説明

ガラス、ガラス基板ブランクスおよびガラス基板それぞれの製造方法

【課題】 高度の品質が要求される情報記録媒体用ガラス基板に好適に用いられるガラスの製造方法、この方法で得られたガラスを用いてガラス基板ブランクスおよびガラス基板を製造する方法を提供する。
【解決手段】 ガラス原料をガラス溶解装置で溶解し、アルカリ金属元素を含むガラスを製造する方法において、前記溶解装置として、ガラス接触部分の材料がジルコニウムを含み、かつ実質的にアルカリ金属元素を含まない材料で構成されたものを用いるガラスの製造方法、この製造方法で得られたガラスをプレス成形またはフロート成形するガラス基板ブランクスの製造方法、および該ガラス基板ブランクスに研削、研磨加工を施すガラス基板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度の品質が要求される情報記録媒体用ガラス基板などに好適に用いられるガラスの製造方法、この方法で得られたガラスを用いてガラス基板ブランクスおよびガラス基板を製造する方法、該ガラス基板を用いた情報記録媒体、並びに前記ガラスの製造方法において用いられるガラス溶解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガラス溶解装置におけるガラス接触部分の材料(以下、炉材と称すことがある。)としては、高温部にはAZS系(Al23−ZrO2−SiO2系)電鋳耐火物が、また比較的低温部にはアルミナ系電鋳耐火物が用いられている。これらの炉材はガラスに対する汚染が少なく又発泡性が少ないという理由で好んで使用されている(例えば、ソーダーライムガラス、CRT用ガラス、光学ガラス、電子用ガラスの溶解装置おけるガラス接触部分に使用されている。)
磁気ディスク用ガラス基板などの情報記録媒体用基板の材料であるガラスも上記の理由からガラス接触部分の炉材にAZS系電鋳耐火物を使用することが望ましいと考えられている。
【0003】
ところで、従来の磁気ディスク用基板材料はアルミニウム基板が主流であったが、近年、磁気デスク用基板材料は高密度化の要求の高まりとともに、ヤング率が高い、ディスク表面の平坦性が出やすい等の理由でアルミニウム材料からガラス材料へと移行しつつある。また、磁気ディスクの高密度化に伴い記録媒体と書込み読取りヘッドとの距離は著しく小さくなる。現在では、その距離は分子数個分程度の距離にまで近づけられている。磁気ディスク動作時にはヘッドとディスクの距離をこのような微小距離に保ちつつ、ディスクを1秒間に数千回回転させなければならない。このような状態は、大型ジェット旅客機がいずれの障害物にも衝突せずに地面から数十cm以下の高さを保ちながら飛行するようなもので、情報記録媒体用基板表面には微細な突起といえどもその存在は許されないのが実状である。
【0004】
しかしながら、このような高記録密度化を妨げる基板表面の欠陥の一つにZrO2マウンドの問題があった。ZrO2マウンドは次のようにして生じるものと考えられる。ZrO2の硬度はガラスよりも遥かに大きい。したがって、ZrO2粒子を含むガラス基板の表面を研磨すると、表面に存在するZrO2粒子の減りかたは遅く、ガラスの減りかたは速い。その結果、表面に存在するZrO2粒子が基板表面に微小な突起として現れることになる。この微小突起がジルコニアマウンドであり、この突起があると記録媒体表面にも突起形状が反映し、ヘッドが磁気ディスク表面の突起に衝突するヘッドクラッシュの原因となる。昨今の高記録密度媒体では、微小なZrO2マウンドが1個あっても不良品となってしまう。
そのため、情報記録媒体用基板材料としてのガラスを溶解する際、ZrO2粒子の混入を徹底的に防止しなければならない。一方、上記用途におけるガラス需要は大きく、大量生産しなければ、需要に応じた供給が不可能になるという事情がある。したがって、ZrO2粒子を含まないガラスを安定して多量に生産するための技術が必要とされてきた。
【0005】
ところが、上記情報記録媒体用基板材料としてのガラスをAZS系電鋳耐火物のガラス溶解装置で溶解すると、ZrO2マウンドの問題が発生しやすい。その原因は、ガラス中のZrO2の量が多くなる、例えば5重量%以上になるとZrO2が溶解しにくくなるためZrO2未溶融物が発生しやすくなると考えられていた。そのため、ZrO2の含有量のみに注意が払われたがゆえに、溶解装置とZrO2結晶の発生との関連性については何ら注目されていなかった。以上のようなことから、これまでZrO2の結晶粒を全く含まず、したがってZrO2マウンドフリーのガラス基板を多量に得ることを実現できなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、ZrO2マウンドのような高融点物質(ZrO2,SiO2,Al23など)による表面微小突起の問題がなく、高度の品質が要求される情報記録媒体用ガラス基板に好適に用いられるガラスの製造方法、この方法で得られたガラスを用いてガラス基板ブランクスおよび高品質のガラス基板を生産性よく製造する方法、該ガラス基板を用いた情報記録媒体、並びに前記のZrO2マウンドの問題などがないガラスの製造方法において用いられるガラス溶解装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
【0008】
ZrO2マウンドの発生原因であるガラス中のZrO2結晶粒の生成は、ガラス成分のZrO2原料が難溶性であるためでもなく、また、ガラス組成がZrO2成分を5重量%以上含有するためでもないことが分かった。
【0009】
ZrO2系マウンド発生のメカニズムは、ガラス成分中のLi元素と、溶解装置における高温のガラスと接触する部分のAZS系電鋳耐火物に存在するガラス相中のNa元素との反応によるものと考えられる。AZS系電鋳耐火物はガラス相中に耐火物重量に基づき1〜10%程度のNa2Oが構成成分として存在している。したがって、AZS系電鋳耐火物のガラス相に含まれているNa2OのNaイオンとガラス成分であるLi2OのLiイオンがイオン交換を起こし、ガラス相中のNaがLiに置き換わったことで軟化を生起してAZS結晶構造を壊してしまう。その結果、AZS系耐火物の形が崩れて破片となり、接触する溶融ガラス内に入り、ガラス相を構成しているZrO2がガラス内に混入するために、融点の高いZrO2結晶粒は溶融ガラス中に無数に存在することとなる。
【0010】
一方、ZrO2を主成分とするジルコニア系耐火物(ZrO2純度90重量%以上)はNa成分を殆ど含まないもしくは実質的に含んでいないために、ガラスと耐火物との接触面は滑らかで形も原型をとどめている。その結果、このような耐火物で溶解したガラスには失透や不純物などの欠点は認められなかった。
【0011】
以上のような事実から、Li元素を含むガラスを溶融する場合、使用する電鋳耐火物中に含まれるNa2O不純物濃度は1重量%以下とされ、望ましくは0.5重量%以下である。
この実験結果から明らかなように、Li元素を含むガラスと、Na元素含有のガラス相を含む電鋳耐火物を使用した溶解装置の組合せが、ガラス材料中にZrO2系結晶粒を生成する原因であり、Li元素を含むガラスを溶解する溶解装置は、その材料として、アルカリを含まない電鋳耐火物を使用することが、高度な品質が要求される、電子用材料、とりわけ磁気ディスク基板材料のような平面平坦性が求められるガラス素材の溶解には、必要不可欠であるとの結論に達した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)ガラス原料をガラス溶解装置で溶解し、アルカリ金属元素を含むガラスを製造する方法において、前記溶解装置として、ガラス接触部分の材料がジルコニウムを含み、かつ実質的にアルカリ金属元素を含まない材料で構成されたものを用いることを特徴とするガラスの製造方法、
(2) ガラス接触部分の材料が純度が90重量%以上のZrOを含む上記(1)項に記載のガラスの製造方法、
(3) ガラス接触部分の材料に起因するZrOの結晶質が存在しない状態でガラス原料を溶解する上記(1)または(2)項に記載のガラスの製造方法、
(4) ガラス中のアルカリ成分と溶解装置におけるガラス接触部分の炉材のガラス相に含まれるアルカリ成分とのイオン交換による炉材の侵蝕を防ぐことにより、ZrOの結晶質の生成を防止する上記(3)項に記載のガラスの製造方法、
(5)アルカリ金属元素を含むガラスが、リチウム元素を含むガラスである上記(1)ないし(4)項のいずれか1項に記載のガラスの製造方法、
(6)ガラス溶解装置におけるガラス接触部分の材料が、実質的にナトリウム元素を含まない材料で構成されたものである上記(1)ないし(5)項のいずれか1項に記載のガラスの製造方法、
(7)アルカリ金属元素を含むガラスが、SiO2、Al23およびZrO2の中から選ばれる少なくとも1種の酸化物を含むガラスである上記(1)ないし(6)項のいずれか1項に記載のガラスの製造方法、
(8)ガラスが化学強化用ガラスおよび/または結晶化用ガラスである上記(1)ないし(7)項のいずれか1項に記載のガラスの製造方法、
(9)上記(1)ないし(8)項のいずれか1項に記載の方法によりガラスを製造し、得られたガラスを溶融状態でプレス成形、フロート成形またはダウンドロー成形することを特徴とするガラス基板ブランクスの製造方法、
(10)上記(9)項に記載の方法によりガラス基板ブランクスを製造し、得られたガラス基板ブランクスに研削、研磨加工を施すことを特徴とするガラス基板の製造方法、
(11)研削、研磨加工を施した後に、化学強化処理を施す上記(10)項に記載のガラス基板の製造方法、
(12)最終研磨加工を施す前にガラスを結晶化させる上記(10)項に記載のガラス基板の製造方法、
(13)ガラス基板が情報記録媒体用基板である上記(10)、(11)または(12)項に記載のガラス基板の製造方法、
(14)上記(13)項に記載の方法で製造された情報記録媒体用基板の主表面に、情報記録層が設けられたことを特徴とする情報記録媒体、および
(15)ガラス原料を溶解してアルカリ金属を含むガラスを製造するガラス溶解装置において、前記原料を溶解する際にガラスと接触する部分の材料が、ジルコニウムを含み、かつ実質的にアルカリ金属元素を含まない材料で構成されていることを特徴とするガラス溶解装置、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガラスの製造方法によれば、ZrO2、またはZrSiO4などのような高融点物質の結晶質が全く存在しない溶解状態として、アルカリ金属元素含有のガラスを生産性よく製造することができる。
【0014】
また、本発明によれば、炉材に起因するZrO2やZrSiO4などの高融点物質の結晶質が全く存在しない溶解状態として、アルカリ金属元素含有のガラスを生産性よく製造する溶解装置、高融点物質からなる結晶質を含まないガラス基板ブランクス、および微小結晶質による表面突起をもたない平坦なガラス基板を提供することができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、微小結晶質による表面突起を持たない平坦な情報記録媒体用ガラス基板を備えた情報記録媒体を提供することができ、高記録密度に対応可能な信頼性の高い情報記録媒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例におけるガラス溶解槽の平面図、正面図および側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本発明のガラスの製造方法について説明する。
本発明のガラスの製造方法においては、ガラス原料をガラス溶解装置で溶解し、アルカリ金属元素を含むガラスを製造する際に、前記溶解装置として、ガラス接触部分の材料がジルコニウムを含み、かつ実質的にアルカリ金属元素を含まない材料で構成されたものが用いられる。
【0018】
情報記録媒体用ガラス基板などのガラス基板では、基板強度を向上させる目的で、通常基板の化学強化処理が行われる。この化学強化処理するガラスとしては、ガラス成分としてアルカリ金属元素、特にリチウム元素を含むものが用いられる。
【0019】
ガラス溶解中における結晶粒の混入は、上記のようにガラス中のアルカリ成分と溶解装置におけるガラス接触部分の炉材のガラス相に含まれるアルカリ成分のイオン交換によって炉材が侵蝕されるために生じる。すなわち、ガラス中のLi2Oは溶解時に炉材のガラス相中のナトリウムイオンとのイオン交換する成分でもあるので、炉材にはアルカリ成分を含まないものを使用することが必要である。溶解中のガラスが接触する部分(以下、ガラス接触部分という。)のすべてに、このようなアルカリ金属成分を含まない炉材を使用すれば本発明の目的を達成することができる。とりわけ好ましいガラス接触部分は、加熱用電極を除き、すべてZrO2系電鋳耐火物よりなる炉材で構成することである。
【0020】
また、情報記録媒体用基板の材料として結晶化ガラスも優れた性質を有している。情報記録媒体用基板などの平滑な主表面が要求される用途では、結晶相の大きさや密度などの厳密な制御のものに結晶化が行われる。リチウムなどのアルカリ金属を構成成分とする結晶相を析出するには、結晶化ガラスのもとになるガラス(母材ガラス)も当然、そのアルカリ金属を含有する。このガラスの溶解時にも、炉材侵蝕による溶融ガラスの汚染という問題が起る。結晶化工程で上記のような制御を行っても、母材ガラス中に上記汚染による結晶粒の混入があると、その結晶粒が基板表面に異常突起となって現れ、基板表面の平滑性、平坦性を損なうことになる。したがって、アルカリ金属を含む結晶化ガラスの母材ガラスを溶解する際にも、本発明の方法が有効である。
【0021】
ここで実質的にアルカリ金属成分を含まない炉材とは、溶解されるガラス中のアルカリ金属イオンとのイオン交換によって炉材の侵蝕が生じることのない含有量のアルカリ金属成分を含む炉材と、アルカリ金属成分を含まない炉材とを意味する。前者の場合、溶解温度、ガラス組成、ガラス原料などの条件によってアルカリ金属成分の許容含有量は決まるが、通常、1重量%以下であれば炉材の侵蝕を防ぐことができる。好ましくは0.5重量%以下とする。特にナトリウム元素を含まない炉材が好適である。
【0022】
上記炉材としては、単斜型ジルコニアと単斜型ジルコニアを結合するガラス相を含む耐火物、ジルコニアを主成分(含有量が最大の成分)とし、SiO2を含む電鋳耐火物などを挙げることができる。電鋳耐火物は、耐火物原料を完全に溶融し、溶融物を鋳型に鋳込み、成形、冷却固化することにより得られる。
【0023】
本発明のガラスの製造方法は、アルカリ金属元素を含むガラス、特にSiO2、Al23およびZrO2の中から選ばれる少なくとも1種の酸化物とアルカリ金属元素を含むガラスの製造に好適である。上記アルカリ金属成分としては、Li2Oのようなリチウム元素を含む成分の場合、従来の方法と比較して特に顕著な効果を得ることができる。炉材からの混入によってガラス中に微小結晶粒を作りやすいZrO2、Al23、SiO2などのガラス中における含有量が少なければ、炉材から混入した物質がガラス中に溶解する可能性も考えられるが、このような成分を含むガラスでは、上記物質の溶解反応が極めて進みにくく、結果的に微小結晶粒を発生させてしまう。したがって、本発明はアルミノシリケートガラスの溶解、製造に適した方法であり、特にZrO2を含有するアルミノシリケートガラスの製造に好適である。
【0024】
具体的には、SiO2 50〜70モル%、Al23 0〜20モル%およびZrO2 0〜15モル%を含み、かつアルカリ金属酸化物の合計含有量が0.5〜25モル%のガラスを挙げることができる。このうち、より好ましいガラスは、アルカリ金属酸化物としてLi2Oを含むものであり、Li2Oを0.5〜20モル%含むものがさらに好ましい。さらには二価成分であるCaOもしくはMgOをRO成分として10モル%以下含むか、ガラス成分に含まないものがよい。
【0025】
SiO2はガラス骨格を形成する主要成分であり、50モル%未満であると液相温度が下がると共に粘性が下がって成形が困難となり、70モル%を越えると粘性が上がりすぎて溶解が困難となる。したがってSiO2の割合は、上記の範囲とすることが好ましい。
【0026】
Al23はガラス表面のイオン交換性能を向上させるため含有させるが、20モル%を越えると溶解性の悪化による未溶解物の生成といった不具合を発生させることがある。したがってAl23の割合は、上記の範囲とすることが好ましい。
【0027】
ZrO2はガラス中で溶解されにくく、微小結晶粒を作りやすい成分であるが、化学的耐久性、基板の強度や硬さ、イオン交換の効率を向上させる成分である。しかしながら、15モル%を越えると溶融が困難となる。したがってZrO2の割合は、上記の範囲とすることが好ましい。
【0028】
アルカリ金属酸化物はガラス表層部でイオン交換処理浴中のアルカリ金属イオンとイオン交換されることにより、ガラスを化学強化するための成分であるが、その合計含有量が0.5モル%未満であると化学強化による強度の増強には不充分となり、25モル%を越えると化学的耐久性の低下を招くことがある。したがってアルカリ金属酸化物の合計含有量は、上記の範囲とすることが好ましい。
【0029】
アルカリ金属酸化物において、Li2Oはガラス表層部でイオン交換処理浴中の主としてNaイオンとイオン交換されることにより、ガラスを化学強化するための成分であるが、0.5モル%未満であるとヤング率を低下させる原因となり、20モル%を越えると化学的耐久性の低下を招くことがある。したがってLi2Oの割合は、上記の範囲とすることが好ましい。
好ましい組成について、以下にさらに例示する。
【0030】
重量%表示で、SiO2を60〜75%、Al23を5〜18%、Li2Oを4〜10%、Na2Oを4〜15%、ZrO2を3〜15%含むガラス。前記組成範囲内にあって、特にNa2O/ZrO2の重量比が0.5〜2.0かつAl23/ZrO2の重量比が0.4〜2.5であるガラス。(ガラス1)
モル%表示で、SiO2を35〜65%、Al23を0.1〜15%未満、Li2Oを4〜20%、Na2Oを0〜8%、Na2OとLi2Oを合計量で3〜30%、TiO2を0.1〜30%、CaOを1〜45%、MgOを前記CaOとの合計量で5〜40%含むガラス。(ガラス2)
モル%表示で、SiO2を50〜70%, Al23を1〜30%, Li2Oを1〜20%, アルカリ金属総量(Li2O+Na2O+K2O)で1〜25%, CaO+MgO合計量で0〜10%, ZrO2を0〜5%, TiO2を0〜4%含むガラス。(ガラス3)
【0031】
なお、ガラス1および2は、化学強化に適したガラスであり、ガラス3は、結晶化ガラスの母材ガラス(熱処理により結晶化される前のガラス)に適したガラスである。
【0032】
上記ガラスの溶解においては、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物など原料を所定の量、秤取し、混合して調合原料とし、これを通常1150〜1600℃、好ましくは1200〜1500℃の温度に加熱した溶解装置に投入、溶解、清澄後、攪拌して均一化し、溶融ガラスを得る。これを所望の形状に成形して、SiO2、Al23、ZrO2の全量が溶融状態で含まれる、すなわち上記成分がすべて非晶質状態で含まれるガラスが得られる。上記ガラスの溶解で使用される溶解装置は、上述したものである。
【0033】
なお、ガラス中のSiO2、Al23、ZrO2の全量が溶融状態で含まれているかどうかは、肉眼、顕微鏡もしくは単光色における乱反射によって確認することができる。
【0034】
次に、本発明のガラス基板ブランクスおよびガラス基板の製造方法について説明する。
本発明のガラス基板ブランクスの製造方法においては、上述の方法により製造されたガラスを溶融状態でプレス成形またはフロート成形してガラス基板ブランクスを製造する。高い生産性のもと高品質の情報記録媒体用ガラス基板を製造する場合には、上述した方法で作製された溶融状態のガラスを、プレス成形可能な温度にあるときにプレス成形して、基板に近似する形状を有する基板ブランクスを作製するのがよい。このブランクスをアニールした後、基板形状に研削、研磨加工を施して主表面が極めて高度に平坦、平滑化されたガラス基板を作製する。そして、必要に応じてガラス基板の強度を向上させるべく、基板を化学強化もしくは熱処理で結晶化してもよい。
【0035】
ガラス基板ブランクスの製造は、上記方法で溶解され、均質化された溶融ガラスを流出パイプで、成形面上に、好ましくは粉末状離型剤が塗布され、所定温度に加熱された下型の成形面上に所定量、供給され、ガラスの温度がプレス成形可能な温度範囲を下回らないうちに、所定温度に加熱された上型と下型、あるいは前記上下型に加えて胴型を用いて、ブランクス形状にプレス成形される。その後、成形品の温度がガラス転移温度付近になった時点で成形品を成形型から取り出す。この成形品をガラスの歪み点付近まで急冷した後、アニール炉中でアニールし、基板ブランクスを得る。なお、プレス成形から成形品の型取り出しまでの間、成形品の反りを直すために成形品を加圧してもよい。また、溶融ガラスの下型上への供給において、ガラスの温度はガラスが連続して流出パイプから流出可能であり、失透しない温度範囲に調整することが肝要である。このようにして得られたガラス基板ブランクスは、溶解されたガラスと同じ組成を有しており、ZrO2、あるいはSiO2、Al23の結晶粒を含有していない。ここではブランクスの製造方法として、プレス成形法を例にして説明したが、フロート成形法で基板ブランクスを成形してもよいし、あるいはダウンドロー成形法など、従来公知の他の成形法も採用することができる。また、いずれの成形法においても、成形時および成形後の処理でガラスの失透による結晶化が起きないようにすることが望ましい。
【0036】
このようにして得られたガラス基板ブランクスには、研削、研磨加工が施され、ガラス基板に仕上げられる。研削、研磨加工は周知の方法を用いることができるが、本発明のガラス基板ブランクスは、ZrO2、またはZrSiO4の結晶質を含まない。これらの結晶質はいずれもアモルファス状態のガラスと比べ、高い硬度を有しており、基板ブランクスが上記結晶質を含むと、基板の主表面を研削、研磨によって形成する際、硬度の差によってアモルファス質の研磨スピードが結晶質の研磨スピードよりも著しく速くなるので、結晶質の突起が基板表面に形成されやすくなる。しかし、本発明の基板ブランクスは上記結晶質を含まないので、得られたガラス基板は上記突起が形成されず、高記録密度を有する情報記録媒体用基板として好適である。
【0037】
次に、化学強化処理について説明する。研削、研磨加工が施された基板をアルカリ金属イオンを含む溶融塩に浸漬して、ガラス基板中のアルカリ金属イオンと溶融塩中のアルカリ金属イオンとがイオン交換するように処理を施す。この際、溶融塩中に含まれるアルカリ金属イオンは、イオン交換されるガラス中のアルカリ金属イオンのイオン半径よりも大きなものを選択する。例えば、ガラス基板がリチウムイオンを含む場合、溶融塩はナトリウムイオンおよび/またはカリウムイオンを含むものが望ましく、ガラス基板がナトリウムイオンを含む場合、溶融塩はカリウムイオンを含むものが望ましい。本発明におけるガラス基板にはリチウムイオンおよびナトリウムイオンが含まれるので、溶融塩としてはナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含むものが好ましい。溶融塩としては、これらアルカリ金属の硝酸塩を用いることが好ましいが、硫酸塩、硫酸水素塩、炭酸塩、炭酸水素塩、ハロゲン化物なども用いることができる。化学強化の効率を向上させる上から基板を構成するガラスは、ガラス成分としてZrO2を含むことが好ましいが、ZrO2を含むガラスは溶解の際に炉材から混入するZrO2が結晶相として残留しやすい。しかし、本発明によればガラスがガラス成分としてZrO2を含んでいても、炉材からZrO2が混入することがないので、ZrO2結晶質を含まないガラス基板を得ることができ、化学強化されたガラス基板を高生産性のもと製造することができる。なお、化学強化されたガラス基板は、必要に応じてアルカリ溶出処理を行ってもよい。
【0038】
また、本発明においては、最終研磨加工を施す前にガラスを結晶化させて結晶化ガラスにしてから研磨加工を施し、ガラス基板を作製してもよい。
【0039】
このようにして得られたガラス基板は、極めて平坦かつ平滑な主表面を有しており、主表面上にSiO2、Al23、ZrO2の結晶質からなる突起をもたない。したがって、情報記録媒体用基板として好適である。
【0040】
この基板を磁気記録媒体用基板に用いた場合、高記録密度に対応して記録媒体表面と書込み読取りヘッドの距離を接近させても、媒体表面と上記ヘッドが接触、衝突することなく、ヘッドを浮上させることができる。そのため、高い信頼性を有する情報記録媒体を提供することができる。このような基板の主表面に情報記録層(例えば、磁気記録媒体の場合は磁性層)、あるいは必要に応じて記録層を保護する保護層などを設けて多層化し、周知の方法で情報記録媒体を得ることができる。なお、上記情報記録媒体用ガラス基板の主表面の平坦度は、表面粗さ(Ra)で20nm以下である。
【0041】
また、上記基板として、ZrO2を含むアルミノシリケートガラスを用い、化学強化処理を施したものは、耐候性、機械強度に優れた信頼性の高いものであるとともに、ディスク状の情報記録媒体の高速回転に対する高安定性も備えている。
【0042】
本発明はまた、ガラス原料を溶解してアルカリ金属を含むガラスを製造する際に用いられるガラス溶解装置として、前記原料を溶解する際にガラスと接触する部分の材料が、ジルコニウムを含み、かつ実質的にアルカリ金属元素を含まない材料で構成されている装置をも提供する。
【実施例】
【0043】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
【0044】
実施例
本実施例におけるガラス溶融槽は、電鋳耐火物を組み合わせて製作した容器にガラス原料を投入、加熱して溶融ガラスにするものである。
【0045】
図1は、本実施例におけるガラス溶解槽の平面図(イ)、正面図(ロ)および側面図[左側面図(ハ)、右側面図(ニ)]である。
図1で示される溶解槽においては、ガラス原料を溶解する部分を最前段(左側)に備え、ここにガラス原料が投入される。この溶解槽は4方向からなる側面と底面で構成され、槽手前(左側)に原料投入口(a)と槽後方(右側)に溶融ガラスの出口(b)を備えている。溶融ガラスと接触する部分すべてにアルカリ金属を含まない電鋳耐火物を使用している。
【0046】
溶解槽上部にセリ(図示せず)と呼ばれる煉瓦でできた屋根と加熱燃焼バーナー(図示せず)、ガスの排出口を備えている。図1で示すように溶解槽手前の(a)部からガラス原料を間欠もしくは連続式で投入する。加熱方法はガラス液面上部に可燃性ガス(ブタン、プロパンなど)と支燃性ガス(空気、酸素など)を混合したガスをバーナーで燃やして溶融する方法か、または溶融ガラスに直接通電電極(SnO2, MoO2など)を接触させて加熱する方法、またはその両方を併用することができる。このような加熱方法で溶融したガラスはアルカリ金属を含まない耐火物に接触しながら順に(a)→(b)へと流動する。(b)部はガラスの出口であり、溢れたガラスは次の槽、例えば、清澄槽、攪拌などにより溶融ガラスを均質化する作業槽へ順次流れていく。清澄槽も溶解槽と同様、溶融ガラスが接触する部分をアルカリ金属を含まない電鋳耐火物を用いるか、白金製または白金合金製とすればよい。作業槽は白金または白金合金により構成すればよい。なお、上記溶解槽では溶融ガラスの清澄も行うこともできる。
出口から溢れたガラスは図1に示すような溶解槽の場合、ガラス液面は側壁の高さの60〜80%程度が一般的であるが、それ以下でも構わない。
【0047】
なお、本実施例では、溶融ガラスと接触する部分にアルカリ金属を含まない耐火物を使用したが、アルカリ金属の含有量が極めて低レベル(1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下)に制限された市販の耐火物を使用することもできる。このような耐火物として、単斜型ジルコニア94重量%がガラス相6重量%中に分散した電鋳耐火物などを例示できる。耐火物中のNa2Oの含有量は0.3重量%以下に抑えられており、主成分の他、SiO2、Al23、TiO2などを少量含むものもある。
【0048】
このような溶解装置を用い、SiO2、Al23、Li2O、Na2O、ZrO2を含む溶融ガラス1が得られるガラス原料、SiO2、Al23、Li2O、Na2O、TiO2、CaO、MgOを含む溶融ガラス2が得られるガラス原料、SiO2、Al23、Li2O、Na2O、K2O、CaO、MgO、ZrO2、TiO2を含む溶融ガラス3が得られるガラス原料をそれぞれ溶解した。
【0049】
それぞれのガラス原料を溶解した後も、長時間にわたって溶融ガラスと接触していた耐火物には全く侵食が見られず、溶解槽のメンテナンスは、通常のレベルで十分である。
溶融ガラス1〜3を、以下の2つの成形方法によって情報記録媒体用基板ブランクを作製した。
第1の成形方法は、上記溶解装置に接続された白金合金製の流出パイプから、一定スピードで清澄、均質化された溶融ガラス1〜3を流出し、流出するガラスを次々と金型(下型)で受け、前記下型と、下型に対向する上型によってプレスし、薄板円盤状ガラスに成形するというものである。薄板状ガラスはアニール炉に搬送されアニールされる。溶融ガラス1および2より成形された薄板円盤状ガラスは、外径、内径加工、表面の研削、研磨加工が施された後、硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの混合溶融塩に浸漬することによって、化学強化され、ディスク状の情報記録媒体用ガラス基板となる。
【0050】
また、溶融ガラス3より形成された薄板状ガラスは、外径、内径、表面の研削、研磨、熱処理による結晶化の工程を含む一連の工程を経てディスク状の情報記録媒体用結晶化ガラス基板となる。
【0051】
上記いずれの薄板状ガラス、基板にも溶解時の汚染による表面の微小突起は全く認められず、すべて情報記録媒体用基板としての要求を満たすものであった。
第2の成形方法は、清澄、均質化された溶融ガラス1〜3をフロート成形して、薄板状ガラスを成形するというものである。フロート成形によって得られた薄板状ガラスはアニールされた後に、円盤状に加工される。その後の工程は、第1の成形方法と同様にして、ディスク状の情報記録媒体用基板を得た。上記いずれの薄板状ガラス、基板にも溶解時の汚染による表面の微小突起は全く認められず、すべて情報記録媒体用基板としての要求を満たすものであった。
これらの基板上に磁気記録層を含む多層膜を形成し、情報記録媒体を作製した。
【0052】
以上のように、溶融ガラスと接触する部分にアルカリ金属を実質的に含まない炉材を使用したので、アルカリ金属成分を含むガラスでも、炉材の混入による溶融ガラスの汚染を防ぐことが可能となり、高融点物質の結晶質を含まないアルカリ金属成分を含むガラス、前記ガラスからなる化学強化された基板、前記ガラスを熱処理して得られる結晶化ガラスからなる基板を高い生産性のものに安定して製造することができる。またこのような基板を用いて磁気ディスクなどの情報記録媒体を製造することにより、情報記録媒体を高い生産性のもとに安定して製造することもできる。
【0053】
比較例
ZrO2、Al23を主要構成成分とし、その他、SiO2、Na2Oなどを含む耐火物を用いた溶解槽で、上記ガラス原料の溶解を行った。なお、この耐火物中のNa2O含有量は1.5重量%であった。溶解を連続して行ったところ、溶融ガラスと接触する部分の耐火物に侵蝕が発生した。このようにして溶解されたガラスを清澄、攪拌して、流出パイプから金型上に供給し、情報記録媒体用基板のブランクをプレス成形した。ブランクをアニールして歪みを除去した後、表面に研削、研磨加工を施して基板とした。この基板表面を観察したところ、微小な突起が認められた。この突起を分析したところ、ジルコニアからなることがわかった。この突起はヘッドクラッシュの原因となるため、磁気ディスク用基板として使用することができなかった。
【符号の説明】
【0054】
(a)ガラス原料の投入口
(b)溶融ガラスの出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料をガラス溶解装置で溶解し、アルカリ金属元素を含むガラスを製造する方法において、前記溶解装置として、ガラス接触部分の材料がジルコニウムを含み、かつ実質的にアルカリ金属元素を含まない材料で構成されたものを用いることを特徴とするガラスの製造方法。
【請求項2】
ガラス接触部分の材料が純度が90重量%以上のZrOを含む請求項1に記載のガラスの製造方法。
【請求項3】
ガラス接触部分の材料に起因するZrOの結晶質が存在しない状態でガラス原料を溶解する請求項1または2に記載のガラスの製造方法。
【請求項4】
ガラス中のアルカリ成分と溶解装置におけるガラス接触部分の炉材のガラス相に含まれるアルカリ成分とのイオン交換による炉材の侵蝕を防ぐことにより、ZrOの結晶質の生成を防止する請求項3に記載のガラスの製造方法。
【請求項5】
アルカリ金属元素を含むガラスが、リチウム元素を含むガラスである請求項1ないし4のいずれか1項に記載のガラスの製造方法。
【請求項6】
ガラス溶解装置におけるガラス接触部分の材料が、実質的にナトリウム元素を含まない材料で構成されたものである請求項1ないし5のいずれか1項に記載のガラスの製造方法。
【請求項7】
アルカリ金属元素を含むガラスが、SiO2、Al23およびZrO2の中から選ばれる少なくとも1種の酸化物を含むガラスである請求項1ないし6のいずれか1項に記載のガラスの製造方法。
【請求項8】
ガラスが化学強化用ガラスおよび/または結晶化用ガラスである請求項1ないし7のいずれか1項に記載のガラスの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の方法によりガラスを製造し、得られたガラスを溶融状態でプレス成形、フロート成形またはダウンドロー成形することを特徴とするガラス基板ブランクスの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法によりガラス基板ブランクスを製造し、得られたガラス基板ブランクスに研削、研磨加工を施すことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項11】
研削、研磨加工を施した後に、化学強化処理を施す請求項10に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項12】
最終研磨加工を施す前にガラスを結晶化させる請求項10に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項13】
ガラス基板が情報記録媒体用基板である請求項10、11または12に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法で製造された情報記録媒体用基板の主表面に、情報記録層が設けられたことを特徴とする情報記録媒体。
【請求項15】
ガラス原料を溶解してアルカリ金属を含むガラスを製造するガラス溶解装置において、前記原料を溶解する際にガラスと接触する部分の材料が、ジルコニウムを含み、かつ実質的にアルカリ金属元素を含まない材料で構成されていることを特徴とするガラス溶解装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184297(P2011−184297A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133230(P2011−133230)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【分割の表示】特願2007−218511(P2007−218511)の分割
【原出願日】平成13年10月24日(2001.10.24)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】