説明

ガラスラン

【課題】シール性を低下させることなくドアガラスの上縁との衝突音が低減でき、さらに位置ずれを防止可能なガラスランを提供することを目的とする。
【解決手段】ガラスラン100は弾性を有し、昇降可能なドアガラス用のドアサッシュ106の側縁および上縁に沿って設置され、上昇するドアガラス104の側縁108a、108bおよび上縁110を受け止める。ドアガラス104の上縁110を受け止める当該ガラスラン100の上枠部130は、ドアサッシュ側の長尺方向両端近傍でドアサッシュ106へ向かって突出する複数の突出部134と、突出部同士の間に設けられる摩擦力の高い高摩擦部132とを有し、上枠部130は突出部134と高摩擦部132とをドアサッシュ106に接触させて取り付けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のドアガラスとドアサッシュとの間に取り付けられるガラスランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な車両のドアサッシュにはガラスランが取り付けられている。ガラスランは熱可塑性エラストマー等の弾性を有する素材で構成された、ドアサッシュとドアガラスとの間の隙間を封じるシール部材である。パワーウィンドウ等のドアガラスが昇降可能なドアに用いられるガラスランには、ドアガラスの縁が差し込まれる溝が設けられている。この溝によってガラスランはドアガラスとのシール性を保ちつつドアガラスの昇降の案内が可能となっている。またガラスランは、下方から上昇してくるドアガラスを受け止める役割を担っている。その際のドアガラスの上縁との衝突音が低減できるよう、現在ではガラスランに対して様々な技術が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1に記載のガラスランは、ドアガラスの上縁に沿う面の一部が下方へ突出している。この下方へ突出する面は、ドアガラスの上縁両端の角に沿ったガラスランおよびドアサッシュの角部近傍に位置している。特許文献1では、角部近傍は剛性が高く、この角部近傍の一部の面でのみドアガラスと接触することで、振動が生じ難くドン突き音(衝突音)が軽減できるとされている。
【0004】
また、特許文献2に記載のガラスランは、ドアガラスの上縁両端の角付近でのみドアサッシュと接触していて、その中央側においてはドアサッシュとの間に間隙が形成されている。特許文献2では、間隙を設けることでガラスランのドアサッシュへの底づき(衝突)を防ぎ、衝突音の発生が防止できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−276739号公報
【特許文献2】実用新案登録第2606597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のガラスランは、下方へ突出する一部の面のみしかドアガラスの上縁に接触しないため、ドアガラスの上縁との間のシール性の低下が懸念される。また、特許文献2のガラスランは、ドアサッシュとの間に間隙が形成されているため、ドアサッシュに対する摩擦力が少なく、ドアガラスを昇降させる際にドアサッシュとの位置ずれを起こすおそれがある。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、シール性を低下させることなくドアガラスの上縁との衝突音が低減でき、さらに位置ずれを防止可能なガラスランを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるガラスランの代表的な構成は、昇降可能なドアガラス用のドアサッシュの側縁および上縁に沿って設置され、上昇するドアガラスの側縁および上縁を受け止める、弾性を有するガラスランにおいて、ドアガラスの上縁を受け止める当該ガラスランの上枠部は、ドアサッシュ側の長尺方向両端近傍でドアサッシュへ向かって突出する複数の突出部と、突出部同士の間に設けられる摩擦力の高い高摩擦部とを有し、上枠部は突出部と高摩擦部とをドアサッシュに接触させて取り付けられていることを特徴とする。
【0009】
上記の上枠部をドアサッシュに取り付けると、突出部のドアガラス側の領域はドアガラスに向かってなだらかに下降する。上昇するドアガラスは、まずこの下降した領域(下降部)に接触する。そしてドアガラスに押圧されることで突出部は圧縮され、下降部をドアガラスの上縁に沿って直線状に変形させながらドアガラスとガラスランとの接触が完了する。このように、ガラスランに下降部を形成させることで、ドアガラスの上縁全体とガラスランとは一時には接触せず、まず一部から接触を開始して次第に全体が接触する。これにより、上昇するドアガラスを受け止める際のガラスランに生じる衝撃が減少するため、衝撃音が低減できる。また上記構成によれば、高摩擦部によってドアサッシュとの間には摩擦力が生じるため、ドアガラスが昇降する際のドアサッシュとの位置ずれ防止を図ることが可能となっている。
【0010】
上記上枠部のうちドアガラスの上縁と接触する接触面は、ドアサッシュへの取付け前において平滑な形状であるとよい。すなわち、接触面は段差が存在しない形状であるとよく、この構成によってドアガラスを閉じた際のシール性が確保できる。
【0011】
上記の突出部は直方体であってもよい。この構成によれば、ドアガラスを受け止める際の荷重を効率よく吸収し、圧縮されると共に衝撃の分散を効率よく行うことができる。
【0012】
上記の突出部の高摩擦部を基準とした突出量は0.5mm以上かつ1.0mm以下であってもよい。少なくとも0.5mm以上の突出量であれば上述した衝撃音の低減効果を得ることができる。また、1.0mm以下程度の突出量であればドアガラスを開いている状態でも下降部が目立つことはなく、ガラスランの外観を損なうおそれがない。さらに、ドアガラスを閉じる際、1.0mm以下程度の突出量の突出部であれば容易に圧縮可能であり、シール性に影響を与えるおそれがない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シール性を低下させることなくドアガラスの上縁の衝突音が低減でき、さらに位置ずれを防止可能なガラスランを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態にかかるガラスランを適用するフロントドアを示す図である。
【図2】図1のガラスランを各方向から示す図である。
【図3】図2(a)の押出成形部を拡大した斜視図である。
【図4】図2(a)の型成形部を拡大した斜視図である。
【図5】ガラスランをドアサッシュに取り付ける過程を示す図である。
【図6】図5のガラスランにドアガラスが接触する過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
図1は、本実施形態にかかるガラスラン100を適用するフロントドア102を示す図である。図1に示すフロントドア102は、車両の左側面用のものである。本実施形態にかかるガラスラン100は、昇降可能なドアガラス104と窓枠であるドアサッシュ106との間を封止するシール部材である。ガラスラン100はドアサッシュ106の内側(ドアガラス側)に、ドアガラス104の図1における左右(車両前後)の側縁108a、108bおよび上縁110に沿って設置される。当該ガラスラン100はドアガラス104を閉じ切る際の衝撃音を低減させる機能を有していて、その技術的思想はフロントドア102に限らず他のドアにも適用可能である。
【0017】
図2は、図1のガラスラン100を各方向から示す図である。図2(a)に示すガラスラン100は、熱可塑性エラストマー等の弾性を有する素材で構成されている。図2(b)は、図2(a)のA−A断面図である。図2(b)に示すように、ガラスラン100の車外側および車内側の壁面には支持部112a〜112dが突出していて、これら支持部112a〜112d等を利用してガラスラン100はドアサッシュ106に取り付けられる。ガラスラン100はドアガラス104の縁が差し込まれる溝部114を有している。溝部114は摺動部116a、116bによって塞がれていて、これら摺動部116a、116bによってドアガラス104の表裏面を把持して支えることが可能となっている。
【0018】
再び図2(a)を参照する。図2(a)に示すガラスラン100の各部位は、押出成形部120、122、124と、型成形部126、128とに大きく分けられる。押出成形部120、122、124は、文字通り押し出し成形される部位である。押出成形部120はガラスラン100の上縁110(図1参照)に沿って成形され、押出成形部122、124はガラスラン100の車両前後の側縁108a、108bに沿って成形される。型成形部126、128は型成形される部位であり、押出成形部120と押出成形部122、124とを結ぶ角として成形される。押出成形部120と型成形部126、128とは、ガラスラン100のうち上枠部130を構成する。上枠部130は、上昇するドアガラス104(図1参照)の上縁110に沿ってこれと接触し、ドアガラス104を受け止める。
【0019】
図3は、図2(a)の押出成形部120を拡大した斜視図である。図3は、押出成形部120のうちドアサッシュ側の一部を斜め上方から示している。図3に示すように、押出成形部120のドアサッシュ側には高摩擦部132が形成されている。高摩擦部132はドアサッシュ106(図1等参照)に対する滑り止めであり、例えばオレフィン系熱可塑性エラストマー等の高摩擦材料を用いて、押出成形部120の長尺方向の略全体にわたって形成されている。高摩擦部132は支持部112a等とは材質が異なるものの、押出成形部全体として一体に押し出し成形される。押出成形部120は長尺であるものの、幅方向の断面が長尺方向にわたって略一定であるため、押し出し成形であれば効率のよい加工が可能である。
【0020】
図4は、図2(a)の型成形部128を拡大した斜視図である。図4は、型成形部128をドアサッシュ側の斜め上方から示している。図4に示すように、型成形部128のドアサッシュ側には突出部134が形成されている。突出部134は、後述するドアガラス104を閉じ切る際の衝撃音の低減を実現するために形成されている。本実施形態では突出部134は直方体としてドアサッシュ106に向かって突出している。
【0021】
図4を参照して説明した突出部134と同様の突出部は、図2(a)の型成形部126にも形成されている。これらによって上枠部130は、その長尺方向(車両前後方向)の両端にそれぞれ突出部を備え、突出部同士の間に高摩擦部132を備える構成となっている。
【0022】
図5は、ガラスラン100をドアサッシュ106に取り付ける過程を示す図である。図5(a)は、ドアサッシュ106に取り付ける前のガラスラン100を示している。図5(a)に示すように、突出部134は高摩擦部132よりも突出している。本実施形態では、突出部134の高摩擦部132を基準とした突出量h1は1.0mmに設定している。ガラスラン100のドアガラス側はドアガラス104の上縁110(図6(a)参照)と接触する接触面136である。図5(a)に示すように、接触面136はドアサッシュ106への取付け前において平滑に形成されている。
【0023】
図5(b)は、ドアサッシュ106に取り付けられたガラスラン100を示している。図5(b)に示すように、上枠部130は、突出部134と高摩擦部132とを共にドアサッシュ106に接触させて設置される。前述したように突出部134は高摩擦部132よりも突出しているため、突出部134と高摩擦部132とをドアサッシュ106に接触させることで、接触面136にはドアガラス104に向かって下降する領域(下降部138)が形成される。
【0024】
図6は、図5のガラスラン100にドアガラス104が接触する過程を示す図である。図6(a)は、ガラスラン100とドアガラス104との接触の初期段階を示している。図6(a)に示すように、当該ガラスラン100ではドアガラス104を閉める際、上昇するドアガラス104の上縁110は、まず接触面136の下降部138に接触する。そして、さらに上昇を続けるドアガラス104は下降部138を押圧し、突出部134を圧縮する。これに伴い、下降部138をドアガラス104の上縁110に沿って直線状に変形(弾性変形)させながらドアガラス104の上縁全体と接触面136との接触が次第に進行し、図6(b)に示すようにドアガラス104の上縁全体と接触面136が接触してドアガラス104の閉動作が完了する。
【0025】
上記説明したように、ガラスラン100に下降部138を形成させることで、ドアガラス104の上縁全体とガラスラン100とは一時には接触せず、まず下降部138から接触を開始して次第に全体が接触する。これにより、上昇するドアガラス104を受け止める際のガラスラン100に生じる衝撃が減少するため、衝撃音が低減できる。また、高摩擦部132によってドアサッシュ106との間には摩擦力が生じるため、ドアガラス104が昇降する際のドアサッシュ106との位置ずれ防止を図ることが可能となっている。
【0026】
本実施形態では、上記で図5(a)を参照して説明したように、突出部134の高摩擦部132からの突出量h1は1.0mmに設定している。したがって、下降部138はきわめて僅かに下降した形状となる。そのため下降部138は視認性が低く目立たないため、ドアガラス104を開いた状態においてガラスラン100の外観を損なうおそれがない。また、ドアガラス104を閉じる際にも1.0mm程度の突出量であれば容易に圧縮可能であり、シール性に影響を与えるおそれがない。
【0027】
上述した突出部134の突出量h1=1.0mmは例示であって、これに限るものではない。上記の効果を得るためには、突出部134の突出量h1は0.5mm以上かつ1.0mm以下であるとよい。突出量が少なくとも0.5mm以上であれば上述した衝撃音の低減効果を得ることができる。また、1.0mm以下程度の突出量であれば、上述したようにドアガラス104を開いた状態において下降部138の外観を損なうおそれがない。また、ドアガラス104を閉めた際に容易に圧縮可能である。
【0028】
以上のことから、突出部134の突出量h1は0.5〜1.0mmの範囲内であれば、衝撃音の低減効果を得ることができ、かつ下降部138が残存して外観上やシール性の問題となるおそれがない。なお、突出量h1は0.5〜1.0mmの範囲内であってもより大きいほど衝撃音の低減の効果が得られる。よって、本実施形態のガラスラン100のように、突出部134の突出量h1は、外観およびシール性に問題とならない範囲内で最も衝撃音低減の効果が得られる1.0mmとするのが好適である。
【0029】
図5(a)に示すように、突出部134はドアサッシュ側に形成されていて、ドアガラス側の接触面136はドアサッシュ106への取付け前において平滑に形成されている。すなわち、接触面136に段差は設けられていない。そのため図6(b)に示すドアガラス104を閉じた際、突出部134が圧縮されると接触面136は平滑になる。したがって、ドアガラス104の上縁全体が接触面136と接触して高いシール性が確保できる。
【0030】
また突出部134は、図4に示したように直方体とすることでドアサッシュ106との面接触が可能となっている。したがって、図6(a)に示すドアガラス104を受け止める際に荷重を効率よく吸収することができる。そして、突出部134は圧縮されるとともにガラスラン100から受ける衝撃を効率よく分散させることができる。なお、突出部134の形状は図4に示す直方体に限られない。たとえば、点接触を可能にする突起を複数設けたり、線接触を可能にする壁状の突出部を格子状に設けたりしてもよい。いずれの形状も、接触面136に下降を生じさせ、かつドアガラス104の押圧による容易な圧縮が可能である。
【0031】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、車両のドアガラスとドアサッシュとの間に取り付けられるガラスランとして利用することができる。
【符号の説明】
【0033】
100 …ガラスラン、102 …フロントドア、104 …ドアガラス、106 …ドアサッシュ、108a、108b …側縁、110 …上縁、112a〜112d …支持部、114 …溝部、116a、116b …摺動部、120、122、124 …押出成形部、126、128 …型成形部、130 …上枠部、132 …高摩擦部、134 …突出部、136 …接触面、138 …下降部、h1 …突出量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降可能なドアガラス用のドアサッシュの側縁および上縁に沿って設置され、上昇する該ドアガラスの側縁および上縁を受け止める、弾性を有するガラスランにおいて、
前記ドアガラスの上縁を受け止める当該ガラスランの上枠部は、前記ドアサッシュ側の長尺方向両端近傍で該ドアサッシュへ向かって突出する複数の突出部と、該突出部同士の間に設けられる摩擦力の高い高摩擦部とを有し、
前記上枠部は前記突出部と前記高摩擦部とを前記ドアサッシュに接触させて取り付けられていることを特徴とするガラスラン。
【請求項2】
前記上枠部のうち前記ドアガラスの上縁と接触する接触面は、前記ドアサッシュへの取付け前において平滑な形状であることを特徴とする請求項1に記載のガラスラン。
【請求項3】
前記突出部は直方体であることを特徴とする請求項1または2に記載のガラスラン。
【請求項4】
前記突出部の前記高摩擦部を基準とした突出量は0.5mm以上かつ1.0mm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のガラスラン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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