説明

ガラスランチャンネル

【課題】温度変化に対してサッシュとのズレの生じないガラスランチャンネルを提供すること。
【解決手段】オレフィン系TPE又はスチレン系TPEからなるガラスランチャンネル1に該ガラスランチャンネルとサッシュとの密着性を確保する樹脂6を担持させたガラスランチャンネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガラスランチャンネルに関し、詳細には、自動車用ドアガラスに用いるガラスランチャンネルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車ドアガラス周接部に位置するガラスランチャンネルにおいて、従来からその材料にはEPDMゴムに代表される熱硬化性エラストマーが使用されていたが、昨今の軽量化、排出二酸化炭素削減などの要望によってオレフィン系あるいはスチレン系などの熱可塑性エラストマー(TPE)を使用することが増加傾向にある。
しかし、TPEを使用した場合、材料自身の摩擦係数の低さから、ガラス摺動時および冷熱サイクル試験によって、ガラスランチャンネルがサッシュ内でズレ動くという不具合が生じている。これを防止するためガラスランチャンネルのサッシュ接触部に摩擦係数の高い軟質材を被覆したり(特許文献1)、コーナー接続部に突起を設けこれをサッシュにあけられた穴に差し込む(特許文献2)などの実施例があるが、前者のような方策では特に実際のユーザーによる使用を想定した冷熱サイクル試験においてズレを完全に防止することは不可能であり、また後者の実施例ではルーフ部分のズレは前後両コーナー部を固定することで防止できるが、フロントおよびセンターピラー部の長手方向のズレを防止することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3812428号公報
【特許文献2】特許第3385984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、温度変化に対してサッシュ又はパネルとのズレの生じないガラスランチャンネルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の通りである。
1)オレフィン系TPE又はスチレン系TPEからなるガラスランチャンネルに該ガラスランチャンネルとサッシュ又はパネルとの密着性を確保する樹脂を担持させたガラスランチャンネル。
本発明は図3に示すように自動車ドアのドアガラスを摺動案内するガラスランチャンネル1に関するもので、A−Aに沿う断面を説明する図4に示すように、ガラスランチャンネル1は3つの側壁からなる略コ字状の駆体部からなり、その開口側の2つの側壁2からそれら2つの側壁2を連結している連結壁3へ向かって伸びる2体のリップ4より構成されている。これらリップ4と連結壁3のガラス5に接触する部分には図4のように設置されるガラスとの摺動性を考慮して、図5に示すように滑性のある摺動材6が塗装等(塗布又は滑性のある樹脂の押出成形)により被覆してある。そして、A−A断面を示しているセンターピラー部やフロントピラー部の場合、ベルトライン(BL)より下においても被線が示すようにグラスランとこれを保持する部材(サッシュ又はパネル)がドアパネル10内部に設けられている。
また、本発明は、樹脂をガラスランチャンネルに担持させたものであるが、ここで、「担持」とは単に物理的に接着させたものであってもよいし、反応によりイオン接合、共有結合、水素結合が生じたものであってもよいし、それらの組合せであってもよい。また、担持は樹脂を塗布液としてガラスランチャンネルに塗布することにより行ってもよいし、樹脂を粘着性のシート状として、これをガラスランチャンネルに転写等により施すようにしてもよい。ガラスランチャンネルに樹脂を担持させる部位は、ガラスランチャンネルとサッシュ又はパネルとの接触部位であるが、その少なくとも一部が含まれていればよい。該樹脂が担持されるガラスランチャンネルは、一般的に用いられるものを用いることができるが、所望によりサッシュ又はパネルへの圧接構造、例えば、リップ等を従来より若干、その圧力を低めに適宜、変更してもよい。
より具体的には、図4及び5に示すように、略コ字状のガラスランチャンネル1のサッシュ又はパネル7と接触する連結壁の一側面全体へ樹脂を塗布している。より強固な担持は、図5の塗布範囲9のように連結壁の一側面全体に加えて2つの側壁の連結壁側部分へ樹脂を塗布している。また、図5の最大塗布範囲8として示されるように2つの側壁のサッシュ又はパネルと接触する部分全てへ樹脂を塗布してもよい。このように前記樹脂は、ガラスランチャンネルの側壁の2面、及び連結壁の1面からなる3面のうち少なくとも1面に設置されることが好ましい。通常、少なくとも連結壁3のサッシュ又はパネルに面する側(底部31)へ塗布されていればよい。更に長尺状のガラスランチャンネルの長さ方向に全面に塗布してもよいが、図3に示すようにルーフ部1a、フロントピラー部1c、センターピラー部1bの各々の両端に塗布されているのみでもよい。特に前記特許文献2のようにコーナー部に固定機能が設けられている場合は、コーナー接続されていないフロントピラー部1cやセンターピラー部1bの下側の端部への塗布は重要であり、コーナー部は省略しても構わない。これはガラスランチャンネルのズレが上側に生じることを理由としている。従って、例えば、センターピラー部の場合は、図3のβ部へは、塗布が必要でα部は無くてもよい。フロントピラー部の場合も同様である。更に前記までの説明は全てフロントドアを用いたが、リアドアにおいても同様に適用できる。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、温度変化に対してもサッシュ又はパネルとのズレが生じないガラスランチャンネルを提供する。また、本発明はガラスランチャンネルにサッシュ又はパネルとの密着性を確保する樹脂を担持させるという簡易な手段によりその効果を発揮させることができ、経済性に優れる。また、ガラスランチャンネルの設計の幅を広げることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】試験例1の結果を示すグラフである。
【図2】試験例2の結果を示すグラフである。
【図3】ガラスランチャンネルを自動車ドアに設置した状態を説明する図である。
【図4】図3のA−Aに沿うガラスランチャンネルとサッシュ又はパネルの断面を説明する図であり、本発明の樹脂の担持部位を説明する図である。
【図5】図3のA−Aに沿うガラスランチャンネルの断面を説明する図であり、本発明の樹脂の担持部位並びに摺動材が施される部位を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
初めに、本発明に用いられる樹脂(以下、本発明の樹脂ともいう)について説明する。
本発明の樹脂は、ガラスランチャンネルとサッシュ又はパネルとの密着性を確保することができ、かつガラスランチャンネルに担持されるものであれば特に制限されない。
本発明の樹脂としては、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミドアミン樹脂等の単独又は組合せたものが挙げられる。
これら樹脂は溶液(エマルション、ディスパージョン等を含む)の形態でもよく、用途として例えば、プライマーとして使われるものでもよい。この場合、市販品の場合はそのまま、あるいは適宜溶媒、又は所望の樹脂を添加して塗布液としてガラスランチャンネルに塗布することができる。また、これら樹脂は変性基により変性されたものでもよい。変性基としては、無水カルボン酸基、カルボン酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。更に、これら樹脂はハロゲン化、例えば、塩素化等がされていてもよい。これら樹脂の中でも、塩素化ポリオレフィン(塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等)、2、5−フランジオンと塩素化ポリオレフィンの反応物を含むものが好ましい。
本発明の樹脂は、イソシアネートなどの硬化剤を混入してもよいが、樹脂単体でも充分接着力を発揮できる。また、本発明の樹脂は、老化防止剤、粘着付与剤、レベリング剤などの添加剤が添加されているものも許容できる。
【0009】
本発明は、サッシュ又はパネルに適用する前では、ガラスランチャンネルに担持されている樹脂は、常温(25℃)で粘着性がない方が好ましい。粘着性があると作業中や輸送途中に砂、埃などの異物がくっつきやすく、サッシュ又はパネルへ組み付けられた後の接着性が充分発揮できない可能性がある。またサッシュ又はパネルへの組み付け作業性が悪化する恐れがある。
本発明の樹脂の塗布液が水性の場合、固形分濃度は、10〜60質量%が好ましく、20〜40質量%が更に好ましい。固形分濃度が10質量%未満の場合は乾燥工程に時間が掛かり過ぎ、60質量%を超える場合は製造が困難となると共に塗布液の粘度が高くなり過ぎて保存安定性や塗工適性に劣る傾向がある。
本発明の樹脂の塗布液が溶剤系の場合、固形分濃度は、0.1〜15質量%が好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
本発明において、ガラスランチャンネルに担持される樹脂の厚さは、通常、0.1〜20μm、好ましくは1〜10μmである。斯かる厚さにより、良好な接着性を発現させることが可能である。この厚さが余りに薄い場合は良好な接着力が得られず、余りに厚い場合は、樹脂の乾燥に時間が掛かる上、コスト的にも不利である。
本発明において、前記担持は、塗布液の自然乾燥によりなされることが好ましい。
更にサッシュ又はパネルへ本発明の樹脂を塗布したガラスランチャンネルを組み付ける際、塗布した部位へ塗布液の溶媒と同系の溶媒、例えば、水(水溶液を含む)、有機溶媒(例えば、メチルシクロヘキサン、n−ブチルアセテート、イソプロピルアルコール等)をサッシュ又はパネルとガラスランチャンネルの間に存在させると、さらに樹脂の担持を強固にできる。
【0010】
本発明のガラスランチャンネルは、オレフィン系TPE又はスチレン系TPEからなる。TPEは、前記のとおり、熱可塑性エラストマーである。このオレフィン系TPEとしては、例えば、エクソンモービル製サントプレーン、三井化学製ミラストマー等が、スチレン系TPEとしては、三菱化学製ラバロン、クラレプラスチックス製セプトンコンパウンド等が挙げられる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
比較例1
ガラスランチャンネル(100mm長)に何も塗布せずサッシュに取り付けた。
比較例2
ガラスランチャンネル(100mm長)に何も塗布せずサッシュに取り付け、80℃で18時間熱処理した後、試験環境に2時間放置した。
実施例1
ガラスランチャンネル(100mm長)底部(連結壁のサッシュに面する側)にウレタン樹脂エマルション(DIC製ボンディック)を塗布後、自然乾燥させてからサッシュに取り付け、80℃で18時間熱処理した後、試験環境に2時間放置した。
実施例2
ガラスランチャンネル(100mm長)底部にウレタン樹脂エマルション(DIC製ハイドラン)を塗布後、自然乾燥させてからサッシュに取り付け、80℃で18時間熱処理した後、試験環境に2時間放置した。
実施例3
ガラスランチャンネル(100mm長)底部に3M社製K540NTを塗布後自然乾燥させてからサッシュに取り付け、80℃で18時間熱処理した後、試験環境に2時間放置した。
上記比較例1、2、実施例1〜3において、ガラスランチャンネルは、スチレン系TPEからなり、サッシュは自動車塗装を施したアルミニウム製サッシュジク(200mm長)である。
【0012】
試験例1
上記のように処理したガラスランチャンネルとサッシュからなるもののサッシュ長手方向を水平に固定し、試験環境(23℃、50%RH)下、200mm/minの速度でガラスランチャンネルのみを引張り、その際のガラスランチャンネルがサッシュからズレる際の初期最大荷重(サッシュ食い付き力:N)と、その後の摺動時の平均荷重を測定した。結果を図1に示した。
【0013】
図1から、通常のTPE製ガラスランチャンネルをサッシュに組み付けて熱処理を行うと、熱処理前と比較しサッシュ食い付き力は低くなる(比較例1と2の関係)。しかし、本発明のようにTPE製ガラスランチャンネルのサッシュ接触部に樹脂を塗布し、サッシュに取り付けると、熱処理後のサッシュ食い付き力(初期最大荷重)は大幅に増大する。これはサッシュ表面と樹脂の間に接着力が発生したことによると考える。また、初期最大荷重の後の摺動時の平均サッシュ食い付き力に実施例と比較例に大きな差異が認められないことから、実施例1、2、3は対サッシュへの摩擦係数が高くなっていないことが分かる。
【0014】
試験例2
実ドアのサッシュに比較例1のガラスランチャンネルを比較例1と同様に取り付け、又は実ドアのサッシュに実施例3と同様に樹脂で処理を施したガラスランチャンネルを取り付け、下記の条件で冷熱サイクルテストを4サイクル実施し、その間のドア前方底部角の上方向へのガラスランチャンネルのズレ量を測定した。結果を図2に示した。
初期:RT(23℃×2時間)⇒準備昇降⇒冷熱サイクル(−30℃×6時間⇒80℃×14時間⇒RT(23℃×2時間))
ここで、準備昇降とは、冷熱サイクルテスト前に200サイクルのガラス昇降をすることを意味する。
図2から、本発明の樹脂を塗布しない場合は、最大8mmの上方向へのズレが生じるのに対し、本発明の樹脂としてK−540NTを用いたもののズレ量は0.5mm以下に抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0015】
1…ガラスランチャンネル(1a:ルーフ部、1b:センターピラー部、1c:フロントピラー部)、2…側壁、3…連結壁、4…リップ、5…ガラス、6…摺動材、7…サッシュ又はパネル、8…最大塗布範囲、9…塗布範囲、10…ドアパネル、31…底部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系TPE又はスチレン系TPEからなるガラスランチャンネルに該ガラスランチャンネルとサッシュ又はパネルとの密着性を確保する樹脂を担持させたガラスランチャンネル。
【請求項2】
前記樹脂は、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、及びポリアミドアミン樹脂から選択される少なくとも1種を含む、請求項1のガラスランチャンネル。
【請求項3】
前記樹脂は、塩素化ポリオレフィンを含む、請求項1又は2のガラスランチャンネル。
【請求項4】
前記樹脂は、2、5−フランジオンと塩素化ポリオレフィンの反応物を含む、請求項1〜3のいずれかのガラスランチャンネル。
【請求項5】
前記担持は、塗布液の自然乾燥によりなされる、請求項1〜4のいずれかのガラスランチャンネル。
【請求項6】
前記樹脂は、ガラスランチャンネルの側壁の2面、及び連結壁の1面からなる3面のうち少なくとも1面に設置されている、請求項1〜5のいずれかのガラスランチャンネル。
【請求項7】
前記樹脂は、ガラスランチャンネルの少なくともピラー部の下側端部に設置されている、請求項1〜6のいずれかのガラスランチャンネル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−126495(P2011−126495A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289388(P2009−289388)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000196107)西川ゴム工業株式会社 (454)
【Fターム(参考)】