説明

ガラスセラミックス複合材及びその製造方法

【課題】表面が耐久性に優れ、且つアナターゼ型の酸化チタンおよび/又はWOの結晶相を有する層が形成されているガラスセラミックス複合材を提供する。また、複雑な工程を必要とせず、簡単な方法で前記ガラスセラミックス複合材を製造する方法を提供する。
【解決手段】ガラスセラミックス複合材は、ガラス基材の上にTiO、WO、及びこれらの固溶体のうちいずれかからなる結晶相を含む層が形成されている。このガラスセラミックス複合材は、好ましくは、前記結晶相物質を屈伏点800℃以下のガラス基材の上に配置し、加熱・加圧によって一体化させることによって作られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスからなる基材の表面に結晶が担持されたガラスセラミックス複合材及びその製造方法に関する。特に好ましくは、前記結晶は光を照射することにより触媒作用を示す結晶を含有する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は光を吸収してエネルギーの高い状態になり、このエネルギーを用いて反応物質に化学反応を起こす材料である。光触媒としては金属イオンや金属錯体等も用いられているが、特に二酸化チタン(TiO)をはじめとする半導体の無機化合物が光触媒として高い触媒活性を有することが知られており、最もよく使用されている。半導体は、通常、電気を通さないが、バンドギャップエネルギー以上のエネルギーの光が照射されると、電子が伝導帯に移動し、電子が抜けた正孔が生成され、これら電子と正孔によって強い酸化還元力を持つようになる。光触媒の持つこの酸化還元力は、汚れや汚染物質、悪臭成分などを分解・除去し、浄化する働きをする上、太陽光などを利用できるところから、エネルギーフリーな環境浄化技術として注目を浴びている。また、無機チタン化合物を含む成形体の表面は、水が濡れ易い親水性を呈するため、雨等の水滴で洗浄される、いわゆるセルフクリーニング作用を有することが知られている。
【0003】
一方、酸化チタン(TiO)など光触媒活性を有する無機化合物は、非常に微細な粉末であり、そのままでは取り扱いが困難であるため、実際に使用されるときには、光触媒機能を付与させる材料からなる基材の表面に光触媒特性を有する物質を持たせる場合が多く、光触媒物質を基材に確実に担持させるために、様々な工夫がなされている。代表的なものとして、光触媒を含む塗料を基材に塗布してコーティングする方法(例えば特許文献1)、真空蒸着、スパッタリング、CVD(化学気相成長法)、プラズマなどの手法で光触媒薄膜を形成する方法(例えば特許文献2)、または基材と光触媒層との間に光触媒物質が担持され易くなる中間層を設ける方法(例えば特許文献3)等を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−81712号公報
【特許文献2】特開平8−309240号公報
【特許文献3】特開2003−181295号公報
【0005】
しかしながら、基材の表面に無機チタン化合物を塗布してコーティングする場合には、前記化合物が基材上に乗っているだけなので、塗布膜やコーティング層の耐久性が十分ではなく、塗布膜やコーティング層が基材から剥離するおそれがあった。特許文献1には基材の表面に無機チタン化合物層を形成するために用いられる塗布剤として、合成樹脂を分散相とする水性エマルジョンに高濃度の無機チタン化合物が含まれた光触媒性塗布剤が開示されているが、塗布膜に残留している樹脂や有機バインダが、紫外線等によって分解されたり、無機チタン化合物の触媒作用で酸化還元されたりする結果、塗布膜の耐久性が経時的に劣化しやすい。また、上記の無機チタン化合物触媒は、十分な光触媒活性を引き出すためにはナノサイズの微粒子が必要であるが、このような超微粒子は作製するコストが高く、凝集しやすいという問題点があった。
【0006】
また、基材に光触媒物質からなる薄膜を形成する従来の技術は、高価な装置による緻密な雰囲気の制御が必要となるものが多く、製造コストが非常に高くなってしまう問題があった。特許文献2には、酸素分子を有する不活性ガス中で、ガラス基材にチタンのターゲットをリアクティブスパッタリングする方法が開示されているが、装置が高価な上に、形成できるTiO膜の厚みに限界があった。また、装置の大きさによって、処理できる基材のサイズが限定されてしまい、長尺物を製造できないという問題がある。
【0007】
結着剤などの中間層を設けて光触媒物質を担持する手法は、中間層の塗布、乾燥など、工程数が増えるだけでなく、中間層が基材特性(例えばガラスの透明性など)を悪くするという問題がある。また、平面状の光触媒部材を製造する場合、平坦性を高く出来るよう、中間層の材料及び下地加工法を別途工夫する必要があり、生産性が悪かった。例えば、特許文献3には、スパッタリング処理により、膜厚約30nmのシリカと窒化ケイ素とから成る複合セラミック中間膜が形成されたソーダライムガラス材が開示されているが、スパッタリング法等の真空成膜法は、均一な厚さの膜を形成できるという点では優れているが、既に説明したように、製造コスト及びサイズ制限の面で課題が残る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものである。その目的は、光触媒活性機能が付与されたガラスセラミックス複合材を提供することにある。また、そのような光触媒機能性ガラスセラミックス複合材を安価に大量生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、組成を特定の範囲に調整したガラス基材を用いることで、非常に簡単な方法で、酸化チタン(TiO)をはじめとする無機化合物の微細な結晶を有するガラスセラミックス複合材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)ガラスと、前記ガラスの少なくとも表面側に、TiO、WO、及びそれらの固溶体から選ばれる一種以上からなる結晶が担持されているガラスセラミックス複合材。
(2)前記ガラスの屈伏点が800℃以下である(1)に記載のガラスセラミックス複合材。
(3)前記ガラスが、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
SiO成分、B成分、及びP成分のいずれか一種以上を30.0〜80.0%、Al成分を0〜30%、RnO成分及び/又はRO成分を0〜40%(式中、RnはLi、Na、K、から選ばれる1種以上とし、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)Nb成分及びWO成分から選ばれる1種以上を0〜20%、Ln(LnはY、La、Gdから選ばれる一種又はそれ以上)を0〜20%、As及び/又はSbからなる組成物を0〜5%、含有し、酸化物換算組成のガラス全物質量に対する外割り質量%で、F、Cl、Sからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を0〜10%、含むことを特徴とする(1)または(2)いずれかに記載のガラスセラミックス複合材。
(4)紫外線から可視光までの光に応答し、触媒活性が発現される(1)から(3)いずれかに記載のガラスセラミックス複合材。
(5)(1)から(4)いずれに記載のガラスセラミックス複合材を製造する方法であって、TiO、WO、及びそれらの固溶体から選ばれる一種以上の結晶性組成物をガラス基材上に配置する結晶配置工程と、前記ガラス基材をガラスの屈伏点より10℃〜100℃高い温度に維持する加熱工程と、前記配置された結晶の上から前記ガラスを加圧し、ガラスと結晶を一体化させる加圧工程と、を有することを特徴とするガラスセラミックス複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材となるガラスの組成を所定の範囲とすることによって、酸化チタン(TiO)をはじめとする無機化合物の光触媒結晶がガラスに担持され易くなる。これら結晶相がガラスの少なくとも表面側に強固に捕着された状態で存在するので、表面の剥離の問題がなく、また、ガラスマトリクスの中にも結晶相が入り込んでいるので仮に多少表面が削られても光触媒性能が劣らず、耐久性に優れたガラスセラミックスと、その製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のガラスセラミックス複合材の製造方法を示す概略図である。
【図2】本発明のガラスセラミックス複合材表面構造の一例を示す概略図である。
【図3】本発明のガラスセラミックス複合材表面構造の別の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0013】
G ガラス基材
T 光触媒結晶
M プレス部材
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガラスセラミックス複合材における光触媒結晶相及びガラス基材の含有成分を上記のように限定した理由を述べる。本発明において、ガラスセラミックスとは、ガラス相に結晶相が存在する材料を意味する。このとき、ガラス相及び結晶相を必ず両方含む材料のみならず、ガラス基材の表面が全て結晶相からなるものも含んでよい。
【0015】
本発明のガラスセラミックス複合材は、ガラスと、前記ガラスの少なくとも表面側に、TiO、WO、及びこれらの固溶体から選ばれる一種以上からなる結晶相を含む領域が形成されている。これらの結晶が含まれていることにより、本発明のガラスセラミックス複合材は光触媒機能を有することができる。
【0016】
本発明のガラスセラミックス複合材は、TiOの結晶相またはその固溶体を含有することが好ましい。更にPt、Pdなど貴金属、Cu、Feなど繊維金属を担持したTiO結晶相を含有することがより好ましい。TiOは光触媒としての特性に優れているだけでなく、殆どの酸、塩基、有機溶剤に侵されない化学的に安定性な性質を持ち、人体にも安全であるため、光触媒の材料として最も多く用いられている成分である。工業的に用いられるTiOの結晶型としては、ルチル(Rutile)型、アナターゼ(Anatase)型、及びブルッカイト(Brookite)型が知られているが、高い光触媒特性をもたらすために、アナターゼ型及び/またはブルッカイト型の酸化チタンを含有することが好ましい。ブルッカイト型の結晶は微弱な光でも高い光触媒特性を示すが、結晶構造が不安定で単相として得ることは困難とされており、アナターゼ型との混相で析出することが多い。従って安定して光触媒機能を発現するためには、TiOの結晶はアナターゼ型であることが好ましい。また、固溶体を用いることにより、バンドギャップエネルギーを調整することができる。固溶体とは、2種類以上の金属固体または非金属固体が互いの中に原子レベルで溶け込んで全体が均一の固相になっている状態のことをいい、混晶と言う場合もある。溶質原子の溶け込み方によって、結晶格子の隙間より小さい元素が入り込む侵入型固溶体、母相原子と入れ代わって入る置換型固溶体などがある。TiOの固溶体としては、溶質物質が決まっている訳ではないので、種類を限定できるものではないが、例えばTi1−xZrなどを挙げることができる。
【0017】
また、本発明のガラスセラミックス複合材はWO及びその固溶体の結晶を含有することが好ましい。更にPt、Pdなど貴金属、Cu、Feなど繊維金属を担持したWO結晶相を含有することがより好ましい。TiOが紫外線にのみ応答することに対して、酸化タングステンはバンドギャップが2.5eV程度であるので、紫外光に加えて紫色から青色の波長範囲の可視光を利用して電子と正孔との励起を行うことができ、近年においては可視光応答型光触媒として用いる試みが積極的になされている。また、固溶体を用いることにより、バンドギャップエネルギーを調整することができ、可視光応答性を高めることも可能である。酸化タングステンの固溶体としては例えばW1−xMo等が挙げられる。
【0018】
本発明のガラスセラミックス複合材は、ガラス基材の少なくとも表面側に前記2種類の結晶相のいずれか、またはその両方が含まれる。両方の結晶相を含有する場合、用途に応じて、触媒活性及び、応答光のバランスを考慮し、その含有比を調整する。照射光を任意に選択でき、触媒活性度のみを考慮すれば良い場合は、紫外線に反応し、強い光触媒活性を有するTiO結晶又はその固溶体の含有量を多めにし、強い触媒活性より可視光応答性を重視する場合は、WO結晶又はその固溶体の含有量を多めに含有するようにしても良い。
【0019】
本発明のガラスセラミックス複合材におけるガラス基材は、屈伏点が800℃以下であるガラスからなることが好ましい。本発明のガラスセラミックス複合材は、加熱により軟化された状態のガラスの表面に所望の結晶相を圧着させることにより形成されることが好ましいが、ガラスの屈伏点が800℃以上であると、高い温度で前記圧着工程が行われることにより、光触媒結晶相が相転移したり、ガラス相と反応してしまったりして、光触媒活性が劣化してしまう問題が生じる。また、高温では金型が劣化しやすくなる。よって、ガラス基材の屈伏点は、より好ましくは750℃、もっとも好ましくは700℃以下である。
【0020】
以下、本発明のガラスセラミックス複合材を構成するガラス基材の含有成分について述べる。各成分の含有量の説明については、特に明記しない限りは酸化物基準のモル%で表わすものとする。これはできたガラスセラミックス中のアニオン成分は全て酸素であると仮定し、カチオン成分の含有量のみを考えるときに、そのカチオン成分全てが電荷の釣り合うだけの酸素と結合した酸化物でできていると考え、それら酸化物のモル分率×100によってガラス中に含有される各成分を表記する方法である。
【0021】
SiOはガラス形成酸化物で、安定したガラスを得るために任意に含有できる成分である。安定したガラスを得るためには、この成分の含量量の下限値は好ましくは30%、より好ましくは35%、最も好ましくは40%とする。また低い屈伏点を有しながら、良好な化学耐久性を維持するためには、上限を80%とすることが好ましく、70%とすることがより好ましく、65%とすることが最も好ましい。
【0022】
はガラス形成酸化物で、安定したガラスを得るために任意に含有できる成分である。安定したガラスを得るためには、この成分の含量量の下限値は好ましくは30%、より好ましくは35%、最も好ましくは40%とする。また低い屈伏点を有しながら、良好な化学耐久性を維持するためには、上限を80%とすることが好ましく、70%とすることがより好ましく、65%とすることが最も好ましい。
【0023】
成分はガラス形成酸化物で、安定したガラスを得るために任意に含有できる成分である。安定したガラスを得るためには、この成分の含量量の下限値は好ましくは30%、より好ましくは35%、最も好ましくは40%とする。また低い屈伏点を有しながら、良好な化学耐久性を維持するためには、上限を80%とすることが好ましく、70%とすることがより好ましく、65%とすることが最も好ましい。
【0024】
安定したガラスを得るためには、少なくともSiO、B及びP成分のいずれか一種以上が必要とされる。これらのうちいずれか一種以上の合計量の下限値は好ましくは30%、より好ましくは35%、最も好ましくは40%とする。一方、上限は80%とすることが好ましく、70%とすることがより好ましく、65%とすることが最も好ましい。これら成分の内に特にSiO成分は、良好な化学耐久性の維持に最も効果的であるので、含有することが好ましい。
【0025】
Al成分は、ガラスの化学耐久性の向上に効果があるので、任意に添加できる成分である。しかし、その量が多すぎると、ガラスの屈伏点が上昇するので、添加量の上限値は好ましくは30%、より好ましくは20%、最も好ましくは15%とする。
【0026】
TiO成分は、ガラスの化学的耐久性向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの屈伏点が上昇する。従って、上限値は40%以下とすることが好ましく、35%以下とすることがより好ましく、30%以下とすることが最も好ましい。
【0027】
ZrO成分は、ガラスの化学的耐久性向上に効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、その量が多すぎるとガラスの屈伏点が上昇する。従って、合計量の上限値は40%以下とすることが好ましく、35%以下とすることがより好ましく、30%以下とすることが最も好ましい。
【0028】
TiO及びZrO成分の合計量の上限値は40%以下とすることが好ましく、35%以下とすることがより好ましく、30%以下とすることが最も好ましい。
【0029】
BaO成分は、ガラスの屈伏点を下げるのに効果がある成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの耐久性が低下し、更にガラスと結晶相との反応性が高くなり光触媒特性の低下を引き起こす傾向が強くなる。従って、その含有量の上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0030】
SrO成分は、ガラスの屈伏点を下げるのに効果がある成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの耐久性が低下し、更にガラスと結晶相との反応性が高くなり光触媒特性の低下を引き起こす傾向が強くなる。従って、その含有量の上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0031】
CaO成分は、ガラスの屈伏点を下げるのに効果がある成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの耐久性が低下し、更にガラスと結晶相との反応性が高くなり光触媒特性の低下を引き起こす傾向が強くなる。従って、その含有量の上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0032】
MgO成分は、ガラスの屈伏点を下げるのに効果がある成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの耐久性が低下し、更にガラスと結晶相との反応性が高くなり光触媒特性の低下を引き起こす傾向が強くなる。従って、その含有量の上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0033】
ZnO成分は、ガラスの屈伏点を下げるのに効果がある成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの耐久性が低下し、更にガラスと結晶相との反応性が高くなり光触媒特性の低下を引き起こす傾向が強くなる。従って、その含有量の上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0034】
上記RO成分(RはBa,Sr,Ca,Mg,Znからなる群より選択される1種以上を示す。)は、合計量で上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0035】
LiO成分は、ガラスの屈伏点を下げるのに効果がある成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの耐久性が低下し、更にガラスと結晶相との反応性が高くなり光触媒特性の低下を引き起こす傾向が強くなる。従って、上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0036】
NaO成分は、ガラスの屈伏点を下げるのに効果がある成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの耐久性が低下し、更にガラスと結晶相との反応性が高くなり光触媒特性の低下を引き起こす傾向が強くなる。従って、上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0037】
O成分は、ガラスの屈伏点を下げるのに効果がある成分であるが、その量が多すぎると、ガラスの耐久性が低下し、更にガラスと結晶相との反応性が高くなり光触媒特性の低下を引き起こす傾向が強くなる。従って、上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0038】
上記RnO成分(RnはLi,Na,Kからなる群より選択される1種以上を示す。)は、合計量で上限値を40%とすることが好ましく、35%とすることがより好ましく、30%とすることが最も好ましい。
【0039】
なお、RO成分及びRnO成分のいずれか1種以上は、含有しなくても光触媒ガラスセラミックス複合材を得ることができるが、低い屈伏点を得やすくするためには、合計量の下限値を1%以上とすることが好ましく、3%以上とすることがより好ましく、6%以上とすることが最も好ましい。また、上限値は、40%とすることが好ましく、35%以下とすることがより好ましく、30%以下とすることが最も好ましい。
【0040】
Nb成分は、ガラスの化学的耐久性向上に寄与し、更にガラスの屈伏点を下げる効果がある成分である。任意に添加することができる成分であるが、高価のため、上限値は20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0041】
WO成分は、ガラスの化学的耐久性向上に寄与し、更にガラスの屈伏点を下げる効果がある成分である。任意に添加することができるが、上限値は20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0042】
Nb及びWO成分のいずれか一種以上の合計量の上限値は20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0043】
Ln成分(Lnは、Y,La,Gd)からなる群より選択される1種以上を示す。)は、ガラスの化学的耐久性向上に寄与する成分である。任意に添加することができる成分であるが、高価のため、合計量の上限値は20%以下とすることが好ましく、15%以下とすることがより好ましく、10%以下とすることが最も好ましい。
【0044】
また、ガラスの屈伏点を下げるためにフッ素などのハロゲン化物の添加が可能であるが、ガラスの化学耐久性を考えて、最大の添加量は10%以下とする。
【0045】
Sb及びAs成分は、ガラス溶融の脱泡のために任意に添加することができる成分で、いずれか1種以上の合計量で、5%以下含有すれば十分に効果を有する。一方、Asは、ガラスを製造、加工、及び廃棄をする際に環境対策上の措置を講ずる必要がある。従って、Sb及びAsの合計量で、上限値を5%とすることが好ましく、3%とすることがより好ましく、1%とすることが最も好ましい。
【0046】
本発明のガラスには、他の成分をガラスセラミックス複合材の特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。
【0047】
但し、PbO等の鉛化合物、Th、Cd、Tl、Os、Be、Se、Hgの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、ガラスセラミックスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、不可避な混入を除き、これらを実質的に含有しないことが好ましい。これにより、ガラスセラミックス複合材に環境を汚染する物質が実質的に含まれなくなる。そのため、特別な環境対策上の措置を講じなくとも、このガラスセラミックス複合材を製造し、加工し、及び廃棄することができる。
【0048】
本発明の組成物は、その組成が酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表されているため直接的に質量%の記載に表せるものではないが、本発明において要求される諸特性を満たす組成物中に存在する各成分の質量%表示による組成は、酸化物換算組成で概ね以下の値をとる。
TiO成分 13.0〜80.0質量%、
SiO成分、B成分、及びP成分のいずれか1種以上 5〜85.0質量%、
LiO成分 0〜15.0質量%
NaO成分 0〜30.0質量%
O成分 0〜45.0質量%
RbO成分 0〜25.0質量%
CsO成分 0〜30.0質量%
MgO成分 0〜20.0質量%
CaO成分 0〜25.0質量%
SrO成分 0〜45.0質量%
BaO成分 0〜60.0質量%
GeO成分 0〜40.0質量%
Al成分 0〜35.0質量%
ZnO成分 0〜45.0質量%
ZrO成分 0〜30.0質量%及び/又は
Nb成分 0〜65.0質量%及び/又は
Ta成分 0〜70.0質量%及び/又は
WO成分 0〜55.0質量%及び/又は
Ln成分 合計で0〜50.0質量%及び/又は
As成分及びSb成分 合計で0〜10.0質量%
さらに
前記酸化物換算組成のガラスセラミックス全質量100%に対して、外割で
F成分 0〜10.0質量%
【0049】
本発明のガラスセラミックス複合材は、紫外領域から可視領域までの波長の光によって触媒活性が発現されることが好ましい。ここで、本発明でいう紫外領域の波長の光は、波長が可視光線より短く軟X線よりも長い不可視光線の電磁波のことであり、その波長はおよそ10〜400nmの範囲にある。また、本発明でいう可視領域の波長の光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の電磁波のことであり、その波長はおよそ400nm〜700nmの範囲にある。これら紫外領域から可視領域までの波長の光がガラスセラミックス複合材の光触媒結晶を担持する表面に照射されたときに触媒活性が発現されることにより、表面に付着した汚れ物質や細菌等が酸化又は還元反応により分解されるため、ガラスセラミックス複合材を防汚用途や抗菌用途等に用いることができる。なお、TiO結晶は紫外線の照射に対して高い触媒効果を示す一方で、可視光に対する応答性は紫外線より弱いが、本発明ではガラスセラミックス作製時にWO、またはその固溶体を導入させると、可視光に対しても有効な応答効果を示すガラスセラミックス複合材を得ることができる。
【0050】
次に、本発明のガラスセラミックスの製造方法について説明する。
【0051】
<ガラス基材>
まず、本発明のガラスセラミックス複合材の基材となるガラスについて説明する。該ガラスは、原料組成混合物を溶融しその融液を得て、その後冷却、固化させることによって得られる。ここで、溶融温度は、混合する組成物の種類及び量により適宜変更することが好ましいが、一般に1000℃以上が好ましく、1100℃以上がより好ましく、1200℃以上が最も好ましい。具体的には、所定の出発原料を均一に混合して白金坩堝、石英坩堝又はアルミナ坩堝からなる容器に入れて、電気炉で1250℃以上の所定温度で加熱して攪拌均質化し、融液を作製する。その後、融液の冷却速度を制御しつつ、金型に流し込み、熱間または冷間加工などによって所望の形に成形する。
【0052】
<結晶配置工程>
本発明のガラスセラミックス複合材の製造方法は、光触媒特性を有する結晶性組成物をガラス基材上に配置する結晶配置工程を含む。ここで結晶性組成物とは、TiO、WO、及びこれらの固溶体を意味する。結晶性組成物は均一に混合された粉体をガラス基材の上に所望の厚みで形成しても良く、粉体の飛散を防止するために前記結晶性組成物をバインダーに分散させ塗布し、乾燥・焼成して形成しても良い。
【0053】
<担持工程>
本発明のガラスセラミックス複合材の製造方法は、前記結晶性組成物が配置された前記ガラス基材を加熱する加熱工程と、前記配置された結晶性組成物の上からプレスする加圧工程を含む。ここで、ガラス基材に配置した結晶性組成物が加圧によって結晶がガラス内に取り込められるためには、加熱工程における温度は、基材ガラスの屈伏点より10℃〜100℃高いことが好ましい。ガラス基材は屈伏点温度に達すると軟化し始め、結晶性組成物をガラス内部に取り込める状態になる。ガラスが軟化し始めると結晶性組成物の上から加圧して、ガラスと結晶相を一体化させる。加圧する部材は、全ての箇所で均一に加圧できれば特に限定されない。加圧後、ガラス基材と接触せず、ガラス中に担持されなかった結晶組成物が残る場合は、洗浄するなど、公知の手段で取り除くようにする。
【0054】
<担持構造>
本発明のガラスセラミックス複合材は、光触媒結晶を物理的な力によって軟化したガラスの中に担持させたものである。その概念を図2及び図3に示した。ガラス基材表面側に結晶が埋もれて捕着されるが、本発明によると、外部から結晶を押し込んでいるので、最表面側では結晶の一部が露出するようになり、より効果的に光触媒機能を付与することができる。このとき、結晶を担持させる深さは、圧力と加圧時間、及びガラスの組成によっても異なり、必要に応じて適宜選ぶことができる。内部まで結晶を担持させると、ガラスセラミックス複合材が外力によって多少欠けたりしても、光触媒機能を維持できるメリットがある。
【0055】
担持工程を経て少なくとも表面に結晶相を含む領域が形成された後のガラスセラミックス複合体は、そのままの状態でも結晶の一部が表面に露出しているので、高い光触媒特性を奏することが可能であるが、このガラスセラミックスに対してエッチング工程を行うことによって、ガラス相に埋まった結晶相がより露出した状態を作り出すことも可能である。ここで、エッチング工程としては、ドライエッチング及び/又は溶液への浸漬が挙げられる。浸漬に使用される酸性もしくはアルカリ性の溶液は、ガラスの表面を腐食できれば特に限定されず、例えばフッ素又は塩素を含む酸(フッ化水素酸、塩酸)であってよい。なお、このエッチング工程は、フッ化水素ガス、塩化水素ガス、フッ化水素酸、塩酸等を、ガラスセラミックスの表面に吹き付けることで行ってよい。
【実施例】
【0056】
表1に本発明のガラスセラミックス複合材を構成するガラスの組成、及び該ガラスの屈伏点、並びに該ガラス基材の上に形成した結晶性組成物の例を示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。



































【0057】
【表1】

【0058】
本発明の実施例(No.1〜No.5)の基材ガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常のガラスに使用される高純度の原料を選定し、表1に示した各実施例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス組成の熔融難易度に応じて電気炉で1200℃〜1350℃の温度範囲で4時間溶解し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、金型に鋳込み、徐冷して作製した。その後、ガラスを切断し、大きさ1cm×1cmにしてから両面を研磨し、ガラス基材の試料とした。
【0059】
次に、ガラス基材に表1に示した結晶性組成物を含むスラリーを塗布し、200℃で乾燥してから、表面に白金膜が付いている金属金型に入れた。その後、その金型を表に記載のガラス屈伏点より30℃高い温度まで昇温し、その温度で平面金型で5分間加圧しながらガラスをプレス形成した。
【0060】
実施例(No.1〜No.5)のガラスセラミックス複合材について次の方法で光触媒特性の有無を評価した。上記のガラスセラミックス複合材の結晶性組成物含有領域を有する表面に濃度10(mg/L)のメチレンブルー溶液を滴下し、フィルムで被覆した後、1mW/cmの紫外線を5分間照射してメチレンブルーの脱色の度合いを観察した。脱色が認められるものを光触媒特性があると判断し、脱色が認められないものを光触媒特性がないと判断した。表1に示すように、いずれのガラスセラミックス複合材もメチレンブルーの脱色現象が起こったことから、光触媒特性を有することが確認された。
【0061】
従って、本発明の実施例のガラスセラミックス複合材およびその製造方法によって、容易な方法でTiO結晶、WOの結晶、又はその両方をガラス基材に担持でき、しかもこれら結晶がガラス相に強固に分散しているため、剥離による光触媒機能の損失がなく、耐久性の優れた光触媒機能体を得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスと、前記ガラスの少なくとも表面側に、TiO、WO、及びそれらの固溶体から選ばれる一種以上からなる結晶が担持されているガラスセラミックス複合材。
【請求項2】
前記ガラスの屈伏点が800℃以下である請求項1または2に記載のガラスセラミックス複合材。
【請求項3】
前記ガラスが、酸化物換算組成のガラス全物質量に対して、モル%で
SiO成分、B成分、及びP成分から選ばれる一種以上を30.0〜80.0%、Al成分を0〜30%、RnO成分及び/又はRO成分を0〜40%(式中、RnはLi、Na、K、から選ばれる1種以上とし、RはMg、Ca、Sr、Ba、Znから選ばれる1種以上とする)、Nb成分及びWO成分から選ばれる1種以上を0〜20%、Ln(LnはY、La、Gdから選ばれる一種又はそれ以上)を0〜20%、As成分及びSb成分から選ばれる1種以上又はそれ以上を0〜5%、含有し、酸化物換算組成のガラス全物質量に対する外割り質量%で、F、Cl、Sからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の非金属元素成分を0〜10%、含むことを特徴とする請求項1または2いずれかに記載のガラスセラミックス複合材。
【請求項4】
紫外線から可視光までの光に応答し、触媒活性が発現される請求項1から3いずれかに記載のガラスセラミックス複合材。
【請求項5】
請求項1から4いずれに記載のガラスセラミックス複合材を製造する方法であって、TiO、WO、及びそれらの固溶体から選ばれる一種以上の結晶性組成物をガラス基材上に配置する結晶配置工程と、前記ガラス基材をガラスの屈伏点より10℃〜100℃高い温度に維持する加熱工程と、前記配置された結晶の上から前記ガラスを加圧し、ガラスと結晶を一体化させる加圧工程と、を有することを特徴とするガラスセラミックス複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−260753(P2010−260753A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111671(P2009−111671)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】