説明

ガラスの一時的保護物

本発明の一つの主題は、連続的な一時的保護フィルムでコーティングされたガラス基材であり、そのフィルムは、識別可能なコロイドポリマー粒子の積み重ねから本質的になる。本発明の他の一つの主題は、ガラス基材を連続的な一時的保護フィルムでコーティングする方法であり、この方法では、少なくとも一つの非水溶性固体ポリマーのコロイド粒子の水系分散体を、前記基材の少なくとも一つの表面に堆積させ、そして前記少なくとも一つのポリマーのガラス転移温度より高いが50℃を超えない温度で、得られたフィルムを乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス保護フィルムの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスの製造、加工、輸送、又は保存のステップの間に、ガラスの表面は、様々な化学物質に汚染されやすく、又は機械的に損傷を受けやすい。例を挙げると、断熱複層(二層又は三層)グレージングを製造する目的のために、グレージングの加工は、シリコーン系の封止剤又はマスチックを伴うことがある。適用後の限られた一定の期間に渡って、その封止剤は、シリコーン蒸気(完全に重合されなかったモノマー又はオリゴマー)を放出する傾向にあり、これはガラスの表面に移動し、その表面を汚染する。シリコーンフィルムは、その化学的類似性に起因して、ガラスに対して極めて接着性があり、それによってグレージングを洗浄するステップを非常に複雑化させる。それゆえ、できる限りシリコーンの汚染を限定させることが推奨される。
【0003】
この問題は、ガラスに堆積させたフィルムの表面特性、特に親水性の特性を利用することが望ましい場合に、特に顕著である。例えば、ガラスに光触媒性の酸化チタン系のフィルムを堆積させることが知られている。例えば、特許文献1は、その光触媒特性、及び光誘起超親水特性に起因して、ガラスの表面を自己洗浄性及び防汚性とする酸化チタン系のフィルムについて記載している。シリコーン汚染は、このフィルムの特性を失わせる場合がある。
【0004】
それゆえ、このタイプの汚染からガラスの表面を一時的に保護するシステムを得ることが重要である。
【0005】
ガラスの表面を、剥離可能な接着性ポリマーフィルムで保護することが知られている。これらのフィルムは、固体状態(例えば、特許文献2)又は液体状態で堆積させることができる。例えば特許文献3で示されているように液体状態で堆積させる場合、ポリマー溶液をガラスに堆積させて、重合後に、ガラスに接着性であり、且つ剥離することによって除去可能な連続的フィルムを与える。しかし、接着性フィルムを固体状態で堆積させることは、いくぶん複雑な堆積装置を必要とする。さらに、剥離ステップは、非常に長く且つ扱いにくくなることがあり、ガラスの表面に微量の接着剤を残す場合がある。
【0006】
液相から得られ、且つ水溶液を用いた洗浄によって除去することができるポリマーフィルムが開発されてきた。例えば、特許文献4は、様々なポリマーの水溶液又は分散体の堆積について記載している。これは、特定の場合には、水で洗浄することによって、又は塩基性の水系溶液の使用によって除去することができる保護フィルムを形成する。一般的に、ポリマー(例えば、前述の特許文献4に記載されているようなポリビニルアルコール、又は特許文献5に記載されているようなアクリル系ポリマー)の水容液から得られるフィルムは、そのポリマー自体が水溶解性であるため、水を用いて簡単に除去することができる。しかし、そのようなフィルムは、あまり耐久性がなく、且つ、例えば雨水の作用によって非常に素早く除去される傾向がある。その保護は、結果的に短すぎであり、保護フィルムは、シリコーンシールがシリコーン蒸気を放出するのが終わる前に除去されて、自己洗浄性の複層グレージングの例の繰り返しとなる。また、従来技術は、水系分散体、したがって水に不溶性のポリマーから得られるフィルムについて述べている。これは比較的耐久性があるが、塩基性の溶液(例えば、特許文献4に記載されている水酸化アンモニウムに基づくもの)、又は水で洗浄する前にガラスの表面からフィルムを引き離す特別な洗剤及び有機物質(特許文献6に記載されているようなもの)の使用を必要とする。これらの溶液又は洗剤は、取り扱いにくく、且つ/又は比較的環境に好ましくない。それゆえ、十分に耐久性があり且つ水で除去可能である一時的保護フィルムを得る必要性が、依然としてある。保護フィルムは、例えば、数週間又は数ヶ月の露出の後で、それゆえシリコーンシールがシリコーン蒸気を放出が終わった後で、住居の居住者又はガラス屋によって容易に除去される必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0850204号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1610940号
【特許文献3】米国特許第5866199号
【特許文献4】米国特許出願公開第2002/0176988号
【特許文献5】国際公開第WO00/50354号
【特許文献6】米国特許第5453459号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、十分な耐久性を有するが、純水を用いて除去することができる、ガラス用の一時的保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的に関して、本発明の一つの主題は、連続的な一時的保護フィルムでコーティングされたガラス基材であり、そのフィルムは、識別可能なコロイドポリマー粒子の積み重ねから本質的に構成されている。好ましくは、そのポリマー粒子は、非水溶性の固体ポリマー粒子から構成される。
【0010】
本発明の他の一つの主題は、このような基材を得る方法である。これは、特にガラス基材を連続的な一時的保護フィルムでコーティングする方法であり、この方法において、少なくとも一つの非水溶性固体ポリマーのコロイド粒子の水系分散体を、前記基材の少なくとも一つの表面に堆積させ、そして前記少なくとも一つのポリマーのガラス転移温度より高いが50℃を超えない温度で、得られたフィルムを乾燥させる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明による保護フィルムでコーティングされたガラス試験片の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。図1は、本発明の保護フィルム2でコーティングされたガラス基材1の一部を示しており、そのフィルムの一部だけが図中で見ることができる。保護フィルム2は、多数の完全に識別可能なコロイド粒子3の集合体から構成されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
下記の記載において、用語「コロイド性水系分散体」は、コロイド粒子の水中での分散体を意味すると理解される。
【0013】
下記の文において、好ましい実施態様は、本発明の主題、すなわちコーティングされた基材と、それを得るための方法との両方に同様に当てはまる。
【0014】
それゆえ、本発明は、ガラス基材上に弱く接着するフィルムを堆積させることからなり、そのフィルムは、単純に小さな硬いポリマー球体の積み重ねから構成される。これら硬い球体は、球体同士の間、又はガラス表面との間のいずれにも、強い化学結合をなさないので、得られるフィルムは、強塩基性の溶液、又は汚染する可能性がある有機化合物を必要とすることなしに、冷水であろうが温水であろうが、純水を用いて簡単に除去することができる。同様に、フィルムの接着性は、ファンデルワールス力又は静電力のタイプの弱い力で与えられ、その摩擦/磨耗抵抗は、顕著である。好ましくは、本発明のフィルムは、後述されるEN1096−2標準で記載された試験において、少なくとも500サイクル、又は少なくとも2000サイクルまでも、抵抗性があるという意味において、摩擦抵抗性である。
【0015】
これに対して、非水溶性ポリマーの水系分散体から得られた従来技術の保護フィルムは、おそらく化学重合反応、又は粒子の部分的な溶融及び結合に起因して、ある程度強い接着性を示し、それによって塩基性溶液又は特別な有機物質の使用を必要とする。
【0016】
用語「〜から本質的に構成される」は、このフィルムが本発明に基づく技術的課題を解決する方法に影響を及ぼさない微量で、他の化合物を、保護フィルムが、任意的に含むことができることを意味すると理解される。好ましくは、本発明によるフィルムは、識別可能なコロイドポリマー粒子の積み重ねから構成される。
【0017】
水系コロイド分散体は、好ましくは水及びコロイドポリマー粒子から構成され、それゆえあらゆる他の化学物質(例えば、顔料、バインダー、可塑剤等)を含有しない。同様に、水系コロイド分散体は、好ましくは一時的保護フィルムを形成するために用いられる唯一の化合物である。
【0018】
乾燥は、連続的フィルムを得るために、そのポリマーのガラス転移温度より高い温度で実行される。これは、このガラス転移温度未満では、乾燥が、保護フィルムの連続的な特徴を損なうクラックの生成を伴うことが観察されているからである。しかし、乾燥は、良好に識別可能である粒子を保つために、最高でも50℃の温度で実行され、これにより粒子は乾燥中に融着しない。高すぎる温度は、小さな識別可能な硬い球体ではなく、共に結合した粒子から構成されるフィルムを生成し、後の除去の容易性の悪化となるリスクを生む。好ましくは、乾燥は、室温に近い温度で、又はわずかに高い温度で、例えば25〜35℃の間で、実行される。好ましくは、温風乾燥、又は少数の赤外線ランプを用いた乾燥を使用することができるおだやかな乾燥手段(室温よりわずかに高い温度での)を場合によっては除いて、加熱手段(例えば、赤外線ランプ)、及び/又は強制的な乾燥手段(例えば、排気システム、又は温風若しくは冷風の送風システム)を、使用しない。過度に長く又は過度に強い加熱又は乾燥は、識別可能ではなく、代わりに部分的に又は完全に溶融した共に結合したポリマー粒子のフィルムを形成するリスクを生み、そうして得られるフィルムは除去するのが難しい。強制的な乾燥手段又は加熱手段は、多くの場合不必要である。これは、フィルムの乾燥が、数分以内(典型的には3分未満、又は2分未満)で非常に自然に行うことができることによる。
【0019】
一般的に言えば、コロイド粒子の形状及びサイズは、乾燥によって実質的に変わらないことが望ましい。この特徴は、粒子間の強い結合の不在の一般的な証明となり、これは水を用いた除去の所望の効果を得るのに重要な因子である。一般的に、これは、そのポリマーのガラス転移温度と比較してあまり高くない温度での急速な乾燥によって得られる。
【0020】
水系コロイド分散体中及び/又は一時的フィルム中のコロイドポリマー粒子の平均粒径は、好ましくは40〜500nm、特には50〜300nm、さらには80〜250nmである。
【0021】
好ましくは、ポリマーは、アクリル系ポリマー又はアクリル系コポリマーであり、例えばスチレン−アクリル系コポリマーである。このタイプのポリマーは、ガラスの表面に非常に弱く接着し、それによりフィルムを簡単に除去できる利点を有する。その上、アクリル系分散体は、制御され且つ再現可能なサイズの粒子を与える乳化重合反応により簡単に得ることができる。他のタイプのポリマー、例えばポリウレタンを用いることができる。これらのポリマーは、シリコーンと特定の化学的親和性を有さず、シリコーンがこのタイプのポリマーに移動及びグラフトしないことが観察されている。これは、本発明による保護フィルムのさらなる利点である。
【0022】
好ましくは、分散体に使用されるポリマーは、乾燥中及び/又は乾燥後に、様々な粒子間でのあらゆる重合反応を避けるために、完全に重合される。そのような化学反応は、フィルムの接着を不必要に増加させ、且つ純水を用いた除去を妨げる場合があるからである。
【0023】
好ましくは、その又は各ポリマーのガラス転移温度は、30℃以下、且つ/又は20℃以上である。この理由は、ガラス転移温度が、得られるフィルムの耐水性に影響を有することが観察されているからである。ポリマーのガラス転移温度が、約20℃未満の場合、フィルムは冷水を用いて比較的簡単に除去可能である。比較的高いガラス転移温度(それゆえ高い温度での乾燥を必要とする)では、得られるフィルムは、冷水には比較的抵抗性があるが(それゆえ雨に比較的抵抗性を有するであろう)、温水を用いて除去することができる。
【0024】
水系コロイド分散体は、様々な技術、例えばフローコーティング、ディップコーティング、カーテンコーティング又はスプレーコーティングにより堆積させることができる。
【0025】
最適な保護を与えるために、一時的保護フィルムの厚み(適切な場合には乾燥後のもの)は、好ましくは2〜100μm、特には5〜50μm、又は10〜30μmである。
【0026】
一般的に、ガラス基材は、特に1〜19mm、より特別には2〜10mm、さらには3〜6mmの厚みを有する窓ガラスであり、例えば平面又は曲面の窓、単層の又は複層(二層、三層等)のグレージング、強化した又はアニールしたグレージング、透明な又は着色されたグレージングなどである。この基材又はグレージングの面の少なくとも一つを、薄膜又は多層コーティングでコーティングすることができる。ここで、この薄膜又は多層コーティングは、光学特性(反射又は反射防止等)、熱特性(low−E(低放射性)又は太陽保護フィルム、特に銀フィルムに基づくもの)、又は電気的特性(静電防止フィルム、透明導電性フィルム)を与えるものである。この場合において、一時的保護フィルムは、基材に堆積しているフィルムも保護する。
【0027】
保護フィルムを、グレージングの表面の一つ又は両方の表面にコーティングすることができる。
【0028】
コーティングされる基材は、好ましくは、一時的保護フィルムの下に、少なくとも一つの親水性のフィルム、特に光触媒性の酸化チタン系フィルムを有する。親水性のフィルムは、外部の汚染、例えばシリコーンによって、それらの機能が影響を受けやすいので、好ましくは、親水性フィルムは一時的保護フィルムと接触している。好ましくは、酸化チタン系のフィルムは、本発明による一時的保護フィルムの堆積の前に基材に堆積される、最後のフィルムである。酸化チタン系のフィルムは、酸化チタンから構成することができ、特にゾルゲル法、CVD(化学気相成長)法、又は陰極スパッタリング法(例えば、マグネトロンスパッタリングによる)によって堆積させることができる。あるいは、酸化チタン系のフィルムを、無機バインダー、例えばゾルゲル法により得られるシリカバインダーに組み込まれた酸化チタン粒子から作製することができる。親水性のフィルムは、特にこれが光触媒性の酸化チタン系フィルムであるならば、アルカリ金属イオンの移動に対して障壁として作用する下層、特にケイ素誘導体(例えば酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸炭化ケイ素、又はこれらの任意の混合体)で作られた下層に堆積される。択一的に又は累積的に、親水性のフィルム、特に光触媒性の酸化チタン系親水性フィルムは、他のタイプの下層、特に光学的機能を有するフィルム(酸化チタンからの反射を防止又は減衰させるフィルム)、又は熱的機能を有するフィルム(太陽保護フィルム又はlow−Eフィルム、特に少なくとも一つの銀フィルム又は透明導電性フィルムを有するタイプのもの)と組み合わせることができる。
【0029】
本発明による保護フィルムは、磨耗耐性及び摩擦耐性がある。それゆえ、グレージングの製造の間に、堆積させることができ、保存、加工、輸送、現場での設置に対し耐久性がある。本発明による保護フィルムは、例えば、ガラスに薄膜を堆積させた直後に堆積させることができる。絶縁(断熱)グレージング(複層グレージング、特に二層グレージング又は三層グレージング)の場合において、本発明による保護フィルムは、加工中の様々な段階で堆積させることができる。複層グレージングユニットは、一般的には金属製の周囲フレームの周りに、ブチルシールを用いて、一般的には2又は3の複数のガラスシートを組み立てることによって得られる。このシールは、それ自身、絶縁グレージングの全ての端部にわたってコーティングする周囲のマスチックによって保護される。いわゆる構造絶縁グレージングユニットの場合において、これらがウィンドウフレームの切り込みに挿入されないという意味で、周囲のマスチックは一般的には、シリコーンマスチックとなる。この場合において、本発明による保護フィルムを、シリコーン蒸気から親水性の機能を保護するために、このコーティングステップの前、シート及びフレームの組み立ての直前、又はこの組み立ての直後のいずれかに堆積させることが好ましい。フレーム(例えばPVC、アルミニウム、又は木に基づくもの)に挿入されることを意図されたグレージングの場合において、周囲のマスチックは一般的には、シリコーン系ではない。この場合において、マスチックでコーティングした後に、それゆえ絶縁グレージングを製造するプロセスの最終ステップとして、保護フィルムを堆積することが好ましく、且つ比較的単純である。あるいは、保護フィルムは、組み立て又はコーティングの前に堆積させることができる。これによれば、絶縁グレーシングは、グレージングが不測の汚染、特にシリコーン汚染にさらされる場合がある続く全てのステップ、すなわち保存、作業場所への輸送、及び現場での設置の間を通じて保護され続ける。
【0030】
保護フィルムは、光触媒性の酸化チタンのフィルムでコーティングされた窓ガラスの表面に堆積させることができる。ここで、この窓ガラスは、二層又は三層のグレージングユニットを備えることを意図されており、且つその光触媒性のフィルムは、建物の外側に向けて配置される。一時的保護フィルムは、現場での設置後に除去することができ、又は数週間、すなわち複層グレージングのシリコーンシールがシリコーン蒸気の放出を終える期間、保持することができる。この期間が終わると、シリコーン蒸気からグレージングを保護していた一時的保護フィルムを、冷水又は温水を用いて簡単に除去することができる。
【0031】
本発明のさらなる他の一つの主題は、本発明による一時的保護フィルムを使用する方法であり、ここでは、この保護フィルムを、グレージングの表面を一時的に保護するために用いて、そしてその一時的保護フィルムを冷水又は温水を用いて除去する。その水は、簡単には回避できない微量を例外として、有機化合物(例えば洗剤)又は無機化合物(例えばアンモニウム塩)を含まないという意味で、好ましくは純粋である。使用される水のpHは、好ましくは6〜8の間であり、特に6.5〜7.5の間である。pHは、特に脱イオン水の場合に、6未満となる場合がある。
【0032】
本発明の好ましい特徴の様々な組合せが、本発明の好ましい実施態様を構成することは当然である。
【0033】
本発明は、図及び次の非限定的な実施例を考慮することで、さらによく理解されるであろう。
【実施例】
【0034】
実施例1
コーティングさせるガラス基材は、フロート法により得られる約6mmの厚みの平面ガラス基材であった(そのフロート法は、溶融スズ浴上に溶融ガラスを注ぐことからなる)。この基材を、酸炭化ケイ素(SiOC)で事前にコーティングし、その光触媒性の酸化チタンの15nmの厚みのフィルムをその上に載せた。これら二つのフィルムを、CVD法により得た。ここでは、有機金属前駆体又はハロゲン前駆体を、フロート法による形成の後の熱いガラスリボンに気相状態で近づけた。
【0035】
使用したコロイド分散体は、アクリル系コポリマーの固体(NeoCryl XK−240、DSM NeoResins社製)の水系分散体であった。この分散体を、48wt%の水と、52wt%のアクリル系コポリマー粒子(光散乱を使用する周知に方法により測定した平均粒径が180nmのもの)とで構成した。このポリマーのガラス転移温度は、−4℃であった。この分散体の25℃での粘度は、160mPa・sであり、そのpHは7.5であった。
【0036】
この分散体を、ガラス基材にディップコーティングにより堆積させ、その後、室温で強制的な換気がない状態で数分間(典型的には2又は3分)にわたって乾燥させた。得られたフィルムは、約20ミクロンの厚みを有し、連続的であった。保護フィルムの光透過率は、約88%であり、ヘイズは約30%であった。
【0037】
そのフィルムは、EN1096−2標準の意味内において、摩擦抵抗性であった。このテストは、コーティングされた表面の9.4cmの長さの部分(この部分はトラックと呼ばれる)に、14mmの直径、10mmの厚み及び0.52g/cmの密度のフェルトを、39.22MPa(400g/cm)の荷重の下で適用することからなり、このフェルトを、並進運動(トラック長さ全体にわたって1分あたり50回の前後運動)と、6rpmでの回転との組み合わせにさらす(1サイクル=1前後運動)。本発明によるフィルムは、少なくとも2000サイクルに耐えた。
【0038】
しかし、一時的保護フィルムは、純水(有機添加物の添加のないもの)を、室温でスプレーすることにより非常に容易に除去することができる。
【0039】
シリコーンによる汚染を特性化するための試験も実施した。これらの試験は、実施例1のコーティングされた基材と、シリコーン(参照番号787s、Dow Corning社製)のビーズ(bead)とを接触させて配置すること、及び7日後に水との接触角を測定することからなる。本発明による保護フィルムによってコーティングされていない基材で構成されている比較例も、並行して試験した。7日後、比較例では、水との接触角は、30°から75°超に変化し、シリコーン蒸気による非常に強い汚染を証明した。対照的に、実施例1の試験片に対する水の接触角は、35°未満で安定であった。この結果は、シリコーン蒸気が、本発明による保護フィルム上にグラフトしていないことを明確に示している。
【0040】
実施例2
コーティングされる基材は、実施例1で使用したものと同一であった。
【0041】
使用されたコロイド分散体は、アクリル系コポリマー(NeoCryl XK−87、DSM NeoResins社製)の水系分散体であった。この分散体は、49wt%の水と、平均粒径が約210nmの51wt%のスチレン−アクリル系コポリマー粒子から構成されていた。このポリマーのガラス転移温度は、24℃であった。この分散体の25℃での粘度は、250mPa・sであり、且つそのpHは7.4であった。
【0042】
この分散体を、実施例1の場合と同様に適用したが、乾燥を、ポリマーのガラス転移温度より高い温度に維持するために35℃で実行した。低い温度(例えば20℃)での堆積は、不連続フィルムをもたらした。
【0043】
光学特性及び磨耗抵抗特性は、実施例1のものと同等であった。しかし、このフィルムは、冷水には抵抗性であり、それゆえ悪天候にも耐えることができた。しかし、このフィルムは、スポンジ又は布を用いたわずかな磨耗を適用しながら、温水(約30〜35℃)を用いることで、容易に除去することができた。
【0044】
比較例
コーティングされる基材は、実施例1の場合で用いられるものと同一であった。
【0045】
用いたコロイド分散体は、アクリル系コポリマー(NeoCryl XK−52、DSM NeoResins社製)の水系分散体であった。
【0046】
この分散体は、60wt%の水と、平均粒径が約70nmである40wt%のアクリル系コポリマーの粒子から構成されていた。このポリマーのガラス転移温度は、115℃であった。この分散体の25℃での粘度は、15mPa・sであり、且つそのpHは5.1であった。
【0047】
この分散体は、実施例1の場合と同様に適用され、そして乾燥を、実施例2と同様に35℃で実行した。ポリマーのガラス転移温度より低い温度で実行された堆積は、クラックにより分離された約10μmのサイズのドメインから構成される不連続フィルムをもたらした。このような不連続フィルムは、基材の表面を、特にシリコーン蒸気の移動からもたらされる汚染に対して、効果的に保護することができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的な一時的保護フィルム(2)でコーティングされたガラス基材(1)であって、前記フィルム(2)が、識別可能なコロイドポリマー粒子(3)の積み重ねから本質的に構成されている、ガラス基材(1)。
【請求項2】
前記ポリマー粒子(3)の平均粒径が、40〜500nm、特には50〜300nmの間である、請求項1に記載の基材。
【請求項3】
前記ポリマーが、アクリル系ポリマー又はアクリル系コポリマーである、請求項1又は2に記載の基材。
【請求項4】
前記ポリマーのガラス転移温度が、30℃以下、且つ/又は20℃以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基材。
【請求項5】
前記一時的保護フィルム(2)の厚みが、2〜100μm、特には5〜50μmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の基材。
【請求項6】
前記一時的保護フィルム(2)の下に、少なくとも一つの親水性フィルム、特には光触媒性酸化チタン系のフィルムを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の基材。
【請求項7】
連続的な一時的保護フィルム(2)でガラス基材(1)をコーティングする方法であって、少なくとも一つの非水溶性固体ポリマーのコロイド粒子(3)の水系分散体を、前記基材の少なくとも一つの表面に堆積させ、そして前記少なくとも一つのポリマーのガラス転移温度より高いが50℃を超えない温度で、得られた前記フィルムを乾燥させる、コーティング方法。
【請求項8】
前記水系分散体が、水及び前記コロイドポリマー粒子(3)から構成されている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記コロイド粒子(3)の形状及びサイズが、乾燥によって実質的に変化を受けない、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記水系コロイド分散体を、フローコーティング、ディップコーティング、カーテンコーティング又はスプレーコーティングにより堆積させる、請求項7〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記保護フィルム(2)を、グレージング表面を一時的に保護するために用いて、そして前記一時的保護フィルム(2)を冷水又は温水を用いて除去する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の一時的保護フィルム(2)、又は請求項7〜10のいずれか一項により得られる一時的保護フィルム(2)を用いる方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−520766(P2011−520766A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511062(P2011−511062)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【国際出願番号】PCT/FR2009/050962
【国際公開番号】WO2009/153490
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】