説明

ガラス基板、及びガラス基板の製造方法

【課題】面取り部における破断耐性を向上させ面取り部及び主面部の境界部における膜剥離を抑制させることに適したガラス基板を得ること。
【解決手段】ガラス基板は、主面部と端面部との間に面取り部を有するガラス基板であって、少なくとも前記端面部及び前記面取り部に形成された複数の凹部を備え、前記複数の凹部のそれぞれは、平面方向の幅が10nm以上200nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板、及びガラス基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜シリコン太陽電池(薄膜光電変換装置)はガラス基板を用いることができるため、結晶シリコン太陽電池と比較して、材料であるシリコンの使用量が少なく、低コストでの生産が可能ということから、研究・開発が活発に行われている。
【0003】
その製造方法としては、プラズマCVD法を用いて光電変換セルを形成する方法が用いられ、非晶質シリコンもしくは微結晶シリコン膜を光電変換層に用いる形態が一般的に検討されている。光電変換セルは、光電変換層と各種電極とにより構成されている。
【0004】
一般的に用いられる具体的な作製方法を述べていくことにする。透明絶縁性のガラス基板上に透明電極膜、光電変換層、反射電極層を順次形成していく手段を用いる。より薄い光電変換層で多くの光を吸収させる技術が必要であり、その方法として、テクスチャ構造の形成が用いられている。テクスチャ構造は、膜の表面に凹凸を形成された構造のことであり、光の入射角度を変化させることにより、界面での反射を低減し、また入射した光の行路長を長くすることを目的としている。そのため、テクスチャ構造における、高低差・平面方向の周期により、効率的に散乱される光の波長が異なることになる。全透過率に対する、散乱透過率の比をヘイズ率という呼び、光電変換層において吸収する光の波長に対するヘイズ率が高いことが望ましい。
【0005】
薄膜シリコン太陽電池に使用されるガラス基板は、生産性・強度などの観点から、メートル級の大きさと1〜5mm程度の膜厚とを有するものが用いられる。また、ユーザー側より要求されるガラス基板のサイズが画一ではないため、大きなガラス基板から所望のサイズのガラス基板になるように切断されて生産されることになる。切断されたガラス基板の切断面(端面と表現する)は目視では滑らかに見えるものの、細かな傷が多数あり、さらにフレーク上の剥離しやすい構造が多く見られる。そのため、基板の周縁部の端面はC面取りあるいはA面取りと呼ばれる面取り処理が実施されることが多い。この処理は鋭利なガラス基板の切断面近傍の角部を取り除くことによって、ガラス基板の傷を起因とする割れを抑制し、また、取扱時に怪我をすることを防ぐ目的がある。
【0006】
特許文献1には、ガラス板の一部分が支持治具から突出するようにガラス板を支持治具で固定させた状態で研磨ホイールをガラス板の突出部分におけるエッジに沿って移動させることが記載されている。これにより、特許文献1によれば、ガラス板に接触する研磨ホイールのわずかな位置的変動があっても、剛直なガラス板を研磨する場合に比べて除去される材料の大きな増大を防ぐことができるので、ガラス板のエッジ形状を一貫性のあるものとすることができるとされている。
【0007】
特許文献2には、板ガラスの端面部を平坦状に且つその表面最大凹凸が0.04mm以下となるように研磨し、板ガラスの端面部と平面部との境部をその表面最大凹凸が0.007mm以下となるように仕上げ加工することが記載されている。これにより、特許文献2によれば、板ガラスの端縁部分に内部応力が集中しにくくすることができるので、従来より簡便な方法によって板ガラスを熱強化処理しても防火ガラスとしての性能を維持させることができるとされている。
【0008】
特許文献3には、ガラス基板の端面部に第1の研磨具で粗研磨処理を行い、第1の研磨具より細かいと粒の第2の研磨具で仕上げ研磨処理を順次に行った後、ガラス基板の端面部と表面・裏面との境界部に、第2の研磨具よりも細かいと粒の第3の研磨具で特定研磨処理を行い、粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜が0.01以下であるような面取り面を形成することが記載されている。これにより、特許文献3によれば、ガラス基板のたわみや不当な温度分布に起因する引っ張り応力が面取り面に作用しても、面取り面には応力集中が生じず、ガラス基板の端面及び面取り面の破壊強度が上昇するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−26195号公報
【特許文献2】特許第3308447号公報
【特許文献3】特開2011−84453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
薄膜シリコン太陽電池に使用されるガラス基板における基板の周縁部の面取り処理においては、一般的に砥石や研磨布のような研磨具を用いた機械的な研磨処理が用いられる。その場合、面取り部を拡大観察すると、面取り部における凹凸は少なくとも数μm程度の高さ(山部と谷部の間の高さ)を有しているとともに、形成される谷部は鋭角な形状を有しており、深さも均一ではない。これらの凹凸は鋭利な角度を有した形状であるため、基板のたわみや熱処理の際の破断を誘発しやすくなるとともに、接触時におけるクラックも生じやすい。これにより、高い破断耐性を得ることが困難であるとともに、異物が除去しにくい。
【0011】
特許文献1〜3に記載のガラス基板は、いずれも機械的な研磨処理で面取り部を加工したままの状態であるため、同様の問題が生じる可能性が高い。
【0012】
また、特許文献1に記載の技術では、ガラス板の端面が研磨されないので、切断時に生じた細かな傷が多数残っており、その細かな傷も、基板のたわみや熱処理の際の破断を誘発しやすくなるとともに、接触時におけるクラックを生じやすい。
【0013】
特許文献2、3に記載の技術では、と粒を徐々に細かくしながら何段階にも渡って研磨を行うため、研磨に要する時間が増加し、作業工数が増加するため、生産性が低下する可能性がある。
【0014】
さらに、特許文献1、2に記載の技術では、面取り部と鏡面を形成している表面との境界部において面の平坦性に関して不連続性が存在することにより、ガラス基板上に作製される薄膜が剥離しやすい。
【0015】
この点に関して、特許文献3の技術では、面取り面の接線と表面・裏面とのなす角度が10°以上30°以下になるように面取り面を形成することが記載されているが、この角度を10°より小さくすると、面取り面を研磨する場合における端面側の研磨領域が狭くなり、端面と表面・裏面との境界部に残存しているガラスチッピング等の除去が不十分となるので好ましくないことが記載されている。すなわち、特許文献3の技術では、面取り部と表面との境界部における面の平坦性の関して連続性を確保することが積極的に排除されている。
【0016】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、面取り部における破断耐性を向上させ面取り部及び主面部の境界部における膜剥離を抑制させることに適したガラス基板、及びガラス基板の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の1つの側面にかかるガラス基板は、主面部と端面部との間に面取り部を有するガラス基板であって、少なくとも前記端面部及び前記面取り部に形成された複数の凹部を備え、前記複数の凹部のそれぞれは、平面方向の配置ピッチが10nm以上200nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、面取り部、及び端面部に存在していた谷部の鋭利な形状をなめらかな形状にすることができ、面取り部と鏡面部の境界においても滑らかで連続的な表面が形成できる製造方法に適したガラス基板を提供できる。すなわち、面取り部における破断耐性を向上させ面取り部及び主面部の境界部における膜剥離を抑制させることに適したガラス基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施の形態における加工前のガラス基板の模式図である。
【図2】図2は、実施の形態における加工前の面取り部の拡大模式図である。
【図3】図3は、実施の形態にかかるガラス基板に製造方法を示す工程断面図である。
【図4】図4は、実施の形態にかかるガラス基板に製造方法を示す工程断面図である。
【図5】図5は、実施の形態における加工前後の面取り部を拡大観察したSEM写真である。
【図6】図6は、実施の形態における面取り部の加工形状の変化を示す模式図である。
【図7】図7は、実施の形態にかかるガラス基板を適用した光電変換モジュールを示す断面図である。
【図8】図8は、実施の形態にかかるガラス基板を適用した薄膜太陽電池モジュールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかるガラス基板、及びガラス基板の製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。用いている図においては、理解の容易のために用いている縮尺が実際と異なる場合がある。
【0021】
実施の形態.
まず、実施の形態における加工前のガラス基板について図1及び図2を用いて説明する。図1は、加工前のガラス基板の構成を示す断面図である。図2は、図1におけるA部の構成を示す拡大断面図である。
【0022】
後述する加工を行う前のガラス基板100は、透明絶縁性の基板であり、例えば、主面部100a、主面部100b(図示せず)、端面部100c、及び面取り部100dを有する。
【0023】
主面部100aは、例えば、主面部101a(図7、図8参照)となるべき面である。主面部101aは、例えば、受光面と反対側の面であり、その上方に薄膜光電変換層を堆積していくための面である。主面部100aは、図1のA部を拡大した図2に示すように、鏡面処理が施された平坦面となっている。
【0024】
主面部100bは、例えば、主面部101b(図7、図8参照)となるべき面である。主面部101bは、例えば、受光面であり、主面部101aと反対側の面である。主面部100bは、図示しないが、主面部100aと同様に、鏡面処理が施された平坦面となっている。
【0025】
端面部100cは、例えば、大きなガラス基板から所望のサイズのガラス基板になるように切断されて生産された際の切断面である。
【0026】
面取り部100dは、ガラス基板100における主面部100aと端面部100cとの間に配された部分であり、ガラス基板100における端面部100c近傍の角部に対して研磨処理によって面取り処理を実施された部分である。面取り処理は、例えば、C面取りやA面取りを代表とする処理である。
【0027】
面取り部100dは、図1のA部を拡大した図2に示すように、凹凸を有する面となっている。図2では、その凹凸を極端に表現したである。面取り部100dにおいては、図2中のBに示すように、研磨によって生じた谷状の部分が生じている。また、鏡面処理された主面部100aと、凹凸を有する面取り部100dとの境界部分100adには、図2中のCに示すように、表面形状が急に変化する不連続部100ad1が存在する。不連続部100ad1は、面の平坦性に関して不連続性を有する部分である。
【0028】
次に、実施の形態にかかるガラス基板に製造方法について図3及び図4を用いて説明する。図3及び図4は、ガラス基板に製造方法を示す工程断面図である。
【0029】
図3に示す工程では、図1及び図2を用いて説明したようなガラス基板100を準備する。ガラス基板100の厚さは、0.8mm以上5mm以下であることが好ましい。仮に、ガラス基板100の厚さが0.8mmより薄いと、後の工程で膜を形成する際や装置間を搬送する際などにガラス基板100が破損する可能性がある。また、ガラス基板100の厚さが5mmより厚いと、要求される強度の光を光電変換ユニット103(図7、図8参照)に導くことが困難になる。
【0030】
図4に示す工程では、このガラス基板100に対して、例えば、減圧環境化にてフッ化水素ガスを吹き付ける(気相フッ酸処理を行う)ことにより、ガラス基板100の主面部100a、面取り部100d、及び端面部100cに対して同時にエッチングを実施する。これにより、ガラス基板101の主面部101aに表面テクスチャ構造を形成するとともに面取り部100d、及び端面部100cを表面処理する。すなわち、ガラス基板101の主面部101a、面取り部100d、及び端面部100cに同時に複数の微細な凹部を形成する。この方法は、ガラス基板100中に微量に含まれる不純物(例えば、アルカリ系不純物)のエッチング速度がガラスの主成分であるSiOと比較して極端に低いことを活用する方法である。
【0031】
具体的には、ガラス基板100を腐食性のHFガスに対して耐食性の高い真空排気可能な容器に設置し、圧力調整された減圧下において、流量制御されたHFガスあるいはHF/HOを含むエッチングガス(プロセスガス)に暴露する。ガラス基板100を厚さ方向に500nm〜2000nmエッチングすると、ガラス基板101の主面部101aに凹凸が生じ、表面テクスチャ構造が形成される。なお、この際の圧力は100〜10kPa程度が好ましく、光の散乱度合いを示すヘイズ率を向上させることができる。
【0032】
この工程においては、ガラス基板100中の不純物(例えば、アルカリ系不純物)がマスク材となってエッチングが等方的に進むため、鏡面処理された主面部101aに加えて、面取り部100d、及び端面部100cにおいても、10nm以上200nm以下の幅を有するすり鉢状の谷(複数の凹部)を有するテクスチャ構造が形成され始める。そして、エッチング初期から進行する大きな谷のエッチング途中で更にマスク材(例えば、アルカリ系不純物)が出現することから、面取り部100d、及び端面部100cのそれぞれにおいて、大きな谷(第2の凹部)の斜面(内面)に沿って小さなすり鉢状の谷(複数の凹部)が付加される形状が得られることが特徴となっている。このとき、大きな谷の幅は、例えば、3μm以上になっている。
【0033】
図5は、面取り部100d、101dの表面を観察したSEM像である。
【0034】
図5(a)は、図4に示す加工を行う前の面取り部100dの表面を観察したものである。図5(a)に示すように、加工前の面取り部100dでは、急峻な谷が数多く存在しており、数μmの大きさの凹凸が形成され、その表面に微小な線状の亀裂(マイクロクラック)が存在していることがわかる。すなわち、加工前の面取り部100dでは、機械的な研磨処理に伴い、形成される谷部は鋭角な形状を有しており、深さも均一ではない。これらの凹凸は鋭利な角度を有した形状であるため、基板のたわみや熱処理の際の破断を誘発しやすくなるとともに、接触時におけるクラックも生じやすい。これにより、高い破断耐性を得ることが困難であるとともに、異物が除去しにくい。
【0035】
一方、気相HF処理による加工後の面取り部101dでは、図5(b)に示すように、表面は滑らかな形状を有しており、急峻な谷は存在していないことが確認された。
【0036】
10nm以上200nm以下の小さな周期(平面方向の幅)の微細な凹部で覆われていることがわかる。この結果から、元の表面(図5(a)参照)で観察される微小なクラックが除去されていることが確認できる。
【0037】
仮に、微細な凹部の周期が10nmより小さいと、後の工程で、主面部101aの上に透明電極膜102(図7、図8参照)を成長させた場合に、透明電極膜102の結晶性が低下する可能性がある。また、微細な凹部の周期が200nmより大きいと、後の工程で、主面部101aの上に透明電極膜102(図7、図8参照)を成長させた場合に、凹凸部で透明電極膜102を分断するような大きな粒界が透明電極膜102内に形成されてしまい、透明電極膜102の導電性を低下させる可能性がある。
【0038】
更に、図5(b)に示すSEM像から、10μm四方において、100個以上の微細な凹部があることがわかり、密度にすると、1μmに1個以上であることがわかる。このように微小な周期の凹部の密度が高いほど製造工程において堆積する薄膜が剥離しにくくなり、製造工程中の発塵も抑制することが可能となる。
【0039】
また、例えば、3μm以上の大きな周期の凹部(複数の第2の凹部)とともに、10nm以上200nm以下の小さな周期の凹部(複数の凹部)が混在しているのが特徴的でもある。なお、ここで用いている凹部の周期とは、凹凸における凸部間の平面方向距離、すなわち凹部の平面方向の幅をさしている。
【0040】
また、処理前の凹凸形状が数μmの大きさを有している(図5(a)参照)ことから、その凹凸の急峻な形状を緩和させるために、気相HF処理においては、500nm以上の厚さ方向へのエッチングが必要である。
【0041】
図6(a)に、主面部100aと面取り部100dとの境界付近の模式図を用いてエッチングの進行状況を示している。面取り部100dにおいては、気相フッ酸処理前には前述したような研磨により生じた急峻な形状の凹凸を有しているが、気相フッ際処理により、図5に示すように、急峻な谷の部分においては谷の幅が広がるように(サイドエッチを伴いながら)エッチングが進行していくこととなる。その結果、面取り部101dに存在する急峻な谷は谷底の鋭角部分の幅が広がることになり、その谷部(第2の凹部)の形状は緩やかになる。その結果、谷部(第2の凹部)へ入り込んだ異物の除去は容易になる。
【0042】
更に、主面部100aにも気相フッ酸処理を実施することで、主面部101aと面取り部101dの境界部分101adには連続したテクスチャ形状、すなわち連続部101ad1が形成されることになり、表面形状の急激な変化による応力の変化による膜の剥離が抑制されるようになる。連続部101ad1は、面の平坦性に関して連続性を有する部分である。
【0043】
ガラス基板の破断耐性評価として、3点曲げによる破断開始圧力を確認したところ、元のガラス基板(図3、図5(a)参照)においては、平均約90MPaで破断が発生したのに対し、加工後のガラス基板(図4、図5(b)参照)においては、気相フッ酸処理による加工を実施したことにより平均約220Mpaまで破断耐性が向上することがわかった。これは気相フッ酸処理により形成されたすり鉢状の形状を有した微小な凹部を有する表面にすることにより、初期に存在していた破断の起点となる微小なクラックを減少させることができたことによると考える。
【0044】
上記のような方法により、面取り部100dの鋭利な凹凸を滑らかにしつつ、片面の鏡面処理された主面部100aに凹凸を形成したガラス基板101を準備した後、例えば図7に示すように、以下の工程を経て薄膜Si太陽電池を形成する。
【0045】
透明なガラス基板101上に、透明電極膜102が形成されている。透明電極膜102には、ITO、SnOなどの透明導電性酸化物層が用いられることが多い。また、透明電極膜102の表面には、ガラス基板101上に形成された微細な凹凸に対応する微細な凹凸を有するテクスチャ構造が継続して形成されることになる。
【0046】
透明電極膜102上には、光電変換ユニット103が形成される。光電変換ユニット103は、透明電極膜102側から、p型シリコン半導体層103a、i型非晶質シリコン光電変換層103b、n型シリコン半導体層103cを積層した構造を有しており、それらはプラズマCVD法を用いて形成することが可能である。
【0047】
光電変換ユニット103中のi型光電変換層としてi型非晶質シリコン光電変換層103bとしているが、i型非晶質シリコン系半導体材料で形成され、その材料として、真性シリコン以外にもシリコンゲルマニウム(SiGe)、シリコンカーバイド(SiC)などの合金なども用いられる。また、p型シリコン半導体層103aには高い導電性と高い光透過性が求められ、ボロン(B)などを添加したシリコンカーバイド(SiC)などが使用される。
【0048】
光電変換ユニット103上には、裏面電極膜104が形成される。裏面電極膜104は、良好な導電性と光反射性を有することが求められ、AgやAlなどが用いられることが多い。また、光電変換ユニット103との反応・拡散などを抑制するために、複数の電極層の積層構造を持つこともできる。
【0049】
ここまで述べたような、透明電極膜102から裏面電極膜104までの積層構造によって、図7に示されるような光電変換セル201が構成される。なお、光電変換ユニットを複数積層させるタンデム型と呼ばれる構造においても本実施の形態によるガラス基板が適用できることは言うまでも無い。
【0050】
また、実際に薄膜シリコン太陽電池モジュールを作製する際には、複数の薄膜光電変換セルを、電気的に直列に接続されて構成するため、隣接薄膜光電変換セル間の光電変換層や電極を電気的に分離するための溝がレーザースクライブなどの方法により形成されており、図8に示すような構造をしている。図8中の溝部11は、透明電極膜102を分離するために、透明電極膜102をスクライブすることにより得られた溝である。溝部12は、裏面電極膜104と透明電極膜102とを電気的に接続するために光電変換ユニット103を形成後に形成される溝である。溝部11及び溝部12は、それぞれ、溝形成後の成膜によって溝部が埋められている。また、溝部13は、裏面電極膜104を電気的に分離するために、裏面電極膜104成膜後に形成される溝である。
【0051】
このような手段により得られる光電変換セル201においては、形成されたテクスチャ構造による光の散乱を活用でき、高い発電効率を得ることが可能となることに加え、ガラス基板の面取り部において鋭利な凹凸が存在しないため、形成された光電発電層の剥離や、熱応力などによる基板の破断が抑制される効果が得られる。
【0052】
以上のように、実施の形態にかかる製造方法では、研磨による面取りをされたガラス基板をHFガスを含むプロセスガスに暴露することによって、10nm以上200nm以下の平面方向の幅を有する複数の微細な凹部を主面部、面取り部、及び端面部に同時に形成する。これにより、面取り部、及び端面部に存在していた谷部の鋭利な形状をなめらかな形状にすることができるので、端面部への衝撃による欠け耐性が増し、ガラス基板の欠けが発生しにくくなる。また、熱などの原因による反りが発生した場合においても、破断耐性が向上する効果があるとともに、谷部への付着異物の除去が容易になる。また、面取り部と鏡面部の境界においても滑らかで連続的な表面が形成できることから、製造過程における形成膜の剥離を抑制することができる。すなわち、面取り部における破断耐性を向上でき、面取り部及び主面部の境界部における膜剥離を抑制できる。
【0053】
また、実施の形態にかかるガラス基板は、このような製造方法に適したものである。すなわち、実施の形態によれば、面取り部における破断耐性を向上させ面取り部及び主面部の境界部における膜剥離を抑制させることに適したガラス基板を提供できる。
【0054】
また、実施の形態にかかる製造方法では、と粒を徐々に細かくしながら何段階にも渡って研磨を行う必要が無いことに加えて、主面部にテクスチャ構造を形成する工程と面取り部、及び端面部を表面処理する工程とを共通化しているので、工程数の増加が抑制されているため、生産性を低下させることなく、面取り部及び端面部の微小な凹凸をなめらかな形状にすることができる。
【0055】
また、実施の形態にかかるガラス基板では、複数の微細な凹部が、端面部101c及び面取り部101dにおいて、1個/1μm以上の配置密度で配されている。これにより、面取り部101dの表面積を増加させることができるので、その上を覆う膜(例えば、図7、図8に示す透明電極膜102)の密着性が向上し、作製工程中における剥離による異物発生を抑制できる。
【0056】
また、実施の形態にかかるガラス基板では、平面方向の幅が3μm以上の凹部の内面に複数の微細な凹部が形成されている。これにより、平面方向の幅が3μm以上の凹部に異物が付着した場合でも、その異物を容易に除去できる。
【0057】
また、実施の形態にかかるガラス基板では、複数の微細な凹部が主面部にも形成されている。これにより、主面部と面取り部との境界部における面の平坦性に関する連続性を増加させることができ、膜の剥離を抑制できる。
【0058】
また、実施の形態にかかるガラス基板では、複数の微細な凹部が主面部と面取り部との境界部を跨ぐように連続的に形成されている。これにより、主面部と面取り部との境界部における面の平坦性に関する連続性をさらに増加させることができ、膜の剥離をさらに抑制できる。
【0059】
また、実施の形態にかかるガラス基板では、ガラス基板が、内部に、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)もしくはアルカリ土類金属(例えば、カルシウム)、マグネシウム、およびアルミニウムのうち少なくとも1種を含む。これにより、エッチング加工時においてガラスとのエッチング選択比を確保でき、主面部、面取り部、及び端面部へ複数の微細な凹部を容易に形成できる。
【0060】
また、実施の形態にかかるガラス基板では、ガラス基板の厚さが0.8mm以上5mm以下である。これにより、ガラス基板100の破損を抑制しながら要求される強度の光を光電変換ユニット103(図7、図8参照)に導くことができる。
【0061】
なお、上記の実施の形態では、主面部、面取り部、及び端面部へ複数の微細な凹部を形成する方法として、気相HF処理を用いたが、気相HF処理に代えて、HFをエッチャントとしたウェットエッチング処理を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上のように、本発明にかかるガラス基板、及びガラス基板の製造方法は、薄膜シリコン太陽電池の製造に有用である。
【符号の説明】
【0063】
11 溝部
12 溝部
13 溝部
100、101 ガラス基板
100a、101a 主面部(鏡面処理された面)
100b、101b 主面部(受光面)
100c、101c 端面部
100d、101d 面取り部
102 透明電極膜
103 光電変換ユニット
103a p型シリコン半導体層
103b i型非晶質シリコン光電変換層
103c n型シリコン半導体層
104 裏面電極膜
201 光電変換セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面部と端面部との間に面取り部を有するガラス基板であって、
少なくとも前記端面部及び前記面取り部に形成された複数の凹部を備え、
前記複数の凹部のそれぞれは、平面方向の幅が10nm以上200nm以下である
ことを特徴とするガラス基板。
【請求項2】
前記複数の凹部は、前記端面部及び前記面取り部において、1個/1μm以上の配置密度で配されている
ことを特徴とする請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
前記端面部及び前記面取り部に形成された複数の第2の凹部をさらに備え、
前記複数の第2の凹部のそれぞれは、平面方向の幅が3μm以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス基板。
【請求項4】
前記凹部は、前記第2の凹部の内面に複数形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載のガラス基板。
【請求項5】
前記複数の凹部は、さらに2つの前記主面部のうち少なくとも一方の面に形成されている
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項6】
前記複数の凹部は、前記主面部と前記面取り部との境界部を跨ぐように連続的に形成されている
ことを特徴とする請求項5に記載のガラス基板。
【請求項7】
前記ガラス基板は、内部に、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、マグネシウム、およびアルミニウムのうち少なくとも1種を含む
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項8】
前記ガラス基板の厚さは、0.8mm以上5mm以下である
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のガラス基板。
【請求項9】
主面部と端面部との間に面取り部を有するガラス基板の前記主面部にテクスチャ構造を形成する加工工程を備え、
前記加工工程では、複数の凹部を前記主面部及び前記面取り部に同時に形成し、
前記複数の凹部のそれぞれは、平面方向の幅が10nm以上200nm以下である
ことを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記加工工程では、HFガスを含むプロセスガスを用いて前記複数の凹部を形成する
ことを特徴とする請求項9に記載のガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71884(P2013−71884A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214347(P2011−214347)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】