような軌道を出力する、といった動作を行う。ミクロ的にはリーダの動きに追従して進行する軌道と停止する軌道を繰り返すことになるが、マクロ的にはリーダに追従するような軌道が得られる。
【0019】
ガタ・すべりの有無を判断する方法については、把持部の運動方向と位置偏差の方向から判断できる。また穏やかに停止するような軌道を推定するために、例えば推定器の極が1つの原点極を除いて安定極となるように推定器の出力・状態を推定器の入力にフィードバックすればよい。
【0020】
このようにして推定した軌道に対しフォロワが追従動作を行えば、結果的にフォロワはリーダに追従する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リーダと搬送物、搬送物とフォロワの接続部である、リーダ及びフォロワの把持部にガタ・すべりが存在しても、協調搬送という目的を達成できる。
【0022】
つまり、上記非特許文献1によるフィルタ60に対し、停止動作を与える軌道生成機構、例えばスイッチ42とゲイン乗算器41を加えるだけで、滑り、ガタがある機構へ拡張できるため、従来手法に対する信頼性を引き継いだままシステムの拡張が可能となる。
【0023】
従来手法は床へ固定されているか移動体かは関係ない。移動体である場合も任意の移動方式(2輪,4輪,全方向移動,クローラなど)が選べる。先行技術の中には2輪に限定した特許が出願されている(特開2000−42958)が、本発明は移動方式を問わないためより汎用的である。
【0024】
また、固い搬送物ではなく、ある程度柔軟なもの(伸び縮みするもの)であっても搬送できる。これはフォロワがリーダに引っ張られた場合は進行するような軌道が推定され、搬送物がたわんで力が伝わらなくなった場合は停止するような軌道が推定されるためである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。以下に挙げる実施の形態は、複数ロボットによる協調搬送システムに関する。各ロボットは、いわゆるバックラッシュ(backlash)と呼ばれる、ガタ・すべりを有する、例えばフックのような把持機構を持つ。フックのような把持機構により、搬送物に取り付けられたアイボルトを吊り上げることにより、搬送物を把持する。
【0026】
図1は、2台のロボットによる協調搬送システム1の外観図である。具体的には、手先部がフック14及び24になっているロボットアーム13及び23を有する移動台車10及び20と、アイボルト31及び32が取り付けられた搬送物30からなる協調搬送システム1である。この協調搬送システム1では、ロボットアーム13及び23を移動台車10及び20が有し、ロボットアーム13及び23の先端に把持部を設けているが、これは実施例であり、ロボットアーム13及び23を持たずに、移動台車の所定個所に把持部を備える構成も本発明に含まれることはいうまでもない。つまり、本発明はロボットアームで搬送物を把持する構成以外のロボットにも適用される。
【0027】
移動台車10及び20は、オペレータにより遠隔操作されてもよいし、自律的に行動するものでもよい。産業用ロボット、災害救助ロボット、福祉ロボット、あるいはエンタテインメントロボットに適用可能である。
【0028】
移動台車10は、ボディ部11の下部に取り付けられた、二輪12又は操舵される四輪により、水平面を、前後と旋回、又は前後と左右と旋回など、2方向以上に移動可能である。ロボットアーム13は、金属、セラミック、樹脂、その他剛性を備える材料を複数の関節部にて回転、又は回動可能に接続してなり、ボディ部11の上部に、一部がボディ部11の水平面に対して垂直な軸を中心に回転又は回動可能に直立し、残り部分が上記直立した一部によって一端が係止されたL字状とされ、L字の角部が任意の角度で回動する。ロボットアーム13の直立部及びL字状部はボディ部11内部、あるいはロボットアーム13内部に配置されているモータによる回転力を歯車やシャフトなどの機構部を介して駆動力として受け取り、回転又は回動する。このため、ロボットアーム13は、フック14をアイボルト31に掛けた状態で搬送物30の一端を吊り上げることができる。移動台車20の構成も同様である。
【0029】
これら2台の移動台車10、20は、CPU、ROM、RAMを有したコンピュータを内蔵しており、協調搬送のための制御が行われる。例えば、上記非特許文献1に基づいて、(1) ロボット間で通信が不要であり、(2)1台のロボット(以下リーダと呼ぶ)のみが搬送物・搬送経路についての事前情報を知っていれば、残りの1台以上のロボット(以下フォロワと呼ぶ)は事前情報なしでリーダに従って動作というような特徴を有している。この特徴により、インテリジェンスを持つのは1台のロボットのみであり、他のロボットはこれに協調して追従する動作さえできればよいのでシステム全体の構成が簡単になる。このため、他の協調搬送手法と比べ実際の製品へと適用しやすい。
【0030】
今、移動台車10をリーダとする。このリーダ10は、図1中矢印R方向に移動し、搬送物30を搬送する。移動台車20はフォロワである。このフォロワ20は、リーダ10にしたがって動作する。
【0031】
しかし、リーダ10及びフォロワ20共に、搬送物30を、フック14及び24をアイボルト31及び32に掛けるという固定方法をとり、ロボットアーム13及び23により吊り上げている。このフック14及び24を用いた固定方法では、アイボルト31及び32とフック14及び24の位置・速度の関係に応じて把持部にガタ・すべりが存在する場合と、存在しない場合がある。
【0032】
把持部にガタ・すべりが存在しない場合には、フックとアイボルトが滑ることなくしっかりと搬送物30にリーダ10及びフォロワ20からの力が伝わるので従来から用いられてきた、上記非特許文献1に記載の推定器のためのフィルタ60の適用条件を満たすため、これを用いて推定できる。
【0033】
しかし、把持部にガタ・すべりが存在する可能性がある場合には、滑りや把持部の弾性のため力が正確に伝わらないときがあり、その結果、フォロワ20はリーダ10の動きを正確に推定できないことがある。これは、フォロワ20が取得した自己の位置誤差(上記図5に示したΔxf)はリーダ10の正確な運動を表さないのでこの値をフィルタ60に入力しても正確な値が推定できないためである。
【0034】
そこで、この実施の形態の協調搬送システム1では、把持部にガタ・すべりが存在する可能性がある場合は推定結果が安全側、つまりしばらくの時間の後に緩やかに停止するような軌道が推定器から出力されるようにする。
【0035】
これによって、推定器は滑り、ガタがない場合には、従来方法(上記非特許文献1)によりフォロワ20はリーダ10の軌道を推定して出力し、滑り・ガタがある場合にはリーダ10が停止するような軌道を出力するといった動作を行う。ミクロ的にはリーダ10の動きに追従して進行する軌道と停止する軌道を繰り返すことになるが、マクロ的にはリーダ10に追従するような軌道が得られる。
【0036】
図2は、把持部にフック14及び24を用い、アイボルト31及び32に掛けて、アイボルトを吊り上げるときの状態を説明する図である。把持部に滑り・ガタがある場合とない場合を判断する方法については、把持部の運動方向と位置偏差の方向から判断できる。
【0037】
図2にあって、ケース[1]は、位置偏差と運動速度の方向が同じ場合である。この場合は(a)に示すように、フックの運動方向と、アイボルトからフックへの力が同じ方向であり、フック14はアイボルト31に引っ張られていると考えられるので滑り・ガタが微小であり、従来方法(非特許文献1)で推定できる。
【0038】
ケース[2]は、位置偏差と運動速度の方向が逆(異なる)の場合である。この場合(b)のようにフック14がアイボルト31に引っ張られているか、(c)のようにガタの中で滑っているかのどちらかになる。(b)ならば従来方法(非特許文献1)が適用可能だが、(c)ならば滑り・ガタの中であるため、停止する軌道を推定する必要がある。把持部の位置偏差・速度のみからは(b)又は(c)の区別はつかないため、ケース[2]場合は(b)(c)に関わらず停止するような軌道を取ることとする。
【0039】
図2のケース[1]の場合、つまり位置誤差×把持部速度>0(位置偏差と把持部速度の方向が同じ)の場合は、非特許文献1で用いた図8のフィルタ60と同じである。ケース[2]の場合、つまり位置偏差×把持部速度<0(位置偏差と把持部速度の方向が逆)の場合はフォロワ20の位置誤差を推定器に入力せず、推定器40の状態を元に推定器の入力へ状態フィードバックを行い、推定器40の出力がある定値に収束するようにする。
【0040】
図3は、上記協調搬送システム1で用いる軌道推定のためのフィルタ(軌道推定器)の構成の実施形態の一つを示す図である。従来手法にてよく用いられるフィルタは(as+b)/sである。
【0041】
実施形態の一つにおける、ゲイン乗算器41でのフィードバックゲインKの選定方法を説明する。図8に示したフィルタ60((as+b)/s)は2つの原点極を有するが、このうち1つの極が安定極となるように極配置法によりゲインKを選定する。つまり、穏やかに停止するような軌道を推定するために、例えば推定器の極が1つの原点極を除いて安定極となるように推定器の出力・状態をフィードバックすればよい。
【0042】
これによりフィルタ((as+b)/s )は緩やかに定値に収束する。フィルタ60Aへの入力切替はスイッチ42により行う。
【0043】
この軌道推定器40で得た推定軌道にフォロワ20が追従すれば、結果的にフォロワ20はリーダ10に追従することができる。
【0044】
図4は、本実施の形態の2台のロボットによる協調搬送システム1において、実際に搬送物30を搬送させたときの、リーダ10とフォロワ20の時刻に対する走行距離の変化を示す特性図である。C−10で示すリーダ10の特性とC−20で示すフォロワ20の特性がほぼ同じように伸びている。これは、リーダ10の走行距離に追従して、フォロワ20の走行距離が伸びていることを示す。つまり、フォロワ20は、リーダ10に追従して動作していることが分かる。
【0045】
また、図5は、上記2台のロボットによる協調搬送システム1にて搬送物30を搬送しているときの、リーダ10の手先(フック14)とフォロワ20の手先(フック24)の軌跡を示す図である。横軸はx方向の位置を示し、縦軸はy方向の位置を示している。リーダ10の手先の実軌道T−10にはリーダ実軌道始点SP−10とリーダ実軌道終点EP−10を示している。また、フォロワ20の手先の実軌道T−20にはフォロワ実軌道始点SP−20とフォロワ実軌道終点EP−20を示している。また、リーダとフォロワの手先間の中心点を搬送物30の軌道としている。この搬送物軌道T−30には、搬送物実軌道始点SP−30と搬送物実軌道終点EP−30を示している。このように図5に示したリーダ手先位置とフォロワ手先位置の軌跡を描きながら、2台のロボットは搬送物を協調搬送した。
【0046】
以上に説明したように、上記協調搬送システム1によれば、従来手法によるフィルタ60に対し、ガタ・すべりが存在する可能性があるときに停止する仕組みを加えるだけで、例えばスイッチ42とゲインKを乗算するゲイン乗算器41を加えるだけで、滑り・ガタがある機構へ拡張できる。このため、従来手法に対する信頼性を引き継いだままシステムの拡張が可能となる。特に図3とした場合、推定器そのものを切り替えるのではなく推定器の入力をスイッチ42で切り替えるため、停止するような軌道を生成する装置を別途用意して、推定器切替の際の軌道の連続性を保つ工夫を必要としたりしなくてよい。入力は不連続であったとしても、フィルタ60には積分器が含まれているためその出力は連続になる。停止する際の軌道の形状はゲインKで設定した安定極によって決定され、絶対値が大きいほど直ちに停止する軌道となる。
【0047】
従来手法は床へ固定されているか移動体かは関係ない。移動体である場合も任意の移動方式(2輪,4輪,全方向移動,クローラなど)が選べる。先行技術の中には2輪に限定した特許が出願されているが、本発明は移動方式を問わないためより汎用的である。
【0048】
また、固い搬送物ではなく、ある程度柔軟なもの(伸び縮みするもの)であっても搬送できる。これはフォロワがリーダに引っ張られた場合は進行するような軌道が推定され、搬送物がたわんで力が伝わらなくなった場合は停止するような軌道が推定されるためである。
【0049】
なお、上記協調搬送システム1は、リーダ10に対して、1台のフォロワ20を用いる構成としたが、本発明は図6に示すような3台のロボットによる協調搬送システム45に適応可能であるのはもちろんである。矢印L方向へ搬送物46を搬送しようとするリーダ10に対して、2台のフォロワ20a及び20bが上記軌道推定器40をそれぞれ有し、協調搬送を行うシステムである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】2台のロボットによる協調搬送システムの外観図である。
【図2】把持部にフックを用い、アイボルトに掛けて、アイボルトを吊り上げるときの状態を説明する図である。
【図3】上記協調搬送システムで用いる軌道推定のためのフィルタ(軌道推定器)の構成の一例を示す図である。
【図4】リーダとフォロワの走行距離を示す図である。
【図5】ロボットの手先と搬送物中心位置の軌跡を示す図である。
【図6】3台のロボットによる協調搬送システムの外観図である。
【図7】従来技術の位置誤差と軌道の関係を示す図である。
【図8】従来技術による推定のためのフィルタを示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 2台のロボットによる協調搬送システム
10 移動台車(リーダ)
13 ロボットアーム
14 フック
20 移動台車(フォロワ)
23 ロボットアーム
24 フック
30 搬送物
31及び32 アイボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送物を把持するリーダと、同じく搬送物を把持し、かつリーダの目標軌道と自身の目標軌道の差に基づいて目標軌道を推定するフォロワとが協調しながら搬送物を搬送する複数ロボットによる協調搬送システムにおいて、
上記フォロワの上記搬送物に対する把持部にガタ・すべりが有るか否かを判断するガタ・すべり判断部と、
上記ガタ・すべり判断部にて上記フォロワの把持部にガタ・すべりがあると判断したときと、ガタ・すべりがないと判断したときとで、フォロワの目標軌道の推定を異ならせる軌道推定部と
を備えることを特徴とする複数ロボットによる協調搬送システム。
【請求項2】
上記ガタ・すべり判断部は、上記把持部の運動方向と位置偏差の方向に基づいて上記把持部にガタ・すべりが有るか否かを判断することを特徴とする請求項1記載の複数ロボットによる協調搬送システム。
【請求項3】
上記ガタ・すべり判断部は、上記把持部の運動方向と位置偏差の方向が同じであるときは上記把持部にガタ・すべりが無いと判断し、上記把持部の運動方向と位置偏差の方向が異なるときは上記把持部にガタ・すべりが有ると判断することを特徴とする請求項2記載の複数ロボットによる協調搬送システム。
【請求項4】
上記軌道推定部は、上記ガタ・すべり判断部が上記フォロワの把持部にガタ・すべりが無いと判断したときには、フォロワの目標軌道と自身の実軌道の差の2倍の値を推定誤差とし、この推定誤差を所定のフィルタに通して目標軌道を推定することを特徴とする請求項1記載の複数ロボットによる協調搬送システム。
【請求項5】
上記軌道推定部は、上記ガタ・すべり判断部が上記フォロワの把持部にガタ・すべりが有ると判断したときには、上記リーダが停止するような軌道を出力することを特徴とする請求項1記載の複数ロボットによる協調搬送システム。
【請求項6】
同一の搬送物を協調しながら搬送する協調搬送システムにあって、搬送物を把持するリーダに対して、同じく上記搬送物を把持し、かつリーダの目標軌道と自身の目標軌道の差に基づいて目標軌道を推定するフォロワ側ロボットであって、
上記フォロワの上記搬送物に対する把持部にガタ・すべりが有るか否かを判断するガタ・すべり判断部と、
上記ガタ・すべり判断部にて上記フォロワの把持部にガタ・すべりがあると判断したときと、ガタ・すべりがないと判断したときとで、フォロワの目標軌道の推定を異ならせる軌道推定部と
を備えることを特徴とするフォロワ型ロボット。
【請求項7】
搬送物を把持するリーダと、同じく搬送物を把持し、かつリーダの目標軌道と自身の目標軌道の差に基づいて目標軌道を推定するフォロワとが協調しながら搬送物を搬送する複数ロボットによる協調搬送方法において、
上記フォロワの上記搬送物に対する把持部にガタ・すべりが有るか否かを判断するガタ・すべり判断工程と、
上記ガタ・すべり判断工程にて上記フォロワの把持部にガタ・すべりがあると判断したときと、ガタ・すべりがないと判断したときとで、フォロワの目標軌道の推定を異ならせる軌道推定工程と
を備えることを特徴とする複数ロボットによる協調搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−111826(P2007−111826A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306135(P2005−306135)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】